• 神森

【神森】薔薇は美しく散る

マスター:葉槻

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/12/27 19:00
完成日
2017/01/10 23:55

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●ハンターオフィスにて
 ルフトの町での暴動は剣機による強襲で未遂で終わり、ハンターの活躍により暴動首謀者のケヴィンの実母であるリンダ・プロイスこそが剣機を招いた者として指名手配された翌日。
 フランツ・フォルスター(kz0132)の下にはリンダのプロフィールやプロイス家がかつて所有していた別荘地や飛び地として管理してた領地などの資料が届いていた。
 そのほとんどは革命後、国へと没収されていたが、一つだけ、フランツの目を留める物件があった。
「一つ、頼まれてくれるかの?」
 フランツの問いに、傍に佇んでいた紳士然とした壮年貴族は静かに頷くとその場を去って行った。

 そのさらに翌日。オフィスにはハンター達が集められていた。
「先日はご苦労様じゃったの。皆さんのおかげで暴動は阻止出来たし、何より剣機の襲撃を返り討ちにしてくれたお陰で、最小限の被害で済んだのは僥倖と言ってよいじゃろう。
 そして、何より良い情報を早く持ってきてくれたお陰でこちらも次の手を早く打てる。本当に感謝しておるよ」
 フランツは眼鏡のブリッジを押し上げると、一枚の絵画のコピーを見せた。
「これが、若かりし頃のリンダ・プロイスの肖像画じゃ。
 恐らくリンダは契約者となっておると推測されるが、恐らく容姿はこの肖像画に近いと思われるので良く見ておくれ」
 黒い艶やかな髪に意志の強そうな眼差し。美化されているとしても美人の部類に入るであろう女の肖像画だった。
「リンダは元々、旧帝国の子爵の娘でな、当時騎士だったプロイスの跡取り息子の猛烈なアタックがあって結婚に至った……らしい。
 ところが革命が起こり、舅と夫と爵位を喪い私財をなげうって作ったのがあの製糸工場じゃった」
 しかし、商売というのはそう易々と行える物では無い。
 いや、得た収入に見合った生活を行えれば良かったのだが、生来からの“お嬢様”にはそれは堪えられなかった。
「何が切欠かは知らんが、契約者となったリンダは今、リンダはプロイス家が代々継承してきた石造りの砦で“巣ごもり”しようとしておるようだ」
 それはルフトの町からほど近いところにあった。
 かつてまだ旧帝国が亜人達と戦い、領土を拡大しようとしていた頃に作った堅牢な物見台のような凸型をした砦で、築は優に300年を越える。
「暴食の歪虚は何故か“自分の城”を作りたがる傾向がある。恐らくリンダもそれだろう。
 ここは現在はとある資産家が管理しておるが、軍が訓練などで借りることもあるほどに頑丈で、何より手放す前にリンダが気に入っていた場所という報告があった場所じゃ。
 ……そしてここが非常にやっかいな場所にある」
 フランツが取り出したのは砦の見取り図だ。
「砦の北側正面は100mぐらいの放置された枯れた荊の伸び放題となった草原、その向こうは森。
 砦の裏手は底の知れない沼地での、砦に入るためには北側正面から東西へ回り込む必要がある。
 また、正面扉はさび付いて動かず、裏手扉は鍵を開ければ動くが、動かす度に大きな音がするらしい。
 東の鎧戸の一部が壊れておるので、そこからも窓を割れば内部へは侵入が出来るだろう。
 壊れていない鎧戸は各面に2~3個。どれも閉じておる。砦は東西20m+20m+20m、南北が大凡20m+20mほどじゃ」
 偵察者の報告では、現在その頂上には例のコンテナが置かれ、周囲は負のマテリアルで満ちていて、たとえそこにいる者がリンダでなかったとしても、歪虚が何かをなそうとしているのは確実だった。
「ここにいるのがリンダと仮定して――恐らく、リンダが契約者である間は“巣”は完成せん。
 が、これが歪虚になればエルフハイムにほど近い場所に歪虚の“城”が出来てしまう。
 そして帝都侵略への足がかりにされるであろう事は確実じゃ」
 フランツは南京錠と思われる鍵をテーブルの上に置いた。
「エルフハイムの混乱に乗じて動き出そうとしているものがある。今軍はこちらに人を向けるまでの余力が無い。どうか皆の手で止めてやってくれ」
 そうフランツは言うと、頭を下げたのだった。



●美しく咲き美しく散るのが宿命ならば
 リンダは何一つとして後悔などしていなかった。
 騎士の家に嫁いだこと、1人息子を産んだこと、革命により夫を喪い爵位を喪ったことすら、時代の流れの中では仕方が無いことだと思っていた。
 ただ一つ許せなかったことがある。
 自身の『老い』である。
(美しく年齢を重ねる? 馬鹿言わないで頂戴)
 美しい物は美しいままでいなければならない。
 美しさを維持出来ないのであれば、綺麗すっぱり美しいまま死ななければならい。
 息子は幸いにしてそこそこの美男子だった。
 しかし、最近締まりのないボディになってきていたのが気になっていた。
 そこを指摘すればなにやら美しくないいいわけをしてくるのも許しがたかった。
「美しくありたい」
 ただただそれだけを願ってきたリンダにとって美しくないものは全て許しがたかった。
 そんなある日、リンダの下に一通の差出人不明の手紙が届いた。
 それはリンダの希望を叶える唯一の手段の書かれた手紙。
 とても恐ろしかった。とても人の所業ではないと最初は引き出しの奥深くに仕舞って見なかったことにした。
 しかし、いつも心のどこかでこの手紙の事を考えてしまう。
 そして、ついに屋敷まで手放さなければならい状態となったあの日、リンダは引き出しを開けた。


「精鋭の兵を4体も戴き、感謝しておりますわ、剣機様。他のエルフの剣機達も良く働いて下さいます。
 あの日、あの場にハンター達が居合わせたことが痛恨の極みでしたが、一日も早くこちらの環境を整えてお迎え出来るように致しますわ」
 リンダは手鏡に向かって話しかける。
 真紅の手鏡には裏側に大輪の薔薇のデコレーションがなされていた。
「えぇ、全てを荊で包み、美しく飾りましょう」
 砦の窓からは遠くにエルフハイムの森が見える。
 冷たい北風が入り込むのも気にならない様子でリンダは森を見てうっそりと微笑んだ。
 その屋上、コンテナの上では大鴉が1羽、羽根を啄んでいた。



●微睡む闇の揺籠にて
 ……愚かなものだ。

 ……その愚か者に力を与えようと言い出したのは誰だったかな?

 ……構わんさ。あれ一人に何が出来るとも思わん。

 ……所詮は計画の為の捨て駒。

 ……上手く行けば利用価値はある。

 ……失敗しても計画に影響は無い。

 ……今度は30だったか。一人で扱うにはそれが限界か。

 ……半端者だからな。

 ……力があればもっと数を扱えるがな。

 ……我らが姫君はどうした?

 ……奥で休んでおるよ。血を抜きすぎた。また与えてやらねば。

 ……剣妃殿といい、血を必要とする者は難儀なことだな。


 暗い、冥い、夜のような部屋。
 ごぽり、と水中を気泡が動く音が響いた後、部屋は静寂の海に沈んだ。



リプレイ本文


 剣機を見張りに立たせる。
 それは命あるモノと違い疲労を知らない。眠りを知らない。そして――

 ――痛みを知らない。

 アリア・セリウス(ka6424)はカタパルトから飛ばされてくる物を目にした瞬間、我が目を疑った。
「剣機……っ!?」
 空中で器用に回転し、着地の際には自ら転がってその衝撃を和らげる。その動きは疾影士の動きに近い。
 ……とはいえ、無傷というわけには行かないらしい、茨に眼球を貫かれたモノ、顔面がひしゃげたモノ、腕が折れたモノとそれぞれに満身創痍だ。
 ルイトガルト・レーデル(ka6356)と央崎 枢(ka5153)、そしてコーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)はこの剣機達に見覚えがあった。
「気を付けろ! こいつらは連係攻撃を仕掛けてくるぞ!!」
 枢が叫ぶより早く6体の剣機達は自らに1番近い所にいるハンター……コーネリアに目星を付けると一斉に距離を縮め飛び掛かる。
 それを鞍馬 真(ka5819)がリパルションを構え割って入った。
「早く砦の中へ! ここは私達が引き受ける!」
 もとよりカタパルトによる砲撃を誘引する予定だった真は、3体の攻撃を躱し、盾で逸らしながら砦へ直行する予定の7人へ向けて叫ぶ。
「っ……! ごめん、任せます!!」
「一気に突っ切る!!」
 枢が苦渋に満ちた声音で了承し、岩井崎 旭(ka0234)が宣言と共に砦の左側へと回ろうとしたその時、東側のカタパルトから漆黒の炎弾が放たれ爆煙が周囲を包んだ。
 それを持ち前の抵抗力でそれをほぼ無力化したアルマ・A・エインズワース(ka4901)は置き土産代わりに青い光線を流星の如く放つ。それは東側の2階と3階にあるカタパルトを直撃し、沈黙させた。
 疾駆する旭、枢に続いてアウレール・V・ブラオラント(ka2531)、エリオ・アスコリ(ka5928)が続く。
 コーネリアは自分を庇った真を救う為に銃を向けるが、それに気付いた真が「行け!」と叫ぶ。
 戦馬は戦場でも駆けることの出来る強い馬だが、脚はさほど早くない。攻撃を諦め全力で移動させなければ砦へ突入する部隊に遅れてしまう。
 連城 壮介(ka4765)が真を助けるため馬を向け、1番西側にいたアリアもまた全力で真へと馬を駆る。囮役3人の馬はそれぞれが皆駿足だ。
 それをみたコーネリアは固く奥歯を噛み締め、烈火の如きロングコートを翻すと東側へと駆けた。
「全く……予想外です」
 まさか剣機そのものが飛んで来るとは。手綱を握り締めながら壮介は苦々しく口にすると同時にオートMURAMASAを抜き、すれ違い様に斬り付けた。
「壮介!」
 アリアの鋭い声にハッと顔を砦に向けると、壮介の頭部と胴を漆黒の矢が貫いた。
 鎧と鉢金のお陰で致命傷は避けられた壮介は、砦から距離を取り刀を構え直した。
 またもともと砦より少し離れた所にいたアリアの元には正しく投石が発射されるが、それはアリアに届く前に地に落ちた。
「……連携、なるほど」
 真が忌々しそうに金の瞳を眇めた。
 カタパルトの飛来範囲には剣機達は近寄ってこず、真達を追ってこない。結果、攻撃したければ砦に近付くしかないが、近付けばカタパルトの奥から魔法攻撃が飛んで来る。投石そのものの命中率は良くは無さそうであるが、このまま睨み合っていても埓はあかない。
 真はトランシーバーを取り出し、先行した仲間へ先に行くよう簡潔に告げ、振動刀を振り抜き正眼に構えた。
「地道に片付けていくしかなさそうだ」
「真、壮介、この剣機達の後頭部にも黒い石があるはずよ。それを狙って」
 そう告げるが、実際のところアリアはこの剣機達と相対するのは始めてだった。
 リンダが最初に起こしたとされる事件の時、アリアは単独行動でプロイス家を調べていたからだ。
 話しには聞いた。連携を取るらしい。石を砕いたら動きが止まったらしい。そしてあの事件の時は、下されていた命令を最優先していたからなのか、ハンター達にはろくに反撃もせずに塵へと還ったらしい、ということ。
「私の祈りは私を赦せない。これ以上なら、なおのこと」
 だからこそ、今度こそ自らの刃を持って止めてみせる、と冴え冴えとした輝きを放つ神楽刀の柄を握る。
 幽かに、彼岸花の鍔飾りがアリアの決意に応えるべく鳴った。



 もとはゾンビとは思えない程、彼らの動きは実に命令に忠実だ。今も、投石範囲にいる3人を棒立ちになって見ているだけ。そして敵が前に出てこない以上、遠距離攻撃の手段を持たなかった囮役3人は自らが砦に近付くしかなかった。
 しかし、剣機は思いの外素早く一体一体をバラバラに攻撃したのではなかなか当たらない。
 ようやく一体倒したところでアリアに投石が直撃した。咄嗟に盾は構えたものの、友人からの祈りがなければかなりの深手だったのは間違いない。
「……俺が引き付けます。今の正門前なら5体を纏めて引き付けられます。待機中、投石にだけは気を付けて下さいね」
「待て!」
「壮介!」
 真とアリアの咎めるような制止の声に、壮介は少し微笑んで「では」と告げると真っ直ぐに正門前に駆け寄る。
 それを認めた剣機5体が一斉に壮介へと向き直り距離を縮め、次々に飛び掛かる。
 1体目を躱し、2体目の短剣を振動刀で受けたところを3体目に脇腹を貫かれた。
「あぁああああ!!」
 左手で敵の手ごと柄を掴んで動きを抑え、振り下ろした刀は剣機の右腕を切り落とす。
 4体目、5体目は左右から壮介の上腕を切り裂いた。
 さらに、そこに魔法の黒い矢が壮介の身体を貫く。
 壮介は漏れそうになる息を飲み込み、丹田に落とし込むと雄叫びへと換え振動刀で周囲に留まっている剣機達を斬り付けた。
 真は自分が傷付くのは構わなかった。作戦の成功と仲間の安全を優先させられたなら、それが真にとっての最善だった。だが、作戦の成功と仲間の安全の二択なら、どちらを優先させるのか。ほんの一瞬でも逡巡してしまった自分を殴りたかった。
「これ、で……終わりだ!」
 真が絶妙な位置取りで剣機3体を纏めて薙ぎ払うと、その後ろから静かな怒りを瞳に宿したアリアが愛馬を駆る。
 瞬きする程の間、大太刀の剣先が蒼白い光りの筋を残し突き抜けると、2体の剣機は音も無く塵へと変わっていった。
「壮介さん!」
 真は落馬寸前の壮介を無理矢理自分の馬へと引き摺り上げて、壮介の馬の尻を叩いて逃がす。
「行きましょう、アリアさん!」
「えぇ」
 2人は黒い炎弾が降る中を盾でその身と壮介を庇いながら、素早く砦の東側へと回った。

 鎧戸から入った真とアリアはまず壮介に各々が持っていたヒーリングポーションを飲ませ、止血を試みていた。
『真、聞こえるか? こちらは二階まで制圧完了。三階に突入する』
 トランシーバーから聞こえる旭の声に、真は簡潔に現状を説明する。
「外の剣機は片付けた。ただ、壮介さんの傷が深い」
『わかった……動けるか?』
 気遣う声に、壮介が力強く頷いた。
「手当てが終わったら向かう」
 そう告げ通信を切る。
 聖導士がいない。回復手段はアイテムだけ。せめて応急処置が出来るよう整えてくるべきだったかもしれない、と言葉にはしないままアリアもまた薬を飲み干した。
「大丈夫、です。幸いにして脚は無事なのでいざとなったら逃げられます。2人は行って下さい」
 それが壮介の強がりだと言う事は明らかだった。
「……すぐ戻ります」
 だが、今リンダが待ち受ける三階にこの傷の壮介を連れて行く方が危険だろう。そう判断した2人は壮介を1人一階に残して三階へと走り出した。



 3階、中央の部屋。西から中の気配を伺っていた旭が扉を蹴破るようにして、東からアルマがすぐにでも暁を放てる準備をして、そして中央からは合流した真が盾を構え、9人が同時に室内へと侵入した。
「……お行儀の悪い事。扉は静かに開け閉めなさいと、教わらなかったのかしら?」
 四体の剣機が直立不動のままハンター達を見つめる中、1人掛けソファからゆったりとした動作で立ち上がった女の横顔は確かに若々しく美しい。
 だが、その全身から立ち上る香水でも隠せぬ負のマテリアルの饐えた臭いが、どうしようもなくアウレールには不快だった。
「あなたがリンダさんです? 初めましてですっ。僕、アルマですー」
 場の空気にそぐわない、脳天気な声と共にひょっこりと一歩踏み出たのはアルマ。天真爛漫と行った笑顔を浮かべるがその頬をはじめ、全身にはリペアキットでは癒やしきれなったいくつかの傷を抱えている。
「そう。けれどお招きした覚えはないの。お引き取り願えないかしら?」
 正面を向いた女はシミ一つない白磁の頬に白魚のような指をそっと添えて、柔らかに弧を描いていた柳眉を下げてみせる。
「そうは行かない。あれだけ熱烈な歓迎を受けたのだからな」
 荒い息を吐きながらもルイトガルトがディモルダクスを正眼に構え、踏切脚へと体重をのせた。
「むしろよくぞ逃げずにいたものだ。その度胸は認めてやろう」
 アウレールが忌々しげに告げるが、目の前の女は悠然と微笑むだけだ。
「ここまでにいた剣機達は皆塵へと還って貰いました」
 通路や階段など、貫通攻撃魔法を撃たれる可能性の高いところで、率先して前に立ち剣機達を相手取って来たエリオもまた満身創痍と言って良いほど血と埃で汚れていた。
 最初の事件に関わっていた従兄、その恋人の祈りがなければ危なかっただろう。
 誰よりもここまでカタパルトを破壊することを優先してきた枢は、この部屋に入る前にヒーリングポーションを飲み干していた。気休め程度の回復でも無いよりはマシだ。
 そして剣機達の動きを見ながら姿勢を低く取る。
「三十路にもなろうという息子を産んだわりには随分と若作りだな」
 コーネリアもここまでの戦闘で浅くは無い傷を負い、乱れた髪を顔や首に張り付けたまま、銃口を向ける。
 目の前の女は少女のようにも30を越えた淑女のようにも見えた。そしてオフィスで見た肖像画より、より妖艶な――魔性の美を手にしている。
「ふふふ、有り難う。少しね、戻して貰ったの。何よりも美しかった頃に」
「美しい、だ?」
 最も傷の少ない旭が油断無く剣機を見据えながら斧槍を構え直す。
「そう。美しく咲く薔薇の如くあれ。それが私の矜持。これからも、ずっとずっと……」
「それが、契約者になってまで果たしたいことだったのか?」
 真にとってその答えは理解しがたいものだ。
「くだらんな。そんなものに歪虚に魂を売り渡してまで手に入れる価値がどこにある?」
 コーネリアもまた吐き捨てるように告げると、煌めくような無邪気な声が部屋中に響いた。
「うーん……うん。僕、あなたきらいですっ。だって、全然綺麗じゃないんですもん」
 次いで、耳が痛くなるような沈黙が落ちた。
 女は何を言われたのかわからない、という顔でアルマを見る。
「永遠なんかいらないですー。今は今しかないから楽しいし、きらきらするですよ? だから、あなたは綺麗なんかじゃないですー」
 アルマの純粋な笑顔が女を全否定する。
 だが、女は丸く見開いていた目を静かに閉じて、ほぅ、と溜息を吐いた。
「……可哀想な子。この美しさがわからないなんて。ねぇ、皆さん、今ならまだ生きて帰して差し上げてもよろしいのですけれど……」
 そう言って一同を見回し、もう一度溜息を吐いた。
「どうしても戦いを選ぶのですね……わかりましたわ」
 女の踵がカツン、と鳴った。
「一人一人、確実に殺しなさい」
 女の命が下りるやいなや、直立不動だった剣機達が予備動作無く動き始める。
「此度はプロイス家の砦の奪還及び、契約者に成り果てたリンダ・プロイスの処刑を行う。契約者と成り人として果てたこと、父祖の霊に詫びるがいい」
 ルイトガルトの宣言と共にハンター達もまた、各々構えた武器を手に走り出した。



 先手を取ったのはハンター側。
 真はアルマの傍へと走り盾を構え、アルマの生み出した3本の紺碧の流星がリンダと傍にいた剣機2体を貫き、旭と枢は近い剣機に狙いを定め暴風の如き二連撃と鋭い剣筋で斬り付ける。
 一方逃亡を阻止すべく、主攻撃を捨てて一気にリンダと顔を突き合わせるように接近したのはアリア。
「血で紡がれた闇夜の薔薇ね……私の刃が、斬るべきもの」
 アウレールはそれを見ておのれのマテリアルを炎のように燃え上がらせリンダへと距離を縮め、ルイトガルトはリンダへ接近すべく眼前の剣機へと竜尾刀で切り上げ、その脇からエリオが抉るように拳を剣機の腹部へ叩き込む。
 コーネリアは素早く周囲に視線を飛ばす。室内はちょっとした作戦会議室のような様相だが、普段なら中央に置かれているのであろう長机が隅に押しやられているお陰でただっ広い空間へとなっている。
 身を隠せるようなモノは何もなく、隣室に戻り壁や扉を盾に戦うしかなさそうだった。
 コーネリアは素早く身を翻すと扉の前から銃を構える。コーネリアの周囲を雪のようなオーラが舞い、銃口に集まっていく。
「まだわからんのか?貴様は歪虚にいいように利用されているに過ぎない。ただの消耗品なんだ」
 引き金を引くと蒼白い輝きを纏った冷気がリンダを穿った。しかし、リンダは服に付いた氷を払うと、艶然と微笑んだ。
「ダメよ。中途半端な冷気は薔薇を枯らしてしまうもの」
 その次の瞬間、濃厚な負のマテリアルがリンダから放たれた。リンダの真っ紅なロングドレスの裾から禍々しい茨の幻影が部屋中を覆い、それはハンター達の全身を鞭打った。
 大きく息を乱しながら後方へ下がったリンダに続き、剣機達が一斉に動き出す。
 2体の剣機が両手を突きだした。黒い炎弾はアルマと真、コーネリアを巻き込み爆発する。
「ルイトガルトさん!」
 剣機の攻撃を斧槍の柄で弾き返した旭がエリオの声に視線を向けると、深く大腿を切りつけられ膝を着いたルイトガルトが見えた。
 そして、超聴覚で北側の部屋から幽かな足音を捕らえた旭が警告を発した。
「一体、北の部屋に隠れてる!」
 扉が開け放たれると同時に、黒い炎弾がエリオとルイトガルト、コーネリアへと向かい爆ぜた。
「さぁ、お引き取り願って頂戴」
 リンダの声と同時にリンダの周囲には再び茨が今度はリンダを守る結界の様に蔓延る。
 剣機達の猛襲を受けきり、アリアがリンダへ近付こうと踏み込むが茨がアリアを拒絶する。
 ディヴァインウィルに似ているが範囲が広い。ここからでは大太刀の切っ先も届かないことに歯噛みする。
 枢が剣機を斬り伏せ塵へと還し、旭はその奥にいる術士剣機へと斧槍を振り下ろしながらその茨の結界の性質を見る。近づけない以上遠距離からの攻撃を当てるか、逃走進路を妨害するように動くしかない。
 扉は4つ。背後の北は地図が確かで二階と同じ造りならばなら投石機があるだけの部屋。東西は自分達とアルマ達が近く、南だけが人がいないが、アウレールとアリアが張り付いている為逃亡を抑えることは可能だろう。
 一方でこの人数とこの状態でこの場に留まり続けるリンダの目的がわからず、エリオは剣機に拳を叩き込みながら声を掛けた。
「剣機博士とはどういう取引をしたんだい?」
「この砦を手中に」
 リンダの顔色は悪い。恐らく技の負担が身を焼いているのだ。
「随分辛そうですねぇ。お顔がすっごく歪んでますよー?」
 暁を放つには射線上にアリアがいるため、流星を飛ばしながらアルマが更に煽る。
 だが、リンダはその挑発には乗って来ない。あくまで哀れな子どもをみるような目でアルマを静かに見下すだけだ。
「……なるほど、それが貴様の貴族としての矜持か。だが自然の摂理に逆らい若さにしがみつくその姿、老醜と言わず何という。朽ちよフラウ。この瞬間、貴様は何よりも見苦しい」
 一歩、アウレールが茨の中に歩みを進めた。
 侵入されたことにリンダは驚いたように双眸を見開いた。
 その隙を逃さず銃弾がリンダの左肩口を貫き、凍らせた。
「自らの意志で歪虚に魂を売り渡した以上もはや貴様に救いの道はない。星屑の海に消えろ!」
 しかし幾度も魔法攻撃の直撃を受けていたコーネリアは、次の爆煙を避けきれず遂に倒れた。
 アルマと真が相手にしていた剣機が塵へと還り、エリオとルイトガルト、そして枢と旭それぞれが対峙していた剣機も塵へと還った。
 あとは術士系1人とリンダだけとなり、リンダは困ったように小首を傾げた。
「どうしましょう……剣機様に何もまだお返しが出来ていませんのに……」
 その言葉を黙殺し、ついに刀の射程まで結界内に侵入したアリアは友の祈りと白銀のマテリアルを舞い散らせながら渾身の力を込めて大太刀を振り下ろした。
「手向けの剣華よ。血の薔薇が黒ずむ前に、赤く散り逝きなさい」
 その後ろからアウレールの突撃槍による刺突がリンダの大腿を貫いた。
 リンダが姿勢を崩すと同時に結界が消える。ルイトガルトが一気に間合いを詰めてその首を刎ねたが、直後剣機の爆煙を受けて彼女もまた倒れた。

 最後の剣機を塵へと還し、アルマはリンダのいた場所を見る。その場には血糊の代わりに赤い薔薇の花弁が残っていた。
 枢がその花弁の中から薔薇の装飾のされた手鏡を拾い上げたが、本来鏡面があるところには何もなく旭と共に首を傾げる。
 目標は達成された。しかし、残された謎は謎のまま闇へと消えたのだった。

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MVP一覧

重体一覧

  • 非情なる狙撃手
    コーネリア・ミラ・スペンサーka4561
  • 三千世界の鴉を殺し
    連城 壮介ka4765
  • 戦場に疾る銀黒
    ルイトガルト・レーデルka6356

参加者一覧

  • 戦地を駆ける鳥人間
    岩井崎 旭(ka0234
    人間(蒼)|20才|男性|霊闘士
  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラント(ka2531
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 非情なる狙撃手
    コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561
    人間(蒼)|25才|女性|猟撃士
  • 三千世界の鴉を殺し
    連城 壮介(ka4765
    人間(紅)|18才|男性|舞刀士
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • 祓魔執行
    央崎 枢(ka5153
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • 緑青の波濤
    エリオ・アスコリ(ka5928
    人間(紅)|17才|男性|格闘士
  • 戦場に疾る銀黒
    ルイトガルト・レーデル(ka6356
    人間(紅)|21才|女性|舞刀士
  • 紅の月を慈しむ乙女
    アリア・セリウス(ka6424
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/12/25 19:26:26
アイコン 相談卓
エリオ・アスコリ(ka5928
人間(クリムゾンウェスト)|17才|男性|格闘士(マスターアームズ)
最終発言
2016/12/27 01:45:25
アイコン 質問卓
エリオ・アスコリ(ka5928
人間(クリムゾンウェスト)|17才|男性|格闘士(マスターアームズ)
最終発言
2016/12/26 14:31:03