• 詩天

【詩天】後詰の陣にて

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
イベント
難易度
普通
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/03/22 19:00
完成日
2017/03/31 09:25

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

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オープニング

●龍尾城
 火急の用件だと次々に伝令の武者が駆け込んでくる。
 今日は朝から何人目なのだろうかと、エトファリカ征夷大将軍である立花院 紫草(kz0126)は微笑を浮かべながら思った。
「楠木家が先行したと報告は確かなんだろうな!」
 側近の一人が荒々しく言った。
 既に楠木香(kz0140)が率いる武士達は天ノ都を出発しているのを、紫草は知っていたが、この側近は知らないのだろう。
「幕府の指示なく、軍を動かすとは!」
「これは、幕府の権威に関わる問題です!」
 大広間に集まった武家の代表者の幾人から、そんな声が上がった。
 エトファリカ武家四十八家門並びに多くの武家は決して一枚岩ではない。人が一人一人違うように、その考え、信条もまた、人それぞれである。
 紫草は開いていた扇をパチンと閉じた。
「楠木家には急ぎ出撃するように使者を向かわせた所でしたが、段取りに食い違いがあるようですね。この状況ゆえ、食い違いが生じた理由は後ほど確認するとして、今は一刻を争います」
 大将軍である紫草は、先程からの微笑を浮かべたままの表情で集まった武家の代表者らに言った。
 憤怒王の再臨の知らせはそれだけ大きな騒ぎになった。楠木香の動きは、彼女なりの想い故だろう。
(牡丹がこの場に居れば、すぐに追い掛けたでしょうに)
 ふと、西方へ観戦武官として送った武将の姿を思い浮かべた。
「この度は、詩天が絡んでいると聞きます。まずは、詩天の動きを見てからでも遅くはないのでは」
 武家第九位大轟寺家の当主である蒼人が、眼鏡の位置を直しながら呼びかける。
 代表者らはお互いに顔を見合わせた。
「先行した楠木家を場合によっては見殺しにする事になりますぞ」
「猪武者にはそれが相応しいのでは?」
 楠木家を擁護する側と糾弾する側と、実に“平和”だなと紫草は感じた。
 まだ、事態を認識していない者も居るのだろう。
(蓬生の行方に気を取られていた訳ではありませんが……)
 正直言うと、詩天の方は任せて良いだろうと判断していた。
 即疾隊やハンター達が憤怒歪虚の残党を追い詰めていたはずだ。この事態になったのは、彼らの責任ではない。結果的にみれば、幕府側からの支援にもっと力を入れるべきだったかもしれない。
 咳払いをしてから紫草は仰々しく立ち上がった。
「楠木家はそのまま先方とします。全軍のうち、半分は天ノ都の防衛。残り半分は長江へ出撃します」
 異論はあるだろうが、大将軍がそのように命じれば従うしかない。
 慌ただしく武士達は動き出したのだ。

●長江付近
 元々は誰かの家だったのだろうか。
 古ぼけた小さい家に男女が一組み。一人は端正な顔付きをした男性。もう一人は、和服を着こなした女性だった。
「お食事のご用意ができました」
 女性がちゃぶ台に料理を並べてから縁側に座り込んでいる男性に声を掛けた。
 振り返った男性は、その光景に笑顔を浮かべる。
「出来ましたか、虚博さん」
「蓬生様のお気に召せばよろしいのですが」
 その男女は、ただの人間ではない。
 “元”憤怒王 九蛇頭尾大黒狐 蓬生と、無数の蛇の髪を持つ歪虚 虚博の二人だ。
 虚博は昨年の憤怒本陣での戦いから逃げ出し、東方を彷徨っていた。
 憤怒勢力という楔から解き放たれ、好き勝手に自分の研究が出来ると喜んだのも束の間、先日、偶然にも蓬生と遭遇したのだ。
「いいですね。まるで、夫婦みたいです」
 何気ない蓬生の一言に台所へと戻った虚博が、皿を落としてガシャーンと音を立てる。
 夫婦とかいう関係ではない。主従関係も良い所だ。逆らえば一瞬にして消し炭にされてしまう可能性もあるので、彼の言う通りに動くしかない。
 虚博が憤怒本陣防衛の為に生み出した雑魔らの欠点を“わざと”残したのは彼女自身である。他の歪虚は騙せても、蓬生は勘付いているはずだ。
「味は……ちょっと違う気がしますね」
「レシピ通り作ったのですが、やはり食材が足りませんので」
 一番足りないのは愛情であるのは確実ではある。
「それと、例の品も出来上がっております」
「良い事です。おかげで友の晴れ舞台に間に合いそうです」
 虚博が引っ張り出してきたのは、長江に出現する雑魔――鳩マッチョ――の着ぐるみだった。
 大事な友である秋寿さんが、憤怒王を名乗り、大きな舞台に立つのだ。
 それを陰ながら応援したい所ではあるが、蓬生の姿のままでは色々と都合が悪い。その為、諸国を旅していた時に知った“まるごとなんちゃら”に目を付けた。
 着ぐるみならバレないと思ったのだ。だが、問題が発生する。苦労して手に入れた『まるごとはとさん』は、彼の絶大なる負のマテリアルに耐え切れず、あっという間にボロ切れと化したのだ。
「一応、指示された通り、何着かご用意しましたので」
 その為、虚博に指示して、負のマテリアルで編み込んだ着ぐるみを作らせた。
 『まるごとはとまっちょ』である。おまけに数をそれなりに作らせたので、分体を入れ込むつもりだ。そして……。
「これで私は、ゆっくりと見させてもらいます」
 友の援軍は分体に任せて、自身は戦いの経過を見守りにいくつもりなのだ。
「いってらっしゃいませ」
「虚博さんも一緒に行きますよ。そうですね、おやつは、みたらし団子が食べたいです」
 その言葉に虚博が再び皿を落とすのであった。

●後詰
 三条家、楠木家よりも大幅に遅れ、幕府軍は長江より手前に陣を張った。
 位置的には詩天、十鳥城、天ノ都のいずれにも駆けつける事ができる場所であり、先行した武家が、万が一でも敗走した際の後詰でもある。
「三条家が壊滅するような事があれば、ここの全軍で憤怒王へ挑みます」
 どっかりと簡易椅子に腰を掛け、甲冑姿の紫草。
 幕府軍が遅れたのは、万全の準備を整えての事だからだ。
 武家だけではなく、符術の得意な者も呼び寄せた。陣の周りには結界も敷いてある。
「報告です! 憤怒歪虚残党に動きが見られます」
 各地に残っていた残党が憤怒王の再来に呼応して長江に集合する兆しを見せているのだ。
 長江直前に陣を張ったのは、集まってくる憤怒残党を長江へ入らせない意図もある。
「残らず殲滅するように」
「ハッ!」
 次に本営に入って来たのは、十鳥城の代官 仁々木正秋だった。
 緊張した趣で跪き、報告する。
「長江西側から強力な雑魔数体が憤怒本陣へ向けて移動中です」
「強力な雑魔?」
 眉を一瞬潜める紫草に対し、正秋は頷いた。
「迎撃に向かった者が言う所では、見た目は鳩マッチョらしいのですが、強力無比との事です」
 その言葉に顎に手をやり、少し考える紫草。
 特異体でも出現したのだろうか。それにしてもタイミングが良すぎる。何者かの意図を感じる動きでもある。
「正秋殿は、ハンター達と共に、その雑魔の迎撃を命じます。突破を許してはなりません」
「承知しました。正秋隊出撃致します」
 深く頭を下げてから若武者は意気揚々と本営を出て行った。

リプレイ本文

●草花と小鳥の天使
「大丈夫ですよ。傷は浅いですから」
 志鷹 都(ka1140)が救護所内で怪我をした侍に声を掛けていた。
 運ばれてくる侍は多くはない。前線から離れている上に、歪虚や雑魔の襲撃も散発だからだ。
「処置は迅速に行いましょう」
 魔法だけではなく、道具も使って応急処置もしていく。
 出血が酷い場合は、止血を優先。傷口を消毒し、必要であれば縫合もやってのける。薬草の準備も万全だ。
 それに、ここは後詰の陣地内である。戦の準備の為、人員や物資の備えは良い。
「その程度のやけどであれば、しっかりと冷やして下さい」
「重体者です!」
 指示を出した直後、救護所に侍が駆け込んできた。
 担架代わりの木戸に運ばれてきたのは、ザックリと内蔵を貫かれた侍。真っ赤な血が止まる事を知らず、流れる。
 一目で危険な状態だと分かった。
「精神的な魔法は受けていませんね……回復魔法を使います」
 血で手が染まるのも気にせず、大怪我をした患者の状態を素早く把握し、都は魔法を唱える為、意識を集中させる。
 優しい光が救護所に広がる。都の献身的な働きにより、多くの侍が再び刀を手にするのであった。

●蓬生と虚博と
 長江が見渡せる崖の上から発せられる異様な雰囲気を、偶然か必然か、ハンター達は感じた。
 急いで駆け上がると、聞こえてきたのは澄んだ男性の声。
「皆さん、こんにちわ」
 その言葉からは敵意を感じられない。
 むしろ、友を待ちわびていたような、そんな口調だった。

 崖の上で待っていたのは――。

 元憤怒王である蓬生と虚博の二人。
 巨大な野点傘が一際に目立ち、ハンター達が来ると分かっていたのか、椅子が並べられていた。
「悪いね。今回も、勝ち星貰っちゃって」
 キヅカ・リク(ka0038)が遠慮なく、そう言いながら、蓬生に言った。
 憤怒本陣で行われている戦いの事である。
「勝負は最後の瞬間まで分かりませんよ」
 蓬生は動じている様子は見られない。
 不器用な音を豪快に立てて茶を口に運ぶ。
「はぁい! 久しぶりね、マイフレンズ!」
 軽く手を挙げ、ケイ(ka4032)がキヅカの隣――を通り過ぎ、蓬生の隣にサッと座った。
 虚博が一瞬、ギョッとした視線を向けるが、何事も無かったかのように、茶を煎れる為の湯へと視線を戻す。
「これは、お久しぶりです。他の方も居るようで」
 蓬生は一瞬だけ、チラリと十 音子(ka0537)とメンカル(ka5338)に視線を向けた。
 少しだけ瞳を閉じると、団子を手にしていた手にはいつの間にかにペン。
「いくさ場の……喧騒響く、再会に……良く思い出す、久しき味……」
 ノートに詩を書き込んだ。
 彼なりの“旅の成果”という事なのだろう。ケイが満足そうに、云々と頷いている中、虚博が慌てて湯をこぼしていたが……。
「良い旅をしてきたみたいね」
「そちらはどうですか?」
 再び団子を手にしながら蓬生はケイに訪ねた。
 彼女は応えるように旅の写真を見せる。
「これは……どこぞの牧場ですか。素晴らしい景色ですね」
「良い所よ。それと……」
 次々に写真を見せて、説明をするケイに興味津々といった様子で蓬生が写真に食い入る。
 その様子に微笑を浮かべながら、天竜寺 詩(ka0396)が湯を入れ直している虚博に声を掛けた。
「虚博なの?」
「や、やぁ。いつぞやのハンターさんか」
 虚博は変わった雑魔を作る歪虚だ。
 ……中には、どうしようもない雑魔もいたが……。
「あー!」
 そこで詩は、“ある事”に気がついて細い指先を虚博に向ける。
「もしかして、鳩マッチョって、貴方の作品!?」
「ボ、ボクの趣味じゃないからね!」
 そこを真っ先に否定してくるあたり、今回の件でいえば、積極的に加担したつもりは無いのだろう。
 詩は虚博の耳元で囁くように呟いた。
(実は憤怒勢から逃げたがってたんじゃないの?)
(運悪く見つかっちゃってさ)
 恐る恐る蓬生に視線を向ける虚博。
 そんな虚博に対して、哀れみのような、可哀想なものを見る視線でミク・ノイズ(ka6671)はみつめていた。
 きっと、この歪虚の苦労はこのまま続くだろうという予感がする。
 ミクは気を取り直して、蓬生に話し掛けようとした時だった――。

 突如としてマテリアルの動き。
 魔法で生み出された幻影の腕が、虚博を包み込んだ。
「皆、お喋りしないで戦うっす。そいつは前にコッチの中立要請断った敵っすよ」
 神楽(ka2032)だった。
 魔法の腕によって囚われた虚博に対して銃撃を入れる為、銃口を向ける。
「さて、一度部下も王の義務も放り出して逃げたんだから今回も逃げたらどうっす?」
 これで、蓬生が庇うなら、容赦なく銃弾を打ち込むだけだ。
 ケケケと内心ほくそ微笑んだが、思ったより蓬生に動きは見られなかった。
「――つーか、なんで、呑気に茶をっ!」
「味のない団子を作った虚博さんには、ちょうど良い罰ですので、どうぞ、続けて下さい」
 ズズズーとお茶を飲みながら蓬生は他人事のように言った。
 いや、放置というよりかは、神楽の試みが“無駄”だと分かっていたのかもしれない。
「万が一の時の緊急脱出用だったんだけど……」
 大きなため息と共に虚博が残念そうに呟く。
 刹那、黒いマテリアルのような何かが、シュルっと虚博の躰から抜けた。
「え? えっー!?」
 驚いている神楽の目の前で、新しい虚博がシュっと立った。元虚博は蛇の抜け殻のようにと化し、ボロボロと崩れ消えていく。
 追撃を加えようとしたが、音子が割って入る。
「野点に作法はありませんが、だからといって、全てが自由な訳ではありませんよ」
「それに、命知らずもいい所だ」
 ミクも虚博と神楽の間に立った。
 作法だけではなく、友ゆえに、今、この場で戦闘は相応しくないはずだ。
 ハンター分の椅子まで並べてあるのは、戦闘する意思はないという表示とも読み取れる。
「なんだか、申し訳な――」
 蓬生がそんな事を言いかけた時だった。
 場の空気を吹き飛ばすようなメンカルの一喝が響いた。
「解った。とりあえず座れ、いいから座れ」
「いや、もう座ってますよ」
「正座だ。正座」
 有無を言わせないメンカルの勢いに、蓬生と神楽が正座する。
「お前が不用意に出てきたら、お友達の晴れ舞台どころじゃないだろうが。ちょっとは考えろ阿呆め」
 なんでこんな所まで来て自分でも説教しているのかと内心思う。
 陣を出る前に将軍に弟の事を謝ってきて、まだ、胃がキリキリと悲鳴を上げているのに、ここで更に痛みが増す。
 これは、きっと、胃に穴が開いているに違いない。
「全く……気持ちは解らんでもないが……ほら」
 蓬生に渡したのは双眼鏡。
「あそこに俺の弟もいる……行くなよ? フリじゃないぞ。心配だからな……両方、な……」
 バツ悪そうに言いながらメンカルの説教は終わったようだ。
「気をつけます」
 他人事のように微笑を浮かべながら、蓬生は応える。
 そんな元憤怒王に対し、先程、言いかけた言葉をミクは告げた。
「この先、どうしたいんだ? あんたが目指すののは何だ? 私個人として興味がある」
「そうですね。まだまだ行ってない場所が多いですからね」
 本気なのかとぼけているだけなのか。
 この特異な存在が、この先、何を見て、何を思うのか。
 その結果、何が起きるのかを見てみたいとミクは思った。。
「ハンターとて一枚岩ではない。こうして話をしている事すら、快く感じていない者もいるからな」
「それは……歪虚――こちら――も同じなんですけどね」
 チラリと虚博に視線を向けた。
 ビクッと身体を震わせる虚博。なにか、思い当たる節があるのだろう。
 音子が心配そうな表情で、蓬生に言う。
「青木の餌は、当面思い留まって欲しいです」
「どうでしょうかね。青木さんは、大切な友達ですから」
「友人が、自発的な餌になるのは嫌ですし」
 その言葉に「そうなのですか」と返事しながら、蓬生は長江の空を見上げる。
 悲しみにも虚しさにも、あるいは、期待とも見える、その眼差しは、一言で言うと儚い雰囲気だった。
「私から聞いても良いかしら?」
 コントラルト(ka4753)が、ちゃっかりと椅子に座り、自身で持ってきた茶道具を広げていた。
「なんでしょうか?」
「歪虚って、何なのかしら?」 
 ハンター達……いや、生きる物は正のマテリアルを持つ。
 逆に歪虚や雑魔は負のマテリアルを持つ。
 そして、その理りは、異世界でも同様なのだ。だが――。
「強欲王は異界から来た『アレ』に負けて作り替えられた。なら、他の王……憤怒王はどうだったのかしらね?」
「良い質問ですね」
「まあ、答えてくれなくてもいいわ」
 半場諦めたようなコントラルトの台詞に対し、蓬生は音を立ててお茶を飲む。
「いずれ……貴方達は知る事でしょう。その理りの真実を、絶望を、そして、虚無を」
 言葉から氷のような冷たさを感じる。
 不気味というよりも、予言めいた言葉の重み。
 キヅカが首を傾げた。
「秋寿は捨て駒だと思ったが……蓬生は、ここで作った時間で何かをしようとしていたのじゃないのか?」
 世界との心中が望みなら、狙いは邪神降ろし。もしくは、それと同等の何か………蓬生はそれを成す為に、此処いるとキヅカは推測していた。
 だが、蓬生の先程の言葉もそうだが、野点をしている所もみると、とても、そんな様子ではない。
「ここで、友達の晴れ舞台を見ているだけですよ」
「あそこには、うちの九尾斬りと胡蝶がいる。負けやしないさ」
 憤怒本陣の方角へ指先を向けるキヅカ。
「いいのです、勝敗は。最後には全て、虚無に帰るのですから」
「そんな事は、オレが、オレ達が必ず止める」
 強い決意で言い放ったキヅカの言葉にハンター達は頷く。
 一方、そんな雰囲気に全く気にもせず、蓬生は貰った双眼鏡で憤怒本陣の方を見る。
「……ここではよく見えませんね。行きますよ、虚博さん」
「やっぱり、ボクも一緒なんですね……」
 トホホと元気なさげに虚博は両肩を落とした。
 座っていた椅子からスっと立ち上がる蓬生に別れの言葉のように、ケイと音子が言った。
「決着の時が来るまで、お互い楽しくやろうじゃない? また、会える時を楽しみにしてるわ」
「このひと時が、次への可能性とならん事を」
 ハンター達が持ち込だ品をお土産にと両手に抱え、満面の笑みと共に、蓬生は消え去った。
 その笑顔がハンターとの出会いなのか、お土産なのか、分からないまま。

●将来有望
 幾人もの侍が報告に来ては去っていく。
 将軍から指示が必要な事があれば、適切に対処していく。そんな立花院 紫草(kz0126)の様子をシェルミア・クリスティア(ka5955)は傍で眺めていた。
「やっぱり、将軍様って大変なんだね」
「将軍……というものですからね」
 微笑を浮かべる紫草はいつもの通りだ。
 この度の戦は、政治的な事も絡んでいるという噂だ。今後、幕府と詩天との関係がどうなるかは分からない。
 その事について問うてみたが、上手く、はぐらかされてしまった。
 今は新憤怒王に対する戦がどうなるか分からないから――というものもあるかもしれない。なんにせよ、シェルミアに出来る事は決まっていた。
「わたしも、出来る限りの事で協力をしていきたい」
 紫草が見ているものを、同じように見る事が出来る様に――。
 それにしても、先程から本営で一緒に居る武家の視線を感じる。理由が分からないので、不気味だ。
「将来有望……という事かもしれませんね」
 含みを持たせた口調で紫草が言ったが、言葉の真意が分からず、シェルミアは首を傾げた。
 未だ独身である将軍と懇意な若い女性という事であれば、将来を見越して養女に――と思う武家も居るかもしれない。
 だが、それを本人に告げる必要も無いと紫草は思い、再び微笑を浮かべた。

●憤怒残党歪虚迎撃
 犬……いや、狐だろうか、猫のようにも見えるし、足が蛇だったり、とにかく、なんだか分からない。
 いくつかの動物の身体が合わさっているキメラのようだ。
 分かる事は一つ。それが歪虚である事。そして、その事実だけでも十分であった。
「ここは、俺達が受け持つ!」
 愛馬に跨り、戦場を疾走するヴァイス(ka0364)が、独特の形状を持つ七支槍を豪快に振り降ろす。
 歪虚がまともに直撃を受けて、吹き飛ばされた。
 憤怒本陣へ合流を目指す歪虚と、それを迎え撃つ、幕府軍との戦いは、ハンター達の加勢により優位に進んでいた。
「狙った敵は、確実に倒したいかな。数を減らしたし」
 藤堂 小夏(ka5489)も馬の上から刀を振り下ろす。
 戦場を駆け回り、歪虚を探し出し、あるいは、幕府軍の救援に入ったりと忙しい。
 それでも、憤怒歪虚残党を長江へ入れる訳にはいかない。
 憤怒本陣での戦いの邪魔をさせる訳にはいかないからだ。
「こんな大戦争に参加できなかったなんて、末代までの恥にならぁ。だから、そうならない手助けしてぇわけだ、俺様は」
 魔導バイクで颯爽と現れ、侍の危機を救ったトリプルJ(ka6653)。
 耳を澄まし、近くに他の歪虚が居ないか確認を取った。
 一先ずと言う所だろう。トリプルJはしっかりと拳を握る。
「戦って散るにしても、戦場に響き渡る大将軍の大音声の下と、ただの雑魔とじゃ、武家にとっちゃ重みが違うだろ、なぁ」
「助太刀、かたじけない」
 侍達は体勢を整え、刀を構える。
 士気の崩壊は防げただろう。その様子に対し、歪虚は無理でも突破を図ろうと突撃してきた。
 ヴァイスと小夏が並び立つとそれぞれが武器を上段に構える。
 紅蓮のオーラと靄のようなオーラが重なった。
「悪いが、ここから先は通行止めだ!」
「ここは只今、通行止めになってるよ」
 言葉まで重なる二人のハンターが気に入らなかったのか、それとも、単に人間の言葉が通じない個体なのか。
 通行止めですと言われて止まる歪虚ではない。
 強引に頭を突っ込んできた歪虚を、今出せる全力で叩き伏せるヴァイスと小夏。
「月並みな台詞だけど、ここは絶対に通せないんだよね」
 歪虚が何か射出してきたが、小夏は避ける事もせず、次の一撃にマテリアルを込める。
 肉を切らせて骨を断つ。
 踏み出しと共に突き出した刀先が歪虚を貫いた。
「お前に構っている暇は無い!」
 ヴァイスがオーラを纏った槍の一撃を叩き込んだ。
 歪虚は突破したいだろうが、ハンター達も立ち止まっている訳にはいかない。
 広大な大地なのだ。長江へ一体も入れさせる訳にはいかないとなると、自分達が駆け回る他ない。
「これなら、どうだ」
 魔導バイクが唸り声をあげた。トリプルJは後輪を滑らせながら歪虚へと接近する。
 接触するかしないかというギリッギリの所で拳の連打を叩き込む。
 怯んだ所へ、ヴァイスと小夏がすかさず武器を突き出した。
「ドラァァ!」
 回転するバイクと共に繰り出したトリプルJの蹴りが歪虚を吹き飛ばし――塵となって消えた。
 ハンドルを支点にアクロバティックな動きで姿勢を正すと彼は次の標的に向かってスロットを回す。
「よし、このまま一気に制圧する」
 ヴァイスが侍達にも声を掛けた。
 その横を姿勢を低くして愛馬で駆ける小夏。
「憤怒の残党が、新憤怒王の所に向かおうとしてるらしいけど、そうはイカのなんとかってね」
 出現した憤怒歪虚が狩られるのは、もはや時間の問題だった。

●カズマ君は心配性
 鳴月家が構える陣で龍崎・カズマ(ka0178)が人を待っていた。
 牡丹の事で聞いておきたい事があったからだ。事情を話すと陣の中に案内された。
 しばらく待たされている間、陣内を観察するカズマ。整理整頓され規律も乱れがないようだ。
「お待たせしました、カズマ君。牡丹がお世話になっているようで」
 やがて、出てきたのは初老の武士。
 いかなる立場の者かは分からないが口調からは牡丹の教育係だった者かもしれない。
「答えて頂けるって事で良いのか?」
「あくまで、私の立場からみた見解でよければ、という条件ですが」
 そう前置きしてから初老の武士は、話し出した。
 牡丹の立場が鳴月家の中で如何なる立場なのか。
「狙い通り、武の者として家名を背負って貰ってます。それ以上でも以下でもないですな」
「……養女として受け入れられた期待通り、という認識でいいのか」
「跡取りがいない訳ではありませんが」
 表情を見るに、牡丹が家で、特段、浮いているという様子でも無いようだ。
 『女将軍』とも言われる武将だ。実力が物を言っているというのもあるかもしれない。
「我らの“可愛い娘”を心配して下さって、ありがとうございます」
「忙しい中、呼び出して申し訳ない」
 どうやら杞憂であったようだった。

●瞬のダチ
 鬼だからなのか、それとも、その姿格好か、あるいは態度の為か、物珍しそうな視線を受けながらイッカク(ka5625)は築陣を手伝っていた。
 本営近くで武家の偉いさんや大将軍の姿も見てきた。
「お偉い御武家様方々は、やっぱ嫌な顔すんのかね」
 その中で微笑を浮かべたままの大将軍の姿が思い出せる。
 得体の知れない者――そんな印象を受けた。後詰とはいえ、ハンターの女を傍にいさせる辺り、意外とたらしだったりするのだろうか。
 どうでもいい事かと思いながら、イッカクは次の資材に手を伸ばした時だった。
「てめぇは、イッ……クソ鬼か。生きてやがったな」
 クソ生意気な事を言ってきた侍に見覚えがある。確か、瞬といったか。
 口調はひでぇが、瞬の顔つきからは、不快な雰囲気は無い。
「てめーの言葉、そのまま返してやるよ」
「死に損なったのは、お互い様って事か。ますます、気に食わねぇぞ、クソ鬼が」
 二人はすれ違う所で、立ち止まる。
「クソ鬼。簡単にくたばって、足引っ張るんじゃねぇぞ」
「ハッ。誰に向かってそんな事言ってやがる」
 ニヤリと笑った瞬は本営に向かって歩き出した。
 その後ろ姿に、面白ぇ奴だと呟きながら、イッカクは資材を抱えた。

●謎の鳩マッチョ迎撃
 早くも戦闘モードに入ったボルディア・コンフラムス(ka0796)が愛斧を手にしながら、十鳥城の代官である仁々木正秋に声を掛ける。
「正秋じゃねぇか久しぶりだなぁ!」
「ボルディア殿、お久しぶりです」
 バカ丁寧に頭を下げた所で豪快に肩をバンバンと容赦なく叩くボルディア。
「なんか、疲れた顔してるぜ。ちゃんと飯食ってンのか?」
「は、はい。ちゃんと食べています」
 元気が無さそうに見えるのは、激務の為だろう。
「正秋さま、初めまして」
 こちらも元気が無い――訳ではないが、ユリアン(ka1664)が劉 厳靖(ka4574)と共に正秋の前に立った。
「よろしくお願いします、ユリアン殿、厳靖殿」
「おう! しっかり、やれよ」
 厳靖が軽く正秋の額を指で押す。
「作戦とはいえ、二人に危険な任務をお願いするのは、申し訳ないですが」
「気にするな。念には念を入れての事だ」
 目的である鳩マッチョは一直線に走ってくる。
 これが罠の可能性を捨てきれなかったので、厳靖は別動する事にしたのだ。
「ユリアン、ちょいと付き合え」
「はい、厳靖さん」
 真剣な眼差しで応えるユリアン。
 今回は、自身だけではなく、妹が世話になったハンターも同行しているのだ。しっかりと課せられた役割を果たすと心の中に決意を刻み込んだ。
(死ねないなら、生きて欲しい人の為に、足掻くだけだ)
 戦馬に先に乗った厳靖が、ユリアンに手を伸ばしてきた。
 その手をしっかりと握った。
 二人が正秋が引き連れてきた手勢と共に駆け出したのを、腕を豪快に振って見送るミィリア(ka2689)と軽く頭を下げた銀 真白(ka4128)。
「お二人方も、よろしくお願いします」
 そして、嬉しそうな表情を浮かべる正秋。
「正秋さん! お久しぶりでござるー!」
「先日も対峙した鳩マッチョも再び現れたと聞き助太刀に参った」
 一言目でもよく分かる性格の違う二人の侍の台詞。
「あの時の鳩マッチョとは様子が可笑しいとの事で……油断せずに行きたいと思います」
 そろそろ歴戦の戦士っぽく成長してきた正秋の言葉にウンウンと頷くミィリア。
「“おサムライさん力”や“女子力”もばっちりかなかな?」
「はいっ!」
 冗談で言ったつもりなのに、相変わらず冗談が通じない所は、まるっきり成長が見られないが――。
「兄上達が関わってきた詩天の戦もついに大詰めと聞いた。後詰めをしかと務めよう」
 真白が憤怒本陣の方角をみつめた。
 今、まさに決戦を迎えているだろう。彼らの背後を守る為にも、後詰は万全にしなければならない。
 力強く頷いた侍達だった。
「邪魔をさせる訳にはいかない、か」
 アルバ・ソル(ka4189)も憤怒本陣の方角に視線を向けた。
 妹達が必死に戦っているのだ。今、自分に出来る事に全力を出すだけだ。

 砂埃をあげてドドドと走る音だけを響かせて疾走する謎の鳩マッチョ。略して“謎鳩”。
「私、マッチョは好みじゃないもの、だから、ここは絶対通さないんだからっ!」
 マッチョとは対角にあるような柔らかいソレを揺らしながらルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は高らかと宣言した。
 正秋が目のやり場に困ってオロオロとしているが、それに気が付くルンルンではない。
「鳩マッチョ発見! ……あれ? 何か違和感……」
 もはや双眼鏡も要らないほどの早さで向かってくる謎鳩。
「……鳴きませんね。鳩マッチョと言えば、あの特徴的な鳴き声なのですが」
 警戒して抜刀した連城 壮介(ka4765)が目を凝らす。
 走り方も変だ。まるで腰から下だけがもの凄い高速で動いているのに、上半身は微動だにしない。
「偽物でしょうか……何にせよ、妖怪である事に変わりはありません」
 刀を正眼に構えた。
「……オイ、東方じゃ、ああいうパフォーマンスが流行ってのか?」
 ボルディアも斧を構える。あれはただの鳩マッチョではない。
 危険だ――動物のような毛がピンと逆だった――気がした。
「横一列の突進か。これは……威圧感があるね」
 魔法を行使する為、アルバも意識を集中させながら言った。
 無言で横一列というのが、更に威圧感を増す。
「……詩天にも、エイプリルフールってあったのかしら? 中から誰か出てきたり」
 マリィア・バルデス(ka5848)がバイクから降りると機関銃を固定させる。
 エイプリルフールはとりあえず、まだだが、サービスで行われているなら遠慮したい事だ。
「変態だろうが仮装だろうが歪虚は歪虚、全部塵に変えてあげるわ」
 銃口を謎鳩へと向けた。
 その隣で久延毘 羽々姫(ka6474)が怪訝な顔をしていた。
「……何あれ……確かに、あたしゃハンター始めてあんま経ってないけどさ、あんな歪虚、初めて見たよ……」
 兄なら何か知っているだろうか……いや、聞いた事も見た事もないはずだ。
「どっかの何か間違ったゆるキャラじゃあるまいし……」
 とにかく油断はできない。
 羽々姫は拳をしっかりと握った。
「ええい、ツッコんでてもキリが無い、さっさとあいつらにはご退場願おうさね!」
 その言葉に壮介とボルディアが頷いた。
「放っておくと夢見が悪くなりそうなので斬りましょう」
「見た目はアレだがとにかく歪虚だ。全力でブッ潰す!」

 戦端を開いたのはアルバの魔法からだった。
「……大地よ、永久不滅の理りを奏で、その力で我らを守り給え!」
 広大な範囲が紫色の光に包まれた。
 二つ分の魔法を同時に扱う難易度の高い魔術だ。
 横一列になって向かってくる謎鳩全てが巻き込まれ――。
「効果が薄いか……バカみたいなのは外観だけ、という訳だ」
 諦める事なく再び魔法を行使する為に詠唱に入るアルバを横目に、マリィアが冷気のマテリアルを纏った射撃を放つ。
「こういう、戦場コントロールはこっちが十八番なのよ。簡単には抜かせないわよ、変態っ」
 早くも変態呼ばわりだが、彼女の射撃は的確に謎鳩を貫いた。
 行動が鈍くなった事の効果だろうが、再び放たれたアルバの魔法の影響を受け、行軍スピードを落ち、その個体は列から落ちる。
「隊列をバラけさせて個々で相手にした方が良さそうだね……」
 その様子を見て、羽々姫も体内のマテリアルを練って謎鳩へと放つ準備に入る。
「行かせませんよ」
 壮介が空間ごと、謎鳩をマテリアルの刃で斬りつける。
 舞刀士が持つ能力の中でも高位の技だ。切り裂かれた謎鳩は気にした様子もなく向かってくる。
「ニンジャの目は誤魔化せないんだからっ!」
 普通に見ても明らかに、謎鳩は可笑しかった。切られてベロンと皮が捲れるようになった下に別の衣服が見える。
 鳩マッチョの着ぐるみなのだろうか。証拠写真にと符術の代わりに魔導カメラのシャッターを押す。
「来やがれ!」
 奥義を発動したボルディア。
 砂を纏った巨大な武器を全力で振るう。その威力に、さすがに無視して走り抜ける事は出来ないと悟ったのか、謎鳩が反撃してきた。
「圧迫感がすごーいけど、倒し甲斐もあるってことで。頼れる仲間と頑張るぞー!」
 ミィリアが謎鳩の強力な突き攻撃を刀で捌きつつ、手首だけの返しで長大な愛刀を振り上げた。
 女子力恐るべし――ではなく、マテリアルを練った威圧を放った。
「これぞ、おサムライさん必殺“気合でビビらせてバッサリ”で、ござるぅっ!」
 一瞬、動きが鈍くなった謎鳩に対し、刀を薙ぎ払う。
 必殺技の名前は酷いが、桜吹雪が舞う景色は実に見事だった。
 だが――謎鳩は倒れない。カパっと開いた嘴の中から、猛烈な炎の渦が放たれる。しかし、ミィリアに直撃する事も無かった。
 真白が文字通りミィリアを押し倒して避けたからだ。
「ただの鳩マッチョじゃない――これは……あれは、蓬生の分体です」
 着ぐるみがハンターの攻撃によって避け、チラリと見える東方独特の衣服。
 報告書とだいたい一致した。あれは、元憤怒王 蓬生だ。これだけの数が居るという事は分体なのだろう。
 警戒を促す真白の言葉に全員が気を引き締める。
 一方、謎鳩は全部がピタっと止まると……今更のように、ポージングを取る。どうやら、まだ正体を誤魔化したいらしい。
「気持ち悪いです!」
 ルンルンが符術を行使すると同時に、斜め後方から二人のハンターが強襲を仕掛けた。
 別動として動いていたユリアンと厳靖だった。
「チョコの時の鳩ポッポとは違うんだね……先に行くよ」
 新緑の光が風を照らし、ユリアンの背中を押した。
 まるで羽根のようなそのマテリアルの流れは、彼を一気に謎鳩の列へと導いた。
「恩を一つ、返せるかな」
 謎鳩共を斬りつけながら呟いた台詞は風の音の中に溶け込んだ。
 突然の奇襲に謎鳩が一斉に反応する。囲まれる形となったが、視線が厳靖と合った。
「ユリアン!」
 阿吽の呼吸とはこの事か。厳靖の紫紺の龍の幻影が絡みつくような槍が薙ぎ払われた。
 謎鳩共がその直撃を受ける中、素早い動きでユリアンは槍を避けるとゴロゴロと転がり、厳靖の隣へと戻った。
 前後を取られた謎鳩共はその後もしぶとく戦ったが、劣勢を覆す事はできず、残らず全て倒されたのだった。

「とんだ変態だったわ」
 銃の固定を外しながらマリィアは呟く。
 その台詞に同意するように羽々姫も頷いた。
「あんな面白い姿をしておきながら、何気に強かったけど」
 これから先も色々な歪虚と出会うだろうが、しばらくは、あんなのとは遭遇したくない。
 ルンルンは魔導カメラで撮った写真を1枚1枚確認していた。
「残念ながら、顔まで映ってませんね」
 身体は蓬生の衣装。頭だけの鳩マッチョの状態にまで剥がれており、それもそれで不気味だ。
 その横で、壮介がパタリと地に伏せる。激しく戦い過ぎたせいで疲労の限界だ。
「全て片付いたらので、寝ます……詩天なら、きっと大丈夫……です」
 果報は寝て待てという事のようだ。
 さくっと壮介が寝息をたて始めた所で、アルバも大きく深呼吸をした。
「信じてますよ」
 突破を図ろうとした謎鳩は全滅させた。
 これだけの強さがあるのだ。万が一でも背後を突かれたら惨事になっていた可能性もあるだろう。無事に役目が果たせて良かったと思う。
「そーいや正秋、瞬はどした?」
 ボルディアの質問に、音を立てて納刀した正秋が答える。
「陣地で留守番です」
 それはそれで可哀想な役割だ。
 貧乏くじを引いているのは、もしかして、瞬なのかもしれない。
「大勝利、でござる!」
 満足そうに刀先を掲げるミィリア。
 その立ち姿は、Samurai Pink的な感じで絵にはなるが。
「自分が白で、ミィリア殿が桃ならば、正秋殿達は何色になるのかも気になる……」
 仲間の一人は葵色だろうか。あるいは空五倍子色だろうか。
「拙者は何色か……」
 真剣に悩みだした正秋。
「厳靖殿は紫っぽい雰囲気ですし、ユリアン殿は風のような雰囲気ですね……ボルディア殿は……犬って感じでしょうか」
「おい待て、正秋。俺だけ、可笑しいぞ」
 その抗議に驚きの顔を向ける正秋。
 この侍のネーミングセンスも、ミィリアと引けを取らないようだ。
「つー事は、俺はさしずめ、サムライ・ヴァイオレットって所だな」
 厳靖はそういうとユリアンの肩を叩いた。
「俺はヴィントでお願いします」
 ちょっと洒落てる感じの発音に、正秋が思わず感嘆とした。
「皆さん、良いですね。拙者も響きの良い二つ名を考えたいと思います」
「それなら、ミィリアが決めてあげるでござるよ!」
「いや、それは……ちょっと……」
 詰め寄るミィリアの態度に思わず引き気味の正秋の姿に一同は笑い声を上げるのだった。


 ハンター達の介入もあり、後詰の陣は万全の体勢を整える事が出来た。
 憤怒残党歪虚や謎の鳩マッチョを憤怒本陣に入れる事なく迎撃し、後詰としての役割も達成。
 あとは……決戦の行方を見守るだけである。


 おしまい

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参加者一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • 虹の橋へ
    龍崎・カズマ(ka0178
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士

  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • 征夷大将軍の正室
    天竜寺 詩(ka0396
    人間(蒼)|18才|女性|聖導士

  • 十 音子(ka0537
    人間(蒼)|23才|女性|猟撃士
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • 母のように
    都(ka1140
    人間(紅)|24才|女性|聖導士
  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエ(ka1664
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • 大悪党
    神楽(ka2032
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士
  • 春霞桜花
    ミィリア(ka2689
    ドワーフ|12才|女性|闘狩人
  • 憤怒王FRIENDS
    ケイ(ka4032
    エルフ|22才|女性|猟撃士
  • 正秋隊(雪侍)
    銀 真白(ka4128
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人
  • 正義なる楯
    アルバ・ソル(ka4189
    人間(紅)|18才|男性|魔術師
  • 正秋隊(紫龍)
    劉 厳靖(ka4574
    人間(紅)|36才|男性|闘狩人
  • 最強守護者の妹
    コントラルト(ka4753
    人間(紅)|21才|女性|機導師
  • 三千世界の鴉を殺し
    連城 壮介(ka4765
    人間(紅)|18才|男性|舞刀士
  • 胃痛領主
    メンカル(ka5338
    人間(紅)|26才|男性|疾影士
  • スライムの御遣い
    藤堂 小夏(ka5489
    人間(蒼)|23才|女性|闘狩人
  • 義惡の剣
    イッカク(ka5625
    鬼|26才|男性|舞刀士
  • 忍軍創設者
    ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784
    人間(蒼)|17才|女性|符術師
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • 符術剣士
    シェルミア・クリスティア(ka5955
    人間(蒼)|18才|女性|符術師
  • 雨垂れ石の理
    久延毘 羽々姫(ka6474
    人間(蒼)|19才|女性|格闘士
  • Mr.Die-Hard
    トリプルJ(ka6653
    人間(蒼)|26才|男性|霊闘士

  • ミク・ノイズ(ka6671
    エルフ|17才|女性|機導師

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依頼相談掲示板
アイコン 行動表明卓(不使用可)
ボルディア・コンフラムス(ka0796
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2017/03/22 18:27:56
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/03/20 19:00:53
アイコン 【確認用】質問
龍崎・カズマ(ka0178
人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2017/03/20 08:52:06