『血の厄災』 渇望

マスター:葉槻

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~4人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/05/22 09:00
完成日
2016/06/01 16:28

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●事情聴取
 食堂職員 45歳 女性
「この病院が建ってからずっと働いています。……えぇ、怪しいなんて思いませんでした。『そういうモノだから』って言われたら、信じる以外無いじゃ無いですか。お給料も良いですし、不満なんて無かったです」

 当直医師 28歳 男性
「あの日、深夜に院長が差し入れだとチョコレートドリンクを振る舞って下さったんです。僕は甘いのが苦手だから、一口だけ頂いて、あとはそっと捨てました。看護師達は皆美味しそうに飲んでいましたね。……まさか、あれにスライムになるような毒が入っていたんですか……?! 酷い……!」

 常勤医師 30歳 男性
「朝1番の薬の調合は院長の役目で、それは絶対に誰にも譲ることは無かったです。それ以外の応急処置や手術などには立ち会わせて頂いて、任せて頂いたりもしましたが……悪い、夢だったら良いのに。院長は非常に優秀な医者でした。今でも僕は尊敬して……どうして……!」

 看護師 32歳 女性
「去年の10月頃だったと思います。院長が職員に3ヶ月間ダイエット薬の治験協力を呼びかけたんです。あんまり興味無かったんですけど、報酬も出るって言う事で、職員の殆どが協力しました。結構効果が出て、私は怖くなってそこで薬を辞めたんですが、引き続き購入して飲んでいる子もいました。あの日の夜勤の3人もそうですね。……私も、雑魔になってしまうんでしょうか……?」

 看護師 28歳 男性
「えぇ、特別外来の奥が院長室です。さらにその奥が院長の私室になっています。ペレットお嬢さんはそこにいらっしゃいましたね。あまり身体が丈夫じゃ無いって聞いてましたが……厭な気配? いえ、僕は感じたこと無いです。ただ、女の人は嫌がること多かったですね。単に異性の私室に入るのに抵抗があるだけなんだと思ってましたが」

 アネリブーベにて 画家 アルフォンス・レーガー
「あれは妻の入院が決まってすぐでした。肖像画をと頼まれて3ヶ月間ほど帝都に滞在しました。えぇ、お嬢様にもお会いしました。脚が不自由だそうで車椅子に座っていらっしゃいましたね。とても穏やかな空気が流れていて、気持ち良く描かせて頂きました」


●ハンターオフィスにて
「アダム氏とは昔、同じ釜の飯を食った仲でな。わしが表に出て動いたことが知れると何かと不都合が多くてのぅ。皆には負担を強いたやもしれん。すまんかったの」
 おおよそ半年振りにハンターの前に現れたフランツ・フォルスター(kz0132)は、やや疲れたようにそう告げた。
「あの病院への突入は軍でも一部の者にしか伝えていない極秘任務扱いの一件でな。皆のお陰で無事内通者は逮捕して第一師団で取り調べが始まっておる。恐らくヴルツァライヒに関与しておると思われるが、まぁ下っ端であろうな……」
 『ヴルツァライヒ』の単語に反応した者も多い。帝国内で暗躍する、旧帝国派貴族の一部を中心に構成されていると推測される政治結社で、昨年7月に暴動を起こした後は鳴りを潜めている。
「あなたは違うのか?」
 1人のハンターが眼光鋭くフランツを睨むが、フランツは「ほっ」と笑ってその視線をいなす。
「わしが信用たる者かどうかは、個々が判断してくれれば良い。それより、アダム氏の行き先が杳として知れないことが問題での……尾行を付けておったんだが、巻かれてしまった。これはわしの失態じゃ」
 内通者がいくつかの逃亡先を提供していたらしいのだが、その何れにもアダムが立ち寄った形跡は無いらしい。
「あらあら。『猟犬』(ヤークトフント)の長ともあろう人が、情けないこと」
 品のある女性の声に目を向ければ、会議室の扉の前に盲目の老女であるカサンドラがいつも寄り添う大型犬と付き人と共に立っていた。
「キャ……カサンドラ様」
 促されて1番近くの椅子に座ると、目元を隠すヴェールの向こうで楽しそうにカサンドラが微笑う。
「ふふふ、十何年かぶりに転移門を使ったわ。……ほら、先日こちらの職員の方がうちを尋ねていらっしゃったでしょう? その後が気になって気になって思わず来てしまったわ。……アダムがいなくなったのね?」
 息を呑んだフランツの気配を察して、カサンドラは笑みを深める。
「彼の生まれ故郷はご存知? 彼はピース・ホライズンにほど近い漁村の出身だったのだけれど、流行病でご両親を亡くされてね。その後村は廃村になって、今はもうエクラ教の石造りの教会ぐらいしか建物は残っていないのだけれど……一度確認してみては如何かしら?」
 カサンドラの助言に、ハンター達一同は顔を見合わせ、一斉に立ち上がった。


●廃教会にて
 花嫁衣装のような白いロングドレスに身を包んだ少女が、自身の太腿に預けられた頭部を優しく撫でる。
 半壊した教会の屋根から降り注ぐ暖かな日差し。
 時折ヴェールを揺らす柔らかな風。
 割れたステンドグラスと傾いだ大きな十字架。
 年の頃は10歳ほどの少女が、教壇に背もたれて膝枕をしながらうとうとと瞳を閉じている様子は、幻想的な一枚の絵画のようでもあった。

『血の祝福を受けし娘よ』

 ぞわりと、負のマテリアルが這い寄る。

『計画は変更だ。今から迎えに行く』

 直接脳内に響く声に、少女は全身に鳥肌を立てながらも、周囲を見回し叫ぶ。
「イヤです。わたくしは、この人のそばを離れません……っ!」
 少女の声に、膝枕されていた男――アダムは目を覚ました。
「……どうした?」
「アダム、わたくしは……っ!」
 少女が双眸に涙を溜めながら子どもがダダを捏ねるように首を横に激しく振りながら、アダムの頭部を抱え込むように背を丸める。
「大丈夫だ、ペレット。私がそばにいる、ずっと、君を必要としている」
 ヴェールの向こうにある柔らかな頬を撫でながら、少女を安心させるよう、アダムは優しく微笑む。
「わたくしも、アダムのそばにいたい……!」
 その時、大きな羽音と共に影が教会を包み、ローブ姿の人影が地に降り立った。
 それを見たアダムは素早く身を起こすと、杖を構え、叫んだ。
「……約束が違うぞ、剣機……!」


 ハンター達がカサンドラに教えて貰った廃村の傍まで来たとき、上空に大きな竜の影を見た。
「リンドヴルム!?」
 主に暴食の歪虚がモノを運ぶのに使う双頭の竜が、教会の中へと屋根を突き破り侵入する。
「なんでこんな所にリンドヴルムが……!」
 驚きつつも教会へと向かう速度を速める。
 次にリンドヴルムが姿を現したとき、その脚には白い布状のモノが握られていた。
「……違う、人……いや、アダムが連れていた歪虚か!」
 リンドヴルムは空高く舞い上がると、そのまま北へと飛び去っていく。

 一同はともかく教会へと急行すると、教会の中から剣戟の音が聞こえてくることに気付いた。
 慎重に中を覗くと、そこではアダム・エンスリンと人型の剣機が対峙していたのだった。

リプレイ本文


 風を切る刃の音と、木造の椅子が壊れる音。強い力がぶつかり合う振動。激しい闘いが行われているのが、見なくても手に取るように判る。
 金目(ka6190)が壊れた扉の陰からそっと中を窺うと、次いでこわばった表情の浅黄 小夜(ka3062)を見た。
 彼女が大きな目を金目に向け小さく頷いたのを受けて、金目は大きく息を吸うとトランシーバーのスイッチに指を掛けた。

 ――カチリ。
 小夜が覚醒と同時に扉の前に立つと、八卦鏡を構えた。

 ――カチリ。
 氷の矢が八卦鏡から飛び出し、剣機の下肢に突き刺さるのと同時にステンドグラスが割られ、ユリアン(ka1664)が風のように剣機へと駆け寄りながら煌めく星を投げつけ、それは剣機の纏っているローブの胴辺りを割いた。
 一斉に7人が室内へと雪崩れ込み、それぞれの得物を構え、剣機と男を見る。
 最初に口火を切ったのは、飄々とした風貌の劉 厳靖(ka4574)。
「おまえさんにゃ聞きてぇ事が色々あるが、まずはこの化けもんをどうにかしようじゃねぇか」
「お互い敵の数は少ない方が良いんじゃない?」
 エリオ・アスコリ(ka5928)がその後に続いて交渉を持ちかける。
「……何者だね、君たちは」
 スキンヘッドの聖導士――アダムは慎重に7人を見渡しながら、一歩、壁際へと下がった。

 一方で剣機は闖入者を意に介さず、アダムに向かって自らのフードを切り刻みながら刃を放つ。
 その刃をアダムはまた一歩後ろへ下がることで避けながらも、杖を構え姿勢を低く全員を見る。
「お前の相手は俺だ」
 リカルド=イージス=バルデラマ(ka0356)が低い姿勢から飛び込み前転で一気に剣機の懐に入ると、オートMURAMASAで叩き斬るように剣機の凍り付いた脚を狙う。
 しかし、剣機はその攻撃を片腕で弾いた。
「なっ!?」
 ギィンッという金属の擦れる音が響き、リカルドは横に飛んで剣機との距離を取った。
 その直後、アメリア・フォーサイス(ka4111)が椅子の陰から放った跳弾が剣機の頭部に当たり、頭髪代わりの刃が一枚地面に落ちた。
「そっちは皆さんにお任せします」
 アメリアの言葉に、劉は頭を掻きながら「すまんね」と礼を告げた。
 リカルドとアメリアの2人はアダムに対して何の感慨もしがらみもない。ゆえに捕縛でも殺害でも正直どちらでも良いと思っていた。
 しかし、他の6人は違う。それぞれが、それぞれに彼から発生したと思われる事象や事件に関わりすぎていた。
 それを察した2人は剣機を抑える事に全力を傾けてくれたのだ。

 剣機側も、アダムに攻撃をしたくともリカルドの近接攻撃とアメリアの跳弾による攻撃に阻まれ、アダムへ攻撃出来ずにいる。
 交渉するタイミングは今しか無かった。

「アンタの大事な『あの子』も攫われてしまったみたいだし? 一刻も早く追いたいんだろ?」
「……見ていたのか」
 ギリッと歯ぎしりの音が聞こえそうな程に、アダムの顔が歪んだ。
 その様子からは歪虚に魅了されているのかいないのか、まだユリアンには判らない。
(でも、終わらせよう。どんな形でも)
 ユリアンは交渉を他のメンバーに任せ、骨喰を抜いて剣機へと斬り掛かる。
 扉に近い位置にいる小夜も火矢で剣機をアダムの方へ寄せないよう牽制している。
 剣機は右へ左へと大きく動きながら、アダムへと刃を飛ばそうとするが、リカルドが射線上に立ちそれを許さない。
 それでもアダムへ近寄ろうとする足元へアメリアの跳弾が穴を穿つ。
「あの女の子の連れて行かれた先を仲間が追ってるわ。知りたいんじゃない?」
 割れたステンドグラスの欠片をアダムの背中に押しつけて、隠れながら静かにその背後に立ったドロテア・フレーベ(ka4126)がアダムに告げる。
 しかし、アダムから漏れたのは意外な言葉だった。
「……行き先なら判っている」
 その言葉に誰もが驚くが、金目は剣機に目を向けながらもその言葉の裏に隠された事実を察した。
「……なるほど、判っていても辿り着けない場所……もしくは、知らない場所、ですかね」
 アダムは沈黙して答えない。だが、その沈黙こそ答えとドロテアは受け取った。
「ここであたし達と剣機両方と戦って死ぬか、協力して生き延びるか選びなさいな」
「交渉が巧くないな。君は私の病院まで来ていた者だろう? 私に死なれて困るのは君たちではないのか」
 ドロテアの金の瞳がすっと鋭さを増した。それを見た劉が「まぁまぁ」と割って入る。
「だが、実際アレを1人で相手するのは大変だろう?」
「ボク達を剣機にあてがっても向こうがアンタの邪魔をすることには変わりなさそうだし」
 エリオの指摘通り、剣機の銃口は4人の猛攻を受けても常にアダムを狙っていた。
 恐らく、アダムがここから逃げ出したとしても、剣機はその後を追って飛び出ていくだろう。
「あなたにはまだ死ねない理由がある。僕たちもあなたに死んで貰っては困る。ここは一つ手を打ちませんか」
 リカルドを掠め、光の障壁でも殺しきれなかった刃が金目の頬を裂くが、それに動じることも無く金目は告げる。
「悪い話じゃねぇだろ?」
 ニヤリと、劉が片眼を眇めながら笑う。
「……体の良い囮、と変わらんな。精々私が死なないように護ってくれ給え」
「……嫌なヤツ」
 ドロテアが柳眉を跳ね上げて、舌打ちする代わりに銀色の鞭を高らかに打ち鳴らした。


 小夜とエリオ、劉はかつて同じタイプの剣機と下水道で対峙していた。金目は直接刃を交えるのはほぼ初めてだったが、銃口からの衝撃波の強さは目の当たりにしていた。
「避けて!!」
 モノアイが赤く光るのとほぼ同時に銃口から強烈な衝撃波が周囲を薙ぐ。
 金目の声に咄嗟に横に飛んだリカルドだが、逃げ遅れた左脚が抉られ、その奥にいたアダムの腕を引いて回避を図ったエリオもまた両足を抉られ膝を着いた。
 ユリアンの一撃を受け流し、ドロテアの鞭をかいくぐり、アダムまで一気に距離を詰めた剣機は強烈な回し蹴りでアダムを蹴り飛ばした。
 瓦礫だらけの床の上をアダムは転がり、起き上がると同時に彼を中心に光の波動を生んだ。それは衝撃となって剣機を襲う。
 その波動を両腕を眼前でクロスさせて受け止めた剣機の胴体へ小夜の火矢とアメリアの跳弾が命中するが、その動きに変化は無い。
(トミヲのお兄はんが……帰ってくるまでは……私が、唯一の……魔術師なんやから……)
 しっかりしないと、と小夜は真一文字に唇を結んで再び火矢を放とうと止水を掲げる。


「……僕はあっちを追うよ」
 リンドヴルムが飛び立つのを見て、水流崎トミヲ(ka4852)はすぐに馬の向きを変えた。
「トミヲのお兄はん!」
「へ? な、何? さよちゃん」
 思ったより大きな声で呼び止めてしまった事に動揺して、小夜はわたわたと視線を彷徨わせ、トミヲはトミヲで小夜に名を呼ばれて落ち着きを無くす。
「あの、気を付けて……」
「あ、う、うん。ああありがと。さっ、さよちゃんも、気を付けて」
 トミヲは小夜に背を向け、どもりながらもぎくしゃくとした腕で手綱を握り直すと、馬を走らせた。
 ……その表情が蕩けたような笑顔だったのは、恐らく誰にも見られていないが、察する人は察しただろう。
「お願い、レミージュ、追って」
 ユリアンもすぐにイヌワシに双竜を追うように指示を出すが、相手のスピードの方が早い上に、賢いイヌワシは負のマテリアルを纏い、さらに絶対に敵わない相手だと判っている双竜へ自ら近付きたがらないだろう。
 少しでもトミヲが追う目印代わりになればという思いが強い。
「では私は周囲に馬とかいないか見てきますね」
「うん、お願い」
 マリル(メリル)(ka3294)が周囲を見ながら走って行くのを見送って、エリオは教会を睨む。
 真実を、知るのだと。事の真相を知るのだという決意と共に一歩を踏み出した。


 その決意はエリオの中で少しもぶれることは無い。
「……あの子の為にも」
 ほんの少し会話しただけの少女。だが、スライムへと変えられ、あの貫いた感触はきっと一生忘れることなど出来ないだろう。
「ボク達の邪魔をするなぁっ!!」
 エリオが叫び、練り上げた気を剣機に向けて一気に放つ。
 それを受けて瓦礫の中へと背面から倒れる剣機。好機と向けて広がる傷口を無視してリカルドが大きく踏み込み振動刀と雷撃刀の両方を抜刀し斬り付ける。
 ついに剣機の左肘から下の腕が落ちた。
 だが、すぐに起き上がった剣機は反撃せんと頭部の刃をリカルドに向け射出。それを守りを固めた劉が割って入りスピアで直ぐ様カウンター攻撃を繰り出す。
 それを脚捌きだけで避けた剣機の脚へドロテアの鞭が絡まり、剣機の動きが止まった。
「ようやく捕まえたわよっ! さぁ、観念なさい!!」
 ドロテアの声に応えるように駆け込んだユリアンが剣機の脇へと刀を突き刺し、金目が一足飛びにユリアンを飛び越え、剣機の頭部をヴァルカンで殴り付ける。
 アメリアが漆黒の銃口で狙おうとして、そのモノアイが怪しく光ったのに気付いた。
「皆さん伏せて下さい!!」
 アメリアの咄嗟の妨害射撃が剣機の銃口を逸らし、僅かに残っていた天井と壁を衝撃波が打ち抜いた。
「っ!!」
 降ってくる瓦礫の真下にはアダムの姿。
「アダムっ!」
 ドロテアの叫び声はすぐに瓦礫の音にかき消された。
「逃がすかっ!」
 鞭の束縛から逃れた剣機がバックステップを取ったのを見て、リカルドが再び斬り掛かる。
 が、剣機はそれを右の上腕で防ぐと、頭突きでリカルドを襲い、迫り来る刃をリカルドは峰でギリギリ防ぐと、三歩下がってこめかみを流れる汗を肩口で拭いた。
「攻撃能力、削ぐだけで精一杯かどうにもならんねえ」

 土煙が収まったそこには、小さな影がアダムに覆い被さっていた。
「小夜!」
 劉の声に、そっと小夜は身を起こそうとしたが、瓦礫に下肢が挟まって顔をしかめた。
「……君は」
 アダムが驚きながら慎重に身を起こすと、その瓦礫をどけ、小夜の足を自由にした。
 その腕、服の袖を取り、小夜はアダムの目を見つめて告げる。
「……やっとここまで、きて。どぉしてなのか……解らん事も……犠牲者も……増えるばかりで……なのに……何の説明も、せんまま……死ぬんは……卑怯やもの……絶対に……あきません」
 その真っ直ぐな瞳に耐えかねたようにアダムが視線を逸らし、立ち上がる。

 ゴトリ、という音が室内に響いた。
 アメリアの跳弾が膝裏を貫通し、右膝を破壊された剣機がバランスを崩した。その瞬間を逃さず走り込んだリカルドが剣機の胴と首を切り離したのだ。
 もはや生命活動をしていない剣機の首から血飛沫が上がることは無かったが、転がったその頭部、その後頚部に、黒い石が埋め込まれているのが見えた。
「何だ?」
 今までフードに隠れていたので気付かなかったが、陽の光を反射するそれは、妙にリカルドの目を引いた。
 手を伸ばすリカルドの反対側、剣機の落ちた頭部の顔側にいたユリアンが、そのモノアイが奇妙な点滅をしたのを見て叫ぶ。
「リカルドさんっ!!」

 ――次の瞬間、目を焼く光と衝撃が教会内で爆ぜた。



(やっぱり自爆したか……っ!)
 防御障壁のお陰で、大きな怪我をせずにすんだ金目が土埃から目と口元を護りながら顔を上げた。
 瓦礫が地面に落ちる音、ガラスの割れる音、呻き声。
 もうもうとした土埃が立ちこめる中、ゴーグルやミラーシェードを装備している者達も口元を抑え咳き込みながら、周囲の状態把握の為に目を凝らす。
 正面の扉が跡形も無く吹き飛び、ステンドグラスも枠を残すのみとなり、随分と風通しの良くなってしまった廃教会。
 海風が駆け抜け、土埃が一気に晴れる。
「小夜!」
「動かないでもらおうか」
 劉がスピアを構えるが、アダムが小夜の首元に押しつけたダガーがそれ以上の動きを許さない。
「全員武器を置け。それ以外の動きは許さない」
 アダムが壁際に蹴飛ばしたのは、小夜の身につけていた八卦鏡とサークレット。
 劉は小夜を見つめていた。
 小夜は恐怖に震えているというよりは、哀しんでいるような、困惑した表情を浮かべてアダムの顔を見上げていたが、劉の視線に気付くと、小さく視線で合図を送る。
 『今は、言うとおりに』――そう、小夜の合図を受け取った劉だが、これは小夜と劉が互いに感情を通わせることが出来たから通じたと言って良い。
「これ以上罪を重ねるのは良くないぜ」
 小さく頷いた劉がカラン、と音を立ててスピアを転がし、両手を挙げる。
(俺がフェイントで動いて、その後をアメリアさんとドロテアさんに……駄目だ、あのダガーが小夜さんの首を切る方が早い……)
 ユリアンが冷静にシミュレーションするが、アダムの動きの方が早い事はこの闘いの中で解っていた。
「……言うことを聞きましょう」
 恐らくユリアンと同じ計算をしていたのであろうドロテアも、劉が武器を置いたのを切欠に苦虫を潰したような表情で言うと、そっと床に銀の鞭を置いた。
 それに続いてリカルドが二本の刀を、アメリアもライフルを置き、エリオもグローブを外した。
(やはりアダム氏も、人の命を、死を何とも思えないようになってしまっているのか……)
 金目が金の瞳を硬く伏せ、深い息を吐き出すと共に盾を置き、ハンマーを床に付け、柄を向こう側へと倒した。
 ユリアンが鞘ごと骨喰を床に置く。
「君は投擲もしただろう」
「!」
 指摘され、ユリアンは奥歯を噛み締めながらStar of Bethlehemを骨喰の横に置いた。
「全員、両手を挙げたまま壁際まで行って、壁に手を付けなさい」
 じりじりとアダムが小夜にダガーを押しつけたままかつて正面の扉があった方へと動いていく。
 小夜はアダムの腕の中、半ば引き摺られるようにつま先立ちのまま歩く。
 そして、後ろ向きのまま外へと出ようとしたアダムの右肩を一発の銃弾が貫いた。
「ぐっ!」
 撃たれた衝撃でダガーが床に転がり、拘束していた左腕が緩んだ為、小夜は床に崩れるようにしゃがみ込んだ。
「小夜さ……っ!」
 ユリアンの声に被るように大きな爆発音と爆風がアダムの背面で起こり、完全に不意を突かれたアダムは蹈鞴を踏みながら再び室内へと押し戻された。
 すかさずアメリアが隠し持っていた拳銃でアダムの右足を撃ち抜くと更に、撃鉄を起こしアダムの頭部を狙うが、アダムを庇う様に両手を広げて対峙したのは小夜だった。
「……あなた……」
「……殺しちゃだめ、です」
「アダム生きてる!? ……え?」
 威嚇射撃のつもりが命中させてしまったメリルが慌てて駆け寄り、アダムと彼を庇う小夜とアメリアを見てぽかんと口を開けた。
 狙い通りアダムの手前でファイアーボールを爆発させることに成功したトミヲが、馬から飛び降りて駆け寄ると、状況から何となく何が起こっていたかを察し、肩を竦めて見せた。
「……とりあえず、アダムくんを治療して捕縛しようか? 話しは、それから、ね」
 その言葉にユリアンがロープを持って近づき、アダムの捕縛は成功したのだった。


 その後ユリアンとトミヲで、アダムが他に武器や術の媒体となるものを持っていないか確認し、劉が応急手当を施した後、エリオがその両腕と胴を動けないよう縛り上げる。
 その間もアメリアは少し離れた所からアダムにおかしな動きがないか、他に敵が来ないか周囲を警戒し、メリルが応急手当という名の見事なリカルドのミイラを一体作りあげていた。
「よく頑張ったな」
 劉は簡易的な応急手当を小夜に施し終えると、エライエライとその額にサークレットを付け直すついでに頭をぽんぽんと撫でる。
 小夜から目配せの意図は間違っていなかった事を知り、今までの交流が活きたことに劉はホッと胸を撫で下ろした。
「なるほど、小夜さんには何か勝算があったんですね」
 金目が問うと、小夜は非常に困ったような曖昧な微笑を浮かべて首を少し傾げた。
「……あれは、私ごと、眠らせてしまおか……アイスボルトで、氷付けに……できひんかなぁ……って」
 衝撃の告白に、一同唖然とした後、ドロテアが力一杯小夜を抱きしめた。
「もう! この子は無茶ばっかり!」
 豊満なドロテアの胸に顔を押しつけられ、息苦しさに目を白黒させながらも小夜は少し嬉しくて「ごめんなさい」と謝りながらも微笑ってしまう。

 そんな朗らかな雰囲気の中、ユリアンはアダムに近寄った。
「……なぜ、エマさんはスライムになったんですか」
 エマの名前を聞いてアダムは怪訝そうに顔を歪めた。
「あぁ、あの画家の妻か。そうか、それが君たちが私に辿り着いた切欠か」
 アダムは合点がいったというように頷くと、まるで生徒に説明するような口調で話し始めた。
「まず、前提としてペレット……私と一緒にいた歪虚の血を摂取すると、体内の正のマテリアル生成が一時的に低下する」
 ペレットの血に体内マテリアルを不活化させる効果があることに気付いたアダムは、当時そして今も不治の病としてある『体内マテリアルの循環不全による奇形細胞増殖症』――トミヲ曰く、リアルブルーでいう癌に近い病だと思われる――に注目した。
 この奇形細胞は一度体内で発生すると爆発的な勢いで他の細胞を食いつぶし増殖するという特徴があり、これにペレットの血をごく少量付着させると、彼女の血は嬉々として奇形細胞に食らいついた。
 結果、定期的に血を摂取させることで奇形細胞の増殖を抑える事に成功したが、根絶することは不可能だった。
 ある程度奇形細胞の増殖を抑えると、今度は体内の正常な細胞活性の方が強くなってしまうため、ペレットの血が体内のマテリアルを吸収し始めてしまうのだ。
 だが、この血は『新鮮な血肉』を好んで取り込むというもう一つの性質があった。ゆえに新鮮な血肉を与えれば、体内のマテリアルを侵されることは無い。しかし、取り込んだ血肉は体内に吸収されることは無い為、徐々に患者は飢餓感に悩まされるようになる。
「そして、最終的には病魔とも彼女の血とも戦うだけの体力を無くし、死に至る。死ねば、彼女の血が全身を喰らう。その結果、患者は例外なくスライムになった」
 そこで一端言葉を切ると、再びアダムはユリアンを見た。
「エマ。彼女は私の所に来た時点で余命3ヶ月だった。しかし『一日でも長く生かせ』と言われてね……あそこまで彼女が持ったのは彼女の意志の力に他ならない」
 ユリアンも、劉も、ドロテアも、マリルもアルフォンスの描いた絵でしかエマを知らない。
 だが、その緻密な絵や版画の中のエマは美しく、健康的に笑っていた。
 そんな彼女がどれほどの想いで入院生活を送っていたのか。
 飢餓感に苛まされ、スライムと化してまでも『帰りたい』と願ったエマを思うと、ユリアンはただただ胸が痛かった。

「アン……あなたの病院から抜け出したアンネリースさんも、スライム化するのですか……?」
 金目に問われ、アダムはあの子か、と声を上げた。
「彼女は薬を飲んだ振りをして全部捨てていたと言っていました。それでもスライム化しますか?」
「なるほど、やはりか。通りで数値が下がらないわけだ。……ペレットの血はつまりは凝縮した負のマテリアルだ。定期的に摂取し、固定化させなくては体内マテリアルに負けてそのうち消滅する。彼女の場合は増殖細胞の数値が安定どころか一切低下すらしなかった。スライム化することは無いだろう」
 その答えを聞いて、金目は下唇を噛んだ。
 良かった、とは言えない。確かにスライム化しないという一言に、一瞬救われた気はした。しかし、彼女の病魔は確実に彼女自身を死に追いやる。
 この事実を伝えたなら、彼女は何と言うだろうか。
『ほら、だから言ったでしょう?』
 そう言って、得意気に笑うだろうか。それとも、ホッとしたように大人びた表情で微笑むだろうか。
 ――そろそろ彼の地の雪も溶けただろうか。彼女は今、どうしているだろうか。

「随分、丁寧に教えてくれるのね?」
 ドロテアが見下ろしながら告げると、アダムは軽く首を傾げた。
「どうせ、軍で尋問される内容だ。いつかは間接的に耳にも入ろうが、直に私から聞いた方が君たちの気も済むだろう?」
「では、聞くが。お前さん自身には彼女に魅了されていた自覚は?」
 劉の問いに、アダムは首を横に振る。
「そんなものが無くとも、私たちは共にいた。私は私の目的の為に。彼女は彼女の願いの為に」
「歪虚の願い……?」
「『必要とされたい』。ただ、それだけだ。アレは自分では動けぬ。空も飛べぬし、戦う力も無い。故にヒトに寄生しなければ生きる事すら難しい」
 なるほど、とマリルが呟く。
「で、あなたの目的は?」
 金目が問うと、アダムは息を大きく吐いた。
「そうだな、エリクサーの生成、とでも言えばわかりやすいか?」
「万能薬、ですか」
「事実、それに近い物は出来た。だが――」

「ふざけるな!!」

 アダムの声を遮って、エリオが叫んだ。
「万能薬だって……? なら、何で、何でダイエット薬と偽って人々にばらまいた……! 無辜の人々をどれだけアンタは犠牲にしたんだ!!」
「エリオさん……」
 マリルは知っていた。ずっとエリオがダイエット薬の被害者を忘れていないことを。だから、今日までアダムを追ってきたことを。
「……そうしなければ、もっと被害が出ていた」
「……どういうことだ?」
 エリオの鋭い問いかけに、アダムは静かに目を伏せた。
「最初は本当にダイエット薬として調整をしていた。本来、彼女の血を少量摂取したところで健康な人間であれば負のマテリアルに負けることはない。革命から15年。肥満体型の者が出始めていたからな。そういう薬があってもいいかと思ったのだ」
 月1回必ず自分の目の前でペレットの血入りの薬を飲ませ、後は全て偽薬で過ごさせる。
 体内に入ったペレットの血はおおよそ1ヶ月かけて消失する為、翌月も続けたいのであれば本人が受診するようにと指導した。
 効果は予想通りだった。後は体重や体調に合わせて内服させる血の量を慎重に調整すれば、本人の希望する体重まで何の害も無く落とせるはずだった。
「だが、剣機がそれに目を付けた。ペレットを差し出すか、彼女の血1ガロンとスライム20体を差し出すのと、どちらがいいかと問われた。どちらかを満たせば、今後は一切私に関わらない、自由にしてやるという条件付きだった。だが彼女を差し出せば、恐らく剣機は彼女を使って大量のスライムを強制的に作るだろうことは予想に難くない。一方で量が決まっているのであれば、それ以上の被害は起こりがたい」
 月1度の診察の時に、通常より濃いペレットの血を摂取したことにより、意識がもうろうとしている所に下水道へ行けば望みの分だけ食事にありつけるという暗示をかけた。
 基本的にペレットの血を摂取すると飢餓感を感じる上にダイエットという特殊条件下の為、この暗示は実に効果的だった。
 おおよそ摂取から10~14時間後、対象となった者達はスライム化し、下水へと行き、血の臭いを求めて彷徨い、『餌』を持った剣機の元へと集まったのだ。
「……そんなの、剣機が約束を守るなんて保証、どこにもないじゃないか!」
「あぁ、そうだ。事実、彼女は攫われた。恐らく今頃は剣機博士の下だろう。だが、私にはどうしたって彼女を差し出すという条件は呑めなかった」
「剣機……博士ですって?」
 アメリアが予想外の単語に反応した。
 
 そもそも、暴食の剣王ハヴァマールの下には四霊剣と呼ばれる存在がいる。
 剣妃、オルクス。
 剣豪、ナイトハルト。
 剣魔、クリピクロウズ
 そして謎のままの剣機。これが剣機博士と呼ばれる者であるのなら、ついにこの謎の存在まで表立って動き出したと言う事になる。

「……でも待ってくれ、なんで『剣機』なんだ? スライムなんだろう? 剣機っつったら、ゾンビとかを機械化させた連中が、なんでスライムなんかを欲しがるんだ?」
 リカルドが首を傾げ、教会の中……自爆した剣機の跡を見る。
 小さな歯車や良くわからない鉄くずが爆発で散乱している。これらが、スライムという不定型な存在を欲しがる理由が分からない。
 そういえばあの石は砕けてしまったのか見当たらなかった。
「……そうですね……たとえば緩衝材にしたり、潤滑油代わりになったりするのかも……しれません」
 金目が機械知識を総動員して考えるが、自分で言いながらあまりしっくりこない。
「そうか、暗示があったからあの下水道で迷わず剣機の所まで進んだんだとしたら、『スライム同士互いに位置の判る共感覚のようなものがあるんじゃないか』っていう僕の説はハズレなのかな……」
 トミヲがこめかみをぐりぐりと親指で押しながら唸る。
「あ、そういえばトミヲさん。リンドヴルムの行き先追えました?」
 マリルが問うと、トミヲは更に肩を落として首を横に振った。
「とにかく北へ北へって行くんだけど凄い勢いで引き離されちゃって……」
 ユリアンのイヌワシ、レミージュもいつの間にか帰ってきて教会の壊れた壁の上で羽根を休めていた。
「まぁ、通常の方法では無理だろう。恐らく『城』と呼ばれる結界の中だ」

「詳しいのね」
 ドロテアの棘を含んだ言葉に、アダムは小さく笑う。
「ここを突き止めたということは、私の経歴も知っているのだろう? 君たちより知っている情報も多くて当然だろう」
「……私は真実を知りたい。他に何を知っているの? 協力してくれれば帝国に人道的な対応のお願いはするわ。あの子についてもね」
「君は勘違いしている。帝国だけではない、世界は歪虚を絶対悪として設定し、それに異を唱えることを良しとしない。そもそも生物としての成り立ちが違うのだから当然だ。彼らはいるだけで負のマテリアルを撒き散らし、その地域に歪虚病を発症させる。その事実故に、世界が歪虚を許すことは無い」
「……でも、あなたは違った」
 ドロテアとアダムの間に静かに割り込んだのはマリルだ。
「世界や組織としてでは無く、人としてあなたとペレットは共にいた。共に生きてきた。あなたのして来たことは決して許されることでは無いけれど、『共存』の一つの可能性を示していると思います」
「お前達は揃いも揃って甘いな。私は生涯大罪人としてアネリブーベに捕らわれる。もしくは囚人兵として最前線に駆り出されるかのどちらかしかない。そんな人間に情を傾けてどうする」
 眉間にしわを寄せ、その片眉を跳ね上げながら呆れたように言うアダムにそれでも、と声を掛けたのは今まで黙っていた小夜だ。
「……それでも、私の事……あの爆発から守ってくれはったから……『すまない』って言うてくれはったから」
 剣機が自爆したあの瞬間。脚を怪我していた小夜を抱きかかえるようにして爆発から護ってくれたのはアダムだった。
 そして、ダガーを喉元に突きつけられる前に言われた謝罪の言葉。
「根っこは、お医者さんやって……信じてるから……」
 調書の若い医者達の尊敬の念は本物だったはずだ。エリクサーを研究していた、というその言葉も。アダムが人類側と敵対している訳では無いと、小夜は信じていた。
「お前さんがスライム化させた病院の患者、あれはどう説明するつもりだ」
 だが、病院中の患者、その殆どを一気にスライム化させ、その混乱に乗じて逃げ出した。それもまた事実だ。
 劉が問えば首を傾げてアダムは告げる。
「あの時スライム化したのは、患者の家族の要望により無理矢理死ぬこと無く生かされていた者達だ。その殆どが成金や元貴族。……ヴルツァライヒに繋がる者達もいる。恐らく、師団もヴルツァライヒも蜂の巣を突いたような大騒ぎだっただろうな」
 くつくつと嗤うアダムのその顔は年齢以上に老け、疲れ果てて見えて、劉は首を横に振る。
「でも、看護師まで巻き込んだのはやり過ぎだ。……あんたは確かに狂ってるよ」
「そうだろうな」

 外に、帝国軍の護送用の馬車が停まった。
 一切の抵抗をすること無くアダムはその馬車へと乗り込んで行くのを10人は険しい表情で見送った。


 いつの間にか日は大きく傾いていた。
 赤い夕日が海をオレンジ色に染める。
 間もなく夜が来る。暗い夜が。
 知りたかったはずの答えも、捕まえたはずの真実も、全てが曖昧に夜の闇に溶け込んでいくようで。
 一つ終わったはずなのに、何も終わっていない気がして誰もが口を噤んだ。





●微睡む闇の揺籠にて
 暗い、冥い、夜のような部屋。
 こぽり、と、水中を空気が移動する音が聞こえた。


 ……やぁ、ようこそ我が研究室へ。


 直接脳内に語りかけてくる、その声にペレットは震えた。
「帰して……! 私をアダムの所へ帰して……!」


 ……ようやく君を迎えることが出来て我々も嬉しいよ。

 ……いやはや、噂以上に愛らしい容姿をしておられる。

 ……流石は『血の祝福』の姫巫女よ。


「嘘吐き……! 私の事を失敗作だと、出来損ないだと捨てたくせに……!」
 ペレットは耳を押さえて、嫌々と駄々を捏ねるように身を小さくした。


 ……確かに、お前1人の能力は出来損ないと言えるだろう。

 ……だが、お前の『血』は素晴らしい。

 ……その『血』は我々にとって必要だ。


 ペレットは涙目のまま動きを止めた。


 ……さぁ、ペレット。我々と共に来ておくれ。

 ……お前が必要なのだよ、ペレット。

 ……我々のために、力を貸しておくれ、ペレット。


 ゾンビの1人が、音も無くペレットの顔の前に手の平を差し出した。


 ……我々が、誰よりもお前を必要としているのだ、ペレット。


 ペレットは大粒の涙を零しながら、その手の平をじっと見つめ、震える手をそっとそのゾンビの手に重ねた。
 ごぼごぼ、と嗤うようにどこかで水音が爆ぜた。

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  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエka1664
  • きら星ノスタルジア
    浅黄 小夜ka3062
  • 正秋隊(紫龍)
    劉 厳靖ka4574

重体一覧

参加者一覧

  • ……オマエはダレだ?
    リカルド=フェアバーン(ka0356
    人間(蒼)|32才|男性|闘狩人
  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエ(ka1664
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • きら星ノスタルジア
    浅黄 小夜(ka3062
    人間(蒼)|16才|女性|魔術師
  • Ms.“Deadend”
    アメリア・フォーサイス(ka4111
    人間(蒼)|22才|女性|猟撃士
  • 燐光の女王
    ドロテア・フレーベ(ka4126
    人間(紅)|25才|女性|疾影士
  • 正秋隊(紫龍)
    劉 厳靖(ka4574
    人間(紅)|36才|男性|闘狩人
  • 緑青の波濤
    エリオ・アスコリ(ka5928
    人間(紅)|17才|男性|格闘士
  • 細工師
    金目(ka6190
    人間(紅)|26才|男性|機導師

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/05/18 23:54:20
アイコン 質問卓
エリオ・アスコリ(ka5928
人間(クリムゾンウェスト)|17才|男性|格闘士(マスターアームズ)
最終発言
2016/05/21 22:06:48
アイコン 相談卓
エリオ・アスコリ(ka5928
人間(クリムゾンウェスト)|17才|男性|格闘士(マスターアームズ)
最終発言
2016/05/22 08:29:21