• 詩天

【詩天】あやのしゃもん

マスター:鷹羽柊架

シナリオ形態
シリーズ(続編)
難易度
普通
オプション
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/10/22 09:00
完成日
2016/10/25 21:15

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 亀田医師、辻斬り犯、壬生和彦の関係が明らかになったものの、斬られた亀田医師の傷はかなりの出血があり、意識は混濁していた。
「まず止血だ!」
 その場にいたハンターや和彦が亀田医師の応急処置をはじめる。 
「初名さん呼んできます!」
 医師である初名を呼びに屯所へ戻る者。
 騒ぎを聞きつけ、野次馬が出てきたりしていた。
「血が止まらんな」
「治まっては来てる。毛布か何か!」
 亀田医師が斬られた個所からとめどなく流れる血は治まりつつあった。
 素早く中から毛布を持ってきて、亀田医師の身体を置き、全員で診療室へと運ぶ。
「今、初名先生が来るからな!」
 声をかけても、意識は混濁したままの亀田医師に伝わっているかは分からない。
「しっかりしてください……!」
 ハンター達の呼び声に亀田医師の目が薄く開けられる。
「……よく…きけ……」
 亀田医師が今にも絶えそうに声を上げる。
 ハンターの一人が亀田医師の手を握り締めた。
「……あれは、もう……人……ではない……」
 加齢で枯れた声が更にか細く震える。
「一度、死んだ……ごふ……っ」
 声を出すのも辛いのだろう。ゆっくりと切れ切れに言葉を絞りだしていたが、一度咳き込んだ亀田医師の口から血が噴き出た。
 血が喉に溜まっているのだろう。呼吸するのも苦しそうに音を立てている。
「身体だけ……うごく……人形……じゃ……」
 亀田医師の手が何かを探しているようにゆっくり動く。
「……すまない……孫が、いるとは……すまない……」
 譫言のように呟く亀田医師の視界は今の光景を見えてないのだろう。
「壬生、傍に行ってやれ」
 ハンターの一人が言っても和彦は動かなかった。
「……父も母も後悔してました。貴方を説得できなかったことを」
 ぎゅっと、和彦が自身の手を握り締める。
「……すま……ぬ……」
 それを言い切ると、亀田医師は再び大きく咳き込んで、大量の血を吐いてしまう。
 和彦が驚き、反射的に亀田医師の方へと向かっていく。
「まだ死なないでください。母が遺した言葉がまだあるんです」
 亀田医師の肩を掴む和彦に彼は口端を緩める。
「……そんな……こと……ゆる、され……」
 言葉が途切れると、駆け寄る足音が聞こえてきた。
「初名さん、連れてきました!」
 叫んで飛び込むハンターと初名だが、中にいたハンター達は動かない。
「先生……!」
 初名がハンター達をすり抜けて亀田医師の傍らに駆け寄ると、彼の状態を察する。
 亀田医師は斬られて大きな怪我をしていたのは明白。しかし、その表情は苦しさを訴えるものではなかった。
 穏やかな最期の表情であったが、初名にとっては腹の底から湧き上がる不安が一気に胸を彼女の身体を締め付けて動きを鈍らせる。
「せんせぇええええ!!!」
 断末魔のような初名の悲鳴が部屋に響いた。

 それから、亀田医師の葬儀が執り行われた。
 本来の血縁である和彦は葦原の名が知られることを恐れ、即疾隊名代、壬生和彦として出席した。

 葬儀が終わって数日後、和彦は局長に呼ばれる。
「ちっと、遅くなったが、許可が出たぜ」
「ありがとうございます」
 待たせて悪かったなぁと笑う局長に和彦は首を振った。
 局長と副局長の心遣いで和彦の正体は伏せたままにしており、他の小隊長達には事件が落ち着いてから局長より話すと約束してくれた。
 和彦にとって、今の三条家にはいい感情はないが、即疾隊はいい感情をもっている。
 ここにまだ居れることに複雑な感情はあれど、安堵もしていた。
「まぁ、お前さんが出たら色々と面倒だしな。まぁ、ここの神社が先代詩天に縁が深いところでよかったよ」
「はい」
 和彦が局長に頼んでいたのは、即疾隊の屯所となっている梅鴬神社の分社の蔵を改めさせてもらう許可だった。
 梅鴬神社には分社があるものの、実態は物置と化しており、神社の備品や、神社と関わりが深かった者や家の家財を預かったりしていた模様。
 葦原流もまた、梅鴬神社とは縁が深かったようであり、葦原流に関する何かがないかと和彦は考えていた。
 しかし、葦原流は現三条家に敗れた秋寿一派に与していた為、葦原の名前を出せば、捕まる可能性もある。
 故に、局長に梅鴬神社分社の蔵の調査許可をもらっていた。
「葦原流に禁じ手があるって、俺がちびの時に大先生に教えて貰ったなぁ……ボケも始まったころだったもんだから、冗談かないかと思ったが」
 まさか、実在するとはと、ため息まじりに局長が呟く。
「私も、実際に見たのは初めてです」
 葦原流禁じ手、斗跋……負のマテリアルを体内に取り込む事によって、身体能力を強制的に引き上げる技。
 歪虚化を余儀なくされる技であり、「呪われた技」「禁じられた手」として当主のみ伝わっていた。
 いくら、実戦で剣を交えたことがないとはいえ、剣を交えた時のあの威力は和彦の想像を超えていた。
 命が尽きて、屍人として再び動けるようになっても、自分達で倒せるかは分からない。
「仮隊士達、連れて行けよ」
「勿論です」
 局長が声をかけると、和彦は頷いた。

リプレイ本文

 ハンター達が再び梅鶯神社……即疾隊屯所に呼ばれたころは、秋も深まりつつある神無月に入っていた。
もが言葉少なく、表情を固くしていた。
 局長の部屋に入ったハンター達にまずは局長から口を開く。
「呼ぶのが遅くなってすまなかったな」
「いえ、その後、辻斬り犯は……?」
 皆守 恭也(ka5378)が尋ねると、局長は首を横に振る。
「あれから、一度も奴は動いちゃいねぇ……何かあればウチの連中に繋ぎをつけさせる」
 局長の言葉に恭也は承知と答え、ハンター達は動き出す。
 屯所を出て、カリン(ka5456)は街の様子を見たいと言い出した。
「気になりますので、行ってきます」
 長い髪を靡かせたカリンは仲間たちと離れて街の方へと向かって行く。
「亀田せんせーの事、残念だったな」
 カリンの後ろ姿を見送った綿狸 律(ka5377)がぽつりと呟くと、恭也が気遣うように主である律を見つめる。
「悲しんでばかりじゃいらねぇけど」
 大丈夫と言いたげに律が言葉を繋げた。
「そうですね。辻斬り犯を止めなければなりません」
 和彦の様子はいつも通りであり、前に会った時の思いつめた様子がなく、何か憑き物が落ちたような感じを七葵(ka4740)は感じた。
「随分、楽そうな顔をしているな」
 ルイトガルト・レーデル(ka6356)の言葉に和彦はどう答えていいか困った様子であった。
「多分……自身の胸の中に抱えたものを告げたからだと思います……早く片をつける予定だったのですが」
「歪虚が関わっているならば、仕方ない事です。亀田先生の事も、もう少し気を遣っていれば……」
 淡い桜色の下唇を噛んだマシロビ(ka5721)が悔やんでいる様子だった。
 自分がもう少し、うまく動いていれば、死ぬことはなかったのではと自問しているのだ。
「ご自身を責めないでください」
 そう返したのは緊張した声音を隠せなかった恭也。彼の隣にいた律が「そうそ」と頷く。 
「マシロビ殿がこっそり渡した手紙のおかげで初名殿は亀田医師からの手紙を届けることで命を救われた可能性があります」
 最悪、亀田医師が和彦が孫であることを確信できずに死んでしまっていた可能性もあることを和彦は考えていた。
「……結果を考えるとあんまりいいことないけど、ちっさいことを見れば、いいこともあったんじゃねーかな……」
 律が周囲を見回しつつ、呟くと、マシロビは彼の方を向く。
「秘密を抱えるということは、心身の消耗が目に見えなく、苦しいものだ」
 更にマシロビの後ろを歩いていたルイトガルトが口を開いた。
「簡単に口にする者は残念ながら存在するが、守る者はそれを口にするのも、勇気がいる。これから話す相手が、受け止めてくれるか、守ってくれるか否かとかな……」
「告げてくれる相手に相応しいと思われたのだ。その思いは胸におくことだ」
 ルイトガルトの言葉を続けた七葵の言葉にマシロビは一度頷いた。
「反省は大事だけど、まずは、カラ元気でも出して、葦原流の手がかり見つけようぜ」
 からりと笑った律にマシロビは「はい」と返した。
「秘密と言えば」
 話を蒸し返すように言い出したのはルイトガルトだ。
「呼び名だが、壬生と和彦、どっちで呼ばれたいか、尋ねたかった」
 唐突な質問に和彦は目を丸くする。
 確かに、前回の時に自分の本名を告げたので、葦原の呼びは少し困るのは確かだ。
「私は構いません。どちらでも好きに呼んでください」
 気遣いに嬉しく思い、和彦は微笑む。
「では、和彦と呼ばせてもらう」
 そうルイトガルトは告げた。

 一人、街中へ向かったカリンはまずは番所へと向かった。
 顔馴染みとなりつつある筒香町の番所。
 気になっていたのは辻斬りのことだ。
 局長の話では、亀田医師の死後、即疾隊への被害はないとはいえ、再び一般人への危害へと向く可能性を考慮していた。
「いや、今のところは全く姿を隠しているぜ」
 肩を竦める八助親分はそれでも隙を見つけては辻斬り犯を捜索しているという。
「私、これから梅鶯神社の分社に向かうんです」
「分社? 珍しいな、何か探しものか?」
 目を丸くする八助にカリンも驚く。
「よくわかりましたね。管理されてる方はどんな人ですか?」
 カリンの問いかけに八助は「ああ」と軽く相槌を打ち、頷く。
「良くも悪くも秘密を守る人だな。怖い人だが、悪い人じゃない」
「怖い人なんですか……」
「礼儀にもうるさい人だからな。ちゃーんと社務所に顔出していけよ」
 カラカラ笑う八助にカリンは少し困ったような様子だった。



 梅鶯神社の分社に着いたハンター達はまずは、管理人に会うことにする。
「即疾隊だ。この度、蔵にて探し物をさせて頂く」
 和彦が社務所に声をかけると、出てきたのは、まるで仁王像が実体化したかのような人相だった。
「お話は聞いている」
 腹に響く低音の主は現在、即疾隊の屯所となっている梅鶯神社の神主でり、即疾隊が屯所にするにあたり、分社にいることになったそうだ。
「預かりものには全て、各家の家紋が外側の箱にある。目的の家の事は聞いておるゆえ、それ以外の物への覗き見は厳禁とさせて頂く」
 眉間に深く皺を寄せて警告する神主にハンター達は了解の旨を告げる。
「あの……掃除させて頂いてもいいでしょうか?」
 マシロビが尋ねると、神主は暫し考える。
「善意ならば致し方ない。しかし、目的の家紋以外の物の移動はやめて頂きたい」
「承知」
 神主の考えも一理あるので、和彦は素直に従った。
「一つ質問がある」
 七葵が声をかけると、神主は無言で七葵の方を向く。
「こちらの分社には、武家などの預かりものがあると聞く。我々は葦原家に関する預かりものだけを調査しに来たのだが」
 神主は暫し待たれよと言い残し、一度中に入ると、紐で括られた冊子を持って戻ってきた。
「葦原家に関しては覚えている」
 そう言って見せてくれた頁には、葦原若松と署名してあった。
 流石に預けた内容は書いてなかったが、葦原家の家紋の特徴が書かれてある。
 預けられた日付も書いており、和彦がじっと見つめていたのを七葵は見ていた。


 カリンが遅れて分社に到着した。
 八助の助言通り、一度社務所に顔を出す。
「すみませーん」
 明るい声音で声をかけると、話通りの怖い人相の人物が出てきた。
 即疾隊……和彦や他のハンター達が来ていることを伝え、くれぐれも、他の家のものに触るなと念を押された。
 きちんと返事をすると、神主は蔵の方向を教えてくれる。
 もうもうと埃がたっているのが分かった。
「湯ならあるから好きに持っていくがいい。ウチのものに言うがいい」
「分かりました。ありがとうございます」
 カリンが素直に礼を言うと、静かに中へと入って行った。
 真っすぐ蔵の方へと向かうと、手拭いで口と鼻を覆った律がカリンの姿を見つける。
「遅れてすみません」
「おー、先に始まっちまってるぜー」
 蔵の中の埃がすごいのか、律は大きく深呼吸をする。
「カリン殿、お疲れ様です。掃除をしておりまして、そろそろ終わります」
「お水汲んできますね!」
 そう言った和彦にカリンは屯所から持ってきただろう持ち手つきの桶をひっつかんで井戸へと向かう。
 蔵の中は一応、日の光は入ってくるものの、やはり薄暗い。
 LEDライト片手に吹き抜けの上の方からはたきをかけている恭也はあまりにひどい埃に顔を顰めてしまう。
 二階へ昇るには梯子があったのだが、それでも高く積み上げられていたので、恭也と七葵が手分けしてが埃を落としていた。
 かなりの埃やちりが溜まっており、掃除をしていないことが窺われる。


 掃除をしつつ、皆で目的の葦原家の家紋を探す。
 他の預かりものを見ると、紙が箱の下に差し込んであった。書かれている文字には日にちが書かれてある。
 手拭いで口と鼻を抑えているとはいえ、舞い上がる埃の息苦しさに皆が閉口してしまうのを我慢していた。
 丁寧に埃を落としていた恭也はある箱に気づく。
「見つけた」
 恭也の言葉に全員が反応し、七葵がそちらの方へと向かう。
「確かに」
 七葵も頷くと、ルイトガルトが「どうかしたのか」と問う。
 そっと恭也が差し出したものを見たルイトガルトは和彦を呼ぶ。
「確かに、葦原家の家紋です」
 頷いた和彦は預かりものの下にあった紙の事を尋ねると、目録にあった日付と同じ日だった。
 目的のものは見つけたので、手早く掃除をしていく。
 この地は憤怒の攻撃や千石原の乱の事もあり、中々心休まる時がなかったのだろうと推察される。
「蔵の中の物を処分されたような様子がないのは助かったな」
 ルイトガルトが言えば、和彦が頷く。
「秋寿派に組していた者の預かり分の処分まで回らなかった可能性もあるかもしれませんが」
 それでもあっただけよかったと和彦はほっとしているようだった。
「きょーや、箒とちりとり持ってくるけど、そっちでとるか? 落とすか?」
 様子を見ていた律が二階を見上げて恭也へ声をかけていた。
 二階の床に溜めた埃やチリは思ったより多い。
「こっちでとる。そっちも埃を落としているだろう」
「わかった」
 律が箒とちりとりを恭也へ渡し、2階部分で落ちた埃をとって七葵が麻袋の口を広げて溜まったゴミを入れる。
 蔵の中を調べていたマシロビであったが、特に何もなかった。
「休憩にしませんか?」
 一階の方も埃を掃き終え、カリンがマシロビに声をかける。
 掃き掃除はほぼ終了しており、休憩するにはいいタイミングだ。
「そうですね」
 頷いたマシロビは上にいる律と七葵へ声をかけた。
 今日は気温が高く、湿度もちょうどよく、外で休憩するにはちょうどいい頃だ。
「お菓子持ってきたんですよ!」
 カリンがお菓子を持ってきていたようで、皆でお茶と一緒に抓む。
 ハンター達は知っていても、東方にいる和彦は見慣れないお菓子をまじまじと見つめる。
「それはマカロンっていうんですよ」
「そうですか、では頂きます」
 歯を軽く当てるだけで簡単に割れてしまい、口の中ですぐ溶ける甘い菓子に和彦は美味しそうに食べている。
 休憩後は拭き掃除をして、掃除を終わらせた。
 外はもう、日が傾いており、夕焼けの色が見えてくる。


 掃除を終えて、葦原家……若松が預けた箱の中を改めることにした。
 蔵の中央に、作業ができる台が畳半畳分があり、皆で台を囲んでいる。
「手がかりあるといいな」
 祈るような律の言葉は皆同じだ。
 和彦がゆっくりと、箱を結んでいた紐をほどいていくと、七葵が声をかけた。
「和彦、帳簿に心当たりでもあるのか?」
 七葵の言葉に和彦は少し思案するように黙り込む。
「これがここの分社に預けられた日は、母が死んだ半年後だった」
 若松が何を思って預けたのだろうか……和彦は漆塗りの桐箱の蓋を開ける。
 ぱちり……と和彦の指先が何かが弾いた。
「どうしました?」
「何かを弾きました。もしかしたら何か仕掛けられているのやも……」
 マシロビの問いに和彦は自身の指先をハンター達に見せると、指の腹が少し赤くなっていた。
 箱の中を改めると、冊子が一冊、紙切れが一枚あった程度だが、符術師のマシロビは律が裏返していた箱のふたに気づいた。
「これ、呪符です」
 フタの裏に仕掛けられた呪符は漆の中に塗りこめられている。
「詩天は符術をよく使用する地です。こういった仕掛けもあり得ます」
 早く冊子の確認をすると、中は別段普通の冊子であり、文字も普通に読める。
 内容は斗跋についての説明書きがされており、葦原流の禁じ手としての忠告から始まり、斗跋の発動とその効果は書いてあるのは分かった。
「習得の仕方については明記されてない……?」
 恭也が柳眉を顰める。
 なんのアクションもなく、斗跋は発動できるのだろうか。
 疑問が残ってしまうが、ルイトガルトがある部分が気になった。
「歯抜けになってないか?」
「透かしてみます」
 窓へ向けて冊子の頁を透かすと、瞬間、本から小さな閃光が走った。
「この冊子、光に反応するんですか……!?」
 全員が驚いたのも束の間、鼻腔をくすぐるのは焦げた匂い。
 ゆっくりと冊子自体が焦げていっている。
 熱くはないのが不思議な感覚だが、それどころではない。
「早く読み進めようぜ!」
 律が急かすと、和彦は必死になってどんどん焦げゆく冊子を読み進めていく。
 斗跋を発動後の説明が書いており、負のマテリアルを体内に入れた途端、歪虚化して鬼のような化け物の姿へと変わるとあった。
 いくら鍛えた人間でも持ちえない力を得ることができること。
 二度と、人間としての姿は失われ、戻る術はないとあった。
 読み進めていくと、焦げが進行しており、読めない部分も多くなる。
 斗跋に対抗できる技があるという頁にはいると、秘技と呼ばれる技は葦原流の技を昇華したものという技が書かれていた。
 読み進めていくと、和彦は長い前髪の奥で目を瞬かせる。
 頁をめくると、焦げで歯抜けのようになっており、読めない字も増えてきた。
「あ……! 焦げっちまう……」
 律の声も虚しく、冊子は焦げてしまい、裏表紙に呪符が浮かんでいる。
「元から仕掛けていたのか……」
 歯噛みするルイトガルトが目を細めた。
「禁じ手と秘技の流出を止めるためでしょう」
 和彦はそっと、冊子を閉じて表紙を撫でる。
「秘技について、何か聞いていましたか?」
「父から……千石原の乱の前に教わってました……」
 冊子が読めなくなったことは残念であるが、和彦から感情をうまく読み取れなく、無表情だった。


 分社から出る時間となり、和彦たちは素直に葦原家の預かりものが焦げてしまった顛末を神主に告げる。
「仕方あるまい。それは、若松殿の願いでもあったからだ」
「願い?」
 誰かがオウム返しに言うと、神主は和彦の方を向く。
「葦原流の悪しき技を子に授けるなど出来ないと言っていた。不出来な当主だと嘆いていた」
「知り合いだったのか?」
 律が尋ねると、神主は「まぁな」と頷いた。


 帰り道を照らす夕日はもう地平線へかかっている。
「……冊子には、秘技を体得しても相手によっては倒せない可能性もあるとありました」
 ぽつりと和彦が呟いた。
 今日という日が終る瞬間、人の心の中に『何か』が差し込むと言われている。
「和彦」
 七葵が和彦の名を呼ぶと、彼の顔は赤い夕陽を浴びて赤かった。
「斗跋は、使うなよ」
 その声に和彦は口元を少し緩ませる。
「君たちと一緒にいるのは楽しい。俺は、人間のままでいたい」
 歪虚となったら、人に戻れないのだから。

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参加者一覧

  • 千寿の領主
    本多 七葵(ka4740
    人間(紅)|20才|男性|舞刀士
  • 仁恭の志
    綿狸 律(ka5377
    人間(紅)|23才|男性|猟撃士
  • 律する心
    皆守 恭也(ka5378
    人間(紅)|27才|男性|舞刀士
  • 鈴蘭の妖精
    カリン(ka5456
    エルフ|17才|女性|機導師
  • 即疾隊一番隊士
    マシロビ(ka5721
    鬼|15才|女性|符術師
  • 戦場に疾る銀黒
    ルイトガルト・レーデル(ka6356
    人間(紅)|21才|女性|舞刀士

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カリン(ka5456
エルフ|17才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2016/10/20 23:41:52
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/10/16 23:32:08