農村警備ユニットきたる

マスター:篠崎砂美

シナリオ形態
イベント
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/10/14 09:00
完成日
2016/10/20 23:55

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「村長、こいつはいったいなんなんですかあ!」
 ここは、ジェオルジのド田舎にあるフィーネ村。アルマート・トレナーレ大尉が、農村警備隊長として左遷された村でもあります。
 そこで、村長に呼び出された隊長さんは、ある物を見せられて怒鳴っていました。
「何って、魔導アーマーだが。何か?」
 しれっと、村長が答えます。
「何かじゃないでしょうが。なんでこんな物が、このド田舎にあるんですか!」
「そりゃあ、歪虚の進行に対して、村の守りをより強固にするための……」
「嘘ですね」
「なぜ決めつけるんだ?」
「この場合、決めつけない方が、おかしいでしょうが!」
 なんだか、話がかみ合いません。
 だいたいにして、こんな所にまで歪虚の本隊が攻め込んでくる状況になったのなら、魔導アーマーが一機あったぐらいではどうにもなりません。
「わあ、魔導アーマーだべー」
「かっこいいなあ」
「こらこら、勝手にさわるんじゃない」
 隊長さんの思惑など関係なしに、兵隊さんたちは初めて見る魔導アーマーに興味津々です。
「で、話を戻して。こいつはなんなんですかあ!」
 隊長さんが、再び村長に詰め寄りました。
「だから、この間、フマーレでCAMや魔導アーマーを見てきたんだよなあ」
 どうやら、村長はこっそりとCAMCONを見に行っていたようです。
「ほしくなったんですね」
「うん」
 ためらいなく、村長がうなずきました。ダメです、この村長。
 それにしても、量産が始まったからと言って、そう簡単に手に入る物でもないはずなのですが……。
「なあに、ちょっとお偉いさんとコネがあってな。あまり、わしを見くびるものではないぞ」
 ほっほっほっと、村長が自慢そうに太ったお腹をかかえて笑います。
「コネって、村長、あんた何者ですか?」
 そういう問題かと、隊長さんが村長に言いました。
「以前だって、村に警備隊を作りたいって言ったら、君をよこしてもらえたしな」
「あんたのせいかあ!」
 左遷されるにしても、なんだってこんなド田舎にと常々思っていた隊長さんですが。ようやく、その謎の一端が垣間見えた気がします。
「だいたい、この村に、魔導アーマーを動かせる奴なんていないでしょうが」
「兵隊さんなら、訓練受けているんじゃないのか?」
 そんなことはないだろうと、村長が聞き返しました。
「俺がここにやってきてから開発された機械ですよ。どうやって訓練受けるんですか!」
 まあ、当然ですね。
「それは、困ったなあ。君たちに動かしてもらおうと思っていたんだが」
 それを聞いて、わーいと兵隊さんたちが歓声をあげます。どうやら、自分たちのために村長さんが魔導アーマーを買ってくれたと思ったようです。
「だいたい、何に使うつもりです。何に」
「それは、当然歪虚と戦って……」
「どこに歪虚がいるっていうんですか、こんなド田舎なのに。こんな物、宝の持ち腐れですよ」
 乗れる者はいないは、戦う相手はいないはでは、使い道がありません。大いなる無駄です。
「うーん、そのへんは任せるから。何かいい使い道考えてくれ」
「ここへ来て丸投げですか。まったく、なんでこんな物欲しがったんですか」
「いや、かっこよかったもんで……」
 もう、話になりません。
「ええい、どうしろってんだ、これ……」
 ポツンとおかれた魔導アーマーを見あげて、隊長さんは溜め息をつきました。
「隊長さん、隊長さん」
 途方に暮れる隊長さんに、兵隊さんたちが話しかけてきました。
「こういう時のためのハンターじゃないですか?」
「以前、特訓にも来てもらったし、今回も助けてもらうだ」
「それしかないかあ」
 とりあえず、ハンターを手配する隊長さんでした。

リプレイ本文

●フィーネ村
「本日は、CAMCON地方開催おめでとうございます」
 土産の菓子折りをさし出して、クオン・サガラ(ka0018)が村長に言いました。訪問の際は、まずは、お土産を持って御挨拶というのは基本です。何ごとも、基本は大切にしなければいけません。
「いや、公式にそういう許可は――いやいやいや、村おこしのためのイベントを誘致するのには、わたし個人としても多大なる尽力をいたしまして……」
 最初キョトンとしていた村長ですが、すぐに自分がすべてお膳立てしたかのように言いだしました。さすがというか、実にタヌキ親父です。
 魔導アーマーにかこつけて、村おこしのイベントにしてしまっているのは確かですが、CAMCONの地方大会のお墨付きなんてもらっているはずもありません。
「とりあえず、わたしも見学させてもらいますね」
「ああ、どうぞどうぞ。楽しんでいってくだされ」
 どうも、ユニット持ちのハンターらしいと看破した村長が、丁寧にクオンを送り出しました。
 そのクオンの愛機であるフォボスは、村外れに幌をかけておいてあります。好奇心の強そうな兵隊さんたちや、村の子供たちのいたずらを避けるという意味があります。ちゃんとシステムにロックもかけてありますし、問題はないでしょう。
 何よりも、より人型に近い魔導型ドミニオンを持ち込んだりしたら、どうしてもユニット同士を比べてしまうではありませんか。クオンとしては魔導アーマーの方は素人ですが、かっこいい魔導型ドミニオンが負けるはずもありません。それでは、比べられた魔導アーマー量産型が可哀相です。
 まあ、それは本意ではないので、ちょっとした作業を終えた後に、CAMは村の外においてきたというわけです。何か必要があれば、取りに行って動かせばいいでしょう。
 村の中央広場には、すでに魔導アーマーが飾られていました。おかれているとか、準備されているとかと言うよりは、やっぱり飾られているという方がしっくりとくる状態です。
 そこにあった物は、何の変哲もない、ごくごく普通の魔導アーマー量産型でした。コックピットがむきだしで、角張った機体をしています。ハンターでなくても扱えるタイプなので、村の兵隊さんたちにはぴったりなのかもしれません。
 村仕様にカスタマイズされているわけでもなく、実にカタログスペックというところですか。そのわりには、ちょっとおんぼろのような気もしますが……。もしかすると、中古のレストア機か何かを払い下げしてもらってきたのかもしれません。
 すでに、広場の周りには、魔導アーマーを囲むようにして、見物の村人たちが集まっていました。
 そんな人たちを目当てとして、いくらかの出店も出ています。
 広場の端っこでは、エルバッハ・リオン(ka2434)が魔導トラックを乗りつけて、出店の準備をしていました。
 魔導トラックの荷台の一部を、今回のために屋台風に改造してあります。リアルブルー風に言えば、ワゴン車販売というところでしようか。面白そうなことをしていると聞きつけて、一儲けしようという考えです。
 売り物は、豚肉の入ったクレープや山菜のスープ、それに、ビールや炭酸飲料も用意してあります。自然に、なるべく地元の野菜などを仕入れてあり、地産地消が売り文句の一つでした。
 一通りの準備ができあがって、リオンがさあ商売を始めようとしたときでした。
 そこへ、隊長さんが、兵隊さんのトレと一緒にやってきたのです。
「どうかしましたか?」
 リオンが、隊長さんに聞きました。
「そのう、おほん、村人たちから、裸の女が歩き回っているという訴えがあってなあ……」
 一つ咳払いしてから、なんだかちょっと言いにくそうに、隊長さんが切り出しました。
「私のことですか? 心外です」
 腰に手を当てて、リオンが不満そうに言いました。そのリオンの着ている服は、ぴっちぴちです。
 いわゆるぴっちりスーツとリアルブルーで呼ばれている物なのでした。戦闘中にユニットのレバーやボタンなどに引っ掛けたりしないように、装飾をできるだけ排除して、身体にぴったりと貼りつくようなデザインをしたオリジナル戦闘服です。ぶっちゃけると、シースルーのレオタードに酷似しています。
 コックピット部がむきだしのタイプの魔導アーマーとは違って、CAMのコックピットであれば厚い装甲で守られています。そのため、鎧の類は着る意味がありませんし、むしろ動きを阻害することになります。そういった観点から、伸縮に富んだ生地を、身体に合わせて裁断したパイロットスーツという物はありです。ただし、おかげで、実に身体のラインがもろに出ているのでした。コックピットの外に出なければ、どうということもありませんが、リオンはその姿で接客販売をしています。これは、クリムゾンウエストの田舎の人たちには、少々、いえ、かなり刺激が強かったかもしれません。
「このくらい、リアルブルーでは普通ですから」
 さもあたりまえのように、リオンが言いました。クリムゾンウェスト出身の隊長さんたちには、確かめる術もありません。でも、リアルブルーは、なんていい所なんだろうと、ちょっと思ってしまう隊長さんでした。
「そうだろう。だから、俺も、たいしたことないって言ったんだ」
 隊長がリオンを擁護するように言いました。でも、なんだか鼻の下がのびているような気もしますが……。
「だいたい、戦闘で肌が露出するなんてよくあることです。それに気を取られていたら、戦場では命取りになります」
 これ見よがしに胸を前に突き出して、リオンが続けました。
「うんうん、まったくその通り」
 答えつつも、隊長さんがリオンの姿を見てニコニコしています。きっと、都会の夜でも思い出しているのでしょう。
「商売の方は、ちゃんと許可をとりました。魔導トラックの方は、万が一の場合に備えて、救護所ともなるようにベッドも用意してあります」
「おお、それは、なんと準備のいい……ててててて」
「隊長さん、問題ないのなら、もういくだよ。みんな、魔導アーマーの所で待ってるだよ」
 なんだか、変な心を起こさないうちにと、トレが隊長さんの耳を引っぱって連れていってしまいました。
「まったく、男の人という物は」
 クスクスと笑いながら、リオンがつぶやきました。ああいった男の人の反応を楽しむために、わざとこういった格好をしてきたのです。
 さてさて、邪魔者がいなくなったので商売を始めたリオンでしたが、さっぱりお客さんが来ません。
 これはどうしたことでしょう。
 落ち着いて観察してみると、なんだか喜んで屋台にむかおうとしている男共が、次々に女の人たちに捕まって引きずられていきます。隊長さんの末路を見て、女の人たちが奮起したようでした。
 これは、想定外でした。とかも、商売としてはまずい状況です。倒産の危機です。
「商いの方は、ちゃんとしないとねえ」
 仕方なく、リオンは迷彩ジャケットを羽織って、露出を抑えることにしました。でも、下半身はそのままなので、ある意味、これはこれで、先ほどよりも色っぽいのですが……。ただ、屋台の調理台などで、下半身はそれほど見えません。
「さあ、美味しい食べ物と飲み物ですよー。魔導アーマー見物のお供にはもってこい。いらっしゃいませ、いらっしゃいませー」
 軽く科を作りながら、リオンが元気に呼び込みを始めます。
 おかげで、ちらほらとお客さんがやってき始めました。
「それ一つくれないか? あと、ビール」
「毎度ありがとうございます」
 やってきた鵤(ka3319)が、クレープを一つ注文しました。
 なんでも、『御当地魔導アーマー初お目見え!』ということでしたので、その謳い文句に心惹かれて、物見遊山にやってきたのです。まあ、だいたいにして、御当地魔導アーマーってなんじゃらほいという状態ですが、どうせたいして意味はないのでしょう。それよりも、こういう怪しいお祭りは何かが起きそうで楽しみです。
「コスプレかな?」
 リアルブルー出身の鵤は、さすがにリオンの格好にも動じたりはしません。まあ、ジャケットを脱いで、屋台から離れて真正面に立たれたら、さすがに少し動揺するかもしれませんが。いやいや、へたをすると、冷静に観察してしまいそうです。
「おや、そろそろ始まったかな」
 鵤が広場の方を振り返りました。
 広場でも、魔導アーマーを囲んで、何やら始まったようです。見物の村人たちも、遠巻きにどうなるのかと見守っています。

●基礎の基礎
「まずは、最低限の知識と訓練はないとな」
 隊長さんと兵隊さんたちを前にして、ザレム・アズール(ka0878)が言いました。
「何ごとも基本からと言うぞ。いちおうは、こいつを動かさないといけないんだし」
「いや、だから、こいつが動かせたからって、俺たちになんのメリットがあるって言うんだ?」
 目をキラキラさせている兵隊さんたちとは対象的に、隊長さんはいかにもやる気のなさそうな雰囲気です。
「兵隊がCAMを動かせると中央にアピールできるじゃないか」
 言いつつ、エルバッハが隊長さんの耳に顔を近づけました。
「それに、エリートCAM部隊を育てたと分かれば、部隊ごとヴァリオスに復帰ということもありうるんでは?」
 なんだか、悪魔のささやきのように、エルバッハが隊長さんに耳打ちしました。
「よし、お前たち、頑張って、動かせるぐらいにはなれ!」
 あっさりと、隊長さんが、エルバッハの指導を許可します。ちょろいです。
 まあ、隊長さんとしては、ポルトワールやヴァリオスで虹の怪盗を追っかけていたときの方が楽しかったですし、色々と夜遊びも楽しめました。早く、こんな田舎から都会へと戻りたいのが本音です。
「隊長もだな」
「え~」
 渋る隊長さんも一緒に、魔導アーマーのコントローラーの動かし方を一通りエルバッハから教わります。
 基本動作は、ほぼ全てのユニットで同じですから、教える方も意外と簡単です。基本動作を習得した後で、個々の機体とパイロット用にパーソナルコマンドで特別な動作を登録していくわけですから。どのみち、一般人でも動かせる魔導アーマーの場合は、最初は基本操作ぐらいしかしませんから、比較的単純です。
「おーおー、みんな頑張ってるねえ」
 クレープにパクつきながら、鵤は完全に観客モードです。慣れない魔導アーマーに、兵隊さんたちがあたふたしているのを見るのは、意外と面白いものです。新たなテクノロジーとの出会い、それに対する人間の反応。どちらかというと提供側に立つ鵤としては、それを観察することは結果の確認とも効果の確認とも言えて、存外に興味深いのです。
「それにしても、大尉、あんたも苦労してるなあ。だいたい、なんで魔導アーマーなんか乗ることになったんだ?」
 まだまだ魔導アーマーをいじっている兵隊さんたちを尻目に、早くものんびりしている隊長さんにエルバッハが聞きました。
「村長の……意向だ。個人的な」
 ボソリと隊長さんが答えました。
「あなたも大変ですね」
 ああ、村長の趣味ですねと、エルバッハがポンと隊長の肩を叩きました。まあ、世の中、そういうこともままあるでしょう。軍人としての隊長さんは、あまり上司や部下に恵まれていないと言えるのかもしれません。でも、兵隊さんたちは可愛いですし、村長も面白そうな人です。これはこれで、退屈しないのではないのでしょうか。
「魔導アーマーに乗る兵隊さん、意外と格好いいんじゃないの。でも、何に使うの?」
 初めて動かす魔導アーマーで、広場を数歩前に行っては数歩後退るを繰り返す兵隊さんたちを見つめて、鵤が言いました。
 さて、これからどうなるのでしょうか。

●ドリル
「みんなあ、ドリル回してるかあ?」
 広場にいきなりヘイムダルベースのスピニオンで乗り込んできた仁川 リア(ka3483)が、ソニックフォン・ブラスターの大音響で訊ねました。あまりに大きな音に、その場にいた全員が耳を塞ぎます。
 初っぱなから、リアはハイテンションマックス状態です。魔導アーマーに乗ると、いつもドライバーズハイになるので仕方ありません。
「ばかやろー! ボリューム調整ぐらいしなよお!」
 思わず、鵤が怒鳴り返します。魔導アーマーのオプション装備の調整は、とても重要なことです。細かな調整を怠っていては、勝てる戦いにも勝てなくなります。
「いいですか、ちゃんと操作を覚えないと、ああいう風になっちゃいますよ」
 エルバッハが、反面教師としなさいと兵隊さんたちに言いました。
 こくんこくんと、凄い速さで兵隊さんたちがうなずきます。
 そんなことにはお構いなく、スピニオンが広場中央に進んできました。どちらかというと角張った魔導アーマー量産型と比べて、ハンター用のヘイムダルは丸っこいシルエットです。さらに、カスタマイズによって、右腕が大型ドリルをつけて巨大化しています。対象的に、左腕は装甲の少ない作業用マニピュレータとなっているため、どうしても貧弱に見えます。おかげで左右のバランスが著しく違うため、後方のバランサーが大忙しです。これがなければ、一歩歩いただけで転倒してしまうことでしょう。なんとなく、整備担当のメカニックたちの悲鳴が聞こえてきそうな機体です。
「この超かっこいいドリリングスーパーロボット、超重螺旋スピニオンを使って実演しちゃうよ! 瞬き厳禁のスペシャルなアイデアお楽しみに!」
 右腕のドリルを高々と掲げながら、リアが叫びました。どうやら、このドリルが、スピニオンのステイタスシンボルのようです。
「ほう、いったい、何を見せてくれるのかねえ」
 ニヤニヤしながら、鵤がリアの次の挙動を見守りました。
「スピニオンは、ドリルを使うために様々なセッティングが行われているんだよね、凄いでしょ! で、そうそう、セッティング大事だよ、例えば農業用魔導アーマーみたいなのとかいいかも。で、今回スピニオンにやってもらうのはこれ!」
 そう言うと、リアがドリルを高速回転させ始めました。
 どりゅるるん♪
 とたんに、重機の轟音が周囲に響き渡ります。
 どりゅるるるん、どりりゅん、どりゅん、どどどりゅるるるるるるるん!!
「このドリルの大音量で村の皆に早起きしてもらう、目覚まし用魔導アーマー! これで皆健康になるよ! やったね!」
 いや、あまりにドリルの音が大きいので、もう、何を言っているのか誰にも聞こえません。もしかして、ソニックフォン・ブラスターの音量が、ほぼ攻撃用そのままだったのも、このドリルの音に負けないためだったのでしようか。それにしても迷惑です。
 どりゅりゅん、どどどりゅん、どりゅん、どどどどど……!!
 たしかに、目覚ましとしてはこれほどもなく強力ですが、ちょっと強力すぎます。これでは、村人の耳がおかしくなってしまいそうです。
 どりゅん、どりゅるるるん!!
「……!!」
 隊長さんが、必死に何か叫びました。
 どどどどど、どりゅんるん!
「どうだ、このドリルの素晴らしさ! ドリルばんざい!」
 リアったら、聞いちゃいません。というか、聞こえません。無理、絶対無理。
 どりゅん、どりゅんるん!
「却下だあ!!」
 必死に叫ぶ隊長さんでした。なんだか、だんだん可哀相になってきます。
 そのやりとりを見て、鵤が腹をかかえて笑い転げています。あっ、お酒こぼしました。
 どりゅん、ど……。
「ええい、ドリルを笑うとは許せない。それなら、君のアイディアを見せてよね!」
 めざとく鵤の姿を見つけたリアが、さらなる大音声で言いました。ドリルの尊厳を穢す者は、このドリルの先端が尖っている限りは許せません。場合によっては、この右腕で唸りをあげるドリルで、叩き潰してあげましょう。どりゅん。
「はあ? おっさんのアイディアかあ? ほしけりゃ指導料でも払いなよ。金でなければ酒でもいいぜ。そうだなあ、村の入り口にでも飾っておけば、観光名物になるかもしれないぜ」
 酔っぱらいながら、鵤がリアに答えました。
「観光名物……それはそれで……。いや、ドリルは回してなんぼの物。よおし、アイディア料はドリルで支払っちゃうよ!」
 どりゅりゅん、ずががががががかが……!!
 そう言うと、リアが鵤のいた場所にいきなりドリルを突き立てました。当然、地面がドリルで掘られて、大きな穴が開きます。
「何しやがる! 危ねえじゃないか!」
 さすがに、酔っぱらっているとはいえ、ハンターである鵤が、ひらりとドリルを躱わします。
「だから、ドリルで支払うと言っているんだよね! 逃げちゃダメなんだよ!」
 どりゅりゅりゅんるんるん!! ずががががががが!!
「普通、逃げるだろが!」
 ミンチにされてはたまったものではありません。次々と繰り出されるドリルを、鵤がひらりひらりと躱わしていきました。いえ、案外、ぎりぎり躱しているのかもしれません。ちょっと必死です。
「待てー!」
「待つかあ!」
 どりゅるん、ずががががががが!!
 いや、もう、無茶苦茶です。二人は、そのまま追いかけっこをして広場から姿を消していってしまいました。

●衣食住
「CAMはいいぞーなのじゃよ」
 替わって広場にやってきたのは、ミグ・ロマイヤー(ka0665)でした。魔導ドミニオンラブのミグは、愛機ハリケーン・バウに乗っての登場です。
「また、暴れだすんじゃないだろうなあ」
 隊長さんを始め、村人たちはすでにドン引き気味です。地面には、スピニオンのドリルが開けた穴が、点々と開いています。魔導アーマー、怖い……。
 けれども、ミグはハリケーン・バウを広場中央へ移動させると、CAMを停止させてコックピットから降りてきました。
「CAMは、友達であり、ステイタスであり、お家でもあるのだ」
 ハリケーン・バウの前に立って、ミグが自慢げに言いました。
「いや、CAMじゃなくて、こいつは魔導アーマー量産型なんだが……」
 そんないいもんじゃないと、隊長さんが厄介者を見る目で、側にある魔導アーマーを見あげました。まあ、そんなことは、ミグは気にしてはいません。本当は、ちょっとは気にしてほしいものではありますが……。
「魔導アーマーは、衣食住をすべて満たす存在なのじゃよ。まずは衣。魔導ドミニオンのコックピットは完全密閉。外からは、中がどうだかまったく見えないときているのじゃ。どうだ、素晴らしいであろう。この中であれば、たとえ裸でいても、問題はないのじゃ!」
 隊長などまったく無視して高説をたれるミグに、なぜかリオンがうんうんとうなずきます。
 たとえ操縦しているときはパイロットの姿は見えなくとも、CAMを降りたときのインパクトは大切です。だから、すべてのパイロットに、ぴっちりスーツを……。
「だから、CAMじゃなくて、操縦席むきだしの魔導アーマーだと……」
 隊長が反論しますが、当然ミグは聞いちゃいません。ミグの言うことは、魔導アーマー量産型にはまったくあわないのですが……。だいたい、裸でユニットに乗る変態など、どこの世界にいるというのでしようか。
 当のミグとしては、愛機である魔導型ドミニオンのことを語っているのであって、魔導アーマー量産型がどんな仕様であろうと、まったく関係ないのでした。むしろ、こんなポンコツ、さっさと売り飛ばして、新しく魔導型ドミニオンを買えばいいのです。魔導型ドミニオン、ラブ♪
「次は住。魔導ドミニオンなら、カーゴスペースに居住道具を持ちこめば快適な生活を送ることもできるのじゃ!」
 そう言うと、ミグがハリケーン・バウの脚部前面装甲を倒しました。装甲の裏には、片方にはベッド、もう片方には水回りの設備が取りつけられていました。ある意味、シュールな空間です。本当に、ミグはここに住んでいるのでしょうか。まあ、オートキャンプのノリで、CAMを中心としてテントなどを展開すれば、その場所で暮らせないこともありません。幸いにも、CAM自体のペイロードは、牽引能力まで入れれば相当の物になりますから。とはいえ、やはり、家というにはかなり無理があります。
「だから、魔導アーマー量産型には、カーゴスペースなんかないって言ってるだろうが!」
 いいかげん、隊長さんが叫びました。でも、ミグはそんなこと聞いちゃいません。魔導型ドミニオンラブ、それがすべてです。
 魔導型ドミニオン専用のオプションの説明をされても、簡単には魔導アーマー量産型に応用することはできません。そんな手間かけるぐらいであれば、魔導型ドミニオンを手に入れた方が、はるかに楽です。
 はっ、もしかしたら、ミグの真の目的はそこにあるのでしょうか……。
「最後に、食。魔導ドミニオンの装甲は、実はお菓子でできているのじゃ……って、そんなことあるかーい!」
 一人ノリツッコミです。隊長さん、ツッコむタイミングを奪われました。これは悔しい。
「本当は、ユニットのマシンパワーを使えば、土地の開墾や、大規模な耕作、狩猟などが可能なのじゃ。ほれ、あのように」
 そう言って、ミグが示した先では、リアのスピニオンが、鵤を追いかけて、次々にドリルを地面に突き立てていました。なるほど、地面を耕しています。って、勝手に畑増やして、何をしているんですかあ!

●畑作り
「なんて運用だ。だから基礎は大切だと言うことがこれで分かっただろう?」
 ドリルの穴だらけになった村近くの野原を指して、ザレムがもっともらしく言いました。
 ぶんぶんぶんと、首が千切れそうな勢いで、兵隊さんたちがうなずきます。
 まったく、これでは、魔導アーマーが村人たちのトラウマになってしまいそうです。
「農作に必要なことは、まずは運搬だ。収穫した作物を運搬するのに、魔導アーマーほど適している物はない」
 ザレムが言い切りました。
「でも、運ぶだけだったら、魔導トラックの方がたくさん運べるぞ」
 まっとうなツッコミを隊長さんがしました。
「甘いな。荷台への荷物の上げ下げを考えれば、魔導アーマーの方が効率がいい」
 本当でしようか。まあ、データーなんてありませんので、信じるしかありません。確かに、魔導トラックでは、荷物の積み卸しは、結局人の手を借りることになります。その点、魔導アーマーであれば、倉庫に荷物を積みあげることも容易です。もっとも、ちゃんと魔導アーマーが入れるだけの大きさの倉庫であればの話ですが。
「耕耘は、ああいった感じでできるのだが、もっと計画的にやれば効率がよくなる。また、畑間の道路なども、魔導アーマーがいききすることで、自然と踏み固められてちゃんとした道になるという素晴らしい仕様だ。種蒔きなども、魔導アーマーの拡張性を考えれば、背中にカゴを背負って種を入れるなどして、効率的に蒔くことが可能だ」
 このへん、いちいちもっともです。まあ、トラクターという概念が一般化しているとは言いがたいクリムゾンウェストですから、魔導アーマーがトラクターに替わって発展しても……いいんでしょうか?
 このままでは、魔導アーマーは、農耕機械まっしぐらです。まあ、その方が、この村らしいと言えばそれまでなのですが……。

●チェス
「やれやれ。何に使うにしても、基礎訓練は必要ですね。メンテナンスの知識や、安全運転への意識も必要でしょう。そのへんを覚える方法として、巨大チェスはどうでしようか。これなら、楽しく魔導アーマーの運転を覚えられると思いますよ」
 だんだんと頭をかかえだした隊長さんや兵隊さんたちに、クオンが言いました。
 巨大なチェスの駒を大木を削り出して作り、それを魔導アーマーがかかえて移動させつつ、チェスを指そうというのです。
「それは、村おこしとして、お客さんがたくさん来そうだのう」
 なんだか、村長が興味を示しました。これは危険です。
「こんなド田舎にわざわざやってきて、でっかいチェスを指す物好きなんて、いるわけがないでしょうが!」
 隊長さんから、的確な指摘が浴びせられます。
「だいたい、前にも、ヴァリオスの商人たちと提携して、醤油工場を作るとかなんとか言ったでしょうが」
「そうだったっけか?」
 隊長さんに言われて、村長が空とぼけます。
「けっきょく、肝心のいい麹が手に入らなかったとかで、計画は頓挫したんでしょうに」
「あれは、いいアイディアだと思ったんだよ。珍しいリアルブルーの調味料をこの村で生産して、ヴァリオスで大々的に売り出す。うまくいけば、ハンターたちにブランド名をつけてもらって、一大御当地アイテムとしてショップ一押しのアイテムとして売ってもらえるはずだったんだがなあ」
「失敗してたら、アイテムも何もないでしょうが」
 まったく、何回どれだけ変なアイディアを出せば気が済むんだと、隊長さんが村長を責めたてました。
「まあまあ、駒なら、私もフォボスで作成を手伝いますので」
 笑顔で、クオンが言いました。巨大な駒を作るのは大変ですが、CAMであれば人では大変な作業もこなすことができます。特に、クオンの持つフォボスには、それ専用のプログラムが組んでありました。
 まあ、問題はそこではないわけですが。

●食事
「まあまあ。食事でもして一息入れませんか?」
 ザレムが、用意していた焼き芋を持ってきて言いました。村人から分けてもらったサツマイモを、魔導型デュミナスを使って落ち葉を集め、火をつけて焼き芋にしておいたのです。甘い物でもとれば、みんなも落ち着くでしょう。
「魔導アーマーなら、こういうこともできるのですよ」
 さり気なく、ザレムが言いました。まあ、焼き芋専用になってしまうと、都落ちした隊長さんの都会への復帰がまた遠ざかるわけですが、それは今は考えないことにしましょう。
「むむ、商売敵!?」
 焼き芋を美味しそうに頬ばる村人たちを見て、リオンが唸りました。でも、ただでは転びません。
「お芋には、飲み物が必要。さあ、飲み物はこちらで販売しております!」
 すかさず、抱き合わせ販売とでも言えそうな商売を展開するリオンでした。
 なんだかんだで、魔導アーマーを中心として、村人は楽しく騒いでいます。このままでは、トラクター一直線ではありますが、なんとなく、魔導アーマーは村に馴染みそうです。
「なっ、魔導アーマーはいい物だろ?」
「ううーん」
 村長に、そう笑顔で言われても、なんとなく釈然としない隊長さんなのでした……。

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 課せられた罰の先に
    クオン・サガラ(ka0018
    人間(蒼)|25才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    フォボス
    Phobos(ka0018unit001
    ユニット|CAM
  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤー(ka0665
    ドワーフ|13才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    ハリケーンバウユーエスエフシー
    ハリケーン・バウ・USFC(ka0665unit002
    ユニット|CAM
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    マドウガタデュミナス
    魔導型デュミナス(ka0878unit002
    ユニット|CAM
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    スチールブル
    スチールブル(ka2434unit002
    ユニット|車両
  • は た ら け
    鵤(ka3319
    人間(蒼)|44才|男性|機導師
  • 大地の救済者
    仁川 リア(ka3483
    人間(紅)|16才|男性|疾影士
  • ユニットアイコン
    チョウジュウラセンスピニオン
    超重螺旋スピニオン(ka3483unit002
    ユニット|魔導アーマー

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/10/11 07:46:44