ゲスト
(ka0000)
【機創】錬魔院からのお願い× 無茶振り○
マスター:葉槻

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/05/10 09:00
- 完成日
- 2016/05/18 07:50
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●錬魔院にて
「いやぁ、ごめんねー、わざわざこっちに来てもらって。あ、その辺の椅子に適当に座ってね」
ひょろりとした猫背、白衣姿にぼさぼさ茶髪ロン毛……誰かを彷彿させる外見の男がぺこぺこと頭を下げつつ、待機を命じられた研究会議室へと台車を押しながら入ってきた。
「いやね、先日面白いものが手には入ってね……いやぁ凄いなぁ、このスライムの特性を把握して捕獲して来ちゃうとか、ホント凄いよね!」
子どものようにキラッキラとした瞳――ただし、物凄く糸目だ――で台車の上、ガラス製の箱に入った赤黒いスライムを見つめている。
「コレね、餌をあげるだろ? おっきくなって強くなるのね」
箱の鍵を外し蓋を開けると、ひょいっと生きた鼠を3匹放り込む。
球状に丸めたなら直径30cmほどのスライムは即座に鼠に襲いかかり、襲われた鼠は即座に乾涸らびた死骸へと変わり果て、スライムはぐんと大きさを増し、箱いっぱいになった。
「で、ちょっと攻撃すると、反撃してくるんだけど、どうやら自分自身の身を削って攻撃しているらしくてね……あ、みんなちょっと床にある盾構えていてね-、危ないから」
男は箱をひっくり返し、スライムはベチョッと音を立てて床に落ちる。
男は指し棒のような杖でスライムを突くと、スライムがふるりと震えて赤い刃を飛ばした。
それを男は左腕の小さな盾で弾き、更に指し棒を伸ばして突く、刃が飛ぶ、防ぐ、突く、刃、防ぐ……と繰り返してみせる。
易々とやっているように見えるが、戦闘経験がある者ならそれは絶妙な力加減と恐るべき反射神経がなければなせない技だと気づいただろう。
次第にスライムの大きさは元の大きさほどに縮んでいき、更に小さくなったところで、再びガラス箱の中に男が何かの生肉を放り込む。
するとスライムは自らガラスの箱へと飛び込んでいき、男はすかさずガラスの蓋を閉め、鍵をかけた。
「威力なんかも、食べた正のマテリアル量に比例するらしくてね。鼠ぐらいならたいした増強はしないんだけど、これが……そうだね、人とかになると、結構厄介なことになる」
試したのか? という問いに、男は慌てて両手を振る。
「まさかまさか! そういう被害報告が上がっているんだよ。で、ほら、ちょうど今、下水掃除の時期じゃない? ちょっとうちの研究員に先行で見に行って貰ったのね、下水に。そしたらね、いたの。この『赤黒いスライム』。1体だけ。」
しかも、下水にいる生物や雑魔を食べたのだろう。大きさは2mを越え、非常に威力を増しているらしい。
「ほら、雑魔って、成り立て新鮮だと、退治して負のマテリアルが抜けた後って美味しくなったりするじゃない? あれって、負のマテリアルが無くなった後に、周囲の正のマテリアルが流入する為だって考え方が一般的なんだけどね。コイツの場合、どの程度の雑魔まで食べられるのか解らないけど、雑魔を食べるんだよ。実際そういう報告が上がってる。負のマテリアルも吸収出来るのか、それとも死んだ後の死骸に入った正のマテリアルを食べているのか……どっちかは解らないんだけど」
ガリガリと頭を掻き、「興味深いよねぇ」なんてその細い瞳を輝かせる。
「……で、何だっけ? あぁそう。この赤黒いスライムがこの地点で見つかったの。残念ながら、うちの研究員じゃ力不足で返り討ちにあっちゃったから、ハンターのみんなにお願いしようと思って」
黒板に地図を張り付けると、くるりと円で示す。
そこは帝都のイルリ河を挟んで北東部。ノイエ・ブラーケン区と呼ばれる一画で、主には行政関係の建造物や政府関係者、役人用の社宅や旧貴族の豪邸などが建ち並ぶ区画であった。
「コレがね、河に落ちちゃってどっか行っちゃったり、地上に出てきて大暴れとかされちゃうとホント困ることになる……っていうのはみんな解るよね? 昨日の今日だからそんな大きく移動していたりはしないと……思うから、ちょっと行って倒してきて欲しいなって」
男はそう言うと、白衣のポケットから一枚の地図と大きな鍵を取り出す。
これがあれば区管轄の下水出入口から侵入出来るので、比較的雑魔を相手にすること無く辿り着けるはず……という事だ。
「で、これがまぁ、表向きの依頼ね。最低条件ってやつ。で、本命はね、出来たらコレを捕まえて来てほしいのね」
ニコニコと笑いながら男は笑う。
「歪虚を研究することは魔に繋がることだからって本来は禁忌とされているわけだけれど、折角こんな迂闊な……面白いスライムが手に入るチャンスだからね。僕たちとしては研究対象は多ければ多いほど助かるし、君達は戦闘のプロだし。あ、箱は貸すよ。大体このぐらいの大きさにしてくれれば生肉で釣れると思うから、それも入れておくね」
そう言って、台車の上の空のガラスの箱を机の上に置いた。大きさはおおよそ50cm四方といったところか。
「じゃ、よろしく」と男が頭を下げたところで、1人のハンターが「ちょっといいか」と声を掛けた。
「先日『人が変化したスライム』が出たという話しを聞いたんだが……そのスライムの事じゃないのか」
室内がしん、と静まりかえる中、男はニコニコとした相貌を崩さずに首を傾げた。
「それがどうしたの? 人は死んでしまえばただの『物体』だよ。それを負のマテリアルに浸食されれば雑魔や歪虚に変わる。そうなったらただの『人類の敵』だよ。まさか、見逃してやれ、なんて言わないよね!? そんなコトしたら、ドンドン狂暴化してそれこそ手が付けられなくなっちゃうよ?」
ぞわり……と、薄ら寒い気配が室内を満たす。
「禁忌、と言われてはいるけれど、別に罰則があるわけじゃない。コレを歪虚……剣機が回収していたという話もある。ということは、コレを解明することで奴らの目論見を知ることが出来るかもしれない! ……なぁに、君達に何か不都合が降りかかることも無いだろう。大丈夫、無事捕獲してくれれば報酬ははずむよ? じゃ、よろしくね」
男は最後まで笑顔のまま、来たときと同じように台車を押しながら部屋から出て行く。
それを室内に残されたハンター達はただ静かに見送ったのだった。
●下水道にて
そのスライムは目下のところ満足していた。
陽の光が一切入らず、じめじめしていて、何よりオイシイゴハンが沢山ある。
しかし、徐々にオイシイゴハンを探さなければ食べられなくなってきてしまった。
――オイシイゴハンタベタイ――
どうしてこんなにも自分が飢えているのか解らないまま、スライムはもそもそと移動を始める。
――アァ、オナカガスイタ――
チィ……と捕まった鼠型雑魔が小さな悲鳴を上げて乾涸らびていった。
「いやぁ、ごめんねー、わざわざこっちに来てもらって。あ、その辺の椅子に適当に座ってね」
ひょろりとした猫背、白衣姿にぼさぼさ茶髪ロン毛……誰かを彷彿させる外見の男がぺこぺこと頭を下げつつ、待機を命じられた研究会議室へと台車を押しながら入ってきた。
「いやね、先日面白いものが手には入ってね……いやぁ凄いなぁ、このスライムの特性を把握して捕獲して来ちゃうとか、ホント凄いよね!」
子どものようにキラッキラとした瞳――ただし、物凄く糸目だ――で台車の上、ガラス製の箱に入った赤黒いスライムを見つめている。
「コレね、餌をあげるだろ? おっきくなって強くなるのね」
箱の鍵を外し蓋を開けると、ひょいっと生きた鼠を3匹放り込む。
球状に丸めたなら直径30cmほどのスライムは即座に鼠に襲いかかり、襲われた鼠は即座に乾涸らびた死骸へと変わり果て、スライムはぐんと大きさを増し、箱いっぱいになった。
「で、ちょっと攻撃すると、反撃してくるんだけど、どうやら自分自身の身を削って攻撃しているらしくてね……あ、みんなちょっと床にある盾構えていてね-、危ないから」
男は箱をひっくり返し、スライムはベチョッと音を立てて床に落ちる。
男は指し棒のような杖でスライムを突くと、スライムがふるりと震えて赤い刃を飛ばした。
それを男は左腕の小さな盾で弾き、更に指し棒を伸ばして突く、刃が飛ぶ、防ぐ、突く、刃、防ぐ……と繰り返してみせる。
易々とやっているように見えるが、戦闘経験がある者ならそれは絶妙な力加減と恐るべき反射神経がなければなせない技だと気づいただろう。
次第にスライムの大きさは元の大きさほどに縮んでいき、更に小さくなったところで、再びガラス箱の中に男が何かの生肉を放り込む。
するとスライムは自らガラスの箱へと飛び込んでいき、男はすかさずガラスの蓋を閉め、鍵をかけた。
「威力なんかも、食べた正のマテリアル量に比例するらしくてね。鼠ぐらいならたいした増強はしないんだけど、これが……そうだね、人とかになると、結構厄介なことになる」
試したのか? という問いに、男は慌てて両手を振る。
「まさかまさか! そういう被害報告が上がっているんだよ。で、ほら、ちょうど今、下水掃除の時期じゃない? ちょっとうちの研究員に先行で見に行って貰ったのね、下水に。そしたらね、いたの。この『赤黒いスライム』。1体だけ。」
しかも、下水にいる生物や雑魔を食べたのだろう。大きさは2mを越え、非常に威力を増しているらしい。
「ほら、雑魔って、成り立て新鮮だと、退治して負のマテリアルが抜けた後って美味しくなったりするじゃない? あれって、負のマテリアルが無くなった後に、周囲の正のマテリアルが流入する為だって考え方が一般的なんだけどね。コイツの場合、どの程度の雑魔まで食べられるのか解らないけど、雑魔を食べるんだよ。実際そういう報告が上がってる。負のマテリアルも吸収出来るのか、それとも死んだ後の死骸に入った正のマテリアルを食べているのか……どっちかは解らないんだけど」
ガリガリと頭を掻き、「興味深いよねぇ」なんてその細い瞳を輝かせる。
「……で、何だっけ? あぁそう。この赤黒いスライムがこの地点で見つかったの。残念ながら、うちの研究員じゃ力不足で返り討ちにあっちゃったから、ハンターのみんなにお願いしようと思って」
黒板に地図を張り付けると、くるりと円で示す。
そこは帝都のイルリ河を挟んで北東部。ノイエ・ブラーケン区と呼ばれる一画で、主には行政関係の建造物や政府関係者、役人用の社宅や旧貴族の豪邸などが建ち並ぶ区画であった。
「コレがね、河に落ちちゃってどっか行っちゃったり、地上に出てきて大暴れとかされちゃうとホント困ることになる……っていうのはみんな解るよね? 昨日の今日だからそんな大きく移動していたりはしないと……思うから、ちょっと行って倒してきて欲しいなって」
男はそう言うと、白衣のポケットから一枚の地図と大きな鍵を取り出す。
これがあれば区管轄の下水出入口から侵入出来るので、比較的雑魔を相手にすること無く辿り着けるはず……という事だ。
「で、これがまぁ、表向きの依頼ね。最低条件ってやつ。で、本命はね、出来たらコレを捕まえて来てほしいのね」
ニコニコと笑いながら男は笑う。
「歪虚を研究することは魔に繋がることだからって本来は禁忌とされているわけだけれど、折角こんな迂闊な……面白いスライムが手に入るチャンスだからね。僕たちとしては研究対象は多ければ多いほど助かるし、君達は戦闘のプロだし。あ、箱は貸すよ。大体このぐらいの大きさにしてくれれば生肉で釣れると思うから、それも入れておくね」
そう言って、台車の上の空のガラスの箱を机の上に置いた。大きさはおおよそ50cm四方といったところか。
「じゃ、よろしく」と男が頭を下げたところで、1人のハンターが「ちょっといいか」と声を掛けた。
「先日『人が変化したスライム』が出たという話しを聞いたんだが……そのスライムの事じゃないのか」
室内がしん、と静まりかえる中、男はニコニコとした相貌を崩さずに首を傾げた。
「それがどうしたの? 人は死んでしまえばただの『物体』だよ。それを負のマテリアルに浸食されれば雑魔や歪虚に変わる。そうなったらただの『人類の敵』だよ。まさか、見逃してやれ、なんて言わないよね!? そんなコトしたら、ドンドン狂暴化してそれこそ手が付けられなくなっちゃうよ?」
ぞわり……と、薄ら寒い気配が室内を満たす。
「禁忌、と言われてはいるけれど、別に罰則があるわけじゃない。コレを歪虚……剣機が回収していたという話もある。ということは、コレを解明することで奴らの目論見を知ることが出来るかもしれない! ……なぁに、君達に何か不都合が降りかかることも無いだろう。大丈夫、無事捕獲してくれれば報酬ははずむよ? じゃ、よろしくね」
男は最後まで笑顔のまま、来たときと同じように台車を押しながら部屋から出て行く。
それを室内に残されたハンター達はただ静かに見送ったのだった。
●下水道にて
そのスライムは目下のところ満足していた。
陽の光が一切入らず、じめじめしていて、何よりオイシイゴハンが沢山ある。
しかし、徐々にオイシイゴハンを探さなければ食べられなくなってきてしまった。
――オイシイゴハンタベタイ――
どうしてこんなにも自分が飢えているのか解らないまま、スライムはもそもそと移動を始める。
――アァ、オナカガスイタ――
チィ……と捕まった鼠型雑魔が小さな悲鳴を上げて乾涸らびていった。
リプレイ本文
●あぁ、懐かしきこの風景
「……ふぅ、帰ってきたぜ……」
低く抑えたイケメンボイス。水流崎トミヲ(ka4852)の眼鏡がLEDライトの光りを反射してキラリと煌めく。
……そしてその眼鏡の奥のつぶらな瞳にもキラリと光るモノ……
これが郷愁を誘うような見晴らしの良い丘から農村を望むとか、船の上から陸を望むとかいうのなら、感動の涙だと思えたかも知れない。
しかしながら、ここは下水道。
彼の涙は下水から醸し出される刺激臭に起因するもの、他ならない。
「覚悟はしていたよ。多分、また、此処に帰ってくるってなぁ!!!」
足元を駆け抜けようとする黒くて素早い虫の雑魔をロングブーツの底で踏みつぶしながらトミヲはやけっぱちのようにわめき嗤っている。
「トミヲさん、落ち着いて……!」
ユリアン(ka1664)が見かねてトミヲの肩を優しく叩き宥める。
そう言いながらも、ユリアン自身もこの依頼を受けるに当たって色々な葛藤を抱えている。
2人は単純に『仕事』と割切るには、この『赤黒いスライム』に縁を持ちすぎてしまっていた。
「研究者の中には危ういところがある人もいますね」
エルバッハ・リオン(ka2434)が依頼主のことを思い出して溜息混じりに呟いた。
「気の進まないところはありますが、依頼を受けた以上は努力しないといけないですか」
ユリアンとは違う意味で戸惑うエルバッハは、それでも自身に言い聞かせるように呟いてアブルリーを握り締める。
一方で興味深そうに下水道の様子を見ているのは黒耀 (ka5677)だ。
「ほほう、ここが帝都の誇る下水道。なるほど、劣悪な環境とは聞き及んでおりましたが……噂以上の酷さですね」
下水の状態については事前に説明があったはずだが、何の準備もせず来た黒耀は悪臭が煮詰まったような刺激臭に目元を潤ませながら、呼吸さえ辛そうに咳き込んだ。
「下水に逃げ込むスライムって元は此処の水と血とかっすかね」
一方で何の事情も知らない、この依頼がハンターとして初依頼となる骸香(ka6223)は、鼻から口元を布でしっかり覆って臭気対策をした上で、着物の裾が濡れないように、裾を上げて帯に挟み込んでいる。
大小様々な疵痕が残る白く滑らかな脹ら脛が露わとなっており、歩く度にちらりと覗く太腿が眩しい。
それを見ないように見ないようにとトミヲは必死に視線を逸らし……天井にいる多足甲虫雑魔と目が合って、生理的嫌悪感に全身が戦慄いた。
それを見たダリオ・パステリ(ka2363)が大剣の形にしたユナイテッド・ドライブ・ソードで撫でるように切り落とし、露を払うように一振りすると鞘へと剣を戻す。
「スライムが、元は人であったか……気の毒なことではあるが……しかし、人ならざる者のためにこの世は出来ておらぬ」
ユリアンの葛藤を察したようにダリオはそう静かに告げる。
「おかしら」
「我らは成すべき事を成すだけだ」
「流石、僕たちのパッティーダネ!」
アルヴィン = オールドリッチ(ka2378)がにっこりと笑って、ダリオを讃えつつ、ユリアンのほっぺたを突く。
この3人、元々同じギルドで友人である為、気心の知れた関係でもある。
「既に出た犠牲を悔やんデモ結果は変わらないカラネ」
がんばろうネーと笑うアルヴィンに、ユリアンも少し目を伏せた後、「わかってる」と瞳に力を宿して頷いた。
地図は予め鍵と共に預かっていた。
更に錬魔院の調査員達がスライムと遭遇した地点を具体的に書き込んで貰ってもある。
それを書き写したモノを、ユリアンとダリオが手に持ち進み、予定していた分岐路に辿り着いた。
そこで、ユリアンvsダリオ、トミヲ(&骸香)vsエルバッハ、エルヴィンvs黒耀で、向き合った。
「いいかい、事前に僕が言ったとおりにしてね……じゃぁ、行くよっ」
トミヲのかけ声と共に、一同が拳を突き出した。
「ぐっとーぱーでーわーかれーましょっ!」
「では、武運を」
グーのダリオ、黒耀、エルバッハが右へ。パーのユリアン、トミヲ、アルヴィン、骸香が左の水路へと入っていく。
こうして、スライム捕獲大作戦は本格的に開始された。
●水路を進め! 挟み撃ちだ!!(予定は未定)
ユリアン達4人はトミヲが一人一人にウォーターウォークをかけたお陰で、水底のぬかるみに足を浸すこと無く進んでいた。
小さな雑魔が壁から、天井から、時には水中から顔を出してくるが、ユリアン、トミヲ、アルヴィンの敵ではない。
「最初の内は、覚醒時間が2時間しか持たないから……スライムが見つかってからの覚醒でもいいと思う」
「そうだネ。帰る途中だって雑魔は出るカラネ」
そうベテラン2人に諭され、ナイト役3人に守られる形になった骸香は、最初こそまったく落ち着かなかったが、ハンターの戦い方というものをすぐ傍で見、肌で感じるうちに楽しくなってきた。
特に同じ疾影士のユリアンは接近戦では日本刀を用いつつ、遠距離では投擲でも確実に敵を仕留めていくその器用さに、いつか自分もとその技を盗もうと真剣に観察する。
――戦闘は、生きる手段。
「楽しい事を邪魔しないでよねぇ」
布をしていても抑えきれない厭な臭いに、思わず思い出したくも無い過去を引き摺り出されそうになり、骸香はぼそりと呟いた。
「? 何か言ったかい?」
後衛に立つトミヲに問われ、「何でもないっすよ~」と骸香はひらひらと手の平を振ってへらっと笑った。
こちらの4人は非常に慎重に進んでいた。
帝国の下水道といえば道が複雑で迷いやすいことで有名でもある。同じような風景が続く上に、水路は迷路のようにうねり、別の水路に繋がる。
それに対策すべく、ユリアンは貝灰のチョークを持参したが、壁にはヘドロ状の苔が生えていたため、むしろそれを削った方が目印になった。
アルヴィンは水路脇に死骸が無いか慎重に調べながら歩き、トミヲは支流に入る前にたいまつを立てかける事で、灯り取りと目印、両方の役割を持たせた。
「スライム見つけて弱らせて終了だって思ってたけど、こういう手間も必要なんっすねぇ」
骸香が感心したように呟けば、ユリアンとアルヴィンは顔を見合わせて笑った。
「んー……多分、あっちはこういう事やってないんじゃないかなぁ」
「マァ、性分的な部分もありますカラネ」
盛大なくしゃみをしてダリオは足を止めた。
「大丈夫? 風邪かしら?」
「向こうに居るお友達が噂でもしているのでは?」
黒耀に心配され、エルバッハに微笑まれて、ダリオはふむ、と考える。
「……恐らく、エルバッハ殿の言うとおりであろう。それがしの体調には何ら問題は無い」
そう告げて、ダリオは再びライトを前方へ戻すと歩き始める。
こちらの3人はレベル的にも特に不安要素の無い3人だった。
そしてまた、全員が戦闘に向けてしか思考が働かなかったらしい。
強いて言えばエルバッハはバイザーの降りるクローズヘルムであったし、カプリチョーザの袖で口元を覆うぐらいはしていたが、黒耀とダリオに至っては袖の無い服で悪臭対策は全く講じていない。
最初こそ顔を歪ませていた黒耀だが、今ではあまり気にした様子が無く、ダリオに至っては始めから気にした様子がないのは2人の精神力が高い故かそれとも……
また、3人は地図こそ持っていたが、マッピングや道中に目印を置くと言う事も無く、ただただ、目的地へ向けて闊歩していった。
――結果。
「…………」
3人の前にはヘドロの貼り付いた煉瓦の壁が立ち塞がっていた。
「……おかしい。地図ではメインの水路に出るはずなのだが」
「途中で道間違えたのでは?」
「似たような曲がり角が続きましたからね」
「……戻るか」
「まったくこうも雑魚ばかりでは鬱陶しいったらありませんね……カードドロー! マジックカード発動!」
3人に忍び寄ってきていた鼠型雑魔と蛭型雑魔、それ以外にも暗闇に光る無数の目に向かって黒耀が5枚の符を投げると、光陣で雑魔達を一気に焼き払った。
3人はこんな具合に道中の雑魔達を蹴散らしながらズンズンと豪快に進んでいく。
「え? スライムと遭遇したんですか? 今どの辺ですか!?」
合流予定だった錬魔院の研究員達がスライムと遭遇した地点でダリオ達を待っていたユリアンは、トランシーバー越しに叫んだ。
「……わかんないって……あの、おかしらと代わって下さい」
緊迫した様子に骸香は目を丸くし、トミヲはおろおろし、アルヴィンはニコニコと笑っている。
「……あ、おかしら?! え? 道を間違えて……戻ったはずが違う道に出たって……それって完全に迷子じゃ無いか!」
思わずユリアンが額を抑えて天井を仰ぐのと同時に、アルヴィンはついに吹き出す。
「パッティーらしいネ!」
「判った、すぐに行くよ。メイン水路までは出られ……あぁ、うんわかった」
通信を切り、思わず深い溜息を吐いたユリアンにアルヴィンが「お疲れサマ」と声を掛ける。
「とりあえず、メインの水路まで引き付けながら移動してくれるみたいだけど……どこで迷ったんだろう」
ユリアンは地図を広げて水路を目で追う。
「そうダネ……ココなら、広いし、他への移動もしやすそうじゃナイ?」
アルヴィンがメイン水路同士が交わる部分を示し、4人はまずはその地点を目指すことにしたのだった。
「ユリアン様は、何と?」
「メイン水路で合流しようと言う事になった」
ウォーターウォークで水の上を走りながらダリオはトランシーバーを黒耀へ返した。
「あの広い水路ですね。幸いスライムは私達に付いてきてくれていますし、しっかり引き付けながら行きましょう」
エルバッハの言葉に、ダリオは力強く頷き、黒耀の足取りに合わせて3人は走って行く。
●水路を走れ! 挟み撃ちだ!!(結果的に)
メイン水路に辿り着いたダリオ達は、下手に動かずその場でスライムと対峙することにした。
「……にしても、大きいですね……」
エルバッハが半ば感心したようにスライムを見上げた。
2mと言葉で聞いた時にはそんなものかと思っていたが、縦横斜め、半円球状に直径2mを越えており、それが動きによっては3m近くまで延びたり、平べったく薄くなったりしている。
エルバッハは視線の先でちょこまかとしている周囲の雑魔殲滅も兼ねて冷気の嵐で一気に場を氷結させた。
それに追従するように黒耀が三つ叉の雷光でスライムと仕留め損なった雑魔を穿つ。
ダリオが守りを固め、スライムの前で大剣を構えた。
「いざ、尋常に、勝負!」
ダリオの声に応えるように、スライムは大きく小刻みに震えると、無数の刃をダリオに向かって放出したのだった。
「前の方で何か光った……あ、ほら!」
骸香の指差す方向、メイン水路同士が交差する右側で、LEDライトの光が天井を走った。
はぁはぁと息を上げながらトミヲがユリアンを呼んだ。
「ゆ、ユリアンくん、行けるなら……先にっ!」
トミヲの言葉に、アルヴィンが頷く。
「骸香君も、行けるならいっておいでヨ」
2人に促されて、ユリアンは頷くと足にマテリアルを込めて強く踏み出し、骸香もその後に続いて覚醒するとランアウトで走り出した。
2人の背を見送りながら、アルヴィンはふふーふ、と笑う。
「実はそんなに息上がってないデショ? 優しい人ダネ、キミは」
「そ、そんなことナイヨ。めちゃめちゃ、息切れてマスヨ?」
事実、装備量にも気を遣い、持久力もあるトミヲはさほど息切れしていたりはしなかった。
だが、スキルで移動力を上げて走れる疾影士の2人を先に行かせるにはそういう演出をした方が効果的だと判断しただけだ。そして、アルヴィンはそれに気付いていて微笑む。
「さ、さぁ、僕たちも急ごう!」
ぎくしゃくと走り始めたトミヲを追うように走り始めたアルヴィンだが、その足取りは先ほどまでとは打って変わった本気の走りであることに気付いて、やっぱり小さく笑いながらその横に並んだのだった。
「おかしら!」
「来てくれたか、ユリアン殿」
スライム越しにダリオの無事を確認したユリアンは、大きく跳躍すると刀を一閃させ、再び距離を取った。
「怪我は!?」
「大した手傷は負うておらん、全てかすり傷よ」
呵々、と笑って見せるダリオには、事実体中に小さな傷は入っていたが、どれも動きを制限する程でもない。
「これでも大きさ、一回りぐらいは削ったんだ」
「流石にこれだけの大きさになっているのなら、ある程度全力で攻撃してもいいかもしれません」
黒耀とエルバッハの言葉に、追いついた骸香は2m弱の大きさのスライムを見る。
「なるほど……では、全力で行かせて貰うっす!」
骸香はハンドサポーターに包んだ拳を鋭く抉るようにスライムへと放つ。
ぶにょん、という弾力の強いゼリーの中に手を突っ込んだような、得も言われぬ感触に眉を顰めた。
「何これ! きもっ!」
叫び飛び退く骸香の後に、ふるり、とスライムが揺れた。
「貴様の相手はそれがしだと言っておろう!」
ダリオが大剣から刺突剣の形へと変化させ、地を蹴り突撃すると、抉り割く。
スライムは全身をさざ波のように震わせると、ダリオに向かって刃を放つ。
それを全て受け捌くと、ダリオは頬を流れる血を乱暴に親指ひと撫でで払い、再び剣を構える。
「その程度の攻撃では、それがしを倒す事など出来ぬぞ!!」
「そうそう、僕が癒やすしネ!」
言葉が早いか、光りが早いか。アルヴィンのヒールがダリオを包み傷を癒やしていく。
(コノ上は、せめて犠牲が無駄にナラナイ様に、真相に近づく手掛りを得る為、利用させて貰うヨ)
アルヴィンは冷酷とも取れる決意と共に笑みを深め、同時にトミヲの火矢が真っ直ぐにスライムを貫いた。
「これで、全員集合ですね」
嬉しそうに微笑むエルバッハに黒耀も頷き口角を上げた。
「このレアカードの味を味わえるなど運のいい雑魔めが。存分に堪能するがいい」
黒耀が吉方と凶方を示すべく符を投げる。符が示したのは――
●そして僕たちは共犯者になる
「わー、流石ハンターだね! いやぁ有り難う、有り難う!!」
無事スライムを捕獲して帰れば、錬魔院の男は嬉しさを隠しきれないと言わんばかりに、一人一人の手を無理矢理握ってぶんぶんと振って握手していく。
触れられるのが苦手な骸香はその手から逃れようとしたが、男の手の方が早く、結果的にされるがままとなってしまった。
トミヲは今まで関わってきた依頼から、剣機が関わっている可能性とスライム同士互いに位置の判る共感覚のようなものがあるんじゃないか、という情報を男に伝える。
「なるほどね、面白い意見だ。参考にさせてもらうよ」
男は笑い、ハンターたちに告げた。
「また、何かあったら宜しく頼むよ、ハンターさん」
その笑みに、さらなる厄介ごとが降りかかってくる予感しかしない一同だった。
「……ふぅ、帰ってきたぜ……」
低く抑えたイケメンボイス。水流崎トミヲ(ka4852)の眼鏡がLEDライトの光りを反射してキラリと煌めく。
……そしてその眼鏡の奥のつぶらな瞳にもキラリと光るモノ……
これが郷愁を誘うような見晴らしの良い丘から農村を望むとか、船の上から陸を望むとかいうのなら、感動の涙だと思えたかも知れない。
しかしながら、ここは下水道。
彼の涙は下水から醸し出される刺激臭に起因するもの、他ならない。
「覚悟はしていたよ。多分、また、此処に帰ってくるってなぁ!!!」
足元を駆け抜けようとする黒くて素早い虫の雑魔をロングブーツの底で踏みつぶしながらトミヲはやけっぱちのようにわめき嗤っている。
「トミヲさん、落ち着いて……!」
ユリアン(ka1664)が見かねてトミヲの肩を優しく叩き宥める。
そう言いながらも、ユリアン自身もこの依頼を受けるに当たって色々な葛藤を抱えている。
2人は単純に『仕事』と割切るには、この『赤黒いスライム』に縁を持ちすぎてしまっていた。
「研究者の中には危ういところがある人もいますね」
エルバッハ・リオン(ka2434)が依頼主のことを思い出して溜息混じりに呟いた。
「気の進まないところはありますが、依頼を受けた以上は努力しないといけないですか」
ユリアンとは違う意味で戸惑うエルバッハは、それでも自身に言い聞かせるように呟いてアブルリーを握り締める。
一方で興味深そうに下水道の様子を見ているのは黒耀 (ka5677)だ。
「ほほう、ここが帝都の誇る下水道。なるほど、劣悪な環境とは聞き及んでおりましたが……噂以上の酷さですね」
下水の状態については事前に説明があったはずだが、何の準備もせず来た黒耀は悪臭が煮詰まったような刺激臭に目元を潤ませながら、呼吸さえ辛そうに咳き込んだ。
「下水に逃げ込むスライムって元は此処の水と血とかっすかね」
一方で何の事情も知らない、この依頼がハンターとして初依頼となる骸香(ka6223)は、鼻から口元を布でしっかり覆って臭気対策をした上で、着物の裾が濡れないように、裾を上げて帯に挟み込んでいる。
大小様々な疵痕が残る白く滑らかな脹ら脛が露わとなっており、歩く度にちらりと覗く太腿が眩しい。
それを見ないように見ないようにとトミヲは必死に視線を逸らし……天井にいる多足甲虫雑魔と目が合って、生理的嫌悪感に全身が戦慄いた。
それを見たダリオ・パステリ(ka2363)が大剣の形にしたユナイテッド・ドライブ・ソードで撫でるように切り落とし、露を払うように一振りすると鞘へと剣を戻す。
「スライムが、元は人であったか……気の毒なことではあるが……しかし、人ならざる者のためにこの世は出来ておらぬ」
ユリアンの葛藤を察したようにダリオはそう静かに告げる。
「おかしら」
「我らは成すべき事を成すだけだ」
「流石、僕たちのパッティーダネ!」
アルヴィン = オールドリッチ(ka2378)がにっこりと笑って、ダリオを讃えつつ、ユリアンのほっぺたを突く。
この3人、元々同じギルドで友人である為、気心の知れた関係でもある。
「既に出た犠牲を悔やんデモ結果は変わらないカラネ」
がんばろうネーと笑うアルヴィンに、ユリアンも少し目を伏せた後、「わかってる」と瞳に力を宿して頷いた。
地図は予め鍵と共に預かっていた。
更に錬魔院の調査員達がスライムと遭遇した地点を具体的に書き込んで貰ってもある。
それを書き写したモノを、ユリアンとダリオが手に持ち進み、予定していた分岐路に辿り着いた。
そこで、ユリアンvsダリオ、トミヲ(&骸香)vsエルバッハ、エルヴィンvs黒耀で、向き合った。
「いいかい、事前に僕が言ったとおりにしてね……じゃぁ、行くよっ」
トミヲのかけ声と共に、一同が拳を突き出した。
「ぐっとーぱーでーわーかれーましょっ!」
「では、武運を」
グーのダリオ、黒耀、エルバッハが右へ。パーのユリアン、トミヲ、アルヴィン、骸香が左の水路へと入っていく。
こうして、スライム捕獲大作戦は本格的に開始された。
●水路を進め! 挟み撃ちだ!!(予定は未定)
ユリアン達4人はトミヲが一人一人にウォーターウォークをかけたお陰で、水底のぬかるみに足を浸すこと無く進んでいた。
小さな雑魔が壁から、天井から、時には水中から顔を出してくるが、ユリアン、トミヲ、アルヴィンの敵ではない。
「最初の内は、覚醒時間が2時間しか持たないから……スライムが見つかってからの覚醒でもいいと思う」
「そうだネ。帰る途中だって雑魔は出るカラネ」
そうベテラン2人に諭され、ナイト役3人に守られる形になった骸香は、最初こそまったく落ち着かなかったが、ハンターの戦い方というものをすぐ傍で見、肌で感じるうちに楽しくなってきた。
特に同じ疾影士のユリアンは接近戦では日本刀を用いつつ、遠距離では投擲でも確実に敵を仕留めていくその器用さに、いつか自分もとその技を盗もうと真剣に観察する。
――戦闘は、生きる手段。
「楽しい事を邪魔しないでよねぇ」
布をしていても抑えきれない厭な臭いに、思わず思い出したくも無い過去を引き摺り出されそうになり、骸香はぼそりと呟いた。
「? 何か言ったかい?」
後衛に立つトミヲに問われ、「何でもないっすよ~」と骸香はひらひらと手の平を振ってへらっと笑った。
こちらの4人は非常に慎重に進んでいた。
帝国の下水道といえば道が複雑で迷いやすいことで有名でもある。同じような風景が続く上に、水路は迷路のようにうねり、別の水路に繋がる。
それに対策すべく、ユリアンは貝灰のチョークを持参したが、壁にはヘドロ状の苔が生えていたため、むしろそれを削った方が目印になった。
アルヴィンは水路脇に死骸が無いか慎重に調べながら歩き、トミヲは支流に入る前にたいまつを立てかける事で、灯り取りと目印、両方の役割を持たせた。
「スライム見つけて弱らせて終了だって思ってたけど、こういう手間も必要なんっすねぇ」
骸香が感心したように呟けば、ユリアンとアルヴィンは顔を見合わせて笑った。
「んー……多分、あっちはこういう事やってないんじゃないかなぁ」
「マァ、性分的な部分もありますカラネ」
盛大なくしゃみをしてダリオは足を止めた。
「大丈夫? 風邪かしら?」
「向こうに居るお友達が噂でもしているのでは?」
黒耀に心配され、エルバッハに微笑まれて、ダリオはふむ、と考える。
「……恐らく、エルバッハ殿の言うとおりであろう。それがしの体調には何ら問題は無い」
そう告げて、ダリオは再びライトを前方へ戻すと歩き始める。
こちらの3人はレベル的にも特に不安要素の無い3人だった。
そしてまた、全員が戦闘に向けてしか思考が働かなかったらしい。
強いて言えばエルバッハはバイザーの降りるクローズヘルムであったし、カプリチョーザの袖で口元を覆うぐらいはしていたが、黒耀とダリオに至っては袖の無い服で悪臭対策は全く講じていない。
最初こそ顔を歪ませていた黒耀だが、今ではあまり気にした様子が無く、ダリオに至っては始めから気にした様子がないのは2人の精神力が高い故かそれとも……
また、3人は地図こそ持っていたが、マッピングや道中に目印を置くと言う事も無く、ただただ、目的地へ向けて闊歩していった。
――結果。
「…………」
3人の前にはヘドロの貼り付いた煉瓦の壁が立ち塞がっていた。
「……おかしい。地図ではメインの水路に出るはずなのだが」
「途中で道間違えたのでは?」
「似たような曲がり角が続きましたからね」
「……戻るか」
「まったくこうも雑魚ばかりでは鬱陶しいったらありませんね……カードドロー! マジックカード発動!」
3人に忍び寄ってきていた鼠型雑魔と蛭型雑魔、それ以外にも暗闇に光る無数の目に向かって黒耀が5枚の符を投げると、光陣で雑魔達を一気に焼き払った。
3人はこんな具合に道中の雑魔達を蹴散らしながらズンズンと豪快に進んでいく。
「え? スライムと遭遇したんですか? 今どの辺ですか!?」
合流予定だった錬魔院の研究員達がスライムと遭遇した地点でダリオ達を待っていたユリアンは、トランシーバー越しに叫んだ。
「……わかんないって……あの、おかしらと代わって下さい」
緊迫した様子に骸香は目を丸くし、トミヲはおろおろし、アルヴィンはニコニコと笑っている。
「……あ、おかしら?! え? 道を間違えて……戻ったはずが違う道に出たって……それって完全に迷子じゃ無いか!」
思わずユリアンが額を抑えて天井を仰ぐのと同時に、アルヴィンはついに吹き出す。
「パッティーらしいネ!」
「判った、すぐに行くよ。メイン水路までは出られ……あぁ、うんわかった」
通信を切り、思わず深い溜息を吐いたユリアンにアルヴィンが「お疲れサマ」と声を掛ける。
「とりあえず、メインの水路まで引き付けながら移動してくれるみたいだけど……どこで迷ったんだろう」
ユリアンは地図を広げて水路を目で追う。
「そうダネ……ココなら、広いし、他への移動もしやすそうじゃナイ?」
アルヴィンがメイン水路同士が交わる部分を示し、4人はまずはその地点を目指すことにしたのだった。
「ユリアン様は、何と?」
「メイン水路で合流しようと言う事になった」
ウォーターウォークで水の上を走りながらダリオはトランシーバーを黒耀へ返した。
「あの広い水路ですね。幸いスライムは私達に付いてきてくれていますし、しっかり引き付けながら行きましょう」
エルバッハの言葉に、ダリオは力強く頷き、黒耀の足取りに合わせて3人は走って行く。
●水路を走れ! 挟み撃ちだ!!(結果的に)
メイン水路に辿り着いたダリオ達は、下手に動かずその場でスライムと対峙することにした。
「……にしても、大きいですね……」
エルバッハが半ば感心したようにスライムを見上げた。
2mと言葉で聞いた時にはそんなものかと思っていたが、縦横斜め、半円球状に直径2mを越えており、それが動きによっては3m近くまで延びたり、平べったく薄くなったりしている。
エルバッハは視線の先でちょこまかとしている周囲の雑魔殲滅も兼ねて冷気の嵐で一気に場を氷結させた。
それに追従するように黒耀が三つ叉の雷光でスライムと仕留め損なった雑魔を穿つ。
ダリオが守りを固め、スライムの前で大剣を構えた。
「いざ、尋常に、勝負!」
ダリオの声に応えるように、スライムは大きく小刻みに震えると、無数の刃をダリオに向かって放出したのだった。
「前の方で何か光った……あ、ほら!」
骸香の指差す方向、メイン水路同士が交差する右側で、LEDライトの光が天井を走った。
はぁはぁと息を上げながらトミヲがユリアンを呼んだ。
「ゆ、ユリアンくん、行けるなら……先にっ!」
トミヲの言葉に、アルヴィンが頷く。
「骸香君も、行けるならいっておいでヨ」
2人に促されて、ユリアンは頷くと足にマテリアルを込めて強く踏み出し、骸香もその後に続いて覚醒するとランアウトで走り出した。
2人の背を見送りながら、アルヴィンはふふーふ、と笑う。
「実はそんなに息上がってないデショ? 優しい人ダネ、キミは」
「そ、そんなことナイヨ。めちゃめちゃ、息切れてマスヨ?」
事実、装備量にも気を遣い、持久力もあるトミヲはさほど息切れしていたりはしなかった。
だが、スキルで移動力を上げて走れる疾影士の2人を先に行かせるにはそういう演出をした方が効果的だと判断しただけだ。そして、アルヴィンはそれに気付いていて微笑む。
「さ、さぁ、僕たちも急ごう!」
ぎくしゃくと走り始めたトミヲを追うように走り始めたアルヴィンだが、その足取りは先ほどまでとは打って変わった本気の走りであることに気付いて、やっぱり小さく笑いながらその横に並んだのだった。
「おかしら!」
「来てくれたか、ユリアン殿」
スライム越しにダリオの無事を確認したユリアンは、大きく跳躍すると刀を一閃させ、再び距離を取った。
「怪我は!?」
「大した手傷は負うておらん、全てかすり傷よ」
呵々、と笑って見せるダリオには、事実体中に小さな傷は入っていたが、どれも動きを制限する程でもない。
「これでも大きさ、一回りぐらいは削ったんだ」
「流石にこれだけの大きさになっているのなら、ある程度全力で攻撃してもいいかもしれません」
黒耀とエルバッハの言葉に、追いついた骸香は2m弱の大きさのスライムを見る。
「なるほど……では、全力で行かせて貰うっす!」
骸香はハンドサポーターに包んだ拳を鋭く抉るようにスライムへと放つ。
ぶにょん、という弾力の強いゼリーの中に手を突っ込んだような、得も言われぬ感触に眉を顰めた。
「何これ! きもっ!」
叫び飛び退く骸香の後に、ふるり、とスライムが揺れた。
「貴様の相手はそれがしだと言っておろう!」
ダリオが大剣から刺突剣の形へと変化させ、地を蹴り突撃すると、抉り割く。
スライムは全身をさざ波のように震わせると、ダリオに向かって刃を放つ。
それを全て受け捌くと、ダリオは頬を流れる血を乱暴に親指ひと撫でで払い、再び剣を構える。
「その程度の攻撃では、それがしを倒す事など出来ぬぞ!!」
「そうそう、僕が癒やすしネ!」
言葉が早いか、光りが早いか。アルヴィンのヒールがダリオを包み傷を癒やしていく。
(コノ上は、せめて犠牲が無駄にナラナイ様に、真相に近づく手掛りを得る為、利用させて貰うヨ)
アルヴィンは冷酷とも取れる決意と共に笑みを深め、同時にトミヲの火矢が真っ直ぐにスライムを貫いた。
「これで、全員集合ですね」
嬉しそうに微笑むエルバッハに黒耀も頷き口角を上げた。
「このレアカードの味を味わえるなど運のいい雑魔めが。存分に堪能するがいい」
黒耀が吉方と凶方を示すべく符を投げる。符が示したのは――
●そして僕たちは共犯者になる
「わー、流石ハンターだね! いやぁ有り難う、有り難う!!」
無事スライムを捕獲して帰れば、錬魔院の男は嬉しさを隠しきれないと言わんばかりに、一人一人の手を無理矢理握ってぶんぶんと振って握手していく。
触れられるのが苦手な骸香はその手から逃れようとしたが、男の手の方が早く、結果的にされるがままとなってしまった。
トミヲは今まで関わってきた依頼から、剣機が関わっている可能性とスライム同士互いに位置の判る共感覚のようなものがあるんじゃないか、という情報を男に伝える。
「なるほどね、面白い意見だ。参考にさせてもらうよ」
男は笑い、ハンターたちに告げた。
「また、何かあったら宜しく頼むよ、ハンターさん」
その笑みに、さらなる厄介ごとが降りかかってくる予感しかしない一同だった。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
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面白かった! | 6人 |
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MVP一覧
- 帝国の猟犬
ダリオ・パステリ(ka2363)
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依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 水流崎トミヲ(ka4852) 人間(リアルブルー)|27才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/05/10 00:05:43 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/05/08 01:02:09 |