【歪型】燃えさかる森を背に

マスター:馬車猪

シナリオ形態
シリーズ(続編)
難易度
難しい
オプション
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
4~10人
サポート
0~10人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/01/27 19:00
完成日
2017/02/02 21:14

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 瑞瑞しい葉が一瞬で枯れた。
 太い幹に無数のひび割れが生じ、内側から爆発的に燃え上がる。
 雪で白かった地面は、土が剥き出しになり黄色く発光し溶けかけている。

 そんな地獄の如き悪環境から鉄の巨人が飛び出した。
 表面は焼け焦けていてかなり見窄らしい。
 けれど105ミリ口径長砲身を構える動きは実に滑らかで、数秒狙った後で見事な1射を放ってみせる。

 黒いドラゴンが宙で横転して105ミリ弾を回避。
 急加速してスナイパーライフルの射程外に逃れた。

 ユニット用スナイパーライフルでも反撃できない距離から、細く鋭いブレスが地面に向かって伸びる。
 CAMは分厚い盾を構えて重要部位と武装を守る。
 光の線がシールドを貫けず、装甲に沿い流れて何もない地面を赤熱させた。

 黒竜が訝しげに目を細めた。
 以前戦ったCAMより強いのに、ハンターが乗っていたCAMほどの脅威を感じない。

 大きく息を吸う。
 喉奥の負マテリアルと大気が反応して極悪な熱量が発生。
 喉が耐えられる限界まで貯めて、地形ごと吹き飛ばすつもりでブレスを放つ。

 熱に上向きの突風がわき起こる。
 巻き込まれた雪が空に向かって歪虚竜を隠し、半秒後に膨大な熱量によって吹き飛ばされた。

 一箇所焦げた森が、今度は数十メートルに渡って炭化させられていく。
 CAMはシールドで熱波を遮りつつ機敏に森から離れ、威力はあっても対ユニットとしては雑な狙いでしかない大火力を軽々と回避してみせた。

 ガルドブルムは困惑していた。
 久々の骨がある相手なのに何故か心が弾まない。
 狩るか狩られるか、食らうか食らわれるかの戦いのはずなのに食欲も他の欲も湧かない。

 一つ鼻を鳴らして滑空。
 スナイパーライフルの射程内に入り込んでから、今度はタメ無しで、その分威力も射程もほどほどの炎を放つ。

 CAMが躱す。
 ドラゴンが回避する。
 105ミリ弾が複数方向からドラゴンに迫って1発が鱗数枚を削る。
 速射ブレスがシールドを貫通してCAM胸部装甲まで到達する。

 黒竜がにやりと笑った。
 互いの刃が届くのは悪くない。
 射程が違いすぎるハンターとの戦いよりも楽しめるかもしれない。

 105ミリとは異なる発砲音。
 30ミリ弾の豪雨がスナイパーライフル装備機を背後から襲う。
 ライフルが転がり、穴だらけの機体が地面に倒れて亀裂が生じた。

『同士討ちだァ?』

 黒竜の機嫌は地の底まで急降下。
 怒りに任せ、力を限界以上に引き出し、炎という形で顕現させる。

 巨大な熱量が、大きな森と多数のCAMを覆い尽くした。


●黒竜襲来1時間前。野外実験場監視室

 モニター上にCAMと歪虚の戦いが再現されている。

 当たれば戦車の正面装甲を切り裂く刃が、戦車に比べれは脆く薄いシールドで受け流された。

 鉄の巨人が二足を使って数メートル跳ぶ。異様な飛び道具を躱すだけだけなくカタナの間合いに敵を捉える。

「CAMってファンタジーロボットだったっけ?」
「機導術はンな便利な技術じゃねーよ」
「ファンタジーなのは乗り手だ。うわ、例の黒竜より速い化け物に当てやがった」

 技術者達が頭を抱えている。
 実際の運用で得られた情報を活かしてCAMの強化に繋げたくはあるのだが、乗り手の技術が想像以上すぎて手が付けられない。

「この子はフルマニュアル操縦か。スティック操縦が速すぎて残像が出てるぞ」
「こっちの野郎は10秒以上前から先読みしてる」
「なあ、このちみっこ明らかに人間の限界越えた反応速度で入力してるんだけど」

 魔導型デュミナスは決して悪い機体ではない。ハンターの力に完全に対応できているとは口が裂けても言えない。

「仕方がないか。例のパーツ組み込んで動作実験しようぜ」
「アレか。操縦席には人を入れるなよ。万一食われたら俺等の首だけじゃすまん」
「実はもう組み込んでるんだほら」

 無線のスイッチをかちりとオンに。
 ディスプレイがするすると上に上がり、大きな窓から野外演習場とCAMの勇姿が見えてくる。
 灰色の魔導型デュミナスが、妙に生々しい動きで立ち上がった。

 試験が開始される。
 灰色機は最大射程の的に9割以上の確率で当てて、複数機でかかってきた無線操縦機を足払いで転がせて無力化する。

「いいプログラムを組むじゃねぇか」
「俺等以上ハンター未満か。これなら無人機計画に許可が出るかも……」
「いや俺あんな動き入力してないよ? えっ、何あれこっちに銃向けないよう設定したはずなの」

 に、と言い終えるより速く30ミリ弾の豪雨が有人区画に降り注ぐ。
 異様に分厚い耐爆ガラスが一瞬で真っ白に染まる。

「またかよ!」
「速く自爆装置を作動させろ!」
「起爆しねぇんだよとっととハンターオフィスに連絡っ」

 灰色CAMに倒された機体が指示もないのに立ち上がる。
 シールドバッシュを打ち込まれた箇所が生き物のように波打ち、そこから負のマテリアルが入り込んで機体制御を乗っ取っていた。

 105ミリスナイパーライフルと30ミリガトリングガンに火が灯り、森と建物と互いに火花を散らせた。


●ブリーフィング

『暴走したCAMに組み込まれたのは歪虚CAMの部品です。高確率でガルドブルム製作の、しつっこい呪いつきです』

 現場に急行中のあなたの耳に、トランシーバーを介しオフィス職員の説明が届いている。

『自爆装置を含む複数の安全装置も役に立ちませんでした。続報です。ガルドブルムが歪虚CAMと戦って、いえ、歪虚CAM同士で交戦中っ?』

 オフィス側も混乱しているようだ。
 それに、実験場近くの森が激しく燃えているのがここからでも分かる。

『……技術者の回収は依頼成功条件から外されました』

 災厄の十三魔だけでも敵戦力が大きすぎる。
 撃退するだけでも精鋭覚醒者数十人が必要になる。

 少なくとも、魔導型デュミナスをはじめとするユニットが本格運用開始されるまでは、それだけの数が必要とされていた。

『無事の帰還を祈ります』

 燃えさかる森。
 空をゆく黒竜。
 重装備の歪虚CAM。

 それら全てが待ち受ける戦場まで、あとわずかで到着する。

リプレイ本文

●誰よりも速く

 リーリーが空をいく。

 翼を大きく広げても空は掴めず。
 逞しい足は高度が下がるたびに地面を蹴りつける。

「まったく」

 ヴァルナ=エリゴス(ka2651)は呆れ半分の息を吐く。
 大舞台に興奮した幻獣への呆れではない。
 歪虚CAMを人の手で作り出してしまった技術者達と、こりもせずに人類領域に現れた竜に対する呆れだ。

 空気が揺れる。
 200メートルは離れている歪虚CAMから、明らかに直撃コースの105ミリ弾が迫る。

 乾いた大地を蹴り砕く。
 土煙と弾を置き去りにし、加速したリーリーとヴァルナが建物の前に着地した。

『鳥型の歪虚が出たぞっ』
『あ、慌てるな、まだ耐えられ』

 分厚い壁の向こうから、慌てきった男達の声が微かに聞こえる。
 やれやれを肩をすくめる動作で大剣を鞘から抜く。
 冷たい気配を発する刀身が、リーリーの躱し損ねた105ミリ弾を横から叩いて撃ち落とした。

「救援のハンターです。聞こえていますか?」
『ありがとう女神様!』

 ばんざーい、という三重奏がヴァルナ達に届いた。

『今開けっ』
「衝撃に備えなさい」

 彼女の声は穏やかだ。
 その中に籠もった気迫が避難所内部の男達に事態の深刻さを悟らせたそのとき、地面と水平に炎の柱が伸び、過ぎ去った。

 数秒遅れで何の変哲もない木製ベンチが発火し炎上。
 熱気が押し寄せリーリーの羽毛を激しく揺する。

 そして、体勢を崩したCAMが不時着。
 受け身もとれず、勢いも消せず、地面を滑って避難所に軽く当たって止まる。

 西の空で負の気配が膨れあがる。
 なんとか立ち上がった無人のCAMが、建物に手をつき後ずさりした。

「相変わらず火の気がある所によく現れますね」

 ヴァルナは一言コメントして空からの視線を無視した。
 歪虚CAMが耐えきれずに対空射撃を再開。
 単に正確なだけの105ミリ弾では黒竜の回避を上回れないず、大型弾が空に消える。。

 ヴァルナは荷物をまとめるよう避難所の中に指示を出し、動こうにも動けない歪虚CAMに淡々とした態度で近づく。
 契約精霊を通じて良質のマテリアルが流れ込む。
 淡い燐光が黄金の龍翼の如く背中から伸びる。

 歪虚CAMが跳ねた。
 あわよくばヴァルナとリーリーを跳ね飛ばそうとする動きも兼ねた、回避行動だ。

 ガルドブルムが南に向かう。
 置き土産に放ったブレスが歪虚CAMの盾ごと肩を焼く。

 リーリーがてくてく歩く。
 馬鹿馬鹿しいほどの質量差がある巨体を簡単に避けて、片腕を失いアンバランスな歪虚CAMの横を抜けた。

「この面子ならガルドブルムも常時飛んでいるだけという訳にもいかないでしょう。それまでに」

 刃が消え。
 巨人の足首から膝にかけて、美しい扇形のマテリアルが現れた。

 ヴァルナが振り切った体勢でから刃を納めると同時にマテリアルが弾け、脚部装甲と一部回路が斜めにずれた。

 南西で森が揺れた。
 デュミナスとは思えない高速で【ペネトレーター】が緑を突っ切り、軽やかに着地した上で大型の砲を滑らかに構えた。

 発砲。
 黒竜が即座に反応。
 回避する動作で向きを変え、膨大な熱量を持つ息を柊 真司(ka0705)の機体へ放つ。

「よぉ……この前は袖にして悪かったな」

 【ペネトレーター】悠然と前へ出る。
 不運な木が燃える熱が背後の空間を揺らめかせる。
 鮮やかな手つきで砲弾の状態を確認。
 ブレスの間合いも威力も見切って躱した結果、多少熱を持った程度で済み暴発の危険は皆無だった。

「今日は面倒事は他の奴に任せてるから好きなだけ相手になるぜ」
『ようやく鎧がお前に追いついたか』

 両者とも音は聞こえず気配と動きから互いの意を読む。
 高度な回避技術に加えて受けの技術まであるので、装甲表面あるいは竜鱗が傷つくことすらない。

「歪虚CAMも気になるが、今回はガルドブルムとの戦いを優先させて貰うぜ!」
『来い!』

 ガルドブルムが消える。
 CAMのセンサーでも追い切れない加速で【ペネトレーター】の斜め後ろ百数十メートルへ。

「まだ嘗めているのか」

 経験と勘、何より磨き抜いた感覚で以て真司は黒竜の動きを認識していた。
 予め計算させていた動きの予測を狙いに反映。
 華麗に滑るように回避を行い、同時に反撃の砲弾を放って見せた。

『ハッ』

 竜が楽しげに吼える。
 漏れた炎が広がり黒々とした鱗を艶めかしく照らす。
 分厚い爪が直撃コースの砲弾を巻き取る形で無力化し、大きな羽ばたき高度を上げる。

『その言葉そっくりそそのまま返すぜ。このまま一方的に打たれるつもりか?』

 速い。
 何より遠い。

 真司の腕と【ペネトレーター】の性能があっても、物理的に届かなければ当てられない。
 仮に他の能力で圧倒していたとしても一方的に打たれるだけでは絶対に負ける。

「時間がたてば10対1だ。今なら1対1でやれるぜ」

 真司は焦らない。
 当たればCAMでもただでも済まないブレスを、2回、3回、そして10回に達するまで躱してみせる。

 竜の口から笑い声が零れる。
 十三度目のブレスがガルドブルムの狙い以上に勢いよく下へ。
 【ペネトレーター】の胸部に直撃して、コクピットの温度を急激に上げた。

『貴様相手に手を抜くかよォ。ナァ!』

 炎が細く高温に。
 速射がますます激しくなる。

 【ペネトレーター】は倒れはせず、何度かガルドブルムに当てて竜鱗を削ったものの、時間が経つにつれ装甲の損害が致命的な域に達しようとしていた。

「こうしてみると、空を飛ぶ相手というのは厄介ですね」

 斬撃から生じるマテリアルが扇をつくる。
 腰への攻めを警戒していた歪虚CAMが、左足を下から斬り飛ばされ地面に転がり、駆け寄るヴァルナに止めを刺された。

「全力で飛ばれたら追いつけませんし。やはり大型への対抗手段も必要でしょうか」

 見上げるヴァルナの視線の先で、ガルドブルムがにやりと笑った。


●闇をひきつけるもの

 魔導型デュミナス2機が前後に離れ、近づき、唐突に斜めに離れる。
 CAM基準では高速で前進しながらのその動きは、高精度ではあっても基本的な動作しかできない歪虚CAMを大いに惑わせた。

 2機に対する歪虚CAMは重武装とはいえたったの1機。
 応戦するにせよ撤退するにせよ、2機から目を話すのは自殺行為のはずだった。

 【フロッティ】が小型のスナイパーライフルを使用。
 弾が歪虚CAM本体に向かい、直撃する寸前でシールドの端に当たって大きく凹ませる。

「変だ」

 狙いの微修正と射撃後の移動を同時にこなしつつ、ルーファス(ka5250)は敢えて内心を口にした。
 CAMを使いこなすルーファスから見れば、歪虚CAMの行動はいつも奇妙または雑ともいえる。
 しかし今、その奇妙さの中に方向性を感じる。

「餌に気づいた、しつけのなっていない犬?」

 機体内に通信機はないけれど、僚機の動きとその中の気配から、姉の考えがルーファスに届く。

「そういう」

 【フロッティ】が立ち止まる。
 打ち合わせなしで【Brunnhilde】が援護に入り、【フロッティ】が隙だらけともいえる動作で性格に狙いをつけ大口径砲で砲撃開始。
 敵勢はこの隙に気づいているはずなのに、【フロッティ】対する攻撃は無く、真横へ向かう歪虚CAMに200ミリ弾が直撃した。

「ことか。させるものか!」

 歪虚CAMのエンジン部分が絶好調だ。
 内側からの圧力に耐えかねて装甲がわずかに浮き上がり、搭乗口に至っては戦闘中とは思えないほど開いて中身が見える。

 Uisca Amhran(ka0754)が不躾な視線を感じ、冷気に似た気配を発した。
 白狼型の幻獣は不愉快そうに顔をしかめ、喉近くの紐を器用に引っ張り引き金を引く。
 CAM用スナイパーライフルと比べると少々ささやかだけれども、十分な威力が籠もった弾丸が歪虚CAMを真正面から襲う。

 搭乗口から触手に似た動きで伸びるシートベルトが、数本まとめて砕かれ破片が宙を舞った。

 不愉快な視線がUiscaの体から離れない。
 美貌が誘発する情欲の視線は何度も経験がある。
 この不愉快な視線は、情欲ではなく食欲だ。

「中身は獣、いえ、竜ですか」

 30ミリ口径の砲が大漁の弾丸を吐き出す。
 幻獣はUiscaの助けを借りず、進路を少しずらすだけで全弾を回避。
 このまま当初の目的地である避難所……監視所としてはろくに役に立たなかった頑丈な建物を目指そうとして、主の方針変更の指示を受け取った。

 流れ玉で焼けた大地を幻獣【クフィン】が駆ける。
 ひたすらUiscaを追う歪虚を避難所に近づけないため、ぐるりと大きな円を描いて敵の動きを制限する。

「ルーファス」
「うん」

 【Brunnhilde】がスナイパーライフルを腰だめに構えて連続発砲。
 歪虚CAMは本来の回避能力の半分も活かせない。対CAM射撃としては信じられないほど高い命中率で弾が当たる。
 Uisca主従が挑発しながら誘導し、【Brunnhilde】とは別の方向からの弾が歪虚CAMを牽制し回避力を限りなく0に近づける。

「お姉ちゃん?」
「ルーファスがいいなら、いい」

 声は優しげに響いたのに、研ぎ澄まされた殺意が両者から感じられる。
 北の空をいく黒竜が心底楽しげに笑っている。

「雑魚に撤退の援護はさせない」
「うん。お父さんに、二度と会わせるもんか」

 隙無く、油断無く、容赦なく。
 頑丈な歪虚CAMを削り切る最中、2人は黒竜への警戒を一度も途切れさせなかった。


●見えない限界

 IFFとデータリンクがまだ生きていた。

「まだ懲りてないようですね……」

 機体の構成と設定がHMDに映る。
 ピーキーにも程がある設定と、高い技術がなければ未改造品以下になる改装内容を見て、夕凪 沙良(ka5139)はため息をついた。

「やはりお説教が必要でしょうか」

 説教は精神的拷問と言い換えてもいいかもしれない。

 30ミリ弾の豪雨をすり足で回避。
 ただのすり足で長距離を移動しつつ、背部のマジックエンハンサーを起動。
 円形の機器が後光の如く光を帯び、マテリアルライフルの砲身奥に非実体の弾丸が発生した。

「前よりは強くなってるようですが」

 歪虚CAMが教科書通りの、つまり戦場で出来るなら理想的な動きで回避行動をとった。
 無傷のシールドに穴が開く。
 歪虚の胸部装甲は一回り小さく穿たれて、弾丸だったマテリアルが揮発し風に溶けていく。

「無人機と有人機の決定的な差と言うものが判ってないようですね」

 歪虚と化したデュミナスが距離を詰めてくる。
 確実に当たる距離で攻撃するつもりだろうが考えが甘すぎる。
 最低限の射程でガトリングガンが吼え、30ミリ弾がR7エクスシア【リインフォース】を襲い、その全てが空しく空を切った。

 CAMの機体に載る程度のコンピューターでは、精霊と契約し人の限界を突破した乗り手の足下にも及ばない。

 【リインフォース】が緩い弧を描いて背後に回り込む。
 本来ならそこで立ちふさがったはずの僚機はいない。
 高位の覚醒者に引きつけられ、この場に残る歪虚はただ1体。

「とはいえこちらにも問題山積です」

 HMDの残弾表示が非常に重い。
 予備弾倉を山ほど積める実体弾とは異なり、現状の非実体弾は再装填の手間がかかりすぎる。
 打ち。
 深く抉り。
 たった1弾倉でCAMを残骸に変えられるとしても、2機目までは壊しきれない。

 それだけではない。
 精度、いわゆる命中力が高いのを活かしきれていない。
 FCS無しで超長射程ライフルが運用可能な性能なのに、CAM基準で近距離戦しか出来ない現状では宝の持ち腐れだ。
 マテリアル仕様のスナイパーライフルが実用化していれば、この時点でガルドブルムを地面に引きずり下ろせていたかもしれない。

 1発の実体弾が歪虚CAMのつま先を掠め精妙な回避行動を乱す。
 そこに非実体の弾を撃ち込む。
 弾は盾の間近を通って歪虚の腰部を貫き、下半身を動かすための機構を破壊する。

 頭上に強い気配。
 地面と垂直の黒竜から、地面に向けて高圧高温の熱線が伸びる。
 沙良機の残弾を見透かしているようだった。

「マテリアルの弾が足り無くまだクトゥグアがあるのですよ」

 マテリアルライフルを下ろす。
 人型ユニット用拳銃を引き抜き速射。
 黒い鱗の上に火花が散り、竜の瞳が細められた。

「打ち合いは出来るけど、良くないわね」

 【ウィスタリア】の外付けローラーが高速回転する。
 足を上げずに地表を駆けて、降り注ぐ炎の柱を連続して躱す。

 アクティブブースターが突然に起動。
 まさに飛ぶように加速した直後、直前まで白金 綾瀬(ka0774)の体があった空間をひときわ強いブレスが通過した。
 当たった地面が煮えたぎって周囲の草が消し炭に変わる。

「回避はあんまり得意じゃないけど、当たるわけにはいかないのよ」

 めまぐるしく表示が変わるHMDから情報を拾い上げる。
 歪虚CAMは激減。ハンターは機体も含めて健在。
 ガルドブルムは自由に空を行き来して、飽きもせずブレスでハンターを狙っている。

「確実に長期戦ね。受けて立ってやろうじゃない」

 黒竜が進路を変える。
 綾瀬はスキルトレースシステムで生身のスキルを使う。無意識に翼を発砲しそうになるのをぐっと我慢。
 仲間が対空射撃を行うのにあわせて牽制射を行う。
 たった1発の弾丸でも、繊細さが必要な飛行を乱すのには十分だ。

「高速演算開始」

 ガルドブルムの速度と反応速度が速すぎ、計算量が増えコンピューターが大量の熱を出す。
 機を逃すぎりぎりでHMDに結果が表示。
 綾瀬が勘で決めた狙いより、ほんのわずかに、そして黒竜に届くほど正確だった。

「狙い撃つわよ!」

 発射の反動が機体を襲い、発砲直後のライフルが跳ね上がる。
 砲弾は大気を裂いて飛ぶ。
 CAMだけでは再現不能な、綾瀬自身のターゲッティングスキルが弾丸を竜の翼に導く。

『狙って当てたか!』

 悲鳴のかわりに歓喜の声をあげ、黒竜は低下した速度で地面に向かった。

「ありゃまあ、こりゃあ大変だ」

 リカルド=フェアバーン(ka0356)が肩をすくめる。

 炎上する森を背景に、連続する砲音と高速飛行物の影が現れては消え繰り返している。

「怪獣映画じゃねえんだぞ」

 戦場というには人の死体が足りない。
 敵味方の戦力は、怪獣同士の戦いに相応しいかもしれないが。

「っと」

 気づいたときには体が反応し終えていた。

 リカルドの操作に従い、【Jack・The・Ripper】が斬機刀「轟劾」を振り上げる。
 移動力を犠牲にしてでもリカルドの動きを反映させた効果はあり、人と機体の意識外からの竜爪を、見事弾いて直撃を避けた。

「マーゴット達は無視かい?」

 今度は意識して切り下ろす。
 切り返しの爪撃を、今度は正面から受けてHMD越しに睨み付けた。

『弱い相手を狙うのが狩ってモンだろ?』
「ハッハァ! 嘗められたもんだなオイ!」

 声は荒く乱暴。
 瞳は凍えるほど冷たい。

 右爪2回と左爪1回の3連撃。
 回避を許さぬ猛攻を、1本の剣で以て受け、流し、被害を抑える。

 敵は強い。
 1人では本気を出しても倒せない……10人で一斉に仕掛けても勇気を称えられるだろう大物だ。

「(チ、【俺】を誘惑すんじゃねぇよ)」

 腹の底からわき上がる戦意が、攻勢に移れとリカルドを急かす。
 視界の隅で振るわれた尻尾をフェントと断定。
 わざと隙を晒すように向きを変えた半秒後、退き、移動し、突撃という三行動を済ませたガルドブルムが【Jack・The・Ripper】の正面至近距離に到達した。

 遠く離れた場所で【フロッティ】がスナイパーライフルで発砲する。
 生身のハンターでは届かない距離を瞬く間に駆け抜け、ガルドブルムが回避に使うはずだった空間を塞ぐ。

「(【俺】としては勝てないと判断出来る相手とは戦うべきじゃないが、偶には俺自身に正直になってもいいか、とは言えちょっかいにしかならんだろうが……)」

 爪、爪、細いブレス、ブレスに隠れて爪の刺突。
 刃で受ける角度を常に変え、機体の各パーツと関節部分にかかる負担を可能な限り平均化する。

 黒竜が喜悦に目を光らせる。
 リカルドの口角がつり上がる。

「(だが、楽しくてしょうがない、学んだ技術を使って、思う存分に戦えるのは)」

 大きく羽ばたきリカルドへの注意が一瞬薄れた瞬間を見逃さず、刃の突いた碇を飛ばす。
 小さな鱗が割れて碇がめり込んだ。
 強靱なワイヤーがピンと張って、ガルドブルムの速度が目に見えて遅くなる。

「ハッ」

 リカルドは自分からワイヤーを離した。
 ガルドブルムがわずかに態勢を崩し、ワイヤーで固定されていたままなら【Jack・The・Ripper】のコクピット部分があった場所を竜爪が貫通した。

「その図体で小技まで使うのかよ」

 スラスターライフル起動。
 大量の弾が黒竜の全身を打つ。
 鱗の表面が砕け、黒々とした粉塵がガルドブルムの姿を隠した。


●天に届く刃

「盾、か」

 刃渡り約3メートルの刀が、分厚いシールド装甲の隙間を抜けCAMの関節を断ち割った。

 クリスティン・ガフ(ka1090)が息を吐く。
 たった1機の歪虚に長時間足止めされてしまった。

 歪虚CAMが使ったシールドは原型をとどめておらず。
 全身を覆う装甲も傷だらけ。
 【テウルギスト】の強烈な近接攻撃力・射撃攻撃力を恐ろしいほどの効率で耐え抜いた結果だ。

「敵にまわすとこれほど面倒とは」

 生身で戦えば、移動時間を考えても半分未満の時間で倒せていたのが分かるので余計にストレスを感じる。
 彼女の程の前衛ハンターにとって歪虚CAMの巨体は当てやすい的に等しい。
 強力なはずの魔導型デュミナスが、クリスティンにとっての枷となっている。

「だが」

 確実に息の根を止めるため、コクピットとエンジンとコンピューターの三箇所に30ミリ弾を見舞う。
 薄暗い負のマテリアルと技術者が仕込んでいた爆薬が反応。
 禍々しい炎と化して【テウルギスト】を照らした。

「ご無沙汰しています、ガルドブルム・サン!」

 斬魔刀「祢々切丸」を鞘に納め。
 105mmスナイパーライフルを構え。
 己の殺意より速く引き金に触れる。

 ガルドブルムが滞空し【フロッティ】を焼いている。
 焼き尽くされる前に助けようと【Brunnhilde】が攻めるが黒竜の守りを抜けない。
 【フロッティ】が最後の力で銃撃を行い、それが牽制になって黒竜の回避行動を妨げた。

 【テウルギスト】の105ミリ弾がガルドブルムの後頭部にめり込んだ。
 急所に近いのに貫通せず。強烈な衝撃も黒竜の脳を揺さぶるには足りない。
 それでもダメージは小さくないようで、口を閉じ何度か翼を上下させ息を整えていた。

「クリスティン・ガフです!」

 再装填開始。
 歪虚CAM相手に使った弾の分をスナイパーライフルへ。

「お前が人に化けて銃を習いに来たあの時から、お蔭様で今は人形に乗って、ここにいる」

 【ウィスタリア】が後退しながら弾幕を展開。
 ガルドブルムの飛行速度が、ようやくハンターの目に捉えられる程度に低下。
 低下したタイミングで【テウルギスト】の105ミリ弾が黒竜の腹にめり込む。

「よもやこの刀を忘れた訳ではあるまい? 私はお前と闘う為に来たのだ! 私の牙はお前まで届くぞ! いざ尋常に、勝負!」

 ガルドブルムは何も言わず。
 穏やかとすいらいえる感情を両の瞳に灯す。

 噛み合った。

 異世界の船が現れ、ハンターが爆発的な成長を初め、CAMの運用が始まり、大きく伸びたハンターの刃が黒竜の牙と同等の長さを獲得した。

 黒竜が光に包まれる。
 内側の炎が激増。目と鼻と口から吹き出て上昇気流をうむ。

『よう』
 美味そうだ。

『死ね』
 食う。

 黒竜本体の数倍の太さで熱線が延びる。
 その数倍の範囲で土と覚醒者を除くあらゆるものが燃え上がる。

 クリスティンの目と指が自然に動く。
 本人に比べるとどうしようもなく拙く、しかし起動タイミングと速度だけは本人に準じる斬撃が、赤黒い瘴気を纏って炎の中央を切り払う。

 弱体化した炎により、装甲が沸き立ち回路が焼けて予備の回路へ切り替わる。
 酷使された喉から出血し、大技直後の隙を30ミリと105ミリに疲れて全身の鱗がひび割れる。

 両者とも殺意を益々燃やし、一直線に互いに向かって突進した。


●森林炎上

 最後の激突から丁度1分前。

 ペケッテ・テトラは幻獣の背からおっかなびっくり降りていた。

 気配も温度も何もかも酷い。
 ここが地獄でも納得しか出来ない有様だ。

「脚が完全に竦んでも、心に焼きつけなさい。我輩を追えば必ず戦場に辿り着くのである」

 そう言って避難所の護衛にまわる黒の夢(ka0187)に背を向け、小さな魔女は避難所の中に飛び込んだ。

「嬢ちゃん、一緒に逃げ……」
「すぐに閉じるのです! 閉じたらこれ飲む! 死にたくないなら今すぐ!」

 ポーションを叩き付けるように渡し蹴りつけるようにして分厚い装甲を下ろさせた。

「耐衝撃っ」

 巨大な熱が避難所至近距離を通過。
 透明なガラスが白く濁り、クーラーが全力稼働して温度の急上昇を抑えようとあがく。

 ポーションが無ければペケッテ以外は生焼けになっていた可能性が高かった。

「師匠様……謳ってる」

 ディスプレイに外部の情報が映る。
 荒れ狂う気流に紫の光が混じっている。
 歌を介して紡がれる術は、桁外れの威力を持つ複雑極まる術式だ。

 ガルドブルムが接近する。
 黒の夢を無視し、空気との衝突による破壊をまき散らし、己に届いた女の元へと飛ぼうとした。

「ダーリン」

 ペケッテの額に冷や汗が浮かぶ。
 女っ気のない技術者達が小動物のごとくおびえる。

「愉しそうで何よりね。でもダーリン、我輩にキス忘れてるのなー」

 物理法則への介入完了。
 狂った重量が黒竜を巻き込み一点に収縮する。

 この日、ガルドブルムは初めて苦悶の悲鳴をあげた。

『黒の夢……カ。ま……強ク』

 紫の光が赤黒い血と共に霧散する。
 血だらけの竜が、重々しい音をたてて焼けた大地に降り立った。

「ダーリンは魅了オーラでも纏ってるのだろうか、我輩も構って欲しいのなー」

 甘い吐息が炎に変じる。
 直前のドラゴンブレスよりは弱いものの、ガルドブルムが連発していた炎より確実に強い。効果範囲に至っては数倍どころではない。

 熱と圧力が鱗を貫通し脂肪と肉を焼く。
 流れていた血など瞬時に蒸発して痕跡すら残らない。

 ハンターのものではない気合いの声。
 歪んだ翼が結構な量のマテリアルと引き替えに回復。
 喉と全身からくる狂うほどの痛みを楽しみながら、黒竜が炎を黒の夢に向けた。

「もう直撃させるのは難しそうなのね」

 幻獣【スカー】が跳躍して回避。
 黒の夢は男から視線は外さず戦友の気配を探る。
 高位術者である彼女でも、仲間の援護、具体的には牽制射撃無しで術を当てるのはかなり厳しい。

 それにここで戦うと弟子とついでに救出対象まで焼けてしまいそう。
 なので、まだ残った森目がけて【スカー】を走らせた。

 【テウルギスト】も黒竜への砲撃は緩めず黒の夢を追っている。身を翻し黒竜も飛ぶ。
 ハンターも歪虚も、最後の舞台へ足を踏み入れた。


●拮抗

「よくも」

 殺気が見えた。
 銃口から伸びるそれは長大かつ強靱な槍に似て、刺さってもいないのにガルドブルムの本能を刺激する。

 発砲。

 高い能力と錬磨されきった集中力が、弾丸についた傷まで捉えている。
 そこまで分かっていても回避しなければ当たる。
 そう確信した黒竜は、爪に浅くない傷がつくのを承知の上で、上から叩いて押し潰した。

「よくも」
 ルーファスを。

 優美な機体が壮絶な殺意に突き動かされている。

 長大な槍の如く伸びる弾を辛うじて回避。
 放置すればまずいと判断して、ガルドブルムは一気に止めを刺すため急降下による急加速で【Brunnhilde】の至近に迫る。

「あぁぁぁっ!」

 マーゴット(ka5022)の見切りは完璧だった。
 わざと緩めていた速度を元に戻し、アクティブスラスターを吹かして一気に加速する。

 さすがにそこまでされると追い切れない。
 竜の爪は空を切り、しかしマーゴットの予想を上回る速度で切り返され【Brunnhilde】の脇を狙う。

 銀色のシールドで受ける。
 吸収しきれない衝撃が関節部を痛めつける。

「っ」

 一呼吸の半分にも満たない時間で竜爪の向きが再変更。
 ほんのわずかに開いた隙をこじ開けコクピット前面装甲に穴を開ける。

 竜の喉奥に光が集まる。
 射程を削り、威力と範囲を高めた、止めを刺すためのブレスだ。

 悲鳴と銃声。
 ガルドブルムの頬が破れ、鱗と牙の破片が零れて消えた。

「お姉ちゃん後退!」

 迷彩マントを来たままルーファスが叫ぶ。
 構えた銃は大きな熱を持ち銃口からは濃い煙があがっている。

『させると』

 爪が空気を押しのける轟音が黒竜の声をかき消した。
 恐ろしいほどの反応速度で【Brunnhilde】が体を捻る。
 それで操縦席全壊の危機は回避しはしたが、全ての動きの要である腰部分全体が完全に砕けた。

 ルーファスは奥歯を噛みしめ射撃を続行。
 見開かれたままの竜瞳に最高の1発を送り込む。

 竜が咆えた。
 酷使された筋肉の各所から血が噴出。
 乾いた森を血で汚し、強引に体を揺らして弾丸をこめかみに擦らせた。

 ハンターの攻撃は続く。
 竜が飛行という陸上地形無視能力と高い移動能力を活かしても、常に105ミリ弾が飛来し回避あるいは防御を強要し続ける。

 竜の鼻から熱い息が噴き出した。
 人類側の戦力が薄い箇所を一瞬で把握。
 【Brunnhilde】の直上を通って絶好の射撃ポイントに移ろうとした。

 歌声が聞こえる。
 白銀の竜が【Brunnhilde】を包み込む形で守り、消えて。

『ナッ』

 無機物のはずの魔導型デュミナスが、まるでハンターのように再生されていく。
 コクピットから暗い気配が全身に浸透。
 まるで、大小様々な怨霊が機体を押さえているようだ。

「この吃骨の一撃」

 脚部のバネとスラスターによる跳躍。刃を手に、噴射口を上向きにして下向きに加速。
 移動優先だった黒竜は回避込みの機動に変更できない。

「耐えれるなら耐えてみろ」

 強烈な突きに竜の鱗が砕けて血の花が咲いた。

「延焼はもう……」

 Uiscaが首を左右に振る。
 空気が熱い。
 数十回のブレスにより森が乾いて自然に発火。
 ハンターと幻獣以外は生きていけない環境に成り果てた。

 ガルドブルムの瞳は爛爛と輝いている。
 翼への損傷によりまた速度が落ちたのに、体の切れは戦闘開始直後より増している。

「誰もやらせませんよっ」

 巨人の骨が繋がり鋼の表皮が癒着、戦闘力を取り戻し戦線に復帰する。
 砲弾と30ミリ弾が理想的な弾幕を形成。
 木が邪魔で空間も少ないのに、黒竜は翼を一瞬閉じ健在な鱗で受けて見せた。

 反撃が来る。
 森林火災を遙かに上回る扇状ブレスが巨人達を襲う。
 が、装甲を覆う聖なる光が熱と瘴気を大いに弱めた。

「巫女を舐めるな、ですっ」

 Uiscaが魔杖「ケイオスノーシス」を突きつける。
 正マテリアルで白銀に輝く巫女が禍々しい魔杖を構える様には、背徳的な美しさがある。

 ガルドブルムの喉が食欲によりグビリと鳴った。
 視線は正マテリアルで白銀に輝く巫女に釘付けだ。

 無数の炎の蝶が竜の巨体を覆い隠す。
 限界を超えた鱗が負のマテリアルにまで分解され押し寄せる。

「何度も負のマテリアルに当たってたら、そのうち耐性とか出来ないかなぁ」

 けほり。
 あまりに濃すぎる瘴気に生命力を削られ、黒の夢が血混じりの息を吐く。

「こっちはぼろぼろなのにね」

 スナイパーライフルの弾倉が空になった瞬間黒竜が急接近。
 リロードを止めて綾瀬の機体がリボルバーで応戦する。

 ガルドブルムは止めを刺す前に他のハンターに囲まれると判断。
 炎上する木々の隙間を貫き地表30メートルの高さでブレスチャージを開始する。

「逃がすものか」

 ルーファスの殺意の弾丸がガルドブルムの回避の邪魔をする。

 あの竜は、この戦場で、高位の覚醒者を相手に食欲を剥き出しにした。
 なら間違いなく父もその食欲の対象だ。

『若いの、それでは足りんナァ!』

 ひび割れた鱗から血が流れ、全身の筋肉が悲鳴を上げた状態で、黒竜の戦意はますます燃えさかり技に磨きがかかる。

「いい加減名前くらい覚えてもらえませんかねー?」

 非実体の正マテリアル弾が竜の喉に突き刺さる。
 制御された炎が肉と脂肪と鱗を焼いて固め、存在する力を減らすかわりに戦闘力を維持した。

 灼熱するブレスが竜の口から溢れる。
 だがそれを迎えたのはハンターでは無く、膨大な火の粉と、それに続いて倒れる燃えさかる木々だった。

 綾瀬は平然と射撃を継続。
 HMDに気体温度異常の警告が出ても気にしない。

 超重量の木に閉じ込められるのを嫌いガルドブルムが後退。
 加速は素晴らしくても回避に向ける意識は甘くなり、綾瀬の牽制で誘導された所にクリスティンの銃弾を受ける。

「貴様を肴に呑むつもりだったのだがな」

 弾が、届かない。
 森の炎が巨大すぎる壁となってハンターと歪虚を隔てている。

 激しすぎる戦闘で体も装備も傷ついき、機体も整備が必要なレベルで疲弊している。

 ガルドブルムが旋回する。
 収束を緩めたブレスを避難所手前へ投射。
 迫っていた炎を衝撃でかき消した。

『鎧の手入れに手を抜くなよ』
 CAMから引きずり出して食らってやる。

「いずれステーキにでもしてやる」
 いつでもかかってこい。

 人と竜の殺気が空気を震わせ、精霊が怯えているようにも見えた。



 一方が飛び去り、消火が完了し、何年もたった後も。
 この地には雑草1本すら緑が生えなかったらしい。

依頼結果

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MVP一覧

  • 《死》の未来を覆す奏者
    白金 綾瀬ka0774
  • 天に届く刃
    クリスティン・ガフka1090
  • 竜鱗穿つ
    ルーファスka5250

重体一覧

参加者一覧

  • 黒竜との冥契
    黒の夢(ka0187
    エルフ|26才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    スカー
    スカー(ka0187unit001
    ユニット|幻獣
  • ……オマエはダレだ?
    リカルド=フェアバーン(ka0356
    人間(蒼)|32才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    ジャック・ザ・リッパー
    Jack・The・Ripper(ka0356unit001
    ユニット|CAM
  • オールラウンドプレイヤー
    柊 真司(ka0705
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    ペネトレーター
    ペネトレーター(ka0705unit001
    ユニット|CAM
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhran(ka0754
    エルフ|17才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    クフィン
    クフィン(ka0754unit001
    ユニット|幻獣
  • 《死》の未来を覆す奏者
    白金 綾瀬(ka0774
    人間(蒼)|18才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    ウィスタリア
    ウィスタリア(ka0774unit003
    ユニット|CAM
  • 天に届く刃
    クリスティン・ガフ(ka1090
    人間(紅)|19才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    マドウガタデュミナス
    テウルギスト(ka1090unit003
    ユニット|CAM
  • 誓槍の騎士
    ヴァルナ=エリゴス(ka2651
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    ガスト
    ガスト(ka2651unit001
    ユニット|幻獣
  • 元凶の白い悪魔
    マーゴット(ka5022
    人間(蒼)|18才|女性|舞刀士
  • 紅瞳の狙撃手
    夕凪 沙良(ka5139
    人間(蒼)|18才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    リインフォース
    リインフォース(ka5139unit002
    ユニット|CAM
  • 竜鱗穿つ
    ルーファス(ka5250
    人間(蒼)|10才|男性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    サジタリウス/グシスナウタル
    【Sgr】グシスナウタル(ka5250unit004
    ユニット|CAM

サポート一覧

  • ペケッテ・テトラ(ka6440)

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 【相談卓】vs ****
黒の夢(ka0187
エルフ|26才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2017/01/27 02:52:43
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/01/26 13:26:02