【旭影】辿り着いた真実

マスター:真柄葉

シナリオ形態
シリーズ(続編)
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
6日
締切
2017/01/30 22:00
完成日
2017/02/12 22:47

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「沖の三連岩。海風吹く岬。そして、銀細工と同型の刻印が刻まれた要石――注釈が間違っていないのであれば、地図の示す場所はここだ」
 地図に記された注釈に基づく目印を順に指で追い、短くそろえた灰髪の男が最後に足元の小岩を指さした。
「他にヒントはないのかしらん? まさかこの石がお宝ってわけじゃないんでしょ?」
 大きな体を折りたたみ、眼下の小岩を突く褐色の大男は可愛らしく小首をかしげる。
「残念ながら、これ以上の事は記されていない」
「なぁに? またなぞなぞ?」
「ここまで詳細な位置を記しているんだ。これ以上の謎かけは無用のように思えるが……」
「うーん、それじゃこの石、退かしてみる? ザックザックのお宝ちゃんが埋まってるかもしれないわん」
 と、褐色の大男が石を持ち上げてみるが、宝など当然なく、ヒントや目印になる様な物も見当たらない。
 一行は辺りに何かあるのではと、手分けして捜索したのだが――。
「もう一度、地図みせてもろぉてもええやろか?」
 何も見つけられぬまま小一時間も辺りを探し回った時、突然、鬼の少女が声を上げた。
 鬼の少女は灰髪の男から地図を受け取ると、太陽に向け掲げて見せる。
「何か気になる事でもあったの?」
 そんな、褐色の大男の疑問にも答えず、少女はじっと地図を見つめた。
「あー、やっぱり。ずっと気になっとったんよ。ここ」
「なに? 染み?」
 太陽に透かされはっきりと見えるそれは、地図を染めるまだら模様。
 皆が首をかしげる中、鬼の少女は気にもせず地図の染みに指を這わせていく。
「ほら、これ、読めへん?」
 しばらく、太陽に向かっていた少女が皆に向き直り、地図を差し出した。
「読める? ……字になっているというのか」
「あー、確かに。読めない事は無いわね。えっと、これは……『下』?」
「うーん、たぶんやけど、それ『底』って意味やと思うんよ」
「『底』? どういうことだ」
「そのまま『底』やよ。ここのずーっと『底』」
 そう言って鬼の少女は、小さな指を真下に向ける。
「この岬の地下に何かあると言いうのですね」
 なるほどと口元に手を当てた灰瞳の男に少女はこくりと頷いた。
「とはいっても、どこにも下る場所はありませんが……崖でも下れと?」
 散々辺りを捜索したが、地下へと続く道や階段などは見つけられなかった。
 地下へと続く道があるとすれば、あとは岬の先の断崖を下るしかないが――。
「そこは、あれやよ。えみるはんの部屋でやった――」
「ああ、なるほど、これですか」
 と、少女の言に思い当たった灰瞳の男はポケットから小さな銀細工を取り出すと、掛け輪に指を掛けくるくると回す。
「要領は同じでしょうかね。では――」
 先日の部屋でやった事と同じ要領で、地図上の印を中心に銀細工にくるりと円を描かせた。
「海上は除外するとして、陸地でこのライン上となると……先ほどの廃村ですか。そして、そこに『底』へと至る道がある――」
「かもしれへん、やね」
 一つの答えに至った事に、鬼の少女は二カッと太陽のような笑みを浮かべた。

●廃村
 岬へ至る道中にも目にしたが、ここは打ち捨てられた廃屋が静かに佇む一角であった。
「昔は漁業で隆盛を極めたのかもしれないね」
「見ただけわかるの?」
「ああ、もちろんだとも。いいかい? あの小屋、あれは素潜り漁の拠点だろう。海中で冷えた体を温める為、中の囲炉裏がとても大きい。それに、ほらあそこの小屋。あれはきっと取れた海産物を干物へ加工する作業場だったに違いない」
 しなやかな指先を寂れた漁村に向け、男装の麗人はエミルに微笑みかける。
「これだけ多様な施設が一か所に密集しているんだ、きっと昔――そうだね、この朽ち方からいって、50年は前になるだろうか。その時代には、ここは人々の笑顔と熱気で満ち満ちていた事だろうね」
 廃屋の間を踊るように歩み抜ける麗人とは対照的に、エミルはおっかなびっくり辺りを伺いながら進んでいく。
「怖いのかい? 僕の手ならいつでも空いているよ?」
「こ、子供じゃないんだから大丈夫よ!」
「ふむ、そういう意味ではないのだけど、まあいいか。着いたようだしね」
 差し出した手を取られなかったことも気にせず、麗人は目の前に現れた一軒の廃屋に視線を遣った。

●廃屋
「線上で目印になる様な物といえば――やっぱりここよね」
「あー、そうだろうな。ここしかないとは思うが……こんな廃屋に本当にあるのか?」
 綺麗に整えた指先で一軒の廃屋を指さすドワーフの男に、術師の男は眉根に皺を寄せる。
「だからそれを調べるんでしょ」
 ドワーフの男は廃屋の扉に手を掛けると、軋む音を響かせる扉を内側に空けた。
 廃屋は使われなくなって数十年単位で放置されていたのだろう、至る所で大小の蜘蛛達が縄張り争いを繰り広げている。
「教科書通りの廃屋だなぁ……地下室でもあるのか?」
 術剣で蜘蛛の巣を払う男を先頭に一行は廃屋の奥へと踏み入った。

 ここでも手分けをし、地下へと続く道を探るも、あるのは蜘蛛の巣と埃、朽ちた家具ばかり。
「うーん、無いなぁ。床板でも引っぺがすか」
「そうね。後はそれしかないかしら」
 探してない場所もとうとう床下だけになった。ドワーフの男が腰に手を当て、ふぅと大きく息を吐いた。
「――待ってくれ、どこからか風が吹いている」
 小さく呟いた男の腰に下げた道具が、カシャリと軽い音を響かせる。
「風? 隙間風じゃないの?」
「いや、それにしては、冷たい」
「冷たいって」
 ドワーフの男の呆れ顔も気にせず、気だるげに構える男は徐に瞳を閉じると、鼻頭をやや上に向けた。
「――ここだ。ここから風を感じる」
「ここだって、暖炉じゃない。あたしは煙突を抜けたいんじゃなくて地下に行きたいのよ?」
 廃屋の一番奥に静かに佇む石造りの暖炉。
「あ、いや。何かあるぞ?」
 と、術師の男が暖炉の前で膝を折ると、暖炉内部の床をコツコツと叩く。
「ちょっと埃が舞うから注意しろよ」
 そういうと、術師の男は床を小突く術剣に力を込めると、床はあっさりと音を立てて抜けた。
「これは……洞窟? なるほどね」
 人一人がやっと通れそうな穴に明かりを落とし、中を確認したドワーフの男が呟く。
「方角は?」
「岬に向かってるみたいね」
「当たりか?」
「たぶんね。ただ、ここを進むとなると注意しないといけないわね……いるんでしょ? 奴ら」
「ああ、居る。何人かまではわからないけどな」
 廃屋の外に置いたもう一つの『眼』が伝える外の状況を術師の男が伝えた。
「一悶着も二悶着も在りそうだけど、しつこい奴らとの決着をつけるのにも絶好の機会だと思うわ」
「いつまでも付きまとわれるのは、勘弁だしな」
 二人は一同を見渡し、異論がない事を確認すると、そのまま穴へと身を躍らせる。
 ランプの頼りない明かりが辺りを照らす中、薄暗い洞窟の奥からは小さな潮騒が聞こえていた。

リプレイ本文

●洞窟
「右だ、ウルヴァン!」
「くっ! イルム、後は行けるな」
 正確無比に急所を狙う投刃を金目(ka6190)の忠告でかろうじて打ち払い、ウルヴァン・ダイーヴァ(ka0992)は視線を下げた。
「ああ、もう十分だよ。ウルヴァン君こそ、怪我はないかい? 残念ながら『宙』で治療してあげるわけにはいかないからね。十分に気を付けておくれよ?」
「それだけ軽口が叩ければ問題ない、な!」
 『乗客』の返事にも表情を変える事無く、ウルヴァンは掴んでいた手を放す。
 『運び屋』に礼代わりのウインクを飛ばし、音も立てずに着地したイルム=ローレ・エーレ(ka5113)はすぐさま剣を眼前に構え不敵に微笑んだ。
「さて、こんなムードも何もない場所に何の用かな? 僕達は君達を招待したつもりはないんだけれど?」
 機導師達のジェットブーツの跳躍の力により、『鉛の釣鐘』の刺客の頭上を飛び越えた三人は、イルムを先頭に列を組んだ。

「いくら望まない相手でも、気を逸らされるのは気分がいいものじゃないわ――ねっ!」
 ジェシー=アルカナ(ka5880)の放った鋭いヒールによる直突きに脇腹を掠られた一人が、表情に苦悶を浮かべ飛び退く。
 上空からの奇襲に反応を見せるも、結果的に挟撃を受ける形となった鉛の釣鐘は、じりじりと互いの身を寄せた。
「えー、つい先ほどここは通行止めになりました。大人しく回れ右して帰ってくれると俺達としても嬉しいのですが――そういうわけにもいきませんか」
 向けられる殺意と苛立ちを孕んだ視線に、ふぅと溜息と共に肩を落とす丑(ka4498)。
「エミルは下がってなさい。あたしの影から出ちゃダメよ?」
 背後からこくりと頷く気配を感じ取り、答えるように小さく頷いたルキハ・ラスティネイル(ka2633)は、エミルを気付かれぬようゆっくりと最後尾へと下がらせた。
「ひぃ、ふぅ、みぃ……7人。見たことない人も混じってはるね」
 一触即発の空気が流れる中、静玖(ka5980)が相手の人数をカウントすると共に、あの『アジト』に居なかった一人を指さす。
「何やってくるかわからない相手だ。優位は取ったが油断せず行くぞ」
 中衛にて戦局をつぶさに捉える歩夢(ka5975)の言葉に、仲間達の空気が一層引き締まった。
 そして、戦端が開く。
 最初に動いたのは敵方。最前列に居た二人が短剣を胸元に構えると、並んでジェシー、丑の二人に向け突進を掛けてきた。
 しかし、二人はこの動きに素早く対応。すかさず各々の武器を構えると、薄暗い洞窟内に火花を散らせた。
 一撃を交えたのち、すぐさま後方へ飛び退いた敵は、着地と同時に再び前方へと跳躍する。
 これを両断する勢いで振り下ろされた丑の一撃に衣を斬らせてすり抜けた敵が、ジェシーと丑の間を抜けようとした、その瞬間。
「ざぁんねん。そこはホットスポットよン」
 甘く切ない掛け声と共に地面からせり上がった土壁が、姿勢を低くしていた男の腹を捉え、そのまま打ち上げる。
「愛と悲しみ、そして、ちょっぴりの怒りを込めたァ――シャァイニングゥアロォー!!」
 すかさず、弓を引き絞る(ポーズを取った)ルキハが、(火花が散りそうなほどの)ウインクを合図に放った魔法の矢は、宙を舞った敵の胸(ハート)をズキュンと射抜いた。

「相手が取れる最良の策は、エミルを手に入れることだ。圧倒的な形勢の不利をひっくり返すには、それしか手はない」
 中衛において隊列の調整役を買って出る歩夢が相手に突破口を開かせぬよう、前衛二人の動きに合わせて絶妙な位置で陣を動かし、
「ほなら、えみるはんを渡さんかったらうちらの勝やゆぅことやね」
 そこかしこに敷設した『見せ符』によって、静玖が牽制とゆさぶりをかける。
 相手にクラスが割れている事を最大限に利用した二人の動きが、相手を更なる混乱へと導いていく。

「来ないならこちらから行くわよ」
 そう言うと、ジェシーはヒールを鳴らし一気に距離を詰める。
 敵の眼前を掠めるように繰り出された鋭いハイキック、ひねりを加えた蹴りの直突き、地面すれすれから蹴り上がるサマーソルト。
 無数の蹴りによる一触必殺の旋風が洞窟を乱舞する。
「さっきはちょっと油断してしまいましたね。なので、ちょっと本気出しますね」
 敵を踏み台に大きく後方へと飛び退いたジェシーとスイッチし、丑が前面に押し出る。
 薄暗い明かりに鬼面が揺れ、あたかも地の底より這出てきた悪鬼を思わせる丑は、ゆらりと体を傾けながら敵に近づいていく。
「斬る気はないのでご心配なく」
 そう言って高々と振り上げられた太刀につけた光る根付がきらりと揺れた。
 太刀を握る腕が剣気を帯びて肥大する。大きな踏み込みと共に振り下ろされた神速の太刀は、洞窟の冷たい空気を一文字に切り裂いた。
「でも、これ以上近寄るのでしたら当たるかもしれませんね。あ、俺は斬る気はないですからね?」
 そう言われて鵜呑みに出来る剣戟ではない事は、この場の誰もがよくわかっている。
「はい、交代。折角楽しいダンスを踊ってたのに、敵さん引いてるじゃない」
「おや、そういうつもりはなかったんですが、いやはや面目ない」
 ぽりぽりと頭を掻き、丑は無造作に剣を鞘へと納めジェシーと入れ替わる。
「さて、お待たせ。続きを踊りましょう」
 丑に変わって再び最前線へ出たジェシーは、ぽきぽきと拳を鳴らした。

 ルキハの放った矢に射抜かれた敵は、イルム達が陣取る後方まで飛ばされるも、辛うじて着地を決める。
 しかし、それも背後に回った金目により首を極められあっさりと崩れ落ちた。
「さて、これで一人減ったよ。君達は次にどんな一手を見せてくれるのかな?」
 気絶させた敵を手際よく拘束していく金目を横目に、イルムはゆっくりと両手を広げゆっくりと距離を詰める。
「前門の狼、後門の虎。この場合、どちらが狼でどちらが虎だろうね? できれば虎を選んでくれるとボクは嬉しいんだけどね。ボクの子猫ちゃん候補に手を出した事を後悔させてあげるから」
 イルムの問いには答えず更に身を寄せるように固まった鉛の釣鐘。堅い防陣を組む相手を前に戦局が一時膠着する。
 洞窟の壁を背に視線だけで敵を威嚇するウルヴァンは、敵の援軍の到来に細心の注意を払っていた。
「どうした、答えは出ないのか? そのまま身を寄せ合っていても事態は好転しないぞ。まぁ、援軍でも来るならば別だが」
 イルムの問いの答えを催促する挑発的なウルヴァンの言葉にも無言を貫く敵。余裕の感じられない気配、機を狙う鋭い視線、それは新戦力の当てがない事を如実に物語っていた。
「ここで手を引くなら悪いようにはしない。俺達の目的はきみ達とやり合うことではないからな」
 確信するウルヴァンは、あくまで主導権がこちらにある事を強調する様に交渉に入る。
「あの子息に何を吹き込まれたかは知らないが、裏の者が手の内を全て晒してまでするような冒険ではないと思うのだが」
 再びの沈黙が洞窟を支配した。

「あー、やめだやめ」

 しばらくの沈黙の後、敵陣の中央にいた男が諸手を挙げる。
 その言葉に、周りを囲む者達も「やっとかよ」「判断おせーよ」等と、ぶつくさ文句を言いつつ武器を手放し、両手を上げた。
「きみ達は賢明な判断をした」
 全ての敵が武器を手放したことを確認し、ウルヴァンは対面の味方に合図を送る。
「静玖、発動させて」
 歩夢の声にこくりと頷いた静玖は、口元を小さく動かした。
「拘束だけはさせてもらいますぇ」
 地面に敷設し、土をかぶせカモフラージュしていた地縛符が静玖の言葉に呼応し、夢幻の腕となって鉛の釣鐘達を拘束する。
「そもそも聞くが、君達はこの先にあるものの価値を知っているのか?」
 全てのメンバーが呪縛されたのを確認し、首領格の男に向け金目は問いかけた。
「いーや? あの坊主があれだけ執着するものだ、相当な隠し財宝でもあるんだろ?」
「……なぜそう思うんだ?」
「浪漫って奴だ」
「……悪いが信用はできない」
「だろーよ」
 小さく首を振った金目に、首領格の男はけらけらと笑って返した。

「エミル、まだ出てこないでね。あの坊ちゃんみたいなことにならないとも限らないから」
 身動きの取れなくなった鉛の釣鐘達を見ても、ルキハは自身の背に隠すエミルに話しかけた。
「そうね、あの時はまんまとやられたからね」
「もうあのようなことはさせませんよ」
 そういうジェシーと丑が、呪縛に縛られたメンバーを更にロープで縛りあげていく。
 洞窟にせり出した大岩に鉛の釣鐘達を固く縛り付け、一行は洞窟の先へと足を向けた。

●潮騒
 波が岩を打つ音が次第に大きくなってくる。
 洞窟は岬の端に出たのか、壁に入った亀裂からうっすらと陽光が漏れていた。
「これって……」
 地底湖のように洞窟に出来た潮溜りにあった『もの』をエミルはゆっくりと見上げる。
「船、か。かなり古い物のようだが」
 それを見上げ、金目は呟く。差し込む陽光の明かりは水面に浮かぶ船を照らし出していた。
「お宝はこの中ゆぅことやろか?」
 かくりと首をかしげる静玖が、船の甲板へと延びる縄梯子を指さす。
「他に目ぼしいものは無いようだし、きっとそうね」
 洞窟の湾内を調べていたジェシーと丑が合流し、一行は縄梯子へと足を掛けた。

「ねぇ、この船って、もしかして新品? 財宝を積んだ海賊船とか想像したのに」
 甲板は埃こそ積もっているものの、傷一つなく状態は非常にいい。ルキハは少し残念そうに腕を組む。
「そうだな。使われた形跡はない。新造されてそのままここへ運ばれた? いったい何のために……」
「戦艦というわけでもなさそうだが」
 金目とウルヴァンが二人して、船の在る意味に思いを巡らせると、
「そんなことよりお宝だろ? 船の調査は今度ゆっくりやればいいさ」
 歩夢が目的を見失いそうになる二人を呆れながら諭した。
 船に上がった9人は、総出で船内を探る。
「うーん、秘密の部屋でもあるんやろうか?」
「そんな感じの場所はなかったわよ……? 船倉をもう一度探してみる?」
 しかし、それほど大きくない船内、程なく捜索を終える。静玖とルキハは浮かない顔で甲板へと戻ってきた仲間達を迎えた。

『皆、来てくれないか!』

 そんな時、舵輪の真下に位置する船長室から、イルムの声が聞こえる。
 イルムは船長室の重厚な机の中に残されていた、一枚の羊皮紙を見つけていた。
「手紙……? なんて書いてあるの?」
「何々……『先だって牧場の眼を醸し出し――』なんだこれ? まるで意味不明なんだけど……」
 机に置かれた手紙を覗き込み歩夢が読み上げるも、内容はさっぱり意味をなしていない。
「そのまま読んでも意味なんて分からないよ。これは古い暗号だからね」
「暗号……? イルムはなんでわかるの? もしかして読める……?」
「もちろんだともエミル君。僕はこれでも帝国爵位を持っていた身だよ? その辺の教養ももちろん積んであるさ」
 不安気に見上げてくるエミルに顔を寄せ、イルムが自信ありげに囁いた。
「少し難解だから、ゆっくりになるけど読み上げるよ――」
 そう言って、イルムは手紙を手に取り朗々と読み上げていく。

 954年――政治的に腐敗が進んでいた帝国、暗黒の時代。
 私は大貴族テルドフル家の当主から、願ってもない申し入れを受けた。
 一応の爵位を持つもが金も人もない一介の技術士官で或る私に、当時最高技術であった魔導エンジンを使った船を造ってくれと言ってきたのだ。
 もちろん私は二つ返事で了承した。建造の理由は帝国の海洋進出の足掛かりとなる最新鋭艦の建造。というものだったが、正直、どうでもよかった。ただ純粋に新しい技術に触れる事ができるのが嬉しかったのだ。
 他国に知られてはいけないという理由から、帝国の小さな漁村に秘密裏に作られたドックで造船が開始される。
 しかし、当時の帝国は船舶技術は未熟も未熟。この事業は困難を極め、大量の人夫、資材、金、そして、時間がつぎ込まれるも、大貴族が望むような大型船舶の建造は遅々として進まなかった。
 それでも造船が開始され3年が経過した頃、船もようやく形となった。だが、そんな折、突然この造船計画の真の目的が露見した。
 奴の狙いは腐敗の進む帝国に見切りをつけ、数々の不正により貯め込んだ私財をこの船を使って国外に運び出す事だったのだ。
 莫大な私財は、陸路で運べば人目につく。奴は当時帝国では見向きもされなかった船に目を付け、海路での搬出を計画した。しかし、帝国に大量の私財を運び出す事の出来る船などない。個人が他国から船を購入しようものなら、すぐに足がついてしまう。
 そこで奴は、国内にて秘密裏に造船を計画。当時、帝国の技術士官であり、部下筋にあった私に目を付けたのだ。
 造船、そして、国外への財産移送計画が露見し、裁判において罪に問われる事を恐れた奴は、私をあっさり切り捨てる。
 この計画の全てを私が独自に立てたものとし、自分はたぶらかされたと言い張ったのだ。
 勿論私も反論した。しかし、爵位的にも政治的にも重要なポストにあった奴の言は信用され、罪は全て私のものとされた。
 結果、私には有罪が言い渡され、財産没収の上、国外追放とされた。

 騙された私が悪い。
 最新技術という名の餌に釣られ、話に乗った私が悪いのだ。
 だが、私が造ったあの船だけは、けっして奴に渡したくなかった。
 これは私の『子』だ。奴にはやれない。だから、追放前夜、私はこの『子』を奪い去った。

「随分と大胆な行動に出たわね。下手をすれば処刑ものでしょうに」

 願わくば、この『子』を大海へと導いてくれる者の手に渡る事を、切に願う。
 手紙はエミルの祖父のサインと共にそう締めくくられていた。

「これが真実……」
 イルムから手渡された手紙をぎゅっと握りしめ、エミルが呟く。
「テルドルフってあのお坊ちゃんの事やんね?」
「だな。どうやら祖先の因縁というのは本当らしい」
 ふむぅと口を曲げる静玖に、ウルヴァンは深く頷いた。
「で、お宝は結局ないって事?」
「この船が宝と言えなくもない。古いとはいえ魔導エンジンを搭載、船体もしっかりしている。売ればまとまった額にはなるだろう、が……」
 と、金目はエミルを見やる。
「みんなの思うようなお宝じゃなくてごめんね。でも、この船は売れない」
 そういうと、エミルは手紙から皆へ視線を移し、
「私ね、正直ほっとしてるんだ。あの手紙が本当の真実かは証明できないけど、私は信じたい。お爺様が裏切り者じゃないって。悪いことは何一つやってないんだって」
 目元にうっすらと涙を溜め、連れ立った仲間達一人一人と目線を交える。
「みんな、ここに連れてきてくれて本当にありがとう。真実に触れさせてくれて、本当に本当にありがとう」
 そう言って、エミルは深々と頭を下げた。

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MVP一覧

  • 真実を斬り拓く牙
    ka4498
  • 凛然奏する蒼礼の色
    イルム=ローレ・エーレka5113
  • 機知の藍花
    静玖ka5980

重体一覧

参加者一覧

  • 戦場の美学
    ウルヴァン・ダイーヴァ(ka0992
    人間(蒼)|28才|男性|機導師
  • 真実を包み護る腕
    ルキハ・ラスティネイル(ka2633
    人間(紅)|25才|男性|魔術師
  • 真実を斬り拓く牙
    丑(ka4498
    人間(紅)|30才|男性|闘狩人
  • 凛然奏する蒼礼の色
    イルム=ローレ・エーレ(ka5113
    人間(紅)|24才|女性|舞刀士
  • 救済の宝飾職人
    ジェシー=アルカナ(ka5880
    ドワーフ|28才|男性|格闘士
  • 真実を照らし出す光
    歩夢(ka5975
    人間(紅)|20才|男性|符術師
  • 機知の藍花
    静玖(ka5980
    鬼|11才|女性|符術師
  • 細工師
    金目(ka6190
    人間(紅)|26才|男性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 宝と闇ギルドをハントせよ
ウルヴァン・ダイーヴァ(ka0992
人間(リアルブルー)|28才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2017/01/30 22:30:43
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/01/30 20:51:23