• 深棲

【深棲】浜辺に響く音色

マスター:坂上テンゼン

シナリオ形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
少なめ
相談期間
8日
締切
2014/09/20 19:00
完成日
2014/09/23 16:50

みんなの思い出

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オープニング

●ある日の依頼
 ここはイルダーナのハンターオフィス。
 いつものように、若い男の職員が依頼の張り紙を掲示板に張り出している。ガンナ・エントラータより東の海岸で歪虚が出現したという内容だった。
「またそこなのか?」
 それを貼るところを偶然目にしたヘザーが言った。
 先月もその場所で、しかも二度歪虚が出現している。
 いずれもラッツィオ島の狂気の歪虚に影響を受けたものだった。
「今回は『狂気の歪虚』ではないようなんですけど」
「そうそうアレが出てきてたまるものか。ラッツィオ島のヤツはもう死んだのだぞ。それにしても出過ぎだろう」
 ヘザーはしばし思案してから、言った。
「前回、前々回の時から潜んでいたのか、それとも新しく流れ着いたのか……ともかく、それだけ何度も出るとなると、けっこう汚染されてるんじゃないのか?」
「そうかもしれませんね……」
 別にこの職員に専門知識があるわけではない。ただそうなりそうな気がしただけだ。
 ヘザーも同様だったが、考えを行動に移すには彼女の場合、それで充分だった。
「……試しにやってみるか」
「なにをですか?」

「祭りだよ」

●その翌日
 歪虚というのは突如出現し、形あるものを【無】に帰していく、いわば負のエネルギーであり、負の対局である正のエネルギーを発生させることで、歪虚の力を弱めることができると信じられている。
 それゆえ、クリムゾンウェスト人は祭りや清めの儀式を大切にしている。
 ……というわけで、
「音楽なんだ!」
 ヘザーは集まったハンター達に熱弁を振るった。もっとも彼女は理論だてて説明するのは得意ではない。傍らのハンターオフィス職員が(彼の役目というわけでもないのに)付け加えた。
「歪虚が発生する事件が何度も起こってる場所がありまして、ヘザーさんはそこが歪虚汚染にあってるんじゃないかと考えてるんです。
 そこで、知り合いの聖職者の方に相談されて、祭祀のようなことができないかと言ったところ、教会の方も乗り気で」
「そうなんですよオオオオオオ!」
 その場にはハンターでも職員でもない人物がいた。正のマテリアルが漏れているのではないかと思えるほどの笑みを終始顔に浮かべているその男がでかい声で語った。
「イルダーナ第三教会のルベンです! このたびヘザーさんよりお話を聞いて、わたくしのほうでも是非協力したいと思いましてねえ!」
「面白いおっさんだろう」
 評したヘザーに、確かこの人司祭でしたよねと、職員が抗議の視線を向ける。
「ハッハッハ! 光が私をこのようにお導きしたもうたのです!
 さて、みなさんには歪虚を退治していただき、準備のために一週間いただいて、その場所で祭祀を行うことになっています。祭祀といっても、それほど大掛かりなものではありません。具体的には我々が清めの儀式を行った後、音楽の演奏会を催すという流れになっていまして」
「早い話が呑み会の後歌いに行くようなものだ。確かリアルブルーではカラオケと言われているそうだな」
「全然違いますよねそれ!?」
 もう職員も遠慮せず言葉で突っ込んでいた。無論清めの儀式というのは呑み会ではない。ヘザーは例え話をしたつもりなのだ。これでも。
「君達もよければ音楽会に参加しないか?」
 今回はそういう趣向だと、ヘザーは告げた。
「ちなみに私はタンバリンが得意だぞ」
 得意げに、タンバリンを叩く仕草をしてみせた。

●そのさらに翌日
「右ストレートォォォォォォォ!!!!」
 マテリアルを込め真っ直ぐに突き出されたヘザーのジャマダハルが、雑魔の最後の一体を貫いた。
「ふう。これでおしまいか? 案外、あっけなかったな……。
 だが、これで心置きなく準備にかかれるというものだ」
 さっきまでシャコを巨大化させたような雑魔が居座っていた砂浜だが、今はハンター達の他に誰もいない。
 いい天気だ。海の向こうまでが見渡せる。
「楽しみだな!」

――それが一週間前のこと。

 今は、砂浜に木を組んで造られたステージがある。簡素ではあったが、障害物のない砂浜なのでこれで充分だ。周りには照明となる篝火台も置かれている。
 朝だった。食べ物の屋台が立つらしく、人々が準備を始めている。
 ヘザーの思いつきで始まったにしては規模が大きい。
 この祭りは精力的な聖職者であるルベン司祭の人脈が働いた結果、歪虚の攻撃を受けた近隣の町の復興を願う意味合いも兼ねるようになっていたのだった。
 本番となる音楽会は、夜に行われることになっている。

リプレイ本文

●祭りの風景
「ん~楽器は何にすっかな~」
 ジルボ(ka1732)は、屋台で買った焼き栗を食べながら賑わう会場を歩く。
「ハーモニカ? そりゃおめーが聴きたいだけだろ」
 相方のパルムと喋りながら思いを馳せているのは、夜にある音楽会の事だ。一週間前に歪虚を退治したハンター達は、特別ゲストとして音楽会に出演することになっている。
「う゛~しかし俺が扱えるのはコレくらいだ。仕方あるめぇ」
 難しく考える必要などかった。いつも通りにやればいい。

 網で貝を焼いている屋台から、香ばしい匂いが漂っている。そこではもちろん料理も注目を集めていたが、それだけではなかった。
 山羊の頭骨に似た仮面を被った黒い肌で長身のエルフである黒の夢(ka0187)が、料理を堪能していた。
 本人はこそこそしてるつもりだが、その容貌はどうしても目立つ。大人達は何かの催し物かと注目し、子供達は容赦なく追い駆ける。
「はいはーい踊り子さんには手を触れないでね!」
 ハンター仲間のテオバルト・グリム(ka1824)がそれを見つけ、子供達をなだめにかかった。幼い弟や妹がいる彼は子供の扱いは慣れたものだ。
「おどりこ?」
「おどるの?」
「おどってー!」
 ……が、今回ばかりは言葉の選択を誤った。
 仕方がないので黒の夢はくるりと回ってから、華麗に跳ねて、そのまま勢いで遠ざかって行った。

「今日が本番かー。本番本番……うー、緊張してきたぁ!」
「上手くやろうとせず、楽しめば勝ちですよ」
 岩井崎 旭(ka0234)とシルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)は屋台の間を喋りながら歩く。
 旭の愛馬サラダがリズミカルに音を鳴らしながらその後を追う。タンバリンを括りつけられているのだ。
「つまり、わー! っとやって、わー! ってなって超たのしい!
 よぅし、それだ。イケる気がしてきたぁ!」
「その意気込みです、旭さん」
 熱くなる旭と対照的に冷静にアドバイスするシルヴィア。そんな彼女が持っている焙り肉の皿が旭の目に止まった。
「おっ、それ美味い?」
「もっと辛いほうが私好みですね」
「食っていい? どれどれ……ぶふぇっ?! 辛いじゃん!」
 などとやりとりをしつつぶらついていたら、
「ところでここ……どこでしょうか?」
 なぜか、森の中にいた。

 ルベン司祭が舞台の上で、真剣な表情で人々の前に立っている。
 聖典の言葉を読み上げ、それから信徒とともに心を一つに合わせて祈った。
 魔を祓う、清めの儀式である。
 その間、そこでは賑やかな祭りの雰囲気ではなく、荘厳で厳粛な雰囲気があった。
 ヴィーナ・ストレアル(ka1501)はその様子をじっと見つめていた。
 そして、歪虚の被害を受けた人々の心の安寧、そして世界の未来を想い、自身も祈った。

 ステラ・ブルマーレ(ka3014)は一人、賑やかな会場から離れ砂浜に腰掛けていた。
 その手には竪琴が抱かれていたが、今は静かだ。
「何をしてるんだ?」
 そんな彼女に、ヘザーが背後から声をかけた。
「ん……音を聞いてたの」
 砂浜に腰掛け、顔だけを振り向いてステラは応えた。
「こんなふうに、優しい音が出せたらなって」
「波と風の音か?」
「うん。……できてるか、聞いてくれる?」
 ヘザーはそばに腰掛けると、ステラの竪琴の音色と歌声に耳を傾けた。

「お疲れ様! 今日は頑張ろうね」
 ルピナス(ka0179)は舞台に関わる人々に積極的に声をかけていく。昼の間にも軽く演奏したり、宣伝したりしていた。
「皆で楽しむこと」。それが彼の望みだった。
 音楽会の時間は着々と迫っている。
 会場の片隅に設けられたテントで、本番前の最後の打ち合わせが開かれた。
「旭とシルヴィアの姿が見えないが」
「どうしたんだよ?」
 二人ほど足りなかった。
「忘れてるんでしょうか……もし本番いなかったら……」
 心配するヴィーナの言葉に、ルピナスは笑顔で応えた。
「まあまあ、予想外の事態があったほうが楽しいじゃない?」
 楽観的な捉え方に共感するものあり、呆れるものあり。
 ともかく場は収まった。
「……順番はこんな感じで。皆大丈夫?」
 ルピナスが本番の流れを確認する。異議は無し。
「本番前にみんなで一度合わせたいよね」
 それは、皆で合同で行う曲の事だった。
 皆で出来る曲を入れよう、という案が初期の段階から出て、皆賛成していた。
 この一週間、何度か集まって合わせる機会が持てた。中心となったのはルピナスだった。
「さて。本番もよろしく!」
 メンバーが欠けるという一抹の不安も残しつつも、一同は打ち合わせを終えた。



「ルェディース・アンド・ジェントゥルムェェェン!」
 やがて夜になり、音楽会本番の時間がやってきた。
 篝火に囲まれた舞台上で進行をするのはルベン司祭だ。昼間の儀式で見せた真剣な表情とは打って変わって、普段の正のマテリアルダダ漏れスマイルを見せていた。
 近隣の音楽好きや教会信徒有志、今日の事を聞きつけた音楽家らが、次々と演奏を披露していく。
「さて次は特別ゲストです。……」
 ルベン司祭が、ハンター達の出番を告げた。
 衝立で作られた舞台袖では……

「やっぱり旭とシルヴィアがいないんだが……」
「どうするんだ、もう本番だぞ?」
「仕方がないね、最悪二人の番は飛ばすとして……」
「ルピナスさん、出番です!」
「ああ、もう行かないとね。それじゃ、皆も頑張って」

●第一部
「さあさ皆さんお耳を拝借
 これより物語るのは
 海から来た魔物とそれを倒す戦士たちのお話!」

 ルピナスが語り始めると、一斉に彼に注目が向けられた。
 リュートが軽快に鳴り、朗々と語りあげる。
 同時に舞台上を歩き、時には観客席に降りて、一人一人と対話するように語る。
 今この瞬間、彼が世界の中心だった。
 曲と語りは聞く者の心にありありと物語の情景を浮かび上がらせた。おぞましき魔物の姿……戦いの緊張感……戦士達の苦戦……必殺の一撃……勝利の瞬間……。
 誰もが、物語の英雄だった。
 物語が最高潮に達した所で、観客の熱狂はピークに達し、歓声があちこちで起こった。
 ルピナスはそれに応えるように観客席に笑顔を向けてから、

「知ってるかい、平和は訪れたのさ
 帰る場所は守られた
 皆が力を合わせれば、道は切り拓ける」

 しめやかに語った。
 ルピナスは万雷の拍手に送られ、舞台を後にした。



 続いてテオバルトがオカリナを披露した。
 天高く空を舞う鳥の声のように響き渡る音楽は、帝国では知らない人はいない、ポピュラーな曲だ。
 故郷を思わせる、懐かしいメロディ。しかし、そこから離れて行かなければならない。
 愛する故郷を離れ、戦いに征くのだ。歪虚を倒し、世界を救う為に。
 もとはその様な意味付けはなかったかもしれないが、今ではそういう曲として好まれている。そういう時代なのだ。
 テオバルトの演奏は聞くものに翼を与え、遥か北へと想いを巡らさせた。……その先は人類が追われた土地だ。歪虚によって。
 誰もが傷を負っている。そして、夢見ている。奪われたものを取り戻す日を。


 
「何とか間に合いましたか?」
「旭さん! シルヴィアさん!」
「すぐ用意して! もう出番だよ!」
「ほんとギリギリだったんだな……」

 旭とシルヴィアが舞台に上がる。
 クラシックギターの旭と三味線のシルヴィア。それだけでも変わった組み合わせである二人が奏でるのは紛れもないリアルブルーの音楽だ。
 旭のギターが主旋律となり、牧歌的な音色が感客の心を和ませていく。シルヴィアの三味線が主張しすぎない程度にリズムを刻む。
 しかし旋律が突然破綻した。旭がメロディを忘れてしまったのだ。曲が一瞬止まり、勘客の間に微妙な空気が流れる。
 かと思った瞬間、シルヴィアの三味線がこれぞ三味線ならではの素朴かつ激しい、海のうねりのような曲を奏でだす。
 目立つのは本意ではなかったがフォローも自分の務めと、シルヴィアの三味線が波と風を巻き起こす。
 それに追いかける形で旭のギターが追いつき、共通の主題を代わる代わるに演奏しながら加速していく。
 リアルブルーで生まれた熱帯低気圧が、今日クリムゾンウエストのこの場所で台風になった。
 観客達は最初の牧歌的な雰囲気からの急激な変化に度肝を抜かれたが、その激しさはまさに祭りの夜にふさわしいもので、結果として大勢を魅了したのだった。
「これが和洋折衷というやつですね」
「色々あったが何とかなったぜ!」



●第二部
 一瞬にして、闇が世界を閉ざした。
 ステージを囲むように着いていた篝火がすべて消えたのだ。
 観客はどよめくが、すぐに感嘆の声があがり、舞台に注目が集まる。
 そこでは、ゆっくりと、花が開くように、小さな火が燃えはじめており、
 闇夜にも似た肌の色の黒の夢の姿を、あたたかく照らし出した。
 魔術師の技によって、掌の上で焔が踊る。
 その神秘的な光に魅せられる観客の耳を、幻想的な歌声が震わせた。
 
 シトツァ ナムインヌン ハシ ホカニ
 シャエキア オン シヒノ ムリェ オ ウィム
 エムラル クフュスク オイン ロ ト
 オコウイ ビェンギンウ クアンハオ ナグンケアラ

 それは遠い世界から理を越えて聞こえてくる音楽だった。
 誰一人として歌詞の意味を知らない。黒の夢自身も例外ではなかった。
 にもかかわらず、聞くものの心には壮大な世界が広がった。
 歌が終わると同時に、掌で燃えていた焔が消える。
 見えるものは空の星だけだ。
 鐘の音が響き渡る。闇夜に融けた、黒の夢が鳴らす鐘。
 それは魔法のような力をもって星々の間に響き渡った。



 ヴィーナの楽器はリュートに似た弦楽器だ。その名も彼女と同じ名のヴィーナという。
 それは潮騒のようなゆっくりとした旋律を奏でた。
 ヴィーナの演奏によって、今そこにある海の存在がリアルとなり、聞くものの心の中に雄大な海が広がり始めた。
 海は優しくすべてを包み込み、生あるものに大いなる恵みを与える。
 しかし、時に暴威をもって、大自然の厳しさを教え込む。
 その力に比べれば、人間も、歪虚でさえ、等しく矮小な存在に過ぎない。
 そして、嵐が去った後は、また静けさの海へ。
 また生あるものに恵みを与えるのだ。
 それが、天地開闢から繰り返される営み。
 すべての生命の根源である海は、時を超えて、今も在り続ける……。
 ……やがて演奏が止み、我に返った感客が舞台を見れば、ヴィーナ一人がいるだけだ。
 幻想の海は、一瞬にして消え去った。魔法のように。



 ハーモニカを携えたジルボが舞台に上がり、観客席を見渡す。
 朧気ながら、見知った顔も居る様な気がした。
(マルカ? お前も聞いてんのかね)
 一緒に今日の事を話した、マルカ・アニチキンの事を思い出した。
 その音色には、リアルな感情がこもっていた。自身が感じた旅の楽しさや辛さ。出会いと別れ、旅先で感じた様々な感情から生まれたメロディだ。
(変わらない日々なんてないのさ。俺は毎日が楽しいよ。あんた等はどうだい?)
 音楽を介して、ジルボの感情が観客に伝わっていく。
 それは、旅を、生きることを楽しむこと。未知なる未来への希望。
 だれもが人生という名の旅を続けている中で、迷うことも、行く末に不安を感じることもある。
 ジルボはそんなものを明るく笑い飛ばしてやり、幾多の孤独な旅人達の背中を押してやるのだった。
 いつしか、思わず熱くなってしまっていた。演奏を終えて急に恥ずかしくなったので、バンダナをズリ下げて表情を隠した。
 そうして舞台を降りるジルボの背に暖かい拍手が鳴り響いた。
 今や、誰もが友達だった。



 ジルボの演奏が終わると、ハンター達は全員舞台に上がった。これまで演奏をした七人と、ヘザー、そしてステラの九人が楽器を抱え舞台に並んだ。
 全員での合奏が始まるのだ。

 ヴィーナの横笛が祭りの始まりを告げた。
 ヘザーが鮮やかな色の房のついたタンバリンを叩きながら回して舞い、旋律を刻む。すると旭のギターが駆け出し、メロディに加わった。さらにシルヴィアの三味線が行進をはじめ、そしてジルボのハーモニカが軽やかなステップで躍り出る。
 イントロに続き、ステラの底抜けに明るいボーカルが夜空に鳴り響いた。
 曲の合間合間でテオバルトのオカリナが顔を出し、幾度と無く天へと舞い上がった。かと思えば黒の夢もオカリナに魂を吹き込み、先ほどとは打って変わった陽気な舞を見せた。観客席ではルピナスが、リュートを奏でて人々を扇動していく。
 舞台上から、ハンター達がなにもかもを蹂躙していく。破壊された営み、未来への不安、歪虚の存在、世界情勢、憂鬱。すべてに真っ向から挑み、音楽の波が飲み込んでいく。
 観客達は一つになって、それに続いた。
 ――立て。叫べ。拳を上げろ。
 皆が一つとなり、曲が完成していく。いまや全員が燃え上がる旋律となって、五線譜に並んでいた。
 熱情に駆られたヘザーが黒の夢に扇動されて前に出て、タンバリンを舞わして激しく踊る。
 ――その時、会場から離れていたところにいる、メイムの靴の紐が切れた――
 次の瞬間には「ずべしゃあああ!」とリアルな音を出して転んでいた。
「ぐっ、なんのォォォ!!!」
 ルピナスが立たせ、平然と復帰した(ものの、以降ダンスは控えめになった)。
「盛り上がってるー?!」
 ステラがヘザーを称えて(誤魔化すため)観客席に元気が弾けるアピール。
 滅茶苦茶だが、最高だった。
 熱狂が最高潮に達したところで、全員が一斉に飛び上がり、最後の一音を炸裂させた。
 
 演奏は終わり、一体化した観客が万雷の拍手を送った。



●encore
 皆が退場してからも拍手は鳴り止まず、やがて一定のリズムを刻み始めた。
 やがて、ステラがひとり舞台に上がる。
 盛大な拍手が迎えた。
 他の皆も観客席から見守っている。
 ステラは竪琴を手にして、精神を集中させる。
 観客席は静まりかえった。

 今日、最後の演奏が始まろうとしていた。

 この夏、海は、恐ろしいものを運んできた。
 しかし、海は敵などではない。
 人は海と共に生きてきた。海の恵みを受け、海に感謝して生きてきた。これからもそうして生きていく。
 こんな事件があったからこそ、漁師の家の出であるステラは海と風への感謝と明日への希望を歌いたかったのだ。
 その想いは、そのまま負のマテリアルに汚染された土地の癒しとなる。

 竪琴の音色とともに、歌声が響き渡る……。



 陽が沈み 波音が響く
 風は誘う 微睡みの夢を

 LaLaLa 謳おう
 名も無き 星を見上げて
 この碧い海と 澄み渡る風と共に
 今日への子守歌を

 この世界の片隅で 僕らは眠る
 海と空との狭間で 僕らは眠る
 光差すこの場所で 僕らは眠る
 豊かな恵みと共に 僕らは眠る

 そしてまた陽は昇る
 朝焼けと共に 明日を迎えよう
 風と海に抱かれて……

依頼結果

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MVP一覧

  • ライフ・ゴーズ・オン
    ジルボka1732
  • 海と風の娘
    ステラ・ブルマーレka3014

重体一覧

参加者一覧

  • その心演ずLupus
    ルピナス(ka0179
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • 黒竜との冥契
    黒の夢(ka0187
    エルフ|26才|女性|魔術師
  • 戦地を駆ける鳥人間
    岩井崎 旭(ka0234
    人間(蒼)|20才|男性|霊闘士
  • 凶獣の狙撃手
    シルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338
    人間(蒼)|14才|女性|猟撃士
  • 母なる海の鼓動
    ヴィーナ・ストレアル(ka1501
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • ライフ・ゴーズ・オン
    ジルボ(ka1732
    人間(紅)|16才|男性|猟撃士
  • 献身的な旦那さま
    テオバルト・グリム(ka1824
    人間(紅)|20才|男性|疾影士
  • 海と風の娘
    ステラ・ブルマーレ(ka3014
    人間(紅)|16才|女性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 浜辺の演奏会(相談卓)
ステラ・ブルマーレ(ka3014
人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2014/09/18 12:37:21
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/09/15 20:31:06