ゲスト
(ka0000)
【選挙】森都からの挙手
マスター:石田まきば

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2014/09/18 19:00
- 完成日
- 2014/09/24 10:02
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●来訪者
「師団長! ゲーベル師団長!」
気忙しいノックの音が執務室に響く。
「この声はバインリヒ二等兵だったか、テオ?」
入室を求める声にも焦りが見える。若い女の声だ、まだ配属されて日が浅かっただろうかと首をかしげるカミラ・ゲーベル(kz0053)は、部屋にいるもう一人、テオバルト・デッセルに尋ねた。
「今はエルフハイムの監視業務に出ているはずですが。……入りなさい」
勤務予定を確認してから答える副長。テオバルトの落ち着いた声にドアの外の二等兵も我に返り、呼吸を整えてから執務室の扉をくぐった。
「バインリヒ二等兵、火急の報告があり参上いたしました」
まさかエルフハイムに動きがあったとでもいうのだろうか。皇帝陛下が選挙をする等と言いだしてからこっち、通常業務に加えてその準備もあるというのに。
「エルフがシードルでも献上しに来たか?」
そんなことはないだろうと思いながら報告を促す。
「ユレイテル・エルフハイムと名乗るエルフが、ゲーベル師団長に面会を求めてきています」
手土産のような荷物はあった気がしますが、それが何かまでは……としりすぼみになる二等兵。
「それは確かですか? 我ら帝国を快く思っていないあの耳長族が、連絡手段など不要と突っぱねたあの引きこもり族が、隙あれば我らの守りをすり抜けようとする隠密族が。正面から面会を求めたと?」
カミラが何か言うより先に、テオバルトが頭を捻っている。噛んで含めるように、子供に教えるように丁寧に、何より自分に言い聞かせるような口調で。
「はい。巡回中の私達の前に、気配を隠さずに堂々と」
「武装もせずに、矢を打ち込みもせずにですか」
再びテオバルト。
「護身用の武装はしていましたが、何のそぶりも見せず歩いて、です」
「……今は?」
二等兵がここに居るということは、連れてきているのだろう。待たせているということもわかる。だが誰が対応しているのかと首を傾げようとして……執務室の空席、モーリッツ・ハウプトマンの机を眺めた。
「モーリか」
「はい。話を聞く間に、師団長を呼んで来いと」
眉を寄せた部屋の主の様子に、二等兵が肩をすぼめた。
「わかった、すぐに行こう。……バインリヒ二等兵。君も元の業務に戻れ。他にエルフが出てくる可能性もあるだろう」
一人いれば他にもと考えるのは普通だ。だが実際にそれは起こらないだろう。
(もう、一人出てきている。ならば沈黙を守るのだろう)
二等兵を退出させる方便だ。
「はいっ、失礼します!」
足早に退出する二等兵の背を見送ってから、席を立ったカミラはテオバルトに視線を戻した。
「残っている仕事の振り分けは、ハウプトマン副長に多めにしておきます」
察した副長がカミラの机の書類を示して告げる。
「そうしてくれ」
●対談
「お待たせした。このエルヴィンバルト要塞を預かっているカミラ・ゲーベルだ」
「私の名はユレイテル・エルフハイム。応じていただき感謝している」
短髪で精悍な顔つき。野望を持った瞳。その眼に予感が的中したことを感じ取りながらカミラは席に着いた。
「うちのモーリが粗相をしていなければ幸いだ」
「カミラの嬢ちゃん、それは俺にひどくないか?」
面白そうに笑う副長は好きに言わせておく。
「いや、楽しく話をさせてもらっていた」
「それならよかった」
安堵したように息をつく。……お決まりの挨拶はこれでもう十分だろう。
「率直に聞こう。君は皇帝選挙に立候補するつもりなのか」
正面から見据え、相手の反応を待つ。
「「……………」」
睨み合い。応接室が沈黙に支配される。
「お察しの通りです。ここから帝都に向かう間の案内と、手伝いの人出を都合してもらいたいのです」
「なぜ一人なのか聞かせてもらえるのだろうか」
行き当たりばったりなのか考えなしなのか、それとも。可能性は多くはない。
「これでも役人なもので。同胞達には不在の穴埋めを頼んでいるのです」
聞くところに寄ればエルフには大きく二つの派閥があるらしい。もう一派を抑える役割も、その同胞とやらが行っているのかもしれない。
「……軍の人出は易々と貸せるものではない」
ましてや一人のエルフ、信用もない者にぽんと出せはしない。役人という肩書はエルフハイムの物であって、帝国では通用しない。
ユレイテルは黙ったままだ。
「だが、人手を手配する手伝いならできる。ハンターオフィスに掛け合って、同行の募集をかけよう」
「それで十分。ここから帝都まで、選挙活動を行えるならば」
「許可する権限を持っている者も必要だ。……私が同行させてもらう」
手伝いはハンター達に任せるがな、とカミラは小さく笑った。
「嬢ちゃん、俺が行くって話じゃないのか」
執務室に戻ってすぐにモーリッツが尋ねる。
エルフハイム関連の業務は主にモーリッツ、ピース・ホライズン関連の業務は主にテオバルトといったように、第三師団の業務は副長ごとである程度担当を分けているのが実情だ、彼の主張は打倒である。
「陛下の意向もあるからな。モーリにはその分別の仕事がある、暇はないから安心しろ」
彼の席には、テオバルトが振り分けた書類の山が積みあがっていた。
「自分で見極めたいってことか。わかったよ」
「エルフが襲撃してくる可能性は?」
今度はテオバルトだ。
「わからない。……あのユレイテルという男は維新派だ。しかし恭順派が妨害をしてくるようとは到底思えない。過敏で過激な者が居ないとも限らないが……まあ、そう多くないだろう、私で十分だ」
「隠密族ですよ、危険では?」
「……『奇跡の電卓』だけじゃなくて『影薄き頭脳』も広めてやろうか、テオ」
お前にも鍛えられているから大丈夫だよと、皮肉を交えてからかう。
「それはご勘弁を」
「まー行って来いや。陛下に会ったらよろしく伝えておいてくれ」
●演説 ~ユレイテル・エルフハイム~
「私達にはマテリアルの浄化を行う術がある。
だが、私達は私達の規模でしかこれを行えていない。
浄化を行っている同胞達の努力は、実を結んでいるとはいいがたい。
焼け石に水をかけるのとあまり変わらないのが現状だ。
私達が受け継ぐその技術をもってしても、ほんの一時、帝国が汚れていくのを止めているに過ぎないのだ。
もう一度言おう、私達にはマテリアルの浄化を行う術がある。
私は、この技術をもってこの帝国の浄化に尽力したいと思っている。
すぐには無理かもしれない。私達の技術はまだ規模が小さいものだ。
だが、帝国の力をもって研究を重ねれば、この技術を大きく、強いものに変えることができるのではないか?
そのために、私はエルフハイムの名をもって、この帝国との懸け橋となりたいのだ。
エルフハイムの持つ技術を帝国で広められるよう、故郷に掛け合うことに、その技術を更に次の高みへと昇華させるために。
どうか私に力を貸してもらえないだろうか?」
「師団長! ゲーベル師団長!」
気忙しいノックの音が執務室に響く。
「この声はバインリヒ二等兵だったか、テオ?」
入室を求める声にも焦りが見える。若い女の声だ、まだ配属されて日が浅かっただろうかと首をかしげるカミラ・ゲーベル(kz0053)は、部屋にいるもう一人、テオバルト・デッセルに尋ねた。
「今はエルフハイムの監視業務に出ているはずですが。……入りなさい」
勤務予定を確認してから答える副長。テオバルトの落ち着いた声にドアの外の二等兵も我に返り、呼吸を整えてから執務室の扉をくぐった。
「バインリヒ二等兵、火急の報告があり参上いたしました」
まさかエルフハイムに動きがあったとでもいうのだろうか。皇帝陛下が選挙をする等と言いだしてからこっち、通常業務に加えてその準備もあるというのに。
「エルフがシードルでも献上しに来たか?」
そんなことはないだろうと思いながら報告を促す。
「ユレイテル・エルフハイムと名乗るエルフが、ゲーベル師団長に面会を求めてきています」
手土産のような荷物はあった気がしますが、それが何かまでは……としりすぼみになる二等兵。
「それは確かですか? 我ら帝国を快く思っていないあの耳長族が、連絡手段など不要と突っぱねたあの引きこもり族が、隙あれば我らの守りをすり抜けようとする隠密族が。正面から面会を求めたと?」
カミラが何か言うより先に、テオバルトが頭を捻っている。噛んで含めるように、子供に教えるように丁寧に、何より自分に言い聞かせるような口調で。
「はい。巡回中の私達の前に、気配を隠さずに堂々と」
「武装もせずに、矢を打ち込みもせずにですか」
再びテオバルト。
「護身用の武装はしていましたが、何のそぶりも見せず歩いて、です」
「……今は?」
二等兵がここに居るということは、連れてきているのだろう。待たせているということもわかる。だが誰が対応しているのかと首を傾げようとして……執務室の空席、モーリッツ・ハウプトマンの机を眺めた。
「モーリか」
「はい。話を聞く間に、師団長を呼んで来いと」
眉を寄せた部屋の主の様子に、二等兵が肩をすぼめた。
「わかった、すぐに行こう。……バインリヒ二等兵。君も元の業務に戻れ。他にエルフが出てくる可能性もあるだろう」
一人いれば他にもと考えるのは普通だ。だが実際にそれは起こらないだろう。
(もう、一人出てきている。ならば沈黙を守るのだろう)
二等兵を退出させる方便だ。
「はいっ、失礼します!」
足早に退出する二等兵の背を見送ってから、席を立ったカミラはテオバルトに視線を戻した。
「残っている仕事の振り分けは、ハウプトマン副長に多めにしておきます」
察した副長がカミラの机の書類を示して告げる。
「そうしてくれ」
●対談
「お待たせした。このエルヴィンバルト要塞を預かっているカミラ・ゲーベルだ」
「私の名はユレイテル・エルフハイム。応じていただき感謝している」
短髪で精悍な顔つき。野望を持った瞳。その眼に予感が的中したことを感じ取りながらカミラは席に着いた。
「うちのモーリが粗相をしていなければ幸いだ」
「カミラの嬢ちゃん、それは俺にひどくないか?」
面白そうに笑う副長は好きに言わせておく。
「いや、楽しく話をさせてもらっていた」
「それならよかった」
安堵したように息をつく。……お決まりの挨拶はこれでもう十分だろう。
「率直に聞こう。君は皇帝選挙に立候補するつもりなのか」
正面から見据え、相手の反応を待つ。
「「……………」」
睨み合い。応接室が沈黙に支配される。
「お察しの通りです。ここから帝都に向かう間の案内と、手伝いの人出を都合してもらいたいのです」
「なぜ一人なのか聞かせてもらえるのだろうか」
行き当たりばったりなのか考えなしなのか、それとも。可能性は多くはない。
「これでも役人なもので。同胞達には不在の穴埋めを頼んでいるのです」
聞くところに寄ればエルフには大きく二つの派閥があるらしい。もう一派を抑える役割も、その同胞とやらが行っているのかもしれない。
「……軍の人出は易々と貸せるものではない」
ましてや一人のエルフ、信用もない者にぽんと出せはしない。役人という肩書はエルフハイムの物であって、帝国では通用しない。
ユレイテルは黙ったままだ。
「だが、人手を手配する手伝いならできる。ハンターオフィスに掛け合って、同行の募集をかけよう」
「それで十分。ここから帝都まで、選挙活動を行えるならば」
「許可する権限を持っている者も必要だ。……私が同行させてもらう」
手伝いはハンター達に任せるがな、とカミラは小さく笑った。
「嬢ちゃん、俺が行くって話じゃないのか」
執務室に戻ってすぐにモーリッツが尋ねる。
エルフハイム関連の業務は主にモーリッツ、ピース・ホライズン関連の業務は主にテオバルトといったように、第三師団の業務は副長ごとである程度担当を分けているのが実情だ、彼の主張は打倒である。
「陛下の意向もあるからな。モーリにはその分別の仕事がある、暇はないから安心しろ」
彼の席には、テオバルトが振り分けた書類の山が積みあがっていた。
「自分で見極めたいってことか。わかったよ」
「エルフが襲撃してくる可能性は?」
今度はテオバルトだ。
「わからない。……あのユレイテルという男は維新派だ。しかし恭順派が妨害をしてくるようとは到底思えない。過敏で過激な者が居ないとも限らないが……まあ、そう多くないだろう、私で十分だ」
「隠密族ですよ、危険では?」
「……『奇跡の電卓』だけじゃなくて『影薄き頭脳』も広めてやろうか、テオ」
お前にも鍛えられているから大丈夫だよと、皮肉を交えてからかう。
「それはご勘弁を」
「まー行って来いや。陛下に会ったらよろしく伝えておいてくれ」
●演説 ~ユレイテル・エルフハイム~
「私達にはマテリアルの浄化を行う術がある。
だが、私達は私達の規模でしかこれを行えていない。
浄化を行っている同胞達の努力は、実を結んでいるとはいいがたい。
焼け石に水をかけるのとあまり変わらないのが現状だ。
私達が受け継ぐその技術をもってしても、ほんの一時、帝国が汚れていくのを止めているに過ぎないのだ。
もう一度言おう、私達にはマテリアルの浄化を行う術がある。
私は、この技術をもってこの帝国の浄化に尽力したいと思っている。
すぐには無理かもしれない。私達の技術はまだ規模が小さいものだ。
だが、帝国の力をもって研究を重ねれば、この技術を大きく、強いものに変えることができるのではないか?
そのために、私はエルフハイムの名をもって、この帝国との懸け橋となりたいのだ。
エルフハイムの持つ技術を帝国で広められるよう、故郷に掛け合うことに、その技術を更に次の高みへと昇華させるために。
どうか私に力を貸してもらえないだろうか?」
リプレイ本文
●個々の思惑
「ユレイテルさんに、友達百人できるかな? なんちゃって♪」
出来うる限りのお手伝いはさせていただきます! そう気合を見せて挨拶をした聖盾(ka2154)に、ユレイテルが感謝を述べる。自身も挨拶をし、そしてユレイテルの様子を見ながら心中で考えを巡らせる者は少なくない。
『ユレイテル・エルフハイムの当選は厳しい』
認識はおおむね一致しているが、誰もあえて口には出さない。立候補そのもの、行動をすることには意味があると考えて手を貸すことにした、そんな動機の者が多いからだ。だからこそ、選挙活動の手伝いは手を抜かないで遂行される。
(森エルフの思想思考はいまいちわからないわ)
エリシャ・カンナヴィ(ka0140)は耳を隠す帽子を準備していた。エルフであることを隠す方が有利に働く場合もあるからだ。
盾もエリシャもユレイテルと同族ではあったが、どちらも街暮らしのためエルフハイムの排他的な考え方は理解が追いつかない。ただ最大集落を出身とするエルフというブランドは興味深いのだった。
「ところでマテリアル浄化ってなんですか?」
自己紹介代わりにとユレイテルが話した中の言葉に盾が首を傾げ尋ねる。
「不純なマテリアルや負のマテリアルに満ちた場所を、本来あるべき清浄な状態に戻すことだ」
丁寧に答えるユレイテルだが、少しばかり戸惑いが見えるようだ。
(帝国で浄化の理解が進んでいるとは思えない、そう思っていたが)
推測が当たったことを良い方に取るべきか悪い方に取るべきか、冷静に思考するのは君島 防人(ka0181)。
(浄化の技術は必要だ、だが帝国の機導術を損なう可能性もある)
今はまだ静観すべきと考えて、言葉にはしない。効果的なタイミングを読むべきだと思ったのだ。ユレイテルの意思、思想を知らなければならないから。
佐々加瀬 穹(ka2929)、ユリアン(ka1664)とナハティガル・ハーレイ(ka0023)の三人は先日ユレイテルとも顔を合わせている。
(あたし、は、まだ。此方に来て、日も、浅ければ。政治とか、技術とか、難しいこと、よく、分からないけど)
穹はマテリアルの浄化は帝国にとってプラスになるものだと思うし、ユレイテルの人柄に感化されたからここに居る。
「ユレイテルさん、この間はどうも。カミラ師団長もどうぞ宜しく」
「よっ! ユレイテル。合コンでの約束通り、手伝いに来たぜ」
挨拶を交わしながら、何事もなく終わってくれればいいとユリアンは思う。そのために手伝いに来ているのだけれど。
「そういや、まだちゃんと聞いて無かったが。――ユレイテル、アンタの想い描く理想って何だ?」
気さくに声をかけながら、ナハティガルは目をギラリと光らせた。この立候補は目的に近づく一歩だと、そう聞いていたからこそ。
「我々エルフの存続も理由の一つではある。だが……端的に言えば、認識を変えたいと思っている」
帝国とエルフハイム、互いの認識の溝のこと。
「それが強引な手であろうと変えていきたい。そのために試せる手段は使っていこうと考えている」
「なぁ、ユレイテルさん。二派に分かれていて、もし今回落選してユレイテルさんの立場は悪くならないのか?」
ユリアンの言葉に含まれる心配を感じ取り、ありがとうと小さく笑う。
「帝国に名前が残るならどんな形でも構わない。故郷に関しては、それこそ不利な行動をとらなければ処分もされないだろう」
帝国で働くエルフの前例は少なくない。ただ、先達は皆姓を捨てなければならなかった。
「今回の立候補は、今は黙認されているはずだ。影響もないだろう」
やりようによっては危険もはらんでいるけれど。
「選挙よりも後、これからやろうとしていることを考えれば、まだ些細なことだからな」
やり取りを眺めるCharlotte・V・K(ka0468)の顔には愉悦が浮かぶ。
(前王の血筋の姫に、エルフハイムからの使者、師団長の下克上……)
立候補者の顔ぶれだけでもイレギュラーだと思う。
「この国は。実に面白い。退屈せずに済みそうだよ」
戦闘に限らず、興味を惹かれる。故郷にもどこか似た国だからこそ、肌にもあっている。Charlotteの目が輝く。
(観察のし甲斐がありますね)
国も、そこで活動する者、更に集まる者にも。観察者に徹している音桐 奏(ka2951)は手帳にメモを取りながら、誰にも聞こえないように呟いた。
「とても興味深い事例ですね、この依頼は。では、観察を始めましょうか」
●活動と実情
エルヴィンバルト要塞を擁する都市マーフェルスはピースホライズンの近くに位置している。そのためピースホライズンから帝都までを繋ぐ大きな街道が用意されており、交通の便、そして治安の面においても悪くはなかった。
だが街道を進むだけでは選挙活動として物足りない。集落や町を訪れる為に街道を離れることは避けられない。だからこそ警戒の必要があった。
(一番面倒な相手は人なのよねぇ……)
率先して斥候に出るエリシャが気配を探る。各自戦闘準備も整えてはいるが、対人広報が本来の目的である以上醜態は少ない方が良い。歪虚や害獣はそれだけで大義名分があるからいい。けれど一般人に変装した相手では知恵がある分対応が面倒だ。
「3人組が居るわね」
少人数であっても複数は複数。確認をとるのは、念を入れるに越したことはないからだ。無線機で繋いだ先のユリアンがカミラと相談する間も動向を探り、判断材料を探す。例えば自分のように耳を隠した様子がないかとか。不自然に武器を身に着けていないかといった具合だ。
(エルフに限ったことではないわよね)
例えばユレイテルが立候補することそのものを良しとしない人間。もしくはそれを装ってエルフハイムとの関係をさらに悪化させたい存在……可能性だけならゼロではないのだから。
「ユレイテルさんは、黙認されているって言っていたけど……」
判断の境界線等気になることは多い。浄化についてどれだけ世間に知られているのか、それが別の引き金になってしまわないかどうか。当人には聞こえぬように呟いたユリアンの言葉は、隣にいた防人には聞こえていた。
「知られていないからこそ、おしだす理由になっているんだろう」
ナハティガルや穹の案を元に作成されたビラを示す。ユレイテルの政策案というよりも、演説を紙面に纏めたような内容だ。それでいて、肝心の浄化技術の具体的な記載は避けられている。
(そしてその情報こそ、やりかたによっては処分の対象ということか)
ユレイテルは浄化方法を詳しく載せることを拒んだ。個人的な保身も含まれているのだろうが、もっと別の視点からの意図にも感じ取れる。広場で演説中のユレイテルを横目で見ながら防人は自身の考えを纏めていく。
「みなさん是非ユレイテル・エルフハイムに清き一票を!」
きらっきらの太陽のような、満面の笑顔。盾が広場で声を張り上げ人々の視線を集めていく。そうして集まる視線にさらされたユレイテルが、小さく微笑む。表だって愛想を振りまくエルフ二人に、何が始まるのかと足を止める者もいた。そこに立候補者であることを示すビラを配りさらなる興味を引く。
選挙そのものに前例がない上行事そのものがあまり多くない帝国において、新しいこの行事がどんなものなのか、それを知らない者も多い。
「冷やかしでも何でも、意見があれば遠慮なく言って欲しい」
Charlotteの言葉は知識欲のある者に有効で、立候補者の意思を聞くためというよりも、選挙そのものへの興味がある者に対する呼び水にもなっていた。人が集まれば、何があるのかと集まる者も多い。そうして人を集めていき、頃合いを見計らって演説を行っていった。
袖にデリンジャーを忍ばせている奏は、人々が集まる様子を確認しながら目立たない後方で待機している。演説内容を手帳に記録するためでもあるが、視野を広くとることで不審人物に気づきやすくするためでもあった。
同じように考えているのか、カミラも近くで待機している。第三師団のモチーフ入りのバックラーを装備していることから距離をとっている理由もあるのだろうが。
「ビラでは足りないのか?」
奏の手帳を示して聞いてくる。
「新聞に載せられないかと思いまして。……可能ですか」
後で頼もうかとも思っていたが、向こうから話題にするなら手間が省ける。
「あたってみよう。載せるかどうかまでは手を貸せないが」
「十分です。……個人的な質問をさせてください」
好機だからと、気になっていた疑問もぶつける。
「貴方はこの選挙の事をどう思っていますか? エルフハイムの方が立候補した事について、何を思いましたか?」
「陛下も認めていたが、茶番だ」
奏の目を見据えながら答えるカミラ。
「本当に来たのか。……今はそれだけだ」
公式な記録にもある答えばかりだが、返事はもらえた。一礼した奏は微笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。いつかこの問いのお礼をさせてください。私の故郷、日本の料理をご馳走します」
「それは是非頼む!」
宿は穹、演説場所はユリアンが率先して確保に動いていた中、ナハティガルは町や村の有力者に繋ぎをつけていた。カミラの持つ情報――とはいえ顔役の名前と年齢といった事務的な情報ではあるが――を頼りに、新しい拠点に着くたびユレイテルとの面会ができないか交渉に向かっていく。
「今、選挙に立候補しているエルフが居るんだが……」
役場等に向かう間もビラを配って無駄も省く。
(維新派エルフの代表として帝国民に意志を伝えるのは無駄な事じゃないだろうし、人脈作りにもなるしな)
なるべくならユレイテルの意思に沿ってやりたいと思っているのだ。
(しかし予想外……いや、そうでもねぇか?)
実際のところ、ナハティガルの交渉は本人が思う以上にうまくいっていた。広場などの場所を借りる意味でも、役場に話を通した事は悪いことではなかったし、そうした礼儀の面で好意的に受け取られているとはじめは思っていたのだが。
護衛も兼ねているハンター達は、ユレイテルに応対する者達の様子を見てその理由を理解する。
「お話はわかりました。……それで、エルフハイム産の物資の件なのですが……」
大抵の相手が同じようなことを口にした。それはシードルであったり木材であったり、貴重な薬草であったりもするのだが。エルフハイム産の物資に融通を聞かせる糸口にならないだろうかと、人間側の方でも下心があったらしい。今回立ち寄る場所は皆エルフハイムという森そのものの近くで暮らしており、人々は皆エルフの品に興味を持ちやすい地域だからこそ起きた事だ。
ユレイテルは等しく、案件を持ち帰るという受け答えしかしなかった。ユレイテルは立候補者であって商人でもないのだから。
「ねえ、試しにって聞いた、案の事だけど」
ビラと一緒に粗品にあたる何かをつけてみてはどうか、穹はユレイテルに提案をしていたが却下されていた。実際に行っていたら事態が別の方向に傾いていた可能性があることに気づき、確認をとろうと声をかけたのだ。
「森の外では、エルフハイム産の品は貴重とされていることが多いらしい、だから」
折角の提案だが実現は出来ないと謝罪するユレイテル。
「彼らのように直接交渉を行ってくるのはいい方だ」
「うちの監視業務にな、密猟やら密輸の撲滅も含まれている」
カミラが頷き補足する。
「特に材木はマテリアルが豊富だから、特に人気らしい」
浄化に使えるって噂があるくらいだからなと軽く言うカミラだが、ユレイテルの顔がかたい。
「やはり噂になっているか」
だからかと呟くその様子に、噂が真実に近いことを皆が知る事になる。
「美味しくできましたね!」
村の場合は宿の確保ができないこともあった。その場合はエリシャが予め願い出ていた野営道具等の備品が生きる。安全確認を行った盾が選んだ場所を拠点にし、エリシャと盾が食事を支度する。カミラも調理に参加したそうなそぶりを見せていたが、任務が優先。
「保存食でもひと手間加えれば十分美味しい料理に出来るわよね」
野営料理に慣れた盾が入手した野草も使って、干し肉と煮込んだスープがその日のメイン。これに日持ちのいいパンを一緒にして食べる。このパンは活動中の差し入れにと穹が買ってきたものだった。
●実態と覚悟
帝都に近づくにつれ、雰囲気は悪くなっていった。
現騎士皇がエルフハイムからも立候補者を募ったことは知られていることであり、エルフの師団長も立候補をしている。だからこそユレイテルが立候補したことは別に悪いことではない。だが帝国の中心部、ひいては軍属者の割合が増えていくにつれ、エルフハイムの姓を名乗るエルフに対して向けられる視線は厳しいものになっていった。
(『不可侵じゃないのか』……といったところか)
道中、はじめこそ予想との違いに内心驚いていたCharlotteだが、ここにきて納得の状況に近づいていた。帝国兵がエルフハイムに対する認識が、中心部近くに暮らす一般の帝国民たちにも根付いている。これまでと違い、呼びかけても答えを返すものは少ない。ビラを差し出しても受け取らず避けて通ろうとする者も居た。
(帝都ならどうだろうか。これ以上? 逆にそれさえも無くなるか?)
最終目的地を思う。皇帝陛下の膝元は、帝国兵の目が増える、その分表だって行動する者はなくなるかもしれない。
「貴方は状況的に圧倒的不利だ」
行程も終わりに近づいている。人がなかなか集まらないその日、演説のタイミングを計るユレイテルに防人は声をかけた。これまでに見てきた状況、理解したユレイテルの意思を全て鑑みた上で。
エルフハイムという出自を前面に出した上での立候補がマイナスであること、国民に対して利益を与える姿勢が見えないこと等を指摘する。
「理想しか語らぬ雄弁程、虚しい物は無い。現実を見据えて妥協点を見出し、その上で己の思想を啓蒙する事だ」
「忠言、感謝する。帝国以上に、我らがエルフハイムには選挙という概念がない。だからこそ、そういった指摘は非常にありがたい」
深く頭を下げるユレイテル。
「私のやり方がどこまで通用するのかを知る意味でも、この選挙は有意義だ。名と理想だけでも広まるなら意味がある」
これまでの隔たりが長かったからこそ急に変えられないことは自覚していて、だからこそこの先どうすべきなのか手段が見えにくかったのだと、抑えた声音で続く。今は立候補者という立場だからこそ、大っぴらに言えることではない。
「目標の為にこれから先どうすべきか、手がかりを得るためにも、貴方達ハンターの知恵を見せてもらうことに意義はあった、そう思っている」
後から行動を追いつかせるつもりであること。そして自分も皇帝選挙を利用したのだと。
「ユレイテルさんに、友達百人できるかな? なんちゃって♪」
出来うる限りのお手伝いはさせていただきます! そう気合を見せて挨拶をした聖盾(ka2154)に、ユレイテルが感謝を述べる。自身も挨拶をし、そしてユレイテルの様子を見ながら心中で考えを巡らせる者は少なくない。
『ユレイテル・エルフハイムの当選は厳しい』
認識はおおむね一致しているが、誰もあえて口には出さない。立候補そのもの、行動をすることには意味があると考えて手を貸すことにした、そんな動機の者が多いからだ。だからこそ、選挙活動の手伝いは手を抜かないで遂行される。
(森エルフの思想思考はいまいちわからないわ)
エリシャ・カンナヴィ(ka0140)は耳を隠す帽子を準備していた。エルフであることを隠す方が有利に働く場合もあるからだ。
盾もエリシャもユレイテルと同族ではあったが、どちらも街暮らしのためエルフハイムの排他的な考え方は理解が追いつかない。ただ最大集落を出身とするエルフというブランドは興味深いのだった。
「ところでマテリアル浄化ってなんですか?」
自己紹介代わりにとユレイテルが話した中の言葉に盾が首を傾げ尋ねる。
「不純なマテリアルや負のマテリアルに満ちた場所を、本来あるべき清浄な状態に戻すことだ」
丁寧に答えるユレイテルだが、少しばかり戸惑いが見えるようだ。
(帝国で浄化の理解が進んでいるとは思えない、そう思っていたが)
推測が当たったことを良い方に取るべきか悪い方に取るべきか、冷静に思考するのは君島 防人(ka0181)。
(浄化の技術は必要だ、だが帝国の機導術を損なう可能性もある)
今はまだ静観すべきと考えて、言葉にはしない。効果的なタイミングを読むべきだと思ったのだ。ユレイテルの意思、思想を知らなければならないから。
佐々加瀬 穹(ka2929)、ユリアン(ka1664)とナハティガル・ハーレイ(ka0023)の三人は先日ユレイテルとも顔を合わせている。
(あたし、は、まだ。此方に来て、日も、浅ければ。政治とか、技術とか、難しいこと、よく、分からないけど)
穹はマテリアルの浄化は帝国にとってプラスになるものだと思うし、ユレイテルの人柄に感化されたからここに居る。
「ユレイテルさん、この間はどうも。カミラ師団長もどうぞ宜しく」
「よっ! ユレイテル。合コンでの約束通り、手伝いに来たぜ」
挨拶を交わしながら、何事もなく終わってくれればいいとユリアンは思う。そのために手伝いに来ているのだけれど。
「そういや、まだちゃんと聞いて無かったが。――ユレイテル、アンタの想い描く理想って何だ?」
気さくに声をかけながら、ナハティガルは目をギラリと光らせた。この立候補は目的に近づく一歩だと、そう聞いていたからこそ。
「我々エルフの存続も理由の一つではある。だが……端的に言えば、認識を変えたいと思っている」
帝国とエルフハイム、互いの認識の溝のこと。
「それが強引な手であろうと変えていきたい。そのために試せる手段は使っていこうと考えている」
「なぁ、ユレイテルさん。二派に分かれていて、もし今回落選してユレイテルさんの立場は悪くならないのか?」
ユリアンの言葉に含まれる心配を感じ取り、ありがとうと小さく笑う。
「帝国に名前が残るならどんな形でも構わない。故郷に関しては、それこそ不利な行動をとらなければ処分もされないだろう」
帝国で働くエルフの前例は少なくない。ただ、先達は皆姓を捨てなければならなかった。
「今回の立候補は、今は黙認されているはずだ。影響もないだろう」
やりようによっては危険もはらんでいるけれど。
「選挙よりも後、これからやろうとしていることを考えれば、まだ些細なことだからな」
やり取りを眺めるCharlotte・V・K(ka0468)の顔には愉悦が浮かぶ。
(前王の血筋の姫に、エルフハイムからの使者、師団長の下克上……)
立候補者の顔ぶれだけでもイレギュラーだと思う。
「この国は。実に面白い。退屈せずに済みそうだよ」
戦闘に限らず、興味を惹かれる。故郷にもどこか似た国だからこそ、肌にもあっている。Charlotteの目が輝く。
(観察のし甲斐がありますね)
国も、そこで活動する者、更に集まる者にも。観察者に徹している音桐 奏(ka2951)は手帳にメモを取りながら、誰にも聞こえないように呟いた。
「とても興味深い事例ですね、この依頼は。では、観察を始めましょうか」
●活動と実情
エルヴィンバルト要塞を擁する都市マーフェルスはピースホライズンの近くに位置している。そのためピースホライズンから帝都までを繋ぐ大きな街道が用意されており、交通の便、そして治安の面においても悪くはなかった。
だが街道を進むだけでは選挙活動として物足りない。集落や町を訪れる為に街道を離れることは避けられない。だからこそ警戒の必要があった。
(一番面倒な相手は人なのよねぇ……)
率先して斥候に出るエリシャが気配を探る。各自戦闘準備も整えてはいるが、対人広報が本来の目的である以上醜態は少ない方が良い。歪虚や害獣はそれだけで大義名分があるからいい。けれど一般人に変装した相手では知恵がある分対応が面倒だ。
「3人組が居るわね」
少人数であっても複数は複数。確認をとるのは、念を入れるに越したことはないからだ。無線機で繋いだ先のユリアンがカミラと相談する間も動向を探り、判断材料を探す。例えば自分のように耳を隠した様子がないかとか。不自然に武器を身に着けていないかといった具合だ。
(エルフに限ったことではないわよね)
例えばユレイテルが立候補することそのものを良しとしない人間。もしくはそれを装ってエルフハイムとの関係をさらに悪化させたい存在……可能性だけならゼロではないのだから。
「ユレイテルさんは、黙認されているって言っていたけど……」
判断の境界線等気になることは多い。浄化についてどれだけ世間に知られているのか、それが別の引き金になってしまわないかどうか。当人には聞こえぬように呟いたユリアンの言葉は、隣にいた防人には聞こえていた。
「知られていないからこそ、おしだす理由になっているんだろう」
ナハティガルや穹の案を元に作成されたビラを示す。ユレイテルの政策案というよりも、演説を紙面に纏めたような内容だ。それでいて、肝心の浄化技術の具体的な記載は避けられている。
(そしてその情報こそ、やりかたによっては処分の対象ということか)
ユレイテルは浄化方法を詳しく載せることを拒んだ。個人的な保身も含まれているのだろうが、もっと別の視点からの意図にも感じ取れる。広場で演説中のユレイテルを横目で見ながら防人は自身の考えを纏めていく。
「みなさん是非ユレイテル・エルフハイムに清き一票を!」
きらっきらの太陽のような、満面の笑顔。盾が広場で声を張り上げ人々の視線を集めていく。そうして集まる視線にさらされたユレイテルが、小さく微笑む。表だって愛想を振りまくエルフ二人に、何が始まるのかと足を止める者もいた。そこに立候補者であることを示すビラを配りさらなる興味を引く。
選挙そのものに前例がない上行事そのものがあまり多くない帝国において、新しいこの行事がどんなものなのか、それを知らない者も多い。
「冷やかしでも何でも、意見があれば遠慮なく言って欲しい」
Charlotteの言葉は知識欲のある者に有効で、立候補者の意思を聞くためというよりも、選挙そのものへの興味がある者に対する呼び水にもなっていた。人が集まれば、何があるのかと集まる者も多い。そうして人を集めていき、頃合いを見計らって演説を行っていった。
袖にデリンジャーを忍ばせている奏は、人々が集まる様子を確認しながら目立たない後方で待機している。演説内容を手帳に記録するためでもあるが、視野を広くとることで不審人物に気づきやすくするためでもあった。
同じように考えているのか、カミラも近くで待機している。第三師団のモチーフ入りのバックラーを装備していることから距離をとっている理由もあるのだろうが。
「ビラでは足りないのか?」
奏の手帳を示して聞いてくる。
「新聞に載せられないかと思いまして。……可能ですか」
後で頼もうかとも思っていたが、向こうから話題にするなら手間が省ける。
「あたってみよう。載せるかどうかまでは手を貸せないが」
「十分です。……個人的な質問をさせてください」
好機だからと、気になっていた疑問もぶつける。
「貴方はこの選挙の事をどう思っていますか? エルフハイムの方が立候補した事について、何を思いましたか?」
「陛下も認めていたが、茶番だ」
奏の目を見据えながら答えるカミラ。
「本当に来たのか。……今はそれだけだ」
公式な記録にもある答えばかりだが、返事はもらえた。一礼した奏は微笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。いつかこの問いのお礼をさせてください。私の故郷、日本の料理をご馳走します」
「それは是非頼む!」
宿は穹、演説場所はユリアンが率先して確保に動いていた中、ナハティガルは町や村の有力者に繋ぎをつけていた。カミラの持つ情報――とはいえ顔役の名前と年齢といった事務的な情報ではあるが――を頼りに、新しい拠点に着くたびユレイテルとの面会ができないか交渉に向かっていく。
「今、選挙に立候補しているエルフが居るんだが……」
役場等に向かう間もビラを配って無駄も省く。
(維新派エルフの代表として帝国民に意志を伝えるのは無駄な事じゃないだろうし、人脈作りにもなるしな)
なるべくならユレイテルの意思に沿ってやりたいと思っているのだ。
(しかし予想外……いや、そうでもねぇか?)
実際のところ、ナハティガルの交渉は本人が思う以上にうまくいっていた。広場などの場所を借りる意味でも、役場に話を通した事は悪いことではなかったし、そうした礼儀の面で好意的に受け取られているとはじめは思っていたのだが。
護衛も兼ねているハンター達は、ユレイテルに応対する者達の様子を見てその理由を理解する。
「お話はわかりました。……それで、エルフハイム産の物資の件なのですが……」
大抵の相手が同じようなことを口にした。それはシードルであったり木材であったり、貴重な薬草であったりもするのだが。エルフハイム産の物資に融通を聞かせる糸口にならないだろうかと、人間側の方でも下心があったらしい。今回立ち寄る場所は皆エルフハイムという森そのものの近くで暮らしており、人々は皆エルフの品に興味を持ちやすい地域だからこそ起きた事だ。
ユレイテルは等しく、案件を持ち帰るという受け答えしかしなかった。ユレイテルは立候補者であって商人でもないのだから。
「ねえ、試しにって聞いた、案の事だけど」
ビラと一緒に粗品にあたる何かをつけてみてはどうか、穹はユレイテルに提案をしていたが却下されていた。実際に行っていたら事態が別の方向に傾いていた可能性があることに気づき、確認をとろうと声をかけたのだ。
「森の外では、エルフハイム産の品は貴重とされていることが多いらしい、だから」
折角の提案だが実現は出来ないと謝罪するユレイテル。
「彼らのように直接交渉を行ってくるのはいい方だ」
「うちの監視業務にな、密猟やら密輸の撲滅も含まれている」
カミラが頷き補足する。
「特に材木はマテリアルが豊富だから、特に人気らしい」
浄化に使えるって噂があるくらいだからなと軽く言うカミラだが、ユレイテルの顔がかたい。
「やはり噂になっているか」
だからかと呟くその様子に、噂が真実に近いことを皆が知る事になる。
「美味しくできましたね!」
村の場合は宿の確保ができないこともあった。その場合はエリシャが予め願い出ていた野営道具等の備品が生きる。安全確認を行った盾が選んだ場所を拠点にし、エリシャと盾が食事を支度する。カミラも調理に参加したそうなそぶりを見せていたが、任務が優先。
「保存食でもひと手間加えれば十分美味しい料理に出来るわよね」
野営料理に慣れた盾が入手した野草も使って、干し肉と煮込んだスープがその日のメイン。これに日持ちのいいパンを一緒にして食べる。このパンは活動中の差し入れにと穹が買ってきたものだった。
●実態と覚悟
帝都に近づくにつれ、雰囲気は悪くなっていった。
現騎士皇がエルフハイムからも立候補者を募ったことは知られていることであり、エルフの師団長も立候補をしている。だからこそユレイテルが立候補したことは別に悪いことではない。だが帝国の中心部、ひいては軍属者の割合が増えていくにつれ、エルフハイムの姓を名乗るエルフに対して向けられる視線は厳しいものになっていった。
(『不可侵じゃないのか』……といったところか)
道中、はじめこそ予想との違いに内心驚いていたCharlotteだが、ここにきて納得の状況に近づいていた。帝国兵がエルフハイムに対する認識が、中心部近くに暮らす一般の帝国民たちにも根付いている。これまでと違い、呼びかけても答えを返すものは少ない。ビラを差し出しても受け取らず避けて通ろうとする者も居た。
(帝都ならどうだろうか。これ以上? 逆にそれさえも無くなるか?)
最終目的地を思う。皇帝陛下の膝元は、帝国兵の目が増える、その分表だって行動する者はなくなるかもしれない。
「貴方は状況的に圧倒的不利だ」
行程も終わりに近づいている。人がなかなか集まらないその日、演説のタイミングを計るユレイテルに防人は声をかけた。これまでに見てきた状況、理解したユレイテルの意思を全て鑑みた上で。
エルフハイムという出自を前面に出した上での立候補がマイナスであること、国民に対して利益を与える姿勢が見えないこと等を指摘する。
「理想しか語らぬ雄弁程、虚しい物は無い。現実を見据えて妥協点を見出し、その上で己の思想を啓蒙する事だ」
「忠言、感謝する。帝国以上に、我らがエルフハイムには選挙という概念がない。だからこそ、そういった指摘は非常にありがたい」
深く頭を下げるユレイテル。
「私のやり方がどこまで通用するのかを知る意味でも、この選挙は有意義だ。名と理想だけでも広まるなら意味がある」
これまでの隔たりが長かったからこそ急に変えられないことは自覚していて、だからこそこの先どうすべきなのか手段が見えにくかったのだと、抑えた声音で続く。今は立候補者という立場だからこそ、大っぴらに言えることではない。
「目標の為にこれから先どうすべきか、手がかりを得るためにも、貴方達ハンターの知恵を見せてもらうことに意義はあった、そう思っている」
後から行動を追いつかせるつもりであること。そして自分も皇帝選挙を利用したのだと。
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参加者一覧
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依頼相談掲示板 | |||
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【相談】来訪者は森林より 君島 防人(ka0181) 人間(リアルブルー)|25才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2014/09/18 16:11:31 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/09/14 06:45:20 |
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質問の卓 ユリアン・クレティエ(ka1664) 人間(クリムゾンウェスト)|21才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2014/09/16 15:20:02 |