• 王臨

【碧剣】Snow-Scape2【王臨】

マスター:ムジカ・トラス

シナリオ形態
シリーズ(続編)
難易度
不明
オプション
  • relation
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/03/26 07:30
完成日
2017/03/31 09:28

みんなの思い出

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オープニング


 深々と、積もる雪。
 灰色の雲を突き破って降りる陽光を浴びてもなお、不変の凍土である。山から吹き降りる風の音と、樹々が揺れる乾いた音だけが、その光景に異なる気配を載せていた。

「――静かだ」

 それでも、そんな光景を眺めていたシュリ・エルキンズは、思わず、そうつぶやいていた。
 王国北西部の生まれではあるが、これほどに雪に覆われた世界を見たことはあっても、その中で生活をすることは、考えたこともなかった。
 持参したカップラーメンを啜りながら、ほう、と、湯気交じの吐息をつく。




 一泊二日の探索を終え、依頼主である村に戻った一同は、探索で得た情報を村人たちへと告げた。

 今回の一件には、まず間違いなく、歪虚の関与が疑われること。
 歪虚は既に集団と化しているであろうこと。
 ハンターたちを見つけたが、特になにもせずに、偵察だけで襲ってはこなかったこと。

 
 木造の家、それも大きな居間を有する家屋の中心には大型の暖炉が据えられている。その火の熱がこもる中で、その話を聞いた村人たちは、悲嘆に暮れていた。
「ぞっとしねえな」
 そうつぶやいたのは、今回の予兆に気づいた狩人である。両手を合わせ口元に当てた壮年の見開かれた眼には、純然たる恐怖がこびりついていた。それを振り払うように、気忙しく瞬目するも、効果は見られない。
「……俺も見られていたかもしれねえってことか」
 言葉は、深刻なものだった。ハンターたちの情報を合わせると、そういう事実に結びつく。
「過ぎた話だ。気にしすぎもよくねぇ。運が良かったなら、そう思っとく方が得だろ」
 紫煙を吐き出したハンターの女性がそう言えば、狩人は青白い顔に、苦笑を浮かべた。

「歪虚の規模は解りませんが、すぐにでも、騎士団に報せを出した方がいいと思います」
「そうだね……歪虚たちの動きが解らないけど、予断は許されないと俺も思う」
 やわらかい雰囲気の少女が、断定的に告げた内容に、足元の犬を撫でる中世的な風貌のハンターが応じた。
「そうだな……ハンス」
「ああ」
 村長が言えば、30代ほどの男性が立ち上がり、急ぎ足で部屋を出て行った。
「どのくらいかかるんだ?」
「実際に被害が在っていないとはいえ、騎士の派遣までは――おそらく、二日、だな」
 村長の答えに、問いを発した黒髪は、何かを言いたげな表情になって、しかし、飲み込んだ。

 そこまで、かかるのか。それで、たどり着けるのか。
 どちらも等しく、彼の中で生まれた問いであった。

 二日という時間はあまりに長く、そして――あまりに、短い。この雪道を、ハンス某が抜けて転移門がある中継集落までたどり着く時間。それから、事態を受けて十分な騎士が、越冬装備をもって、ここに駆けつけるまでの、時間。

「なら、それまでの間を、どうする?」
 この中で、唯一ハンターでは“ない”部外者の学生、ロシュ・フェイランドが言えば、しばし、沈黙が落ち込んだ。
「――何か、できることを」
 沈み込んだ沈黙を払うように、銀髪の少女が、直向きな声で告げると、傍らで腕を組んでいた男が、「そうだな。どの道、この雪じゃできることも限られてる」と言うと、村人たちは渋い顔をした。
 もっとも、そこには冗句の気配がある。退屈な冬を忍ぶのは彼らにとってはあたりまえ。しかし、外からやってきたハンターたちが言ったことに、奇妙な響きを感じたのだろう。

 こうして、ハンターたちの依頼は、続く盤面へと移ったのだった。



 スープが冷えないうちに飲み干そうとしていたところで、声を掛けられた。
「此処にいたのか、シュリ」
「ロシュ……」
 振り返ると、相変わらず冬用の装備に身を包んだままのロシュが、怪訝そうにこちらを見ている。その視線には、少しばかりの不満が滲む。
「打ち合わせにも参加せず、何をしていた?」
「――天気もいいし、今なら一人だけでも見張りに立っておいたほうがいいかな、って思って」
「……ふむ」
 嘘ではないので、見張りに立ちながらカップラーメンを食べようとしていたことは、ひとまず、伏せておくことにする。すると、ロシュは気を取り直したか、不遜な表情を浮かべ、こういったのだった。
「騎士団が来るまで、二日だ、シュリ・エルキンズ」
「……」
 その意図は汲めず、さりとて、不穏な気配は感じたため、言葉を飲み込んだ。
 ロシュは、こう言っている。

 僥倖だった、と。
 騎士団が来るような事態に、先んじてこの二人が居た。
 すなわち、“歪虚対策会議”のロシュとしては、都合がいいことに、と。

「――」
 シュリとしては、沈思せざるを得ない。ロシュは、貴族である。それも、おそらく、“貴族派”の。
 だとすれば、彼が王国の――騎士団に対してライバル意識を抱くのは不自然ではない。そのくらいのことは、シュリにも解ってきた。シュリ自身は騎士団は勿論尊敬しているし、王家を良しとしているし、貴族に良い思い出もないのだが……とにもかくも、ロシュはそうではないらしい。
 そんなシュリの胸中を知ってか知らずか、ロシュは鼻を鳴らし――優男な風貌に、獰猛な笑みを浮かべた。
「……そんな顔をするな。どのみち、私たちがこの村に居る限り、“助けない”という選択肢はありえないのだから」



 ハンスは冬の村に残った、数少ない若人である。雪の無い季節には粉挽きを預かり、村の重役の覚えもめでたい青年であった。
 深い雪道ではあるが、彼にとっては幼年から通り慣れた道でもある。細々とした道の"癖"とも言うべきものを辿るように、走る。
「……っ!」
 ふと。視線の先に、黒々とした影が動いた。緊張が走るが、青年は影の正体が茶色い旅装のローブを纏うた人間のそれであるとわかると、大げさに息を吐いた。勝手に驚いてしまった自分を恥じる気持ちを押し隠すように、その人影へと告げる。
「おい、ここから先に進もうというのなら、やめておけ。歪虚が出てい……」
 青年は、その続きを、言い切ることはできなかった。手を頭上へと差し出されたと思った瞬後には、異音と共に四肢が脱力し、仰向けに、雪上へと倒れ込む。
 驚愕の眼差しのまま、事切れたハンスはただ、濁った空を見上げている。最後に一度だけ、その口元から浅い吐息が零れた。

 残った独りは、ローブの隙間から彼方を見やった。

「……さて。"今度"はうまく行くでしょうか」

リプレイ本文


 外に出ると飛び込んできた、綺羅びやかな雪の眩さに、ジュード・エアハート(ka0410)は目を細めた。
 陽光を無遠慮に跳ね返す光景は、常ならば心地よいはずだ。なのに。
 ――なんだろ、ぞわぞわしてヤな感じ……。
 胸中に翳る予感が、その美しさを曇らせた。
 ヴォルフガング・エーヴァルト(ka0139)はそんなジュードの胸の裡を汲んだのだろうか。「面倒だな、色々と」と言い、衣服のポケットというポケットを漁る。目当てなものが見つからなくて、不機嫌そうに舌打ちを零した。これがバカンスならば愛煙家の欲求を存分に満たしつつ、読書に興じることができたはずだ。
「……そうも、いかねぇな」
 こちらを探る程度の知性はある歪虚が相手と知れていたから、皮肉げな吐息を零す他ない。生憎、煙草も切れてしまっていた。

 『誰の差し金だ』
 柏木 千春(ka3061)の脳裏を巡るのは、ロシュの言葉。あれからどうにも避けられている気がする。
 歪虚対策会議。
 ――あそこには、何らかの意図がある。
 あの反応は、それを匂わせるものだった。部外者であるハンターにそれを突かれて、思わず零してしまったものなのだろう。
 ――ロシュさんがシュリさんに関わるのは、利用するに値する何か……魔剣に関わる打算的な理由があったから?
 シュリが持つ碧剣。その異常性を、徐々に知るに至って、そう思う。
 けれど、とも、思うのだ。ロシュが、それを狙っている、とは――確信は、抱けない。ロシュ自身のシュリへの関わりようを思えば、なおのこと。
「シュリ」
 そんな中、神城・錬(ka3822)が外で見張りにたっているシュリに声を掛けた。
「ふぁい?」
「……あー」
 ずずり、とカップラーメンを啜るシュリの様子に、錬は微かに目を細めたが、結局のところ、すぐに頭を振った。少年の脳天気な様子に、毒気が抜かれたのもある。
「何か見つかったか?」
「いえ……はふ、怪しい影は、特に」
 スープを飲み干したシュリの返事に、錬は目を細めた。歪虚が、この村を狙っている。
 ――歪虚、が。
 錬は無意識に拳を握りしめていた。心の奥で燻り、隙あらば燃え盛ろうとする憎悪を戒めるように、強く。
「皆は、どうするの?」
 ハンター達を見回したマーゴット(ka5022)が水を向ければ、それぞれに思うところを示した。ヴォルフと千春は村に残る。村外への偵察に行くというロシュに、ジュードがついていくと名乗りを上げ、錬は別行動で同じく偵察をする、という。
「え、と……」
「シュリさんも、こちらに残りませんか?」
 悩むシュリに、千春は村人に配慮するように声を潜めて、続けた。
「もし、ここが襲われた場合が困りますから……」
「……わかりました」
 それが決め手となり、シュリは居残りが確定。ロシュが不満げに鼻を鳴らす姿を、傍らに立っていたジュードは微笑みと共にそっとしておくことにする。頃合いと見て、アニス・テスタロッサ(ka0141)は煙草の吸い殻を雪に投げ捨てると、
「ハンスだったか……アイツを後を追う形で辺りを視てくる。何もなきゃ3、4時間で戻ってくるつもりだ」
「道はわかるのか?」
「跡を辿るくれェわけねェよ」
 ヴォルフの言葉に、不敵に笑うアニスは片手を上げ、雪道へと向かい歩きだした。
「一人で行かせて大丈夫かってのもあったしな。追いつけるとは思えねぇが、それならそれで順調ってこった……ま。日暮れまでに戻らなかったら死んだと思ってくれや」
「……気をつけて、くださいね」
 アニス自身の言葉で、正しく危険を認識しているのだ、と知れ、シュリはその背を見送り、無事を祈った。



 シュリとマーゴットは村の内部を見回り始めた。
 警邏と村の状況を確認するためだ。周りながら、シュリは足場や付近の様子を確認しては、断りを入れて納屋や倉庫の農具や魔導銃に手を伸ばして確認している。防衛を意識しての動きを眺めながら、マーゴットは胸中で呟いた。
 ――もし、私が仕掛ける側なら。
「あの時、私達を監視していた、あの『獣』」
 声に、シュリの視線が届く。
「痕跡を見つけられれば向こうにとっては不都合が生じる筈なのに、私達を監視するだけで何も仕掛けてこなかったのは、何故?」
「……それは」
 逡巡する気配。それだけで、シュリも解っているのだろうと知れる。挙動不審な歪虚。それを指示していたであろう存在。その意図は、解らないが――。
「誘うだけなら、僕たちが村を離れただけでよかった。僕たちが狙いなら、森に居る僕達を強襲すれば良かったはずです」
 狩人が森の異常に気づいたこの現状が、恐らくイレギュラーなのだとシュリは言う。
「……となれば、相手にとって不都合となる事態は援軍を呼ばれる事。もしそうだとしたら」
 シュリはただ、硬い表情で頷きを返すのみ。
 だから、マーゴットは自ら、こう結んだ。
「……恐らく騎士団は来ないと思う」



 哨戒をするというロシュに、ジュードが追従する形。ロシュは北上を選び、山森を目指すように足を進めている。
 ――何か、目的があるんだよね……?
 周囲を警戒しながら、ジュードは黙考していた。そして。
「ロシュくん」
「……どうした」
 声の質に、ジュードが感じた手応えは、好感触、というものだ。
「騎士団が到着するまでにこの辺りが歪虚に包囲されたとしたら……どうする?」
「……」
 ――落ちた沈黙に、不安を覚えない程度には。
 果たして、ロシュはすぐに口を開いた。
「敵の規模が問題だ」
「どのくらいか予想できてるの?」
「貴様だってそうだろう? 包囲、と言うくらいだ」
「……だよね」
 そうしてしばらく、歩く。
 騎士団が来るまでの二日という猶予は、あってないようなものだ。"敵"は、こちらを見ていた。状況を見極めることに腐心するような相手が待つ理由もない。
 周囲に目を凝らすジュードに、ロシュは視線を向けることなく、言った。
「恐らく、この森に居た獣達が相手になる。逃げようとしても、非覚醒者の足では逃げられん」
 淡々と告げられる言葉は、氷雪よりも冷たく響く。しかし、ジュードはその奥に滾る赫怒を、確かに感じた。
 そして。
 ロシュは、こう言った。

「村の人間を死兵にするしかない」




「歪虚が襲ってきた際の、避難場所は決まっているんですか?」
「……ある。村の中心の会議所だ」
 村長宅に赴いた千春の問いに、議論を交わしていた村の重役は静まり返った。そこに。
「もし、騎士団の到着が遅れたとしても、私達だけでも守れるようにしておきたいんです」
 単刀直入に、切り込んだ。
「食料の準備を、しておきましょう。できれば武器になりそうなものも用意したいところですが……」
 慨嘆が、部屋に満ちた。ハンターの少女は、歪虚の襲撃を前提に行動している。そのことが、この老人たちに暗い影を落としたのだ。
「……歪虚は、来るかの?」
「目的があるとするなら、ですけど」
 この村は、必ず、襲われる。それを確度の高い予測として、千春は行動している。
「見張りも、立てましょう。夜目が効く人が良いですが、24時間体制で、交代しながら見張れるように……どなたか、人手に心辺りはありませんか?」


 他方、ヴォルフガングは煙草を求めてさまよい歩いていた――わけでは、無い。
 村を覆う、木製の『柵』の見回りに来ていたのだった。雪深くに埋まったそれを、ぐ、と押し込む。
「びくともしねぇか」
 超小型の動物なら抜けてしまうだろうが、飛び越えるには些か高さがある。それに、頑丈だ。ところどころ穴はあるが、補修は難しくあるまい。
 そこまで見てとって、ヴォルフガングは視線を巡らせた。冬の村人たちは、日があるうちにその日やるべきことを終わらせるべくあくせく働いている。
「よお、アンタ」
 ヴォルフガングはその中の幾人かを呼び止めると。
「この柵、立派なもんだが、随分と傷んできてるみてぇだ」
「……そ、それがどうした?」
 中年が怪訝そうに言うと、ヴォルフガングは獰猛に笑った。
「"獣"に食い荒らされてもしらねェぜ。今のうちに修理しておこうや」



 犬を連れ、村を出た錬。連れた犬は村から出て以降、記憶を刺激されたか、不安を滲ませている。
「……すまんな」
 時折詫びながら、その背を撫でる。晴れてはいるが、雪上には獣の痕跡は乏しい。どの辺りまで足を伸ばすかと検討し、すぐに考え直す。
 ――見つかるまでだ。
 ロシュ達は山を目指しているらしい。ならば、と網羅的に村周辺を探る事にする。何か痕跡があれば隠密して再調査をする予定だ。
 しかし、雪原は広大だが、遠くの森や山などならいざしらず、身を隠すのは僅かな勾配にしかない。隠密をするには些か不便かもしれない。
「まあ、いいさ」
 足で探すことは苦ではない。逆に言えば、身を隠す場所も無いのならば、索敵はしやすいのだ。
 足取りが渋くなる犬の背を軽く叩いて促しながら、錬は歩を進めた。



 嫌な状況だ、と。歩きながらアニスは零す。
 ハンスが通ったルートは、彼女自身が村に向うために通った道でもある。晴天のため、積雪もなく、ハンスの足跡を追うことは難しくはなかった。
「地の利は向こう側だ。村自体が囲まれてたっておかしかねぇ」
 "視線"を意識して、足を急がせることはしない。
「散発的なハンター派遣じゃまず対処できねぇし、連中もそれをわかってるはずだ。だから、知らせに行こうとする奴は………」
 予感があった。だから――。

「……」
 視界の先に、"それ"を見つけても、アニスはかすかに舌打ちを零すのみであった。
 雪原に、黒々とした影がある。
 それが、雪上に倒れた青年の姿になるであろうことは、想像に難くなかった。



 村の様子が慌ただしくなってきた。千春の言葉とヴォルフガングの働きかけもあって、各所で補修と、物資集積の準備が進められている。
 シュリとマーゴットも合流して物資移動を手伝った後、周辺の偵察に出た。錬と時間差になる形だ。敵影がないことは解っていたが、マーゴットの希望もあった。
「緩やかな勾配はあるけど、周囲を一望できる程の高所はない……」
 マーゴットの呟きに、シュリは頷いて同意。
「村の中に高台があればよかったんですが」
「そのほうが索敵は容易だったけど、無い物ねだりかな」
 獣達に指示を出している者が居るなら、こちらを見張っているはず――という見込みで近隣の偵察に臨んだが、見つかるのは先行して索敵をしていた錬と犬の足跡ばかりで、それ以外の気配は無い。
 むしろ、錬の索敵の徹底ぶりが目につくばかりである。
 ――何か、見落としている?
 漠然とした焦りに追われるように、マーゴットは歩を進めた。
 襲撃を受けるであろう村。それを遠景に眺めながら、呟いた。
「私はシュリの様に前を向ける程の強さはまだ無いかもしれない」
「……そんなことは」
「ううん、いいの」
 否定するシュリに、マーゴットは真剣な表情を崩さずに、こう結んだ。
「……こんな所で立ち止まれない。私達が請け負ったのなら、私達の手できっちり解決してみせる」



「誤解されたくないから最初に言っておくけど、俺、難しいことは全然解んないからね?」
 "帰路"を急ぎながら、ジュードはロシュの背にそう投げかけた。ロシュは振り返ることなく、言う。
「戦術の議論がしたかった訳ではないのか?」
「そーゆーのじゃないよ。強いて言えば……女の勘、みたいなやつ」
「ん?」
 じろり、と無遠慮に投げられる視線に、ジュードは微笑を返す。
「難しい事情や理屈抜きでさ、いざっていう時に助け合える友達は大切。これからのコトも、さ」
 砕けた口調で、ウィンクを一つ。同盟流のフランクな仕草に、ロシュは――苦笑を零した。
「この難局に、ふざけたことを言う」
「心配なんだよ。"ロシュくん"が」
「…………」
 まっすぐな言葉は、果たして、どう受け止められたか。
 視線を切ったから、表情は伺えない。ただ、こぼれ落ちた苦笑の気配に、ジュードは笑みを零したのだった。



 外に出ていた面々が村に戻るとすぐに、村からやや離れた位置で合流することとなった。先に戻っていたアニスの呼びかけのためだ。
「……アニスさん、それ」
 まず驚かれたのは、アニスの姿だ。
「ああ……」
 くしゃり、と頭をさすりながら、舌打ちを零す。その姿は、返り血で汚れていた。
「……悪い予感ってのは当たるモンだな。ハンスは死んでた。んで……」
 ハンスが身に付けていた衣服もまた、血に染まっている。
「丁寧に俺が近づくまで待ってから、襲ってきやがった」
 アンブッシュだ、と。小さく結ぶ。警戒していたからこそ、被害を受けることなく迎撃できた、と。
 ――クソが。この落とし前は必ずつけてやる。
 胸中で吐き捨てるアニスを見やりながら、ヴォルフガングは呟いた。
「歪虚になっていたのか」
「ああ」
「……賽は投げられた、か」
 状況、此処に極まれり、だ。煙草が恋しくなり、ポケットを漁るが空振りに終わる。
「そっちはどうだった?」
「収穫はあった」
 アニスが水を向ければ、錬が最初に応じた。
「結論から言えば、やはり、監視の目はあった」
「……というと?」
「"獣"だ。距離こそ離れていたが、数キロ離れた位置からこちらを見張っていた」
 勿論、そんな位置から村を見張れるはずもない。マーゴットが、その意味するところを引き継いだ。
「……私たちが、逃げないように」
「恐らくは」
 錬が頷くと、辺りに重い沈黙が落ちた。その中で、ジュードはロシュに目配せをすると、すぐさま頷きが返る。
 故に、ジュードは軽く手を掲げながら、こう言った。

「……この村の北部。山麓に、大量の足跡があった。恐らく、獣たちのものだと思う」





 三々五々に散った後、夜警として立っているシュリの胸中は、苦い。
 ――果たして、守り切れるか、どうか。
 大量の、獣型の歪虚。この村を護り切れると断言できない。
 けれど、その胸中を乱しているのはそれだけではなかった。

"歪虚対策会議。そのお金が、どこから来ているかを……シュリさんも、知っておいた方が、良いと思います"
 千春の、言葉だった。
 パルムを使ってでも、という進言もさることながら、心に刺さったのは――。
"知らなければ、護れないことも、あると思います"
 という、直向きな言葉。

「はあ……」
 重く、深く。嘆息が溢れた。
 貴族と、王家、ひいては、騎士団。その確執は深い――と、今更ながら、自覚する。何かがある、とは思っていた。けれど、そこを探るということは、ロシュを、疑うということだ。

 シュリは悩んでいた。
 決死の戦場でどう動くべきかと、同じくらいに。









 翌日。歪虚が大挙して寒村を襲った、冬の日。
 轟々たるマテリアルの焔が、雪原に奔った。
 見えず、聞こえず、知らず。しかして確かに――それは、感情の火種となった。


 ――歪虚を、殺せ。


 言葉にすれば、そのような。

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参加者一覧

  • Stray DOG
    ヴォルフガング・エーヴァルト(ka0139
    人間(紅)|28才|男性|闘狩人
  • 赤黒の雷鳴
    アニス・テスタロッサ(ka0141
    人間(蒼)|18才|女性|猟撃士
  • 空を引き裂く射手
    ジュード・エアハート(ka0410
    人間(紅)|18才|男性|猟撃士
  • 光あれ
    柏木 千春(ka3061
    人間(蒼)|17才|女性|聖導士
  • 良き羅針盤
    神城・錬(ka3822
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • 元凶の白い悪魔
    マーゴット(ka5022
    人間(蒼)|18才|女性|舞刀士

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/03/23 20:11:38
アイコン 質問卓
柏木 千春(ka3061
人間(リアルブルー)|17才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
アイコン 相談卓
柏木 千春(ka3061
人間(リアルブルー)|17才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2017/03/26 01:13:40