ゲスト
(ka0000)
ボラ族、兵士として勧誘される
マスター:DoLLer

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/07/27 07:30
- 完成日
- 2016/07/30 19:28
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「メルツェーデス。ボラ族は相変わらずのようだな」
ゾンネンシュトラール帝国の政府の一つである地方内務課。そこで書類整理をしていたメルツェーデスに声をかけたのは係長のラーウィックであった。
あんな非常識な連中の世話を押し付けておきながら、相変わらず問題ばかりのようだな、といけしゃあしゃあとのたまうその口にメルツェーデスは捨てる書類を突っ込んでやりたくなる衝動に駆られたが、そこはぐっと我慢した。
「辺境、今はもう北荻となった場所からの移住なんですから、仕方ないんじゃないですか。あれでもマシになった方なんですよ!」
「ほう、マシになったか。それはいい」
ラーウィックの細長い眼鏡がキラリと輝いた気がして、メルツェーデスは嫌な予感がした。
「知っていると思うが、歪虚との戦いはリアルブルーに転移してというものになることは知っているな。帝国兵士の中からもサルヴァトーレ・ロッソに乗って転移するものが出る。戻って来れない場合、転移者はまるまるの兵士損失として計上されることになる。ということで軍務課から、兵の追加募集が始まる」
「またァ? 連合軍結成の時に募集したばっかりじゃないですか。みんな帝国の為だって、戦うのは帝国の使命だからって言ってもさすがに反発も出ているんですよ」
呆れた声を上げるメルツェーデスだったが、その後、不意に眉をひそめた。
ラーウィックが何のためにその話を持ちだしたのか、気づいたからだ。
「ボラ族を兵士に徴用しろって?」
「最近マシになってきたのだろう?」
「待ってよ、ボラ族ってさ、馬鹿だし粗野だけどさ、帝国に馴染もうとしてるのよ? それに移住してきたのも戦う以外の道を見つけるためにって」
「それではお前は帝国人を龍園やリアルブルーに送り出すというのか? 帝国地方からも反発が上がっていると言ったのはお前だろう。その点移住者など故郷を捨てた人間に悲しむ人間もいまい。それにボラ族は元々北荻近くで常々歪虚と戦ってきたのだろう? これほど適任はいない」
冷酷な目つきにメルツェーデスは歯噛みして睨み返した。
「何よそれ! あいつらだって帝国人でしょう!」
「そうだ。兵士は帝国人から選ぶ。その際、適性のある人間に声をかけるのは自然なことだ」
適正というのは、要するに反発の少ない人間から順に、ということだろう。
食って掛かろうとしたメルツェーデスの耳に、ラーウィックは頭を寄せると小さな声で囁いた。
「そうでなければヴルツァライヒに関係してそうな人間を捕まえることを優先することになるが……君の父上もあの歳で囚人兵として働くのは辛くないかね?」
●
「兵士してほしいんだけど……ほら、お金もいいしさ……」
ボラ族の住む港町の鍛冶場。
メルツェーデスは笑顔を作り損ねた酷い顔を隠す為に、うつむき加減にそう言った。
「メル。あなたは知っているはず。私達は故郷を失った。偉大な族長スィアリも歪虚に堕ちた。戦いは……何も生み出さない。生み出す為に私達はここに来たのよ」
真っ先に返したのはボラ族の女レイアだった。スィアリの遺児を預かる彼女がそう答えるのはメルツェーデスも解っていた。
「俺は戦ってもいいぞ。帝国も結局戦う。怖れて後ろ下がり続ける、これ卑怯者だ。必要なら戦うべき!」
対して巨漢のゾールは、いつも通りの豪放な笑いを飛ばして腕をぐりぐりと回した。これもメルツェーデスには解っていた答えだ。
後、解らないのは、細工師のロッカと族長イグの判断であった。
「ロッカ。お前はどう思う」
イグが問いかけるとロッカはメルツェーデスを鼻で笑い飛ばした。
「反対に決まってるじゃん。どうせ兵士足りないから都合のいい移民者を兵士にしたてようって魂胆でしょ。移民には正当な扱いを保証して、また辺境にも不当な暴力的支配をしないって、偉大なシバ様の名においてパシュパティ条約を結んだんじゃないの? 結局、名ばかりってワケだね」
「そんなことは……」
ロッカは鋭い指摘は、その通りだ。ラーウィックは条約の意図はともかく、文面の穴をついて優先的に辺境移民を危険地に送り込もうとしているのだから。
鋭すぎて胸が痛かった。
「聞いての通りだ。私も反対だ。今は連合軍として4国同様に兵士を集めているであろうが、戦が収束した後、そのような態度であるなら辺境への対応も危惧せざるを得ない」
パシュパティ条約を上っ面にしてしまうような事柄なのだ。
わかってる。全部わかってる。
「なに都合の良い事いってんのよ。歪虚レーヴァが来た時には率先して戦いに出向いたじゃない。ノト族が攻めてきた時は町に被害出しながら嬉々として殴りに行ったくせに!!」
「メルツェーデス……?」
「好き勝手な事ばかりして! 胸にはまだ収まらない気持ち持ってるくせに!!」
メルツェーデスにはどうしていいのかわからなかった。
本当は、彼らを兵士なんかにしたくない。だけど、役人としての責務が、父親のベントを盾に取られた恐怖が。口を動かす。
「面倒見てもらってるような連中が、ぐちゃぐちゃ言わないでよ!」
そう言い捨ててメルツェーデスは鍛冶場を飛び出た。
「メルさんの言うこと、わからんでもない」
「もし辺境民との戦争になった時、駆りだされるの御免」
「今は連合軍。共闘することあっても対立ないかも」
「相手は高潔なスィアリ様まで堕とした。俺達雑魔になったら、やっぱりまた悲しむ……」
一般のボラ族はこそこそと話し合っていた。
覚醒者として導いてきた族長以下の面々が結論を導いた以上、彼らが答えを出せる訳もなかったが。
「でもこの状況何とかしたい」
「メルさんお世話になったし」
その言葉に面々は顔を見合わせ、頷いた。
ハンターの知恵を借りよう、と。
ゾンネンシュトラール帝国の政府の一つである地方内務課。そこで書類整理をしていたメルツェーデスに声をかけたのは係長のラーウィックであった。
あんな非常識な連中の世話を押し付けておきながら、相変わらず問題ばかりのようだな、といけしゃあしゃあとのたまうその口にメルツェーデスは捨てる書類を突っ込んでやりたくなる衝動に駆られたが、そこはぐっと我慢した。
「辺境、今はもう北荻となった場所からの移住なんですから、仕方ないんじゃないですか。あれでもマシになった方なんですよ!」
「ほう、マシになったか。それはいい」
ラーウィックの細長い眼鏡がキラリと輝いた気がして、メルツェーデスは嫌な予感がした。
「知っていると思うが、歪虚との戦いはリアルブルーに転移してというものになることは知っているな。帝国兵士の中からもサルヴァトーレ・ロッソに乗って転移するものが出る。戻って来れない場合、転移者はまるまるの兵士損失として計上されることになる。ということで軍務課から、兵の追加募集が始まる」
「またァ? 連合軍結成の時に募集したばっかりじゃないですか。みんな帝国の為だって、戦うのは帝国の使命だからって言ってもさすがに反発も出ているんですよ」
呆れた声を上げるメルツェーデスだったが、その後、不意に眉をひそめた。
ラーウィックが何のためにその話を持ちだしたのか、気づいたからだ。
「ボラ族を兵士に徴用しろって?」
「最近マシになってきたのだろう?」
「待ってよ、ボラ族ってさ、馬鹿だし粗野だけどさ、帝国に馴染もうとしてるのよ? それに移住してきたのも戦う以外の道を見つけるためにって」
「それではお前は帝国人を龍園やリアルブルーに送り出すというのか? 帝国地方からも反発が上がっていると言ったのはお前だろう。その点移住者など故郷を捨てた人間に悲しむ人間もいまい。それにボラ族は元々北荻近くで常々歪虚と戦ってきたのだろう? これほど適任はいない」
冷酷な目つきにメルツェーデスは歯噛みして睨み返した。
「何よそれ! あいつらだって帝国人でしょう!」
「そうだ。兵士は帝国人から選ぶ。その際、適性のある人間に声をかけるのは自然なことだ」
適正というのは、要するに反発の少ない人間から順に、ということだろう。
食って掛かろうとしたメルツェーデスの耳に、ラーウィックは頭を寄せると小さな声で囁いた。
「そうでなければヴルツァライヒに関係してそうな人間を捕まえることを優先することになるが……君の父上もあの歳で囚人兵として働くのは辛くないかね?」
●
「兵士してほしいんだけど……ほら、お金もいいしさ……」
ボラ族の住む港町の鍛冶場。
メルツェーデスは笑顔を作り損ねた酷い顔を隠す為に、うつむき加減にそう言った。
「メル。あなたは知っているはず。私達は故郷を失った。偉大な族長スィアリも歪虚に堕ちた。戦いは……何も生み出さない。生み出す為に私達はここに来たのよ」
真っ先に返したのはボラ族の女レイアだった。スィアリの遺児を預かる彼女がそう答えるのはメルツェーデスも解っていた。
「俺は戦ってもいいぞ。帝国も結局戦う。怖れて後ろ下がり続ける、これ卑怯者だ。必要なら戦うべき!」
対して巨漢のゾールは、いつも通りの豪放な笑いを飛ばして腕をぐりぐりと回した。これもメルツェーデスには解っていた答えだ。
後、解らないのは、細工師のロッカと族長イグの判断であった。
「ロッカ。お前はどう思う」
イグが問いかけるとロッカはメルツェーデスを鼻で笑い飛ばした。
「反対に決まってるじゃん。どうせ兵士足りないから都合のいい移民者を兵士にしたてようって魂胆でしょ。移民には正当な扱いを保証して、また辺境にも不当な暴力的支配をしないって、偉大なシバ様の名においてパシュパティ条約を結んだんじゃないの? 結局、名ばかりってワケだね」
「そんなことは……」
ロッカは鋭い指摘は、その通りだ。ラーウィックは条約の意図はともかく、文面の穴をついて優先的に辺境移民を危険地に送り込もうとしているのだから。
鋭すぎて胸が痛かった。
「聞いての通りだ。私も反対だ。今は連合軍として4国同様に兵士を集めているであろうが、戦が収束した後、そのような態度であるなら辺境への対応も危惧せざるを得ない」
パシュパティ条約を上っ面にしてしまうような事柄なのだ。
わかってる。全部わかってる。
「なに都合の良い事いってんのよ。歪虚レーヴァが来た時には率先して戦いに出向いたじゃない。ノト族が攻めてきた時は町に被害出しながら嬉々として殴りに行ったくせに!!」
「メルツェーデス……?」
「好き勝手な事ばかりして! 胸にはまだ収まらない気持ち持ってるくせに!!」
メルツェーデスにはどうしていいのかわからなかった。
本当は、彼らを兵士なんかにしたくない。だけど、役人としての責務が、父親のベントを盾に取られた恐怖が。口を動かす。
「面倒見てもらってるような連中が、ぐちゃぐちゃ言わないでよ!」
そう言い捨ててメルツェーデスは鍛冶場を飛び出た。
「メルさんの言うこと、わからんでもない」
「もし辺境民との戦争になった時、駆りだされるの御免」
「今は連合軍。共闘することあっても対立ないかも」
「相手は高潔なスィアリ様まで堕とした。俺達雑魔になったら、やっぱりまた悲しむ……」
一般のボラ族はこそこそと話し合っていた。
覚醒者として導いてきた族長以下の面々が結論を導いた以上、彼らが答えを出せる訳もなかったが。
「でもこの状況何とかしたい」
「メルさんお世話になったし」
その言葉に面々は顔を見合わせ、頷いた。
ハンターの知恵を借りよう、と。
リプレイ本文
「とりあえずっ」
ダンっ。とハンターオフィスにある相談用に設置されたテーブルを叩いてアーシュラ・クリオール(ka0226)は立ち上がった。
「あんな駄作機の勝手にはさせない。っていうか絶対裏があるはずだかから、つきとめにいく! ボラ族の名に懸けてメルさんもベント伯も誰一人傷つけてなるものか!」
「勇ましい限りだ。では俺とジュードでクリームヒルト嬢のところに当たってみるか……あんまり多用したくないルートだが、いや、こんな日の為に今までやってきたんだ」
エアルドフリス(ka1856)は席を立ち、立ち上がるジュード・エアハート(ka0410)に手を差し伸べながら、ぼそりと呟いた。
「エアさん……」
「ん?」
「ゴメン、なんでもない」
そんなエアルドフリスの顔を覘いたジュードだが、すぐさま口を閉じた。
「師匠。クリームさんのところに行くなら、これを渡してくれないかな。多分、ボラ族もクリームさんもミーファさんやサイアさんのこと。色んなことが一本の糸でつながっていると思うんだ。今日明日の協力だけじゃなくて、これからのこともきっと見据えてくれると思う」
そうしてユリアン(ka1664)が差し出した手紙を受け取り、エアルドフリスは「わかった」と短く答えた。
「それじゃ、私は町に聞き込みしてくるわね。移民だから反発が少ないなんて言いきれないと思うの」
「いいですね。私も鍛冶関連の裏付けに回ります。船鍛冶ってなかなか少ないはずですし」
七夜・真夕(ka3977)と一緒にクレール・ディンセルフ(ka0586)が立ち上がり、顔を見合わせ頷いた。物事の側面を。外面だけだけではないものをみなければならない。二人とも数多の冒険を乗り越えて、その重要さを知っていた。
「さて、話すところの確認にいかねばならんな」
「付き合うわ。バルトアンデルスの案内ならできるつもりよ」
門垣 源一郎(ka6320)は依頼書と関係者の顔を神霊樹の映し出す映像から消し去り立ちあがったところをフェリア(ka2870)が声をかけた。
「帝国の人間か?」
「今件については恥ずかしい限りだけれど」
「国家、組織とはそんなものだ。重要なのはそれを支える人間が如何であるかだろう」
映像に出て来たふてくされたメルツェーデスの顔を思い出して、門垣はそっけなく言った。
「あたしもちょっと帝都に寄せてもらう。確かめたい事、この際だからちゃんと聞かないとね」
アーシュラは低い声で、しかし単なる怨讐ではない瞳の輝きを持って呟いた。
●
「ボラのみんな? 常識破りっていうか突飛もない事するから面白いよな」
港町で、町人達はそんな言葉に頷き合う様子に、真夕は少しばかり驚いた。
偏見も少なからずあるようだが、帝国の人達はそれほど根に持つような性格の人間は少ないらしい。
「そもそも、歪虚に襲われるくらいのことに比べれば、あいつらの騒ぎなんて祭みたいなものだしな」
「この前の美脚祭で綺麗になりたい人が来訪したりとか、思わぬ効果もあったし」
意外と好感度高めじゃない。
友人を良く言われるのはやっぱり嬉しいもので、メモを取るために下を向く彼女の口元が自然とほころぶ。
「つまりボラ族だから、移民だからって兵士にすることで反感を収められるというわけではないのね」
「兵士ってそもそも自由募集だもん。やりたいならどうぞ。だよな? まあ兵士になるってんならあいつら向いてるだろうなとは思うけど」
町人の会話に真夕は片眉をあげた。
兵士は、募集制? 聞いている話とは少しニュアンスが違うではないか。
「あの、鍛冶としての腕前はどうですか」
しばし時が止まったように考え込む真夕の隙間を埋めるように、クレールが問いかけた。
「最初はひどかったけどな。イカリとか単なる鉄塊だったぜ」
その一言にクレールは苦笑いを浮かべた。
「まあ鍛冶のイロハを知らなきゃそうなりますよね……そんなもの売り物にするんだ……」
「ほ、ほら、最初はみんな失敗から学ぶっていうし!!」
鍛冶師として、聞く限り売り物にしちゃいけない物を出すボラ族に昏い炎をちらつかせたクレールにすばやく真夕がフォローを入れた。
「でも、ほら、あそこの女の子がすげえ技術でさ。すぐ実力が上がったよな。あの子船の部品以外にもアクセサリーとかも作るし」
「女の子? ああ、ロッカくんか」
そんな子はいたかとクレールは目を空の上に泳がせ、すぐに中性的な子がいることを思い出した。
「でもあいつなら武器鍛冶の方が向いているよな。あの子の剣、なんかすごくてさ」
その一言に、クレールは反応した。魔法鍛冶屋として、父親から受け継いだ技の使い手としてその一言は放っておけない。
「み、見せてもらえるのないですか!!?」
「あそこの雑貨屋に置いてあったんじゃないかな。こんな港町じゃ土産物くらいにしかならないけどさ」
その言葉を聞くや否やクレールは走った。
「ちょっと、クレール!?」
「武器鍛冶や細工物までできるとすれば、ボラ族全体の価値をさらにあげられるかもしれませんし」
真夕を引っ張る形でクレールは雑貨屋に飛び込んで、置いてあったカットラスを見つけ手に取った。
手にした瞬間に肌が泡立つ。
間違いない。これはただものもではない……。王国展で学んだ魔法鍛冶とも全く違う何かを感じる。
クレールは瞬きするのも忘れてカットラスを見つめていた。
「微細だけどマテリアルの流れを感じる……霊剣の類ですよっ。こんな技術があるなら兵士なんて勿体ない!」
「そ、そうね……」
外見年齢では下から数えた方が早いロッカが、そんな技術を持っているとは思わなかった。
でも、これは確かに交渉材料や、これからに使える話だと、真夕はメモに書き落とした。
●
ガルカヌンクの地。
ユリアンの手紙に目を走らせていたクリームヒルトの顔つきが変わっていく様子にエアルドフリスは声をかけた。
「うちの弟子の手紙が何か」
「ファルバウティという歪虚が、このガルカヌンクを支配し、また羊飼いの村にてゾンビによる殺戮が行われた件にも関与。そしてそれがレーヴァというボラ族を狙う歪虚ともつながりがあると書いていました。ボラ族の保護はそれらを解決する糸口になるとも」
しまったな。クリームヒルトの眼が険しくなる様子にエアルドフリスは天を仰いだ。
クリームヒルトの協力を得るうえで、そして背後に潜む歪虚の存在を示唆するのも友好だが。
「貴女様が直接関わるのは色々不都合もあるかと思いますので、どなたか仲介でもいただけるとありがたいんですが、ね」
彼女が全面参加するとボラ族の立場は移民と帝国という関係にとどまらない。現政府と反政府という関係にまでもつれ込む。
そうなれば思惑は政略に傾いてしまう。それがボラ族、いや、移民の立場はまさしく戦の火種を与えるようなものだ。
「エアルドフリスさんはいざという時は手段を選ばない人だと思っていましたけれど。今日の要請は『いざ』ではないのでしょうか」
「ぐ……」
クリームヒルトの言葉はボラ族を預かることを示していた。
「クリームヒルトさん、さっき連絡があったんだけど、彼らの鍛冶技術は貴重だし特殊だっていってた。地方の活性化に役に立つんじゃないかな。無理に兵士にするより、いいと思う」
「おいジュード」
口を開いたジュードの言葉はエアルドフリスの思惑とは真反対の内容だった。
「エアさん。……利用する為にクリームヒルトさんと関わったって言ってたけど、もう……それは昔だよね。今は、信頼してるんだよね」
ジュードの一言にエアルドフリスは押し黙った。
ハンターオフィスでも言っていた。利用するんだって。でも、口ぶりはもう違っていることをジュードは知っていた。
「クリームヒルトさんならなんとかしてくれるってオレも信じてる。こんな無理やりなやり方じゃない方法があることを、この後内務課に行って示してくるつもりだよ。その為にもクリームヒルトさんの力が必要なんだ。その為にも現実に起こっている事、それからクリームヒルトさんがしようとしている事、教えてくれないかな」
ジュードの真剣な目に、クリームヒルトはゆっくり頷いた。
「この国は帝都バルトアンデルスと各師団長が治める師団都市が主要都市としてありますが、その人口は帝国全体の4割近くに及びます。地方は過疎化、老齢化が進み、男性が慢性的に不足しています。物資も都市に集中し、物身ともに空洞化が進んでいますが、その現実は都市にいては見えないのです」
そうして、彼女が背後のカーテンを開くと、明かりさす窓が陰った。
山が、いや、壁が太陽を遮り、窓の向こうをゆるゆると音もなく動いている。
「……!?」
「列車、っていうんですよ。家数軒をまとめて移動させるくらいの運搬力があります。先日、開発できて今試験運転しているんです。都市を介さず、少ない人数で物流を支えられます。これを実用化するには、人手がいります。鍛冶をする人も、計算する人も」
影が窓から消えて再び陽光を背に受けるクリームヒルトを見て、ジュードはなるほど。と頷いた。
「歪虚と戦う為だけにボラ族やメルツェーデスさんに手を差し伸べるわけじゃないんだね」
ジュードの言葉に、こくりと彼女は頷いた。
●
天井に帝国第一師団副師団長シグルドの愛用する長巻が引っかかり派手な音を立てたのをアーシュラは驚いて見上げた。
「おっと、今日は風が吹いていけない」
「そんな長柄物を持ち込むからですよ。今日はどういったご用件で?」
地方内務課のラーウィックが眼鏡を直して慇懃に挨拶したが、シグルドは彼に目もくれず奥で慌てて敬礼する職員の姿をぐるりと見て踵を返した。
そして廊下に戻り、角を曲がった時。
「嫌がらせですか……」
ユリアンがダクトからするりと降りて来た。
「それとも即座にお縄の方が良かったかい?」
お目こぼしどうも。と、ユリアンがふてくされた様子になるのをフェリアがくすりと笑った。
「今回の奇妙な募兵は、どこの発案かしら? 未知の領域、しかも世界を救う手がかりとなるものを希望もしない人間に押し付けるのは」
「募集はいつでもしているよ。強制したことはないけどね。使い物にならない」
フェリアの問いかけにさらりと答えるシグルドに、アーシュラが首をひねった。
「それなら、なんでボラ族に白羽の矢を立てたのさ」
「さあ、具体的なやり方は軍務や内務に任せているからね。真面目が度を過ぎて、少し無茶をしているのかもしれないな」
やれやれ、困ったものだ。と肩をすくめるシグルドに、アーシュラは何も言えなくなった。任せた先が頑張っている。と言われてしまえばそれ以上に問いただしようもない。
「頑張りすぎに……歪虚がつけ込んでいる、なんてことはあるかな」
アーシュラの言葉にシグルドは笑った。
その様子にユリアンがアーシュラの裾を引いた。歪虚の陰はないのだろう。だが……ユリアンの眼は冷たく輝いていた。
問いかけようとしたユリアンに門垣が声をかけた。
「しかし、実際に白羽の矢が立ったのは間違いない。意図しない兵士など兵士の質にも関わると思うが? それともボラ族というのはそれ以上の戦力なのか?」
「以前ハンターが8人がかりで退けた歪虚スィアリを彼らは故郷の地で一度は倒したらしい。非常に強力だと思うがね。族長殿など僕に匹敵するんじゃないかな」
「なるほど、それなら売り込むのも悪くはないな。足並みをそろえる必要がある兵士より他の仕事の方が適任だとは思うが」
顎に手をやり、門垣は視線をアーシュラに送ったが、彼女は全く嬉しそうではなかった。
「決めるのは誰でもない。風が決めるんだ。少なくとも、脅迫まがいの事をして決められるなんてまっぴらごめんだよ!」
言い切ってしまった。
門垣は顎にやっていた手でそのまま顔を覆かくした。ボラ族に関係する人間というのはどうも感情的過ぎる。
「その他にでもできることはたくさんあるわ。自警団などとして積極的な警戒。鍛冶の技術も活かす道。そうして手の空いたベテランを転移の方に回してはどうかしらね」
「出兵の代わりとなる交渉なら引き受けるよ。彼らにはそれに向いた道がある。そしてそれを求める場所もある思うんだけど」
フェリアとユリアンの言葉に、シグルドは嘆息した。
それらの根回しや必要な資料はもうクレールや真夕、そしてジュードやエアルドフリスが準備していた。シグルドがハンターと共に地方内務課を訪れたのも、それらの書類があっての事だ。
「やれやれ。確かにヴルツァライヒのアジトとなっていたガルカヌンクも放っておくわけにはいかないからな。町として再興してくれるというならいいかもしれない。内務課には手を回しておくよ」
やれやれ。と言った表情のシグルドだが、アーシュラはさらに彼の懐に飛び込み、その目を見上げる。
「まだよ。あの駄作機の男のやったことは……放っておけない。同じことされたら、今度は暴れるかんね」
「安心していいよ、お嬢さん(My fair Lady)。国の笠着て脅迫まがいのことをするような事は武人の国ゾンネンシュトラールでは許されない。カッテには報告しておくよ。見ててごらん」
●
「なにがいきなり、どうなってるわけ……?」
迎えに来たクリームヒルトと、引っ越しの準備をしているボラ族、政府からの指示書と、ついでに誰かさんが解雇された関係でスライドして内務課主任となる辞令を持たされたメルツェーデスは完全に置いてきぼりだった。
「見て見て、メルツェーデスさん。志願兵募集ポスターのアピール文が採用されたよ!」
ジュードがボラ族の遺児ウルを抱いて、『大切な誰かを守るため』との一文が書かれたポスターを掲げて、ジュードはくるくると踊って見せた。
「というわけで、強引なやり方では人は動かない。そういうことね」
真夕がぱんっとメルツェーデスの背中を叩いたが、本人はまだ状況を把握しきれておらず、そのままよろめくだけだった。
「メルツェーデス嬢の勤務地も従ってガルカヌンク……上も大鉈を振るったもんだ」
エアルドフリスは煙草をふかしつつ引っ越しの様子を眺めていた。
「……これって左遷?」
「地方活性化に協力しながら、クリームさんに貸しを作って、ついでに旧帝国勢力の監視をしたいんじゃないかな。『上』の人達はさらっとそういうことするから、メルさんもハッタリくらいできるようにならないとダメだよ」
ユリアンの言葉に、エアルドフリスも片目をつむり「明察だ」と一言呟いた。
「都合よく利用していいんだよ? ……シグルドさんみたいにさ」
「絶対無理な気がする」
運命の車輪は敷かれたレールから外れ、動き始めた瞬間であった。
ダンっ。とハンターオフィスにある相談用に設置されたテーブルを叩いてアーシュラ・クリオール(ka0226)は立ち上がった。
「あんな駄作機の勝手にはさせない。っていうか絶対裏があるはずだかから、つきとめにいく! ボラ族の名に懸けてメルさんもベント伯も誰一人傷つけてなるものか!」
「勇ましい限りだ。では俺とジュードでクリームヒルト嬢のところに当たってみるか……あんまり多用したくないルートだが、いや、こんな日の為に今までやってきたんだ」
エアルドフリス(ka1856)は席を立ち、立ち上がるジュード・エアハート(ka0410)に手を差し伸べながら、ぼそりと呟いた。
「エアさん……」
「ん?」
「ゴメン、なんでもない」
そんなエアルドフリスの顔を覘いたジュードだが、すぐさま口を閉じた。
「師匠。クリームさんのところに行くなら、これを渡してくれないかな。多分、ボラ族もクリームさんもミーファさんやサイアさんのこと。色んなことが一本の糸でつながっていると思うんだ。今日明日の協力だけじゃなくて、これからのこともきっと見据えてくれると思う」
そうしてユリアン(ka1664)が差し出した手紙を受け取り、エアルドフリスは「わかった」と短く答えた。
「それじゃ、私は町に聞き込みしてくるわね。移民だから反発が少ないなんて言いきれないと思うの」
「いいですね。私も鍛冶関連の裏付けに回ります。船鍛冶ってなかなか少ないはずですし」
七夜・真夕(ka3977)と一緒にクレール・ディンセルフ(ka0586)が立ち上がり、顔を見合わせ頷いた。物事の側面を。外面だけだけではないものをみなければならない。二人とも数多の冒険を乗り越えて、その重要さを知っていた。
「さて、話すところの確認にいかねばならんな」
「付き合うわ。バルトアンデルスの案内ならできるつもりよ」
門垣 源一郎(ka6320)は依頼書と関係者の顔を神霊樹の映し出す映像から消し去り立ちあがったところをフェリア(ka2870)が声をかけた。
「帝国の人間か?」
「今件については恥ずかしい限りだけれど」
「国家、組織とはそんなものだ。重要なのはそれを支える人間が如何であるかだろう」
映像に出て来たふてくされたメルツェーデスの顔を思い出して、門垣はそっけなく言った。
「あたしもちょっと帝都に寄せてもらう。確かめたい事、この際だからちゃんと聞かないとね」
アーシュラは低い声で、しかし単なる怨讐ではない瞳の輝きを持って呟いた。
●
「ボラのみんな? 常識破りっていうか突飛もない事するから面白いよな」
港町で、町人達はそんな言葉に頷き合う様子に、真夕は少しばかり驚いた。
偏見も少なからずあるようだが、帝国の人達はそれほど根に持つような性格の人間は少ないらしい。
「そもそも、歪虚に襲われるくらいのことに比べれば、あいつらの騒ぎなんて祭みたいなものだしな」
「この前の美脚祭で綺麗になりたい人が来訪したりとか、思わぬ効果もあったし」
意外と好感度高めじゃない。
友人を良く言われるのはやっぱり嬉しいもので、メモを取るために下を向く彼女の口元が自然とほころぶ。
「つまりボラ族だから、移民だからって兵士にすることで反感を収められるというわけではないのね」
「兵士ってそもそも自由募集だもん。やりたいならどうぞ。だよな? まあ兵士になるってんならあいつら向いてるだろうなとは思うけど」
町人の会話に真夕は片眉をあげた。
兵士は、募集制? 聞いている話とは少しニュアンスが違うではないか。
「あの、鍛冶としての腕前はどうですか」
しばし時が止まったように考え込む真夕の隙間を埋めるように、クレールが問いかけた。
「最初はひどかったけどな。イカリとか単なる鉄塊だったぜ」
その一言にクレールは苦笑いを浮かべた。
「まあ鍛冶のイロハを知らなきゃそうなりますよね……そんなもの売り物にするんだ……」
「ほ、ほら、最初はみんな失敗から学ぶっていうし!!」
鍛冶師として、聞く限り売り物にしちゃいけない物を出すボラ族に昏い炎をちらつかせたクレールにすばやく真夕がフォローを入れた。
「でも、ほら、あそこの女の子がすげえ技術でさ。すぐ実力が上がったよな。あの子船の部品以外にもアクセサリーとかも作るし」
「女の子? ああ、ロッカくんか」
そんな子はいたかとクレールは目を空の上に泳がせ、すぐに中性的な子がいることを思い出した。
「でもあいつなら武器鍛冶の方が向いているよな。あの子の剣、なんかすごくてさ」
その一言に、クレールは反応した。魔法鍛冶屋として、父親から受け継いだ技の使い手としてその一言は放っておけない。
「み、見せてもらえるのないですか!!?」
「あそこの雑貨屋に置いてあったんじゃないかな。こんな港町じゃ土産物くらいにしかならないけどさ」
その言葉を聞くや否やクレールは走った。
「ちょっと、クレール!?」
「武器鍛冶や細工物までできるとすれば、ボラ族全体の価値をさらにあげられるかもしれませんし」
真夕を引っ張る形でクレールは雑貨屋に飛び込んで、置いてあったカットラスを見つけ手に取った。
手にした瞬間に肌が泡立つ。
間違いない。これはただものもではない……。王国展で学んだ魔法鍛冶とも全く違う何かを感じる。
クレールは瞬きするのも忘れてカットラスを見つめていた。
「微細だけどマテリアルの流れを感じる……霊剣の類ですよっ。こんな技術があるなら兵士なんて勿体ない!」
「そ、そうね……」
外見年齢では下から数えた方が早いロッカが、そんな技術を持っているとは思わなかった。
でも、これは確かに交渉材料や、これからに使える話だと、真夕はメモに書き落とした。
●
ガルカヌンクの地。
ユリアンの手紙に目を走らせていたクリームヒルトの顔つきが変わっていく様子にエアルドフリスは声をかけた。
「うちの弟子の手紙が何か」
「ファルバウティという歪虚が、このガルカヌンクを支配し、また羊飼いの村にてゾンビによる殺戮が行われた件にも関与。そしてそれがレーヴァというボラ族を狙う歪虚ともつながりがあると書いていました。ボラ族の保護はそれらを解決する糸口になるとも」
しまったな。クリームヒルトの眼が険しくなる様子にエアルドフリスは天を仰いだ。
クリームヒルトの協力を得るうえで、そして背後に潜む歪虚の存在を示唆するのも友好だが。
「貴女様が直接関わるのは色々不都合もあるかと思いますので、どなたか仲介でもいただけるとありがたいんですが、ね」
彼女が全面参加するとボラ族の立場は移民と帝国という関係にとどまらない。現政府と反政府という関係にまでもつれ込む。
そうなれば思惑は政略に傾いてしまう。それがボラ族、いや、移民の立場はまさしく戦の火種を与えるようなものだ。
「エアルドフリスさんはいざという時は手段を選ばない人だと思っていましたけれど。今日の要請は『いざ』ではないのでしょうか」
「ぐ……」
クリームヒルトの言葉はボラ族を預かることを示していた。
「クリームヒルトさん、さっき連絡があったんだけど、彼らの鍛冶技術は貴重だし特殊だっていってた。地方の活性化に役に立つんじゃないかな。無理に兵士にするより、いいと思う」
「おいジュード」
口を開いたジュードの言葉はエアルドフリスの思惑とは真反対の内容だった。
「エアさん。……利用する為にクリームヒルトさんと関わったって言ってたけど、もう……それは昔だよね。今は、信頼してるんだよね」
ジュードの一言にエアルドフリスは押し黙った。
ハンターオフィスでも言っていた。利用するんだって。でも、口ぶりはもう違っていることをジュードは知っていた。
「クリームヒルトさんならなんとかしてくれるってオレも信じてる。こんな無理やりなやり方じゃない方法があることを、この後内務課に行って示してくるつもりだよ。その為にもクリームヒルトさんの力が必要なんだ。その為にも現実に起こっている事、それからクリームヒルトさんがしようとしている事、教えてくれないかな」
ジュードの真剣な目に、クリームヒルトはゆっくり頷いた。
「この国は帝都バルトアンデルスと各師団長が治める師団都市が主要都市としてありますが、その人口は帝国全体の4割近くに及びます。地方は過疎化、老齢化が進み、男性が慢性的に不足しています。物資も都市に集中し、物身ともに空洞化が進んでいますが、その現実は都市にいては見えないのです」
そうして、彼女が背後のカーテンを開くと、明かりさす窓が陰った。
山が、いや、壁が太陽を遮り、窓の向こうをゆるゆると音もなく動いている。
「……!?」
「列車、っていうんですよ。家数軒をまとめて移動させるくらいの運搬力があります。先日、開発できて今試験運転しているんです。都市を介さず、少ない人数で物流を支えられます。これを実用化するには、人手がいります。鍛冶をする人も、計算する人も」
影が窓から消えて再び陽光を背に受けるクリームヒルトを見て、ジュードはなるほど。と頷いた。
「歪虚と戦う為だけにボラ族やメルツェーデスさんに手を差し伸べるわけじゃないんだね」
ジュードの言葉に、こくりと彼女は頷いた。
●
天井に帝国第一師団副師団長シグルドの愛用する長巻が引っかかり派手な音を立てたのをアーシュラは驚いて見上げた。
「おっと、今日は風が吹いていけない」
「そんな長柄物を持ち込むからですよ。今日はどういったご用件で?」
地方内務課のラーウィックが眼鏡を直して慇懃に挨拶したが、シグルドは彼に目もくれず奥で慌てて敬礼する職員の姿をぐるりと見て踵を返した。
そして廊下に戻り、角を曲がった時。
「嫌がらせですか……」
ユリアンがダクトからするりと降りて来た。
「それとも即座にお縄の方が良かったかい?」
お目こぼしどうも。と、ユリアンがふてくされた様子になるのをフェリアがくすりと笑った。
「今回の奇妙な募兵は、どこの発案かしら? 未知の領域、しかも世界を救う手がかりとなるものを希望もしない人間に押し付けるのは」
「募集はいつでもしているよ。強制したことはないけどね。使い物にならない」
フェリアの問いかけにさらりと答えるシグルドに、アーシュラが首をひねった。
「それなら、なんでボラ族に白羽の矢を立てたのさ」
「さあ、具体的なやり方は軍務や内務に任せているからね。真面目が度を過ぎて、少し無茶をしているのかもしれないな」
やれやれ、困ったものだ。と肩をすくめるシグルドに、アーシュラは何も言えなくなった。任せた先が頑張っている。と言われてしまえばそれ以上に問いただしようもない。
「頑張りすぎに……歪虚がつけ込んでいる、なんてことはあるかな」
アーシュラの言葉にシグルドは笑った。
その様子にユリアンがアーシュラの裾を引いた。歪虚の陰はないのだろう。だが……ユリアンの眼は冷たく輝いていた。
問いかけようとしたユリアンに門垣が声をかけた。
「しかし、実際に白羽の矢が立ったのは間違いない。意図しない兵士など兵士の質にも関わると思うが? それともボラ族というのはそれ以上の戦力なのか?」
「以前ハンターが8人がかりで退けた歪虚スィアリを彼らは故郷の地で一度は倒したらしい。非常に強力だと思うがね。族長殿など僕に匹敵するんじゃないかな」
「なるほど、それなら売り込むのも悪くはないな。足並みをそろえる必要がある兵士より他の仕事の方が適任だとは思うが」
顎に手をやり、門垣は視線をアーシュラに送ったが、彼女は全く嬉しそうではなかった。
「決めるのは誰でもない。風が決めるんだ。少なくとも、脅迫まがいの事をして決められるなんてまっぴらごめんだよ!」
言い切ってしまった。
門垣は顎にやっていた手でそのまま顔を覆かくした。ボラ族に関係する人間というのはどうも感情的過ぎる。
「その他にでもできることはたくさんあるわ。自警団などとして積極的な警戒。鍛冶の技術も活かす道。そうして手の空いたベテランを転移の方に回してはどうかしらね」
「出兵の代わりとなる交渉なら引き受けるよ。彼らにはそれに向いた道がある。そしてそれを求める場所もある思うんだけど」
フェリアとユリアンの言葉に、シグルドは嘆息した。
それらの根回しや必要な資料はもうクレールや真夕、そしてジュードやエアルドフリスが準備していた。シグルドがハンターと共に地方内務課を訪れたのも、それらの書類があっての事だ。
「やれやれ。確かにヴルツァライヒのアジトとなっていたガルカヌンクも放っておくわけにはいかないからな。町として再興してくれるというならいいかもしれない。内務課には手を回しておくよ」
やれやれ。と言った表情のシグルドだが、アーシュラはさらに彼の懐に飛び込み、その目を見上げる。
「まだよ。あの駄作機の男のやったことは……放っておけない。同じことされたら、今度は暴れるかんね」
「安心していいよ、お嬢さん(My fair Lady)。国の笠着て脅迫まがいのことをするような事は武人の国ゾンネンシュトラールでは許されない。カッテには報告しておくよ。見ててごらん」
●
「なにがいきなり、どうなってるわけ……?」
迎えに来たクリームヒルトと、引っ越しの準備をしているボラ族、政府からの指示書と、ついでに誰かさんが解雇された関係でスライドして内務課主任となる辞令を持たされたメルツェーデスは完全に置いてきぼりだった。
「見て見て、メルツェーデスさん。志願兵募集ポスターのアピール文が採用されたよ!」
ジュードがボラ族の遺児ウルを抱いて、『大切な誰かを守るため』との一文が書かれたポスターを掲げて、ジュードはくるくると踊って見せた。
「というわけで、強引なやり方では人は動かない。そういうことね」
真夕がぱんっとメルツェーデスの背中を叩いたが、本人はまだ状況を把握しきれておらず、そのままよろめくだけだった。
「メルツェーデス嬢の勤務地も従ってガルカヌンク……上も大鉈を振るったもんだ」
エアルドフリスは煙草をふかしつつ引っ越しの様子を眺めていた。
「……これって左遷?」
「地方活性化に協力しながら、クリームさんに貸しを作って、ついでに旧帝国勢力の監視をしたいんじゃないかな。『上』の人達はさらっとそういうことするから、メルさんもハッタリくらいできるようにならないとダメだよ」
ユリアンの言葉に、エアルドフリスも片目をつむり「明察だ」と一言呟いた。
「都合よく利用していいんだよ? ……シグルドさんみたいにさ」
「絶対無理な気がする」
運命の車輪は敷かれたレールから外れ、動き始めた瞬間であった。
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相談卓 フェリア(ka2870) 人間(クリムゾンウェスト)|21才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/07/27 01:17:43 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/07/23 16:03:46 |