ゲスト
(ka0000)
【蒼乱】グリーン・グリーン2
マスター:神宮寺飛鳥

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/09/20 22:00
- 完成日
- 2016/09/24 21:23
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「うっひょーー!! ここが人魚の島か!!」
暗黒海域に浮かぶ幾つかの無人島。その中の一つに帝国の大型船舶が停泊していた。
道中歪虚の妨害もあったが、それでも島まで辿りつけたのは優秀な案内役が居たからである。
入江まで小舟で漕ぎ着けた後、服を脱ぎ去ったブラトンはふんどし一丁で海へと飛び込んでいく。
「ニンゲン……野蛮……」
「いや、彼は人間の基準というわけではないがな……」
肩を竦め、ルミナは傍らに立つ魚人に目を向けた。
彼の名はユージン。人類が暗黒海域と呼ぶエリアに、古くから住まう魚人族の一員だ。
彼らの中には人類の言語を介する者がいる。いや、厳密にはパルムがそう仲介しているだけで、ハンター以外には伝わらなかったかもしれない。
だが偶然にも、ユージンはハンターとコンタクトを取ることができた。そしてこの島に彼らを招き入れた。
「この島は美しいな。それに、イニシャライザーを搭載した船から遠ざかったのに息苦しさを感じない」
「コノアタリ、マテリアルガ豊富。近クナラ、マダ魚トレル」
二人がそんなやり取りをしていると、ぱしゃりと水飛沫が上がった。
入江にある岩によじ登ったのは人魚だ。ルミナも初めて目にする人魚に「ほう」と声を上げる。
「ユージン……本当にヒトを連れてきたのね」
「ウン。紹介スル。友達の、クノゥ。他ニモ仲間イル。デモ、マズクノゥニ見セル約束」
クノゥと呼ばれた人魚はじっくりと品定めするようにハンターらを見つめた。
「こいつら本当に強いの? 普通のヒトにしか見えないけど」
「歪虚タオシタ。カナリ強イ。手伝ッテモラッテ、神殿トリモドス」
「神殿……?」
「オレタチノ大事ナバショ。海ノ聖ナル地。ズット底ニアル。デモ、歪虚ニトラレタ。仲間、バラバラニナッタ。オレ、神殿トリモドシタイ」
神殿という言葉にルミナは頷く。
ハンターらも薄々感づいていた。この暗黒海域をいくら調査しても、ゲートの手がかりが全く見つからない理由……。
仮にその海底にあるという神殿がゲートと関係があるのなら、いくら海上を調べても見つからないわけだ。
「元々、この辺の海は歪虚に取られてたわ。でも、ここ数年でどんどん奴らが活性化してる。数そのものが増えてるの」
魚人も人魚も、泳ぎが得意な亜人だ。故に、この広い海で歪虚から逃げ隠れしつつ、なんとか生活は維持できた。
特に魚人は負のマテリアルにもある程度の耐性がある。ちょっとくらいの汚染は気にもならない。
「でも、神殿が取られてから、目に見えて海が汚れ始めた。仲間もどんどん歪虚になった。あんた達も殺したんでしょ?」
「確かにここに来るまでに魚人を何体も倒した。元々は君達の仲間だったわけか……すまない」
「別に謝罪なんか要らないわ。だって、元に戻してあげる方法なんてないんだもの」
ふう、と溜息を零し、水面に飛び込んだクノゥは泳ぎ、ハンターらの側の砂浜に上体を乗り上げる。
「元々あたしらはその日暮らしだから、国なんてない。でも、皆でそれなりに楽しくやってたの。なのに気づいたら仲間と殺し合ってた」
「歪虚病……というやつか」
「もうずっと気分はサイアクよ。だから頼りたくもないヒトにも頼るの。……あんた達ヒトって、あたし達をその辺の魚と同じくらいにしか考えてないでしょ?」
確かに、これまで人類は彼らを正視せずに生きてきた。
特に帝国はそうだ。人類の生存を優先するあまり、他の種族を追いやってきたのだ。
「今更どうしてあんた達がここに来たのか、ユージンに聞いた。あんた達もきっとあの神殿が欲しいんでしょ? 歪虚から取り返してくれるのはいい。でも、その後はあんた達があたしらを支配するって、つまりそういう事でしょ?」
「それは違う。私は……少なくとも彼らハンターは、君達を虐げたりはしない」
「どうしてそう言えるの?」
確かに、これからどうなるのかなんてわからない。
ゲートを手に入れたとして、その後人類は神殿をどうするだろうか?
人魚も魚人も、彼らなりの生活がある。人類が介入してそれが壊れてしまうのであれば、それは……。
「ンなもん、オレ達が約束したらそうするってだけだろ?」
海から上がってきた半裸の男はそう言ってどっかりと砂浜に座り込んだ。
「歪虚はぶっ潰すし神殿は取り返すし、お前さん達にひどいことはしねぇ。オレが約束する」
「あんたが約束しても、人類全体がそうするとは限らないでしょ?」
「そうだな。だが、オレは約束を守る。もしお前さんに酷いことをする奴がいたらオレがぶっ飛ばす。何人来てもぶっ飛ばす。ただそれだけだぜ」
ニッカリと白い歯を見せ笑うブラトン。その横顔にルミナも笑みを浮かべる。
「ああ……そうだな。難しいとか解らないとか、そういう事ではないのだったな……」
その時だ。沖に停泊する帝国軍の船から銃声が響き渡ったのは。
双眼鏡で確認すると、複数の魚人が船をよじ登っているのが見える。そして、この入江にも魚人族が現れた。
「黒の魚人……歪虚化した連中ね。もうこんな所まで……」
「クノゥハ逃ゲロ! ココハ俺ガヤル!」
銛を構えるユージン。しかし、次々と魚人は水中から飛び出してくる。
「ホントにあんた一人で平気?」
「ム、ムムム……」
「ここはハンターに任せな! お前ら、オレはちょっくら泳いで船を救援に行く! こっちの敵は任せるぜ!」
ブラトンは猛スピードで泳ぎ出し、グングン遠ざかっていく。
残されたハンターとルミナは武器を取り、ユージンとクノゥを守るように身構える。
「二人はそこで見ていてくれ。そして我らが信を置くに足る者かどうか、見極めるがいい」
剣を抜き、ルミナは小さく笑う。
「心地良いものだな……」
誰かを傷つける為ではなく、誰かを守る為の戦い。
そう心の中で唱えるだけで、無限に勇気が湧いてくる気がした。
暗黒海域に浮かぶ幾つかの無人島。その中の一つに帝国の大型船舶が停泊していた。
道中歪虚の妨害もあったが、それでも島まで辿りつけたのは優秀な案内役が居たからである。
入江まで小舟で漕ぎ着けた後、服を脱ぎ去ったブラトンはふんどし一丁で海へと飛び込んでいく。
「ニンゲン……野蛮……」
「いや、彼は人間の基準というわけではないがな……」
肩を竦め、ルミナは傍らに立つ魚人に目を向けた。
彼の名はユージン。人類が暗黒海域と呼ぶエリアに、古くから住まう魚人族の一員だ。
彼らの中には人類の言語を介する者がいる。いや、厳密にはパルムがそう仲介しているだけで、ハンター以外には伝わらなかったかもしれない。
だが偶然にも、ユージンはハンターとコンタクトを取ることができた。そしてこの島に彼らを招き入れた。
「この島は美しいな。それに、イニシャライザーを搭載した船から遠ざかったのに息苦しさを感じない」
「コノアタリ、マテリアルガ豊富。近クナラ、マダ魚トレル」
二人がそんなやり取りをしていると、ぱしゃりと水飛沫が上がった。
入江にある岩によじ登ったのは人魚だ。ルミナも初めて目にする人魚に「ほう」と声を上げる。
「ユージン……本当にヒトを連れてきたのね」
「ウン。紹介スル。友達の、クノゥ。他ニモ仲間イル。デモ、マズクノゥニ見セル約束」
クノゥと呼ばれた人魚はじっくりと品定めするようにハンターらを見つめた。
「こいつら本当に強いの? 普通のヒトにしか見えないけど」
「歪虚タオシタ。カナリ強イ。手伝ッテモラッテ、神殿トリモドス」
「神殿……?」
「オレタチノ大事ナバショ。海ノ聖ナル地。ズット底ニアル。デモ、歪虚ニトラレタ。仲間、バラバラニナッタ。オレ、神殿トリモドシタイ」
神殿という言葉にルミナは頷く。
ハンターらも薄々感づいていた。この暗黒海域をいくら調査しても、ゲートの手がかりが全く見つからない理由……。
仮にその海底にあるという神殿がゲートと関係があるのなら、いくら海上を調べても見つからないわけだ。
「元々、この辺の海は歪虚に取られてたわ。でも、ここ数年でどんどん奴らが活性化してる。数そのものが増えてるの」
魚人も人魚も、泳ぎが得意な亜人だ。故に、この広い海で歪虚から逃げ隠れしつつ、なんとか生活は維持できた。
特に魚人は負のマテリアルにもある程度の耐性がある。ちょっとくらいの汚染は気にもならない。
「でも、神殿が取られてから、目に見えて海が汚れ始めた。仲間もどんどん歪虚になった。あんた達も殺したんでしょ?」
「確かにここに来るまでに魚人を何体も倒した。元々は君達の仲間だったわけか……すまない」
「別に謝罪なんか要らないわ。だって、元に戻してあげる方法なんてないんだもの」
ふう、と溜息を零し、水面に飛び込んだクノゥは泳ぎ、ハンターらの側の砂浜に上体を乗り上げる。
「元々あたしらはその日暮らしだから、国なんてない。でも、皆でそれなりに楽しくやってたの。なのに気づいたら仲間と殺し合ってた」
「歪虚病……というやつか」
「もうずっと気分はサイアクよ。だから頼りたくもないヒトにも頼るの。……あんた達ヒトって、あたし達をその辺の魚と同じくらいにしか考えてないでしょ?」
確かに、これまで人類は彼らを正視せずに生きてきた。
特に帝国はそうだ。人類の生存を優先するあまり、他の種族を追いやってきたのだ。
「今更どうしてあんた達がここに来たのか、ユージンに聞いた。あんた達もきっとあの神殿が欲しいんでしょ? 歪虚から取り返してくれるのはいい。でも、その後はあんた達があたしらを支配するって、つまりそういう事でしょ?」
「それは違う。私は……少なくとも彼らハンターは、君達を虐げたりはしない」
「どうしてそう言えるの?」
確かに、これからどうなるのかなんてわからない。
ゲートを手に入れたとして、その後人類は神殿をどうするだろうか?
人魚も魚人も、彼らなりの生活がある。人類が介入してそれが壊れてしまうのであれば、それは……。
「ンなもん、オレ達が約束したらそうするってだけだろ?」
海から上がってきた半裸の男はそう言ってどっかりと砂浜に座り込んだ。
「歪虚はぶっ潰すし神殿は取り返すし、お前さん達にひどいことはしねぇ。オレが約束する」
「あんたが約束しても、人類全体がそうするとは限らないでしょ?」
「そうだな。だが、オレは約束を守る。もしお前さんに酷いことをする奴がいたらオレがぶっ飛ばす。何人来てもぶっ飛ばす。ただそれだけだぜ」
ニッカリと白い歯を見せ笑うブラトン。その横顔にルミナも笑みを浮かべる。
「ああ……そうだな。難しいとか解らないとか、そういう事ではないのだったな……」
その時だ。沖に停泊する帝国軍の船から銃声が響き渡ったのは。
双眼鏡で確認すると、複数の魚人が船をよじ登っているのが見える。そして、この入江にも魚人族が現れた。
「黒の魚人……歪虚化した連中ね。もうこんな所まで……」
「クノゥハ逃ゲロ! ココハ俺ガヤル!」
銛を構えるユージン。しかし、次々と魚人は水中から飛び出してくる。
「ホントにあんた一人で平気?」
「ム、ムムム……」
「ここはハンターに任せな! お前ら、オレはちょっくら泳いで船を救援に行く! こっちの敵は任せるぜ!」
ブラトンは猛スピードで泳ぎ出し、グングン遠ざかっていく。
残されたハンターとルミナは武器を取り、ユージンとクノゥを守るように身構える。
「二人はそこで見ていてくれ。そして我らが信を置くに足る者かどうか、見極めるがいい」
剣を抜き、ルミナは小さく笑う。
「心地良いものだな……」
誰かを傷つける為ではなく、誰かを守る為の戦い。
そう心の中で唱えるだけで、無限に勇気が湧いてくる気がした。
リプレイ本文
「来るよ……クノゥとユージンは下がって!」
二人の前に立ち、ライフルを構えるキヅカ・リク(ka0038)。
敵性魚人たちは浅瀬を素早く飛び回るようにしてこちらに向かってくる。
「闇に蝕まれればあの末路、歪虚病はタイヘンじゃからのぅ。ひとまず二人共、これを持つのじゃ」
ハッド(ka5000)が差し出したのは四神護符。東征作戦でも活躍した由緒ある護符だ。
「何かしら、この紙……?」
「王仲間のスメラギんが以前大量発行したありがた~い符である。持っておくがよい!」
「大した敵ではないだろうが……リク、ハッド、二人には絶対に近づてはならんぞ」
ルミナがそう言って身構えると、二人は同時に頷く。
「うん。護るための戦い、だからね……」
キヅカは銃を構えながら少し嬉しそうに笑う。
「近くのやつはよろしく、ルミナちゃん。ま、だいたいやっとくけど、ね!」
奇声を上げながら突き進む魚人らへ真っ先に飛び込んだのはアウレール・V・ブラオラント(ka2531)だ。
駆け寄りながら体ごと回転し、戦槍で薙ぎ払う攻撃は、砂を吹き飛ばしながら魚人らに大打撃を与える。
「ええい、手ぬるいわ! こちらも今は色々と虫の居所が悪いのでな……早々に掃討させてもらう!」
「そんなにしゃかりきになるような相手かの?」
「いや、相手がというか陛下がというかだな……私にも色々あるのだ」
わなわなと身震いするアウレールを他所に、カナタ・ハテナ(ka2130)は魔導猫盾「にゃんにゃんミーくん」をずしりと砂に突き立てる。
「受けよ、にゃんにゃん猫子守唄ッ!」
2mというカナタが扱うには大きすぎる猫の人形から、これまた猫の鳴き声が響き渡る。
異様な光景だが、それで魚人達の動きは鈍っていく。
「凄まじいな……ま、仕事がやりやすくなりゃあそれでいい」
ヴォルフガング・エーヴァルト(ka0139)が振動刀を構え、踏み込みと同時に魚人を次々に切り払うと、続けて久延毘 大二郎(ka1771)が頭上にワンドを振るう。
「同感であるな。いつまでもかかずらってはいられない……では、八咫の雷閃をお見せしよう」
放たれた雷撃は一直線に水面を突き抜け、しかし魚人だけを的確に攻撃していく。
攻撃を受けながらも一心不乱に突撃する魚人らの攻撃を、前に出たアウレールとヴォルフガングが受け止めた。
大したダメージにはならない。だが、深手を顧みず闇雲に迫る様子には違和感を覚えた。
「捨て身の攻撃ってわけだ……」
「力量差も理解できんとは、哀れだな!」
たやすく打払い、反撃で魚人を消滅させていく。
この戦場において、集まったハンターと魚人たちとではかなりの実力差がある。
知性を持つ敵対動物なら、最初の衝突で逃げ出してもおかしくない程だが……。
「みんな流石だな~。こりゃ、僕の出番はないかも」
魚人は殆ど前衛で足止めされており、クノゥやユージンのところまで来る気配がない。
よって、キヅカとハッドは結構暇である。
「これがヒトの戦士の力……ここまで圧倒的なものなの?」
「オレノ言ッタトーリ、ナッ!?」
飛び跳ねて喜ぶユージンだが、クノゥの表情は優れなかった。
と、その時だ。突然砂浜に異音が響き渡ったのは。
声というレベルの音ではない。金属同士が激しくこすれるような不協和音に思わず全員耳を塞ぐ。
「ふぬおっ、うるさいの~!?」
音はかなりの広範囲に響き渡る。その発生源を探ろうと聴覚を研ぎ澄ますハッドだが……。
「う、うるさすぎて敵わぬ……これ以上聞き入っては耳が……」
キヅカは片手で耳を押さえながら走り出し、ジェットブーツで跳躍する。
「敵は……あそこか! アウレール!」
叫びながら指差す先、岩陰に潜む人魚の姿があった。だが、そこは深度のある海上、距離も離れている。
「ひでぇ音だ……流石に堪えるぜ」
「集中力が異常に乱れる……単なる不快音ではなく、魔法的な能力じゃなッ」
カナタは咄嗟にレジストを発動する。だが、この音は常に上書きされるものだ。抵抗が終わっても、元を立たねば意味がない。
「仕方ない。やつを直接討ちに行くぞ。話はそれからだ」
「こっち暇だから、穴は埋めとくよ!」
前に出てきたキヅカとハッドが戦線に加わる。戦闘は圧倒的に有利が続いているのだ。クノゥ達にはルミナがついていれば万が一もないだろう。
「では、さっさとこの不快な音を止めてきてくれたまえ」
大二郎は不快な音で集中を阻害されても余りある力でウォーターウォークを施していく。
水面を歩けるようになったアウレールとカナタが左右に分かれて走り出すと、突っ込んでくる魚人にはヴォルフガングが立ちはだかる。
そこで抑えている間に後衛三人がどんどん攻撃を仕掛ける寸法だ。
「ゆけ、パルムん! 新技、海老ぞりハイジャンプ投法ぅううう!!」
がしりと握りしめたパルムをファミリアアタックで射出するハッド。
キヅカは再びジェットブーツで跳躍し、チャージしていたΔLを解き放つ。
魔法の光が魚人らを次々に食い破り、塵に還していった。
「残りは奴だけじゃ、アウレールどん!」
海上を走りながらカナタは猫の乗った光の杭を作り、これを射出する。
セイレーンは元々直接戦闘力の低い歪虚だ。攻撃を避けられず、杭を受けた事で歌が止まる。
「アンコールはなしだ!」
そこへアウレールが駆け寄り戦槍で胸を貫くと、セイレーンは悲鳴を上げながら塵へ還っていった。
「あんた達、本当に強いのね……」
歪虚をあっさりと片付けた後、ハンターらは一休みしながら話を聞くことになった。キヅカは持ち込んだ弁当を広げる。
「魚人って……弁当食べられるのかな? ツナ缶ならいける?」
「友人が作ったフリッターを宣伝がてら持ってきたのだが……魚が入っていればいけるのかね?」
「オレ、生魚、スキ」
「……では、我々で食べるとしよう」
ユージンの答えにキヅカと大二郎は苦笑を浮かべた。
「ともあれ、僕達は海底神殿奪還を手伝うつもりだよ」
「ハンターの実力は、さっきの一戦で理解してもらえたと思うが……?」
ヴォルフガングの言う通り、ハンターの強さは疑うべくもない。クノゥもそれは理解している。
「でも、その刃が私たちに向けられない保証はないでしょう?」
「確かに帝国は……いや、人間は種族反映を第一としてきた。だが、それは魚人らとて変わらぬのではないか?」
「そうね。私達だって魚を食べるわ。でも、黙って食べられるのを待つなんてイヤよ」
アウレールは首を横に振る。
「勘違いするな。人間はただ闇雲に破滅を求める歪虚とは違う。人類繁栄と魚人の生態系保全は、対立概念ではない。両者を共存させる在り方は、協議で必ず作り出せる」
「そちらさんが人間を襲って食うのではなく、魚を食って暮らしているというのなら、交渉の余地はあるだろう。俺達だって人魚や魚人を食うのは願い下げだ」
ヴォルフガングがそう続けると、カナタは頷き。
「ハンターは種族とかそういうのはあまり気にしない連中が多いの。ソサエティ総長はリグ・サンガマの巫女じゃしな。暮らす国や種族は違えど、我らは協力できている。この刀棍も総長からの褒美でな……まあ、今回は敵が弱くて抜くほどではなかったが」
「リグ・サンガマって? 私達、あんまり遠い場所の事は知らないの。よかったら教えてくれる?」
クノゥもユージンも、この海から離れた事は一度もない。故に話は最初からする必要があった。
これまでの戦いのこと、そして北のヴォイドゲートのこと。異世界の歪虚のこと、そして海底神殿もゲートの可能性があること……。
「たまたまここには人間しかいないが、エルフ、ドワーフ、そして元々は敵対していた鬼とも協力してきた前例がある。我らは歪虚殲滅のプロだ。その庇護下にある恩恵は多大だぞ」
「そう……。ゲートっていうのは、そこまで重大なものなのね」
アウレールがそう締めると、クノゥも随分納得したようだった。
「私はハンターであり考古学者だ。そして今回の件においては後者の身として話を受けた。この世界の全ての成立ちを解明する……それが学者としての私の使命。君達の聖地である海底神殿も、その成り立ちに関わっていると、私は推測している」
大二郎はそう言って大海原に向き合う。
「ともすると、この神殿から世界のルーツが分かる……いや、違う、それだけではあるまい。人間の、君達の、幻獣や他の生物の、更に言えば歪虚のルーツにすらも迫れるかも知れない」
「あたし達の……ルーツ?」
「要するに、私はただ知りたいだけなんだ。だから、神殿を取り戻すという君達に助力したいのだよ」
そこで咳払いを一つ。大二郎は頬を掻く。
「それに……まあ、なんだ、面と向かって助けて欲しいと言われたからな。見捨てるのも寝覚めが悪いだろう?」
「ゲートとか、それぞれ思惑とかないとは言わないよ。でも、君達を助けたいって気持ちも本物なんだ。話しができて、心を通わせられるのなら、僕はその力を信じたい」
あぐらをかいて座るキヅカの言葉を聞き、クノゥはハンターらをじっと見つめる。
「あんなに強い力を持ってるのに、子供みたいに純粋なのね」
大二郎とキヅカは顔を見合わせ笑う。。
「この世界にはいつも驚かされる。興味深いことばかりだよ。私は知的好奇心の対象を無下に壊したりしない。これは絶対だ」
「受け入れてもらえるのかしら……私達も」
「口約束が信用ならぬのは当然。ならばリゼリオで連合軍と会合すればよいのだ。諸君らが敵ではなく、“人類”の一員になれるよう取り次ごう」
アウレールが力強く語った直後だ。突如、背後から伸びた大きな手がアウレールの頭を掴み、撫で回した。
「おうおう、よく言ったじゃねぇか! 女みてぇな顔して大したボウズだぜ!」
「な、な、な……!?」
そこにはいつの間にか戻ってきたずぶ濡れのブラトンの姿があった。
「私もアウレールに賛成だ。彼らは敵ではないと、私からも伝えよう。君達に正しく人権が与えられるように……私はこれでも権力者らしいからね」
「お、お褒めに預かり恐悦至極……いたたたっ」
ブラトンとヴィルヘルミナに左右からもみくちゃにされ助けを求める友人から、キヅカはそっと目をそらした。
「ふ~む。なんじゃ、おっちゃんとルミナんのコトはまだ解決しとらんのか?」
「おう。全然ダメだ!」
清々しい回答に肩をすくめるハッド。カナタは用意していた替えのふんどしとブラトンの服をを取り出す。
「まったく、まるで大きな子供じゃな。仮面に褌イッチョのマッチョ姿は変じゃし、この裏で着替えるがよい」
2mの魔導猫盾「にゃんにゃんミーくん」の影で生着替えするブラトンに何とも言えない空気が広がる。
「さっきの話、すごくありがたいけどね。あたし達には代表と言える者がいないの。小さな集落が幾つかあるだけだから。それに、陸地には行けないのよね。だから、そっとしておいてくれるだけで十分よ」
「そうか。だが、君達を敵性亜人と考えている者もいるだろう。連合軍やソサエティには、私から口添えしておこう」
「え? ルミナちゃん記憶ないんだよね?」
「ないが、まだ偉いのだろう? ならばなんとかするさ」
堂々とした言葉に苦笑するキヅカ。ハッドはしきりに頷き。
「記憶がなくとも心は変わらぬか。ならば世界をもう一度楽しめる……それはそれでよいではないか」
「そういう考え方もあるのか……」
「少々野暮な考えじゃが、魚人族との和談を帝国が取り付ければ顔も立とう。一石二鳥じゃな~」
八重歯を見せ笑うハッド。そうして思い出したように手を叩く。
「敵対せぬためにも歪虚病の対策が必要じゃろう?」
「ああ、それね。ユージン、案内してあげて。あたしは海中洞窟から行くから」
ハンターらがユージンに連れて行かれたのは島にある海蝕洞の一つ。そこには無数の青く光る石があった。
「これ、もしかして海涙石?」
キヅカは別の人魚の島にも出入りしている。故に、なんとなく事情はわかっていた。
「知ってるの? 聖なる石よ。ここにいれば闇に汚染される事はないの」
「やっぱり、海底神殿はあそこで訊いたのと同じものか……」
腕を組みしげしげと眺める大二郎。幻想的な雰囲気には食指も動く。
「龍鉱石とも似ているようだね……ふぅむ」
「確かにここには正のマテリアルが満ちておるな。結界というほではなかろ~が、ひとまずは安全かの~?」
「それにこの石を使えば、水中でとても長く呼吸ができるのよ。あんた達にも使えるようにしてあげるわ」
「素晴らしい……是非体験させてもらいたい」
前のめりに詰め寄る大二郎。そんなわけで、ハンターらは力を得た海涙石を身につけることになった。
「……って、泳ぐのか? まあ、戦闘中に結構濡れたし今更か?」
煙草だけは湿気ったら困ると顰め面のヴォルフガング。ハッドは水着を取り出しヴィルヘルミナに渡す。
「こんなこともあろ~かと持ってきていたのじゃ! せっかくの海だし、楽しまなの!」
「陛下、お召し替えはこちらで! 何があろうと私が死守しますので!」
「誰も覗かないと思うがな……」
着替えるヴィルヘルミナに近づかせまいと槍を構えるアウレールにキヅカは冷や汗を流す。
「あれ? カナタさんも水着あるの?」
「うむ。服の下に着てきたのじゃッ」
「水泳の前にはきちんと準備運動をしたまえ。逸る気持ちは理解できるがね」
「いや……一番逸ってるのあんたじゃないか?」
いそいそと準備する大二郎に静かにヴォルフガングが突っ込んだ。
クノゥが通過してきた海中洞窟も、海涙石の守りがあれば問題なく通過できる。
長時間息継ぎをしなくても泳ぎ続けられるのだ。その結果、ハンターらは砂浜にまで海中を泳ぎ切る事ができた。
「なるほど、これならば海底の神殿にも到達できるかもしれん……実に興味深い」
検証の為と沈む大二郎。なんとなくバカンス的な空気になり、クノゥやユージンとも打ち解けられたようだ。
「許シモ出タシ、皆ノトコロニアンナイスル」
「魚人の集落とは楽しみじゃなッ! ところで、魚人と人魚で結婚とかあったりするのかの?」
「ケッコン? ナニソレ?」
「煙草は……吸うわけねぇか。どれ、俺は洞窟に戻って煙草を取ってくるかね……」
カナタとユージンのやり取りを他所に、ヴォルフガングはノンビリ歩き出した。
この島の魚人や人魚達の協力を取り付けたハンター達は、一度報告の為にリゼリオに戻ることになった。
海底に存在する神殿がゲートの可能性が高く、そこに向かうためには魚人や人魚の協力が必要。
彼らは敵性亜人ではなく、人類の同朋となれるという報告には、帝国皇帝ヴィルヘルミナ・ウランゲルのサインもあり、強い説得力を有した。
ソサエティは、各地から収集した情報を纏めつつ、海底神殿を攻略する準備を開始するのだった……。
二人の前に立ち、ライフルを構えるキヅカ・リク(ka0038)。
敵性魚人たちは浅瀬を素早く飛び回るようにしてこちらに向かってくる。
「闇に蝕まれればあの末路、歪虚病はタイヘンじゃからのぅ。ひとまず二人共、これを持つのじゃ」
ハッド(ka5000)が差し出したのは四神護符。東征作戦でも活躍した由緒ある護符だ。
「何かしら、この紙……?」
「王仲間のスメラギんが以前大量発行したありがた~い符である。持っておくがよい!」
「大した敵ではないだろうが……リク、ハッド、二人には絶対に近づてはならんぞ」
ルミナがそう言って身構えると、二人は同時に頷く。
「うん。護るための戦い、だからね……」
キヅカは銃を構えながら少し嬉しそうに笑う。
「近くのやつはよろしく、ルミナちゃん。ま、だいたいやっとくけど、ね!」
奇声を上げながら突き進む魚人らへ真っ先に飛び込んだのはアウレール・V・ブラオラント(ka2531)だ。
駆け寄りながら体ごと回転し、戦槍で薙ぎ払う攻撃は、砂を吹き飛ばしながら魚人らに大打撃を与える。
「ええい、手ぬるいわ! こちらも今は色々と虫の居所が悪いのでな……早々に掃討させてもらう!」
「そんなにしゃかりきになるような相手かの?」
「いや、相手がというか陛下がというかだな……私にも色々あるのだ」
わなわなと身震いするアウレールを他所に、カナタ・ハテナ(ka2130)は魔導猫盾「にゃんにゃんミーくん」をずしりと砂に突き立てる。
「受けよ、にゃんにゃん猫子守唄ッ!」
2mというカナタが扱うには大きすぎる猫の人形から、これまた猫の鳴き声が響き渡る。
異様な光景だが、それで魚人達の動きは鈍っていく。
「凄まじいな……ま、仕事がやりやすくなりゃあそれでいい」
ヴォルフガング・エーヴァルト(ka0139)が振動刀を構え、踏み込みと同時に魚人を次々に切り払うと、続けて久延毘 大二郎(ka1771)が頭上にワンドを振るう。
「同感であるな。いつまでもかかずらってはいられない……では、八咫の雷閃をお見せしよう」
放たれた雷撃は一直線に水面を突き抜け、しかし魚人だけを的確に攻撃していく。
攻撃を受けながらも一心不乱に突撃する魚人らの攻撃を、前に出たアウレールとヴォルフガングが受け止めた。
大したダメージにはならない。だが、深手を顧みず闇雲に迫る様子には違和感を覚えた。
「捨て身の攻撃ってわけだ……」
「力量差も理解できんとは、哀れだな!」
たやすく打払い、反撃で魚人を消滅させていく。
この戦場において、集まったハンターと魚人たちとではかなりの実力差がある。
知性を持つ敵対動物なら、最初の衝突で逃げ出してもおかしくない程だが……。
「みんな流石だな~。こりゃ、僕の出番はないかも」
魚人は殆ど前衛で足止めされており、クノゥやユージンのところまで来る気配がない。
よって、キヅカとハッドは結構暇である。
「これがヒトの戦士の力……ここまで圧倒的なものなの?」
「オレノ言ッタトーリ、ナッ!?」
飛び跳ねて喜ぶユージンだが、クノゥの表情は優れなかった。
と、その時だ。突然砂浜に異音が響き渡ったのは。
声というレベルの音ではない。金属同士が激しくこすれるような不協和音に思わず全員耳を塞ぐ。
「ふぬおっ、うるさいの~!?」
音はかなりの広範囲に響き渡る。その発生源を探ろうと聴覚を研ぎ澄ますハッドだが……。
「う、うるさすぎて敵わぬ……これ以上聞き入っては耳が……」
キヅカは片手で耳を押さえながら走り出し、ジェットブーツで跳躍する。
「敵は……あそこか! アウレール!」
叫びながら指差す先、岩陰に潜む人魚の姿があった。だが、そこは深度のある海上、距離も離れている。
「ひでぇ音だ……流石に堪えるぜ」
「集中力が異常に乱れる……単なる不快音ではなく、魔法的な能力じゃなッ」
カナタは咄嗟にレジストを発動する。だが、この音は常に上書きされるものだ。抵抗が終わっても、元を立たねば意味がない。
「仕方ない。やつを直接討ちに行くぞ。話はそれからだ」
「こっち暇だから、穴は埋めとくよ!」
前に出てきたキヅカとハッドが戦線に加わる。戦闘は圧倒的に有利が続いているのだ。クノゥ達にはルミナがついていれば万が一もないだろう。
「では、さっさとこの不快な音を止めてきてくれたまえ」
大二郎は不快な音で集中を阻害されても余りある力でウォーターウォークを施していく。
水面を歩けるようになったアウレールとカナタが左右に分かれて走り出すと、突っ込んでくる魚人にはヴォルフガングが立ちはだかる。
そこで抑えている間に後衛三人がどんどん攻撃を仕掛ける寸法だ。
「ゆけ、パルムん! 新技、海老ぞりハイジャンプ投法ぅううう!!」
がしりと握りしめたパルムをファミリアアタックで射出するハッド。
キヅカは再びジェットブーツで跳躍し、チャージしていたΔLを解き放つ。
魔法の光が魚人らを次々に食い破り、塵に還していった。
「残りは奴だけじゃ、アウレールどん!」
海上を走りながらカナタは猫の乗った光の杭を作り、これを射出する。
セイレーンは元々直接戦闘力の低い歪虚だ。攻撃を避けられず、杭を受けた事で歌が止まる。
「アンコールはなしだ!」
そこへアウレールが駆け寄り戦槍で胸を貫くと、セイレーンは悲鳴を上げながら塵へ還っていった。
「あんた達、本当に強いのね……」
歪虚をあっさりと片付けた後、ハンターらは一休みしながら話を聞くことになった。キヅカは持ち込んだ弁当を広げる。
「魚人って……弁当食べられるのかな? ツナ缶ならいける?」
「友人が作ったフリッターを宣伝がてら持ってきたのだが……魚が入っていればいけるのかね?」
「オレ、生魚、スキ」
「……では、我々で食べるとしよう」
ユージンの答えにキヅカと大二郎は苦笑を浮かべた。
「ともあれ、僕達は海底神殿奪還を手伝うつもりだよ」
「ハンターの実力は、さっきの一戦で理解してもらえたと思うが……?」
ヴォルフガングの言う通り、ハンターの強さは疑うべくもない。クノゥもそれは理解している。
「でも、その刃が私たちに向けられない保証はないでしょう?」
「確かに帝国は……いや、人間は種族反映を第一としてきた。だが、それは魚人らとて変わらぬのではないか?」
「そうね。私達だって魚を食べるわ。でも、黙って食べられるのを待つなんてイヤよ」
アウレールは首を横に振る。
「勘違いするな。人間はただ闇雲に破滅を求める歪虚とは違う。人類繁栄と魚人の生態系保全は、対立概念ではない。両者を共存させる在り方は、協議で必ず作り出せる」
「そちらさんが人間を襲って食うのではなく、魚を食って暮らしているというのなら、交渉の余地はあるだろう。俺達だって人魚や魚人を食うのは願い下げだ」
ヴォルフガングがそう続けると、カナタは頷き。
「ハンターは種族とかそういうのはあまり気にしない連中が多いの。ソサエティ総長はリグ・サンガマの巫女じゃしな。暮らす国や種族は違えど、我らは協力できている。この刀棍も総長からの褒美でな……まあ、今回は敵が弱くて抜くほどではなかったが」
「リグ・サンガマって? 私達、あんまり遠い場所の事は知らないの。よかったら教えてくれる?」
クノゥもユージンも、この海から離れた事は一度もない。故に話は最初からする必要があった。
これまでの戦いのこと、そして北のヴォイドゲートのこと。異世界の歪虚のこと、そして海底神殿もゲートの可能性があること……。
「たまたまここには人間しかいないが、エルフ、ドワーフ、そして元々は敵対していた鬼とも協力してきた前例がある。我らは歪虚殲滅のプロだ。その庇護下にある恩恵は多大だぞ」
「そう……。ゲートっていうのは、そこまで重大なものなのね」
アウレールがそう締めると、クノゥも随分納得したようだった。
「私はハンターであり考古学者だ。そして今回の件においては後者の身として話を受けた。この世界の全ての成立ちを解明する……それが学者としての私の使命。君達の聖地である海底神殿も、その成り立ちに関わっていると、私は推測している」
大二郎はそう言って大海原に向き合う。
「ともすると、この神殿から世界のルーツが分かる……いや、違う、それだけではあるまい。人間の、君達の、幻獣や他の生物の、更に言えば歪虚のルーツにすらも迫れるかも知れない」
「あたし達の……ルーツ?」
「要するに、私はただ知りたいだけなんだ。だから、神殿を取り戻すという君達に助力したいのだよ」
そこで咳払いを一つ。大二郎は頬を掻く。
「それに……まあ、なんだ、面と向かって助けて欲しいと言われたからな。見捨てるのも寝覚めが悪いだろう?」
「ゲートとか、それぞれ思惑とかないとは言わないよ。でも、君達を助けたいって気持ちも本物なんだ。話しができて、心を通わせられるのなら、僕はその力を信じたい」
あぐらをかいて座るキヅカの言葉を聞き、クノゥはハンターらをじっと見つめる。
「あんなに強い力を持ってるのに、子供みたいに純粋なのね」
大二郎とキヅカは顔を見合わせ笑う。。
「この世界にはいつも驚かされる。興味深いことばかりだよ。私は知的好奇心の対象を無下に壊したりしない。これは絶対だ」
「受け入れてもらえるのかしら……私達も」
「口約束が信用ならぬのは当然。ならばリゼリオで連合軍と会合すればよいのだ。諸君らが敵ではなく、“人類”の一員になれるよう取り次ごう」
アウレールが力強く語った直後だ。突如、背後から伸びた大きな手がアウレールの頭を掴み、撫で回した。
「おうおう、よく言ったじゃねぇか! 女みてぇな顔して大したボウズだぜ!」
「な、な、な……!?」
そこにはいつの間にか戻ってきたずぶ濡れのブラトンの姿があった。
「私もアウレールに賛成だ。彼らは敵ではないと、私からも伝えよう。君達に正しく人権が与えられるように……私はこれでも権力者らしいからね」
「お、お褒めに預かり恐悦至極……いたたたっ」
ブラトンとヴィルヘルミナに左右からもみくちゃにされ助けを求める友人から、キヅカはそっと目をそらした。
「ふ~む。なんじゃ、おっちゃんとルミナんのコトはまだ解決しとらんのか?」
「おう。全然ダメだ!」
清々しい回答に肩をすくめるハッド。カナタは用意していた替えのふんどしとブラトンの服をを取り出す。
「まったく、まるで大きな子供じゃな。仮面に褌イッチョのマッチョ姿は変じゃし、この裏で着替えるがよい」
2mの魔導猫盾「にゃんにゃんミーくん」の影で生着替えするブラトンに何とも言えない空気が広がる。
「さっきの話、すごくありがたいけどね。あたし達には代表と言える者がいないの。小さな集落が幾つかあるだけだから。それに、陸地には行けないのよね。だから、そっとしておいてくれるだけで十分よ」
「そうか。だが、君達を敵性亜人と考えている者もいるだろう。連合軍やソサエティには、私から口添えしておこう」
「え? ルミナちゃん記憶ないんだよね?」
「ないが、まだ偉いのだろう? ならばなんとかするさ」
堂々とした言葉に苦笑するキヅカ。ハッドはしきりに頷き。
「記憶がなくとも心は変わらぬか。ならば世界をもう一度楽しめる……それはそれでよいではないか」
「そういう考え方もあるのか……」
「少々野暮な考えじゃが、魚人族との和談を帝国が取り付ければ顔も立とう。一石二鳥じゃな~」
八重歯を見せ笑うハッド。そうして思い出したように手を叩く。
「敵対せぬためにも歪虚病の対策が必要じゃろう?」
「ああ、それね。ユージン、案内してあげて。あたしは海中洞窟から行くから」
ハンターらがユージンに連れて行かれたのは島にある海蝕洞の一つ。そこには無数の青く光る石があった。
「これ、もしかして海涙石?」
キヅカは別の人魚の島にも出入りしている。故に、なんとなく事情はわかっていた。
「知ってるの? 聖なる石よ。ここにいれば闇に汚染される事はないの」
「やっぱり、海底神殿はあそこで訊いたのと同じものか……」
腕を組みしげしげと眺める大二郎。幻想的な雰囲気には食指も動く。
「龍鉱石とも似ているようだね……ふぅむ」
「確かにここには正のマテリアルが満ちておるな。結界というほではなかろ~が、ひとまずは安全かの~?」
「それにこの石を使えば、水中でとても長く呼吸ができるのよ。あんた達にも使えるようにしてあげるわ」
「素晴らしい……是非体験させてもらいたい」
前のめりに詰め寄る大二郎。そんなわけで、ハンターらは力を得た海涙石を身につけることになった。
「……って、泳ぐのか? まあ、戦闘中に結構濡れたし今更か?」
煙草だけは湿気ったら困ると顰め面のヴォルフガング。ハッドは水着を取り出しヴィルヘルミナに渡す。
「こんなこともあろ~かと持ってきていたのじゃ! せっかくの海だし、楽しまなの!」
「陛下、お召し替えはこちらで! 何があろうと私が死守しますので!」
「誰も覗かないと思うがな……」
着替えるヴィルヘルミナに近づかせまいと槍を構えるアウレールにキヅカは冷や汗を流す。
「あれ? カナタさんも水着あるの?」
「うむ。服の下に着てきたのじゃッ」
「水泳の前にはきちんと準備運動をしたまえ。逸る気持ちは理解できるがね」
「いや……一番逸ってるのあんたじゃないか?」
いそいそと準備する大二郎に静かにヴォルフガングが突っ込んだ。
クノゥが通過してきた海中洞窟も、海涙石の守りがあれば問題なく通過できる。
長時間息継ぎをしなくても泳ぎ続けられるのだ。その結果、ハンターらは砂浜にまで海中を泳ぎ切る事ができた。
「なるほど、これならば海底の神殿にも到達できるかもしれん……実に興味深い」
検証の為と沈む大二郎。なんとなくバカンス的な空気になり、クノゥやユージンとも打ち解けられたようだ。
「許シモ出タシ、皆ノトコロニアンナイスル」
「魚人の集落とは楽しみじゃなッ! ところで、魚人と人魚で結婚とかあったりするのかの?」
「ケッコン? ナニソレ?」
「煙草は……吸うわけねぇか。どれ、俺は洞窟に戻って煙草を取ってくるかね……」
カナタとユージンのやり取りを他所に、ヴォルフガングはノンビリ歩き出した。
この島の魚人や人魚達の協力を取り付けたハンター達は、一度報告の為にリゼリオに戻ることになった。
海底に存在する神殿がゲートの可能性が高く、そこに向かうためには魚人や人魚の協力が必要。
彼らは敵性亜人ではなく、人類の同朋となれるという報告には、帝国皇帝ヴィルヘルミナ・ウランゲルのサインもあり、強い説得力を有した。
ソサエティは、各地から収集した情報を纏めつつ、海底神殿を攻略する準備を開始するのだった……。
依頼結果
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アウレール・V・ブラオラント(ka2531)
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/09/15 19:35:31 |
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なぜなにルミナどん(質問卓) カナタ・ハテナ(ka2130) 人間(リアルブルー)|12才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2016/09/18 12:26:22 |
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相談卓 カナタ・ハテナ(ka2130) 人間(リアルブルー)|12才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2016/09/19 17:50:02 |