ゲスト
(ka0000)
【血盟】強欲な龍の夢
マスター:瑞木雫

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~2人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 4日
- 締切
- 2017/02/23 19:00
- 完成日
- 2017/03/04 22:03
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
強く求め過ぎる事は、己を破滅させる毒ともなるだろう。
されど求めなければ、夢は夢のままである。
●
龍とは・・・
生まれた時から“星の守護者”となる宿命を持った精霊だ。
ゆえに彼らは世界を守り、この星を仇成す歪虚を討つ。
『………青龍様と、龍園を頼む』
北方の地では大変珍しい色である――赤い鱗を持った守護龍が、龍園を発つ前に飛龍達へと託した。すると先頭に居た飛龍が頷いて、彼の背を見届けながら鳴く。
“御武運を”
そうして赤い龍は凍てつくように冷えた灰色の空へと飛翔し、そのまま風を切るように駆け抜けた。
赤い龍の躰は傷だらけだった。
中には古傷もあるが、新しく付いたばかりの傷が痛々しく刻まれている。
本来であれば、龍園で休んでいるべきだったかもしれない。
――が。
どうにも気掛かりな胸騒ぎが、彼を戦地へと誘う。
助けに行かなければならない気がしたのだ。
憧れや夢を手にしようと今を抗い続ける、馬鹿でどうしようもない親友を。
しかし、突然。
その予感とは全く異なる、<なにか>が起きた。
『………っ!?』
赤い龍は、探知する。
『なん、だ。このマテリアルは………?』
先程迄は全く存在しなかった筈のマテリアルが、突如紛れ込んだことを。
歪虚ではないようだが……。
だとしたら、一体……?
赤い龍は、親友の元を急ぐ。
たとえ何があろうとも彼<アイツ>を護る事が、赤い龍の密かな使命だった。
赤い龍は信じているのだ。
いつか、どうしようもない馬鹿である彼が、自分に夢<人と龍が共に在る道>を見せてくれるのだと――。
●
『――お待ちなさい、どこへ往くのですか!!』
『うるせえ!』
蒼き鱗が清廉で美しい――真面目そうな守護龍は、口の悪い守護龍を呼び止めようとしていた。
『戻りなさい! 歪虚を片付ける事が先だ!!』
場所は水晶の森。
普段なら静かで美しい場所なのだが……。
今は龍と歪虚が交戦している為、煙が立ち、騒音が響く。
『そいつはテメェと飛龍だけでも何とか出来んだろうがっ! ――あの先にはオレが追っ払った人間が居んだ。しかも弱ぇ奴らだ。無抵抗のオレにこの程度の傷しか負わせらんねぇんじゃあな……。とにかく、助けにいかねえと!』
『人間!? あなた、まさか………』
真面目そうな守護龍は青褪めた。
『何故……? あなたが体を張ったって、人間はあなたを愛したりはしない……!』
忠告する声が震える。
どうして人間を愛する彼に、こんな酷い事を言わなければならないのか。
どうして彼は分かってくれないのだろうか。
多くの龍が分かっていることを。
『人と仲良くなりたいあなたの夢を、否定はしません……! ただ……! 人と、時と、場合は選ぶべきですっ。あなたに傷を負わせた人間っていうのは、つまり、“龍狩りの勇者”達の事なんじゃないですか……?』
……いや、本当は彼だって、痛い程理解している筈。
“勇者が龍を狩る”のは、人々が信じる“正義”。
誰も彼らの“強欲”を、止められないのだと。
『……』
口の悪い龍は、黙った。
否定もしない。
反論もしない。
彼女の言葉は……“正しい”。
『なら、あなたが救ったって意味がない。彼らは理解するはずがないのですから……! ――助けたってあなたがもっと、傷付くだけですよ!』
だから、……“行かないで”。
不器用な彼女の切実な想いは、口の悪い龍の胸に充分刺さった。
だが。
口の悪い龍は、申し訳なさそうに告ぐ。
『……悪ぃな』
彼女の言いたい事は分かっている。
人に傷つけられた時――仲間の龍達が抱いているであろう諦めと絶望を、知らない訳でもない。
……助けたって、今日も昨日と変わらない。
皆、きっと、そう思っているのだ。
けれど。
『それでも、オレは人間を見る度に思っちまうんだよ。もしかしたら友達になれる日は、“今日”なんじゃねぇかって』
口の悪い龍は、人の悪意を知らぬ無垢な少年のように云った。
そして云った後すぐに、飛び立って行ってしまった。
真面目そうな龍は飛龍に命じる。
『……っ。飛龍! 急いで此処の歪虚達を片付けますよ。あのおバカな龍に、もっと文句を言わないと気が済まないんですからっっ!』
彼女の不器用な想いに、飛龍は咆哮で応えた。
●
口の悪い龍は、驚いていた。
此処に、逃げ遅れたかもしれないと危惧した龍狩りの勇者達が居なかったから……という訳ではなく。
小さな人間の少女を、見つけたからだ。
『もしかして、お前は……』
龍は「人間は皆、同じ顔に見える」という者が多いのだが、彼は、人の顔を覚える事が得意だった。
ゆえに目の前に居る少女と初対面では無い事も、一瞬で気が付いた。
それに何より、少女は、口の悪い龍にとって特別な存在だ。
なぜなら初めて少女と出会ったあの日――少女がちいさな花束を渡してくれた事が、人から貰った初めての愛だったから。
……しかし。
少女は震え続けていた。
そして何に怯えているかを、龍は一瞬で悟った。
「……ぁ、……ぁ」
――少女は、龍<オレ>に怯えているのだ。
『……』
龍の胸は、一瞬だけ悲しくなった。
けれど諦めずに、優しい声を掛ける。
『怖がらなくていい。オレは……、お前を傷付けたりはしない。友達に……なりたいんだ』
少女は必死にぶんぶんと首を横に振って泣き出した。
腰が抜けてどこにも逃げられない少女は、大声でわんわんと泣き続けて、そして――水晶の森を彷徨っていた者を招く。
「龍ダ……龍ガイルゾォ……ッ!」
――人の声。
かと思えば、それは違った。
「オレガ…オレガ、狩ッテヤルンダァァイヒヒヒヒッ!!」
『……!?』
奇妙な人面の強欲竜は、龍を目にすると、笑った。
その不気味さに背筋に悪寒が走った龍は、竜を睨み付けた。
『強欲竜か………チッ、よりによって、この子が居るこんな時に………』
そして振り返って、少女に掌をさしだす。
『オレは龍として本当はコイツを倒さなきゃいけねぇが……でも、俺はお前を護ることのほうが大事だ! だから、一緒に逃げよう……!!』
「……!」
16Mもある龍は、無理矢理少女を掴むことができない。
ゆえに己の意思で掌に乗ってくれなければ、彼女を連れて、逃走することは叶わない――。
そう。
叶う筈はなかった。
少女は、龍が、怖いのだから。
すると<だれか>がこっちに向かって来ているのを、龍は探知した。
――計り知れないマテリアルを持つ、誰かが。
『誰だ……!!』
龍は警戒した。
水晶の森を掻き分けて出てくる、その存在を。
今迄感じ取った事がない類の、マテリアルを。
だが、次の瞬間、警戒は驚愕へと変わった。
『人……間……?』
そして、人も……。
人間達の一人――ジャンルカ・アルベローニも、この状況に驚愕を抱かずには居られなかった。
“彼”を見て、動揺しながら口にするのだ。
「……ディストル……ツィオーネ?」
されど求めなければ、夢は夢のままである。
●
龍とは・・・
生まれた時から“星の守護者”となる宿命を持った精霊だ。
ゆえに彼らは世界を守り、この星を仇成す歪虚を討つ。
『………青龍様と、龍園を頼む』
北方の地では大変珍しい色である――赤い鱗を持った守護龍が、龍園を発つ前に飛龍達へと託した。すると先頭に居た飛龍が頷いて、彼の背を見届けながら鳴く。
“御武運を”
そうして赤い龍は凍てつくように冷えた灰色の空へと飛翔し、そのまま風を切るように駆け抜けた。
赤い龍の躰は傷だらけだった。
中には古傷もあるが、新しく付いたばかりの傷が痛々しく刻まれている。
本来であれば、龍園で休んでいるべきだったかもしれない。
――が。
どうにも気掛かりな胸騒ぎが、彼を戦地へと誘う。
助けに行かなければならない気がしたのだ。
憧れや夢を手にしようと今を抗い続ける、馬鹿でどうしようもない親友を。
しかし、突然。
その予感とは全く異なる、<なにか>が起きた。
『………っ!?』
赤い龍は、探知する。
『なん、だ。このマテリアルは………?』
先程迄は全く存在しなかった筈のマテリアルが、突如紛れ込んだことを。
歪虚ではないようだが……。
だとしたら、一体……?
赤い龍は、親友の元を急ぐ。
たとえ何があろうとも彼<アイツ>を護る事が、赤い龍の密かな使命だった。
赤い龍は信じているのだ。
いつか、どうしようもない馬鹿である彼が、自分に夢<人と龍が共に在る道>を見せてくれるのだと――。
●
『――お待ちなさい、どこへ往くのですか!!』
『うるせえ!』
蒼き鱗が清廉で美しい――真面目そうな守護龍は、口の悪い守護龍を呼び止めようとしていた。
『戻りなさい! 歪虚を片付ける事が先だ!!』
場所は水晶の森。
普段なら静かで美しい場所なのだが……。
今は龍と歪虚が交戦している為、煙が立ち、騒音が響く。
『そいつはテメェと飛龍だけでも何とか出来んだろうがっ! ――あの先にはオレが追っ払った人間が居んだ。しかも弱ぇ奴らだ。無抵抗のオレにこの程度の傷しか負わせらんねぇんじゃあな……。とにかく、助けにいかねえと!』
『人間!? あなた、まさか………』
真面目そうな守護龍は青褪めた。
『何故……? あなたが体を張ったって、人間はあなたを愛したりはしない……!』
忠告する声が震える。
どうして人間を愛する彼に、こんな酷い事を言わなければならないのか。
どうして彼は分かってくれないのだろうか。
多くの龍が分かっていることを。
『人と仲良くなりたいあなたの夢を、否定はしません……! ただ……! 人と、時と、場合は選ぶべきですっ。あなたに傷を負わせた人間っていうのは、つまり、“龍狩りの勇者”達の事なんじゃないですか……?』
……いや、本当は彼だって、痛い程理解している筈。
“勇者が龍を狩る”のは、人々が信じる“正義”。
誰も彼らの“強欲”を、止められないのだと。
『……』
口の悪い龍は、黙った。
否定もしない。
反論もしない。
彼女の言葉は……“正しい”。
『なら、あなたが救ったって意味がない。彼らは理解するはずがないのですから……! ――助けたってあなたがもっと、傷付くだけですよ!』
だから、……“行かないで”。
不器用な彼女の切実な想いは、口の悪い龍の胸に充分刺さった。
だが。
口の悪い龍は、申し訳なさそうに告ぐ。
『……悪ぃな』
彼女の言いたい事は分かっている。
人に傷つけられた時――仲間の龍達が抱いているであろう諦めと絶望を、知らない訳でもない。
……助けたって、今日も昨日と変わらない。
皆、きっと、そう思っているのだ。
けれど。
『それでも、オレは人間を見る度に思っちまうんだよ。もしかしたら友達になれる日は、“今日”なんじゃねぇかって』
口の悪い龍は、人の悪意を知らぬ無垢な少年のように云った。
そして云った後すぐに、飛び立って行ってしまった。
真面目そうな龍は飛龍に命じる。
『……っ。飛龍! 急いで此処の歪虚達を片付けますよ。あのおバカな龍に、もっと文句を言わないと気が済まないんですからっっ!』
彼女の不器用な想いに、飛龍は咆哮で応えた。
●
口の悪い龍は、驚いていた。
此処に、逃げ遅れたかもしれないと危惧した龍狩りの勇者達が居なかったから……という訳ではなく。
小さな人間の少女を、見つけたからだ。
『もしかして、お前は……』
龍は「人間は皆、同じ顔に見える」という者が多いのだが、彼は、人の顔を覚える事が得意だった。
ゆえに目の前に居る少女と初対面では無い事も、一瞬で気が付いた。
それに何より、少女は、口の悪い龍にとって特別な存在だ。
なぜなら初めて少女と出会ったあの日――少女がちいさな花束を渡してくれた事が、人から貰った初めての愛だったから。
……しかし。
少女は震え続けていた。
そして何に怯えているかを、龍は一瞬で悟った。
「……ぁ、……ぁ」
――少女は、龍<オレ>に怯えているのだ。
『……』
龍の胸は、一瞬だけ悲しくなった。
けれど諦めずに、優しい声を掛ける。
『怖がらなくていい。オレは……、お前を傷付けたりはしない。友達に……なりたいんだ』
少女は必死にぶんぶんと首を横に振って泣き出した。
腰が抜けてどこにも逃げられない少女は、大声でわんわんと泣き続けて、そして――水晶の森を彷徨っていた者を招く。
「龍ダ……龍ガイルゾォ……ッ!」
――人の声。
かと思えば、それは違った。
「オレガ…オレガ、狩ッテヤルンダァァイヒヒヒヒッ!!」
『……!?』
奇妙な人面の強欲竜は、龍を目にすると、笑った。
その不気味さに背筋に悪寒が走った龍は、竜を睨み付けた。
『強欲竜か………チッ、よりによって、この子が居るこんな時に………』
そして振り返って、少女に掌をさしだす。
『オレは龍として本当はコイツを倒さなきゃいけねぇが……でも、俺はお前を護ることのほうが大事だ! だから、一緒に逃げよう……!!』
「……!」
16Mもある龍は、無理矢理少女を掴むことができない。
ゆえに己の意思で掌に乗ってくれなければ、彼女を連れて、逃走することは叶わない――。
そう。
叶う筈はなかった。
少女は、龍が、怖いのだから。
すると<だれか>がこっちに向かって来ているのを、龍は探知した。
――計り知れないマテリアルを持つ、誰かが。
『誰だ……!!』
龍は警戒した。
水晶の森を掻き分けて出てくる、その存在を。
今迄感じ取った事がない類の、マテリアルを。
だが、次の瞬間、警戒は驚愕へと変わった。
『人……間……?』
そして、人も……。
人間達の一人――ジャンルカ・アルベローニも、この状況に驚愕を抱かずには居られなかった。
“彼”を見て、動揺しながら口にするのだ。
「……ディストル……ツィオーネ?」
リプレイ本文
「ディストル……!」
藤堂研司(ka0569)は困惑した。
――目の前に居る龍は、あの“宿敵”か。
「ディストルツィオーネ? 似てるけど……別の龍?」
それは愛梨(ka5827)にとっても等しく、心をどよめかせる。
「金モ、女モ、何ダッテ手に入る――オマエヲコノ手デ、討チ滅ボセバナァ!!」
竜は腰に携えた剣を抜くと勢いよく振り回した。たったそれだけの動作であるが、激しく風が巻き起こり、森が騒ぐ。
「きゃぁぁッ!」
『危ねぇッッ』
そして龍は吹き飛ばされそうになった少女を守るべく、身を挺して風を受け止めると共に、竜の剣で切り裂かれ、血が噴いた。
『ぐぁッ』
「イヒヒヒ!」
更に竜は再び問答無用に剣を振り、龍は左腕で受け止める。鱗は硬く頑丈だが――深く喰い込んで、ぽたぽたと血が滴り落ちた。
するとパトリシア=K=ポラリス(ka5996)は振り返り、皆の目を見ながら云った。
「女の子を助けなきゃ! それから……守護龍さんのコトもっ!」
愛梨は少し考えた末、「そうね」と頷く。
「アイツに似てるとなるとやっぱ身構えちゃうけど……。でも少なくとも、この場では敵じゃない。その気だったらとっくに殺されてるものね」
金色に輝く双眸は優しき龍を見て、怯える少女を見て、そして欲望に溺れた竜を見据え――今倒さねばならないのは<コイツ>だと強気に睨みつけた。
「ですわね。まずは脅威を取り除かねば」
金鹿(ka5959)は愛梨とアイコンタクトを交わし、ふと考える。
――ライブラリ、記録の残る場所……。
(もし彼の守護龍がディストルツィオーネだとしたら、これは在りし日の……?)
研司の心臓は波打つ。
目の前の龍は紛れもなく龍だ。
それは分かってる。
分かっているが……。
それでも己の中に流れる戦士の血が騒ぐのだ――この龍が<ディストルツィオーネ>だと。
「滅ベ、滅ベ! 龍ハ滅ンデシマエ!!」
「ちっきしょう……! 考える余地なんざ無ぇっ!!」
研司の足元から土が吹きあがった。
そして眼光鋭く、殺気立たせながら醜き竜に指をさして宣告する。
「先ずはテメェをぶちのめす!! 細けぇことは、それからだッッ!!」
「……ボクも。覚悟は決めたよ!」
此処が何処だか分からない――怖くない訳でもない――けれど、少女を安心させなきゃと龍堂 神火(ka5693)は想った。だからこそ、ゴーグルを掛けて覚醒する。
守りたいと思うから。
譲れぬその想いが少年の背中を強く後押しする。
「ドラゴンならこっちにもいる! 頼むよ、ドルガ!」
そして神火はドラゴンの幻影を出現させた。
ドルガは火炎を吐くと同時に竜の気を引く。
「龍……! コッチニモ龍ガ……!!」
だがその頃にはもう幻影は消えていて、そうとは知らぬ竜は、暫く周りを探す。
「すまねぇ、恩に着る……! 助けてくれて、ありがとう!」
『へっ!?』
研司に声を掛けられた龍は素っ頓狂な声をあげた。それは人に話し掛けられた事への感激だ――だが次の瞬間、少し寂しい気持ちが押し寄せる。
「よしよし。嬢ちゃん、よく頑張った。もう大丈夫だ」
研司に保護された少女は、嗚咽を漏らしていた。本当に怖かったのだろう。彼の傍だと安心するのか、離れたがらなかった。
炎の蝶を舞い上がらせながら金鹿は、龍を見上げて紡ぐ。
「守護龍さん、私達も助太刀致しますわ。……もし、不安が残るのならば。私達が味方かどうか、その目で見極めて頂きたく。信用に値しないと、そう判断された時は後ろから焼くなりご自由に」
龍の様子は切なげで。
けれど引き止めずに少女を見守る眼差しは、慈愛で溢れていて。
金鹿は一つ吐息を零し、
「そうクヨクヨなさらないで。貴方の想い、私はしかと見届けましたわ」
龍の“守りたかった”という気持ちを、見過ごさずに垣間見ながら。
「話が途中でしたわね。ただ、私達は貴方も彼女も守りたいだけ。それだけはお約束いたしますわ」
『守りたい? オレの事も……?』
金鹿は頷くと、微笑みを浮かべる。
「人と龍、共に在る未来……必ず守り通すと決めましたもの」
優しく慰められた龍の純粋な、澄んだ眸が光で揺れる。
(人面の竜……。
――正直、嫌悪感しか湧いてこない)
愛梨は、欲に溺れて善を捨てたような……人の悪意を寄せ集めた様なその外見に、心を掻き乱される。
まるで、人と龍とが憎み合うしかない(融和しあえない)という具現の様で。
しかし愛梨は心眼を開く。
「違うわ……」
共に語り合った仲間達の想いと、
共に戦った龍達を想い起し否定する。
「私達は分かり合えない事なんか無い! 絶対に!!」
ゆえに愛梨は諦めない意思を籠め、光矢を放った。
「三の矢。雷獣の舞!!」
それは竜の目の前を掠めて、自身へと注意を引かせる。
「龍ばかり追いかけてないでさ、私と遊ばない?」
愛梨は艶めかしく双眸を細めながら愛嬌のある微笑みを零し、視線を絡めて誘う仕草をみせた。
“男を振り向かせるのは良い女の特権”――そう教えてくれたのは、舞を仕込んでくれた母である。
自分の魅せ方は習得済みだ。
「私を手折る事ができるかしら?」
舞うように、軽やかに。
高嶺の花の色気に魅了された竜の目はギラギラと輝いて、手を伸ばした。
「女…欲シイ!」
「っ!!」
竜は愛梨に執着して握り締める。
絶対に物にしたいという欲望が嫌という程伝わってくる。
だが、屈さずに見つめ返した。
その威勢の良さが、堪らなく竜を虜にする。
「オ前可愛イナ……益々気ニ入ッタ」
そうして惚れ込ませる程に押し潰されていくが、愛梨は友の祈りに守られているような気がして、苦しみは和らぐ。
“大切な友。愛しき龍達。その両を護りたいと思うが故に……”
“人の子よ…愛し龍よ…泣くな…恐れるな…想いを…諦めるな…”
「ええ、諦めない!! 私は、信じる!! 人と龍の共存を……!!」
愛梨は龍を愛する友の想いを胸に、桜吹雪を生みだして竜の視界を塞ぐ。
「ナンダコレハ……前ガ、見エナイ……!」
その隙に――保護された少女の状況を確認した後、愛梨を救出するべくユリアン(ka1664)は大きく地面を蹴って飛躍すると竜の躰に着地――そしてそのまま駆け上がり、日本刀を振り翳して突き刺した。
「グァァァ!」
愛梨は解放され、竜が汚い悲鳴をあげて暴れると、森に轟く。
水晶の草木が擦れ合い、シャララ……と透き通ったような美しい音を奏でる。ユリアンは眉を潜めて微かに目を伏した――悲しい程に、理解してしまうのだ。自分の周りだけが、風は凪いでいると。
「大丈夫。皆が居るから。私達も。あの龍も」
リラは震える少女を抱きしめて、優しい声で宥めていた。
人のぬくもりを感じて安堵を覚えた少女は泣きやんでいる。
「――では、この子をお願いします」
「了解。任された!」
研司は責任を持って頷いた。
そして神火も頑張って微笑みをみせて、
「大丈夫。今。おまじないを掛けるからね」
少女に加護符を贈る。
「これでよし……。このおまじないと……お兄さん達が護ってくれるから、もう何も怖くないよ」
少女は神火から貰った符を握りしめながら、こくりと頷いた。
「落ち着いた? よし、それじゃあ掴まって」
研司は少女を抱き上げると、竜胆に乗せて帯で固定する。
「そうだ。これ、おみくじってんだ。吉だぜ、ゲンがいい! こいつを丸めて耳に詰めとくといい。あーあー、よし、聞こえない? じゃ、行くか! ジャンさん、一緒に護衛しよう!」
「おう。行くか」
リラは、二人と少女が安全な場所へと離れていくのを見守った後、愛梨を護衛するべく、竜に柔能制剛を繰り出した。
「愛梨ちゃんに……これ以上手は出させません!」
巨体がバランスを崩して投げ倒される。
「もう追いつかせませんわ。愛梨さんは私達が護ります!」
金鹿も、愛梨に狙いを定めた竜を見据えて符を構える。そうして幾千もの黄金蝶が羽ばたいて、美しき光を放ちながら焦がす。
「ヌァァァ!!」
叫ぶ竜を見据え、神火は紡いだ。
「……守ります、ボクが!」
反撃する竜を、光輝く鳥が受け止め、少女が無事に逃げ切れるようにと全力を尽くす。
◇
パトリシアは挨拶すると共に龍に、そっと触れていた。
――丈夫で冷んやり。
そして……。
大きな身体に比べて小さな傷を見つけた。
「怪我してるの? 癒しの魔法が使えタラ良かったネ……」
それはきっと歪虚じゃなくて、人の仕業。
「ごめんネ。痛かったヨネ」
大地のマテリアルの流れを通わせたパトリシアは、仲間に――龍に――力を注ぐ。
ずっと、気になっていた。
どーして、こーもりさんはあんなに悲しそうなのカナ……って。
この守護龍さんも悲しそう。
でも、こーもりさんの悲しさとは少し違って。
女の子を守りたいって思う守護龍さんの目はキラキラだ。
歪虚は敵。
心がザワザワするマテリアル。
ダケド……
こーもりさんハ…こーもりさんは歪虚ダケド、確かにザワザワするケレド
それだけじゃぁなくって。
胸がちくりと痛む。
「女の子はとーどやジャンに任せて? パティ達はネ、龍が大好きダカラ。一緒に歪虚と戦うヨっ。だカラ……“一緒に戦ってくれマスカ?”」
『お前達は、一体……』
パトリシアは龍に、微笑みを浮かべた。
◇
「この辺なら安全、か……。ジャンさん、少しこの子を頼む。知ってるだろ。こういう敵の為の……研司砲だ。子供には見せらんねぇ」
研司は己の武器――“研司砲”を見つめて言った。高い防御をも砕く破壊力を秘めるその一撃に籠められた想いは、共に作り上げたダウンタウンの者の一人としてジャンルカの知るところであった。
「無茶はし過ぎるなよ? 兄弟」
「ああ、分かってる」
研司は戦域へ戻る前に、少女の頭をぽんぽんと撫でた。
(――この子は龍が守った子だ。これからの龍と人の共存する道の為にも、守りきる)
そして邪魔するヤツは人でも殺す。
その覚悟を持って、彼は、使命を担ったのだ。
◇
ユリアンは瞬脚で動き、立体攻撃にて顔面近くへと駆け上っていった。
「どんな想いに飲み込まれ、歪んだのか……。絶望? それとも……」
人面と竜の境へと剣先を衝きたてる。
すると竜はひどく痛がって、ユリアンに問う。
「何故俺ヲ攻撃スル……俺ヲ誰ダト思ッテルンダ!! 俺ハ勇者ダゾッ!!」
「勇者、か。嘗ては君も……そう呼ばれていたのかもしれないね。
でも、今の自分の姿をよく見てみるといい。君はもう、勇者には……戻れないんだよ」
ユリアンは眉尻を下げながら紡いだ。
ゆえに、竜は動揺する。
「俺ハ勇者ダ……何ヲ言ッテイル? 俺ハ……!!」
すると、現実を受け入れられぬ末に――
怒っているような、泣いているような、凄まじい竜の咆哮が森に響き渡った。
(……)
あれは まだ駆け出しの頃。
同じ様に巨大な敵に駆けのぼるユリアンを“風の勇者”と言った人が居た。
呼ばれる度にしこりが残った。
(俺に力は無いよ)
助けられたとしても その先の未来は手が伸ばせない 零れ落ちてく。
力を尽くせるのも 居合わせた一瞬でしかない。
けれど……。
その一瞬の積み重ねが “未来”なら。
――掴みたいのかもしれない。
いつも傍に在った風が 今も未だ 遠くても。
◇
「皆ー! 守護龍さんがブレス吐くヨー! 範囲とか、射程とか、威力とか、ちょっとだけ自由自在ダヨー!」
『なっ!? なんで知ってるんだ!?』
パトリシアは全員と情報共有し、龍との連携の絆も深めた。
そしてユリアンが頷く。
「了解。ブレスは遠慮しなくていい ちゃんと離れるから」
『お、おう……!』
人と共に戦う――。
龍はその高揚感に浸りながら、鮮やかな灼熱の炎を噴く。
その姿は豪快で、格好良くて。
「すっ、ごい…」
神火は息を飲みながら、眸が輝く。
神火がソサエティに居たのは、ドラゴンに興味を持ち、調べていたからだった。
――そして気付くと、此処に居た。
(……人面の竜の方は、なんか嫌だけど)
でも、龍の方は見ていると胸に妙な感覚が生まれた。
知っている龍ではないのに、何でだろう。
その正体を、
神火は噛みしめる。
ドラゴンを調べたのも。
胸の高鳴りも。
ドルガが大事なのも。
全部――
“ボクが憧れていたからだ”
「そっか、だからだ! ……ドラゴンは、すっごく、カッコいい!!」
合点がつくと、全身が奮い立つ。そして少し気弱だった神火の雰囲気は自然と変わった――楽し気な、不敵な笑みを浮かべて、眸の奥に芯の強さが現れる。
龍と共に戦える事へ感激し、胸は高鳴り、高揚している。
そして相棒たる竜を召喚した。
紅の肉体に眩しき黄金の鎧を纏った巨竜は主の呼びかけに応えて具現化する――醜く悪しき竜を睨み付け、
「吼えろドルガ! 欲望の一滴まで焼き尽くせ!」
豪快に火炎で焼き放った。
「グァァァァァ!!」
灼熱を浴びた竜は腰に携えた剣を抜こうとする。その瞬間、パトリシアが地縛符を発動――ユリアンはベルトを切り、金鹿が風雷陣で竜と剣を同時に狙って、剣を弾き飛ばした。
「終の矢、陽光の舞」
愛梨が天へと矢を放て、光の雨を降らせる。
その折、戻って来た研司が怒涛の攻撃を喰らわせた。
「もっと欲しいならくれてやる――!」
肉片を抉り出しながら、竜の最期を告げる。
「トドメだァァァ!」
冷気を纏った射撃を浴びた竜は消滅しかけていく中で、未練を紡ぐ。
「俺ハマダ……死ニタク……ナイ……」
するとユリアンは、静かに呟いた。
「染まってしまったら、袂を分つしかないんだ…… それが正義が元であれ」
「……」
――水晶の森に、平和が戻る。
◇
「カッコよかったです!」
『っっ』
神火のキラキラ輝いた眸に見つめられ、龍は照れていた。
そんな様子を金鹿がくすりと微笑みながら、見守る傍らで。
ふと。
パトリシアは訊ねる。
「守護龍さんはこーもりさんを、ディストルツィオーネを知ってマスカ?」
『ディストル? 知らねぇな』
答えを聴いて、金鹿は密かに確信していた。
龍はきっと歪虚となる前の…精霊だった頃の彼なのだろう。
そうなんとなく、悟ったのだ。
『本当、ありがとな。お前達が居てくれたから、あの子を護れたんだ。オレ一人だったらきっと、ダメだった。あ、あのよ…! お前ら全員、オレの事怖くねぇみてぇだし、一つ、聞いちゃくれねぇか?』
「「?」」
金鹿とパトリシアは同時に首を傾げた。
そして皆も注目する中で、龍は勇気を振り絞って問い掛ける――
『オレと…“友達”になってくれねぇかっ?』
金鹿は目を丸くした。
そして、切なそうに双眸を細めた。
例えこれが夢幻で、現実に何も残らないとしても。
彼の想いに触れる切欠になるのなら……。
金鹿は口を開く。
答えを告げようとしたのだ。
しかし途端に、眩い光が世界を塗り替えて……
リゼリオのソサエティ本部で――目を、醒ます。
藤堂研司(ka0569)は困惑した。
――目の前に居る龍は、あの“宿敵”か。
「ディストルツィオーネ? 似てるけど……別の龍?」
それは愛梨(ka5827)にとっても等しく、心をどよめかせる。
「金モ、女モ、何ダッテ手に入る――オマエヲコノ手デ、討チ滅ボセバナァ!!」
竜は腰に携えた剣を抜くと勢いよく振り回した。たったそれだけの動作であるが、激しく風が巻き起こり、森が騒ぐ。
「きゃぁぁッ!」
『危ねぇッッ』
そして龍は吹き飛ばされそうになった少女を守るべく、身を挺して風を受け止めると共に、竜の剣で切り裂かれ、血が噴いた。
『ぐぁッ』
「イヒヒヒ!」
更に竜は再び問答無用に剣を振り、龍は左腕で受け止める。鱗は硬く頑丈だが――深く喰い込んで、ぽたぽたと血が滴り落ちた。
するとパトリシア=K=ポラリス(ka5996)は振り返り、皆の目を見ながら云った。
「女の子を助けなきゃ! それから……守護龍さんのコトもっ!」
愛梨は少し考えた末、「そうね」と頷く。
「アイツに似てるとなるとやっぱ身構えちゃうけど……。でも少なくとも、この場では敵じゃない。その気だったらとっくに殺されてるものね」
金色に輝く双眸は優しき龍を見て、怯える少女を見て、そして欲望に溺れた竜を見据え――今倒さねばならないのは<コイツ>だと強気に睨みつけた。
「ですわね。まずは脅威を取り除かねば」
金鹿(ka5959)は愛梨とアイコンタクトを交わし、ふと考える。
――ライブラリ、記録の残る場所……。
(もし彼の守護龍がディストルツィオーネだとしたら、これは在りし日の……?)
研司の心臓は波打つ。
目の前の龍は紛れもなく龍だ。
それは分かってる。
分かっているが……。
それでも己の中に流れる戦士の血が騒ぐのだ――この龍が<ディストルツィオーネ>だと。
「滅ベ、滅ベ! 龍ハ滅ンデシマエ!!」
「ちっきしょう……! 考える余地なんざ無ぇっ!!」
研司の足元から土が吹きあがった。
そして眼光鋭く、殺気立たせながら醜き竜に指をさして宣告する。
「先ずはテメェをぶちのめす!! 細けぇことは、それからだッッ!!」
「……ボクも。覚悟は決めたよ!」
此処が何処だか分からない――怖くない訳でもない――けれど、少女を安心させなきゃと龍堂 神火(ka5693)は想った。だからこそ、ゴーグルを掛けて覚醒する。
守りたいと思うから。
譲れぬその想いが少年の背中を強く後押しする。
「ドラゴンならこっちにもいる! 頼むよ、ドルガ!」
そして神火はドラゴンの幻影を出現させた。
ドルガは火炎を吐くと同時に竜の気を引く。
「龍……! コッチニモ龍ガ……!!」
だがその頃にはもう幻影は消えていて、そうとは知らぬ竜は、暫く周りを探す。
「すまねぇ、恩に着る……! 助けてくれて、ありがとう!」
『へっ!?』
研司に声を掛けられた龍は素っ頓狂な声をあげた。それは人に話し掛けられた事への感激だ――だが次の瞬間、少し寂しい気持ちが押し寄せる。
「よしよし。嬢ちゃん、よく頑張った。もう大丈夫だ」
研司に保護された少女は、嗚咽を漏らしていた。本当に怖かったのだろう。彼の傍だと安心するのか、離れたがらなかった。
炎の蝶を舞い上がらせながら金鹿は、龍を見上げて紡ぐ。
「守護龍さん、私達も助太刀致しますわ。……もし、不安が残るのならば。私達が味方かどうか、その目で見極めて頂きたく。信用に値しないと、そう判断された時は後ろから焼くなりご自由に」
龍の様子は切なげで。
けれど引き止めずに少女を見守る眼差しは、慈愛で溢れていて。
金鹿は一つ吐息を零し、
「そうクヨクヨなさらないで。貴方の想い、私はしかと見届けましたわ」
龍の“守りたかった”という気持ちを、見過ごさずに垣間見ながら。
「話が途中でしたわね。ただ、私達は貴方も彼女も守りたいだけ。それだけはお約束いたしますわ」
『守りたい? オレの事も……?』
金鹿は頷くと、微笑みを浮かべる。
「人と龍、共に在る未来……必ず守り通すと決めましたもの」
優しく慰められた龍の純粋な、澄んだ眸が光で揺れる。
(人面の竜……。
――正直、嫌悪感しか湧いてこない)
愛梨は、欲に溺れて善を捨てたような……人の悪意を寄せ集めた様なその外見に、心を掻き乱される。
まるで、人と龍とが憎み合うしかない(融和しあえない)という具現の様で。
しかし愛梨は心眼を開く。
「違うわ……」
共に語り合った仲間達の想いと、
共に戦った龍達を想い起し否定する。
「私達は分かり合えない事なんか無い! 絶対に!!」
ゆえに愛梨は諦めない意思を籠め、光矢を放った。
「三の矢。雷獣の舞!!」
それは竜の目の前を掠めて、自身へと注意を引かせる。
「龍ばかり追いかけてないでさ、私と遊ばない?」
愛梨は艶めかしく双眸を細めながら愛嬌のある微笑みを零し、視線を絡めて誘う仕草をみせた。
“男を振り向かせるのは良い女の特権”――そう教えてくれたのは、舞を仕込んでくれた母である。
自分の魅せ方は習得済みだ。
「私を手折る事ができるかしら?」
舞うように、軽やかに。
高嶺の花の色気に魅了された竜の目はギラギラと輝いて、手を伸ばした。
「女…欲シイ!」
「っ!!」
竜は愛梨に執着して握り締める。
絶対に物にしたいという欲望が嫌という程伝わってくる。
だが、屈さずに見つめ返した。
その威勢の良さが、堪らなく竜を虜にする。
「オ前可愛イナ……益々気ニ入ッタ」
そうして惚れ込ませる程に押し潰されていくが、愛梨は友の祈りに守られているような気がして、苦しみは和らぐ。
“大切な友。愛しき龍達。その両を護りたいと思うが故に……”
“人の子よ…愛し龍よ…泣くな…恐れるな…想いを…諦めるな…”
「ええ、諦めない!! 私は、信じる!! 人と龍の共存を……!!」
愛梨は龍を愛する友の想いを胸に、桜吹雪を生みだして竜の視界を塞ぐ。
「ナンダコレハ……前ガ、見エナイ……!」
その隙に――保護された少女の状況を確認した後、愛梨を救出するべくユリアン(ka1664)は大きく地面を蹴って飛躍すると竜の躰に着地――そしてそのまま駆け上がり、日本刀を振り翳して突き刺した。
「グァァァ!」
愛梨は解放され、竜が汚い悲鳴をあげて暴れると、森に轟く。
水晶の草木が擦れ合い、シャララ……と透き通ったような美しい音を奏でる。ユリアンは眉を潜めて微かに目を伏した――悲しい程に、理解してしまうのだ。自分の周りだけが、風は凪いでいると。
「大丈夫。皆が居るから。私達も。あの龍も」
リラは震える少女を抱きしめて、優しい声で宥めていた。
人のぬくもりを感じて安堵を覚えた少女は泣きやんでいる。
「――では、この子をお願いします」
「了解。任された!」
研司は責任を持って頷いた。
そして神火も頑張って微笑みをみせて、
「大丈夫。今。おまじないを掛けるからね」
少女に加護符を贈る。
「これでよし……。このおまじないと……お兄さん達が護ってくれるから、もう何も怖くないよ」
少女は神火から貰った符を握りしめながら、こくりと頷いた。
「落ち着いた? よし、それじゃあ掴まって」
研司は少女を抱き上げると、竜胆に乗せて帯で固定する。
「そうだ。これ、おみくじってんだ。吉だぜ、ゲンがいい! こいつを丸めて耳に詰めとくといい。あーあー、よし、聞こえない? じゃ、行くか! ジャンさん、一緒に護衛しよう!」
「おう。行くか」
リラは、二人と少女が安全な場所へと離れていくのを見守った後、愛梨を護衛するべく、竜に柔能制剛を繰り出した。
「愛梨ちゃんに……これ以上手は出させません!」
巨体がバランスを崩して投げ倒される。
「もう追いつかせませんわ。愛梨さんは私達が護ります!」
金鹿も、愛梨に狙いを定めた竜を見据えて符を構える。そうして幾千もの黄金蝶が羽ばたいて、美しき光を放ちながら焦がす。
「ヌァァァ!!」
叫ぶ竜を見据え、神火は紡いだ。
「……守ります、ボクが!」
反撃する竜を、光輝く鳥が受け止め、少女が無事に逃げ切れるようにと全力を尽くす。
◇
パトリシアは挨拶すると共に龍に、そっと触れていた。
――丈夫で冷んやり。
そして……。
大きな身体に比べて小さな傷を見つけた。
「怪我してるの? 癒しの魔法が使えタラ良かったネ……」
それはきっと歪虚じゃなくて、人の仕業。
「ごめんネ。痛かったヨネ」
大地のマテリアルの流れを通わせたパトリシアは、仲間に――龍に――力を注ぐ。
ずっと、気になっていた。
どーして、こーもりさんはあんなに悲しそうなのカナ……って。
この守護龍さんも悲しそう。
でも、こーもりさんの悲しさとは少し違って。
女の子を守りたいって思う守護龍さんの目はキラキラだ。
歪虚は敵。
心がザワザワするマテリアル。
ダケド……
こーもりさんハ…こーもりさんは歪虚ダケド、確かにザワザワするケレド
それだけじゃぁなくって。
胸がちくりと痛む。
「女の子はとーどやジャンに任せて? パティ達はネ、龍が大好きダカラ。一緒に歪虚と戦うヨっ。だカラ……“一緒に戦ってくれマスカ?”」
『お前達は、一体……』
パトリシアは龍に、微笑みを浮かべた。
◇
「この辺なら安全、か……。ジャンさん、少しこの子を頼む。知ってるだろ。こういう敵の為の……研司砲だ。子供には見せらんねぇ」
研司は己の武器――“研司砲”を見つめて言った。高い防御をも砕く破壊力を秘めるその一撃に籠められた想いは、共に作り上げたダウンタウンの者の一人としてジャンルカの知るところであった。
「無茶はし過ぎるなよ? 兄弟」
「ああ、分かってる」
研司は戦域へ戻る前に、少女の頭をぽんぽんと撫でた。
(――この子は龍が守った子だ。これからの龍と人の共存する道の為にも、守りきる)
そして邪魔するヤツは人でも殺す。
その覚悟を持って、彼は、使命を担ったのだ。
◇
ユリアンは瞬脚で動き、立体攻撃にて顔面近くへと駆け上っていった。
「どんな想いに飲み込まれ、歪んだのか……。絶望? それとも……」
人面と竜の境へと剣先を衝きたてる。
すると竜はひどく痛がって、ユリアンに問う。
「何故俺ヲ攻撃スル……俺ヲ誰ダト思ッテルンダ!! 俺ハ勇者ダゾッ!!」
「勇者、か。嘗ては君も……そう呼ばれていたのかもしれないね。
でも、今の自分の姿をよく見てみるといい。君はもう、勇者には……戻れないんだよ」
ユリアンは眉尻を下げながら紡いだ。
ゆえに、竜は動揺する。
「俺ハ勇者ダ……何ヲ言ッテイル? 俺ハ……!!」
すると、現実を受け入れられぬ末に――
怒っているような、泣いているような、凄まじい竜の咆哮が森に響き渡った。
(……)
あれは まだ駆け出しの頃。
同じ様に巨大な敵に駆けのぼるユリアンを“風の勇者”と言った人が居た。
呼ばれる度にしこりが残った。
(俺に力は無いよ)
助けられたとしても その先の未来は手が伸ばせない 零れ落ちてく。
力を尽くせるのも 居合わせた一瞬でしかない。
けれど……。
その一瞬の積み重ねが “未来”なら。
――掴みたいのかもしれない。
いつも傍に在った風が 今も未だ 遠くても。
◇
「皆ー! 守護龍さんがブレス吐くヨー! 範囲とか、射程とか、威力とか、ちょっとだけ自由自在ダヨー!」
『なっ!? なんで知ってるんだ!?』
パトリシアは全員と情報共有し、龍との連携の絆も深めた。
そしてユリアンが頷く。
「了解。ブレスは遠慮しなくていい ちゃんと離れるから」
『お、おう……!』
人と共に戦う――。
龍はその高揚感に浸りながら、鮮やかな灼熱の炎を噴く。
その姿は豪快で、格好良くて。
「すっ、ごい…」
神火は息を飲みながら、眸が輝く。
神火がソサエティに居たのは、ドラゴンに興味を持ち、調べていたからだった。
――そして気付くと、此処に居た。
(……人面の竜の方は、なんか嫌だけど)
でも、龍の方は見ていると胸に妙な感覚が生まれた。
知っている龍ではないのに、何でだろう。
その正体を、
神火は噛みしめる。
ドラゴンを調べたのも。
胸の高鳴りも。
ドルガが大事なのも。
全部――
“ボクが憧れていたからだ”
「そっか、だからだ! ……ドラゴンは、すっごく、カッコいい!!」
合点がつくと、全身が奮い立つ。そして少し気弱だった神火の雰囲気は自然と変わった――楽し気な、不敵な笑みを浮かべて、眸の奥に芯の強さが現れる。
龍と共に戦える事へ感激し、胸は高鳴り、高揚している。
そして相棒たる竜を召喚した。
紅の肉体に眩しき黄金の鎧を纏った巨竜は主の呼びかけに応えて具現化する――醜く悪しき竜を睨み付け、
「吼えろドルガ! 欲望の一滴まで焼き尽くせ!」
豪快に火炎で焼き放った。
「グァァァァァ!!」
灼熱を浴びた竜は腰に携えた剣を抜こうとする。その瞬間、パトリシアが地縛符を発動――ユリアンはベルトを切り、金鹿が風雷陣で竜と剣を同時に狙って、剣を弾き飛ばした。
「終の矢、陽光の舞」
愛梨が天へと矢を放て、光の雨を降らせる。
その折、戻って来た研司が怒涛の攻撃を喰らわせた。
「もっと欲しいならくれてやる――!」
肉片を抉り出しながら、竜の最期を告げる。
「トドメだァァァ!」
冷気を纏った射撃を浴びた竜は消滅しかけていく中で、未練を紡ぐ。
「俺ハマダ……死ニタク……ナイ……」
するとユリアンは、静かに呟いた。
「染まってしまったら、袂を分つしかないんだ…… それが正義が元であれ」
「……」
――水晶の森に、平和が戻る。
◇
「カッコよかったです!」
『っっ』
神火のキラキラ輝いた眸に見つめられ、龍は照れていた。
そんな様子を金鹿がくすりと微笑みながら、見守る傍らで。
ふと。
パトリシアは訊ねる。
「守護龍さんはこーもりさんを、ディストルツィオーネを知ってマスカ?」
『ディストル? 知らねぇな』
答えを聴いて、金鹿は密かに確信していた。
龍はきっと歪虚となる前の…精霊だった頃の彼なのだろう。
そうなんとなく、悟ったのだ。
『本当、ありがとな。お前達が居てくれたから、あの子を護れたんだ。オレ一人だったらきっと、ダメだった。あ、あのよ…! お前ら全員、オレの事怖くねぇみてぇだし、一つ、聞いちゃくれねぇか?』
「「?」」
金鹿とパトリシアは同時に首を傾げた。
そして皆も注目する中で、龍は勇気を振り絞って問い掛ける――
『オレと…“友達”になってくれねぇかっ?』
金鹿は目を丸くした。
そして、切なそうに双眸を細めた。
例えこれが夢幻で、現実に何も残らないとしても。
彼の想いに触れる切欠になるのなら……。
金鹿は口を開く。
答えを告げようとしたのだ。
しかし途端に、眩い光が世界を塗り替えて……
リゼリオのソサエティ本部で――目を、醒ます。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
- リラ(ka5679)
依頼相談掲示板 | |||
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夢に向かって相談卓! 藤堂研司(ka0569) 人間(リアルブルー)|26才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2017/02/23 19:01:21 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/02/21 02:25:22 |