ゲスト
(ka0000)
大いなる狩猟
マスター:湖欄黒江

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/10/18 22:00
- 完成日
- 2014/10/21 18:59
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
ウィック伯爵は悩んでいた。
今年で16歳になるたったひとりの息子が突然、ハンターになりたい、などと言い出したからだ。
ウィック家は由緒正しい貴族の名家、
その大事な跡継ぎがハンター稼業に乗り出すなど以ての外な話だった。
単に、ひ弱な身体と根性を鍛え直したい、程度の希望なら叶えてやっただろう――
数年ばかり軍隊に入れて、彼と同じ貴族の子弟が名を連ねるような、
麗々しい名前と安全な配属地を持ったお飾りの部隊などへ配属してもらうくらいなら、まぁ構わない。
しかし、ハンターというのはあまりに危険過ぎる。
第一、息子のジャックは別段武芸に優れている訳でも、魔術の心得がある訳でもなく、
覚醒者でもなければ身体も大して頑丈でないのだ。
これまでは日がな絵を描いたり、詩の朗読会へ参加したり、
音楽や演劇の勉強をしてみたりと、穏やかな趣味ばかりを好んでいた筈。
それがハンター志望などと、どう考えても唐突かつ無理のある話だが、
年老いてからようやく授かった長男ということもあり、父も母も、彼をさんざ甘やかして育ててきた。
お蔭でジャックは、ごねれば大概の望みは叶えてもらえるものだと思っていて全く後に引かない。
●
「父上、私は何としてもハンターになりたいのです!
確かに今の私は軟弱者かも知れません。
ハンターになる為の試験があれば、最初は落ちるかも知れません。
しかし決心は固いのです。これから然るべき訓練を受ければ、必ずや一人前のハンターとなり、
この西方世界の平和に貢献出来るものと信じております!
お願いです父上、私に男を上げる機会を下さいませ!」
「いや、その、何だねジャック、身体を鍛えたいのであればせめてもっとちゃんとした軍隊とかにだね」
「軍ではいけません! 私は、ただひとり確固たる技量を備えた、独立独歩の戦士になりたいのです!
己が力のみで名を上げなければならないのです! それにはハンターが最適と考えたのです!」
「そんなこと言ったってお前、剣もろくに握ったことがないだろうに」
「今から握ります! いや、既に握っています!
決心をしてからは一日じゅ……千本の素振りをしています!
馬や弓の稽古も始めよう……始めています! ご覧下さいこの筋肉!」
「嘘はいけないよジャック、全然変わってないじゃないか相変わらず細い腕だよ。
いやね、確かに我々は、お前が強くなれるような機会を与えてやれなかったかも知れない。
でもそれはお前が大事だからなんだよお前の身に何かあったら母さんは泣くし家は潰れるしで」
「どうしてもお許し頂けないのであれば、どうぞ今この場で私を勘当なさって下さい!
それほどの決心なのです、父上! 本当に私めが可愛いと思って下さるのであれば、どうか!」
●
頭を抱えるウィック伯爵。
一体全体、息子に何があったというのか。
使いをやって、息子の友人たちにこっそり尋ねて回らせたところ、
彼が数年来恋焦がれ、恋文など送っていた女性が――といっても劇場の女優なのだが、
ハンター上がりの屈強な男に口説かれて最近結婚を決めたらしい、と分かった。
それをどうも、自分が坊ちゃん育ちの貧相な、家柄だけの男だったせいでチャンスをふいにした、
などと思い込み、なれば自らハンターとなって恋敵以上の強い男になってやろう、と考えたらしい。
お前が思っているような甘い世界ではないよ、と口先で言うのは簡単だが、
父であるウィック伯爵自身、運動も荒事も大の苦手で、
実際のハンター稼業がどんなものか説明し説得するようなことが出来る人間ではない。
息子の無謀な決心を挫くには、もっと説得力のある材料が必要だ。
散々悩んだ挙句、伯爵はどうにか一計を案じた。
息子には可哀想だが、本物のハンターがどれほど強く、どれほど大変な仕事をしてきたのか、
ご本人たちからひとつ講釈をぶってもらおう。そして彼の心を折ってもらおう。
何せジャックは血を見るのが大嫌いで、動物相手の狩りだってしたことがないような青年だ。
えげつない実体験を迫力たっぷりに語られたら、きっと諦めてくれるだろう。
●
かくして、ハンターオフィスに一件の依頼が舞い込むこととなった。
『ハンター志望の我が息子へ、実際のハンターの生活について説明して下さる方を募集します。
息子は痛そうな話、恐ろしい話が大変苦手です。運動もあまり出来ません。覚醒者でもありません。
ハンターが如何に厳しい仕事であるか、たっぷりと教えてやって下さい。
お話の内容や、実演その他の方法はお任せします。
注意:
とはいえ大事な跡取り息子ですので、どうか怪我をさせることはなきよう、くれぐれもお願い申し上げます』
ウィック伯爵は悩んでいた。
今年で16歳になるたったひとりの息子が突然、ハンターになりたい、などと言い出したからだ。
ウィック家は由緒正しい貴族の名家、
その大事な跡継ぎがハンター稼業に乗り出すなど以ての外な話だった。
単に、ひ弱な身体と根性を鍛え直したい、程度の希望なら叶えてやっただろう――
数年ばかり軍隊に入れて、彼と同じ貴族の子弟が名を連ねるような、
麗々しい名前と安全な配属地を持ったお飾りの部隊などへ配属してもらうくらいなら、まぁ構わない。
しかし、ハンターというのはあまりに危険過ぎる。
第一、息子のジャックは別段武芸に優れている訳でも、魔術の心得がある訳でもなく、
覚醒者でもなければ身体も大して頑丈でないのだ。
これまでは日がな絵を描いたり、詩の朗読会へ参加したり、
音楽や演劇の勉強をしてみたりと、穏やかな趣味ばかりを好んでいた筈。
それがハンター志望などと、どう考えても唐突かつ無理のある話だが、
年老いてからようやく授かった長男ということもあり、父も母も、彼をさんざ甘やかして育ててきた。
お蔭でジャックは、ごねれば大概の望みは叶えてもらえるものだと思っていて全く後に引かない。
●
「父上、私は何としてもハンターになりたいのです!
確かに今の私は軟弱者かも知れません。
ハンターになる為の試験があれば、最初は落ちるかも知れません。
しかし決心は固いのです。これから然るべき訓練を受ければ、必ずや一人前のハンターとなり、
この西方世界の平和に貢献出来るものと信じております!
お願いです父上、私に男を上げる機会を下さいませ!」
「いや、その、何だねジャック、身体を鍛えたいのであればせめてもっとちゃんとした軍隊とかにだね」
「軍ではいけません! 私は、ただひとり確固たる技量を備えた、独立独歩の戦士になりたいのです!
己が力のみで名を上げなければならないのです! それにはハンターが最適と考えたのです!」
「そんなこと言ったってお前、剣もろくに握ったことがないだろうに」
「今から握ります! いや、既に握っています!
決心をしてからは一日じゅ……千本の素振りをしています!
馬や弓の稽古も始めよう……始めています! ご覧下さいこの筋肉!」
「嘘はいけないよジャック、全然変わってないじゃないか相変わらず細い腕だよ。
いやね、確かに我々は、お前が強くなれるような機会を与えてやれなかったかも知れない。
でもそれはお前が大事だからなんだよお前の身に何かあったら母さんは泣くし家は潰れるしで」
「どうしてもお許し頂けないのであれば、どうぞ今この場で私を勘当なさって下さい!
それほどの決心なのです、父上! 本当に私めが可愛いと思って下さるのであれば、どうか!」
●
頭を抱えるウィック伯爵。
一体全体、息子に何があったというのか。
使いをやって、息子の友人たちにこっそり尋ねて回らせたところ、
彼が数年来恋焦がれ、恋文など送っていた女性が――といっても劇場の女優なのだが、
ハンター上がりの屈強な男に口説かれて最近結婚を決めたらしい、と分かった。
それをどうも、自分が坊ちゃん育ちの貧相な、家柄だけの男だったせいでチャンスをふいにした、
などと思い込み、なれば自らハンターとなって恋敵以上の強い男になってやろう、と考えたらしい。
お前が思っているような甘い世界ではないよ、と口先で言うのは簡単だが、
父であるウィック伯爵自身、運動も荒事も大の苦手で、
実際のハンター稼業がどんなものか説明し説得するようなことが出来る人間ではない。
息子の無謀な決心を挫くには、もっと説得力のある材料が必要だ。
散々悩んだ挙句、伯爵はどうにか一計を案じた。
息子には可哀想だが、本物のハンターがどれほど強く、どれほど大変な仕事をしてきたのか、
ご本人たちからひとつ講釈をぶってもらおう。そして彼の心を折ってもらおう。
何せジャックは血を見るのが大嫌いで、動物相手の狩りだってしたことがないような青年だ。
えげつない実体験を迫力たっぷりに語られたら、きっと諦めてくれるだろう。
●
かくして、ハンターオフィスに一件の依頼が舞い込むこととなった。
『ハンター志望の我が息子へ、実際のハンターの生活について説明して下さる方を募集します。
息子は痛そうな話、恐ろしい話が大変苦手です。運動もあまり出来ません。覚醒者でもありません。
ハンターが如何に厳しい仕事であるか、たっぷりと教えてやって下さい。
お話の内容や、実演その他の方法はお任せします。
注意:
とはいえ大事な跡取り息子ですので、どうか怪我をさせることはなきよう、くれぐれもお願い申し上げます』
リプレイ本文
●
某日夜、ウィック伯爵の邸宅に6人のハンターが招かれた。
彼らが通されたのは、豪奢な調度の揃った応接室。
「伯爵、此度はお招きいただき恐悦至極に存じます」
まずはアウレール・V・ブラオラント(ka2531)の慇懃な挨拶を、にこやかに出迎える伯爵とジャックだったが、
「やぁ、初めまして。こんな恰好で悪いが依頼帰りなものでね」
ルトガー・レイヴンルフト(ka1847)が血まみれの衣服で現れると、ふたりがたじろぐ。
伯爵は次いで入ってきたオウカ・レンヴォルト(ka0301)と上泉 澪(ka0518)の佇まい、
そして顔の傷痕に気圧されながらも、
「い、いやぁこのたびは不肖の息子の為にと無理をお願いしてしまい……、
さ、酒でも持ってこさせましょう。えーとえーと」
「初めまして。私、ジャック・A・ウィックと申します。お越し頂きありがとうございます!」
「お構いなく、楽にさせてもらいますよ。っと、血は既に乾いているのでご心配なく」
各々、握手を交わし終えると、座卓を挟んでふたつ置かれた長椅子へ腰を下ろす。
「さてジャック君。お父上によると、君はハンター志願だそうだね。
そこで今夜は我々現役の人間から、実際のハンター稼業がどんなものなのかを訊き出したい、と」
「ええ! 私は未だ若輩者の身。
見聞も狭く、ハンターを志す上で学ばねばならないことが多々あるかと思います。
父の力添えではありますが、こうしてあなたがたハンターの皆さんをお招きできたことは……」
ルトガーと差し向かいになったジャックは緊張の色こそ見られるものの、まだ意気地を挫かれてはいないらしい。
流石にそこまでの臆病者ではなかったか、と多少感心しつつ、
「まぁ堅苦しいことはなしにして、早速本題に入ろうじゃないか。
我々としてもね、折角身体を張ってあれやこれやの死地を潜り抜けてきたのだから、
聞いてもらえるなら自慢話のひとつも是非ぶちたいというのが本音でね」
ルトガーが微笑む――暖炉の火の灯りを受けて、彼の微笑は得体の知れない迫力を漂わせる。
向き合うジャックは唾を飲み込むと、いくらか与しやすそうなロミー・デクスター(ka2917)、
そしてレーヴェ・W・マルバス(ka0276)へちらちらと視線を逸らした。
「そ、それじゃ私から……」
まずはロミーが語り出した。
●
「蟹、ですか」
「はいっ、あのハサミの……でっかい蟹の歪虚に襲われたんです」
ロミーは蟹の歪虚との戦いを滔々と語る。
仲間やその他周囲の助けにより、どうにか窮地を脱したという体験談だった。
ジャックは真剣な顔で耳を傾けた。隣に座る伯爵も興味をそそられた様子だ。
「大変なお仕事だったのですね……しかし見事依頼を果たされ、今こうしてご健在でいらっしゃる、と」
ふたりはロミーの話を素直に楽しんだようだったが、
彼女の可愛らしい外見と語り口のせいで、体験本来の迫力は多少薄まってしまったかも知れない。
「あんなにでっかいハサミで挟まれたら、真っ二つにちょんぎられちゃうと思って……とっても怖かったです」
ジャックが笑顔で頷く。と、ずっと無表情のまま押し黙っていたオウカがふと、
「……そういえば、俺も海で半水棲の雑魔と戦ったことが、ある。あまり、面白い話ではないかも知れないが」
「いえ、そちらも興味があります。是非」
オウカはすぐには答えず、しばし窓のほうを見つめると、
ようやく考えがまとまったかのようにおもむろに話し出す。
「そうだ。あれは海での戦いだったのだが――」
オウカの語り口は至って無愛想で淡々としたものだったが、それだけに独特の生々しさがあった。
「その時引き裂かれた腕の状態を確認してみると、思ったより深かった、な。
バックリと開いた傷口は、隙間から僅かに骨が見えた。
血もなかなか止まらず、動くたびに傷口をトゲのついた棒でグリグリとえぐられ続ける様な――」
袖をまくった腕を見下ろしつつ、オウカは語る。
伯爵とジャックは、聞きながら思わず自分の腕を触ってしまう。話の途中でとうとう、
「わ、忘れていた用事がありました。お話の途中大変申し訳ありませんが、少し席を外させて頂きます。
ジャックや、お話の続きをちゃんとうかがっておくのだよ。それでは!」
そそくさと逃げ出す伯爵を見送ると、オウカはジャックに向けて話を続けた。
ジャックは段々顔色が悪くなっていくようで、時々、話題に併せて自分の手や足をそっと確かめるように撫でる。
「た、大変結構なお話でした。ハンターとは過酷なものなのですね。
私にも、いつか歪虚を打ち倒し名を上げることができたものか……」
その言葉を受けて、突然アウレールが笑い声を上げる。
憮然とした、というよりは戸惑うような表情で彼を見つめるジャック。その顔は、少し血の気が引いてきている。
アウレールはそのことを確かめると、尊大な身振りで椅子にもたれかかり、
「卿はまだ肝心なことを分かっておられない様子だ。戦う、打ち倒す……勇ましいお言葉だが、
歪虚の真の恐ろしさを前にして、本気で己が武勇を誇れる者などおりますまい。
身震いするほど悍ましく、優雅に血の海で舞う人外のモノ。
バカげた膂力と頑丈さを備え、斧槍を振り回す鋼鉄の巨人。
力ある者なればこそ、己が力のみでそのような相手と対峙せねばならない。
軍のように命令を与え、取るべき手段を教えてくれる上官もいない。
卿に、それだけの覚悟と技量はおありか」
無言で頷くジャックだったが、実のところ彼が気圧されていることは傍目にもありありと分かった。
頃合いと見て、レーヴェが立ち上がる。
「ならば試してみようではないか。
ああまで言われたら、お主も鍛錬の証拠を見せてやりたいのが男意気というものじゃろう?」
にやつきながら、ジャックへと近づくレーヴェ。
ジャックは何をさせられるのかと不安な面持ちだったが、やがて決心がついて、
「ここで退いては男が廃る! どんなことでも、やってみせましょう!」
「よろしい。ではお主、まずはこれを着てみぃ」
「へ?」
●
レーヴェが渡したものは、自身の装備ひと揃い。
暖炉の前で、ジャックがそれをいそいそと着込んでみせた。
「武器もあるぞ。背中に木刀と……ライフルは肩から提げなさい。ほれ、どうじゃ?」
鎧の他、武器をも身につけさせられたジャックは背中を丸めてじっと立っている。
「では、ちょっとばかり歩いてみなさい」
「は、はい!」
ジャックは慎重に、部屋の中を歩き回ってみせた。
ほうほう、と呟きながら後をついて回るレーヴェだったが、
「ぎこちないのぅ、も少ししゃきっとできんか。早足!」
「はい!」
言われるがまま歩みを早めるジャックだったが、
長椅子の脚に蹴つまづいて、柔らかい絨毯の上へうつ伏せに転んでしまう。
「おっとっと、大丈夫かの?」
「だ、大丈夫であります!」
「じゃ起きなさい」
彼はすぐにも起き上がろうとするが、装備の重さに苦戦して、なかなか思うように動けない。
ようやくのそのそと立ったジャックへ、
「……鈍いのぅ」
「こちらも持ってみては如何ですか」
そう言って澪が差し出したのは、長大な刀身を誇る斬馬刀だ。
鞘に収めたまま、手伝って柄を握らせてやるが、ジャックはどうしても切っ先を床から浮かすことができない。
柄を握る腕がぶるぶると震え出し、ジャックはとうとう音を上げる。澪はかぶりを振りながら、
「一口にハンターと言っても仕事は様々ですが……、
武勲を立てたいのであれば、失礼ながら全くの鍛錬不足と言わざるを得ません」
返された刀を軽々と担ぎ上げ、澪は席へと戻っていく。
レーヴェもジャックに脱がせた装備を着直すと、
「ここにいる皆、これくらいの装備なら楽々動けるもんじゃよ? でないと戦えないからのぅ」
一同、表情は色々だが、皆一様に首を縦に振った。
ジャックは顔を真っ赤にして、激しく息を吐きつつよろよろと椅子へ戻っていく。
「貧弱、なのは、自覚……あります。しかし、今後の修練で……」
「どうして、そうまでしてハンターになりたいん、だ?」
オウカが呟くと、ジャックは息を整えつつ答える。
「男として、その、強さに憧れが……男としての強さが……」
つっかえつっかえ答えるジャックだったが、オウカに無表情で見つめられると押し黙ってしまった。
成り行きを見守っていたルトガーが、ふと身を乗り出す。
「まぁまぁ、そう責めるような顔をするなよ。
ハンターになるきっかけは人それぞれ、どんな理由でも恥じることはないさ。
俺だって好奇心で飛び込んだクチだ。覚醒者であったことはもっけの幸いだったがね。
どうかな? 君は本当のところ、どうしてハンターに憧れているのかな。
アドバイスするにもまずはそこを参考にしたいものだね」
「ひょっとして、女かのぅ」
レーヴェの呟きに、ジャックがはっとした。
●
「……恥を忍んで言います! 私には、想い焦がれていた女性がいたのです。
見よう見まねで恋文をしたため、花やハンカチなど思いつく限りの贈り物も添えたものです。
しかし彼女は私にはなびかなかった。結婚相手に選んだのは、元ハンターの屈強な男……。
全く見当違いをしていました。
あの人が求めていたものは花や恋文なぞではなく、男らしい強さだったのです……!」
絞り出すように本音を語り終えると、ジャックは座ったまま前のめりに屈む。
落とした肩と、脚の上で握り合わせた拳が震えていた。
「死にますよ」
自身の火傷にそっと手を当てて、澪が言う。
彼女の言葉に顔を上げたジャックとじっと見つめ合い、続けた。
「甘い考えのまま踏み込むと、死にます。
私のこの姿を見れば、伊達や酔狂でそう言っているのではないと、お分かり頂けるでしょうが。
死や苦痛を恐れるのは正常な感性です。敢えてそれを無視する程の動機がなければ……」
ジャックは目を澪から逸らし、再び力なく俯いた。
「まぁまぁまぁ。ちょっと厳しいことを言う奴もいるが、俺は恋だってそう悪いものじゃないと思う。
恋をして、その中で自分を変えたい、高めたいと考えるのは素晴らしいことだよ。
例えそれが一時の熱情であったとしても、叶わぬ恋だったとしても……。
だが、どうしたって得手不得手というのはあるしなぁ」
ジャックが鼻をすすり上げる。
失恋の痛手、そして己の考えの甘さに思いが至り、それを恥じているのか、
ハンターたちが投げかける言葉へ肯定も反論もできず固まってしまっているようだ。
ルトガーは脚を組み直しながら、少し間を置いて、
「人の心は買えないからな。君はもっと世の中や、色んな人間を知ることから始めたらいいんじゃないかな」
●
「あ……争いごとが苦手だったり、っていうのは、別に悪いことじゃないと思います!」
ずっと長椅子の端で小さくなっていたロミーが、不意に声を上げる。
「争いごとがダメでも、ジャックさんにはジャックさんなりの才能があると思うんです。
私なんて本当に怠け者で、何をやっても長続きしなくて、
覚醒者だからハンターにはなれたけど、その……その程度の人間なんです。
そんな私にできないことでも、ジャックさんならできることって、沢山あるんじゃないでしょうかっ」
ロミーの言葉に重ねるように、澪も抱いていた刀を脇に置き、
「……戦う者だけで、世の中は回っている訳ではないのですし。
ものを作る者、生活を支える者、そして戦う者。
立場は違えど、それぞれにしかできない仕事というものはあります。
恋敵がハンターだったからといって、ハンターになることに捉われてはもったいない。
他に、何かいいことはなさそうですか?」
「お主は折角貴族の生まれなんじゃから、それだって覚醒者と同じで、生れつきの幸運というもの」
うなだれたままのジャックへ、レーヴェが語りかける。
装備を身につけさせたときの意地悪さは消え、優しい口調だった。
「お主はお主の生まれを、家を大事にすることじゃよ。
私らハンターにとっても貴族の支援は心強い後ろ盾なんじゃよ?」
オウカもまた、静かに声をかける。
「腕力や武力だけが『強さ』では、ない。
知恵や知識を用いて、領民を、その暮らしを守ることもまた、『強さ』だ……、
お前には、それを育む機会がある。好機を生かすも殺すも、お前次第だ」
「こんなに大きくて素敵なお家、飛び出しちゃったらもったいないですよっ」
ロミーがそう言った後から、アウレールが一言、
「それでもなお、卿に剣を持つ覚悟があるというのなら私は反対しないが」
ジャックは俯いたままかぶりを振る。どうやら彼の決心は挫けたようだ。
誰も喋ることがなくなり、応接室に少しばかり気まずい空気が漂うが、
それを破るかのようにルトガーが席を立つ。椅子の後ろを回って、鷹揚な身振りでジャックの肩を叩いた。
「親父の説教めいた結論になるが、まずは無理をせず、身近なところで色々勉強することだよ。
何、女絡みじゃ俺も色々あったがな。青年、大事なのは焦らんことだ」
●
こうしてジャックとの面会は終わった。
落胆する息子の姿を少し心配げに見やりながらも、伯爵は6人に丁寧に礼を言って送り出した。
ジャックはこれから、どうなるのだろうか?
あの様子ではもう、軽々しく『ハンターになりたい』などとは言い出さないだろうが……。
「ちょっと、可哀想でしたね」
帰り道、ロミーが屋敷を振り返ってぽつりと言う。
斬馬刀を抱いた澪は、銀髪を冷たい夜風になびかせながら、
「話をされた程度で折れるのなら、このまま潔く諦めたほうが本人の為でしょう。
あなたも言ったように、彼には恵まれた家も家族もあるのですから」
「いっそ、彼もボクと同じに武門の出だったらよかっただろうか」
暖かい家を離れて、冷えてきた。アウレールは襟元にマントをかき寄せる。
「それでも他に何かしら、思いどおりに行かないことにぶつかったかな。
母上の意によって、ボクが望みの軍人でなくハンターをさせられているように。
けど、最初に望んでいたものは未だ得られなくとも、
どこかで自分に必要なものが手に入る……そう信じたいな」
「どうしても家が嫌なら、誰にも構わず飛び出しちまえばいいのさ。
そうしなかった辺り、やっぱり彼は悩んでたんだろう」
ルトガーが、血糊で固めた髪を撫でつけながら言った。レーヴェも頷いて、
「うむ。人間とは本来自由なもの。
本当に望んでいることなら、どんな道にせよいずれそちらへ向かうものと私なんぞは思うがね」
一方、オウカは自分の腕を見つめながら、雑魔との戦いを改めて思い出していた。
何となくで話をしてしまったが、思い返せばあの怪我は実際痛かったな、と。
「……ハンターになっても、苦労ばかり、だけど」
某日夜、ウィック伯爵の邸宅に6人のハンターが招かれた。
彼らが通されたのは、豪奢な調度の揃った応接室。
「伯爵、此度はお招きいただき恐悦至極に存じます」
まずはアウレール・V・ブラオラント(ka2531)の慇懃な挨拶を、にこやかに出迎える伯爵とジャックだったが、
「やぁ、初めまして。こんな恰好で悪いが依頼帰りなものでね」
ルトガー・レイヴンルフト(ka1847)が血まみれの衣服で現れると、ふたりがたじろぐ。
伯爵は次いで入ってきたオウカ・レンヴォルト(ka0301)と上泉 澪(ka0518)の佇まい、
そして顔の傷痕に気圧されながらも、
「い、いやぁこのたびは不肖の息子の為にと無理をお願いしてしまい……、
さ、酒でも持ってこさせましょう。えーとえーと」
「初めまして。私、ジャック・A・ウィックと申します。お越し頂きありがとうございます!」
「お構いなく、楽にさせてもらいますよ。っと、血は既に乾いているのでご心配なく」
各々、握手を交わし終えると、座卓を挟んでふたつ置かれた長椅子へ腰を下ろす。
「さてジャック君。お父上によると、君はハンター志願だそうだね。
そこで今夜は我々現役の人間から、実際のハンター稼業がどんなものなのかを訊き出したい、と」
「ええ! 私は未だ若輩者の身。
見聞も狭く、ハンターを志す上で学ばねばならないことが多々あるかと思います。
父の力添えではありますが、こうしてあなたがたハンターの皆さんをお招きできたことは……」
ルトガーと差し向かいになったジャックは緊張の色こそ見られるものの、まだ意気地を挫かれてはいないらしい。
流石にそこまでの臆病者ではなかったか、と多少感心しつつ、
「まぁ堅苦しいことはなしにして、早速本題に入ろうじゃないか。
我々としてもね、折角身体を張ってあれやこれやの死地を潜り抜けてきたのだから、
聞いてもらえるなら自慢話のひとつも是非ぶちたいというのが本音でね」
ルトガーが微笑む――暖炉の火の灯りを受けて、彼の微笑は得体の知れない迫力を漂わせる。
向き合うジャックは唾を飲み込むと、いくらか与しやすそうなロミー・デクスター(ka2917)、
そしてレーヴェ・W・マルバス(ka0276)へちらちらと視線を逸らした。
「そ、それじゃ私から……」
まずはロミーが語り出した。
●
「蟹、ですか」
「はいっ、あのハサミの……でっかい蟹の歪虚に襲われたんです」
ロミーは蟹の歪虚との戦いを滔々と語る。
仲間やその他周囲の助けにより、どうにか窮地を脱したという体験談だった。
ジャックは真剣な顔で耳を傾けた。隣に座る伯爵も興味をそそられた様子だ。
「大変なお仕事だったのですね……しかし見事依頼を果たされ、今こうしてご健在でいらっしゃる、と」
ふたりはロミーの話を素直に楽しんだようだったが、
彼女の可愛らしい外見と語り口のせいで、体験本来の迫力は多少薄まってしまったかも知れない。
「あんなにでっかいハサミで挟まれたら、真っ二つにちょんぎられちゃうと思って……とっても怖かったです」
ジャックが笑顔で頷く。と、ずっと無表情のまま押し黙っていたオウカがふと、
「……そういえば、俺も海で半水棲の雑魔と戦ったことが、ある。あまり、面白い話ではないかも知れないが」
「いえ、そちらも興味があります。是非」
オウカはすぐには答えず、しばし窓のほうを見つめると、
ようやく考えがまとまったかのようにおもむろに話し出す。
「そうだ。あれは海での戦いだったのだが――」
オウカの語り口は至って無愛想で淡々としたものだったが、それだけに独特の生々しさがあった。
「その時引き裂かれた腕の状態を確認してみると、思ったより深かった、な。
バックリと開いた傷口は、隙間から僅かに骨が見えた。
血もなかなか止まらず、動くたびに傷口をトゲのついた棒でグリグリとえぐられ続ける様な――」
袖をまくった腕を見下ろしつつ、オウカは語る。
伯爵とジャックは、聞きながら思わず自分の腕を触ってしまう。話の途中でとうとう、
「わ、忘れていた用事がありました。お話の途中大変申し訳ありませんが、少し席を外させて頂きます。
ジャックや、お話の続きをちゃんとうかがっておくのだよ。それでは!」
そそくさと逃げ出す伯爵を見送ると、オウカはジャックに向けて話を続けた。
ジャックは段々顔色が悪くなっていくようで、時々、話題に併せて自分の手や足をそっと確かめるように撫でる。
「た、大変結構なお話でした。ハンターとは過酷なものなのですね。
私にも、いつか歪虚を打ち倒し名を上げることができたものか……」
その言葉を受けて、突然アウレールが笑い声を上げる。
憮然とした、というよりは戸惑うような表情で彼を見つめるジャック。その顔は、少し血の気が引いてきている。
アウレールはそのことを確かめると、尊大な身振りで椅子にもたれかかり、
「卿はまだ肝心なことを分かっておられない様子だ。戦う、打ち倒す……勇ましいお言葉だが、
歪虚の真の恐ろしさを前にして、本気で己が武勇を誇れる者などおりますまい。
身震いするほど悍ましく、優雅に血の海で舞う人外のモノ。
バカげた膂力と頑丈さを備え、斧槍を振り回す鋼鉄の巨人。
力ある者なればこそ、己が力のみでそのような相手と対峙せねばならない。
軍のように命令を与え、取るべき手段を教えてくれる上官もいない。
卿に、それだけの覚悟と技量はおありか」
無言で頷くジャックだったが、実のところ彼が気圧されていることは傍目にもありありと分かった。
頃合いと見て、レーヴェが立ち上がる。
「ならば試してみようではないか。
ああまで言われたら、お主も鍛錬の証拠を見せてやりたいのが男意気というものじゃろう?」
にやつきながら、ジャックへと近づくレーヴェ。
ジャックは何をさせられるのかと不安な面持ちだったが、やがて決心がついて、
「ここで退いては男が廃る! どんなことでも、やってみせましょう!」
「よろしい。ではお主、まずはこれを着てみぃ」
「へ?」
●
レーヴェが渡したものは、自身の装備ひと揃い。
暖炉の前で、ジャックがそれをいそいそと着込んでみせた。
「武器もあるぞ。背中に木刀と……ライフルは肩から提げなさい。ほれ、どうじゃ?」
鎧の他、武器をも身につけさせられたジャックは背中を丸めてじっと立っている。
「では、ちょっとばかり歩いてみなさい」
「は、はい!」
ジャックは慎重に、部屋の中を歩き回ってみせた。
ほうほう、と呟きながら後をついて回るレーヴェだったが、
「ぎこちないのぅ、も少ししゃきっとできんか。早足!」
「はい!」
言われるがまま歩みを早めるジャックだったが、
長椅子の脚に蹴つまづいて、柔らかい絨毯の上へうつ伏せに転んでしまう。
「おっとっと、大丈夫かの?」
「だ、大丈夫であります!」
「じゃ起きなさい」
彼はすぐにも起き上がろうとするが、装備の重さに苦戦して、なかなか思うように動けない。
ようやくのそのそと立ったジャックへ、
「……鈍いのぅ」
「こちらも持ってみては如何ですか」
そう言って澪が差し出したのは、長大な刀身を誇る斬馬刀だ。
鞘に収めたまま、手伝って柄を握らせてやるが、ジャックはどうしても切っ先を床から浮かすことができない。
柄を握る腕がぶるぶると震え出し、ジャックはとうとう音を上げる。澪はかぶりを振りながら、
「一口にハンターと言っても仕事は様々ですが……、
武勲を立てたいのであれば、失礼ながら全くの鍛錬不足と言わざるを得ません」
返された刀を軽々と担ぎ上げ、澪は席へと戻っていく。
レーヴェもジャックに脱がせた装備を着直すと、
「ここにいる皆、これくらいの装備なら楽々動けるもんじゃよ? でないと戦えないからのぅ」
一同、表情は色々だが、皆一様に首を縦に振った。
ジャックは顔を真っ赤にして、激しく息を吐きつつよろよろと椅子へ戻っていく。
「貧弱、なのは、自覚……あります。しかし、今後の修練で……」
「どうして、そうまでしてハンターになりたいん、だ?」
オウカが呟くと、ジャックは息を整えつつ答える。
「男として、その、強さに憧れが……男としての強さが……」
つっかえつっかえ答えるジャックだったが、オウカに無表情で見つめられると押し黙ってしまった。
成り行きを見守っていたルトガーが、ふと身を乗り出す。
「まぁまぁ、そう責めるような顔をするなよ。
ハンターになるきっかけは人それぞれ、どんな理由でも恥じることはないさ。
俺だって好奇心で飛び込んだクチだ。覚醒者であったことはもっけの幸いだったがね。
どうかな? 君は本当のところ、どうしてハンターに憧れているのかな。
アドバイスするにもまずはそこを参考にしたいものだね」
「ひょっとして、女かのぅ」
レーヴェの呟きに、ジャックがはっとした。
●
「……恥を忍んで言います! 私には、想い焦がれていた女性がいたのです。
見よう見まねで恋文をしたため、花やハンカチなど思いつく限りの贈り物も添えたものです。
しかし彼女は私にはなびかなかった。結婚相手に選んだのは、元ハンターの屈強な男……。
全く見当違いをしていました。
あの人が求めていたものは花や恋文なぞではなく、男らしい強さだったのです……!」
絞り出すように本音を語り終えると、ジャックは座ったまま前のめりに屈む。
落とした肩と、脚の上で握り合わせた拳が震えていた。
「死にますよ」
自身の火傷にそっと手を当てて、澪が言う。
彼女の言葉に顔を上げたジャックとじっと見つめ合い、続けた。
「甘い考えのまま踏み込むと、死にます。
私のこの姿を見れば、伊達や酔狂でそう言っているのではないと、お分かり頂けるでしょうが。
死や苦痛を恐れるのは正常な感性です。敢えてそれを無視する程の動機がなければ……」
ジャックは目を澪から逸らし、再び力なく俯いた。
「まぁまぁまぁ。ちょっと厳しいことを言う奴もいるが、俺は恋だってそう悪いものじゃないと思う。
恋をして、その中で自分を変えたい、高めたいと考えるのは素晴らしいことだよ。
例えそれが一時の熱情であったとしても、叶わぬ恋だったとしても……。
だが、どうしたって得手不得手というのはあるしなぁ」
ジャックが鼻をすすり上げる。
失恋の痛手、そして己の考えの甘さに思いが至り、それを恥じているのか、
ハンターたちが投げかける言葉へ肯定も反論もできず固まってしまっているようだ。
ルトガーは脚を組み直しながら、少し間を置いて、
「人の心は買えないからな。君はもっと世の中や、色んな人間を知ることから始めたらいいんじゃないかな」
●
「あ……争いごとが苦手だったり、っていうのは、別に悪いことじゃないと思います!」
ずっと長椅子の端で小さくなっていたロミーが、不意に声を上げる。
「争いごとがダメでも、ジャックさんにはジャックさんなりの才能があると思うんです。
私なんて本当に怠け者で、何をやっても長続きしなくて、
覚醒者だからハンターにはなれたけど、その……その程度の人間なんです。
そんな私にできないことでも、ジャックさんならできることって、沢山あるんじゃないでしょうかっ」
ロミーの言葉に重ねるように、澪も抱いていた刀を脇に置き、
「……戦う者だけで、世の中は回っている訳ではないのですし。
ものを作る者、生活を支える者、そして戦う者。
立場は違えど、それぞれにしかできない仕事というものはあります。
恋敵がハンターだったからといって、ハンターになることに捉われてはもったいない。
他に、何かいいことはなさそうですか?」
「お主は折角貴族の生まれなんじゃから、それだって覚醒者と同じで、生れつきの幸運というもの」
うなだれたままのジャックへ、レーヴェが語りかける。
装備を身につけさせたときの意地悪さは消え、優しい口調だった。
「お主はお主の生まれを、家を大事にすることじゃよ。
私らハンターにとっても貴族の支援は心強い後ろ盾なんじゃよ?」
オウカもまた、静かに声をかける。
「腕力や武力だけが『強さ』では、ない。
知恵や知識を用いて、領民を、その暮らしを守ることもまた、『強さ』だ……、
お前には、それを育む機会がある。好機を生かすも殺すも、お前次第だ」
「こんなに大きくて素敵なお家、飛び出しちゃったらもったいないですよっ」
ロミーがそう言った後から、アウレールが一言、
「それでもなお、卿に剣を持つ覚悟があるというのなら私は反対しないが」
ジャックは俯いたままかぶりを振る。どうやら彼の決心は挫けたようだ。
誰も喋ることがなくなり、応接室に少しばかり気まずい空気が漂うが、
それを破るかのようにルトガーが席を立つ。椅子の後ろを回って、鷹揚な身振りでジャックの肩を叩いた。
「親父の説教めいた結論になるが、まずは無理をせず、身近なところで色々勉強することだよ。
何、女絡みじゃ俺も色々あったがな。青年、大事なのは焦らんことだ」
●
こうしてジャックとの面会は終わった。
落胆する息子の姿を少し心配げに見やりながらも、伯爵は6人に丁寧に礼を言って送り出した。
ジャックはこれから、どうなるのだろうか?
あの様子ではもう、軽々しく『ハンターになりたい』などとは言い出さないだろうが……。
「ちょっと、可哀想でしたね」
帰り道、ロミーが屋敷を振り返ってぽつりと言う。
斬馬刀を抱いた澪は、銀髪を冷たい夜風になびかせながら、
「話をされた程度で折れるのなら、このまま潔く諦めたほうが本人の為でしょう。
あなたも言ったように、彼には恵まれた家も家族もあるのですから」
「いっそ、彼もボクと同じに武門の出だったらよかっただろうか」
暖かい家を離れて、冷えてきた。アウレールは襟元にマントをかき寄せる。
「それでも他に何かしら、思いどおりに行かないことにぶつかったかな。
母上の意によって、ボクが望みの軍人でなくハンターをさせられているように。
けど、最初に望んでいたものは未だ得られなくとも、
どこかで自分に必要なものが手に入る……そう信じたいな」
「どうしても家が嫌なら、誰にも構わず飛び出しちまえばいいのさ。
そうしなかった辺り、やっぱり彼は悩んでたんだろう」
ルトガーが、血糊で固めた髪を撫でつけながら言った。レーヴェも頷いて、
「うむ。人間とは本来自由なもの。
本当に望んでいることなら、どんな道にせよいずれそちらへ向かうものと私なんぞは思うがね」
一方、オウカは自分の腕を見つめながら、雑魔との戦いを改めて思い出していた。
何となくで話をしてしまったが、思い返せばあの怪我は実際痛かったな、と。
「……ハンターになっても、苦労ばかり、だけど」
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相談卓 オウカ・レンヴォルト(ka0301) 人間(リアルブルー)|26才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2014/10/18 18:41:38 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/10/18 16:52:34 |