【魔装】強さの果てに 第5話

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
シリーズ(続編)
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
6日
締切
2017/05/01 12:00
完成日
2017/05/08 19:58

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

―――事の始まり―――

「父上! 父上!」
 森の中でライルが叫ぶ。
 亜人の討伐隊はチリジリとなっている。
 古参の兵士が、ライルを庇うように亜人の前に立った。
「若君、ここは危険です。下がりましょう」
「だけどっ……」
 ヒュン――。
 音を立てて矢が降ってくる。亜人が放っているものだ。
 同時に木々の間から亜人達が追撃してきた。
「ここは、私が時間を稼ぎます。若君、いいですか、南に走るのです。集落まで出れば、きっと、領主様と落ち合えるはずです」
「でも、それじゃ」
「大丈夫です。私もすぐに追います!」
 後ろめたい気持ちを抱えながらライルは走り出した。
 兵士の叫び声が、いつまでも耳に残った――。

 どれだけ走ったのだろう。
 森の中は深く、執拗な追撃から逃げ惑ううちに、ライルは一人、森の中をトボトボと歩いていた。
 意識は朦朧としている。傷は浅いが体力が尽きかけているのだろう。
「くっ……」
 樹木の幹に寄りかかるように崩れる。
 頭を過るのは、領主である父と、兵士達の姿……無事であればいいのだが。
「僕が強ければ……」
 亜人の奇襲も的確に対処できたはずだ。
 そうすれば、敗走する事は無かっただろう。
「強ければっ!」
 グッと拳を握る。ライルは覚醒者としての素養は無かった。
 だけど、それで諦めはしなかった。
 腕利きの剣士を雇い、剣の腕を磨いた。それなりに強いはずだと自負があった。
 だが、実際、それは井の中の蛙。実戦は訓練とは違った。
 遠くの方から亜人達の声が聞こえる。
「逃げないと……」
 だが、身体は全く言うこと利かない。
 まるで自分の身体ではないように重たい。これが、命というものの重さだというのだろうか。

 その時……正面の地面に突如として空から一本の槍が突き刺さった。衝撃と音が森の中に響き、亜人達が何事かと向かってくる。
「や、槍?」
 美しい幾何学模様が特徴の二股の豪華な作りの槍だった。
「強さを求める汝の声を聞いた。汝、この私と契約し、強さを求めるか」
 まるで、おとぎ話か何かみたいだとライルは感じた。
 それでも、迫ってくる亜人達が居る事に変わりはない。今ここで強さを求めなければ死を待つだけだ。
「……勿論です。僕は強さを求める」
「ならば、契約だ。汝は守る為に強さを求め続けるといい」
 槍が眩い光を放つと、ライルの身体を守るように鎧となって姿を現した。
 弧を描きながら、鎧のパーツが次々に装着されていく。
「重さも、痛みを感じない……」
 これまでの重さが嘘のようだ。
 戦える。これなら、亜人を一掃出来る。ライルは確かに“力”を感じていた。

―――――――――――

●強さの果てに
 フレッサ領を治める貴族からの書状を破り捨てたライル。
「この僕に盾突こうだなんて、愚かな」
 いつもよりも気分が高揚していなければ、あるいは、僕が不機嫌であれば、もう、今すぐにでもフレッサ領に乗り込んでいただろう。
 寛大な僕に感謝するといい――等と、ライルは考えていた。
「だって、僕は、物凄い力を手にしたんだから」
 屋敷の大広間。誰も“生きている”人間は居なかった。
 使用人のマテリアルを奪った結果だ。
「もっと、僕は強くなれる。ねぇ、僕にもっと力を!」
 横に立てかけてあった槍をガッと掴んだ。
「これ以上の強さを求めるのであれば、只の人間では足りない」
 揺さぶられながら槍がそんな言葉を発する。
 その台詞にライルは少し考える。
 一般人ではマテリアルが足らないのだろう。となると、覚醒者が次の目標だ。
 だが、覚醒者の知り合いなど居ない。
「……あ。居る。牡丹お姉ちゃんの護衛のハンターだ」
「ほう」
 彼ら彼女らを招待させてあげればいいのだ。偉大な力を手に入れた僕からの招待を、ハンター如きが断る訳がない。
 そんな自惚れに気がつかないままに。ライルは早速、筆を走らせる。
「戦いでは……勿論、これまで通り、手伝ってくれるんだよね?」
「当然だ。存分に戦うといい」
 その槍に表情は無い。
 だが、もし、人と同じような表情があったとすれば、きっと、笑っていたのに違いない。

●雑魔襲来
 傲慢の歪虚であるアリトゥスは一見、人型妖精「アリス」に姿が似ている。
 ヒューと街中を飛んでいるが、きっと、一般人が見れば、見慣れない妖精が居る……位の認識かもしれない。
「面倒だけど、今は逆らう訳にもいかないし~」
 そんな事を呟く。
 街中に雑魔を出現させる事――それが、この歪虚の“仕事”だった。
 いよいよ、計画の最終段階という訳だ。もちろん、命令してきたネル・ベルの方が格上の存在ではあるのだが、無償という訳ではない。
 それに、そもそも、仕えているトップが違う。
 向こうは愚かな豚羊の配下……それも、人間如きにあっさりと倒された歪虚の手下だ。
 対して、アリトゥスは“偉大なる御方”にお仕えしている――と自負している。
「ここの辺りでもいいっかな~」
 見つけたのは水路の一角。
 流れが遅くて澱んでいた。ここ辺りで負のマテリアルを練りつもりなのだ。
 こうして、アリトゥスはレタニケの街のあちらこちらに“雑魔”を作り上げていた。即席の為、複雑な命令は理解できないだろうが、そもそも、それは“計画”に必要のない事。
「さぁ、いっぱい、いっぱい、暴れておいで~」
 残忍な笑みを浮かべてアリトゥスは再び街中へと消えていった。


★個人連動シナリオ『【魔装】富貴花が咲く頃に』のオープニングに続きます★

リプレイ本文

●堕落者ライル
 豪華な鎧を纏ったライルが不敵な笑みでハンター達を出迎えていた。
「来たね……僕の力、皆さんに見せてあげるよ」
 ハンター達を見渡した後、一瞬だけ、ルイトガルト・レーデル(ka6356)に視線を向けたが、交わす言葉も情緒も無いという事なのだろうか。
 剣を突き出しながら向かってくる堕落者に対し、真っ黒な刀身の長剣を構えるルイトガルト。
(……堕落者と成り、人として果てた者を処刑する)
 それが彼女の使命。また、如何様に倒すか、その突破口も見つけ出す必要もある。
 愛刀でライルの突きを捌き流しながら、シェラリンデ(ka3332)が問い掛けた。
「ライルさん……それは本当に、君が求めた強さなのかな?」
「そうだよ。皆さんのように強ければ、強いほど!」
 全身鎧を着込んでいるとは思えない俊敏な動きのライル。
 シェラリンデの反撃を避けると距離を取った。そこへ、ライラ = リューンベリ(ka5507)が竜尾刀の機構を展開しつつ、間合いを詰める。
「ライル……様、貴方は貴族として、最もしてはいけない事をしました」
「強者である事が?」
「貴方は強者などではありません。貴方に仕える人を殺めた貴方は、既に貴族としての力を無くしています」
 鞭のような機動を描かせ、ライルの動きを牽制したが、彼は力の限り負のマテリアルを噴出し、その衝撃で強引に戒めを解く。
 ただの雑魚……という様相ではないようだ。堕落者としての身体能力もそれなりという事なのだろう。
 ソフィア =リリィホルム(ka2383)が魔導拳銃を放つ。
 マテリアルの光跡を残しながら、弾丸はライルを直撃した。
「力を求めるにしても、決定的に間違えやがって……」
「間違えているのは僕じゃない。皆さんの方です。こんなに素晴らしい力があるのに!」
 射撃が直撃しているはずなのに、深いダメージになっていない様子を見ると、あの“全身鎧”の防御力のおかげだろう。
「若さゆえ、とは言いたかねーが……胸糞悪いぜ」
 それでもソフィアは銃撃を続ける。彼女の狙いは――“全身鎧”に対してだからだ。
 戦場に響く鎮魂歌を唐突に唄いだしたのはイレーヌ(ka1372)だった。
 魔物の名を冠せられたサークレットが、彼女の美しい声を増幅し、その歌声をより鮮明に響かせている。
「結局最後まで、弱いままだな」
 歌の合間に言い放った言葉にライルが激情した。
「この、どこが弱いと言うんだ!」
 鎮魂歌の効力により、動きが鈍っているが、それでも俄然として強さを見せつけているのだ。
 だが、問題はそういう強さではない。
「手に入れたのは力だけで、何も守れていないのだから」
「これから守るんだ。僕の……僕だけの全てを!」
 狂気に満ちた瞳は、もはや、誰も見ていないようだ。
「それではライルさん。あなたの言う“強さ”、見せてください」
 大鎌を振り上げながらミュオ(ka1308)がライルへと迫った。
 袈裟懸けに降ろした一撃をライルは剣で受け流す。
「僕の強さ、思い知れ!」
 直後、負のマテリアルが全身から放出するライル。
 接近していたハンター達はそれに巻き込まれるも、それに耐え切り、ハンター達の猛攻は続いた。

●“強さ”
 全身鎧で防御を固めていたとしても、そのダメージは鎧の上からライルの身体を容赦なく痛めつけていた。
 ハンター達の攻撃に業を煮やしたライルがジリ貧を感じたのは、きっと、彼の実戦経験不足からくるものだろう。
「こうなったら……行くよ!」
 剣を投げ捨てると、ライルは手を掲げた。
 豪華な全身鎧が負のマテリアルを放ちつつ、彼の身体から離れ、槍の形状となった。
「片方の先端が欠けている二又の槍……情報通り……ですわね」
 ライラが冷静に“槍”を観察した。
 二又の槍の先端。片方は欠けているそれは――。
「……ネル・ベル」
 腹の底から響くような恨み声で呟くソフィア。
 傲慢の歪虚である存在に、ソフィアは先日、痛い目に合っている。
 【強制】を受けた彼女の行動の結果、レタニケ領主の噂は瞬く間に広まり、状況確認の為、隣接しているフレッサ領の私兵が領内へと踏み入る事態となった。
 街中に雑魔が溢れ出し、避難民が出ている以上、結果的には不幸中の幸い……という事にはなったが。彼女の怒りはテーブルを叩き割る程だっただろう。
「その姿になれば、狙うべき所は確実だ」
「こっちだって、読めているよ」
 ルイトガルトが繰り出した一撃は、ライルの槍を持つ両手を狙っていた。
 素早い槍捌きで避けるものの、ルイトガルトは慌てた様子はない。
「存分に振れなかったら、槍として、意味がないよ」
 一歩踏み込んだシェラリンデの太刀筋。
 それは避けようがなくライルの腕をザックリと傷をつけた。これが人間であれば、武器を落としているようだが――。
「やるね! だけど、ここからが、僕の力だ!」
 傷口から負のマテリアルの塊が放出し、シェラリンデに襲いかかった。
 【懲罰】の能力だ。シェラリンデは冷静に避けてみせる。当たれば強力だろうが、回避や受けが出来るタイプの【懲罰】なのだろう。
 そして、ライルの経験不足はここに来て致命的なミスを犯してしまう。それは、意図して狙った訳ではない為、ハンター達にとっては僥倖となった。
「行くよ! コード・アスフォデルス!」
 星の光を軌跡に散らし、マテリアルの煌きがミュオを包み込んだ。
 その祝装は渦を描き、ミュオの大鎌に纏うと、強烈な一撃となる。
「ガァァァ!」
「【懲罰】が……来ない」
 一撃を入れながら、即座にカウンターを警戒していたミュオであったが、【懲罰】は来なかった。
 ミュオが深く刻んだ傷口からは負のマテリアルが血のように吹き出て、ライルはそれを抑えようと叫んでいた。
「こんなものですか、あなたの強さは僕たちを倒せない程度ですか」
「……首を落とせば滅びるのか?」
「五月蝿い! 五月蝿い! これは、僕の力だ!」
 ミュオとルイトガルトの挑発に激怒するライル。
 その様子にソフィアとライラは、攻撃の手を緩めないまま、目を合わせた。
「ライルの【懲罰】は、連発できないか」
「その様に、私も思います」
 ハンター達の中には、『相手の攻撃』に合わせて発動するスキルや術が存在する。
 【懲罰】とは、それと似たような能力なのだろう。もちろん、歪虚によって個体差があるように、【懲罰】も色々なタイプがあるだろうが、基本的には同じであるはずだ。
 ライラはボロボロとなったライルに剣先を向ける。
「一人だけ強くても、ダメなのですよ」
「強くないと……強くないと、守れないんだよ!」
 もはや、ライルの意識は遠くに行っているようだったが、反撃が無い訳ではない。
 突如、槍先から炎の渦が出現すると、強烈な攻撃を放ったミュオへと放たれる。
「来ると思ったよ」
 ミュオを守ったのは、真紅色の盾を持ったイレーヌだった。
 古都アークエルスの魔術師達が名工と共に作り上げた属性盾の一つだ。
 再び大鎌を上段に構えたミュオを援護するようにシェラリンデがライルに呼び掛けながら迫る。
「キミの事だから、力を求めたのはきっと……誰かを守るためだよね」
「そうだよ! もっと僕は力を手にするんだ!」
「……だったら、ここで止めさせてもらうよ!」
 説得や揺さぶりはライルには届かないようだ。
 グサリと深く刺さった刀先。だが、【懲罰】は飛んで来ない。
「僕の力……みせ、て……僕の……」
 既にライルの全身から負のマテリアルは放出失くした様子にも見える。
 トドメとばかりに振り下ろされたミュオの攻撃を避ける事も受け止める事もしなかった。
「……終わり、ですね」
 【懲罰】を発動させようとしたライルだったが、もはや、その力は残されていないようだった。
 ドサっと大地に倒れると、そのまま動かなかった。

●歪虚ネル・ベル
「さて、処刑……いや、待て。なんだ、其方の驕慢面が先か」
 ルイトガルトが二又の槍に向かって声を掛ける。
 槍は持ち主が居ないというのに、立っていた。
「ライルを討てば戦う理由は無い……違うかな?」
「フフフ……どうかな」
 イレーヌの問い掛けにネル・ベル(kz0082)は人型の姿へと戻った。
 この歪虚が持つ【変容】という能力で武具へと化けていたのだろう。槍や全身鎧に化けても、負のマテリアルは隠しきれない。
 個人差がある能力なのだろう。触れるまでハンター達は負のマテリアルだと感知出来なかった。一般人では、そもそも気が付くのが更に困難なはずだ。
「思ったより決着が早かったな」
 ニヤリと笑った歪虚にミュオが首を傾げる。
「フレッサの兵隊さんが来ますよ。帰らなくていいんですか?」
「どうせなら、私の強さを見せつけても良かったのだが……」
「避難民の受け入れにフレッサ領が、戦功を挙げますが、それが事件の目的でしょう?」
 確かめるように言ったミュオの言葉だが、歪虚からは何の返答も無かった。
 大袈裟に両手を広げる。
「愚者は強者にただ従えばいい」
 直後、放たれる威圧的な負のマテリアルがハンター達に襲いかかった。
 傲慢の歪虚が使える強力無比な能力【強制】だ。だが、ハンター達の準備も万全だった。
「ぐ……」
 ただ一人、ルイトガルトが武器を構えたまま動かないが、それも束の間。
「もう二度と通用しねぇよ」
 怒りの言葉と共に魔導拳銃を構えたソフィア
 機導浄化デバイスを用いた浄化術だ。それが、ルイトガルトに掛かっている【強制】を解除したのだ。
「ふむ……どうやら、傲慢――アイテルカイト――と向き合うだけの準備はしているようだな」
 満足気に歪虚がそんな台詞を口にした。
 同時にネル・ベルは気合の声と共に負のマテリアルを放出する。明闇の六芒星の三角形が歪虚を包み、背に純白の翼。両腕に白銀の竜鱗が現れる。
 傲慢の歪虚は人間如きに“本気”を出す事はしない。常に人間よりも上位の存在であるという自負からだ。
 だが、時としてそれを越える力を見せる。ある者は激昂した際、また、ある者は他者から【強制】を受けた時、そして……。
「もう少し、抗わせてもらうぞ!」
 “何か”の目的の為に、ネル・ベルは【限界突破】した。
 その放出される負のマテリアルは、ライルよりも数段上だ。
 ハンター達はお互いに顔を見合わせた。実力差から劣勢になるのは必至。ならば、追い返すしかない。
「さて、死だ。讃え、謳い、滅び逝け」
 【強制】から解除されたルイトガルトが一気に間合いを詰めながら目にも止まらぬ居合抜き。
 同時にライラが竜尾刀を鞭状に操り、ネル・ベルを牽制。
「今です!」
 ライラの声に押されるようにルイトガルトの一撃が歪虚に入ったか。
 ……かのように見えたが、スっと辛うじてネル・ベルは避けた。だが、それこそが、ルイトガルトの狙いだった。
「こっちだよ」
 反対方向からシェラリンデの一撃。
 それを歪虚は竜鱗の腕で受け止めた。更にハンター達の攻勢は止まらない。
「この間は世話になったな、クソが!」
 怒りに怒りを込めたソフィアの拳が歪虚の顔面に叩き込まれる。
 ただの拳の一撃ではない。機導術を含ませたその電撃の一撃は、確かに歪虚の身体を戒めた。
 その光景に絶好のチャンスだと直感したイレーヌが盾を構えながら叫ぶ。
「ミュオ! ぶちかましてこい!」
 万が一、ネル・ベルが【懲罰】を使ってきても対処出来るように、回復魔法を準備しての事だ。
 そうでなければ、躊躇してもいいはずである。
「皆さんを、信頼しています!」
 それこそが、“強さ”であるはずだ。
 歪虚の体勢を崩し、戒めて動きを阻害させ、万が一への備えを取った上で成立した、ミュオの攻撃は――。
「……認めようではないか。キサマらが“強者”であると」
 大鎌が闇属性でなければ、ここまでの深いダメージを与えられなかっただろう。
 パッカリと開いた肩口を抑えながらネル・ベルは改めてハンター達を見渡した。
「もう少し時間を稼ぎたかったが……仕方あるまい。さらばだ」
 追撃を掛けようとしたソフィアの拳よりも早く、ネル・ベルは消え去った。

●強さの果てに
 歪虚が去り、残されたライルは意識を取り戻したようだ。
 堕落者としての宿命か、力を失った彼は、身体が塵となって崩れ始めていた。
(…………)
 ルイトガルトは静かに剣を鞘に戻した。
 速やかに処刑すべきではあるが――声を掛けたい者も居るだろうと思ったからだ。
 ただ、その結末は、しっかりと見届けようと思いながら……。

「ぼ、僕は……いっ!」
 目を覚ましたライルに拳を入れたのはイレーヌだった。
 驚いて目をパチクリとさせるライルに彼女は冷たく続ける。
「強さというのは、力ではない」
「違う……の、ですか?」
「お前は、力という弱さに逃げたんだ」
 その結果、堕落者と化してしまった。
 ライルは目に涙を浮かべる。
「ごめん……なさい……僕は、皆さんに……」
「焦りやがって……もっと周りをみりゃ良かったんだ」
 ソフィアの言葉に彼は頷いた。
 亜人を倒すハンター達の力のみに目が向いていたと気がついたのだろう。
 確かに、覚醒者の力は一般人と比べると歴然だ。だが、ハンター達が強いのは、力だけではない。
 ネル・ベルを退けた一撃を入れたミュオは改めて、それを認識しながら、ライルに言う。
「もっとちゃんと……お話が出来たら、何か変わったのかなぁ……なんて今更、思うんです」
「は……はい……」
 ボロっとライルの身体が崩れて消滅していく。
 ライラは彼の乱れた髪を、櫛で整えながら言った。
「貴方は悪くありません……周りが貴方に、貴族というものを教えていかなかった事……」
 もう少し早く出会っていれば、もしかして、変わっていたのだろうか――そんな思いを抱きながらライラの台詞は続く。
「……貴族というものの強さを学ばなかった事だけです」
「今……から、学んでも……良いですか?」
 絶え絶えに言ったライルの言葉に、一瞬、ライラは驚き、そして、優しげな笑みを浮かべた。
「良いですよ。しっかり、教えて差し上げます」
 よろしくお願いしますと返したライル。その身体は、もはや原型を失っている。
 シェラリンデが最後にと声を掛けた。
「最後に、想いを伝えたい人は居るかな?」
「……はい。皆さんに……」
 塵となって消えていくライルを運ぶように爽やかな風が吹き抜けた。
 そして、風と共に、彼の想いが流れていった。
「……最後に、強さを知る事が……でき、ました……ありがとう、ござい――」
 強さの求めた果てに。
 少年は求めていた強さを最後に知る事が出来たのであった。


 レタニケ領での亜人襲撃に絡む一連の事件はこれで終結となった。強さを求めた続けた結果、堕落者と化したライルをハンター達は討伐。
 フレッサ領の私兵達が屋敷に姿を見せた時、既にライルの姿は消え去った後であり、私兵達の功績は避難民への支援に留まったのだった。


 おしまい

依頼結果

依頼成功度大成功
面白かった! 6
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • 白嶺の慧眼
    イレーヌka1372
  • 【魔装】猫香の侍女
    ライラ = リューンベリka5507

重体一覧

参加者一覧

  • 純粋若葉
    ミュオ(ka1308
    ドワーフ|13才|男性|闘狩人
  • 白嶺の慧眼
    イレーヌ(ka1372
    ドワーフ|10才|女性|聖導士
  • 大工房
    ソフィア =リリィホルム(ka2383
    ドワーフ|14才|女性|機導師
  • 【魔装】花刀「菖蒲正宗」
    シェラリンデ(ka3332
    人間(紅)|18才|女性|疾影士
  • 【魔装】猫香の侍女
    ライラ = リューンベリ(ka5507
    人間(紅)|15才|女性|疾影士
  • 戦場に疾る銀黒
    ルイトガルト・レーデル(ka6356
    人間(紅)|21才|女性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談所です!
ソフィア =リリィホルム(ka2383
ドワーフ|14才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2017/04/30 23:19:12
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/04/25 22:42:45