• 深棲

【深棲】グラズヘイムの盾―紅蓮の血路―

マスター:京乃ゆらさ

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
6~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/09/04 22:00
完成日
2014/09/12 21:00

みんなの思い出

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オープニング

●狂気の逃亡
 大型歪虚の死。
 それは、本来獲物を前にして逃亡などするはずのない「狂気」の歪虚をして、ラッツィオ島からの逃亡へと至らしめた。
 魚人のようなもの。不定形のもの。触手を脚のように使うもの。様々に醜悪なそれらが方々に散っていく。
 それらの多くはハンターや同盟海軍、聖堂戦士団などによって討たれたが、島周辺での討伐から辛くも逃げおおせた個体もまた、存在していた。
 ――そしてその討ち漏らしの一部は、西方半島本土へと『逃亡』していたのだった。

●村を巡る攻防
 その村は、リゼリオから三日ほどの位置にある漁村であり、宿場町であった。
 ポルトワールから陸路リゼリオを目指した場合、ちょうど一息つきたくなる場所とでも言おうか。
 そんな場所にあるものだから、当然村には商人や旅人など様々な人が金を落としていく。その金を使い、村は旅人が少しでも過ごしやすい環境を整える。さらに金が入ってくる。村長は気を良くして「安全」を村の武器に加えるべく柵を巡らせ自警団を組織する。
 我らが村を西方一の村に!
 そんなスローガンのもと、村人たちは今日も今日とて地道に労働に勤しんでいた。
 ――その異形の群が、現れるまでは。

「で、何だって俺らがこんなドサ回りみてえなことしないといけない?」
 グラズヘイム王国騎士団副団長にして赤の隊隊長ダンテ・バルカザールが、馬上で腕を組んだまま言った。後ろには数十の騎兵が追従しており、一糸乱れぬ行軍は見る者を惹きつけた。
 副官が大声で返す。
「あんたが言ったんでしょう、『こんな島に後一日といたら馬も俺も腐っちまう』って。それでこんな役回りになったんスよ!」
「ああん?」
 腕組みしたまま首を捻るダンテ。忘れてたんスか。副官が言い募ろうとした矢先、ダンテが前を指差した。その先には、街道を駆け戻ってくる数騎。斥候だ。
「報告! 敵集団は既に村の柵に取り付き自警団と交戦中! 既に少数の敵は村内に侵入していると思われ、また歪虚の群が柵を越えるのも時間の問題かと!」
「デカブツは?」
「20mクラス1、小型多数!」
「よし。このまま縦隊で突っ込むぞ。敵集団を突破後、半数が村内に留まり応戦。残りは俺と共にハンターが来るまで外から敵を削る!」
 ダンテが一気に速度を上げ大剣を抜く。前方、敵影が見る間に大きくなってくる。
「ハ、大型が死んでボスにでもなったつもりか? ありがとよ、てめえが集めてくれたおかげで雑魚どもを一掃できる」
 ダンテが哄笑し、釣られた一部の騎士が咆哮を上げた。副官はそんな隊長の生き生きとした後ろ姿を眺め、息をついた。
 こんな戦闘狂が、何で騎士団に収まってんだ。

●醜悪な世界
「はぁっ、はぁっ……!」
 王国騎士団・副団長にして赤の隊隊長ダンテ・バルカザールの副官は、24名の騎士たちと共に二度目の突撃を敢行、敵群から離脱して荒い息を吐き出した。
 異形の群は小型歪虚――と言っても人間大の歪虚が多いのだが――といえども硬い敵ばかりで、何の策もなく突撃を繰り返すだけではこちらが疲弊する一方に思える。が、敵の数は数えたくない程度には多く、こうして駆け回る中で機を見出していく以外にはないようにも感じられなくはなかった。
「ああもう! 気持ち悪い奴ばかり、嫌になるッスわちくしょう! クソ、あのファッキン戦闘マニアはどこに……?」
 八つ当たりでもするかのように自らの上官をそう呼び、ダンテを探す。戦場であの赤髪、あの大剣は目立つ。敵がより乱れている所に、いるはずだ。しかし。
 ――その隊長とハンターが中型を抑えない限り、こっちはジリ貧になる。
 あまりこの段階でダンテたちを戦わせるべきではない。彼らには、全力で中型に当たってもらわねばならないのだ。
 となれば、今、自分たちがすべきことは……?
「皆サン、大丈夫でしょーか? 自分はもうダメッス!」
「おい」「今こそ王国騎士たる矜恃の見せ所よ!」「私はともかく馬が潰れかねん」
「アー、ここまで駆け通しだったスからね……離脱時は下馬して突撃時だけ乗りましょう。皆サン、もうひと踏ん張り頼みます!」
「「「おう!!」」」
 副官が敵群を見据える。群の厚い部分。薄い部分。少しずつ見えてきたような気がするが、このまま敵群の外側を削るだけでいいのか。原野での野戦であれば、それが犠牲の少ない――しかし時がかかる――攻めだろう。双方対等の野戦であれば、だ。
 敵群内部に入り、留まる。あるいは二班に分かれて常時別角度、内外から一ヶ所を攻め続ける。そういった多彩な攻めができれば。しかしこの疲弊しがちな状況……。
 チラと副官がハンターたちの方を見やる。彼らはどう動くだろうか。
「――突撃!」
 僅かな逡巡ののち、股を締めて愛馬に疾駆の意志を伝えると、騎士たちは一気に敵群にぶつかっていった。

 小型歪虚掃討班のハンターたちは、各自の得物を振るって敵を屠りながら騎士たちの突撃を見ていた。
 肉の壁としか思えない敵群の向こうで騎士たちがやや群内に入り込み、しばらくして出てくる。今のところ、騎士に欠けた者はいないようだ。が、外側で戦闘するだけでは何の変化もなく、じきに村や、中型討伐班に被害が及んでくるのは確実だろう。
 ここで自分たちがどれだけ無理できるか。それが、問われていた。
 報酬を弾んでもらわないと割に合わないな。誰かが独りごちた――あるいは幻聴だったのかもしれないが――その言葉に、数人が首肯して敵群を、そしてその先の村を見やった。
 割と大きな村だ。だがこの規模の歪虚の群に呑まれれば、多くの人間が死ぬだろう。土地も犯されていくはずだ。それを見過ごすわけにはいかない。戦うための力があり、そして今、働き一つで大勢の人を守れる場に居合わせているのだから。別の数人が秘かに拳を握り締める。
 敵の醜悪な姿を見ていると、嫌悪感が込み上げると同時に何故かそういった様々な思いが湧き上がりそうになった。
 ハンターたちはそれらの全てを振り払うように、裂帛の気合と共に得物を振り下ろした……!

リプレイ本文

 けたたましい鳴き声が四方から響き、心の深い所を引っ掻いていく。
 名状し難い不快感。ラウィーヤ・マクトゥーム(ka0457)は剣の柄を握り締め、確かめるように蟹へ剣を突き出した。怒りに任せ突進してくる蟹。手綱を引いて受けると、ラウィーヤが反撃するより早くラミア・マクトゥーム(ka1720)が駆け抜けた。
「姉さん!」
「……大、丈夫」
 ラミアの短剣が脚を飛ばす。ラウィーヤは正確に敵の片目を貫き、馬首を巡らせた。弱った敵を殺すより別の敵を弱らせた方がいい。
 気が触れそうな音の中、微かに聞こえる人の声。村。柵に群がる歪虚。何故か、子どもの高い声だけ鮮明に届く。馬を寄せてくるラミアを見つめ、ラウィーヤは息を吐いた。
「……必ず」
 守る。
 敵の間を縫って馬が駆ける。全体が蠢くように隙間を埋めてくる敵群。正面。姉妹が同時に突撃する――寸前、1体が突然何かに弾かれた。
 触手が踊る。銃声。
「村が気になるのは確かだけど、気を付けて」
 自動拳銃の弾倉を交換し宇都宮 祥子(ka1678)。さらにジェールトヴァ(ka3098)が敵の頭を撃ち、嘆息した。
「倒れたら元も子もないからね。戦い続ける事がそのまま村の被害を抑える事に繋がる。とはいえこの大群は厄介だよ」
「全くだね。これだけの規模が残っていたとは」
 鳳 覚羅(ka0862)の魔導銃が火を噴き、エビの鋏を吹っ飛ばす。憎々しげにこちらを向く敵。覚羅は群中央の中型を見た。
 黒蛇。見たところ小型歪虚に統率など何もない。が、全ての小型は寄る辺を求めて黒蛇周辺に集ったのではないか?
 ――何かに縋っていたい、のかな。
「コレに感情なんてものがあるなら、だけどね」
 覚羅の銃弾が、エビの背を貫いた。

「敵陣に突撃するのなら、今がチャンスよねぇ?」
 ナナート=アドラー(ka1668)が馬上でフラメアを振るうと、切断された触手が宙で四散する。怯む敵。王国騎士団赤の隊隊長の副官が長槍で敵を穿つと、泥が流れるように敵が溶けた。副官が中型を見やる。
「何はともあれアレをどうにかしないとマズいスね」
「かの有名な赤の隊、その隊長殿であれば」ダーヴィド・ラウティオ(ka1393)が辺りを見回し「我々が動けば即座に呼応して奴に肉薄できるのではないかな」
「そりゃもう、臨機応変が口癖スから」
 状況を読み、己の欲望を満たす為の最良の道を選ぶ。
 ――おのが道を貫ける武勇、か。
 ダーヴィドが僅かに目を細めた時、周囲の歪虚が蠢きだした。村へ向かい始める集団。魔導銃の引鉄を絞る。1体がこちらを向く。騎士数人が突っ込んだ。敵は怯まない。シェリア・プラティーン(ka1801)が横合いから集団の進路へ割り込むや、先頭の敵を受け止めた。
「名も無き歪虚ども! この私が白金の名の下に討ち滅ぼして差し上げますわ!」
「全ての敵を止めなくてもいい、私達が総崩れして一斉に村へ押し寄せる事だけは避けねば!」
 シェリアが集団を止めた隙にダーヴィド、ナナートが追いつき、側背から敵を崩していく。シェリアが取り零しの背を見、眉根を寄せた。
「大群でさえなければあのような歪虚……!」
「村にも騎士やハンターは入ってる筈よね?」
 ナナートの問いに副官が首肯。ナナートはシェリアを宥めるように肩をポンと叩いた。
「要するに、村が呑まれる前に中型を討伐できればいい、ってところかしらん?」
「成程!」
 シェリアが副官にトランシーバーを預けると、自らの通信機に叫んだ。
「血路は私達が切り拓いてみせますわ! 貴方達は必ずやあの中型を!」
 この戦場のどこかにいる、中型討伐班へ。

●血路
「メネル傭兵隊の力、ご覧に入れよう」
 ダーヴィド以下8騎が駆ける。次第に早く流れゆく左右の景色。視界が狭まり敵が迫る。振り向く敵。ダーヴィド、祥子の銃撃。敵群が乱れる。馬腹を蹴り一気に加速、シェリアが飛び出すや空を穿つ槍の如く突っ込んだ。
 敵最後尾を馬蹄にかけ、勢いままにひた駆ける。追い縋る敵の触手。ラミアの短剣が弾き、覚羅の銃弾が本体を貫く。シェリア、ラウィーヤ、ダーヴィドが先頭となって引っ張る。触手。斬る。体当り。馬を右へ、衝撃を殺し発砲。闇弾。手綱を握り締め受けるや聖光を放つ。敵。貫く。敵、避ける、敵、撃つ、敵、払う、敵撃つ、敵斬る、敵避ける敵貫く敵斬敵撃敵敵敵敵敵テキテキテキテキ■■■■――……!
「呑まれるんでないよ! 目標11時方向、中型。友軍の道を拓くんだ、いいね!」
 声。ジェールトヴァ。突然視界が明るく啓けた。
 祓い給え、清め給え。祥子が独りごちたその文言を正確に理解する者は1人もいなかったが、何故か凛として聞こえた。覚羅の光剣が甲蟹を両断する。
「今時向こうじゃ馬上戦闘なんてほぼ廃れた戦いなんだけど。全く……まさか訓練が役立つ時が来るとはね」
 僅かに口角を上げんとする覚羅だが、冷や汗が頬を流れる。
 今や突撃の勢いは完全に消えつつある。初撃の勢いが足りなかった。もっと攻撃を集中していれば。このままでは届かない。焦燥感が8人の胸に広がり――
 直後、敵群に衝撃が走った。敵が圧されるように左右へ広がる。何が、起った?
 ナナートが周囲を探り――見つけた。後方。左右から騎士団がこちらに向かって敵群を貫いてきているのを。そして。
 赤髪の男を始めとした討伐班が、閉じかけていた道を強引にこじ開け突き進んできているのを……!

「ここまでお膳立てしたんだ、中型討伐……果たしてもらわないとね」
「中型は、任せたわ……!」
 ぎこちなく笑う覚羅と、腹に負った傷を押えて言うナナート。
「あれが、副団長の戦……」
 ダーヴィドが羨望と悔恨が綯交ぜになった表情で討伐班を見送る。彼らは見る間に血路を潜り抜けてくるや、一気呵成に黒蛇との距離を詰めていった。間に残る小型歪虚を薙ぎ払いながら。
 完全には血路を拓けなかった。が、忸怩たる思いを噛み締める暇は、ない。中型周辺の掃討。そして、
『――■■!』「――ぁぁぁ……!?」
 遠く聞こえる、村の自警団か誰かの声。
「私は村の救援に向かう!」
「……私、も……」
 ダーヴィド、ラウィーヤが敵群の奥深くへ進み、ラミアが遅れてついていく。彼らの思いが乗り移ったが如く、馬もまた懸命に駆ける。
 ――信頼、か。
「キミの脚が頼りだからね。頼んだよ」
 ポンと覚羅が自らの馬の首筋に触れると、馬が嘶いた。人馬一体。その言葉を体現するには時がなさすぎる。それでも互いが最善を尽そうと思えば、
「これからだよ、道を拓くだけが仕事じゃあない」
 馬は、応えてくれる。
 覚羅の光剣がすれ違いざまに軟体を両断する。ナナートの長槍がヒトデを吹っ飛ばした。
「アレが倒れるまで、雑魚ちゃん達の相手を引き受けないといけないものねぇっ」
「小型歪虚を掃討しますわよ!」
 あらゆる耳目を自らに引き付けるが如くシェリアが剣を頭上に掲げると、後方、騎士達の鬨の声が木霊した。

●村の行方
 醜悪な敵群を掻き分け村に近付いた時、3人は――そして馬も多くの力を消耗していた。
 ラウィーヤの一矢が柵に取り付いた敵の背を貫くが、敵は構わず柵を乗り越えていく。ラミアが左からの刃を払い、切り返す。黒い影が跳び退り、そこにダーヴィドの弾が命中した。
「銃で戦うなどまるで帝国兵だな……」
「とにかく敵を削るよ!」
 敵に統率などない。ならば大集団の分断を優先し、小集団の波にする。消波装置となればいいのだ。
 ダーヴィドの馬が駆ける。立ち塞がる敵。戦棍で頭部を叩き潰す。並び駆けるラウィーヤ。逆茂木に苦戦する敵群に背後から突っ込むや渾身の一撃を叩き込んだ。だが敵はひたすら村を見据える。
 嫌な、気配がした。
「右手、大きな群!」「むう……!」
 3人が急行、群に横合いから射撃する。だが。
 敵は一顧だにせず速度を上げ、村へ突撃していくではないか。その様、まさに狂気――!
「正面へ回る!」「危ないよ!」
 ラミアの静止を振り切りダーヴィドが群の進軍方向へ。戦棍をぶん回して突っ込むと同時に、敵群とぶつかった。
 暴風。数の暴力を前に一瞬で圧された。
 馬が横倒しになり膝をつくダーヴィド。敵の奔流が襲いかかる。馬。首を踏み砕かれ死んでいた。心に何かが湧き上がる。咆哮を上げ戦棍で敵を殺す。1体、2体。奔流はいつまでも続く。不意に背後が軽くなった。
 ラウィーヤとラミア。2騎が奔流に突き立つ岩の如く耐えている。が、大集団の進路は変らない。
 ――力が、あれば。
 それは3人共が抱いた渇望だった。ラウィーヤが村の方に目を向け――見た。騎士団――10騎程か、一塊の獣が、群に横撃をかけたのを。
 完全に群が止まる。同時にラミア達の馬も力尽き、2人は地に投げ出された。騎士団と合流してこの群を殲滅せねば。3人が群の中を先頭まで駆ける。各々の得物が閃き、数体の敵を屠る。
 9人の騎士が戦っていた。何とか敵を払い合流すると、1人が倒れ伏している。地を染める大量の赤。ラウィーヤの瞳が揺れる。
「っ……」「姉さん!」
 騎士達の馬も大半が限界だった。このまま手を拱いていては全滅しかねない。ラウィーヤは気丈に顔を上げ、提案した。
「……ここで陣地を、構築しましょう……暫く凌ぎ、そののち後退を……」
 遊撃はできなくなるが、ここにいるだけでも多少は村の役に立つ。全滅とは比ぶべくもない次善の策だ。
 そう思い自らを納得させんとするダーヴィドを嘲笑うかの如く。大きな群が、蠢き始めていた。

●狂気の行方
「中型が動くよ! すまないね、半魚人がそっちに行く!」
 中型周辺。ジェールトヴァが戦場を見渡し討伐班との繋ぎを果たせば、ナナートが味方をケアする。覚羅と祥子の銃が火を噴けば、シェリアは空隙に馬首を捩じ込ませ前線を押し上げる。
 そうして敵が乱れた瞬間を狙い突撃する騎士団。次第に算を乱す敵が出始め、それらは難なく討たれていく。しかし中型は、未だ倒れない。
 短いようで長く、長いようで短い時間。シェリアが馬上から刺突を繰り出すと、敵を貫くと同時にがくんと姿勢が崩れた。馬。前脚を折っている。敵の凶爪。馬が無理矢理敵側へ倒れ込む。腿を裂かれるシェリア。敵に止めを差してシェリアが振り返ると、馬が腹を裂かれ絶命していた。
 戦友の生き様。シェリアがその心を汲むように、盾を突き出し一気に敵を押し込む。
「私は絶対に屈しない! 屈する事ができない理由が、ありますもの!」
 光弾がヒトデを滅する。触手。左腕を絡め取られ、そこに蟹が突っ込んできた。大鋏が腹を締め上げてくる。ぶぢゅ、と体内の何かが潰れた。
「ぁ、か……っ!?」
 嘘のようにどす黒い塊を吐血するシェリア。鋏がさらに絞められ――光剣が、鋏を斬り飛ばした。
「今キミに倒れられたら困るからね」
「っ……」
 淡々と告げる覚羅だが、シェリアにはどこか温かく聞こえた。咳込みながら自ら応急処置を施すと、シェリアは再び立ち上がる。

 祥子が3点バーストで甲羅を撃ち抜くと、ナナートはその敵を長槍で薙ぐ。
 間断なく続く祥子の射撃。銃身が熱を持ち始めると拳銃に持ち替えリズムよく撃ち、弾倉が空になれば再び突撃銃に切り替える。ひたすら吐き出される銃弾が敵を止め、貴重な時間と空間を作り出していた。
「まだかかるようなら一旦離脱……」
「離脱? 冗談でしょ」
 腕から滴る血を拭うナナート。祥子は無表情で引鉄を引きながら。
「私達に退路なんてない。あるとすれば――前が退路よ」
 島津公も言ってたでしょ、などとのたまう祥子。ナナートが口元で笑った。
「解ってるわよん。言ってみただけ」
「それだけ話せるならまだ大丈夫そうだね」
 ジェールトヴァが光弾を放つと、ナナートが肩を竦めた。
 四面楚歌ならぬ四面狂気。この状態で離脱するには労力がかかりすぎる。低く響き渡る狂気の呻きに辟易したように、3人は眼前の敵へ得物を叩き込む。

 このままなら、刀折れ矢尽きる前にきっと中型が打倒される。
 そんな、幼少期の万能感にも似た淡い幻想は、次の瞬間、唐突に終りを告げた。

 それは、狂気の暴走であった。
 中型の咆哮。ジェールトヴァが見る。倒れ伏すハンター。動き出す巨体。中型の進攻を避ける5人の脇を、赤髪の男が駆け抜けていく。小型が一斉に喚声を上げた。シェリアが盾を以て1体を止める、いや止めきれない。先程までと打って変った圧力。中型の動きに呼応し小型の意気が上がっている。脚を撃つ覚羅だが、敵は既に村しか見ていない。
 5人が中型の後を追う。と、後方から追い越していく馬群。進路上の敵を撥ね飛ばし、騎士達が一気に中型に肉薄する。が。
 一蹴。中型の尾が、数人を馬ごと吹っ飛ばす。有り得ない形に折れて地に叩き付けられる騎士の姿が、はっきり見えた。
「っ、行きます!」
「お供しよう。敵うとも思えんが、戦う他あるまい」
 決死の覚悟を胸にシェリアが突っ込まんとすると、ダーヴィドが合流してきた。
 一蹴された騎士団が態勢を立て直すべく戻ってくる。合せて15人程か。一塊となって突っ込めばあるいは。一行が死の突撃を敢行しかけた――瞬間。
 中型の輪郭がぼやけ、黒い――霧のようなものとなった。
 一瞬の間。誰もが目を見開き、呆然とその様子を眺める。何故か小型歪虚も静止していて、戦場は時が止まったような静寂に包まれていた。
 黒い霧は次第に薄れ、幻だったかのように雲散霧消していった。
「……」
 音を出すのも憚られる、沈黙。そこに、大音声が轟いた。

「全軍突撃ィ!! 目標、その辺の雑魚ども! お前ら、くたばるなら敵の1匹でも殺してくたばりやがれ!!」

●グラズヘイム王国騎士団
 中型を失った敵群が再び動き出したのは、ダンテの号令から暫く経ってからだった。その時には既にハンターと騎士がかなりの敵を討っており、また動き出した敵も気力を失ったように緩慢な挙動だった。
 先程までの激戦が嘘のように、彼らは敵を殲滅していく。そして――

「やっと終り、かな」
 覚羅が村の方を見ると、損害状況を確認しているところだった。シェリアが膝をつき、剣すら落しつつ、それでも頭を働かせる。
「……何故、あの村にこんな大群が来たのでしょう。重要な何かがある……?」
「さて。豊かな所はマテリアルも多い。それだけでも奴らには充分だよ。それより」
 今は何も考えたくない。
 ジェールトヴァが馬から降り苦しげに腰を擦ると、ラミアが人好きのする笑顔で肩を貸した。

 そんな様子をダンテの副官は遠目に見つめる。ダーヴィドが格式張った歩調で近付いた。
「騎士団も、少しずつ蘇っているのでしょうな」
「さあ。あのバカ隊長についてくだけで精一杯スから、判らねース」
 ふざけた言葉の中に確かにある、矜恃。それがダーヴィドには眩しすぎて、ゆっくりと目を背けた。

 戦場だった場所には、死者を弔うかのように潮騒が遠く響いている。

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MVP一覧

  • 秘めし忠誠
    ダーヴィド・ラウティオka1393
  • 白金の盾
    シェリア・プラティーンka1801
  • 大いなる導き
    ジェールトヴァka3098

重体一覧

参加者一覧

  • ともしびは共に
    ラウィーヤ・マクトゥーム(ka0457
    人間(紅)|23才|女性|闘狩人
  • 勝利への雷光
    鳳 覚羅(ka0862
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 秘めし忠誠
    ダーヴィド・ラウティオ(ka1393
    人間(紅)|35才|男性|闘狩人
  • ミワクノクチビル
    ナナート=アドラー(ka1668
    エルフ|23才|男性|霊闘士
  • 山猫団を保護した者
    宇都宮 祥子(ka1678
    人間(蒼)|25才|女性|猟撃士
  • ずっとあなたの隣で
    ラミア・マクトゥーム(ka1720
    人間(紅)|15才|女性|霊闘士
  • 白金の盾
    シェリア・プラティーン(ka1801
    人間(紅)|19才|女性|聖導士
  • 大いなる導き
    ジェールトヴァ(ka3098
    エルフ|70才|男性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/09/02 08:13:01
アイコン 作戦相談卓
シェリア・プラティーン(ka1801
人間(クリムゾンウェスト)|19才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2014/09/04 21:12:09