鉄仮面と夜更けの錬金術師たち

マスター:植田誠

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/08/11 12:00
完成日
2016/08/25 02:39

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


「これは……」
 研究室でとある魔導機械の残骸を調査していたクロウはその正体に驚愕した。
 この魔導機械とは先日剣機に持ち去られそうになった兵器。その一部はハンターの活躍で爆破され強奪を阻止されたのだが、その際取得されたものだ。それらは組み合わせなども不明であるうえ、いくつかパーツも不足しているようだった。恐らくはどこかに運んだあと完成させるのだろう。ともかく可能な範囲でそれらを分析し、その完成図を予測してみたところ……
「ハルトの使っていた……あの魔導機械に近いか?」
 ハルト、とは歪虚と共に行動していたハルト・ウェーバーのことだ。彼が使っていた魔導機械は機械自体が浮遊し、使用者の指示で攻撃を行う砲台のような魔導機械だ。直接対峙したクロウの記憶に残るそれと、この予想完成図はそっくりだった。
 この魔導機械を作っていた工場主であるホルスト・プレスブルクは現在錬金術教導団との関与を疑われている状態であり、ハルトもただ歪虚というだけではなく教導団の関係者である可能性が高い。
 さらに、先日教導団が使用していた魔導アーマー。これはホルストの工場から出荷された後強奪された物であるが、その輸送先はすでに消滅している。
「もう少し裏付け調査は必要だろうな……だが、これで尻尾は掴めたな。もう少しだ……」


「……と、あの男は思っていることでしょう」
 ホルストの私邸。白いローブにフードを深くかぶった男の一人が言った。
「そんなことはどうでもいい! 問題は今後の事だ!」
 それに対し、やや癇癪気味にホルストが返す。
「すでに準備は進めております。プレスブルク様は出立のご用意を……」
「分かっている!」
 顔を赤くして出ていくホルスト。その姿を見送ったのち、白いローブの男を囲み、黒いローブの男が話す。
「首尾は?」
「ハルト経由で用意した歪虚は地下に」
「裏手には移動用の車を数台と、念のため馬も用意してあります」
「万が一ハンターの追手が来た場合は?」
「フェイクで何台か出しましょう。我々も戦闘準備は整えております」
「よろしい。明朝決行するとしよう。各自抜かりの無いように……期待しているよ」
「ハッ! すべては錬金術師による未来のために!!」
 男達……錬金術教導団員の計画はこうだ。
 明朝を期してコンテナに詰められたゾンビを街に放つ。さらに、屋敷には火を放つ。
 傍から見たら歪虚の襲撃によって町が壊滅したかのように見えるだろう。襲撃から壊滅までのスピードに疑問を抱く者がいるかもしれないが、どちらにせよホルストへの疑惑が一時的に逸らされるのは間違いない。ホルストを怪しんだところで、その時には名前を変え別の土地での生活を安定させていることだろう。
 各教導団員が散っていく中、そのうちの一人……ホルストの相手をしていた白ローブの男は笑みを浮かべながら呟いた。
「クロウ……お前が意気揚々とやってきたときにはもはや手遅れさ……その時の落胆を見れないのは残念だけどね」


「……と、あの連中は思ってんだろうな」
 ホルストの私邸……から少し離れた家屋の陰で呟いたのは自称退役兵支援団体所属の鉄仮面、エルウィンだ。
「クロウはあれでも割と分別のある男だ。工房での仕事は別としてだがな。だから、きっちり証拠を詰めてから動こうとするだろう」
 自分で自分の考えに納得しているかのようにエルウィンは頷く。
 そして、不意に動きを止め今回彼によって集められたハンターたちを正面に捉えた。
「だが、帝国をひっくり返そうなんて相手にんなことちまちまやってたら遅い」
 そう言って取り出したのは数枚の写真。そこには私邸に出入りする怪しげな人物たちとコンテナが写されていた。
「まぁなんでこんなの持ってるかと言えば、俺も目を付けてたからだ」
 エルウィンは仕事柄色んなところに行く。それも、帝都からの影響が弱い地方が多い。そこでは反帝国組織絡みの情報もよく耳にする。
 ちょっとした組織ならその情報を軍へ伝えてやればすぐに制圧してくれるのだが、錬金術教導団はというと頭は回るようでなかなか捕まえられなかった。
「だが、今回の事件でピーンときてな。マークしてたら案の定ってこった。こんなチャンス逃がしていいと思うか? 思わないだろ?」
 そう言うとさらにエルウィンは作戦を伝える。やることは簡単。このまま夜陰に紛れ奇襲をかけ、内部にいる人間を一網打尽にする。
「基本は生け捕りで頼む。状況にもよるからあくまでも基本は、だけどな。それともう一つ」
 資料を片付けたエルウィンは準備を始めたハンターたちに言った。
「ホルストの拿捕自体は必ずしも優先されるとは思わないでくれ。いや、この状況から考えればあいつがトップに近い位置にいるのは間違いねぇんだけどな」
 エルウィンはそう前置きして自身の意見を述べる。
「だが、ホルストが首魁であればわざわざ『錬金術』という要素を山車にはしないと思うんだ」
 金のためか、貴族らしい旧帝国への回帰か……だが、ホルストを調べてみても錬金術になんらかの思い入れがあるような記録は出てこない。もちろん人手を集めるために何か旗が必要だったのかもしれないが、それにしてもあえて錬金術を選んだのはなぜか。それがエルウィンの疑問だった。
「もちろん俺の考えすぎという線もありうる。だが、もしかしたらホルスト以上に優先しなければいけない敵がいるかもしれない……それは考慮しておいてくれ」
 そういうとエルウィンが懐中時計を開く。
「さて、そろそろ始めるか。責任は俺が取る! 存分に暴れてこい! ……いやぁ、一回言ってみたかったんだ」
 その表情は仮面に隠れてわからないが、その声には戦闘を前にした高揚感のようなものが感じられた。

リプレイ本文


 闇夜に紛れ、ハンターたちが行動を開始した。
「細かい仕事は向かんのだがな……」
 呟くバルバロス(ka2119)。2mを超えるその巨体は隠密行動にはやや不向きであるのは確かであったろう。
「まぁ人間同士の争いならぶっちゃけてしまえばどうでもいいが……」
 馬を引きながら屋敷に接近していくのはバリトン(ka5112)。こちらもあまり隠密行動には向かないのか。尤も、上階に向かう仲間から注意を逸らすという点ではあながち間違いではないのかもしれないが。
「そこに歪虚が関わっているのなら、碌な事しないじゃろうしな」
 バリトンの言う通り、錬金術教導団と歪虚の繋がりは明白である。それこそ何をしでかすのかわからない。
「歪虚と通じた時点で先は無い、と学のない僕なんかは思うのだけれど……」
 様子を窺いながら金目(ka6190)が言った。それは学のあるなしは関係なく、誰もがそう思うことだろう。
「だけど、教導団はそうは思わなかった……一体どういう組織なんだろう」
「とにかく、街に被害が出るのはなんとしても食い止めないといけないの」
 疑問を抱く金目ではあったが、それを振り払うようなディーナ・フェルミ(ka5843)の声。教導団に関わる何かを見つけられれば幸い。だが、それよりもまずは人々への被害が出ないように努めるのが重要だ。この辺りは戦うよりも人を癒すことをこそ大事とするディーナの考えが反映された結果かもしれないが。
「入り口だ」
 先行していたバルバロスがつぶやく。屋敷の内装などは不明であるが、一つ所在が確かなのは謎のコンテナと魔導トラック。屋敷の広さ、それに地上との出入り口の大きさを考えるとトラック数台は入りそうだ。
「魔導カメラの準備も良いな。それでは……」
 バリトンの言葉にハンターたちは緊張し、入り口に入っていく。
 地下へ降りるため坂道になっているそこを少し進むと、中にはトラック4台ほどはとめられそうなスペースが入って左側に広がっている。真ん中にはそのトラックが。サイズが大きめなのは後部にコンテナを積むスペースがあるからか。他に車はなく、トラックを斜めに挟んで左方奥には階段が見られる。
 そして、そこには……
「ローブの男!?」
 驚くディーナの声。それとほぼ同時に5人ほどのローブを羽織った男がこちらに向けて光線を放つ。デルタレイだ。
 前衛に立っていたバルバロス、バリトンを中心に5人はダメージを受ける。
「こいつは……やっぱクロじゃねぇか!」
 慌てて坂道に戻りレオーネ・インヴェトーレ(ka1441)が声を上げる。肩口には大きな焦げ跡、デルタレイがまともに当たってしまったようだ。
「……無線が通じなくなってます。バレてましたね……」
 なぜバレたのか……というと、実は単純な理由である。5人に加え馬の存在、それらが上階から見つけられたというだけの話。敵の見張りに対する意識が甘かったようだ。
 一気呵成に討ち入っていた方がいっそ敵の態勢が整わない隙を付けただろう。中途半端な潜伏意識が仇になった。
「元々戦闘は想定しておったのじゃ。むしろ状況がわかりやすくなったと思うとしよう」
「……確かに、策謀めいた頭の使い方は苦手だったからな」
 バリトンに同意するようにレオーネはライフルを構えた。
 この状況はある意味ではチャンスだった。こちらに敵の大部分が割かれている、と教導団側が思ってくれれば、その分別動隊が機能しやすくなる
 こうして、ホルスト邸地下駐車場での戦闘が開始された。


「通信が……思ってたよりリアクションが早いわね」
 屋敷の裏手に回っていたロベリア・李(ka4206)。
(教導団か……ここまでかかわったからには、クロウ抜きでも付き合わせてもらうわよ)
「……状況的に手段は選んでられないか」
 そう呟いたのはエアルドフリス(ka1856)。その場所は……ロベリアの腕の中である。普通は逆だろうが、ジェットブーツを使えるのはロベリアだけだ。それを利用して上から侵入しようという魂胆だ。
「人に見られたくない姿だな、あらゆる意味で……」
「泣き言言っても仕方ないわ。それじゃ、行くわよ!」
 エアルドフリスを抱えたロベリアはジェットブーツを使い跳ぶ。飛距離は……問題ない。一人抱えていた分飛距離は短くなったが、3階のバルコニーに手をかけるには十分だった。
「ほい、気を付けてねぇ……それじゃ、こっちも……」
 3階に侵入した2人を見送った鵤(ka3319)は痛みを鎮痛剤で抑えながら、次の行動を開始する。
 目的は外部の移動手段をつぶすことだ。本来であれば馬用のマキビシも手に入れたかったところだが、時間の都合で用意することができない。尤もそんな回りくどいことをしなくても撃ち殺してしまえばいい話だ。
 その行動自体は滞りなく進んだ。地下に人手が割かれたのだろうか、馬の周囲に見張りはおらず、静音性の高い拳銃で静かに任務を遂行していく。
 だが、痛みはやはり完全になくせるものでもなく、注意力はやや散漫になりつつあった。
 車への工作を行おうとダガーを取り出したとき、車のボディに光が反射した。慌ててその場を飛退く。それとデルタレイが撃ち込まれるのはほぼ同時だった。車を確保しようとした教導団による攻撃だ。
(接近に気づかなかった……こりゃ死んだな)
 飛退き転がった際に激痛が走る。それ以上は動けそうもない。尤も、ヒートダガーをタイヤに突き刺すのは間に合った。
「おいおい、命と引き換えがタイヤ一個は安すぎねぇか?」
「っ!?」
 覚悟を決めた鵤であったが、不意にそんな声が聞こえた。同時に、教導団の首が切り飛ばされる。
「あ、ま~た手加減するの忘れちまった。まぁ緊急だし仕方ないか」
 そこには、煌く剣を手にしたエルウィンの姿があった。機導剣……のようであるが、その形状は敵を切ってなお維持されたままだった。
「お前さんは十分仕事をした。そのケガでよくやったよ」
「へへ……そいつは……どう……も……」
 口調だけは余裕ありげに飄々と、しかし体の方は限界だったようで、鵤の意識はそこで途絶えた。
「おい! ……気を失っただけか。ま、地下に行くのは止めようと思ってたからちょうどいいか」
 そう言うとエルウィンは鵤を抱え、その場を急ぎ離れていった。


(裏はロベリアさんに任せるとして……まずは目の前を片付けてかねぇとな)
 気を取り直し、レオーネはライフルで応戦していく。動きとしては後衛寄り。できればコンテナを調べに行きたいところだが……下手に動けば敵機導師にやられる。
「本気を出す……先に行くぞバリトン」
 本気で戦うという意思を持った行動は、それだけでバルバロスの力を充実させていく。
 だが、だからといって全ての力が飛躍的に上昇するというわけではない。教導団がデルタレイを放つ。
「来たか。さて……」
 バルバロス同様狙われたバリトン。斬龍刀を盾代わりにするかのように構え、直撃と同時に体を躱して衝撃を受け流す。巨大な刀身を利用しながら合理的にダメージを押さえていく。
「できるだけ後衛は塞いでおかんとな」
 対してバルバロスは直撃。小さくはないダメージを受ける。
「……ふん」
 だが、すぐさまバルバロスは超再生を使用してそのダメージを回復していく。技で進むバリトンに対し、力で押し通るバルバロス。同じ巨躯でありながら対称的な動きだが、どちらにせよ敵にとって厄介なことこの上ない。
「こちらも出ます。援護を!」
「間合いに気を付けてくれよ!」
 ジェットブーツを使用して飛び込んでいく金目。それを見たレオーネはライフルでの援護射撃で教導団を牽制する。
 接近さえすれば多少複雑なつくりでも機導の徒を利用してコンテナの操作を行い開かせないようにすることも可能、という金目の考え。
(ですが、それはやはり厳しそうですか)
 だが、接近しようとすると教導団が間に入ってくる。レオーネのいう通り、遠距離ではデルタレイなどの射撃がメインだが、近距離でも攻勢防壁などの便利な機導術が存在している。
 本来ならここで鵤が発煙手榴弾を投擲することで内部を混乱、特に攻勢防壁などのカウンター系機導術のタイミングを分かりにくくさせる手筈であった。だが、肝心の投げる役である鵤は現在エルウィンに運ばれている最中だ。
「やっぱり入り口は二つ……でも、向こう側は防ぎようが無さそうなの……」
 構造的には奥が屋敷内への入り口。階段になっているから間違いないだろう。ただ、他に入り口らしき入り口はない。外からもざっくり確認はしていたが間違いない。
「つまり、ここを押さえておけばゾンビたちが外に出ることはないの」
 ゾンビ、とディーナは言った。その通り、コンテナの中身はゾンビでありローブの男が何やら操作を行ったことでコンテナが開放され、ゾンビが現れる。
「よし、これで……」
 コンテナの操作を行っていた教導団の言葉はそこで途切れた。
 筋肉を震わせたバルバロスの全力全壊により3つに胴体が分かたれたからだ。
「まぁ予想はできていましたね。それに……指揮統率ができていないというのも予想通り」
 バルバロスに倒された教導団員に貪りつくゾンビを見てそう確信する金目。コンテナの開閉を阻止できなかったのは痛いが……
「所詮はただのゾンビ……試し切りの足しにもならんな」
 バリトンは剣心一如による精神統一から縦横無尽によりゾンビをまとめて切り裂いていく。
「一対一どころか、一体十でも余裕で倒せそうですね」
 そう言いながらデルタレイを使用して教導団へのけん制とゾンビの撃破を行う金目も余裕の表情だ。
 ただ、数が多い。何体かは彼らの攻撃から漏れて出入り口までたどり着く。
 だがゾンビたちはそこから先には通れない。
「これ以上は進ませないの」
 ディーナのディヴァインウィル。街への被害を阻止するという断固たるディーナの意志が、不可視の境界を生み出し敵の侵攻を押しとどめる。
 さらにディーナは解除とともにセイクリッドフラッシュを使用。ゾンビに対し効果のある魔法だ。まとめてゾンビを消滅させる。
「さすが! こりゃ出番が無い……まずい!」
 殲滅されるゾンビを見て苦笑していたレオーネ。だが、その表情が一変。運転席に教導団が乗り込んでいるのが見えたからだ。
「無事に走れると思ったか!」
 すぐさまバルバロスがタイヤ部分を全力で攻撃。一撃でタイヤはパンクするが、トラックは止まらず出口へ走る。
「くそ、一度下がるんだ! 頼む金目さん!!」
 レオーネの指示に従い、再度セイクリッドフラッシュを使用してからディーナは坂の上へ。
 当のレオーネはライフルで走るトラックの操縦席を狙撃。運よく教導団の額を打ち抜く。
「アシスト感謝しますよ」
 そこにジェットブーツを使用した金目が飛び込みハンドルを切る。そのままトラックは壁にぶつかり横転した。
「ふぅ……一瞬焦ったぜ……」
 こちらもジェットブーツでその場から一気に飛退いていたレオーネはほっと息をつく……
「た、大変なの! 屋敷が燃えてるの!!」
 暇は無いらしい。ディーナが言う通り屋敷が燃え始めている。それは奥側の階段付近で逃げる教導団を追撃しようとしていたバリトンも気づいていた。すでに煙が地下まで流れてきていたからだ。
 

「そっちはどう?」
「……いや、工場の会計資料ばかりだ」
 3階に直接進入したロベリアとエアルド。地下での戦闘による影響か、3階には人影が見られない。とはいえ警戒しないわけにもいかず、周囲をうかがいながらもホルストの私室を発見。そこにある資料などを物色していた。
「散らかり具合を見ると必要な書類は持って行った感じだな。この資料は……どうするべきかな」
「吟味すれば何かわかるかもしれないけど、今は後回しね。とりあえず持っていけるだけ持っていきましょう」
「そうだな……今はホルストを探す方が先決かもしれないしな」
 エアルドフリスはホルストが消されるのではないかと懸念していた。ここまで疑われているのだ。今更教導団、ひいては歪虚と関係ないと言い逃れるのも難しいだろう。
「それじゃ移動する?」
「ああ……しかし、こうまで人影がないのも不気味だな……」
 私室を出てあたりを見回しても人がいない。
「着火物の類も見当たらない。油の匂いみたいなのは感じるんだけど……やはり下かしら?」
 火が上に燃え広がるのは周知の事実だ。そのため下階に可燃物を多く仕込んでおく。
「あり得ない話じゃ……ない……が……」
 この時、エアルドフリスはふとこの廊下に違和感を覚えた。
(部屋の大きさと、ドアの位置、廊下の長さ、窓の配置……)
 侵入前見た屋敷、そして中からみた屋敷や部屋が何かおかしい。
「……ねぇ、エアルド」
 その違和感にロベリアも気づいたようだ。一人の違和感なら勘違いで済むが、二人となるとこれは何かある。
 そこに気づいてからは早い壁に触れ、部屋を再度物色し、あっさりと隠し扉を見つけた。
 慎重に扉を開けると、そこは小さな隠し部屋になっていた。
「……! 待て!」
 さらに奥にもう一つ扉がある。そしてエアルドフリスはその扉が小さく揺れたのに気付いた。そして、その隙間に白いローブが見えた。誰かがいたのだ。二人が入る瞬間まで。
 追いかけようとしたが、扉の隙間から光が放出される。それがデルタレイだと気づいた二人は回避。かすった程度で済んだ。が、そこから追撃をかけるのはすぐに無理だと気が付いた。扉の向こうから火の手が上がっていたからだ。よく見ると足元には油に浸されているであろう紙が敷かれている。すぐに燃え広がることだろう。
「逃げるわよ!」
「くっ……」
 結局、2人は資料を持ってこの場を離れることしかできなかった。
 

 屋敷からほど離れた、墓地にされた丘があった。その墓が一つ動き、中から白いローブの男が現れた。3階の抜け道からここまで覚醒者の足で1時間。
(ハンターが入ってきたときは冷や冷やしたが、火をつけた後でよかった)
 ホルストは元々1階にいた。移動手段選定後の行動を可能な限りスムーズにするための措置だった。尤も、これらすべての移動手段は早々につぶされてしまったので、抜け道に頼らざるを得なかったが。
 抜け道は複数あるが、入り口から出口までは一方通行であり、それなりの距離がある。ホルストが一般人であることを考えると一番避けたかったルートだ。
「……屋敷は……よく燃えているな」
 白ローブの男、ズィルバー・ヴァルトフォーゲルはつぶやいた。


 こうして、屋敷は焼け落ちた。
 生きていた教導団員も抜け道を使い逃げたようで、捕らえ情報を得ることはできなかったが、今回の件で教導団とホルストの関係性は明白となり、それを隠すための歪虚を利用した襲撃も未然に防ぐことができた。
 今は、それでよしとすべきだろう。

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 魔導アーマー共同開発者
    レオーネ・インヴェトーレ(ka1441
    人間(紅)|15才|男性|機導師
  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリス(ka1856
    人間(紅)|30才|男性|魔術師
  • 狂戦士
    バルバロス(ka2119
    ドワーフ|75才|男性|霊闘士
  • は た ら け
    鵤(ka3319
    人間(蒼)|44才|男性|機導師
  • 軌跡を辿った今に笑む
    ロベリア・李(ka4206
    人間(蒼)|38才|女性|機導師
  • (強い)爺
    バリトン(ka5112
    人間(紅)|81才|男性|舞刀士
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • 細工師
    金目(ka6190
    人間(紅)|26才|男性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 夜明けのガサ入れ【相談卓】
エアルドフリス(ka1856
人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|魔術師(マギステル)
最終発言
2016/08/11 11:47:55
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/08/07 12:46:07