ゲスト
(ka0000)
ボラ族、珍奇なる祭を開催する
マスター:DoLLer
オープニング
「辺境よりの移民をこうして受け入れてもらったことに感謝の意を表し、祭を執り行いたい」
帝国に一族で移民してきたボラ族の長、イグは港町の町長の前にどっかと座り、そう述べた。
どっちが目上なのかわからない威風堂々ぶりである。
「はぁ……そりゃまあ、構わんのですが……祭って何をするんでしょうかね」
「辺境の祭りの一つだ。海にて祭りを行い、海中の正のマテリアルを活性化させ豊漁を祈願するものである」
嬉しい話だ。交易の停泊地の一つとして開かれたこの港町だが、元々は漁師町であり、未だに主たる収益は漁業なのだ。
前の歪虚の軍勢の襲来ですら無視される程度の小さな町であり、やはり豊漁になってくれることは嬉しいことでもある。汚染などとは縁のない町であるが、近年はバルトアンデルスからの排水が原因と囁かれる海洋汚染で、漁獲高も低迷気味なところ。辺境の祭りで一時的にも回復が見込めるなら嬉しいことはない。
嬉しいことは……間違いないのだが。
「……危なくないよね?」
前も海賊襲来による騒乱で『ボラ族によって』家屋を薙ぎ倒されたりしたのである。海賊被害より、防衛による味方からの損害の方が大きいなどという笑えない話が起こったばかりだ。
そのことをじゅーぶんに確かめたい町長であったが。
「もちろんだ」
「な、なら大丈夫ですな。くれぐれも安全に注意して、祭を楽しみにしておりますぞ!」
いかんせん、気弱過ぎた。
「お任せあれ。大船に乗った気持ちでいるとよい」
不安は一層募るばかりであった。
「なにこれ」
移民してきたボラ族の面倒をみている地方内務課のメルツェーデスは巨大な楔を眺めた後、短く感想を言った。
「ご神体だ。これを海に突き刺し、この周囲で祈りを捧げる」
巨大な楔。それで言葉上は済むが、長さは10m、太さも人間2,3人が手をつながないといけないようなレベルであった。
大きな帆船のメインマストに使うレベルのものだ。それを楔型の形状にしたてるのには随分時間もかかったことだろう。
「これをロープでみんなで引っ張る。沖合まで」
もう死者が出てきそうな気がしてきた。
「そして祈りの際は、数人が巫子として海に入ってもらう」
「い、生け贄とかいうんじゃないでしょうね?」
「まさか。泳いでもらうだけだ。その昔、海の精霊には人間に恋をした者がおってな、人間になるために足を求めたという逸話がある。その精霊を慰撫するために、美脚を披露するために海に入ってもらうのだ」
海で、美脚……。
もうわけがわかんない。リアルブルーのスポーツであるシンクロナイズドでもやれというのだろうか。
そう言いながらも、イグは嬉々としてズボンのすそをまくり上げる。
「あんたのそれが美脚!?」
「ん? 別に男女の別はないし、祭主としての勤めもある。美脚というのは、人生を物語る脚のことだぞ」
すね毛あるし、無骨だし、美脚とは縁遠いじゃねえか。と思ったが、要するに健康的な足ならなんでもいいのだろう。
「うまくいけば精霊に恋してもらえるかもしれぬな。はっはっは」
そんなわけで、お祭りに参加する人募集いたします。
帝国に一族で移民してきたボラ族の長、イグは港町の町長の前にどっかと座り、そう述べた。
どっちが目上なのかわからない威風堂々ぶりである。
「はぁ……そりゃまあ、構わんのですが……祭って何をするんでしょうかね」
「辺境の祭りの一つだ。海にて祭りを行い、海中の正のマテリアルを活性化させ豊漁を祈願するものである」
嬉しい話だ。交易の停泊地の一つとして開かれたこの港町だが、元々は漁師町であり、未だに主たる収益は漁業なのだ。
前の歪虚の軍勢の襲来ですら無視される程度の小さな町であり、やはり豊漁になってくれることは嬉しいことでもある。汚染などとは縁のない町であるが、近年はバルトアンデルスからの排水が原因と囁かれる海洋汚染で、漁獲高も低迷気味なところ。辺境の祭りで一時的にも回復が見込めるなら嬉しいことはない。
嬉しいことは……間違いないのだが。
「……危なくないよね?」
前も海賊襲来による騒乱で『ボラ族によって』家屋を薙ぎ倒されたりしたのである。海賊被害より、防衛による味方からの損害の方が大きいなどという笑えない話が起こったばかりだ。
そのことをじゅーぶんに確かめたい町長であったが。
「もちろんだ」
「な、なら大丈夫ですな。くれぐれも安全に注意して、祭を楽しみにしておりますぞ!」
いかんせん、気弱過ぎた。
「お任せあれ。大船に乗った気持ちでいるとよい」
不安は一層募るばかりであった。
「なにこれ」
移民してきたボラ族の面倒をみている地方内務課のメルツェーデスは巨大な楔を眺めた後、短く感想を言った。
「ご神体だ。これを海に突き刺し、この周囲で祈りを捧げる」
巨大な楔。それで言葉上は済むが、長さは10m、太さも人間2,3人が手をつながないといけないようなレベルであった。
大きな帆船のメインマストに使うレベルのものだ。それを楔型の形状にしたてるのには随分時間もかかったことだろう。
「これをロープでみんなで引っ張る。沖合まで」
もう死者が出てきそうな気がしてきた。
「そして祈りの際は、数人が巫子として海に入ってもらう」
「い、生け贄とかいうんじゃないでしょうね?」
「まさか。泳いでもらうだけだ。その昔、海の精霊には人間に恋をした者がおってな、人間になるために足を求めたという逸話がある。その精霊を慰撫するために、美脚を披露するために海に入ってもらうのだ」
海で、美脚……。
もうわけがわかんない。リアルブルーのスポーツであるシンクロナイズドでもやれというのだろうか。
そう言いながらも、イグは嬉々としてズボンのすそをまくり上げる。
「あんたのそれが美脚!?」
「ん? 別に男女の別はないし、祭主としての勤めもある。美脚というのは、人生を物語る脚のことだぞ」
すね毛あるし、無骨だし、美脚とは縁遠いじゃねえか。と思ったが、要するに健康的な足ならなんでもいいのだろう。
「うまくいけば精霊に恋してもらえるかもしれぬな。はっはっは」
そんなわけで、お祭りに参加する人募集いたします。
リプレイ本文
「にしても……なんか、これ最初に聞いてたご神体と違わない?」
ボラ族の最年少ウルを抱き上げたジュード・エアハート(ka0410)はご神体の柱を見上げて、はにかみ笑いを浮かべた。
確か、彼が町で「みんな来てねっ」と呼びかけ回っていた時には釘のような形状をしていたはずだが。
それは見事な脚になっていた。しかも両足を組んで脚線美の艶めかしさを爆発させているではないか。見ているだけでもう狂気に近い芸術の熱が伝わってくる。
「ドワーフ工房育ちの生い立ちが、つい出まして」
金目(ka6190)は自らの髪をくしゃりと掻いて、その下からやりきった笑顔を浮かべた。
犯人はこいつか。
「みんなで協力して一つのものを作り上げたことで町の人とボラ族の関係も身近になりました」
「いいじゃあないか。この祭りのシンボルとしては最高だろう」
ジト目になるジュードの横でエアルドフリス(ka1856)は満足げに新たなご神体を眺めた。確かに金目の目論見通りで町の人も参加したことにより、興味を持たれている。しかも、みんな美脚について関心を高めてくれているのだからもう。
「ふふ、ふふふふ。ボラ族の為にも来年にも是非開催したいと言わせないとな」
「えーあーさーん?」
「もちろん、お前の活躍する姿を堂々と見られるチャンスだからだよ。人に見せるのは惜しいくらいだ」
「えへ☆ ありがとー。オレ、頑張るね!!」
ボラ族の為とかいう口実が上滑りしていたのに突っ込みたかったが、褒め言葉にマーメイドスタイルの水着をくるりと翻してジュードはウィンクした。
「じゅー。すべすべ」
そんなジュードの脚を興味深くぺたぺた触るウル。ジュードの脚はお気に入りになったらしい。
ジュードもお返しに、ぷにぷにの、間接以外の所にも皺の入ったあんよをつついたり、撫でたり。
「ああ、し・あ・わ・せー♪」
「ふふ、ウル坊も楽しんでもるみたいだな。母さんの分まで楽しんでおいで」
ジュードにぎゅーと抱きしめられているウルを撫でて、ユリアン(ka1664)は二人に行ってくるよと移動する。
「それでは彌却(いただいたマテリアルを海に還すの意。読みはびきゃく)祭を執り行う! 準備は良いかっ」
イグの掛け声と共に、集まったハンターから一斉に鬨の声が上がった。
「姉様、気をつけてね……。帰ったらお魚食べましょう」
ブリス・レインフォード(ka0445)は水着姿の二人の姉のそれぞれ手を両手につなぎ、そう声をかけた。
「そう言われると、思いっきり事故るみたいな未来しか見えないねっ。大丈夫だよね、フロー姉?」
次女のネフィリア・レインフォード(ka0444)はその言葉に笑って答えたが、フローレンス・レインフォード(ka0443)は顔を真っ赤にして応えるような余裕をもっていなかった。
「ネフィ。何故私はこのような姿に……」
「お祭りだからだよ!!」
トラ柄のビキニから今にも溢れそうな胸。青い髪の上には猫耳。凛々しく慈愛に溢れた姉は羞恥で壊れそうだった。
「いや、ですが」
「ほら、ご神体を引っ張る役に紛れればわかんないし、町の人のため!!」
「あっ、ひ、引っ張らないで」
腕を引かれ、よろよろと群衆の中に二人の姉は消えて行った。
海までの道はアーシュラ・クリオール(ka0226)のドリルによる地均しで雑草は埋もれ、クレール・ディンセルフ(ka0586)のハンマーによって小石や、地面の凹凸はことごとく消え去っていた。その上に敷かれた丸太はザレム・アズール(ka0878)が準備した。道の傍らにはロープがはられて安全対策もバッチリ。
「いきますよーーーっ」
ルナ・レンフィールド(ka1565)が掛け声一つ大太鼓を打ち鳴らした。
「「「「よいしょぉおおおおお!!!」」」」
その響きと共に町の人、ハンターが一斉に、ご神体の美脚にかけたロープを引いた。
ロープが一斉にピンとはり、ぎちぎちと締まる音が響く。
「せぇぇぇぇのっ」
ルナが再び太鼓を打ち鳴らすと同時に、また一斉にヨイショ! という声が響き渡り、ご神体が微かに動いた。
そして、もう一度、太鼓が響くと、それは坂道に乗り動き始めた。ゆるやかな下り道。丁寧に舗装された道と、丸太で動きやすくなったその道。
「いけぇぇぇぇ」
とても……
「あ、あれ?」
とてもとても……スムーズであった。
「とまれぇぇぇぇ!!!!!????」
ごごごごごごご。と地響きを立てながら、10mの美脚は坂を滑り落ちて行った。
みんなは引きずるのではなく、逆に引きずられ始める。
「ひゃっほーーーい」
すかさずザレムと超級まりお(ka0824)がご神体の上に飛び乗った。その姿、まるでグラスサーフィン。
「右にずれていってる!!」
ザレムはパドルをもってバランスを取りながら叫ぶ。
「これ以上ボラ族がまた壊したなんて……言わせないから!!」
クレールはロープを掴んだまま引きずられて身体を横にしていたが、安全用にと張ったロープに足をかけて態勢を取り直すと、そのまま背負ったスタンプハンマーをご神体にの脛に打ち付けた。
「今度は左ィ!!」
衝撃でのたうつご神体の上で軽く跳び跳ね、足場を確保するまりおは軌道が修正されすぎたことをそのまま指摘する。
「おとなしくしなさい、このバームクーヘン!!」
高瀬 未悠(ka3199)は覚醒して鋭い虹彩に変貌したまま、そのご神体に噛みつくようにして押し込みなおした。
……お腹、減ってる?
「いいぞ、そのまま行くよ!!」
風を纏ってご神体の先に回り込んでいたユリアンはその身体を使ってスピードを押し殺していたが、目の前に白い砂浜が見えたと同時にご神体に飛び乗った。
一斉にロープを手放し制御する力を無くしたご神体は一気に加速して海の中へと突撃し、盛大な音と共に皆が見上げる程の波を立てた。脚のご神体に、高い白波はまさに純白のドレスを着ているようだ。
「いっけぇぇぇぇ!!!」
そして残ったアーシュラが踵にくくりつけたロープをもってジェットブーツで高く高く跳ぶと、ご神体もするすると脚を逆さにして海の中で逆立ちしていく。
同時に海に入ったユリアンはそれぞれのロープの切っ先についた楔を海底にすばやく打ちこんだ。
「ぷはぁぁぁ」
海から顔を出して、飛沫を左右にふり飛ばしたユリアンに、歓声が届く。
ご神体は海に、立ったのだ。
「おおおお、すげーぇぇぇ」
「やったぁぁぁ」
拍手が雨のように降り注ぐ中、ご神体の脚の上に立つアーシュラと、下から見上げるユリアンは、互いに視線を合わせてガッツポーズをとった。
「こほん。それでは祝詞、奏上」
ザレムとクロシア・E・バルカロール(ka5671)は舟に乗って、静かにご神体の前に立つと、やおら浴衣をふぁさぁぁぁと脱ぎ捨てた。
「豊漁祈願と脱衣の関連は……あるのでしょうかね?」
天央 観智(ka0896)は苦笑いを浮かべながら、その様子を浜辺から見守っていた。祭主達がそんな様子に加え、海に配された巫女、というかマテリアル活性化の役目を負ったハンター達のうきうきした様子や、海からそそり立つ脚のご神体。
どこまで本気で、本当に効果があるのか、観智にはツッコミどころが満載であった。多分、常人代表の感覚からすればおかしいのだが、祭に参加している人間はそう思っていないのかもしれない。
それはさておき、ザレムは覚醒して黒竜の翼を広げ、クロシアは赤黒い薔薇が付いた登る、マテリアルに富んだ息吹と薔薇の芳香をふっとはいて、揃って二礼二拍手一拝。
そしてザレムから貰った祝詞を広げると、ルナが聖歌をアコーディオンを操って演奏する。周りは厳かな空気に包まれ、誰もがクロシアの祝詞を緊張して待った。
厳かな厳かな祝詞が……。
「久し鰤(ぶり)の蟹(神)との鯛(タイ)面 」
薔薇の祭祀が読み上げたその祝詞にみんな口をポカンとあけたままになったが、クロシアはただただ高らかに奏上を続ける。その声の美しさは空高くまで響き渡り、皆の耳をくすぐる。
「タコ(ここ)に鯵(脚)を捧げよう 烏賊(いか)に鰆(触ら)んとも蟹(神)の満ち干き(導き)
海胆(海)にこ鰈る(焦れる)陸の民に 今後鱒鱒(益々)の素鯔しき(素晴しき)豊漁を
海老す(恵比寿)鮪でメデ鯛メデ鯛(目出度い)と 音頭を鮠(はやし)て、鰰(はた)あげて
畏み畏み、申し願い奉る」
くすぐられるのは耳だけではなかった。
おおよその原因は奏上文を書いたザレムだ。ザレムはうんうんとクロシアが美しい声で読み上げる祝詞を、さも当然のように竜翼を広げ腕を組んだままに聞き入るのである。ここまでくれば奴は確信犯以外の何物でもない。
「く……こんなことで、僕の美しさが凌駕されるわけもない、のに」
腹痛い。メーレ・クロイツェル(ka5626)は少しばかり顔をこわばらせた。
ただでさえ、北の大規模作戦で受けた傷が海で滲みるのにザレムの祝詞に思わず腹筋が震えて、傷口に海水がふるふる触れる。
「大丈夫? とりあえず、上がって包帯巻いとく?」
船で様子を見ていた十野間 灯(ka5632)がメーレに言葉をかけた。ご神体を運んで怪我をするかもしれなと救急医療班として準備しておいたのだ。
「ありがとう。でもね。僕の美しさは絶対。そう何物の追随をも許さない。死すらも叶わぬのに、傷に美しさが負けるなんてないじゃないか」
メーレは海に濡れる金色の髪の向こうから桃色の瞳を灯に向けると、巻いていた包帯を外して渡した。そう包帯があるから美しさが影をひそめてしまっているに違いない。
「……困ったね。それにつける薬はもってないや」
塞がってもない傷を海にさらすとは。痛みで背をのけぞらせるメーレに灯はため息をついた。
「さすがはメーレね。その美しさ。貫く強き意志はあらゆる精霊も敵わないんじゃないかしら」
エマ・ハミルトン(ka4835)はそんなメーレに指先を伸ばして讃えると、なんともいえぬ薔薇の芳香がメーレを包み込む。
「どうか私達に精霊のご加護が……あらんことを……」
「合掌!」
クロシアの奏上を締めくくりと、ザレムの柏手が重なり、さらにルナの美しい聖歌がそれを重ね合わせ、
見事な……和洋折衷が成立した。
「これがまとまってる感じになってるのは……凄いですね」
「ははぁ、さすがはハンター様方だなあ。祭をこんなにきっちりしてくれるとは。ありがたやありがたや」
観智の横で町長がありがたがって手をすり合わせていたが、内容を問いかけられたら絶対に破綻するという確信が観智にはあった。
●おみ足博覧会
「それでは巫女による舞の奉納!!」
ザレムは覚醒の翼を大きく広げ、号令すると同時に様々な戦いに身を挑ませた帝国軍人らしい無駄のない自らの脚をぱあんと叩いて誇示した。
ルナはアコーディオンからリュートに持ち替えて漣に合わせて軽やかにリュートを奏で始める。
ご神体に固定するために登っていたアーシュラとユリアンが、頷き合うと両サイドにわかれて同時にダイビング。風に包まれながら、ユリアンは廻る空の世界をぼんやり眺めていた。空も地も。ひたすらの青。回転している内に上下も分からず。一瞬が永遠になるような感覚を覚えながら。
そのまま着水!
アーシュラの腰衣から覗く脚は凹凸がくっきりしていて肉感的。多くの機械を支えて、また運んできたことが窺える。
そんな二人から水柱が盛大に上がると、続いて海中からこれまた美しい白い脚が代わりに浮かんでくる。
「さぁ、オレ達の出番だね!!」
「おお、神よ、私の心は愛に満ち溢れ、輝いております!」
リズムの良いルナの音楽に合わせて、4つの脚が出たり入ったり。綺麗に揃っている。
その脚の持ち主は……みんなが視線の集まる中、息継ぎの為に上半身を起こすと、真白と七色の翼が同時に姿を現した。そう白い翼はエルディン(ka4144)。七色の翼はジュードだ。
「あの神父さん。やっるう!」
入れ替わりで水をぱぁっと広げてお祝いするアーシュラはエルディンの登場に喝采を送った。
いつも明るいけれど、カソックをばっちり着込んでいるエルディンだが、今日はそれも脱ぎ捨て依頼で鍛えた無駄のない肢体を見せつけているではないか。しかも頭には天使の輪まで。これで拝まない民衆がいようか。いや、いない!
「拝みはしないなぁ……むしろあっちの方が好みだな」
みんな揃ってお祈りポーズの中で金目だけはそちらを見ずにもう一つの脚を眺めていた。白く細い脚だけれども、ふくらはぎのカーブラインが美しく太ももまで白魚の様だ。どんな女なのか。
「ジュードはやはり最高だな……!」
その横で思いたっぷりこもったエアルドフリスの独りごとで、その正体を窺い知った。男じゃねーか!
「ちっ」
「なんだ、貴様。ジュードの脚にケチをつけるつもりか?」
ザァァァァァ。周りに雨の音が響きながら、今にも殺しにかかりそうな男の目が光る。
「祭の最中に……負の感情が誘発されるのは止めておいた方が……いいですよ?」
掴みあう二人に観智が割って入ると、新たに海で泳ぎ始めた姉妹を指さした。フローレンスとネフィリアだ。
「まだ夏じゃないから冷たいけど気持ちいいのだ♪ フロー姉。ほら、脚、脚」
ネフィリアは白いビキニから伸びる健康的な脚をめいっぱい天に突きあげ、盛大に回転して姉のフローレンスを誘うが、フローレンスもがんばって同じように脚を上げるが、トラ柄ビキニからこぼれおちそうな胸をかばってはそう上手くも行かず。
「ちょっと、ネフィ……」
「もうフロー姉ってば。手伝ってあげる!! あっ」
どぼん。
ネフィリアが手伝おうとした瞬間に、何かにひっかかったらしく、派手に海の中に回転して消えた。
それでもなんとか姿勢を保とうとフローレンスの腰を掴んだばっかりに。
「ひゃ!?」
「姉さま!!」
掴みあっていた男が見つめる中ブリスがすぐさま立ち上がると、二人と仲裁の男をきっと睨み『MS規制』とかかれた看板を掲げて走っていった。
「……今のは良かった」
「友達になれそうですね」
先程まで喧嘩していた二人ががっちり握手した瞬間に二人の間を銃弾が切り裂いた。
「別に足以外を見たって良いのよ? 胸でも全身でもね? でも死にたくないならお触り厳禁なだけ」
その一撃はマリィア・バルデス(ka5848)の水中銃であった。水中眼鏡をはずして悪い笑みを浮かべると、汗だくだくの二人にウィンクを一つ飛ばして何事もなかったかのように水中の踊りを披露する。今までの数多くの作戦においても大きな傷を負うようなことのなかったマリィアの脚は美しく、そして鍛錬の跡がうかがえる肉付きをしていた。筋肉質な脚を女性的なラインで覆っている。
「どうしたの?」
「ん? ……色欲の退治よ。祭の中でも後でも歪虚に遅れを取るなんて我慢ならないのよね」
ニケ(ka3871)の問いかけに、マリィアはそっけなく答えると、人魚のように両足をうねらせ場所を移動した。
「ええ、色欲の退治……? 色欲、見ている人がいっぱい?」
ニケはその言葉にゾクゾクとした。何も考えていないエルディンの後光挿す姿にひれふす人間ばかりでどうにも燃えないと思っていたが、見られているかもしれないという思いがニケの胸に火をつけた。周りの視線が別のものに描き変わったのはきっと脳のスイッチがが完全に入った証拠。
「あはは、ははは。もっと見て!!」
顔を上気させ、ビキニアーマーを脱ぎ捨て、太陽の元にさらされる肢体。障害物もなにもなく突き刺さるよ視線が。止まらないよ鼓動が!
「これは負けてられないですぅ」
星野 ハナ(ka5852)は不機嫌そうに女子のあられもない様子を見つめていた。
みんなはっちゃけ過ぎてておいてきぼり感半端ないが、ここで一緒になってもとてもじゃないがついていける気はしない。
「あーあ、折角おにゅーの水着買ったのにぃ。見てもらうのばっちこーいなのになぁ?」
ちらっと見るはさすがに重体で海に入るのはこれ以上危険と灯によって救助された薔薇が漂う超美男子のメーレやクロシアの姿。
「その傷でよく海に入ろうと思ったねぇ。ほら、消毒するから脚出して」
「傷? 違う、これはね。いずれ朋となる美しい者と語り合った証さ」
脚の傷さえ、這いよる薔薇と美しい肢体の中では赤いリボン。
「それはもういいから」
灯はげんなりした顔で消毒液をぶっかけるとクロシアは身をよじって悶えた。
悶えながらも薔薇の幻影を咲き乱れさせるのはあのメンバーならではである。
「この痛みを耐えてこそ……祭の成功はあるはず、です……っ!」
「……はふぅ」
できれば彼らに取り囲まれたいですぅ。でもどう考えても入りづらい空気感満載ですよぅ。
ハナはしばらくそちらを羨ましそうに見つめ、その傷をみてピンと何かを思いついた。
そうだ。私も怪我すればぁ。そして彼らに助けられて「大丈夫ですか?」と聞かれたところをこの花柄バンドゥフリルから覗く愛らしい胸で悩殺しちゃうのですぅ!
「ああっ、足が、つっちゃったぁぁ~」
ハナは切ない声を出して、頭を沈めつつ高校大学7年間交通費をケチるためだけに自転車を漕ぎまくってつちかった脚を惜しげもなく披露した。
「なんてこと!! 今助けに行くからねっ」
浜辺で祈りを捧げていた未悠はその声に反応してすっくと立ち上がり、オーロラヴェールに青のパレオ姿のまま、海の中に駆けこむのを先に海で泳いでいたまりおが声をかけた。走る彼女から、ちらりちらりとパレオの下から、引き締まった脚が見え隠れする。
「その格好で泳いで救助するって大変じゃない?」
「何言ってるのよ。格好なんて問題じゃないわ。人の命がかかってるのよ!」
未悠の言葉にふむ。と頷いたまりおは観智に大きく手を振ると同時に、観智が魔法を詠唱し始める。
「こんなこともあろうかと……ウォーターウォークを持って来ておいて良かったです……超級さん、よろしくお願いします」
魔力が集まると同時に、まりおは軽く水を蹴ってジャンプ!
そして次の瞬間、海面に着地すると、一気にハナに向かってダッシュ! 陸上部として鍛え、戦場を所狭しと走りまくって鍛えたがっちりしたふくらはぎが光る。
「びーーーーー ダァァァッシュ!! マメキノコもーど!!」
「は、わわぁ」
イケメンがボートから手を出して助けてくれることを期待したら、ハナの迫って来るのは水面を走って来る女の子だという衝撃。
ハナは即座に海中に逃げ出した。イケメンなのですぅ。用事があるのは!!
「USAモードのカブひっこぬき術もあるよっ」
まりおは海に沈もうとしていたハナをがっちりつかむとそのまま頭の上まで持ち上げた。
ハナは呆然とまりおの上で赤子のように身をすくませながら、呆然とするばかり。
「ひっこぬいたら、しゅーーーーとっ」
そのまままりおはもてる力でハナをぶん投げ、それを未悠ががっちりキャッチした。
「危ないところだったわね!」
「……思ってた展開と違いますぅ」
ハナは思わずぼやいたが、ふと気づけば観衆の多くから注目の視線を浴びている事に気が付いた。
いっぱい人がいすぎてどこに誰がいるかわからないが、今はチャンスかも。
「あーん、怖かったですぅ。ありがとうございましたぁ」
ハナは泣き顔を作りつつ、抱きかかえられたまま、シナを作ってその肢体を存分にアピールした。
「……本当に溺れかけてたわけ?」
慌てて医療道具を持ってきた灯が、そのあからさまなアピールに口元をひきつらせた。
「5月の海はまだ冷たいものですものね。さあ、それじゃ最後にしましょう!」
ルナはスカートをしぼって舟を降り、細い脚を海辺に浸けると大声で皆に声をかけた。
「みんなの心を一つにして、海に届け。この気持ち」
ルナの演奏で、巫女達は海の中で輪になり、大きく脚をひらけかす。
大地を踏みしめた。幾多の戦の風を駆け抜けた。鉄火を支えた。日常を歩んだ。色んな脚がご神体を中心にそそり立つ。
「海に感謝を。マテリアルよ。さんさんと降れ!!!」
白いシャツからオレンジの水着が映るクレールが演奏の終わりにご神体の前で大きく叫んだ。同時に太陽の光が雲間からクレールに降り注ぎ、海を、脚を照らし出した。
「楽しむ心が海に伝わり……正のマテリアルを増幅させ……負のマテリアルを打ち払うわけ……ですね」
ハンターがそれぞれの覚醒した姿は七色に輝き、海をも鮮やかに彩る。人間も新鮮な空気とマテリアルを求めるように。魚もまたこの虹色の海に集まってくるのかもしれない。
実際に豊漁になるかどうかはともかく、観客の町人達も強い関心を示しているのは間違いない。
きっと祭は成功だろう。
●
「あー、お腹減ったぁ。やっぱ水冷たかったね」
「ええ、もう体力使い切った……仲間がいるのは嬉しかったけど」
脚を上げ続けるっていうのは相当に大変だ。クレールは耳に入った水を出す為に、とんとんと跳ねつつ、魂と心の奥底の欲望を吐き出しきって抜け殻とかしたニケと共に町への坂道を登っていた。
すると町からは様々ないい匂いが。
横向きになった世界の町からは、様々な屋台が並んでいるではないか。そういえば、地均しばっかりしてたせいで周りの事はほとんど見てなかった。
「はい、大漁に願掛けして鯛焼きいかが? どんどん食べてって!」
売り子をしているのは未悠だ。後ろではロッカが悲鳴を上げつつ鯛焼きを必死に作っている。
「クレールもお疲れ様。美味しいのよ、これ。ニケも疲れた顔しちゃって。疲れた時は甘いものよっ」
と言いつつ、売り子のはずの未悠の口と両手がそれぞれ鯛焼きで埋まっている。
「だからつまみ食いすんなってのーーーー!」
「つまみ食いじゃないわ。味を伝えるため、美味しさを伝えるための宣伝よっ。見て見て。この鯛焼き、今回の美脚に合わせて足があるのよ」
ロッカに突っ込まれつつ未悠がじゃーん。と見せつけた鯛焼きは、鯛の全身と同じサイズの艶めかしい脚が付け加えられていた。
「それなんて、すけとうだら……」
もらったクレールは何とも言えず、もらった鯛焼きを見下ろしていた。
「歪虚はこなかったけど、ここの人間のセンスはかなり歪虚に近いものがあるわね。狂気に暴食に……」
海から上がって法被を着込んだマリィアも生足鯛焼きを見つめ、そして次の鯛焼きをぱくついている未悠を見た。
「そ、そんなことないわよ」
「だいたいこの看板も読めないじゃない。なんかの呪いの館かと思ったけど」
マリィアは看板を横目でみて、もらった鯛焼きを口に放り込む。確かに看板は釘をひきずった跡のような文字で、とても鯛焼き屋にはみえない。
「あれ書いたのってユリアンさんじゃなかったでしたっけ?」
演奏を終えて楽器を抱えて登って来るルナは一緒にアコーディオンを運んでくれるユリアンに尋ねた。
「そうそう。師匠の字を真似たんだ。商工会議所にかけあって祭りを盛り上げようってしててね。看板の字は頼むって言うから。師匠の字は味があって良いよね」
「そうですね……そっくり……」
ルナは曖昧にほほ笑んだ。その髪には真珠の髪飾りが光っているのを見つけてユリアンも微笑んだ。
「あ、その髪飾り。妹とおそろいの奴だね」
えへへ。
ルナが照れた笑いを見せる。のをハナはため息をついてみていた。
「うぅ、うらやましいですぅ」
「星野さん。脚はもう大丈夫ですか」
「良かったら運びますよ!」
町の人に囲まれていたが、顔はいささかタコ、イカ、マンボウ……。半魚人はノーサンキュー。イケメンはどこだ!
「ザレムさんがあんな祝詞を準備したからぁ……、責任とってほしいですぅ」
「いやあ、ザレムが考案した祝詞は最高だった。これできっと町は豊漁に喜ぶだろう! 来年もその祝詞を読ませてほしい」
ハナの怨嗟はどこ吹く風。ザレムの祝詞は大変受けがよく、イグを始め町の人々から英雄のように取り囲まれていた。
「もちろん。伝統となっていくことを切に願うよ!」
ザレムは満面の笑顔で答えた。
「あれも伝統にいれるべきか悩みますね」
町の人が視線を動かした先には、ブリスが自ら纏っていたコートを広げて、フローレンスとアーシュラを運んでいる所だった。
「姉様達の生足(とその上)をみて良いのはブリスだけ……なんだから!」
「ブリス、い、い、言わないで。早く行きましょう……」
視線が集まる中、真っ赤になって移動するフローレンス。
「おう、アーシュラまでなんでそんなところに?」
「ははは、いやー、飛び込みしたら上が脱げちゃってさ」
ゾールの問いかけにアーシュラは照れた笑いを浮かべるとそそくさ控室に連行されていった。
「これで良かったのでしょう」
ハンターの生足に魅了されたのか、町の人、老若男女問わず、腰衣や短いズボンでその脚をみんな見せている。
その真ん中で立つのは一枚絵の如き美しさを誇るエマだ。エマとメーレとクロシアの美しさは別格と評価されていた。二人の友人は重体のため、すぐに救急室に運び込まれたが、代表としてエマはその賞賛を浴びていた。
「これからも美がこの町を救うのね」
「うむ、皆からいただいたこの儀式を後代ににまで伝えて行かなくてはならん。町長もきっと前向きに考えてくれるはずだ」
イグと町長は顔を見合わせて頷いた。
「これからも美脚の町としてボラ族と共に我々は発展してゆくぞ。彌却祭万歳! 生足よ、永遠なれ!!」
その言葉に合わせて、エマは大きく足を天に向かって掲げた。
薔薇の芳香と共に。
ボラ族の最年少ウルを抱き上げたジュード・エアハート(ka0410)はご神体の柱を見上げて、はにかみ笑いを浮かべた。
確か、彼が町で「みんな来てねっ」と呼びかけ回っていた時には釘のような形状をしていたはずだが。
それは見事な脚になっていた。しかも両足を組んで脚線美の艶めかしさを爆発させているではないか。見ているだけでもう狂気に近い芸術の熱が伝わってくる。
「ドワーフ工房育ちの生い立ちが、つい出まして」
金目(ka6190)は自らの髪をくしゃりと掻いて、その下からやりきった笑顔を浮かべた。
犯人はこいつか。
「みんなで協力して一つのものを作り上げたことで町の人とボラ族の関係も身近になりました」
「いいじゃあないか。この祭りのシンボルとしては最高だろう」
ジト目になるジュードの横でエアルドフリス(ka1856)は満足げに新たなご神体を眺めた。確かに金目の目論見通りで町の人も参加したことにより、興味を持たれている。しかも、みんな美脚について関心を高めてくれているのだからもう。
「ふふ、ふふふふ。ボラ族の為にも来年にも是非開催したいと言わせないとな」
「えーあーさーん?」
「もちろん、お前の活躍する姿を堂々と見られるチャンスだからだよ。人に見せるのは惜しいくらいだ」
「えへ☆ ありがとー。オレ、頑張るね!!」
ボラ族の為とかいう口実が上滑りしていたのに突っ込みたかったが、褒め言葉にマーメイドスタイルの水着をくるりと翻してジュードはウィンクした。
「じゅー。すべすべ」
そんなジュードの脚を興味深くぺたぺた触るウル。ジュードの脚はお気に入りになったらしい。
ジュードもお返しに、ぷにぷにの、間接以外の所にも皺の入ったあんよをつついたり、撫でたり。
「ああ、し・あ・わ・せー♪」
「ふふ、ウル坊も楽しんでもるみたいだな。母さんの分まで楽しんでおいで」
ジュードにぎゅーと抱きしめられているウルを撫でて、ユリアン(ka1664)は二人に行ってくるよと移動する。
「それでは彌却(いただいたマテリアルを海に還すの意。読みはびきゃく)祭を執り行う! 準備は良いかっ」
イグの掛け声と共に、集まったハンターから一斉に鬨の声が上がった。
「姉様、気をつけてね……。帰ったらお魚食べましょう」
ブリス・レインフォード(ka0445)は水着姿の二人の姉のそれぞれ手を両手につなぎ、そう声をかけた。
「そう言われると、思いっきり事故るみたいな未来しか見えないねっ。大丈夫だよね、フロー姉?」
次女のネフィリア・レインフォード(ka0444)はその言葉に笑って答えたが、フローレンス・レインフォード(ka0443)は顔を真っ赤にして応えるような余裕をもっていなかった。
「ネフィ。何故私はこのような姿に……」
「お祭りだからだよ!!」
トラ柄のビキニから今にも溢れそうな胸。青い髪の上には猫耳。凛々しく慈愛に溢れた姉は羞恥で壊れそうだった。
「いや、ですが」
「ほら、ご神体を引っ張る役に紛れればわかんないし、町の人のため!!」
「あっ、ひ、引っ張らないで」
腕を引かれ、よろよろと群衆の中に二人の姉は消えて行った。
海までの道はアーシュラ・クリオール(ka0226)のドリルによる地均しで雑草は埋もれ、クレール・ディンセルフ(ka0586)のハンマーによって小石や、地面の凹凸はことごとく消え去っていた。その上に敷かれた丸太はザレム・アズール(ka0878)が準備した。道の傍らにはロープがはられて安全対策もバッチリ。
「いきますよーーーっ」
ルナ・レンフィールド(ka1565)が掛け声一つ大太鼓を打ち鳴らした。
「「「「よいしょぉおおおおお!!!」」」」
その響きと共に町の人、ハンターが一斉に、ご神体の美脚にかけたロープを引いた。
ロープが一斉にピンとはり、ぎちぎちと締まる音が響く。
「せぇぇぇぇのっ」
ルナが再び太鼓を打ち鳴らすと同時に、また一斉にヨイショ! という声が響き渡り、ご神体が微かに動いた。
そして、もう一度、太鼓が響くと、それは坂道に乗り動き始めた。ゆるやかな下り道。丁寧に舗装された道と、丸太で動きやすくなったその道。
「いけぇぇぇぇ」
とても……
「あ、あれ?」
とてもとても……スムーズであった。
「とまれぇぇぇぇ!!!!!????」
ごごごごごごご。と地響きを立てながら、10mの美脚は坂を滑り落ちて行った。
みんなは引きずるのではなく、逆に引きずられ始める。
「ひゃっほーーーい」
すかさずザレムと超級まりお(ka0824)がご神体の上に飛び乗った。その姿、まるでグラスサーフィン。
「右にずれていってる!!」
ザレムはパドルをもってバランスを取りながら叫ぶ。
「これ以上ボラ族がまた壊したなんて……言わせないから!!」
クレールはロープを掴んだまま引きずられて身体を横にしていたが、安全用にと張ったロープに足をかけて態勢を取り直すと、そのまま背負ったスタンプハンマーをご神体にの脛に打ち付けた。
「今度は左ィ!!」
衝撃でのたうつご神体の上で軽く跳び跳ね、足場を確保するまりおは軌道が修正されすぎたことをそのまま指摘する。
「おとなしくしなさい、このバームクーヘン!!」
高瀬 未悠(ka3199)は覚醒して鋭い虹彩に変貌したまま、そのご神体に噛みつくようにして押し込みなおした。
……お腹、減ってる?
「いいぞ、そのまま行くよ!!」
風を纏ってご神体の先に回り込んでいたユリアンはその身体を使ってスピードを押し殺していたが、目の前に白い砂浜が見えたと同時にご神体に飛び乗った。
一斉にロープを手放し制御する力を無くしたご神体は一気に加速して海の中へと突撃し、盛大な音と共に皆が見上げる程の波を立てた。脚のご神体に、高い白波はまさに純白のドレスを着ているようだ。
「いっけぇぇぇぇ!!!」
そして残ったアーシュラが踵にくくりつけたロープをもってジェットブーツで高く高く跳ぶと、ご神体もするすると脚を逆さにして海の中で逆立ちしていく。
同時に海に入ったユリアンはそれぞれのロープの切っ先についた楔を海底にすばやく打ちこんだ。
「ぷはぁぁぁ」
海から顔を出して、飛沫を左右にふり飛ばしたユリアンに、歓声が届く。
ご神体は海に、立ったのだ。
「おおおお、すげーぇぇぇ」
「やったぁぁぁ」
拍手が雨のように降り注ぐ中、ご神体の脚の上に立つアーシュラと、下から見上げるユリアンは、互いに視線を合わせてガッツポーズをとった。
「こほん。それでは祝詞、奏上」
ザレムとクロシア・E・バルカロール(ka5671)は舟に乗って、静かにご神体の前に立つと、やおら浴衣をふぁさぁぁぁと脱ぎ捨てた。
「豊漁祈願と脱衣の関連は……あるのでしょうかね?」
天央 観智(ka0896)は苦笑いを浮かべながら、その様子を浜辺から見守っていた。祭主達がそんな様子に加え、海に配された巫女、というかマテリアル活性化の役目を負ったハンター達のうきうきした様子や、海からそそり立つ脚のご神体。
どこまで本気で、本当に効果があるのか、観智にはツッコミどころが満載であった。多分、常人代表の感覚からすればおかしいのだが、祭に参加している人間はそう思っていないのかもしれない。
それはさておき、ザレムは覚醒して黒竜の翼を広げ、クロシアは赤黒い薔薇が付いた登る、マテリアルに富んだ息吹と薔薇の芳香をふっとはいて、揃って二礼二拍手一拝。
そしてザレムから貰った祝詞を広げると、ルナが聖歌をアコーディオンを操って演奏する。周りは厳かな空気に包まれ、誰もがクロシアの祝詞を緊張して待った。
厳かな厳かな祝詞が……。
「久し鰤(ぶり)の蟹(神)との鯛(タイ)面 」
薔薇の祭祀が読み上げたその祝詞にみんな口をポカンとあけたままになったが、クロシアはただただ高らかに奏上を続ける。その声の美しさは空高くまで響き渡り、皆の耳をくすぐる。
「タコ(ここ)に鯵(脚)を捧げよう 烏賊(いか)に鰆(触ら)んとも蟹(神)の満ち干き(導き)
海胆(海)にこ鰈る(焦れる)陸の民に 今後鱒鱒(益々)の素鯔しき(素晴しき)豊漁を
海老す(恵比寿)鮪でメデ鯛メデ鯛(目出度い)と 音頭を鮠(はやし)て、鰰(はた)あげて
畏み畏み、申し願い奉る」
くすぐられるのは耳だけではなかった。
おおよその原因は奏上文を書いたザレムだ。ザレムはうんうんとクロシアが美しい声で読み上げる祝詞を、さも当然のように竜翼を広げ腕を組んだままに聞き入るのである。ここまでくれば奴は確信犯以外の何物でもない。
「く……こんなことで、僕の美しさが凌駕されるわけもない、のに」
腹痛い。メーレ・クロイツェル(ka5626)は少しばかり顔をこわばらせた。
ただでさえ、北の大規模作戦で受けた傷が海で滲みるのにザレムの祝詞に思わず腹筋が震えて、傷口に海水がふるふる触れる。
「大丈夫? とりあえず、上がって包帯巻いとく?」
船で様子を見ていた十野間 灯(ka5632)がメーレに言葉をかけた。ご神体を運んで怪我をするかもしれなと救急医療班として準備しておいたのだ。
「ありがとう。でもね。僕の美しさは絶対。そう何物の追随をも許さない。死すらも叶わぬのに、傷に美しさが負けるなんてないじゃないか」
メーレは海に濡れる金色の髪の向こうから桃色の瞳を灯に向けると、巻いていた包帯を外して渡した。そう包帯があるから美しさが影をひそめてしまっているに違いない。
「……困ったね。それにつける薬はもってないや」
塞がってもない傷を海にさらすとは。痛みで背をのけぞらせるメーレに灯はため息をついた。
「さすがはメーレね。その美しさ。貫く強き意志はあらゆる精霊も敵わないんじゃないかしら」
エマ・ハミルトン(ka4835)はそんなメーレに指先を伸ばして讃えると、なんともいえぬ薔薇の芳香がメーレを包み込む。
「どうか私達に精霊のご加護が……あらんことを……」
「合掌!」
クロシアの奏上を締めくくりと、ザレムの柏手が重なり、さらにルナの美しい聖歌がそれを重ね合わせ、
見事な……和洋折衷が成立した。
「これがまとまってる感じになってるのは……凄いですね」
「ははぁ、さすがはハンター様方だなあ。祭をこんなにきっちりしてくれるとは。ありがたやありがたや」
観智の横で町長がありがたがって手をすり合わせていたが、内容を問いかけられたら絶対に破綻するという確信が観智にはあった。
●おみ足博覧会
「それでは巫女による舞の奉納!!」
ザレムは覚醒の翼を大きく広げ、号令すると同時に様々な戦いに身を挑ませた帝国軍人らしい無駄のない自らの脚をぱあんと叩いて誇示した。
ルナはアコーディオンからリュートに持ち替えて漣に合わせて軽やかにリュートを奏で始める。
ご神体に固定するために登っていたアーシュラとユリアンが、頷き合うと両サイドにわかれて同時にダイビング。風に包まれながら、ユリアンは廻る空の世界をぼんやり眺めていた。空も地も。ひたすらの青。回転している内に上下も分からず。一瞬が永遠になるような感覚を覚えながら。
そのまま着水!
アーシュラの腰衣から覗く脚は凹凸がくっきりしていて肉感的。多くの機械を支えて、また運んできたことが窺える。
そんな二人から水柱が盛大に上がると、続いて海中からこれまた美しい白い脚が代わりに浮かんでくる。
「さぁ、オレ達の出番だね!!」
「おお、神よ、私の心は愛に満ち溢れ、輝いております!」
リズムの良いルナの音楽に合わせて、4つの脚が出たり入ったり。綺麗に揃っている。
その脚の持ち主は……みんなが視線の集まる中、息継ぎの為に上半身を起こすと、真白と七色の翼が同時に姿を現した。そう白い翼はエルディン(ka4144)。七色の翼はジュードだ。
「あの神父さん。やっるう!」
入れ替わりで水をぱぁっと広げてお祝いするアーシュラはエルディンの登場に喝采を送った。
いつも明るいけれど、カソックをばっちり着込んでいるエルディンだが、今日はそれも脱ぎ捨て依頼で鍛えた無駄のない肢体を見せつけているではないか。しかも頭には天使の輪まで。これで拝まない民衆がいようか。いや、いない!
「拝みはしないなぁ……むしろあっちの方が好みだな」
みんな揃ってお祈りポーズの中で金目だけはそちらを見ずにもう一つの脚を眺めていた。白く細い脚だけれども、ふくらはぎのカーブラインが美しく太ももまで白魚の様だ。どんな女なのか。
「ジュードはやはり最高だな……!」
その横で思いたっぷりこもったエアルドフリスの独りごとで、その正体を窺い知った。男じゃねーか!
「ちっ」
「なんだ、貴様。ジュードの脚にケチをつけるつもりか?」
ザァァァァァ。周りに雨の音が響きながら、今にも殺しにかかりそうな男の目が光る。
「祭の最中に……負の感情が誘発されるのは止めておいた方が……いいですよ?」
掴みあう二人に観智が割って入ると、新たに海で泳ぎ始めた姉妹を指さした。フローレンスとネフィリアだ。
「まだ夏じゃないから冷たいけど気持ちいいのだ♪ フロー姉。ほら、脚、脚」
ネフィリアは白いビキニから伸びる健康的な脚をめいっぱい天に突きあげ、盛大に回転して姉のフローレンスを誘うが、フローレンスもがんばって同じように脚を上げるが、トラ柄ビキニからこぼれおちそうな胸をかばってはそう上手くも行かず。
「ちょっと、ネフィ……」
「もうフロー姉ってば。手伝ってあげる!! あっ」
どぼん。
ネフィリアが手伝おうとした瞬間に、何かにひっかかったらしく、派手に海の中に回転して消えた。
それでもなんとか姿勢を保とうとフローレンスの腰を掴んだばっかりに。
「ひゃ!?」
「姉さま!!」
掴みあっていた男が見つめる中ブリスがすぐさま立ち上がると、二人と仲裁の男をきっと睨み『MS規制』とかかれた看板を掲げて走っていった。
「……今のは良かった」
「友達になれそうですね」
先程まで喧嘩していた二人ががっちり握手した瞬間に二人の間を銃弾が切り裂いた。
「別に足以外を見たって良いのよ? 胸でも全身でもね? でも死にたくないならお触り厳禁なだけ」
その一撃はマリィア・バルデス(ka5848)の水中銃であった。水中眼鏡をはずして悪い笑みを浮かべると、汗だくだくの二人にウィンクを一つ飛ばして何事もなかったかのように水中の踊りを披露する。今までの数多くの作戦においても大きな傷を負うようなことのなかったマリィアの脚は美しく、そして鍛錬の跡がうかがえる肉付きをしていた。筋肉質な脚を女性的なラインで覆っている。
「どうしたの?」
「ん? ……色欲の退治よ。祭の中でも後でも歪虚に遅れを取るなんて我慢ならないのよね」
ニケ(ka3871)の問いかけに、マリィアはそっけなく答えると、人魚のように両足をうねらせ場所を移動した。
「ええ、色欲の退治……? 色欲、見ている人がいっぱい?」
ニケはその言葉にゾクゾクとした。何も考えていないエルディンの後光挿す姿にひれふす人間ばかりでどうにも燃えないと思っていたが、見られているかもしれないという思いがニケの胸に火をつけた。周りの視線が別のものに描き変わったのはきっと脳のスイッチがが完全に入った証拠。
「あはは、ははは。もっと見て!!」
顔を上気させ、ビキニアーマーを脱ぎ捨て、太陽の元にさらされる肢体。障害物もなにもなく突き刺さるよ視線が。止まらないよ鼓動が!
「これは負けてられないですぅ」
星野 ハナ(ka5852)は不機嫌そうに女子のあられもない様子を見つめていた。
みんなはっちゃけ過ぎてておいてきぼり感半端ないが、ここで一緒になってもとてもじゃないがついていける気はしない。
「あーあ、折角おにゅーの水着買ったのにぃ。見てもらうのばっちこーいなのになぁ?」
ちらっと見るはさすがに重体で海に入るのはこれ以上危険と灯によって救助された薔薇が漂う超美男子のメーレやクロシアの姿。
「その傷でよく海に入ろうと思ったねぇ。ほら、消毒するから脚出して」
「傷? 違う、これはね。いずれ朋となる美しい者と語り合った証さ」
脚の傷さえ、這いよる薔薇と美しい肢体の中では赤いリボン。
「それはもういいから」
灯はげんなりした顔で消毒液をぶっかけるとクロシアは身をよじって悶えた。
悶えながらも薔薇の幻影を咲き乱れさせるのはあのメンバーならではである。
「この痛みを耐えてこそ……祭の成功はあるはず、です……っ!」
「……はふぅ」
できれば彼らに取り囲まれたいですぅ。でもどう考えても入りづらい空気感満載ですよぅ。
ハナはしばらくそちらを羨ましそうに見つめ、その傷をみてピンと何かを思いついた。
そうだ。私も怪我すればぁ。そして彼らに助けられて「大丈夫ですか?」と聞かれたところをこの花柄バンドゥフリルから覗く愛らしい胸で悩殺しちゃうのですぅ!
「ああっ、足が、つっちゃったぁぁ~」
ハナは切ない声を出して、頭を沈めつつ高校大学7年間交通費をケチるためだけに自転車を漕ぎまくってつちかった脚を惜しげもなく披露した。
「なんてこと!! 今助けに行くからねっ」
浜辺で祈りを捧げていた未悠はその声に反応してすっくと立ち上がり、オーロラヴェールに青のパレオ姿のまま、海の中に駆けこむのを先に海で泳いでいたまりおが声をかけた。走る彼女から、ちらりちらりとパレオの下から、引き締まった脚が見え隠れする。
「その格好で泳いで救助するって大変じゃない?」
「何言ってるのよ。格好なんて問題じゃないわ。人の命がかかってるのよ!」
未悠の言葉にふむ。と頷いたまりおは観智に大きく手を振ると同時に、観智が魔法を詠唱し始める。
「こんなこともあろうかと……ウォーターウォークを持って来ておいて良かったです……超級さん、よろしくお願いします」
魔力が集まると同時に、まりおは軽く水を蹴ってジャンプ!
そして次の瞬間、海面に着地すると、一気にハナに向かってダッシュ! 陸上部として鍛え、戦場を所狭しと走りまくって鍛えたがっちりしたふくらはぎが光る。
「びーーーーー ダァァァッシュ!! マメキノコもーど!!」
「は、わわぁ」
イケメンがボートから手を出して助けてくれることを期待したら、ハナの迫って来るのは水面を走って来る女の子だという衝撃。
ハナは即座に海中に逃げ出した。イケメンなのですぅ。用事があるのは!!
「USAモードのカブひっこぬき術もあるよっ」
まりおは海に沈もうとしていたハナをがっちりつかむとそのまま頭の上まで持ち上げた。
ハナは呆然とまりおの上で赤子のように身をすくませながら、呆然とするばかり。
「ひっこぬいたら、しゅーーーーとっ」
そのまままりおはもてる力でハナをぶん投げ、それを未悠ががっちりキャッチした。
「危ないところだったわね!」
「……思ってた展開と違いますぅ」
ハナは思わずぼやいたが、ふと気づけば観衆の多くから注目の視線を浴びている事に気が付いた。
いっぱい人がいすぎてどこに誰がいるかわからないが、今はチャンスかも。
「あーん、怖かったですぅ。ありがとうございましたぁ」
ハナは泣き顔を作りつつ、抱きかかえられたまま、シナを作ってその肢体を存分にアピールした。
「……本当に溺れかけてたわけ?」
慌てて医療道具を持ってきた灯が、そのあからさまなアピールに口元をひきつらせた。
「5月の海はまだ冷たいものですものね。さあ、それじゃ最後にしましょう!」
ルナはスカートをしぼって舟を降り、細い脚を海辺に浸けると大声で皆に声をかけた。
「みんなの心を一つにして、海に届け。この気持ち」
ルナの演奏で、巫女達は海の中で輪になり、大きく脚をひらけかす。
大地を踏みしめた。幾多の戦の風を駆け抜けた。鉄火を支えた。日常を歩んだ。色んな脚がご神体を中心にそそり立つ。
「海に感謝を。マテリアルよ。さんさんと降れ!!!」
白いシャツからオレンジの水着が映るクレールが演奏の終わりにご神体の前で大きく叫んだ。同時に太陽の光が雲間からクレールに降り注ぎ、海を、脚を照らし出した。
「楽しむ心が海に伝わり……正のマテリアルを増幅させ……負のマテリアルを打ち払うわけ……ですね」
ハンターがそれぞれの覚醒した姿は七色に輝き、海をも鮮やかに彩る。人間も新鮮な空気とマテリアルを求めるように。魚もまたこの虹色の海に集まってくるのかもしれない。
実際に豊漁になるかどうかはともかく、観客の町人達も強い関心を示しているのは間違いない。
きっと祭は成功だろう。
●
「あー、お腹減ったぁ。やっぱ水冷たかったね」
「ええ、もう体力使い切った……仲間がいるのは嬉しかったけど」
脚を上げ続けるっていうのは相当に大変だ。クレールは耳に入った水を出す為に、とんとんと跳ねつつ、魂と心の奥底の欲望を吐き出しきって抜け殻とかしたニケと共に町への坂道を登っていた。
すると町からは様々ないい匂いが。
横向きになった世界の町からは、様々な屋台が並んでいるではないか。そういえば、地均しばっかりしてたせいで周りの事はほとんど見てなかった。
「はい、大漁に願掛けして鯛焼きいかが? どんどん食べてって!」
売り子をしているのは未悠だ。後ろではロッカが悲鳴を上げつつ鯛焼きを必死に作っている。
「クレールもお疲れ様。美味しいのよ、これ。ニケも疲れた顔しちゃって。疲れた時は甘いものよっ」
と言いつつ、売り子のはずの未悠の口と両手がそれぞれ鯛焼きで埋まっている。
「だからつまみ食いすんなってのーーーー!」
「つまみ食いじゃないわ。味を伝えるため、美味しさを伝えるための宣伝よっ。見て見て。この鯛焼き、今回の美脚に合わせて足があるのよ」
ロッカに突っ込まれつつ未悠がじゃーん。と見せつけた鯛焼きは、鯛の全身と同じサイズの艶めかしい脚が付け加えられていた。
「それなんて、すけとうだら……」
もらったクレールは何とも言えず、もらった鯛焼きを見下ろしていた。
「歪虚はこなかったけど、ここの人間のセンスはかなり歪虚に近いものがあるわね。狂気に暴食に……」
海から上がって法被を着込んだマリィアも生足鯛焼きを見つめ、そして次の鯛焼きをぱくついている未悠を見た。
「そ、そんなことないわよ」
「だいたいこの看板も読めないじゃない。なんかの呪いの館かと思ったけど」
マリィアは看板を横目でみて、もらった鯛焼きを口に放り込む。確かに看板は釘をひきずった跡のような文字で、とても鯛焼き屋にはみえない。
「あれ書いたのってユリアンさんじゃなかったでしたっけ?」
演奏を終えて楽器を抱えて登って来るルナは一緒にアコーディオンを運んでくれるユリアンに尋ねた。
「そうそう。師匠の字を真似たんだ。商工会議所にかけあって祭りを盛り上げようってしててね。看板の字は頼むって言うから。師匠の字は味があって良いよね」
「そうですね……そっくり……」
ルナは曖昧にほほ笑んだ。その髪には真珠の髪飾りが光っているのを見つけてユリアンも微笑んだ。
「あ、その髪飾り。妹とおそろいの奴だね」
えへへ。
ルナが照れた笑いを見せる。のをハナはため息をついてみていた。
「うぅ、うらやましいですぅ」
「星野さん。脚はもう大丈夫ですか」
「良かったら運びますよ!」
町の人に囲まれていたが、顔はいささかタコ、イカ、マンボウ……。半魚人はノーサンキュー。イケメンはどこだ!
「ザレムさんがあんな祝詞を準備したからぁ……、責任とってほしいですぅ」
「いやあ、ザレムが考案した祝詞は最高だった。これできっと町は豊漁に喜ぶだろう! 来年もその祝詞を読ませてほしい」
ハナの怨嗟はどこ吹く風。ザレムの祝詞は大変受けがよく、イグを始め町の人々から英雄のように取り囲まれていた。
「もちろん。伝統となっていくことを切に願うよ!」
ザレムは満面の笑顔で答えた。
「あれも伝統にいれるべきか悩みますね」
町の人が視線を動かした先には、ブリスが自ら纏っていたコートを広げて、フローレンスとアーシュラを運んでいる所だった。
「姉様達の生足(とその上)をみて良いのはブリスだけ……なんだから!」
「ブリス、い、い、言わないで。早く行きましょう……」
視線が集まる中、真っ赤になって移動するフローレンス。
「おう、アーシュラまでなんでそんなところに?」
「ははは、いやー、飛び込みしたら上が脱げちゃってさ」
ゾールの問いかけにアーシュラは照れた笑いを浮かべるとそそくさ控室に連行されていった。
「これで良かったのでしょう」
ハンターの生足に魅了されたのか、町の人、老若男女問わず、腰衣や短いズボンでその脚をみんな見せている。
その真ん中で立つのは一枚絵の如き美しさを誇るエマだ。エマとメーレとクロシアの美しさは別格と評価されていた。二人の友人は重体のため、すぐに救急室に運び込まれたが、代表としてエマはその賞賛を浴びていた。
「これからも美がこの町を救うのね」
「うむ、皆からいただいたこの儀式を後代ににまで伝えて行かなくてはならん。町長もきっと前向きに考えてくれるはずだ」
イグと町長は顔を見合わせて頷いた。
「これからも美脚の町としてボラ族と共に我々は発展してゆくぞ。彌却祭万歳! 生足よ、永遠なれ!!」
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お祭り実行委員会室 ルナ・レンフィールド(ka1565) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/05/26 01:23:38 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/05/26 06:27:31 |