愛され陛下の為に

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
易しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/09/10 12:00
完成日
2014/09/18 05:55

みんなの思い出

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オープニング

「……という事で、選挙をやる事にした。名付けて第一回皇帝総選挙!」
 帝国ユニオンAPVにあるタングラムの部屋でヴィルヘルミナとタングラムは向き合っていた。握り拳に皇帝が宣言した謎の単語に仮面のエルフは腕を組み。
「馬鹿じゃないの?」
 と言った。皇帝はかくりと肩を落とし、「わかってないな~」と言わんばかりに立てた人差し指を横に振る。
「尋常で皇帝が務まるとでも思っているのか? 第一その馬鹿を皇帝に仕立て上げたのはどこのどいつだ?」
「何故開き直ってるんですかねぇ……。まあ、確かに……陛下を呼び戻したのは私ですが……」
 革命を成し遂げた“あの人”がいなくなり、まるで灯を失ったように行き先も分からず彷徨っていたあの頃。それでもあの人が残した火を消してはならないと、継ぐべき者を探し求めて辿り着いた新たなる王。
 誰よりも自由で、誰よりも強く、誰よりも真っ直ぐな、まだ大人になりきれない少女の面影を残したヴィルヘルミナに縋ったのは何を隠そうタングラム自身だ。
「陛下は……やっぱり、皇帝なんてやりたくなかったのですか?」
「んっ?」
「私はあなたの人生を歪めてしまったのかもしれない。あの人の願いに背いて……あいたーっ!?」
 突然割と強めの拳が脳天に炸裂しタングラムは悲鳴を上げた。ヴィルヘルミナは眉と口をへの字に曲げ溜息を零す。
「いつまで昔の事をうじうじ悔いているのだ。皇帝になったのも、あの時君を救うと決めたのも私の意志。ネガティブになるのはいいが、私の決意や覚悟まで否定するのは褒められないな……んっ?」
 顔を近づけタングラムの前髪に触れながら微笑むヴィルヘルミナ。仮面のエルフは慌てて距離を取った。
「べ、別にネガティブになんかなってねーですよ! ただ、陛下には色々余計な物を背負わせてしまったなと……」
「構わん。どうせ私の“夢”を叶える為にも権力は必要だった。渡りに船、願ったり叶ったりだ」
「では何故急に皇帝の座を退くだなんて言い始めたのです?」
 やっぱりこの女の考えている事はわからない。いい加減慣れるべきなのだが、こればかりは慣れとかそういう問題ではない気がする。
「ラッツィオ島の事件も終息に向かっている。少しばかり事を起こすには好機だろう」
「いやそうではなくて、なぜ辞退を?」
「辞退ではないよ。新しい人が居たら譲ってもいいよってだけだ。無論、私より優秀で国民の人気を得られるものならば……だがね」
 ニタリと少しだけ悪い笑みを作る。そこでようやくタングラムは「あ、こいつ退く気ねぇな」と真理に至った。
「いつもの悪ふざけですか……」
「そうではないが、そうでもある。こう見えてもリアルブルーの政治等も学んでいてな。皆好きなのだろう? 民主主義が」
「民主主義ですか……。たかが百年も生きられない人間の民衆が集まった所で所詮は烏合だと思いますが……」
「そういう言い方は良くないぞ。ちびっこエルフの癖に」
「うっせぇ! こっちはあんたの倍以上生きとるわ! ちびっこ言うな!」
「そんな君に立候補をオススメする。もし烏合の衆に国を動かせないというのなら、自らがその王座につき民衆を束ねて見せよ」
「エルフが立候補? そんなアホ……は、いるかもしれないですね」
 口元に手を当て思案する。エルフハイムの維新派の中には帝国に取り入ろうと考えている者もいるし、過激な派閥なら帝国を乗っ取ろうと考えるかもしれない。
 それに帝国に未だ根深く巣食う旧体勢派……革命前の王や貴族の生き残りも隙あらば国を再び手中に収めようと暗躍している。今回の選挙はそれを正々堂々成し遂げる好機だ。
「ちなみにゼナイドは立候補するとか言ってたぞ」
「がくーっ!? あいつ……前からアホだと思ってたですがやっぱりアホですね。ていうか陛下LOVE勢じゃなかったですか、あいつ……」
「それはさておき、私も来る選挙に向けイメージアップを計ろうというわけだ。是非ハンターの力を借りたい」
「変な事させたら怒るですよ」
「変な事なんてさせない。させた事もない。普通の依頼だから大丈夫」
 ジト目で見つめてもヴィルヘルミナはニコニコしているだけだ。結局はいつも通りに折れ、タングラムが首を縦に振るのであった。

リプレイ本文

「現れましたね、ヴィルヘルミナ・ウランゲル!」
 APVで皇帝の到着を待っていたハンター達。普通にひょっこり現れたヴィルヘルミナを認めると同時、エステル・L・V・W(ka0548)は座っていた椅子を吹っ飛ばす勢いで立ち上がり指差し叫んだ。
「ああ、どうもこんにちは」
 と、笑顔で本人は挨拶を返したのだが、アウレール・V・ブラオラント(ka2531)がやはり同じく椅子を吹っ飛ばして立ち上がり。
「貴公! 皇帝陛下に向かってなんだその口の利き方は!?」
「そうよ! 陛下のお役に立てる千載一遇の好機だっていうのに、なんて無礼なの!?」
 三つめの椅子が吹っ飛びヴィンフリーデ・オルデンブルク(ka2207)が腕を振るい叫んだ。詰め寄る二人にエステルは胸を張り。
「皇帝陛下だろうが何だろうが知った事ではありませんわ! わたくしはそもそも反帝国! あなたに傅くつもりは毛頭ありません!」
「貴公ーッ! 指をさすではない、指をーッ! というか何をしに来たのだ!?」
 アウレールと額をぶつけ睨み合うエステル。キヅカ・リク(ka0038)はその様子に深々と溜息を一つ。
「開始早々これか……まあ、わかっていた事だけどね」
「こいつら待ってる間もずっとこの調子だったじゃない」
 頭の後ろで手を組みジト目でレム・K・モメンタム(ka0149)が呟く。皇帝の選挙出馬を支援するアイデアを練るという依頼であるが、その参加者の思惑は様々であった。
「初めまして、陛下。エルバッハ・リオンと申します。よろしければエルとお呼びください。精一杯、政治活動のお手伝いをさせていただきますので、よろしくお願い致します」
「ああっ!? 貴公のせいで挨拶が遅れてしまったではないか!?」
「わたくしのせいじゃありませんよ!」
「陛下! 本日は陛下の信念や覚悟を民衆により理解してもらう為、微力ながらお力添えさせて頂きます! 不束者ですがどうぞ宜しくお願い致します!」
 エルバッハ・リオン(ka2434)が挨拶すると、アウレールとエステルが顔を突き合わせたまま走ってくるが、その前にヴィンフリーデが滑り込んだ。
「フロイライン・オルデンブルク! 抜け駆けは良くないぞ!」
「そうです! 最初に挨拶したのはわたくしですよ!?」
「貴公はあれで挨拶したつもりなのか!?」
 何だかよくわからない状態に溜息を吐くリクとレム。ともあれこうして依頼は幕を開けるのであった。

「で。今回は選挙活動について話し合うわけだけど……皆ちゃんと考えてきたよね?」
「選挙ですか。そうですね……その制度の良し悪しはさておき、良からぬ輩が湧いて出てきそうですね」
 何とかテーブルに着いたハンター達と皇帝。中立のリクが仕方なく仕切り直すと、エルバッハは頬に手を当て呟いた。
「当然、これを好機と捉え陛下に害を成そうと考える者もいる事でしょう。選挙妨害への対策も必要ですよね」
「人類の守護者たる帝国国民でありながら卑劣な暗躍……考え得るだけに悲しいわよね。今日も不審者には十分警戒が必要だわ」
 ヴィンフリーデの言葉にしみじみと頷くアウレール。何故かエステルも頷いている。
「幾ら帝国に反目しようとも、儘ならぬ物を暴力で解決しようなんて愚の骨頂! 武威と暴力を混同する下郎に帝国打倒を成す事等夢のまた夢です!」
「全く以てその通りだと私も思うのだが……貴公、誰の味方なのだ?」
「決まっているでしょう!? わたくしはわたくしの味方です! 勘違いしない事ですね、ヴィルヘルミナ・ウランゲル!」
 また椅子を吹き飛ばし立ち上がるエステル。何故かアウレールもすっと立ち上がるが、二人が睨み合っている間に話を進めよう。
「話進まねぇなぁ……あ、ルミナちゃん。ポテチもってきたよ、後ウナギ。食べる?」
「うむ。なんだかよくわからんがいただこう」
 リクが取り出したポテチと鰻の蒲焼を口に運ぶ皇帝。鰻は食べた事が無かったので目をキラキラさせていたが……。
「あ、普通にルミナちゃんで返事するんだ……」
「呼び名など些事。名程度で揺らぐ程私は軽くないからな……しかしなんだこれ。うまいな」
 苦笑を浮かべるリク。レムはポテチを摘まみつつ。
「そも、選挙について良くわかってない部分もあるんだけど……要は民衆が政治に携わる為の取り組みなのよね?」
「ああ。民意によって王を選定する新しい政治だ」
「誰でも立候補出来るのよね? つまりその気になれば私でも皇帝になれるってコト?」
 集中する視線を無視して皇帝を見つめるレム。返事は当然、笑顔の頷きだった。
「国民に選ばれさえすれば血筋も立場も関係ない」
「国民が選べば、か……。でも今まで人々は政治なんて知らなかったし、ましてや選挙なんて言われてもピンと来ない人が殆どじゃないかしら?」
 レムの発言に色々言いたそうな面々だが、皇帝が片手で制止する。
「前の革命でもそうだった。偉い人が勝手に血を撒き散らして、震える民衆はオイテケボリ。今回の“選挙”もそうではないって、アンタは自信を持って言えるの?」
 真っ直ぐなレムの視線。皇帝は何も逸らさず、ただ目を細める。
「自信なんて私にはないよ」
 それは誰にとっても意外な答えであった。
「何が正しいのか、未来の事はわからない。これまでの歴史も同じ事。革命が正しかったのかどうか、それもまだ誰にもわからない」
「では、陛下は何故……?」
 不安そうなヴィンフリーデの声に皇帝は目を瞑り微笑む。
「今成すべきと思った事を成す、ただそれしか私には出来ない。過去が正しかったのか決めるのは未来であって、それは今ではない。明日正しかったのだと確信を得る為に、私は今日も暗闇を行くのだ。レム……君はどうだ? 君は自信のない挑戦はしない主義かな?」
 はっとした様子で目を開き、そして首を横に振るレム。彼女にも夢があり、叶えたい未来がある。それはとても大きく、叶う保障などどこにもない。
 自信があるからやるのではない。叶えたいからやるのだ。それは誰よりもレム自身が理解していた。願いとは、そういうものなのだと。
「……アンタの言う通りね。だけどただ人気でゴリ押しするだけじゃ国は良くならないわ」
「だからこそ陛下は選挙を切り出したのだ。此度の選挙はあくまで“チュートリアル”……民衆へ政治意識を付与する事こそ真の目的なのでしょう?」
 アウレールの言葉に皇帝は頷く。レムもそれには同意だった。
「民衆が皇帝の理想と情熱を理解し、皇帝が民衆の望むものを理解する。ヴィルヘルミナの目論見がどうあれ、人々が君主を選ぶ以上は一方通行の治世じゃなくなる。民衆も自らの意識を見直すでしょうね」
 こうして段々と場は落ち着きつつあった。……テーブルに頬杖をついてぶすっとした様子のエステルを除いて。

 今回の依頼の主旨は、より人気を勝ち取る為の政治活動について考える事だ。ここからが本題、持ち寄った案を吟味していこう。
「ではまず私から提案させて頂きましょう」
 アウレールが取り出したのは分厚いパンフレットだ。人数分を全員に配ると咳払いを一つ、説明を始めた。
「これは選挙と民主制について取り纏めた物です」
「良く出来ているが地方では、」
「識字率の問題は把握しております。そのような地方ではこちらの絵や図を多用した物を配布してください」
「……そうか。しかし素晴らしい出来だな」
「リアルブルーの歴史書も参考にさせて頂きました。将来的には基礎政治教育が国民全体に必要となるでしょう。その雛形として頂ける様、誠心誠意研究させて頂きました」
「ありがとう、よくやってくれたな」
「恐悦至極に存じます。……続きまして、こちらがウランゲル朝の価値をわかりやすく周知させる為に作った物になります」
「ま、まだあるのか」
 アウレールの話を一生懸命聞く皇帝。これではどっちの立場が上か分かった物ではないが、二人とも真剣そのものだ。
 説明はかなり長時間に及んだ。真剣に耳を傾けた者もいればげんなりした様子の者もいたが、どれも今後の帝国にとって大切になるであろう話ばかりだった。
「これは流石に知恵熱が出るわね……」
「ふ、ふん! この程度、わたくしでも編纂出来ましたわ!」
「……君、何に張り合ってるの?」
 頭を抱えるレムの横でエステルは何故か震えながらパンフを丸めて握り締めていた。リクは肩を竦め。
「でもこれちょっと直ぐ理解するのは難しいよね。長期的に必要なのは勿論だけどさ。目先の人気を取るなら、ポスターを作るとか実際にあちこちに出向いて公聴会を開くのがいいんじゃない?」
「民衆と直接対話を行うのは良いと思います。民衆の声を聞いてくれる指導者だと印象付けられるでしょうから」
 エルバッハの言葉にヴィンフリーデも腕を組み頷き。
「人気に大切なのは親しみ易さよね! とくれば、手っ取り早いのは一緒にご飯を食べる事ね!」
 握り拳で提案するが、エルバッハは僅かに眉を顰め。
「手段の一つとして良いとは思いますが、危険ではありませんか?」
「あら、良いではありませんか。ちょっとやそっとでどうにかされる陛下ではないでしょう? それに、わたくし達が護衛につくのですからね!」
 エステルが立ち上がり自信満々にそう言うと、やはり咳払いしつつアウレールが立ち上がるのだが、このやり取りは置いておこう。
「それでは早速会場を抑えて参ります!」
「え? 今からやるつもり?」
 目を丸くするレム。ヴィンフリーデは当たり前と言わんばかりに頷いた。
「まあ良いだろう。金に糸目はつけずテキトーに頼む」
 勢いよく飛び出して行くヴィンフリーデだが、アウレールは心配そうに皇帝に声をかけた。
「陛下、民衆の信頼を得るのに必須なのは二つ。公平な裁判と税制、ただそれだけなのです。民の血税を無暗に放出するのは……」
「わかっているよ。領収書は第一師団長オズワルド宛で頼む」
「アンタ鬼ね……」
 笑顔の回答に愕然とするレム。リクは苦笑しつつ立ち上がり言った。
「それじゃあ今のうちにポスター作りと行きますか」



「陛下、こちらが会場の申請書類になります」
 リクの手配したポスターの張られた会場で急遽開かれる事になった公聴会。その裏にてヴィンフリーデは笑顔で皇帝に書類の束を差し出した。
「これ今すぐ書かないとだめか?」
「陛下が普段為されているご政務からすれば容易いですよねっ!」
 しょぼくれた様子で筆を走らせる皇帝。その横顔を見つめ、少女は目を細める。
「不敬な発言になりますが、一介のハンターの独り言と聞き流して下さい。弟君でなく陛下が即位して下さった事で私は救われました。女だからって諦めなくてもいいんだって思えたから……」
 手を止めた皇帝は目を丸くし、それから瞑って立ち上がる。そうして少女の頭に手を乗せ、自らの胸に抱き寄せた。
「へ、陛下……?」
「何も諦める必要なんてない。自信も要らない。ただ君は君が思うままに生きればいい。その権利は誰にでもある筈だ」
 身を離し、代わりに書類の束を差し出し女は笑った。
「……夢を見ろ。その願いは間違いなく尊いのだから、ね」
 肩を叩いて颯爽と表舞台へ歩いていく皇帝の背中を少女は見つめ、期待通りに早かった仕事に目を落とし笑みを浮かべた。

 公聴会の間、エルバッハとエステルは常に警護を続け、アウレールは傍に立ち、時折パンフレットの案内をする形で参加している。
 幸いというかリゼリオの治安のお蔭か不審者の類は見当たらず、会は問題もなく進んでいく。レムとリクはその様子を壁際に立って見守っていた。
「皇帝……か。やっぱり生半可じゃないわね」
 芋を齧りながら呟くレム。スポットライトの下で堂々とした皇帝の姿は、やはり皇帝だったから。
「自信があるからやるわけじゃない。やると決めたからやる、か。私もそんな風に生きて行きたいな」
「ルミナちゃんにも夢があるんだってさ。それも途方もない奴がね」
 ポスター作りで二人きりになったリクが交わした言葉。リクは思っていた。ヴィルヘルミナにとって、皇帝という今ですら夢への道半ばなのではないかと。そしてその想像は当たっていた。
「“絶対的な平和”だってさ」
「え?」
「誰も涙せず、誰も傷つかず、悲劇も不幸もない世界。その為に皇帝になったんだって」
「そんなの……」
 無理に決まっている。人間も歪虚も、この世界の全てがそんな幻想を否定する。
「それでも、笑われても否定されてもいつかやるんだって。口止めされたけど、レム君には必要かなと思って」
 内緒だよと唇に指を当てるリク。レムは呆然と光の向こうを見つめていた。
「私は……」
 ルミナちゃんもアイドルになればいいんじゃない? と提案したらノリノリだった事は言わないでおこう。そう決めたリクであった。



「お疲れ様でした、陛下」
「うむ……ありがとう、エル」
 公聴会も終わり、会場には関係者だけが残された。皇帝はエルバッハが差し出したお茶に口をつける。
「しかし、流石はヴィルヘルミナ皇帝陛下。あの分量を短時間でこれ程把握していらっしゃるとは」
「君の纏め方が良かった。ありがとう、アウレール」
 胸に手を当て会釈するアウレール。皇帝は手帳を開き、今日の出来事を纏めに入った。
「地方を巡るのは元より予定に入っているが、箇所を増やすか。ポスターは可能な限り印刷数を増やし、パンフレットも騎士議会で吟味しよう。特に政治教育は急務だな……」
「何事もなく、無事に済んで何よりでしたね」
「全く、こんな好機に指を咥えて見ているだけなんて、急進派とやらも骨なしばかりですね」
 これ見よがしに肩を竦めるエステル。アウレールは溜息を一つ。
「……貴公、ついてきてあれこれ口出ししてきた割にはろくな政治提案もしていないではないか。一体何をしにきたのだね?」
「良い。エステル……色々あってタイミングを逃してしまったが……“久しぶり”だな」
 立ち上がり歩み寄る皇帝。腕を組んだその笑みは親しげで、決して咎めるような物ではない。
「以前一度だけ言葉を交わした事があるね。尤も、あの時君は他の者達から離れ、遠巻きに私を見ているだけだったが……」
 それは些細な記憶、取るに足らない出会いの一つだ。それでも彼女は覚えていた。
「また会いに来てくれて嬉しいよ。ありがとう、エステル」
「陛下、しかしその者は……」
「アウレール、貴様やヴィンフリーデの様に私を慕う者がいる事を心から幸せに思う。だがレムのように疑い、エステルのように否定する者が居なければ、正しき道は歩めない」
 振り返り、皆に笑いかけ。
「リクもエルも、それぞれの考え方があって良い。私はそんな人間を愛している」
「お……」
 顔を真っ赤にしたエステルが指差し叫んだのは、きっと不本意な言葉だった。
「覚えてなさいませ!」
 走り去るエステルを見送る一行。こうしてすったもんだの一日も何とか終了するのであった。

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MVP一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸ka0038
  • 運命の反逆者
    レム・K・モメンタムka0149

重体一覧

参加者一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • 運命の反逆者
    レム・K・モメンタム(ka0149
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人
  • その名は
    エステル・L・V・W(ka0548
    人間(紅)|15才|女性|霊闘士
  • 金の旗
    ヴィンフリーデ・オルデンブルク(ka2207
    人間(紅)|14才|女性|闘狩人
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラント(ka2531
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人

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マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
鬼塚 陸(ka0038
人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2014/09/08 22:28:24
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/09/05 12:00:36