• 神森

【神森】つながる道、生きる道

マスター:DoLLer

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~6人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2016/11/17 07:30
完成日
2016/11/23 14:59

みんなの思い出

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オープニング


 今より数百年前。王国北部辺境領であった大地をゾンネンシュトラール帝国として新たに立国したのが、祖王ナイトハルトの孫にあたる建国帝ビスマルクだ。
 領土内の各亜人地域や諸民族を併合して出来上がった当時の帝国は破竹の勢いで領土を拡大した。ビスマルクの快進撃は毎年その図版を更新し、当初の土地から1000km離れた場所まで支配下においたという。
 そんな帝国の開拓史に歯止めをかけたのが、亜人の中でも最大勢力を誇り今も帝国南部の3州にまたがる地域において自治を誇るエルフハイムであった。
 建国帝ビスマルクはエルフハイムと緊張の高まる中で老衰で没し、次代皇帝が遺志を継いでエルフハイムと開戦した。
 建国帝が没したとは言え、勢いに乗っていた帝国軍が圧倒的に有利だとされる中、エルフハイムは徹底抗戦した。元々森という特異な地形において帝国軍は苦戦したのもあるが、それよりも帝国軍を恐怖のどん底に落としたものがある。
 浄化の器を母体とする高マテリアルによる『浄化法』であった。
 その一撃は数百キロ離れた帝城まで届き、兵の1/3を失うほどだったと言われる。当時の皇帝もこの一撃を遠因に帰らぬ人となったことから、全ての亜人地域を支配下におかんとする帝国の姿勢は変更せざるを得なくなったという。


「めんどくさいからエルフハイム砲って呼んでるけどね。5代皇帝はそれで融和政策に走ったけれど、それは領土拡大による景気を下支えしていた帝国経済を失速させ、8代皇帝オードルフが錬金術を国策として推進するまでの100年近くは帝国の冬とも呼ばれた。エルフハイムに手を出したばっかりに、ね。だからエルフハイムは帝国内で唯一の自治を守っている地域であり……簡単に言えば、腫れ物だったわけだ。
 かと言ってそれがエルフハイムにとっても代償はあってね。最初の器であったオルクス=エルフハイムはそれを契機に歪虚化。こちらの祖先であるナイトハルトと並んで四霊剣の一角を生み出すことになり……まあ今のゆるやかな衰退にいたるわけだ」
 ミーファに向かって襲い掛かってきたエルフの刺客、そして人間の刺客を死体に変えて踏みつけた男はそう説明した。
「知ってる。そして、今エルフハイムはその衰退の中で、森を開く維新派、森と運命を共にする恭順派に分かれているの。恭順派はずっと帝国が邪魔だった。飼い殺しにしようとしている帝国が邪魔だった。特に錬金術を導入してからの隆盛、それにおける大地の公害はエルフハイムの森をやせ細らせるとまでいっていたわ」
 胸を抑えたミーファは小さく呟いた。
「ひどい誤解だなぁ」
「そう、ひどい誤解よ。だから維新派が徐々に力を持ったの……恭順派はもうその時から、少しずつ今日にいたる計画を紡ぎ始めたんだわ」
「錬金術の公害問題が著名になってから? 気の長い話だ、何十年も前の話だよ」
 男は呆れたように言ったが、ミーファは気にせず言葉を続けた。いや、正確には聞いている余裕がない。
 胸が焼けるように痛いのだ。縛りつけられるように。
「エルフハイム内で孤児を積極的に引き取り始めたわ……そして浄化の巫女の増員にも随分と熱心だった。聞いたことあるでしょ。歪虚の穢れも浄化する浄化術。あたしの姉、サイアも……浄化の巫女になったわ。そして、最近の事件が起こるようになってから音沙汰がなくなった」
「ああ、浄化の巫女の増員。カミラから聞いてる……維新派も熱心だったというが。そういや、ここ最近、とんと見ないね。『準備』かい?」
「だと思うわ。だから人間の子供でも攫おうとするし、あたしみたいなエルフハイムが嫌で逃げた人間でも無理やり連れ戻そうとするのよ……」
 喋りながら、だんだん胸が悪くなってきた。
 そうだ、この気持ち悪さは……マテリアル焼けだ。多量のマテリアルを浴びた時におきる身体の酩酊に近い。
 今日の胸の悪さも、エルフや人間に襲われる理由もさっぱりわからなかったミーファだが、今はもうしっかり理解していた。
 サイアだ。
 サイアが苦しんでいる。
 命を二つに分けた姉が……顔も、声も、言葉も、想いも同じ。
 つながった命が悲鳴をあげている。
「あたし、行かなきゃ……!!」
「そりゃあいい。じゃあほんの少しばかりお手伝いと行こうか」


「サイアぁぁぁぁぁぁ!」
 森の枝に飛び乗り、しなりを利用して次の枝に飛び移る。
「ミーファか! 下がれ!」
「うっさい!」
 道を阻む同族に、ミーファは距離を取って構える。
「サイアに何をした……! 返せ!!」
 その言葉に、門衛はさすがに顔色を変えた。
「惜しい人材だよ。サイアと揃えばもっと大きな力を展開で来ただろうに……まあいい、人間に尻尾を振るような出来損ないでは結果はみえている」
「なんだって?」
「お前もサイアも、今日いう日の為に育てたんだ。引き取り手もない二人を。サイアはその恩義に応えたというのに。お前は何もわかっていない。エルフの血も、このエルフハイムが持つ役目も、自分の出生も、生きる道も」
 そこまで言って同族は吹き飛んだ。
 ミーファはその顔に自らの頭を叩きつけたのだ。
「生きる道ってのは生きるためにあるんだ。誰かの犠牲になって死ぬための道じゃない!!!」
「恩知らずが……」
 枝から落ちる男から笛の音が響く。
 警笛だ。ミーファをそしてそれに連なる侵入者を排除せよとの。
 そんな音にも耳を貸さず、ミーファは振り返り仲間に道を指し示す。
「サイアの、それから多分捕まっているだろう子供たちのいるところまで案内する。だけど、絶対あいつらが殺しにかかってくるから……注意してね」
 ミーファはそれだけ言うと、長い髪を束ね上げ、スズランの髪飾りで止めるとまっすぐ前を見た。
「助けに行くからね……サイア!!」
 広がるばかりの森。人にはどうなっているのか想像もつかないだろうが、ミーファにとっては庭のようなものだ。
 緑で彩られた道をミーファは風を切って進み始めた。

リプレイ本文


「どっけぇぇぇぇ!!!」
 ミーファが作ったロープを使い、自ら振り子となったアルカ・ブラックウェル(ka0790)は眼下のエルフに勢いのまま蹴りを叩きこんだ。そして次の枝に移動し、再び跳躍して森の奥を突き進む。
 そんなアルカの真後ろにできた森の闇から滲み出る影。それがエルフの形となったと同時に炎の斧がそれを真っ二つにしていた。
「どいつもこいつも陰湿な野郎ばっかだ……!」
 物言わぬ暗殺者の屍を叩き落としたボルディア・コンフラムス(ka0796)は吐き捨てて、アルカ、そして先頭のミーファを追いかけていく。追撃するエルフにはセレス・フュラー(ka6276)によるヒュドールが適確に手元を狙い、牽制していく間に距離を突き放した。
「くそ、侵入者どもを排除しろ!」
「悪役そのものの台詞だね。やり口といい……感心するよ」
 セレスが一瞥をくれる中、それは軽い破裂音と共に静かになった。高瀬 未悠(ka3199)の銃口は確実に警笛を持つエルフを仕留めていた。
「他人の人生を狂わせておきながら自分たちのことには必死なのね……あなた達がその手、その身体で生きる道を閉ざすというなら、風穴開けさせてもらうわ」
「全くですね。……こういうのを全体主義が過ぎる、というのでしょうかね」
 天央 観智(ka0896)は進みながら、未悠の言葉に同意した。
 見上げれば太陽すら見えぬ深い森。何百年と続くこの景色からエルフが自然と外を見る事を止め、結束ばかりを唄うようになったのだろう。このような結末に至るのも知れようものだ。ざわめく森を見上げて足を止めた観智は、眼鏡を中指で押し上げると魔力を解放した。
「(gt)2=2[g(1/2gt)]2……+mg」
 次々と迫るエルフがそのまま地面に叩きつけられた。グラビティーフォールは枝葉を渡り歩くエルフにとっては致命的な技に等しく、十メートルほど落下してそのままゴソリとも音がしなくなるエルフも多数いた。
「……バカだね」
 落ち葉のように崩れ落ちる中、それでもこちらに向かって来ようとするエルフに顔面からかち合うようにしてエリオ・アスコリ(ka5928)は拳を叩きつけ、そしてそう呟いた。しかし覚醒しているわけでもないエリオの一撃は体勢を崩して落下させたくらいで、エリオも手痛い反撃を受ける。
「何がバカなものか……数百年の時を、臥薪嘗胆してきた我らの苦しみを理解できぬだろう」
 そんな愚痴を聞く余裕もない。エリオは落下したエルフに一瞥くれるとそのまま先を進もうとするのをアニス・エリダヌス(ka2491)が横に並ぶ。
「オルクスという前例がいながら悲劇を繰り返そうとするのは、そう表現せずにはいられません」
 そして手当てしますと呼びかけるアニスにエリオは傷口を抑えながらも、首を振った。
「子供たちの前に着いてから、ヒーリングスフィアでまとめて頼むよ。それまでは……」
 エリオが蜂蜜を取り出して、足元に垂らしながらアニスに手渡した。マテリアルでの回復を節約するなら止血するには傷を焼いてしまった方がいい。熱した蜂蜜はちょうど良かった。
「……この森も、傷口が膿む前にこうできたらよかったのです。すみません、痛みますよ」
 力を使って回復できないことにアニスは心底辛い顔をしたが、思い切って熱した蜂蜜をエリオの傷口に塗り込んだ。
「っ!!!!」
 思わず身もだえするエリオをエアルドフリス(ka1856)が担ぐ。
「よく我慢した。肩を貸そうか。本来ならお嬢さんにしか貸さないのだがね」
「だったら、いい……!」
 エアルドフリスを睨みつけるとエリオはそのまま隊列に戻った。
 神秘の森の空気は清冽を超えて、濃密なマテリアルで息苦しさすら感じてきた。目的地は、そう遠くないはずだ。


 その核心はすぐに見えた。森の開けた場所に出たからだ。
「……?」
 アニスの目の前を蝶々がふわりと舞うとアニスはどことなく懐かしさとぼんやりとした気持ちで胸に霧がかかったようになった。違う、生体ではない。マテリアルが蝶に見えるだけ。
「これは……精霊です。いえ、エルフの祖霊といってもいいかもしれない」
「なるほど、大精霊が無理をしていないかと思ったのですが……群体でしたか。祖先の多くが精霊として力を貸している」
 一面、蝶の園だった。開けているはずなのに、向こう側が見えないほどの蝶に包まれている。観智はすぐさま納得がいった。大いなる力ではなく、小さな力の群れが子供たち、そしてサイアを動けなくしているのだろう。
「異端者……」
「部外者……」
「侵入者……」
 様々な声がぼんやりと響く。
「なんだと、異端はそっちじゃねぇか。ガキを巻き込みやがって……!」
「まったくだ。先人が未来の芽を摘むというのは見過ごせないものがある。道を切り開こう。同時に覚醒するのはもったいないが……一つの山場だ。派手にいかせてもらおう」
 アルバ・ソル(ka4189)が進み出て、カフカ・ブラックウェル(ka0794)とエアルドフリスと揃い、同時に詠唱開始する。
「一気に落とす。アルカ、そしたら一気に前に進んで救助を頼むよ」
「うん」
 アルカはカフカに頷き返すと、ミーファの手を取る。
「一緒にサイアを助けに行こう」
 その言葉に、ミーファが頷いたと同時に魔術師たちのグラビティーフォールが同時発動する。
 すさまじい重力派に光さえ捻じ曲げられ、精霊の蝶たちがまるで酔ったように迷走を始める。
 そんな中を一行は走った。
「サイア、サイア!!」
 いた。
 でもそれはサイアには見えなかった。
 樫の木に蔦で括り付けられ、蔦自身はサイアの身体に打ち込まれていた。
 ツタが内部外部と縦横無尽に走り、口を、目を、喉を、腕を。首を縛りつけている。それらは子供たちにもおよび、閉ざされた闇の中で時折ぼんやりと脈打ち、光っていた。
 ごぽり。蔦が食い込む口元から胃液が溢れ出た。もはやそれは連結された生命体の……奇怪で醜悪なマテリアルの装置だった。
「ああ、あー ぅア ァ」
「これが、ヒトのやることなのか……! これがァ!!!」
 ボルディアは身体を捻じると、覚醒して一気に爆炎を装った斧を主軸となる樫に叩きつけた。
 音など気にするものか、ボルディアは徹底して斧を叩きつけた。
「今助けるわ。もうあなた達は自由よ。サイア……貴女の生きる道はもう自分で決めて良いのよ」
 未悠も刀を振るい、蔦を次々と切り裂き、子供たちを抱きしめる。
「毛布をはやく、さっさと脱出しよう」
 毛布を切り裂き、スリングの準備を始めるエリオの横で、アニスはサイアにピュリファイケーションをかけた。
「天にましますテナティエルよ。清浄なる息吹をもて穢れを払い給え……!」
 濃縮されたマテリアルが光の粒となってサイアを包むと、彼女の周りから蝶が浮かんでは塵となって消えていく。あの蝶の群れの一部はこうして入り込んでいるのだろう。
「父さん……母さんまで……。くっ。サイア、サイア。行こう」
 その蝶を眺めてミーファは涙をこぼしたが、すぐさま腕でふき取ると、サイアに語り掛けた。
「父さん……母さん……。あぁミーファ? ミーファ」
 徐々にしっかりしてくるサイアの瞳を見て、横からアルヴィン = オールドリッチ(ka2378)は目を細めて、サイアの身体から延びる蔦を握った。
「ちょっと痛いかもしれないケド、許してネ」
 力を入れて引きはがした瞬間、サイアの悲鳴が漏れた。マテリアルを含んだ声はアルヴィンの鼓膜と意識を揺らしたがアルヴィンは表情を崩さず、眼球にからむ蔦を引き抜き去り、同時にフリルカバリーを施した。口の奥、頭頂、鼻腔、爪の間。色んなところに侵食したそれを引き抜いて出血すればフルリカバリーで治していく。その時のアルヴィンにはいつもの笑顔はなかった。
 誰もが目を背ける絶叫が続く中、アルヴィンが笑顔を取り戻したのはおおよその蔦を引き抜き終わってからだった。
「……よく頑張ったわね」
 未悠が助けられた子供やサイアの口の中にチョコレートの欠片を含ませて微笑む。
「とても厳しいけど……サイア、子供を背負う手伝いしてくれない。一人も……死なせたくないの」
「無理じゃないかい? 体力は回復しても」
 シャーリーンが曇った目でサイアと未悠を見た。サイアは傷こそ消えてはいるものの、消耗はひどそうだった。
「どうしてもダメならミーファがあなたを担ぐわ。でもね、それじゃ全員救えない。誰かの命を絶っていかなきゃならない」
 その言葉にサイアは眼球だけ動かすと、やがてゆくりと立ち上がった。
「スリングを……ください……やります」
 そんな気力がないのは目に見えていた。それでも未悠の、いや、ここにいる面々がいたからこそ。彼女は立ち上がった。


 行軍は難航を極めた。行きの3倍の時間をかけてもまだ出口は見えなかった。日は恐らく2回以上変わっている。ほとんど飲まず食わずの一行の疲れはピークだった。
「間違いない……合ってる」
 枝を飛び越えるたびにつけた樹皮の傷を確認して、アルカは呟いた。だが、へたりこんで立てない。子供たちを背負う重みが、アルカ自慢の足から力を奪っていった。それでもアルカはまだ動いている方だった。サイアに至っては数回気を失い、そのたびにシグルドが全て抱えた。
「アルカ……大丈夫?」
「何言ってんのさ、このくらい……絶対に皆で帰るって決めたんだ」
 カフカに気丈な顔を見せると、不思議とアルカはもう少し頑張ろうという気力がわいてきた。
「ああ、絶対に帰るぞ」
 ボルディアも斧を杖代わりにしている状態だったが、ふぅ、と白い息を漏らして周りを見た。
「最後のお客さんだぜ」
「……32、かな」
 シャーリーンがすぐさまアサルトライフルを構えて、気配から大よその数を確認した。
「虫たちの種類がもう『外』のものになってきている。ここを抜ければすぐに森から出られるはずだ」
 傷口を焼きとめるのにつった蜂蜜の本来の目的は、位置を確かめるものだった。方向感覚は曖昧だがエリオには虫を見れば、自分たちがどれだけ外に近づいているかは理解できていた。
「じゃあ、最後の力を振り絞ってやるしかねぇな。誰か俺の背負っているガキを預かっててくれよ」
「仕方ないなぁ」
「またお前かよ……どんなけタフなんだ」
 こいつにだけは借りなんて作りたくない、と思いながらもボルディアは背負っていた3人の子供をシグルドにたくす。これだけの抱えながらもシグルドは息すら乱していないのが無駄に腹立たしい。
「そこまでだ……生きて帰れるとおも」
 エルフの言葉が響いた時には、周囲は霧よりも深い煙が覆い始めていた。
「悪いね、今回の荷は重たいけれど、下ろさないと決めたんだ」
 煙の中より、虎の怒りに燃えた瞳が輝く。
「呼ぶは海嘯。澱みを排せ!」
 不意を打ったエリオは大きく拳を振り上げた。
「青龍翔咬波!!!」
 白煙の中から龍が現れたかと思うと、煙も、エルフ達も、殺意に満ちた暗い空気も押し流した。
「行くぞ!」
「待て逃がすかっ!!」
「おっとぉ、てめえらの相手はこっちだよ」
 煙が晴れた中から炎が巻き起こった。ボルディアだ。
「もう本気出して大丈夫みたいね。私の生きる道を……見せてあげるわ」
 刀を構えて黒獅子の気配を漂わせる未悠がゆらりとエルフ達の道前に立ちふさがった。

「シグルド様!!」
 森を出てすぐさま無銘の魔導トラックから兵士達が駆け寄ってきた。
「子供たちを頼むねっ」
 アルカはすぐさま子供を預けると走ってきた道を戻った。観智もアニスも次々と子供を下ろして森に引き返す。
「あ、あの……何が」
「今度は私たちが支える番ですから」
 おっとりとほほ笑みを浮かべたアニスが全てを物語っていた。

「うりゃああああ!!!」
 四方八方からの矢の雨を受けたボルディアは斧に纏った爆炎で薙ぎ払った。覚醒による獣姿も、ぼんやり薄れるが倒れる暇もない。
「どうしたよ、それで終わりかァ」
「無理しちゃダメよ。この後だってやることはたくさんある。道は終わりじゃないのよ」
 対する未悠はひたすら冷静に拳銃と刀を使い分けながら、確実に敵を葬っていく。
「お前なんでそんなに冷静なんだよ……ってか誰かに似て来てるぜ」
「ははは、僕の事かい。そりゃあまあ高瀬君には学ぶ姿勢というものがあるからねー。強くなった、七重の芙蓉を体現しているようだ」
 未悠の背後から狙っていたエルフが吹き飛ぶと、そこにはシグルドの姿があった。
「ふ、芙蓉って、私が……!?」
「大変申し訳ありませんが、芙蓉は八重です。七重というのは……必要十分な気概ながら、あと少しだけ足りないという暗喩ではないでしょうか。多分、怪我していることを指しているかと。でも怪我を癒せば、八重の蓮になるなら、これで満点ではないでしょうか」
 続いて取り囲むエルフの人垣にアニスがシールドアタックでこじ開けるとすばやくヒーリングスフィアでボルディア、未悠を癒していく。
「シグルドは無茶苦茶だよね。こんな少人数で救出作戦やれとか。まったく。ボクたちじゃなきゃ失敗してたね!」
 アニスがこじ開けた道に、アルカが飛び込み敵を一蹴して吹き飛ばす。
「どうやって位置を把握していたかと思いきや、随分と簡単なものでしたね。これがなくなれば……把握も少し難しくなるでしょう」
 観智は見えないところでじっとこちらの様子を眺めていたエルフを魔法で討ち倒して微笑んだ。こちらが樹に傷をつけて方向を把握したように、木々の言葉に耳を傾ける巫女なのだろう。具体的な術法はわからないが、現場対応ができなければ、増援もできない。
「貴様ら、貴様らに何が分かるか。人間め、皆殺しにしてくれる」
「解るわけないよ。あなた達のやろうとしていることは……」
「解りたくもない。あなた達の現実離れした理想なんて……」
 突破口に向かって一丸となって移動する。彼らの通過した道に蓋するようにして、二人のエルフが追手の間に立ちはだかった。
「サイア、ミーファ!! お前たち」
「さよなら、この先、あなた達につながる道はない」
「さよなら、この先はわたし達が生きる道」
 二人がそれぞれ同時に足元に楔を打ち込む。
「!!!」
 閃光が、走った。


 浄化の器であったオルクスは力を発動する前。人間と関わりをもったという。それが歯車が狂う原因だと語る者もいる。
 歴史は似たような形で繰り返す。
 サイアは人間とは疎遠な生活を送っていたけれども、双子の妹ミーファが人間と関係を結んでから、引かれるようにして大きく歯車が狂い始めた。
 歴史は常に人の意志で紡がれる。つながりと、生きる道によって、紡がれる。
 それが繰り返すのは変わらぬ人の想いがあるから。

 二人のエルフは森を出て生きていく。その日差しを浴びた顔に曇りはない。

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MVP一覧

  • シグルドと共に
    未悠ka3199
  • 緑青の波濤
    エリオ・アスコリka5928

重体一覧

参加者一覧

  • 陽光の愛し子
    アルカ・ブラックウェル(ka0790
    人間(紅)|17才|女性|疾影士
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • 止まらぬ探求者
    天央 観智(ka0896
    人間(蒼)|25才|男性|魔術師
  • 勝利の女神
    アニス・エリダヌス(ka2491
    エルフ|14才|女性|聖導士
  • シグルドと共に
    未悠(ka3199
    人間(蒼)|21才|女性|霊闘士
  • 緑青の波濤
    エリオ・アスコリ(ka5928
    人間(紅)|17才|男性|格闘士

サポート一覧

  • シャーリーン・クリオール(ka0184)
  • カフカ・ブラックウェル(ka0794)
  • エアルドフリス(ka1856)
  • アルヴィン = オールドリッチ(ka2378)
  • アルバ・ソル(ka4189)
  • 通りすがりのSさん(ka6276)

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/11/16 20:19:19
アイコン 質問卓
エリオ・アスコリ(ka5928
人間(クリムゾンウェスト)|17才|男性|格闘士(マスターアームズ)
最終発言
2016/11/16 22:57:40
アイコン 相談卓
エリオ・アスコリ(ka5928
人間(クリムゾンウェスト)|17才|男性|格闘士(マスターアームズ)
最終発言
2016/11/17 06:52:03