ゲスト
(ka0000)
【猫譚】ユグディラ戦記――肉球乱舞――
マスター:坂上テンゼン

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 寸志
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/09/09 15:00
- 完成日
- 2016/09/17 18:52
このシナリオは3日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●ユグディライダー 三度目の接触は土下座の香り
ヘザー・スクロヴェーニ(kz0061)のバイクには『ユグディラ・キャリアー』という愛称が付けられている(別名『にゃんこ輸送機』)。
理由はユグディラに盗まれたからだ。二回も。
一度目は去年の夏、二度目は先々月のことだ。
いずれもバイクを超絶技巧で乗り回す三匹のユグディラ達だった。リーチを補うため一匹がハンドルを握り、他の二匹が左右のペダルを踏むという考えるのが馬鹿馬鹿しくなるような方法で運転する奴らだ。
バイクを盗まれたこと自体は腹立たしいことだが、それを追いかけること自体は面白おかしかったし、事件を通じて他のハンターとも知り合えたりと、そう悪いことばかりではなかったと感じている。そのため、バイクを盗まれた経験はメモリアルな出来事だった。
勿論、もう絶対に盗まれない! と硬く決意しているのだが。
そして、今日ヘザーがバイク置き場にいくと……
自分のバイクに何かモフモフしたものがくっついているのに気づいた。
やはりというべきか、それはユグディラだった。ここは王都だというのに!
「残念だったな! 今日はちゃんとキーを抜いているぞ!」
誇らしくキーを見せ付けるヘザー。威張るほどの事か。
「ニャーアアアアアアーーーッ!」
「オゥォゥ……ワァオァアアーーーーゥ!」
「ヌギャアアアーーーーーーゥ!」
前回・前々回と同じキジトラ・ハチワレ・クロの三匹だった。まるでそれぞれが「やはり現れたな!」「ここで待っていれば来ると思っていたぞ!」「来なければどうしようかと不安になっていたところだ!」とでも言うような勢いでポーズをとりつつ鳴いた。鳴いたのだ。
「おのれ……ここで会ったが百年目だ!
ひっ捕らえて街中の猫好きという猫好きにモフり倒させてくれるわ!」
ヘザーが両腕を前方に出して構え、ユグディラ達に距離を詰めていく。
するとユグディラ達は獣特有の瞬発力をもって動き、一列に並んだ。
その姿勢は……土下座だった。
「なっ……?!」
逃げるでも反撃でもなく誠意ある態度を見せられてヘザーは戸惑う。
ユグディラたちの硝子玉のような眼はヘザーに向けられていた。
ヘザーがそれに気づいた時には、風景が裏返るように変わっていた。
何かの映像を見せられていると、すぐに気づいた。
武器を持った人影……
背丈と同じくらいのルーサーンハンマーを持った者が四人いる……。
いずれも女性だ……それぞれ顔は違うが、緑色の巻き毛……胸や腰はふわふわした毛に覆われ……頭には捩れた角があるのが共通している……腰にも短剣があった……。
人型だが一目で歪虚とわかった。
草原で何かを探し回っている……一人が籠を設置した荷車を引いていた……籠の中にはユグディラ……。
茂みから飛び出すユグディラ……
歪虚の一体がネットを投げる……絡め取られて暴れるユグディラ……
「……話はわかった……」
ヘザーは構えを解いた。
「本来ならばお前たちはバイクを盗んだ罪人。
しかし、お前たちは力なき存在で、私に助けを求めるのなら無碍にはできん……」
ヘザーは拳を握り、力強く頷いた。
ユグディラ達はバイクに乗っていた(例のフォーメーションで)。
「当然のように私のバイクに乗るなあ!」
なんとかしてユグディラを引き剥がしたヘザーは、ハンターオフィスへと向かう……。
●緑の草原で少女達は無邪気に焦る
ここはグラズヘイム王国南部、シエラリオ地方のとある草原。
世界有数の穀倉地として名高いこの地方は比較的、歪虚の活動も少ない地方であった。
草原は晩夏の日差しを受けて緑色に輝き、それを貫くように伸びた道は巡礼路の一部に連なっていた。
その道を歩いている人影が四つあった。
「ねぇ、なんでこんなコトしなきゃいけないのかな?」
「めんどくさいね!」「くさいね!」
「仕方がないよ! これもベリアル様のためなんだよ!」
「でも本隊はリベルタース地方に行ってるんだよね?」
「それ言っちゃダメぇ!」
かしましい四人の少女達だった。だがその姿は人のそれとは微妙に違っていた。いずれも緑色の巻き毛の髪で、胸と腰は羊の毛に覆われており、頭には捩れた角があった。容姿とは不釣合いなルーサーンハンマーを持ち、腰には左右一対の短剣を下げていた。見るものが見れば一目で歪虚とわかる。
「いーい、ぜったいにここで成功させなきゃいけないの!」
「手柄を立ててベリアル様に認めてもらうんだよね!」
「ベリアル様、私達に冷たいけどー」
「いまに見直してもらうんだから!」
元気ではあったがどこか哀愁の漂う四人の少女達は、空に拳を突き上げお互いを鼓舞し合った。
この歪虚達はベリアル配下で、ハンター達に倒されたフラベル・クラベルの後釜となることを期待された幹部候補生達であった。
フラベル・クラベルと特徴の似たものを集め、特別に育成された歪虚達なのだが……
肝心のベリアル本人はあまり気に入らなかったらしく、このままでは万年候補生で終わってしまう可能性が高い。
彼女等が焦っているのはそのためだ。
ちなみに、ここにいるのは全員フラベルの役割を想定された者ばかりだ。
そして彼女達の一人が、籠を載せた荷車を引いていた。
その籠の中には複数のユグディラが閉じ込められ、不安げに縮こまって空を見上げていた。
また、彼女らが拠点としている天幕でも、ユグディラたちが震えながら助けを待っている……。
ヘザー・スクロヴェーニ(kz0061)のバイクには『ユグディラ・キャリアー』という愛称が付けられている(別名『にゃんこ輸送機』)。
理由はユグディラに盗まれたからだ。二回も。
一度目は去年の夏、二度目は先々月のことだ。
いずれもバイクを超絶技巧で乗り回す三匹のユグディラ達だった。リーチを補うため一匹がハンドルを握り、他の二匹が左右のペダルを踏むという考えるのが馬鹿馬鹿しくなるような方法で運転する奴らだ。
バイクを盗まれたこと自体は腹立たしいことだが、それを追いかけること自体は面白おかしかったし、事件を通じて他のハンターとも知り合えたりと、そう悪いことばかりではなかったと感じている。そのため、バイクを盗まれた経験はメモリアルな出来事だった。
勿論、もう絶対に盗まれない! と硬く決意しているのだが。
そして、今日ヘザーがバイク置き場にいくと……
自分のバイクに何かモフモフしたものがくっついているのに気づいた。
やはりというべきか、それはユグディラだった。ここは王都だというのに!
「残念だったな! 今日はちゃんとキーを抜いているぞ!」
誇らしくキーを見せ付けるヘザー。威張るほどの事か。
「ニャーアアアアアアーーーッ!」
「オゥォゥ……ワァオァアアーーーーゥ!」
「ヌギャアアアーーーーーーゥ!」
前回・前々回と同じキジトラ・ハチワレ・クロの三匹だった。まるでそれぞれが「やはり現れたな!」「ここで待っていれば来ると思っていたぞ!」「来なければどうしようかと不安になっていたところだ!」とでも言うような勢いでポーズをとりつつ鳴いた。鳴いたのだ。
「おのれ……ここで会ったが百年目だ!
ひっ捕らえて街中の猫好きという猫好きにモフり倒させてくれるわ!」
ヘザーが両腕を前方に出して構え、ユグディラ達に距離を詰めていく。
するとユグディラ達は獣特有の瞬発力をもって動き、一列に並んだ。
その姿勢は……土下座だった。
「なっ……?!」
逃げるでも反撃でもなく誠意ある態度を見せられてヘザーは戸惑う。
ユグディラたちの硝子玉のような眼はヘザーに向けられていた。
ヘザーがそれに気づいた時には、風景が裏返るように変わっていた。
何かの映像を見せられていると、すぐに気づいた。
武器を持った人影……
背丈と同じくらいのルーサーンハンマーを持った者が四人いる……。
いずれも女性だ……それぞれ顔は違うが、緑色の巻き毛……胸や腰はふわふわした毛に覆われ……頭には捩れた角があるのが共通している……腰にも短剣があった……。
人型だが一目で歪虚とわかった。
草原で何かを探し回っている……一人が籠を設置した荷車を引いていた……籠の中にはユグディラ……。
茂みから飛び出すユグディラ……
歪虚の一体がネットを投げる……絡め取られて暴れるユグディラ……
「……話はわかった……」
ヘザーは構えを解いた。
「本来ならばお前たちはバイクを盗んだ罪人。
しかし、お前たちは力なき存在で、私に助けを求めるのなら無碍にはできん……」
ヘザーは拳を握り、力強く頷いた。
ユグディラ達はバイクに乗っていた(例のフォーメーションで)。
「当然のように私のバイクに乗るなあ!」
なんとかしてユグディラを引き剥がしたヘザーは、ハンターオフィスへと向かう……。
●緑の草原で少女達は無邪気に焦る
ここはグラズヘイム王国南部、シエラリオ地方のとある草原。
世界有数の穀倉地として名高いこの地方は比較的、歪虚の活動も少ない地方であった。
草原は晩夏の日差しを受けて緑色に輝き、それを貫くように伸びた道は巡礼路の一部に連なっていた。
その道を歩いている人影が四つあった。
「ねぇ、なんでこんなコトしなきゃいけないのかな?」
「めんどくさいね!」「くさいね!」
「仕方がないよ! これもベリアル様のためなんだよ!」
「でも本隊はリベルタース地方に行ってるんだよね?」
「それ言っちゃダメぇ!」
かしましい四人の少女達だった。だがその姿は人のそれとは微妙に違っていた。いずれも緑色の巻き毛の髪で、胸と腰は羊の毛に覆われており、頭には捩れた角があった。容姿とは不釣合いなルーサーンハンマーを持ち、腰には左右一対の短剣を下げていた。見るものが見れば一目で歪虚とわかる。
「いーい、ぜったいにここで成功させなきゃいけないの!」
「手柄を立ててベリアル様に認めてもらうんだよね!」
「ベリアル様、私達に冷たいけどー」
「いまに見直してもらうんだから!」
元気ではあったがどこか哀愁の漂う四人の少女達は、空に拳を突き上げお互いを鼓舞し合った。
この歪虚達はベリアル配下で、ハンター達に倒されたフラベル・クラベルの後釜となることを期待された幹部候補生達であった。
フラベル・クラベルと特徴の似たものを集め、特別に育成された歪虚達なのだが……
肝心のベリアル本人はあまり気に入らなかったらしく、このままでは万年候補生で終わってしまう可能性が高い。
彼女等が焦っているのはそのためだ。
ちなみに、ここにいるのは全員フラベルの役割を想定された者ばかりだ。
そして彼女達の一人が、籠を載せた荷車を引いていた。
その籠の中には複数のユグディラが閉じ込められ、不安げに縮こまって空を見上げていた。
また、彼女らが拠点としている天幕でも、ユグディラたちが震えながら助けを待っている……。
リプレイ本文
●猫にまっしぐら
「にゃーぁぁーーん」
「にゃおーぅ」
「ミャーン」
「ふっ、お前達と共に戦うことになろうとはな」「運命とはわからんものだぜ」「もふれ」といった態度で三匹のユグディラがハンター達に囲まれていた。ユグディラたちがそう思うのはハンターの中に、去年の一件で自分を追い回したキララとイスカ姉妹――星輝 Amhran(ka0724)とUisca Amhran(ka0754)や、先々月の一件にも関わったアシェ-ル(ka2983)、ミコト=S=レグルス(ka3953)がいたからだ。
そんな事はつゆ知らずにハンターたちは何の遠慮もなくユグディラをもふっていた。
猫を見れば触りたくなる。猫好きのサガだ。
ユグディラの方も目を細めて喉を鳴らし、差し出される手に頭をこすりつけたりしている。
「話が進まない」
「すまぬ」
ヘザーに言われてヴィルマ・ネーベル(ka2549)は顔を向ける。手はユグディラの頭に置いたままだったが。
「それでモフモフが大変とか何なのヘザーさん!」
「ああ。SOSだ!」
妹分的存在のリツカ=R=ウラノス(ka3955)に促され、ヘザーは今回のあらましを改めて語った。
「ふむ、仲間の為か。仲良きことは美しき哉、だね」
Holmes(ka3813)が幼い外見に似つかわしくないしみじみとした口調で言った。
「至高のモフモフに迫る歪虚のどす汚い手……これは、守るしかありません!」
「皆の仲間は、きっと助けるからねっ!」
燃え上がるアシェール、キラッ☆となるミコト。二人は若さに溢れていた。
「わしはヘザーが見たという歪虚が気になる。
今宵は良い夢が見れそうじゃ……」
一方でキララはドス黒い笑みを浮かべていた。
隣のイスカはその笑みの意味がわかっていたようだったが、彼女の興味は猫のもふもふに占められていた。
「歪虚を倒し、ユグディラを助ける。
そういうこと、ですね」
「レオ」
恋人のイスカに名前を呼ばれ、微笑み返すレオ――瀬織 怜皇(ka0684)。ヘザーに確認した彼の声は力強い響きだった。
「違うな! 歪虚を派手に倒し、ユグディラを華麗に助ける、だ!」
ヘザーは無駄に訂正した。
「ハードルが上がりました、ね」
「案ずるな。レオならば、できる!」
「そうだよ。むしろそのくらいが丁度良いよ♪」
困ったように笑うレオにキララとイスカが笑いかけた。
「仲良いなキミ達……」
ヘザーは温かな目で見守った。
●Born to be wildcat
一行はシエラリオ地方まで移動し、ユグディラの案内で問題の場所へと到着した。
ミコトはファミリアズアイを使用し、ペットのカラスを通じて上空から見下ろす。
遮るもののない平原が広がっているため、動くものがあればすぐにわかる。道を行く歪虚四人を見つけるのに、時間はかからなかった。
ブォォーン!
「なに?! 馬鹿なッ!」
ヘザーをバイクが抜き去っていった。乗っているのは人ではない、ユグディライダーだ!
しかしヘザーのバイクは自分で押している。
「誰かあいつらにバイクを貸したか?!」
「はい」
「イスカ!」
「ふむ、それでは打ち合わせと違うが……もしや彼らは」
イスカのバイクで走り去るユグディライダーの背面を見ながら、Holmesは顎に指を当てる。
その視線の先は歪虚がいるであろう方角だ。
打ち合わせでは、ハンターは歪虚を挑発する班と囚われのユグディラを救出に行く班に別れ、ユグディラは救出班を幻術で補助するはずだったのだが、ユグディラ達はわかったのかわからんのか微妙な顔をしていたので、皆「ああ……」という反応だった。
しかしユグディラ達は考えていた。彼らの幻術は対象の感覚を惑わすもので、かけられたらだいたいわかる。よって基本的には隠密に向かない。また地形に視覚的変化を与えるものは高度な術式となり、彼らには使えなかった。そこに折りよくイスカがバイクを貸してくれるというので、彼らは詰まるところ、囮になりにいったのである。
「何、簡単なことだよワトソン君」
Holmesが以上のことを推察して、根拠付きで語った。
現状を理解したハンター達はすぐさま二手に別れる。片方はそのまま歪虚に近づき、もう片方は迂回して後方に回り込む。
案の定、ユグディライダーはすぐに戻ってきた。背後に歪虚達を引き連れて……。
●舌端火を吐く
「おやおや羊臭い娘が4人も纏まって……煩いのぅ! あのフラベルとよう似ておる」
歪虚達の姿が確認されるや否やキララが早速仕掛けた。ヘザーが説明したとおりの歪虚が四人、そこにいた。ユグディラ達は挑発役のハンター達の後ろに隠れる。
「フラベル様だと?! 誰だお前達!」
歪虚は問いただした。
「【梓巫女】って知ってますか?」
「【梓巫女】!」
イスカが問う。教育を受けている歪虚達は知っていた。
【梓巫女】とはかつてのベリアル王都侵攻の折、フラベルを撃破した部隊の名前であり、イスカはその隊長だった。
「わかるのなら話は早い。フラベルさんの強さはよく知っています」
「時に、そなたらの中で一番強いのは誰じゃ?」
繋ぐようにヴィルマが聞いた。歪虚達は一瞬、顔を見合わせる。
「わからぬか? なら、そなたら四人で戦って最強を決めるのじゃ。その上で、フラベルとどちらが強いか、このイスカが見定めてくれようぞ」
ヴィルマとキララはイスカを誇示するように立った。
イスカは胸を張って返答を待っている。
「ソレは出来ないねぇ……」
そう待たずに返答が返ってきた。
「そんな最高のエモノを目の前にぶら下げられて、仲間同士で争ってなんていられないねェ!」
「フラベル様の仇だなんてさ!」
少女達の顔が攻撃的な表情に変わった。その感情は歓喜だろうか。
「にひひひひひッ! イスカを、一番先に殺した奴が一番さ! それがいいよ!」
四人は揃って爆笑した。
「ところで、全員フラベルの姿を模しているみたいですが、赤髪のクラベルの姿がないみたいですね?」
アシェールが前に出て、笑い声にかき消されない嘲り声を張り上げた。
「そうだけど? あの陰険でものぐさな奴らがどうかしたの?」
「それってやっぱりフラベルが先にハンター達に殺られたから『弱い』って認識されて一段下に見られているんですね! それにツンツンして可愛げのあるクラベルの方が、あの豚羊にはお似合いだし」
「ベリアル様を豚羊と言ったなァァーーー!!」
ピンポイントで反応した。クラベルも言っていたことなのだが。
「おお怖い怖い……黒大公の側近のレベルも下がったもんじゃのう」
「姉さまレベルが下がったのは黒大公さん本人ですよ」
「所詮あのケダモノの下僕よの」
続け様に罵倒していくキララ、イスカ、ヴィルマ。
「なにこれ怖い」
一方リツカは呆れていた。
リツカは挑発とか罵倒とは縁がない。助けを求めるようにヘザーを見た。
するとヘザーは一歩前に出た。
「すまん。私の仲間が無礼をはたらいた」
「ヘザーさんなんで謝ってるの?!」
何を言うのかと思ったら謝っていた。
「リツカ。私は他人を悪く言うのは嫌いだ」
「空気読んで!」
「謝っても無駄だよ……どうせみんな殺すんだからさぁ!」
「ニンゲンごときに馬鹿にされるなんて……腹立たしくて情けない……」
「フラベル様もそうやって怒らせてから、皆でよってたかって殺したんだろう?」
「まったくニンゲンって奴は品がないよね!」
歪虚は歪虚で好き放題に言い始めた。
「○○○!」「×××」「△△△……」
こうして緑の草原を背景に壮絶な罵倒合戦が始まった。
●武力衝突
レオは聞こえてくる声を頑張って聞き流していた。
ともかく、歪虚達は挑発に乗った。その間に、打ち合わせ通り救出班のレオ、Holmes、ミコトは気配を殺しユグディラが閉じ込められている籠に向かう。
この籠は歪虚の一人が引いている荷車に乗っており、その歪虚も舌戦に参加していたので、台車にとりついて籠を奪うまでは楽に達成された。
「……あーーーーっ!」
それでも一応の注意は払っていたのか、籠が無くなった事に気づいた。その時にはもう三人は離れていた。
「何のつもり?! けどいいねぇ、お前らは私が独り占めしてやるよ!」
荷車担当の一人だけが救出班へと駆け出してきた。三人は迎え撃つべく構える。
「にひひひひッ! 美味しいねえ!」
狂気じみた笑いとともに、先頭に立ったレオに鎚を振り下ろした。
しかし鎚はレオに達する前に、中空に現れた光の障壁に阻まれた。それは火花を散らし、歪虚を弾き飛ばした。
「俺は大人しくしてばかりじゃありません、よ!」
さらにレオは踏み込み、杖を押し当てる。雷電が迸り歪虚を焼いた。
続いてHolmesが斬りかかる。小兵の使う小振りな剣ながら、その一撃は恐ろしく重い。歪虚は避け損ない、顔に傷を負った。
「淑女ならばもう少し落ち着きを持つべきだと思うよ? 激情を振り撒くばかりでは、キミの主人も辟易してしまうだろう」
優雅に剣を構え、諭すように言うHolmes。歪虚は顔を歪める。
「いいよ、にひっ……お前から殺してあげるよ!」
それが皮切りとなった。残りの三人は挑発班へと打ちかかる。
キララは歪虚の一体と激しく打ち合う。両者とも一歩も引かず、互いの得物が幾度も交差し火花を散らせた。
歪虚の大振りの一撃を受け止めたキララが、その重みによろめく。歪虚は上段から必殺の一撃を繰り出す。
突如として、歪虚の眼前からキララが消えた。
歪虚は膝をついた。キララの拳が、鳩尾にめり込んでいた。
「これよ! この機会を待っておったのじゃ」
かつて対峙した、フラベル本人にキララがやられたことへの意趣返しだった。二度目の対峙では機会を掴めぬままフラベルは逝ったのだ。
「フラベルさんの強さはこんなものではなかったですよ」
イスカが入れ替わる用に前に出る。歪虚は膝をついたまま武器を振るうが、イスカは己の得物で正面から受け止め、叩き落とした。
「ちっ、まだ意識があるか、面白くない」
「残りの恨みはイケメン歪虚さんにでもぶつけてください姉さま、そして」
イスカは構え、歪虚と距離を詰める。
「あなた達は力において私達にもフラベルさんにも敵わないことを教えてあげます!」
アシェールの放った弾丸は空中で弾け、周囲の温度を奪って空気ごと歪虚を凍てつかせた。同時にヴィルマの放った氷の矢が歪虚の身体に突き刺さる。致命傷ではないが、冷気のせいで動きが鈍る。
「遠距離戦は我らが得手」
「相性最悪でしたね」
ヴィルマとアシェールは言葉で牽制する。
武器に精通すれども白兵武器しか用意のない歪虚は歯噛みした。
「このまま手も足も出ないままあの世に送ってあげます」
アシェールはあくまで少女らしく、可憐に殺害予告をした。華奢な指の中には桃色の魔導拳銃が収まっている。その銃口近くでは幾何学模様の魔法陣が展開されていた。
「然り……霧に抱かれて死ね」
低温によって発生した霧が歪虚を包んでいた。今や歪虚は、霧の魔女の二つ名を持つヴィルマの手に運命を握られていた。
「なめんなゴラァッ!」
リツカは八角棍を激しく振るい歪虚の一人と打ち合う。速度勝負に出た歪虚は二本の短剣を抜き、激しく斬りつけた。
斬撃を避けたリツカは勢い余って倒れてしまう。
しかし、それも計算の内だった。
「今だヘザーさん!」
「ああ!」
リツカは仰向けになったまま両足を揃えて上に上げた。その上にヘザーが跳び乗り、リツカがその足を蹴り出すと同時にヘザーがその力に同調して跳躍する。
「仲間を投石機に見立てた?!」
アシェールは見た……かつて投石機で空を飛んだという噂そのままのヘザーの姿を!
一瞬で遥か高みに上がったヘザーが降下の勢いを乗せクローを振り下ろす。歪虚は唐突な上空からの勢いを避けきれず、顔から胸にかけて傷を負った。
「くっ、どういう技だ!」
「ただの、演出だよっ!」
「!」
気づいた時には、背後から走りこんで来たミコトの剣に胸を刺し貫かれていた。班を分けたことで、挟撃の形になったのだ。刀身から発される熱が歪虚の体を焼く。
ヘザーはリツカ・ミコトとハイタッチをした。
「余裕をかますなぁ! 私は、まだ負けてない……!」
自力で剣を抜いて歪虚は構え直した。
戦いは続いた……。
●猫探しの際はお近くの探偵まで
――そして、決着がついた。
戦いは終始ハンター優勢で進み、そう長くかからずに歪虚は全て消滅した(なお、キララは戦闘中三回の腹パンを決めてついには意識を刈り取った)。歪虚がフラベルほど経験豊富でなかったということもあるが、ハンターが過去よりも強くなっていた事が主な勝因だった。
「さて、モフモフは何処ですかねー?」
アシェールは上機嫌だった。
「これは探偵の仕事だな。何せ猫探しだからね」
Holmesはそう言って実に名探偵らしい動作で周囲を歩き回り、観察し、そしてこう言った。
「彼女達は街道を歩いていた。おそらく拠点も街道とそう離れていないだろう。ミコト君、歪虚達はどっちから歩いてきていたかね?」
「はいっ! 確かあっちから……」
「ではレディ、君の素敵な友達をその方向に向かって飛ばしてみてくれるかな」
「わかりましたっ! カーさん、おねがいっ!」
ミコトはHolmesに言われたように、視覚を共有したカラスを空に放った。
しばらく経って……
「あっ! ……ありました!」
「よし、カラスくんを維持するんだ。諸君、では移動しようか」
名探偵の指示のもと、一行は街道からほど外れていないところに張られた天幕を発見した。
息を殺して中を覗く。中には歪虚の姿はなく、大きな金属製の籠があり、その中には何匹ものユグディラが丸くなっていた。目は見開かれ、小刻みに震えていた。
ユグディライダー達が先陣を切った。ちなみにバイクはイスカにすぐ返している。貸りる時念を押されたのがちょっと怖かったからだ。
籠の中のユグディラ達は仲間の姿を見ると、立ち上がって彼らを見た。
ハンター一行も入り、鍵を探して籠を開いた。
「にゃー!」
「にゃー!」
「にゃー!」
ふわふわした毛に包まれた丸っこい体つきで、ぴんと尖った耳、つぶらな瞳のユグディラ達が外に出てきた。触れば柔らかな感触と、温かい体温を感じる。
「何と可愛いのかのう……」
感謝の印か寄ってくるユグディラ達をヴィルマは思う存分撫でた。
「おお! お支払いありがとうございまーす!」
アシェールも、これは対価とばかりにもふる。
癒しの空間が構築された。ハンター達は思い思いのやり方でユグディラとの一時を過ごす。レオなどは、イスカの両横をユグディラで挟んで一緒にもふっていた。イスカは気持ちよさそうに目を細めるユグディラそっくりな表情になっていた。
――こうして歪虚の目論見の一つが潰え、人間とユグディラの絆がまた一つ深まったのだった。
「にゃーぁぁーーん」
「にゃおーぅ」
「ミャーン」
「ふっ、お前達と共に戦うことになろうとはな」「運命とはわからんものだぜ」「もふれ」といった態度で三匹のユグディラがハンター達に囲まれていた。ユグディラたちがそう思うのはハンターの中に、去年の一件で自分を追い回したキララとイスカ姉妹――星輝 Amhran(ka0724)とUisca Amhran(ka0754)や、先々月の一件にも関わったアシェ-ル(ka2983)、ミコト=S=レグルス(ka3953)がいたからだ。
そんな事はつゆ知らずにハンターたちは何の遠慮もなくユグディラをもふっていた。
猫を見れば触りたくなる。猫好きのサガだ。
ユグディラの方も目を細めて喉を鳴らし、差し出される手に頭をこすりつけたりしている。
「話が進まない」
「すまぬ」
ヘザーに言われてヴィルマ・ネーベル(ka2549)は顔を向ける。手はユグディラの頭に置いたままだったが。
「それでモフモフが大変とか何なのヘザーさん!」
「ああ。SOSだ!」
妹分的存在のリツカ=R=ウラノス(ka3955)に促され、ヘザーは今回のあらましを改めて語った。
「ふむ、仲間の為か。仲良きことは美しき哉、だね」
Holmes(ka3813)が幼い外見に似つかわしくないしみじみとした口調で言った。
「至高のモフモフに迫る歪虚のどす汚い手……これは、守るしかありません!」
「皆の仲間は、きっと助けるからねっ!」
燃え上がるアシェール、キラッ☆となるミコト。二人は若さに溢れていた。
「わしはヘザーが見たという歪虚が気になる。
今宵は良い夢が見れそうじゃ……」
一方でキララはドス黒い笑みを浮かべていた。
隣のイスカはその笑みの意味がわかっていたようだったが、彼女の興味は猫のもふもふに占められていた。
「歪虚を倒し、ユグディラを助ける。
そういうこと、ですね」
「レオ」
恋人のイスカに名前を呼ばれ、微笑み返すレオ――瀬織 怜皇(ka0684)。ヘザーに確認した彼の声は力強い響きだった。
「違うな! 歪虚を派手に倒し、ユグディラを華麗に助ける、だ!」
ヘザーは無駄に訂正した。
「ハードルが上がりました、ね」
「案ずるな。レオならば、できる!」
「そうだよ。むしろそのくらいが丁度良いよ♪」
困ったように笑うレオにキララとイスカが笑いかけた。
「仲良いなキミ達……」
ヘザーは温かな目で見守った。
●Born to be wildcat
一行はシエラリオ地方まで移動し、ユグディラの案内で問題の場所へと到着した。
ミコトはファミリアズアイを使用し、ペットのカラスを通じて上空から見下ろす。
遮るもののない平原が広がっているため、動くものがあればすぐにわかる。道を行く歪虚四人を見つけるのに、時間はかからなかった。
ブォォーン!
「なに?! 馬鹿なッ!」
ヘザーをバイクが抜き去っていった。乗っているのは人ではない、ユグディライダーだ!
しかしヘザーのバイクは自分で押している。
「誰かあいつらにバイクを貸したか?!」
「はい」
「イスカ!」
「ふむ、それでは打ち合わせと違うが……もしや彼らは」
イスカのバイクで走り去るユグディライダーの背面を見ながら、Holmesは顎に指を当てる。
その視線の先は歪虚がいるであろう方角だ。
打ち合わせでは、ハンターは歪虚を挑発する班と囚われのユグディラを救出に行く班に別れ、ユグディラは救出班を幻術で補助するはずだったのだが、ユグディラ達はわかったのかわからんのか微妙な顔をしていたので、皆「ああ……」という反応だった。
しかしユグディラ達は考えていた。彼らの幻術は対象の感覚を惑わすもので、かけられたらだいたいわかる。よって基本的には隠密に向かない。また地形に視覚的変化を与えるものは高度な術式となり、彼らには使えなかった。そこに折りよくイスカがバイクを貸してくれるというので、彼らは詰まるところ、囮になりにいったのである。
「何、簡単なことだよワトソン君」
Holmesが以上のことを推察して、根拠付きで語った。
現状を理解したハンター達はすぐさま二手に別れる。片方はそのまま歪虚に近づき、もう片方は迂回して後方に回り込む。
案の定、ユグディライダーはすぐに戻ってきた。背後に歪虚達を引き連れて……。
●舌端火を吐く
「おやおや羊臭い娘が4人も纏まって……煩いのぅ! あのフラベルとよう似ておる」
歪虚達の姿が確認されるや否やキララが早速仕掛けた。ヘザーが説明したとおりの歪虚が四人、そこにいた。ユグディラ達は挑発役のハンター達の後ろに隠れる。
「フラベル様だと?! 誰だお前達!」
歪虚は問いただした。
「【梓巫女】って知ってますか?」
「【梓巫女】!」
イスカが問う。教育を受けている歪虚達は知っていた。
【梓巫女】とはかつてのベリアル王都侵攻の折、フラベルを撃破した部隊の名前であり、イスカはその隊長だった。
「わかるのなら話は早い。フラベルさんの強さはよく知っています」
「時に、そなたらの中で一番強いのは誰じゃ?」
繋ぐようにヴィルマが聞いた。歪虚達は一瞬、顔を見合わせる。
「わからぬか? なら、そなたら四人で戦って最強を決めるのじゃ。その上で、フラベルとどちらが強いか、このイスカが見定めてくれようぞ」
ヴィルマとキララはイスカを誇示するように立った。
イスカは胸を張って返答を待っている。
「ソレは出来ないねぇ……」
そう待たずに返答が返ってきた。
「そんな最高のエモノを目の前にぶら下げられて、仲間同士で争ってなんていられないねェ!」
「フラベル様の仇だなんてさ!」
少女達の顔が攻撃的な表情に変わった。その感情は歓喜だろうか。
「にひひひひひッ! イスカを、一番先に殺した奴が一番さ! それがいいよ!」
四人は揃って爆笑した。
「ところで、全員フラベルの姿を模しているみたいですが、赤髪のクラベルの姿がないみたいですね?」
アシェールが前に出て、笑い声にかき消されない嘲り声を張り上げた。
「そうだけど? あの陰険でものぐさな奴らがどうかしたの?」
「それってやっぱりフラベルが先にハンター達に殺られたから『弱い』って認識されて一段下に見られているんですね! それにツンツンして可愛げのあるクラベルの方が、あの豚羊にはお似合いだし」
「ベリアル様を豚羊と言ったなァァーーー!!」
ピンポイントで反応した。クラベルも言っていたことなのだが。
「おお怖い怖い……黒大公の側近のレベルも下がったもんじゃのう」
「姉さまレベルが下がったのは黒大公さん本人ですよ」
「所詮あのケダモノの下僕よの」
続け様に罵倒していくキララ、イスカ、ヴィルマ。
「なにこれ怖い」
一方リツカは呆れていた。
リツカは挑発とか罵倒とは縁がない。助けを求めるようにヘザーを見た。
するとヘザーは一歩前に出た。
「すまん。私の仲間が無礼をはたらいた」
「ヘザーさんなんで謝ってるの?!」
何を言うのかと思ったら謝っていた。
「リツカ。私は他人を悪く言うのは嫌いだ」
「空気読んで!」
「謝っても無駄だよ……どうせみんな殺すんだからさぁ!」
「ニンゲンごときに馬鹿にされるなんて……腹立たしくて情けない……」
「フラベル様もそうやって怒らせてから、皆でよってたかって殺したんだろう?」
「まったくニンゲンって奴は品がないよね!」
歪虚は歪虚で好き放題に言い始めた。
「○○○!」「×××」「△△△……」
こうして緑の草原を背景に壮絶な罵倒合戦が始まった。
●武力衝突
レオは聞こえてくる声を頑張って聞き流していた。
ともかく、歪虚達は挑発に乗った。その間に、打ち合わせ通り救出班のレオ、Holmes、ミコトは気配を殺しユグディラが閉じ込められている籠に向かう。
この籠は歪虚の一人が引いている荷車に乗っており、その歪虚も舌戦に参加していたので、台車にとりついて籠を奪うまでは楽に達成された。
「……あーーーーっ!」
それでも一応の注意は払っていたのか、籠が無くなった事に気づいた。その時にはもう三人は離れていた。
「何のつもり?! けどいいねぇ、お前らは私が独り占めしてやるよ!」
荷車担当の一人だけが救出班へと駆け出してきた。三人は迎え撃つべく構える。
「にひひひひッ! 美味しいねえ!」
狂気じみた笑いとともに、先頭に立ったレオに鎚を振り下ろした。
しかし鎚はレオに達する前に、中空に現れた光の障壁に阻まれた。それは火花を散らし、歪虚を弾き飛ばした。
「俺は大人しくしてばかりじゃありません、よ!」
さらにレオは踏み込み、杖を押し当てる。雷電が迸り歪虚を焼いた。
続いてHolmesが斬りかかる。小兵の使う小振りな剣ながら、その一撃は恐ろしく重い。歪虚は避け損ない、顔に傷を負った。
「淑女ならばもう少し落ち着きを持つべきだと思うよ? 激情を振り撒くばかりでは、キミの主人も辟易してしまうだろう」
優雅に剣を構え、諭すように言うHolmes。歪虚は顔を歪める。
「いいよ、にひっ……お前から殺してあげるよ!」
それが皮切りとなった。残りの三人は挑発班へと打ちかかる。
キララは歪虚の一体と激しく打ち合う。両者とも一歩も引かず、互いの得物が幾度も交差し火花を散らせた。
歪虚の大振りの一撃を受け止めたキララが、その重みによろめく。歪虚は上段から必殺の一撃を繰り出す。
突如として、歪虚の眼前からキララが消えた。
歪虚は膝をついた。キララの拳が、鳩尾にめり込んでいた。
「これよ! この機会を待っておったのじゃ」
かつて対峙した、フラベル本人にキララがやられたことへの意趣返しだった。二度目の対峙では機会を掴めぬままフラベルは逝ったのだ。
「フラベルさんの強さはこんなものではなかったですよ」
イスカが入れ替わる用に前に出る。歪虚は膝をついたまま武器を振るうが、イスカは己の得物で正面から受け止め、叩き落とした。
「ちっ、まだ意識があるか、面白くない」
「残りの恨みはイケメン歪虚さんにでもぶつけてください姉さま、そして」
イスカは構え、歪虚と距離を詰める。
「あなた達は力において私達にもフラベルさんにも敵わないことを教えてあげます!」
アシェールの放った弾丸は空中で弾け、周囲の温度を奪って空気ごと歪虚を凍てつかせた。同時にヴィルマの放った氷の矢が歪虚の身体に突き刺さる。致命傷ではないが、冷気のせいで動きが鈍る。
「遠距離戦は我らが得手」
「相性最悪でしたね」
ヴィルマとアシェールは言葉で牽制する。
武器に精通すれども白兵武器しか用意のない歪虚は歯噛みした。
「このまま手も足も出ないままあの世に送ってあげます」
アシェールはあくまで少女らしく、可憐に殺害予告をした。華奢な指の中には桃色の魔導拳銃が収まっている。その銃口近くでは幾何学模様の魔法陣が展開されていた。
「然り……霧に抱かれて死ね」
低温によって発生した霧が歪虚を包んでいた。今や歪虚は、霧の魔女の二つ名を持つヴィルマの手に運命を握られていた。
「なめんなゴラァッ!」
リツカは八角棍を激しく振るい歪虚の一人と打ち合う。速度勝負に出た歪虚は二本の短剣を抜き、激しく斬りつけた。
斬撃を避けたリツカは勢い余って倒れてしまう。
しかし、それも計算の内だった。
「今だヘザーさん!」
「ああ!」
リツカは仰向けになったまま両足を揃えて上に上げた。その上にヘザーが跳び乗り、リツカがその足を蹴り出すと同時にヘザーがその力に同調して跳躍する。
「仲間を投石機に見立てた?!」
アシェールは見た……かつて投石機で空を飛んだという噂そのままのヘザーの姿を!
一瞬で遥か高みに上がったヘザーが降下の勢いを乗せクローを振り下ろす。歪虚は唐突な上空からの勢いを避けきれず、顔から胸にかけて傷を負った。
「くっ、どういう技だ!」
「ただの、演出だよっ!」
「!」
気づいた時には、背後から走りこんで来たミコトの剣に胸を刺し貫かれていた。班を分けたことで、挟撃の形になったのだ。刀身から発される熱が歪虚の体を焼く。
ヘザーはリツカ・ミコトとハイタッチをした。
「余裕をかますなぁ! 私は、まだ負けてない……!」
自力で剣を抜いて歪虚は構え直した。
戦いは続いた……。
●猫探しの際はお近くの探偵まで
――そして、決着がついた。
戦いは終始ハンター優勢で進み、そう長くかからずに歪虚は全て消滅した(なお、キララは戦闘中三回の腹パンを決めてついには意識を刈り取った)。歪虚がフラベルほど経験豊富でなかったということもあるが、ハンターが過去よりも強くなっていた事が主な勝因だった。
「さて、モフモフは何処ですかねー?」
アシェールは上機嫌だった。
「これは探偵の仕事だな。何せ猫探しだからね」
Holmesはそう言って実に名探偵らしい動作で周囲を歩き回り、観察し、そしてこう言った。
「彼女達は街道を歩いていた。おそらく拠点も街道とそう離れていないだろう。ミコト君、歪虚達はどっちから歩いてきていたかね?」
「はいっ! 確かあっちから……」
「ではレディ、君の素敵な友達をその方向に向かって飛ばしてみてくれるかな」
「わかりましたっ! カーさん、おねがいっ!」
ミコトはHolmesに言われたように、視覚を共有したカラスを空に放った。
しばらく経って……
「あっ! ……ありました!」
「よし、カラスくんを維持するんだ。諸君、では移動しようか」
名探偵の指示のもと、一行は街道からほど外れていないところに張られた天幕を発見した。
息を殺して中を覗く。中には歪虚の姿はなく、大きな金属製の籠があり、その中には何匹ものユグディラが丸くなっていた。目は見開かれ、小刻みに震えていた。
ユグディライダー達が先陣を切った。ちなみにバイクはイスカにすぐ返している。貸りる時念を押されたのがちょっと怖かったからだ。
籠の中のユグディラ達は仲間の姿を見ると、立ち上がって彼らを見た。
ハンター一行も入り、鍵を探して籠を開いた。
「にゃー!」
「にゃー!」
「にゃー!」
ふわふわした毛に包まれた丸っこい体つきで、ぴんと尖った耳、つぶらな瞳のユグディラ達が外に出てきた。触れば柔らかな感触と、温かい体温を感じる。
「何と可愛いのかのう……」
感謝の印か寄ってくるユグディラ達をヴィルマは思う存分撫でた。
「おお! お支払いありがとうございまーす!」
アシェールも、これは対価とばかりにもふる。
癒しの空間が構築された。ハンター達は思い思いのやり方でユグディラとの一時を過ごす。レオなどは、イスカの両横をユグディラで挟んで一緒にもふっていた。イスカは気持ちよさそうに目を細めるユグディラそっくりな表情になっていた。
――こうして歪虚の目論見の一つが潰え、人間とユグディラの絆がまた一つ深まったのだった。
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【相談卓】もふもふを求めて アシェ-ル(ka2983) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/09/08 04:00:16 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/09/04 20:56:15 |