• 猫譚

【猫譚】街に集う旋律

マスター:京乃ゆらさ

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
4日
締切
2016/10/25 22:00
完成日
2016/11/08 22:19

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●策動
「困ったものだ。突然音楽祭などと……」
 グラズヘイム王国において大公の位を持つ大貴族、ウェルズ・クリストフ・マーロウは馬車に揺られながら、苛立たしげにそんなことを呟いた。
 車内にはただガタゴトと街道を走る音だけが響いている。
 マーロウは懐から親書の束を取り、改めてもう一度読み返す。システィーナ・グラハム(kz0020)が――いや、彼女から連絡を受けたセドリック・マクファーソン(kz0026)大司教がしたためたものが二通と、貴族連中からの手紙が三通。マクファーソンからのものには音楽祭の開催とその協力要請が書かれており、貴族連中からのそれには――。
「ふん、無能め。こんなものに書き記すような愚物は盾代わりにすらならん」
 敬愛なる王女殿下への愚痴と、マーロウに何とかしてもらいたいなどという旨が書かれていた。
 マーロウは三通の方だけを、音もなく隣に控えていた人間に手渡す。
「それとなくマクファーソンの目に触れるようにしておけ。これほどの愚物、利用するだに恐ろしい」
「御意に」
 使えるものならば何でも使う。それがマーロウの信条だ。が、利敵行為すらしでかしかねない者については話は別。それはそれとして使い道もあるが、愚物ばかりになっても困る。ある程度は間引きせねばなるまい。
 それより、とマーロウは早々に無能のことを頭から追い出し、隣の青年に命じた。
「後ろの荷についていなさい。そろそろシャルシェレット卿の領地に入るのでな。あの地は賑やかであるが、それ故に人間の屑が多い。……不浄なる歪虚よりはまともだがな」
「はっ」
 応じるや、走行中の馬車の扉を開けて飛び降りる青年。律儀に扉まで閉めていくところがどうにも微笑ましく、マーロウは僅かに頬を緩めた。
 ――誰もがこれほど気が利けばよいものを……。
 いや、とマーロウは思い直す。
 ――システィーナ・グラハム。細かな気配りが大層お好きであらせられる王女殿下は、無能な働き者であったか。
「……全く、困ったものだ。が」
 この機にせいぜい恩を売ってやろう。――――と――――に。
 その口調には微かな同情と、それを塗り潰してなお余りある苛立ちが込められていた。

 祭りのためのあらゆるものが足りない。
 それも当然だ。何しろ音楽祭を開催するとの触れが来たのがつい先日のこと。これで誰かが一晩でやってくれました、などということはあるはずがない。
 マーロウが『百輌以上もの荷馬車を引き連れて』街についた時、街は商人連中を中心に狂騒に包まれていた。
 ――さて。まずは人気取りとゆくか。
 街の大通りをゆっくりと行軍して広場に到着したマーロウは、馬車から顔を出して宣言する。
「諸君! ガンナ・エントラータに住まう諸君、そして今ここにおる諸君!」
 人死にすら出そうなほどだった喧噪が、ぴたりとやんだ。
 沈黙。遠く客引きの声が聞こえる中、大公マーロウは大気震わす大音声を発する。
「今ここに連なる荷馬車には諸君の必要とするあらゆるものが積まれておる! 水、食糧、日用品、カネ、人。全て諸君に提供しよう! なあに、対価を寄越せなどと無粋なことなど言わん。ああいや。一点。対価があるとすれば一つだけよ! それは――」
 ごくり。誰かが唾を飲む音が奇妙に広場に響く。
 それまで厳めしい表情をしていたマーロウは、だが次の瞬間、悪戯をした少年のような顔に一変させて告げた。

「諸君が、音楽祭を成功させることだ」

 一瞬の間。のち、大歓声。
 ――無能な貴族に比べ庶民のなんと素直なことよ。
 マーロウは軽く手を挙げて歓声に応え、車内に戻る。そしてどっかと腰を下ろし、腕を組んだ。
 ――次にすべきこと。
 それは、またぞろこの光あるグラズヘイムの地で騒ぎ始めた羊どもを駆逐すること。

●索敵依頼
『ガンナ・エントラータ北西方面の偵察を頼みたい』
 そんな依頼をハンターズソサエティに出したのはその日の夜のことだった。
 翌朝、大公ウェルズ・クリストフ・マーロウは馬上から音楽祭の準備に忙しい露店を眺めながら、依頼を受けたハンターたちに言う。
「君たちに依頼するのは敵集団の発見だ」
 敵が殲滅できる程度の小集団ならば交戦しても構わんが。
 補足しつつ、マーロウは馬の歩みを止めない。背後を歩くハンターたちの顔すらも見ない。
「あの羊どもの動きが激しい。彼奴らがどこへゆくのかは定かではないが、目撃情報もなしに大軍が移動できるのはリベルタースから北か南。このガンナ・エントラータから北西を多少探っておいて損はあるまい」
「何故ハンターを?」
 ハンターの一人が訊くと、マーロウは市民に手を挙げて一言二言喋りながら、返す。
「我が私兵を連れてきておらぬからだ。言うまでもなくこの地はシャルシェレット卿が領地。勝手をするわけにいくまい?」
「これも『勝手』のうちに入るのでは?」
「ふん、何を言うか」マーロウは皮肉げに顔を歪め、「これはあくまで『自衛』よ。先んじて情報を入手することは生存に直結する。それは君たちもよく知っていると思うがね」
 不自然なところはない……か?
 ハンターたちがマーロウの言を深く検討するより先に、一行は外門までやって来ていた。
 マーロウが馬首を巡らせ、初めてハンターたちと顔を合わせる。
「他に訊いておきたいことはないな?」
 有無を言わさぬ調子で確かめると、マーロウは最後にこう付け加えた。
「ああ、音楽祭本番はまた後日とはいえ、気の早い者は既に色々とやっておるようだ。任務を終えたのちに覗いてみるのもいいだろう」

リプレイ本文

 二人の男がバイクと馬を走らせている。
 辺りの草花が涼風にそよぎ、近くの家族が楽しげにはしゃぐ声が聞こえた。
「良い天気やなぁ」
 そんな人々を横目に笑うのは馬に騎乗したラィル・ファーディル・ラァドゥ(ka1929)。
「土の質が気になるな、と」
 アルト・ハーニー(ka0113)がエンジンを噴かす。
「ここより丘陵の方に重点を置くかね? こんだけ人通りがあると羊が何をするにも難しそうだが」
「でも人通り言うても夜はおらんやろしなぁ」
「なら日中は丘陵で夕方からここを見回るか」
「あんまり速度出さんようにな。僕ら『気ままな旅人』やから」
 ラィルがにやりと笑うと、アルトが胸を張って首肯する。
「男二人、自分探しの旅だな、と」
「恥ずかしい! せめて食い倒れの旅ぃ!」
 二人の珍道中は始まったばかりだ!

●街道/巡る少年少女
「ウォルターさん、見えますか」
 道行く人々のうちの一人。敬虔な巡礼者が風に靡く髪を抑えて呟くと、いつの間にか真後ろについていた人が追い越しざまに腕を抓ってきた。
「千春ちゃん、このあたしが見失うとお思いで?」
「ご、ごめんなさい」
 ウォルター・ヨー(ka2967)がふと立ち止まり、荷を漁る。巡礼者――柏木 千春(ka3061)はその脇を通りながら彼の横顔を盗み見た。
 いかにも散歩を楽しんでそうな表情。
 なんとなく何故か心がもやもやした。というより、むむむというか。
 ――何だろう……?
 謎である。が、とりあえず置いておき、千春は視線を外して人々の列に従い歩く。
 傲慢の歪虚が街道にいるなら向かい側から来る人が怪しい。次にこちらの列に加わったり離れたりする人も注意だ。
「なめすけ。しめじこ」
 小声で呼びかけると足元で二匹のパルムが前転した。
 ――えっ。
 うん。前転した。
 それ返事なのかな、今日はそんな気分なのかなと千春は考えるが、それより目立つのは拙い。
「あのね、周りの人を覚えててくれないかな。後で分樹に記録して見せてほしいの。あ、返事はハイなら右手、イエスなら左手を挙げて」
 急ぎ千春は彼らの協力を取り付け、離れてもらう。
 忘れがちだがパルムがただの人に同行する事は少ない。世の情報を収集するのが役目なのだから、事件に遭いやすそうな人につく時間が長いのは当然だ。逆に言うとパルムが付いている人は付いてない人より怪しい。
 千春は周りの人と「何だったんでしょうね」なんて話を合せながら顔を覚えていく。
 ――クラベルと似た容姿だったら判りやすいんだけど……。
 歪虚の人間社会への浸透に注意し、千春は歩く。

●草原/切れ者二人
「目撃されてないって事はわざと人目を避けてるのか……」
 狐面で顔を隠した文月 弥勒(ka0300)が独りごちると、ギルベルト(ka0764)がヒヒヒと笑った。
「そんな訳ないじゃーん? あの羊ちんがぁ? 人目を避けてぇ? ヒヒ! 目撃者みんな殺しちゃった方が早いんじゃねぇの!?」
「仮にそうだとして『誰かがいなくなった』話を街で聞かないのはおかしい。ハルトフォートの話でも噂としてここに届く」
「噂より早く移動してんのさぁ。ヒヒ、ヒヒヒ! 楽しくなってきたよねぇ!」
 馬上で地図を片手に単眼鏡を覗いていた弥勒が僅かに目を細め、裸眼で前方を見晴るかした。
 奴らの主戦場はリベルタースだ。それが素早く移動されると――色々と、困る。
 現状どこにもおかしな所はない。大軍が移動した痕跡もなければ最近騒がしいユグディラの姿もない。空を見ても時折鳥が過ぎ去る程度。虱潰しという意味では「異常なし」も収穫ではあるのだが、できればより確かな情報がほしい。
「移動するか。次は」
 弥勒が言い差した時、ギルベルトがダガーで手遊びしながら、
「羊ちんは猫ちん狩ってんじゃん? で猫ちんは逃げる。でで、やっぱ逃げるなら食い物もある村になんじゃないかにゃーって僕ちん思うワケ。て事はさぁ? 頭良い親分がいるにゃら村を襲うんじゃにゃいかにゃー?」
 言っている事は理に適っているが、どうにも従いたくない気分にもなる弥勒である。
 単眼鏡を仕舞い、地図を見てから一呼吸。そして、
「そうだな。村をあたろう」
 こうして近場の村に向かった二人は、三つ目の村で気になる話を聞いた。
『最近北の村に十五、六もユグディラが集まってるらしい』
 持ち寄った話を突き合せた二人は、そこへ急ぐ事にした。
 各地から獲物を追い立てて一ヶ所で狩る。それは狩りの基本だからだ。

●二日目・丘陵/救出
 珍道中を繰り広げたアルトとラィルはしかし、丘陵でも夜間の草原でも異常を発見できないでいた。
「ま、何もないのが一番なんだけどねぇ」
 朝日を見つめながら、アルト。ラィルが小声で、
「朝なのに黄昏る」
「……」
 ともあれ朝食を摂った二人は丘陵へ。丘の陰にバイクと馬を隠し、徒歩で昨日の続きを見て回る。
 丘の頂から見渡せば結構な広さを把握できるものの、逆に言えば敵からも捕捉されかねない。それに逆側の斜面は当然見えない。三班の中で移動が最も面倒な地域と言えた。
「どうなんやろなぁ。道の通っとらん丘の中腹辺りとかかな」
「一つ一つ確認するしかないかねぇ」
「あとは猫狙っとるみたいやし、猫が好きそうな所か」
 と坂を下っていたその時、ラィルは丘の麓に穴を発見した。
 直径50cm程の横穴。それが坂の終りの草陰にぽっかりと開いている。
「……ユグディラて、穴で暮らしとるんやっけ?」
「解らんが……呼びかけてみるか」
 この大きさなら間違っても熊のような凶悪な生物ではあるまい。そんな打算のもと、二人は穴に向かって猫撫で声で語りかけてみる。
「おーい、ユグディラがおったら返事してほしいんやけども!」
 無反応。
「僕ら、君らを保護しに来たんよ! 君ら何や羊に追われとるやんか?」
 ……無反応。
「何もせえへんよー! ほら、ご飯あるでー」
「出てこないと全力で埴輪プレゼントするぞ、と!」
 アルトが叫ぶや、一瞬で何かが飛び出してきた。それはもう天変地異が起ったかのような飛び出しだ。
 一方で二人は穴に語りかけている。必然、それは起った――正面衝突が。
 ごづっ。生々しく痛々しい音が響き、アルトが口元を押さえる。うわぁ、と頬を引き攣らせたラィルとて無傷とはいかない。乾坤一擲打って出た影――四体のユグディラが見事な連携で足首を攻め立てる。引っかき、次が体当り。その次が噛みついてきて最後に離脱。
 瞬く間に四体は草むらに隠れ、様子を窺ってくる。
「……釈然としないんだが」
「まま、結果オーライいう事で」
 非覚醒状態で不意打ちだっただけにかなり痛い。が、ここで逆襲しては逃げられる。
 ラィルは屈んで手をかざし、朗らかに微笑した。
「こっちおいでや。ついでに事情を教えてくれると助かるわ」

●二日目・草原/成果
 北の村とやらで一晩明かした二人は『村を見張る事のできる所を監視できる場所』に潜んだ。村を一望できる所に羊が来ると睨んだのだ。
 太陽は淡々と昇り、何事もなく過ぎていく。
 そして14時を回った。失敗したかと弥勒が思いかけた――その時だった。
「まだ帰るのは早いんじゃねぇの? 来たじぇ~、愛しの羊ちんがさぁ!」
 凄絶に嗤うギルベルト。その視線の先に――

 果たして、羊型歪虚は、いた。

 警戒する事もなく緩やかな坂を上り、仁王立ちして村を睥睨する羊。ギルベルトが嗤いを無理矢理押し殺す。
「どうする? やっちゃう? あぁ~でももっと汚泥に塗れてからコロシ合いたいんだよね!」
「追跡する。敵本隊を見つけるのが『偵察』だ」
 日の角度と風向きに気をつけろ。
 弥勒が言うや、手早く荷物をまとめて即応体勢を整える。
 時間にして一時間、羊は村を観察して帰っていく。斥候なら何日も観察し続けろと言いたくなるが、帰ってくれるなら都合が良い。これも傲慢故の行動かと弥勒は吐き捨てる。
 二人は慎重に移動を開始し――そして三時間後。
「……1805時、敵本隊発見。暫くついて進攻方向を確認する」
「ヒヒ……ヒヒヒヒ……猫ちんは逃げ惑ってぇ? 羊ちんはデカいの来ちゃってぇ? 騎士団長サマは死んじゃったかもでぇ?! こりゃもっともっとも~っと楽しくなるよねぇ!! ヒヒヒ!!」
 ベリアルを含む敵本隊を、捕捉した。

●二日目・夕刻の街道/影
 千春は旅籠で休み、正午頃に帰路に就いた。変った事は何もない、平和そのもの。
 そんな街道の様子を、ウォルターは道から離れた草むらを伝いながら窺う。
 雑踏。楽しげな声。時折通る馬車と、道を開ける人々。巡礼者そのものの千春は度々声をかけられていて、一人ひとりと律儀に会話する彼女は何とも凄い人だ。
 監視する側にとっては困った行動なのだが。しかし、まぁ。
 ――人の為になる、か。
 人の為に戦う。人の為に祈る。人の為に笑う。そんな事のできる人の、役に立ちたい。ウォルターは思う。
 この気持ちはきっと騎士道に違いない。主を持たない道化の黒騎士だけれど、だからこそこの思いだけは大切にしたい。
 眩しい千春は今もお婆さんと話しながら歩いている。あの千春を怪しむ者はいまい。
 なのに、異常がない。ならば「敵はまだ街道に進出していない」と断言してもいいのではないか?
「……ま、最善は尽しやしたかね」
 ここは敵の不在を確信できて喜ぶべきだ。
 ウォルターは安堵の息をつき、さりげなく街道に戻ってノビをした。
 ――その時だった。

 見覚えのあるような人影が、雑踏に消えた気がしたのは。

「ッ!?」
 慌てて目を凝らすが既に影は消えている。まろぶように前へ、前へ、前へ。通信機。千春の驚いた声。人ごみをかき分けていく。
 ――あの影……?
 ……、いや。
 ウォルターは思い直す。幻だ。ユグディラの悪戯に違いない。そう嘆息した。

●報告と……
 二日目、夜。
 まずマーロウの許に出向いたのは街道組だった。
 異常なし。それしか言うべき事はなかったのだが、大公は人々の様子まで訊いてきた。千春が首を傾げ、
「平和そのもの、かと。やっぱり音楽祭の話が中心でしたけど……それとエクラのお話をしました」
「そのような姿をしておればな」
 巡礼者姿が似合いすぎている千春である。
 一瞬ぐぬぬと思うが、すかさずウォルターが追従の笑みを浮かべて言う。
「巡礼者だからこそ等身大の庶民が見えたと思いやすよ。それにしても偉大なるマーロウ様、庶民の様子にまで気になさるたぁ、お貴族様の鑑ですなぁ」
「ふん。最近の貴族どもが無能なのだ。私が特別なのではない」
 冷笑が室内に響く。ウォルターがおどけて、
「おぉ怖い怖い、天狼星の牙はいつでも誰かの傍にある、と。さーて、あたしゃ真面目に正しく働きやすよ」
 くつくつと笑みを零すマーロウ。
 良い人なのかなと千春が思いかけた瞬間、その視線がウォルターを、次いで千春を射抜いた。
「ご苦労だった。帰っていい」
 こくこく。千春は言葉も返せず踵を返す。そうして宿を出て、漸く息を吐いた。
「怖、かった……ねぇー」
「さて。真面目だから怖いのか、それとも」
「でも……あんな人にも私を認められてもらえたら」
 そうすればきっと、私は大切な誰かの手を取れる。千春は奥歯を噛み締めた。

 次に帰還したアルトとラィルは、報告もそこそこに退室を促される。
 どうもマーロウはユグディラが嫌いらしい。ラィルは保護した猫を抱きながら背を向け、そういえばと振り返る。
「元騎士団長の暗殺騒動を手際よく治めたお方の一人やそうやね! 凄いなぁ!」
 マーロウは心底嫌そうな顔。ラィルは構わず空気を読めない振りをして続ける。
「なんやここの領主様は教会とモメたとかいう噂も聞いたことあるし……こんな凄いお人がおるいう事はその辺も解決しにきたんかな?」
「シャルシェレット卿の事は関知しておらんよ、私は。同じ貴族として私も困って……いや、もういい。帰りたまえ」
 眉間を押さえて嘆息するマーロウは、ひどく苦労していそうに見えた。
 ともあれ退室し広場にやって来た二人は、
「俺は埴輪作りの参考になりそうな物を探してみるんだが、どうする?」
「せやなぁ、僕は目的もないしついてってみよかな。埴輪も気になるし」
 音楽祭準備で騒がしい街なかを見て回る事に。
 マーロウの提供したという物資の山は既に各地区へ分配されており、大量の荷馬車もない。通りにひしめくように露店が並んでいる。
 アルトは壺の内側に生地を張って蒸し焼きしている露店を見つけ、その製造工程を観察する。訝しげに店主が、
「なんでぇ」
「む、いや。何でもないが。あぁいや、この生地はマーロウが持ってきた小麦から?」
「ん? おぉそうよ! おめぇもマーロウ様を知ってるか! すげぇお方だねぇ」
「あぁ。えらくとっつきにくい感じではあったけども」
「いやいや気さくな方だったじゃねえか! 俺ぁうちの領主しか知らなかったがよ、威厳があるのに話しやすいってなすげぇと思うぜ」
 店主の評価は留まる所を知らない。苦笑して付き合っていたアルトが解放されたのは、一時間後の事だった。

「遅くなった……」
 弥勒が帰還したのは夜も深まった頃だった。その時マーロウは微動だにせず椅子に腰かけていた。
「報告を聞こう」
 弥勒は観測結果を書き込んだ地図を渡し、時系列に沿って話す。敵本隊の位置。ユグディラが追い詰められるようにこちらに逃げている事。
 じっと聞いていたマーロウは、話を終えた直後に呼び鈴を鳴らして若い執事らしき男に私兵を動員するよう命令した。
「戦となるな」
「それは避けられないだろうな」
「ご苦労だった。またハンターの力を借りる事もあろう」
「ヨーク丘陵のようにか」
 弥勒が言うとマーロウは首肯した。
 それきり黙り込んだ大公を見、弥勒は一歩下がって口を開く。
「貴族の――大公閣下であるあんたに尋ねたい」
「……何かね」
「女でも当主になれるのかを」
「愚問だな。能力さえあれば歓迎する。それだけよ」
「解った。それをあんたから聞きたかった」
 弥勒は脳裏に浮かんだ彼女を思い、一礼した。

 偵察は成功し、次に訪れるのは大きな戦い。
 王女が望んだ音楽祭は未だ遠い。

<了>

 そしてマーロウが寝台に入ろうとしたそこに、ギルベルトは降り立った。
 唖然とし、しかしすぐさましかめ面に変った大公に、
「ヒヒヒ、きちゃった」
「何の用だ、下賎の者が」
「お爺ちゃんさぁ、ドブ仕事する子ほしくない? 僕ちん見ての通り悪い子なんだけど」
「……」
「報酬とか別にいらないし使い捨てていいからさぁ。僕ちん光が陰る瞬間を見たいのよねん」
 暗闇の中、目を細めてギルベルトを見つめていたマーロウの瞳が、一層鋭くなった。
 数秒の沈黙。マーロウが嘆息し毛布をかぶる。
「帰れ。年寄りの睡眠を邪魔するな」
「ヒヒヒ、体は大切にねぇ、お爺ちゃん」
 陽気にギルベルトは退室する。
 無用だとは言われなかった事を、悦びながら……。

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MVP一覧

  • 壁掛けの狐面
    文月 弥勒ka0300

重体一覧

参加者一覧

  • ヌリエのセンセ―
    アルト・ハーニー(ka0113
    人間(蒼)|25才|男性|闘狩人
  • 壁掛けの狐面
    文月 弥勒(ka0300
    人間(蒼)|16才|男性|闘狩人
  • 猛毒の魔銀
    ギルベルト(ka0764
    エルフ|22才|男性|疾影士
  • システィーナのお兄さま
    ラィル・ファーディル・ラァドゥ(ka1929
    人間(紅)|24才|男性|疾影士
  • ミストラル
    ウォルター・ヨー(ka2967
    人間(紅)|15才|男性|疾影士
  • 光あれ
    柏木 千春(ka3061
    人間(蒼)|17才|女性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/10/24 01:55:39
アイコン 相談卓
柏木 千春(ka3061
人間(リアルブルー)|17才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2016/10/25 12:54:36