ゲスト
(ka0000)
【王臨】大地の瘴
マスター:坂上テンゼン

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/01/30 09:00
- 完成日
- 2017/02/07 21:14
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●夜半、ベリアル軍陣営にて
「制御不能の巨大歪虚?
そんなものが役に立つのか」
「愚問だな。
駒が役に立つかどうかは、指揮官次第だ」
「ふん……」
ベリアル軍の士官はそれだけ言って黙った。相対している相手の主君は、本当に彼の主君を見下しているため、何を言っても無駄だと思ったのだ。
「ただ、これは言わば歩く魔法公害だ。
歩いた所は即座に汚染される。
人間の注意を惹くことだけは保証しよう」
相手は、聞かれはしなかったが必要と思い、それだけ語った。
女である。丈の長い上着を着ていた。服装は全て黒で統一していたが、背中にだけ毒々しい赤い文様があった。
怜悧な顔には感情が微塵も浮かんでいなかった。
さっきから彼女が説明しているものは、馬車の荷台の上で、厳重に布が被されて眠っていた。
「解放したらすぐに逃げることだ。
殺されるおそれがある」
「何故そんな癖の強いものを寄越した?」
「……言わなくてはならんのか?
普通の戦力ではもはや勝利は叶うまい」
逡巡したにも関わらず言った。
ベリアル軍の士官はいかめしい羊の顔をゆがめる。
「……貴公らは悲観的に見過ぎている」
「そうでもない。こうして援軍を送っているのだから。
勝てないとわかればきっぱり見限るさ」
本気で困っている士官を前に、女はまるで表情も変えずに言った。
(もっとも……私はどっちでも良いがな)
そして未だ何か言いたげな士官から視線を外し、馬車の荷台を見た。
(さて……こいつはどれほどの結果を出してくれるのか?)
彼女の胸中には、残酷なまでに純粋な知的好奇心があるのみだった。
●悔恨
俺の一生は一体何だったのだ。
茨を取って、ホロム・ゴブリンとなったというのに、結局ニンゲンには勝てなかった。
そして、もう一度敗北を喫した。
かつては寄る辺を失ったが、今度は自由を失った。
王国北部でのゴブリンの一斉蜂起……。
何もかもが輝いていたあの頃……。
戦乱と、破壊と、死に酔いしれていた。
俺達で人間の王国を混乱に陥れてやった。
だが全ては、もうない。
茨の王は死んだ。
そして…………俺は生き残った。
こんなことなら、俺もあの時死んでおくべきだったのかもしれない。
捕らえられ、監禁され、好きなように身体を弄られ、あらゆる苦痛を味わった挙げ句、とんでもない化け物になってしまった今に比べれば、名もないゴブリンの一人としてニンゲンに殺された方がまだマシだった。
奴らは、ニンゲンより恐ろしい。
ニンゲンは死を与えるが、奴らは死の後にも支配する。
得体の知れぬ衝動……。
命を奪いたい……生きることを否定したい。
”負”へと向かう感情。
自分が別のものへと変じてしまった感覚。
もはや理性は、衝動に従って動く肉体を遠くから眺めることしかできない。
だが、一つだけ善いことがあるとすれば、それは……
またニンゲンを殺すことが出来るということだけだ。
●敵対者
グラズヘイム王国、リベルタース地方のとある場所でそれは彷徨っていた。
明確な意思があったわけではない。当てもなく歩いていた。
見た目はいびつに肥大化したゴブリンに見える。片目が潰れている他、多くの傷が見られる。血を噴き出しながら不規則に歩いており、歩いた後ではその体液が汚らわしい色の気体に変わっていた。その土は、凄まじい速さで負のマテリアルに汚染されている。
もしそれの視界に人間が入ったならば、戸惑いなく殺すだろう。それはそういう存在だ。
否、視界に入る必要すらなかった。もともと地の属性と親和性が高いそれは、目に入らなくとも地面の振動から、遠く離れた存在の姿形が解る。
たとえ理性を失っていたとしても、人間だけは他と間違えない。
なぜならそれにとって人間は天敵だからだ。倒すべき敵だからだ。
歪虚となる前からそうだった。
それは種として、人間にとっても倒すべき存在だった。倒すために存在していたと言っても過言ではないくらい、ありふれた敵だった。
だが、生物ではあった。そして今のそれは生きた物ではない。
最大の違いはそこだ。
その固体はかつてはこう名乗っていた。『大地の禍』と。
しかし今であれば、さながら『大地の瘴』といった所だろうか。
「制御不能の巨大歪虚?
そんなものが役に立つのか」
「愚問だな。
駒が役に立つかどうかは、指揮官次第だ」
「ふん……」
ベリアル軍の士官はそれだけ言って黙った。相対している相手の主君は、本当に彼の主君を見下しているため、何を言っても無駄だと思ったのだ。
「ただ、これは言わば歩く魔法公害だ。
歩いた所は即座に汚染される。
人間の注意を惹くことだけは保証しよう」
相手は、聞かれはしなかったが必要と思い、それだけ語った。
女である。丈の長い上着を着ていた。服装は全て黒で統一していたが、背中にだけ毒々しい赤い文様があった。
怜悧な顔には感情が微塵も浮かんでいなかった。
さっきから彼女が説明しているものは、馬車の荷台の上で、厳重に布が被されて眠っていた。
「解放したらすぐに逃げることだ。
殺されるおそれがある」
「何故そんな癖の強いものを寄越した?」
「……言わなくてはならんのか?
普通の戦力ではもはや勝利は叶うまい」
逡巡したにも関わらず言った。
ベリアル軍の士官はいかめしい羊の顔をゆがめる。
「……貴公らは悲観的に見過ぎている」
「そうでもない。こうして援軍を送っているのだから。
勝てないとわかればきっぱり見限るさ」
本気で困っている士官を前に、女はまるで表情も変えずに言った。
(もっとも……私はどっちでも良いがな)
そして未だ何か言いたげな士官から視線を外し、馬車の荷台を見た。
(さて……こいつはどれほどの結果を出してくれるのか?)
彼女の胸中には、残酷なまでに純粋な知的好奇心があるのみだった。
●悔恨
俺の一生は一体何だったのだ。
茨を取って、ホロム・ゴブリンとなったというのに、結局ニンゲンには勝てなかった。
そして、もう一度敗北を喫した。
かつては寄る辺を失ったが、今度は自由を失った。
王国北部でのゴブリンの一斉蜂起……。
何もかもが輝いていたあの頃……。
戦乱と、破壊と、死に酔いしれていた。
俺達で人間の王国を混乱に陥れてやった。
だが全ては、もうない。
茨の王は死んだ。
そして…………俺は生き残った。
こんなことなら、俺もあの時死んでおくべきだったのかもしれない。
捕らえられ、監禁され、好きなように身体を弄られ、あらゆる苦痛を味わった挙げ句、とんでもない化け物になってしまった今に比べれば、名もないゴブリンの一人としてニンゲンに殺された方がまだマシだった。
奴らは、ニンゲンより恐ろしい。
ニンゲンは死を与えるが、奴らは死の後にも支配する。
得体の知れぬ衝動……。
命を奪いたい……生きることを否定したい。
”負”へと向かう感情。
自分が別のものへと変じてしまった感覚。
もはや理性は、衝動に従って動く肉体を遠くから眺めることしかできない。
だが、一つだけ善いことがあるとすれば、それは……
またニンゲンを殺すことが出来るということだけだ。
●敵対者
グラズヘイム王国、リベルタース地方のとある場所でそれは彷徨っていた。
明確な意思があったわけではない。当てもなく歩いていた。
見た目はいびつに肥大化したゴブリンに見える。片目が潰れている他、多くの傷が見られる。血を噴き出しながら不規則に歩いており、歩いた後ではその体液が汚らわしい色の気体に変わっていた。その土は、凄まじい速さで負のマテリアルに汚染されている。
もしそれの視界に人間が入ったならば、戸惑いなく殺すだろう。それはそういう存在だ。
否、視界に入る必要すらなかった。もともと地の属性と親和性が高いそれは、目に入らなくとも地面の振動から、遠く離れた存在の姿形が解る。
たとえ理性を失っていたとしても、人間だけは他と間違えない。
なぜならそれにとって人間は天敵だからだ。倒すべき敵だからだ。
歪虚となる前からそうだった。
それは種として、人間にとっても倒すべき存在だった。倒すために存在していたと言っても過言ではないくらい、ありふれた敵だった。
だが、生物ではあった。そして今のそれは生きた物ではない。
最大の違いはそこだ。
その固体はかつてはこう名乗っていた。『大地の禍』と。
しかし今であれば、さながら『大地の瘴』といった所だろうか。
リプレイ本文
●汚染された土地
その土地に踏み入った瞬間、エルバッハ・リオン(ka2434)が騎乗するイェジド、ガルムが牙をむいて唸りだした。エルバッハはガルムの首を撫でてなだめる。
「酷いな、これは……」
日高・明(ka0476)は思わず口にしていた。人から見ても汚染されていることは明らかだった。
草木一本生えておらず、周辺は微細な塵が舞い、日光が陰って見える。臭いも不快で、その場から離れたくなる。
「すげえ早さで汚染されてるな。とっとと止めないと洒落にならなくなりそうだ」
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)が促すように言うと、一行は再び移動を始めた。
「今回の敵は、地面に変化をもたらす、巨大なゴブリンの姿をした敵と聞いていますけれど」
ルシェン・グライシス(ka5745)はそう言って仲間の顔を見た。
「ああ……巨大ってところがひっかかるけど、そんな奴を一人知ってる」
仁川 リア(ka3483)はルシェンにそう応えてから、レイオスにも目を向けた。
「ソルデリ、なんじゃないかな」
「ソルデリって?」
明が聞いた。
「かつて王国に混乱をもたらした、『茨小鬼』と呼ばれる特殊な力を持ったゴブリン達の中の一体です」
ミオレスカ(ka3496)が、魔導型デュミナス『シルバーレードル』の操縦席の中から応えた。
先の戦いでは、彼女も茨小鬼の一体と戦っている。
「ソルデリは、あの戦いを逃げ延びたんだ」
テノール(ka5676)が引き継ぐように言った。
ソルデリはアークエルスの決戦で城門を開け、街に大きな被害をもたらした上で生還した。
勝ち逃げされたと言えなくもない。
そして、テノールは例の戦いで活躍した二人の妹のことを想う。
うち一人は、ここにいるレイオスやリア、ルシェンと共にソルデリと戦った。
「茨小鬼だかなんだか知らないが、要はいい加減ご退場願おうってこったろ?」
アニス・テスタロッサ(ka0141)が魔導型デュミナスの操縦席から言った。
「ああ。今度は逃がさない」
リアが言った。何人かがその通りと頷くする。
「んじゃま、やるこた一つってワケだ」
アニスはぶっきらぼうに答えた。
一行が歩を進めていると、突如、明が騎乗しているリーリーが鳴いた。
それが警戒を促すものと気づいた明は、皆を制止してから、落ち着かせるようにリーリーの頭を撫でる。
テノールのユグディラ、クリオスィタも同時に気づいたのか、視線を巡らせて遠くを見ていた。
レイオスは同行させているGnomeの腕の上に飛び乗り、遠くを眺める。
それは岩の塊のように見えた。
しかしよく見てみると、所々に生々しい傷があり、乾ききった肌で、首と胴体と四肢があり、片方が潰れた目があって、それがじっと自分を見ていたことがわかった。
理性は感じられない。ただ暴力的な光を帯びていた。
かと思うと、突如としてのそりと体を動かし、狂気じみた動きで一行に向かって駆けだしてきた。
●戦闘開始
「来るぞ! 散開だ!」
レイオスは皆に呼びかけ、Gnomeの腕から飛び降りる。
そしてバイクに跨がって駆けた。他の面々もそれぞれ別の方向へと駆け出す。
アニスとミオレスカのCAM二機だけがその場に残った。
「引きつけて撃つ……!」
「本格的な実戦は初めてですが……頼みますよ、シルバーレードル」
二機ともスナイパーライフルを構える。十分な距離まで敵が近づいたと判断すると、引き金を引いた。
轟音。敵の体表で光が爆ぜた。当たりが浅かったのかその勢いは一切減らない。
それは突如として脚を止め、首を巡らせた。
その視線の先にはバイクで最も近いところまで進んでいたレイオスがいる。
「来ル……! 外カラ、恐ロシイモノガ……!」
嗄れた声は、その異形の歪虚が発したものだった。
破砕音とともに歪虚の足元で地面が部分的に隆起した。鉱物の塊であるそれは粉々に弾け、無数の礫・鉱物の刃となって、レイオスに襲いかかった。
レイオスの視界はすぐさま鉱物の嵐に覆われ、すぐに身体全身でそれを受ける。衝撃がバイクごと吹き飛ばした。
「くっ……何て威力だ」
「足を止めないで!」
リアが顔をしかめ、テノールが呼びかけた。一行はばらけて進んでいたため、被害はレイオス一人で済んだ。
「早くも出番のようですね。聖導士として役目を果たさせて頂くわ」
ルシェンは体中傷だらけで地面に横たわるレイオスの元へ、フルリカバリーを試みるべく走る。
「これ以上、汚染をまき散らされるわけにはいきません。速やかにあれを斃しますよ、ガルム」
エルバッハが呼びかけると、ガルムは一声低く吠え、一気に加速した。
疾走するガルムの背でエルバッハはワンドを掲げる。
呪文が紡がれると、ワンドは燃え上がり、歪虚に向けて火球を発した。それは歪虚の体に炸裂し閃光を発する。
「お前が誰だか知らないけど!」
間髪を入れず、明がリーリーを駆って急接近していた。リーリーは歪虚から少し離れた所から一瞬で凄まじい高みへと跳躍する。
「僕達が、終わらせてやるよ!」
落下と共に振り下ろされる、明の剣。
額へと打ち込まれ、火花を散らした。
着地するリーリー。すぐさま歪虚に向けて方向転換する。
斬った感触は、地面に打ち込んだようだった。
「アリトアラユル悪意ガ……オレニ牙ヲムク……」
はっきりとは聞きづらい声で歪虚が言った。
歪虚は片膝をつき、地面に両掌を付けた。
次の瞬間、その周辺の地面から途切れのない振動音が響きだした。
地面が揺れている。
「アアアァァ、世界ヨォォォ!」
絞り出すような叫び声。
同時に周囲の地面が常軌を逸した速さで隆起・陥没を繰り返した。明のリーリーの足元は抉れ、地面から突き出た岩石が槍のように伸び明を襲う。
それだけではない。歪虚の周辺には土煙が巻き上がり、地形が絶えず変化していく。せり出した地面が壁のように歪虚の周囲に聳え立った。
「くっ、これじゃ狙えねえ!」
CAMのコクピット内でアニスが悪態をついた。
「回り込むか、障害物を破壊するしかありませんね」
同じく愛機の中のミオレスカは方法を模索する。
「しかし次々湧いて出るぞ?!
まぁ……やるしかねぇが……」
後方のCAM二機は、スムーズに攻撃に移れなくなってしまった。
(以前は自身を守り、覆い隠していた大地が、今は敵を倒す為の武器となっているのか……)
前進するリアは思案する。その目は攻撃の様子をしかと捉えていた。
「形は変われど能力の本質は同じ、か。
やはり君はソルデリだ、間違いない……」
かつての悔恨が、蘇った。
「臆病者は死ぬまでに何度も死ぬが、勇者は一度しか死を経験しないと言う」
凝縮されたマテリアルが、歪虚の胸部に叩きつけられた。
「お前は前者だな――『大地の禍』」
青龍翔咬波の構えから残心の姿勢をとる、テノール。
離れた所から、障害物の間を縫っての一撃だった。
「妹たちのやり残しだ。確りと俺が終わらせてやろう」
気を高める。
白霜の幻影がテノールの周囲を舞った。
さらに歪虚の側面へと回り込み、姿勢を低くしての薙ぎ払いを繰り出す者があった。その刀身は雷光を帯び、軌跡は紫電を残す。
レイオスであった。
先に受けた傷が見えつつも、動きに鈍りはない。
「今度は逃がさないぜ、モグラ野郎!」
左手の紋章が、闘争心を示すように輝いた。
「恐るべし、ね……フフ……」
そのレイオスの後ろでルシェンが妖艶に笑った。レイオスに回復を施し、今は味方をサポートするべく位置取っている。
傍らではテノールのクリオスィタが、リュートを奏でている。その調べを聞きながら敵と、仲間をしかと見る。
「これでは回復が追いつかないかもしれないわ」
そう言ったルシェンをクリオスィタが、ドキリとしたように見る。
「早いところ倒さないと危ないですよ。頼みますね」
「俺ハドウスレバヨカッタノダ!」
地響きにも負けぬ大音声で、ソルデリだったモノは叫んだ……。
やがて大地はそれに呼応するように、隆起し、砕け、鉱物の破片を飛び散らせる。
燕のようにその合間を縫うものがあった。
残像を残すほどの速度でそれは動き続け、歪虚へと距離を詰める。
「やっと…………君を倒せる」
六方向から同時に斬りかかるかのように見えた。
影のように漆黒の刃が幾度も繰り出される様子は、洗練された舞踏のようでもあった。
「何でそんな姿になったかは知らない。
だけど、ソルデリとして戦い、倒す」
一瞬大きく身体を屈めたことに歪虚は気付かない。無数の斬撃に翻弄されていたからだ。
「出し惜しみなしの全力で!」
踏み込みと共に斬り上げるアッパースイング。
マテリアルが黄金の気流となって天へ昇る。
その一撃は歪虚の巨体をも吹き飛ばした。
そして、剣士は――仁川 リアは改めて向かい合う。一年以上探し続けた因縁の相手と。
●怒れる大地
「……グ………グガ……グゲゲ……」
ソルデリと呼ばれたものがリアに反応した様子はなかったが、少なくとも攻撃性に満ちていたことは確かだった。
地面は怒りに震えるかのように振動する。
「あら、これはいけないわね……
またあれが来るわ」
「どうしたものでしょうか……
障害物のせいで手出しも難しいですし……」
ルシェンとエルバッハは思案する。彼女等の所まで範囲攻撃は届いてこないが、このままでは前衛で戦う仲間が危険だ。
「出番だ、ゴーレム!」
その時、レイオスが背後に控えていたGnomeに命じた。
「さあ、工事開始だ! まとめて更地にしてやれ!」
Gnomeは呼応するように音を発した。そして頼もしい動きで作業にとりかかる。
レヴェリングモード、起動。
一瞬にして障害物となっていた土塊が破砕された。
「凄い……これがゴーレムの力……」
「これなら、いけるぜ……!」
後方から射線を探っていたミオレスカとアニスが驚嘆していた。二人のCAMの視界は敵の姿をおさめていた。
ミオレスカは素早い動作でCAMに攻撃をさせるべく操作する。
――ターゲット・ロックオン。
――高速演算、開始。
――スキルトレース、適用対象を選択。
――適用対象:シャープシューティング。
「シルバーレードル」
これも欠かせない手順だ。
ミオレスカは強い想いを込めて愛機に呼びかける。
「お願い、敵を倒して」
「華々しさには少々欠けるが……」
機体と一体となったアニスの目が、カメラ越しに目標を捉える。
FCSの効果は確認済み。
元軍人。CAM操縦はもともと本職。中~超長距離からの狙撃は最も得意とする所。
外す理由が見当たらない。
「死にぞこないの手向けには充分だ!」
ライフルが熱を帯びる。
「持っていきやがれぇぇ!!!」
流星のように飛んだ銃弾が歪虚の体に炸裂し、閃光を発したのを、最前線で戦う者達は見た。
「走って、ガルム!」
着弾とほぼ同じタイミングで、エルバッハのガルムが地を蹴った。
敵に視線が届く場所へと主人を運ぶためだ。
――集中は一瞬でいい
「荒れ狂いなさい」
掲げたワンドから、一直線に雷光が迸った。紫電は槍のように歪虚の体に突き刺さると、何度も爆発して体表を炭化させる。
「グゲァアア! 俺ニ敵対スルナァァァァ!!!」
その時、ソルデリの術が完成した。
地面は波打ち、鉱物の破片が乱れ飛んで一行に襲いかかる。
その時、ルシェンは味方のサポートをする為に前に出ていた。非情の大地は彼女にも刃を向ける。
「この程度――」
ルシェンは怯まずに盾を構える。
その前に仁王立ちする者があった。
テノールだった。
鉱物の刃は次々とテノールの体に突き刺さる。
だが、次の瞬間、鉱物の刃は砕け散った。
「金剛不壊」
怯みもなく、テノールは全身のマテリアルを掌に集める。
大地を踏みしだき、一気に掌を突き出す。
テノールの瞳は淀みなき蒼になった。
青龍翔咬波――マテリアルの奔流は龍となって躍り、敵に突き刺さる。
「さあ……戦士達よ! 汝らの欲する所を為しなさい!」
ルシェンは声を張り上げ、神罰銃パニッシュメントを掲げた。
銃としてでなく、法具として使用する。言葉は祝福となり、周囲で戦う仲間達の傷を癒すと共に、戦意を鼓舞する。
「今だ、リーリー!」
ルシェンの回復を受けた明は、全力でリーリーを駆けさせた。
――断てると信じれば、その刃は古今無双の名剣となり得る。
「僕は! ……信じる!」
心の力は刃となる。
リーリーの突進力を乗せての刺突。
激突の瞬間、凄まじい手応えを全身に感じる。身体が弾けそうになるも勝利は信じて疑わなかった。
「ここまでだ、モグラ野郎!」
同時にレイオスが肉薄していた。
跳躍により距離を詰めての、そこから大地を蹴り、回転して体ごと叩きつけるかのように薙ぎ払う。
「最大威力で仲間と同じ所に送ってやるよ……!」
レイオスの意思に応えるように、食い込んだ刃は火花を散らした。
「王……………ヨ………………」
絞り出すような歪虚の声は、既に亡き王に助けを求めたのか、それとも、ここまで戦ったことを王に対して誇ろうとしてのものだったのか、もう誰にも判り得なかった。
ただ歪虚は最後に、最大の力を持って攻撃を仕掛けようとしていた。
その掌を地面へと向ける。
――残像を残して高速で移動するものが走り抜けた。
歪虚の手が綺麗な断面を残して落ちた。
そこから血が噴き出るよりも早く、それは残像を残して歪虚の首へと向かう。
「君は確かに強くなったよ、ソルデリ」
リアだ。歪虚の左肩に乗っている。
「だが……僕らを倒すには『創意工夫が足りなかったな』」
リアは、かつての戦いでソルデリが去り際に残した台詞をそっくりそのまま返す。
ソルデリと呼ばれた者の首が裂ける。
次の瞬間には、リアは居なくなっている。
穢れた血を噴き出してソルデリは崩れ落ちる。
「ソウカ………………アノ時ノ…………………………」
ソルデリの正面に跳んだリアは、かすれた声がそう言うのを聞いた。
その目は、確かにリアに向けられている。
「頼ム………………奴ラヲ………………」
全身が大気に溶けるように消えていく。
やがて、かつて『大地の禍』と名乗り、今は理性を失って『大地の瘴』と言うべき歪虚となり果てた茨小鬼の生き残り、ソルデリは、完全に消滅した。
●終結
(ほんの一瞬だけ、理性を取り戻したのかもしれない)
リアは、戦いの興奮も未だ醒めやらぬ中、いまわの際のソルデリの様子を思い返していた。
……『ソルデリ』として殺してやるのが、そいつにも幸せなことだろうからな……
戦いに赴くリアに友が贈った言葉が、唐突に思い出された。
「これで憎しみから解放されたんだろうか……」
明は、思わずそんな事を口にしていた。
彼なりに、ソルデリの憎しみに満ちた様子には思うところがあったようだ。
一方でエルバッハやミオレスカは疑問を抱く。
異様な力と見た目を持つ歪虚のことを。
あれは何だったのか……どのようにして現れたのか……。
しかし、手掛かりは何も残さずに、歪虚は虚無に返っていった。
クリオスィタが奏でるリュートの調べだけが響き渡っていく。魂を鎮めるように……。
その土地に踏み入った瞬間、エルバッハ・リオン(ka2434)が騎乗するイェジド、ガルムが牙をむいて唸りだした。エルバッハはガルムの首を撫でてなだめる。
「酷いな、これは……」
日高・明(ka0476)は思わず口にしていた。人から見ても汚染されていることは明らかだった。
草木一本生えておらず、周辺は微細な塵が舞い、日光が陰って見える。臭いも不快で、その場から離れたくなる。
「すげえ早さで汚染されてるな。とっとと止めないと洒落にならなくなりそうだ」
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)が促すように言うと、一行は再び移動を始めた。
「今回の敵は、地面に変化をもたらす、巨大なゴブリンの姿をした敵と聞いていますけれど」
ルシェン・グライシス(ka5745)はそう言って仲間の顔を見た。
「ああ……巨大ってところがひっかかるけど、そんな奴を一人知ってる」
仁川 リア(ka3483)はルシェンにそう応えてから、レイオスにも目を向けた。
「ソルデリ、なんじゃないかな」
「ソルデリって?」
明が聞いた。
「かつて王国に混乱をもたらした、『茨小鬼』と呼ばれる特殊な力を持ったゴブリン達の中の一体です」
ミオレスカ(ka3496)が、魔導型デュミナス『シルバーレードル』の操縦席の中から応えた。
先の戦いでは、彼女も茨小鬼の一体と戦っている。
「ソルデリは、あの戦いを逃げ延びたんだ」
テノール(ka5676)が引き継ぐように言った。
ソルデリはアークエルスの決戦で城門を開け、街に大きな被害をもたらした上で生還した。
勝ち逃げされたと言えなくもない。
そして、テノールは例の戦いで活躍した二人の妹のことを想う。
うち一人は、ここにいるレイオスやリア、ルシェンと共にソルデリと戦った。
「茨小鬼だかなんだか知らないが、要はいい加減ご退場願おうってこったろ?」
アニス・テスタロッサ(ka0141)が魔導型デュミナスの操縦席から言った。
「ああ。今度は逃がさない」
リアが言った。何人かがその通りと頷くする。
「んじゃま、やるこた一つってワケだ」
アニスはぶっきらぼうに答えた。
一行が歩を進めていると、突如、明が騎乗しているリーリーが鳴いた。
それが警戒を促すものと気づいた明は、皆を制止してから、落ち着かせるようにリーリーの頭を撫でる。
テノールのユグディラ、クリオスィタも同時に気づいたのか、視線を巡らせて遠くを見ていた。
レイオスは同行させているGnomeの腕の上に飛び乗り、遠くを眺める。
それは岩の塊のように見えた。
しかしよく見てみると、所々に生々しい傷があり、乾ききった肌で、首と胴体と四肢があり、片方が潰れた目があって、それがじっと自分を見ていたことがわかった。
理性は感じられない。ただ暴力的な光を帯びていた。
かと思うと、突如としてのそりと体を動かし、狂気じみた動きで一行に向かって駆けだしてきた。
●戦闘開始
「来るぞ! 散開だ!」
レイオスは皆に呼びかけ、Gnomeの腕から飛び降りる。
そしてバイクに跨がって駆けた。他の面々もそれぞれ別の方向へと駆け出す。
アニスとミオレスカのCAM二機だけがその場に残った。
「引きつけて撃つ……!」
「本格的な実戦は初めてですが……頼みますよ、シルバーレードル」
二機ともスナイパーライフルを構える。十分な距離まで敵が近づいたと判断すると、引き金を引いた。
轟音。敵の体表で光が爆ぜた。当たりが浅かったのかその勢いは一切減らない。
それは突如として脚を止め、首を巡らせた。
その視線の先にはバイクで最も近いところまで進んでいたレイオスがいる。
「来ル……! 外カラ、恐ロシイモノガ……!」
嗄れた声は、その異形の歪虚が発したものだった。
破砕音とともに歪虚の足元で地面が部分的に隆起した。鉱物の塊であるそれは粉々に弾け、無数の礫・鉱物の刃となって、レイオスに襲いかかった。
レイオスの視界はすぐさま鉱物の嵐に覆われ、すぐに身体全身でそれを受ける。衝撃がバイクごと吹き飛ばした。
「くっ……何て威力だ」
「足を止めないで!」
リアが顔をしかめ、テノールが呼びかけた。一行はばらけて進んでいたため、被害はレイオス一人で済んだ。
「早くも出番のようですね。聖導士として役目を果たさせて頂くわ」
ルシェンは体中傷だらけで地面に横たわるレイオスの元へ、フルリカバリーを試みるべく走る。
「これ以上、汚染をまき散らされるわけにはいきません。速やかにあれを斃しますよ、ガルム」
エルバッハが呼びかけると、ガルムは一声低く吠え、一気に加速した。
疾走するガルムの背でエルバッハはワンドを掲げる。
呪文が紡がれると、ワンドは燃え上がり、歪虚に向けて火球を発した。それは歪虚の体に炸裂し閃光を発する。
「お前が誰だか知らないけど!」
間髪を入れず、明がリーリーを駆って急接近していた。リーリーは歪虚から少し離れた所から一瞬で凄まじい高みへと跳躍する。
「僕達が、終わらせてやるよ!」
落下と共に振り下ろされる、明の剣。
額へと打ち込まれ、火花を散らした。
着地するリーリー。すぐさま歪虚に向けて方向転換する。
斬った感触は、地面に打ち込んだようだった。
「アリトアラユル悪意ガ……オレニ牙ヲムク……」
はっきりとは聞きづらい声で歪虚が言った。
歪虚は片膝をつき、地面に両掌を付けた。
次の瞬間、その周辺の地面から途切れのない振動音が響きだした。
地面が揺れている。
「アアアァァ、世界ヨォォォ!」
絞り出すような叫び声。
同時に周囲の地面が常軌を逸した速さで隆起・陥没を繰り返した。明のリーリーの足元は抉れ、地面から突き出た岩石が槍のように伸び明を襲う。
それだけではない。歪虚の周辺には土煙が巻き上がり、地形が絶えず変化していく。せり出した地面が壁のように歪虚の周囲に聳え立った。
「くっ、これじゃ狙えねえ!」
CAMのコクピット内でアニスが悪態をついた。
「回り込むか、障害物を破壊するしかありませんね」
同じく愛機の中のミオレスカは方法を模索する。
「しかし次々湧いて出るぞ?!
まぁ……やるしかねぇが……」
後方のCAM二機は、スムーズに攻撃に移れなくなってしまった。
(以前は自身を守り、覆い隠していた大地が、今は敵を倒す為の武器となっているのか……)
前進するリアは思案する。その目は攻撃の様子をしかと捉えていた。
「形は変われど能力の本質は同じ、か。
やはり君はソルデリだ、間違いない……」
かつての悔恨が、蘇った。
「臆病者は死ぬまでに何度も死ぬが、勇者は一度しか死を経験しないと言う」
凝縮されたマテリアルが、歪虚の胸部に叩きつけられた。
「お前は前者だな――『大地の禍』」
青龍翔咬波の構えから残心の姿勢をとる、テノール。
離れた所から、障害物の間を縫っての一撃だった。
「妹たちのやり残しだ。確りと俺が終わらせてやろう」
気を高める。
白霜の幻影がテノールの周囲を舞った。
さらに歪虚の側面へと回り込み、姿勢を低くしての薙ぎ払いを繰り出す者があった。その刀身は雷光を帯び、軌跡は紫電を残す。
レイオスであった。
先に受けた傷が見えつつも、動きに鈍りはない。
「今度は逃がさないぜ、モグラ野郎!」
左手の紋章が、闘争心を示すように輝いた。
「恐るべし、ね……フフ……」
そのレイオスの後ろでルシェンが妖艶に笑った。レイオスに回復を施し、今は味方をサポートするべく位置取っている。
傍らではテノールのクリオスィタが、リュートを奏でている。その調べを聞きながら敵と、仲間をしかと見る。
「これでは回復が追いつかないかもしれないわ」
そう言ったルシェンをクリオスィタが、ドキリとしたように見る。
「早いところ倒さないと危ないですよ。頼みますね」
「俺ハドウスレバヨカッタノダ!」
地響きにも負けぬ大音声で、ソルデリだったモノは叫んだ……。
やがて大地はそれに呼応するように、隆起し、砕け、鉱物の破片を飛び散らせる。
燕のようにその合間を縫うものがあった。
残像を残すほどの速度でそれは動き続け、歪虚へと距離を詰める。
「やっと…………君を倒せる」
六方向から同時に斬りかかるかのように見えた。
影のように漆黒の刃が幾度も繰り出される様子は、洗練された舞踏のようでもあった。
「何でそんな姿になったかは知らない。
だけど、ソルデリとして戦い、倒す」
一瞬大きく身体を屈めたことに歪虚は気付かない。無数の斬撃に翻弄されていたからだ。
「出し惜しみなしの全力で!」
踏み込みと共に斬り上げるアッパースイング。
マテリアルが黄金の気流となって天へ昇る。
その一撃は歪虚の巨体をも吹き飛ばした。
そして、剣士は――仁川 リアは改めて向かい合う。一年以上探し続けた因縁の相手と。
●怒れる大地
「……グ………グガ……グゲゲ……」
ソルデリと呼ばれたものがリアに反応した様子はなかったが、少なくとも攻撃性に満ちていたことは確かだった。
地面は怒りに震えるかのように振動する。
「あら、これはいけないわね……
またあれが来るわ」
「どうしたものでしょうか……
障害物のせいで手出しも難しいですし……」
ルシェンとエルバッハは思案する。彼女等の所まで範囲攻撃は届いてこないが、このままでは前衛で戦う仲間が危険だ。
「出番だ、ゴーレム!」
その時、レイオスが背後に控えていたGnomeに命じた。
「さあ、工事開始だ! まとめて更地にしてやれ!」
Gnomeは呼応するように音を発した。そして頼もしい動きで作業にとりかかる。
レヴェリングモード、起動。
一瞬にして障害物となっていた土塊が破砕された。
「凄い……これがゴーレムの力……」
「これなら、いけるぜ……!」
後方から射線を探っていたミオレスカとアニスが驚嘆していた。二人のCAMの視界は敵の姿をおさめていた。
ミオレスカは素早い動作でCAMに攻撃をさせるべく操作する。
――ターゲット・ロックオン。
――高速演算、開始。
――スキルトレース、適用対象を選択。
――適用対象:シャープシューティング。
「シルバーレードル」
これも欠かせない手順だ。
ミオレスカは強い想いを込めて愛機に呼びかける。
「お願い、敵を倒して」
「華々しさには少々欠けるが……」
機体と一体となったアニスの目が、カメラ越しに目標を捉える。
FCSの効果は確認済み。
元軍人。CAM操縦はもともと本職。中~超長距離からの狙撃は最も得意とする所。
外す理由が見当たらない。
「死にぞこないの手向けには充分だ!」
ライフルが熱を帯びる。
「持っていきやがれぇぇ!!!」
流星のように飛んだ銃弾が歪虚の体に炸裂し、閃光を発したのを、最前線で戦う者達は見た。
「走って、ガルム!」
着弾とほぼ同じタイミングで、エルバッハのガルムが地を蹴った。
敵に視線が届く場所へと主人を運ぶためだ。
――集中は一瞬でいい
「荒れ狂いなさい」
掲げたワンドから、一直線に雷光が迸った。紫電は槍のように歪虚の体に突き刺さると、何度も爆発して体表を炭化させる。
「グゲァアア! 俺ニ敵対スルナァァァァ!!!」
その時、ソルデリの術が完成した。
地面は波打ち、鉱物の破片が乱れ飛んで一行に襲いかかる。
その時、ルシェンは味方のサポートをする為に前に出ていた。非情の大地は彼女にも刃を向ける。
「この程度――」
ルシェンは怯まずに盾を構える。
その前に仁王立ちする者があった。
テノールだった。
鉱物の刃は次々とテノールの体に突き刺さる。
だが、次の瞬間、鉱物の刃は砕け散った。
「金剛不壊」
怯みもなく、テノールは全身のマテリアルを掌に集める。
大地を踏みしだき、一気に掌を突き出す。
テノールの瞳は淀みなき蒼になった。
青龍翔咬波――マテリアルの奔流は龍となって躍り、敵に突き刺さる。
「さあ……戦士達よ! 汝らの欲する所を為しなさい!」
ルシェンは声を張り上げ、神罰銃パニッシュメントを掲げた。
銃としてでなく、法具として使用する。言葉は祝福となり、周囲で戦う仲間達の傷を癒すと共に、戦意を鼓舞する。
「今だ、リーリー!」
ルシェンの回復を受けた明は、全力でリーリーを駆けさせた。
――断てると信じれば、その刃は古今無双の名剣となり得る。
「僕は! ……信じる!」
心の力は刃となる。
リーリーの突進力を乗せての刺突。
激突の瞬間、凄まじい手応えを全身に感じる。身体が弾けそうになるも勝利は信じて疑わなかった。
「ここまでだ、モグラ野郎!」
同時にレイオスが肉薄していた。
跳躍により距離を詰めての、そこから大地を蹴り、回転して体ごと叩きつけるかのように薙ぎ払う。
「最大威力で仲間と同じ所に送ってやるよ……!」
レイオスの意思に応えるように、食い込んだ刃は火花を散らした。
「王……………ヨ………………」
絞り出すような歪虚の声は、既に亡き王に助けを求めたのか、それとも、ここまで戦ったことを王に対して誇ろうとしてのものだったのか、もう誰にも判り得なかった。
ただ歪虚は最後に、最大の力を持って攻撃を仕掛けようとしていた。
その掌を地面へと向ける。
――残像を残して高速で移動するものが走り抜けた。
歪虚の手が綺麗な断面を残して落ちた。
そこから血が噴き出るよりも早く、それは残像を残して歪虚の首へと向かう。
「君は確かに強くなったよ、ソルデリ」
リアだ。歪虚の左肩に乗っている。
「だが……僕らを倒すには『創意工夫が足りなかったな』」
リアは、かつての戦いでソルデリが去り際に残した台詞をそっくりそのまま返す。
ソルデリと呼ばれた者の首が裂ける。
次の瞬間には、リアは居なくなっている。
穢れた血を噴き出してソルデリは崩れ落ちる。
「ソウカ………………アノ時ノ…………………………」
ソルデリの正面に跳んだリアは、かすれた声がそう言うのを聞いた。
その目は、確かにリアに向けられている。
「頼ム………………奴ラヲ………………」
全身が大気に溶けるように消えていく。
やがて、かつて『大地の禍』と名乗り、今は理性を失って『大地の瘴』と言うべき歪虚となり果てた茨小鬼の生き残り、ソルデリは、完全に消滅した。
●終結
(ほんの一瞬だけ、理性を取り戻したのかもしれない)
リアは、戦いの興奮も未だ醒めやらぬ中、いまわの際のソルデリの様子を思い返していた。
……『ソルデリ』として殺してやるのが、そいつにも幸せなことだろうからな……
戦いに赴くリアに友が贈った言葉が、唐突に思い出された。
「これで憎しみから解放されたんだろうか……」
明は、思わずそんな事を口にしていた。
彼なりに、ソルデリの憎しみに満ちた様子には思うところがあったようだ。
一方でエルバッハやミオレスカは疑問を抱く。
異様な力と見た目を持つ歪虚のことを。
あれは何だったのか……どのようにして現れたのか……。
しかし、手掛かりは何も残さずに、歪虚は虚無に返っていった。
クリオスィタが奏でるリュートの調べだけが響き渡っていく。魂を鎮めるように……。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/01/28 10:44:55 |
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相談卓 仁川 リア(ka3483) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2017/01/28 14:11:51 |