掲げよ! 我らが真紅の旗を!

マスター:真柄葉

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~5人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/10/19 19:00
完成日
2016/10/25 10:16

みんなの思い出

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オープニング

●ノアーラ・クンタウ
 要塞都市の上流階級が暮らす閑静な一角においても、その存在感をこれでもかと主張する豪奢な屋敷。
 その屋敷に数ある部屋の中でも、特に豪華を施した応接室で深く沈むソファーに身を預ける男がふと顔を上げた。
「これはこれは、ヴェルナー様。この様なむさ苦しい場所へようこそおいでくださいました」
 戸口で恭しく腰を折っていた男を一瞥し、ヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)は芳醇な湯気を上げるカップに口を付ける。
「普段召し上がられているものとは天と地ほどの差があるでしょうが、手前どもが用意できる最高級のものをご用意いたしました」
 顔を上げた男はその場から一歩たりとも動かず、まるで印象に残らない張り付けられたような笑みを浮かべていた。
「招待側がいつまでそこにいるのですか? 貴方の屋敷です。許可など取らず着席すればいいでしょう」
「これはこれは、いらぬ気を使わせてしまったようで。では、お許しもいただきましたし同席の栄誉に預からせていただきましょう」
 まるで一国の王から勲章を下賜された騎士のように腰を折った男、この館の主にして辺境地域の物流・商業を一手に司る商集団『ゴルドゲイル』のトップ、ノールド・セッテントリオーネその人である。
「それで、わざわざ私を呼んだ要件というのを聞かせてもらえるのでしょうね?」
 ノールドが着席するのを見計らいカップから口を離したヴェルナーは、音も立てずにカップを皿に置く。
「これはこれは。流石、聡明な領主様であらせられる! 私の目的などすでにお見通しでありましたか!」
 最大限に相手の言動を褒め称えればこうなるのだと、まるで見本のような感動を見せるノールドはカッと目を見開いた。
「実はこのノールド、ヴェルナー様にお願いしたい儀がございます!」
「……話だけは聞きましょう」
「おぉ、ありがとうございます!」
 擦り切れんばかりに手を揉んだノールドは、机に額を付ける寸前まで首を垂れる。
「ヴェルナー様も噂はお聞きになったことがおありでしょう。この辺境を騒がせる連中の事を」
「……ヴルツァライヒですか。まさかその名前がここで聞けるとは思ってもいませんでしたよ」
 今度は小さな音を立てカップを持ち上げたヴェルナーは、煙に鼻を擽らせると。
「それで、あれらがどうかしましたか? ゴルドゲイルに関係するような集団とは思えませんが」
 顔を上げていたノールドの皺で潰れた細い眼を、ようやく見つめた。
「はい、ヴェルナー様の仰られるように我々ゴルドゲイルに直接的な影響は何もありません」
「……直接的。随分と遠回しな言い方ですね」
「おっと、これは失礼いたしました! ヴェルナー様相手に化かし合いなど無用の事でしたな!」
 ばんっと自らの太ももを掌で打ったノールドは、更に言葉を続ける。
「彼奴等に不透明な金の流れがあります」
 抑揚もなく語られたその言葉に、ヴェルナーの手が止まった。
 再び視線を上げたヴェルナーは、にこにこと笑みを浮かべるノールドに視線で次の句を促す。
「出先は不明。使用目的も不明。しかも、被害らしい被害は無し。正直な所、何もわかっておりません」
 張り付いたような笑顔はそのままにノールドが僅かに背を立てた。
「…………」
 ヴェルナーは口元にあったカップから紅茶を一口。
「お話は以上のようですね。では私はこれで」
「はい、本日はこの様なむさ苦しい場所にお越しいただきまして、ありがとうございました」
 笑顔で見上げるノールドに一瞥し、ヴェルナーは規則的な歩幅で部屋を後にした。

●長城
 辺境と帝国を隔てる全長600kmを超える長大な建造物。
 遥か200年以上も前に完成を見、堅城鉄壁を誇ってきたこの長城も、長年にわたる歪虚からの攻勢と風雨の浸食により、その威容に陰りを見せていた。
「我々、『極北の番人』は訴える!!」
 ノアーラ・クンタウからもほど近い長城の一角に、若く張りのある声が響く。
「馬鹿やろう! そんなところで何やってる! 死にたいのか!!」
 『対岸』では、そんな若者に向け制服を身にまとった審問隊の隊員が罵声の様な注意を浴びせていた。
「ああ、死のう! 我らが理想の成るのなら、この命、惜しくもない!!」
 しかし、そんな注意にも理想に逸る若者は聞く耳を持たない。真紅の生地に聖なる山『リタ・ティト』を模したマークが描かれた大旗を振り叫ぶ。
「くそっ、いったいどうやって登ったんだ!」
 細く切り立った長城であったものの上で、理想を叫ぶ若者達を睨み付け、隊員は唾を吐いた。
 若者達がいる場所は、まさに切り立った岩の上。両端が脆くも崩れ、細く残った長城であった場所である。
「我々は辺境部族の代弁者である! この無用の長物により別たれた友なる地をこの手に取り戻さんが為に立ち上がったのだ!!」
 切り立った長城の先にいるのは若者が3人。一人は女性だ。
「別たれてないし、辺境は元々お前達のものでもねぇよ」
 吐き捨てるように呟いた隊員の一人。
「なんであんな奴ら助けないといけねぇんだ……」
 釣られるように別の隊員が吐き出した。
「まぁ、そう言うなって。もう少しの辛抱だ。もうすぐハンター達が来る」
「ハンター? なんでハンターなんか来るんだ?」
 別の一人の言葉に隊員は訝し気に首をかしげる。
「さぁな。人命救助だそうだ」
「人命救助……ねぇ」
 帝国の批判ならばいざ知らず、声高に理想を叫ぶだけでは罪には問えない。
 彼等も形式上はノアーラ・クンタウの市民なのだ。
「ったく、迷惑な連中だ……」
「まったくだ。こんな誰もいない場所で演説して、いったい何がしたいんだか……」
 隊員が溜息まじりに呟く中、切り立った長城の上では若者達がある種の高揚感に身を震わせていた。

リプレイ本文

●商館
「これはこれは、ようこそいらっしゃいました。当商館へどのようなご用件でしょうか?」
 右手に左手をかぶせ張り付いたような笑みを浮かべるノールドが、一人の新聞記者を迎えていた。
「この度は『バルトアンデルス日報』の取材をお受けいただきましてありがとうございます」
 記者、真田 天斗(ka0014)は人好かれしそうな笑みでノールドの笑顔に答える。
「私の様な下賤の者に取材だなどと恐れ多い事です。して、どのような事をお話すればよろしいでしょうか?」
「それでは早速、まず初めに――」
 と、天斗は熱心な記者を演じ辺境商業管理事務所『ゴルドゲイル』にまつわる事業実態などを質問していった。
「――であることから、我々は辺境の部族の皆様、ひいてはすべての人々により良い商品をお届けすることをモットーとしております」
 何ページにも及ぶ説明書を詰まることなく読み上げるように、ノールドは天斗の質問に答える。
「流石は名に聞くゴルドゲイル。素晴らしい事業を行っておられる」
 天斗は笑顔を崩すことなく、続けた。
「所で――」
「はい?」
「ヴェルナー様に提供したとされる情報を我々にもお教え願えませんか?」
「ヴェルナー様? はて、何の事でしょう?」
「……不明瞭な金がノアーラ・クンタウの裏に流れている、という噂を聞きました」
「ほう、それは困った事ですな。我々もこの街の商業を担っている身、そのような話が本当ならば、至急対応をせねば。詳しくお聞かせ願えますか?」
 と、ここでノールドは天斗の質問に質問で返した。
「その出元が、ここだという噂です」
「なんと、それは驚きましたな。全く身に覚えがありませんが……かの『バルトアンデルス日報』の記者様がそうおっしゃるのだ、何か証拠でもおありなのでしょうな」
 ここでノールドが持ち出したのは天斗の名ではなく日報の名前。
「……いえ、申し訳ありませんが、ありません」
 潮時だ、と心の内で呟いた天斗はゆっくりと首を振った。
「ふむ……であれば、酒に酔った博徒がつまらぬ噂でも流したのでしょう。そのような眉唾に流されてはバルトアンデルス日報の名が泣きますぞ?」
 好々爺然とした笑顔のままにはははと声を上げたノールド。
「これ、お客様がお帰りだ。お見送りなさい」
 ノールドは執事を呼び寄せると、天斗を出口へと案内させた。
「それではごきげんよう。――ハンター様」
 小さく呟き見送るノールドに、ピクリと一瞬だけ動きを止めた天斗は執事に肩を押されるように部屋を後にした。

●長城
「貴様達がヴルツァライヒだと? はっはっは! この様な辺境にとんだ笑い話が転がっていたものだな!」
 帝国様式をこれでもかと強調した戦装束に身を包んだアウレール・V・ブラオラント(ka2531)は、山の頂上に陣取る3人を高らかに笑いあげた。
「な、なんだと!? 我々は辺境の民を代弁してここに立っているのだ! お前みたいなガキに何がわかる!」
 反論は三人の中で最も体格のいい男からだった。
「ああ、何もわからないさ! 否、わかりたくもない! 貴様等のようにただ不満を口にし、行動に移す勇気もない者達の言葉など、聞くにも及ばぬ戯言だ!」
「ざ、戯言だと!? 辺境の民の解放を願う我々の言葉が戯言だと!!」
「戯言を戯言といって何が悪い! 貴様達の様な口だけの輩に、ヴルツァラヒを名乗る資格など無い! 反帝国を旗印に立ち上がったヴルツァライヒの崇高な理念すら知らぬ、痴れ者め!」
 アウレールは自ら発した言葉に吐き気を覚えながらも、三人をあおり続ける。
 一方の三人は『理念』というワードに互いの顔を近づけ、ひそひそと何やら言葉を交わす。
「も、もちろん知っている! 我等<極北の番人>は、ヴルツァライヒの正当なる一派なのだからな!」
 数秒の間の後、胸を張り高く旗を掲げた男の言葉にアウレールは確信した。――引っかかったと。
「そうか、そこまで言うのであれば耳を貸そう! さぁ、己が正義、私に示してみよ!」
 そもそもでっち上げの理念を更に強調する様にアウレールは槍の石突を長城へと打ち付けた。
「せ、正義?」
「怖気づいたとは言わせないぞ、己の正義をかけた一騎打ちに!」
『なっ!?』
 もちろんこれはハッタリ。そんな思惑など知る由もなく、対する三人は驚きに身を竦ませている。
「どうした、降りてこい! どちらが正しいか、決めようではないか! 己に正義があるのであれば必ずや勝利は手の内に。貴様達が語るヴルツァライヒの理念であろう!」
 でっち上げた理念を振りかざし、再び石突で長城を打つ。
「まぁまぁ、お兄さん。喧嘩は良くないわよ、喧嘩は。平和が一番」
 さぁ、武器をとれと迫るアウレールの背に乗りかかり、ケイ(ka4032)が耳元で囁いた。
「それにあの子達はまだ若そうだし、ヴルツァライヒの理念とかちゃんと理解してないかもしれないじゃない」
 と、ハッタリにのっかったケイは、アウレールの肩越しにちらりと三人を見やる。
「理解していない……? そうなのか?」
 アウレールが三人を放つ殺気を幾分和らげ問いかけると、まるでそろえた様に三つの首がこくこくと何度も上下した。
「ほらね? そんなのとやってもあなたの槍が穢れるだけよ?」
「しかし、奴らは――」
「はいはい、矛を収めてくれてありがとう。さてーて、君達。少しお姉さんとお話しない? それとも、理念合戦の方が――」
「そ、そうか! そこまで言うのなら話を聞いてやろう! 平和が一番だしな!」
 ちらりと後ろを振り返るケイに、慌てて答える男。他の二人も何度も首を縦に振った。
「そう、君達も平和を愛しているのね。素晴らしいわ」
 朗らかな笑みには全てを包む慈愛が伺える。そんなケイに三人の空気も緩んだ。


 大ぶりの土砂に身をひそめ、長城の上で繰り広げられる説得劇をじっと眺める二人の男。
 エアルドフリス(ka1856)は煙管を吹かせ、金目(ka6190)は金ヤスリで爪を削る。
「上は賑やかだな」
「ええ、楽しそうで何よりです」
「時に金目君、その爪を削るフリをして眺めている女子力の高そうな紙切れは一体何かな?」
「流石に目敏いですね、エアルドさん。貴方とは一切関係のないある方の連絡先です。気にしないでください」
「……ほう」
「ちょ! いきなり実力行使はなしでしょう!?」
「友よ、友情とはすばらしいな!」
「言ってる事とやってる事が違いすぎやしませんか!?」
 下は下で賑やかであった。


 ケイが崖越しに対話を始めてすでに数十分。
 聞き手に回ったケイに、三人は己の理念や理想を声高に語る。
 そのどれもが実現できればそれは理想郷となるだろうというものばかり。もっとも、可能かどうかというと――。
「いやぁ、素晴らしい!」
 そんな荒唐無稽とも取れる三人の主張を、劉 厳靖(ka4574)は諸手を上げて褒めちぎる。
「女の尻ばっか追いかけてる連中とは大違いだ!」
 と、どこかでくしゃみが聞こえた気がするが気にしない。
「俺も辺境とは縁が浅くなねぇ身だ。君らの言葉は実に心にしみるねぇ」
 目を閉じうんうんと何度も頷く厳靖。
「一体、どんな奴がリーダーやってんだ? こんなにも理想に熱い部下がいるんだ。さぞかし立派な考えを持ってるんだろうよ」
「我等に同調してくれるハンターがいるのは実に喜ばしい事だ! しかし、期待を裏切るようで悪いが我々にリーダーはいない!」
「なに? リーダーがいないのか」
「我々<極北の番人>の同志はすべからず平等だ。誰か一人を頭に掲げるような腐った組織ではない!」
「(腐った組織、ねぇ)……これまた崇高な考えだなぁ!」
 表情には微塵も出さず、厳靖は掲げた両手を何度も打ち付ける。
「おっと、そうだそうだ。君ら、その熱い理念を広めてみる気はねぇか?」
「何を可笑しなことを。そもそも、その為に我々はここに登っているのだ!」
「はっは! そうだったな。いやぁ、失礼失礼。じゃぁ、言い方を変えよう。君ら、新聞に興味はねぇか?」
「し、新聞……?」
「そうだ、新聞で取り上げてもらうんだよ。どえらい宣伝効果があるぜ? 何せ帝国に名を轟かせる『バルトアンデルス日報』だからな!」
「お、おお!?」
 その新聞に聞き覚えがあったのか、後ろの男が大きく目を見開いた。
「へへ、興味ありそうだなあ。まぁ、実はもう呼んでるんだがな」
 かかかと豪快に笑う厳靖が、後ろの人混みを指す。
「皆さんはじめまして。私は『バルトアンデルス日報』特派員の真田天斗と申します。最近、巷を賑わせている<極北の番人>のお話をぜひお聞きしたく参上しました!」
「おぉ、本物だぞ!!」
 その服にも見覚えがあったのか、頂上の男が声を上げた。
「おほんっ! 我等<極北の番人>は何も拒みはしない! 取材を受けさせてもらおうではないか!」
「おぉ、それはありがたい! では早速、あなた方<極北の番人>は――」
 取材と称し、天斗は三人の思惑を言葉巧みに探っていく。
 30分ほどの取材で聞けた話の殆どは、ケイとの話で聞かされた荒唐無稽な理想ばかり。
 しかし、その中にも興味を惹くものがいくつかあった。
 曰く、最終的な目的は長城の撤去である。
 曰く、ヴルツァライヒを名乗りだしたのは三か月前。
 曰く、別のヴルツァラヒとのつながりはない独自の組織だということ。
 など、本当に記事になると思っているのか、様々な話を自慢げに語っていった。


 トランシーバーから聞こえてくる話に、金目は耳を傾ける。
「随分と素直な連中ですね」
「若者は素直が一番だと思うがね?」
 ぷかりと煙の輪を浮かべるエアルドフリス。
「もう少し苦戦すると思ってましたが、これでは俺達の出番はなさそうですね」
「対話で済みゃ手間が省ける。実に楽な仕事じゃないか」
「ふむ。楽をできるなら俺は大歓迎ですが、エアルドさんはああいう手合いを好きではないと思っていたんですが」
「好きではないぞ? 説教の一つでも垂れてやりたいところだが――」
 と、ここでトランシーバーから聞こえた新たな話声に二人は聞き入った。

「……名乗りの許可? オフィスで調べた時にはそんな記述なかったが……エアルドさん知ってますか?」
 金目はどうにも引っかかるその言葉に、エアルドフリスに問いかけた。
「……いや、許可がいるとは思えんな。そもそもヴルツァライヒの正統は滅んだと聞いたことがある。出そうと思っても出せるはずがないとは思うが……」
「それって、裏にヴルツァラヒとは別の何かが居るって公言しているようなもんじゃないですか」
「ああ、いると考えるのが妥当だろうな。……どうやら、この事案、存外奥が深いかもしれん」
 言って、エアルドフリスは煙管の火種を落とす。
「そうなると、こんな辺鄙な場所で演説をしているのも、その何かの意思がそうさせている、と考える事ができる……?」
 金目が手入れしていた工具を腰袋にしまう。
「……なるほど。どうにもきな臭いことになってきたな」
 二人は再び頂上に陣取る三人を見上げるた。


「取材は終わった?」
 ケイの問いかけに天斗はこくりと頷いて後ろに下がった。
「お疲れ様ー。よかったわね、これで貴方達も有名人じゃない」
 ケイの言葉に、三人は鼻息荒く顔を紅潮させる。
「ねぇ、もっといろいろ聞いてみたいんだけど、どう一杯。奢るわよ?」
 ケイは盃をくいっと傾けるジェスチャーを三人に向けた。
「うむ、その申し出、快く受けよう! ……しかし、些か状況がまずい」
「状況がまずい? どういう事?」
 申し出を快諾したにもかかわらずもじもじと落ち着かない男に、ケイはかくりと首をかしげた。
「う、うむ……その、なんだ。実に言いにくい事なのだが」
 と、先頭の男は後ろの二人と困ったように顔を合わせる。
「……まさか、降りられなくなったの?」
「…………はい」
 (お前達は子猫か!!)と吐き出しそうになるアウレールを、厳靖が笑い声を必死にこらえながらまぁまぁと押さえ、天斗は頭痛に目頭を押さえた。
「はぁ、わかったわ。そこで待ってなさい。助けに――」
 大きく肩を落としたケイが、振り返り審問隊に声をかけようとした、その時――頂上の三人の体がぐらりと揺れた。


「アウレール、端っこよろしくなっ!」
「お、おい!?」
 厳靖はアウレールの腰に吊るされた縄束の端を掴むと、長城の側壁に向け駆け出した。
 両手に蒼朱の輝きを纏わせた厳靖は、側壁に足をかけるとまるで躊躇することなく一気に飛び降りた。
 アウレールが支点となりロープが張力に悲鳴を上げる。
「うおぉら! つかまれぇ!!」
ロープを掴みスイングする厳靖は、落下する男の一人を掬い取った。
「うぅあああぁぁ!! 助けてくれぇ!!」
「きゃああぁ!!」
 しかし、まだ二人いる!

 厳靖から遅れること数秒、飛び出した天斗が対岸まで一足に飛ぶと、壁歩きの能力を使い崩れた長城の側面に着地する。
「掴まれ!」
 天斗は足場が崩れ成す術なく滑り落ちていく男に手を伸ばした。
 男は藁をもつかむ思いで天斗の手にしがみつく。
「くっ……!」
 しかし、壁歩きでは自らの体重を支えられても、抱えた男の分までは耐えられない。天斗は男の体重に引きずられ土砂と共に滑り落ちる。
「使え!」
 片手で厳靖が吊るされたロープを支えながらも、アウレールが投げた槍は崩れかけた長城に突き刺さった。
「すまん、助かる!」
 空いた手でアウレールの槍を掴み落下を止めた天斗が、さらに一人!

「金目!」
「はいはい。はぁ、このまま動かなくていいかと思っていたんですけどね!」
 隠れていた岩陰から素早く飛び出した金目は、険しい坂道を駆け上がる。
 見上げれば頂上から崩れ落ちた土砂が、土石流となり坂道を流れてきていた。
「使え!」
 エアルドフリスが崩れてくる土砂に対し、垂直になるよう土壁を呼び出す。
 それを見た金目は目の前にせり出した土壁を足場に、大きく跳躍。長城の根元まで一気に飛ぶ。
「追加だ、受け取れ!」
 エアルドフリスの建てた二枚目の土壁が金目の落下地点へと寸分の誤差もなく建てられた。
「いつもながら見事な腕だ」
 小さく呟いた金目は何の戸惑いもなく建てられた土壁の上に着地し、滑り落ちてくる最後の女を受け止めた。


 頂上の三人を引きずりおろす事に成功したハンター達は、身柄をベヨネッテ・シュナイダーへと引き渡した。
「陛下の臣民にあるまじき体たらく! いずれその性根を叩き直してやる!」
「まぁまぁ、若気の至りなんだから、穏便にね?」
「しっかし、身なりのいい若い男ねぇ。一体どこのおぼっちゃまだ?」
「心当たりは腐る程あるが、辺境に執心する貴族か……ふむ」
「どこぞの道楽貴族、だと思いたいがねぇ」
「道楽ですか。それで済めばいいのですけどね……」
 降ろした三人の吐露した正体不明の影。ノアーラ・クンタウに巣食う影は、今だ闇の中であった――。

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MVP一覧

  • Pクレープ店員
    真田 天斗ka0014
  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラントka2531

重体一覧

参加者一覧

  • Pクレープ店員
    真田 天斗(ka0014
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリス(ka1856
    人間(紅)|30才|男性|魔術師
  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラント(ka2531
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 憤怒王FRIENDS
    ケイ(ka4032
    エルフ|22才|女性|猟撃士
  • 正秋隊(紫龍)
    劉 厳靖(ka4574
    人間(紅)|36才|男性|闘狩人
  • 細工師
    金目(ka6190
    人間(紅)|26才|男性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
アウレール・V・ブラオラント(ka2531
人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2016/10/19 18:56:36
アイコン 質問卓
アウレール・V・ブラオラント(ka2531
人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2016/10/19 08:44:10
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/10/15 21:51:25