• 黒祀

【黒祀】黒き波濤

マスター:京乃ゆらさ

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
6~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
4日
締切
2014/10/22 19:00
完成日
2014/10/29 03:30

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 海のにおい。
 風に乗って仄かに漂う潮の香りが鼻腔をくすぐり、ハンターたちは西の方を見やった。地上からでは分からないが、もっと高い所に上れば西の先には水平線が見えるだろう。そして同時に、あの島――イスルダ島も。
 イスルダ島。王国が喉元に突きつけられた、歪虚の刃だ。
 5年前の戦争以降、王国が常に悩まされ続けている存在。この駐屯地から少し足を伸ばせば眺めることができるほど近く、しかし今の戦力では踏み入ることのできない遠き島。
 それがイスルダ島であり、その島を監視する為に作られたのがこの駐屯地であった。

「お疲れ様です。物資のチェックも無事終わりましたので、皆さんの依頼も終了となります。ハルトフォートに帰還後、報酬を受け取ってください」
「了解」
 手元の資料と目の前の輜重の山を相手に格闘していた男が、心なしか荒い息を吐きながらハンターに告げる。ハンターの1人が倉まで運ぼうかと声をかけると、滅相もないと全力で首を横に振られた。
 お互いの仕事をきっちりとしたいのか、あまりこちらにこの駐屯地を出歩かれたくないのか。どちらでもいいか、と別のハンターが肩を竦めて背を向けた。
 駐屯地は人数の割にそこそこ広く、また倉庫らしき建物が様々な所にいくつもあった。無秩序に建てられたかのようなそれらは単純に考えると非常に使い勝手が悪そうで、最前線の駐屯地がそんな状態でいいのだろうかと不安になる。どこかから微かに漂ってくる火薬か何かのような臭いに、ハンターがやや顔を顰めた。
 先ほど輜重運搬の手伝いを申し出たハンターが、辺りを見回しておずおずと言った。
「人が少ないようですけど、巡回か何かですか?」
「ええ、それもあります。後は……、ああ! そうだ外に出るまでお送りしますよ!」
「え?」
「いえね、入る時に気付かれたかもしれませんが、周囲は土塁や堀や……まぁ色々と囲まれておりますから。何も知らずに出入りしようとすると危険なんですよ」
「あぁ、はい、お願いします」
 厳重に防備を固めた周囲と、無秩序な倉庫群。どこかチグハグな印象に首を傾げるが、ともあれ依頼は終了である。長居することもないであろう場所についてアレコレ考えたところで大して意味はない。
 ハンターたちが帰路につこうとした――次の瞬間。
「敵襲! 敵襲――ッ!!」
 物見塔の鉦が、けたたましく鳴り響いた。

「状況は?」
「3m大の蟻のような敵が群となって接近中です!」
「なるほど。具体的な数は?」
 ひとまず駐屯地に留まったハンターが訊く。物見塔から慌てて下りてきた兵が逡巡していると、輜重受け取りに立ち合った男が首肯して促した。
「おそらく10体ほどかと。ひと塊となってこちらに向かってきています!」
「10体だと!? 今、駐屯地の戦力は……」
 男が素早く計算する。
 聖堂戦士団の聖導士が1人、非覚醒者の従騎士が15人、志願兵が20人、非戦闘員が若干名、そしてやはり覚醒者ではない自分。つまり覚醒者は1人きりだ。――目の前にいる、ハンターたちを除けば。
「……、っ」
 栄えある王国騎士団に所属しているとはいえたかが下っ端騎士に過ぎない自分が、勝手にハンターを頼っていいのか。まずは急ぎ巡回中の覚醒者に知らせ、彼らが来るまでどうにかして防戦した方がいいのではないか。そ、それにもし依頼料が自腹だったら。だが敵。10体の巨大蟻が土塁を、柵を、一直線に抜けてきたらどうする。どうにもならない。時間。ない。歪虚が何故ここに。こんなこと今までほとんどなかった。あってももっと少数で……れ、連絡、あぁ連絡を早くせねば……!
「……、み、皆さん……もうひと仕事、して、いただけませんか……!」
 迷ううちに、いつの間にか口に出していた。輜重の男が意を決したように勢い込んで頭を下げる。
「輜重輸送護衛の依頼とは別の依頼となります、報酬も別に払います! 歪虚討伐に、ご協力いただきたい……!」
 顔を見合わせて思案するハンターたち。そのうち1人が答えようとした、その時。
「敵だぁ――――! 村に、シラート村に向かった連中が襲われてる!!」
 再び、緊急事態を告げる鉦が鳴った。
 暗雲。
 逢魔時に近付きつつある空は雲一つないにもかかわらず、何故か低く、こちらを圧迫してくるかのようだった……。

リプレイ本文

 鉦の音が鳴り響く。駐屯地の兵達が忙しげに広場に集ってくる。
 ナナート=アドラー(ka1668)は愛馬を曵く手を緩め嘆息した。
「あらあら。ここではいつもの事なのかしらん?」
「留守居の態勢からして今までにない事態のようだがね」
 アルト・ハーニー(ka0113)が何故か片手に埴輪を持ったまま眉を顰める。埴輪の加護が遅かったかなどと呟くと、大音声で宣言した。
「俺が避難民の許へ行こう! 蟻の方は頼んだぞ、と」
「じゃ、行きましょ」
「む?」
「独りより、2人の方がいいじゃない?」
「……3人、だ。埴輪含めて」
 何かを隠すようにナナートは勢いよく馬に跨る。アルトが先を争い駆け出すと、負けじとナナートも馬腹を蹴って加速した。
 疾風怒濤、北の出撃路を飛び出す2人。砂煙を上げ逃げてくる馬車が遠く見えた。絶対間に合う、いや。
 間に合わせる――!

●交戦開始
「火と油を持ってきてくれ!」
 蟻集団の突撃。それを聞いた瞬間、ザレム・アズール(ka0878)は火攻の準備を要請していた。ラィル・ファーディル・ラァドゥ(ka1929)が自ら倉へ向かう。
「油なら僕がもろてくるわ。堀に流しとったら滑ってくれるかもしれんしな」
 ラィルは狼狽える志願兵の間をするりと抜け、ふと物見塔の横を通りざま見張りに声をかけた。
「僕らが戦っとる間もお仕事頼みますわ。特に――島の方を」
「り、了解」
 嫌な空気だと、思った。臨界に達する寸前のような、チリチリと肌を刺す感じ。
 ――何かが、起る。その時は。
 どんな事でもしてやる。皆が無事、明日を迎えられるならば。

「そうです、皆さんは柵の後ろから射撃をお願いします。あ」
 月影 夕姫(ka0102)が一般志願兵相手に3人1組での射撃を提案する最中、言葉を区切った。壮年の男がごくりと唾を飲む。
「私のリボンには当てないで下さいね、お気に入りなのでっ」
「おぉいッ! もっと言う事! 心構えとか!」
 ビシィ。ノリの良いオッサンである。
「それです。今の思いこそ、心構えなんですよ。落ち着いて笑顔を絶やさない事が」
「お、おぉ……?」
 なんとなく含蓄深い気がしなくはない夕姫の言葉に、彼らも次第に落ち着きを取り戻し始めた。守原 有希弥(ka0562)とダーヴィド・ラウティオ(ka1393)が苦笑して騎士達に向き直る。
「ともかく我々が矢面に立ちますので」
「何なら盾扱いでも構わん。それが騎士の務めであるしな」
「そんな」
「私が盾となるのは」ダーヴィドが騎士を遮り、低く通る声で「それが最も皆で切り抜けられる可能性が高いからだ。落ち着き、呼吸を合せ、一丸となって戦おうぞ! 我らは1人ではない!」
「「ッ、おお!!」」
 一瞬気を呑まれかけた騎士達が、拳を突き上げ呼応した。
 有希弥が蟻の様子を物見に訊かんとし――タァン、と銃声が響いた。
「話は纏まったかしら? 既に戦闘は始まっているわ」
 肩付けして小銃を構えたまま、雲類鷲 伊路葉 (ka2718)。
 それを合図に全員が一斉に各所へ散っていく。その動きは突然の襲撃に狼狽える未熟な者達のそれでなく、やれる事をやり抜く意志を持つ男達のそれであった。

 砂塵が舞う。息が乱れる。怒号、そして死に物狂いの馬車馬の嘶き。アルトとナナートは間近に迫った馬車を見据え、さらに速度を上げた。
「先に行くわ!」
「無理はするなよ、と」
 手綱を絞って駆けさせるや、一気に馬車の脇を抜けた。羊が覚醒者らしき男を角で突き上げている。愛馬が怯む。ナナートが勢いままに跳び下りるや、膝立ちとなって小型銃を発砲する。
 よろめき、男を落す羊。発砲。羊がたたらを踏んで退く。男が下段から斬り上げた。別の羊が馬車を追い――横っ面に、戦鎚が直撃した。
『メ゛ェ゛!?』
「非覚醒者は全力で駐屯地まで行くがいいさね。ここは俺達で抑えておく」
「そこの2人は、もう少し頑張ってもらっていいかしらん?」
「無論。それが私の仕事だ」
「となると。俺は虎さんの相手でもさせてもらおうかね。1番足が速そうだ」
 戦鎚の主――アルトが休む間もなく虎の懐へ飛び込んだ。

●二面作戦
 土塁の陰まで移動した伊路葉は天端に小銃を置き、斜面に寄りかかって体を固定した。
「1対多を繰り返せる舞台を作ってあげる」
 照門を覗く。先頭の蟻は既に堀まで30mを切っている。中心を敵の手前に。息を止め、引鉄を引く。肩に快い衝撃。弾着、敵前方。敵が驚いたように停止。次弾発砲。弾着で生じた土が2番目に降り注いだ。重ねて左右から銃声。右、土塁の陰に夕姫。左には出撃路を塞ぐよう布陣した有希弥とダーヴィド。さらに一矢が先頭の蟻を貫いた。北西の角、ザレムだ。
 先頭だった蟻が群に呑まれ、群が突進してくる。直後、背後から夥しい銃声が轟いた。彼ら――兵達の弾幕が文字通り敵を縫い止める。伊路葉はそれに紛れ次の先頭を狙う。
「読んでいるわ、その動き……」
 発砲。命中。発砲。紙一重で敵が躱す。右の銃声。全体を見晴かす。左からの銃撃を躱した敵の未来位置へ、弾丸を送り込む。パッと蟻の頭が爆ぜ体液が四散した。
「良い子ね」
 伊路葉が引鉄を引く度に1体が速度を落す。淡々と、確実に。漆黒の狙撃手が戦場を有利にしていく。しかし。
 ――嫌な感じね。
『敵』が愚直に何かを繰り返す時、その背景には何かがあると思った方がいい。生きたければの話だが。

 伊路葉、夕姫、ザレム、ダーヴィド、有希弥、そして兵達の弾幕が蟻集団の勢いを削いでいく。
 だが完全には止まらない。先頭が遂に堀を目前にしたその瞬間、
「お待ち! 特上油5人前や!」
「特上?」
「そらもーとくじょーや! どこが特j」「早く撒け!」
「よっしゃ!」
 ザレムをからかいつつラィルが桶いっぱいの油を桶ごと堀へ投げ込んだ。べしゃあ、と粘着く油がぶちまけられ、鼻をつく臭いが溢れ返る。直後、蟻が堀へ突っ込んだ。
『――ギ■■!?』
 耳障りな奇声を上げ斜面を滑り落ちる敵。続く蟻も油の餌食となり、3体が絡み合うように底で藻掻く。辛うじて停止した蟻は5体。ザレムがラィルの後ろの兵に、
「やれ」「はっ!」
 投擲されたランタンが堀の底へ吸い込まれ――炎が、吹き上がった。

 地を這う虎の牙。柄で受けるアルト。退きかけたアルトを勢いままに虎が押し倒す。虎の凶爪。従騎士の一矢。爪がアルトの首筋を掠め土を抉った。ナナートの射撃を跳んで躱す虎。代って闇弾がアルトを貫いた。
「ッ、敵さんも連携……できてるのかねぇ?」
「だったら尚更ここで止めないといけないわよねぇっ!」
 顔を顰めて立ち上がるや、肉薄してきた虎へ戦鎚を叩き込む。振り抜きざまに屈むと、頭上を羊の蹄が過った。従騎士が猛然と盾を前に突撃、羊を押し込む。回り込む別の羊。それをナナートが撃つ撃つ撃つ。傾ぐ羊。それでも羊は前傾となって角をナナートに向け――同時に発砲。羊が雲散霧消していく。
「これで少しは楽になったかしらん?」
「さて、な。まぁ最低限の務めは果たせそうだが」
 肩越しに後ろを見ると、馬車は駐屯地まで残り少しといったところだった。このまま敵と対峙しているだけで馬車の安全は確保できる。後は。
 ――自分達が耐えられるか否かだ。

●駐屯地の行方
 炎が渦巻く。空気を取り込み天を衝く炎は底の蟻3体を少しずつ損耗させるが、蟻は何とか土塁側へ這い上がってこようとする。それを、
「集中――!」
 夕姫、ラィルが上から撃ち落す。発砲発砲発砲、ザレムの一矢が真横に近い角度から胴を穿つ。1体が炎に溶けていく。何かを飛ばしてくる2体。飛沫となって飛来したそれは土塁を越え夕姫達に降り注ぐ。じゅ、何かが灼ける音。強酸か。と、
「あ――っ!?」
 自慢の髪の毛先が溶け落ちたのに気付いた夕姫。流れるように天端に立つや右の拳を振り被り、袈裟に振り下した。
 斬。顕現した光剣が蟻を一刀両断。跡形もなく消滅する蟻を見て我に返り、夕姫は銃を構え直した。足元の土塁も虫食い状態だ。
「う、蟻酸……厄介ね。でも魔法は良く効いた気がする!」
「ほなら底の1体は任せよかな。僕は」
 ラィルが天端を走り、一気に『向こう岸』へ跳躍する。
「あっちてつどうてくる!」

「ダーヴィドさん、後ろを!」
「うむ!」
 有希弥とダーヴィドは蟻集団が堀手前で停止した瞬間、西の出撃路から横撃をかけていた。
 遠く馬の嘶きが重なる。一つは北東。もう一つは南、ダーヴィドの愛馬だ。馬が乱戦を嫌がった為であり、また乱戦においては下馬した方が戦いやすい為だ。馬上戦闘に拘らぬ、ある意味傭兵らしい戦いと言える。が、
「む、蟻が出撃路を……! 私は奴を狙う!」
「了解!」
 やはり敵を追う時は馬の方がいい。ダーヴィドは南下する敵との距離を詰め銃撃、怯んだ敵を横から殴りつける。姿勢を崩す蟻。ダーヴィドがトドメとばかり素早く魔導銃の照準を合せ――敵が倒れながら放った蟻酸への対応に遅れた。
 正面から蟻酸を浴びるダーヴィド。咄嗟に両腕を交差して体を守ったが、肉の溶ける嫌な臭いがした。激痛を堪え、腕を酷使して銃を構える。
「駐屯地には指1本触れさせん!」
 銃声が木霊し、銃弾が蟻の胸部を食い破った。
 一方で有希弥は一撃離脱を繰り返して蟻4体を翻弄していたが、次第に道がなくなってくる。
 前足を斬り払い沈み込むように交錯、跳び退ると同時に足元に酸が飛散する。着地、振り向きざまに下段から斬り上げ牽制。怯む1体だが別の蟻が左から突進してくる。柄頭で殴打して止めんとするが吹っ飛ばされた。背後に回ってきた敵の黒い顎門が迫――渇いた破裂音。敵頭部が何かに弾かれたように揺れた。
「そこに居なさい」
 死へ誘う伊路葉の狙撃。有希弥の刀が最短距離を貫く。体液を撒き散らし四散する蟻。残り3体――!?
 横合いからの強烈な突進。一瞬にして数m吹っ飛ばされる有希弥。立ち上が――れなかった。視界がブレ激しい頭痛と嘔吐感が有希弥を苛む。腰を落した有希弥に3体、もとい伊路葉の呪縛に囚われた1体を除く2体が追い縋る。有希弥が必死に前を見据え、そこで見た。
「ここで真打ち登場や!」
 土塁の上から跳躍してきたラィルが、敵背後から短剣を繰り出すのを。

 蟻の後足関節を刺突で狙い、見事貫いたラィルは勢いままに駆けるや何の予備動作もなく右に跳んだ。脇を過る蟻酸。着地、側転して前へ跳び、下から小型銃を感覚で撃つ。
 外れ、だが敵の動きが一瞬止まった。黒き狙撃手が、それを見逃す訳がなかった。
 銃声。弾着。弾ける体液。脳が揺れる気持ち悪さを無理矢理抑え込んだ有希弥が袈裟に斬り下す。頽れる蟻。別の1体が突進せんとし、後足が動かない事に気付いた。ラィルが懐に潜り込み、伸び上がるように胸部を貫いた。
「これで終いや」
 それを合図にしたかの如く、蟻は一斉に霧消していく。
 ラィルが有希弥に手を貸そうとすると、
「まだです、まだ北の羊を……!」
「私が先行しよう」
 未だフラつく有希弥の意志を汲み、馬を曳いてきたダーヴィドが言った。

 攻めては退き、退いては攻める。一進一退の攻防を繰り広げる4人だが次第にハンターの損耗が蓄積してきた。
 それは従騎士が未熟であり、また殿軍として戦い続けてきたからでもある。が、何より面倒なのが――
「羊の魔法くるわよん!」「了解!」
 虎を攻めんとしたアルトが咄嗟に屈むと頭上を2発の闇弾が過る。そのアルトに覆い被さってくる虎。ナナートと従騎士が牽制する隙にアルトが退き、態勢を立て直す。
 虎の耐久力と、羊の連携。そのせいで攻めきれず、数を減らせないのだ。
「伏せろ!」「!?」
 4人が伏せると、唸りを上げて飛来した一矢が羊を貫いた。甲高い悲鳴。ナナートと従騎士がその羊を追い打つと、漸く哀れな鳴き声と共に四散した。
「援護する、絶対にそこを通すなよ」
 ザレム。土塁内から状況を見て取った彼が、こちらの援護に回っていた。
 俄然勢い付く4人。従騎士が剣を振り被り前に出る。ナナートが虎を牽制。
「無理しちゃダメよん、すぐ増援が来るわ!」
「いえ、自分が!」
 羊を斬り下す青年。血飛沫、だが浅い。敵の腕が動く。盾。盾ごと蹄打が青年を吹っ飛ばした。追撃してくる羊。アルトが間に入って戦鎚をぶん回す。2時方向、闇弾。耐えて羊、もとい虎へ打ちかかる。
 横から跳び掛からんとしていた虎がまともに戦鎚を腹に受け、苦悶の声を上げた。必中の一矢が虎の腰部を穿つ。跳――べない虎。アルトが戦鎚を薙ぎ、しかし羊の突進に阻まれる。が、
「ごめんあそばせ」
 ナナートがソレを『左手に構え』正面に虎を見据える。照門を合せ、人差し指に力を込め――虎の頭部が、弾け飛んだ。
「奥の手は最後まで隠しておくものよ」
「……なら俺はこの埴輪……」
 アルトが羊に対しながら謎の対抗心を燃やしかけた時、遠くから低い声が聞こえてきた。ダーヴィドだった。4人は顔を見合せ安堵の息を吐いた。何とかなった、と。
 そしてそれは、数分後には現実のものとなる。

●闇の帰還
 最後の羊を倒し終え、ハンター達が伝話で報告すると、駐屯地から歓声が上がった。
 その声は次第に大きくなり、帰還する頃には将軍が誕生したかの如き騒ぎとなっていた。
「あ、ありがとうございます! 何とお礼すればいいか……必ず報酬は払いますので!」
「礼はいらない。それより」
 顔を紅潮させ喜ぶ輜重係の騎士。ザレムが小型フィールドスコープを返し、
「今夜は泊めてくれよ。流石に疲れた」
「ぜひ!」
 笑いに包まれる一行。気付けば空は赤く、逢魔時を迎えていた。大禍時。儚く美しく、けれどどこか恐ろしい。そんな時間。
「それにしても敵の動き……」
 同時に二面から襲撃される偶然などあるのか?
 有希弥が疑問に思った事は誰もが感じている事だった。無論、兵達も。
 彼らはそんな不安を吹き飛ばしたくて騒いでいるのかもしれない。伊路葉がふとそう考えた――その時だった。
 それが、大気を震わせたのは。

 その日、王国に居た人々は声を聞いた。脳裏に直接響くような、高慢な声音。
「おはよう、諸君。心地よい夜が訪れるな。復活に相応しい夜よ」
 声の主は軋むように笑い。
「私は黒王たるイヴ様の一の臣。諸君ら王国と、王の娘に破滅を齎す者」
 そう、名乗りをあげた。
「鄙俗な王国も、娘の純潔も、この私自ら無に帰して差し上げよう。それが私の復活祭の――フィナーレだ」
 ブシシと声は嗤う。それは次第に金切声のようになり、そして――唐突に、消えた。

 当惑して辺りを見回す兵達。
 ザレムが騎士から再び望遠鏡を借りるのと、ラィルに頼まれ警戒を怠らなかった物見兵がそれを発見するのは、同時だった。
「に、西の空に……敵襲……」
「規模は!?」
「ッ判りません! 遥か西の空が、奴らで埋め尽されています!!」
 ザレムがそちらに目をやると、そこには大軍がいた。
 黒き、波濤の如き大軍が……。

<了>

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MVP一覧

  • 渾身一撃
    守原 有希弥ka0562
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズールka0878

  • 雲類鷲 伊路葉 ka2718

重体一覧

参加者一覧

  • エアロダンサー
    月影 夕姫(ka0102
    人間(蒼)|20才|女性|機導師
  • ヌリエのセンセ―
    アルト・ハーニー(ka0113
    人間(蒼)|25才|男性|闘狩人
  • 渾身一撃
    守原 有希弥(ka0562
    人間(蒼)|19才|男性|疾影士
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • 秘めし忠誠
    ダーヴィド・ラウティオ(ka1393
    人間(紅)|35才|男性|闘狩人
  • ミワクノクチビル
    ナナート=アドラー(ka1668
    エルフ|23才|男性|霊闘士
  • システィーナのお兄さま
    ラィル・ファーディル・ラァドゥ(ka1929
    人間(紅)|24才|男性|疾影士

  • 雲類鷲 伊路葉 (ka2718
    人間(蒼)|26才|女性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/10/20 02:22:06
アイコン 駐屯地緊急防衛作戦会議室!
守原 有希弥(ka0562
人間(リアルブルー)|19才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2014/10/22 18:44:36