ゲスト
(ka0000)
花のアヤカシ
マスター:音無奏
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出? もっと見る
オープニング
藤の花がそよ、と揺れる。
庭園の中は見渡す限り一面の緑、それを覆うように薄紫のグラデーションが広がり、カーテンのように風に揺れている。
無数の花を連ねて作った瀑布のようなカーテン、営みのない無人の庭園で花だけが静かに揺れている。
かつてその場所では二人の若い恋人が愛を育んでいた。
男の方は名家の出だったらしい、二人はお互いを想い合っていたが、周囲には応援されない恋だった。
男は女を匿うため家に頼らず商いを重ね、稼いだお金で女が好んだ花である藤の庭園を作り上げた。
その話の結末がどうなったかは誰も知らない、だがその恋の証だった藤の庭は今も残されている。
…………。
ハンターズソサエティに依頼が持ち込まれた。
とある半廃墟となっていた庭園に歪虚が発生し、それを討伐して欲しいとの話だ。
その庭園はある名家の男の持ち物で、何年かもわからない前からずっと放置され続けていたらしい、一族は知らなかったが、その男の逸話は周囲の住民には有名な話だった。
―――恋人を匿った場所、逢瀬のための小さい庭園。
とは言っても10年以上前の話だ。長年の不在から男は失踪認定されて、更に数年を重ねてこの庭園をどうするのかという話が持ち上がった。
何しろ経緯が経緯だ、下手に触れる事は憚れる。
一族に連絡した所、彼らもやはり難色を示して―――はるか昔に妙な逸話を残して失踪した男の事は彼らも扱いかねるのだろう。
領主に扱いを任せようとしたところ、一族の中から一人の若当主が手を上げた。元の持ち主からすると甥に当たるらしい、彼は自分が庭園を引き取り保護する事を主張して―――面倒ごとを嫌った一族は彼の望み通り庭園を丸投げした。
そして、彼が宣言通り庭の整備を始めようとしたのが先日の話。庭師たちを派遣したところ、歪虚を見つけて逃げ戻ってきたらしい。
見た目は黒く枯れた枝を雑なヒトガタに組み合わせ、藤のドレスをまとわせた後子供の落書きのようなでかい目と口をつけたような様相だったという。
逃げようとしたところ蔓を鞭のように振り回して追い回され、挙句地面からは根が足をつかもうと絡みついてきたらしい。なんとか逃げ切ったものの細かい傷をいくつも負わされ、庭師たちは現在療養中だそうだ。
「そうか、あの庭、歪虚が出たのか……」
そして、ハンター達は一人の少年の前にいる。肩まで伸びた茶髪を首の後ろでまとめ、残りをざんばらに切ったイオという名の少年だ。
配達の仕事中だったのか、肩から大きな鞄を下げ、ついでに子守を押し付けられたらしく傍らにマナと名乗った6才ほどの女の子を連れている。
何故彼と話してるかというと。
「ああ、藤の庭園だろ、良く知ってるぜ」
……こういう事だった。
●藤の庭園
街から遠く離れた場所にその別荘はある。
高い生け垣で覆われた庭園はたとえすばしっこい子供でも侵入を許さない、生け垣の奥には更に柵が張り巡らされていて、念入りに侵入者を阻んでいる。
唯一の出入り口はまるで裏口のような、花の装飾を施された小さな鉄扉。そこから生け垣に挟まれた細い道を通り、もう一つ鍵を開けてようやく秘密の花園に踏み入る事が出来る。
玄関の狭苦しさに反して中は広い、雑草によってひび割れてはいるが白い石畳が伸び、少し歩けば藤の花が立ち並ぶ並木道が広がる。
そのまま直進すればロッジのような小さい母屋、裏にはバルコニーがあり、その先には半径50mほどの池が広がっている。池を挟んだ母屋の反対側には小さな涼亭、枝垂れた藤によって覆い隠され、母屋側からはまずその存在に気づく事が出来ないという。
「逢瀬に使っていたというだけあって、身を隠す場所には困らなかったな」
藤自体が天然のカーテンとなって人の姿を隠すのだという、花を纏う歪虚ならその効果は一層上がる事だろう。
討伐においては藤が障害になる事が予想される、しかし依頼人はこの庭園を使うつもりでハンター達を頼んだのだ、藤を傷つける行動は報酬の減額が待っているだろう、細工をするなら極力歪虚の方にした方がいいかもしれない。
「後最奥からは入り口の様子がよく見えたな、逆だと全く見えないのに」
作った奴は女を匿っていたって話だから、女を隠す時間を稼ぐためには必要な設計だったのだろうとイオは言う。
奇襲を仕掛けるのは難しいかもしれない、逆にこっちが奇襲を警戒しなければいけない始末だ。
ハンター達が各々相談に入り始めると、もう話は終わったと判断したのかマナが顔をあげる、イオの服を引っ張って。
「お兄ちゃん、藤の花言葉は知っている?」
「いや……」
イオが知る訳がない、しかしそういうのに興味がある年頃なのか、マナは宝物を見せびらかすように胸を張った。
「『決して離れない』と『恋に酔う』よ」
藤の蔓は結構頑丈な事からそういう花言葉がついたらしい、「物知りでしょ」とマナが胸を張る。
……歪虚対策に『拘束力が高い』も入れたほうが良さそうだった。
庭園の中は見渡す限り一面の緑、それを覆うように薄紫のグラデーションが広がり、カーテンのように風に揺れている。
無数の花を連ねて作った瀑布のようなカーテン、営みのない無人の庭園で花だけが静かに揺れている。
かつてその場所では二人の若い恋人が愛を育んでいた。
男の方は名家の出だったらしい、二人はお互いを想い合っていたが、周囲には応援されない恋だった。
男は女を匿うため家に頼らず商いを重ね、稼いだお金で女が好んだ花である藤の庭園を作り上げた。
その話の結末がどうなったかは誰も知らない、だがその恋の証だった藤の庭は今も残されている。
…………。
ハンターズソサエティに依頼が持ち込まれた。
とある半廃墟となっていた庭園に歪虚が発生し、それを討伐して欲しいとの話だ。
その庭園はある名家の男の持ち物で、何年かもわからない前からずっと放置され続けていたらしい、一族は知らなかったが、その男の逸話は周囲の住民には有名な話だった。
―――恋人を匿った場所、逢瀬のための小さい庭園。
とは言っても10年以上前の話だ。長年の不在から男は失踪認定されて、更に数年を重ねてこの庭園をどうするのかという話が持ち上がった。
何しろ経緯が経緯だ、下手に触れる事は憚れる。
一族に連絡した所、彼らもやはり難色を示して―――はるか昔に妙な逸話を残して失踪した男の事は彼らも扱いかねるのだろう。
領主に扱いを任せようとしたところ、一族の中から一人の若当主が手を上げた。元の持ち主からすると甥に当たるらしい、彼は自分が庭園を引き取り保護する事を主張して―――面倒ごとを嫌った一族は彼の望み通り庭園を丸投げした。
そして、彼が宣言通り庭の整備を始めようとしたのが先日の話。庭師たちを派遣したところ、歪虚を見つけて逃げ戻ってきたらしい。
見た目は黒く枯れた枝を雑なヒトガタに組み合わせ、藤のドレスをまとわせた後子供の落書きのようなでかい目と口をつけたような様相だったという。
逃げようとしたところ蔓を鞭のように振り回して追い回され、挙句地面からは根が足をつかもうと絡みついてきたらしい。なんとか逃げ切ったものの細かい傷をいくつも負わされ、庭師たちは現在療養中だそうだ。
「そうか、あの庭、歪虚が出たのか……」
そして、ハンター達は一人の少年の前にいる。肩まで伸びた茶髪を首の後ろでまとめ、残りをざんばらに切ったイオという名の少年だ。
配達の仕事中だったのか、肩から大きな鞄を下げ、ついでに子守を押し付けられたらしく傍らにマナと名乗った6才ほどの女の子を連れている。
何故彼と話してるかというと。
「ああ、藤の庭園だろ、良く知ってるぜ」
……こういう事だった。
●藤の庭園
街から遠く離れた場所にその別荘はある。
高い生け垣で覆われた庭園はたとえすばしっこい子供でも侵入を許さない、生け垣の奥には更に柵が張り巡らされていて、念入りに侵入者を阻んでいる。
唯一の出入り口はまるで裏口のような、花の装飾を施された小さな鉄扉。そこから生け垣に挟まれた細い道を通り、もう一つ鍵を開けてようやく秘密の花園に踏み入る事が出来る。
玄関の狭苦しさに反して中は広い、雑草によってひび割れてはいるが白い石畳が伸び、少し歩けば藤の花が立ち並ぶ並木道が広がる。
そのまま直進すればロッジのような小さい母屋、裏にはバルコニーがあり、その先には半径50mほどの池が広がっている。池を挟んだ母屋の反対側には小さな涼亭、枝垂れた藤によって覆い隠され、母屋側からはまずその存在に気づく事が出来ないという。
「逢瀬に使っていたというだけあって、身を隠す場所には困らなかったな」
藤自体が天然のカーテンとなって人の姿を隠すのだという、花を纏う歪虚ならその効果は一層上がる事だろう。
討伐においては藤が障害になる事が予想される、しかし依頼人はこの庭園を使うつもりでハンター達を頼んだのだ、藤を傷つける行動は報酬の減額が待っているだろう、細工をするなら極力歪虚の方にした方がいいかもしれない。
「後最奥からは入り口の様子がよく見えたな、逆だと全く見えないのに」
作った奴は女を匿っていたって話だから、女を隠す時間を稼ぐためには必要な設計だったのだろうとイオは言う。
奇襲を仕掛けるのは難しいかもしれない、逆にこっちが奇襲を警戒しなければいけない始末だ。
ハンター達が各々相談に入り始めると、もう話は終わったと判断したのかマナが顔をあげる、イオの服を引っ張って。
「お兄ちゃん、藤の花言葉は知っている?」
「いや……」
イオが知る訳がない、しかしそういうのに興味がある年頃なのか、マナは宝物を見せびらかすように胸を張った。
「『決して離れない』と『恋に酔う』よ」
藤の蔓は結構頑丈な事からそういう花言葉がついたらしい、「物知りでしょ」とマナが胸を張る。
……歪虚対策に『拘束力が高い』も入れたほうが良さそうだった。
リプレイ本文
「地図が欲しい? うん、わかった、今書くよ。入った時? ……10年前だったかな、変なもの? ううん、見なかったと思うぜ」
―――。
鍵を開け、庭園に踏み入る。
少し荒れた風が足下を吹き抜け、高さの揃わない芝生を揺らした。
肌で感じる、余り歓迎されていないだろうぎこちない排斥感。それがこの地の謂れが持つものなのか、或いは歪虚から向けられたものなのかはわからなかったが、それを振り払うようにしてハンター達は庭園の中に足を踏み入れた。
荒れてるな、とユリアン(ka1664)は周囲を見渡して思う。
石畳は割れ、建物は欠けて、枝葉は伸び放題であるためにせっかくの花を隠してしまっている。しかしそれでも風にそよぐ花は鮮やかで、しだれ藤に挟まれた並木道は見事の一言だった。
此処が、と言葉を途中まで浮かべて、浅黄 小夜(ka3062)は浮世離れした光景に視線を巡らせる。無人のまま荒廃した庭園、元の世界でも秘密の花園にまつわる本があって、経緯こそ大分違うが、自分がそこに来るとは思っていなかった。
来て、しかしよくわからない。ページをめくらないと物語の続きがわからないように、小夜にもこの光景に対して抱くべきものを持て余していた。仕方ないと割り切る成熟さがある訳でもなく、かと言って無邪気にこの光景を楽しめるほど無知な訳でもない。恋人たちの行き着く先はどうなったのだろう、そんな漠然とした疑問があるだけだった。
・J・(ka3142)は早々に仕事モードに入り、周囲から情報を集めていた。
庭園の逸話に感じるものがない訳ではないが、それはそれ、これはこれである。感傷によって現状が変わる訳でもなし、また自身がそれを持ち込む必要性も感じていない。そういうのは仕事が終わってからゆっくり考えればいいのだ、きっと。
確認するのは入り口の植生の状況、戦闘によって荒れたものと、時間によって荒れたものは必ず見目が違う。相手を追跡するなら、その辺から判断する事が出来るだろう。
「どっかに庭師が襲われた痕跡があったりしませんか?」
クレール・ディンセルフ(ka0586)の言葉に、確かに、とJは少し認識を改めて検分をしなおした。逃げるなら入り口を通る必要がある、ぎりぎりまで競り合ったなら痕跡は必ず近くにあるだろう。
「散開しましょう、手はず通りに」
●探索
Jの指示は細かく、二人一組に加え、ある程度の距離を保つ事も含まれていた。
具体的には、ハンターならば大体の人間が即座に戦闘に加われる距離。中央を機動力の高いユリアンとエアルドフリス(ka1856)が担い、庭園を虱潰しにしていく作戦だった。
枯れ気味な木の葉が乾いた音を立てる。
少し水切れを起こしてるな、と目安をつけつつ、エアは細心の注意を払いながら藤棚を横切った。
過去はすべからく現在の糧だ、それが輪廻というものであり、かつて何があったとしてもエアはそれをあるがままに受け止めようとしている。
……割り切れ、とまでは言えないが、受け入れる側であろうとしている。
故に、エアが今回応えたのは、それが現在か、未来に繋がると信じたから。
「藤は口や喉の腫れ、腹の不調に効果があるんだが……動き回るとなると、俺も馴染みが無いねぇ」
バディを組むユリアンがそうなんだ、と藤に視線をやる。
相手が相手だけにユリアンも迂闊に近寄ったりはしない、時折耳を澄ましては生き物の気配に気を配ったりしている。
(幾ら囲まれてた場所でも、鳥や虫には関係ないからね……)
彼らは生存に敏感だ、だから、不自然にその気配が途切れていれば一つの目安になる。
物語の感触だ、と雨を告げる鳥(ka6258)はその感想を噛み締めた。
口伝とは格段に違う、物語に触れる感触。かの舞台が今目の前にあって、肌でその空気を感じている。
言うならば不思議の国にでも迷い込んだ少女のような体験だろうか、知識だけでは得られないその感慨に、レインは暫し浸った後、感慨を内心に秘めたままクレールの後をついていった。
クレールの注意は地面と頭上に交互へと向いている、当然の事だろう。ならば、とそちらは任せてレインは周囲を見渡す役割を選んだ。
移動中、後ろに立ち位置を定めようとした小夜を、Jが制止した。
「私の隣に。……ほら、必ずしも私の方を狙ってもらえる訳ではないでしょう?」
後ろに立たれると小夜が襲われてもJは気づくのが遅れてしまう、それだと意味がないと言われると、小夜は少し照れ気味に頷いて立ち位置を正した。
小夜の手の中にはイオから貰い、ユリアンが3組分書き写した地図の内一つがある。
虱潰しにするため、ハンター達が回るのはまずは外周からだ。Jのレクチャーによると、地図を書く時も外周を回って枠を定め、建屋や道筋、堀の位置を書き込めば精確でなくても用は果たせるらしい。
建物の位置と道順、大体の距離感は書いてあった、小夜の仕事は細かい部分を補足して行く感じだろう。
戦闘の痕跡は難なく見つかった、擬態能力は高いのだろうが、そこまでは気が回らなかったらしい。
土がめくれ、筋状の凹みが幾つかできている。前者は地下から根を回した痕跡で、後者は恐らく蔓を振るった跡だろう。出来て間もない事を証明するように、年月が経てば固まるはずの土はゆるいままだ。
クレールは頷き、他の面子も呼び寄せた。一つは手分けして調査を進めるため、もう一つは集中しすぎて奇襲されるのを防ぐためだ。
「戦闘の痕跡は母屋付近にあって……並木道までは追ってこなかったようですね、これは……」
母屋周辺の痕跡は隠す気もないほどに激しい、しかし追跡は並木道の前でぴたりと止まっている。痕跡をなぞるようにクレールも歩みを進め、同じようにして足を止めた。
目の前に広がるのは薄紅色の並木道、遥か頭上から垂れ下がり、敷き詰められた花房は天からの祝福だと見まごうほど甘い色の美しさを見せている。
(足を止めたくなる気持ちも、わからなくはないのですが……)
それが意味する事は必ずしも幸福ではない、誰もが予感し、誰もがそれに気を取られるべきではない事を感づいていた。
余計な事を口にせず、エアが仲間を促す。
「行こう、……母屋にはいない、多分、涼亭だ」
●
エアの推測通り、土を引きずったかのような歪虚の痕跡は、並木道から涼亭へと向かっていた。
地図から大体の距離を測り、直前と思わしきあたりで一旦ペースを落とす。小夜が風の加護を展開し、風によって花を揺らす事で事前に歪虚の兆候を察知しようとする。
涼亭は人目の付く場所にはない、主が望んだようにその姿を藤の花で隠されている。
覚悟を決め、小夜は杖で進行先を突っつきながら林の中に入っていった。
―――いる。
虫のさざめきは途絶え、鳥もこの場所に近寄ろうとはしない。
薄い瘴気が広がり、花も色あせてるかのようだった。
土に紛れ、忍び寄る植物の根。しかし事前に警戒していたハンター達には全く通用せず――。
「はぁ!!」
クレールが剣を抜き、斬りかかった。
それぞれの相方を下がらせ、ハンター達が陣形を整える。
枯れた黒枝のような体に藤をまとったドレス、今回のターゲットで間違いない。
そして事前に言われてた通り、景色に紛れてとても視認しづらい。体の色も藤の樹幹とかなり近い色で、目の前にいるとわかっていても、気を抜けば見失ってしまいそうだった。
「そういう奴にはやっぱこれかね」
エアが絵具を溶かした水のウォーターガンを構える、間違っても景色に紛れたりしないように明るめのオレンジだ。
「クレール、頼んだ」
「はい!」
意味を正確に理解して、クレールが前に出る。レインが彼女の武器に炎の魔術をかけ、攻勢を援護した。火力で圧倒し、交戦時間を最小限にすれば庭園も荒れずに済むというのはレインの発案だ、そして、その考え方に間違いはない。
防御など考えてないとばかりにクレールは剣を振るい、激しい剣戟で歪虚に迫る。歪虚が堪らず蔦を振るい、強い一撃で下がらせようとすると、下がるどころかクレールはそれを正面から受けた。
「太陽!!」
カウンターで光のレイピアを突き出し、機導術で作られた刀身が歪虚を体内から縛る。クレールの狙い通りに、歪虚の動きが鈍った。
「よし」
エアがウォーターガンを歪虚にかける、これで敵を見失う心配はなくなった。
Jのエレクトリックショックが敵を焼く、風の魔力を帯びる攻撃は装甲を貫き、激しい火花を散らしながら敵を焼いていく。
「父なる息吹よ。邪なる腕を吹き払う風を示せ」
続くレインのウィンドスラッシュも同様、風の刃には深く切り裂く手応えがあり、やはり土属性か、とレインは推測に対する確信を強める。
「師匠、お願い!」
ユリアンの要請に応え、エアが歪虚の後ろに土の壁を立てる。
歪虚の回避を制限し、ついでに飛び武器が誤爆する心配もなくなった。
歪虚は横にずれる事で壁の制限から逃げようとする、ユリアンが立ち回りでそれを止め、小夜のアイスボルトが刺さったチャンスを見逃さず、蔦の根本めがけて刀を一閃させる。
吹き出すのは黒い瘴気、見た目は植物に近いがやはり歪虚である。
「クレールさん」
「はい!」
仕掛ける、というユリアンの合図。力強い返事に安心して、ユリアンは前へと出た。
追い詰められた歪虚は目の前のユリアンを払おうとする、ユリアンはそれを横に避けて、しかし下がらず、より多くの蔦と根を引き付けながら、走り続ける。
逃げきれなくなったところで、跳躍。羽流風を使って土壁の上に乗り、攻撃が追いすがってくれば、当然歪虚の胴体はがら空きで―――。
「もらったぁぁぁぁっ!!!」
クレールの機導剣が、歪虚の胴体を両断した。
●無人の庭
末端から黒い塵と化し、歪虚が散っていく。
胴体部分にまとわれていた藤の花がほどけ、取り込まれていたらしき白い骸骨が姿を表したが、それも歪虚の道連れにされるかのように、塵となって消えていった。
Jが涼亭に踏み込んだが、他には何もない。散った藤の花びらが涼亭の座席に残るだけで、遺体も、痕跡も、看取る事の出来るものは何もなかった。
(……連れて行ったようですね)
歪虚の死体は残らない、だから、もしかしたら片方だけ残すのを良しとしなかったのかもしれない。
その想像に裏付けなどない、歪虚がどうやって発生し、どうしてこの庭に来たのかもすら確証はなかったが、漠然とした予感はあって、それがあたっている確信もなんとなくだが浮かんでいた。
残党がいないかどうかどうか確認するため、ハンター達は再び内部の見回りへと戻った。
庭園は今度こそ無人で、入った時の拒否感が懐かしく思えるほどに静かな空虚が満ちている。
小夜は静かに考え込んでいた、周囲の大人たちは何も言わずに落ち着いているが、果たしてこれを自分の中でどう結論付けたものか、小夜はいまいち整理しきれぬ部分があった。
幸せな結末であればいいと思ってた、でも、果たしてこれはどうだろうか?
「よーわからんなぁ……」
「わからなくていいんですよ、もう当人達に聞けなくなった事ですから」
小夜がはっとしたようにJを見上げる、その視線を受けると、Jは少し苦笑して言葉を続けた。
「だって、幸せだったかどうかなんて、私達が決めつける事じゃないでしょう?」
幸せであればいいと思う事はありますけどね、と付け足してJは視線を周囲に戻した。
わからなくてもいい、そんなJの言葉を小夜は繰り返し考え込んでいた。
そう、幸せであればいいと願っている、かつてあっただろう幸福の想像は、彼らに対する祈りにも似ていた。
今は少し物悲しいけど、これだけ美しい庭なのだから、かつての主もここで幸せな時間があったはずだとクレールは思っている。
その幸せの形が今後も残ってくれればいい、そのために力を尽くしたのだ。
「『決して離れない』『恋に酔う』……ですか」
酔いはきっと醒めた、だから、今はその残滓が優しく残るのを願うばかりだ。
湖を一周して、再び母屋へと戻ってくる。人が住まない家は急速に朽ちていく、この母屋もその例に漏れず、色んな部分が風雨によって崩れかけていた。
ユリアンが家の中に入り、見渡す。擦り切れた敷物、湿気て使い物にならなくなったソファ。クローゼットの中は空で、かつての彼らは確実に意思を持ってこの家を離れたのだと見取る事が出来る。
(……どういう理由はかわからないけどね)
痕跡から推測出来るのはそれが限界だ、家から出ようとした瞬間、入り口の棚に小さく刻まれた文字に気づく。
『いつかまた』
暫しそれを見つめ、ユリアンは何も言わずに外に出た。
「……この家も建て直す必要がありそうですね」
遺体は残らなかった、ならば遺品はこの家になるのだろうか。
墓を用意して貰おうとJは思った、出来ればこの庭の外に、藤の枝と、この家にあった物を添えて。此処は二人だけの花園だった、彼らを弔わないまま、生者の謳歌を見せるのは酷というものだろう。
「祝福されなかった恋……か、ふむ」
母屋の裏に回り、エアはテラスから湖を一望する。
太陽が落ち始めているのか、水面に反射する日差しが眩しい。誰もいない、そしてかつては庭園の主と、その大切な人だけがいた世界。
それもある種の幸福には違いないだろう、少なくともこの庭は彼らを許容したのだ。
「……私は思う、物語もいつかは終わる時が来る」
だからこれが彼らの終わりなのだろう、そう思ってレインはかつての主を静かに悼んだ。
そうやって終わりを迎えた後に、別の物語が新しく始まるのだ、それは止める事の出来ない輪廻で、来年にはこの庭も新しい物語を始め、綺麗になっている事だろう。
未だ見ぬ景色を思い、レインは静かに魔導カメラを撫でた。
瞼の裏に映るのは瑞々しい初夏の景色、枝葉は透き通るような黄緑で、少し強くなった日差しを受け、一層輝きを増している。その下には今より遥か多くの花をつけた藤の花房が架かり、グラデーション気味に咲いた淡紅が樹幹の樺茶色に寄り添うだろう。
シャッターを押す、かつての物語はこれで終わり。
一つの物語を記録して、レインは仲間たちと共に庭園を後にした。
―――。
鍵を開け、庭園に踏み入る。
少し荒れた風が足下を吹き抜け、高さの揃わない芝生を揺らした。
肌で感じる、余り歓迎されていないだろうぎこちない排斥感。それがこの地の謂れが持つものなのか、或いは歪虚から向けられたものなのかはわからなかったが、それを振り払うようにしてハンター達は庭園の中に足を踏み入れた。
荒れてるな、とユリアン(ka1664)は周囲を見渡して思う。
石畳は割れ、建物は欠けて、枝葉は伸び放題であるためにせっかくの花を隠してしまっている。しかしそれでも風にそよぐ花は鮮やかで、しだれ藤に挟まれた並木道は見事の一言だった。
此処が、と言葉を途中まで浮かべて、浅黄 小夜(ka3062)は浮世離れした光景に視線を巡らせる。無人のまま荒廃した庭園、元の世界でも秘密の花園にまつわる本があって、経緯こそ大分違うが、自分がそこに来るとは思っていなかった。
来て、しかしよくわからない。ページをめくらないと物語の続きがわからないように、小夜にもこの光景に対して抱くべきものを持て余していた。仕方ないと割り切る成熟さがある訳でもなく、かと言って無邪気にこの光景を楽しめるほど無知な訳でもない。恋人たちの行き着く先はどうなったのだろう、そんな漠然とした疑問があるだけだった。
・J・(ka3142)は早々に仕事モードに入り、周囲から情報を集めていた。
庭園の逸話に感じるものがない訳ではないが、それはそれ、これはこれである。感傷によって現状が変わる訳でもなし、また自身がそれを持ち込む必要性も感じていない。そういうのは仕事が終わってからゆっくり考えればいいのだ、きっと。
確認するのは入り口の植生の状況、戦闘によって荒れたものと、時間によって荒れたものは必ず見目が違う。相手を追跡するなら、その辺から判断する事が出来るだろう。
「どっかに庭師が襲われた痕跡があったりしませんか?」
クレール・ディンセルフ(ka0586)の言葉に、確かに、とJは少し認識を改めて検分をしなおした。逃げるなら入り口を通る必要がある、ぎりぎりまで競り合ったなら痕跡は必ず近くにあるだろう。
「散開しましょう、手はず通りに」
●探索
Jの指示は細かく、二人一組に加え、ある程度の距離を保つ事も含まれていた。
具体的には、ハンターならば大体の人間が即座に戦闘に加われる距離。中央を機動力の高いユリアンとエアルドフリス(ka1856)が担い、庭園を虱潰しにしていく作戦だった。
枯れ気味な木の葉が乾いた音を立てる。
少し水切れを起こしてるな、と目安をつけつつ、エアは細心の注意を払いながら藤棚を横切った。
過去はすべからく現在の糧だ、それが輪廻というものであり、かつて何があったとしてもエアはそれをあるがままに受け止めようとしている。
……割り切れ、とまでは言えないが、受け入れる側であろうとしている。
故に、エアが今回応えたのは、それが現在か、未来に繋がると信じたから。
「藤は口や喉の腫れ、腹の不調に効果があるんだが……動き回るとなると、俺も馴染みが無いねぇ」
バディを組むユリアンがそうなんだ、と藤に視線をやる。
相手が相手だけにユリアンも迂闊に近寄ったりはしない、時折耳を澄ましては生き物の気配に気を配ったりしている。
(幾ら囲まれてた場所でも、鳥や虫には関係ないからね……)
彼らは生存に敏感だ、だから、不自然にその気配が途切れていれば一つの目安になる。
物語の感触だ、と雨を告げる鳥(ka6258)はその感想を噛み締めた。
口伝とは格段に違う、物語に触れる感触。かの舞台が今目の前にあって、肌でその空気を感じている。
言うならば不思議の国にでも迷い込んだ少女のような体験だろうか、知識だけでは得られないその感慨に、レインは暫し浸った後、感慨を内心に秘めたままクレールの後をついていった。
クレールの注意は地面と頭上に交互へと向いている、当然の事だろう。ならば、とそちらは任せてレインは周囲を見渡す役割を選んだ。
移動中、後ろに立ち位置を定めようとした小夜を、Jが制止した。
「私の隣に。……ほら、必ずしも私の方を狙ってもらえる訳ではないでしょう?」
後ろに立たれると小夜が襲われてもJは気づくのが遅れてしまう、それだと意味がないと言われると、小夜は少し照れ気味に頷いて立ち位置を正した。
小夜の手の中にはイオから貰い、ユリアンが3組分書き写した地図の内一つがある。
虱潰しにするため、ハンター達が回るのはまずは外周からだ。Jのレクチャーによると、地図を書く時も外周を回って枠を定め、建屋や道筋、堀の位置を書き込めば精確でなくても用は果たせるらしい。
建物の位置と道順、大体の距離感は書いてあった、小夜の仕事は細かい部分を補足して行く感じだろう。
戦闘の痕跡は難なく見つかった、擬態能力は高いのだろうが、そこまでは気が回らなかったらしい。
土がめくれ、筋状の凹みが幾つかできている。前者は地下から根を回した痕跡で、後者は恐らく蔓を振るった跡だろう。出来て間もない事を証明するように、年月が経てば固まるはずの土はゆるいままだ。
クレールは頷き、他の面子も呼び寄せた。一つは手分けして調査を進めるため、もう一つは集中しすぎて奇襲されるのを防ぐためだ。
「戦闘の痕跡は母屋付近にあって……並木道までは追ってこなかったようですね、これは……」
母屋周辺の痕跡は隠す気もないほどに激しい、しかし追跡は並木道の前でぴたりと止まっている。痕跡をなぞるようにクレールも歩みを進め、同じようにして足を止めた。
目の前に広がるのは薄紅色の並木道、遥か頭上から垂れ下がり、敷き詰められた花房は天からの祝福だと見まごうほど甘い色の美しさを見せている。
(足を止めたくなる気持ちも、わからなくはないのですが……)
それが意味する事は必ずしも幸福ではない、誰もが予感し、誰もがそれに気を取られるべきではない事を感づいていた。
余計な事を口にせず、エアが仲間を促す。
「行こう、……母屋にはいない、多分、涼亭だ」
●
エアの推測通り、土を引きずったかのような歪虚の痕跡は、並木道から涼亭へと向かっていた。
地図から大体の距離を測り、直前と思わしきあたりで一旦ペースを落とす。小夜が風の加護を展開し、風によって花を揺らす事で事前に歪虚の兆候を察知しようとする。
涼亭は人目の付く場所にはない、主が望んだようにその姿を藤の花で隠されている。
覚悟を決め、小夜は杖で進行先を突っつきながら林の中に入っていった。
―――いる。
虫のさざめきは途絶え、鳥もこの場所に近寄ろうとはしない。
薄い瘴気が広がり、花も色あせてるかのようだった。
土に紛れ、忍び寄る植物の根。しかし事前に警戒していたハンター達には全く通用せず――。
「はぁ!!」
クレールが剣を抜き、斬りかかった。
それぞれの相方を下がらせ、ハンター達が陣形を整える。
枯れた黒枝のような体に藤をまとったドレス、今回のターゲットで間違いない。
そして事前に言われてた通り、景色に紛れてとても視認しづらい。体の色も藤の樹幹とかなり近い色で、目の前にいるとわかっていても、気を抜けば見失ってしまいそうだった。
「そういう奴にはやっぱこれかね」
エアが絵具を溶かした水のウォーターガンを構える、間違っても景色に紛れたりしないように明るめのオレンジだ。
「クレール、頼んだ」
「はい!」
意味を正確に理解して、クレールが前に出る。レインが彼女の武器に炎の魔術をかけ、攻勢を援護した。火力で圧倒し、交戦時間を最小限にすれば庭園も荒れずに済むというのはレインの発案だ、そして、その考え方に間違いはない。
防御など考えてないとばかりにクレールは剣を振るい、激しい剣戟で歪虚に迫る。歪虚が堪らず蔦を振るい、強い一撃で下がらせようとすると、下がるどころかクレールはそれを正面から受けた。
「太陽!!」
カウンターで光のレイピアを突き出し、機導術で作られた刀身が歪虚を体内から縛る。クレールの狙い通りに、歪虚の動きが鈍った。
「よし」
エアがウォーターガンを歪虚にかける、これで敵を見失う心配はなくなった。
Jのエレクトリックショックが敵を焼く、風の魔力を帯びる攻撃は装甲を貫き、激しい火花を散らしながら敵を焼いていく。
「父なる息吹よ。邪なる腕を吹き払う風を示せ」
続くレインのウィンドスラッシュも同様、風の刃には深く切り裂く手応えがあり、やはり土属性か、とレインは推測に対する確信を強める。
「師匠、お願い!」
ユリアンの要請に応え、エアが歪虚の後ろに土の壁を立てる。
歪虚の回避を制限し、ついでに飛び武器が誤爆する心配もなくなった。
歪虚は横にずれる事で壁の制限から逃げようとする、ユリアンが立ち回りでそれを止め、小夜のアイスボルトが刺さったチャンスを見逃さず、蔦の根本めがけて刀を一閃させる。
吹き出すのは黒い瘴気、見た目は植物に近いがやはり歪虚である。
「クレールさん」
「はい!」
仕掛ける、というユリアンの合図。力強い返事に安心して、ユリアンは前へと出た。
追い詰められた歪虚は目の前のユリアンを払おうとする、ユリアンはそれを横に避けて、しかし下がらず、より多くの蔦と根を引き付けながら、走り続ける。
逃げきれなくなったところで、跳躍。羽流風を使って土壁の上に乗り、攻撃が追いすがってくれば、当然歪虚の胴体はがら空きで―――。
「もらったぁぁぁぁっ!!!」
クレールの機導剣が、歪虚の胴体を両断した。
●無人の庭
末端から黒い塵と化し、歪虚が散っていく。
胴体部分にまとわれていた藤の花がほどけ、取り込まれていたらしき白い骸骨が姿を表したが、それも歪虚の道連れにされるかのように、塵となって消えていった。
Jが涼亭に踏み込んだが、他には何もない。散った藤の花びらが涼亭の座席に残るだけで、遺体も、痕跡も、看取る事の出来るものは何もなかった。
(……連れて行ったようですね)
歪虚の死体は残らない、だから、もしかしたら片方だけ残すのを良しとしなかったのかもしれない。
その想像に裏付けなどない、歪虚がどうやって発生し、どうしてこの庭に来たのかもすら確証はなかったが、漠然とした予感はあって、それがあたっている確信もなんとなくだが浮かんでいた。
残党がいないかどうかどうか確認するため、ハンター達は再び内部の見回りへと戻った。
庭園は今度こそ無人で、入った時の拒否感が懐かしく思えるほどに静かな空虚が満ちている。
小夜は静かに考え込んでいた、周囲の大人たちは何も言わずに落ち着いているが、果たしてこれを自分の中でどう結論付けたものか、小夜はいまいち整理しきれぬ部分があった。
幸せな結末であればいいと思ってた、でも、果たしてこれはどうだろうか?
「よーわからんなぁ……」
「わからなくていいんですよ、もう当人達に聞けなくなった事ですから」
小夜がはっとしたようにJを見上げる、その視線を受けると、Jは少し苦笑して言葉を続けた。
「だって、幸せだったかどうかなんて、私達が決めつける事じゃないでしょう?」
幸せであればいいと思う事はありますけどね、と付け足してJは視線を周囲に戻した。
わからなくてもいい、そんなJの言葉を小夜は繰り返し考え込んでいた。
そう、幸せであればいいと願っている、かつてあっただろう幸福の想像は、彼らに対する祈りにも似ていた。
今は少し物悲しいけど、これだけ美しい庭なのだから、かつての主もここで幸せな時間があったはずだとクレールは思っている。
その幸せの形が今後も残ってくれればいい、そのために力を尽くしたのだ。
「『決して離れない』『恋に酔う』……ですか」
酔いはきっと醒めた、だから、今はその残滓が優しく残るのを願うばかりだ。
湖を一周して、再び母屋へと戻ってくる。人が住まない家は急速に朽ちていく、この母屋もその例に漏れず、色んな部分が風雨によって崩れかけていた。
ユリアンが家の中に入り、見渡す。擦り切れた敷物、湿気て使い物にならなくなったソファ。クローゼットの中は空で、かつての彼らは確実に意思を持ってこの家を離れたのだと見取る事が出来る。
(……どういう理由はかわからないけどね)
痕跡から推測出来るのはそれが限界だ、家から出ようとした瞬間、入り口の棚に小さく刻まれた文字に気づく。
『いつかまた』
暫しそれを見つめ、ユリアンは何も言わずに外に出た。
「……この家も建て直す必要がありそうですね」
遺体は残らなかった、ならば遺品はこの家になるのだろうか。
墓を用意して貰おうとJは思った、出来ればこの庭の外に、藤の枝と、この家にあった物を添えて。此処は二人だけの花園だった、彼らを弔わないまま、生者の謳歌を見せるのは酷というものだろう。
「祝福されなかった恋……か、ふむ」
母屋の裏に回り、エアはテラスから湖を一望する。
太陽が落ち始めているのか、水面に反射する日差しが眩しい。誰もいない、そしてかつては庭園の主と、その大切な人だけがいた世界。
それもある種の幸福には違いないだろう、少なくともこの庭は彼らを許容したのだ。
「……私は思う、物語もいつかは終わる時が来る」
だからこれが彼らの終わりなのだろう、そう思ってレインはかつての主を静かに悼んだ。
そうやって終わりを迎えた後に、別の物語が新しく始まるのだ、それは止める事の出来ない輪廻で、来年にはこの庭も新しい物語を始め、綺麗になっている事だろう。
未だ見ぬ景色を思い、レインは静かに魔導カメラを撫でた。
瞼の裏に映るのは瑞々しい初夏の景色、枝葉は透き通るような黄緑で、少し強くなった日差しを受け、一層輝きを増している。その下には今より遥か多くの花をつけた藤の花房が架かり、グラデーション気味に咲いた淡紅が樹幹の樺茶色に寄り添うだろう。
シャッターを押す、かつての物語はこれで終わり。
一つの物語を記録して、レインは仲間たちと共に庭園を後にした。
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庭園を護る為に。 浅黄 小夜(ka3062) 人間(リアルブルー)|16才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/08/18 23:30:40 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/08/15 01:19:35 |