ゲスト
(ka0000)
【王臨】虚無へ向かうacademia
マスター:坂上テンゼン
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 7日
- 締切
- 2017/03/30 22:00
- 完成日
- 2017/04/07 18:45
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●実験レポート 王国歴1017年2月9日実施
――高威力かつ広範囲の攻撃は評価できる。しかしながら、ハンター複数に対するには課題が多い。
問題点として、ハンターは多種多様なスキル、装備、幻獣やゴーレム、魔導機械、異世界の機械等を使役することにより、あらゆる状況に対応が可能である点が挙げられる。
単純な火力だけで撃破するのは難しい。
また、かの個体は制御不能であるため、他の戦力との連携が不可能であることを考えると、欠点を補う事は困難。
汎用性が高く、連携の取れる集団、または敵の連携を乱す方法をもってこれにあたる必要があると思われる。
●歪虚研究者
「こんなものか……」
何処とも知れぬ部屋の中、机に向かい文章を纏めている歪虚がいた。
薄暗い部屋の中でも一際目立つほどの黒づくめの服装に身を包んでいる。しかし、その背中には毒々しいほどに目立つ赤い模様があった。その姿は人間の女と変わらないものであったが、人間らしさはグロテスクなまでに感じさせない。
彼女は一通り書き終わり、椅子にもたれて一息つく。見直しは暫く時間を置いてからだ。
そして思い出す。あの被験体のことを。
(茨小鬼などという素材には二度とお目にかかれまい……。
本当なら保存するべきだったのかもしれないが、あそこまで手を加えてはそれすらも叶うまい。
どのみち崩壊はまぬがれぬ体だった。
むしろ、あそこまで持ったのが驚きだ。さすがは希少素材といったところか。
戦闘データまで記録できたのは上々の結果だったと言えるだろう。
それでも……惜しいと思うのは……
もっと安定させ、かつ、制御可能な上で戦闘力を発揮できていれば、効果的な戦力となったであろうが……
それは今後の課題だな。
実現するには……例えば……)
「ドクター! ドクター・レッドバック!」
歪虚が幾多の仮定と実現方法を内的世界で模索にふけっていると、部屋の外から呼びかける声があった。
「入りますぜ! 入るぜ入っちゃうぜ! いいよね入ってもどうせ気づくめえ!」
半ば自棄気味な言葉とともにドアが開かれ、声の主が入ってきた。
人間の姿ではない。コウモリを無理矢理人間の、それもかなりひょろ長いサイズに伸ばしたような姿をしている。顔は犬に似ていたが、そういうコウモリもまた存在するので、おおよそコウモリの化け物といって差し支えない見た目をしている。それは、やはり歪虚だった。
コウモリ人間型歪虚は、自らがドクター・レッドバックと呼んだ女歪虚のすぐ横、間違いなく視界に入る場所に、ふんぞり返るようにして立った。
そして気づいてくれるのを待った。
……
「何の用だ、パダギエ」
「うん時間にしておよそ六分というところだね。今時の若い奴なら到底待ってはいられねー」
「結果を得るためには時間に縛られるべきではないと、私はお前達にも言ってあるはずだが」
「へーへーお邪魔して申し訳ありません。
さておき兵器の製造の方なんですが、数が揃いましたってんでご報告に来たんですよ」
「…………それはもしかして報告か?」
「そう言ってますがな。もうちょっとコミュニケーション能力持って下さいよ頼むから」
「………………なるほど、理解した」
「理解遅ぇ」
「戦闘員を召集し、完成した兵器を配備せよ。いつでも出撃できる準備をしておけ。指示は戻り次第伝える」
レッドバックはそう言うなり、突如として立ち上がって部屋を出て行った。
「そして行動早ぇ……」
あとにはパダギエと呼ばれたコウモリ人間型歪虚がたった一人部屋に残るのみだった。
●ベリアル軍 前線基地の一つ
「私だ。戦闘準備が整った。
なるべく戦闘の機会が多そうな所に配備してもらいたい」
「前触れもなく突然やってきたかと思えば……」
ベリアル軍の士官は頭を抑えた。
本当に痛むのは頭よりも胃だったが、なぜか反射的に頭を抑えた。
「必要ないなら自らの判断で動く。
ハルトフォートに攻撃を仕掛けても」
「待て。早まるな。必要ないとは言っておらん。こちらも色々考えることがあるのだ。何せ我らが主がああなっては……そんなことはいい。地図を見ろ」
そう言って士官は地図を示した。地図上には配備されたベリアル軍の戦力や、人類側の戦力、そしてその動きを示す矢印が示されている。
「レッドバック。貴公はこの位置に陣取り、敵の補給線を断って頂こう。
ここは敵にとっても重要な点であるはずだ。占領されれば必ず戦力を差し向けられる」
「良いだろう。実験には申し分ない」
「貴公……
我らの戦いを実験のついでにされては困るのだが」
「進歩するための実験だ。
やがて勝つことに繋がる。
では、攻撃の時期は……」
レッドバックは半ば無理矢理に話を進め、作戦の概要を話し合った……。
●落日
そして打ち合わせを終え、外に出た所でレッドバックは脚を止めた。
背後から殺気を感じたからだ。
振り向くとそこには羊顔の歪虚が二体いる。いずれも武器を構えていた。
「貴公の態度には我慢がならぬ」
「正しい振る舞い方、体に覚えて頂こう……」
武器を構えてにじり寄る歪虚二体。
しかし、レッドバックの姿は、歪虚達の眼前で空気に溶けるように消え去った。
「消えた……だと!?」
歪虚達が面食らっていると、発砲音が轟き、一体の持っている武器が強力な力で弾かれた。
「これもまた実験の産物。
携帯性を優先したため、威力には劣るがね」
声だけが聞こえる。
「より大型のものの量産に成功した。威力、射程距離ともにこれとは比較にならん。
私の協力は貴公らの無駄にはならんと知って頂こう」
軌道を変えて銃弾が次々と飛んでくる。それらは歪虚の体に当たることはないが、すれすれで周辺の地面に撃ちこまれて来る。
「ふ、ふん、そんな卑怯な方法を使う者など俺は相手にせぬ!」
「そうだ恥を知るがいい! これ以上関わっておれんわ!」
飛び道具を持つ、目に見えない敵に対処できず、歪虚二人は口では強がりを言いながらたまらずに逃げた……。
「もういいのか。ではデモンストレーションはこれまでだな」
レッドバックを覆う不可視の膜が消え、再び姿を表す。
「ベリアル軍も、もう終わりだな……
役には立ってくれた……」
その呟きを聞いた者はなかった。
ただ静かに、日が落ちていく。
――高威力かつ広範囲の攻撃は評価できる。しかしながら、ハンター複数に対するには課題が多い。
問題点として、ハンターは多種多様なスキル、装備、幻獣やゴーレム、魔導機械、異世界の機械等を使役することにより、あらゆる状況に対応が可能である点が挙げられる。
単純な火力だけで撃破するのは難しい。
また、かの個体は制御不能であるため、他の戦力との連携が不可能であることを考えると、欠点を補う事は困難。
汎用性が高く、連携の取れる集団、または敵の連携を乱す方法をもってこれにあたる必要があると思われる。
●歪虚研究者
「こんなものか……」
何処とも知れぬ部屋の中、机に向かい文章を纏めている歪虚がいた。
薄暗い部屋の中でも一際目立つほどの黒づくめの服装に身を包んでいる。しかし、その背中には毒々しいほどに目立つ赤い模様があった。その姿は人間の女と変わらないものであったが、人間らしさはグロテスクなまでに感じさせない。
彼女は一通り書き終わり、椅子にもたれて一息つく。見直しは暫く時間を置いてからだ。
そして思い出す。あの被験体のことを。
(茨小鬼などという素材には二度とお目にかかれまい……。
本当なら保存するべきだったのかもしれないが、あそこまで手を加えてはそれすらも叶うまい。
どのみち崩壊はまぬがれぬ体だった。
むしろ、あそこまで持ったのが驚きだ。さすがは希少素材といったところか。
戦闘データまで記録できたのは上々の結果だったと言えるだろう。
それでも……惜しいと思うのは……
もっと安定させ、かつ、制御可能な上で戦闘力を発揮できていれば、効果的な戦力となったであろうが……
それは今後の課題だな。
実現するには……例えば……)
「ドクター! ドクター・レッドバック!」
歪虚が幾多の仮定と実現方法を内的世界で模索にふけっていると、部屋の外から呼びかける声があった。
「入りますぜ! 入るぜ入っちゃうぜ! いいよね入ってもどうせ気づくめえ!」
半ば自棄気味な言葉とともにドアが開かれ、声の主が入ってきた。
人間の姿ではない。コウモリを無理矢理人間の、それもかなりひょろ長いサイズに伸ばしたような姿をしている。顔は犬に似ていたが、そういうコウモリもまた存在するので、おおよそコウモリの化け物といって差し支えない見た目をしている。それは、やはり歪虚だった。
コウモリ人間型歪虚は、自らがドクター・レッドバックと呼んだ女歪虚のすぐ横、間違いなく視界に入る場所に、ふんぞり返るようにして立った。
そして気づいてくれるのを待った。
……
「何の用だ、パダギエ」
「うん時間にしておよそ六分というところだね。今時の若い奴なら到底待ってはいられねー」
「結果を得るためには時間に縛られるべきではないと、私はお前達にも言ってあるはずだが」
「へーへーお邪魔して申し訳ありません。
さておき兵器の製造の方なんですが、数が揃いましたってんでご報告に来たんですよ」
「…………それはもしかして報告か?」
「そう言ってますがな。もうちょっとコミュニケーション能力持って下さいよ頼むから」
「………………なるほど、理解した」
「理解遅ぇ」
「戦闘員を召集し、完成した兵器を配備せよ。いつでも出撃できる準備をしておけ。指示は戻り次第伝える」
レッドバックはそう言うなり、突如として立ち上がって部屋を出て行った。
「そして行動早ぇ……」
あとにはパダギエと呼ばれたコウモリ人間型歪虚がたった一人部屋に残るのみだった。
●ベリアル軍 前線基地の一つ
「私だ。戦闘準備が整った。
なるべく戦闘の機会が多そうな所に配備してもらいたい」
「前触れもなく突然やってきたかと思えば……」
ベリアル軍の士官は頭を抑えた。
本当に痛むのは頭よりも胃だったが、なぜか反射的に頭を抑えた。
「必要ないなら自らの判断で動く。
ハルトフォートに攻撃を仕掛けても」
「待て。早まるな。必要ないとは言っておらん。こちらも色々考えることがあるのだ。何せ我らが主がああなっては……そんなことはいい。地図を見ろ」
そう言って士官は地図を示した。地図上には配備されたベリアル軍の戦力や、人類側の戦力、そしてその動きを示す矢印が示されている。
「レッドバック。貴公はこの位置に陣取り、敵の補給線を断って頂こう。
ここは敵にとっても重要な点であるはずだ。占領されれば必ず戦力を差し向けられる」
「良いだろう。実験には申し分ない」
「貴公……
我らの戦いを実験のついでにされては困るのだが」
「進歩するための実験だ。
やがて勝つことに繋がる。
では、攻撃の時期は……」
レッドバックは半ば無理矢理に話を進め、作戦の概要を話し合った……。
●落日
そして打ち合わせを終え、外に出た所でレッドバックは脚を止めた。
背後から殺気を感じたからだ。
振り向くとそこには羊顔の歪虚が二体いる。いずれも武器を構えていた。
「貴公の態度には我慢がならぬ」
「正しい振る舞い方、体に覚えて頂こう……」
武器を構えてにじり寄る歪虚二体。
しかし、レッドバックの姿は、歪虚達の眼前で空気に溶けるように消え去った。
「消えた……だと!?」
歪虚達が面食らっていると、発砲音が轟き、一体の持っている武器が強力な力で弾かれた。
「これもまた実験の産物。
携帯性を優先したため、威力には劣るがね」
声だけが聞こえる。
「より大型のものの量産に成功した。威力、射程距離ともにこれとは比較にならん。
私の協力は貴公らの無駄にはならんと知って頂こう」
軌道を変えて銃弾が次々と飛んでくる。それらは歪虚の体に当たることはないが、すれすれで周辺の地面に撃ちこまれて来る。
「ふ、ふん、そんな卑怯な方法を使う者など俺は相手にせぬ!」
「そうだ恥を知るがいい! これ以上関わっておれんわ!」
飛び道具を持つ、目に見えない敵に対処できず、歪虚二人は口では強がりを言いながらたまらずに逃げた……。
「もういいのか。ではデモンストレーションはこれまでだな」
レッドバックを覆う不可視の膜が消え、再び姿を表す。
「ベリアル軍も、もう終わりだな……
役には立ってくれた……」
その呟きを聞いた者はなかった。
ただ静かに、日が落ちていく。
リプレイ本文
●両陣営、遭遇
それらは美しいか醜いかで言えば醜かった。潰れたように広がった鼻腔、突き出た乱杭歯……しかし、一つの方向性でのみ評価するならばそれらは完璧であった。
――暴力的と言う点では。
皆長銃を手にし、腰にはそれぞれの戦法に応じた武器を下げている。その体は揃いの無骨な黒い甲冑に身を包んでいた。胸部には赤い菱形を連ねたような模様があった。
「ベリアル軍……じゃなさそうだね」
仁川 リア(ka3483)はその様子を見て呟いた。
ここは王国を横断する大河、ティベリス河にかかる橋の上である。西方砦と要所を行き来する上で避けては通れない地点だ。
橋の上である以上、正面から近づく以外無い。
ハンター達は、補給上重要な地点に陣取ったという歪虚を討伐しにきたのだった。
この地域はベリアル軍が進行中だというのに、この歪虚達にはベリアル軍らしい羊の特徴が見て取れない。
かといって、野良の雑魔などでは有り得ない。
「ソルデリの時といい、今回は妙な敵が紛れてる」
「どうにもきな臭い。……杞憂だといいが」
リアの言葉に続いて、メンカル(ka5338)は心情を口にする。
「遮蔽がない上に射程で負け感がある所が難題ですよねぇ……歪虚の癖に生意気ですぅ」
星野 ハナ(ka5852)が口にしたのは、敵の事だった。
まるで隙を見せず、ただこちらに銃口を向けて待っている。
「さては指揮官がおるな……知者が率いておる軍隊ほど面倒な敵はおらんからのぅ」
ヴィルマ・ネーベル(ka2549)はそう言って怜悧な笑みを浮かべた。
「ま、敵の策などぶち壊すまでじゃが」
「これは激戦になりそうですが……私としては望むところでしょう」
ヴィルマの言葉に同意とも取れる言葉を、アデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)は返す。
戦神を信仰するシスターとして、戦うことに迷いはない。
そして――信仰だけが拠り所ではない。
今回は想い人である、時音 ざくろ(ka1250)が轡を並べている。
ざくろはアデリシアと目が合う。
安心させるように頷いてから、全員を見渡すように言った。
「あのぐらいの距離なら、駆け抜けられるよね?」
「一般的な銃なら、馬やバイクで駆け抜ければ撃たれるのはせいぜい一回」
答えたのは猟撃士であるウィーダ・セリューザ(ka6076)だった。
「この距離で撃ってこないなら、特別長いわけではないみたいだね」
ぶっきらぼうな口調だが態度は真摯だ。補給の重要性を知っているからだ。
「それは助かりますね。私は敵を斬り捨てることしかできませんから……」
ハンス・ラインフェルト(ka6750)は自らの腰の得物を叩きながら言う――日本刀、銘は「風花」。
「よし、じゃあ行こうか、みんな!」
ざくろの呼びかけ。いつも通りの元気な声だ。
一行の大半はバイクや馬に騎乗し、一気に距離を詰める行動をとる。
メンカルだけは徒歩だ。隠密行動をスタイルとする彼は騎乗しない。
そしてウィーダは、騎乗も徒歩もなくその場から動かない。
「先に、仕掛けるよ」
未だ静止している敵集団に向けて、弓を向けた。
弦は存在しない。自らのマテリアルがそれを形成する。
そして放たれる矢もまた物質ならざる光の矢。
それは流星のように空を貫いた。
銃を遥かに越える弓の射程からの射撃。その距離から命中させることは並の射手ならば難しいが、ウィーダの一射は正確だった。
歪虚の一体が腕に矢を受ける。
だがそれは致命傷にならず、歪虚は銃を構え直す。
そして歪虚達の眼前には、バイクや馬に騎乗したハンター達の一団が迫っていた。
「――ただ駆け抜ければいい!」
ざくろは自分を鼓舞するよう叫ぶ。自分達の間合いに持ち込むために。
誰か一人が突出する事はなく、一丸となって突き進んでいく。
それを迎撃するべく歪虚達の銃が、一斉に火を噴いた。
弾丸が餌食を求めて飛ぶ――
「主よ、我を護りたまえ!」
アデリシアが祈りの言葉を口にすると、光の壁が現れ弾丸を阻むと燐光を残して散った。
リアは身を捻って弾丸を避ける。
ざくろは盾で弾丸を完全に弾き飛ばした。
ハンスは馬上で刀を振るい、弾丸を受け流す。完全に無傷とはいかなかったが、被害はかなり軽減できた。
「将来的には弾丸すら斬り捨てたいのですが……さて」
一人呟く。
ハナだけは当たり所が悪く、傷を負ってしまう。
「くっ、やっぱり射程で負けてたのは痛いですぅ……」
戦闘には支障はないが、決して馬鹿にはできない威力だった。仮に一人が集中放火を受けていたら沈められていたかもしれない。
●乱戦
ウィーダは仲間が銃弾が飛ぶ中を突っ切っていくのを見ながら、それを援護すべく矢を射る。
「この光の矢が、連中に滅びをもたらす光であることを願うよ」
願いを込めてシ・ヴリスにつがえたシ・ヴァユを引く。
光の矢が形成されるのを見て、ウィーダはそれが本当に滅びの光となってくれるように感じた。
後方からの援護を頼もしく思いながらハンター達も本格的に攻撃を加える。
「やはり集団戦と言えばコレよなぁ……行くぞ?」
ヴィルマが魔杖を振るうと、眩いばかりの緋色の炎が発され、それは歪虚の一体に触れるや否や爆炎が広がり一団を飲み込んだ。
「輝け光の矢……デルタレイ!」
すかさずざくろが術式を展開、メイスで空中に三角形を描くとその軌跡は神秘的な光の三角形を残し、その頂点から三条の光線が三体の歪虚を射抜いた。
「ハデにいきましょぉ! 五色光符陣ん~!」
ハナが空中に符を飛ばす。それらにより結界が張られ、符から出る光の奔流が複数の歪虚を焼いた。
「其は怒りの日……怒りの日……!」
光と熱の奔流に合わせるようにアデリシアが歌う。それは鎮魂歌。正ならざる命の営みを阻む歌。
術者達の流れるような連携、そこから間髪を入れずにリアがバイクから飛び降り、ハンスもまた馬から降りて逃がす。
「ここから先は通さないよ」
「人斬りの理……お見せしましょう」
二人は、敵の前に立ちはだかる。
歪虚達は様々な反応を見せた。四体は剣と盾を構え、いずれもハンスに向けて斬りかかってくる。メイスを構えた者が二体、ワンドを手にした者が二体、これらは後方へと向かって全力で後退しつつ散開した。
四体の敵を相手にしなければならなかったハンスは、避け、受け流しを試みたが、繰り出される刃を全て捌ききれず、傷を負ってしまう。
複数の傷を負い、血だらけになり肩で息をするハンス……だが、構えは解かず、その相貌は敵を見据えていた。
「未熟……である以上。
求められた役割程度は、果たしたいのですよっ!」
未だ、立っている。雄々しさを損なう事無く。
「我が主、戦の神よ。試練に挑む者に癒やしと救いを与えたまえ!」
その教義にいわく、勇気と正義ある戦いに加護を与え、戦いに散ることを信仰の終着とする――。信仰の徒アデリシアは、ハンスに癒やしの術を施した。
「まだ果てるときではありません」
「感謝します。これでまだ戦える」
前衛、なおも健在――。
「――逃がすもんかッ!」
後退した敵を見てざくろは前進を始める。だが、敵の前衛がその前に立ちはだかっていた。
「まだ、いくらでも撃てるんだ!」
後衛を間合いに納めるべく敵前衛に可能な限り近づき、ざくろは再び空中に三角形を描く。
デルタレイ。狙いは敵前衛。
「一網打尽ですぅ! しぬがよい」
ノリで攻撃的な台詞を吐いたハナが符を飛ばす。それは前衛の歪虚全てを結界内に納めた。
「――霧の魔女ヴィルマ・ネーベルの名の下に、凍てつかせ噴舞せよ、霧裂け氷乱の嵐!」
ヴィルマが呪文を紡ぐと、前衛の歪虚達を突如として霧が覆い尽くした。ただの霧ではない、鋭利な氷の欠片を含んだ超低温の霧だ。
光が迸り、冷気が渦を巻いた。それは見る者を魅了する壮麗な死の乱舞だ。
その圧倒的破壊力の前に、前衛の歪虚達は一人残らず消滅し尽くしていた。
「…………ま、たまには圧倒的火力で蹂躙するのもよかろうて」
ヴィルマが静かに笑う。
あれを生き延びたとしても、光の眩しさと低温によって敵は思うように攻撃できなかっただろう。そこまで計算しての選択がなされていた。
「さて、後は後衛だ!」
リアは後衛に向かって駆け出す。
だが、その時にはワンドを手にした歪虚の呪文が完成していた。
「―――――!」
唸り声とも詠唱ともつかぬ言葉に続き、ワンドを天に向かって掲げる。
その先から緋色の光が奔り――
――そして消えた。
「おろかものめ。格の違いを思い知るがよい」
ヴィルマの干渉により、歪虚の魔術は発動を阻害されたのだ。
「とはいえ……二人同時はならぬか!」
詠唱を行った歪虚は単独ではなかった。もう一体のワンドからは火球が発射され、それは地面に落ちると爆発的に広がりヴィルマ、リア、ハンス、アデリシア、ざくろ、ハナをも飲み込む。
さらにはメイスを携えた歪虚二体も詠唱を完成させ、法具と思しきメイスの先端から、闇が凝縮したかのような黒い弾丸を発した――狙いはいずれもアデリシアだ。
「くっ……集中攻撃というわけですか!」
だが、アデリシアは身を屈めて二発とも回避する。
「今度はこっちの番だ!」
射程内まで歩を進めていたざくろがデルタレイを放つ。
三角形の頂点から伸びた光はそれぞれが違う方向へと向かう。散開していようが、この技ならば無意味だ。
「密集していようが散開していようがやることは変わりません!」
デルタレイから漏れた残り一体にも、ハナの五色光符陣が襲い掛かった。
さらに間髪を入れずに――
歪虚の一体に、闇から飛来したがごとく刃が食い込む。
「一人忘れてないか?」
その動きに対応したものはない。
「集中攻撃もいいが、俺がノーマークではな」
気配を完全に遮断し、近づいていたメンカルが投げた投具だ。
煌びやかな術が目立つ戦場ではあったが――静かに忍び寄る死も、また存在する。
それは歪虚の命を的確に奪っていた。
(装備や技術が目新しいとは言え所詮は雑兵か。とは言え……)
指揮官と思しき存在の気配はメンカルにも察しきれない。
離れた場所に居るのか、それとも……。
「これは全ての願いを背負い全ての希望を繋ぐための力……炎刃翼纏!!」
リアの肉体は黄金のオーラに覆われ、神々しい姿へと変じた。
「ここで排除させてもらうよ。『奴ら』を見つけ出して倒すためにもね」
一気に距離を詰める。その動きは残像を残した。
歪虚はほぼ本能的に応戦しようとメイスを振るう。
だが、その軌跡は黄金の粒子を残す残像をすり抜けただけだ。
リアの影殺剣が紫色の焔を帯びる。
「炎刃暴食!」
焔は獣の姿をとり、歪虚の一体を噛み砕く。
おぞましいまでの焔が歪虚を飲み込み――その身は完全に、無へと帰った。
時を同じくしてハンスが残る敵に肉薄していた。
歪虚は下がりつつ、ワンドから氷の刃を放って迎撃する。
紙一重――
半身になったハンスの首元を氷の刃が掠めていく。
それと入れ違いのように、氷の如く輝く刃が繰り出された。
「疾風剣」
――僅かに遅れて納刀の音が響く。
「消え逝く歪虚の儚さよ」
黒い粒子となって離散する歪虚の様子を、ハンスは愛でた。
最後に残った歪虚の一人が、せめて一矢でも報いようとファイアボールの詠唱を行う。
聞くもおぞましい声が不可思議な呪文を紡ぎ、それが完成しようとする時――
ワンドを掲げた姿勢で、歪虚の額が光に貫かれた。
遠くより飛来した光の矢。それは間違いなくウィーダが放ったものだ。
「弓兵の本懐……」
ただの一撃も受けずに、敵の射程外から倒しきった。
弓の長射程を最大限に活かした戦いだったと言えるだろう。
●暗中飛躍
突如として、戦場から少し離れた地点――橋の向こう岸に、何かが弾ける音がしたかと思うと尋常でない量の煙が発生した。
一行は何事かと思ってそちらを見る。
煙の発生点はヴィルマの魔法もウィーダの弓も射程外だ。
一行は警戒しつつも様子を見る。
程なくして遠くから何かが飛んできた。巨大な蝙蝠だ……人間より少し大きく見える。
それは瞬く間に煙の中に突っ込んだかと思うと、その中から何かを足で掴んでまた飛び立った。
……赤い模様のある黒尽くめの服に身を包んだ人間の姿……。
一行にはそう見えた。
それらは、一行に対処させる間も無く飛び去って行った……。
一行はその後、倒した歪虚が使っていた銃などの品々を検分しようとしたが、それらは通常のケースと同じように歪虚ともども消えてしまっていた。
死後に負のマテリアルを宿した物品が残る場合もあるにはあるが、それは軍将以上の高位歪虚の場合であり、それもわざと残した物に限られる。今回はそれに該当しないようだ。
「……ソルデリの方が強かった。
もっとも、今回はあまり出る幕がなかったけど」
リアは完全に戦いが終わったことを確認すると、そう口にした。
「相性という奴がある。気にするな」
メンカルがリアに言う。彼も、こんなに電撃戦になるとは予想しなかった。
敵が多ければ、やはり範囲攻撃が際立つ。
「……それより今回の敵。自然発生したものとは思えん」
「僕もそれは気になっていた。背後に何者かの存在がある……それは間違いないと思う。
どんな奴かはわからないけど……」
そう言ってリアは思い出す。
黒地に、赤い菱形を並べた模様……敵の鎧にも、逃げ去った者の背中にもあった。それは旗印であるように思えた。
「やはり気になるか……あいつの遺した言葉が」
メンカルが言ったのは、かつてリアが経験した戦いのことだ。
『奴らを』。
倒した敵が今わの際に残した言葉。
ベリアルではない何者かの暗躍を、かれらは疑っていた。
リアは一つの考えを述べる。
「それだと、ベリアルに勝ったとしても、王国は――」
●虚無へ向かうacademia
軽快に羽ばたき飛行するパダギエの足に掴まれながらレッドバックは考えていた。
(妖魔にスキルや装備を持たせた所で、所詮付け焼き刃か……。
ハンターに勝つには正攻法では駄目なのかもしれないな。
それにしても、あのスキルの多彩さはどうだ……)
「ドクター!
いつまでも俺に掴まれたまま飛んでて大丈夫かドクター!
腰を鷲掴みとか尋常じゃねえだろ!」
ハンググライダーのようにパダギエにぶら下がって飛ぶための器具がある。緊急時は今のように掴んで飛行するが、基本的には器具を使う。
「…………返事がねぇな! よし!」
ただレッドバックは思考を中断するのをめんどくさがって使用しないことも多い。
(だが、有意義な戦闘だった。
強ければそれだけ、超えるのが面白い)
レッドバックは人間味のない顔にしかめ面のような笑みを浮かべた。
(次はどのような歪虚を戦場に送り込もうか……善いぞ。実に楽しい)
レッドバックの学究的世界が不気味に蠢く……。
それらは美しいか醜いかで言えば醜かった。潰れたように広がった鼻腔、突き出た乱杭歯……しかし、一つの方向性でのみ評価するならばそれらは完璧であった。
――暴力的と言う点では。
皆長銃を手にし、腰にはそれぞれの戦法に応じた武器を下げている。その体は揃いの無骨な黒い甲冑に身を包んでいた。胸部には赤い菱形を連ねたような模様があった。
「ベリアル軍……じゃなさそうだね」
仁川 リア(ka3483)はその様子を見て呟いた。
ここは王国を横断する大河、ティベリス河にかかる橋の上である。西方砦と要所を行き来する上で避けては通れない地点だ。
橋の上である以上、正面から近づく以外無い。
ハンター達は、補給上重要な地点に陣取ったという歪虚を討伐しにきたのだった。
この地域はベリアル軍が進行中だというのに、この歪虚達にはベリアル軍らしい羊の特徴が見て取れない。
かといって、野良の雑魔などでは有り得ない。
「ソルデリの時といい、今回は妙な敵が紛れてる」
「どうにもきな臭い。……杞憂だといいが」
リアの言葉に続いて、メンカル(ka5338)は心情を口にする。
「遮蔽がない上に射程で負け感がある所が難題ですよねぇ……歪虚の癖に生意気ですぅ」
星野 ハナ(ka5852)が口にしたのは、敵の事だった。
まるで隙を見せず、ただこちらに銃口を向けて待っている。
「さては指揮官がおるな……知者が率いておる軍隊ほど面倒な敵はおらんからのぅ」
ヴィルマ・ネーベル(ka2549)はそう言って怜悧な笑みを浮かべた。
「ま、敵の策などぶち壊すまでじゃが」
「これは激戦になりそうですが……私としては望むところでしょう」
ヴィルマの言葉に同意とも取れる言葉を、アデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)は返す。
戦神を信仰するシスターとして、戦うことに迷いはない。
そして――信仰だけが拠り所ではない。
今回は想い人である、時音 ざくろ(ka1250)が轡を並べている。
ざくろはアデリシアと目が合う。
安心させるように頷いてから、全員を見渡すように言った。
「あのぐらいの距離なら、駆け抜けられるよね?」
「一般的な銃なら、馬やバイクで駆け抜ければ撃たれるのはせいぜい一回」
答えたのは猟撃士であるウィーダ・セリューザ(ka6076)だった。
「この距離で撃ってこないなら、特別長いわけではないみたいだね」
ぶっきらぼうな口調だが態度は真摯だ。補給の重要性を知っているからだ。
「それは助かりますね。私は敵を斬り捨てることしかできませんから……」
ハンス・ラインフェルト(ka6750)は自らの腰の得物を叩きながら言う――日本刀、銘は「風花」。
「よし、じゃあ行こうか、みんな!」
ざくろの呼びかけ。いつも通りの元気な声だ。
一行の大半はバイクや馬に騎乗し、一気に距離を詰める行動をとる。
メンカルだけは徒歩だ。隠密行動をスタイルとする彼は騎乗しない。
そしてウィーダは、騎乗も徒歩もなくその場から動かない。
「先に、仕掛けるよ」
未だ静止している敵集団に向けて、弓を向けた。
弦は存在しない。自らのマテリアルがそれを形成する。
そして放たれる矢もまた物質ならざる光の矢。
それは流星のように空を貫いた。
銃を遥かに越える弓の射程からの射撃。その距離から命中させることは並の射手ならば難しいが、ウィーダの一射は正確だった。
歪虚の一体が腕に矢を受ける。
だがそれは致命傷にならず、歪虚は銃を構え直す。
そして歪虚達の眼前には、バイクや馬に騎乗したハンター達の一団が迫っていた。
「――ただ駆け抜ければいい!」
ざくろは自分を鼓舞するよう叫ぶ。自分達の間合いに持ち込むために。
誰か一人が突出する事はなく、一丸となって突き進んでいく。
それを迎撃するべく歪虚達の銃が、一斉に火を噴いた。
弾丸が餌食を求めて飛ぶ――
「主よ、我を護りたまえ!」
アデリシアが祈りの言葉を口にすると、光の壁が現れ弾丸を阻むと燐光を残して散った。
リアは身を捻って弾丸を避ける。
ざくろは盾で弾丸を完全に弾き飛ばした。
ハンスは馬上で刀を振るい、弾丸を受け流す。完全に無傷とはいかなかったが、被害はかなり軽減できた。
「将来的には弾丸すら斬り捨てたいのですが……さて」
一人呟く。
ハナだけは当たり所が悪く、傷を負ってしまう。
「くっ、やっぱり射程で負けてたのは痛いですぅ……」
戦闘には支障はないが、決して馬鹿にはできない威力だった。仮に一人が集中放火を受けていたら沈められていたかもしれない。
●乱戦
ウィーダは仲間が銃弾が飛ぶ中を突っ切っていくのを見ながら、それを援護すべく矢を射る。
「この光の矢が、連中に滅びをもたらす光であることを願うよ」
願いを込めてシ・ヴリスにつがえたシ・ヴァユを引く。
光の矢が形成されるのを見て、ウィーダはそれが本当に滅びの光となってくれるように感じた。
後方からの援護を頼もしく思いながらハンター達も本格的に攻撃を加える。
「やはり集団戦と言えばコレよなぁ……行くぞ?」
ヴィルマが魔杖を振るうと、眩いばかりの緋色の炎が発され、それは歪虚の一体に触れるや否や爆炎が広がり一団を飲み込んだ。
「輝け光の矢……デルタレイ!」
すかさずざくろが術式を展開、メイスで空中に三角形を描くとその軌跡は神秘的な光の三角形を残し、その頂点から三条の光線が三体の歪虚を射抜いた。
「ハデにいきましょぉ! 五色光符陣ん~!」
ハナが空中に符を飛ばす。それらにより結界が張られ、符から出る光の奔流が複数の歪虚を焼いた。
「其は怒りの日……怒りの日……!」
光と熱の奔流に合わせるようにアデリシアが歌う。それは鎮魂歌。正ならざる命の営みを阻む歌。
術者達の流れるような連携、そこから間髪を入れずにリアがバイクから飛び降り、ハンスもまた馬から降りて逃がす。
「ここから先は通さないよ」
「人斬りの理……お見せしましょう」
二人は、敵の前に立ちはだかる。
歪虚達は様々な反応を見せた。四体は剣と盾を構え、いずれもハンスに向けて斬りかかってくる。メイスを構えた者が二体、ワンドを手にした者が二体、これらは後方へと向かって全力で後退しつつ散開した。
四体の敵を相手にしなければならなかったハンスは、避け、受け流しを試みたが、繰り出される刃を全て捌ききれず、傷を負ってしまう。
複数の傷を負い、血だらけになり肩で息をするハンス……だが、構えは解かず、その相貌は敵を見据えていた。
「未熟……である以上。
求められた役割程度は、果たしたいのですよっ!」
未だ、立っている。雄々しさを損なう事無く。
「我が主、戦の神よ。試練に挑む者に癒やしと救いを与えたまえ!」
その教義にいわく、勇気と正義ある戦いに加護を与え、戦いに散ることを信仰の終着とする――。信仰の徒アデリシアは、ハンスに癒やしの術を施した。
「まだ果てるときではありません」
「感謝します。これでまだ戦える」
前衛、なおも健在――。
「――逃がすもんかッ!」
後退した敵を見てざくろは前進を始める。だが、敵の前衛がその前に立ちはだかっていた。
「まだ、いくらでも撃てるんだ!」
後衛を間合いに納めるべく敵前衛に可能な限り近づき、ざくろは再び空中に三角形を描く。
デルタレイ。狙いは敵前衛。
「一網打尽ですぅ! しぬがよい」
ノリで攻撃的な台詞を吐いたハナが符を飛ばす。それは前衛の歪虚全てを結界内に納めた。
「――霧の魔女ヴィルマ・ネーベルの名の下に、凍てつかせ噴舞せよ、霧裂け氷乱の嵐!」
ヴィルマが呪文を紡ぐと、前衛の歪虚達を突如として霧が覆い尽くした。ただの霧ではない、鋭利な氷の欠片を含んだ超低温の霧だ。
光が迸り、冷気が渦を巻いた。それは見る者を魅了する壮麗な死の乱舞だ。
その圧倒的破壊力の前に、前衛の歪虚達は一人残らず消滅し尽くしていた。
「…………ま、たまには圧倒的火力で蹂躙するのもよかろうて」
ヴィルマが静かに笑う。
あれを生き延びたとしても、光の眩しさと低温によって敵は思うように攻撃できなかっただろう。そこまで計算しての選択がなされていた。
「さて、後は後衛だ!」
リアは後衛に向かって駆け出す。
だが、その時にはワンドを手にした歪虚の呪文が完成していた。
「―――――!」
唸り声とも詠唱ともつかぬ言葉に続き、ワンドを天に向かって掲げる。
その先から緋色の光が奔り――
――そして消えた。
「おろかものめ。格の違いを思い知るがよい」
ヴィルマの干渉により、歪虚の魔術は発動を阻害されたのだ。
「とはいえ……二人同時はならぬか!」
詠唱を行った歪虚は単独ではなかった。もう一体のワンドからは火球が発射され、それは地面に落ちると爆発的に広がりヴィルマ、リア、ハンス、アデリシア、ざくろ、ハナをも飲み込む。
さらにはメイスを携えた歪虚二体も詠唱を完成させ、法具と思しきメイスの先端から、闇が凝縮したかのような黒い弾丸を発した――狙いはいずれもアデリシアだ。
「くっ……集中攻撃というわけですか!」
だが、アデリシアは身を屈めて二発とも回避する。
「今度はこっちの番だ!」
射程内まで歩を進めていたざくろがデルタレイを放つ。
三角形の頂点から伸びた光はそれぞれが違う方向へと向かう。散開していようが、この技ならば無意味だ。
「密集していようが散開していようがやることは変わりません!」
デルタレイから漏れた残り一体にも、ハナの五色光符陣が襲い掛かった。
さらに間髪を入れずに――
歪虚の一体に、闇から飛来したがごとく刃が食い込む。
「一人忘れてないか?」
その動きに対応したものはない。
「集中攻撃もいいが、俺がノーマークではな」
気配を完全に遮断し、近づいていたメンカルが投げた投具だ。
煌びやかな術が目立つ戦場ではあったが――静かに忍び寄る死も、また存在する。
それは歪虚の命を的確に奪っていた。
(装備や技術が目新しいとは言え所詮は雑兵か。とは言え……)
指揮官と思しき存在の気配はメンカルにも察しきれない。
離れた場所に居るのか、それとも……。
「これは全ての願いを背負い全ての希望を繋ぐための力……炎刃翼纏!!」
リアの肉体は黄金のオーラに覆われ、神々しい姿へと変じた。
「ここで排除させてもらうよ。『奴ら』を見つけ出して倒すためにもね」
一気に距離を詰める。その動きは残像を残した。
歪虚はほぼ本能的に応戦しようとメイスを振るう。
だが、その軌跡は黄金の粒子を残す残像をすり抜けただけだ。
リアの影殺剣が紫色の焔を帯びる。
「炎刃暴食!」
焔は獣の姿をとり、歪虚の一体を噛み砕く。
おぞましいまでの焔が歪虚を飲み込み――その身は完全に、無へと帰った。
時を同じくしてハンスが残る敵に肉薄していた。
歪虚は下がりつつ、ワンドから氷の刃を放って迎撃する。
紙一重――
半身になったハンスの首元を氷の刃が掠めていく。
それと入れ違いのように、氷の如く輝く刃が繰り出された。
「疾風剣」
――僅かに遅れて納刀の音が響く。
「消え逝く歪虚の儚さよ」
黒い粒子となって離散する歪虚の様子を、ハンスは愛でた。
最後に残った歪虚の一人が、せめて一矢でも報いようとファイアボールの詠唱を行う。
聞くもおぞましい声が不可思議な呪文を紡ぎ、それが完成しようとする時――
ワンドを掲げた姿勢で、歪虚の額が光に貫かれた。
遠くより飛来した光の矢。それは間違いなくウィーダが放ったものだ。
「弓兵の本懐……」
ただの一撃も受けずに、敵の射程外から倒しきった。
弓の長射程を最大限に活かした戦いだったと言えるだろう。
●暗中飛躍
突如として、戦場から少し離れた地点――橋の向こう岸に、何かが弾ける音がしたかと思うと尋常でない量の煙が発生した。
一行は何事かと思ってそちらを見る。
煙の発生点はヴィルマの魔法もウィーダの弓も射程外だ。
一行は警戒しつつも様子を見る。
程なくして遠くから何かが飛んできた。巨大な蝙蝠だ……人間より少し大きく見える。
それは瞬く間に煙の中に突っ込んだかと思うと、その中から何かを足で掴んでまた飛び立った。
……赤い模様のある黒尽くめの服に身を包んだ人間の姿……。
一行にはそう見えた。
それらは、一行に対処させる間も無く飛び去って行った……。
一行はその後、倒した歪虚が使っていた銃などの品々を検分しようとしたが、それらは通常のケースと同じように歪虚ともども消えてしまっていた。
死後に負のマテリアルを宿した物品が残る場合もあるにはあるが、それは軍将以上の高位歪虚の場合であり、それもわざと残した物に限られる。今回はそれに該当しないようだ。
「……ソルデリの方が強かった。
もっとも、今回はあまり出る幕がなかったけど」
リアは完全に戦いが終わったことを確認すると、そう口にした。
「相性という奴がある。気にするな」
メンカルがリアに言う。彼も、こんなに電撃戦になるとは予想しなかった。
敵が多ければ、やはり範囲攻撃が際立つ。
「……それより今回の敵。自然発生したものとは思えん」
「僕もそれは気になっていた。背後に何者かの存在がある……それは間違いないと思う。
どんな奴かはわからないけど……」
そう言ってリアは思い出す。
黒地に、赤い菱形を並べた模様……敵の鎧にも、逃げ去った者の背中にもあった。それは旗印であるように思えた。
「やはり気になるか……あいつの遺した言葉が」
メンカルが言ったのは、かつてリアが経験した戦いのことだ。
『奴らを』。
倒した敵が今わの際に残した言葉。
ベリアルではない何者かの暗躍を、かれらは疑っていた。
リアは一つの考えを述べる。
「それだと、ベリアルに勝ったとしても、王国は――」
●虚無へ向かうacademia
軽快に羽ばたき飛行するパダギエの足に掴まれながらレッドバックは考えていた。
(妖魔にスキルや装備を持たせた所で、所詮付け焼き刃か……。
ハンターに勝つには正攻法では駄目なのかもしれないな。
それにしても、あのスキルの多彩さはどうだ……)
「ドクター!
いつまでも俺に掴まれたまま飛んでて大丈夫かドクター!
腰を鷲掴みとか尋常じゃねえだろ!」
ハンググライダーのようにパダギエにぶら下がって飛ぶための器具がある。緊急時は今のように掴んで飛行するが、基本的には器具を使う。
「…………返事がねぇな! よし!」
ただレッドバックは思考を中断するのをめんどくさがって使用しないことも多い。
(だが、有意義な戦闘だった。
強ければそれだけ、超えるのが面白い)
レッドバックは人間味のない顔にしかめ面のような笑みを浮かべた。
(次はどのような歪虚を戦場に送り込もうか……善いぞ。実に楽しい)
レッドバックの学究的世界が不気味に蠢く……。
依頼結果
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相談卓 ウィーダ・セリューザ(ka6076) エルフ|17才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2017/03/28 17:07:43 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/03/24 10:51:18 |