ゲスト
(ka0000)
【剣機】変わらざる者
マスター:神宮寺飛鳥

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/10/07 19:00
- 完成日
- 2014/10/12 14:36
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
帝都バルトアンデルスでの決戦と並行し、第五師団都市であるグライシュタットにて繰り広げられる戦いは混迷の最中にあった。
十分な戦力も準備出来ず、ハンターの大部隊も帝都側に駆り出されているこの状況の中、救える物はそう多くない。
第五師団の精鋭、そして師団長であるロルフとオズワルドが剣機と戦う中、グライシュタット都市部では第九師団とハンターによる救援活動が行われていた。
このハンターの一団もそんな依頼を受けた部隊の一つであり、第九師団の兵達と即席の連携を組み、逃げ遅れた住民の救助と敵の殲滅を行っていた。
ハンターの繰り出す刃がゾンビを切り裂くが、そこには助けられなかった住民の無残な亡骸が幾つも転がっている。
「くそ、駄目だ……コンテナの投下地点に近すぎた。今からでは間に合わないのか……」
せっかく準備してきた治療道具も相手が死んでしまっていては役に立たない。悔しげに呟く兵士にハンターは首を横に振る。
「そうだな……俺たちが諦めるわけにはいかない。師団長やハンターの精鋭が剣機を倒してくれると信じて、今は自分に出来る事を全うしよう」
「こっちだ! この先の地区で保護活動を行っている部隊がある! 合流して対処するぞ!」
兵士たちの後に続き町を走るハンター。その時、強烈な違和感が彼らを襲った。
何か、とても拙い事が起きている……そんな予感がする。本能に訴えかけるような悪寒を堪えて前に進むと、小さな広場へと出る。
目を見開いたのはそこで何が起きてるのか理解出来なかったからだ。何人ものおそらく兵士であったであろう者達の亡骸がひどく無残な状態で転がっていた。
幾つも、幾つも……だから足元に転がっているのが彼らだった物だとは想像できず、この真っ赤に染まった石畳は最初からそういうデザインだったと、そう思いたかった。
だが現実は違う。視線の先には一体の大型の歪虚が、そしてその前には一人の女が立っている。
女の手には兵士の一部が握られていた。頭上に掲げたその切断面から流れ出る赤い液体を、蛇のように長い舌で掬い飲み干しているその異様な姿にどっと汗が噴き出してくる。
ああ――これは拙いものだ。きっと遭遇してはいけなかった。心拍数が上がっていく。明らかにあれは、関わり合いになってはいけない。
「……あらぁ? また無粋な邪魔者かしらぁ? 面倒ねぇ……」
ニコリと笑い、女は真っ赤に染まった口元を拭う。ぞっとするほど美しいが、とても女として見られたものではない。
ふと周囲を見やると覚醒者ではない兵士たちはすっかり怯え、竦み上がっていた。無理もない。精霊の加護でも受けなければ、こんな所に立っていられない。
「な、な、なんなんだあれ……わ、歪虚なのか? エ……エルフ?」
「何人死んだんだ、ここで……。何人殺されたらこんなになるんだよ……!」
女は黒いローブのフードを脱ぎ、青白い素顔を露わにする。不自然に鮮やかな青い唇が歪み、女はうっとりするような声で語り掛ける。
「――なんだとは失礼ねぇ? なんだもなにも、掛け値なしの美女じゃないの。あたしって……きれいでしょお?」
兵士たちはガチガチと噛み合わない歯を打ち鳴らす。恐怖に耐えきれず、口元を抑えた一人が膝を着き嘔吐すると、女はひどく不機嫌に言った。
「……私を見て吐くって、どういう了見なのかしら?」
次の瞬間だらりと下げたままの女の手の中に周囲の血液が収束していく。作り出されたのは杭のような結晶で、くいっと指先を動かしただけでそれがすっ飛んでくる。
間一髪で串刺しになるところを助けたのはハンターだった。兵士が先ほどまで頽れていた場所には結晶の槍が突き刺さっている。
「ふぅん……? 動けるのねぇ?」
女を睨み返すハンター。その腕の中で兵士が呟く。
「た、助けてくれてありがとう。だけど……む、無理だ。君たちでも勝てるわけがない。あれは……戦っちゃいけない相手だ……!」
女が手をかざすと、その掌に血が螺旋を描いて集まっていく。赤い光が爆ぜ、空中に飛び散った血液は無数の槍を作り出す。
「レディの食事を邪魔した挙句、芸の一つも出来ないなんて……何の価値もないわねぇ。もうお腹もいっぱいだし。あなた達は――食べてあげなぁい」
振り下ろす腕の動きに合わせ一斉に放たれた槍がハンター達へと降り注ぐ。ハンター達はその攻撃から仲間を守ろうと立ち向かうが、成す術もなく吹き飛ばされてしまった。
痛みを堪え何とか立ち上がると、周囲には倒れた兵士達の姿がある。ここまで共にこの町で戦ってきた相手だ。ついさっきまで確かに生きていたのに……。
「逃げてくれ……君たちだけ……でも……」
ハンターも今の攻撃で決して無視できない傷を負ってしまった。しかしまだ立ち上がれる。
「まだ生きてるの? いつまでも相手するほど暇じゃないのよねぇ……まあいっかぁ。後はてきとぉに処分しといてぇ」
女はもう興味なさげに背を向けている。何が退屈なのか、欠伸をしながらふわりと空に浮かび、そこで足を組んでいる。
この状況で、彼女は全く自分たちを眼中に置いていない。その代わりに前に出てきたのは彼女の傍らに立っていた大型のゾンビだ。
長大な斧槍を引きずり、全身をボロ布で覆ったその姿は邪悪そのもので、生半可な敵ではない事がすぐにわかる。
「うぅ……ちくしょう。死にたくねぇ……死にたくねぇよぉ……」
「足が動かない……こんな所で……誰も救えずに、僕は……っ」
振り返ると背後には傷ついた兵士たちが転がっている。既に事切れている者もいるが、急げばまだ助かるかもしれない者もいる。
だがまともにあの化け物と戦えばきっと無事では済まないだろう。傷ついた兵士を連れてここから逃げ出す……それはきっと難しい事だ。
怪物が近づいてくる。地鳴りと共に鋼鉄の斧槍を引きずり。ハンターは既に事切れた兵士の手を放し、逃げろと言った彼の願いを反芻する。
「……バカねぇ。とっとと立ち去ればいいのに」
目端の涙を拭い、退屈そうに女が呟く。立ち上がったハンターは傷だらけの手で得物を構えた。
どうする事が正しいのだろう? 今の自分に、一体何が出来る?
自問自答の声をかき消すように、怪物の咆哮が広場に響き渡った――。
十分な戦力も準備出来ず、ハンターの大部隊も帝都側に駆り出されているこの状況の中、救える物はそう多くない。
第五師団の精鋭、そして師団長であるロルフとオズワルドが剣機と戦う中、グライシュタット都市部では第九師団とハンターによる救援活動が行われていた。
このハンターの一団もそんな依頼を受けた部隊の一つであり、第九師団の兵達と即席の連携を組み、逃げ遅れた住民の救助と敵の殲滅を行っていた。
ハンターの繰り出す刃がゾンビを切り裂くが、そこには助けられなかった住民の無残な亡骸が幾つも転がっている。
「くそ、駄目だ……コンテナの投下地点に近すぎた。今からでは間に合わないのか……」
せっかく準備してきた治療道具も相手が死んでしまっていては役に立たない。悔しげに呟く兵士にハンターは首を横に振る。
「そうだな……俺たちが諦めるわけにはいかない。師団長やハンターの精鋭が剣機を倒してくれると信じて、今は自分に出来る事を全うしよう」
「こっちだ! この先の地区で保護活動を行っている部隊がある! 合流して対処するぞ!」
兵士たちの後に続き町を走るハンター。その時、強烈な違和感が彼らを襲った。
何か、とても拙い事が起きている……そんな予感がする。本能に訴えかけるような悪寒を堪えて前に進むと、小さな広場へと出る。
目を見開いたのはそこで何が起きてるのか理解出来なかったからだ。何人ものおそらく兵士であったであろう者達の亡骸がひどく無残な状態で転がっていた。
幾つも、幾つも……だから足元に転がっているのが彼らだった物だとは想像できず、この真っ赤に染まった石畳は最初からそういうデザインだったと、そう思いたかった。
だが現実は違う。視線の先には一体の大型の歪虚が、そしてその前には一人の女が立っている。
女の手には兵士の一部が握られていた。頭上に掲げたその切断面から流れ出る赤い液体を、蛇のように長い舌で掬い飲み干しているその異様な姿にどっと汗が噴き出してくる。
ああ――これは拙いものだ。きっと遭遇してはいけなかった。心拍数が上がっていく。明らかにあれは、関わり合いになってはいけない。
「……あらぁ? また無粋な邪魔者かしらぁ? 面倒ねぇ……」
ニコリと笑い、女は真っ赤に染まった口元を拭う。ぞっとするほど美しいが、とても女として見られたものではない。
ふと周囲を見やると覚醒者ではない兵士たちはすっかり怯え、竦み上がっていた。無理もない。精霊の加護でも受けなければ、こんな所に立っていられない。
「な、な、なんなんだあれ……わ、歪虚なのか? エ……エルフ?」
「何人死んだんだ、ここで……。何人殺されたらこんなになるんだよ……!」
女は黒いローブのフードを脱ぎ、青白い素顔を露わにする。不自然に鮮やかな青い唇が歪み、女はうっとりするような声で語り掛ける。
「――なんだとは失礼ねぇ? なんだもなにも、掛け値なしの美女じゃないの。あたしって……きれいでしょお?」
兵士たちはガチガチと噛み合わない歯を打ち鳴らす。恐怖に耐えきれず、口元を抑えた一人が膝を着き嘔吐すると、女はひどく不機嫌に言った。
「……私を見て吐くって、どういう了見なのかしら?」
次の瞬間だらりと下げたままの女の手の中に周囲の血液が収束していく。作り出されたのは杭のような結晶で、くいっと指先を動かしただけでそれがすっ飛んでくる。
間一髪で串刺しになるところを助けたのはハンターだった。兵士が先ほどまで頽れていた場所には結晶の槍が突き刺さっている。
「ふぅん……? 動けるのねぇ?」
女を睨み返すハンター。その腕の中で兵士が呟く。
「た、助けてくれてありがとう。だけど……む、無理だ。君たちでも勝てるわけがない。あれは……戦っちゃいけない相手だ……!」
女が手をかざすと、その掌に血が螺旋を描いて集まっていく。赤い光が爆ぜ、空中に飛び散った血液は無数の槍を作り出す。
「レディの食事を邪魔した挙句、芸の一つも出来ないなんて……何の価値もないわねぇ。もうお腹もいっぱいだし。あなた達は――食べてあげなぁい」
振り下ろす腕の動きに合わせ一斉に放たれた槍がハンター達へと降り注ぐ。ハンター達はその攻撃から仲間を守ろうと立ち向かうが、成す術もなく吹き飛ばされてしまった。
痛みを堪え何とか立ち上がると、周囲には倒れた兵士達の姿がある。ここまで共にこの町で戦ってきた相手だ。ついさっきまで確かに生きていたのに……。
「逃げてくれ……君たちだけ……でも……」
ハンターも今の攻撃で決して無視できない傷を負ってしまった。しかしまだ立ち上がれる。
「まだ生きてるの? いつまでも相手するほど暇じゃないのよねぇ……まあいっかぁ。後はてきとぉに処分しといてぇ」
女はもう興味なさげに背を向けている。何が退屈なのか、欠伸をしながらふわりと空に浮かび、そこで足を組んでいる。
この状況で、彼女は全く自分たちを眼中に置いていない。その代わりに前に出てきたのは彼女の傍らに立っていた大型のゾンビだ。
長大な斧槍を引きずり、全身をボロ布で覆ったその姿は邪悪そのもので、生半可な敵ではない事がすぐにわかる。
「うぅ……ちくしょう。死にたくねぇ……死にたくねぇよぉ……」
「足が動かない……こんな所で……誰も救えずに、僕は……っ」
振り返ると背後には傷ついた兵士たちが転がっている。既に事切れている者もいるが、急げばまだ助かるかもしれない者もいる。
だがまともにあの化け物と戦えばきっと無事では済まないだろう。傷ついた兵士を連れてここから逃げ出す……それはきっと難しい事だ。
怪物が近づいてくる。地鳴りと共に鋼鉄の斧槍を引きずり。ハンターは既に事切れた兵士の手を放し、逃げろと言った彼の願いを反芻する。
「……バカねぇ。とっとと立ち去ればいいのに」
目端の涙を拭い、退屈そうに女が呟く。立ち上がったハンターは傷だらけの手で得物を構えた。
どうする事が正しいのだろう? 今の自分に、一体何が出来る?
自問自答の声をかき消すように、怪物の咆哮が広場に響き渡った――。
リプレイ本文
「くそ、今ので何人殺られた……?」
体に刺さった血の刃を引き抜きながら膝をついた春日 啓一(ka1621)が周囲を見やる。随伴兵は、今や半数以上が戦死していた。
「なんてこった……」
険しい表情で呟くエアルドフリス(ka1856)。レイス(ka1541)もまた強く拳を握りしめていた。
忘れていたわけではない。だが今鮮明に思い出す。歪虚とはこういうものだと。一面に広がる死と鮮血の景色、しかし挫けている暇などありはしない。
「ほ、こりゃあ僥倖。涼しい顔してこの有様とは、全く大層な美女だ」
パイプを咥え笑みを浮かべるエアルドフリス。三日月 壱(ka0244)は頬の血を拭い、謎の女を睨む。女は隙だらけに見えるが、ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)は目を細め。
「あの青い女が何者かは分かりませんが、正直言って今の私達の手に負える相手ではなさそうですね」
「どうやらそのようだ。今の我々では力不足であろう」
地に剣をつき、アウレール・V・ブラオラント(ka2531)が立ち上がる。本能的に理解出来る。あれは、目の前の巨人より遥かに格上の怪物だと。
「この状況じゃどちらにせよ戦って勝てるかどうかなんて問題じゃないわ。今は皆で生還する事を考えましょう」
「同感じゃ。まだ息のある者を見殺しには出来ぬからのう」
エイル・メヌエット(ka2807)とカナタ・ハテナ(ka2130)は頷き合い背後に倒れる兵士達に目を向ける。
「まずは彼らを安全な場所へ! 誰か手を!」
ユーリの声に駆け出すエアルドフリスとカナタ。三人は倒れている兵士を担ぎ、安全な場所まで移動させる。
本当は馬でもあればよかったのだが、精霊の加護があっても耐え難い重圧の真っ只中。まともに動物が使える状況ではなかった。
全員で移送出来れば纏めて運べるのだがそうもいかない。彼らの目の前には既に斧槍を振り上げたトウルストが迫っていたのだから。
「行け! 奴の相手は引き受ける!」
駆け出す啓一を心配そうに振り返るユーリ。しかし直ぐに兵士を背負って走り出す。巨人の斧槍が大地を薙ぎ払うが、レイスと壱は飛び越えるようにして背後へ。
「遅えんだよ! その図体はこけおどしか!」
「貴様の相手はこっちだデカブツ……! 来い、俺達の意地を見せてやる!」
二人を視線で追う巨人。その死角から啓一とアウレールが接近、ドリルナックルと剣でそれぞれ攻撃を加える。巨人のパワーは凄まじいが、反応はゾンビの例に漏れず鈍い。
四人が交互に攻撃を引きつけ反撃する事で足止めする中、エイルは現場に残された二人の負傷者に駆け寄りヒールを施す。しかし、上手くスキルを発動出来ない。
「やめてよね……ここまで来て助けられないなんて……そんなの」
目の前で消えゆく命の灯を黙って見ているなんて御免だ。そんなのはもう嫌だと思ったからここにいるのに。
深く息を整え、精神を集中する。強く、決意と祈りを持って挑めば不可能ではないはずだ。
「どうか……聖なる精霊の加護を!」
一方、巨人と交戦する四人もスキルの不発に焦りを感じていた。時間は稼げているが、自己回復が捗らない。
「回復が発動しねえ……!?」
「これではスキルはあてにならないか」
振り下ろされた巨人の一撃から背後へ跳びつつ壱が歯噛みする。啓一は不安定な右手の光に目を細めた。
「この場を支配する威圧感はあの女への本能的な恐怖から来るものだ。ならばあの女を可能な限り意識の外側へ置けばいい」
「簡単に言いますけどねぇ、アウレールさん。アレを無視するのは結構厳しいですよ?」
壱の言う通り、女はこちらを見ていないがそれでも得体の知れない薄気味悪さを感じる。
「普段よりもマテリアルの流れを意識するんだ。一つ一つを丁寧にこなすしかない」
「気を強く持てって事ですかねぇ?」
レイスの言葉に苦笑を浮かべる壱。気休めかもしれないがやってみる価値はある。
回復を試しながら巨人とやりあう四人だが成功率は低い。一方回復に専念しているエイルの成功率は若干ましなようだ。やはり集中力は関係あると見てよいだろう。
巨人はゆっくりと腰を落とし、口に光を収束させる。放たれた機導砲は壱にかわされたが、巨人は発射状態のままゆっくりと首を回転させる。
回転し始めた首は周囲を閃光で何度も薙ぎ払う。狙いは出鱈目だが、だからこそ倒れた兵士とエイルにも迫った。
「今攻撃を受けたら……っ」
盾を構え兵士を庇うエイル。光が横ぎった盾が赤熱し、衝撃で持ち上がる。目を見開くエイル、その側面から腕が伸び、盾を地面に押し付けた。
「春日さん……!?」
啓一は自らの盾も大地に突き立てるようにして兵士への壁を作る。エイルは砲撃を受け続ける啓一を前に光の壁を展開する。
「レイス殿、ミカヅキ殿! この攻撃、足元がお留守だ!」
滅茶苦茶に薙ぎ払う閃光の中アウレールが叫ぶ。確かに足元は安全地帯。すぐさま三人は駆け寄り、足へ攻撃を集中する事で巨人の体制を崩しにかかる。
傾いた巨人が上を向く事で機導砲は建造物の壁を吹き飛ばしながら空へ昇り、遅れて赤熱した壁が、地面が爆ぜるようにして轟音を響かせた。
「何の音ですか……?」
現場から離れた民家の中に負傷兵を下ろしつつ振り返るユーリ。カナタは負傷兵に回復を施しつつ兵士が持っていた短伝で本隊へ連絡を試みていた。
「軍用短伝とは言え、距離が遠いのか上手く通じんのう……!」
「道中他の兵にも遭遇しませんでした。恐らくあの広場に倒れていたのがそうだったのでしょう」
「だとすると、この近辺には友軍はいないという事になるのう。カナタは短伝で連絡を続けてみる。二人は残りの負傷兵を頼むのじゃ」
頷くユーリとエアルドフリス。兵士の一人はそんな三人に首を横に振る。
「もういい……あんた達だけでも逃げるんだ。俺たちはもう助からん……」
「何を弱気になっとるんだ、あんた」
「前が良く見えないんだ……俺が死んだら、家族にこれを……」
兵士が取り出した指輪を掌の上から握りしめエアルドフリスは笑みを浮かべる。
「あんた、出身は? ほう、訪れた事がある。良い街だ。あの店は何て名だったかね、広場の……いい酒と、いい女がいるいい店だ。今度一緒に飲もうじゃないか……え? 大丈夫、きっと助かる。助けてみせるさ」
カナタに頷きかけ、エアルドフリスは立ち上がる。血の付いた右手を強く握り、ユーリと共に再び広場へと駆け戻った。
広場へ戻った二人がまず見たのは倒れている啓一とエイルの姿だった。
「啓一!?」
「ユーリおばはん……か? エイルのねーさんと、兵士は……?」
「全く無茶をして! 無事とは言い難いですが、ちゃんと生きていますよ」
「なら十全だ。まだ仲間が戦ってる……兵士は頼んだ」
立ち上がる啓一。ユーリも手を貸したいが、今は兵士の輸送が優先だ。
「すまん、すぐに戻る。もう少しだけ堪えてくれ」
兵士を担ぎ走り去るエアルドフリスを見送るエイル。啓一にヒーリングを施し微笑む。
「ありがとう、春日さん」
「礼を言うには少し早い」
頷き、エイルは仲間にヒールを施していく。既に兵士は逃がした。十分任務は果たしたと言えるだろう。だがハンター達は退こうとは考えなかったようだ。
「どうやら兵士は無事に逃れたようだな」
「じゃ、もうここからは気にしなくていいんですねぇ?」
「ああ。時間稼ぎは構わんが――別に、倒してしまっても構わんのだろう?」
並んで武器を構えるアウレール、壱、レイス。実際この三人は強い。スキルを封じられた状態でも量産型剣機を圧倒している程だ。
「――へぇえ、驚いた。あなた達まだいたの?」
背筋を震わせるハンター達。いつの間にか謎の女がこちらを向いている。そして楽しげに笑い。
「ふうん、それ結構強い玩具なんだけど、凄いわね。でもちょっと生意気だから、ハードルあげちゃおうかしら?」
女が指を鳴らすと広場に満ちた血液が渦巻き巨人へと降り注ぐ。血は結晶化し損傷を塞ぎ、鎧を成して姿を変えていく。
斧槍は血の大鎌となり、怪物は結晶の騎士へ変貌を遂げた。更に女の意識がこちらへ向いた瞬間、重力にも似た強烈な圧力を感じる。
「……おい、ざっけんな! アリかこんなの!?」
「フフ、アハハ! そうか、これが歪虚、ヒトならざるモノか!」
冷や汗を流す壱。アウレールは笑い、レイスは槍を構え直す。
「来るぞ!」
片手で鎌を回転させ素早く薙ぎ払う巨人。その速力は先ほどまでとは比べ物にならない。
回避しようとしたレイスだがスキルが不発、かつ足に力が入らずに直撃を受ける。間に槍をかませても軽々と吹っ飛び、民家の壁を突き破り姿を消した。
「レイスさん!」
「目を離すなミカヅキ殿!」
目を見開き背後に跳ぶ壱。続いての一撃をアウレールが剣で受けるが、やはり全身が衝撃で軋み、大きく弾かれる。
「だめ……戦っちゃだめよ! このままじゃ!」
守りに徹したアウレールがよく堪えているが、補助をかけようにもスキルが発動しない。エイルは悔しそうに杖を睨む。
「お願いだから皆を守ってよ……!」
「な……なんじゃこれは? どういう状況じゃ!?」
そこへカナタ、エアルドフリス、ユーリが合流。明らかな状況の変化に戸惑いつつ参戦する。
「三日月どんが無線に応じなくなったと思ったら、こういう事じゃったか。何とか第九師団と連絡がついたので兵士は任せたが……すまぬ、増援は呼んでおらん!」
一般兵が集まったところで逆に危険だと考えたのだ。そして今となってはこの敵からまともに逃げるのも難しい。
「遅参申し訳ない……が、ここから巻き返すぞ」
エアルドフリスは炎、カナタは光の力を味方に施す。発動しない事もあるが、繰り返すしかない。
「啓一!」
ユーリは太刀に炎を纏い駆け出す。啓一はそんなユーリに向けて大盾を構えると、ユーリはそれを足場に跳躍。巨人の頭部へと斬りかかった。
しかし刃は結晶の鎧を砕いただけに終わる。巨人は落下するユーリを左腕で掴むと握り潰しにかかった。
「ユーリを……放しやがれ!」
腕に飛びついた啓一はドリルナックルで攻撃しユーリ解放を試みる。そこへ瓦礫を跳ね除け復帰したレイスが槍を前に突っ込んできた。
「レイス殿、無事であったか!」
「奇跡的にな。間抜けに気は失ったが……!」
あの瞬間、きっと誰かの加護が無ければ命はなかった。口から流れる血をぬぐいもせず、レイスは足に突撃する。
「ぐっ、堅すぎる……っ」
壱は炎を纏った剣を、そしてアウレールは光を纏った剣で左右から同時に足を攻撃。結晶を砕き深く食い込んだ一撃で体勢が崩れると巨人はユーリを解放。それを抱き止め、啓一は背後へ飛ぶ。
「無事か?」
「ええ……思ったほどの傷はありません」
普通なら潰されていそうな様子だったが、ユーリもまだ立ち上がれる。これも奇跡と呼ぶほかない。
「この感じ……マテリアルが繋がっていくような……」
エイルも不思議な感覚を覚えていた。全員が揃った辺りから、徐々にスキルの不発が収まりつつある。
「誰かに想われている、この場にいる皆の意思を感じる……こんな事があるのかね」
一人ではない事が力になる。エアルドフリスは深呼吸を一つ、精神を集中させていく。
巨人が振り下ろす鎌の一撃を壱とアウレールが同時に受け、レイスが槍で打ち返す。原理は不明だ。しかし仲間の動き方が直感的にわかれば、連携は決まる。
口を開き光を収束させる巨人。壱は巨人の腹を蹴り跳躍、顎を下から剣で撃ち射線を上に反らす。そこへ集中を終えたエアルドフリスが魔法を発動する。
「空、風、樹、地、結ぶは水。天地均衡の下……巡れ」
大地を砕いて浮き上がった岩盤が巨人の顔面にめり込む。ユーリに続きこれで結晶は完全に砕けた。続きレイスが構えた槍に飛び乗り、跳躍したアウレールが剣を振り下ろす。
「ブラオラントの剣技、拙くとも退屈しのぎにはなろうッ!」
衝撃が迸り爆発する砲身。燃え上がる頭部を横目にカナタはレイスと共に傷ついている足を攻撃する。
カナタのドリルで更に抉った傷をレイスは槍で貫き、横に力いっぱいねじることで足を折る事に成功する。左腕をついて巨人が倒れればユーリと啓一がその腕を攻撃、切断に成功する。
更に巨人が倒れこむと、ハンターの一斉攻撃が襲う。ここで仕留めねば後はないとばかりに滅多刺しにすると、巨人は咆哮をあげ大きくのけ反った。
「はいはい自爆だろ! 知ってんだよ間抜け!」
「退くぞ! 俺達の……勝ちだ!」
壱とレイスの声にハンターが一斉にいなくなると、巨人は炎を巻き上げ自爆した。立ち上る炎を挟み、傷だらけのハンターと女が対峙する。
「良く見たら綺麗な顔をしている。よかったらお名前を聞かせてくれませんかねぇ」
「淑女を自称するなら名前ぐらい置いて行け。俺はレイス。ハンターだ」
壱とレイスの声に女は肩を竦め。
「あなた達は道端の石一つ一つに自己紹介して歩くの?」
「美しいお嬢さん、あんたにとって俺達は路傍の石と同じかい」
肩を竦めるエアルドフリス。アウレールは女を睨み。
「確かに近頃の雑魚共も、上の片割れさえも、貴様に比べれば出来損ないもいいところ。そうだろう、剣妃?」
女はにこりと笑う。そう、きっと間違いない。この目の前の相手こそ、四霊剣の一角。
「ガラクタと同列に括って悪かった、全て貴様の玩具か?」
「いいえ? 私はただの見学よ。うちも結構複雑でね……うふふ」
血の翼を広げ女は舞い上がりハンター達を見下ろす。
「あなた達は結構楽しませてくれたから、石ころにも名前を刻んであげるわ。剣妃オルクス……あなた達が四霊剣って呼ぶ者の一人よ」
よろしくね、ハンターさん……女はそう呟き、小さく手を振ると飛び去った。
「お高くとまりやがって……ムカツク女だ」
舌打ちする壱。アウレールは空を睨む。
「いつか殺す、必ず殺す。貴様こそは私が討ち倒すに値する存在だ、あんな鉄屑ではなく真の歪虚、我ら帝国の敵……!」
「剣妃オルクス、か……」
呟くレイス。と、そんなハンター達の背後からエイルが駆け寄り。
「もう! 皆無茶しすぎよ! 本当に心配したんだから!」
「まあ、結果的に上手くいった事だしいいんじゃないか?」
「よくないの! 本当に死んじゃうかと……もう! ほら、早く傷を見せて!」
きょとんとした啓一の腕を取るエイル。ユーリはその様子に苦笑を浮かべた。
「しかし災難じゃったのう。ほれ、カナタも治療をしてやるから皆並ぶのじゃ。ついでに敵についてわかった事があれば教えて欲しいものじゃな」
「ああ。第九師団のクヴァール師団長にも報告せにゃならんからな……」
カナタの言葉に頷くエアルドフリス。漸く消えた威圧感から解放され、男は紫煙を吐き出し空を見上げるのであった。
体に刺さった血の刃を引き抜きながら膝をついた春日 啓一(ka1621)が周囲を見やる。随伴兵は、今や半数以上が戦死していた。
「なんてこった……」
険しい表情で呟くエアルドフリス(ka1856)。レイス(ka1541)もまた強く拳を握りしめていた。
忘れていたわけではない。だが今鮮明に思い出す。歪虚とはこういうものだと。一面に広がる死と鮮血の景色、しかし挫けている暇などありはしない。
「ほ、こりゃあ僥倖。涼しい顔してこの有様とは、全く大層な美女だ」
パイプを咥え笑みを浮かべるエアルドフリス。三日月 壱(ka0244)は頬の血を拭い、謎の女を睨む。女は隙だらけに見えるが、ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)は目を細め。
「あの青い女が何者かは分かりませんが、正直言って今の私達の手に負える相手ではなさそうですね」
「どうやらそのようだ。今の我々では力不足であろう」
地に剣をつき、アウレール・V・ブラオラント(ka2531)が立ち上がる。本能的に理解出来る。あれは、目の前の巨人より遥かに格上の怪物だと。
「この状況じゃどちらにせよ戦って勝てるかどうかなんて問題じゃないわ。今は皆で生還する事を考えましょう」
「同感じゃ。まだ息のある者を見殺しには出来ぬからのう」
エイル・メヌエット(ka2807)とカナタ・ハテナ(ka2130)は頷き合い背後に倒れる兵士達に目を向ける。
「まずは彼らを安全な場所へ! 誰か手を!」
ユーリの声に駆け出すエアルドフリスとカナタ。三人は倒れている兵士を担ぎ、安全な場所まで移動させる。
本当は馬でもあればよかったのだが、精霊の加護があっても耐え難い重圧の真っ只中。まともに動物が使える状況ではなかった。
全員で移送出来れば纏めて運べるのだがそうもいかない。彼らの目の前には既に斧槍を振り上げたトウルストが迫っていたのだから。
「行け! 奴の相手は引き受ける!」
駆け出す啓一を心配そうに振り返るユーリ。しかし直ぐに兵士を背負って走り出す。巨人の斧槍が大地を薙ぎ払うが、レイスと壱は飛び越えるようにして背後へ。
「遅えんだよ! その図体はこけおどしか!」
「貴様の相手はこっちだデカブツ……! 来い、俺達の意地を見せてやる!」
二人を視線で追う巨人。その死角から啓一とアウレールが接近、ドリルナックルと剣でそれぞれ攻撃を加える。巨人のパワーは凄まじいが、反応はゾンビの例に漏れず鈍い。
四人が交互に攻撃を引きつけ反撃する事で足止めする中、エイルは現場に残された二人の負傷者に駆け寄りヒールを施す。しかし、上手くスキルを発動出来ない。
「やめてよね……ここまで来て助けられないなんて……そんなの」
目の前で消えゆく命の灯を黙って見ているなんて御免だ。そんなのはもう嫌だと思ったからここにいるのに。
深く息を整え、精神を集中する。強く、決意と祈りを持って挑めば不可能ではないはずだ。
「どうか……聖なる精霊の加護を!」
一方、巨人と交戦する四人もスキルの不発に焦りを感じていた。時間は稼げているが、自己回復が捗らない。
「回復が発動しねえ……!?」
「これではスキルはあてにならないか」
振り下ろされた巨人の一撃から背後へ跳びつつ壱が歯噛みする。啓一は不安定な右手の光に目を細めた。
「この場を支配する威圧感はあの女への本能的な恐怖から来るものだ。ならばあの女を可能な限り意識の外側へ置けばいい」
「簡単に言いますけどねぇ、アウレールさん。アレを無視するのは結構厳しいですよ?」
壱の言う通り、女はこちらを見ていないがそれでも得体の知れない薄気味悪さを感じる。
「普段よりもマテリアルの流れを意識するんだ。一つ一つを丁寧にこなすしかない」
「気を強く持てって事ですかねぇ?」
レイスの言葉に苦笑を浮かべる壱。気休めかもしれないがやってみる価値はある。
回復を試しながら巨人とやりあう四人だが成功率は低い。一方回復に専念しているエイルの成功率は若干ましなようだ。やはり集中力は関係あると見てよいだろう。
巨人はゆっくりと腰を落とし、口に光を収束させる。放たれた機導砲は壱にかわされたが、巨人は発射状態のままゆっくりと首を回転させる。
回転し始めた首は周囲を閃光で何度も薙ぎ払う。狙いは出鱈目だが、だからこそ倒れた兵士とエイルにも迫った。
「今攻撃を受けたら……っ」
盾を構え兵士を庇うエイル。光が横ぎった盾が赤熱し、衝撃で持ち上がる。目を見開くエイル、その側面から腕が伸び、盾を地面に押し付けた。
「春日さん……!?」
啓一は自らの盾も大地に突き立てるようにして兵士への壁を作る。エイルは砲撃を受け続ける啓一を前に光の壁を展開する。
「レイス殿、ミカヅキ殿! この攻撃、足元がお留守だ!」
滅茶苦茶に薙ぎ払う閃光の中アウレールが叫ぶ。確かに足元は安全地帯。すぐさま三人は駆け寄り、足へ攻撃を集中する事で巨人の体制を崩しにかかる。
傾いた巨人が上を向く事で機導砲は建造物の壁を吹き飛ばしながら空へ昇り、遅れて赤熱した壁が、地面が爆ぜるようにして轟音を響かせた。
「何の音ですか……?」
現場から離れた民家の中に負傷兵を下ろしつつ振り返るユーリ。カナタは負傷兵に回復を施しつつ兵士が持っていた短伝で本隊へ連絡を試みていた。
「軍用短伝とは言え、距離が遠いのか上手く通じんのう……!」
「道中他の兵にも遭遇しませんでした。恐らくあの広場に倒れていたのがそうだったのでしょう」
「だとすると、この近辺には友軍はいないという事になるのう。カナタは短伝で連絡を続けてみる。二人は残りの負傷兵を頼むのじゃ」
頷くユーリとエアルドフリス。兵士の一人はそんな三人に首を横に振る。
「もういい……あんた達だけでも逃げるんだ。俺たちはもう助からん……」
「何を弱気になっとるんだ、あんた」
「前が良く見えないんだ……俺が死んだら、家族にこれを……」
兵士が取り出した指輪を掌の上から握りしめエアルドフリスは笑みを浮かべる。
「あんた、出身は? ほう、訪れた事がある。良い街だ。あの店は何て名だったかね、広場の……いい酒と、いい女がいるいい店だ。今度一緒に飲もうじゃないか……え? 大丈夫、きっと助かる。助けてみせるさ」
カナタに頷きかけ、エアルドフリスは立ち上がる。血の付いた右手を強く握り、ユーリと共に再び広場へと駆け戻った。
広場へ戻った二人がまず見たのは倒れている啓一とエイルの姿だった。
「啓一!?」
「ユーリおばはん……か? エイルのねーさんと、兵士は……?」
「全く無茶をして! 無事とは言い難いですが、ちゃんと生きていますよ」
「なら十全だ。まだ仲間が戦ってる……兵士は頼んだ」
立ち上がる啓一。ユーリも手を貸したいが、今は兵士の輸送が優先だ。
「すまん、すぐに戻る。もう少しだけ堪えてくれ」
兵士を担ぎ走り去るエアルドフリスを見送るエイル。啓一にヒーリングを施し微笑む。
「ありがとう、春日さん」
「礼を言うには少し早い」
頷き、エイルは仲間にヒールを施していく。既に兵士は逃がした。十分任務は果たしたと言えるだろう。だがハンター達は退こうとは考えなかったようだ。
「どうやら兵士は無事に逃れたようだな」
「じゃ、もうここからは気にしなくていいんですねぇ?」
「ああ。時間稼ぎは構わんが――別に、倒してしまっても構わんのだろう?」
並んで武器を構えるアウレール、壱、レイス。実際この三人は強い。スキルを封じられた状態でも量産型剣機を圧倒している程だ。
「――へぇえ、驚いた。あなた達まだいたの?」
背筋を震わせるハンター達。いつの間にか謎の女がこちらを向いている。そして楽しげに笑い。
「ふうん、それ結構強い玩具なんだけど、凄いわね。でもちょっと生意気だから、ハードルあげちゃおうかしら?」
女が指を鳴らすと広場に満ちた血液が渦巻き巨人へと降り注ぐ。血は結晶化し損傷を塞ぎ、鎧を成して姿を変えていく。
斧槍は血の大鎌となり、怪物は結晶の騎士へ変貌を遂げた。更に女の意識がこちらへ向いた瞬間、重力にも似た強烈な圧力を感じる。
「……おい、ざっけんな! アリかこんなの!?」
「フフ、アハハ! そうか、これが歪虚、ヒトならざるモノか!」
冷や汗を流す壱。アウレールは笑い、レイスは槍を構え直す。
「来るぞ!」
片手で鎌を回転させ素早く薙ぎ払う巨人。その速力は先ほどまでとは比べ物にならない。
回避しようとしたレイスだがスキルが不発、かつ足に力が入らずに直撃を受ける。間に槍をかませても軽々と吹っ飛び、民家の壁を突き破り姿を消した。
「レイスさん!」
「目を離すなミカヅキ殿!」
目を見開き背後に跳ぶ壱。続いての一撃をアウレールが剣で受けるが、やはり全身が衝撃で軋み、大きく弾かれる。
「だめ……戦っちゃだめよ! このままじゃ!」
守りに徹したアウレールがよく堪えているが、補助をかけようにもスキルが発動しない。エイルは悔しそうに杖を睨む。
「お願いだから皆を守ってよ……!」
「な……なんじゃこれは? どういう状況じゃ!?」
そこへカナタ、エアルドフリス、ユーリが合流。明らかな状況の変化に戸惑いつつ参戦する。
「三日月どんが無線に応じなくなったと思ったら、こういう事じゃったか。何とか第九師団と連絡がついたので兵士は任せたが……すまぬ、増援は呼んでおらん!」
一般兵が集まったところで逆に危険だと考えたのだ。そして今となってはこの敵からまともに逃げるのも難しい。
「遅参申し訳ない……が、ここから巻き返すぞ」
エアルドフリスは炎、カナタは光の力を味方に施す。発動しない事もあるが、繰り返すしかない。
「啓一!」
ユーリは太刀に炎を纏い駆け出す。啓一はそんなユーリに向けて大盾を構えると、ユーリはそれを足場に跳躍。巨人の頭部へと斬りかかった。
しかし刃は結晶の鎧を砕いただけに終わる。巨人は落下するユーリを左腕で掴むと握り潰しにかかった。
「ユーリを……放しやがれ!」
腕に飛びついた啓一はドリルナックルで攻撃しユーリ解放を試みる。そこへ瓦礫を跳ね除け復帰したレイスが槍を前に突っ込んできた。
「レイス殿、無事であったか!」
「奇跡的にな。間抜けに気は失ったが……!」
あの瞬間、きっと誰かの加護が無ければ命はなかった。口から流れる血をぬぐいもせず、レイスは足に突撃する。
「ぐっ、堅すぎる……っ」
壱は炎を纏った剣を、そしてアウレールは光を纏った剣で左右から同時に足を攻撃。結晶を砕き深く食い込んだ一撃で体勢が崩れると巨人はユーリを解放。それを抱き止め、啓一は背後へ飛ぶ。
「無事か?」
「ええ……思ったほどの傷はありません」
普通なら潰されていそうな様子だったが、ユーリもまだ立ち上がれる。これも奇跡と呼ぶほかない。
「この感じ……マテリアルが繋がっていくような……」
エイルも不思議な感覚を覚えていた。全員が揃った辺りから、徐々にスキルの不発が収まりつつある。
「誰かに想われている、この場にいる皆の意思を感じる……こんな事があるのかね」
一人ではない事が力になる。エアルドフリスは深呼吸を一つ、精神を集中させていく。
巨人が振り下ろす鎌の一撃を壱とアウレールが同時に受け、レイスが槍で打ち返す。原理は不明だ。しかし仲間の動き方が直感的にわかれば、連携は決まる。
口を開き光を収束させる巨人。壱は巨人の腹を蹴り跳躍、顎を下から剣で撃ち射線を上に反らす。そこへ集中を終えたエアルドフリスが魔法を発動する。
「空、風、樹、地、結ぶは水。天地均衡の下……巡れ」
大地を砕いて浮き上がった岩盤が巨人の顔面にめり込む。ユーリに続きこれで結晶は完全に砕けた。続きレイスが構えた槍に飛び乗り、跳躍したアウレールが剣を振り下ろす。
「ブラオラントの剣技、拙くとも退屈しのぎにはなろうッ!」
衝撃が迸り爆発する砲身。燃え上がる頭部を横目にカナタはレイスと共に傷ついている足を攻撃する。
カナタのドリルで更に抉った傷をレイスは槍で貫き、横に力いっぱいねじることで足を折る事に成功する。左腕をついて巨人が倒れればユーリと啓一がその腕を攻撃、切断に成功する。
更に巨人が倒れこむと、ハンターの一斉攻撃が襲う。ここで仕留めねば後はないとばかりに滅多刺しにすると、巨人は咆哮をあげ大きくのけ反った。
「はいはい自爆だろ! 知ってんだよ間抜け!」
「退くぞ! 俺達の……勝ちだ!」
壱とレイスの声にハンターが一斉にいなくなると、巨人は炎を巻き上げ自爆した。立ち上る炎を挟み、傷だらけのハンターと女が対峙する。
「良く見たら綺麗な顔をしている。よかったらお名前を聞かせてくれませんかねぇ」
「淑女を自称するなら名前ぐらい置いて行け。俺はレイス。ハンターだ」
壱とレイスの声に女は肩を竦め。
「あなた達は道端の石一つ一つに自己紹介して歩くの?」
「美しいお嬢さん、あんたにとって俺達は路傍の石と同じかい」
肩を竦めるエアルドフリス。アウレールは女を睨み。
「確かに近頃の雑魚共も、上の片割れさえも、貴様に比べれば出来損ないもいいところ。そうだろう、剣妃?」
女はにこりと笑う。そう、きっと間違いない。この目の前の相手こそ、四霊剣の一角。
「ガラクタと同列に括って悪かった、全て貴様の玩具か?」
「いいえ? 私はただの見学よ。うちも結構複雑でね……うふふ」
血の翼を広げ女は舞い上がりハンター達を見下ろす。
「あなた達は結構楽しませてくれたから、石ころにも名前を刻んであげるわ。剣妃オルクス……あなた達が四霊剣って呼ぶ者の一人よ」
よろしくね、ハンターさん……女はそう呟き、小さく手を振ると飛び去った。
「お高くとまりやがって……ムカツク女だ」
舌打ちする壱。アウレールは空を睨む。
「いつか殺す、必ず殺す。貴様こそは私が討ち倒すに値する存在だ、あんな鉄屑ではなく真の歪虚、我ら帝国の敵……!」
「剣妃オルクス、か……」
呟くレイス。と、そんなハンター達の背後からエイルが駆け寄り。
「もう! 皆無茶しすぎよ! 本当に心配したんだから!」
「まあ、結果的に上手くいった事だしいいんじゃないか?」
「よくないの! 本当に死んじゃうかと……もう! ほら、早く傷を見せて!」
きょとんとした啓一の腕を取るエイル。ユーリはその様子に苦笑を浮かべた。
「しかし災難じゃったのう。ほれ、カナタも治療をしてやるから皆並ぶのじゃ。ついでに敵についてわかった事があれば教えて欲しいものじゃな」
「ああ。第九師団のクヴァール師団長にも報告せにゃならんからな……」
カナタの言葉に頷くエアルドフリス。漸く消えた威圧感から解放され、男は紫煙を吐き出し空を見上げるのであった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
- ロクス・カーディナー(ka0162) → ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)
- 伊出 陸雄(ka0249) → エイル・メヌエット(ka2807)
- ジュード・エアハート(ka0410) → エアルドフリス(ka1856)
- マリア・ベルンシュタイン(ka0482) → ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)
- リコ・ハユハ(ka0542) → 春日 啓一(ka1621)
- エヴァンス・カルヴィ(ka0639) → 春日 啓一(ka1621)
- 星輝 Amhran(ka0724) → レイス(ka1541)
- グライブ・エルケイル(ka1080) → エイル・メヌエット(ka2807)
- 夢路 まよい(ka1328) → 三日月 壱(ka0244)
- ベル(ka1896) → エイル・メヌエット(ka2807)
- オキクルミ(ka1947) → レイス(ka1541)
- アルヴィン = オールドリッチ(ka2378) → エアルドフリス(ka1856)
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/10/02 13:36:50 |
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生きる為、汝自身を用意せよ レイス(ka1541) 人間(クリムゾンウェスト)|21才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2014/10/07 19:03:42 |