• 蒼乱

【蒼乱】まだ見ぬ赤龍の故郷へ 後

マスター:葉槻

シナリオ形態
シリーズ(続編)
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
4日
締切
2016/08/29 12:00
完成日
2016/09/02 00:40

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 イズン・コスロヴァ(kz0144)は人生でこれ以上無いぐらいに困惑していた。
「何モナイガ、ユックリ、シテクレ」
 カタコトの言葉を操るその人物は、正しくは人では無い。
 亜人――コボルドだった。
 帝国でコボルドと言えば、鉱山や牧場区に群れを成して現れては臣民の生活を脅かすものの筆頭と言って良い。
 繁殖能力が高く、幼児並みの知性があるため、棒や剣で武装されるとそこそこに厄介な存在となる。
 たが、彼らが言葉を操るなんていうのは聞いたことがなかった。
「ホレ、コレモ、食エ」
 ずぃっと出された固い木の根を受け取り、イズンは曖昧な会釈を返す。

 どうしてこんな事になったのか。
 それは時間を1時間ほど遡る。

 南方大陸と思わしき大地に降り立ったイズン達は、この青い布を纏ったコボルド達と対面していた。
 最初はまだ距離もあった為、コボルドだとは判らず、ただ、何かしらの違和感のようなものは誰もが感じていた。
「……オマエタチ、何者ダ」
 酷く聞き取りにくいカタコトの言葉。だが、その言葉の色には敵意は無い。純粋に好奇心から聞いているような、そんなニュアンスを感じていた。
「私はゾンネンシュトラール帝国、第六師団副師団長のイズン・コスロヴァです。あなた達は?」
「私ハ、ケン。チズムのワ王のムスコ」
 その時、ケンと名乗った少年(だと思った、この時は)の背後にいた人物から悲鳴が上がった。
 ケンの後ろに一体のサンドワームが現れたのだ。
 ハンター達は咄嗟に各々の得物を取り出し、銃や剣による見事な連携プレイとスキルを用いてトドメを刺し、あっさりとサンドワームを塵へと還した。
 18人もハンターがいれば、サンドワームの1匹ぐらい敵ではない。
 すると、おもむろに青い布を纏った5人がハンター達の方へ向き、うつむき膝を付いていた。
「メシア様……!」
「いえ、我々は……」
 メシア――救世主と呼ばれ、イズンは居心地が悪くなり慌ててケンの顔を上げさせようと近寄った。
 はらり、と頭部を覆っていた布が落ちた。
 見えたのは、獣の耳……犬の耳。
 スレンダーな黒色の短い毛並みとスッと長い鼻。
「コボルド……!?」
「ズット、待ッテタ。メシア様……!」

 イズンが驚いて見つめれば、はち切れんばかりに尻尾を振りながら嬉しそうなケンが「ナンデス?」と問う。
 サンドワームから助けたこともあってか、驚くほど敵対心が無く、無邪気に懐いてくるコボルド達に囲まれ、ハンター達も戸惑いを隠せない。
 「オイデオイデ」と誘うコボルド達を信用していいものか。
 ハンター達と相談した結果、言葉がしゃべられるのであればとりあえず話しを聞いてみようという結果となり、ケンの後に付いて行くと、そこは滾々と真水が湧き出るオアシスのほとり、小さな村……というにはあまりに寂しい、確かに砂岩を乱雑に積んで出来た四角い小屋が何件か立っている場所に出た。
 その中の一つ、広い小屋へとイズンと6名のハンターそして術者2名が代表として招かれていた。
 他のハンター12名と術者4人は隣の別室で待機してもらっている。
「イズン様」
 先ほどまでコボルド達を見て顔面蒼白となっていたエルフハイムの術者達が、そっとイズンを呼んだ。
「恐らく、ここなら植樹出来ます」
「このオアシスそのものが太い龍脈の上。だから、水が汚染されずに湧き出るのです」
 イニシャライザー(と、パルムと神霊樹)が入った御輿を担ぎ、ここまで歩いて来た術者達は、最初に頃こそ非力そうに見えたが実はそれなりにパワー型なのかと、少し関係無いことを思いながらイズンは思案する。

 どうするべきなのか。
 ここで植樹出来るのであれば、彼らに頼めば儀式をやらせて貰えるのか。
 そもそも彼らを信用して良いのか。
 人の言葉を操れる分、狡猾なコボルドであれば逆にこちらを安心させた所を襲うかも知れない。

「……何故、私たちのことを“メシア”だと?」
 イズンの問いに、ケンは両耳をぴこぴこと動かして「ハイ」と答えた。
「私タチ、本当の家、モット、ムコウ。ソコニ、書イテアッタ。鼻の無イ、不思議ナ、力、使ウモノ。ソレガ、メシア。私タチヲ 竜カラ、救ッテクレル」
「書いてあった?」
「ソウ。ムレの王、カシコクナイト、ナレナイ」
 意味が分からず、イズンがもう少し詳しく話しを聞こうとしたその時、ケンと同じく青い布を被ったコボルドが凄い勢いで転がり込んで来た。
「…………!! ………! ……………!!!」
 何を言っているのかさっぱり判らないが、ただとんでも無いことが起こったのだろう事は口調から予想が付いた。
「どうしたんですか?」
 イズンが問いかけると、ケンは眉間にしわを寄せ、犬歯を剥いた。
「……ヤツラガ、来タ……!」


「あ、本当に人でち」「ホントでち。犬っころじゃないでち」
「「初めて見たでち」」
 クスクスと笑う一見4~5歳ぐらいの双子らしい幼女2人が砂漠の上にいた。
 ……正しく、空を飛んで、上にいる。
「あの海を渡ったんでちか」「すごいでちね」
「「でもここでお終いでち!」」
 2人は人のような外見だが、尻尾だけがドラゴンのそれだった。
 共に白い尾をうねらせてクスクスと笑う。
「マシュと」「マロが」
「「お前達をごーとぅーへる! でち!!」」
 ……どっと虚脱感に襲われるのは何故だろうか。
 イズンは眉間を抑えながら砂山の向こうにいる双子を見る。
 しかし、その後ろに蠢くようにして現れたリザードマンの群れを見て、イズンは奥歯を噛み締めたのだった。

リプレイ本文


「あ、待って下さい、イズンさん」
 弓を手に歩き出そうとしたイズン・コスロヴァ(kz0144)を、リリティア・オルベール(ka3054)が引き留めた。
「あの双子竜は、私達が引き付けます。なので、イズンさんは、リザードマン達を」
 イズンはリリティアを見、次いでその場にいる5人を見た。
「12人の指揮、お願いします」
 テノール(ka5676)に言われ、イズンは少し困ったように柳眉を寄せ、小さく息を吐いた。
「……わかりました。双子竜の対応は皆さんにお任せします」
「あの時みたいだね」
 テノールの言葉にイズンは静かに両目を伏せて首を横に振った。
「『各状況の線を引く判断は指揮官である私にしか出来ない事』なのでしょう? 今回は兵ではなくハンターしかおりませんが」
「うん」
 2人の脳裏には北狄、雪原での戦いが過ぎっていた。
「ご武運を」
 あの時のようにイズンが告げれば、テノールもまた満足そうに唇を持ち上げた。
「任せろ」



 6人は直進してくるリザードマン達をイズンと12名のハンター達に任せ、やや迂回しながら直接双子竜を目指し歩き出した。
「うーん。メシアって呼ばれるの、意外だったね。西方じゃ人間と対立しているコボルドしか見なかったからな……ま、信じてくれるんなら期待は裏切れねーよな」
 央崎 枢(ka5153)が気合いと共に足を踏み下ろす。
「人と殆ど外見に差がない竜もいるのね。あの子達だと難しそうだけど、相手によっては話ができる、か」
 フィルメリア・クリスティア(ka3380)は双子竜を見ながらなるべく平らな砂地を踏みしめる。
「足跡の上を歩くとちょっとラクに歩けるな」
 ジルボ(ka1732)がフィルメリアの足跡を踏みながら砂の上を歩く。
「砂漠って全部サラッサラの砂なのかと思ってたけど、たまに固い部分があったりするんだな」
 グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)も足元を確認しながら慎重に進む。
「でも夕方でよかったよ、日中はもっと暑いだろうから」
 濃い橙色に染まる砂漠を見ながら枢がリアルブルーの砂漠地域では日中は40度を越えると習ったのを思い出す。

 爆音と共に爆風と雪嵐が周囲の砂を巻き上げ吹き飛ばす。リザードマン対応班の猛攻が始まったのだ。
(ゴーグルして来て良かったぁ)
 マントの襟元で鼻と口を覆いながら、ジルボはリザードマンの群れの1番奥で高みの見物を決め込んでいる双子竜へと近付いていく。
「んん? ヒトが来るでち」「あたちたちを狙ってるでちか?」
「「かえりうちにしてやるでち」」
 臨戦態勢を取った双子竜を前に、ハンター達も得物を手に身構える、が。
「あー、その前に少し話しをいいかな?」
 テノールがにっこりと微笑みながら双子竜に声を掛ける。
「僕はテノール。君たちの名前を教えてくれるかな?」
「マシュでち」「マロでち」
「「ヒトは会話が上手でちね」」
 双子竜はあっさりとその自己紹介に乗った。

「……アホの子なのかな?」
 ずっこけそうになりながらジルボが小声で呟くと、横にいたフィルメリアがシッ! と発言を咎める。

「またコボルトたちを苛めに来たのかな? どうして苛めてるのかな?」
「暇だからでち」「退屈だからでち」
「「あと犬っころは臭いしアホだから嫌いでち」」
 テノールの問いにえへん、と平らな胸を張って答える双子竜。どうやら先に発言するのが向かって左にいる『マシュ』で、後に発言する右側が『マロ』らしい。
「誰かにやれって言われてるのかな?」
「違うでち」「本能でち」
「「あたちたちは誰からの指図も受けねぇでち」」

「絶対アホの子だよこの子達……!」
 枢がひそっとリリティアに話しかける。
「ガルドブルムも人に化けてましたし、竜って人の姿を取れるんですねー……子供の姿で何歳なのかと」
 とリリティアもひそひそと枢へと返す。

 その間も背後ではリザードマン達とハンター達の剣戟や銃声、魔法の炸裂音がしているが、この双子竜は会話に夢中なようで、指揮をするわけでもなく宙をふわふわと浮いている。

「……えーと、マシュとマロ? じゃぁこれ、お近づきの印に」
 そう言ってグリムバルドが取り出したのは色違いのリボン。おいでおいでと双子竜を呼ぶと、彼女達は顔を見合わせた後、素直にふよふよと彼のそばへと寄ってきた。
「黄色いリボンが、マシュ。ピンクがマロ。それでいい?」
 本当はぱっと見では判らないマシュとマロの区別を付けやすくする為に、一か八かで渡そうと思ったものだったのだが、大人しく近寄ってきたので結わえてやることにした。
 髪はおかっぱ程度で難易度が高そうだったので、それぞれの右手首に結ぶ。
 マシュとマロはそれぞれの右手首に巻かれたそれを不思議そうに眺め、ぶんぶんと腕を振り、それが何の戒めにもならない事を確認した後、首を傾げた。
「これは」「何でち?」
「「ひらひらでち!」」
「リボンっていって……んー、オシャレだ!」
 グリムバルドは言い切った。
「オシャレ?」「オシャレ?」
「「ヒトは良くわからないことをするでち」」
 それでも別にそれを不快だとは思わなかったらしく、双子竜はリボンを付けたまま不思議そうにそれを見ている。

「他に人型竜は? 白い尻尾って事は白竜? ないすばでーなドラゴン娘は居ないのか」
 様子を見守っていたジルボも声を掛けてみることにする。
 その時、オレンジ色の日差しの中にマルカ・アニチキン(ka2542)向日葵のような微笑を見た気がして、眩しさに思わず目を閉じた。その後、見開いた瞳には、あきらめの予感よりも罪な眼差し。
「知らないでち」「会ったことないでち」
「「マシュとマロはマシュとマロでち」」
 その答えを聞いてジルボはふむ、と顎に手を添えた。
 どうやら彼女達は自分達が何竜なのか判っていないらしい。子供だからか? それとも興味が無いのか。
 そしてこの辺には彼女達以外のドラゴン娘はいないらしい。残念。
「なぁ、それどうやって空飛んでるの?」
 光の翼の光学迷彩版かと訝しみながら問いかける。
 すると双子はきょとんと顔を見合わせて、互いに首をかくんと外側へ折った。
「知らないでち」「当たり前でち」
「「どうしてヒトは飛ばないでちか?」」
「どうしてって聞かれてもなぁ」
 逆に問われてジルボは頭を掻いた。
「残念ながら、飛ぶように出来てないんだよ」
 枢が両肩を竦めながら代わって答えた。
「ふぅん」「不便でちね」
「「リザードマンと一緒でちね」」

 そこまで言ってから、はたと自分達が何をしに来たか思い出したらしい。戦闘が行われていた砂丘下を見て、その大きな双眸が溢れんばかりに見開いた。
「あぁー!!」「しまったでち!!」
「「良くもあたちたちをもてあそんでくれたちね!!」」
「変な言い方しないで!」
 思わずフィルメリアがツッコんだ。
 確かに、テノールの中でも双子竜を引き付け、リザードマン達の方へ行かせないという思惑はあったが、ここまで見事にお付き合いして貰えるとは思っていなかった。
 見ればリザードマンの殆どは倒され、塵へと還っている。
「よくもよくも」「うちの若いもんを」
「「可愛がってくれたなぁ! でち!」」
「そのお前達の台詞はどっから仕入れたネタだ!?」
 思わずグリムバルドが右裏手で空気を切りながらツッコミを入れる。
「かくなる上は」「貴様ら」
「「……覚えてろー! でち!!」」
「逃げるのかよっ!!」
 何か大きな攻撃でも来るのかと身構えていた枢は、背を向けて一目散に飛び去ろうとする双子竜の姿に盛大にずっこけた。
 冷静にリリティアがクリドゥノ・アイディンをマシュ目がけて放つ。
 それはマシュの右足に絡み、確かな手応えをワイヤー越しにリリティアは感じた。
「リリティアさんナイス! ……っ!?」
 テノールが見たのは、ワイヤーを絡められてもなお飛行を続けるマシュと、その力に踏ん張りが利かず引き摺られ……どころか宙に浮かびつつあるリリティアの姿だ。
 慌ててリリティアを支えにテノールは走り、その両足に抱きつくようにして留めようとするが、それでも引き摺られていく。
「重いでちーっ!」「しつこいでちー!」
「「重くてしつこい女は嫌われるんでちよーっ!!」」
 双子竜が叫ぶと、マシュを中心に砂嵐が巻き起こった。
 砂嵐はハンター全員を巻き込み目、鼻、口、耳、保護していない体中の穴という穴に砂が入り込み、目の中に砂が入り込むという物理的な痛みに目が開けないばかりか、口と鼻に侵入した砂によって酷く咳き込んでしまう。
 思わず手を離したリリティアはテノールと共に地面へと落ちて2人揃って涙を流しながら咳き込む。また、風に煽られてワイヤーも少し離れた砂の上に落ちた。
 唯一ジルボだけが砂塵対策をしていた為影響は少ないが、耳の奥でノイズが走り、集中力が削られる。
「っち、地味にヤな術使いやがって……!」
 ジルボがマロの尻尾に狙いを付けてチェイサーの引き金を引く。
 しかしその弾丸はマロに届く前に透明な壁によって弾かれた。
「障壁!?」
「っ! 逃がしません!!」
 素早く立ち直ったフィルメリアとグリムバルドが合わせてデルタレイを放つ。
「痛いでち!!」「なにするんでちかっ!!」
「「ぼーりょく女も嫌われるんでちよーっ!!」」
 双子竜は共に尻尾を左右にブンブンと振りながら怒っている。怒りながら、どんどんとハンター達と距離を離していく。
「覚えてろー! でちー」「この恨みはらさでおくべきかでちー」
「「おとといきやがれーでちー!!」」
「いや、それお前達の言って良い台詞じゃ無い……うぇえ口の中がじゃりじゃりする……」
 砂塵を吸い込んだせいで咳き込み、目を真っ赤に腫らした枢が、がっくりと砂の上に膝を着いた。
 スコープ越しにマロを見ていたジルボが溜息混じりに顔を上げた。
「逃げ足はっや」
 当てられないことは無いだろうが、もう間もなく夜の帳が降りようという頃だ。リザードマンが掃討された今、視界が悪くなる一方のこの場から、敵が自ら去るというのを引き留める理由も無い。
「それにしても……変な双子竜でしたね」
「暇だ、退屈だって言ってたから、むしろ俺達と話せて楽しかったんじゃ?」
 リリティアの感想にグリムバルドが崩れた枢の手を取って立ち上がらせながら答える。
「……もしかして、話し合いとかだけで帰ってもらう……とか可能性あった……?」
「いや、そりゃ無理だろ」
「あんだけのリザードマン連れてきてたからね。こっち殺す気満々だったと思うよ」
 恐る恐る問う枢にジルボがばっさりと否定を示せば、にこやかに双子竜と会話して見せたテノールも険しい表情でジルボの意見を支持した。
(双子か、少し妹たちを思い出すな……歪虚である以上殺ることは変わらないが)
 似ても似つかないはずなのに、双子というキーワードだけで妹たちを思い出したテノールは、握り締めた拳を深い溜息と共にゆっくりと開く。
「高位の竜だとすれば……強欲王や北で会った竜とも関係あるのも居るかしら」
 下位の歪虚程個体差が無く話せない。ということは他の竜と違い人の姿が取れ、意思疎通が出来たあの双子竜が高位の強欲竜であったことは間違いない。
 フィルメリアは双子竜が去った南の方角を睨む。
 東の空は徐々に藍色を強め、砂漠の西の端に陽が沈もうとしていた。



 オアシスへ戻ると、コボルド達が一斉に膝を折ってハンター達を迎えた。
 リザードマンの軍勢を塵へと還し、何よりあの双子竜を撃退した、という事でコボルド達の中でハンター=救世主という構図がすっかり出来上がってしまったらしい。
 結局この日は熱烈な歓迎と引き留めにあい、オアシスのほとりでハンター達は一泊することとなった。
 コボルド達と接する中で判ったのは、会話が成立するのはケンと名乗った彼のみで、他のコボルドは言葉を操れない事。
 そのケンも流暢な言葉が操れる訳では無く、その内容は酷く判りにくいことがしばしば起こる。
 ただ、ハンター達が『メシア』だというのは彼らの本拠地にある壁画に書いてあったということだ。
 詳しく聞きたいが、どうやら聞くより実際に見た方が早そうだとイズンが、訪問を提案したところ、ケンは嬉しそうに尻尾を振りながら「モチロン! カンゲイシマス!」と、その表情は笑っている様に見えた。
 転移門設置に関しても彼らコボルドは「メシア様にヒツヨウナラ」と特に反対も無かった。
「タダ、ココはミンナ、使ウ。水、ダイジ。水ナイと死ンデシマウ」
「大丈夫です。オアシスをあなた達から奪ったりはしません」
 イズンの言葉を聞いて、ケンは倒した耳をピコッと立てると「ナラバ」と頷いた。
「あ、あのさ」
 グリムバルドが意を決したようにケンへと話しかけた。
「青の一族って事は赤とか白とかもいるのかな? 歴史なんかも知りたい、あと撫でてよろしいか」
 一同がきょとんとグリムバルドを見て、その後暖かな笑い声が周囲に響いた。



 翌朝。
 ハンター達は術者と共にオアシスの前に集合していた。
 固唾を呑んで粛々とした術者達の動きを目で追う。
 台座に乗せた巨大な龍鉱石――イニシャライザー――を担いで、6人の術者達はオアシスの中へと入っていく。
 深さはそれほど無いらしい。術者達の頭部が出ている事からも水深は130~150cmぐらいか。
 オアシスの中央に円となりイニシャライザーを沈めると、何やら唱えている様子が見えた。
 そして、次の瞬間。イニシャライザーから朝陽よりもまばゆい光が垂直に上り拡散すると、周囲の負のマテリアルがイニシャライザーへと吸い込まれるようにして消えていく。
 負のマテリアルが消えた頃、イズンの足元で大事そうに神霊樹を抱えていたパルム達が、互いに神妙な顔つきで頷き合ってふわふわと浮きながら移動すると水際へと降りた。

 そして。

 勢いよく神霊樹の枝を地面にぶっ突き刺した。

「「「「!?」」」」」

 どのハンターも、もうちょっと何と言うか、情緒的な何かを少なからず期待していた。
 その期待を裏切られた衝撃で言葉を失ったまま一同が呆然とパルムと神霊樹を見つめていると、地面に突き刺さった神霊樹の葉がサワサワと風に揺れ、50cmほどの枝はみるみるうちに2mを越える成木へと成長した。
 また、マテリアル感知能力に長けたハンター達は神霊樹の根が網の目のように周囲へと張り巡らされていくイメージも同時に見えていた。
「すごい……これが、精霊樹の植樹……」
 枢が足元を見て、それから神霊樹を見る。
 コボルド達も初めて見る光景に全身の毛を逆立てている。

 マテリアルそのものが具現したような神霊樹は、正のマテリアルが無い所では根付かない。
 しかし、ここに確かに神霊樹は根付いた。
 歪虚に占拠され、今まで人類未踏の地だった南方大陸。
 この地を歪虚から取り戻す、その足がかりを得た瞬間だった。

依頼結果

依頼成功度大成功
面白かった! 10
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • 友と、龍と、翔る
    グリムバルド・グリーンウッドka4409
  • ―絶対零度―
    テノールka5676

重体一覧

参加者一覧

  • ライフ・ゴーズ・オン
    ジルボ(ka1732
    人間(紅)|16才|男性|猟撃士
  • The Fragarach
    リリティア・オルベール(ka3054
    人間(蒼)|19才|女性|疾影士
  • 世界より大事なモノ
    フィルメリア・クリスティア(ka3380
    人間(蒼)|25才|女性|機導師
  • 友と、龍と、翔る
    グリムバルド・グリーンウッド(ka4409
    人間(蒼)|24才|男性|機導師
  • 祓魔執行
    央崎 枢(ka5153
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • ―絶対零度―
    テノール(ka5676
    人間(紅)|26才|男性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
フィルメリア・クリスティア(ka3380
人間(リアルブルー)|25才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2016/08/29 00:50:01
アイコン オアシス防衛・転移門開通に向け
フィルメリア・クリスティア(ka3380
人間(リアルブルー)|25才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2016/08/29 09:58:36
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/08/24 22:48:49