ゲスト
(ka0000)
山の上からゴロゴロドン
マスター:尾仲ヒエル

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/08/09 22:00
- 完成日
- 2016/08/17 01:36
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ゴロゴロゴロゴロ……
腹の底に響いてくるような地響き。
ドォン!
家から飛び出した村人たちが目にしたのは、家の壁にめり込む巨大な物体だった。
ギラギラと光を反射する、巨大な球。
「なんだ? 水晶……?」
正体を確かめようと近付いた村人たちの元に、続けて2つ目の球が山から転がり落ちてきた。
●水晶の村
洞窟の壁は水晶に埋めつくされ、入り口から射す光を受け、薄い青色に輝いている。
帝都と村を一望できる山の中腹。
ぽっかりと開いた洞窟の前に、2人の人影があった。
「レム、すごい騒ぎよ」
喪服のような黒いドレスを着た女が、隣に立つ少年に微笑みかける。
話し掛けられた銀髪の少年は、水晶のような瞳を見開いたまま微動だにしない。
「失敗作も無駄にならないし、いい気分転換になったわ。ファルバウティちゃんに御礼を言わなくちゃね」
女の前には、村を襲ったのと同じ、巨大な水晶の球が並んでいる。
よく見ると、珠の内部は空洞になっており、何かが動いているのが見えた。
女が端のひとつに手をかけ、ぐいっと押した。
斜面を勢いよく転がっていった球は、村の手前の岩にぶつかると真っ二つに割れた。
「あら、失敗しちゃった」
中からよろよろと這い出してきたゾンビに、村人たちがまた悲鳴を上げる。
落ちてきた他の球も、止まったままではいなかった。
中に入ったゾンビが球を動かし、逃げ惑う村人をぎこちない動きで追いかける。
球の操作に慣れていないのか、今はまだ村人が逃げられるほどの速度だが、そのスピードは少しずつ上がってきている。
やがて逃げ遅れた村人が押しつぶされることは想像にかたくなかった。
山の上から村の様子を眺めていた女は、満足そうに微笑む。
「もう少し観ていたいけど、ハンターたちが近くにいたみたい。面倒なことになる前に退散しましょう」
少年の手を取った女が姿を消したのと同時に、ハンターたちが村に到着した。
●暗闇に沈む経緯
「おい! ポゴを、弟をどこに連れて行ったんだ!」
「しー。静かに」
「あいつは俺の1人だけのかぞっ……」
鉄格子のはまった扉をがたつかせていた眼帯の男は、何かに口を塞がれでもしたように急に静かになった。
向かいの部屋から顔を覗かせていたモルガナは、それを確認して部屋に戻る。
窓のない無機質な部屋。
ちろちろと燃える蝋燭の炎が、壁にゆらめく不気味な影を作り出している。
「静かにさせてきたわ。――それで、さっきの続きだけど、文句ばかり言われても困るのよ。生前の姿そっくりで長持ちして、しかもちゃんと応答できるようにするだなんて、いくら私でも難しいの。もっと質の良い材料が必要なのよ」
ぐちゃり。
何かやわらかい物が崩れる音と共に、床の上に黒い染みが広がる。
「とにかく妙なこだわりは捨てて、年恰好の似た人間を連れてきて頂戴」
「……考えさせてくれ」
くぐもった声で答えて、フードを目深にかぶった人物が部屋を出て行く。
それと入れ違うように、するりと誰かが部屋に入って来た。
「なんじゃ。元気が無いな。活きのいい手土産を持ってきてやったのに」
扉の外からは、複数の声が聞こえている。
『ここから出せ!』
『出せって言って……』
『うわあ!』
喧噪。悲鳴。静寂。
部屋の中の2人は、そんなことなど気にも留めない様子で会話を続ける。
「いつも悪いわね。ああ、そこ、べたべたしているから気を付けて頂戴」
モルガナは、床の中央に広がった黒い液だまりに視線を向け、深いため息を吐いた。
「そうだわ。ねえ、ファルバウティちゃん。ちょっとそこに横向きでぶら下がってもらえないかしら」
モルガナが示した先には、いかにもいわくありげに、金属製の帽子掛けが2つ並べて置かれている。
「……一応聞くが、何のためじゃ」
「気分転換がしたくて。生きたハンモックって面白そうじゃない?」
「そのためだけにそれを用意したのか……」
呆れたような声に、モルガナのクスクス笑いが重なる。
「ファルバウティちゃんの、そのうんざりした顔大好きよ」
「どうせ剥いで飾りたいとかそんなとこじゃろ。嬉しくもなんともないわ。――そういえば、今日来る時に水晶の採れる村を通りがかったぞ。気分転換ならそっちで間に合うじゃろ」
用は済んだとばかりに部屋を後にするファルバウティの言葉に、モルガナは興味を惹かれた様子で首を傾げた。
腹の底に響いてくるような地響き。
ドォン!
家から飛び出した村人たちが目にしたのは、家の壁にめり込む巨大な物体だった。
ギラギラと光を反射する、巨大な球。
「なんだ? 水晶……?」
正体を確かめようと近付いた村人たちの元に、続けて2つ目の球が山から転がり落ちてきた。
●水晶の村
洞窟の壁は水晶に埋めつくされ、入り口から射す光を受け、薄い青色に輝いている。
帝都と村を一望できる山の中腹。
ぽっかりと開いた洞窟の前に、2人の人影があった。
「レム、すごい騒ぎよ」
喪服のような黒いドレスを着た女が、隣に立つ少年に微笑みかける。
話し掛けられた銀髪の少年は、水晶のような瞳を見開いたまま微動だにしない。
「失敗作も無駄にならないし、いい気分転換になったわ。ファルバウティちゃんに御礼を言わなくちゃね」
女の前には、村を襲ったのと同じ、巨大な水晶の球が並んでいる。
よく見ると、珠の内部は空洞になっており、何かが動いているのが見えた。
女が端のひとつに手をかけ、ぐいっと押した。
斜面を勢いよく転がっていった球は、村の手前の岩にぶつかると真っ二つに割れた。
「あら、失敗しちゃった」
中からよろよろと這い出してきたゾンビに、村人たちがまた悲鳴を上げる。
落ちてきた他の球も、止まったままではいなかった。
中に入ったゾンビが球を動かし、逃げ惑う村人をぎこちない動きで追いかける。
球の操作に慣れていないのか、今はまだ村人が逃げられるほどの速度だが、そのスピードは少しずつ上がってきている。
やがて逃げ遅れた村人が押しつぶされることは想像にかたくなかった。
山の上から村の様子を眺めていた女は、満足そうに微笑む。
「もう少し観ていたいけど、ハンターたちが近くにいたみたい。面倒なことになる前に退散しましょう」
少年の手を取った女が姿を消したのと同時に、ハンターたちが村に到着した。
●暗闇に沈む経緯
「おい! ポゴを、弟をどこに連れて行ったんだ!」
「しー。静かに」
「あいつは俺の1人だけのかぞっ……」
鉄格子のはまった扉をがたつかせていた眼帯の男は、何かに口を塞がれでもしたように急に静かになった。
向かいの部屋から顔を覗かせていたモルガナは、それを確認して部屋に戻る。
窓のない無機質な部屋。
ちろちろと燃える蝋燭の炎が、壁にゆらめく不気味な影を作り出している。
「静かにさせてきたわ。――それで、さっきの続きだけど、文句ばかり言われても困るのよ。生前の姿そっくりで長持ちして、しかもちゃんと応答できるようにするだなんて、いくら私でも難しいの。もっと質の良い材料が必要なのよ」
ぐちゃり。
何かやわらかい物が崩れる音と共に、床の上に黒い染みが広がる。
「とにかく妙なこだわりは捨てて、年恰好の似た人間を連れてきて頂戴」
「……考えさせてくれ」
くぐもった声で答えて、フードを目深にかぶった人物が部屋を出て行く。
それと入れ違うように、するりと誰かが部屋に入って来た。
「なんじゃ。元気が無いな。活きのいい手土産を持ってきてやったのに」
扉の外からは、複数の声が聞こえている。
『ここから出せ!』
『出せって言って……』
『うわあ!』
喧噪。悲鳴。静寂。
部屋の中の2人は、そんなことなど気にも留めない様子で会話を続ける。
「いつも悪いわね。ああ、そこ、べたべたしているから気を付けて頂戴」
モルガナは、床の中央に広がった黒い液だまりに視線を向け、深いため息を吐いた。
「そうだわ。ねえ、ファルバウティちゃん。ちょっとそこに横向きでぶら下がってもらえないかしら」
モルガナが示した先には、いかにもいわくありげに、金属製の帽子掛けが2つ並べて置かれている。
「……一応聞くが、何のためじゃ」
「気分転換がしたくて。生きたハンモックって面白そうじゃない?」
「そのためだけにそれを用意したのか……」
呆れたような声に、モルガナのクスクス笑いが重なる。
「ファルバウティちゃんの、そのうんざりした顔大好きよ」
「どうせ剥いで飾りたいとかそんなとこじゃろ。嬉しくもなんともないわ。――そういえば、今日来る時に水晶の採れる村を通りがかったぞ。気分転換ならそっちで間に合うじゃろ」
用は済んだとばかりに部屋を後にするファルバウティの言葉に、モルガナは興味を惹かれた様子で首を傾げた。
リプレイ本文
ハンターたちが村に急ぐ。
途中、山の中腹に見えた人影に、八原 篝(ka3104)が息を呑んだ。
「レム……!」
先日、隣にいる女によって命を奪われたはずの少年は、振り向くことなく姿を消した。
代わりにその女だけが篝の考えを裏付けるように振り返り、姿を消す直前に赤い唇を吊り上げて笑った。
「あいつ……でも今は村の人達の安全を確保しないと!」
同じ事件に関わっていたテンシ・アガート(ka0589)も消えた女を睨む。
追いかけたいところだったが、今まさに水晶球に襲われている人々を放っておくわけにもいかず、ハンターたちは村を目指す。
苛立ちを表すように、テンシのブーツがガチャリと鳴った。
「戦えない人は今のうちに家の中に隠れてくださいですぅ、ハリィハリィ!」
馬で先行していた星野 ハナ(ka5852)が、村の外から村人たちに呼びかける。
その横では、コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)が、水晶球を撃って足止めを図っていた。
「今だ、走れ!」
村人たちが家に駆け込み、扉の閉まる音が重なった。
一方、村の西側では、ザレム・アズール(ka0878)が水晶球に向かってバイクを加速させていた。
「物理法則には逆らえないってのを叩き込んでやる」
勢いよく転がる水晶球との距離がぐんぐんと近付き、中のゾンビが見えるほどの距離になる。
「方向転換は勢いがつくほどし辛くなるって知ってたか?」
問いに対する答えを待たず、拳を掲げたザレムは、バイクの勢いそのままに突っ込んでいく。
球の中のゾンビがバイクに気付くが、ザレムの言葉通り、すぐに反応することができない。
バイクが水晶球を追い抜く瞬間、ザレムの手の甲に備えられた魔導装置が、金属製のナックルを噴射した。
ドン、という衝撃音と共に、水晶球が押し出されるように加速する。
パン!
大岩に直撃した水晶球が砕け散り、中のゾンビが地面に投げ出される。
衝撃にゾンビも無事では済まなかったようで、すぐには立ち上がれない。
かすめるように球を追い抜いていたザレムはバイクを停め、魔導装置をゾンビに向けた。
「さよならだ」
「見つけた」
奇妙な音に気が付き、篝がバイクを停める。
最初に大岩に当たって割れた、あの水晶球から出てきたゾンビだろう。
ダメージがあったらしい右腕をだらりと垂らしたまま、1体のゾンビが近くの家の扉を蹴っていた。
ゾンビが蹴るたび大きな音が響き、木で出来た扉に鋭い爪による傷がついていく。
いつ扉が蹴破られるかと、家の中では村人が身を寄せ合って怯えていることだろう。
篝が真っ白なスナイパーライフルを構える。
自分の意思とは関係なくこの世界に転移してしまった篝の心から、帰りたいという思いは消えることがない。
だが、この世界で過ごす中で気付いたことがある。
「わたし、この世界も嫌いじゃないの」
狙いすました一撃が、ゾンビの頭を正確に射抜いた。
「きゃあ!」
村の中央で悲鳴が上がる。
逃げ遅れたのか、仔犬を抱いた少女が水晶球と鉢合わせてしまっていた。
どうすることもできずに少女が身をすくめた時、その耳に朗らかな声が届いた。
「こっち!」
少女の手を取ったテンシがにこりと笑い、走り出した。
テンシは少女に何事かささやきながら、まるで目的があるように村の端を目指していく。
「いい? 行くよ。いち、にの、さん!」
合図の瞬間、それまで真っ直ぐに走っていたテンシたちが大きく横に逸れた。
急な方向転換についていけず、水晶球はそのままの勢いで前に転がって――突如、ずぶりと地面に沈んだ。
「はぁい、いらっしゃぁい」
指に挟んだ札を振りながら、ハナが笑顔を浮かべる。
いつの間にか水晶球の周りには泥の沼が広がっていた。
水晶球を捕えている泥は、ハナが地縛符で作り出したものだ。
その間にテンシが少女を安全な場所まで移動させる。
まだ動けずにいる水晶球に、コーネリアが馬上から銃口を向けた。
「どんな硬い鎧も永遠に砕かれぬことはない。貴様らとて例外ではない」
乾いた音がして、水晶の表面に蜘蛛の巣状のひびが入った。
「一度で壊れないのなら、何度でも」
彼女の辞書に容赦の文字は無い。
どんな敵であろうと、確実に葬り去るまで攻め抜くのがコーネリアの戦闘姿勢だ。
焦るように泥の中で揺れる水晶球に、続けて銃弾を撃ち込まれる。
パキィン、という澄んだ音が響いた。
村のあちこちで水晶球が割れる音が響く中、その音に重なるように、キィン、と高い音が鳴る。
ユリアン(ka1664)の刀がゾンビの爪を受け止めていた。
再び繰り出された蹴りを、ユリアンが身を屈めて避ける。
「その程度?」
地面を蹴ったユリアンは、その勢いのまま刀を横薙ぎに払い、ゾンビを両断した。
霧散していくゾンビを眺めていたユリアンは、通りの先で方向転換しようとしている水晶球に気付いた。
疾影士らしい身のこなしで一気に距離を詰めたユリアンは、ひらりと水晶球の上に飛び乗った。
予想外の出来事に動きを止めた水晶球を、ユリアンが玉乗りの要領で転がす。
「さあ、まとめておいでよ」
ぐるりと周囲を見渡してユリアンが腕を広げる。
水晶の破片を足掛かりに屋根に上っていた篝が、ユリアンを認めて声を掛けた。
「ゾンビを一体、そっちに誘導するわ!」
ユリアンのいる場所から家々を挟んだ反対側。
通りをうろついていたゾンビを狙って、篝がオートマチックの銃声を放った。
銃弾に込めて放たれたマテリアルが、ゾンビの間近で火花のように弾ける。
振り返ったゾンビが屋根の上の篝に気付き、飛び跳ねるように近付いてくる。
「ほら、こっちよ」
篝はゾンビの気を上手く引きながら屋根の上を渡り、ユリアンのほうに誘導していった。
通りに立ったテンシが村を見渡す。
こじんまりとした家々はよく手入れされ、家の周囲は野の花に彩られている。
村人たちのささやかな暮らしが窺える光景だ。
そこに、重たげな振動と共に、水晶球の1つが勢いをつけて転がってきた。
家ごと押しつぶそうとでもいうのか、テンシの背後に家があることも気にせず加速してくる。
テンシは足を開き、臆することなく身構えた。
「守ってみせる!」
これまで体格によるハンデを知識や閃きで乗り切ってきたテンシは、今回も持てる能力の全てを使って歪虚に挑む。
「動かざるもの――動物霊サイ!」
テンシの背後に動物霊の巨躯のビジョンが浮かび、小柄な体に力がみなぎっていく。
――ドン!
砂煙が立ち込め、テンシの声だけが響く。
「……ッハァ、余裕だね!」
煙が消えた後には、地面にブーツをめりこませたまま、不敵に笑うテンシの姿があった。
衝突の瞬間、アンカーブーツの機能を使って体を地面に固定していたのだ。
動物霊の力が胴体へのダメージをギリギリで防いでいたが、さすがに衝撃は大きい。
だが、村の家々に被害は無く、テンシの目の前で、ひびの入った水晶球は完全に止まっていた。
「協力する」
ザレムが腕を伸ばすと、その先の空中に光の三角形が浮かぶ。
「よろしく!」
アンカーブーツを引き抜いたテンシが後ろに跳んだ。
瞬間、ヴン、と唸りを上げて走った太い光の筋が水晶を貫いた。
一直線に走った光の勢いは水晶だけにとどまらず、中にいるゾンビの肩を貫く。
「ギャアァウ!」
パリィン、という水晶の割れる音と、ゾンビの絶叫が重なった。
割れた水晶からよろめき出てきたゾンビに、両手剣を握ったテンシが迫る。
「とどめ!」
祖霊の力を込めた剣がゾンビを両断し、黒い霧が散った。
「死者は墓に入っていなきゃダメだ」
水晶から出てきたゾンビを、コーネリアが一体ずつ倒していく。
地位や名誉などいらない。
彼女を戦いへと駆り立てているのは、もっと違う感情だ。
自分の無力ゆえに妹を助けられなかった。
あの時、コーネリアを覚醒させたのは、歪虚への憎しみだ。
執拗とも言えるほどの攻撃は、亡き妹への贖罪であり、供養でもある。
素早い蹴りを繰り出そうとするゾンビから距離を取ったコーネリアが銃を構えた。
まるで消えることのない復讐の炎を表すように、紅蓮の閃光が彼女の全身を包む。
「土に還れ。そしてあの世で一生、妹に頭を下げながら暮らせ」
妹の名を付けた銃でゾンビにとどめを刺すと、すぐにコーネリアは次の標的を探し始めた。
走り回る水晶球の脇ギリギリをすり抜けて、風のようにユリアンが駆ける。
随分とスピードが増してきた球は、動き回るユリアンを押しつぶそうと更に加速した。
「ほら、こっちだ」
1体のゾンビと、2つの水晶球を引き付けながらユリアンが目指すのは、剥き出しになった山の岩肌だ。
「こっちですぅ!」
ゾンビたちを引き連れたユリアンを、岩肌近くで待っていたハナが呼ぶ。
走ってきたユリアンは、そのまま岩肌に向かって激突する――代わりに、岩肌を蹴って空に跳んだ。
岩肌に衝突した水晶球の1つがゴン、と音を立てて止まり、急な動きについて行けなかったゾンビも取り残される。
「いっきますよぉ!」
ハナの声が響く。
そこはもう既に結界の中。
ゾンビたちは知らず知らずの内に、準備の整った罠の中に誘導されていた。
風も無いのにハナの茶色の髪がふわりと広がり、鎧を覆う符がひるがえる。
五色光符陣。
圧倒的な光が結界の中に溢れた。
まず始めに、ゾンビが消えた。
許容量を遥かに越えた光は、ゾンビに地面に痕跡を残すことさえ許さなかった。
次に、破裂音と共に水晶球が弾ける。
光が消えたあと、岩肌の前には、結界から外れていた水晶球と、水晶球から投げ出されたゾンビだけが残されていた。
「まだまだありますよぉ」
にっこり笑ったハナが、大量の符をひらつかせる。
ハナの手元には、今の五色光符陣をあと10回以上は発動できそうな数の符が残っていた。
岩肌に追いつめられたゾンビたちに、もう逃げ場はない。
最後に残ったゾンビたちを、ハンターたちが取り囲んだ。
「村を救ってくださり、ありがとうございました」
少女を始めとした村人たちが、ハンターたちに向かって深々と頭を下げる。
「みんな無事で良かった!」
「ほんとに良かったですぅ」
1人の負傷者も出すことなく揃った村人たちを見て、テンシとハナが安堵の表情で頷く。
「割れた水晶も洗えば使えるだろう」
ザレムの言葉に、村人の間にもほっとした空気が流れる。
「よかった。元々小さく切り出して加工していますから、被害も少ないでしょう」
土産物屋を営んでいるという村人が、ハンターたちを近くの店に案内する。
これが元々の村の様子なのだろう。
通りには水晶を抱えた村人が行き来し、水晶細工の工房や土産物屋が準備を始める。
ハンターたちの活躍により被害をまぬがれた村人たちは、少しずつ普段の生活へ戻ろうとしていた。
「綺麗なものだな」
水晶細工を見たコーネリアの言葉に、村人たちが誇らしげな笑顔を浮かべる。
ザレムが興味深そうに大きな水晶の塊を手に取ると、その後ろで弾けるような笑い声が上がった。
「こらこら、もう、くすぐったいよ」
少女と共に命を助けられた仔犬がテンシにじゃれつき、頬をペロペロ舐めていた。
「……くっ。なんというキラキラした夏っぽい感じ。私も負けてられないですぅ!」
テンシと仔犬の姿を見たハナが闘志を燃やす。
「動物と一緒にいると可愛いさ倍増の法則……まーちゃん、協力してくれる動物さんを見つけに行きますよぉ!」
軍馬のまーちゃんに話し掛けるハナの表情は真剣だ。
残り少なくなってきた夏。このチャンスに賭けるハナの、もう一つの戦いが始まろうとしていた。
「ここに黒いドレスの女と、銀髪の少年がいたのよね」
水晶の洞窟の前で、篝がモルガナを見たという村人に尋ねていた。
「ああ。洞窟への道を聞かれて教えたんだ。……まさかこんなことをしでかすとはなあ」
ため息をついた村人は、思い出したように付け加えた。
「そういえば、ファウル……? ファルなんとかがどうとか言っていたが、うまく聞き取れなかったな」
その言葉にユリアンが反応する。
「ファルバウティ?」
「そう! 確かそうだったよ。誰かの名前かい? 兄ちゃんよく知ってるなあ」
「――ああ、よく知ってる名前だ」
ユリアンの声が低く沈む。
「モルガナが起こす事件に、そいつが絡んでるってこと?」
呟いた篝は、他のメンバーとも情報を共有しようと村に向かう。
後日、ハンターオフィスの情報に、モルガナがまたゾンビを使った事件を起こしたことと、モルガナが起こす事件にファルバウティが絡んでいる可能性があることが追記され、ハンターたちに共有された。
途中、山の中腹に見えた人影に、八原 篝(ka3104)が息を呑んだ。
「レム……!」
先日、隣にいる女によって命を奪われたはずの少年は、振り向くことなく姿を消した。
代わりにその女だけが篝の考えを裏付けるように振り返り、姿を消す直前に赤い唇を吊り上げて笑った。
「あいつ……でも今は村の人達の安全を確保しないと!」
同じ事件に関わっていたテンシ・アガート(ka0589)も消えた女を睨む。
追いかけたいところだったが、今まさに水晶球に襲われている人々を放っておくわけにもいかず、ハンターたちは村を目指す。
苛立ちを表すように、テンシのブーツがガチャリと鳴った。
「戦えない人は今のうちに家の中に隠れてくださいですぅ、ハリィハリィ!」
馬で先行していた星野 ハナ(ka5852)が、村の外から村人たちに呼びかける。
その横では、コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)が、水晶球を撃って足止めを図っていた。
「今だ、走れ!」
村人たちが家に駆け込み、扉の閉まる音が重なった。
一方、村の西側では、ザレム・アズール(ka0878)が水晶球に向かってバイクを加速させていた。
「物理法則には逆らえないってのを叩き込んでやる」
勢いよく転がる水晶球との距離がぐんぐんと近付き、中のゾンビが見えるほどの距離になる。
「方向転換は勢いがつくほどし辛くなるって知ってたか?」
問いに対する答えを待たず、拳を掲げたザレムは、バイクの勢いそのままに突っ込んでいく。
球の中のゾンビがバイクに気付くが、ザレムの言葉通り、すぐに反応することができない。
バイクが水晶球を追い抜く瞬間、ザレムの手の甲に備えられた魔導装置が、金属製のナックルを噴射した。
ドン、という衝撃音と共に、水晶球が押し出されるように加速する。
パン!
大岩に直撃した水晶球が砕け散り、中のゾンビが地面に投げ出される。
衝撃にゾンビも無事では済まなかったようで、すぐには立ち上がれない。
かすめるように球を追い抜いていたザレムはバイクを停め、魔導装置をゾンビに向けた。
「さよならだ」
「見つけた」
奇妙な音に気が付き、篝がバイクを停める。
最初に大岩に当たって割れた、あの水晶球から出てきたゾンビだろう。
ダメージがあったらしい右腕をだらりと垂らしたまま、1体のゾンビが近くの家の扉を蹴っていた。
ゾンビが蹴るたび大きな音が響き、木で出来た扉に鋭い爪による傷がついていく。
いつ扉が蹴破られるかと、家の中では村人が身を寄せ合って怯えていることだろう。
篝が真っ白なスナイパーライフルを構える。
自分の意思とは関係なくこの世界に転移してしまった篝の心から、帰りたいという思いは消えることがない。
だが、この世界で過ごす中で気付いたことがある。
「わたし、この世界も嫌いじゃないの」
狙いすました一撃が、ゾンビの頭を正確に射抜いた。
「きゃあ!」
村の中央で悲鳴が上がる。
逃げ遅れたのか、仔犬を抱いた少女が水晶球と鉢合わせてしまっていた。
どうすることもできずに少女が身をすくめた時、その耳に朗らかな声が届いた。
「こっち!」
少女の手を取ったテンシがにこりと笑い、走り出した。
テンシは少女に何事かささやきながら、まるで目的があるように村の端を目指していく。
「いい? 行くよ。いち、にの、さん!」
合図の瞬間、それまで真っ直ぐに走っていたテンシたちが大きく横に逸れた。
急な方向転換についていけず、水晶球はそのままの勢いで前に転がって――突如、ずぶりと地面に沈んだ。
「はぁい、いらっしゃぁい」
指に挟んだ札を振りながら、ハナが笑顔を浮かべる。
いつの間にか水晶球の周りには泥の沼が広がっていた。
水晶球を捕えている泥は、ハナが地縛符で作り出したものだ。
その間にテンシが少女を安全な場所まで移動させる。
まだ動けずにいる水晶球に、コーネリアが馬上から銃口を向けた。
「どんな硬い鎧も永遠に砕かれぬことはない。貴様らとて例外ではない」
乾いた音がして、水晶の表面に蜘蛛の巣状のひびが入った。
「一度で壊れないのなら、何度でも」
彼女の辞書に容赦の文字は無い。
どんな敵であろうと、確実に葬り去るまで攻め抜くのがコーネリアの戦闘姿勢だ。
焦るように泥の中で揺れる水晶球に、続けて銃弾を撃ち込まれる。
パキィン、という澄んだ音が響いた。
村のあちこちで水晶球が割れる音が響く中、その音に重なるように、キィン、と高い音が鳴る。
ユリアン(ka1664)の刀がゾンビの爪を受け止めていた。
再び繰り出された蹴りを、ユリアンが身を屈めて避ける。
「その程度?」
地面を蹴ったユリアンは、その勢いのまま刀を横薙ぎに払い、ゾンビを両断した。
霧散していくゾンビを眺めていたユリアンは、通りの先で方向転換しようとしている水晶球に気付いた。
疾影士らしい身のこなしで一気に距離を詰めたユリアンは、ひらりと水晶球の上に飛び乗った。
予想外の出来事に動きを止めた水晶球を、ユリアンが玉乗りの要領で転がす。
「さあ、まとめておいでよ」
ぐるりと周囲を見渡してユリアンが腕を広げる。
水晶の破片を足掛かりに屋根に上っていた篝が、ユリアンを認めて声を掛けた。
「ゾンビを一体、そっちに誘導するわ!」
ユリアンのいる場所から家々を挟んだ反対側。
通りをうろついていたゾンビを狙って、篝がオートマチックの銃声を放った。
銃弾に込めて放たれたマテリアルが、ゾンビの間近で火花のように弾ける。
振り返ったゾンビが屋根の上の篝に気付き、飛び跳ねるように近付いてくる。
「ほら、こっちよ」
篝はゾンビの気を上手く引きながら屋根の上を渡り、ユリアンのほうに誘導していった。
通りに立ったテンシが村を見渡す。
こじんまりとした家々はよく手入れされ、家の周囲は野の花に彩られている。
村人たちのささやかな暮らしが窺える光景だ。
そこに、重たげな振動と共に、水晶球の1つが勢いをつけて転がってきた。
家ごと押しつぶそうとでもいうのか、テンシの背後に家があることも気にせず加速してくる。
テンシは足を開き、臆することなく身構えた。
「守ってみせる!」
これまで体格によるハンデを知識や閃きで乗り切ってきたテンシは、今回も持てる能力の全てを使って歪虚に挑む。
「動かざるもの――動物霊サイ!」
テンシの背後に動物霊の巨躯のビジョンが浮かび、小柄な体に力がみなぎっていく。
――ドン!
砂煙が立ち込め、テンシの声だけが響く。
「……ッハァ、余裕だね!」
煙が消えた後には、地面にブーツをめりこませたまま、不敵に笑うテンシの姿があった。
衝突の瞬間、アンカーブーツの機能を使って体を地面に固定していたのだ。
動物霊の力が胴体へのダメージをギリギリで防いでいたが、さすがに衝撃は大きい。
だが、村の家々に被害は無く、テンシの目の前で、ひびの入った水晶球は完全に止まっていた。
「協力する」
ザレムが腕を伸ばすと、その先の空中に光の三角形が浮かぶ。
「よろしく!」
アンカーブーツを引き抜いたテンシが後ろに跳んだ。
瞬間、ヴン、と唸りを上げて走った太い光の筋が水晶を貫いた。
一直線に走った光の勢いは水晶だけにとどまらず、中にいるゾンビの肩を貫く。
「ギャアァウ!」
パリィン、という水晶の割れる音と、ゾンビの絶叫が重なった。
割れた水晶からよろめき出てきたゾンビに、両手剣を握ったテンシが迫る。
「とどめ!」
祖霊の力を込めた剣がゾンビを両断し、黒い霧が散った。
「死者は墓に入っていなきゃダメだ」
水晶から出てきたゾンビを、コーネリアが一体ずつ倒していく。
地位や名誉などいらない。
彼女を戦いへと駆り立てているのは、もっと違う感情だ。
自分の無力ゆえに妹を助けられなかった。
あの時、コーネリアを覚醒させたのは、歪虚への憎しみだ。
執拗とも言えるほどの攻撃は、亡き妹への贖罪であり、供養でもある。
素早い蹴りを繰り出そうとするゾンビから距離を取ったコーネリアが銃を構えた。
まるで消えることのない復讐の炎を表すように、紅蓮の閃光が彼女の全身を包む。
「土に還れ。そしてあの世で一生、妹に頭を下げながら暮らせ」
妹の名を付けた銃でゾンビにとどめを刺すと、すぐにコーネリアは次の標的を探し始めた。
走り回る水晶球の脇ギリギリをすり抜けて、風のようにユリアンが駆ける。
随分とスピードが増してきた球は、動き回るユリアンを押しつぶそうと更に加速した。
「ほら、こっちだ」
1体のゾンビと、2つの水晶球を引き付けながらユリアンが目指すのは、剥き出しになった山の岩肌だ。
「こっちですぅ!」
ゾンビたちを引き連れたユリアンを、岩肌近くで待っていたハナが呼ぶ。
走ってきたユリアンは、そのまま岩肌に向かって激突する――代わりに、岩肌を蹴って空に跳んだ。
岩肌に衝突した水晶球の1つがゴン、と音を立てて止まり、急な動きについて行けなかったゾンビも取り残される。
「いっきますよぉ!」
ハナの声が響く。
そこはもう既に結界の中。
ゾンビたちは知らず知らずの内に、準備の整った罠の中に誘導されていた。
風も無いのにハナの茶色の髪がふわりと広がり、鎧を覆う符がひるがえる。
五色光符陣。
圧倒的な光が結界の中に溢れた。
まず始めに、ゾンビが消えた。
許容量を遥かに越えた光は、ゾンビに地面に痕跡を残すことさえ許さなかった。
次に、破裂音と共に水晶球が弾ける。
光が消えたあと、岩肌の前には、結界から外れていた水晶球と、水晶球から投げ出されたゾンビだけが残されていた。
「まだまだありますよぉ」
にっこり笑ったハナが、大量の符をひらつかせる。
ハナの手元には、今の五色光符陣をあと10回以上は発動できそうな数の符が残っていた。
岩肌に追いつめられたゾンビたちに、もう逃げ場はない。
最後に残ったゾンビたちを、ハンターたちが取り囲んだ。
「村を救ってくださり、ありがとうございました」
少女を始めとした村人たちが、ハンターたちに向かって深々と頭を下げる。
「みんな無事で良かった!」
「ほんとに良かったですぅ」
1人の負傷者も出すことなく揃った村人たちを見て、テンシとハナが安堵の表情で頷く。
「割れた水晶も洗えば使えるだろう」
ザレムの言葉に、村人の間にもほっとした空気が流れる。
「よかった。元々小さく切り出して加工していますから、被害も少ないでしょう」
土産物屋を営んでいるという村人が、ハンターたちを近くの店に案内する。
これが元々の村の様子なのだろう。
通りには水晶を抱えた村人が行き来し、水晶細工の工房や土産物屋が準備を始める。
ハンターたちの活躍により被害をまぬがれた村人たちは、少しずつ普段の生活へ戻ろうとしていた。
「綺麗なものだな」
水晶細工を見たコーネリアの言葉に、村人たちが誇らしげな笑顔を浮かべる。
ザレムが興味深そうに大きな水晶の塊を手に取ると、その後ろで弾けるような笑い声が上がった。
「こらこら、もう、くすぐったいよ」
少女と共に命を助けられた仔犬がテンシにじゃれつき、頬をペロペロ舐めていた。
「……くっ。なんというキラキラした夏っぽい感じ。私も負けてられないですぅ!」
テンシと仔犬の姿を見たハナが闘志を燃やす。
「動物と一緒にいると可愛いさ倍増の法則……まーちゃん、協力してくれる動物さんを見つけに行きますよぉ!」
軍馬のまーちゃんに話し掛けるハナの表情は真剣だ。
残り少なくなってきた夏。このチャンスに賭けるハナの、もう一つの戦いが始まろうとしていた。
「ここに黒いドレスの女と、銀髪の少年がいたのよね」
水晶の洞窟の前で、篝がモルガナを見たという村人に尋ねていた。
「ああ。洞窟への道を聞かれて教えたんだ。……まさかこんなことをしでかすとはなあ」
ため息をついた村人は、思い出したように付け加えた。
「そういえば、ファウル……? ファルなんとかがどうとか言っていたが、うまく聞き取れなかったな」
その言葉にユリアンが反応する。
「ファルバウティ?」
「そう! 確かそうだったよ。誰かの名前かい? 兄ちゃんよく知ってるなあ」
「――ああ、よく知ってる名前だ」
ユリアンの声が低く沈む。
「モルガナが起こす事件に、そいつが絡んでるってこと?」
呟いた篝は、他のメンバーとも情報を共有しようと村に向かう。
後日、ハンターオフィスの情報に、モルガナがまたゾンビを使った事件を起こしたことと、モルガナが起こす事件にファルバウティが絡んでいる可能性があることが追記され、ハンターたちに共有された。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 八原 篝(ka3104) 人間(リアルブルー)|19才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2016/08/09 10:59:16 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/08/06 22:09:04 |