ゲスト
(ka0000)
標よ、花よ、縁を……
マスター:DoLLer
このシナリオは5日間納期が延長されています。
オープニング
●スズラン配り
「「幸せのお裾分けに、スズランはいかがですか?」」
スズランがたくさん入った花籠を持つ少女達。彼女達は時折言葉を重ねて、ミュゲの日を盛り上げようとする。
「家族に、恋人に、友人に……誰かが幸せになるように、そんな気持ちを形にしませんか?」
声には少し緊張が残るものの、はっきりと話しかけるパウラ。
「そのお手伝いが出来るよう、摘んできたスズランです……ぜひ、どうぞっ」
デリアがはにかむように笑って、道行く人にスズランを差し出す。
けれど彼女達は、他にも何か気になることがあるようで。
(……ああ、そうか)
スズランの花を籠に詰め直す作業をしながら様子を伺うユレイテルは、二人の視線の動きで気付く。
彼女達は頻繁に、もう一人の巫子の様子を伺い、そして曲がり角や物陰に視線を向ける。仕事に支障が出ない程度に。ただ、時折そわそわと。
待っているのだ、彼女の妹が現れないだろうかと。
(あの二人にとって、それが彼女たちの幸せだと思える、そういうことだろうか)
●時間は少し遡って
「これは浄化術の巫子の修行なの」
パウラの一言にピースホライズンに行くことを頑なに拒否していたサイアを押し黙らせるのに十分な効果があった。
「も、森の中だけで十分じゃない……」
「森の中だけではできない経験もある。巫子としてたくさんの経験を積むことで力をつけることが大切だって長老様のお話よ」
もちろんその長老というのがユレイテルであり、彼ならそう言うだろうこともだいたい推測はしていた。
しかし、外は自分を壊していく恐ろしい世界にしか思えないサイアにとって、そのまま諾々と受け入れられるわけもなく彼女は渋り続けた。
そんな彼女の鼻腔にふいっとスズランの甘い香りが届いたかと思うと、目の前に白い鈴型の花が差し出された。スズラン。
差し出したのはずっと前からの友人であり、同じ巫子仲間でもあるデリアだ。彼女はスズランをサイアの胸ポケットにそれを挿して朗らかな笑みを浮かべた。
「サイアにも……幸せが訪れますように」
「う……」
ミュゲの日はこうして相手の幸せを願うためにスズランを差し出す。
「幸せを互いに願ってくれると、嬉しいな? それにみんなの幸せは響き渡って、遠くにまで響くって。詩学の本にもあったわ」
デリアの言葉とほほ笑みに、サイアはすっかり自分の意固地な心を砕かれて、ため息をついた。遠くまで届く、というのが喧嘩別れした妹であることはすぐわかる。
「また一緒に……できるかな」
●二人の計画
「親愛なるミーファへ
お元気ですか。今度ピースホライズンにミュゲの日をみんなでやろうと思います。是非ご一緒ください」
パウラの手紙を受け取ったミーファはそれを読んで、その場でぴょんぴょん跳ねた。
「森の中だけじゃ足りないのかな」
Gペンをくりくり回しながら、自分宛の手紙に書かれた友人の想いに胸を馳せる為、胸に手紙を当てて目を閉じる。
「うー……」
デリアの顔、パウラの顔。ユレイテル長老の小難しい顔。彼らの温かい気持ちは手紙の向こうからじっくり伝わってくる。
それとほんの少しの計算もなんとなーく。
「また一緒に……したいのかな」
ミュゲの日はそんなもの。
こだわりもあれば、しがらみもある。そんな日常の中で、ふっと一息ついて。純粋に他の人のことだけを想って笑顔になれる日なのだから。
スズランひとつプレゼントするのはその証。
「でゅふふ。乗ってやろうじゃないの。巫子を売り出す商売っけにもちゃんと貢献しよかな」
去年は手伝ってくれたハンターから、心温まる優しい言葉のかけあいで耳をくすぐられたり、ほっぺが落ちるようなお菓子をもらって驚いたり、燃えるようなあっつーい恋愛模様を拝んだり、同人作家として歩む彼女に右だの左だの誘い受けだのフェチだの、たっくさん新鮮な世界を見ることができた。
今年もきっと愛と友情と、お菓子と可笑しに溢れたミュゲになるかもしれない。
みんなの幸せにちょっと花を添える作業をしよう。
ミーファは下心に塗れた笑みを浮かべると早速準備を始めた。
「「幸せのお裾分けに、スズランはいかがですか?」」
スズランがたくさん入った花籠を持つ少女達。彼女達は時折言葉を重ねて、ミュゲの日を盛り上げようとする。
「家族に、恋人に、友人に……誰かが幸せになるように、そんな気持ちを形にしませんか?」
声には少し緊張が残るものの、はっきりと話しかけるパウラ。
「そのお手伝いが出来るよう、摘んできたスズランです……ぜひ、どうぞっ」
デリアがはにかむように笑って、道行く人にスズランを差し出す。
けれど彼女達は、他にも何か気になることがあるようで。
(……ああ、そうか)
スズランの花を籠に詰め直す作業をしながら様子を伺うユレイテルは、二人の視線の動きで気付く。
彼女達は頻繁に、もう一人の巫子の様子を伺い、そして曲がり角や物陰に視線を向ける。仕事に支障が出ない程度に。ただ、時折そわそわと。
待っているのだ、彼女の妹が現れないだろうかと。
(あの二人にとって、それが彼女たちの幸せだと思える、そういうことだろうか)
●時間は少し遡って
「これは浄化術の巫子の修行なの」
パウラの一言にピースホライズンに行くことを頑なに拒否していたサイアを押し黙らせるのに十分な効果があった。
「も、森の中だけで十分じゃない……」
「森の中だけではできない経験もある。巫子としてたくさんの経験を積むことで力をつけることが大切だって長老様のお話よ」
もちろんその長老というのがユレイテルであり、彼ならそう言うだろうこともだいたい推測はしていた。
しかし、外は自分を壊していく恐ろしい世界にしか思えないサイアにとって、そのまま諾々と受け入れられるわけもなく彼女は渋り続けた。
そんな彼女の鼻腔にふいっとスズランの甘い香りが届いたかと思うと、目の前に白い鈴型の花が差し出された。スズラン。
差し出したのはずっと前からの友人であり、同じ巫子仲間でもあるデリアだ。彼女はスズランをサイアの胸ポケットにそれを挿して朗らかな笑みを浮かべた。
「サイアにも……幸せが訪れますように」
「う……」
ミュゲの日はこうして相手の幸せを願うためにスズランを差し出す。
「幸せを互いに願ってくれると、嬉しいな? それにみんなの幸せは響き渡って、遠くにまで響くって。詩学の本にもあったわ」
デリアの言葉とほほ笑みに、サイアはすっかり自分の意固地な心を砕かれて、ため息をついた。遠くまで届く、というのが喧嘩別れした妹であることはすぐわかる。
「また一緒に……できるかな」
●二人の計画
「親愛なるミーファへ
お元気ですか。今度ピースホライズンにミュゲの日をみんなでやろうと思います。是非ご一緒ください」
パウラの手紙を受け取ったミーファはそれを読んで、その場でぴょんぴょん跳ねた。
「森の中だけじゃ足りないのかな」
Gペンをくりくり回しながら、自分宛の手紙に書かれた友人の想いに胸を馳せる為、胸に手紙を当てて目を閉じる。
「うー……」
デリアの顔、パウラの顔。ユレイテル長老の小難しい顔。彼らの温かい気持ちは手紙の向こうからじっくり伝わってくる。
それとほんの少しの計算もなんとなーく。
「また一緒に……したいのかな」
ミュゲの日はそんなもの。
こだわりもあれば、しがらみもある。そんな日常の中で、ふっと一息ついて。純粋に他の人のことだけを想って笑顔になれる日なのだから。
スズランひとつプレゼントするのはその証。
「でゅふふ。乗ってやろうじゃないの。巫子を売り出す商売っけにもちゃんと貢献しよかな」
去年は手伝ってくれたハンターから、心温まる優しい言葉のかけあいで耳をくすぐられたり、ほっぺが落ちるようなお菓子をもらって驚いたり、燃えるようなあっつーい恋愛模様を拝んだり、同人作家として歩む彼女に右だの左だの誘い受けだのフェチだの、たっくさん新鮮な世界を見ることができた。
今年もきっと愛と友情と、お菓子と可笑しに溢れたミュゲになるかもしれない。
みんなの幸せにちょっと花を添える作業をしよう。
ミーファは下心に塗れた笑みを浮かべると早速準備を始めた。
リプレイ本文
「幸せをあなたに。スズランはいかがですか」
エルフハイムの巫女達の声が、賑やかなピースホライズンに響き渡ります。
今日は幸せを祈る日。ミュゲの日。
興味本位に顔を出した貴方に差し出される、一輪のスズランは幸せの象徴。
さあ、誰に渡しましょうか。
「もちろん、エアさんにだよ」
にへーっと赤らめた頬がゆるむのはジュード・エアハート(ka0410)。浄化の巫子のサイアにもらったスズランを綺麗に丁寧にラッピングして、青いリボンで決まりっ。
「去年と同じようにエアさんとここに来れて、幸せ」
いっぱいの笑顔。蕩けるような笑顔でそんなこと言われたらエアルドフリス(ka1856)も思わず真顔になるしかありません。
「ジュード……!」
エアルドフリスは渡そうとしていた分のスズランごと、ぐいっと抱きしめちゃいます。
「有り難い。そんな言葉しかでないな。これからもずっと同じ景色を、同じ時間を過ごそう」
「うん、オレも同じだよ。いつまでも」
厚い胸板の向こうから鳴る胸の鼓動にジュードは心地よさそうな表情。
そしてジュードの額の髪をそっとかきあげ、エアルドフリスからは一番プレゼント。
「ひゅーひゅー! お熱いですよ、ご両人」
フレデリク・リンドバーグ(ka2490) はそんな二人をスズランの花吹雪を投げてお祝い半分、冷やかし半分。巫子さんの持っていたスズランの籠からばんばん花を贈ります。いつもお世話になっているからね。埋まるくらいにばっさばっさ。
「い、いや、これはだな。ほら、前に怪我したところはどうかなと……し、消毒をだな!」
慌てて否定するエアルドフリス。フレデリクがむふーっと悪い顔になってどう言い返そうかと口を開くより少し前に。
「ふぁっ!!!」
その言葉に噴き出したのは花籠をもっていた巫子様。ちょっと刺激が強すぎた?
「サイアさん、だいじょぶですか? ハンカチないから、スズラン詰めときます?」
「いいの、あたし、このまま死んでいいの……」
ダメだ。いっちゃってる。
フレデリクはとりあえずこちらを見ていたクレール・ディンセルフ(ka0586)に手を振りました。
「気づきましたか……」
高瀬 未悠(ka3199)とクレールに介抱されて、目を覚ました巫子の前でクレールは神妙な顔で彼女の顔を覗き込みました。
「あれ、あなたは確か……クレール、さん、それと……」
「貴女の大切なものを傷つけてしまってごめんなさい」
未悠はスズランを差し出して、決然とした瞳を向けます。
「あいつに引導を渡すためにもっと強くなるわ。一緒に、戦わせて」
その言葉にあわせるように、クレールもスズランを差し出します。
森を傷つけてしまった。
彼女の両親の遺骨を奪われてしまって。
仇一つとれなかった。
今度はそうはさせないから。
「わかりました……決戦の日は遠くない。共に戦い、多くの人に喜んでもらう為に頑張りましょう」
巫子はスズランを受け取って、しっかりした笑顔とともに頷き返してくれました。
「さしあたっては、お願いがあるのだけど……」
「なに? 何でも手伝うよ」
クレールも未悠も同じように決然とした瞳で巫子からの言葉を待ちます。
「あの二人(エアルドフリス×ジュード)がさっきしていたポーズ、とってくれませんか? 絵に収めたくて」
「「……は?」」
声がだぶりました。
互いに困惑した瞳を向けるクレールと未悠。
抱き合えと!? いや、幸せを祈る日だし、何でも手伝うとはいったけど。
「あー、ミーファちゃん発見!! お久しぶりぃ」
気まずい顔をする二人の後ろからケイルカ(ka4121)が声をかけてきました。
「最近、同人始めたんだって? ねえねえ、どんな感じ? もうすぐ夏の同人大即売会(=決戦の日)だけど、原稿はどう?」
「あ、ケイちゃんだ♪ 今ね帝国革命幻想のアンソロジー書いてて」
……あれ、浄化の巫子サイアじゃ、なかった?
「サイアちゃん? あっちだよ」
ケイルカが指さした方向には、瓜二つの女の子がいました。
「あなたに幸せがありますように」
向こうでクレールのカリスマリスが冷酷な唸りを上げる中、雀舟 玄(ka5884)はちらりとそちらを見ただけで、サイアから差し出されたスズランを受け取りました。
スズランはいくつもの鈴のような花をじっと見る雀舟の目の中でふるふる震えます。水に浸けていたからか、冷たい感じでしたが、ほんのり温かさも感じるような。
幸せ、か。
このまま手にもったままにするのも申し訳ないなと、雀舟は結った髪を抑えて、挿したかんざしにスズランを飾った瞬間。
「あ……」
不思議な顔をするサイアに、ふんわり両親の顔がにじみます。
心配した顔。師匠に出会うきっかけになった大病の時に見せたあの表情。
「大丈夫ですか?」
「あ……。はい」
サイアに問いかけられて、ふと我に返った雀舟は目を閉じてこくりと頷き返しました。
「あなた達にも幸せを。ありがとう」
両親の事、師匠の事。今は遠くになってしまった故郷のこと。瞳の裏にそんなものを思い浮かべながらのありがとう。
「もう思い返す奴も少なくなったと思ったけど……違う、かなぁ」
表向きは落ち着き清ました雀舟の横顔を遠くから見つつ、スズランの茎をもってくるくる回すのはヒース・R・ウォーカー(ka0145)。
自分もやっぱり忘れられなくて。仲間がいて、愛する人がいて。笑って、泣いて。
いつしか……涙より血を流すばかり。
「今は戦う事しかできない。それを愉しいと思う時もあるけど……幸せとは違う、かなぁ?」
ヒースはそう言って、長い髪を束ねているリボンを少し手を触れました。それだけで蘇ってくるあの人の。
……やっぱり遠くなってしまった感じはあります。今は、この手の中のスズランの向こうに見える人の顔がはっきりと。
「わあ、クリームヒルト様!! お久しぶりですっ」
「ミネアちゃん! 元気してた? 元気してた? 良かった~!!」
視界の向こう側で、この大地で苦しみ続けているヒースの知り合いが、別の女の子と再会を果たしたようでぎゅっと抱きしめあっています。
なんかテンションが誰かに似てる気がする。そう思うと、茫洋としていた世界がふと軽く鮮やかになった気がします。
「ふむン。もしかして気づいていないだけで、この世界でも見つけているのかな?」
「クリームヒルト。お前忙しいんじゃないのか?」
リュー・グランフェスト(ka2419)は驚いた顔で、商人の娘ミネアと再会を喜ぶクリームヒルトに問いかけました。
「お医者様を探しに来たのよ。大怪我した子がうちに来てて」
それなら早く言えよ。とリューは困った顔をしました。準備しようと思っていたものが……ポケットにひっかかって。
と、リューの鼻先に甘い香りと緑の爽やかな香りがつきつけられました。
「いつもみんなの為にありがとう。たくさんの幸せがリューさんにも届きますように」
「おう、ありがとな」
渡そうと思っていたより早くクリームヒルトの方からスズランのプレゼント。ディアンドルの衣装にスズランを両手で持つ姿は、本当に村娘のようです。これが旧帝国の姫だとは思えません。彼女の『戦い』の雰囲気とは違う姿に少し戸惑いを覚える中、すい、とスズランを渡して回る修道女がくすりと笑った気がしました。
「ところでリューさんはここでお仕事か何かですか?」
「ああ、ダチと音楽やろうってな。良かったら聴いていくか」
「へぇ、リューの知り合いか。綺麗な人だな」
リューに慣れ親しんだ様子で話しかけるのはここに来るまでに偉大な吟遊詩人二人、大グインとレイチェルの墓前で出会った、若いグインです。
旅装束の向こうから覗く顔だちはもうすっかり大人のそれ。
「それじゃ、みんなで一曲しようか。お礼をこめて」
「わ、なんか人数膨れ上がってますね」
ルナ・レンフィールド(ka1565)は「みんなで演奏しましょう」と呼びかけて集まった面々を見て思わずそう呟きました。
「あははは、やるならみんなと一緒がいいかなって思ってさ。……ダメ?」
「勿論、大歓迎ですっ」
その勢いのある一言に、アルカ・ブラックウェル(ka0790)はお兄さんと顔を見合わせ「やった!」と喜び合います。
ルナはくるりとリュートを翳して振り返ると、巫子と長老さんに一礼します。サイアはまだたくさんの人にスズランを配っているので、挨拶もできないけれど。それでいいの。きつと辛い気持ちを振り切ろうとしているはずたから。気持ちをそのまま上向きになってもらえるように。
「優しく、明るく、皆さんの幸せを祈って」
ルナの発生と共に、グインがリュートをかき鳴らしました。大きな音にみんなが注目した瞬間に、小刻みな音色を重ねていきます。
本職の人だ。ルナは喜びと緊張に胸躍らせながら、その音色にハーモニーを重ねます。さらに、リューがクレセントリュートを奏でて三重奏に。
「みんな気持ちを通じ合えたらいいですよね」
エステル・クレティエ(ka3783)はサイアにそう挨拶すると、すいっと笛を持って演奏の輪に入ります。
高い高い音色。香りと共に立ち上ると、どこからかオカリナの音色も合わさって、鳥のさえずりのように囁き合います。
そして更に眼鏡の女の子がタンバリンをシャララシャララと。
「んん? ええと、こう、えいっえいっ」
……リズムが大層ずれてますが、でも共演の中ではそれもアクセント。ルナさんがくすくす笑って、リュートの腹を叩いてリズム取りのお手伝い。
「森よ 我が命育み母なる土地よ 朝露が暁の光浴びる時 夕闇が光閉ざして星呼ぶ時 我は忘れぬ故郷の 光が告げる数多の光景」
アルカがそのリズムにのってお兄さんと向かい合いながら、自らの胸に手をやり歌い上げます。お兄さんもそれにあわせて。
「緑よ 我が里包みし優しきその色 木漏日が天の光降ろす時 月光が星々の光と瞬く時 我は伝える故郷を 未だ見ぬ土地の人々へ」
二人の声が合わさって音と共に空へと登っていきます。
代わりに降り落ちてくるのはたくさんのスズランの花。
「懐かしい歌ですの。アディ。あれは郷の歌ですのよ」
拍手が巻き起こる中、チョココ(ka2449)がイェジドのアーデルベルトの頭をぽふぽふ撫でて笑顔を見せます。
「ぐるるぅ」
目を細めてくれたのは嬉しいからか、気持ちに同意してくれているからか。
「おー、まさかこんなところであの曲が聴けるなんてな。アガスティア。すっげぇラッキーだな」
「あ、ギムレット様ですの。とすると……」
不意にあっけらかんとした明るい男の声が聞こえて、チョココは太陽の様な笑顔をぱっと咲かせてそちらを向きました。
そこにはドワーフのギムレットと。エルフの……
「アガスティアお姉様ーーーーっ!」
むぎゅうっと細い彼女の身体を抱きしめてチョココは幸せいっぱいの顔を作ります。
「あ、ギムレットだ! 来てくれると思った。えへへ」
アルカもその姿を確認すると、ギムレットにスズランが彫り込まれた腕輪を渡します。
「それ幼馴染からだよっ」
「おう、サンキュっ。今度また来てくれよ。こっそり蒸留瓶で酒作ったからよ……それと、これは俺からな」
アルカとお兄さんにもスズランをプレゼント。
そんな話をしている横で、チョココは郷をずっと守ってくれているアガスティアに髪飾りをプレゼント。
「まあ、こんな高価なものを……」
「今日は幸せを祈るミュゲの日ですもの。このアディと里帰りするつもりでしたの」
「歓迎するわ。それじゃ一緒に帰りましょうか」
アガスティアになでなでされて。そのままそっとスズランを髪に挿してくれます。
チョココは嬉しくてうれしくて。撫でられた顔がにぱぁっと崩れます。
「今日はいつもより賑やかだな……」
皆守 恭也(ka5378)は花を贈り合う人の輪。続く音楽の輪に少し驚いています。今日はそんなお祭りの日だったかと首を傾げて、スズランを配っていた修道女に声をかけます。
「もし、今日はハレの日であったか?」
「はい、皆様の幸せを祈る日、ミュゲの日でございます。貴方様も幸せでありますように」
微笑む修道女からスズランを受け取った瞬間、修道女の視線がその後ろに泳ぎました。誰かの気配。
「何者だ!!」
「おわっ」
鋭い視線と共に居合い抜きの要領で振り上げた腕を紙一重で黒髪が舞います。頬には見慣れた傷跡。
見慣れたもなにも。恭也が使える武家の主ではありませんか。
「お前、なんでここにいる? 今は勉学中ではなかったのか……」
「え、あー……その。なんてったって、ミュゲの日なんだ!」
そういって主はスズランをぐい、と恭也の胸に押し付けます。
「勉学中ながら勝手にこんなところは、怒らねばならんが」
といっても顔がもう照れています。幸せを祈る日に、主がこうしてくれたスズランにどれほどの気持ちがこもっているか、十分解っています。
解ればわかるほど、言葉と態度が裏腹になって。
「黙っててごめん、きょーや」
「いや、こちらこそ悪かった。ミュゲの日、なんだな」
素直にそう言われると恭也も、すとんと気持ちの整理がついて。
拳の代わりに、スズランを持つ主の手に重ね合わせます。
「買い物にいこうか」
「いいな、ここよくわっかんねぇし、色々見て回ろう!」
つないだ手は堅く。
感謝と絆の意味を込めて。
修道女は微笑みながら、その二人を見送ります。
「おや?」
そんな修道女(アウレール・V・ブラオラント(ka2531) )を遠目から眺めるのは帝国の副師団長シグルドです。指で鉄砲を作ってばん。と撃つ真似と同時に飛んでくるスズランの花に、修道女はできるだけ焦りを悟られぬように俯きました。
「兄様、なんでこんなところにいるの……」
「そりゃまあ仕事で出張くらいあるさ。元気そうだね。相変わらず」
ツッコミを受けるかとヒヤヒヤでしたが、シグルドの妹御クリームヒルトとの会話が聞こえる限り、どうも興味は外れたようです。
「おかげさまで今日までずっと幸せよ。はい、幸せのおすそ分け!!」
叩きつけるようにクリームヒルトがスズランを渡して立ち去っていく様子を高瀬は唖然として見送ります。
「シグルドも来てたのね。びっくりした。あの子、妹さんなの?」
「不肖ながら」
呆れた笑顔を浮かべるシグルドのいつもの顔に、未悠は相好を崩します。
いつもの気を張った顔が影を潜めて本来の笑顔が見え隠れ。
「ね、シグルド。本好きの貴方にプレゼントがあるの」
そうして渡したのはスズランの栞。
「ね、ぴったりでしょう?」
「ありがとう。嬉しいよ。貰うばかりも悪いし、何か奢ろうか。向こうの料理店で芋料理が美味しいところがあるんだけど」
「本当!? 行く!! 今度私が作ってあげるわね」
そんな会話をしながら未悠はシグルドの横に並んで歩きはじめました。
「う、羨ましくなんかないもん……」
そんな二人の後ろ姿を見つめてルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は少しばかり口をとがらせます。
リアルブルーにいたころはカードゲームのスーパーヒロインとして少年とかお兄さんとか色んな人から羨望を一身に集めていたのにっ。そして武道館でスポットライトを浴びながら1万2千人の観衆の視線を……。
「そんなのより白馬の王子様が迎えに来てくれるのがいいの! ジュゲームリリカルクルクルマジカル!!」
ずどん。
報告官が少し黒焦げになってしまいました。
「どうしましたか?」
不意に優しい男性の声が聞こえて、ルンルンが振り返るとスズランを差し出す天央 観智(ka0896)がいます。柔和な顔つき、優しい声色。白……くて(白衣)馬(魔導バイク)に乗って、そこに飛び交う妖精(パルム)の姿!
「……あ、いえ、なんでも!!」
慌ててルンルンは風雷符を手の中に隠すと、そのままプレゼント用の花言葉をしたためたカードに持ち替えます。符術士だもの。カードさばきはお手の物。
「ルンルン忍法幸せ配り、幸せをどうぞ!!」
さらにはくるんとその場で回転すると、どこからかスズランがぽんぽんぽんっ。と舞い飛びます。子供たちには喜んでもらえるこのアクション。でも観智はそっとその一輪を手に取って微笑むばかり。
「幸せの御裾分け、確かに頂きました。良いですよね…こういう、損得も打算も無い、純粋な気持ちでの…他人の幸せを、願う…祈りと言いましょうか、願えると言う事が。こういう心が、マテリアルを清浄にして…世界を優しく綺麗に、していくのでしょうね」
派手さ抜群、楽しさ絶級のルンルン忍法。爽やかな彼の言葉に、破れたり。
胸がドキドキしてとまりません。
「それだけ動くと大変でしょう。向こうでお茶を配っていましたのでもってきましょうか」
「ほのかに香る幸せの香り、お楽しみくださいね」
観智に一言と笑顔を添えて。エステルは試飲カップにいれたオリジナルブレンドのお茶を渡します。
「はい、どうぞ」
「ありがとう! 幸せもっと配らなきゃ」
ほかほかの笑顔になっているルンルンに、更にクッキーとドラジェの包みが差し出されます。
「一息つくときは、お茶と一緒に食べるといいよ」
シャーリーン・クリオール(ka0184)がウィンクします。
香り高い香茶と手作りお菓子のコンビネーションは大人気。
「良かった、みんなに喜んでもらえているようだね」
シャーリーンは一段落ついて、みんなの喜びに満ち溢れた顔を眺めて満足そうにうなずくと、横にいたエステルに視線を送ります。
「じゃ、幸せのきっかけづくりも」
「ですね」
二人の視線が光ります。そしてその視線が向かったのは。
「仲立ちが欲しい人もいるらしくてね。美味しい食事はみんなを幸せにしてくれる。そうだよなミネア殿?」
シャーリーンの含んだ物言いに、お客にスズランとリンゴを渡していたミネアは後ずさりました。
「ほら、リンゴをもらってきたぞ」
師匠の言葉で、レオン(ka5108)は目覚めました。
「え、あれ……」
部屋にいるのは師匠だけ。眠る前まで妹がいたはずなんですが、影も形もありません。しかし、その意図だけはなんとなく残っているような気がします。窓際のスズラン2輪がそれを語っているような気がして。
「どうした。傷が痛むのか?」
師匠が顔を覗き込みます。
(まいったな)
大怪我をして帰ってきたことは師匠に合わせる顔もないなと思っていたところ。せっかくのミュゲの日を祝おうとしてたけれど、この身体ではいかんともしがたく。
でも弱気になってはいけません。想いは率直に伝えること。特に好意は。気恥ずかしいやら情けないやら、そんな気持ちもないまぜになりながらも、レオンは窓際のスズランを差し出します。
「心配かけてすみません。……もっと強くなるようになります。その誓いもこめて……」
一呼吸。
長い長い。
「大好きです」
師匠の、いや、相思相愛の人の頬が、ほころびました。
窓の外ではスズランが舞っています。
「いい調子」
屋根の上から虎猫さん、野良猫さんと跳び交いながら、あちこちそちこちと、スズランを雨のように撒いていきます。
「みんな幸せになるといい」
ちょうど真下、繁華街を歩いていた雀舟はそんな舞い降りたスズランを手に取り、誰かに想いを巡らせている様子。
「……もう一本貰えるかと思いましたが、良かった。良いお土産ができた」
兎の巾着に大事にしまう姿は、素っ気ない感じ。でも、大事そうに扱うその手つきを見ればなんとなくわかります。
ナツキも顔にでにくいタイプだもの。
「よし」
協力してくれた猫の肉球にハイタッチ。
「次はサイアとミーファ。いい?」
「にゃっ」
元気よく返事した野良猫と共に、花配りをしているエルフに花を贈ろうとした瞬間。
しゅばっ!
「!」
サイアの花籠にスズランが載せられています。一瞬前まで、なかったはずなのに。
しゅばしゅばっ。
エアルドフリスとジュードが花嵐にかき消され、エステルが慌ててヤカンに蓋をしたり、ルナのリュートの弦に挟まっていたり。
「ライバルがいる……!」
ナツキは戦慄しました。これは、負けてられない。いや、嬉しい話!
誰かよくわからないけど、幸せ届け競争勃発です。
「おい、なにしてんだァ?」
上から雨あられと振って来るスズランを見上げて、ジャック・J・グリーヴ(ka1305)が声をかけました。
「幸せ運ぶ。街の中スズランでいっぱいにする。友達増える。ジャックにも渡す約束してた」
屋根から顔を覗かせるナツキはジャックにそう挨拶すると、ぴょーーーーっと笛を鳴らして合図します。
なんだ?
ジャックは微かに地面が揺れるのを覚えながら辺りを見回します。
「もぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」
「わたしの家族、水牛さん。スズランもってきてもらった。あげる」
「あげるっ、て、オイ!! 俺様への愛はでけぇってのは分かったが、限度ってもんを……」
どちゃあ。
と、水牛さんからスズランあたっく。ジャックさん、傍目からはどこに埋もれているかわかりません。
「ふ、ふふふ。愛の重さ、受け止めてやるぜ!!」
ジャックは口にスズランを加えキメポーズ。
「あ、毒があるから気を付けた方がいい。花粉にもあるから食卓に飾るとお腹壊す」
「ふっ、愛の為なら死んだっていいんだぜ……? って聞けよ!」
視線の先にもうナツキはいません。
代わりに視線を送ってくれるのは唖然とする浄化の巫子さん達。
「……あー、あいつ。ちっ、仕方ねぇな。目が合った以上は贈り物でもしてやるか」
大量のスズランを持って、ジャックはプレゼントを思いつきました。
「すごい、かっこいいい。薔薇の紳士ね。これは是非絡んでほしいところ」
山のような花の山をミーファはキラキラした目で眺めています。
「絡む?」
「こんな感じで!」
ミーファが見せてくれた彼女の執筆した本にケイルカの髪が逆立ち、顔は一気に蒸気しました。こ、こ、これは……。なまめかしい。
思わず顔を覆いながらもケイルカはそのままページをめくる手が止まりません。
「あの。もし、桃色の髪をしたエルフの少女を見ませんでしたかね」
スズラン柄のマグカップをプレゼントにうろうろしていた花(ka6246)が二人を呼びかけます。彼が探している迷い人もエルフだから。
「ううん、見てないよね」
ケイルカとミーファは顔を見合わせてこくりと頷き合います。もしかしたらあっちにいるかも。と他の巫子がいる方を指します。
「君は一緒には配らないのかい?」
「あたしは……広告役なの。是非もらってあげてね」
ミーファの一言。本当は気まずい関係であることが見えたり見えなかったり。花はくすりとほほ笑みます。チェスをしていたら、色々見えてくるものもあるのです。こちらの様子をうかがう子がいたりなど。
「そうか。一人で大変だね。それじゃ手伝わさせてもらおうかな。はい、幸せがありますように」
ミーファの花籠をひょいと手に取る花は、そのままニコニコ。一輪をミーファに差し出した。大きな鬼の巨体に小さなスズランはなんとも不釣り合いで、それでいて優しくて。そのまま固まるミーファを巫子の、その前にいる女の子達の元へと背を押します。
「どんな祈りがこもっているんですか?」
シリウス(ka0043)の問いかけにサイアは何やら歯切れの悪い様子です。
「幸せを願う祈り……ですね。過酷な現実に流され、心暗く打算的になりがちな心を押し流す……真摯なる祈りですよ」
助け船を出したのは観智でした。
ほら。と彼が紹介したのは、ティア・ユスティース(ka5635)と彼女の聖導士仲間の二人で浄化の祈りにいそしむ姿でした。負のマテリアルを霧を晴らしたという浄化の祈りを一心にスズランに捧げます。祈りの大変さが滲み出るのか、汗で着物がしっとり。
「どうぞ」
シリウスは祈りに全身全霊を傾けるティアに笑顔を手向けました。
みんなが頑張ってそれぞれの幸せを祈ってくれているんだなぁ。
手の中でシャインの輝きでほんのり輝くスズランと、スズラン一色に染まる街を見て、シリウスの心もこのスズランのように輝きます。
シリウスはショーウィンドーを眺めて歩くアルナイル(ka0001)の横にそっと並んで歩きます。自分が世界にどれだけのことができるかわからないけれど。幸せになってもらえるように全霊を傾ける人はここにいるから。
「アル。僕からのプレゼント」
「わぁ、シリィ……! ありがとう☆」
突然のプレゼントにアルナイルはいっぱいの笑顔。そして、アルもその瞬間を待っていましたとスズランを差し出します。
もちろんシリウスもいっぱいの笑顔です。
「幸せの祈りが、別の人へつながっていく。すごいね。嬉しい気持ちでいっぱいになるの」
「そうだね。帰ったら、栞にしようか。今日の気持ちを忘れないために」
「うん☆ そうだ。種も探そうよ。今度は私達から新しい幸せ育てるのどうかな。それに、さっきスズランの腕輪をしている人がいたの。どこかで売ってるのかみつけたい」
「じゃあ、見て回ろうか」
二人は手をつないで街中を歩いていきます。
「喉乾いたでしょう。どうぞ」
休憩にとつれてこられたテーブルに案内されたサイアに、エステルはお茶を差し出した後、テーブルの中央にスズランのブーケも。
「……私と、兄からの分です」
隣で長老になにやら頭を下げている兄をちらっと見てほぅ、とため息をつくとエステルは笑顔を作ります。
「頼りないけど、ちゃんと帰ってきてくれるんですよ。困った時はいつも手を差し伸べてくれて」
「そう……」
お茶を一口飲みはしましたが、気乗りしない顔のサイア。だけれども。
「所在なさげな相棒を連れて来たぞ」
エアルドフリスがその横の椅子を引いて案内した妹の顔に目が真ん丸になります。
「サイアさん、ミーファさん。はーい、これ、オレからのプレゼントだよ」
「こちらは俺からだ。ここにいるみんなにも」
エアルドフリスとジュードの手が重なった手で緑と白のストライプのリボンを巻いたスズランが差し出されます。
「あ、いましたいました。私からもです。受け取ってください」
ルナもその上に。そして隣にいるエステルのお兄さんにも立ち上がって音符の飾りがついたピンでスズランを胸に飾ります。
お兄さん、優しくて穏やかだから気づきにくいけれど、間近によると胸板大きい。
「あの、いつもありがとう。これからも、よろしくお願いしますね」
「ありがとう。えっと」
お兄さんはアルカや、エアルドフリス、ジュード、色んな人からいっぱいいっぱいです。
テーブルにいるみんながみんなにスズランを。それに加えてクッキーの差し入れも。
「あたしと、ミネア殿からの差し入れさ」
シャーリーンがウィンク一つ。ミネアも帽子を取って手を振ります。
「誰に渡したかわからなくなりますね」
テーブルの上はスズランいっぱい。フレデリクはくすくす笑います。
たくさんの人に囲まれて。いっぱいのスズランに囲まれて。
「あの……」
「その……」
遠く離れていた双子の姉妹は気まずそうに顔を見合わせます。ずっと離れていても、声のタイミングは同じ。
「ミーファの本、捨ててないから……ごめんなさい」
「サイアの事さ、怒ってないから……ありがとう」
みんなの力があれば。祈りの力があれば。途切れた想いもこうしてつながるよ。
「やっぱそれだな。前に花冠渡した時のお前らの笑顔な、最高に可愛かったぜ……!」
そんな二人の頭ににジャックがスズランで作った花冠を載せて上げます。
同じ顔、同じ瞳が潤んでいるよ。真っ赤になってそっぽを向くジャックさんの顔に感謝の花を手向けて。
デリアも微笑んで見ています。
「前回は尽力してくださったのに怒ったりしてすみませんでした。その、色々ありすぎて気持ちの整理ができなくて」
サイアはクレール、未悠、ティアに頭を下げてそう言いました。
「謝るのは……こちらです。絶対絶対、あのファルバウティとかいう奴、なます切りで、千切りで、みじん切りで、粉みじんにしてみせますからっ。ディンゼルフの名にかけて!」
ようやくスズランを渡したクレールさんの一言と共に、ティアの浄化したスズランの花が煌々と光ります。
「幸あらんことを」
「共に穢れを祓いましょう。まだ人間全てを信じられるわけてもありませんけれど。皆様なら」
そのスズランを受け取って、サイアはしっかり頷きました。
「一緒に戦うからね。まだやることはいっぱいあるけれど、みんなと一緒なら」
ミーファも横に並んでにっこり。
「あ、いた」
エルフ達を取り囲む輪の上からナツキが顔を出します。
「友達いっぱい増えた。その幸せ、あげる」
それと同時に、猫さんがスズランを背負って走ります。
一匹、二匹、十匹……
にゃあああああああああああああ!!!1
「みんな友達になれた」
猫さんが一斉に皆さんの胸元に跳んで、スズランをプレゼント。
そしてトドメは。
「またかぁぁア!!!?」
ジャックが叫んだ直後に水牛さんの突撃によりスズランに埋もれました。
みんなそろって。花の中。おかげで夕暮れの街は見晴らしがよくなりました。
「あーーー、はぁちゃん、みぃつけたの♪」
「そんなところにいたのか。探してたんだぞ」
花はずっと探していた桃色の髪の少女が飛び込んでくるのを優しく受け止めると、スズランの山から一輪抜き出して、彼女に渡しました。
「ミュゲの日のお祝いだ。幸せでありますように」
笑顔の花がまた一つ、咲きました。
エルフハイムの巫女達の声が、賑やかなピースホライズンに響き渡ります。
今日は幸せを祈る日。ミュゲの日。
興味本位に顔を出した貴方に差し出される、一輪のスズランは幸せの象徴。
さあ、誰に渡しましょうか。
「もちろん、エアさんにだよ」
にへーっと赤らめた頬がゆるむのはジュード・エアハート(ka0410)。浄化の巫子のサイアにもらったスズランを綺麗に丁寧にラッピングして、青いリボンで決まりっ。
「去年と同じようにエアさんとここに来れて、幸せ」
いっぱいの笑顔。蕩けるような笑顔でそんなこと言われたらエアルドフリス(ka1856)も思わず真顔になるしかありません。
「ジュード……!」
エアルドフリスは渡そうとしていた分のスズランごと、ぐいっと抱きしめちゃいます。
「有り難い。そんな言葉しかでないな。これからもずっと同じ景色を、同じ時間を過ごそう」
「うん、オレも同じだよ。いつまでも」
厚い胸板の向こうから鳴る胸の鼓動にジュードは心地よさそうな表情。
そしてジュードの額の髪をそっとかきあげ、エアルドフリスからは一番プレゼント。
「ひゅーひゅー! お熱いですよ、ご両人」
フレデリク・リンドバーグ(ka2490) はそんな二人をスズランの花吹雪を投げてお祝い半分、冷やかし半分。巫子さんの持っていたスズランの籠からばんばん花を贈ります。いつもお世話になっているからね。埋まるくらいにばっさばっさ。
「い、いや、これはだな。ほら、前に怪我したところはどうかなと……し、消毒をだな!」
慌てて否定するエアルドフリス。フレデリクがむふーっと悪い顔になってどう言い返そうかと口を開くより少し前に。
「ふぁっ!!!」
その言葉に噴き出したのは花籠をもっていた巫子様。ちょっと刺激が強すぎた?
「サイアさん、だいじょぶですか? ハンカチないから、スズラン詰めときます?」
「いいの、あたし、このまま死んでいいの……」
ダメだ。いっちゃってる。
フレデリクはとりあえずこちらを見ていたクレール・ディンセルフ(ka0586)に手を振りました。
「気づきましたか……」
高瀬 未悠(ka3199)とクレールに介抱されて、目を覚ました巫子の前でクレールは神妙な顔で彼女の顔を覗き込みました。
「あれ、あなたは確か……クレール、さん、それと……」
「貴女の大切なものを傷つけてしまってごめんなさい」
未悠はスズランを差し出して、決然とした瞳を向けます。
「あいつに引導を渡すためにもっと強くなるわ。一緒に、戦わせて」
その言葉にあわせるように、クレールもスズランを差し出します。
森を傷つけてしまった。
彼女の両親の遺骨を奪われてしまって。
仇一つとれなかった。
今度はそうはさせないから。
「わかりました……決戦の日は遠くない。共に戦い、多くの人に喜んでもらう為に頑張りましょう」
巫子はスズランを受け取って、しっかりした笑顔とともに頷き返してくれました。
「さしあたっては、お願いがあるのだけど……」
「なに? 何でも手伝うよ」
クレールも未悠も同じように決然とした瞳で巫子からの言葉を待ちます。
「あの二人(エアルドフリス×ジュード)がさっきしていたポーズ、とってくれませんか? 絵に収めたくて」
「「……は?」」
声がだぶりました。
互いに困惑した瞳を向けるクレールと未悠。
抱き合えと!? いや、幸せを祈る日だし、何でも手伝うとはいったけど。
「あー、ミーファちゃん発見!! お久しぶりぃ」
気まずい顔をする二人の後ろからケイルカ(ka4121)が声をかけてきました。
「最近、同人始めたんだって? ねえねえ、どんな感じ? もうすぐ夏の同人大即売会(=決戦の日)だけど、原稿はどう?」
「あ、ケイちゃんだ♪ 今ね帝国革命幻想のアンソロジー書いてて」
……あれ、浄化の巫子サイアじゃ、なかった?
「サイアちゃん? あっちだよ」
ケイルカが指さした方向には、瓜二つの女の子がいました。
「あなたに幸せがありますように」
向こうでクレールのカリスマリスが冷酷な唸りを上げる中、雀舟 玄(ka5884)はちらりとそちらを見ただけで、サイアから差し出されたスズランを受け取りました。
スズランはいくつもの鈴のような花をじっと見る雀舟の目の中でふるふる震えます。水に浸けていたからか、冷たい感じでしたが、ほんのり温かさも感じるような。
幸せ、か。
このまま手にもったままにするのも申し訳ないなと、雀舟は結った髪を抑えて、挿したかんざしにスズランを飾った瞬間。
「あ……」
不思議な顔をするサイアに、ふんわり両親の顔がにじみます。
心配した顔。師匠に出会うきっかけになった大病の時に見せたあの表情。
「大丈夫ですか?」
「あ……。はい」
サイアに問いかけられて、ふと我に返った雀舟は目を閉じてこくりと頷き返しました。
「あなた達にも幸せを。ありがとう」
両親の事、師匠の事。今は遠くになってしまった故郷のこと。瞳の裏にそんなものを思い浮かべながらのありがとう。
「もう思い返す奴も少なくなったと思ったけど……違う、かなぁ」
表向きは落ち着き清ました雀舟の横顔を遠くから見つつ、スズランの茎をもってくるくる回すのはヒース・R・ウォーカー(ka0145)。
自分もやっぱり忘れられなくて。仲間がいて、愛する人がいて。笑って、泣いて。
いつしか……涙より血を流すばかり。
「今は戦う事しかできない。それを愉しいと思う時もあるけど……幸せとは違う、かなぁ?」
ヒースはそう言って、長い髪を束ねているリボンを少し手を触れました。それだけで蘇ってくるあの人の。
……やっぱり遠くなってしまった感じはあります。今は、この手の中のスズランの向こうに見える人の顔がはっきりと。
「わあ、クリームヒルト様!! お久しぶりですっ」
「ミネアちゃん! 元気してた? 元気してた? 良かった~!!」
視界の向こう側で、この大地で苦しみ続けているヒースの知り合いが、別の女の子と再会を果たしたようでぎゅっと抱きしめあっています。
なんかテンションが誰かに似てる気がする。そう思うと、茫洋としていた世界がふと軽く鮮やかになった気がします。
「ふむン。もしかして気づいていないだけで、この世界でも見つけているのかな?」
「クリームヒルト。お前忙しいんじゃないのか?」
リュー・グランフェスト(ka2419)は驚いた顔で、商人の娘ミネアと再会を喜ぶクリームヒルトに問いかけました。
「お医者様を探しに来たのよ。大怪我した子がうちに来てて」
それなら早く言えよ。とリューは困った顔をしました。準備しようと思っていたものが……ポケットにひっかかって。
と、リューの鼻先に甘い香りと緑の爽やかな香りがつきつけられました。
「いつもみんなの為にありがとう。たくさんの幸せがリューさんにも届きますように」
「おう、ありがとな」
渡そうと思っていたより早くクリームヒルトの方からスズランのプレゼント。ディアンドルの衣装にスズランを両手で持つ姿は、本当に村娘のようです。これが旧帝国の姫だとは思えません。彼女の『戦い』の雰囲気とは違う姿に少し戸惑いを覚える中、すい、とスズランを渡して回る修道女がくすりと笑った気がしました。
「ところでリューさんはここでお仕事か何かですか?」
「ああ、ダチと音楽やろうってな。良かったら聴いていくか」
「へぇ、リューの知り合いか。綺麗な人だな」
リューに慣れ親しんだ様子で話しかけるのはここに来るまでに偉大な吟遊詩人二人、大グインとレイチェルの墓前で出会った、若いグインです。
旅装束の向こうから覗く顔だちはもうすっかり大人のそれ。
「それじゃ、みんなで一曲しようか。お礼をこめて」
「わ、なんか人数膨れ上がってますね」
ルナ・レンフィールド(ka1565)は「みんなで演奏しましょう」と呼びかけて集まった面々を見て思わずそう呟きました。
「あははは、やるならみんなと一緒がいいかなって思ってさ。……ダメ?」
「勿論、大歓迎ですっ」
その勢いのある一言に、アルカ・ブラックウェル(ka0790)はお兄さんと顔を見合わせ「やった!」と喜び合います。
ルナはくるりとリュートを翳して振り返ると、巫子と長老さんに一礼します。サイアはまだたくさんの人にスズランを配っているので、挨拶もできないけれど。それでいいの。きつと辛い気持ちを振り切ろうとしているはずたから。気持ちをそのまま上向きになってもらえるように。
「優しく、明るく、皆さんの幸せを祈って」
ルナの発生と共に、グインがリュートをかき鳴らしました。大きな音にみんなが注目した瞬間に、小刻みな音色を重ねていきます。
本職の人だ。ルナは喜びと緊張に胸躍らせながら、その音色にハーモニーを重ねます。さらに、リューがクレセントリュートを奏でて三重奏に。
「みんな気持ちを通じ合えたらいいですよね」
エステル・クレティエ(ka3783)はサイアにそう挨拶すると、すいっと笛を持って演奏の輪に入ります。
高い高い音色。香りと共に立ち上ると、どこからかオカリナの音色も合わさって、鳥のさえずりのように囁き合います。
そして更に眼鏡の女の子がタンバリンをシャララシャララと。
「んん? ええと、こう、えいっえいっ」
……リズムが大層ずれてますが、でも共演の中ではそれもアクセント。ルナさんがくすくす笑って、リュートの腹を叩いてリズム取りのお手伝い。
「森よ 我が命育み母なる土地よ 朝露が暁の光浴びる時 夕闇が光閉ざして星呼ぶ時 我は忘れぬ故郷の 光が告げる数多の光景」
アルカがそのリズムにのってお兄さんと向かい合いながら、自らの胸に手をやり歌い上げます。お兄さんもそれにあわせて。
「緑よ 我が里包みし優しきその色 木漏日が天の光降ろす時 月光が星々の光と瞬く時 我は伝える故郷を 未だ見ぬ土地の人々へ」
二人の声が合わさって音と共に空へと登っていきます。
代わりに降り落ちてくるのはたくさんのスズランの花。
「懐かしい歌ですの。アディ。あれは郷の歌ですのよ」
拍手が巻き起こる中、チョココ(ka2449)がイェジドのアーデルベルトの頭をぽふぽふ撫でて笑顔を見せます。
「ぐるるぅ」
目を細めてくれたのは嬉しいからか、気持ちに同意してくれているからか。
「おー、まさかこんなところであの曲が聴けるなんてな。アガスティア。すっげぇラッキーだな」
「あ、ギムレット様ですの。とすると……」
不意にあっけらかんとした明るい男の声が聞こえて、チョココは太陽の様な笑顔をぱっと咲かせてそちらを向きました。
そこにはドワーフのギムレットと。エルフの……
「アガスティアお姉様ーーーーっ!」
むぎゅうっと細い彼女の身体を抱きしめてチョココは幸せいっぱいの顔を作ります。
「あ、ギムレットだ! 来てくれると思った。えへへ」
アルカもその姿を確認すると、ギムレットにスズランが彫り込まれた腕輪を渡します。
「それ幼馴染からだよっ」
「おう、サンキュっ。今度また来てくれよ。こっそり蒸留瓶で酒作ったからよ……それと、これは俺からな」
アルカとお兄さんにもスズランをプレゼント。
そんな話をしている横で、チョココは郷をずっと守ってくれているアガスティアに髪飾りをプレゼント。
「まあ、こんな高価なものを……」
「今日は幸せを祈るミュゲの日ですもの。このアディと里帰りするつもりでしたの」
「歓迎するわ。それじゃ一緒に帰りましょうか」
アガスティアになでなでされて。そのままそっとスズランを髪に挿してくれます。
チョココは嬉しくてうれしくて。撫でられた顔がにぱぁっと崩れます。
「今日はいつもより賑やかだな……」
皆守 恭也(ka5378)は花を贈り合う人の輪。続く音楽の輪に少し驚いています。今日はそんなお祭りの日だったかと首を傾げて、スズランを配っていた修道女に声をかけます。
「もし、今日はハレの日であったか?」
「はい、皆様の幸せを祈る日、ミュゲの日でございます。貴方様も幸せでありますように」
微笑む修道女からスズランを受け取った瞬間、修道女の視線がその後ろに泳ぎました。誰かの気配。
「何者だ!!」
「おわっ」
鋭い視線と共に居合い抜きの要領で振り上げた腕を紙一重で黒髪が舞います。頬には見慣れた傷跡。
見慣れたもなにも。恭也が使える武家の主ではありませんか。
「お前、なんでここにいる? 今は勉学中ではなかったのか……」
「え、あー……その。なんてったって、ミュゲの日なんだ!」
そういって主はスズランをぐい、と恭也の胸に押し付けます。
「勉学中ながら勝手にこんなところは、怒らねばならんが」
といっても顔がもう照れています。幸せを祈る日に、主がこうしてくれたスズランにどれほどの気持ちがこもっているか、十分解っています。
解ればわかるほど、言葉と態度が裏腹になって。
「黙っててごめん、きょーや」
「いや、こちらこそ悪かった。ミュゲの日、なんだな」
素直にそう言われると恭也も、すとんと気持ちの整理がついて。
拳の代わりに、スズランを持つ主の手に重ね合わせます。
「買い物にいこうか」
「いいな、ここよくわっかんねぇし、色々見て回ろう!」
つないだ手は堅く。
感謝と絆の意味を込めて。
修道女は微笑みながら、その二人を見送ります。
「おや?」
そんな修道女(アウレール・V・ブラオラント(ka2531) )を遠目から眺めるのは帝国の副師団長シグルドです。指で鉄砲を作ってばん。と撃つ真似と同時に飛んでくるスズランの花に、修道女はできるだけ焦りを悟られぬように俯きました。
「兄様、なんでこんなところにいるの……」
「そりゃまあ仕事で出張くらいあるさ。元気そうだね。相変わらず」
ツッコミを受けるかとヒヤヒヤでしたが、シグルドの妹御クリームヒルトとの会話が聞こえる限り、どうも興味は外れたようです。
「おかげさまで今日までずっと幸せよ。はい、幸せのおすそ分け!!」
叩きつけるようにクリームヒルトがスズランを渡して立ち去っていく様子を高瀬は唖然として見送ります。
「シグルドも来てたのね。びっくりした。あの子、妹さんなの?」
「不肖ながら」
呆れた笑顔を浮かべるシグルドのいつもの顔に、未悠は相好を崩します。
いつもの気を張った顔が影を潜めて本来の笑顔が見え隠れ。
「ね、シグルド。本好きの貴方にプレゼントがあるの」
そうして渡したのはスズランの栞。
「ね、ぴったりでしょう?」
「ありがとう。嬉しいよ。貰うばかりも悪いし、何か奢ろうか。向こうの料理店で芋料理が美味しいところがあるんだけど」
「本当!? 行く!! 今度私が作ってあげるわね」
そんな会話をしながら未悠はシグルドの横に並んで歩きはじめました。
「う、羨ましくなんかないもん……」
そんな二人の後ろ姿を見つめてルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は少しばかり口をとがらせます。
リアルブルーにいたころはカードゲームのスーパーヒロインとして少年とかお兄さんとか色んな人から羨望を一身に集めていたのにっ。そして武道館でスポットライトを浴びながら1万2千人の観衆の視線を……。
「そんなのより白馬の王子様が迎えに来てくれるのがいいの! ジュゲームリリカルクルクルマジカル!!」
ずどん。
報告官が少し黒焦げになってしまいました。
「どうしましたか?」
不意に優しい男性の声が聞こえて、ルンルンが振り返るとスズランを差し出す天央 観智(ka0896)がいます。柔和な顔つき、優しい声色。白……くて(白衣)馬(魔導バイク)に乗って、そこに飛び交う妖精(パルム)の姿!
「……あ、いえ、なんでも!!」
慌ててルンルンは風雷符を手の中に隠すと、そのままプレゼント用の花言葉をしたためたカードに持ち替えます。符術士だもの。カードさばきはお手の物。
「ルンルン忍法幸せ配り、幸せをどうぞ!!」
さらにはくるんとその場で回転すると、どこからかスズランがぽんぽんぽんっ。と舞い飛びます。子供たちには喜んでもらえるこのアクション。でも観智はそっとその一輪を手に取って微笑むばかり。
「幸せの御裾分け、確かに頂きました。良いですよね…こういう、損得も打算も無い、純粋な気持ちでの…他人の幸せを、願う…祈りと言いましょうか、願えると言う事が。こういう心が、マテリアルを清浄にして…世界を優しく綺麗に、していくのでしょうね」
派手さ抜群、楽しさ絶級のルンルン忍法。爽やかな彼の言葉に、破れたり。
胸がドキドキしてとまりません。
「それだけ動くと大変でしょう。向こうでお茶を配っていましたのでもってきましょうか」
「ほのかに香る幸せの香り、お楽しみくださいね」
観智に一言と笑顔を添えて。エステルは試飲カップにいれたオリジナルブレンドのお茶を渡します。
「はい、どうぞ」
「ありがとう! 幸せもっと配らなきゃ」
ほかほかの笑顔になっているルンルンに、更にクッキーとドラジェの包みが差し出されます。
「一息つくときは、お茶と一緒に食べるといいよ」
シャーリーン・クリオール(ka0184)がウィンクします。
香り高い香茶と手作りお菓子のコンビネーションは大人気。
「良かった、みんなに喜んでもらえているようだね」
シャーリーンは一段落ついて、みんなの喜びに満ち溢れた顔を眺めて満足そうにうなずくと、横にいたエステルに視線を送ります。
「じゃ、幸せのきっかけづくりも」
「ですね」
二人の視線が光ります。そしてその視線が向かったのは。
「仲立ちが欲しい人もいるらしくてね。美味しい食事はみんなを幸せにしてくれる。そうだよなミネア殿?」
シャーリーンの含んだ物言いに、お客にスズランとリンゴを渡していたミネアは後ずさりました。
「ほら、リンゴをもらってきたぞ」
師匠の言葉で、レオン(ka5108)は目覚めました。
「え、あれ……」
部屋にいるのは師匠だけ。眠る前まで妹がいたはずなんですが、影も形もありません。しかし、その意図だけはなんとなく残っているような気がします。窓際のスズラン2輪がそれを語っているような気がして。
「どうした。傷が痛むのか?」
師匠が顔を覗き込みます。
(まいったな)
大怪我をして帰ってきたことは師匠に合わせる顔もないなと思っていたところ。せっかくのミュゲの日を祝おうとしてたけれど、この身体ではいかんともしがたく。
でも弱気になってはいけません。想いは率直に伝えること。特に好意は。気恥ずかしいやら情けないやら、そんな気持ちもないまぜになりながらも、レオンは窓際のスズランを差し出します。
「心配かけてすみません。……もっと強くなるようになります。その誓いもこめて……」
一呼吸。
長い長い。
「大好きです」
師匠の、いや、相思相愛の人の頬が、ほころびました。
窓の外ではスズランが舞っています。
「いい調子」
屋根の上から虎猫さん、野良猫さんと跳び交いながら、あちこちそちこちと、スズランを雨のように撒いていきます。
「みんな幸せになるといい」
ちょうど真下、繁華街を歩いていた雀舟はそんな舞い降りたスズランを手に取り、誰かに想いを巡らせている様子。
「……もう一本貰えるかと思いましたが、良かった。良いお土産ができた」
兎の巾着に大事にしまう姿は、素っ気ない感じ。でも、大事そうに扱うその手つきを見ればなんとなくわかります。
ナツキも顔にでにくいタイプだもの。
「よし」
協力してくれた猫の肉球にハイタッチ。
「次はサイアとミーファ。いい?」
「にゃっ」
元気よく返事した野良猫と共に、花配りをしているエルフに花を贈ろうとした瞬間。
しゅばっ!
「!」
サイアの花籠にスズランが載せられています。一瞬前まで、なかったはずなのに。
しゅばしゅばっ。
エアルドフリスとジュードが花嵐にかき消され、エステルが慌ててヤカンに蓋をしたり、ルナのリュートの弦に挟まっていたり。
「ライバルがいる……!」
ナツキは戦慄しました。これは、負けてられない。いや、嬉しい話!
誰かよくわからないけど、幸せ届け競争勃発です。
「おい、なにしてんだァ?」
上から雨あられと振って来るスズランを見上げて、ジャック・J・グリーヴ(ka1305)が声をかけました。
「幸せ運ぶ。街の中スズランでいっぱいにする。友達増える。ジャックにも渡す約束してた」
屋根から顔を覗かせるナツキはジャックにそう挨拶すると、ぴょーーーーっと笛を鳴らして合図します。
なんだ?
ジャックは微かに地面が揺れるのを覚えながら辺りを見回します。
「もぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」
「わたしの家族、水牛さん。スズランもってきてもらった。あげる」
「あげるっ、て、オイ!! 俺様への愛はでけぇってのは分かったが、限度ってもんを……」
どちゃあ。
と、水牛さんからスズランあたっく。ジャックさん、傍目からはどこに埋もれているかわかりません。
「ふ、ふふふ。愛の重さ、受け止めてやるぜ!!」
ジャックは口にスズランを加えキメポーズ。
「あ、毒があるから気を付けた方がいい。花粉にもあるから食卓に飾るとお腹壊す」
「ふっ、愛の為なら死んだっていいんだぜ……? って聞けよ!」
視線の先にもうナツキはいません。
代わりに視線を送ってくれるのは唖然とする浄化の巫子さん達。
「……あー、あいつ。ちっ、仕方ねぇな。目が合った以上は贈り物でもしてやるか」
大量のスズランを持って、ジャックはプレゼントを思いつきました。
「すごい、かっこいいい。薔薇の紳士ね。これは是非絡んでほしいところ」
山のような花の山をミーファはキラキラした目で眺めています。
「絡む?」
「こんな感じで!」
ミーファが見せてくれた彼女の執筆した本にケイルカの髪が逆立ち、顔は一気に蒸気しました。こ、こ、これは……。なまめかしい。
思わず顔を覆いながらもケイルカはそのままページをめくる手が止まりません。
「あの。もし、桃色の髪をしたエルフの少女を見ませんでしたかね」
スズラン柄のマグカップをプレゼントにうろうろしていた花(ka6246)が二人を呼びかけます。彼が探している迷い人もエルフだから。
「ううん、見てないよね」
ケイルカとミーファは顔を見合わせてこくりと頷き合います。もしかしたらあっちにいるかも。と他の巫子がいる方を指します。
「君は一緒には配らないのかい?」
「あたしは……広告役なの。是非もらってあげてね」
ミーファの一言。本当は気まずい関係であることが見えたり見えなかったり。花はくすりとほほ笑みます。チェスをしていたら、色々見えてくるものもあるのです。こちらの様子をうかがう子がいたりなど。
「そうか。一人で大変だね。それじゃ手伝わさせてもらおうかな。はい、幸せがありますように」
ミーファの花籠をひょいと手に取る花は、そのままニコニコ。一輪をミーファに差し出した。大きな鬼の巨体に小さなスズランはなんとも不釣り合いで、それでいて優しくて。そのまま固まるミーファを巫子の、その前にいる女の子達の元へと背を押します。
「どんな祈りがこもっているんですか?」
シリウス(ka0043)の問いかけにサイアは何やら歯切れの悪い様子です。
「幸せを願う祈り……ですね。過酷な現実に流され、心暗く打算的になりがちな心を押し流す……真摯なる祈りですよ」
助け船を出したのは観智でした。
ほら。と彼が紹介したのは、ティア・ユスティース(ka5635)と彼女の聖導士仲間の二人で浄化の祈りにいそしむ姿でした。負のマテリアルを霧を晴らしたという浄化の祈りを一心にスズランに捧げます。祈りの大変さが滲み出るのか、汗で着物がしっとり。
「どうぞ」
シリウスは祈りに全身全霊を傾けるティアに笑顔を手向けました。
みんなが頑張ってそれぞれの幸せを祈ってくれているんだなぁ。
手の中でシャインの輝きでほんのり輝くスズランと、スズラン一色に染まる街を見て、シリウスの心もこのスズランのように輝きます。
シリウスはショーウィンドーを眺めて歩くアルナイル(ka0001)の横にそっと並んで歩きます。自分が世界にどれだけのことができるかわからないけれど。幸せになってもらえるように全霊を傾ける人はここにいるから。
「アル。僕からのプレゼント」
「わぁ、シリィ……! ありがとう☆」
突然のプレゼントにアルナイルはいっぱいの笑顔。そして、アルもその瞬間を待っていましたとスズランを差し出します。
もちろんシリウスもいっぱいの笑顔です。
「幸せの祈りが、別の人へつながっていく。すごいね。嬉しい気持ちでいっぱいになるの」
「そうだね。帰ったら、栞にしようか。今日の気持ちを忘れないために」
「うん☆ そうだ。種も探そうよ。今度は私達から新しい幸せ育てるのどうかな。それに、さっきスズランの腕輪をしている人がいたの。どこかで売ってるのかみつけたい」
「じゃあ、見て回ろうか」
二人は手をつないで街中を歩いていきます。
「喉乾いたでしょう。どうぞ」
休憩にとつれてこられたテーブルに案内されたサイアに、エステルはお茶を差し出した後、テーブルの中央にスズランのブーケも。
「……私と、兄からの分です」
隣で長老になにやら頭を下げている兄をちらっと見てほぅ、とため息をつくとエステルは笑顔を作ります。
「頼りないけど、ちゃんと帰ってきてくれるんですよ。困った時はいつも手を差し伸べてくれて」
「そう……」
お茶を一口飲みはしましたが、気乗りしない顔のサイア。だけれども。
「所在なさげな相棒を連れて来たぞ」
エアルドフリスがその横の椅子を引いて案内した妹の顔に目が真ん丸になります。
「サイアさん、ミーファさん。はーい、これ、オレからのプレゼントだよ」
「こちらは俺からだ。ここにいるみんなにも」
エアルドフリスとジュードの手が重なった手で緑と白のストライプのリボンを巻いたスズランが差し出されます。
「あ、いましたいました。私からもです。受け取ってください」
ルナもその上に。そして隣にいるエステルのお兄さんにも立ち上がって音符の飾りがついたピンでスズランを胸に飾ります。
お兄さん、優しくて穏やかだから気づきにくいけれど、間近によると胸板大きい。
「あの、いつもありがとう。これからも、よろしくお願いしますね」
「ありがとう。えっと」
お兄さんはアルカや、エアルドフリス、ジュード、色んな人からいっぱいいっぱいです。
テーブルにいるみんながみんなにスズランを。それに加えてクッキーの差し入れも。
「あたしと、ミネア殿からの差し入れさ」
シャーリーンがウィンク一つ。ミネアも帽子を取って手を振ります。
「誰に渡したかわからなくなりますね」
テーブルの上はスズランいっぱい。フレデリクはくすくす笑います。
たくさんの人に囲まれて。いっぱいのスズランに囲まれて。
「あの……」
「その……」
遠く離れていた双子の姉妹は気まずそうに顔を見合わせます。ずっと離れていても、声のタイミングは同じ。
「ミーファの本、捨ててないから……ごめんなさい」
「サイアの事さ、怒ってないから……ありがとう」
みんなの力があれば。祈りの力があれば。途切れた想いもこうしてつながるよ。
「やっぱそれだな。前に花冠渡した時のお前らの笑顔な、最高に可愛かったぜ……!」
そんな二人の頭ににジャックがスズランで作った花冠を載せて上げます。
同じ顔、同じ瞳が潤んでいるよ。真っ赤になってそっぽを向くジャックさんの顔に感謝の花を手向けて。
デリアも微笑んで見ています。
「前回は尽力してくださったのに怒ったりしてすみませんでした。その、色々ありすぎて気持ちの整理ができなくて」
サイアはクレール、未悠、ティアに頭を下げてそう言いました。
「謝るのは……こちらです。絶対絶対、あのファルバウティとかいう奴、なます切りで、千切りで、みじん切りで、粉みじんにしてみせますからっ。ディンゼルフの名にかけて!」
ようやくスズランを渡したクレールさんの一言と共に、ティアの浄化したスズランの花が煌々と光ります。
「幸あらんことを」
「共に穢れを祓いましょう。まだ人間全てを信じられるわけてもありませんけれど。皆様なら」
そのスズランを受け取って、サイアはしっかり頷きました。
「一緒に戦うからね。まだやることはいっぱいあるけれど、みんなと一緒なら」
ミーファも横に並んでにっこり。
「あ、いた」
エルフ達を取り囲む輪の上からナツキが顔を出します。
「友達いっぱい増えた。その幸せ、あげる」
それと同時に、猫さんがスズランを背負って走ります。
一匹、二匹、十匹……
にゃあああああああああああああ!!!1
「みんな友達になれた」
猫さんが一斉に皆さんの胸元に跳んで、スズランをプレゼント。
そしてトドメは。
「またかぁぁア!!!?」
ジャックが叫んだ直後に水牛さんの突撃によりスズランに埋もれました。
みんなそろって。花の中。おかげで夕暮れの街は見晴らしがよくなりました。
「あーーー、はぁちゃん、みぃつけたの♪」
「そんなところにいたのか。探してたんだぞ」
花はずっと探していた桃色の髪の少女が飛び込んでくるのを優しく受け止めると、スズランの山から一輪抜き出して、彼女に渡しました。
「ミュゲの日のお祝いだ。幸せでありますように」
笑顔の花がまた一つ、咲きました。
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幸福の花の日の過ごし方 ルナ・レンフィールド(ka1565) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/05/08 02:21:26 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/05/08 21:22:28 |