ゲスト
(ka0000)
【AP】ALL FOR ALL
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2017/04/08 22:00
- 完成日
- 2017/04/19 01:39
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
××××年。
クリムゾンウェストは、かつて自由都市同盟と呼ばれていた区域を除き、『ユニオン』と名乗る勢力に占拠されてしまっていた。
彼らに支配されることを良しとしない人々は、『自由同盟』を作り、残された地域を足場に抵抗し続けている。
何とか持ちこたえている。現在のところは、まだ。
だけど、明日はどうなるか分からない。
● ハンターオフィス本部転じ、自由同盟本部
『おはようございます。こちらはユニオンです』
通信パネルの前に座っている幹部たちは、疲れを覚えていた。毎日毎日ユニオンから入ってくる降伏勧告を聞くことに。
相手側の情報を少しでも得るため、通信回路は閉ざさないようにしているのだが、何度やり取りしても話が通じない。
「一体お前たちは何が目的なんだ」
『あなた方をユニオンに編入します。ユニオンは一人の人間も取りこぼさず、幸福にする義務がありますので』
「頼むから放っておいてくれないか」
『あなた方はユニオンに入る必要があります。私たちが求めているのは、恒久的かつ完全な平和と安定。そのためには意識の統一化が必要です。一人の例外もいてはならないのです。つまりあなた方も市民となるべきなのです』
市民、市民。
ユニオンはこの言葉をよく使う。恐らくこちらが用いているのとは全く別の意味合いで。
「意識の統一など不可能だ」
『不可能ではありません。意識とは社会制度のあり方によって作られていくもの。社会制度が変われば意識も変わります。共同体社会はあなたがたの社会に比べ、比較にならないほど暮らしが楽で、安全です。精神不安定化の引き金となるような社会的因子、親子、家族、夫婦――そういった利己的所有関係は廃止されております。誰もが誰もと好きなだけ性交渉していいのです。皆は皆のものなのです』
狂っているとしか思えない理屈だが、最悪なことに彼らはそれを実現させる力を持っている。というか、すでに実現化している。
俄かには信じがたい話だが、人間の体外生殖も行っているとか。
『というわけで投降していただけませんか』
「断る」
『そうですか。残念です。ではまた明日』
●ROOM101
心地よいほの暗さで満たされた一室。
四方を囲む黒い壁には、数字を交えた文字列が青白く浮き上がり、ゆっくりゆっくり流れている。
白いワンピース状の制服を着た女が、挨拶をした。
「……私はμ・F・92756471・マゴイ……皆さん……ユニオンへようこそ……」
挨拶を受けているのは椅子に座った、いや座らされた人々。自由同盟から情報収集のため、潜入してきた者たちだ。
椅子に内蔵されたバンドがその手足を、がっちり固定している。
「……えー……あなたがたは……共同体に参加の意志を持って……やってきたわけではないけれど……心配無用……そういう人でも……ユニオンは拒まない……」
何か言おうとしているが口枷がはめられているので、言葉にならない。
「……参加意志がある人は……そのまま共同体同化訓練所に入ってもらうわけだけど……あなたがたの場合は……それがちょっと難しい……」
壁を流れる文字の動きが、徐々に早くなってきた。
「……あなたがたは……不安定な社会で培われてきた精神構造に……固執している……それではうまく共同体に……適合出来ない……一度すべてをリセットしないと……これからあなたたちの……不必要な記憶を消去する……あなたたちは……今のあなたたちよりずっと幸福な……あなたたちになれる……」
●国境で
自由同盟の北端にある、山岳地域。林の中。
四辺30センチの黒い箱が地上3メートルばかりのところを浮遊し、喋り続けている。
【ユニオンに参加すれば生活の不安に悩まされる必要はなくなります。衣食住は余す事なく完備されます。共同体社会では、皆が仲良く楽しく――】
ボスッ。
くぐもった音と閃光を残し、箱が弾けた。霞のように消える。
それを確認してカチャは、魔導銃を降ろす。
彼女は国境警備隊員。主たる仕事は先程の箱を見つけ次第破壊すること。
箱はユニオンから送り込まれてくる。一種の宣伝装置らしい。隙を見ては潜りこんできて、放っておくといつまでもあのように喋り続けている。
箱の声には催眠的な効果がある。ずっと聞き続けていると引き込まれ、相手の言っていることの方が正しいのではないかと思えてくる。
ハンターでさえそうなるのだ。一般人における影響力の強さたるや、言うまでもない。
だから見つ次第破壊しているのだが、壊しても壊しても翌日にはまた元通り補充されてしまう。きりがないとはこのことだ。
腰に下げている通信機が鳴った。
『こちら本部。哨戒活動に出ている隊員は、至急戻ってきてください。繰り返します、至急本部に戻ってきてください』
何かあったのだろうか。
一抹の不安を覚えながらカチャは、来た道を引き返して行く。
その時地面が揺れた。
山の向こうから巨大な影が立ち現れた。ひとつではない、幾つも。
●国境警備隊本部
「落ち着け、皆、マキナを初めて見るわけじゃないだろう」
ざわめく隊員達を一喝した本部長は、食い入るように大型モニタを見つめた。
映っているのは、10~30メートルはあろうかという巨大な影。全体がぬるりと黒く、凹凸がない。奇妙に滑らかな動きで歩いてくる。
あれこそはマキナ。自由同盟内で『ユニオンのCAM』として知られている存在。
おおむね今見ているような人型だが、いつもそうとは限らない。常識はずれの可変性を持っており、粘土のように形を変えられるのだ。色も、また。
それ以上のことは、正直よく分からない。ユニオンに関する情報は(彼らが自ら発信してくるものを別として)、ほとんど手に入れられていないのだ。
これまで数え切れないほどの人間が情報収集のためユニオンに潜入した。だが、いずれも例外なく帰ってこなかった。殺されたのか捕らわれたままでいるのかについては……不明だ。とにもかくにも向こう側は侵入者を見破る能力に長けているらしい。
……一定距離まで近づいてきたマキナが、動きを止めた。
顔の真ん中に光点が生まれる。そこから発した光線が、本部目がけて放たれた。
結界が作動し直撃を防いだが、建物が揺れる。ミシミシと音を立てる。
そこへ、哨戒に出ていたカチャ達が走り込んできた。
「ただ今戻りました!」
本部長は、太い声を吐き出す。
「これより迎撃体制をとる!」
クリムゾンウェストは、かつて自由都市同盟と呼ばれていた区域を除き、『ユニオン』と名乗る勢力に占拠されてしまっていた。
彼らに支配されることを良しとしない人々は、『自由同盟』を作り、残された地域を足場に抵抗し続けている。
何とか持ちこたえている。現在のところは、まだ。
だけど、明日はどうなるか分からない。
● ハンターオフィス本部転じ、自由同盟本部
『おはようございます。こちらはユニオンです』
通信パネルの前に座っている幹部たちは、疲れを覚えていた。毎日毎日ユニオンから入ってくる降伏勧告を聞くことに。
相手側の情報を少しでも得るため、通信回路は閉ざさないようにしているのだが、何度やり取りしても話が通じない。
「一体お前たちは何が目的なんだ」
『あなた方をユニオンに編入します。ユニオンは一人の人間も取りこぼさず、幸福にする義務がありますので』
「頼むから放っておいてくれないか」
『あなた方はユニオンに入る必要があります。私たちが求めているのは、恒久的かつ完全な平和と安定。そのためには意識の統一化が必要です。一人の例外もいてはならないのです。つまりあなた方も市民となるべきなのです』
市民、市民。
ユニオンはこの言葉をよく使う。恐らくこちらが用いているのとは全く別の意味合いで。
「意識の統一など不可能だ」
『不可能ではありません。意識とは社会制度のあり方によって作られていくもの。社会制度が変われば意識も変わります。共同体社会はあなたがたの社会に比べ、比較にならないほど暮らしが楽で、安全です。精神不安定化の引き金となるような社会的因子、親子、家族、夫婦――そういった利己的所有関係は廃止されております。誰もが誰もと好きなだけ性交渉していいのです。皆は皆のものなのです』
狂っているとしか思えない理屈だが、最悪なことに彼らはそれを実現させる力を持っている。というか、すでに実現化している。
俄かには信じがたい話だが、人間の体外生殖も行っているとか。
『というわけで投降していただけませんか』
「断る」
『そうですか。残念です。ではまた明日』
●ROOM101
心地よいほの暗さで満たされた一室。
四方を囲む黒い壁には、数字を交えた文字列が青白く浮き上がり、ゆっくりゆっくり流れている。
白いワンピース状の制服を着た女が、挨拶をした。
「……私はμ・F・92756471・マゴイ……皆さん……ユニオンへようこそ……」
挨拶を受けているのは椅子に座った、いや座らされた人々。自由同盟から情報収集のため、潜入してきた者たちだ。
椅子に内蔵されたバンドがその手足を、がっちり固定している。
「……えー……あなたがたは……共同体に参加の意志を持って……やってきたわけではないけれど……心配無用……そういう人でも……ユニオンは拒まない……」
何か言おうとしているが口枷がはめられているので、言葉にならない。
「……参加意志がある人は……そのまま共同体同化訓練所に入ってもらうわけだけど……あなたがたの場合は……それがちょっと難しい……」
壁を流れる文字の動きが、徐々に早くなってきた。
「……あなたがたは……不安定な社会で培われてきた精神構造に……固執している……それではうまく共同体に……適合出来ない……一度すべてをリセットしないと……これからあなたたちの……不必要な記憶を消去する……あなたたちは……今のあなたたちよりずっと幸福な……あなたたちになれる……」
●国境で
自由同盟の北端にある、山岳地域。林の中。
四辺30センチの黒い箱が地上3メートルばかりのところを浮遊し、喋り続けている。
【ユニオンに参加すれば生活の不安に悩まされる必要はなくなります。衣食住は余す事なく完備されます。共同体社会では、皆が仲良く楽しく――】
ボスッ。
くぐもった音と閃光を残し、箱が弾けた。霞のように消える。
それを確認してカチャは、魔導銃を降ろす。
彼女は国境警備隊員。主たる仕事は先程の箱を見つけ次第破壊すること。
箱はユニオンから送り込まれてくる。一種の宣伝装置らしい。隙を見ては潜りこんできて、放っておくといつまでもあのように喋り続けている。
箱の声には催眠的な効果がある。ずっと聞き続けていると引き込まれ、相手の言っていることの方が正しいのではないかと思えてくる。
ハンターでさえそうなるのだ。一般人における影響力の強さたるや、言うまでもない。
だから見つ次第破壊しているのだが、壊しても壊しても翌日にはまた元通り補充されてしまう。きりがないとはこのことだ。
腰に下げている通信機が鳴った。
『こちら本部。哨戒活動に出ている隊員は、至急戻ってきてください。繰り返します、至急本部に戻ってきてください』
何かあったのだろうか。
一抹の不安を覚えながらカチャは、来た道を引き返して行く。
その時地面が揺れた。
山の向こうから巨大な影が立ち現れた。ひとつではない、幾つも。
●国境警備隊本部
「落ち着け、皆、マキナを初めて見るわけじゃないだろう」
ざわめく隊員達を一喝した本部長は、食い入るように大型モニタを見つめた。
映っているのは、10~30メートルはあろうかという巨大な影。全体がぬるりと黒く、凹凸がない。奇妙に滑らかな動きで歩いてくる。
あれこそはマキナ。自由同盟内で『ユニオンのCAM』として知られている存在。
おおむね今見ているような人型だが、いつもそうとは限らない。常識はずれの可変性を持っており、粘土のように形を変えられるのだ。色も、また。
それ以上のことは、正直よく分からない。ユニオンに関する情報は(彼らが自ら発信してくるものを別として)、ほとんど手に入れられていないのだ。
これまで数え切れないほどの人間が情報収集のためユニオンに潜入した。だが、いずれも例外なく帰ってこなかった。殺されたのか捕らわれたままでいるのかについては……不明だ。とにもかくにも向こう側は侵入者を見破る能力に長けているらしい。
……一定距離まで近づいてきたマキナが、動きを止めた。
顔の真ん中に光点が生まれる。そこから発した光線が、本部目がけて放たれた。
結界が作動し直撃を防いだが、建物が揺れる。ミシミシと音を立てる。
そこへ、哨戒に出ていたカチャ達が走り込んできた。
「ただ今戻りました!」
本部長は、太い声を吐き出す。
「これより迎撃体制をとる!」
リプレイ本文
●ユニオン・エリア58。
朝8時。公営工場へお勤めに行く。
通勤途中公営の花屋に立ち寄り花を買い職場に飾り仲間に褒められ和気あいあい仕事をして昼食と休憩を挟み午後3時でシフト終了。
緑豊かな公営集合住宅への帰り道、公営旅行会社でパンフを貰ってくる。
健康的で平和な労働者人生を送る、過去名ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)――現在名κ・F・24266746・ワーカー/R・F・009・ワーカー。
前者の登録名は公式、後者の登録名は非公式。通常のアルファベットで始まるこの非公式名を持っている者は、通常階級業務の他にもう一つ、仕事を割り当てられている――共同体社会に馴染んでいなさそうな人物を発見し、監視、通報(場合によっては捕縛)するという。
「来週からは長期休暇でバカンスです……力強い太陽の下、白い砂浜の海岸で……うふふふふ」
パンフレ片手にうきうきと公営トラムに乗り込んだ彼女は、相席に知り合いを見つける。
その知り合いというのは、過去名ソラス(ka6581)、現在名φ・M・73217749・ワーカー。ユニオン・エリア58の対外広報部局員である。
「こんにちは、φさん。お仕事は終了ですか?」
「はい」
「どうしたんです、浮かない顔をされて」
「同盟国が一向に靡かないんですよ。生活の不安や悩み事を聞いてあげても、ユニオンの素晴らしさを説いても」
「ああ、それは無理もないですね。物分かりの特別悪いのがあそこに残ってるわけですし」
「……まあそりゃ確かにそうなんですが、ねえ。どこかの部署が直接攻撃を始めたとも聞きますし……こんなことで同盟の市民を幸福に出来るのかと。もしかして、どこかやり方を間違えてるんじゃないかなと」
緩ませた顔を更にほころばせるルンルン。
彼女の瞳の奥に妙な輝きが生じたことに、ソラスは気づかなかった。
セントラルタワーに、過去名ディヤー・A・バトロス(ka5743)、現在名δ・M・5743・ソルジャーが出勤してきた。
物心も付かない頃親から分離され公的育成施設に収容され手厚い保護を受け――現在は平凡なユニオンの一市民。それが彼の経歴。
幸福なことである。市民化教育は早ければ早いほど馴染み易いものだから。
「ほいほい。今日も楽しいお仕事じゃー」
鼻歌交じりに高速エレベーターに乗る。下がる、下がる。音もなく静かに。
扉が開いた先は、ほの暗い廊下。ぼんやり静かに光る壁の両側に、数知れない扉がある。
そこで働いているのはマゴイたち。彼らの仕事場はほとんどこの地下セクションに限られている。それ以外の場所にいるのを見かけることは、ごく稀だ。
薄く開いた扉から声が聞こえる。
ちらと覗いてみれば、宙に浮く立方体を前に話し合う、数人のマゴイたち。
「……の問題行動は、これで101回目になりますね……」
「……彼女が市民化したのは、いつ?」
「……2年前です……そのときはもう20を過ぎていて……」
「……恐らく、脳神経回路における撞着現象が……」
「……これ以上の調整は、思考能力そのものを失わせる恐れが……」
「……ステーツマンに意見書を提出……」
難しい話には興味ないので、即座にスルー。
足取り軽く歩いていくうちにうちに、顔見知りのマゴイを見つける。
長い黒髪、白い細面。ステーツマンと何事か話している。
「おーい、μの」
「……あら……δ・M・5743・ソルジャー……こんなところで何をしているの……」
「あー、わしこれから出撃じゃで、転移セクションに行くところじゃ」
「……そう……では気をつけて……インカム……忘れないように……」
ユニオンの市街は、どこもきっちり四角に区分けされている。建物の形もほぼ差異がないので、うっかりすると迷いそうになる。
「こんにちはα」
「こんにちはα」
「こんにちはα」
「今日もお仕事ね」
「そうね」
「そうだね」
天竜寺 舞(ka0377)は物陰に隠れ、一群のワーカーたちが通り過ぎていくのを待つ。
傍らにいるにゃん五郎がちょんちょんと足をつつき、豊かな表情で語りかけてきた。
(今の人達みんな同じに見えたんだけど、もしかして分身?)
自分にもそう思えなくないが、違う。スペットから聞いたところによれば、生粋のユニオン市民は双生児だらけなのだとか。体外生殖の場合一つの受精卵で多数の人間を生み出すのが普通だから。
ついでに言うとファーストネームは24通りしかないらしい――だから今見たようなことが起きるわけだ。
(文化の違いにあれこれ言う趣味は無いけど……自分たち同士で混乱しないのかな)
ワーカーたちが通り過ぎて行ったのを見計らい、後方にいる天竜寺 詩(ka0396)と案内役のスペットに手を振る。
『おお、ここがユニオンか。ユニオンか!』
「ぴょこ、静かにして」
「大人しくぬいぐるみの振りしとかんかいっ」
両者、ぱたぱた騒いでいるぴょこを引きずりながらやって来る。
「ねえお姉ちゃん、なんでぴょこまで連れてきたの?」
「いや詩の話を聞くに、こいつ明らかにあたし達と精神構造違うでしょ? 万一の時こいつなら洗脳されずにあたし達の目を覚まさせられるかと思って」
「…そううまくいくかなあ…」
●国境でCAMは
ユニオンの侵攻が始まってこの方、CAMもそれを操れる人間も、減り行く一方。
ミグ・ロマイヤー(ka0665)のように経験豊かな古参パイロットは、実に貴重な存在である。
「よいか皆、敵は常に連携を仕掛けてくるでのう、単独での攻撃は禁物じゃ。ミグを別としての」
彼女のCAMはドミニオン。愛称は『ハリケーン・バウ・リベイク・フルモンテイ』。
「フルモンテイ(素っ裸)」という名称とは裏腹に全身次元バリアで固めている。3機縦に増設した大口径の4連カノン砲「ミグロマイヤーのオルガン」も搭載。さながら足の生えた要塞だ。
「へいへい。とりあえずオルガン演奏には巻き込まないでくれよ、ミグ」
と嘯くステラ・レッドキャップ(ka5434) のCAMもドミニオン。愛称は『RED RUM』。ミグのものと比べ、随分見劣りがする。ブレード、シールド、どちらもぼろぼろ。内蔵式マシンガンの弾薬も底をつきかけている。東部戦線から戻ってきたばかりで整備が追いついていないのだ。
自作の発煙弾も有しているが、マキナ相手にどれほど効果が上がるものか、正直心もとない。
しかしもっと心もとないのが、カチャの機体だ。これもまたドミニオン。愛称は『ドミー』。武器は……ワークスドリルとアサトライフルのみ。
「おいカチャ、お前もう少しどうにかカスタマイズ出来なかったのか」
「出来てたらこの状態で出撃してませんよ……」
物資不足は自由同盟全体の悩みである。
この国境警備隊本部には、もう一人リナリス・リーカノア(ka5126)というパイロットがいる。ユニオンからの亡命者である彼女が出てくれば百人力になる――はずだが。
「これカチャ殿、リナリス殿はどこじゃ?」
「リナリスさんならシャールカの調整してます。出撃がちょっと遅れるかもしれないけど、皆あたしが行くまでよろしく頑張ってって言ってました」
「なんだそりゃあ。その間にこっちがやられたらどうすんだっての!」
そんなやり取りをしている間に、過去名ボルディア・コンフラムス(ka0796)――現在名β・F・4352683・ソルジャーのマキナ『ヴァン』が近づいてきた。
のっぺりした巨大な影が人から犬へと形を変え、跳躍する。
『ドミー』の背後に回り込み、頭部にかじり付き、炎を吹きかける。
「う、わっ!」
『ドミー』は足を踏ん張り、振り向きざまアサトライフルを撃つ。
『ヴァン』は武器が当たらない位置まで飛び下がる。地面に多数開いているクレーターを遮蔽物代わりにし、疾風のように走り回る。
『RED RUM』はマシンガンを乱射したが、相手の動きが早く、なかなか当たらない。
「おいカチャ大丈夫か!」
「大丈夫、です、けどっモニタ画面が一部ブラックアウトして!」
「野郎、CAMの構造を知ってやがんな」
舌打ちしたステラは直後、口をつぐんだ。
(待てよ……あのマキナの形……攻撃方法……いや、まさかな)
浮かんできた名前を打ち消そうとしたところで、『ヴァン』が何倍にも膨れ上がった。
(これは――現界!?)
悪い予感が当たったことにステラは歯噛みし、声を張り上げる。
「お前、ボルディアか!? 何やってんだよ!?」
『ヴァン』はその問いに答えることなく『RED RUM』の背後に回り、背面に爪をめり込ませた。
廃熱ダクトを狙っている。
そうと察したステラは『RED RUM』の身をよじらせ、刃毀れだらけのソードを突き立てる。
「てめえ洗脳されやがったのか!」
『俺は操られてなんかねぇ。これは純然たる俺の意志だぜ』
『ドミー』のワークスドリルが、『ヴァン』の脇腹を刺す。
「意志って――ボルディアさん、ユニオンは自由同盟を侵略してるんですよ!?」
突き刺さったものが急激に締め込まれる。生きた筋肉に刃物が刺さったときのように。
『侵略? 違う。解放だ。あそこなら不公平も不満も無い、安心で快適な生活が送れるんだ。そう……ガキ共が不幸になることだって、ない』
「ああそうかよ! じゃあお前は俺たちの敵だよ!」
『ドミー』と『RED RUM』は、力づくで武器を抜く。
発煙弾が放たれた。『ヴァン』の視界が一時塞がれる
そこに突如、紅のイェジドが飛び込んできた。毛を膨らませ、唸り、『ヴァン』の動きを遮ろうとする。何事か訴えるかのように。
『ヴァン』は何度かそれを受け流した後、首に噛み付き何度も大きく振り回し、地べたに放り投げた。
ミグはマキナたちの動きの一歩先を読み、塵も残らぬほどの砲撃を浴びせる。とにかく数を減らさねばと。
カチャに関してはステラが共闘しているので、心配あるまい。
「たとえ火力に劣っても、数撃ちゃ互角以上じゃ!」
撃破されたマキナは姿を残さない。箱と同じように消えてしまう。
「乗り手も残らぬしのお。一体どういう理屈なのか、リナリスに一度きちんと原理を聞いてみたいもんじゃて――」
呟いた途端、ガクンと片足が引っ張られた。すかさず地面に向け砲撃する。反動で機体が浮き上がったがうまく重心を移し、転倒を免れる。
「何じゃ今のは!」
旧名葛音 水月(ka1895)――現在名λ・F・26444ソルジャーのマキナは、蛇のように多脚昆虫のように平べったく形を作り、地面すれすれを進んで行く。周囲の景色に合わせ色を変えながら、ひそやかな襲撃を続ける。
(あのCAMの乗り手、なかなか勘がいい……マキナの20パーセントを損耗してしまったな……)
●国境で人は
CAM部隊が出撃すると同時に地上部隊もまた動きを開始する。ユニオン側がマキナを差し向けると同時に、別の工作を仕掛けてくる可能性があると踏んで。
読みは当たった。
大型マキナに紛れるようにして続々湧いてくる。例の浮かぶ箱――いつものふた回りは大きいやつが。
【ユニオンはあなたたちを幸せにするためにある共同体です】
ジャック・J・グリーヴ(ka1305)はワン・オブ・サウザンドで片端から箱を撃ち抜く。
「他人から与えられる幸せなんざ真っ平御免だ! お前らは意識の統一化がどうたらほざいてやがるが、俺様は気に入らねぇな!」
【傷つけられる事なく平和な毎日を過ごせるのです】
「争いや諍いが起きたって良い。俺様は他の奴等と、この世界と対話していきてぇんだ! ソレを邪魔するってんならどうなるか……分かってんだろなァ、オイ!」
【ユニオンにはあなたがたを幸福にする義務があります】
岩井崎 旭(ka0234)はハルバードを振り抜いた。一気に十数台が吹き飛ぶ
「幸福にする義務があるだと? お断りだぜ、クソったれめ!」
榊 兵庫(ka0010)も十文字槍を振るい、片端から潰していく。
「……奴隷にだって心の自由はあったっていうのに、よ。奴隷以下に墜ちて堪るかよ」
【武器を置いてください、武器を置いてください】
箱自体に戦闘能力はない。ないが、精神に対する影響力が強すぎる。特に一般兵。早速動きが鈍り始めている。
轟音。地面が揺れる。ステラが発煙弾を使用したのだ。きな臭い煙が爆風に乗り流れてくる。
そこに影がさした。顔を上向ければ5メートル級のマキナが、覆いかぶさるように見下ろしている。
『選択と思考の自由がないのが、そんなにイヤかの?』
マキナは片方の手をヒモのように変形させ、無造作に地面へ振り下ろす。
『それ以外のものはなーんでも揃っておるが、ユニオン』
兵庫はそれを槍の穂先で弾いた。
「選べないなら何が揃ってたって、意味ないだろうがっ!」
『では問おう。お主らはその選択と思考を用いて、何を為そうというのじゃ』
旭が跳んだ。ハルバードをマキナの頭部に叩きつける。
「んなこたてめえの知ったこっちゃねえだろ! 妙に生っぽい動きしやがって、実は生物だったりすんのか?」
マキナはそれをまともに受けない。グニャリと変形することでダメージを避ける。
『いつか何かになる。否定はせんが、ワシは『現在』なりたい物になるぞ』
からかうような口調で言って、それからまた変形。どういう次第か人間そのものの形。かなりのイケメン。
ジャックはその顔面めがけ矢継ぎ早に弾を撃ち込む。
そこに光の矢が飛んできて、邪魔をした。
真っ白な制服をまとった旧名八原 篝(ka3104)、現在名ζ・F・86528535・ソルジャーが、もうもうと立ち込める煙の中、姿を現す。
「お迎えにきましたよ。皆さん、ユニオンで幸福になりましょう」
彼女の傍らには、旧名パトリシア=K=ポラリス(ka5996)、現在名π・F・75655996・ソルジャーが控えていた。
「同盟は幸福を知らない可哀想な子。ダカラ、正しい選択を教えに行ってあげるんダヨッ」
ジャックは、堪りかねたように叫ぶ。
「お前ら、どいつもこいつも洗脳されすぎだ!」
【私たちの目的はあなたがたの機動破壊兵器と施設の無効化であるのです。一般人に危害は加えません。武器を置いたものは一般人です。戦うのは怖いでしょう。怖いと思うことはしなくていいのです。さあ、武器を置いてください。ここから離れてください】
多分箱が言う通りなのだろう、とトリプルJ(ka6653)は思った。見ている限りマキナの第一攻撃対象はCAMと施設。地上の人間を進んで構おうとしていない。
だがCAMと施設が無効化されればどうなるのか――これまでのユニオンのやり方を見ていれば、答えはおのずと明らかだ。
人は殺されないかも知れない。だが精神は殺される。
「本当にあそこに人間がいるのかねぇ……信じられないぜ」
嫌悪を滲ませた呟きを漏らし、箱を殴り潰す。
腰の定まらない一般兵を励ます。
「さぁ、皆やる気出そうぜ。未来ってやつのために、ここで踏ん張らなきゃ」
【ユニオンに入ればあなたは、未来への不安に悩まされなくなります】
「お前は黙ってろ!」
箱に回し蹴りを見舞おうとしたJは、ひやりとしたものを背後に感じ飛びのいた
今しがた立っていた地面に穴があく。
信じられない思いで彼は、目を見開いた。
襲ってきたのは、ユニオン潜入以降行方不明となっていた、Gacrux(ka2726)だったのだ。
「Gacrux……」
「Gacrux? いいえ違います。俺の名はρ・M・32316834・ワーカーです」
「……は?」
「ユニオンに帰属すれば全ての苦しみから解放されます。何故、あなた方は生きながら精神の死の海でもがいている? あなた方は己の思想が、決断が、選択が、正しいと何故言える。他者との摩擦の中で、人間は敵だ味方だと互いを牽制し、争い合う。個が個である必要など無い――」
延々ユニオンへの賛美を垂れ流し続ける相手にJは、薄ら寒さを覚える。
近くにいた地上部隊長が叫んだ。
「何を言ってるんだ、お前――」
次の瞬間その眉間に穴が空いた――Gacruxがレーザーガンで撃ったのである。
「そう、貴方には理解出来ないんですね。残念です」
JはGacruxに殴りかかった。
「て――めえ!」
Gacruxは迷わず彼にも銃口を向ける。Jは銃を持った腕を掴み、ねじ上げようとした。熱線が肩を貫通する。
そこに銃声が響く。名もなき一隊員の。
銃弾は、ユニオンの理想に染まりきった頭を貫通した。
何ら苦しみのなさそうな死に顔にJは思わず、目をそらす。
瑞鳥符が箱にぶつかろうとしていた100tハンマーの打撃を消す。
ノワ(ka3572)は箱を守った相手を前に、立ち尽くした。
「雪都……さん?」
雪都(ka6604)はノワに、まるで他人のような目を向けてきた。実際問題今の彼にとって彼女は、他人以外の何物でもない。
「……雪都? 俺はα・M・58762517・ワーカーだけど。というか、あんた誰?」
ノワはぎゅう、と口を引き結ぶ。
「私ね、『記憶を呼び戻せる医学の最終手段』というのを、前あなたに習った事があるんです」
「気のせいじゃないの? 俺全然知らないんだけど。ていうか、本当にあんた誰?」
「これで脳天直撃すれば大抵のことは思い出せるかもしれないと雪都さんは言いました」
「……いや、常識的に考えてそんな言葉を真に受ける方がおかし」
「雪都さーん! 思い出して下さーい!!」
「いや、おかしいだろ!!」
「逃げないで、雪都さーん!」
●ユニオン・エリア58。
星野 ハナ(ka5852)――ω・F・26656432・ワーカーは椅子の上で身を縮めていた。
ステーツマンが書類を見ながら、話しかけてくる。
「あなたは何故自分が呼び出しを受けたか分かりますか?」
「はっ、はい、そのう……男の人を連れ込むから……ですか?」
「全然違います。連れ込む相手が常に特定の一人だというところに問題があるのです。何故ほかの人とはしないのですか。誘いはあるはずですね?」
「……ありますけど……なんだか……その時はする気がしなくて……」
「……マゴイたちは、これ以上の矯正が不可能と判断しました。あなたの思考能力に重篤な障害が出ることは私たちの望むところではない。よって非常に残念なことではありますが、私達はあなたを共同体から追放いたします」
●日常
前線基地から4キロ後方にある、最前線の町。
マルカ・アニチキン(ka2542)は一人窓辺でノーチソーンを吹く。
【ユニオンの脅威に対するため自由同盟政府は、臨時の緊急閣議を行い、速やかなる侵略行為の停止を求め、それが聞き入れられないときは断固たる行動を示す用意があるとの声明を発表……】
魔導ラジオが、いつもの決まり文句を垂れ流している。
一体いつになったら、この戦いは終わるのだろうか。
●遠い世界から来た兵器
遠い昔異世界からクリムゾンウェストへ転移し、誰にも知られぬまま眠りについていた対邪神決戦兵器――エルバッハ・リオン(ka2434)が目を覚ました。
なにやら、地上が騒がしい。
「いい気持ちで寝ていたのに最悪です…一体何事ですか」
ぼやきながら、有機回線を通じ送られてくる外部情報を読み込む。
ぼんやりしていた意識が一気に覚醒する。自分を裏切り見捨てた親友に瓜二つの顔を見つけたから。
遠い遠い昔に聞いた台詞が、耳の奥に蘇る。
――違います、一番同調成績がよかったのはリオンです! 私じゃありません! だから、私じゃなくて彼女をテストパイロットにしてください!――
(うそつき。本当は自分が一番成績がよかったくせに……)
リオンは怒りに任せ動き始める。自分がすでに元いた世界を、親友もろとも消滅させていることを忘れて。
●国境にて
【ソルジャー。戦線から退がりなさい、退がりなさい】
「ふお? いいところなのになんじゃろなー」
ぼやきつつもディヤーは、インカムの指示通り退却した。ほかのソルジャーたちも攻撃の途中だが、一斉に退く。マキナも。
ミグは、優勢気味だったユニオン勢が急に退却し始めたことを訝しむ。
「もうおしまい……というわけでもなさそうじゃが」
しかしまあ攻撃中止なら中止でよい。そう思って息を吐き出す。奮闘の甲斐あってあたりは荒廃のきわみ。穴ぼこだらけだ。
フルモンティの装甲はだいぶ痛んでいる。あちこち溶けて変形した上、穴も空いている。
しかしカチャとステラの方はもっとひどい。スクラップ一歩手前だ。
「おーい、おぬしら生きておるかー」
『……なんとかー』
『俺もだ』
そのとき、周辺一帯の地面が真っ黒になった。巨大な赤色の正八面体がズブズブせり上がってくる。
一体何事かと思うひまもなく八面体が、薔薇の形に組み変わる。
薔薇の周囲に光点が生まれ、四方八方にほとばしる。
運悪く直撃を食らったCAMとマキナが――警告が出なかった分被害はCAMの方が多かったが――跡も残さず蒸発する。
大地に当たった光は地面沸騰させ膨張させ破裂させた。赤い火の玉が木も草も、人も飲み込む。
「きゃあ!」
ノワは耳を手で押さえ、伏せた。鼓膜がおかしくなるほどの轟音と振動が通り過ぎた後粉塵がの舞う周囲を眺めれば、新たな山が出来ていた。それが巨大なクレーターの淵であると理解するのに、少々時間がかかる。
すわ雪都はと見やれば100トンハンマーを頭にし、倒れている。
すぐさまにじり寄りハンマーをどけてから、尋ねる。
「思い出しましたか?」
「いいや、全然」
「……仕方ありませんね。ではもう一発!」
おとなしく2発目を受けるほど雪都も馬鹿ではない。胡蝶符を一面にばら撒き目をくらまし、逃げる。
インカムからしきりと退却が呼びかけられているのだ。ならこの場に長居する必要はない。
「なん、だあれは……ユニオンの新兵器か……?」
「いや……今、マキナも撃たれたぞ……」
正体不明の八面体に戸惑うジャックと兵庫。
旭は素早く決め付けた。
「どっちにしても敵だな! 撃ってきたんだから!」
痛手を気合で打ち殺し、八面体に撃ってかかる。
しかしハルバードは、掠ることさえ出来なかった。強力なバリヤに弾かれて。
「ちっ!」
よろけながら地上に着地し、深遠の力を発動させる。
その途端頭が割れそうになった。流れ込んでくるのは底無しの憎悪、滾りたつ怒り。
これはユニオンのものではない。ユニオンの連中はこのような激情を抱かない。彼らの心には、ただ、腑抜けた平穏があるばかりだ。
『RED RUM』は、爆発のあおりを受けて機能停止。
『ドミー』もまた機体の半分以上を吹き飛ばされ機能停止。
薔薇の光点が『ドミー』がいる方向に向け集束した。
明らかな敵意を察したミグは、カチャと薔薇の間に割り込み、砲門を全開にする。
勝ち目が薄いことは分かっている。しかし、やらねば。身近なものが次々去り逝った今、自分に残されている身内は彼女一人なのだから。
「負け戦こそ、戦の花道。1人屋島作戦一度はやってみたかった」
砲撃。砲撃。砲撃。熱と光がとめどなく炸裂する。あまりの轟音に何も聞こえなくなる。
「カチャ殿、早く離脱せえ!」
まともに光線を受けた『フルモンティ』の腰から上が消失する。
コクピットをこじ開けたときカチャが見たのは、まさにその光景だった。
「――あ――」
あまりのことに硬直するところへ、声が聞こえてきた。
『殺す』
間近で熱戦が炸裂する。
●ユニオン・エリア58
μマゴイが手を振り上げた瞬間スペットの作った結界は、粒子となって消え去った。
舞、詩、スペット、そしてにゃん五郎の姿が露になる。
「……あなたが使えるのは……あくまでも……ワーカーとしてのアーキテクチャー……私には……通用しない……」
周囲の空間が上下左右バラバラになり、入れ替わり、重力が消える。体が浮き上がったところを、四角形の結界が囲い、閉じ込める。
ここはW58地区のタワー内部。薄暗くだだっ広い空間。
捕まったこと自体を別として、舞にはどうしても納得いかないことがあった。
『うほほい、わし浮いとるぞ。浮いとるぞ。これは愉快じゃのう』
平泳ぎしているぴょこの回り、何故か結界が張られていない。
「……ねえ、なんでぴょこは捕まえないわけ?」
「……なぜって……この人は野放しにしておいても……安全……情緒は安定そのもの……ユニオンの害とならない……」
理屈が通っているようないないような。
そこで、スペットが怒鳴る。
「おいこらマゴイ! θはどないなってんや、θは!」
「……あなたは……もうワーカーではない……市民ではない……その情報にアクセスする権利はない……私に言えることは……それだけ……」
「なん……やと……」
「……帰ってきたなら……丁度いいから……改めて処分を……させてもらう……丁度今日……新しい追放者が1人出たから……それと一緒に……」
直後、スペットの姿だけが場からかき消えた。
●ただ一人の誰か
「ごめん、遅くなってごめん!」
リナリスはコクピットに転移させたカチャを抱き締めた。
裂傷による出血がひどい。骨もあちこち折れている。爆発に巻きこまれたせいだ。
展開しているバリア越しに、鋭い声が入り込んでくる。
『邪魔をするなら殺す』
こいつがカチャをこういう目に遭わせたのかと思うとリナリスは到底許せなかった。
「――それはこっちの台詞だー!!」
改造CAMシャールカが持てる能力全てを使用し、猛攻撃を開始する。
それに対しリオンは、反撃した。
雷、吹雪、飛び交う光線、さらには天上から隕石。空間がきしみ、音とも言えない音を上げる。誰も割って入れないほどの激しい応酬。
全ての攻撃がお互い同士に向けられているとはいえ、周囲に与える影響は甚大だ。
乱れ打った光線が警備隊本部に命中し、建物上部を丸ごと吹き飛ばした。
『なんでそんな子を守ろうとするの。卑怯な裏切り者なのに』
「カチャが誰を裏切ったっての!」
『わたし』
「あたしもカチャもあんたみたいなのとは初対面なんですけど!? カチャが死んだらあたしがお前を殺す絶対殺す地の果てまでも追い詰めて殺す!」
嵐のようにまくし立てるリナリス。
そこでふいに声が、怪訝そうなものに変わった。
『……ここはどこ?』
「はぁ!?」
『……ああ……そうだ……もうあの子を殺してたんだった……わたし……』
訳が分からないことを言いつつ薔薇は8面体に戻り、地面に沈んでいった。
「な……何……それ……」
思わずコンソールを叩くリナリスの耳に聞こえたのは、カチャのか細い声。
「……ミグ、さん、が……死……私の……せい……ごめ、なさ、い……」
「違うよ、カチャのせいじゃない、カチャの――」
すすり泣く相手に言葉をかけるのももどかしく、リナリスは、カチャの唇に自分の唇を重ねた。機体に新設した精神干渉装置を、ONにしたままで。
ディヤーはインカムに聞いた。
「えーと、もう危険はなくなった、かの?」
【はいソルジャー。危険はないものと思われます】
その言葉を信じ、原型を留めぬ戦場に戻る。
先に戻っていた篝とパトリシアは、『RED RUM』の壊れたコクピットからステラを引っ張り出していた。頭を打ったか、顔が血だらけだ。
相手がまだ生きていることに対して篝は、素直に喜んだ。ユニオンの市民が増えることは、なにより幸福なことだから。
「次に目覚めたときは、あなたがたは立派な市民となっています。『わたしたち』とひとつになりましょう」
ステラは篝の言葉に対し、凄絶な笑みを見せた。
「……パティに篝……お前らもかよ……」
その声にパトリシアは、ちょっと変な気持ちがした。何処か聞いた事があるような、懐かしいような。
彼女が考えているうちに、ステラは、短銃で頭を打ち抜こうとする。洗脳だけは避けたくて。
「悪いな……ユニオンの思いどおりにはならねぇ――」
篝が咄嗟に当て身を食わし、それを防ぐ。
幸福になれるというのに何でこの人は今死を選ぼうとしたのだろうかと、首を傾げるパトリシア。
その頭上に突如襲いくる、ノワの100tハンマー。
「皆さん、思い出してください!」
完全な攻撃とみなしパトリシアは、降魔結界を発動する。ハンマーの打撃が弾かれた。
そこで篝が矢を放つ。急所は外して。
「ぐっ」
痺れるような痛みを覚えるも、ノワは、引き下がらない。
「お願いです……皆さん、思い出してください!」
そういった光景を前にディヤーは、口笛を吹く。
『良きかな良きかな。迷うがよい、そして選べ。その為の選択と思――』
突然肩に痛みが走った。クレーターの縁に上り身を潜めていた旭が、高所から飛び降りざま、ハルバードを叩きつけたのだ。
マキナの障壁に守られていたため肉を裂かれはしなかったが、鈍器で殴られるほどのダメージがきた。
「ぐわ!」
咄嗟に軽口も出せぬまま、手を盾に変形させ、防御。
そこへ更なる一撃。びりびり骨まで響くような。
「生きることを、考えることを止めたテメーらとの違いを見せてやる!」
「おい、ちょ、何をそこまでガチギレしとんじゃ!?」
守勢に回るところに、ジャック、J、兵庫が来た。
さすがに4正面作戦はまずい。
と思ったところ人知れず近くに潜んでいた水月が、マキナを触手が伸びてきた。旭たちの足を搦め捕り、捕獲する。
「おお、助かったぞλの」
礼を言われても特に返事をしない。水月の意識としては、単に仕事をしているだけのこと。敵の行動抑制も作業の一つでしかない。次の呼びかけも。
『どうぞ抵抗を止めてください。あなたがたをこれから、ユニオンに招待致します。幸福な市民になれるように』
兵庫は、吐き捨てるように言った。
「……ユニオンの理想が聞いて呆れる。言葉で言う事を聞かせられないからって、実力行使か。俺の魂まで縛れると思うなよ」
言うが早いか銃口を自分の頭に向ける。
意図を察した水月は銃にマキナを絡ませ引き金を押さえる。
その時、戦場にいた全員の脳裏に、映像が割り込んできた。リナリスが、泣きじゃくるカチャに口づけして襟をくつろがせ肌をあらわに首筋から胸へ手を――という。
見たいと思わずとも勝手に頭に浮かんでくるのから、止めようがない。旭は顔を真っ赤にして叫んだ。
「おおおい! お前らこんな時に何やってんだー!」
次の瞬間マキナが消えた。ユニオンのソルジャーも消えた。生死を問わず、全員。
カチャとリナリスの映像も突如、断ち切られた。
●ユニオンはそれを認めない
マゴイたちの声。百、千、万の声。αからωまで、24セクト全てのものの声。
『『……止めなさい……!』』
リナリスは、モニタに目を向けた――シャールカの周囲をびっしり箱が取り囲んでいる。
彼女はすぐ理解した。それが、自分の作った精神干渉装置の作用を封殺するためになされているのだということを。
「あは、マゴイの皆久しぶり。ユニオンからハックしてきたんだ。早かったね」
『『…………』』
「ねえ、思うんだけど、拡大政策を止めたらどうかな。もう大半は占領し終わってるんだし。自由に行き来出来るようにしたらいいじゃない。どっちを選ぶのかはその人次第って事で。今のユニオンのやり方じゃ、停滞しか生まないよ――」
『『……私たちは変化を欲しない……あらゆる変化は安定を脅かすものだから……あなたは市民を不安定化させようとした……著しく……特定の一人に執着する姿を……見せることで……私たちは性欲を認めるしその解消を推奨する……しかし……私的所有欲に関しては……断じて容認出来ない……』』
声が立ち消えた。
箱たちもまたマキナやソルジャーたちと同様、消えてしまう。
●ユニオン・エリア58。
【ソルジャー、至急帰還。ポイントに転移】
声がインカムから響いたと同時に視界が揺らぎ、あっと言う間に切り替わる。
転移させられたのだ。
薄暗く、高い天井、忙しげに動き回る整備員。
見慣れた光景を前にディヤーは、ほっとする。
「ん?」
見回せば仲間のうち何人かが、明らかに不安定となっていた。
特に顕著なのが、ボルディアとパトリシア。
「……なんだ? 俺はどうして、涙なんか……?」
「パティは……、……パティはダレ?」
「おい、どうしたのじゃおぬしら?」
呼びかけるも、返事なし。
そこにμマゴイが現れ、整備員に指示をする。
「……この人たちは調整室へ」
介添えされながら彼らは、皆とは別の場所へ連れて行かれた。
「のう、μの。何が起きたのだ?」
μマゴイは難しい顔で言った。
「……不安定化が起きたの……精神干渉のせいで……成人後にユニオンへ入った人間は……どうしても不安定化の症状が起きやすくなる……だからこそ慎重な調整を必要とする……私たちはたった一人の人間に……興味を集中させてはいけない……安定のために……非常によくない……」
白く光に溢れた部屋。
部屋の真ん中にあるのは大きな透明の筒。周囲で数人のマゴイが働いている。
その中に猫の顔となったハナが入れられている。おびえた様に目を見開いて。
一緒に入れられているスペットは、暴れまわっていた。
「開けろ! 開けろやー!」
指揮を取るステーツマンの声が頭の中に響いた。
『あなたがたはこれから、異世界に飛ばされます。そこがどんな世界かは我々にも分かりません。転移先は常にアトランダムに決まりますから。しかし、ご心配なく。そこがどんなところであれ、指輪があなたを守るでしょう。あなたの希望残存年数が実り多きものであることを祈ります』
ハナとスペットの姿が急激に薄れ、消えていく……。
●交渉
正体不明の8面体が消え、マキナが去り、国境に平穏が戻った数時間後。
同盟国防司令室役員アウレール・V・ブラオラント(ka2531)のもとに、ユニオン側から相手思いがけない接触があった。
モニタに映っているのはいつもの通信係ではない。聞けば有給休暇中だとか。
『あそこに埋まっているのは異世界の兵器です。我々はそれを無効化したい。その作業を行うため、あなたがたは、国境から部隊を後退させていただけませんか』
虫のいいことをという気持ちはある。
しかしこの話、乗った方が得策。アウレールはそう判断した。
「かまいませんが。それに乗じてあなたがたがこちらに攻撃を仕掛けてこないということを確約してくださるなら」
『確約しましょう。つきましてはあなたがたに、もう一つしていただきたいことがあるのですが』
「何ですか」
『リナリス・カーノリアと名乗る者を引き渡していただきたい』
「……何故です?」
『彼女は危険です。その力を利己的な目的のために使う』
「利己的? 彼女は同盟のために戦ってくれているのですが」
『違います、彼女は特定の個人のために行動しているのです。あなたがたの社会制度を擁護するのは、その個人がそこに所属しているからに過ぎません』
「……しかし彼女は、我々の役に立ってくれています。情報を提供してもくれますし」
『それでは彼女の代わりに、あなたがたの潜入者をお返ししましょう』
「……洗脳されているのですか?」
『いいえ、まだ市民としての教育を受けてはおりません。今回の衝突において、担当者が多忙であったもので』
「……リナリスさんをユニオンに帰らせる……? なんでですか?」
「誰が決めたんだ、それ!」
隊員の詰問に本部長は、硬い表情で答えた。
「分からん。ただ、そういう通達が来たんだ。向こうはその代わり、舞と詩を返してもいいと言っているらしい」
ジャックは口を引き歪めた。
「へえ、連中も人質交渉てもんをするわけか」
旭は壁を叩く。
「冗談じゃねえぞ。リナリスを返したとして、連中がこっちに手を出さないって保証がどこにある」
そこで、当のリナリスが口を開く。
「――いや、ユニオンは手を出してこない」
驚いた顔をする一同に、苦笑して続ける。
「異世界兵器が出てきた時点で、そちらへの処理に注意が向くよ。自由同盟より脅威度が上だから――まあ、仕方ない。ちょっとだけ帰るよ。それでね、すぐ戻ってくるよ。心配いらないよ。すぐ抜け出せるよ」
カチャはその言葉をウソだと思った。リナリスの顔色から。
●ユニオン・エリア58。
今日も変わらないユニオンの青空。見上げて雪都は、平和そのものの表情で呟いた。
「……俺の居場所はここだけだ」
「おはようございます。調整も出来ないうちにユニオンから帰らせてしまうことになりまことに残念。でもこれにめげることなくまたおいでください。今度こそ幸福にいたします」
反応に困る口上を述べつつ監視員が、舞と詩、ぴょこ、にゃん五郎を、宿泊部屋から出した。
ぴょこ以外はぐったりしている。
無理もない。壁の一角に例の箱がはめこんであって、延々ユニオンの素晴らしさを説き続けていたのである。
【おはようございます、市民。ユニオンの素晴らしい一日をともに楽しみましょう】
『おお、たのしもうぞ』
ぴょこが延々相手をしていたからまだしもよかったものの、そうでなければ全員神経をやられていたに違いない。
兎にも角にも理由は定かでないが帰れるらしい。
よかった。帰ったらこの体験を皆によくよく伝えておこうと舞は、そして詩は堅く誓った。
同行していたスペットの存在を、いつのまにか忘れさせられていることにも気づかずに。
●逃亡者
「駄目ですよ、逃げようとしちゃ……」
真っ白にペイントされたCAMが追ってくる。
海沿いにある公営休養地から夜中、こっそり亡命しようとして、一時間も経たないうちだ。
「幸せな生活を乱すものは、このニンジャアーマーで成敗です! くらえ、ニンジャハルバード」
恐ろしい、と初めてソラスは思った。自分が所属している世界が。
巨大な斧が頭上を通り抜けた。
死ぬ。殺される。その危機感が彼を敏捷にした。照葉樹林の中へ飛び込む。見通しの利かない中手足に傷を作りながらくぼみに飛び込む。重い足音が遠ざかるのを待った後改めて歩きだす。自分を守ってくれるものから切り離された不安に震えながら。
おとついの戦場。
8面体が出てきた一角を、早くもユニオンの防護柵が囲んでいる。
ボルディアは閉口していた。
「魔法のハーブで、今日もあなたの呼吸は止まらない。ほら、燃やすと良い香り……! お値段はなんと! ¥9800! ¥9800のご提供ですよ奥さん!」
このやたら絡んでくる女はなんなんだろうと思いつつ、首根っこを捕まえ、ズルズル受け渡しの場から引き離して行く。
今、ユニオンへの潜入者4名とユニオンからの脱走者を交換している最中なのだ。
こちらから向こうへ引き渡された潜入者4名がこちらを指さし、向こうの代表に何か言っている。
「ど、どういうこと!?」
「なんでリナリスさんが」
目の前を灰色の大きな獣が横切った。年とったイェジドだ。
「ヒーヒッ……んんん……ぶえっ!」
咳き込むその姿にボルディアは、つい見入る。
イェジドの背にはカチャが乗っていた。狼の顎がリナリスの体を捕まえかっさらっていく。
何もかも、ほんの瞬きの間の出来事。
絡んできていた女が言った。
「コシチェイ! 二人を頼みましたよ!」
●市民の利益のために
『当方は彼女らを捕獲するよう最善を尽くします。つきましてはあなたがたにも同じことをお願いしたい』
「当然、こちらでも手配致します。捕まえ次第そちらに送還いたします」
通信を終えたアウレールは頭を巡らせる。今後のことについて。
侵攻が保留された今なすべきは……ユニオンの自由同盟併合に向けて、道を開くことだ。誰にも知られぬよう、平和的に。
「自由は責任を意味する。だからこそ、たいていの人間は自由を恐れる……」
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
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相談卓(?) 八原 篝(ka3104) 人間(リアルブルー)|19才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2017/04/08 04:04:01 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/04/08 17:04:04 |
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質問卓 天竜寺 舞(ka0377) 人間(リアルブルー)|18才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2017/04/06 21:56:01 |