ゲスト
(ka0000)
【禁断】孤島と毒煙と謎の塔
マスター:蒼かなた
- シナリオ形態
- シリーズ(続編)
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
- 1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/06/20 09:00
- 完成日
- 2016/06/26 21:12
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●増える被害者、深まる謎
冒険都市リゼリオで発生したマテリアル喪失による意識不明者が現れた事件は、何の進展も見せないままその被害を拡大していった。
しかも被害が出る場所はリゼリオだけに留まらず他の町でも被害が出始めたのだ。
特に辺境の開拓地『ホープ』での被害者は既に50人近くに登り、そこに住む人々の間には大きな不安が広がっていた。
これに対して部族会議も手を打とうとするが、そもそも何が起こっているのかさえ分かっておらず被害は増え続ける一方であった。
そんな折、もしかすると今回の件の解決の糸口になるかもしれないとある事件が発生した。
それはハンターが襲撃に遭ったという事件だった。辺境の中心地であるホープでまさかとは思われたが、現にそのハンターは今病院に担ぎ込まれていた。
そのハンターはまだ駆け出しの若い男で、辺境内での依頼を終えて休息の為に宿に戻ったばかりだった。
依頼が終わったばかりの疲れもあってか彼はベッドに倒れ込んで寝こけていたのだが、ふと目が覚めると部屋の中に気配を感じ飛び起きたらしい。
そこに居たのは1人の少女だった。侵入者が自分よりかなり幼い少女だったもので男は一瞬躊躇ってしまったがそれがいけなかった。
その少女はその隙を見逃さず飛び掛かってきたらしい。首元を掴まれた男は、突然体を襲った虚脱感に倒れそうになるが、何とか覚醒し少女を払い除けた。
少女はそこで逃げ出したので追おうとしたが、そこで急に覚醒が解け、体の自由が利かなくなって男は倒れてしまったらしい。
そして今は病院のベッドで寝ているのだが、1人の医者が念のためにと検査したところハンターの男のマテリアルがかなり乱れていることが判明した。
それは例のマテリアル喪失による他の患者の症状とかなり似通っているとの報告も上がっている。
これを受けて部族会議はその少女をハンター襲撃の犯人、そしてマテリアル喪失による意識不明者が出ている事件の重要参考人として捕らえることに決定した。
調べによるとその少女らしき人物が船に乗ってリゼリオ方面へ向かったとの情報も入っている。これを受け、部族会議は急ぎリゼリオへと連絡を取ることにした。
一方、リゼリオでも事件の調査が進められていた。
今回の事件の頼みの綱であったマテリアル学者スカイ・ナチュレの失踪も当然調べられている。
しかし彼の住まいである家を調べても目ぼしい手がかりは見つからず、そこに残っていた数々のマテリアルに関する資料からマテリアル喪失事件のヒントになりそうな情報を探してみたがこれも空振りであった。
だが、そこで学者スカイが実は数年前にとある事故に巻き込まれて住居を移していたことが判明した。
彼が居を構えていたのはリゼリオ沿岸にある群島の中の1つの小島だったのだが、突如として地下から噴出した毒性の煙によって人が住めなくなってしまったのだ。
その時にスカイは多くの資料を島に残してきたということも分かり、もしかすればという藁にも縋る考えの元でその毒煙の立ち込める島の調査が検討されることとなる。
その毒煙は極めて危険で一般人では到底島に近づくことは不可能だと分かった。
だが、覚醒者であれば持ち前の抵抗力により覚醒中の数時間の間ならば島内での活動が可能ということも分かった。
しかし、とは言え毒の立ち込める危険な場所に、あるかも分からない資料を探しに行って来てくれとハンター達に頼むのもどうかという問題がある。
その時、辺境から逃亡犯である少女がリゼリオに向かっているとの情報が舞い込んできた。
そして更に、例の毒煙の立ち込める島に渡る船有りとの情報も同時に届いたのだった。
●少女と白猫
少女はじっと空を見つめていた。青く塗られたキャンバスの上にところどころに白い絵の具がぺたぺたと塗ってある。
それ以外は何もない、ただただ平凡で普通なありきたりの空だ。
「……」
少女はその空に向けてそっと手を伸ばしてみた。それで空に届くわけがないし、別に何かを掴みたいわけでもない。
ただ、自分はあの空が好きだったはずだから。そんな好きなものを見た時にする行動は何かと考えた時に、思いついたのは手を伸ばすということだった。
「――ニィ」
そんな少女の隣で白い毛並みの猫が鳴いた。少女はその猫に視線をやり、そして手を伸ばしてみた。
白猫はその手に近寄り頭を軽く擦りつける。その様子を眺めながら少女はぽつりと言葉を溢した。
「私は……猫が好きだったのかな?」
その問いに答えてくれる者は誰もいなかった。
●聳える塔
一連の事件の解決の為、毒煙の立ち込める島にハンター達が派遣されることになった。
その目的は2つ。1つは学者スカイの住居からマテリアルに関する資料を持ち帰ること。
そしてもう1つが、辺境にてハンターを襲った少女を捕らえることだ。
後者の目的に関しては、その少女がこの島にいる確証はないので何とも言えないので、見つけた場合はということだったが。
ともかくハンター達は小舟に乗って島に辿り着き、そして覚醒状態を保ったまま島内を進んでいく。
その視界はどこか灰色がかり、この島が完全に毒煙によって死の島になっていることが分かった。
道中には植物すら生えておらず、見かけたのは枯れた木々や毒の影響を受けない無機物の石くらいだった。
そして、ハンター達は島の中央にあるスカイの元住居へと辿り着く。そこにあったのは、高く聳える1つの塔であった。
石造りの塔は毒煙の影響を受けておらず、恐らくこの島内で唯一残っている建造物だろう。
ハンター達は塔の周りをぐるりと回り、鉄製の扉を見つけてそこから中に入ることに決めた。
塔の中に入ってやや錆びついた鉄扉を閉める。と、そこでハンター達はあることに気づいた。視界がクリアになったのだ。
それはつまり、この塔内に毒煙が入ってきていないということだ。
ハンター達は塔の中を見渡す。今いる場所は大広間らしく、その先には別の部屋へと続く扉も見える。
そして視線を左右に降れば上へ登る為の階段と、下に降る為の階段も見える。
さて、どこから調査したものだろうか? そんな思いの中ここに集ったハンター達は互いに視線を交えた。
冒険都市リゼリオで発生したマテリアル喪失による意識不明者が現れた事件は、何の進展も見せないままその被害を拡大していった。
しかも被害が出る場所はリゼリオだけに留まらず他の町でも被害が出始めたのだ。
特に辺境の開拓地『ホープ』での被害者は既に50人近くに登り、そこに住む人々の間には大きな不安が広がっていた。
これに対して部族会議も手を打とうとするが、そもそも何が起こっているのかさえ分かっておらず被害は増え続ける一方であった。
そんな折、もしかすると今回の件の解決の糸口になるかもしれないとある事件が発生した。
それはハンターが襲撃に遭ったという事件だった。辺境の中心地であるホープでまさかとは思われたが、現にそのハンターは今病院に担ぎ込まれていた。
そのハンターはまだ駆け出しの若い男で、辺境内での依頼を終えて休息の為に宿に戻ったばかりだった。
依頼が終わったばかりの疲れもあってか彼はベッドに倒れ込んで寝こけていたのだが、ふと目が覚めると部屋の中に気配を感じ飛び起きたらしい。
そこに居たのは1人の少女だった。侵入者が自分よりかなり幼い少女だったもので男は一瞬躊躇ってしまったがそれがいけなかった。
その少女はその隙を見逃さず飛び掛かってきたらしい。首元を掴まれた男は、突然体を襲った虚脱感に倒れそうになるが、何とか覚醒し少女を払い除けた。
少女はそこで逃げ出したので追おうとしたが、そこで急に覚醒が解け、体の自由が利かなくなって男は倒れてしまったらしい。
そして今は病院のベッドで寝ているのだが、1人の医者が念のためにと検査したところハンターの男のマテリアルがかなり乱れていることが判明した。
それは例のマテリアル喪失による他の患者の症状とかなり似通っているとの報告も上がっている。
これを受けて部族会議はその少女をハンター襲撃の犯人、そしてマテリアル喪失による意識不明者が出ている事件の重要参考人として捕らえることに決定した。
調べによるとその少女らしき人物が船に乗ってリゼリオ方面へ向かったとの情報も入っている。これを受け、部族会議は急ぎリゼリオへと連絡を取ることにした。
一方、リゼリオでも事件の調査が進められていた。
今回の事件の頼みの綱であったマテリアル学者スカイ・ナチュレの失踪も当然調べられている。
しかし彼の住まいである家を調べても目ぼしい手がかりは見つからず、そこに残っていた数々のマテリアルに関する資料からマテリアル喪失事件のヒントになりそうな情報を探してみたがこれも空振りであった。
だが、そこで学者スカイが実は数年前にとある事故に巻き込まれて住居を移していたことが判明した。
彼が居を構えていたのはリゼリオ沿岸にある群島の中の1つの小島だったのだが、突如として地下から噴出した毒性の煙によって人が住めなくなってしまったのだ。
その時にスカイは多くの資料を島に残してきたということも分かり、もしかすればという藁にも縋る考えの元でその毒煙の立ち込める島の調査が検討されることとなる。
その毒煙は極めて危険で一般人では到底島に近づくことは不可能だと分かった。
だが、覚醒者であれば持ち前の抵抗力により覚醒中の数時間の間ならば島内での活動が可能ということも分かった。
しかし、とは言え毒の立ち込める危険な場所に、あるかも分からない資料を探しに行って来てくれとハンター達に頼むのもどうかという問題がある。
その時、辺境から逃亡犯である少女がリゼリオに向かっているとの情報が舞い込んできた。
そして更に、例の毒煙の立ち込める島に渡る船有りとの情報も同時に届いたのだった。
●少女と白猫
少女はじっと空を見つめていた。青く塗られたキャンバスの上にところどころに白い絵の具がぺたぺたと塗ってある。
それ以外は何もない、ただただ平凡で普通なありきたりの空だ。
「……」
少女はその空に向けてそっと手を伸ばしてみた。それで空に届くわけがないし、別に何かを掴みたいわけでもない。
ただ、自分はあの空が好きだったはずだから。そんな好きなものを見た時にする行動は何かと考えた時に、思いついたのは手を伸ばすということだった。
「――ニィ」
そんな少女の隣で白い毛並みの猫が鳴いた。少女はその猫に視線をやり、そして手を伸ばしてみた。
白猫はその手に近寄り頭を軽く擦りつける。その様子を眺めながら少女はぽつりと言葉を溢した。
「私は……猫が好きだったのかな?」
その問いに答えてくれる者は誰もいなかった。
●聳える塔
一連の事件の解決の為、毒煙の立ち込める島にハンター達が派遣されることになった。
その目的は2つ。1つは学者スカイの住居からマテリアルに関する資料を持ち帰ること。
そしてもう1つが、辺境にてハンターを襲った少女を捕らえることだ。
後者の目的に関しては、その少女がこの島にいる確証はないので何とも言えないので、見つけた場合はということだったが。
ともかくハンター達は小舟に乗って島に辿り着き、そして覚醒状態を保ったまま島内を進んでいく。
その視界はどこか灰色がかり、この島が完全に毒煙によって死の島になっていることが分かった。
道中には植物すら生えておらず、見かけたのは枯れた木々や毒の影響を受けない無機物の石くらいだった。
そして、ハンター達は島の中央にあるスカイの元住居へと辿り着く。そこにあったのは、高く聳える1つの塔であった。
石造りの塔は毒煙の影響を受けておらず、恐らくこの島内で唯一残っている建造物だろう。
ハンター達は塔の周りをぐるりと回り、鉄製の扉を見つけてそこから中に入ることに決めた。
塔の中に入ってやや錆びついた鉄扉を閉める。と、そこでハンター達はあることに気づいた。視界がクリアになったのだ。
それはつまり、この塔内に毒煙が入ってきていないということだ。
ハンター達は塔の中を見渡す。今いる場所は大広間らしく、その先には別の部屋へと続く扉も見える。
そして視線を左右に降れば上へ登る為の階段と、下に降る為の階段も見える。
さて、どこから調査したものだろうか? そんな思いの中ここに集ったハンター達は互いに視線を交えた。
リプレイ本文
●塔内探索
ハンター達は一先ず手分けして塔内をくまなく調べてみることにした。
「それじゃあ僕は一番上を見てきます。あの扉、開けるのに時間かかりそうですし」
ナタナエル(ka3884)はそう言って階段を上がっていく。
「それじゃあ私は地下を見てこようかしら」
「あっ、それならわたしも一緒に着いて行っていいかな?」
地下へと降りる階段に視線を向けているケイ(ka4032)に、サッと手を挙げたネムリア・ガウラ(ka4615)が同行を希望する。
「それじゃあ私も一緒に行くわ。分かれるなら連絡用のトランシーバーは誰かが持ってないとよね」
リアリュール(ka2003)は腰に装着したトランシーバーをぽんと叩いてネムリアの隣に立つ。
「いいわ。それじゃあ3人で地下探索に向かいましょう」
ケイ、ネムリア、リアリュールの3人はそれぞれ明かりを手にしながら地下の階段を降りていく。
それを見送ったデルフィーノ(ka1548)は、残ったメンバーに視線を向ける。
「それじゃ、余った野郎共でまずはこの1階を調べるとするか」
「そうですね。っと、その前に……」
葛音 水月(ka1895)はくるりと振り返って塔の入り口の扉に視線をやる。そこには50cmほどの長さの薪らしき木片が立てかけられていた。
「動かされた様子はないですねー」
この薪は塔に入って扉を閉めてすぐに水月が置いたもので、自分達以外の誰かが入ってくる、または出て行けば分かる様にと仕掛けたのだ。
「そうか。それにしてもやっぱり妙だな。最近まで使われてたっぽいしな、この場所は」
そう言ってデルフィーノはすぐ傍にある椅子の背もたれを軽く指でなぞる。
すると指先には埃が付着するが、量から見ても精々数ヵ月分といったところか。
その時である。木々を砕くような破砕音が響いた。それに反応したデルフィーノと水月は思わず武器を構え、音のした方向へと向ける。
「あっ、悪い。開かないもんでつい力籠めすぎたぜ」
するとそこには金属製の部品をぷらぷらと振る凰牙(ka5701)の姿があった。その背後には、ドアノブの部分が無くなっている扉が見える。
でも扉は開いたぜ、とドアノブを放って凰牙は扉の奥へと進む。それを見たデルフィーノと水月は、互いに一度顔を見合わせてから、その後に続いた。
「んー、ここは……」
「まあ、厨房ですよねー」
扉を潜った先には木製のテーブルに沢山の棚が並んでいる。棚の中には食器や調理器具などが仕舞われたままになっている。
「ここも最近まで使われてた形跡があるな」
「この場所の食器を使いまわしていたとなると、居たのは多くて1人か2人でしょうか?」
「そう見て間違いないだろう。まあ、もしかすると1人と1匹かもな」
デルフィーノはそんな推測を溢した。それもこの依頼を受ける時に説明された、辺境で事件を起こしたと言う少女の話を聞いた所為だろう。
「シャルさんですか。あの子もここに来る、いや、来てるんですかねー?」
これまで何度も遭遇してきた謎の少女、シャル。彼女の目的は不明だが、最近はハンター達と敵対する場面も出てきている。
「訳分かんねぇよな」
凰牙がそうぼやいた。
「正直、何が起こってるのか分かんねぇ。あのシャルって奴が敵なのか味方なのかも。結局、俺たちはここで何をすればいいんだ?」
鬼故に、と言うべきか。凰牙は普段から難しいことは考えない性質だ。殴って解決すればそれが一番、とまでは言わないが、単純明快なもののほうが好ましい。
「スカイの失踪、マテリアルの枯渇、犯人かもしれねー少女……さて、何がどう繋がってるんだろうな」
俺にも分からん、とデルフィーノは覗いていた食器棚の戸を閉めた。
その頃、地下に降りたハンター達3人は目の前に積み上げられた木箱を見上げていた。
木箱の量はかなりのもので、地下の半分近くを埋め尽くすほどだ。
「んっ……かなり重いわ。ネムリア、手伝ってくれるかしら?」
「うんっ」
リアリュールとネムリアは積み上げられている木箱の1つを床に降ろし、その蓋を開いて中身を確認してみる。
「……石? 鉱石かしら」
「あっ、それ……」
リアリュールは1つ手に取ってみるが、それは何の変哲もない石のように見える。
だが、ネムリアにはそれに見覚えがあった。それはずっと前のこと。そう、何かの縁が始まったあの時の坑道で見かけたものにそっくりだった。
「これ、マテリアル鉱石だと思うの」
「マテリアル鉱石? でも……いえ、確かに少しだけマテリアルを感じるわ」
ネムリアの言葉にリアリュールは一度首を傾げた。しかし、よくよく感じとってみれば確かに普通の鉱石よりもマテリアルを持っていることが分かる。
「けど、随分と保有量が少ないわ。どうしてかしら?」
「んー……どうしてだろう?」
調べてみると箱の中のマテリアル鉱石は全て保有量が極端に少ない。これでは殆ど何の役にも立たない屑石同然だ。
「けど、マテリアルがない……これって、もしかしてマテリアルが抜かれた所為?」
そこでリアリュールが1つの可能性に気づく。それは今あちこちで事件となっているマテリアル喪失による意識不明になる事件を連想させたのだ。
「どうにも怪しい感じね」
ふぅ、とリアリュールは溜息を吐く。
「犯人は、シャルじゃないと思う」
そこでネムリアがぽつりと言葉を溢した。
「ネムリア?」
「だって、シャルは……わたしの友達なんだから」
ぐっと胸元で手を握り合わせ、そしてネムリアは小さく微笑んで見せた。
「ええ、そうね。私もシャルじゃないといいと思ってるわ」
リアリュールはそんなネムリアの表情を見て、小さく笑みを浮かべてからこくりと頷いた。
●埃の積もった光と闇
2階にある部屋はやはり思ったとおり居住スペースであった。
「んー、特にこれといったものはないな」
そんな部屋の中の1つで、凰牙は部屋の中をあれこれと調べながらそう呟く。
「……これなんだろう?」
と、そこでネムリアが棚の中から何かを見つけた。引っ張り出してみると、それは手のひらの上に乗るくらいの小さな手帳だった。
ネムリアは何か手がかりがあるかもと手帳を開いてみる。すると、これが手帳ではないことに気づいた。
「これ、アルバムだ」
そこには何枚かの写真が収められていた。何れも1組の男性と女性が中心になったもので、男性の方には見覚えがあった。
「あっ、前に回収した人じゃないですか。ちょっと若いから10年は前ですかね?」
水月もそのアルバムを覗き込んでそう口にした。写真を撮ったのは年に2~3回のようで、それは幸せな夫婦の思い出といったようなものだった。
そして手帳の半分を過ぎたところで、夫婦以外にもう1人登場人物が現れた。
「わあ、赤ちゃんだ。可愛い」
それは母親に抱かれた小さな赤子だった。数ページ進むと薄い青髪の少女がこのアルバムの主役になる。
「あのスカイって学者、奥さんと娘がいたんだな」
少し意外だといった風に凰牙は零す。
と、ページを捲っていくと最後に行きつく前に写真が無くなってしまった。
どうやら最後に撮ったのは、青髪の少女が10歳くらいの時の家族3人での集合写真のようだ。
「愛する夫スカイ、愛する娘ミラと共に……って書いてありますね」
水月はなんとなしにその写真の裏を覗き、そこに書いてあった文字を読み上げる。
「この子はミラって言うんだ」
このアルバムは時に今回の依頼には関係ありそうにない。ただ、何となく気になったネムリアはその写真も持ち帰ることに決めた。
一方3階を調べている3人にはこれといった成果はなかった。
応接間にある古びた調度品に怪しいところはなく、図書館のほうにもマテリアルの研究に関わりそうな本はなかった。
「この階は完全にハズレだな」
「そう? この絵本、意外と興味深いかも」
リアリュールは『そらはなぜあおいの?』というタイトルの絵本をぺらぺらと捲りながらそう言う。
「ふぅー、やっと開きました」
と、そこでナタナエルが額を拭う仕草をしながら階段の上から降りてきた。
「漸くか。随分と梃子摺ったな?」
「鍵自体は古いものだったんですけど、かなりレベルの高いものだったんです。一体あの部屋の向こうに何があるのやら」
ナタナエルは階段上に視線を向けて、未だ開いていない扉を見やる。
「さて、いきましょう」
4人は階段を上がり、4階の扉をそっと開いた。
「うっ……何、この臭い?」
扉を開けてまず感じたのは何とも言えない悪臭だった。何かが腐ったような腐敗臭、それ以外にも薬品や、何か分からないが鼻を突く刺激臭も混じっている。
「おいおい、何だよこりゃ……」
デルフィーノはそれを目にして絶句する。部屋の隅に積み上げられていたのは、腐汁を垂れ流す大量の肉の塊だった。
その肉塊の大きさはさまざまで、小さい物はネズミほど、大きいと人間大のものまで見受けられる。
ただ、どれも元が何だったのかは分からない崩れた肉団子としか言いようがないものだった。
「こっちは薬棚ね。こっちには本棚もあるわ」
リアリュールはその本棚近くにある作業机に目を向けた。そのテーブルの上には大量の紙が散乱しており、よく見れば大量の殴り書きがされている。
『マテリアルの保有量は個体の質量的な大きさに必ずしも比例するものではない。何故か?』
『マテリアルはあきらかに個性を持っている。種族や生態だけでなく、1つの個としての性質を内包しているようだ』
『個を持つ意味。それはつまり、マテリアルはエネルギー以外の要素を持ち合わせているのか?』
ざっと目を通しただけだがこんな内容が記されていた。そして、その紙束の中から唯一しっかり冊子として纏められているものを見つける。
「何かの論文かしら?」
「皆、ちょっと来てくれ!」
リアリュールがその冊子を読もうとしたところで、ナタナエルの呼ぶ声がした。
読むのを止めてそちらへと向かうと、そこにはほんの僅かにだが明かりがあった。
ぼんやりとした小さな明かりに照らされているナタナエル。その目の前に何やら大がかりな鉄の塊が鎮座していた。
「こいつは、魔導機械みたいだな」
機導師であるデルフィーノは一目でそれが何であるか分かった。だが、1ルーム分ほどのスペースを取るこの大きな魔導機械が一体何なのかまでは見当がつかない。
「まだ稼働しているようですけど、一体……」
すっとナタナエルは淡い光を放つ魔導機械の表面に触れようとする。
「触っちゃ駄目」
と、そこで突然そんな声が駆けられた。その方向へと視線を向けると、壁沿いの天井付近で金色に相貌が光った。
●少女の目的
「その声……シャルか?」
「そう」
壁を蹴る音と共に、黒いマントを纏った少女シャルがハンター達の側に降り立った。
「触っちゃ駄目って、シャルはこれが何だか知ってるのかな?」
「知ってる」
ナタナエルの問いにシャルは簡潔に答える。
「……何のための魔導機械なんだ?」
「毒煙を塔に入れないようにする」
デルフィーノの問いにもシャルはあっさりと答えた。
そしてこの塔が何らかの目的の為に誰かが使っていたことを確信する。そして、その最有力候補は今目の前にいる少女だ。
「ねえ、シャル。どうしても教えて欲しいことがあるの」
「……何?」
首を傾げるシャルに、リアリュールは辺境で起きた事件の事を伝える。そして尋ねる。
「シャルじゃないよね?」
「……」
その問いにシャルは答えない。だが、それは殆ど答えているも同然だった。
「シャル、つまり君は……黒というわけだね?」
「……?」
ナタナエルの問いに、シャルは首を傾げた。その言葉の意図を読み取れていないように見える。
ただ、少し間を置いてシャルは口を開いた。
「私は悪い事をしている」
その言葉だけで十分だった。ナタナエルは腰から素早くダガーを引き抜く。
「待って!」
だが、それをいざ構えようとしたところで大きな声が部屋の中に木霊した。
「待って、ナタナエル。お願い、私にもシャルとお話させて!」
現れたのはネムリアだった。走り込んできたネムリアはシャルとナタナエルの間に入り、そう訴える。
ナタナエルはダガーを降ろさないが、仕掛けもしない。それを見たネムリアはシャルへと向き直る。
「ねえ、シャル。シャルが助けたいのは歪虚じゃないよね?」
「違う」
ネムリアの問いにシャルは即答した。何故そんなことを聞くのかと、答えたあとに首を傾げる仕草も見せる。
それを聞いてネムリアは胸を撫で下ろす。だが、それで一件落着ではない。ネムリアの耳にも聞こえていたシャルの告白。
「ねえ、どうして悪い事をしているの?」
「……」
ネムリアの問いにシャルは押し黙る。ただ、表情を曇らせ僅かに視線をそらした。
「おい、いい加減にしろよ! お前が思ってる事全部吐きだしちまえ! 言うだけならタダだ。俺たちなら聞いてやるぜ!」
そこで凰牙もやってきた。その後ろには水月の姿もある。
「なあ、シャル。俺からも頼む……教えてくれ」
デルフィーノもまた、シャルのことが知りたいとまっすぐに言葉を投げかけた。
シャルの猫のような金色の瞳を、デルフィーノは揺らぐことなく正面から見つめる。
「……お母さんを、助けるため」
ぽつりと、絞り出すように小さな声でシャルはそう零した。
「お母さんを……?」
「そう。その為にマテリアルが沢山必要」
シャルはそう口にする。嘘を吐いているようには見えないが、要領を得ない。
「お母さんを助ける為にどうしてマテリアルが必要なんでしょうか? もしかして、誰かにそう教えて貰ったんです?」
水月の問いにシャルはこくりと頷いた。
まだ分からないことは多いが、どうやらシャルの背後には誰か他の人物がいるのは確かなようだ。
「とりあえず、シャル。詳しい話を聞きたいから――!?」
デルフィーノがシャルに手を差し伸べたその瞬間である。急激なマテリアルの高まりを感じ、思わず身構える。
だがそのマテリアルを発しているのはシャルではなかった。
「おい、その機械なんかヤバくないか!?」
凰牙の目には先ほどまで淡い光を放っていた魔導機械が、突然赤くなりだしたと思ったら大量のマテリアルを吐き出し始めたのだ。
「……忘れていた。この塔はそろそろ崩れる」
「何でそうなる!」
「私はその為にここに来た」
「そういうことかよ! 早く言えよそういうことは!」
シャルの言葉に凰牙が咆える。そうこうしている間に、塔自体が徐々に揺れ始める。
「シャルさんもやってくれますねー」
「とにかく脱出するぞ!」
塔の崩壊に巻き込まれたらハンターと言えどもただでは済まない。ハンター達は急ぎ階下へと走る。
「シャル、一緒に!」
「……ごめん」
ネムリアがシャルに手を伸ばす。だが、シャルはそれを一目見てから首を横に振り、壁を蹴って天井へと駆け上がり姿を消した。
ハンター達は一先ず手分けして塔内をくまなく調べてみることにした。
「それじゃあ僕は一番上を見てきます。あの扉、開けるのに時間かかりそうですし」
ナタナエル(ka3884)はそう言って階段を上がっていく。
「それじゃあ私は地下を見てこようかしら」
「あっ、それならわたしも一緒に着いて行っていいかな?」
地下へと降りる階段に視線を向けているケイ(ka4032)に、サッと手を挙げたネムリア・ガウラ(ka4615)が同行を希望する。
「それじゃあ私も一緒に行くわ。分かれるなら連絡用のトランシーバーは誰かが持ってないとよね」
リアリュール(ka2003)は腰に装着したトランシーバーをぽんと叩いてネムリアの隣に立つ。
「いいわ。それじゃあ3人で地下探索に向かいましょう」
ケイ、ネムリア、リアリュールの3人はそれぞれ明かりを手にしながら地下の階段を降りていく。
それを見送ったデルフィーノ(ka1548)は、残ったメンバーに視線を向ける。
「それじゃ、余った野郎共でまずはこの1階を調べるとするか」
「そうですね。っと、その前に……」
葛音 水月(ka1895)はくるりと振り返って塔の入り口の扉に視線をやる。そこには50cmほどの長さの薪らしき木片が立てかけられていた。
「動かされた様子はないですねー」
この薪は塔に入って扉を閉めてすぐに水月が置いたもので、自分達以外の誰かが入ってくる、または出て行けば分かる様にと仕掛けたのだ。
「そうか。それにしてもやっぱり妙だな。最近まで使われてたっぽいしな、この場所は」
そう言ってデルフィーノはすぐ傍にある椅子の背もたれを軽く指でなぞる。
すると指先には埃が付着するが、量から見ても精々数ヵ月分といったところか。
その時である。木々を砕くような破砕音が響いた。それに反応したデルフィーノと水月は思わず武器を構え、音のした方向へと向ける。
「あっ、悪い。開かないもんでつい力籠めすぎたぜ」
するとそこには金属製の部品をぷらぷらと振る凰牙(ka5701)の姿があった。その背後には、ドアノブの部分が無くなっている扉が見える。
でも扉は開いたぜ、とドアノブを放って凰牙は扉の奥へと進む。それを見たデルフィーノと水月は、互いに一度顔を見合わせてから、その後に続いた。
「んー、ここは……」
「まあ、厨房ですよねー」
扉を潜った先には木製のテーブルに沢山の棚が並んでいる。棚の中には食器や調理器具などが仕舞われたままになっている。
「ここも最近まで使われてた形跡があるな」
「この場所の食器を使いまわしていたとなると、居たのは多くて1人か2人でしょうか?」
「そう見て間違いないだろう。まあ、もしかすると1人と1匹かもな」
デルフィーノはそんな推測を溢した。それもこの依頼を受ける時に説明された、辺境で事件を起こしたと言う少女の話を聞いた所為だろう。
「シャルさんですか。あの子もここに来る、いや、来てるんですかねー?」
これまで何度も遭遇してきた謎の少女、シャル。彼女の目的は不明だが、最近はハンター達と敵対する場面も出てきている。
「訳分かんねぇよな」
凰牙がそうぼやいた。
「正直、何が起こってるのか分かんねぇ。あのシャルって奴が敵なのか味方なのかも。結局、俺たちはここで何をすればいいんだ?」
鬼故に、と言うべきか。凰牙は普段から難しいことは考えない性質だ。殴って解決すればそれが一番、とまでは言わないが、単純明快なもののほうが好ましい。
「スカイの失踪、マテリアルの枯渇、犯人かもしれねー少女……さて、何がどう繋がってるんだろうな」
俺にも分からん、とデルフィーノは覗いていた食器棚の戸を閉めた。
その頃、地下に降りたハンター達3人は目の前に積み上げられた木箱を見上げていた。
木箱の量はかなりのもので、地下の半分近くを埋め尽くすほどだ。
「んっ……かなり重いわ。ネムリア、手伝ってくれるかしら?」
「うんっ」
リアリュールとネムリアは積み上げられている木箱の1つを床に降ろし、その蓋を開いて中身を確認してみる。
「……石? 鉱石かしら」
「あっ、それ……」
リアリュールは1つ手に取ってみるが、それは何の変哲もない石のように見える。
だが、ネムリアにはそれに見覚えがあった。それはずっと前のこと。そう、何かの縁が始まったあの時の坑道で見かけたものにそっくりだった。
「これ、マテリアル鉱石だと思うの」
「マテリアル鉱石? でも……いえ、確かに少しだけマテリアルを感じるわ」
ネムリアの言葉にリアリュールは一度首を傾げた。しかし、よくよく感じとってみれば確かに普通の鉱石よりもマテリアルを持っていることが分かる。
「けど、随分と保有量が少ないわ。どうしてかしら?」
「んー……どうしてだろう?」
調べてみると箱の中のマテリアル鉱石は全て保有量が極端に少ない。これでは殆ど何の役にも立たない屑石同然だ。
「けど、マテリアルがない……これって、もしかしてマテリアルが抜かれた所為?」
そこでリアリュールが1つの可能性に気づく。それは今あちこちで事件となっているマテリアル喪失による意識不明になる事件を連想させたのだ。
「どうにも怪しい感じね」
ふぅ、とリアリュールは溜息を吐く。
「犯人は、シャルじゃないと思う」
そこでネムリアがぽつりと言葉を溢した。
「ネムリア?」
「だって、シャルは……わたしの友達なんだから」
ぐっと胸元で手を握り合わせ、そしてネムリアは小さく微笑んで見せた。
「ええ、そうね。私もシャルじゃないといいと思ってるわ」
リアリュールはそんなネムリアの表情を見て、小さく笑みを浮かべてからこくりと頷いた。
●埃の積もった光と闇
2階にある部屋はやはり思ったとおり居住スペースであった。
「んー、特にこれといったものはないな」
そんな部屋の中の1つで、凰牙は部屋の中をあれこれと調べながらそう呟く。
「……これなんだろう?」
と、そこでネムリアが棚の中から何かを見つけた。引っ張り出してみると、それは手のひらの上に乗るくらいの小さな手帳だった。
ネムリアは何か手がかりがあるかもと手帳を開いてみる。すると、これが手帳ではないことに気づいた。
「これ、アルバムだ」
そこには何枚かの写真が収められていた。何れも1組の男性と女性が中心になったもので、男性の方には見覚えがあった。
「あっ、前に回収した人じゃないですか。ちょっと若いから10年は前ですかね?」
水月もそのアルバムを覗き込んでそう口にした。写真を撮ったのは年に2~3回のようで、それは幸せな夫婦の思い出といったようなものだった。
そして手帳の半分を過ぎたところで、夫婦以外にもう1人登場人物が現れた。
「わあ、赤ちゃんだ。可愛い」
それは母親に抱かれた小さな赤子だった。数ページ進むと薄い青髪の少女がこのアルバムの主役になる。
「あのスカイって学者、奥さんと娘がいたんだな」
少し意外だといった風に凰牙は零す。
と、ページを捲っていくと最後に行きつく前に写真が無くなってしまった。
どうやら最後に撮ったのは、青髪の少女が10歳くらいの時の家族3人での集合写真のようだ。
「愛する夫スカイ、愛する娘ミラと共に……って書いてありますね」
水月はなんとなしにその写真の裏を覗き、そこに書いてあった文字を読み上げる。
「この子はミラって言うんだ」
このアルバムは時に今回の依頼には関係ありそうにない。ただ、何となく気になったネムリアはその写真も持ち帰ることに決めた。
一方3階を調べている3人にはこれといった成果はなかった。
応接間にある古びた調度品に怪しいところはなく、図書館のほうにもマテリアルの研究に関わりそうな本はなかった。
「この階は完全にハズレだな」
「そう? この絵本、意外と興味深いかも」
リアリュールは『そらはなぜあおいの?』というタイトルの絵本をぺらぺらと捲りながらそう言う。
「ふぅー、やっと開きました」
と、そこでナタナエルが額を拭う仕草をしながら階段の上から降りてきた。
「漸くか。随分と梃子摺ったな?」
「鍵自体は古いものだったんですけど、かなりレベルの高いものだったんです。一体あの部屋の向こうに何があるのやら」
ナタナエルは階段上に視線を向けて、未だ開いていない扉を見やる。
「さて、いきましょう」
4人は階段を上がり、4階の扉をそっと開いた。
「うっ……何、この臭い?」
扉を開けてまず感じたのは何とも言えない悪臭だった。何かが腐ったような腐敗臭、それ以外にも薬品や、何か分からないが鼻を突く刺激臭も混じっている。
「おいおい、何だよこりゃ……」
デルフィーノはそれを目にして絶句する。部屋の隅に積み上げられていたのは、腐汁を垂れ流す大量の肉の塊だった。
その肉塊の大きさはさまざまで、小さい物はネズミほど、大きいと人間大のものまで見受けられる。
ただ、どれも元が何だったのかは分からない崩れた肉団子としか言いようがないものだった。
「こっちは薬棚ね。こっちには本棚もあるわ」
リアリュールはその本棚近くにある作業机に目を向けた。そのテーブルの上には大量の紙が散乱しており、よく見れば大量の殴り書きがされている。
『マテリアルの保有量は個体の質量的な大きさに必ずしも比例するものではない。何故か?』
『マテリアルはあきらかに個性を持っている。種族や生態だけでなく、1つの個としての性質を内包しているようだ』
『個を持つ意味。それはつまり、マテリアルはエネルギー以外の要素を持ち合わせているのか?』
ざっと目を通しただけだがこんな内容が記されていた。そして、その紙束の中から唯一しっかり冊子として纏められているものを見つける。
「何かの論文かしら?」
「皆、ちょっと来てくれ!」
リアリュールがその冊子を読もうとしたところで、ナタナエルの呼ぶ声がした。
読むのを止めてそちらへと向かうと、そこにはほんの僅かにだが明かりがあった。
ぼんやりとした小さな明かりに照らされているナタナエル。その目の前に何やら大がかりな鉄の塊が鎮座していた。
「こいつは、魔導機械みたいだな」
機導師であるデルフィーノは一目でそれが何であるか分かった。だが、1ルーム分ほどのスペースを取るこの大きな魔導機械が一体何なのかまでは見当がつかない。
「まだ稼働しているようですけど、一体……」
すっとナタナエルは淡い光を放つ魔導機械の表面に触れようとする。
「触っちゃ駄目」
と、そこで突然そんな声が駆けられた。その方向へと視線を向けると、壁沿いの天井付近で金色に相貌が光った。
●少女の目的
「その声……シャルか?」
「そう」
壁を蹴る音と共に、黒いマントを纏った少女シャルがハンター達の側に降り立った。
「触っちゃ駄目って、シャルはこれが何だか知ってるのかな?」
「知ってる」
ナタナエルの問いにシャルは簡潔に答える。
「……何のための魔導機械なんだ?」
「毒煙を塔に入れないようにする」
デルフィーノの問いにもシャルはあっさりと答えた。
そしてこの塔が何らかの目的の為に誰かが使っていたことを確信する。そして、その最有力候補は今目の前にいる少女だ。
「ねえ、シャル。どうしても教えて欲しいことがあるの」
「……何?」
首を傾げるシャルに、リアリュールは辺境で起きた事件の事を伝える。そして尋ねる。
「シャルじゃないよね?」
「……」
その問いにシャルは答えない。だが、それは殆ど答えているも同然だった。
「シャル、つまり君は……黒というわけだね?」
「……?」
ナタナエルの問いに、シャルは首を傾げた。その言葉の意図を読み取れていないように見える。
ただ、少し間を置いてシャルは口を開いた。
「私は悪い事をしている」
その言葉だけで十分だった。ナタナエルは腰から素早くダガーを引き抜く。
「待って!」
だが、それをいざ構えようとしたところで大きな声が部屋の中に木霊した。
「待って、ナタナエル。お願い、私にもシャルとお話させて!」
現れたのはネムリアだった。走り込んできたネムリアはシャルとナタナエルの間に入り、そう訴える。
ナタナエルはダガーを降ろさないが、仕掛けもしない。それを見たネムリアはシャルへと向き直る。
「ねえ、シャル。シャルが助けたいのは歪虚じゃないよね?」
「違う」
ネムリアの問いにシャルは即答した。何故そんなことを聞くのかと、答えたあとに首を傾げる仕草も見せる。
それを聞いてネムリアは胸を撫で下ろす。だが、それで一件落着ではない。ネムリアの耳にも聞こえていたシャルの告白。
「ねえ、どうして悪い事をしているの?」
「……」
ネムリアの問いにシャルは押し黙る。ただ、表情を曇らせ僅かに視線をそらした。
「おい、いい加減にしろよ! お前が思ってる事全部吐きだしちまえ! 言うだけならタダだ。俺たちなら聞いてやるぜ!」
そこで凰牙もやってきた。その後ろには水月の姿もある。
「なあ、シャル。俺からも頼む……教えてくれ」
デルフィーノもまた、シャルのことが知りたいとまっすぐに言葉を投げかけた。
シャルの猫のような金色の瞳を、デルフィーノは揺らぐことなく正面から見つめる。
「……お母さんを、助けるため」
ぽつりと、絞り出すように小さな声でシャルはそう零した。
「お母さんを……?」
「そう。その為にマテリアルが沢山必要」
シャルはそう口にする。嘘を吐いているようには見えないが、要領を得ない。
「お母さんを助ける為にどうしてマテリアルが必要なんでしょうか? もしかして、誰かにそう教えて貰ったんです?」
水月の問いにシャルはこくりと頷いた。
まだ分からないことは多いが、どうやらシャルの背後には誰か他の人物がいるのは確かなようだ。
「とりあえず、シャル。詳しい話を聞きたいから――!?」
デルフィーノがシャルに手を差し伸べたその瞬間である。急激なマテリアルの高まりを感じ、思わず身構える。
だがそのマテリアルを発しているのはシャルではなかった。
「おい、その機械なんかヤバくないか!?」
凰牙の目には先ほどまで淡い光を放っていた魔導機械が、突然赤くなりだしたと思ったら大量のマテリアルを吐き出し始めたのだ。
「……忘れていた。この塔はそろそろ崩れる」
「何でそうなる!」
「私はその為にここに来た」
「そういうことかよ! 早く言えよそういうことは!」
シャルの言葉に凰牙が咆える。そうこうしている間に、塔自体が徐々に揺れ始める。
「シャルさんもやってくれますねー」
「とにかく脱出するぞ!」
塔の崩壊に巻き込まれたらハンターと言えどもただでは済まない。ハンター達は急ぎ階下へと走る。
「シャル、一緒に!」
「……ごめん」
ネムリアがシャルに手を伸ばす。だが、シャルはそれを一目見てから首を横に振り、壁を蹴って天井へと駆け上がり姿を消した。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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調査打合せ リアリュール(ka2003) エルフ|17才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2016/06/20 03:51:50 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/06/19 01:30:30 |