• 剣機

【剣機】蹂躙する巨人

マスター:DoLLer

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/10/05 09:00
完成日
2014/10/09 18:49

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「あれがリンドヴルムか……思ってたのと少し違うな」
 物見台の上に立っていた帝国第一師団副師団長のシグルドは望遠鏡を下ろして独り言ちた。
「シグルド様、攻撃しましょう。今こそ我らの力を見せるとき」
 櫓の梯子近くで待機していた副長が意気も盛んにシグルドに進言してくる。兵長の一挙一動に緊張と勲功を挙げてやらんとする勢いの強さを感じることができるが、シグルドは彼ににこやかに笑んだ後、やらないよ。と答えた。
「なっ!? 剣機ですよ、剣機! 暴食の眷属の中でも四霊剣に数えられる強敵ですよ! これを倒せば歪虚の軍勢の力をそぎ落とせます。総力を挙げて戦うべきです」
 それでも食い下がる兵長にシグルドは苦笑した。
「ゼナイドの第十師団マスケンヴァルがいるだろう? 彼女との共同作戦じゃなければ出番があったかもしれないけれど。下手に手を出したら彼女に殺されるよ」
 シグルドの言葉に兵長は、う、と言葉を詰まらせるしかなかった。
 ゼナイド率いる第十師団はマスケンヴァルと呼称される。その部隊員のほとんどが囚人、亜人などで構成されており、どんな汚れの仕事でもこなすというのは兵士だけでなく、帝国の一般市民ですら誰もが知っている話だ。そして彼らの首輪には暴走や脱走を防ぐための装置がつけられているということも。周囲にまで被害が及ぶわけではないが、そもそも轡を並べること自体が難しい部隊だ。その性質もその性格も。
「しかし、それでは我々は何のための訓練しているのかわかりません。歪虚と戦い、この国を民を守るためにやってきたのです。それなのにバックアップなどとは……」
「ははは、君は勇ましいなぁ。だが、バックアップも重要だよ。僕がリンドヴルムかそれを操作する者なら、注意を引きつけている間に他を攻撃する算段を立てるね。もしくは挟み撃ちにして部隊を散々に叩くとか、ね」
 不意に轟音が空気を響かせた。かなり遠くだ。
 兵長は慌てて音のした方を見やると、草原に火炎の柱が立ち上っていた。遠目でも確認できるぐらいなのだから、目の前にしたら恐らく身を包むような大火に違いない。
「な、なんだあれは……」
 蜘蛛の子を散らすように逃げていくのは兵士達だろうか。だが、その姿が黒点ぐらいでしか確認できないのに、大火の原因を作ったであろう敵はしっかりと目で確認することができる大きさだった。
「歪虚です! かなり大きいっ……マスケンヴァルの布陣に向かって東方面より進軍! このままだとマスケンヴァルが挟撃されますよ!!」
「向かう先がエイゼンシュタインのところなら高みの見物でもしようかとも思っていたが、ゼナイドやグリューエリンを怪我させるわけにはいかないな。仕方ない。全隊、攻勢準備だ。目標は東方面より出現した改造ゾンビ。兵長、ハンターにも準備させてくれ」
 しれっと同じ第一師団の同僚を見殺しにする発言を呟きながら、シグルドは次々と指示を飛ばしていった。


 兵士達は立ちすくんでいた。暴食の眷属とはそれなりに戦っているものの、目の前のそれはあまりにいびつで、醜悪だった。
「な、なんだこいつは……」
 一見すると、巨人か何かの様だった。数メートルはある体長。肌は削げていて腐った筋肉だけの肢体が四つん這いになって、こちらを覗いていた。しかし、よくよく見れば、その腕も足も、兵士と変わらないサイズの人肉がいくつもねじ込まれて成り立っている。何十という死体をより合わさってこの巨人は構成されているのだ。ところどころ接合がおかしいようで体のあちこちから骨のようなものが無数に突き出ていたり、間接がいくつもあったりと、有りえない姿に生理的な嫌悪感を呼び起こされる。
 巨人が動いた。
 兵士たちは盾を構えて防御態勢を取り、数人がかりでその攻撃を正面から受け止めた。
 重い一撃だったが、確かに受け止めた。
「な、な……!」
 が、その鋼鉄の盾に巨人の爪が食い込み、まるで果実に刃を押し込むように引き裂かれていく。どんどん巨人の爪がゆっくり、ゆっくりと兵士の前に近づいていく。
 これはダメだ。逃げないと。
 盾を離して逃げたかった。だが、盾を引き裂いた爪が引っかかり、引き下がろうともさがれず。爪がゆっくりと兵士の腕に食い込んでいく。
「離せ、このバケモノがぁっ!」
 たまらずもう一人の兵士が槍を振り上げて、巨人に襲い掛かった。巨人は盾を突き出した男を引き裂くのに夢中になっている。不意を十分打てるはず、だった。
 が、首が異様な角度で曲がり、こちらを向いた。目蓋のない眼球に兵士の姿はしっかりと捉えられていた。
 そして、がくん、と開く顎。その血と腐汁に満ちた口腔内からチラチラとした明かりが光る。
 一瞬の閃光の後、兵士は火だるまになり、地面に崩れ落ちた。
「ブレス!?」
「あの爪、人間のものじゃない……鋼鉄ですら切り裂くぞ!?」
 そこで兵士はこの巨人の一部が人間外の物、魔獣などのそれを使われていることに気付いた。接合がおかしいのではない。魔獣らしい部分が肉体に収まりきっていないだけだ。
「ありったけの弾であいつを止めろぉぉぉぉ!!!」
 矢でも弾丸でもとにかく近場にいた兵士達が巨人に向かって乱射される。が、巨人は地にひれ伏したかと思うと一気に飛び上がった。そしてその巨体で数人をまとめて押しつぶした。その姿はバッタの様で、見かけ以上の動きをしてみせてくる。後は単なる虐殺だった。反撃もままならぬ兵士を次々と引き潰していく。
 もう一度、巨人の大顎が開いた。狙うのは固まって逃げようとする兵士達だ。
 が、その顎はブレスを吐く前に強制的に閉じさせられた。顎の先を大太刀の切っ先で跳ね上げられ、無理やり閉じさせられたのだ。
「歪虚版戦車ってとこか。大砲も積んでいれば、歩兵を潰すだけの機動力もある。良くできた『兵器』だが……作った奴のセンスを疑うよ」
 大太刀の持ち主、シグルドは剣を引いて構えなおすと不敵にそう言った。そして要請を受けていたハンター達もそれぞれが行動に移り始めた。
 巨人が叫んだ。
 戦いの始まりを知らせる咆哮だ。

リプレイ本文

「制圧射撃を行う、接近急げ!」
 咆哮をあげる巨人に対し、君島 防人(ka0181)が合図を上げると同時にアサルトライフルが火を吹き、巨人の目元近くをかすめた。新たな敵の出現に巨人はぎらり、とその濁った瞳を向ける隙をついて、ハンター達が走りこみ、逃げ惑う兵士達の間に割って入った。
「オラァ! クソ帝国兵共ォ! ビビってんじゃねぇぞ!」
 何が起こったのか、一瞬理解できない兵士に向かってジャック・J・グリーヴ(ka1305)が叱咤する。
「てめぇらは何の為に兵士なんざやってんだ! 国を! そこに生きる奴等を守る為だろうが! だったら気張れやクソ共ォ!」
「なんだと……」
「確かに奴の言う通りだ、ここで巨人の歩みを止めなければ、国民が害される危険があるのだ! 立つぞ!!」
 自分たちの情けなさと混乱に戸惑う兵士に兵長が言葉をかぶせると、兵士は即座に逃げの姿勢から反転した。その動きは巨人に士気をくじかれる前の鋭さに戻っている。
 しかし、そんな立て直しを再び壊滅せんとしたか、巨人は再び伏せて、跳躍の姿勢をみせた。ここで押しつぶしをされれば陣形も兵士の士気も再び崩壊する危険性がある。
「跳躍を止めるわよ!」
「関節を狙ってくれ!」
 月影 夕姫(ka0102)の魔導銃を皮切りに、ユリアン(ka1664)の指示に従い支援体制を整えた兵士達が一斉に巨人の肘や膝を狙って矢弾を叩きこむ。狙いがタイトな分だけ、兵士達の攻撃はあまり命中していないが威嚇にはなっているのは間違いない、身を固くして動きの鈍る巨人に夕姫の一撃は見事に関節に命中した。
 が、しかし。
「退避しろ! 来るぞ!」
 多少の攻撃などものもとせず巨人は跳躍した。そのスピードはあの巨体を誰もが一瞬見失うほどだ。兵士がその姿を探し見上げた時にはもうそれは目の前に落下していた。
「ぼーっと突っ立ってんじゃねェ!! クソがっ!」
 烈風と共にジャックがすんでのところで兵士を蹴り飛ばすと同時に、シェルバックラーを掲げた。
 マリエル・メイフィールド(ka3005)が悲鳴を上げる間もなく、地響きとともにジャックの姿が巨躯に埋もれた。突き飛ばされた兵士はギリギリのところでへたり込んでいたが、ジャックの姿は見えない。あるのは腐肉の塊ばかり。メイフィールドはヒールの詠唱を始めつつ、その姿を懸命に探した。一秒でも早く土煙よ。その巨人の肉体よ。離れて……。
 たまらずリアン・カーネイ(ka0267)が押しつぶしたであろう巨人の掌に向かって飛び出した。そこでふと、巨人の掌がぱっくりと裂けていることに気付いた。小さな傷ではない。掌の半分ほどが裂けるような傷。その裂け目の間でジャックが倒れていた。巨人の血だか本人のものだかよくわからないもので染まってはいたが、それは確かに身動きし、悪態までついている。
「無茶苦茶しやがるぜ、ンの野郎……」
「メイフィールドさん! 無事です、手当を!!」
 リアンの掛け声で、メイフィールドは素早くヒールの力を解き放った。その効力は一瞬で発揮し、巨人が姿勢を立てなおす前にジャックは転がり出ると、口にたまっていた血糊を吐き捨てて、改めて構えなおした。
「一撃で……ここまでやれるのか」
 ユリアンは呟いた。それは巨人に対してではない。巨人と対する男、シグルドに対してだった。ジャックの悪態の先もシグルドに向けてのモノだった。巨人の裂け目を作り出したのは間違いなく彼である。
 そしてそれは巨人も気づいているようだった。視線をシグルドにあわせ、もう一度激烈な咆哮をあげる。敵を引き潰しながら乗り越えていくだけの行動が、今、完全に足を止めてシグルドに向かっている。戦い方を変えた証拠だ。
「このまま討滅しましょう!」
 リアンの掛け声とともに、ハンター達は一斉に巨人に向かっていった。


「びーーーーぃ、だぁぁぁーっしゅ!」
 一番手は超級まりお(ka0824)だった。巨人がシグルドに攻撃を加えている間に、その股下を一気に潜り抜ける。他のメンバーが忠告の言葉をかけようとした時には、既にまりおは巨人の背後をとっていた。そしてすり抜けざまに鞘に納めていたロングソードを引き抜き、振り向く遠心力を利用して巨人の足に叩きつけた。
 肉を切り、骨を断つ感触がまりおの手に伝わってくる。
「いゃっほー! クリティカール!」
「気を抜かないで! 攻撃が来ます!」
 歓喜の声を上げるまりおにアティ(ka2729)が振り向こうとする巨人の顔めがけてホーリーライトを打ち込んで、巨人が後方にいるまりお達の姿を確認する時間を数秒遅らせる。その隙にまりおは引き下がるもののなんだか不服そうだった。
「どうしてー!? 骨まで切ったのに!!」
「その巨人は一体に見えますけど、違うんです。ゾンビの群体なんですよ。だから支柱になる骨もいくつもあるんです」
 丘陵地の少し高めに陣取るアティは先ほどの押しつぶしも、有りえない角度で回転する首も、僅かにその構造が崩れるのをアティは見逃さなかった。いずれも一瞬崩れた際に小さな人間の部品がより跳躍しようと、より柔軟な動きを取ろうと形を変えるのだ。皆が戦っているのは巨大な一体であり、団結された数十体でもあるのだ。
「ならば関節部分を徹底的に叩くぞ。カバーができなくなるくらいに同じ個所にダメージを与えれば、まともな攻撃はできなくなる」
 君島はそう指揮をとると、照準器をまりおが与えた足首にマテリアルを込めた一撃を打ち込んだ。着弾と同時に派手に腐肉が吹き飛んだ。まだそれでも巨人の膝は崩れ落ちない。
「変形合体みたいなものか……やっぱり機械みたいなものね」
 夕姫は呟くと、マリエル(ka0116)に、周りに兵士たちの回復を依頼した。
「マリエル、兵士の回復をお願いできる? 巨人を構成するゾンビに意識なんてないだろうけど、援護射撃の影響は大きいはずよ」
「わかりました。兵士の回復に努める分、少しの間、回復が遅れます。どうか気を付けて……」
 マリエルと同じ方面から攻撃をしかける夕姫とユリアンの二人にマリエルは声をかけた。そして同時に祈りをささげる。誰に向かっての祈りかはよくわからない。だが、なんとなく感じる温かな力に。守護の力を。光はユリアンの周りに浮かびあがった。
 同時に夕姫がマテリアルをユリアンに移譲していく。
「サンキュな」
 ユリアンは戦列を離れるマリエルに軽く礼を言うと、風のように走り始めた。そしてシグルドの横に並ぶと、振るい立てる巨人の鋭爪を紙一重でかわし、その腕を足場に肩口まで飛び上がった。
 巨人がユリアンの存在が目元近くまであがっていたことに気付く。しかし、それに対する行動はリアンがさせなかった。
「自分の怪我したところ庇わなくてもいいのかしら?」
 どこを見てるの、と言わんばかりに背後からラピス(ka1333)が軽く跳躍し、体重を乗せたジャマハダルの一撃を足首に打ち込んだ。そして着地から踏みあがる勢いで一気にふくらはぎまで切り裂くと、さすがに巨人から苦悶の声が漏れる。
「攻撃される部分が後ろだけとは限りませんよ」
 リアンが振り回す巨人の腕の肘めがけてフラメアで貫いた。支柱を貫かれた巨人の腕は振り回そうにも力の伝達が悪くなり、見当違いの方向に空転する。 その間隙を縫ってユリアンは巨人の肩から生える骨を蹴って、もう一度大きく飛翔した。もはやユリアンは地上から5m以上も高い場所を跳んでいた。
「まるで翼でも生えているみたいだな、彼は。風の勇者などと呼ぶ人も出そうだ」
 ユリアンを見上げてシグルドがそううそぶく中、ユリアンはしっかりと巨人の首筋にみえる大きなクレヴァスに刃を突き立てた。夕姫から譲り受けたマテリアルの光が巨人の体内を突き通し、反対側の喉元まで一気に貫いた。
「空中分解はしてくれないか」
 ユリアンは一人ごちた。あのクレヴァスは巨人の柔軟な態勢を作るために必要な可動線のはずだ。うまくいけばそこから複数のゾンビを繋ぎ止める『鎖』を壊して解き放つこともできたかと考えたが、少し力が足りなかった。
 もう一撃やれば……。
「危ないっ!」
 アティの声が響くと同時に、ホーリーライトがユリアンの足元をかすめた。当たったのは巨人のアギト。
 気が付けば背に乗っているはずのユリアンを真正面に見据える巨人の顔があった。巨人の頭だけが180度回転してこちらを見ている。
 や、ば……!
 一瞬の閃光と同時にユリアンの体が炎に包まれた。プロテクションのおかげかかろうじて体を動かす様子は見られるものの力はなくそのまま背から落下する。
 巨人はそのまま首をぐるりと回転させシグルドやリアンに向けて払うように炎を吐きちらした。ブレスの開始が地上からではまったく手の出しようのない巨人の背中からでは閉ざしようもない。そのまま援護射撃に加わっていた兵士達にまで及んでいく。
「リアン、首を狙え!! ユリアンの一撃を無駄にするな。他の者は援護だ!」
 君島が強弾を首根本に叩き込むと、ほんの僅かだが、首が硬直した。その小さなブレは吐き出されるブレスの着地点には大きな影響を与える。
「了解しました!!」
 リアンが炎をかいくぐって足元まで潜り込もうと隙を窺う。
 多少の火傷など怖くはない。だが、それで反射的に攻撃の手が緩んでしまえばブレスを止め切れず背後を守るマリエルやメイフィールドまでも危険にさらしてしまう。
 チャンスは……。
 五感を澄ますリアンに追い風がいくつも吹いた。
「弾幕薄いぞ!」
 マリエルの力によって回復した兵士達による斉射だ。マリエルを守るように編隊した兵士達が雨嵐のようにとめどなしに矢弾を注ぎ込む。その中でマリエルがヒールをかけるとまた一人待っていたとばかりに腕を半裂きにされていた兵士がすぐさま銃を構え、戦列に復帰する。彼らの一発一発は君島の攻撃に及びもつかないが、100、200と叩きつけることで明らかに動きを鈍らせていた。
 巨人のブレスが吐き終わった。その隙を庇うかのように巨人は腕を振りあげる。
「リアン! 足踏みしてンじゃねぇぞ!! 俺様がついてやってんだ、行ってきやがれ!」
 巨人の爪に自ら突っ込むような形でジャックは飛び込んでいく。
「護りの力よ!」
 メイフィールドがジャックにプロテクションを発動させる。
 そして刹那、ぶつかり合う衝突音。
 巨人の丸太のような腕をジャックは完全に受け止めていた。あえて飛び込んでいくことで打点をずらし、全力が出せない位置で抑え込むジャックの目論見は成功していた。そんなジャックに向けてもう一度巨人の口に灯が光る。
 その隙にリアンはフラメアをもって走りこんだ。
「行きます!!!」
 リアンのフラメアがユリアンが穿った小さな傷口を正確に貫き、頸椎を構成するいくつかの骨をまとめて砕いた。
 巨人の動きが止まり、誰もいない中空に向けてブレスが放射された。それも首に作られたいくつもの傷からも炎が漏れて、巨人自身をも焼き焦がしていく。ブレスを封じることができたのだ。
 しかし喜びもつかの間、リアンは貫いた槍をそのままに冷たい汗が流れるのを感じていた。
 柄にじわじわと高熱が伝わってくる。
 今、槍を引き抜けばブレスはどこに飛ぶかわからない。吐き終わるまでは離せない。しかし、熱は手の平を焼きつつある。
「目には目を、火には……ふぁいあぼぉぉぉーるっ!」
 リアンの耳に不意にまりおの声が聞こえてきた。巨人の背中を走って来たまりおはその頭から飛び立って、ちょうどリアンの後ろを落下していく最中だった。
 同時にドガ、と鈍い音が響いた。巨人の口にまりおの手裏剣が叩き込まれたのだ。リアンは即座に槍を引き抜き、バックステップで距離を取った。
 放射口を塞がれた炎は行き場を失い巨人の中で炸裂した。


「やった、のかな……?」
 身動きの止まった巨人を見上げてラピスが呟いた。巨人の頭は自らの炎で焼けこげた上、ハンター達の猛攻により喉元に巨大な穴ができており、今にもその黒炭の頭がもげ落ちそうだった。兵士達はまだ銃口を下ろしてはいないが、照準器から目を離して相巨人の様子をずっとうかがっていた。ブレスの直撃を受けたユリアンにはメイフィールドが治療にあたっていた。幸い他への被害が少なめだったためヒールに割ける魔力は多めだ。
 巨人の正面で槍を地面に突き刺したリアンは真横にいたシグルドに問いかける。
「こいつは……結局、なんの魔獣が合成されていたのでしょう?」
「わからないかい? 火を吹いて、鋼鉄を切り裂く爪をもっている奴は……僕たち遥か後ろにもいるだろう?」
 後ろ、マスケンヴァルの陣にて大激戦を繰り広げているのは剣機だ。ということは。
「ドラゴン、ですか」
「後ろのアレは爪の代わりに剣の尾があるし、ブレスの代わりに機動砲使うと聞いてるし……余りもので作ったんだろうね」
 余りものでこの強さか。リアンは舌を巻いた。
「さて、終わったかな」
 シグルドが巨人に背を向けたその時。虫がはばたくような不快な音が響いた。
 その異変に安堵の浮かべていた皆が一斉に顔色を変えた。警戒を怠っていなかったアティが叫ぶ。
「巨人が動きます!」
 巨人は僅かに身震いすると、再び四つん這いで動き出した。その振動で首から上がボトリ、と落ちるが、巨人はそれでもなお動きをやめない。それどころか徐々に加速していく。兵士達が再び銃弾の雨をふらせるが、巨人はお構いなしにただただ急ぐように駆けていく。体の連結がほどけてもなお加速していく。
 嫌な予感が君島の脳裏によぎった。何かがおかしい。そうだ、負のマテリアルが急速に収縮しているのを君島は肌で感じていた。だから巨人は肉体を維持すらできなくなっている。
 リアルブルー時代の戦役がチラチラと目に映る。戦いというより、虐殺ともいうべき非道な兵器を使われた戦いが。
「総員退避だ! 走れる奴は走れ、仲間に歩けない者がいれば担げ!」
「ダメよ! このまま進ませたら第十師団のところまで走るわ!」
 ラピスが巨人に向かって駆けだそうとするのを君島は手を引いて止めた。
「戦況云々で命を投げ出すなど俺は許さん!」
「じゃあ、向こうにいる兵士やハンターの命は見捨てろっていうの!? この依頼は私達が受けた! だからこそ死力を尽くす!」
 しばしラピスと君島の視線が真正面からぶつかる。どちらも多数の命をかけてのやりとりだ。
 その横からと夕姫が、それなら、と提案した。
「あれは今、何が何でも巻き添えをして自滅するつもりなんだろうけど、自滅用のエネルギーの為に頭すら置いていく始末よね? 最初に狙った足首をもう一度狙ったらどうかな?」
 君島は明らかに渋い顔をした。だが、悠長に考えている暇はない。ハンター達はお互いの顔を見てうなずく。
「一発で決めてくる」
「俺は兵士達の非難をする。アティをついてもらおう。月影、攻勢強化を。残った者は全員で退避行動だ! 落伍者のないようにしろ!!」
 君島が指示を飛ばす中で、夕姫が攻勢強化を、マリエルがプロテクションをラピスにかける。
 そして、ラピスが走り出した。手足をばたつかせてひたら前進する巨人との差が埋まっていく。
 皆が最初に傷をつけた足首は確かにひきずったままだ。今はもう半分ちぎれかかっている。
 ラピスが一段と加速した。体の中に眠る獣の魂が一気にふくれあがった。
 足音すら後れを取るかのような勢いで、力強く跳ね上がり、そしてジャマハダルが閃いた。
 巨人は進む。ラピスの攻撃すら気にも留めず。もはや壊れた人形そのものだ。
 だからだろう。足を失って、自分が蛇のようにのたうち回り、もはやどこに行くこともできない事にすら気づいていない。

 巨人が末期の咆哮をあげた。
 そして悪夢のような黒い炎がふきあがる。その轟音に、しばし皆の世界から光と音が失われるほどだった。
 ラピスは全力で後退していた。だが、黒い炎の方がはるかに早く彼女を飲み込んでいく。マリエルにもらった光の衣が炎のアギトを一瞬、弾き飛ばす。だが、それでも炎は追ってくる。
 あ、死んだかも。彼女はそう自覚した瞬間。太い腕がラピスの体をつかんだ。

「戦いは一人でやるものじゃない」
 ラピスの耳元で君島はぼそりと言った。指示を出しながらも、結局君島は仲間を守るために最前線へと走っていたのだ。そして目の前には。
「第一師団はね、守ることが専門なんだ。覚えておくといい」
 大太刀で爆炎を切り裂いたシグルドが微笑んでいた。
「おかげで余計な被害を出さずにすんだよ。
 第一師団大隊、巨人討滅任務完了だ」

 巨人との戦いはハンターの活躍により大勝利を収めることができたのであった。

依頼結果

依頼成功度大成功
面白かった! 10
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • 聖癒の奏者
    マリエルka0116
  • 歴戦の教官
    君島 防人ka0181
  • 海の戦士
    リアン・カーネイka0267

重体一覧

参加者一覧

  • エアロダンサー
    月影 夕姫(ka0102
    人間(蒼)|20才|女性|機導師
  • 聖癒の奏者
    マリエル(ka0116
    人間(蒼)|16才|女性|聖導士
  • 歴戦の教官
    君島 防人(ka0181
    人間(蒼)|25才|男性|猟撃士
  • 海の戦士
    リアン・カーネイ(ka0267
    人間(紅)|20才|男性|闘狩人

  •  (ka0824
    人間(蒼)|16才|女性|疾影士
  • ノブレス・オブリージュ
    ジャック・J・グリーヴ(ka1305
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人

  • ラピス(ka1333
    エルフ|25才|女性|霊闘士
  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエ(ka1664
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • エクラの御使い
    アティ(ka2729
    人間(紅)|15才|女性|聖導士

  • マリエル・メイフィールド(ka3005
    エルフ|16才|女性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 【相談】背を守る為に
君島 防人(ka0181
人間(リアルブルー)|25才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2014/10/05 01:42:12
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/10/03 01:37:35