ゲスト
(ka0000)
【王臨】風を司る者/空を翔る者
マスター:坂上テンゼン

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/03/03 19:00
- 完成日
- 2017/03/10 16:08
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●決戦用空間展開
そして、古の塔最上階にて、最終試練が始まった……。
”王国の原風景”を模したという、果てがない程に広い空間、その空間の至る所から、炎が燃え盛り、また風が渦巻いて、挑戦者達を容赦なく攻め立てる。
攻撃の起点は空間自体だ。あらゆる場所から現象としての攻撃が発生する。
最上階に到達したすべての者たちは、それに耐えつつ、強大な敵を倒さなくてはならないのだ……。
●風を司るシルフ
そのゴーレムは女性を思わせる優美なフォルムをしていた。白磁のような白い体表、白銀の髪を風になびかせ、薄緑の布を纏っている。
そして背中には七色に輝く透明な翅が、高速で羽ばたいており、空中に浮かんでいた。
それはハンター達が近づいてきたことを認識すると、碧水晶の瞳を開いた。
「人間達よ、怪我をする前に臆病風に吹かれて帰るがよい」
そして警告とも取れる言葉を発してきた。
「さもなくばこの風を司るシルフの手にかかり、風花のように散りゆくのみ」
相対する人間達を見据えたまま、無理な体勢に四肢を伸ばしあるいは曲げて挑発するような体勢をとる。その様子は芸術的とも、奇妙とも感じられた。
無論、ことここに至って、そんなことを言われて引き下がるものなどいなかった。
挑む者達は、空中にいるそれに向け、銃や弓矢で攻撃する。
シルフと名乗ったゴーレムは一瞬で違う所に移動した。銃弾も矢も思うように当たらない。ただでさえ吹き荒れる風のせいで狙いが定めにくいというのに、敵は空中にいて、しかも高速で飛行する。
「そのような微風で我を捉えること能わず」
シルフは両手を前に突き出す。
風の刃が発生し、相対する挑戦者達を切り裂いた。
だが、戦士達は怯まない。
再び空中の敵に向かって、飛び道具や魔法も交えて攻撃を仕掛けた。
……全く当たらないというわけではない。
だが、効果的な打撃には程遠い。
戦士達の中に狼狽の気配が浮かぶ。
しかし……。
●愛国者ヘザー
「うろたえるな!」
ヘザー・スクロヴェーニ(kz0061)が、敵を強く睨みつけながら言った。
「私に考えがある……!」
そして戦線を同じくする者達を集める。
「いいか、何でもいいから私をあいつの所まで飛ばすんだ」
彼女は飛ぶと、そう言った。
「私が直接組み付いて奴の飛行を阻害し、地面まで落とす!」
ヘザーは仲間達の輪から一歩、敵に向かって踏み出す。
「――”人間の全てを見せろ”だと? ……面白い。
ならば見よ! 聞け! 驚け! 畏れよ!
王国”平民”ヘザー・スクロヴェーニ! 推して参る!」
そして傍らに立つ者達に言った。
「――さあ!
叫べッ!」
「いかなる風の閃きを得たか知らぬが無駄なこと……」
吹きすさぶ風の音に紛れてシルフの声が聞こえてくる。
「我ら四体が揃っている限り、いかなる嵐も我らを薙ぎ倒すことは出来ぬ。
決してな……」
そして、古の塔最上階にて、最終試練が始まった……。
”王国の原風景”を模したという、果てがない程に広い空間、その空間の至る所から、炎が燃え盛り、また風が渦巻いて、挑戦者達を容赦なく攻め立てる。
攻撃の起点は空間自体だ。あらゆる場所から現象としての攻撃が発生する。
最上階に到達したすべての者たちは、それに耐えつつ、強大な敵を倒さなくてはならないのだ……。
●風を司るシルフ
そのゴーレムは女性を思わせる優美なフォルムをしていた。白磁のような白い体表、白銀の髪を風になびかせ、薄緑の布を纏っている。
そして背中には七色に輝く透明な翅が、高速で羽ばたいており、空中に浮かんでいた。
それはハンター達が近づいてきたことを認識すると、碧水晶の瞳を開いた。
「人間達よ、怪我をする前に臆病風に吹かれて帰るがよい」
そして警告とも取れる言葉を発してきた。
「さもなくばこの風を司るシルフの手にかかり、風花のように散りゆくのみ」
相対する人間達を見据えたまま、無理な体勢に四肢を伸ばしあるいは曲げて挑発するような体勢をとる。その様子は芸術的とも、奇妙とも感じられた。
無論、ことここに至って、そんなことを言われて引き下がるものなどいなかった。
挑む者達は、空中にいるそれに向け、銃や弓矢で攻撃する。
シルフと名乗ったゴーレムは一瞬で違う所に移動した。銃弾も矢も思うように当たらない。ただでさえ吹き荒れる風のせいで狙いが定めにくいというのに、敵は空中にいて、しかも高速で飛行する。
「そのような微風で我を捉えること能わず」
シルフは両手を前に突き出す。
風の刃が発生し、相対する挑戦者達を切り裂いた。
だが、戦士達は怯まない。
再び空中の敵に向かって、飛び道具や魔法も交えて攻撃を仕掛けた。
……全く当たらないというわけではない。
だが、効果的な打撃には程遠い。
戦士達の中に狼狽の気配が浮かぶ。
しかし……。
●愛国者ヘザー
「うろたえるな!」
ヘザー・スクロヴェーニ(kz0061)が、敵を強く睨みつけながら言った。
「私に考えがある……!」
そして戦線を同じくする者達を集める。
「いいか、何でもいいから私をあいつの所まで飛ばすんだ」
彼女は飛ぶと、そう言った。
「私が直接組み付いて奴の飛行を阻害し、地面まで落とす!」
ヘザーは仲間達の輪から一歩、敵に向かって踏み出す。
「――”人間の全てを見せろ”だと? ……面白い。
ならば見よ! 聞け! 驚け! 畏れよ!
王国”平民”ヘザー・スクロヴェーニ! 推して参る!」
そして傍らに立つ者達に言った。
「――さあ!
叫べッ!」
「いかなる風の閃きを得たか知らぬが無駄なこと……」
吹きすさぶ風の音に紛れてシルフの声が聞こえてくる。
「我ら四体が揃っている限り、いかなる嵐も我らを薙ぎ倒すことは出来ぬ。
決してな……」
リプレイ本文
●そしてヘザーは傍らに立つ者達に言った。
「――さあ!
叫べッ!」
「はい! 妹分として、ヘザーさんの助太刀に参上なのですっ!」
「ミコちゃんとヘザーさんと私が揃えばそこに敵などいなーい! ……はず!」
流れるようにミコト=S=レグルス(ka3953)とリツカ=R=ウラノス(ka3955)がヘザーに応えた。
何度も戦場を共にした仲間同士であるだけあって、こういうやり取りには慣れっこである。
「"人間の全て"……」
続いて、番人が言った言葉を反芻する者あり。
「だったら、この僕が人と人との繋がりの力を見せてあげるよ」
仁川 リア(ka3483)は力強く一歩踏み込むと共に、己の戦意を示す。
「さぁ、五月蠅い風を狩ろう。向かい風を追い風に変えてやるんだ」
あくまでもいつも通り、飄々とした態度で、ジュード・エアハート(ka0410)は言った。
これから強敵を相手に戦いを挑むというのに、その態度には余裕さえうかがえる。
(いいねぇ、あたしも風になってみたいもんだよ。……いや違うか。これは試練だったね)
セレス・フュラー(ka6276)は敵を見ながら、そんな事を考える。
「風になるんじゃない、風を超えるんだ」
あくまでも真剣に、目の前の試練に挑む。
「Come on bitch! Kiss my ass!」
フォークス(ka0570)の口からは品のないスラングが飛び出す。
「よォ、コレでいいのかい」
言いたい事を言ってやった、みたいな顔でヘザーに聞く。
ヘザーは言葉の意味はよくわからなかったが、なんかカッコいいと思ったので頷く。
「君が壊れるまで、攻撃するのを止めないよっ!」
杖の先でシルフのゴーレムをビシッと指し示し夢路 まよい(ka1328)が叫んだ。
余裕があるどころか『なんかカッコイイポーズ決めてるゴーレムがいる』ぐらいの気持ちである。
彼女の場合、愉悦や好奇心以外の感情が表に出ないのは今に始まったことではない。
「機導・沙織です。宜しくお願いしますね」
そして、沙織(ka5977)が礼儀正しく名乗った。
歳若い軍人である彼女は、試練を受けるという状況にあって士官学校時代のテストを思い出していた。
その様子はヘザーのような雄雄しさや猛々しさとは程遠い。しかし、決して戦うことに後ろ向きではなかった。
さらには、かれらに付き従う幻獣達、五体。
ジュードの相棒、ユグディラ、クリム。
まよいの相棒、ユグディラ、トラオム。
ミコトの相棒、ユグディラ、名前はまだない。
リツカの相棒、ユグディラ、雪丸。
沙織の相棒、ユキウサギ、ポコ。
いずれも真剣な面持ちだ。
(さすがはハンター、個性豊か)
ヘザーは内心で感心した。
そして改めて敵を睨む。
シルフと名乗った古のゴーレムは、興味を抱いたのか――その表情は読み取れないが――挑戦者達の言葉ひとつひとつを聞いていた。
そして、中空で両肘を高く上げ、両手は首の付け根で重ね、上体をやや反り気味にしつつ右脚を左脚の前に重ね、碧水晶の目で思い切り一行を見下しつつ、こう言った。
「いかなる結束も、我が風で吹き散らしてくれよう。
耐えられるか、人の子らよ」
言うや否やシルフの姿が一瞬で消え、別の場所に現れた。それは転移ではなく通常の移動だったが、誰一人として目で追うことができなかった。ハチドリのように空中で制止しては、次の瞬間にはまた別な場所にいる。
突如、リアの左腕で空気が爆ぜた。
衝撃と痛みで体勢を崩しかける。見ると、防具に一直線の亀裂が入っていた。
「流石に早ぇな……気休めにしかならねェかもしんねェが」
フォークスは銃を撃つ手を一瞬止め、発煙手榴弾を投げる。
風向きを知る目的だったが、風はあらゆる方向からあらゆる方向に向けて吹き荒れていた。煙も出るそばから散り散りになっていく。
「あの攻撃は厄介だ。私を跳ばせるか?!」
「し、進言します! 今は切り札の使い所を見極めるべきかと」
逸るヘザーに対し、このくらい下手に出ないと聞いてもらえないと思ったのか、沙織は軍人時代に上官に対してしたような口調で言う。
「ならばこのまま迎撃だ」
一行は銃や投具を構え、それぞれシルフを狙った。しかし最初に攻撃したときと同じく、決定打とはならない。
「何か変だ! 光が消えたっ……!」
セレスが声をあげた。彼女の鋭敏視覚が捉えたものは、ジュードが撃った弾丸の光が、シルフの至近距離で突如消えた瞬間だった。
ジュードの銃、サラマンダーは弾丸を放つ際に火属性を付与して赤く光るのだが、それが消えた。
「風属性で火属性が打ち消せるはずが……?」
状況に合わせて選択した銃が効果を発揮しないことに、ジュードは思わず疑問を口にする。
「何らかの加護を受けている可能性があります」
「チッ……なら消極的に相手をするしかネェか」
沙織が挙げた可能性に異を唱えるものはなく、フォークスの意見も同様だった。
その時、ユグディラ達はハンター達の影に隠れていた。臆病と笑うなかれ、これが自然界で弱者であるかれらの戦い方である。
そして一瞬姿を表し、心を一つにして祈る。するとマテリアルが仲間の傷を癒やす。それが終わると、またすぐに隠れた。
回復役を確認したシルフはユグディラを狙うが、そこは非力ながらも回避に優れたユグディラ。うまく隠れ、あるいは逃げ、攻撃をやり過ごす。
そして現れては回復し、また隠れる。この繰り返しでハンター達を補助した。
時にはリュートで曲を奏でることによって、範囲回復でハンター達を助けた。ただ回復量はそこまで強力ではなく、度々何人かが必要に応じてポーションを使った。
また、ユキウサギのポコが雪水晶を使い、守りの力を付与していく。
こうして幻獣達に助けられ、防戦一方ながらも一行は反撃の機会を窺った……。
スキルが続くうちは安定して耐えられる。
だがそれも、スキルが枯渇したり、立っている幻獣達の数が減らないことが前提だということを忘れてはならなかった。
加えてフィールド全体に吹き荒れている炎と風が、一行の体力を奪っていく。
時間が経つにつれ、一行は少しずつ追い詰められていく……。
●試行錯誤
そんな中、敵を観察し続けていたセレス、沙織は変化を目にした。
ミコトの投げた火竜票がシルフの腕をかすり、青い火を吹き出したのだ。その衝撃にシルフ自身も動じたように見えた。
「敵の様子に変化が見られます!」
沙織が的確に状況を報告する。
「今だ、やるぞ!」
ヘザーのかけ声とともに、それまで固まって守りに徹していた一行が動き始める。
「ヘザー。僕の肩を足場に」
リアが敵に向けて前進しながら言った。説明は最小限にせざるを得ない。
「その場のノリでやってみるけど心配いらないわ! 私がこれだって思ったんだもの」
その後に続くまよいが、楽しそうに告げた。
敵はよく動くとはいえ、常に動いていられるわけではない。
ある程度まで近づいて、ヘザーは二人に向けて頷く。
「落とし甲斐のある獲物だ。射撃の腕をご披露しよう!」
「風に弾を乗せんのもスナイパーの仕事だよ。
仲良くやろーぜ、すかしっ屁ヤロウ」
ジュードとフォークスがありったけの弾丸をシルフの周囲に向けてばら撒いた。広範囲への制圧射撃だったが、シルフに弾丸は当たらない。
しかし、目くらましにはなった。
「まずはっ! 土台を! 作るよ~!」
まよいが杖を振るい魔術的動作を行うと、リアの足元から大地の壁がせり上がり始めた。
「バランス崩さないでね!」
「任せろ、得意分野だ」
「よし、いくよ!」
リアの肩にヘザーが足を乗せる。リアは足首を掴んで壁の上に立った。
足場は良いとは言えない。
(焦るんじゃない。落ち着いてやればいい……お前ならできる)
出発前に言ってくれた、メンカルの言葉が蘇った。
見る間に壁の高さは2メートルに達する。リアは、その上から跳んだ。跳躍の最高点に達した時、ヘザーはリアの肩を足場にして跳んだ――二段ジャンプ。
その高さはシルフをも上回った。
「貰ったあああああああああ!!!」
「多少変わった風が吹いたところで――狼狽えるものではない!」
一陣の風が吹いた。
シルフの放った風の刃が無防備なヘザーを襲う。
血を噴き回転しながら、ヘザーは反対方向へと墜ちていく。
「へザー!」
「ん~、やり方は悪くなかったと思うんだけどなぁ」
心配そうに声をあげるリアと、ただ結果に残念がるまよい。いずれも手は出せない。
「ヘザーさん!!」
リツカがすぐさま反応し、ランナウトで追った。落下するへザーを受け止める。
ユグディラ達が、すかさず祈りを捧げてヘザーの傷を癒やす。
「大丈夫?!」
リツカがそう聞くと、すぐさまヘザーは自分の足で立った。
「大丈夫だ。ルカが護ってくれた……」
ヘザーはその場にいない、自分を案じる仲間の声を聞いた。
「ヘザーさんっ! 次はうちが!」
ミコトが、剣を構えてヘザーの前に出た。通常の構えではなく、スコップのように先を斜め下に向けている。
「よし、行くぞミコト!」
ヘザーは傷など何でもないように跳び、ミコトの構えた剣の上に跳び乗る。
「跳ばしますよっ!!!」
ミコトは全力で剣を持ち上げ、同時にヘザーが思い切り跳んだ。覚醒者の腕力+脚力が連携し、へザーの身は高みへと跳び上がる。
しかし、シルフはこれにすぐ気づき、上へと避けた。
へザーは反撃こそ食らわなかったがまた空を切る……
かと思われた、その瞬間。沙織の足がマテリアルを噴き出し、凄まじい勢いで上昇した。
「高さをサポートします!」
その位置はヘザーの真下。沙織は頭上に両手を構える。
それはヘザーの鋼の如き腹筋(胸板かもしれなかった、いずれも鋼の如き)を、さながらバレーボールのごとく、突き上げた。
その高さはシルフをも越える。縦回転しながらもへザーは、懸命に腕を伸ばす。
「うおおおおおおおおおおりゃあああああああああ!!!」
その手が――
シルフの腕を、掴んだ。
●シルフ墜落後の攻防
落下するへザーがシルフを巻き込むという形で、シルフは地面に墜ちた。
シルフは上半身を起こし翅を動かすが、空に逃れることは叶わない。
へザーが手首を掴んでいるからだ。
へザーは片膝をつき、鬼気迫る表情でシルフを睨んでいた。
そこに音もなく忍び寄る影一つ。
セレスだ。
身を低くし、一気に加速してシルフの至近距離に迫る。
さながら毒蛇が牙を突き立てるように、短刀をシルフに突き立てる。
そして速やかに離れ、反撃の機会を与えない。
その刃には実際に毒が仕込まれていた。自然界に存在する有毒物質ならば効果は望めまいが、マテリアルが変質したそれはゴーレムであろうと内部に残り、蝕み続ける。
その一撃が切っ掛けとなった。一行はこの機を逃すまいと、一斉に攻撃する。
「今だ! 私ごと貫けええええ!」
「いや、それはしない……」
叫ぶへザーに拒否しながらリアは踏み込み、剣で突きを見舞う。腕を掴まれたままのシルフは避けることもままならない。
続いてミコトが斬りつけ、リツカが棍による突きを食らわせる。セレスも再び来たりて刃を浴びせる。ポコのモーニングスターが頭を捉え、接近戦組が離れると沙織の拳銃が火を噴く。さらには、フォークスの銃もシルフの体を撃ち抜いた。
「シロの力、借りるよ!」
友の名を呼ぶ。まよいの振るう杖が真っ赤に燃え、火球を発した。それは最初のように途中で消えることなく、命中すると力を示威するように爆炎を発した。
そして、ジュードが狙いをつける。
だが、その銃が火を噴くよりも早く、シルフはヘザーの手を逃れ、突風でへザーを吹き飛ばすと共に反対方向へと飛んだ。
ジュードは無理に発砲することを避けた。ただ、ターゲットだけは狙い続ける。
●史上希に見る華麗な空中戦
再び空へと舞い上がり、シルフは刃向かう人間達を見下ろす。
そして、その高みへと挑もうとする者がある……
「――機導・沙織、吶喊します!」
ヘザーではなかった。
沙織がジェットブーツを出力最大で駆使し、真っ正面からシルフに向かって跳んだ。
シルフは警戒したのか、敢えて撃ち落とすことはせずに回避行動を取る。
それが幸いしたのか、背後から迫るリアの姿に気づいた。
リアは先ほどまよいが作り上げた土の壁を使って立体機動の要領で三角跳びをしたのだった。さらにはアクセルオーバーの残像を残して視認し辛くなっている。
……だが、シルフはこれも回避してみせた。その動きは回避こそが本分とばかりに、自在に空中を移動する。
二度に渡る飛びつき、いずれも失敗……
しかし、これで終わりではなかった。
「後は頼むよ……ヘザー!」
リアは空中でシルフから遠ざかりながら呼びかける。沙織と同じく囮である彼が、本命に向かって。
「任せろぉっ!」
――ヘザーが、土の壁で三角跳びをして、回転しつつシルフへと跳ぶ。
立て続けの、三度目の攻撃……
……だが、遮るもののない空中を自在に動くシルフは、これをも回避してみせる。
ヘザーは脚を下に、着地の体勢に入った。
「はるか過去ならいざ知らず、今のグラズヘイム王国で空中戦と言えばヘザー姐さんの専売特許なんだよ!」
「?!」
ヘザーの下にスライディングで滑り込むものがいる。
リツカだ。
「そして落ちた敵がすぐにまた上がってくるとは予想できまい! 今必殺の・空愛旋風ー!」
リツカは背中を下に脚を上に向け、落ちてくるヘザーの両足に自らの両足を合わせる。
(リツカ、あれだけの長いセリフをよくこの間に……でもスカイラブのラブは愛じゃないぞ!)
ヘザーはやはり一瞬の間にそんな感想を抱きつつ、リツカの蹴り出す力と自分の跳躍する力をうまく合わせ、再び跳んだ。
その位置はシルフの真下。死角になっている部分だ。
今度こそ反応できず、ヘザーは両腕でシルフの腰をしっかりと掴んだ。
「信じられん……! このような戦い方、古の昔からただの一度も経験したことがない……!」
「何を驚く……
同じ風は二度と吹かない。それと同じだ。
シルフよ、お前は再び地に落とされるのだ!」
ヘザーはありったけのマテリアルを体に込め、体を振った。その勢いでシルフごと縦に反転し、シルフの頭が下になる。
忍者の間で飯綱落としと言われる術に似た状態だった。
シルフは脳天から落下し――
地面に叩きつけられた。
●古き風止みにけり
それがシルフにとっての致命傷とはならなかった。すぐさま身を起こそうとする。同じく地面に投げ出されたへザーもそれに気づき、這ってシルフを羽交い締めにする。
それが好機であることに、説明など不要だった。
「Hey dudette.まだ寝てていいんだぜ?」
シルフの頭部に向けてフォークスが遠慮なくぶっ放した。シルフは破片を散らしながら、大きく仰け反る。
それに続き、まよいがファイアアローを撃つ。炸裂した炎が止まないうちに、セレスが接近して短刀で突く。続いてポコが、大きく弧を描いて槌を叩きつける。
好機=シルフの落下を待っていた一行は流れるような鮮やかさで攻撃を仕掛けた。
だが、もとより意志など持たぬゴーレムは降伏することなど思いもよらず、攻撃の機会を伺っていた。
再びシルフはヘザーの拘束から逃れ、横に転がって距離をとった。翅を羽ばたかせばすぐにまた空の上だ。
だが、そうはならなかった。
シルフは地上からわずかに浮き上がっただけの所に、つなぎ止められたようにして制止する。
シルフに向かって、ミコトが手を伸ばしていた。シルフのどこかを掴んでいるわけではなく、離れた所に立っている。しかし、その飛行を阻んだのは間違いなく彼女だった。
ファントムハンド――幻影の腕を伸ばし、離れたものを掴む術。
「――されど、風は掴めぬ!」
がちりと音がして、ミコトは手応えを失った。掴んでいたのは脚だったのだが、シルフの下半身はトカゲが尻尾を自切するように外れた。
シルフは、拘束を逃れた。
「吠えろ、サラマンダー」
その時、竜の咆哮に似た音が響き、蒼い流星が走った……。
シルフの胸に穴が開いた。
そこから蒼い炎が噴き出、それは全身を覆った。
蒼天之誓約――
それは精霊への誓いと共にマテリアルを収束し、攻撃の威力を増す技法。
蒼流星――
それは収束したマテリアルを弾丸に乗せ、極限まで加速させる技法。
ずっと力を溜めつつ攻撃の機会を伺っていたジュードは、必殺の一射が決まったことを確認すると、銃を下ろした。
後には、全身が黒焦げになり、原形も留めないほどに破損したシルフの姿があった。
「新しき風よ、どこまでも届いていけ……」
その言葉を最後に、シルフは地面に落下し、それっきり動きを止めた。
風が穏やかになった。
発煙手榴弾から登る煙が、乱れずまっすぐに上がるようになっていた。
風のエリア攻撃も、炎のエリア攻撃も、今はもう止んでいる。
「目標、完全に沈黙……!」
沙織の言葉は、一行がシルフに勝利したことを意味していた。
「何だいもう終わりかい? こちとらタマも悪口もまだまだ潤沢だってのにヨ」
フォークスが肩をすくめる。
「あたしたちが、新しき風……
今の気持ち、忘れたくないね」
やはり敵の姿に感ずるところがあったのか、セレスは敵の最後の言葉を思い返していた。
ユグディラ達は勝利の余韻に浸っているのか、集まって前衛的にして芸術的かつゴゴゴでドドドなポーズをしている。ポコも巻き込もうとしているがユキウサギにはユグディラの文化についていけないらしく、唖然とされていた。
「凄い……今の気持ちを言葉にするならオモシロ格好かわいい……いや……むしろ変だよおかしいよ……? というか何でこうなってるの……?」
それを眺めるジュードはにやけながら首をかしげていた。猫は不思議でできている。
「立てる? ヘザー。僕達の、繋がりの力が勝利したんだ」
リアは力強く言って、未だ立ち上がれないでいるヘザーに手を差し伸べる。
「ああ……だが、戦いはまだ終わっていない」
へザーはリアの手を取り、立ち上がってから、中央部に目を向けた。
そこでは今なお、ハンター達が最大にして最後の強敵――ヴィゾフニルと戦っているはずである。
「ともあれ私達は役割は果たした」
「――ね、ね! 私の壁、役に立った?」
そこに、脈絡もなくまよいが割り込んでくる。
「ああ、とても。……皆も、よく私の作戦に乗ってくれた。改めて礼を言う」
「うわあ……真面目になるのらしくないと思いまっす! 押忍ッ!」
真面目に仲間に労いの声をかけるへザーは、リツカにそう言われて目を丸くした。
……実は、『王女殿下ならこう言う方が好みだろうか』とか、『エリオットならこう言うだろうか』とか考えて喋っていたりする。
今回の活躍が王女殿下の耳に入るかも知れない、という考えがヘザーの頭の片隅に常に陣取っていたからだ。
「へザーさんっ! 勝ち鬨をあげましょうっ!」
ちょっと赤くなったへザーを見て空気を呼んだのか、ミコトが言った。
へザーはすぅっと息を吸い込んでから、言った。
「よおし! 私達の勝利だ!
勝ち鬨を上げろーーー!!!」
ハンター達の勝利の雄叫びが響く。
風の試練――攻略完了。
「――さあ!
叫べッ!」
「はい! 妹分として、ヘザーさんの助太刀に参上なのですっ!」
「ミコちゃんとヘザーさんと私が揃えばそこに敵などいなーい! ……はず!」
流れるようにミコト=S=レグルス(ka3953)とリツカ=R=ウラノス(ka3955)がヘザーに応えた。
何度も戦場を共にした仲間同士であるだけあって、こういうやり取りには慣れっこである。
「"人間の全て"……」
続いて、番人が言った言葉を反芻する者あり。
「だったら、この僕が人と人との繋がりの力を見せてあげるよ」
仁川 リア(ka3483)は力強く一歩踏み込むと共に、己の戦意を示す。
「さぁ、五月蠅い風を狩ろう。向かい風を追い風に変えてやるんだ」
あくまでもいつも通り、飄々とした態度で、ジュード・エアハート(ka0410)は言った。
これから強敵を相手に戦いを挑むというのに、その態度には余裕さえうかがえる。
(いいねぇ、あたしも風になってみたいもんだよ。……いや違うか。これは試練だったね)
セレス・フュラー(ka6276)は敵を見ながら、そんな事を考える。
「風になるんじゃない、風を超えるんだ」
あくまでも真剣に、目の前の試練に挑む。
「Come on bitch! Kiss my ass!」
フォークス(ka0570)の口からは品のないスラングが飛び出す。
「よォ、コレでいいのかい」
言いたい事を言ってやった、みたいな顔でヘザーに聞く。
ヘザーは言葉の意味はよくわからなかったが、なんかカッコいいと思ったので頷く。
「君が壊れるまで、攻撃するのを止めないよっ!」
杖の先でシルフのゴーレムをビシッと指し示し夢路 まよい(ka1328)が叫んだ。
余裕があるどころか『なんかカッコイイポーズ決めてるゴーレムがいる』ぐらいの気持ちである。
彼女の場合、愉悦や好奇心以外の感情が表に出ないのは今に始まったことではない。
「機導・沙織です。宜しくお願いしますね」
そして、沙織(ka5977)が礼儀正しく名乗った。
歳若い軍人である彼女は、試練を受けるという状況にあって士官学校時代のテストを思い出していた。
その様子はヘザーのような雄雄しさや猛々しさとは程遠い。しかし、決して戦うことに後ろ向きではなかった。
さらには、かれらに付き従う幻獣達、五体。
ジュードの相棒、ユグディラ、クリム。
まよいの相棒、ユグディラ、トラオム。
ミコトの相棒、ユグディラ、名前はまだない。
リツカの相棒、ユグディラ、雪丸。
沙織の相棒、ユキウサギ、ポコ。
いずれも真剣な面持ちだ。
(さすがはハンター、個性豊か)
ヘザーは内心で感心した。
そして改めて敵を睨む。
シルフと名乗った古のゴーレムは、興味を抱いたのか――その表情は読み取れないが――挑戦者達の言葉ひとつひとつを聞いていた。
そして、中空で両肘を高く上げ、両手は首の付け根で重ね、上体をやや反り気味にしつつ右脚を左脚の前に重ね、碧水晶の目で思い切り一行を見下しつつ、こう言った。
「いかなる結束も、我が風で吹き散らしてくれよう。
耐えられるか、人の子らよ」
言うや否やシルフの姿が一瞬で消え、別の場所に現れた。それは転移ではなく通常の移動だったが、誰一人として目で追うことができなかった。ハチドリのように空中で制止しては、次の瞬間にはまた別な場所にいる。
突如、リアの左腕で空気が爆ぜた。
衝撃と痛みで体勢を崩しかける。見ると、防具に一直線の亀裂が入っていた。
「流石に早ぇな……気休めにしかならねェかもしんねェが」
フォークスは銃を撃つ手を一瞬止め、発煙手榴弾を投げる。
風向きを知る目的だったが、風はあらゆる方向からあらゆる方向に向けて吹き荒れていた。煙も出るそばから散り散りになっていく。
「あの攻撃は厄介だ。私を跳ばせるか?!」
「し、進言します! 今は切り札の使い所を見極めるべきかと」
逸るヘザーに対し、このくらい下手に出ないと聞いてもらえないと思ったのか、沙織は軍人時代に上官に対してしたような口調で言う。
「ならばこのまま迎撃だ」
一行は銃や投具を構え、それぞれシルフを狙った。しかし最初に攻撃したときと同じく、決定打とはならない。
「何か変だ! 光が消えたっ……!」
セレスが声をあげた。彼女の鋭敏視覚が捉えたものは、ジュードが撃った弾丸の光が、シルフの至近距離で突如消えた瞬間だった。
ジュードの銃、サラマンダーは弾丸を放つ際に火属性を付与して赤く光るのだが、それが消えた。
「風属性で火属性が打ち消せるはずが……?」
状況に合わせて選択した銃が効果を発揮しないことに、ジュードは思わず疑問を口にする。
「何らかの加護を受けている可能性があります」
「チッ……なら消極的に相手をするしかネェか」
沙織が挙げた可能性に異を唱えるものはなく、フォークスの意見も同様だった。
その時、ユグディラ達はハンター達の影に隠れていた。臆病と笑うなかれ、これが自然界で弱者であるかれらの戦い方である。
そして一瞬姿を表し、心を一つにして祈る。するとマテリアルが仲間の傷を癒やす。それが終わると、またすぐに隠れた。
回復役を確認したシルフはユグディラを狙うが、そこは非力ながらも回避に優れたユグディラ。うまく隠れ、あるいは逃げ、攻撃をやり過ごす。
そして現れては回復し、また隠れる。この繰り返しでハンター達を補助した。
時にはリュートで曲を奏でることによって、範囲回復でハンター達を助けた。ただ回復量はそこまで強力ではなく、度々何人かが必要に応じてポーションを使った。
また、ユキウサギのポコが雪水晶を使い、守りの力を付与していく。
こうして幻獣達に助けられ、防戦一方ながらも一行は反撃の機会を窺った……。
スキルが続くうちは安定して耐えられる。
だがそれも、スキルが枯渇したり、立っている幻獣達の数が減らないことが前提だということを忘れてはならなかった。
加えてフィールド全体に吹き荒れている炎と風が、一行の体力を奪っていく。
時間が経つにつれ、一行は少しずつ追い詰められていく……。
●試行錯誤
そんな中、敵を観察し続けていたセレス、沙織は変化を目にした。
ミコトの投げた火竜票がシルフの腕をかすり、青い火を吹き出したのだ。その衝撃にシルフ自身も動じたように見えた。
「敵の様子に変化が見られます!」
沙織が的確に状況を報告する。
「今だ、やるぞ!」
ヘザーのかけ声とともに、それまで固まって守りに徹していた一行が動き始める。
「ヘザー。僕の肩を足場に」
リアが敵に向けて前進しながら言った。説明は最小限にせざるを得ない。
「その場のノリでやってみるけど心配いらないわ! 私がこれだって思ったんだもの」
その後に続くまよいが、楽しそうに告げた。
敵はよく動くとはいえ、常に動いていられるわけではない。
ある程度まで近づいて、ヘザーは二人に向けて頷く。
「落とし甲斐のある獲物だ。射撃の腕をご披露しよう!」
「風に弾を乗せんのもスナイパーの仕事だよ。
仲良くやろーぜ、すかしっ屁ヤロウ」
ジュードとフォークスがありったけの弾丸をシルフの周囲に向けてばら撒いた。広範囲への制圧射撃だったが、シルフに弾丸は当たらない。
しかし、目くらましにはなった。
「まずはっ! 土台を! 作るよ~!」
まよいが杖を振るい魔術的動作を行うと、リアの足元から大地の壁がせり上がり始めた。
「バランス崩さないでね!」
「任せろ、得意分野だ」
「よし、いくよ!」
リアの肩にヘザーが足を乗せる。リアは足首を掴んで壁の上に立った。
足場は良いとは言えない。
(焦るんじゃない。落ち着いてやればいい……お前ならできる)
出発前に言ってくれた、メンカルの言葉が蘇った。
見る間に壁の高さは2メートルに達する。リアは、その上から跳んだ。跳躍の最高点に達した時、ヘザーはリアの肩を足場にして跳んだ――二段ジャンプ。
その高さはシルフをも上回った。
「貰ったあああああああああ!!!」
「多少変わった風が吹いたところで――狼狽えるものではない!」
一陣の風が吹いた。
シルフの放った風の刃が無防備なヘザーを襲う。
血を噴き回転しながら、ヘザーは反対方向へと墜ちていく。
「へザー!」
「ん~、やり方は悪くなかったと思うんだけどなぁ」
心配そうに声をあげるリアと、ただ結果に残念がるまよい。いずれも手は出せない。
「ヘザーさん!!」
リツカがすぐさま反応し、ランナウトで追った。落下するへザーを受け止める。
ユグディラ達が、すかさず祈りを捧げてヘザーの傷を癒やす。
「大丈夫?!」
リツカがそう聞くと、すぐさまヘザーは自分の足で立った。
「大丈夫だ。ルカが護ってくれた……」
ヘザーはその場にいない、自分を案じる仲間の声を聞いた。
「ヘザーさんっ! 次はうちが!」
ミコトが、剣を構えてヘザーの前に出た。通常の構えではなく、スコップのように先を斜め下に向けている。
「よし、行くぞミコト!」
ヘザーは傷など何でもないように跳び、ミコトの構えた剣の上に跳び乗る。
「跳ばしますよっ!!!」
ミコトは全力で剣を持ち上げ、同時にヘザーが思い切り跳んだ。覚醒者の腕力+脚力が連携し、へザーの身は高みへと跳び上がる。
しかし、シルフはこれにすぐ気づき、上へと避けた。
へザーは反撃こそ食らわなかったがまた空を切る……
かと思われた、その瞬間。沙織の足がマテリアルを噴き出し、凄まじい勢いで上昇した。
「高さをサポートします!」
その位置はヘザーの真下。沙織は頭上に両手を構える。
それはヘザーの鋼の如き腹筋(胸板かもしれなかった、いずれも鋼の如き)を、さながらバレーボールのごとく、突き上げた。
その高さはシルフをも越える。縦回転しながらもへザーは、懸命に腕を伸ばす。
「うおおおおおおおおおおりゃあああああああああ!!!」
その手が――
シルフの腕を、掴んだ。
●シルフ墜落後の攻防
落下するへザーがシルフを巻き込むという形で、シルフは地面に墜ちた。
シルフは上半身を起こし翅を動かすが、空に逃れることは叶わない。
へザーが手首を掴んでいるからだ。
へザーは片膝をつき、鬼気迫る表情でシルフを睨んでいた。
そこに音もなく忍び寄る影一つ。
セレスだ。
身を低くし、一気に加速してシルフの至近距離に迫る。
さながら毒蛇が牙を突き立てるように、短刀をシルフに突き立てる。
そして速やかに離れ、反撃の機会を与えない。
その刃には実際に毒が仕込まれていた。自然界に存在する有毒物質ならば効果は望めまいが、マテリアルが変質したそれはゴーレムであろうと内部に残り、蝕み続ける。
その一撃が切っ掛けとなった。一行はこの機を逃すまいと、一斉に攻撃する。
「今だ! 私ごと貫けええええ!」
「いや、それはしない……」
叫ぶへザーに拒否しながらリアは踏み込み、剣で突きを見舞う。腕を掴まれたままのシルフは避けることもままならない。
続いてミコトが斬りつけ、リツカが棍による突きを食らわせる。セレスも再び来たりて刃を浴びせる。ポコのモーニングスターが頭を捉え、接近戦組が離れると沙織の拳銃が火を噴く。さらには、フォークスの銃もシルフの体を撃ち抜いた。
「シロの力、借りるよ!」
友の名を呼ぶ。まよいの振るう杖が真っ赤に燃え、火球を発した。それは最初のように途中で消えることなく、命中すると力を示威するように爆炎を発した。
そして、ジュードが狙いをつける。
だが、その銃が火を噴くよりも早く、シルフはヘザーの手を逃れ、突風でへザーを吹き飛ばすと共に反対方向へと飛んだ。
ジュードは無理に発砲することを避けた。ただ、ターゲットだけは狙い続ける。
●史上希に見る華麗な空中戦
再び空へと舞い上がり、シルフは刃向かう人間達を見下ろす。
そして、その高みへと挑もうとする者がある……
「――機導・沙織、吶喊します!」
ヘザーではなかった。
沙織がジェットブーツを出力最大で駆使し、真っ正面からシルフに向かって跳んだ。
シルフは警戒したのか、敢えて撃ち落とすことはせずに回避行動を取る。
それが幸いしたのか、背後から迫るリアの姿に気づいた。
リアは先ほどまよいが作り上げた土の壁を使って立体機動の要領で三角跳びをしたのだった。さらにはアクセルオーバーの残像を残して視認し辛くなっている。
……だが、シルフはこれも回避してみせた。その動きは回避こそが本分とばかりに、自在に空中を移動する。
二度に渡る飛びつき、いずれも失敗……
しかし、これで終わりではなかった。
「後は頼むよ……ヘザー!」
リアは空中でシルフから遠ざかりながら呼びかける。沙織と同じく囮である彼が、本命に向かって。
「任せろぉっ!」
――ヘザーが、土の壁で三角跳びをして、回転しつつシルフへと跳ぶ。
立て続けの、三度目の攻撃……
……だが、遮るもののない空中を自在に動くシルフは、これをも回避してみせる。
ヘザーは脚を下に、着地の体勢に入った。
「はるか過去ならいざ知らず、今のグラズヘイム王国で空中戦と言えばヘザー姐さんの専売特許なんだよ!」
「?!」
ヘザーの下にスライディングで滑り込むものがいる。
リツカだ。
「そして落ちた敵がすぐにまた上がってくるとは予想できまい! 今必殺の・空愛旋風ー!」
リツカは背中を下に脚を上に向け、落ちてくるヘザーの両足に自らの両足を合わせる。
(リツカ、あれだけの長いセリフをよくこの間に……でもスカイラブのラブは愛じゃないぞ!)
ヘザーはやはり一瞬の間にそんな感想を抱きつつ、リツカの蹴り出す力と自分の跳躍する力をうまく合わせ、再び跳んだ。
その位置はシルフの真下。死角になっている部分だ。
今度こそ反応できず、ヘザーは両腕でシルフの腰をしっかりと掴んだ。
「信じられん……! このような戦い方、古の昔からただの一度も経験したことがない……!」
「何を驚く……
同じ風は二度と吹かない。それと同じだ。
シルフよ、お前は再び地に落とされるのだ!」
ヘザーはありったけのマテリアルを体に込め、体を振った。その勢いでシルフごと縦に反転し、シルフの頭が下になる。
忍者の間で飯綱落としと言われる術に似た状態だった。
シルフは脳天から落下し――
地面に叩きつけられた。
●古き風止みにけり
それがシルフにとっての致命傷とはならなかった。すぐさま身を起こそうとする。同じく地面に投げ出されたへザーもそれに気づき、這ってシルフを羽交い締めにする。
それが好機であることに、説明など不要だった。
「Hey dudette.まだ寝てていいんだぜ?」
シルフの頭部に向けてフォークスが遠慮なくぶっ放した。シルフは破片を散らしながら、大きく仰け反る。
それに続き、まよいがファイアアローを撃つ。炸裂した炎が止まないうちに、セレスが接近して短刀で突く。続いてポコが、大きく弧を描いて槌を叩きつける。
好機=シルフの落下を待っていた一行は流れるような鮮やかさで攻撃を仕掛けた。
だが、もとより意志など持たぬゴーレムは降伏することなど思いもよらず、攻撃の機会を伺っていた。
再びシルフはヘザーの拘束から逃れ、横に転がって距離をとった。翅を羽ばたかせばすぐにまた空の上だ。
だが、そうはならなかった。
シルフは地上からわずかに浮き上がっただけの所に、つなぎ止められたようにして制止する。
シルフに向かって、ミコトが手を伸ばしていた。シルフのどこかを掴んでいるわけではなく、離れた所に立っている。しかし、その飛行を阻んだのは間違いなく彼女だった。
ファントムハンド――幻影の腕を伸ばし、離れたものを掴む術。
「――されど、風は掴めぬ!」
がちりと音がして、ミコトは手応えを失った。掴んでいたのは脚だったのだが、シルフの下半身はトカゲが尻尾を自切するように外れた。
シルフは、拘束を逃れた。
「吠えろ、サラマンダー」
その時、竜の咆哮に似た音が響き、蒼い流星が走った……。
シルフの胸に穴が開いた。
そこから蒼い炎が噴き出、それは全身を覆った。
蒼天之誓約――
それは精霊への誓いと共にマテリアルを収束し、攻撃の威力を増す技法。
蒼流星――
それは収束したマテリアルを弾丸に乗せ、極限まで加速させる技法。
ずっと力を溜めつつ攻撃の機会を伺っていたジュードは、必殺の一射が決まったことを確認すると、銃を下ろした。
後には、全身が黒焦げになり、原形も留めないほどに破損したシルフの姿があった。
「新しき風よ、どこまでも届いていけ……」
その言葉を最後に、シルフは地面に落下し、それっきり動きを止めた。
風が穏やかになった。
発煙手榴弾から登る煙が、乱れずまっすぐに上がるようになっていた。
風のエリア攻撃も、炎のエリア攻撃も、今はもう止んでいる。
「目標、完全に沈黙……!」
沙織の言葉は、一行がシルフに勝利したことを意味していた。
「何だいもう終わりかい? こちとらタマも悪口もまだまだ潤沢だってのにヨ」
フォークスが肩をすくめる。
「あたしたちが、新しき風……
今の気持ち、忘れたくないね」
やはり敵の姿に感ずるところがあったのか、セレスは敵の最後の言葉を思い返していた。
ユグディラ達は勝利の余韻に浸っているのか、集まって前衛的にして芸術的かつゴゴゴでドドドなポーズをしている。ポコも巻き込もうとしているがユキウサギにはユグディラの文化についていけないらしく、唖然とされていた。
「凄い……今の気持ちを言葉にするならオモシロ格好かわいい……いや……むしろ変だよおかしいよ……? というか何でこうなってるの……?」
それを眺めるジュードはにやけながら首をかしげていた。猫は不思議でできている。
「立てる? ヘザー。僕達の、繋がりの力が勝利したんだ」
リアは力強く言って、未だ立ち上がれないでいるヘザーに手を差し伸べる。
「ああ……だが、戦いはまだ終わっていない」
へザーはリアの手を取り、立ち上がってから、中央部に目を向けた。
そこでは今なお、ハンター達が最大にして最後の強敵――ヴィゾフニルと戦っているはずである。
「ともあれ私達は役割は果たした」
「――ね、ね! 私の壁、役に立った?」
そこに、脈絡もなくまよいが割り込んでくる。
「ああ、とても。……皆も、よく私の作戦に乗ってくれた。改めて礼を言う」
「うわあ……真面目になるのらしくないと思いまっす! 押忍ッ!」
真面目に仲間に労いの声をかけるへザーは、リツカにそう言われて目を丸くした。
……実は、『王女殿下ならこう言う方が好みだろうか』とか、『エリオットならこう言うだろうか』とか考えて喋っていたりする。
今回の活躍が王女殿下の耳に入るかも知れない、という考えがヘザーの頭の片隅に常に陣取っていたからだ。
「へザーさんっ! 勝ち鬨をあげましょうっ!」
ちょっと赤くなったへザーを見て空気を呼んだのか、ミコトが言った。
へザーはすぅっと息を吸い込んでから、言った。
「よおし! 私達の勝利だ!
勝ち鬨を上げろーーー!!!」
ハンター達の勝利の雄叫びが響く。
風の試練――攻略完了。
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作戦相談卓 夢路 まよい(ka1328) 人間(リアルブルー)|15才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2017/03/03 00:43:10 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/03/01 12:05:51 |
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質問卓 通りすがりのSさん(ka6276) エルフ|18才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2017/03/01 14:12:31 |