• 幻洞

【幻洞】襲撃~謎のヴォイドレディ~

マスター:猫又ものと

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/02/05 15:00
完成日
2017/02/13 10:07

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 辺境ドワーフ第二採掘場。
 この場所へ歪虚の軍勢は間もなく訪れる。
 今回はこの場所で敵の侵攻を食い止める事となった。
「敵はまっすぐこちらへ侵攻していますね」
 辺境要塞管理者ヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)は、ドワーフが作成した周辺の坑道図を前に敵の侵攻ルートを推察する。
 敵は北から壁に穴を開けて潜入。そのまま数で一気に押し通そうとする力任せの戦術で来る事が予想される。
 ヴェルナーはハンター達のの協力を得て、歪虚達を惹きつけ、ヨアキム(kz0011)を始めとする魔導アーマー部隊で一気に敵を囲い込み、殲滅する作戦を立案。行動に移したが……予想外のことが起きた。
 ――そう。伏兵の存在である。
「申し上げます! 採掘実験場に謎の歪虚が出現! 例の女歪虚と思われます!」
「……やれやれ。そう来ましたか。第二採掘場と同時多発で揺さぶりをかけるつもりですね。ふむ。敵も少しは頭が回る、ということでしょうか」
 部下の報告を受け、ため息をつくヴェルナー。
 巨大ワーム『ロックワン』を退ける為にはイニシャライザーが必須。それまでの時間を稼がなくてはならない。
 第二採掘場には既にハンター達と共にファリフ・スコール(kz0009)とカペラ(kz0064)、ヨアキムを始めとするドワーフ達が向かってくれている。
 己の部下を向かわせることも考えたが……自分達にはイニシャライザーの受け入れ準備という仕事もある。
 これ以上の人手をどうやって出すか――。
「……ヴェルナー。俺が向かおう」
 不意にかけられた声。ヴェルナーが顔を上げると、そこにはバタルトゥ・オイマト(kz0023)が立っていた。
「おや。大首長殿自らお出ましとは……。お忙しいのではないのですか?」
「……部族会議に救援要請が来たんだ。俺が出ても何の不思議もあるまい……。あまりからかってくれるな……」
「これは失礼。正直助かりますよ。どうやって人員を割こうか考えていたところでしたので」
 ふふふと笑うヴェルナーに、ため息を返すバタルトゥ。
 ……帝国とはそれなりの確執はあったが、元々オイマト族は帝国の力を借りて歪虚の討伐を目指していた。
 先日締結されたパシュパティ条約のこともあり、この2人の仲はさほど悪くはないのかもしれない。
「……ハンター達に助力を頼む。状況を教えてくれ……」
「敵はパペットマン数体の他に、大型の土型ゴーレム1体と先日目撃された女性型歪虚が目撃されています。ゴーレムと対峙するんでしたらユニットを持って行った方がいいでしょうね」
「……採掘場で暴れては、ドワーフ達が困るのではないか……?」
「確かに。ですが、例の彼女が現れたのはカペラさんが魔導アーマーでの採掘実験を行う為に用意した場所です。まあ、派手に壊されればカペラさんも悲しむとは思いますが……多少の被害は目を瞑りましょう。ただし大規模な破壊は絶対に禁止ですよ。他の場所に危険が及びますからね。それから、今回はあくまでも時間稼ぎが目的です。くれぐれも深追いはしないでください」
「……了解した。ハンター達にも伝えよう」
「宜しくお願いしますね」
 ヴェルナーの物腰柔らかい声にバタルトゥは頷くと、踵を返してハンター達を呼びに向かう。

●襲撃~謎のヴォイドレディ~
「……あれ。出るとこ間違えちまったみたいねぇ」
 小さな土のゴーレムに赤いソファーを運ばせて、そこにもたれたまま、はふぅとため息をつく仮面の女歪虚。
 いくら周囲を見渡しても、先に到着しているはずの部下達の姿が見えない。
 トーチカ・J・ラロッカと呼ばれる彼女は、本来であれば部下であるモルッキーとセルトポと同じ場所……第二採掘場に出るはずだったのだが、どうやら道を間違えてしまったらしい。
 ――ヴェルナーが有能だと評したのに、ただの間違いだと知ったら嘆きそうである。
「まぁ、ちょっと暴れる場所が違ったって構いやしないさね。……大体、この長城邪魔なんだよねぇ。ビックマー様が思うように進軍できないじゃないのさ」
 ブツブツとぼやくトーチカ。
 そう。この作戦を成功させて、ビックマーから褒美をたんまり戴くのだ!
 でもって目指せニート生活!!
 成功のヴィジョンが頭を巡ってうっとりとするトーチカ。目の前にぼーっと立っているパペットマンとゴーレムに向かって、蕩けるような笑顔を向ける。
「さあ、お前達! やーっておしまい!」

リプレイ本文

 前略 かーちゃん。

 お久しぶりです。かーちゃん元気ですか。
 突然ですがヤバいです。

 前門にOPPAI。
 左右に美少女(複数)。
 後門にOPPAI。

 かーちゃん。僕は今……ピンチです。


 青い顔で手紙を綴る水流崎トミヲ(ka4852)に、テンシ・アガート(ka0589)が恐る恐る声をかける。
「あの……。トミヲさん。何してるのかな」
「何ってかーちゃんに手紙を……これが遺書になるかもしれないから」
「覚悟があるのはいいことですがちょっと大げさでは……?」
「覚悟じゃないよ。物理的に死ぬんだよ」
「よし! 今日のヤタガラスの整備もばっちり! 灯りも設置できたし、皆がんばろー……って。どうしたの?」
「トミヲさんの命の危機らしいよ」
 のんびりと言う狭霧 雷(ka5296)に真顔で返すトミヲ。テンシの解説に、クレール・ディンセルフ(ka0586)が自慢の魔導アーマーから顔を出しつつ首を傾げる。
 この状況はDTには刺激が強すぎる。本人は大真面目だし必死なのだ。
 そんな仲間達を他所に、バタルトゥ・オイマト(kz0023)は女性陣に囲まれていた。
「オイマト族の族長さんに初めて会ったの! 感激なの~! ディーナなの! 宜しくお願いしますなの!! 一昨年買ったこのコート、とっても可愛かったの! オイマト族の小物をもっと大々的に販売してくださいなの!」
「……すまないが細かい話はまた後でな……」
「バターちゃん。これが終わったらゆっくり子作りに励むのなー」
「……そういうことは軽々しく口にするものじゃ……」
 ぐいぐいと欲望を丸出しにするディーナ・フェルミ(ka5843)と黒の夢(ka0187)に仏頂面を返すバタルトゥ。トミヲが被せ気味に口を開く。
「ええっ。ヴォ、歪虚と、そ、そういうことは……その、色々、マズいんじゃないのかな!! そ、それ以前にまずお付き合いしてから結婚して……」
「??? トミヲさん歪虚と結婚するの?」
「あー。さてはトミヲちゃん……惚れたのな?」
「ち、違っ……!!」
 ディーナと黒の夢のツッコミに青い顔に朱が入って紫になるトミヲ。
 イスフェリア(ka2088)がアワアワとその間に割って入る。
「あのっ。えっと……そんなこと言ってる場合じゃないんじゃないかな……!」
「やれやれ。久しぶりに会うたが……相変わらずの女難と見えるのう、バタルトゥ?」
「あまり名誉なことではないな……」
 キセルを揺らしてくつりと笑う蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)。

 ところで皆さん、何か忘れてませんかね?

「ちょっとあんた達! あたしを無視するんじゃないよ!!」
「あー! 誰かと思えばあの時の女ー!!」
 地団駄を踏む女歪虚を指差すクレール。蜜鈴の空色の瞳に2人を映す。
「クレール。知り合いかえ?」
「知り合いっていうか、前にここで会ったの。その時は変なモグラも一緒にいたんだけど……」
「仲間に置いていかれちゃったのな?」
「可哀想なのー!」
「あいつらがあたしを置いていく訳ないだろ! ちょっと道に迷っ……」
 黒の夢とディーナの同情の眼差し。女歪虚の言い返した言葉は、げふんごふんというわざとらしい咳でかき消される。

 ――今、道に迷ったって言ったよね。
 ――言いましたね。
 ――もしかして結構単純だったりするのかな?
 ――なんて、けしからん……くっ、この胸のドキドキ……この歪虚、チャームスキル持ちか……ッ?!

 そんな会話を器用に目線だけで行ったテンシと雷、イスフェリア。
 相変わらず顔色が紫のトミヲを余所に、クレールがビシィ! と腕を前に突き出した。
「ここであったが数日目! ……えーと。名前なんだっけ? あ、私はクレールだよ」
「ハァ?! 覚えてないのかい!? 失礼な小娘……と思ったけどしっかり名乗ってるねェ。いいさ。あたしはトーチカ・J・ラロッカ。もう忘れるんじゃないよ」
「そうそう! トーチカ!! 松明みたいな名前!」
「誰が松明だよ! ったく、やっぱり失礼な小娘だね!!!」
 全く悪びれる様子のない彼女にキセルを振り上げながらプンスコするトーチカ。
 イスフェリアがそっと声をかける。
「あの。こんにちは。素敵な仮面と、座り心地のよさそうなソファだね」
「おや。ハンターにもこの高尚な趣味が分かるのがいるんだねえ」
「煙管も可愛いな。どこで買ったの?」
「これはあたしの部下の……モルッキーとセルトポの手作りさ。あいつらはモグラにしちゃ手先が器用でねえ。色々作れるんだよ」
 フフンと笑うトーチカ。おだてられ、即機嫌を直したらしい。ぽわん……と蝶の形の煙を吐き出して、イスフェリアが目を輝かせる。
「わあ! すごい。蝶の煙を吐くことができるんだね。素敵。他の形もでたりする?」
「そうだねえ。丸とかハートとか……?」
「何でもできるんだね。すごいなあ。他に得意なことは何?」
「そりゃああたしの得意なことって言ったら、土を操ることに決まってるじゃないか」
「……私知ってるの。こういうのチョロいって言うの」
「うな? チョビヒゲなのな?」
「黒の夢さん、チョしか合ってないですよ」
 ボソボソと呟くディーナ。どこまでもボケ倒す黒の夢に雷がツッコむ。
 こいつ、チョロいっていうか。ちょっと足りないんではなかろうか。
 だって明らかに挙動がおかしいトミヲにまでべらべらしゃべってますし。
「……くっ、そ、そそその見た目と過剰な色気……こっ、この感じ……間違いない、君がこの前線のボスだなっ!?」
「んー。分かっちまったかい? やっぱりこの気品は隠しきれないのかねぇ」
「……んまままさか、そのゴーレムとかパペットとかは……っ!」
「そうだよ? あたしが作ったのさ」
「俺、テンシ。よろしく! で、そのパペットってどうやって作ったんだい?」
「そりゃあアレさ。あたしがちょっと力を込めたらすぐさ」
「……ということはアレだね。魔法生成の自動人形で知能はないね?」
「そうだね……って何言わせるんだい! お前達! やーーーーっておしまい!!」
「誘導尋問に引っかかって逆切れしよるか。いやはや、如何ほどかと思えば愚かなる者か。……何方にせよ、妾とは気が合いそうに無いのう」
「いいのなー! 胸の大きさなら負けないのな!!」
 くすくすと笑う蜜鈴にノリノリの黒の夢。
 何かなし崩しに戦闘始まるみたいですよ!


「ううう。僕の予想が当たってればだけど、あの女ボスまで参戦したら分が悪いぞ……!」
「そうですね。さっさとご退場願いましょうか」
「同感じゃ。では妾も往くとするかのう」
 戦闘開始と同時に響き渡る黒の夢のイェジドの咆哮。
 プルプルしながらも状況を分析するトミヲに、雷と蜜鈴が頷く。
「ディーナさん、援護するけどくれぐれも無理しないでね」
「了解なの!」
 イスフェリアの声にディーナは素直に頷きながらリーリーの背に跨る。
 先ほどはちょっと欲望をぶっ放してしまったが、真面目にお仕事すれば族長もお願いを叶える気になってくれるかもしれない。
 オイマト族のアイテムゲットの為にもここは頑張らなければ……!!
「うな。我輩もオイマト族のアイテム欲しいのな」
「あれっ。黒の夢さん何で私が考えてること分かるの?!」
「何でって声に出てたのな!」
 そこに聞こえてくる機動音。クレールの魔導アーマーが仲間達を守るように歪虚の前に立ち、そしてテンシの魔導アーマーとクレイゴーレムが取っ組み合いを始めていた。
「ここは通さないんだから!!」
「よし、行け! マッチョメン! こいつを食い止めるぞ!」
 テンシの口から飛び出した言葉に振り返るトミヲ。
 恐らくは魔導アーマーの名前だろう。
 マッチョメン。確かに魔導アーマーにしては凹凸がはっきりした造形をしていて、筋肉が盛り上がっているようにも見える。
 だからこの名前なのか。
 それにしてもこの光景、どこかで見たような……。
 ああ、そうか。アレだ。故郷の馴染み深い競技、相撲のぶつかり稽古だ……。
 いやいや。現実逃避してる場合じゃない。パペットマンを何とかしないと。
 ふと目線を戻すと、クレールのヤタガラスの横をすり抜けたパペットマン達に、魔導アーマーを駆る雷とディーナとリーリーが追われているのが見える。
 ――否。これはわざと追わせて、引き付ける作戦。
 ……にしては手数が多くて、雷もディーナも予想外の大立ち回りを要求されたのだが。
「思ったより数が多いですね……!」
「リーリー! 囲まれないように注意するの!」
「クエッ!」
 怒涛のように押し寄せる腰ほどの高さの泥人形。
 魔導アーマーとリーリーであれば数体は踏み潰せるだろうが、マトモに相手をしていたらあっという間に集られてエライことになる。
 だから、引き寄せてある程度まとめて……そこを一斉に叩く!
「泥とあらば水を含んでおるか……? 身体の芯から冷やしてやろうぞ。凍てつく風よ。彼の者を包め!」
「光よ。敵を討ち払え……!」
「雷撃よ! 敵を貫け! ……とかいう詠唱カッコいいよね。中二病っぽいけど!」
 密やかに穏やかに。呪いを込めた蜜鈴の歌。流れるように続く詠唱。
 そこに、イスフェリア、トミヲの詠唱が重なる。
 氷の嵐と溢れる光――そして空を斬る雷撃にパペットマンたちが次々と倒れていく。
 ハンター達の猛攻を運よくくぐり抜けた泥人形を踏み潰し、叩いて回る雷とディーナ。
 バタルトゥも手際良くパペットマンを切り刻む。
 今ので大分数を減らしたはずだが……パペットマンたちはゆらりと暗がりがら現れて、怯むことなく襲いかかってくる――。


「うぉっと……!」
「テンシさん、大丈夫!?」
「平気!」
 クレールの心配そうな声に、敵を見据えたまま答えるテンシ。
 振り下ろしたクレイゴーレムの腕をまともに食らい、傾いだマッチョマン。すぐさま姿勢を立て直してゴーレムに食らいつく。
 クレイゴーレムの攻撃力はなかなかのものだが、大丈夫。防御態勢を取っていたしダメージは軽微だ。
 普通の魔導ゴーレムであれば今の一撃でバランスを崩して転んでいただろうが……マッチョメンは戦場の盾になるべく、寝る間も惜しんでカスタマイズを施した機体だ。
 防御性能と復帰能力にはちょっと自信がある。この程度でやられはしない……!
 そして再び傾ぐ機体。見ると、パペットマンが足元に纏わりついている。
 少し足を動かして数体踏み潰したが……何しろ数が多い。このままでは動けなくなりそうだ。
「黒の夢さん! 悪いけど足元のパペットマン一掃してくれる?」
「えっ。でもそれだとテンシちゃんの魔導ゴーレム巻き込んじゃうのな!」
「大丈夫! 俺のマッチョマンは頑丈だから! 多少の攻撃じゃ壊れないよ!」
「……壊れたらどうするのな?」
「愛の鞭で何とかする」
 小首を傾げる黒の夢に真顔で答えるテンシ。
 要するに斜め45度でぶっ叩いて何とかするということなのだろうが……本当に大丈夫なのか?
 しかしそこはボケ属性の高い黒の夢。あっさりと納得したらしい。
 マッチョメンの足元目掛けて鋭い風の刃を雨あられとぶつける。
「ちょっ。まっ。大丈夫とは言ったけど手加減して!?」
「手加減してるのなー」
 のんびりと答える彼女。そう。テンシは黒の夢の魔法威力が死ぬほど高いことを考慮に入れていなかった!!
「ヒイイイ! 揺れるああああああ」
 ガコンガコンと装甲に衝撃を受ける度に揺れる機体。
 ちなみに地面は狙っていないので地盤的にも問題ない。
 揺れるマッチョマンと一緒にクレイゴーレムまでガクガクと揺れている。
 足元のパペットマンは一掃出来てるし、クレイゴーレムも揺れて動けないようで、テンシがちょっと酔いそうなことだけを除けば結果オーライだったのかもしれない。
 そしてクレールもまた、パペットマンが纏わりついて来る時に起きる衝撃にじっと耐えていた。
 もうヤタガラスの両足にはびっちりと、装甲が見えなくなるくらいには歪虚がしがみついている。
 歪虚が幾重にも折り重なっていて、これではそう簡単には動けないだろう。
 そして仲間を踏み台にして、パペットマン達は更に上を目指そうとしていて――。
「クレールさん! すっごいパペットマンくっつけてるけど大丈夫……?」
「うん。平気。むしろこれが狙い」
 イスフェリアの心配そうな声にきっぱりと答えるクレール。
 そう。ここまでは彼女の計画通り。
 どうせだったらもっともっと、パペットマンにくっついて貰わないと……!
「ウォルランドゥ! ディーナさんと雷さんのガードお願い!」
 人間砲台のごとく雷撃を撃ち続けるトミヲ。彼の相棒のユキウサギは突進するパペットマンを薙ぎ払ってディーナを守る。
「ユキウサギちゃんありがとなの! ねえ! なんでこんなにいるのーー!?」
「数は減らしているはずなんですがね……」
 シールドを構えて、歪虚が飛ばしてきた泥を受け流す雷。
 撃っても撃ってもわらわらと現れるパペットマン。
 押しつ押されつを繰り返し、傷ついて行く仲間達を、イスフェリアの放つ癒しの光が包み込む。
「それにしても……最初は数体だったのに増えてる気がする」
「ちょろちょろと小賢しゅうて敵わぬ……!」
 癒しながらも、辺りを見回した彼女の呟きに応えるように氷の嵐を巻き起こす蜜鈴。
 最初、そんなにパペットマンの数が多いようには見えなかったのに。
 まるで、次々に生み出されているような……。
 そこまで考えて、目線を移すイスフェリア。
 ……もしかして、トーチカが……?
 蜜鈴も同じことを考えていたのか、剣呑な目をソファーでだらけている女歪虚に向け――。
 そこは、ちょっとした修羅場になっていた。
「ギャアアアア! お、お前達うろちょろ逃げ回るんじゃないよ! 集中できないだろ!」
 トーチカのソファーの足元目掛けて風の刃をぶっぱなす黒の夢と、ソファーを抱えたままアワアワと逃げ惑う小さなパペットマン。
 そしてその追いかけっこに巻き込まれたトーチカが悲鳴をあげていた。
「蜜鈴さん。やっぱり、パペットマンはあの人が……」
「うむ。元を断てば良いようじゃのう。黒の夢や、そのまま続けよ。イスフェリア、トミヲ。パペットマンを殲滅するぞえ」
「了解なのなー!」
「はい……!」
「OK! この隙に一気に畳みかけよう! あっ。念のためOPP……いやいや。トーチカ攻撃できる弾数残しておいてね!」
「分かったの! リーリー! 蹴散らしちゃってなの!!」
「トミヲさん! そっちに敵いませんよ! ちゃんと前見て下さい!」
「だってOPPAIがOPPAIと戦ってるああああああああああああ!!」
 何だかこっちはこっちで修羅場っておりますが。
 その頃、クレールのヤタガラスは大量のパペットマンに埋め尽くされていた。
「そろそろ頃合いね」
 ふふふと笑うクレール。そう。魔導アーマーもれっきとした魔導機械……機導術の媒介として、これ以上無いものなのだ!
「スキルトレースオン! いっけえ! この全身全てが雷を纏う肉弾戦車だーーーーーーっ!!」
 彼女の叫び。同時にヤタガラスの全身を雷撃が駆け巡り――纏わりついていたパペットマン達がボタボタと落ちていく。
「これがパペットマンホイホイ作戦よ! どうだ!!」
「すごいけど、そのネーミングはどうなのかな、と」
 笑うテンシ。マッチョマンの手にした魔導鈎がクレイゴーレムの足に突き刺さり、それに気づかずに動こうとしたそれがバランスを崩して地に伏した。
「あれ。足引っかけてやろうと思ったのに自滅したかー」
「まあいいじゃない。トドメ刺しましょ、トドメ!!」
 笑顔でゴーレムの延髄に刀を突き刺すクレール。
 歪虚死すべし。慈悲はない。
 テンシとクレールがクレイゴーレムを粘土の塊に還した頃、仲間達もパペットマンの一掃に成功していた。


「おのれ……! あたしのゴーレムちゃんを……!」
「トーチカちゃんの彼氏1号ちゃんなら、ただの土塊になってしまったのなー。残念なのなー」
「残念なのなー、じゃないよ! あれ作るのちょっと時間かかるんだからね!?」
 黒の夢の挑発に相変わらずの自爆っぷりを見せるトーチカ。
 蜜鈴はため息をつくと、トーチカを見つめる。
「……おぬしの手先は全て片づけた。あとはおぬしだけじゃが……ここで引けば見逃してやっても良いぞ。どうするかえ?」
「バッカ言うんじゃないよ! あたしの本気を……」
 言いかけたトーチカの言葉を遮るようにパチンと扇子を鳴らす蜜鈴。
 それを合図に、黒の夢から風の刃が飛んで……器用にトーチカのボディスーツに切れ目が入る。
「ギャアアアアアアア!? 嫁入り前の身体になんてことすんのさ!!」
「我輩知ってるのな。この場合、結果的にトーチカちゃんの服を破いたら勝ちであるー」
「……そういうことじゃ。もう一度問おうかのう。どうするかえ?」
「お願い、引いて。これ以上の戦いは無意味だよ」
 無言で蜜鈴とイスフェリアを睨みつけるトーチカ。トミヲが目を泳がせたまま口を開く。
「トーチカ、一つ聞きたい。君の狙いは何だ……! 何のために戦う!」
「何の為って……そうだねェ。しいて言うならビックマー様の為かねぇ」
「ビックマーが好きなんですか?」
「ハァ!? 何気軽に呼び捨てしてんだい! 様をつけな! このスカポンタン!!」
 雷の一言にキイイイ! と怒りを露わにするトーチカ。
 構えて襲いかかろうとしたその時、聞こえた機動音。
 後方から凄い勢いで泥が飛んで来て、女歪虚が泥まみれになる。
「やーいやーい! 泥まみれ! ちょっと出るトコ出てるからって! バーカ! バーカ!!」
「何さ! ちょっと若いからって生意気なんだよこのまな板娘ーーッ!」
「まな板じゃないですー! ちゃんとありますー! 何よ年増BBA!!」
「キイイイイ! ちょっとそこから降りといで! ぶん殴ってやるぅ!」
「お断りですよーーーーだ!!」
 クレールとトーチカのえげつない言い争い。
「あっ。あっ。OPPAIと美少女が喧嘩してるぅっ!」
「どうするの? 止めるの?」
「トミヲさんのその表現はどうかと思うけど、あの手のケンカには手出さない方がいいよ」
 下手するとこちらが死ぬからね、とさらっと言うテンシに青ざめるトミヲ。
 それもそうだね、とディーナも頷き。
 ――地下の採掘実験場に、えげつない罵詈雑言が続く。 


「……今日はこのくらいで勘弁してやろうじゃないか。お前達、覚えておいで!」
 ボディスーツを切られ、泥を被せられ、クレールとの醜いキャットファイトの果てにようやく己の不利を理解したトーチカは、捨て台詞を吐いて……また小さいパペットマンを作り出してソファーを運ばせて帰って行った。
 とにかく自分で歩くのが嫌なようだ。さすがは怠惰眷属である。
 歪虚を追い払い、採掘実験場の設備を確認して回ったハンター達。特に被害が出ていないことを覚って、イスフェリアはホッと安堵のため息をついた。
「設備、壊れてなくて良かったね。泥だらけになっちゃったけど……」
「んもう! 全部綺麗に掃除しなきゃいけないじゃない!! 折角これから色々整備しようって計画案提出したところなのにーー!!」
 泥を被った壁を撫でてぷりぷりと怒るクレール。
 ここに来るのは2度目だが、すっかり愛着が湧いてしまったらしい。
 蜜鈴はキセルを咥えようと思ったが……残念ながらそれも泥を被っていて眉根を寄せる。
「やれやれ。仕事の後の一服もできなんだ。妾達も泥だらけじゃ。早う帰って湯浴みをしたいのう」
「泥もだけど汗もかいたよ……! とりあえずトーチカは自分の能力ベラベラ喋ってくれたし、ヴェルナーさんに報告した方がいいよね、バタルトゥさん」
「ああ。その方が良かろうな……。ヴェルナーにも何やら考えがあるようだったし……」
「そうですね。今後の対策の役に立つかもしれませんしね……ってトミヲさん!? どうしました!? しっかりしてください!!」
 テンシとバタルトゥ、雷の真面目な話を静かに聞いていたトミヲ。
 大量の鼻血を噴出して音もなく崩れ落ちた。
「刺激が……強い戦場だった……んや……」
「大丈夫? トミヲちゃん? 触るのな?」
「ギャアアアアア!!」
 目の前に黒の夢の豊かな胸を突き出され、再び血の海に沈むトミヲ。
 黒の夢さん! 励ましてるつもりなのかもしれませんがそれトドメ刺してますから!!
「オイマト族の文様素敵だしデザインもいいの! 洋服だけじゃなくて是非他の小物も流通させてほしいの!!」
「……分かった。考えておこう……」
「バターちゃんへの愛なら負けないのなー!」
「違うの! 私のはオイマト族の小物への愛なの!」
 そしてオイマト族の小物への愛を滔々と語るディーナ。
 黒の夢と共に迸る愛をバタルトゥにひたすら語って聞かせて……。
「さあ。長居は無用じゃ。帰るとしようぞ」
「バタルトゥさんもお疲れ様!」
 付き合いの長い者にしか分からない微妙な差だけれど、彼が若干困惑しているのを察知して、蜜鈴とイスフェリアは苦笑しながら救いの手を差し伸べた。


 採掘実験場を守りきり、トーチカの部隊の撃退に成功したハンター達。
 この事件の対応中に分かったことを全てヴェルナーに伝え――。
 そしてトーチカ達が去ってもなお止むことのない地震。
 帝国から届けられたイニシャライザーと『ロックワン』と呼ばれる白いグランドワームの存在が、この事件を一気に動かすこととなる。

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MVP一覧

  • 遥かなる未来
    テンシ・アガートka0589
  • DTよ永遠に
    水流崎トミヲka4852

重体一覧

参加者一覧

  • 黒竜との冥契
    黒の夢(ka0187
    エルフ|26才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    スカー
    スカー(ka0187unit001
    ユニット|幻獣
  • 明日も元気に!
    クレール・ディンセルフ(ka0586
    人間(紅)|23才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    ヤタガラス
    ヤタガラス(ka0586unit001
    ユニット|魔導アーマー
  • 遥かなる未来
    テンシ・アガート(ka0589
    人間(蒼)|18才|男性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    マッチョメン
    マッチョメン(ka0589unit001
    ユニット|魔導アーマー
  • 導きの乙女
    イスフェリア(ka2088
    人間(紅)|17才|女性|聖導士
  • ヒトとして生きるもの
    蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009
    エルフ|22才|女性|魔術師
  • DTよ永遠に
    水流崎トミヲ(ka4852
    人間(蒼)|27才|男性|魔術師
  • ユニットアイコン
    ウォルランドゥ
    ウォルランドゥ(ka4852unit002
    ユニット|幻獣
  • 能力者
    狭霧 雷(ka5296
    人間(蒼)|27才|男性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    マドウアーマーリョウサンガタ
    魔導アーマー量産型(ka5296unit003
    ユニット|魔導アーマー
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    リーリー
    リーリー(ka5843unit001
    ユニット|幻獣

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マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 時間稼ぎ作戦相談卓!
クレール・ディンセルフ(ka0586
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2017/02/05 14:46:30
アイコン 質問卓
狭霧 雷(ka5296
人間(リアルブルー)|27才|男性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2017/02/02 21:34:53
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/01/31 20:51:49