ゲスト
(ka0000)
【魔性】老婆たちの晩餐会
マスター:雪村彩人

- シナリオ形態
- シリーズ(続編)
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 4日
- 締切
- 2017/04/12 22:00
- 完成日
- 2017/04/25 21:35
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
ふと、目が覚めた。
深夜。おそらくは二時頃。寒さで身が震えた。薄っぺらな毛布のためだ。冬である上に山奥のため、夜気は凍りつくほど冷たかった。
むくりと身を起こすと、ダニエルは小用に立った。身震いし。廊下に出る。
と――。
物音がした。
何気なく耳を澄ますと、それは声であった。ぼそぼそという話し声である。おそらくはこの屋の老婆たちのものであろう。人の良さそうな老婆であった。
昨夜のことだ。ダニエルは旅の途中で行きあった数名の者たちとこの家に泊まったのであった。その者たちも旅の途中であるという。
ホテルが見つからず困っていた彼らが泊まったこの家には二人の老婆がいて、快く彼らをもてなしてくれた。獣のものという肉鍋が美味しかった。
今頃、何をしているのだろう?
ふと疑問にかられ、好奇心からダニエルは勝手口にむかった。声は奥の方からしていたのである。
しゃり。
「何だ?」
喜助は首を傾げた。奇妙な物音がする。何かを擦るような音だ。
しゃり。
しゃり、しゃり。
近づくほどその音が大きくなる。
「お」
婆さん、と声をかけようとして、ダニエルは息をひいた。
台所。そこで二人の老婆が刃物を研いでいた。
包丁ではない。短刀であった。
「獲物じゃ」
嬉しそうに老婆の一人がいった。ドロレスと名乗った老婆だ。するとロレインと名乗った老婆がうなずいた。
「美味そうじゃのう」
ロレインはニタリと笑った。
いつのことだったろうか。貧しい二人の老婆は飢え死にしかけたことがあった。その際、彼女たちは行き倒れの旅人を食べた。それ以来、二人は人の肉の味が忘れられなくなってしまったのだ。
が、老婆がそう簡単に人を殺すことができるはずもない。それで干し肉など喰らって我慢していたのだが……。
ある日、彼女たちは力を得た。若い旅人ですら簡単にねじ伏せることのできるほどの力を。
その力を得る代償は大きかった。速やかなる死である。
その事実をしかし、老婆たちは知らなかった。が、たとえ知っていたとしても結果は同じであったろう。どのみち老婆たちに残された時間は多くなかったのだから。
「まずどいつから殺そうかのう」
ドロレスがいった。
その言葉を聞いて、ダニエルは翻然と悟った。そして足音を殺し、行き合った者たちの眠る部屋にむかった。
ふと、目が覚めた。
深夜。おそらくは二時頃。寒さで身が震えた。薄っぺらな毛布のためだ。冬である上に山奥のため、夜気は凍りつくほど冷たかった。
むくりと身を起こすと、ダニエルは小用に立った。身震いし。廊下に出る。
と――。
物音がした。
何気なく耳を澄ますと、それは声であった。ぼそぼそという話し声である。おそらくはこの屋の老婆たちのものであろう。人の良さそうな老婆であった。
昨夜のことだ。ダニエルは旅の途中で行きあった数名の者たちとこの家に泊まったのであった。その者たちも旅の途中であるという。
ホテルが見つからず困っていた彼らが泊まったこの家には二人の老婆がいて、快く彼らをもてなしてくれた。獣のものという肉鍋が美味しかった。
今頃、何をしているのだろう?
ふと疑問にかられ、好奇心からダニエルは勝手口にむかった。声は奥の方からしていたのである。
しゃり。
「何だ?」
喜助は首を傾げた。奇妙な物音がする。何かを擦るような音だ。
しゃり。
しゃり、しゃり。
近づくほどその音が大きくなる。
「お」
婆さん、と声をかけようとして、ダニエルは息をひいた。
台所。そこで二人の老婆が刃物を研いでいた。
包丁ではない。短刀であった。
「獲物じゃ」
嬉しそうに老婆の一人がいった。ドロレスと名乗った老婆だ。するとロレインと名乗った老婆がうなずいた。
「美味そうじゃのう」
ロレインはニタリと笑った。
いつのことだったろうか。貧しい二人の老婆は飢え死にしかけたことがあった。その際、彼女たちは行き倒れの旅人を食べた。それ以来、二人は人の肉の味が忘れられなくなってしまったのだ。
が、老婆がそう簡単に人を殺すことができるはずもない。それで干し肉など喰らって我慢していたのだが……。
ある日、彼女たちは力を得た。若い旅人ですら簡単にねじ伏せることのできるほどの力を。
その力を得る代償は大きかった。速やかなる死である。
その事実をしかし、老婆たちは知らなかった。が、たとえ知っていたとしても結果は同じであったろう。どのみち老婆たちに残された時間は多くなかったのだから。
「まずどいつから殺そうかのう」
ドロレスがいった。
その言葉を聞いて、ダニエルは翻然と悟った。そして足音を殺し、行き合った者たちの眠る部屋にむかった。
リプレイ本文
●
「なんだと!?」
ダニエルの話を聞き、愕然として声をもらしたのは落ち着いた物腰の青年であった。小柄であるのはドワーフのためで。名をロニ・カルディス(ka0551)といった。
「あの親切そうな老婆が化身であるというのか」
「は、はい」
青い顔でダニエルはうなずいた。先ほど見たあまりにおぞましい光景。実際に見ていながら信じられぬ心地であった。
「……まさか小旅行中にこのような形で敵とぶつかることになろうとは。どうにも運が悪いとしか言えないな」
鍛え抜かれた体躯の持ち主である男がため息をこぼした。これは名を榊 兵庫(ka0010)という。
すると蒼髪蒼瞳の少年が舌打ちした。どこか奔放不羈たる雰囲気がある少年だ。名は柊 恭也(ka0711)といった。
「おいおい、休暇だと思ったらまさかの人食いババァの相手かよ……まぁ最低限の武器はあるだろうし、ババァ共をぶっ殺す分には問題ねぇか」
「ぶっ殺すのはいいが」
兵庫が部屋を見回した。狭い。
「そうだな」
恭也はうなずいた。
「屋内戦は乱戦になるだろうし、俺達は大丈夫でもダニエルがマズイ。となると窓から外に出るしかないか」
「そうだな」
兵庫は窓に目をむけた。ぞろぞろと廊下を歩くと老婆に気づかれかねないだろう。窓から飛び降りるしかないが――。
ロニは窓に歩み寄った。暗いため外の様子はあまり見えない。飛び降りた場合、何人かは怪我を負うかもしれなかった。
「ともかく他の者に知らせよう」
ロニはトランシーバーを手にとった。
●
闇の中。
少女がトランシーバーに手をのばした。銀の髪の可憐な美少女だ。
「……はい」
トランシーバーを耳にあてると、少女――ディーナ・フェルミ(ka5843)の顔色が変わった。異変な気づいた隣のベッドで眠っていた女が身を起こす。のほほんとしたところのある娘だ。名を烏羽 華凪(ka6772)といった。
「……どうかしたのですか?」
眠い目をこすりながら華凪が問うた。するとディーナはロニから聞いたことを告げた。すると、さして驚きもせず華凪は唇を噛んだ。怒っているのだ。
「トラブルですか……仕方ありません」
華凪はベッドからすらりと下りた。両足が義足であるのだが、とてもそうは見えない動きだ。軍人であった時の癖で、眠っている間も義足を外してはいなかった。
ディーナは少女らしからぬ落ち着きぶりで指先から肩までをぴったりと覆う薄い布地のグローブ――ディスターブを装着した。表面には幾何学模様が浮かんでいる。
「様子を見るの」
素早く走り寄ると、ディーナはドアを薄く開いた。
「家の家族の男共は皆歌舞伎って芝居の役者でさ」
ベッドに寝転がった少女がいった。ぶっきらぼうな口ぶりだが、可愛らしい顔立ちをしている。名を天竜寺 舞(ka0377)といった。
「歌舞伎?」
隣のベッドで寝転がっていたリン・フュラー(ka5869)という名の少女が首を傾げた。幻想的な美貌の持ち主であるのだが、エルフである彼女は歌舞伎なるものは知らなかった。
と、突然、眠っていた娘が目を開いた。美しい娘であるが、人間てはない。鬼であった。額には雄々しさすら感じさせる角がある。――骸香(ka6223)だ。
「どうしたんですか?」
骸香か目を覚ましたことに気づいたリンが問うた。すると、むくりと骸香は身を起こした。
「いや……誰か下から上がってきたようなんだけれど」
おかしい、と骸香は思った。何か足音に緊張感があるようだ。
その時だ。トランシーバーのランプが点った。誰かが通信してきたのだ。手にしたリンであるが、すぐに顔色が変わった。
「私たちを泊めたのは、殺すため……ですか」
「殺す?」
骸香が眉をひそめた。
「穏やかじゃないねえ。何かあったのかな」
「それが――」
ロニから伝えられた事実をリンは口にした。すると舞は大げさに肩をすくめて見せた。
「親切にしてもらって悪いけど、お返しがカニバリズムの獲物ってのは勘弁してほしいね」
「まったくだね。お肉食うなら森でも行って動物でも死人でも獲って来いよ」
骸香は苦く笑った。
「で、これからどうするって?」
「窓から脱出するようです」
「窓か」
窓に近寄ると、舞は下を覗き込んだ。暗いため、距離感が掴みづらい。
「それなら」
ベッドに戻ると、舞はマットレスをはずした。そして下にむかって投げ落とした。
「うん?」
短刀を研ぐ手をとめ、老婆の一人は眉をひそめた。
小さな物音がした。外だ。
恐るべき聴力。人間ではなくなった彼女の聴覚は尋常ではないのであった。
「誰ぞ外におるのか。それとも――」
黄色く底光る目を見交わし、老婆たちは廊下にむかった。
●
次々とハンターたちは二階の窓から飛び降りた。一人、華凪のみ着地に失敗し、手を痛めた。最後は恭也とダニエル、そしてロニである。
「そんじゃ派手に行きますかねーっと」
ダニエルを抱えて恭也は飛び降りた。足の装備からマテリアルを噴射、緩やかに着地する。続いてロニが飛び降りた。
その時だ。ドアが開いた。そして老婆の一人が顔をのぞかせた。ロレインだ。
「ぬしら、挨拶もせずにどこへいくつもりじゃ。礼儀知らずじゃのう」
老婆がいった。その手の短刀の刃が冷たく光る。
「礼儀知らずとは恐れ入ったな」
兵庫がふふんと笑った。
「お前たち、一体何人殺した?」
「そうか」
もう一人の老婆――ドロレスがニンマリ笑った。魔的な笑みだ。
「気づいたのか」
「貴方達は……一体いつからこんなことをしてるの」
怖気に震える声でディーナが問うた。するとロレインが口をゆがめた。
「さあての。つい最近のことじゃが……。ふん。そんなことを聞いてどうするつもりじゃ。もうお前たちは誰にも伝えることはできぬ。これからわしらが殺して喰らってやるのじゃからの」
二人の老婆の形相が変わった。温厚そうな顔つきであったのに、悪鬼のそれへと変わる。
「逃がさぬぞ」
老婆たちの目が赤光を放った。
刹那である。兵庫とロニの身が凍結した。呪縛されてしまったのである。
次の瞬間、老婆たちが短刀をふりかざして襲いかかった。速い。彼女たち疾走速度は常人を遥かに超えていた。
あっという距離を詰めると、老婆たちは動けぬ兵庫とロニに躍りかかった。兵庫とロニは躱せない。空に血の花がひらいた。
「けけけけけ」
化鳥のような声で笑うと、さらに老婆たちは二人を襲った。老婆の短刀が閃く。
ギインッ。
老婆たちの短刀がとまった。同じ短刀の刃によって。一瞬で距離をつめた舞と骸香の仕業であった。
「調子に乗らないでよね」
「生憎、こいつの扱いならお前たちには負けないつもりなんだよね。次はうちが壊してやるよ」
舞と骸香がいった。すると老婆たちは跳び退った。一気に十メートルの距離を。
「あんた達、人間じゃないの?」
愕然とし、舞が叫んだ。
獣を凌ぐ機動力。そしてターゲットを硬直させる魔眼。とても人間のものとは思えない。これは、むしろ――。
歪虚!
●
「大丈夫なの?」
血まみれの兵庫に駆け寄り、ディーナは祈った。それは魔法発動のトリガーである。ディーナは自身のマテリアルの力を大きく引き出し、兵庫の生命力を活性化させ、彼の傷を癒した。
「すまんな。助かった」
顔に飛び散った血をぬぐいながら兵庫は立ち上がった。そして柄も刃も氷のように透明な短剣――セリオンダガーを手にした。ニヤリと笑む。
「……短剣一本では少々心許ないが、得物の善し悪しで戦いが不利になるような鍛え方はしていないつもりだから、な」
「ねえ」
何を思いついたか、舞が口を開いた。
「人を襲いだしたのはつい最近っていってたよね。もしかして、あんた達何者かに歪虚にされたんじゃない?」
はっとしてハンターたちは顔を見合わせた。その脳裏に浮かんだのは、先日何者かに歪虚とされたエリオットのことだ。するとロレインの目が興味深げに眇められた。
「ほう。よくわかったの」
「やはり」
リンの口から嘆きにも似た声がもれた。もし老婆たちを歪虚とした者がエリオットと同一であったなら、恐るべき偶然といわざるを得ない。
「貴方達を変えたのは……どんな相手だったの?」
思わずといった様子でディーナが問うた。すると二人の老婆の目に憧憬の光がうかんだ。
「綺麗な若者じゃった」
「そして優しい人じゃった。わしらを憐れんで力をくれたのじゃからの」
二人の老婆がいった。
「おいおいババァ」
恭也が怒声を放った。
「もう間違いはねえな。テメェもあのクソ野郎から力を貰った口か?」
「ほう」
さすがに老婆たちは驚いた。ドロレスが逆に問うた。
「お前たち、知っておるのか、あのお人を?」
「まだ会ったことはないがな。しかしやり口なら知っている」
ロニがこたえた。そして、続けた。その者は人間ではないと。
「人に歪虚と化さしめる力はない。もしあるとすら、それは高位の歪虚だけだ」
「おい、ババァ」
再び恭也が叫んだ。
「答えろよ、アイツ等は何やろうとしてやがる?」
「知らぬ。ベルンシュタインさんが何をなされようとしているのかなぞ。ただ感謝しておるだけじゃ。世に見捨てられたわしらに生きる力を与えてくれたのじゃからの」
「……憐れな」
華凪は独語した。老婆たちは生きる力を与えてくれたと思っているが、そうではない。歪虚と契約した者は遠からず死ぬのであった。その事実を老婆たちは知らぬ。
その時、ハンターたちがライトの光をむけた。一瞬、眩しげに老婆が目を細める。
「今だ!」
ロニは魔法を発動させた。その全身から闇を切る眩い光を放つ。
「ぎゃあ」
衝撃にうたれ、老婆たちが苦悶した。すると、舞と骸香が動いた。一瞬で間合いをつめ、死角に回り込む。
舞のナイフが閃いた。骸香は脚をはねあげた。
共に疾風の一撃。共に狙うは老婆の足である。
さしもの老婆たちも躱し得なかった。ナイフが老婆の足を裂き、鉈のような蹴りが老婆の足の筋肉をひしゃげさせた。
「ぎゃあ。痛い。痛いのじゃあ」
派手に呻いた老婆たちであるが、次の瞬間、彼女たちの目が赤光を放った。舞と骸香の動きがとまる。
「ようもやってくれたのう」
老婆たちの短刀が閃いた。舞と骸香の首から血がしぶく。倒れる二人に老婆が躍りかかった。
轟。
銃声が鳴り響き、ロレインががくりと膝をついた。無傷であった方の足が弾丸にうがたれている。
「おのれ」
ぞっとするほと恐い目で老婆が華凪を睨みつけた。その華凪の周囲には鴉のもののような黒羽が舞い散っている。
同じ時。ドロレスは骸香に飛びかかっていた。心臓に短刀の刃を突き立てようとし――はじかれた。よこからのびた手によって。
「ちいっ」
ドロレスが跳び退った。その眼前、手をのばした姿勢のまま、恭也がニヤリとした。その腕を覆うグローブにうかぶ幾何学模様が一瞬マテリアルの盾となったことを見とめ得た者がいたか、どうか。
「とどめは任せたぜ、リン」
「はい」
リンがすすうと進み出た。
「恩には報いたい気持ちもあるけれど、大人しく殺されるわけにもいきません。可愛そうですが、死んでいただきます」
リンは弦月――全長三十センチメートルほどの短剣を振り上げた。一切の防御を捨てた必殺のかまえである。
「殺してみろ」
歯をむきだし、ドロレスが襲いかかった。
速い。が、通常のそれではなかった。
老婆が短刀の刃を突き出した。リンの腹が刃に貫かれる。躱せなかった――のではない。リンは敢えて躱さなかったのだ。渾身の一撃を老婆に叩きつける。
「ぎゃあ」
割れた頭蓋から瘴気のような負のマテリアルを噴出しつつ、ドロレスはどうと倒れた。
「くそっ」
獣の姿勢のままロレインが跳んだ。ダニエルのもとへ。
「そうくると思っていたぞ」
ダニエルの前に兵庫が立ちはだかった。そうと知っても、もうロレインはとまらない。とまれない。
二つの影が交差した。老婆の短刀の刃は兵庫の胸――いや、かざした彼の掌に突き立っている。そして兵庫のセリオンダガーの刃は、襲撃の勢いを利用して深くロレインの胸を貫いていた。
●
家屋の探索を終え、舞とディーナが戻ってきた。
「やっぱり隠されていたよ」
舞がいった。旅人の遺品である。いずれ金にでも変えるつもりであったのだろうか。
ディーナは哀しげに目を伏せた。
「好きで歪虚になる人はあんまり居ないの。エクラさま……あのおばぁさん達がこれ以上迷わないですむように、導いてくださいなの……」
ディーナは祈りを捧げた。と――。
舞が不審そうに首をひねった。
「ところで、夕べ食べた肉鍋なんだけれど、まさかあれ――」
「深く考えるのはよせ」
恭也が舞の脇を突いた。慌てて舞はうなずいた。
「うん?」
舞と恭也のやりとりを、不思議そうに骸香は見ていた。彼女にとっては何の肉であろうと関係はないからだ。それは過ぎ去った過去であり、腹が満たされればそれでいいからである。それよりも――。
「……ベルンシュタイン、か」
「敵の名はわかったようだな」
ロニは闇に沈む家屋を見つめた。老婆たちが晩餐会を繰り広げていた魔の家屋を。
「なんだと!?」
ダニエルの話を聞き、愕然として声をもらしたのは落ち着いた物腰の青年であった。小柄であるのはドワーフのためで。名をロニ・カルディス(ka0551)といった。
「あの親切そうな老婆が化身であるというのか」
「は、はい」
青い顔でダニエルはうなずいた。先ほど見たあまりにおぞましい光景。実際に見ていながら信じられぬ心地であった。
「……まさか小旅行中にこのような形で敵とぶつかることになろうとは。どうにも運が悪いとしか言えないな」
鍛え抜かれた体躯の持ち主である男がため息をこぼした。これは名を榊 兵庫(ka0010)という。
すると蒼髪蒼瞳の少年が舌打ちした。どこか奔放不羈たる雰囲気がある少年だ。名は柊 恭也(ka0711)といった。
「おいおい、休暇だと思ったらまさかの人食いババァの相手かよ……まぁ最低限の武器はあるだろうし、ババァ共をぶっ殺す分には問題ねぇか」
「ぶっ殺すのはいいが」
兵庫が部屋を見回した。狭い。
「そうだな」
恭也はうなずいた。
「屋内戦は乱戦になるだろうし、俺達は大丈夫でもダニエルがマズイ。となると窓から外に出るしかないか」
「そうだな」
兵庫は窓に目をむけた。ぞろぞろと廊下を歩くと老婆に気づかれかねないだろう。窓から飛び降りるしかないが――。
ロニは窓に歩み寄った。暗いため外の様子はあまり見えない。飛び降りた場合、何人かは怪我を負うかもしれなかった。
「ともかく他の者に知らせよう」
ロニはトランシーバーを手にとった。
●
闇の中。
少女がトランシーバーに手をのばした。銀の髪の可憐な美少女だ。
「……はい」
トランシーバーを耳にあてると、少女――ディーナ・フェルミ(ka5843)の顔色が変わった。異変な気づいた隣のベッドで眠っていた女が身を起こす。のほほんとしたところのある娘だ。名を烏羽 華凪(ka6772)といった。
「……どうかしたのですか?」
眠い目をこすりながら華凪が問うた。するとディーナはロニから聞いたことを告げた。すると、さして驚きもせず華凪は唇を噛んだ。怒っているのだ。
「トラブルですか……仕方ありません」
華凪はベッドからすらりと下りた。両足が義足であるのだが、とてもそうは見えない動きだ。軍人であった時の癖で、眠っている間も義足を外してはいなかった。
ディーナは少女らしからぬ落ち着きぶりで指先から肩までをぴったりと覆う薄い布地のグローブ――ディスターブを装着した。表面には幾何学模様が浮かんでいる。
「様子を見るの」
素早く走り寄ると、ディーナはドアを薄く開いた。
「家の家族の男共は皆歌舞伎って芝居の役者でさ」
ベッドに寝転がった少女がいった。ぶっきらぼうな口ぶりだが、可愛らしい顔立ちをしている。名を天竜寺 舞(ka0377)といった。
「歌舞伎?」
隣のベッドで寝転がっていたリン・フュラー(ka5869)という名の少女が首を傾げた。幻想的な美貌の持ち主であるのだが、エルフである彼女は歌舞伎なるものは知らなかった。
と、突然、眠っていた娘が目を開いた。美しい娘であるが、人間てはない。鬼であった。額には雄々しさすら感じさせる角がある。――骸香(ka6223)だ。
「どうしたんですか?」
骸香か目を覚ましたことに気づいたリンが問うた。すると、むくりと骸香は身を起こした。
「いや……誰か下から上がってきたようなんだけれど」
おかしい、と骸香は思った。何か足音に緊張感があるようだ。
その時だ。トランシーバーのランプが点った。誰かが通信してきたのだ。手にしたリンであるが、すぐに顔色が変わった。
「私たちを泊めたのは、殺すため……ですか」
「殺す?」
骸香が眉をひそめた。
「穏やかじゃないねえ。何かあったのかな」
「それが――」
ロニから伝えられた事実をリンは口にした。すると舞は大げさに肩をすくめて見せた。
「親切にしてもらって悪いけど、お返しがカニバリズムの獲物ってのは勘弁してほしいね」
「まったくだね。お肉食うなら森でも行って動物でも死人でも獲って来いよ」
骸香は苦く笑った。
「で、これからどうするって?」
「窓から脱出するようです」
「窓か」
窓に近寄ると、舞は下を覗き込んだ。暗いため、距離感が掴みづらい。
「それなら」
ベッドに戻ると、舞はマットレスをはずした。そして下にむかって投げ落とした。
「うん?」
短刀を研ぐ手をとめ、老婆の一人は眉をひそめた。
小さな物音がした。外だ。
恐るべき聴力。人間ではなくなった彼女の聴覚は尋常ではないのであった。
「誰ぞ外におるのか。それとも――」
黄色く底光る目を見交わし、老婆たちは廊下にむかった。
●
次々とハンターたちは二階の窓から飛び降りた。一人、華凪のみ着地に失敗し、手を痛めた。最後は恭也とダニエル、そしてロニである。
「そんじゃ派手に行きますかねーっと」
ダニエルを抱えて恭也は飛び降りた。足の装備からマテリアルを噴射、緩やかに着地する。続いてロニが飛び降りた。
その時だ。ドアが開いた。そして老婆の一人が顔をのぞかせた。ロレインだ。
「ぬしら、挨拶もせずにどこへいくつもりじゃ。礼儀知らずじゃのう」
老婆がいった。その手の短刀の刃が冷たく光る。
「礼儀知らずとは恐れ入ったな」
兵庫がふふんと笑った。
「お前たち、一体何人殺した?」
「そうか」
もう一人の老婆――ドロレスがニンマリ笑った。魔的な笑みだ。
「気づいたのか」
「貴方達は……一体いつからこんなことをしてるの」
怖気に震える声でディーナが問うた。するとロレインが口をゆがめた。
「さあての。つい最近のことじゃが……。ふん。そんなことを聞いてどうするつもりじゃ。もうお前たちは誰にも伝えることはできぬ。これからわしらが殺して喰らってやるのじゃからの」
二人の老婆の形相が変わった。温厚そうな顔つきであったのに、悪鬼のそれへと変わる。
「逃がさぬぞ」
老婆たちの目が赤光を放った。
刹那である。兵庫とロニの身が凍結した。呪縛されてしまったのである。
次の瞬間、老婆たちが短刀をふりかざして襲いかかった。速い。彼女たち疾走速度は常人を遥かに超えていた。
あっという距離を詰めると、老婆たちは動けぬ兵庫とロニに躍りかかった。兵庫とロニは躱せない。空に血の花がひらいた。
「けけけけけ」
化鳥のような声で笑うと、さらに老婆たちは二人を襲った。老婆の短刀が閃く。
ギインッ。
老婆たちの短刀がとまった。同じ短刀の刃によって。一瞬で距離をつめた舞と骸香の仕業であった。
「調子に乗らないでよね」
「生憎、こいつの扱いならお前たちには負けないつもりなんだよね。次はうちが壊してやるよ」
舞と骸香がいった。すると老婆たちは跳び退った。一気に十メートルの距離を。
「あんた達、人間じゃないの?」
愕然とし、舞が叫んだ。
獣を凌ぐ機動力。そしてターゲットを硬直させる魔眼。とても人間のものとは思えない。これは、むしろ――。
歪虚!
●
「大丈夫なの?」
血まみれの兵庫に駆け寄り、ディーナは祈った。それは魔法発動のトリガーである。ディーナは自身のマテリアルの力を大きく引き出し、兵庫の生命力を活性化させ、彼の傷を癒した。
「すまんな。助かった」
顔に飛び散った血をぬぐいながら兵庫は立ち上がった。そして柄も刃も氷のように透明な短剣――セリオンダガーを手にした。ニヤリと笑む。
「……短剣一本では少々心許ないが、得物の善し悪しで戦いが不利になるような鍛え方はしていないつもりだから、な」
「ねえ」
何を思いついたか、舞が口を開いた。
「人を襲いだしたのはつい最近っていってたよね。もしかして、あんた達何者かに歪虚にされたんじゃない?」
はっとしてハンターたちは顔を見合わせた。その脳裏に浮かんだのは、先日何者かに歪虚とされたエリオットのことだ。するとロレインの目が興味深げに眇められた。
「ほう。よくわかったの」
「やはり」
リンの口から嘆きにも似た声がもれた。もし老婆たちを歪虚とした者がエリオットと同一であったなら、恐るべき偶然といわざるを得ない。
「貴方達を変えたのは……どんな相手だったの?」
思わずといった様子でディーナが問うた。すると二人の老婆の目に憧憬の光がうかんだ。
「綺麗な若者じゃった」
「そして優しい人じゃった。わしらを憐れんで力をくれたのじゃからの」
二人の老婆がいった。
「おいおいババァ」
恭也が怒声を放った。
「もう間違いはねえな。テメェもあのクソ野郎から力を貰った口か?」
「ほう」
さすがに老婆たちは驚いた。ドロレスが逆に問うた。
「お前たち、知っておるのか、あのお人を?」
「まだ会ったことはないがな。しかしやり口なら知っている」
ロニがこたえた。そして、続けた。その者は人間ではないと。
「人に歪虚と化さしめる力はない。もしあるとすら、それは高位の歪虚だけだ」
「おい、ババァ」
再び恭也が叫んだ。
「答えろよ、アイツ等は何やろうとしてやがる?」
「知らぬ。ベルンシュタインさんが何をなされようとしているのかなぞ。ただ感謝しておるだけじゃ。世に見捨てられたわしらに生きる力を与えてくれたのじゃからの」
「……憐れな」
華凪は独語した。老婆たちは生きる力を与えてくれたと思っているが、そうではない。歪虚と契約した者は遠からず死ぬのであった。その事実を老婆たちは知らぬ。
その時、ハンターたちがライトの光をむけた。一瞬、眩しげに老婆が目を細める。
「今だ!」
ロニは魔法を発動させた。その全身から闇を切る眩い光を放つ。
「ぎゃあ」
衝撃にうたれ、老婆たちが苦悶した。すると、舞と骸香が動いた。一瞬で間合いをつめ、死角に回り込む。
舞のナイフが閃いた。骸香は脚をはねあげた。
共に疾風の一撃。共に狙うは老婆の足である。
さしもの老婆たちも躱し得なかった。ナイフが老婆の足を裂き、鉈のような蹴りが老婆の足の筋肉をひしゃげさせた。
「ぎゃあ。痛い。痛いのじゃあ」
派手に呻いた老婆たちであるが、次の瞬間、彼女たちの目が赤光を放った。舞と骸香の動きがとまる。
「ようもやってくれたのう」
老婆たちの短刀が閃いた。舞と骸香の首から血がしぶく。倒れる二人に老婆が躍りかかった。
轟。
銃声が鳴り響き、ロレインががくりと膝をついた。無傷であった方の足が弾丸にうがたれている。
「おのれ」
ぞっとするほと恐い目で老婆が華凪を睨みつけた。その華凪の周囲には鴉のもののような黒羽が舞い散っている。
同じ時。ドロレスは骸香に飛びかかっていた。心臓に短刀の刃を突き立てようとし――はじかれた。よこからのびた手によって。
「ちいっ」
ドロレスが跳び退った。その眼前、手をのばした姿勢のまま、恭也がニヤリとした。その腕を覆うグローブにうかぶ幾何学模様が一瞬マテリアルの盾となったことを見とめ得た者がいたか、どうか。
「とどめは任せたぜ、リン」
「はい」
リンがすすうと進み出た。
「恩には報いたい気持ちもあるけれど、大人しく殺されるわけにもいきません。可愛そうですが、死んでいただきます」
リンは弦月――全長三十センチメートルほどの短剣を振り上げた。一切の防御を捨てた必殺のかまえである。
「殺してみろ」
歯をむきだし、ドロレスが襲いかかった。
速い。が、通常のそれではなかった。
老婆が短刀の刃を突き出した。リンの腹が刃に貫かれる。躱せなかった――のではない。リンは敢えて躱さなかったのだ。渾身の一撃を老婆に叩きつける。
「ぎゃあ」
割れた頭蓋から瘴気のような負のマテリアルを噴出しつつ、ドロレスはどうと倒れた。
「くそっ」
獣の姿勢のままロレインが跳んだ。ダニエルのもとへ。
「そうくると思っていたぞ」
ダニエルの前に兵庫が立ちはだかった。そうと知っても、もうロレインはとまらない。とまれない。
二つの影が交差した。老婆の短刀の刃は兵庫の胸――いや、かざした彼の掌に突き立っている。そして兵庫のセリオンダガーの刃は、襲撃の勢いを利用して深くロレインの胸を貫いていた。
●
家屋の探索を終え、舞とディーナが戻ってきた。
「やっぱり隠されていたよ」
舞がいった。旅人の遺品である。いずれ金にでも変えるつもりであったのだろうか。
ディーナは哀しげに目を伏せた。
「好きで歪虚になる人はあんまり居ないの。エクラさま……あのおばぁさん達がこれ以上迷わないですむように、導いてくださいなの……」
ディーナは祈りを捧げた。と――。
舞が不審そうに首をひねった。
「ところで、夕べ食べた肉鍋なんだけれど、まさかあれ――」
「深く考えるのはよせ」
恭也が舞の脇を突いた。慌てて舞はうなずいた。
「うん?」
舞と恭也のやりとりを、不思議そうに骸香は見ていた。彼女にとっては何の肉であろうと関係はないからだ。それは過ぎ去った過去であり、腹が満たされればそれでいいからである。それよりも――。
「……ベルンシュタイン、か」
「敵の名はわかったようだな」
ロニは闇に沈む家屋を見つめた。老婆たちが晩餐会を繰り広げていた魔の家屋を。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/04/10 00:23:54 |
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相談卓 リン・フュラー(ka5869) エルフ|14才|女性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2017/04/12 00:31:21 |