ゲスト
(ka0000)
【血盟】金の街
マスター:葉槻

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 4日
- 締切
- 2017/02/21 09:00
- 完成日
- 2017/03/02 00:24
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●悲鳴
6人は照りつける太陽の眩しさに唸りながら身体を起こした。
「ここは……?」
見るところ草原地帯のようだ。
見渡す限りに続く背の低い草の原っぱ。少し先では木も生えているように見える。
互いに無事を確認し、太陽の位置からどうやら午前中のようだと見当を付ける。
とにかくこの炎天下から抜け出そうと意見が一致したところで、絹を裂くような悲鳴が上がった。
一斉に声の方向へと走ると、小さな色黒の男の子が巨大サソリからこれまた日に焼けた少女を護ろうと小さなダガーを構えている。
駆け寄った1人が巨大サソリに刃を立てる。
驚くほどあっさりとそのサソリは塵へと還っていった。
「あ、有り難うございました、助かりました……!」
少女は余程怖かったのか、はらはらと涙を零しながら6人に礼を告げる。
「あ、あんなの、オレ1人でもやっつけられたもんな!」
「こら、何て事言うの……!」
への字に口を曲げた少年の頭を無理矢理下げさせ、少女は再度頭を下げる。
「……旅の方ですか? 宜しければお礼をさせて下さい」
女の子の言葉に、渡りに舟と6人は頷いた。
「私はアミシと言います、こちらは弟のテベアス」
アミシは12~14歳といったところだろうか。いっぽうでテベアスは5~7歳のわんぱく盛りといった年頃のようだ。
各自が自己紹介を終えると、アミシは花が綻ぶような明るい笑顔を浮かべ、あなた達を街へと誘った。
●原色に彩られ
アミシの案内で草原を行くと砂岩で出来た大きな柱と門が見えてきた。
門をくぐり、暫く行くと徐々に人と建物が増え、そこは熱気に満ちた街へと変わる。
色とりどりの衣に身を纏った人々の肌は皆浅黒く、表情は明るく、四角く切り取られた砂岩を積まれ作られた四角い建造物はどれも大きく立派だった。
狭い建物と建物の間にはこれまた色とりどりの大きな布が屋根のように張られ、時折風を受けバタバタとはためくその下、日陰となった道を歩くのは心地よかった。
沢山の荷物を載せたラクダを引いた人々が何やら語らいながら握手を交わし、手を振って別れていく。
6人が呆気にとられた様子で周囲を見回すが、その姿を見てアミシが鈴を転がしたように笑う。
「ここはアンレス。“金色の街”とも呼ばれるわ。砂の民の街でも一番大きいの」
こっちよ、と案内された先は一際大きな砂岩作りの家。
出てきた恰幅の良い男にアミシが2人の命の恩人だと告げると、男はアミシの後ろでつまらなさそうにしていたテベアスに駆け寄りその無事を喜んでいるようだった。
「うちの娘と息子の危機を救ってくれたとか。どうぞ、ゆっくり休んでいって下さい」
男はトッドと名乗った。この姉弟の父親であるらしい。
「代々続く商家なの。だから、遠慮無さらずに」
アミシは笑って6人を部屋へと案内すると、そのまま部屋を出て行った。
取り残された6人は果たしてこれからどうしたものかと顔を見合わせたのだった。
●母と子
「お母様」
そっと扉代わりのカーテンを潜り、アミシが寝台の母へと声を掛ける。
「あぁ、アミシ」
アミシによく似た笑顔の女性がふわりと笑って迎え入れる。
「これ、採ってきたの。後で煎じて貰いましょう?」
アミシの手には薬草と思しき草が握られている。それを見た母は困ったように顔色を曇らせる。
「アミシ、それは……またオアシスまで行ったのね? ダメよ、嫁入り前の女の子が危ないわ」
「オレが行こうって誘ったんだ」
「テベアス」
カーテンをくぐり駆け寄ったテベアスは寝台の母へと飛びつき、強くその腰回りに抱きつく。
「早く、身体を治して。そのためにだったら、オレ何度だって丘の外に行くんだから」
「テベアス……」
本当ならまだ母親に甘えたい盛りの弟を見て、アミシは俯く。
母が倒れてもうすぐひと月。最初は過労かと思っていたが、これがどうやら流行病だと知ったのは先々週のことだ。
慌てて医者に診せた後、医者があと2度高熱が出れば母の命の保証は無いと父に告げているのを、偶然聴いてしまった弟が堪えきれずにアミシに相談したのが先週のこと。
そして、その3日後に母は発熱にうなされ、先日ようやく解熱したところだ。
父の仕事は染色した布の販売であって、薬には全く詳しくない。
どうにかして薬を手に入れようとしたが、流行病であることと元々の希少性から薬が高騰し、手に入らない。
だが、素となる薬草がオアシス周囲にのみ自生していると聴いたアミシは意を決してその地へと足を運んでいた。
たとえ、そこが一撃で人をショック死させるような猛毒を持つ巨大サソリの巣であっても。
●Unknown
避けようのない悲劇というものは誰しもにある。
それは怪我や病、愛しい者との死別、愛憎渦巻く相手との確執など様々な形で突然に降りかかる。
今、この家族が直面している事態もそうだが、それ以上の災厄がひたりひたりと迫っていた。
――その事実を知る者は、まだ、誰もいない。
6人は照りつける太陽の眩しさに唸りながら身体を起こした。
「ここは……?」
見るところ草原地帯のようだ。
見渡す限りに続く背の低い草の原っぱ。少し先では木も生えているように見える。
互いに無事を確認し、太陽の位置からどうやら午前中のようだと見当を付ける。
とにかくこの炎天下から抜け出そうと意見が一致したところで、絹を裂くような悲鳴が上がった。
一斉に声の方向へと走ると、小さな色黒の男の子が巨大サソリからこれまた日に焼けた少女を護ろうと小さなダガーを構えている。
駆け寄った1人が巨大サソリに刃を立てる。
驚くほどあっさりとそのサソリは塵へと還っていった。
「あ、有り難うございました、助かりました……!」
少女は余程怖かったのか、はらはらと涙を零しながら6人に礼を告げる。
「あ、あんなの、オレ1人でもやっつけられたもんな!」
「こら、何て事言うの……!」
への字に口を曲げた少年の頭を無理矢理下げさせ、少女は再度頭を下げる。
「……旅の方ですか? 宜しければお礼をさせて下さい」
女の子の言葉に、渡りに舟と6人は頷いた。
「私はアミシと言います、こちらは弟のテベアス」
アミシは12~14歳といったところだろうか。いっぽうでテベアスは5~7歳のわんぱく盛りといった年頃のようだ。
各自が自己紹介を終えると、アミシは花が綻ぶような明るい笑顔を浮かべ、あなた達を街へと誘った。
●原色に彩られ
アミシの案内で草原を行くと砂岩で出来た大きな柱と門が見えてきた。
門をくぐり、暫く行くと徐々に人と建物が増え、そこは熱気に満ちた街へと変わる。
色とりどりの衣に身を纏った人々の肌は皆浅黒く、表情は明るく、四角く切り取られた砂岩を積まれ作られた四角い建造物はどれも大きく立派だった。
狭い建物と建物の間にはこれまた色とりどりの大きな布が屋根のように張られ、時折風を受けバタバタとはためくその下、日陰となった道を歩くのは心地よかった。
沢山の荷物を載せたラクダを引いた人々が何やら語らいながら握手を交わし、手を振って別れていく。
6人が呆気にとられた様子で周囲を見回すが、その姿を見てアミシが鈴を転がしたように笑う。
「ここはアンレス。“金色の街”とも呼ばれるわ。砂の民の街でも一番大きいの」
こっちよ、と案内された先は一際大きな砂岩作りの家。
出てきた恰幅の良い男にアミシが2人の命の恩人だと告げると、男はアミシの後ろでつまらなさそうにしていたテベアスに駆け寄りその無事を喜んでいるようだった。
「うちの娘と息子の危機を救ってくれたとか。どうぞ、ゆっくり休んでいって下さい」
男はトッドと名乗った。この姉弟の父親であるらしい。
「代々続く商家なの。だから、遠慮無さらずに」
アミシは笑って6人を部屋へと案内すると、そのまま部屋を出て行った。
取り残された6人は果たしてこれからどうしたものかと顔を見合わせたのだった。
●母と子
「お母様」
そっと扉代わりのカーテンを潜り、アミシが寝台の母へと声を掛ける。
「あぁ、アミシ」
アミシによく似た笑顔の女性がふわりと笑って迎え入れる。
「これ、採ってきたの。後で煎じて貰いましょう?」
アミシの手には薬草と思しき草が握られている。それを見た母は困ったように顔色を曇らせる。
「アミシ、それは……またオアシスまで行ったのね? ダメよ、嫁入り前の女の子が危ないわ」
「オレが行こうって誘ったんだ」
「テベアス」
カーテンをくぐり駆け寄ったテベアスは寝台の母へと飛びつき、強くその腰回りに抱きつく。
「早く、身体を治して。そのためにだったら、オレ何度だって丘の外に行くんだから」
「テベアス……」
本当ならまだ母親に甘えたい盛りの弟を見て、アミシは俯く。
母が倒れてもうすぐひと月。最初は過労かと思っていたが、これがどうやら流行病だと知ったのは先々週のことだ。
慌てて医者に診せた後、医者があと2度高熱が出れば母の命の保証は無いと父に告げているのを、偶然聴いてしまった弟が堪えきれずにアミシに相談したのが先週のこと。
そして、その3日後に母は発熱にうなされ、先日ようやく解熱したところだ。
父の仕事は染色した布の販売であって、薬には全く詳しくない。
どうにかして薬を手に入れようとしたが、流行病であることと元々の希少性から薬が高騰し、手に入らない。
だが、素となる薬草がオアシス周囲にのみ自生していると聴いたアミシは意を決してその地へと足を運んでいた。
たとえ、そこが一撃で人をショック死させるような猛毒を持つ巨大サソリの巣であっても。
●Unknown
避けようのない悲劇というものは誰しもにある。
それは怪我や病、愛しい者との死別、愛憎渦巻く相手との確執など様々な形で突然に降りかかる。
今、この家族が直面している事態もそうだが、それ以上の災厄がひたりひたりと迫っていた。
――その事実を知る者は、まだ、誰もいない。
リプレイ本文
●
「どうなってんだ、転移か?」
額にかかる金の髪を掻き上げながらアーサー・ホーガン(ka0471)が問う。
「ここまでの道中で見たモノから推測するに、辺境……いや、しかし温暖条件よりやはり除外だな」
アウレール・V・ブラオラント(ka2531)の言葉にグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)が頷く。
「この暑さには凄く身に覚えがある。砂岩作りの建物といい、南方大陸だと思う」
恐らくここにいるメンバーの中で最も南方大陸と縁があるグリムバルドには確信に近い思いがある。
「ただ……『今』じゃない気がする」
グリムバルドが知っているのはサボテン以外の草木をほとんど見かける事が無く、カラカラに乾涸らび砂埃にまみれた砂漠地帯だ。
だが、道中……気がついた時にハンター達が居たのは草地だった。あんな場所を南方大陸で見た事は無かったし、あるという話しすら聞いたことがない。
そして何より“人が住んでいる”という点だ。
負のマテリアルの影響が強すぎて亜人――コボルド以外は住めなかったはずだ。
そう思えば今、こうして覚醒していなくても倦怠感などの負のマテリアルの影響を感じない。
「今じゃない……? ……あぁ、なるほど。霊闘士の試験みてぇな過去の追体験、とかいうのも有り得るか」
「私達、ライブラリにいたはずですよね……? 最後に見た本は何だったかしら……」
レオナ(ka6158)の言葉にトリプルJ(ka6653)と浪風 威鈴(ka6694)もハッと記憶を取り戻す。
確か、手当たり次第、とにかく古い記録を……と検索していたところだった気がする。
「……となると原因は神霊樹か」
アーサーの言葉にレオナがその細い指を頬にあててて小首を傾げる。
「たしか……南方大陸には枯れた神霊樹があったとオフィスで聴いたような」
「あぁ、あの地下遺跡の神霊樹がそうだったな。他の神霊樹は植樹したものだから」
グリムバルドが思い出しながら補足する。
「ふむ。だいぶ絞れてきたな。いつ、どうやって現代に帰れるのか不明という点が気がかりだが、折角来たのだ。“生きた情報”を集めよう。なるべく、詳しく」
アウレールの言葉に一同は頷いた。
●
「わぁ……変わった家」
「少し街、歩いてみたい」そう告げて外へと飛び出したのは威鈴だ。
砂岩作りの家と家の間を原色に近い色とりどりの布が屋根のように張られている。
(服……っていうか長い布をぐるぐる巻きにしている感じだな……あ、ラクダ……って事は砂地が多いのかな……)
人の流れに沿って歩いていると、いつの間にか市場に出たらしい。
「良く出回ってるお野菜とかある?」
店主に問うと、店主は不思議そうに威鈴を見た後、頷いた。
「ここの特産はタマネギとこれかね」
そういって指差された先には緑の葉野菜が積まれている。
「ムルキーヤだ。刻んでスープにして食べる」
見た目はほうれん草に近いそれを、「へー」と威鈴はしげしげと見つめた。
そういえばお金はどうなっているんだろうと周囲を見回すと、どうやらこの国独自の通貨があるらしい。
「これじゃだめ?」
Gを見せたが、小さな商店ぐらいではGの価値がわからない以上取引できないようだ。
お腹がすいたら食べ物屋にでも寄って……と思っていたが通貨が無ければ無銭飲食だ。流石にそれはマズイ。
「んー……どこかで両替とかしてくれないかなぁ」
そういえばアミシの実家は商家だと言っていた。Gとここの通貨を両替して貰えないだろうか。
「ん。頼んでみよう」
威鈴は店主に礼を告げると、アミシの家まで戻ろうとして……迷子になったのだった。
「かみ……? しゃしん……???」
アミシが首を傾げる。
レオナが求めるモノはまだこの世界では誕生していないらしい。
「では記録はどうやってとるでしょう?」
問うと石に顔料で書いたり、直接刻むのだと聞いて、なるほどと頷いた。
つまり、写真どころか紙そのものがまだない時代なのだろう。念のため手持ちのカメラを作動させてみたが、通常に動く。
記念撮影をして一枚渡すことも考えたがまだこの技術が無いのだとしたらどのような影響が出るのかわからない。
自分の記録用に手元に残すだけにしたほうが無難だろうという結論に至り、写真はそのまま鞄へとしまった。
薬草を見せてもらったがレオナには見た事も無い草だった。
レオナはアミシから周囲の地理を聞いた後、1人街へと繰り出したのだった。
レオナの目に街の人々の顔つきは、穏やかに見えた。
竪琴を取り出し木陰で一曲披露すると、集まった人々が拍手をくれた。
「あの、このあたりで神霊樹を探しているのですが……」
レオナが問うと、この街に住むという男は首を傾げた。
「この街にはないな」
「では、神を祀る神殿のようなものは?」
「なら、川の向こうだ」
そう男が指を指す。レオナが指差された方角を見るが、そこには延々と続く地平線が見えるだけだった。
「あんた、旅の人?」
「えぇ、そうです」
「……早くこの街から出ていった方がいい」
急に声をひそめられ、つられてレオナも声を抑える。
「何故です?」
「呪いだよ。感染るんだ」
「呪い?」
「そうだ。忠告はしたからな」
そう告げると男はさっさと歩いてどこかへと行ってしまう。
レオナは男の後を追ったが、慣れない街と人混みに見失ってしまい、迷子の子どものように途方に暮れたのだった。
●
室内にはアウレールとグリムバルドとアミシが残っていた。
「そういえば、なんでここは金の街なんだ?」
グリムバルドが問うと、アミシは空いたコップをお盆に片付けながら答えた。
「砂岩で出来た街で、一番商売になる街だから、らしいわ」
「じゃぁ、他にも色の名前がついた街が?」
「……さぁ? 通称ではあるかもしれないけど……あまり聞かないわ」
「ここから“竜の巣”に行くにはどうしたらいい?」
アウレールの問いに、アミシは驚いたように目を瞬かせた。
「“龍の巣”に行く予定なの? えぇと……多分、ラクダを使えば10日……ぐらいで着くと思うけれど……」
「赤の龍が健在なのか?」
「え、えぇ。赤龍様は火山の守り神様ですもの……でも……」
アミシの顔が曇る。
「最近、小さな噴火が多いって岩の民とやり取りしている人達が嘆いていたわ」
「岩の民?」
「“龍の巣”の傍に暮らす人達よ。私達よりずっと力持ちで……そうね、ちょっと、乱暴者なイメージがあるわ」
2人はアミシに街の案内を頼み、外へと出た。
暫く行くと、迷子になっていた威鈴と合流し、4人はちょっとした広場へと出る。
アミシに地面に棒で簡単な地図を書き始めた。
「ここがアンレス。北に行くと、王宮があるわ。東にはナハト川が……こんな感じかしら」
「川……、水が、あるのか」
グリムバルドが目を丸くすれば、アミシは目を細めて笑った。
「えぇ。水が無ければ死んでしまうわ。時々、雨期になると氾濫して大変だけれど、でもこの川のお陰で作物が育つから」
「ムルキーヤも?」
威鈴が問うと、「他にも、麦も大豆も、果物も育つわ」とアミシが笑って応えた。
トリプルJとテベアスが向かった(そして自分達が出会った場所でもある)オアシスはその川の手前にあるらしい。
「昔はここまで川だったのですって。だけれど、徐々に川の流れが変わって、今はオアシスとして残っているわ……でも、徐々に小さくなってきているから、多分数年もすれば無くなるだろうってお父様は言っていたわ」
「川の向こうには何が?」
「神殿があるわ。でもあっちは“死者の土地”だから用も無く立ち入らない方がいいわ」
「死者の土地?」
威鈴がカクンと首を傾げる。
「そう、私達の先祖のお墓だけじゃなくて、王族のお墓とか、死の神様を奉る神殿があるの」
考え込んでいたアウレールが顔を上げてアミシを見た。
「行商人と渡りを付けて貰えるか?」
アーサーはトッドに古老や学者、聖職者辺りの知識層を紹介して欲しいと願い出て、1人の識者の住所を教えて貰った。
途中でレオナと合流し、一緒に向かう。
「すみません、トッドさんの紹介で……ムハニエル先生はいらっしゃいますか」
家の前でアーサーが声をかければ、奥から識者というよりは褐色肌の引き締まった戦士のような男が現れた。
「先生なんてよしてくれ……何? トッドから? 何の用?」
「大精霊との対話方法を探しています。先生……ムハニエルさんは何かご存知ありませんか?」
問うと、ムハニエルはジロジロとアーサーとレオナを見た後、鼻を鳴らした。
「旅人か。随分遠くから来たようだが……まぁいい。入れ」
ムハニエルに促され、室内に入る。
「で、大精霊がどうとか?」
茶の入ったコップを渡され、有り難く受け取りながらアーサーは口を開いた。
大精霊の意志を知るためにその方法を探していること。
大精霊に繋がる大幻獣や隠れ里の存在はないか。
“竜の巣”そして赤の龍の存在について、またその神官はいないのか。
神霊樹の在処や、覚醒者はいるのか。
聞きたい事を一通り問うと、ムハニエルはふん、と鼻を鳴らした。
「知らん」
「……は?」
「それが全部わかるならわしは今頃神官やっとる」
アーサーは空振りだったかとがっくりと肩を落とすが、それを見てムハニエルはわははと笑った。
「まぁ、わしがわかる範囲のことなら教えてやろう。
まず、大精霊なんぞわしらのところにまで降りてはこん。
大幻獣なんて連中も見ない訳じゃ無いが、アイツらもわしらと関わりを持とうとはせん。
ゆえに、隠れ里はのありかなぞ知るよしも無い。
“龍の巣”はある。ここからまーーーーっすぐ南に行った、大マテリアル火山一帯をそう呼ぶ。
だが、赤の龍は人間不信で有名で、傍に人間なぞ置きもしん。
神霊樹はこの辺りには無い。王宮内や初代王家の墓……神殿の中にあると言われてはおるが、見たモノはここいらにはおらん。
覚醒者はごく稀におるな。修験者みたいな者がほとんどだが。
だが、彼らも自分の契約した精霊とは繋がりがあるが、大精霊には届かないと聞いたな。
以上だ」
一気に話されて、アーサーは慌ててPDAに入力する。
「王宮や王家の墓に行く方法は?」
「身分が違う。一般人は王宮へは近づけない。
また、墓は“死者の土地”だ。生者が入れば穢れがつく。特殊な神官でなければ立入禁止だ」
「……呪いがあると聞きました」
レオナの言葉にムハニエルは眉間のしわを深めた。
「呪いとは何ですか?」
レオナの問いに、ムハニエルは無言のまま茶を啜ると、ふん、と大きく鼻を鳴らして話し始めた。
●
「母ちゃんはいつから?」
テベアスを肩車しながらトリプルJが問う。
母親が病気であると聞いたトリプルJはテベアスを絶対に護るという約束の上で、再びオアシスまで薬草採りに来ていた。
「……わかんない。ちょっと前から、時々しんどそうで……街で、病気になる人が増えたって言ってて、まさかって診てもらったら……そうだった」
しゅん、と項垂れた気配に、トリプルJは大きく跳ねてテベアスを揺すった。
「うわぁっ!?」
「じゃぁ、いっぱい薬草採って、早く良くなって貰わなきゃな」
「……うん!」
現れたサソリは、一般人には脅威かも知れないが、覚醒者であるトリプルJには物足りなさを感じさせるほど弱い雑魔の一種だった。
テベアスに薬草を探させている間、超聴覚で動向を探り、見つけ次第、素早く仕留める。
「いっぱい採れたよ!」
テベアスの声に、トリプルJが「おぅ」と振り返る。
その、テベアスの手に握られた“薬草”を見てトリプルJは両眉をしかめた。
「……どうしたの?」
「……それが、薬草か? 間違いないか?」
トリプルJのサバイバル知識がその“薬草”と同じ草の名前を提示する。
それは確かに鎮痛効果はあるが、それ以上に酩酊感を感じさせ体内に毒素を溜める……いわゆる麻薬と言われるものの一種だったはずだ。
確かに大昔にはこれが薬として使われたこともあったはずだし、現代でも根本的な“治療薬”では無いが鎮痛効果の底上げのために少量用いることがある……と聞いた気もする。
だが、それを今この子に言ったところでどうなるというのか。
「うん。アミシと何度も採ったんだ。間違いないよ」
得意げに笑うテベアスの頭をくしゃりと撫でると、トリプルJは再びテベアスに背を向けた。
「……じゃぁ、帰ろうぜ。みんなが待ってる」
●
「……あ、れ?」
威鈴は周囲を見回した。
光のパネルが浮き、パルムが忙しそうにファイルやデータを持って飛び回っている。
「……帰って来たのか」
声に隣を見れば、アウレールが頭を振りながら身を起こしていた。
「あぁ、こんなところに」
アーサーが棚の裏から現れ、3人が長机へと向かうとレオナとグリムバルド、そしてトリプルJが席に座っていた。
そして、秘書パルムの1人が一つのファイルを抱えて浮かんでいる。
「どうやら俺達は“この記録”を見ていたらしい」
パルムが持つそれをグリムバルドが開くと、得た情報がそのまますっかりそこに載っていた。
「PADのデータや写真は……残ってませんでした」
レオナの言葉にアーサーが自分のPADを作動させ皆に見せたが、確かに記録は何一つとして残っていなかった。
「私がアミシに渡したはずのウナギンも手元にある……つまり、我々は『夢』を見ていたようだな」
「夢……」
トリプルJが歯がゆそうに前髪を握り込んだ。
「……その“記録”には何て?」
「俺達が見たのはまだ赤の龍が強欲竜になる前。六大龍が誕生して600年頃の南方大陸で間違いなさそうだ。
当時南方大陸は長い民族闘争に一応の決着がつき、北側を砂の民が、南側を岩の民が統治していたらしい」
アーサーが代表してページを繰る。
砂の民の王が死に、まだ5歳と幼い王が立った辺りから致死性の流行病が出現。
王の死には色々な疑惑があり、『王の呪いでは無いか』という噂が砂の民の間で流布したらしい。
「結局原因は不明。負のマテリアルから来るものなのか……それとも、治療方法のわからない病原菌だったのか……それはわからない」
「テベアスは……アミシ達はどうなったんだ?」
トリプルJが問い、アーサーからファイルをさらってページを繰る。
「詳細はわからない。だが、病は砂の民の間に蔓延し、夥しい数の人が犠牲になった……と」
「……みんな、無事だといいな」
威鈴の言葉にレオナは頷く。写真が残らなかったことが残念だった。折角出逢えたのに、もうアミシ達の顔すらおぼろげにしか思い出せない。
『負けないでいい大人になれよ』
そう、テベアスに伝えたはずだ、家の前で肩から降ろした時に。
トリプルJは手のひらに残るしなやかな黒髪の感触を忘れないよう握り締めた。
あの大陸で何が起こったのか――その極一端を垣間見た6人はそれぞれに重たい沈黙の中、想いを巡らせたのだった。
「どうなってんだ、転移か?」
額にかかる金の髪を掻き上げながらアーサー・ホーガン(ka0471)が問う。
「ここまでの道中で見たモノから推測するに、辺境……いや、しかし温暖条件よりやはり除外だな」
アウレール・V・ブラオラント(ka2531)の言葉にグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)が頷く。
「この暑さには凄く身に覚えがある。砂岩作りの建物といい、南方大陸だと思う」
恐らくここにいるメンバーの中で最も南方大陸と縁があるグリムバルドには確信に近い思いがある。
「ただ……『今』じゃない気がする」
グリムバルドが知っているのはサボテン以外の草木をほとんど見かける事が無く、カラカラに乾涸らび砂埃にまみれた砂漠地帯だ。
だが、道中……気がついた時にハンター達が居たのは草地だった。あんな場所を南方大陸で見た事は無かったし、あるという話しすら聞いたことがない。
そして何より“人が住んでいる”という点だ。
負のマテリアルの影響が強すぎて亜人――コボルド以外は住めなかったはずだ。
そう思えば今、こうして覚醒していなくても倦怠感などの負のマテリアルの影響を感じない。
「今じゃない……? ……あぁ、なるほど。霊闘士の試験みてぇな過去の追体験、とかいうのも有り得るか」
「私達、ライブラリにいたはずですよね……? 最後に見た本は何だったかしら……」
レオナ(ka6158)の言葉にトリプルJ(ka6653)と浪風 威鈴(ka6694)もハッと記憶を取り戻す。
確か、手当たり次第、とにかく古い記録を……と検索していたところだった気がする。
「……となると原因は神霊樹か」
アーサーの言葉にレオナがその細い指を頬にあててて小首を傾げる。
「たしか……南方大陸には枯れた神霊樹があったとオフィスで聴いたような」
「あぁ、あの地下遺跡の神霊樹がそうだったな。他の神霊樹は植樹したものだから」
グリムバルドが思い出しながら補足する。
「ふむ。だいぶ絞れてきたな。いつ、どうやって現代に帰れるのか不明という点が気がかりだが、折角来たのだ。“生きた情報”を集めよう。なるべく、詳しく」
アウレールの言葉に一同は頷いた。
●
「わぁ……変わった家」
「少し街、歩いてみたい」そう告げて外へと飛び出したのは威鈴だ。
砂岩作りの家と家の間を原色に近い色とりどりの布が屋根のように張られている。
(服……っていうか長い布をぐるぐる巻きにしている感じだな……あ、ラクダ……って事は砂地が多いのかな……)
人の流れに沿って歩いていると、いつの間にか市場に出たらしい。
「良く出回ってるお野菜とかある?」
店主に問うと、店主は不思議そうに威鈴を見た後、頷いた。
「ここの特産はタマネギとこれかね」
そういって指差された先には緑の葉野菜が積まれている。
「ムルキーヤだ。刻んでスープにして食べる」
見た目はほうれん草に近いそれを、「へー」と威鈴はしげしげと見つめた。
そういえばお金はどうなっているんだろうと周囲を見回すと、どうやらこの国独自の通貨があるらしい。
「これじゃだめ?」
Gを見せたが、小さな商店ぐらいではGの価値がわからない以上取引できないようだ。
お腹がすいたら食べ物屋にでも寄って……と思っていたが通貨が無ければ無銭飲食だ。流石にそれはマズイ。
「んー……どこかで両替とかしてくれないかなぁ」
そういえばアミシの実家は商家だと言っていた。Gとここの通貨を両替して貰えないだろうか。
「ん。頼んでみよう」
威鈴は店主に礼を告げると、アミシの家まで戻ろうとして……迷子になったのだった。
「かみ……? しゃしん……???」
アミシが首を傾げる。
レオナが求めるモノはまだこの世界では誕生していないらしい。
「では記録はどうやってとるでしょう?」
問うと石に顔料で書いたり、直接刻むのだと聞いて、なるほどと頷いた。
つまり、写真どころか紙そのものがまだない時代なのだろう。念のため手持ちのカメラを作動させてみたが、通常に動く。
記念撮影をして一枚渡すことも考えたがまだこの技術が無いのだとしたらどのような影響が出るのかわからない。
自分の記録用に手元に残すだけにしたほうが無難だろうという結論に至り、写真はそのまま鞄へとしまった。
薬草を見せてもらったがレオナには見た事も無い草だった。
レオナはアミシから周囲の地理を聞いた後、1人街へと繰り出したのだった。
レオナの目に街の人々の顔つきは、穏やかに見えた。
竪琴を取り出し木陰で一曲披露すると、集まった人々が拍手をくれた。
「あの、このあたりで神霊樹を探しているのですが……」
レオナが問うと、この街に住むという男は首を傾げた。
「この街にはないな」
「では、神を祀る神殿のようなものは?」
「なら、川の向こうだ」
そう男が指を指す。レオナが指差された方角を見るが、そこには延々と続く地平線が見えるだけだった。
「あんた、旅の人?」
「えぇ、そうです」
「……早くこの街から出ていった方がいい」
急に声をひそめられ、つられてレオナも声を抑える。
「何故です?」
「呪いだよ。感染るんだ」
「呪い?」
「そうだ。忠告はしたからな」
そう告げると男はさっさと歩いてどこかへと行ってしまう。
レオナは男の後を追ったが、慣れない街と人混みに見失ってしまい、迷子の子どものように途方に暮れたのだった。
●
室内にはアウレールとグリムバルドとアミシが残っていた。
「そういえば、なんでここは金の街なんだ?」
グリムバルドが問うと、アミシは空いたコップをお盆に片付けながら答えた。
「砂岩で出来た街で、一番商売になる街だから、らしいわ」
「じゃぁ、他にも色の名前がついた街が?」
「……さぁ? 通称ではあるかもしれないけど……あまり聞かないわ」
「ここから“竜の巣”に行くにはどうしたらいい?」
アウレールの問いに、アミシは驚いたように目を瞬かせた。
「“龍の巣”に行く予定なの? えぇと……多分、ラクダを使えば10日……ぐらいで着くと思うけれど……」
「赤の龍が健在なのか?」
「え、えぇ。赤龍様は火山の守り神様ですもの……でも……」
アミシの顔が曇る。
「最近、小さな噴火が多いって岩の民とやり取りしている人達が嘆いていたわ」
「岩の民?」
「“龍の巣”の傍に暮らす人達よ。私達よりずっと力持ちで……そうね、ちょっと、乱暴者なイメージがあるわ」
2人はアミシに街の案内を頼み、外へと出た。
暫く行くと、迷子になっていた威鈴と合流し、4人はちょっとした広場へと出る。
アミシに地面に棒で簡単な地図を書き始めた。
「ここがアンレス。北に行くと、王宮があるわ。東にはナハト川が……こんな感じかしら」
「川……、水が、あるのか」
グリムバルドが目を丸くすれば、アミシは目を細めて笑った。
「えぇ。水が無ければ死んでしまうわ。時々、雨期になると氾濫して大変だけれど、でもこの川のお陰で作物が育つから」
「ムルキーヤも?」
威鈴が問うと、「他にも、麦も大豆も、果物も育つわ」とアミシが笑って応えた。
トリプルJとテベアスが向かった(そして自分達が出会った場所でもある)オアシスはその川の手前にあるらしい。
「昔はここまで川だったのですって。だけれど、徐々に川の流れが変わって、今はオアシスとして残っているわ……でも、徐々に小さくなってきているから、多分数年もすれば無くなるだろうってお父様は言っていたわ」
「川の向こうには何が?」
「神殿があるわ。でもあっちは“死者の土地”だから用も無く立ち入らない方がいいわ」
「死者の土地?」
威鈴がカクンと首を傾げる。
「そう、私達の先祖のお墓だけじゃなくて、王族のお墓とか、死の神様を奉る神殿があるの」
考え込んでいたアウレールが顔を上げてアミシを見た。
「行商人と渡りを付けて貰えるか?」
アーサーはトッドに古老や学者、聖職者辺りの知識層を紹介して欲しいと願い出て、1人の識者の住所を教えて貰った。
途中でレオナと合流し、一緒に向かう。
「すみません、トッドさんの紹介で……ムハニエル先生はいらっしゃいますか」
家の前でアーサーが声をかければ、奥から識者というよりは褐色肌の引き締まった戦士のような男が現れた。
「先生なんてよしてくれ……何? トッドから? 何の用?」
「大精霊との対話方法を探しています。先生……ムハニエルさんは何かご存知ありませんか?」
問うと、ムハニエルはジロジロとアーサーとレオナを見た後、鼻を鳴らした。
「旅人か。随分遠くから来たようだが……まぁいい。入れ」
ムハニエルに促され、室内に入る。
「で、大精霊がどうとか?」
茶の入ったコップを渡され、有り難く受け取りながらアーサーは口を開いた。
大精霊の意志を知るためにその方法を探していること。
大精霊に繋がる大幻獣や隠れ里の存在はないか。
“竜の巣”そして赤の龍の存在について、またその神官はいないのか。
神霊樹の在処や、覚醒者はいるのか。
聞きたい事を一通り問うと、ムハニエルはふん、と鼻を鳴らした。
「知らん」
「……は?」
「それが全部わかるならわしは今頃神官やっとる」
アーサーは空振りだったかとがっくりと肩を落とすが、それを見てムハニエルはわははと笑った。
「まぁ、わしがわかる範囲のことなら教えてやろう。
まず、大精霊なんぞわしらのところにまで降りてはこん。
大幻獣なんて連中も見ない訳じゃ無いが、アイツらもわしらと関わりを持とうとはせん。
ゆえに、隠れ里はのありかなぞ知るよしも無い。
“龍の巣”はある。ここからまーーーーっすぐ南に行った、大マテリアル火山一帯をそう呼ぶ。
だが、赤の龍は人間不信で有名で、傍に人間なぞ置きもしん。
神霊樹はこの辺りには無い。王宮内や初代王家の墓……神殿の中にあると言われてはおるが、見たモノはここいらにはおらん。
覚醒者はごく稀におるな。修験者みたいな者がほとんどだが。
だが、彼らも自分の契約した精霊とは繋がりがあるが、大精霊には届かないと聞いたな。
以上だ」
一気に話されて、アーサーは慌ててPDAに入力する。
「王宮や王家の墓に行く方法は?」
「身分が違う。一般人は王宮へは近づけない。
また、墓は“死者の土地”だ。生者が入れば穢れがつく。特殊な神官でなければ立入禁止だ」
「……呪いがあると聞きました」
レオナの言葉にムハニエルは眉間のしわを深めた。
「呪いとは何ですか?」
レオナの問いに、ムハニエルは無言のまま茶を啜ると、ふん、と大きく鼻を鳴らして話し始めた。
●
「母ちゃんはいつから?」
テベアスを肩車しながらトリプルJが問う。
母親が病気であると聞いたトリプルJはテベアスを絶対に護るという約束の上で、再びオアシスまで薬草採りに来ていた。
「……わかんない。ちょっと前から、時々しんどそうで……街で、病気になる人が増えたって言ってて、まさかって診てもらったら……そうだった」
しゅん、と項垂れた気配に、トリプルJは大きく跳ねてテベアスを揺すった。
「うわぁっ!?」
「じゃぁ、いっぱい薬草採って、早く良くなって貰わなきゃな」
「……うん!」
現れたサソリは、一般人には脅威かも知れないが、覚醒者であるトリプルJには物足りなさを感じさせるほど弱い雑魔の一種だった。
テベアスに薬草を探させている間、超聴覚で動向を探り、見つけ次第、素早く仕留める。
「いっぱい採れたよ!」
テベアスの声に、トリプルJが「おぅ」と振り返る。
その、テベアスの手に握られた“薬草”を見てトリプルJは両眉をしかめた。
「……どうしたの?」
「……それが、薬草か? 間違いないか?」
トリプルJのサバイバル知識がその“薬草”と同じ草の名前を提示する。
それは確かに鎮痛効果はあるが、それ以上に酩酊感を感じさせ体内に毒素を溜める……いわゆる麻薬と言われるものの一種だったはずだ。
確かに大昔にはこれが薬として使われたこともあったはずだし、現代でも根本的な“治療薬”では無いが鎮痛効果の底上げのために少量用いることがある……と聞いた気もする。
だが、それを今この子に言ったところでどうなるというのか。
「うん。アミシと何度も採ったんだ。間違いないよ」
得意げに笑うテベアスの頭をくしゃりと撫でると、トリプルJは再びテベアスに背を向けた。
「……じゃぁ、帰ろうぜ。みんなが待ってる」
●
「……あ、れ?」
威鈴は周囲を見回した。
光のパネルが浮き、パルムが忙しそうにファイルやデータを持って飛び回っている。
「……帰って来たのか」
声に隣を見れば、アウレールが頭を振りながら身を起こしていた。
「あぁ、こんなところに」
アーサーが棚の裏から現れ、3人が長机へと向かうとレオナとグリムバルド、そしてトリプルJが席に座っていた。
そして、秘書パルムの1人が一つのファイルを抱えて浮かんでいる。
「どうやら俺達は“この記録”を見ていたらしい」
パルムが持つそれをグリムバルドが開くと、得た情報がそのまますっかりそこに載っていた。
「PADのデータや写真は……残ってませんでした」
レオナの言葉にアーサーが自分のPADを作動させ皆に見せたが、確かに記録は何一つとして残っていなかった。
「私がアミシに渡したはずのウナギンも手元にある……つまり、我々は『夢』を見ていたようだな」
「夢……」
トリプルJが歯がゆそうに前髪を握り込んだ。
「……その“記録”には何て?」
「俺達が見たのはまだ赤の龍が強欲竜になる前。六大龍が誕生して600年頃の南方大陸で間違いなさそうだ。
当時南方大陸は長い民族闘争に一応の決着がつき、北側を砂の民が、南側を岩の民が統治していたらしい」
アーサーが代表してページを繰る。
砂の民の王が死に、まだ5歳と幼い王が立った辺りから致死性の流行病が出現。
王の死には色々な疑惑があり、『王の呪いでは無いか』という噂が砂の民の間で流布したらしい。
「結局原因は不明。負のマテリアルから来るものなのか……それとも、治療方法のわからない病原菌だったのか……それはわからない」
「テベアスは……アミシ達はどうなったんだ?」
トリプルJが問い、アーサーからファイルをさらってページを繰る。
「詳細はわからない。だが、病は砂の民の間に蔓延し、夥しい数の人が犠牲になった……と」
「……みんな、無事だといいな」
威鈴の言葉にレオナは頷く。写真が残らなかったことが残念だった。折角出逢えたのに、もうアミシ達の顔すらおぼろげにしか思い出せない。
『負けないでいい大人になれよ』
そう、テベアスに伝えたはずだ、家の前で肩から降ろした時に。
トリプルJは手のひらに残るしなやかな黒髪の感触を忘れないよう握り締めた。
あの大陸で何が起こったのか――その極一端を垣間見た6人はそれぞれに重たい沈黙の中、想いを巡らせたのだった。
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相談卓 アーサー・ホーガン(ka0471) 人間(リアルブルー)|27才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2017/02/21 03:51:48 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/02/19 22:44:18 |