ゲスト
(ka0000)
【血盟】アヴィドの夢
マスター:瑞木雫

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/03/14 22:00
- 完成日
- 2018/02/16 02:01
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
××月××日 ×××にて・・・
建物も、木々も、人も、全て、激しい炎に飲み込まれていく……。
救済の希望は最早無く、絶望する人々の悲鳴で溢れかえり、一面の火の海となった地獄絵図のような喧噪の中。返り血を浴びて赤く染まった蒼竜が、咆哮をあげた。
その姿を俯瞰していた傲慢<アイテルカイト>――スフィーダ(kz0183)は、微笑みを浮かべて称賛する。
「ディストルツィオーネ。やはり滅びをもたらすお前こそ、“真のドラゴン”に相応しい……」
恐ろしい剣幕だった竜は振り返り、スフィーダを見上げた。
すると安堵の胸をなでおろしたように眸の奥が和らぐ。
――“我が主”であり“心の理解者”。
彼だけが理解してくれた。
目的を為そうとする自分を、ありのままに肯定してくれた。
嘗ての親友のように。
「我が愛しき強欲の腹心……。求めよ、心の安寧を。そして復讐するのだ。この世界はお前を苦しめるもので溢れすぎている」
強欲竜は彼の言葉に背中を押され、破滅の炎を噴いた。
龍が憎い。
人は愚かだ。
記憶を消したい。
……かつての自分が大嫌いだから。
怒りと悲しみに任せ、竜は荒れ狂い、乾いた心を満たす為に、命を強欲に求めた。
もはやこの竜が何百年も前・・・。
人を愛し、人と龍の融和の為に力を尽くしたのだとは、誰も信じないだろう。
しかし“神”は知っていた。
彼が人への愛を貫いて守り続けた日のことも。
龍が歪虚へと転じた日のことも。
そして幸せに包まれた、温かな想い出の日のことも。
●神の見た夢 “強欲な龍の想い出”
“あなた”は気が付くと空を飛ぶ龍の背に乗っていた。
そしてその龍に話しかけられているところで、全ての感覚が冴える。
『――を――に招待し――っつったら、青龍様も歓迎するって言ってくれたんだぜ?
だからさ、人と龍の関係も色々難しい時期だけど、全然気にするなよな!』
龍はわくわくしているようで、ご機嫌な様子だった。
すると共に龍の背に乗っていたジャンルカ・アルベローニ(kz0164)は、聞き取れた部分から内容を察して龍に訊ねる。
「……俺達は今、“龍園”ヴリトラルカに向かっているのか?」
『ん? さっきそう言ったろ? なんだよ緊張してもう忘れちまったのか? 大丈夫だって。あの人面の強欲竜に比べたら、ヴリトラルカの龍なんて可愛いもんだぜ』
「人面の竜――お前、……覚えてんのか? あの夢……いや、俺のことを」
『?? 当たり前だろ? 昨日の事のように覚えてる。皆はオレをバカバカ言うけど、記憶力だけは自信あるぜ。あの日お前らが“キィリ”を救ってくれた事は、一生忘れねぇ』
「……」
ジャンルカは、「そうか」と呟いた。
“神の夢を見ている”自分達は、夢の中で何をしようと過去を変える事は出来ないのだと聞いている。
だが“この夢”は“あの夢”が上書きされた状態で再現されているようだ。
(……よく分からねぇ事に驚くのは、今更すぎるな)
ゆえにこれは、前に見た夢の続きである事をすんなりと受け入れて、隣に居た少女――“キィリ”に話しかける。
「よう、キィリ。元気だったか?」
少女は人面の竜と対峙した際に出会い、仲間と共に助けた女の子だった。
あの時と比べて少し背が伸びているような気がする。
「うん、元気だったよ。あの日は助けてくれてありがとう」
「いいって。それより、本当に良かったよ」
ジャンルカは少女の穏やかな微笑みを眺めながら、双眸を細めた。
あの日、キィリは龍に怯えていた。
けれどそれはもう大丈夫なようだ。
龍の背に乗って共に龍園に向かうぐらいなのだから、もしかしたらあれから、龍との距離を縮めたのかもしれない。
「でもどうして一人で水晶の森に居たんだ?」
「それは…。“お父さん”を追いかけてて…お父さんの勇姿…見たいなって…思ったから」
キィリはその眸で見た実際に見た光景を思い出す――
「お父さん……?」
ジャンルカに、キィリが頷く。
「私のお父さんね。……“龍狩りの勇者”なの」
「……!」
“龍狩り”・・・
かつて龍を襲った者達であると、ジャンルカは知っていた。
『龍狩りかぁ……。昔は竜狩りっていうオレ達龍と共に戦ったヤツらもいたんだぜ? いつの間にかそいつらは居なくなっちまって、今じゃあ竜狩りが使ってた武器も龍狩りが使ってるんだってな。シ・ヴリスとか。ま、オレが生まれる前の話だから、詳しくはねぇんだけどさ。お、ついたぜ!』
巨大な白亜の結晶神殿を中心とする宗教都市“龍園”ヴリトラルカ。
過去ではなく現代で見たその景観と変わらない眺めが、そこにあった。
しかし龍園の龍達は、“あなた”達の到来に警戒の反応を示す。
ジャンルカはふと、幼い飛龍と目が合った。
――傷だらけだった。人の仕業なのだろうか。
怖がって怯える様に悲鳴を上げて後退するのを見て、胸が痛む。
すると目の前に、赤い躰の龍が待ち構えていた。
そしてその龍は優しい眼差しで、“あなた”を歓迎する。
『ようこそ。“龍園”ヴリトラルカへ。あなた方の来訪を、心から歓迎する』
『おー! 皆、紹介するぜ。コイツ、オレの親友!』
龍に紹介された赤い躰の龍は、一礼した。
すると彼らの背後からシャン……シャン……キィィ……ン――という音が響く。
何やらリザードマンが水晶のようなものを叩いているようだった。
『あなた方人間は“宴”というものを好むと聞いたので』
赤い躰の龍は澄んだ眸をしながら答えた。
(演奏のつもりだったんだな……)
ジャンルカは内心呟いた。
「そうだ。宴の前に青龍に挨拶しておきたいんだが、謁見できるだろうか?」
『ん? 青龍様に会いてぇって事か? 良いぜ、こっちだ』
龍は快諾すると、神殿へと案内した。
青龍は“あなた”達を見つめると、寛大に迎えた。
『よくぞ来てくれた』
しかし一方で――傍に付いていた真面目そうな龍は、“あなた”達を睨んでいた。
警戒心が剥き出しだった。
『人の子よ……。少しでも妙な真似をすれば即刻、この龍園から出ていってもらうぞ。ずっと見張っているからな……私の目は誤魔化されたりなどしない』
しかし青龍は彼女に釘を刺す。
『彼らは客人だ。そう藪から棒に無礼なことを言うでない』
そして“あなた”達を見つめた。
『……すまない。気を悪くさせてしまったな。このところ、人によって傷付けられる龍も多くてな……。彼女は同朋の傷に胸を痛ませているのだろう。出来れば、無礼を許してやってほしい』
青龍は今も昔も、厳格であると共に懐深く、優しい。
『ゆっくりしていってくれ。そして仲良くしてほしい。特にそこに居る彼は、人が大好きなのだ』
その彼――龍は『話は終わったか?』と聞くと、早く宴を始めたそうに“あなた”を急かした。
『そうそう。人って自分に名前を付けるんだろ? オレも自分の名前考えてみたんだ』
そして己を、“アヴィド”と名乗った。
リプレイ本文
夢でも、会いたい。
たとえ、一瞬でも……。
●
龍園ヴリトラルカ。
龍を狩り、人々から称賛されている【勇者】という存在がいる時代。
リザードマンたちが鳴らす水晶の音が、響き渡る。
宴が始まり、オウカ・レンヴォルト(ka0301)が正装を纏い、神楽を舞う。
優美な舞は、しなやかで女性のような仕草にも見えた。
「踊るが、華……だな」
観様見真似で、リザードマンたちが笛を吹いているが、どこかぎこちない音色だ。
だが、今回は楽しい宴の場だ。
不協和音も、御愛嬌。
オウカは陽気に踊り、龍たちにも舞にて楽しもうと伝えていた。
自然と体を揺らす龍たち。
オウカの舞は、さらに続いていく。
『踊れ踊れ、陽気に踊れ。宴とあらば、踊らにゃ損よ……』
オウカは呼びかけるように舞う。
共に舞おう、愉しもう、と……。
鞍馬 真(ka5819)が横笛を吹くと、穏やかな音色が調和を取り戻す。
リザードマンたちが、聞き惚れていた。
人間の音楽というものは、理屈ではなく、感情であると……。
真は願っていた。
種族が違っても、今は敵対に近い関係でも、互いに認め合って、歩み寄れたら……。
それが叶うと信じて、真は心を込めて、横笛を吹いていた。
朗らかな、温かい音色だった。
リステル=胤・エウゼン(ka3785)は、故郷の母から学んだ神楽を捧げた。
『龍狩り』という忌まわしき行為の犠牲や被害に遭った龍達に対して、例え夢の中であっても【償い】をしたかったからだ。
神楽鈴「奏」を持ち、リステルは龍たちに敬意を込めて、立ち振る舞いをした。
そして、四弦黒琵琶に持ち替えると、弦を鳴らし、奏でる。
根源から湧き上がる魂の想いを込めて……。
舞が終わり、龍たちが安らいでいると、羊谷 めい(ka0669)は龍たちと話がしてみたいと思い、まずは真面目そうな龍に声をかけてみた。
「わたしは生命が好きです。幸せに、笑顔でいてくれることがとても好き」
めいの予想通り、真面目そうな龍は怪訝な表情をして、少し警戒していた。
『突然、何を言い出すかと思えば……』
「あ……そう…ですよね。いきなり、こんなこと聞いたら、びっくりしますよね。だけど、話すきっかけが欲しくて。まずは、わたしたちのことを知ってもらいたくて……だから、聞く前に、自分の好きなものを話してみたんです」
互いに、少し緊張していた。
真面目そうな龍は溜息をつくと、こう告げた。
『アヴィドには人に深入りするなと言ったが、人間の方から龍に接してくるとはな』
「気を悪くしたのなら、ごめんなさい。お礼代わりに、歌を……」
めいは、【レクイエム】を歌い上げた。
静かな鎮魂歌……龍たちは、目を閉じて、彼女の歌を聴いていた。
●
アヴィドと話してみたいというハンターたちが、集まってきた。
まずは、コントラルト(ka4753)だ。
「アヴィドさん、今日はありがとう。ずっと『ここ』に来てみたかったの。少しお話聞いてもらってもいいかしら?」
『こちらこそ、ありがとよ。もちろんだ』
アヴィドが無邪気に笑う。
コントラルトは、アヴィドの笑顔を見て、ついこんなことを言ってしまった。
「……貴方のように人が好きだったからこそ、歪虚に堕ちた龍がいるの。大好きだった『人』が、その龍の大切な龍を殺してしまった……その想いの捌け口が見つからなくて、世界そのものを恨んでしまった。
私はその龍を止めたい。
身勝手よね、人が原因なのに人である私が偉そうに言うのは……でも、受け止めたいの。彼の想いを怒りを悲しみを……寂しさを。……友達に、なりたかったから」
コントラルトは我に返り、アヴィドに詫びた。『今』の彼には、知る由もないことだから。
「……初対面で、いきなりごめんなさいね。ただ、誰かに覚えていて欲しかったの」
『歪虚に堕ちた龍……誰のことかは分からねぇが、きっと、それだけ『人』を信じてたのかもな。自分だったら、どうなるんだろうか……』
アヴィドは、ぼんやりと考え込んでいた。
龍華 狼(ka4940)は、アヴィドの鱗を見ると高く売れそうと思いつつ、猫かぶりで接する。
「初めまして。僕、ドラゴンを見るの初めてなんで凄く感動してます! 格好良いですね!」
『そうかい。オレもアンタ達と会えて、うれしいぜ』
アヴィドは、本当にうれしそうだった。
狼の気持ちが昂る。龍種族を純粋にカッコいいと思う年頃なのだ。
過去、現在など、どうでも良かった。狼にとって、今、この瞬間だけが大事だった。
「空を飛ぶって、どんな感じなんですか?」
なにやら、ソワソワしている狼……龍の背中に乗って、飛んでみたいと思っていた。
『オレたちにとって、飛ぶというのは、自然なことだ。人間たちは、足で歩くみたいだけど、どんな感じなんだ?』
アヴィドも知りたかったのだ。人の想いを。
意外な質問に、考え込む狼。
「んー、……んーと、足で歩くと、一歩進む度に前進して、歩けば歩くほど、いろんな景色が見られます。走ることもできますよ。走る競技があるくらいですから」
狼が応えると、アヴィドは感心していた。
『走る競技か。すごいな。オレたちも足で歩くことはあるが、あまり走ったことはないぜ』
「そりゃそうですよね。大きな翼で、空を飛ぶことができるんですから。やっぱりカッコいいです!」
そう言った後、狼は幸運の実を差し出した。
「今日はお招き頂きありがとうございます。これはそのお礼……幸運の実って言うんです。アヴィドさんのこれからに幸運が訪れます様に。夢が叶います様にとの願いを込めてあります」
『これ、くれるのかい? 有難くいただくよ』
アヴィドが、幸運の実を口に銜える。
『たりゃたり、しにゃいかりゃ、だーじょーう』
実を咥えたまま話すアヴィドを見て、狼は楽しそうに笑っていた。
叶わないとしても、夢の中くらいは幸福であってもいい……そう願う狼だった。
ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)はアヴィドの元へと訪れ、赤い躰の龍のことを聞いてみた。
「あの赤い龍って、もしかして、赤龍の所の龍かな? こう、赤い龍って人と関わるのに不慣れな印象があったから」
『赤龍の所? 元々は南方の出身だとは聞いてたけど、赤い龍は、他にもいるみたいだからな。誰のことだか、オレには分からないな』
アヴィドが首を傾げる。
赤い龍は、北方では珍しい種族ではあるが、世界的に見れば、他にも赤い龍はいるのだ。
特定の赤い龍だという事は、アヴィドには分からないのだ。
ユーリは赤い躰の龍を見ながら、アヴィドに告げた。
「そう……言われてみれば、赤い龍というだけで、特定はできないわね。あの……気休めにしかならないかもだけど、人と龍は共存出来るよ。今は難しくても、どんな辛い事があったのだとしても」
アヴィドが、目を細める。
『オレも、そう信じてるぜ』
ユーリは、そう応えるアヴィドの想いを考えると、心が締め付けられるような気がした。
「……もし、アヴィドが自分の信じた想いに疑問を抱いた時は、私がぶん殴ってでも証明してあげる。お前の信じた想いは間違ってないってね」
決意に満ちたユーリの瞳に気付き、アヴィドが頷いた。
『アンタたちが信じてくれるなら、オレも、うれしいぜ。へへっ、ありがとう』
アヴィドにとっては、嘘偽りのない真実だった。
ユリアン(ka1664)が「お疲れ様」とアヴィドに声をかけた。
『よう、来てくれたのか』
アヴィドは、人と話すことが楽しくて仕方がなかった。
そんな様子を見て、ユリアンが優しく問いかけた。
「どうしてそこまで人間の事、信じてくれるのかな。少し聞いてみたくて」
『信じることに、理由なんてあるのか? オレは人と龍が仲良くなれるって信じてるんだ』
アヴィドの心は、穢れの無いものだった。
信じるという想いは、希望に満ちた若者のようであった。
ユリアンが呟くように言った。
「弱いんだ。心が簡単に折れてしまう。力だってないのに。まぁ、俺も色々あったんだけど。ここで一緒に戦えてよかった。……そうだ、何か食べる? 俺、林檎好きだけど」
『リンゴ? そりゃあ、どんな食べ物?』
アヴィドが問う。
「林檎、見たことない? 赤い皮の実で、とても甘くて美味しい果物なんだ」
ユリアンが応えると、アヴィドは顔を上げて、想像していた。
『リンゴ、気になるな。いつか、食べてみたいな』
ユリアンは、アヴィドを見つめていた。
これは……過去。
変えられない過去の夢。
(でも知る意味はきっとある。全てが終わった後に、この過去を知ったら酷く後悔するだろう。だから、いいんだ。誰かが迷うなら終わらせる手伝いは幾らでもする。戦う意味が、変わってくると思うんだよ。
そして、繰り返さない為に……)
アヴィドは知らない。自分が、どう変わっていくのか……。
だからこそ、ユリアンはアヴィドと会ってみたかったのだ。
「人は、気持ちを……信頼を貰えば応えようと頑張りはするんだよ。……ありがとう」
ユリアンが涙ぐむのに気付いたアヴィドが、少し慌てていた。
『ど、どうしたんだっ?』
「なんでもないよ。うれしくなっただけだよ」
ユリアンは、そう言いながらアヴィドに笑顔を見せた。
助けられなかった事に絶望して、恨んで、自分もそうなっていたかもしれない。
何が、できるだろう。
そんな想いが、ユリアンの心に過った。
●
「宴にお呼ばれされるなんて、夢みたいやなぁ……」
レナード=クーク(ka6613)はアヴィドと話がしてみたかったが、まずは赤い躰の龍に対して挨拶と自己紹介をした。
竪琴でメロディを奏で、歌う。
この先、龍たちに、平穏と安寧が訪れる事を祈って……。
レナードは、歌い終わっても、竪琴を弾いていた。
周囲の声に、耳を済ませながら……他愛の無いお話をして、お互いを知ることができるように。
「少しでも仲良うなれたらええなぁ、……なんて」
綺麗な曲が聴こえる中、鞍馬 真は真面目そうな龍と話そうと試みた。
だが、どうにも会話が噛み合わない。
それでも、真は諦めずに話しかけていた。
「別に仲良くしたいという感情を押し付けるつもりは無い。ただ、仲間に対して伝えたいことを伝えられなくなった時に、後悔しないように生きて欲しい……そう思うのは、私の自己満足かもしれないが」
真面目そうな龍は、ようやくまともに返答した。
『言われるまでもない。アヴィドは、私の仲間だ。いつも言い聞かせてはいるが、なかなか言うことを聞いてくれないこともあるが』
「ああ、そういう時期はあるな。所謂、反抗期というヤツだな」
真は至って率直に応えた。
『反抗期、とな?』
真面目そうな龍が、珍しく人の話に耳を傾けた。
オウカ・レンヴォルトが説明する。
「子供から大人へと成長する時に訪れる時期……だな。アヴィドが言うことを聞かないのは、自意識が芽生えているからだろうな」
その会話は、アヴィドにも聴こえていた。
『そこで、コソコソ話して、何やってんだよっ?!』
アヴィドが、真面目そうな龍を睨みつけていた。
赤い躰の龍が、納得したように言った。
『そういうことか。アヴィドが言うことを聞かないことがあるのは、反抗期だったからか』
レナードが、微笑ましく皆の話を聞いていた。
「ヴリトラルカでも、反抗期が話題になるなんて……アヴィドは、皆に大切にされてるんやなぁ」
●
ディストルツィオーネの過去。
此処で見る【アヴィド】は、人と龍との未来を明るいものにしようとしている……。
フィルメリア・クリスティア(ka3380)は、そう感じていた。アヴィドのことが気になっていたが、赤い躰の龍と話すことにした。
アヴィドの親友である赤い躰の龍なら、客観的な意見が聞けるかもしれない。
「あなたから見て、アヴィドの理想というのは、どう感じるものなの?」
フィルメリアの問いに、赤い躰の龍は少し思案した後、こう告げた。
『理想というのは、我々にもあるが、アヴィドの理想を実現させるのは難しいとは思っている』
「……とは思っている……ということは、可能性はゼロではないということ?」
『可能性というのならば、ゼロに近いだろうな』
「それでも、あなたはアヴィドのことが大切…?」
フィルメリアがそう言うと、赤い躰の龍が迷わずに応えた。
『もちろん、アヴィドは、私にとっても大切な子だよ。世間知らずではあるが、希望に満ち溢れている』
「……もし、アヴィドが道を違える事になっても……いつか止めてあげる。とても長く、遠い約束だけど、人と龍とが共に過ごせる時代を作ってみせる」
フィルメリアの言葉に、赤い躰の龍は朗らかな表情になった。
『おまえさんは、アヴィドと似たようなことを言う。これでは、アヴィドが人と龍の共存を夢見るのも、仕方がないことか』
「仕方がない……ではなくて、理想を現実に変えていく力は誰にだってあるもの。可能性が少しでもあるなら、私は諦めない」
フィルメリアは、決意を固めていた。
ドゥアル(ka3746)は、怪我をしている飛龍たちに『ヒール』を施し、彼らの怪我を癒していた。
監視役として、赤い躰の龍が同行していた。
『せっかくの宴だというのに……すまないな』
「いえ、怪我をしている飛龍たちのこと、放っておけなくて……幼い子もいるし……」
幼い飛龍の怪我を癒していくドゥアル。
「赤い躰の龍さん、あなたのこと……アレグレと呼んでも良い……かな?」
『アレグレ……良い響きだな』
「響きというより、あなたの名前」
『私の名が、アレグレ? ……ふむ、良いだろう。気に入った』
赤い躰の龍は、アレグレという名を付けてもらい、うれしそうだった。
「……アレグレ……貴方は、南方に帰らなくて大丈夫なの? 故郷や仲間が待っているのでは?」
ドゥアルは、心配していたのだ。
『故郷へ帰りたい気持ちはなくはないが、アヴィドと離れることを考える……とな。もうしばらくここにいたい……と思っているうちに、時間だけが過ぎていくのだ』
「楽しい時間だから、だね。わたくしは、龍に助けてもらった事があるから……助けてもらったから助ける……種族が違っても、それは変わらないのよ」
ドゥアルは、アレグレのことも助けたいと思っていた。
「貴方にも、今助けてもらったから、何かして欲しい事があれば聞くけれど……?」
『私が、おまえさんを助けた?』
アレグレには、見当が付かなかった。
「意外と鈍いね……アレグレ」
『鈍い? 素早いと言われたことはあるが、鈍いというのは、初めてだ』
アレグレが鼻息を荒くする。
思わず、ドゥアルは笑ってしまった。
蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)は、真面目そうな龍と対面すると、扇を手に持ち、話しかけた。
「随分と難しい顔をして居るのう。許せとは言わぬ。なれど、全てのヒトがそうでは無いと……願う事を、信じる事を、諦めないで欲しいと……妾の我儘じゃがの」
『ここに来る人間は、何故、そうも前向きなのだ?』
真面目そうな龍は、まだ警戒していた。
蜜鈴が、ふと目を伏せる。
「おんしの記憶に残りはせぬじゃろう……忘れてしまうじゃろう。なれど、妾は忘れぬ……おんしに、もう一度、名を贈る為に」
『名はいらぬ』
「ふふ、そうじゃな。おんしなら、そう言うじゃろうと思うたわ。わかって居るよ……なれど『カネレ』と……想う心の紡ぐ詩と、音色を奏でる翼……歌う、という意味の名じゃ。不要なれば忘れて良い……なれど時が来れば、妾は今一度、その名をおんしに贈ろう」
蜜鈴の瞳は、真っ直ぐに真面目そうな龍を見つめていた。
『……カネレ……今は覚えておくが、いずれ忘れることもあるだろう。だが、今だけは、カネレと呼ぶが良い。名がないと困るという人間が多いからな。理由は、それだけだ。それ以上でも、以下でもない』
真面目そうな龍……カネレは、不機嫌そうに答えたが、蜜鈴は小さく微笑んだ。
「固いの。まあ、良い……カネレ、宴を楽しむのも、一興ではないかの」
そう言って、蜜鈴は、カネレに酒を勧めた。
天央 観智(ka0896)が、真面目そうな龍と会った頃には、彼は酒でほろ酔いになっていた。
警戒している様子もなかった。
「……人を傷付ける気は無い、みたいですしね。此方にも、攻撃の意思の無い事を礼儀として示さないと」
観智は、武器や防具は全て外して、普段着になった。
「お話したいことがあるのですが……龍狩りのことです。経緯に、何が在ったのか……」
ここは、神の見ている夢。それは、観智も理解していた。
『……勇者とやらに、聞いた方が良いのではないか?』
真面目そうな龍……カネレは、どこか哀しそうに見えた。
「そうですか。勇者さん……どこにいるのか、知ってますか?」
『悪いが、知らないな。知ったところで、どうする気だ?』
「……人を、信じている龍がいると聞きまして」
『ああ、それなら、アヴィドのことだな』
カネレは、そう告げた後、蜜鈴が注いでくれた酒を飲み干した。
●
龍堂 神火(ka5693)は、少女キィリの隣に座り、宴に参加していた。
「キィリさん、あの後、大丈夫だったの?」
「ん……なんとか……ね」
キィリは、躊躇いがちな笑顔を浮かべた。どうやら、あまり聞かれたくないことだったようだ。
それを察して、神火は話題を変えることにした。
「キィリさんは、龍が好き? ボクは好きだ。ドルガも、ここの皆も」
「アヴィドのことは、信じてる。もちろん、あなたのことも」
キィリは恥ずかしそうに言った。
「あなた? ……え?」
神火は両腕を組み、誰の事なのか、考えていた。
出た答えは……。
「……もしかして、ボクのこと?」
恐る恐る聞くと、キィリは無言で頷いていた。
『ヒューヒュー、オアツイネー』
アヴィドが二人をからかうように言った。
「アヴィドさん、ボクたち、そんなんじゃないよ。友達だよ」
神火が宥めるように言うと、アヴィドは飄々とした顔つきになった。
『トモダチねぇ。そういうことに、しといてやるかっ』
「あのさ、アヴィドさん……キィリさんたちと一緒に、空を飛んでみたいんだ」
神火がそう言うと、アヴィドが小声で応えた。
『なになに、神火は、キィリとデートしたいのか? まだ宴の途中だが、オレが付き合ってやるぜ』
「デートって、どこで、その言葉、覚えたの? ボクは、皆も誘って……」
神火は、ふと気が付いた。自分の手に、キィリの温もりを感じた。彼女が、神火の手を握り締めていたのだ。
「……キィリさん」
「一緒に、空の散歩したいな」
キィリは照れながら、アヴィドに言った。
『おっ、良いぜ。そんじゃ、神火とキィリは、オレの背中に乗れ。ささっと乗れ』
アヴィドに促されて、背中に乗る神火とキィリ。
『ほいじゃまあ、いくぜ!』
そう言った途端、アヴィドが翼を広げて飛び立つ。
それに気付いた真面目そうな龍……カネレが、叫んでいた。
『こらっ、アヴィド! まだ宴は終わってないのだ。分かっているのか?!』
『オッチャン、カネレって名前、付けてもらえて良かったな。美人の御酌を無下にするんじゃねぇぞ。ちょっくら、散歩にいってくるぜ』
アヴィドは、神火とキィリを乗せて、龍園の上空を飛び回っていた。
「うわー、空から見る龍園も、綺麗だな」
神火は、この美しい光景を忘れないと心に決めていた。
●
Gacrux(ka2726)は岩場に座り、宴には参加していたが、龍たちを観察していた。
だが、どこか冷めた眼差しだった。
アヴィドが空を飛んでいく姿を見ても、溜息をつくだけだった。
「まるで、子供のようですねぇ」
皮肉に満ちた声で呟く……Gacruxは、アヴィドを遠くから眺めているだけだった。
「……同情する余地も無し……とは、このことですかねぇ?」
人は、自分の思い通りに動くものではない。
自分の意思、自らが決めた選択を、責任を持って生きていくもの。
現実逃避を、文字通りに捉える尺度もあるだろうが、そう思えるほど素直でもない。
Gacruxは、心情を顕にする事はなかった。
言ったところで、変わることはないからだ。
浅黄 小夜(ka3062)は、ディストルツォーネを、ただの敵だと割りきれることができなかった。
あの日会ったディストルツォーネと名乗った龍の、怒りを、嘆きを、覚えているから……。
宴に参加している龍たちと話すことで、何か知ることができたら……そう思い、小夜は周辺で警護をしていた龍たちに声をかけていた。
「一休みしませんか? よかったら、少しお話しませんか?」
小夜の呼びかけに、数匹の警備龍がやってきた。
『私たちにも、用があるのか?』
「よろしゅうに……せっかくの宴ですし、一緒に楽しみたくて……そろそろ、料理もできるはず」
小夜は、友人の手料理を待ち望んでいた。
『料理? 人間の食べ物か?』
「藤堂のおにいはんが、料理担当……私は、それが楽しみで、ここで待ちぼうけです」
小夜の丁寧な仕草に、龍たちは少し戸惑っていた。
その時、ギターの音色が流れてきた。
グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)が、場を和ませようとギター「サン・ライト」を弾いていたのだ。
軽快で、ポップな曲を聴いているうちに、警備龍たちも自然とリズムを取っていた。
「龍さんたち、楽しんでるようだね。良かった」
安堵するグリムバルド。
『これ、好きだな』
警備龍の一人が呟くと、小夜の顔が明るくなった。
「音楽、好きなんやろか?」
『オンガク? これは、オンガクというのか?』
「グリムバルドのおにいはんが弾いているのが、ギターという楽器どす」
小夜も、普段通りの京都弁になっていた。
『ギター、オンガク、良いな。とても……良い』
警備龍の言葉に、グリムバルドはギターを弾きながら会釈。
「そう言ってもらえると、俺もうれしいよ。ありがとう」
『……感謝するのは、こちらの方……』
警備龍たちも、どうやら緊張が解れてきたようだ。
その様子に、小夜の気持ちも安らいでいた。
「さあ、みなさん、お待ちかねー。出来たぞー」
藤堂研司(ka0569)は、仲間から注文された料理を次々とテーブルの上に並べていく。
匂いに釣られて、アヴィドが姿を現した。
『良い匂いだな』
「よう! アヴィドさんだって? 俺は研司、藤堂研司! あん時ゃ名乗るヒマ無かったもんね! 宜しく! 折角の宴だ、今を最高に楽しもう!」
研司の笑みで、さらに場が和む。
パトリシア=K=ポラリス(ka5996)が、アヴィドに抱き付いた。
「アヴィド、会いたかったヨ」
『おう、オレもだぜ。研司が作った料理、みんなでいただこうぜ』
アヴィドは、ちゃっかりとパトリシアの隣に座りこんだ。
「小夜も、隣……良い?」
アヴィドの右側が空いていることに気付き、小夜が声をかけてきた。
『おお、もちろん』
「ほな、御言葉に甘えて」
小夜はアヴィドの隣に座り、他の龍たちにも呼びかけた。
「警備龍の皆さんも、一緒にどうぞ」
「遠慮はいらないよ! ででーんっといっぱい食べてくれや。足りなくなったら、俺が作るから、安心して食べてくれ。研ちゃんキッチンここにあり! 飲んで、食って、駄弁ろうぜ!」
研司が手招きすると、警備龍たちが集まってきた。
金鹿(ka5959)も仲間たちに囲まれ、研司の手料理を見て、ワクワクしていた。
「盛り付けも、ステキですわね」
目を輝かせながら、金鹿は温野菜のサラダを食べて、満足そうな表情だ。
「いただきマース♪」
ぱくりとサンドイッチを食べるパトリシア。
「美味しいナ」
大好きな味……なのに、今日は、なんだか……。
パトリシアは、みんなを守りたいと思っていた。
ここは、夢の中。
それでも、聞きたかったことがあった。
「あのね、アヴィド……もし、パティが歪虚になって、みんなを傷付けるよーになっちゃっタラ、そしタラ、アヴィドは、どーする?」
『は? どした、突然』
アヴィドはサンドイッチを食べようとしたが、パトリシアの様子が気になり、彼女へと視線を向けた。
『他のヤツにも、似たようなこと言われたな。なんでだ? まあ、いいや。何度も聞かれるってことは、アンタたちにとっては、重要なことなんだろう。だったら、答えてやる』
「……アヴィド」
パトリシアは、真剣にアヴィドの話を聞いていた。
愛梨(ka5827)も、固唾を飲んだ。
複雑さは、消える事がない……話す事で、やり辛くなることもあるだろう。
「アヴィド、ぜひ、聞かせて」
迷いを払うように、愛梨が言うと……。
『正直に言わせてもらおう。オレには、分からねぇな』
「「え?」」
その場にいた全員が、目を丸くした。
『だってよ、その時になってみないと、なんとも言えねぇな。状況次第では、仲間を傷つけないように止める手段は考えるとは思うが、それが必ず、成功するとは限らねぇしな』
「パティはネ、まだわからないんダヨ。こうやってお話もできて、クッキーも好きデ、それでも、戦うしかないのカナ? みんなと暮らすのは難しくても、一緒に旅したり、お魚釣ったり、お星さま見たり……叶わないのカナ?」
パトリシアは、目に涙を浮かべていた。
『……んー、誰のこと言ってるのか、オレにはさっぱりだが、もう答えは出てるんじゃねぇのか?』
アヴィドの言葉に、パトリシアが涙を拭う。
「答え? どういうコト?」
『だーかーらー、一緒に旅したり、お魚釣ったり、お星さま見たりってことだよ。そうしたいなら、そうすりゃ良いじゃねぇか。小難しく考えたって、堂々巡りになるだけだ』
「ねぇ。なんで人間と友達になろうと思ったの?」
愛梨の問いに、アヴィドが質問で返した。
『だったら、なんで、アンタらは、オレと友達になりたいとか言うんだ?』
「それは……アヴィドが、人を好いていてくれるのを感じるから……私も、友達になれるかしら?」
愛梨は自分の想いを素直に告げた。
アヴィドが、うれしそうに言った。
『だったら、友達だ。それで良いよな?』
「え? 私も友達? アヴィドの友達になったんだね」
立ち上がる愛梨。
傍にいたリラ(ka5679)も一緒に立ち上がり、愛梨に寄り添う。
「笑おう。愛梨。美人さんが、台無しですよ?」
リラは、愛梨が悩んでいたことを知っていたが、彼女が自力で答えを見つけると信じていた。
何故なら、愛梨は優しくて、強い子だから。
「……ありがとう。リラ、歌をお願い」
「歌わせて貰っても良いですか?」
リラがアヴィドに尋ねると、「聞かせてくれ~」と大げさに羽根を広げた。
思わず、はにかむリラ。
「では、一曲……出会いに感謝して」
顔を合わせて笑顔をかわせたなら、みんなが友達。
繋ぎあおう。
信じる人や、尊敬する誰かと。
祈り響いて世界の皆にこの声が届く様に、と。
リラの歌に合わせて、愛梨が舞を奉じる。
この場にいる龍と人に感謝を込めて。
今はただ、この奇跡の様な時間が、少しでも永く続く事を祈って……。
「俺は……時間がかかっても、アヴィドとは友達になれたら……と思うぜ」
グリムバルドはギターを持ちながら、アヴィドを見据えた。
『なに言ってやがる。オレたちは、すでに友達だ。じゃなきゃ、宴に招待とかするかよ』
ツッケンドンとした態度で言うアヴィド。
「アヴィド、パティもネ、友達だからね」
『当たり前だろ』
「よっしゃ、アヴィドさん、よくぞ言った!」
研司はうれしくて、つい酒を飲み過ぎてしまった。
すでに酔っていて、自分でも何を言っているのか、分からなくなっていた。
「なぁ、アヴィドさん……あの時のアイツな……多分、ヒトだった。俺も、ああなるかもな……欲に、溺れたら、そん時は……あんたが、殺ってくれるか?」
『この、酔っ払いがー。全く、皆して、同じこと言いやがって。友達を、そんなこと、できるかよ。オレはな、自分がどうなろうと……そうなるくらいなら……オレは……』
アヴィドは、理想を実現したいと告げた。研司は夢心地の中、アヴィドの想いを聞いていた。
「藤堂さん、風邪ひいてしまいますわ」
金鹿が、そっと研司の背中に毛布をかけた。
「同じことを言うのは、アヴィドさんのこと、たくさん知りたいからですわ。だって、お友達のことをなんにも知らないなんて、寂しいんですもの」
『……そっか。オレが人間のことを知りたいように、金鹿たちも、オレたちのことが知りたいってことか。なんか、オレ、自分の気持ちばっか、押し付けて、ごめんな』
アヴィドが謝ると、金鹿は微笑みながら、こう告げた。
「謝る必要はありませんわ。間違いだと思うことがあれば、正面からぶつかっていくのも友でしょう?」
『金鹿は優しいな。オレが間違ってから、ちゃんと言ってくれよ』
「ええ、もちろんですわ。友達ですもの」
相手のことを知れば知るほど、苦しみは深くなるだろう。
それでも、金鹿は知りたかったのだ。アヴィドの想いを……。
望む未来の為、越えていかなければならない運命だからこそ。
『彼』がかつて抱いた想い、信じていたものを、この胸に刻み付けたい。
いつかの未来で、アヴィドと名乗った龍が……心優しき友がいたのだと語り継げるように。
●
ジャンルカ・アルベローニ(kz0164)が、研司の作ったサンドイッチを食べていると、ロス・バーミリオン(ka4718)が近寄ってきた。
「あらやだイケメンがいるじゃないのぉ!! ジャンルカちゃんっていうの? ジャンちゃんね? スリーサイズは? 歳はいくつなの? やだ、私ったらこんなとこまできて、はしたないわねっ」
止まることを知らないロスの勢いに、ジャンルカは面を喰らっていた。
「まま、落ち着け。スリーサイズは言えねぇが、歳は26だぜ」
「良い御年頃ねっ。もうちょっとお話したいことがあるけど、私、やることあるから、これにて失礼っ」
足早に、ロスは怪我をしている飛龍たちの元へと駆け寄った。
すでに、時雨 凪枯(ka3786)が飛龍たちの手当てをしていた。そこには、監視役として、赤い躰の龍もいた。
手伝いとして、リステルも飛龍たちの怪我をケアしていた。
「怪我は放置しておくと、跡が残ることもありますからね」
リステルが『ヒール』を使うと、飛龍の怪我が瞬く間に治った。
だが、他にも怪我をしている飛龍たちがいた。
「これで大丈夫、お気を付け」
凪枯は『ヒール』を施し、負傷していた飛龍たちを癒していく。
「あんたは、大丈夫かい?」
赤い躰の龍に声をかける凪枯。
『私は平気だ』
「あら、そんなこと言って、ちゃんと診察しなきゃっ」
ロスは、赤い躰の龍を触診し始めた。
「龍の身体なんて、なかなかお目にかかれないから、かなり嬉しいわっ!! よく見るとイケメンなのよねぇ……」
うっとりするロス。
イケメンの意味が分からず、赤い躰の龍が考え込んでいた。
「悩み事があるなら溜め込まず、吐き出しなさい! 龍なら炎と一緒にかしら?」
ロスは赤い躰の龍を見上げながら、ビシィッと言い放った。
『口から火を吐くこともあるから、気を付けろ』
「ん、やっぱり、ファイアーブレスなのねっ……て、そういうことじゃないわよ。悩みがあるなら、はっきり言いなさいってことよ」
『……イケメンとは、なんぞや?』
赤い躰の龍は、単に疑問に思っていたことを言っただけだが、ロスは「まあ、それが悩み事?」と言いながら、さらに応えた。
「良い男って、存在自体が罪よね。いろんな子に、言い寄られて、大変でしょ?」
『言い寄る? 私が、ここにいるのは、アヴィドのことが心配なのだよ』
赤い躰の龍がそう告げると、凪枯はため息交じりだった。
「この辺じゃ珍しいなら尚更、標的にされるからね。おまけにゃ龍殺しに拘る人型の歪虚まで出てきてる始末さね。人は弱いもんさ。共通の敵を作らなけりゃ纏まれない。本当の強さってのはどんなに見窄らしい姿になっても、生きて自分の居場所に帰る事だと思うねぇ。待つのを諦めるのは辛いからね」
そう言いながら、凪枯はペンの代わりに煙管を回していた。
●
宴が終わる頃、キヅカ・リク(ka0038)はアヴィドと二人きりで話していた。
「僕も人とエルフが解り合えると思って、帝国で必死に戦ってきた。それを、力が無ければ唯の我儘だと言われて……半殺しにあったのが、2年とちょっと前」
『おいおい、さらっと言ってるけどよ、それって只事じゃねぇよな?』
アヴィドは、驚いていた。
小さく苦笑するリク。
「それからずっと闘ってきた。悲劇と否定と拒絶……その中でも最後まで支えてくれた人がいたから闘えた。だから……あの過酷な世界を変えられた」
『すげぇな。オレも、いつか自分の理想を実現したいぜ』
感心して、頷くアヴィド。
リクは、自分の経験を振り返りながら、話を続けた。
「僕たちがこれからどうなるのか、なんて分からない。それでも僕は……この世界の人間ですらないけれど、解り合えるって……心の可能性を信じていたい」
『ああ、オレもだぜ。アンタの言うこと、信じてるぜ』
アヴィドが、無邪気に言う。
今は……【アヴィド】と名乗る龍なのだ。
リクは、その名を覚えておくと決めた。
「僕、よわっちいから、もし迷ってたり負抜けてたらひっぱたいてたたき起こしてよ。僕も君が迷ってたら、起こしにいくからさ。約束だよ」
『分かった。約束だぜ。オレたちは、友達だからな』
照れ笑いを浮かべるアヴィド……これは、神の見ている夢。
それでも、忘れたくない。
約束を……誓った日のことを。
ずっと、ずっと、これからも……。
■完
(代筆:大林さゆる)
たとえ、一瞬でも……。
●
龍園ヴリトラルカ。
龍を狩り、人々から称賛されている【勇者】という存在がいる時代。
リザードマンたちが鳴らす水晶の音が、響き渡る。
宴が始まり、オウカ・レンヴォルト(ka0301)が正装を纏い、神楽を舞う。
優美な舞は、しなやかで女性のような仕草にも見えた。
「踊るが、華……だな」
観様見真似で、リザードマンたちが笛を吹いているが、どこかぎこちない音色だ。
だが、今回は楽しい宴の場だ。
不協和音も、御愛嬌。
オウカは陽気に踊り、龍たちにも舞にて楽しもうと伝えていた。
自然と体を揺らす龍たち。
オウカの舞は、さらに続いていく。
『踊れ踊れ、陽気に踊れ。宴とあらば、踊らにゃ損よ……』
オウカは呼びかけるように舞う。
共に舞おう、愉しもう、と……。
鞍馬 真(ka5819)が横笛を吹くと、穏やかな音色が調和を取り戻す。
リザードマンたちが、聞き惚れていた。
人間の音楽というものは、理屈ではなく、感情であると……。
真は願っていた。
種族が違っても、今は敵対に近い関係でも、互いに認め合って、歩み寄れたら……。
それが叶うと信じて、真は心を込めて、横笛を吹いていた。
朗らかな、温かい音色だった。
リステル=胤・エウゼン(ka3785)は、故郷の母から学んだ神楽を捧げた。
『龍狩り』という忌まわしき行為の犠牲や被害に遭った龍達に対して、例え夢の中であっても【償い】をしたかったからだ。
神楽鈴「奏」を持ち、リステルは龍たちに敬意を込めて、立ち振る舞いをした。
そして、四弦黒琵琶に持ち替えると、弦を鳴らし、奏でる。
根源から湧き上がる魂の想いを込めて……。
舞が終わり、龍たちが安らいでいると、羊谷 めい(ka0669)は龍たちと話がしてみたいと思い、まずは真面目そうな龍に声をかけてみた。
「わたしは生命が好きです。幸せに、笑顔でいてくれることがとても好き」
めいの予想通り、真面目そうな龍は怪訝な表情をして、少し警戒していた。
『突然、何を言い出すかと思えば……』
「あ……そう…ですよね。いきなり、こんなこと聞いたら、びっくりしますよね。だけど、話すきっかけが欲しくて。まずは、わたしたちのことを知ってもらいたくて……だから、聞く前に、自分の好きなものを話してみたんです」
互いに、少し緊張していた。
真面目そうな龍は溜息をつくと、こう告げた。
『アヴィドには人に深入りするなと言ったが、人間の方から龍に接してくるとはな』
「気を悪くしたのなら、ごめんなさい。お礼代わりに、歌を……」
めいは、【レクイエム】を歌い上げた。
静かな鎮魂歌……龍たちは、目を閉じて、彼女の歌を聴いていた。
●
アヴィドと話してみたいというハンターたちが、集まってきた。
まずは、コントラルト(ka4753)だ。
「アヴィドさん、今日はありがとう。ずっと『ここ』に来てみたかったの。少しお話聞いてもらってもいいかしら?」
『こちらこそ、ありがとよ。もちろんだ』
アヴィドが無邪気に笑う。
コントラルトは、アヴィドの笑顔を見て、ついこんなことを言ってしまった。
「……貴方のように人が好きだったからこそ、歪虚に堕ちた龍がいるの。大好きだった『人』が、その龍の大切な龍を殺してしまった……その想いの捌け口が見つからなくて、世界そのものを恨んでしまった。
私はその龍を止めたい。
身勝手よね、人が原因なのに人である私が偉そうに言うのは……でも、受け止めたいの。彼の想いを怒りを悲しみを……寂しさを。……友達に、なりたかったから」
コントラルトは我に返り、アヴィドに詫びた。『今』の彼には、知る由もないことだから。
「……初対面で、いきなりごめんなさいね。ただ、誰かに覚えていて欲しかったの」
『歪虚に堕ちた龍……誰のことかは分からねぇが、きっと、それだけ『人』を信じてたのかもな。自分だったら、どうなるんだろうか……』
アヴィドは、ぼんやりと考え込んでいた。
龍華 狼(ka4940)は、アヴィドの鱗を見ると高く売れそうと思いつつ、猫かぶりで接する。
「初めまして。僕、ドラゴンを見るの初めてなんで凄く感動してます! 格好良いですね!」
『そうかい。オレもアンタ達と会えて、うれしいぜ』
アヴィドは、本当にうれしそうだった。
狼の気持ちが昂る。龍種族を純粋にカッコいいと思う年頃なのだ。
過去、現在など、どうでも良かった。狼にとって、今、この瞬間だけが大事だった。
「空を飛ぶって、どんな感じなんですか?」
なにやら、ソワソワしている狼……龍の背中に乗って、飛んでみたいと思っていた。
『オレたちにとって、飛ぶというのは、自然なことだ。人間たちは、足で歩くみたいだけど、どんな感じなんだ?』
アヴィドも知りたかったのだ。人の想いを。
意外な質問に、考え込む狼。
「んー、……んーと、足で歩くと、一歩進む度に前進して、歩けば歩くほど、いろんな景色が見られます。走ることもできますよ。走る競技があるくらいですから」
狼が応えると、アヴィドは感心していた。
『走る競技か。すごいな。オレたちも足で歩くことはあるが、あまり走ったことはないぜ』
「そりゃそうですよね。大きな翼で、空を飛ぶことができるんですから。やっぱりカッコいいです!」
そう言った後、狼は幸運の実を差し出した。
「今日はお招き頂きありがとうございます。これはそのお礼……幸運の実って言うんです。アヴィドさんのこれからに幸運が訪れます様に。夢が叶います様にとの願いを込めてあります」
『これ、くれるのかい? 有難くいただくよ』
アヴィドが、幸運の実を口に銜える。
『たりゃたり、しにゃいかりゃ、だーじょーう』
実を咥えたまま話すアヴィドを見て、狼は楽しそうに笑っていた。
叶わないとしても、夢の中くらいは幸福であってもいい……そう願う狼だった。
ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)はアヴィドの元へと訪れ、赤い躰の龍のことを聞いてみた。
「あの赤い龍って、もしかして、赤龍の所の龍かな? こう、赤い龍って人と関わるのに不慣れな印象があったから」
『赤龍の所? 元々は南方の出身だとは聞いてたけど、赤い龍は、他にもいるみたいだからな。誰のことだか、オレには分からないな』
アヴィドが首を傾げる。
赤い龍は、北方では珍しい種族ではあるが、世界的に見れば、他にも赤い龍はいるのだ。
特定の赤い龍だという事は、アヴィドには分からないのだ。
ユーリは赤い躰の龍を見ながら、アヴィドに告げた。
「そう……言われてみれば、赤い龍というだけで、特定はできないわね。あの……気休めにしかならないかもだけど、人と龍は共存出来るよ。今は難しくても、どんな辛い事があったのだとしても」
アヴィドが、目を細める。
『オレも、そう信じてるぜ』
ユーリは、そう応えるアヴィドの想いを考えると、心が締め付けられるような気がした。
「……もし、アヴィドが自分の信じた想いに疑問を抱いた時は、私がぶん殴ってでも証明してあげる。お前の信じた想いは間違ってないってね」
決意に満ちたユーリの瞳に気付き、アヴィドが頷いた。
『アンタたちが信じてくれるなら、オレも、うれしいぜ。へへっ、ありがとう』
アヴィドにとっては、嘘偽りのない真実だった。
ユリアン(ka1664)が「お疲れ様」とアヴィドに声をかけた。
『よう、来てくれたのか』
アヴィドは、人と話すことが楽しくて仕方がなかった。
そんな様子を見て、ユリアンが優しく問いかけた。
「どうしてそこまで人間の事、信じてくれるのかな。少し聞いてみたくて」
『信じることに、理由なんてあるのか? オレは人と龍が仲良くなれるって信じてるんだ』
アヴィドの心は、穢れの無いものだった。
信じるという想いは、希望に満ちた若者のようであった。
ユリアンが呟くように言った。
「弱いんだ。心が簡単に折れてしまう。力だってないのに。まぁ、俺も色々あったんだけど。ここで一緒に戦えてよかった。……そうだ、何か食べる? 俺、林檎好きだけど」
『リンゴ? そりゃあ、どんな食べ物?』
アヴィドが問う。
「林檎、見たことない? 赤い皮の実で、とても甘くて美味しい果物なんだ」
ユリアンが応えると、アヴィドは顔を上げて、想像していた。
『リンゴ、気になるな。いつか、食べてみたいな』
ユリアンは、アヴィドを見つめていた。
これは……過去。
変えられない過去の夢。
(でも知る意味はきっとある。全てが終わった後に、この過去を知ったら酷く後悔するだろう。だから、いいんだ。誰かが迷うなら終わらせる手伝いは幾らでもする。戦う意味が、変わってくると思うんだよ。
そして、繰り返さない為に……)
アヴィドは知らない。自分が、どう変わっていくのか……。
だからこそ、ユリアンはアヴィドと会ってみたかったのだ。
「人は、気持ちを……信頼を貰えば応えようと頑張りはするんだよ。……ありがとう」
ユリアンが涙ぐむのに気付いたアヴィドが、少し慌てていた。
『ど、どうしたんだっ?』
「なんでもないよ。うれしくなっただけだよ」
ユリアンは、そう言いながらアヴィドに笑顔を見せた。
助けられなかった事に絶望して、恨んで、自分もそうなっていたかもしれない。
何が、できるだろう。
そんな想いが、ユリアンの心に過った。
●
「宴にお呼ばれされるなんて、夢みたいやなぁ……」
レナード=クーク(ka6613)はアヴィドと話がしてみたかったが、まずは赤い躰の龍に対して挨拶と自己紹介をした。
竪琴でメロディを奏で、歌う。
この先、龍たちに、平穏と安寧が訪れる事を祈って……。
レナードは、歌い終わっても、竪琴を弾いていた。
周囲の声に、耳を済ませながら……他愛の無いお話をして、お互いを知ることができるように。
「少しでも仲良うなれたらええなぁ、……なんて」
綺麗な曲が聴こえる中、鞍馬 真は真面目そうな龍と話そうと試みた。
だが、どうにも会話が噛み合わない。
それでも、真は諦めずに話しかけていた。
「別に仲良くしたいという感情を押し付けるつもりは無い。ただ、仲間に対して伝えたいことを伝えられなくなった時に、後悔しないように生きて欲しい……そう思うのは、私の自己満足かもしれないが」
真面目そうな龍は、ようやくまともに返答した。
『言われるまでもない。アヴィドは、私の仲間だ。いつも言い聞かせてはいるが、なかなか言うことを聞いてくれないこともあるが』
「ああ、そういう時期はあるな。所謂、反抗期というヤツだな」
真は至って率直に応えた。
『反抗期、とな?』
真面目そうな龍が、珍しく人の話に耳を傾けた。
オウカ・レンヴォルトが説明する。
「子供から大人へと成長する時に訪れる時期……だな。アヴィドが言うことを聞かないのは、自意識が芽生えているからだろうな」
その会話は、アヴィドにも聴こえていた。
『そこで、コソコソ話して、何やってんだよっ?!』
アヴィドが、真面目そうな龍を睨みつけていた。
赤い躰の龍が、納得したように言った。
『そういうことか。アヴィドが言うことを聞かないことがあるのは、反抗期だったからか』
レナードが、微笑ましく皆の話を聞いていた。
「ヴリトラルカでも、反抗期が話題になるなんて……アヴィドは、皆に大切にされてるんやなぁ」
●
ディストルツィオーネの過去。
此処で見る【アヴィド】は、人と龍との未来を明るいものにしようとしている……。
フィルメリア・クリスティア(ka3380)は、そう感じていた。アヴィドのことが気になっていたが、赤い躰の龍と話すことにした。
アヴィドの親友である赤い躰の龍なら、客観的な意見が聞けるかもしれない。
「あなたから見て、アヴィドの理想というのは、どう感じるものなの?」
フィルメリアの問いに、赤い躰の龍は少し思案した後、こう告げた。
『理想というのは、我々にもあるが、アヴィドの理想を実現させるのは難しいとは思っている』
「……とは思っている……ということは、可能性はゼロではないということ?」
『可能性というのならば、ゼロに近いだろうな』
「それでも、あなたはアヴィドのことが大切…?」
フィルメリアがそう言うと、赤い躰の龍が迷わずに応えた。
『もちろん、アヴィドは、私にとっても大切な子だよ。世間知らずではあるが、希望に満ち溢れている』
「……もし、アヴィドが道を違える事になっても……いつか止めてあげる。とても長く、遠い約束だけど、人と龍とが共に過ごせる時代を作ってみせる」
フィルメリアの言葉に、赤い躰の龍は朗らかな表情になった。
『おまえさんは、アヴィドと似たようなことを言う。これでは、アヴィドが人と龍の共存を夢見るのも、仕方がないことか』
「仕方がない……ではなくて、理想を現実に変えていく力は誰にだってあるもの。可能性が少しでもあるなら、私は諦めない」
フィルメリアは、決意を固めていた。
ドゥアル(ka3746)は、怪我をしている飛龍たちに『ヒール』を施し、彼らの怪我を癒していた。
監視役として、赤い躰の龍が同行していた。
『せっかくの宴だというのに……すまないな』
「いえ、怪我をしている飛龍たちのこと、放っておけなくて……幼い子もいるし……」
幼い飛龍の怪我を癒していくドゥアル。
「赤い躰の龍さん、あなたのこと……アレグレと呼んでも良い……かな?」
『アレグレ……良い響きだな』
「響きというより、あなたの名前」
『私の名が、アレグレ? ……ふむ、良いだろう。気に入った』
赤い躰の龍は、アレグレという名を付けてもらい、うれしそうだった。
「……アレグレ……貴方は、南方に帰らなくて大丈夫なの? 故郷や仲間が待っているのでは?」
ドゥアルは、心配していたのだ。
『故郷へ帰りたい気持ちはなくはないが、アヴィドと離れることを考える……とな。もうしばらくここにいたい……と思っているうちに、時間だけが過ぎていくのだ』
「楽しい時間だから、だね。わたくしは、龍に助けてもらった事があるから……助けてもらったから助ける……種族が違っても、それは変わらないのよ」
ドゥアルは、アレグレのことも助けたいと思っていた。
「貴方にも、今助けてもらったから、何かして欲しい事があれば聞くけれど……?」
『私が、おまえさんを助けた?』
アレグレには、見当が付かなかった。
「意外と鈍いね……アレグレ」
『鈍い? 素早いと言われたことはあるが、鈍いというのは、初めてだ』
アレグレが鼻息を荒くする。
思わず、ドゥアルは笑ってしまった。
蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)は、真面目そうな龍と対面すると、扇を手に持ち、話しかけた。
「随分と難しい顔をして居るのう。許せとは言わぬ。なれど、全てのヒトがそうでは無いと……願う事を、信じる事を、諦めないで欲しいと……妾の我儘じゃがの」
『ここに来る人間は、何故、そうも前向きなのだ?』
真面目そうな龍は、まだ警戒していた。
蜜鈴が、ふと目を伏せる。
「おんしの記憶に残りはせぬじゃろう……忘れてしまうじゃろう。なれど、妾は忘れぬ……おんしに、もう一度、名を贈る為に」
『名はいらぬ』
「ふふ、そうじゃな。おんしなら、そう言うじゃろうと思うたわ。わかって居るよ……なれど『カネレ』と……想う心の紡ぐ詩と、音色を奏でる翼……歌う、という意味の名じゃ。不要なれば忘れて良い……なれど時が来れば、妾は今一度、その名をおんしに贈ろう」
蜜鈴の瞳は、真っ直ぐに真面目そうな龍を見つめていた。
『……カネレ……今は覚えておくが、いずれ忘れることもあるだろう。だが、今だけは、カネレと呼ぶが良い。名がないと困るという人間が多いからな。理由は、それだけだ。それ以上でも、以下でもない』
真面目そうな龍……カネレは、不機嫌そうに答えたが、蜜鈴は小さく微笑んだ。
「固いの。まあ、良い……カネレ、宴を楽しむのも、一興ではないかの」
そう言って、蜜鈴は、カネレに酒を勧めた。
天央 観智(ka0896)が、真面目そうな龍と会った頃には、彼は酒でほろ酔いになっていた。
警戒している様子もなかった。
「……人を傷付ける気は無い、みたいですしね。此方にも、攻撃の意思の無い事を礼儀として示さないと」
観智は、武器や防具は全て外して、普段着になった。
「お話したいことがあるのですが……龍狩りのことです。経緯に、何が在ったのか……」
ここは、神の見ている夢。それは、観智も理解していた。
『……勇者とやらに、聞いた方が良いのではないか?』
真面目そうな龍……カネレは、どこか哀しそうに見えた。
「そうですか。勇者さん……どこにいるのか、知ってますか?」
『悪いが、知らないな。知ったところで、どうする気だ?』
「……人を、信じている龍がいると聞きまして」
『ああ、それなら、アヴィドのことだな』
カネレは、そう告げた後、蜜鈴が注いでくれた酒を飲み干した。
●
龍堂 神火(ka5693)は、少女キィリの隣に座り、宴に参加していた。
「キィリさん、あの後、大丈夫だったの?」
「ん……なんとか……ね」
キィリは、躊躇いがちな笑顔を浮かべた。どうやら、あまり聞かれたくないことだったようだ。
それを察して、神火は話題を変えることにした。
「キィリさんは、龍が好き? ボクは好きだ。ドルガも、ここの皆も」
「アヴィドのことは、信じてる。もちろん、あなたのことも」
キィリは恥ずかしそうに言った。
「あなた? ……え?」
神火は両腕を組み、誰の事なのか、考えていた。
出た答えは……。
「……もしかして、ボクのこと?」
恐る恐る聞くと、キィリは無言で頷いていた。
『ヒューヒュー、オアツイネー』
アヴィドが二人をからかうように言った。
「アヴィドさん、ボクたち、そんなんじゃないよ。友達だよ」
神火が宥めるように言うと、アヴィドは飄々とした顔つきになった。
『トモダチねぇ。そういうことに、しといてやるかっ』
「あのさ、アヴィドさん……キィリさんたちと一緒に、空を飛んでみたいんだ」
神火がそう言うと、アヴィドが小声で応えた。
『なになに、神火は、キィリとデートしたいのか? まだ宴の途中だが、オレが付き合ってやるぜ』
「デートって、どこで、その言葉、覚えたの? ボクは、皆も誘って……」
神火は、ふと気が付いた。自分の手に、キィリの温もりを感じた。彼女が、神火の手を握り締めていたのだ。
「……キィリさん」
「一緒に、空の散歩したいな」
キィリは照れながら、アヴィドに言った。
『おっ、良いぜ。そんじゃ、神火とキィリは、オレの背中に乗れ。ささっと乗れ』
アヴィドに促されて、背中に乗る神火とキィリ。
『ほいじゃまあ、いくぜ!』
そう言った途端、アヴィドが翼を広げて飛び立つ。
それに気付いた真面目そうな龍……カネレが、叫んでいた。
『こらっ、アヴィド! まだ宴は終わってないのだ。分かっているのか?!』
『オッチャン、カネレって名前、付けてもらえて良かったな。美人の御酌を無下にするんじゃねぇぞ。ちょっくら、散歩にいってくるぜ』
アヴィドは、神火とキィリを乗せて、龍園の上空を飛び回っていた。
「うわー、空から見る龍園も、綺麗だな」
神火は、この美しい光景を忘れないと心に決めていた。
●
Gacrux(ka2726)は岩場に座り、宴には参加していたが、龍たちを観察していた。
だが、どこか冷めた眼差しだった。
アヴィドが空を飛んでいく姿を見ても、溜息をつくだけだった。
「まるで、子供のようですねぇ」
皮肉に満ちた声で呟く……Gacruxは、アヴィドを遠くから眺めているだけだった。
「……同情する余地も無し……とは、このことですかねぇ?」
人は、自分の思い通りに動くものではない。
自分の意思、自らが決めた選択を、責任を持って生きていくもの。
現実逃避を、文字通りに捉える尺度もあるだろうが、そう思えるほど素直でもない。
Gacruxは、心情を顕にする事はなかった。
言ったところで、変わることはないからだ。
浅黄 小夜(ka3062)は、ディストルツォーネを、ただの敵だと割りきれることができなかった。
あの日会ったディストルツォーネと名乗った龍の、怒りを、嘆きを、覚えているから……。
宴に参加している龍たちと話すことで、何か知ることができたら……そう思い、小夜は周辺で警護をしていた龍たちに声をかけていた。
「一休みしませんか? よかったら、少しお話しませんか?」
小夜の呼びかけに、数匹の警備龍がやってきた。
『私たちにも、用があるのか?』
「よろしゅうに……せっかくの宴ですし、一緒に楽しみたくて……そろそろ、料理もできるはず」
小夜は、友人の手料理を待ち望んでいた。
『料理? 人間の食べ物か?』
「藤堂のおにいはんが、料理担当……私は、それが楽しみで、ここで待ちぼうけです」
小夜の丁寧な仕草に、龍たちは少し戸惑っていた。
その時、ギターの音色が流れてきた。
グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)が、場を和ませようとギター「サン・ライト」を弾いていたのだ。
軽快で、ポップな曲を聴いているうちに、警備龍たちも自然とリズムを取っていた。
「龍さんたち、楽しんでるようだね。良かった」
安堵するグリムバルド。
『これ、好きだな』
警備龍の一人が呟くと、小夜の顔が明るくなった。
「音楽、好きなんやろか?」
『オンガク? これは、オンガクというのか?』
「グリムバルドのおにいはんが弾いているのが、ギターという楽器どす」
小夜も、普段通りの京都弁になっていた。
『ギター、オンガク、良いな。とても……良い』
警備龍の言葉に、グリムバルドはギターを弾きながら会釈。
「そう言ってもらえると、俺もうれしいよ。ありがとう」
『……感謝するのは、こちらの方……』
警備龍たちも、どうやら緊張が解れてきたようだ。
その様子に、小夜の気持ちも安らいでいた。
「さあ、みなさん、お待ちかねー。出来たぞー」
藤堂研司(ka0569)は、仲間から注文された料理を次々とテーブルの上に並べていく。
匂いに釣られて、アヴィドが姿を現した。
『良い匂いだな』
「よう! アヴィドさんだって? 俺は研司、藤堂研司! あん時ゃ名乗るヒマ無かったもんね! 宜しく! 折角の宴だ、今を最高に楽しもう!」
研司の笑みで、さらに場が和む。
パトリシア=K=ポラリス(ka5996)が、アヴィドに抱き付いた。
「アヴィド、会いたかったヨ」
『おう、オレもだぜ。研司が作った料理、みんなでいただこうぜ』
アヴィドは、ちゃっかりとパトリシアの隣に座りこんだ。
「小夜も、隣……良い?」
アヴィドの右側が空いていることに気付き、小夜が声をかけてきた。
『おお、もちろん』
「ほな、御言葉に甘えて」
小夜はアヴィドの隣に座り、他の龍たちにも呼びかけた。
「警備龍の皆さんも、一緒にどうぞ」
「遠慮はいらないよ! ででーんっといっぱい食べてくれや。足りなくなったら、俺が作るから、安心して食べてくれ。研ちゃんキッチンここにあり! 飲んで、食って、駄弁ろうぜ!」
研司が手招きすると、警備龍たちが集まってきた。
金鹿(ka5959)も仲間たちに囲まれ、研司の手料理を見て、ワクワクしていた。
「盛り付けも、ステキですわね」
目を輝かせながら、金鹿は温野菜のサラダを食べて、満足そうな表情だ。
「いただきマース♪」
ぱくりとサンドイッチを食べるパトリシア。
「美味しいナ」
大好きな味……なのに、今日は、なんだか……。
パトリシアは、みんなを守りたいと思っていた。
ここは、夢の中。
それでも、聞きたかったことがあった。
「あのね、アヴィド……もし、パティが歪虚になって、みんなを傷付けるよーになっちゃっタラ、そしタラ、アヴィドは、どーする?」
『は? どした、突然』
アヴィドはサンドイッチを食べようとしたが、パトリシアの様子が気になり、彼女へと視線を向けた。
『他のヤツにも、似たようなこと言われたな。なんでだ? まあ、いいや。何度も聞かれるってことは、アンタたちにとっては、重要なことなんだろう。だったら、答えてやる』
「……アヴィド」
パトリシアは、真剣にアヴィドの話を聞いていた。
愛梨(ka5827)も、固唾を飲んだ。
複雑さは、消える事がない……話す事で、やり辛くなることもあるだろう。
「アヴィド、ぜひ、聞かせて」
迷いを払うように、愛梨が言うと……。
『正直に言わせてもらおう。オレには、分からねぇな』
「「え?」」
その場にいた全員が、目を丸くした。
『だってよ、その時になってみないと、なんとも言えねぇな。状況次第では、仲間を傷つけないように止める手段は考えるとは思うが、それが必ず、成功するとは限らねぇしな』
「パティはネ、まだわからないんダヨ。こうやってお話もできて、クッキーも好きデ、それでも、戦うしかないのカナ? みんなと暮らすのは難しくても、一緒に旅したり、お魚釣ったり、お星さま見たり……叶わないのカナ?」
パトリシアは、目に涙を浮かべていた。
『……んー、誰のこと言ってるのか、オレにはさっぱりだが、もう答えは出てるんじゃねぇのか?』
アヴィドの言葉に、パトリシアが涙を拭う。
「答え? どういうコト?」
『だーかーらー、一緒に旅したり、お魚釣ったり、お星さま見たりってことだよ。そうしたいなら、そうすりゃ良いじゃねぇか。小難しく考えたって、堂々巡りになるだけだ』
「ねぇ。なんで人間と友達になろうと思ったの?」
愛梨の問いに、アヴィドが質問で返した。
『だったら、なんで、アンタらは、オレと友達になりたいとか言うんだ?』
「それは……アヴィドが、人を好いていてくれるのを感じるから……私も、友達になれるかしら?」
愛梨は自分の想いを素直に告げた。
アヴィドが、うれしそうに言った。
『だったら、友達だ。それで良いよな?』
「え? 私も友達? アヴィドの友達になったんだね」
立ち上がる愛梨。
傍にいたリラ(ka5679)も一緒に立ち上がり、愛梨に寄り添う。
「笑おう。愛梨。美人さんが、台無しですよ?」
リラは、愛梨が悩んでいたことを知っていたが、彼女が自力で答えを見つけると信じていた。
何故なら、愛梨は優しくて、強い子だから。
「……ありがとう。リラ、歌をお願い」
「歌わせて貰っても良いですか?」
リラがアヴィドに尋ねると、「聞かせてくれ~」と大げさに羽根を広げた。
思わず、はにかむリラ。
「では、一曲……出会いに感謝して」
顔を合わせて笑顔をかわせたなら、みんなが友達。
繋ぎあおう。
信じる人や、尊敬する誰かと。
祈り響いて世界の皆にこの声が届く様に、と。
リラの歌に合わせて、愛梨が舞を奉じる。
この場にいる龍と人に感謝を込めて。
今はただ、この奇跡の様な時間が、少しでも永く続く事を祈って……。
「俺は……時間がかかっても、アヴィドとは友達になれたら……と思うぜ」
グリムバルドはギターを持ちながら、アヴィドを見据えた。
『なに言ってやがる。オレたちは、すでに友達だ。じゃなきゃ、宴に招待とかするかよ』
ツッケンドンとした態度で言うアヴィド。
「アヴィド、パティもネ、友達だからね」
『当たり前だろ』
「よっしゃ、アヴィドさん、よくぞ言った!」
研司はうれしくて、つい酒を飲み過ぎてしまった。
すでに酔っていて、自分でも何を言っているのか、分からなくなっていた。
「なぁ、アヴィドさん……あの時のアイツな……多分、ヒトだった。俺も、ああなるかもな……欲に、溺れたら、そん時は……あんたが、殺ってくれるか?」
『この、酔っ払いがー。全く、皆して、同じこと言いやがって。友達を、そんなこと、できるかよ。オレはな、自分がどうなろうと……そうなるくらいなら……オレは……』
アヴィドは、理想を実現したいと告げた。研司は夢心地の中、アヴィドの想いを聞いていた。
「藤堂さん、風邪ひいてしまいますわ」
金鹿が、そっと研司の背中に毛布をかけた。
「同じことを言うのは、アヴィドさんのこと、たくさん知りたいからですわ。だって、お友達のことをなんにも知らないなんて、寂しいんですもの」
『……そっか。オレが人間のことを知りたいように、金鹿たちも、オレたちのことが知りたいってことか。なんか、オレ、自分の気持ちばっか、押し付けて、ごめんな』
アヴィドが謝ると、金鹿は微笑みながら、こう告げた。
「謝る必要はありませんわ。間違いだと思うことがあれば、正面からぶつかっていくのも友でしょう?」
『金鹿は優しいな。オレが間違ってから、ちゃんと言ってくれよ』
「ええ、もちろんですわ。友達ですもの」
相手のことを知れば知るほど、苦しみは深くなるだろう。
それでも、金鹿は知りたかったのだ。アヴィドの想いを……。
望む未来の為、越えていかなければならない運命だからこそ。
『彼』がかつて抱いた想い、信じていたものを、この胸に刻み付けたい。
いつかの未来で、アヴィドと名乗った龍が……心優しき友がいたのだと語り継げるように。
●
ジャンルカ・アルベローニ(kz0164)が、研司の作ったサンドイッチを食べていると、ロス・バーミリオン(ka4718)が近寄ってきた。
「あらやだイケメンがいるじゃないのぉ!! ジャンルカちゃんっていうの? ジャンちゃんね? スリーサイズは? 歳はいくつなの? やだ、私ったらこんなとこまできて、はしたないわねっ」
止まることを知らないロスの勢いに、ジャンルカは面を喰らっていた。
「まま、落ち着け。スリーサイズは言えねぇが、歳は26だぜ」
「良い御年頃ねっ。もうちょっとお話したいことがあるけど、私、やることあるから、これにて失礼っ」
足早に、ロスは怪我をしている飛龍たちの元へと駆け寄った。
すでに、時雨 凪枯(ka3786)が飛龍たちの手当てをしていた。そこには、監視役として、赤い躰の龍もいた。
手伝いとして、リステルも飛龍たちの怪我をケアしていた。
「怪我は放置しておくと、跡が残ることもありますからね」
リステルが『ヒール』を使うと、飛龍の怪我が瞬く間に治った。
だが、他にも怪我をしている飛龍たちがいた。
「これで大丈夫、お気を付け」
凪枯は『ヒール』を施し、負傷していた飛龍たちを癒していく。
「あんたは、大丈夫かい?」
赤い躰の龍に声をかける凪枯。
『私は平気だ』
「あら、そんなこと言って、ちゃんと診察しなきゃっ」
ロスは、赤い躰の龍を触診し始めた。
「龍の身体なんて、なかなかお目にかかれないから、かなり嬉しいわっ!! よく見るとイケメンなのよねぇ……」
うっとりするロス。
イケメンの意味が分からず、赤い躰の龍が考え込んでいた。
「悩み事があるなら溜め込まず、吐き出しなさい! 龍なら炎と一緒にかしら?」
ロスは赤い躰の龍を見上げながら、ビシィッと言い放った。
『口から火を吐くこともあるから、気を付けろ』
「ん、やっぱり、ファイアーブレスなのねっ……て、そういうことじゃないわよ。悩みがあるなら、はっきり言いなさいってことよ」
『……イケメンとは、なんぞや?』
赤い躰の龍は、単に疑問に思っていたことを言っただけだが、ロスは「まあ、それが悩み事?」と言いながら、さらに応えた。
「良い男って、存在自体が罪よね。いろんな子に、言い寄られて、大変でしょ?」
『言い寄る? 私が、ここにいるのは、アヴィドのことが心配なのだよ』
赤い躰の龍がそう告げると、凪枯はため息交じりだった。
「この辺じゃ珍しいなら尚更、標的にされるからね。おまけにゃ龍殺しに拘る人型の歪虚まで出てきてる始末さね。人は弱いもんさ。共通の敵を作らなけりゃ纏まれない。本当の強さってのはどんなに見窄らしい姿になっても、生きて自分の居場所に帰る事だと思うねぇ。待つのを諦めるのは辛いからね」
そう言いながら、凪枯はペンの代わりに煙管を回していた。
●
宴が終わる頃、キヅカ・リク(ka0038)はアヴィドと二人きりで話していた。
「僕も人とエルフが解り合えると思って、帝国で必死に戦ってきた。それを、力が無ければ唯の我儘だと言われて……半殺しにあったのが、2年とちょっと前」
『おいおい、さらっと言ってるけどよ、それって只事じゃねぇよな?』
アヴィドは、驚いていた。
小さく苦笑するリク。
「それからずっと闘ってきた。悲劇と否定と拒絶……その中でも最後まで支えてくれた人がいたから闘えた。だから……あの過酷な世界を変えられた」
『すげぇな。オレも、いつか自分の理想を実現したいぜ』
感心して、頷くアヴィド。
リクは、自分の経験を振り返りながら、話を続けた。
「僕たちがこれからどうなるのか、なんて分からない。それでも僕は……この世界の人間ですらないけれど、解り合えるって……心の可能性を信じていたい」
『ああ、オレもだぜ。アンタの言うこと、信じてるぜ』
アヴィドが、無邪気に言う。
今は……【アヴィド】と名乗る龍なのだ。
リクは、その名を覚えておくと決めた。
「僕、よわっちいから、もし迷ってたり負抜けてたらひっぱたいてたたき起こしてよ。僕も君が迷ってたら、起こしにいくからさ。約束だよ」
『分かった。約束だぜ。オレたちは、友達だからな』
照れ笑いを浮かべるアヴィド……これは、神の見ている夢。
それでも、忘れたくない。
約束を……誓った日のことを。
ずっと、ずっと、これからも……。
■完
(代筆:大林さゆる)
依頼結果
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【宴席】笑顔の下に想いたるは 蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009) エルフ|22才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2017/03/14 21:52:55 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/03/14 21:22:01 |