【魔装】富貴花が咲く頃に

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
6~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
6日
締切
2017/05/01 22:00
完成日
2017/05/08 19:58

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出? もっと見る

-

オープニング

★個人連動シナリオ『【魔装】強さの果てに 第5話』のオープニングの続き★

●追跡
 街中に雑魔が出現するという事は、無いという訳ではない。
 なんらかのマテリアルの淀みや汚染から発生するケースがあるからだ。
 だから、鳴月 牡丹(kz0180)の耳に、雑魔が現れたという知らせが届いても、気にもしていなかった。
「……どうしようかな」
 宿の自室から見下ろせる通りには、様々な形態の雑魔の姿が見えた。
 市民達は既に避難したのか、建物の中に退避したのか、無人の街中を我が物顔で闊歩している。
 牡丹なら討伐は容易い事だ。
「でも、これは不味いよね」
 護衛であるハンターとは連絡が取れない。
 街には居るはずなので、彼ら彼女らは、独自に行動を起こしているだろう……となれば、紡伎 希(kz0174)が帰って来るまで、このまま待機していた方が良いはず。
 しかし、街の惨状を見逃す訳にもいかない。
 それこそ、目の前で誰かが襲われているのであれば、飛び出せるのだが……。
「あれ? ノゾミ君?」
 路地の影にチラリと緑髪の少女が見えた。
 大声を出す訳にはいかないので、大袈裟に手を振ってみたが、気がついている様子はない。
「ったく、もうー」
 口を尖らせる牡丹。
 こうなったら、実力行使だ。希が居るのであれば、多少、街中に出ても問題ないだろう。
 もしかして、護衛のハンターも近くに居るかもしれない。
「テヤッ!」
 2階から飛び降りつつ、雑魔の一体に対して無慈悲な踵落としを喰らわせる牡丹。
 反動で宙を飛び、クルッと回転。見事な着地を見せると、目にも止まらぬ早さで、拳を雑魔へ叩き込む。
 屑となって消え去る雑魔の向こうの路地で、緑髪の少女の背中が見えた。声を掛けたが、気が付く様子はなく、路地へと消える。
「あ! ボクを無視するなんて、いい度胸だよ!」
 急いで走る牡丹。見逃したら、後が面倒い。
 路地に入った先で、少女の背中が見えた――が、すぐさま、通りへと消える。
 何かを追いかけている可能性もある。牡丹は全力で走る事にした。

●堕落者
 幾度か路地と通りを駆け抜け。
 不幸にも牡丹と遭遇した雑魔は塵と化していたが、気が付けば、彼女は領主の屋敷裏へとたどり着いていた。
「ノゾミ君?」
 勝手口の扉が開いたままだ。
 無用心にも程がある。それとも、中に居た使用人が逃げ出したのだろうか。
 警戒しながら庭を抜け、屋敷の中へと入った。
 薄暗い廊下のずっと先に僅かな灯りが漏れている部屋が見える。
「そういえば、ライル君はどうしているかな」
 レタニケ領主である若者の姿を思い出しながら、廊下を進む牡丹。
 中ほどまで進んだ時だった。背後から呼び止められる。
「牡丹お姉ちゃん」
 抑揚は無かったが、ライルの声であった。
 ボクが後ろを取られるなんてねと思いながら振り返った牡丹だったが、直後、腹部に強烈な痛みを感じた。
「え? な、何? なんで?」
 牡丹の腹部に深く突き刺さった小剣。その鋭い先端が背中から顔を出した。
 喉を込み上げてきた血を、牡丹は無理矢理に飲み込む。
 崩れ落ちる身体をライルが受け止めた。
「ダメですよ、牡丹お姉ちゃん。勝手に人の屋敷に入っちゃ」
「……ライ……ル、君……なん、で……」
 なんで、その身体から負のマテリアルが――その言葉は出て来なかった。
 足に力が入らず、立っていられない牡丹を、ライルは軽々と支えている。
「僕は力を手に入れた。もう、何者にも負けない力を」
「……それは、力じゃない……堕落者と……化した、だけだよ、ライル君」
「牡丹お姉ちゃんも僕に力を求めたじゃないですか」
 グッと牡丹の身体を引き寄せるライル。
「僕はもっと強くなる。そして、この領地に留まらず、王国も僕が守るんだ」
「……なんて、事を……」
「牡丹姉さんは僕の妃になるんだ。2人で強さを求め合うんだ」
 狂気に満ちたライルの瞳に、もはや、人の心は残っていない様子だ。
 否定しようと首を横に振る牡丹の身体から手を離すライル。
 ドサッと床に倒れた。
「それじゃ、僕は早速行くね。強くなった僕自身を、あのハンター達に見せつけてくるよ」
 カツカツと音を立てて立ち去るライルの後ろ姿。
 震えながら伸ばした牡丹の手が届くはずもない。

●歪虚
 ライルが立ち去って、しばらくしても、牡丹は変わらず屋敷の床に伏せていた。
「そんな……ライル……ボクのせいだと……言うのか……」
 力が入らない。血を流し過ぎているかもしれない。
 こんな所で死ねるかと、なんとか動こうとした時だった。
 視界の中に人型の妖精……の姿に偽った歪虚が浮かんでいた。
「歪虚?」
「そうだよぉ~」
 ヒラヒラと舞うように近づいてくる妖精の姿をした歪虚が、牡丹の正面に移動した。
「私の名前は、アリトゥス。偉大なる傲慢――アイテルカイト――さ」
「あんたが、ライルを!」
「違うよぉ~。私じゃないよ、私はね、こ~れ!」
 言葉と共に黒い光を歪虚は発した。
 次の瞬間、妖精の姿をしていたアリトゥスは緑髪の少女の姿へと変貌する。細部は希とは違うが、似ているだろう。
 負のマテリアルが再び活性化し、次に現れたのは牡丹の姿だった。
「姿を……真似る……事が、出来るのか……」
 どうやら、屋敷まで誘き出されたようだ。
「正確には“知った”物の姿に似せる事が出来るだけなんだけどね」
「……歪虚に姿を真似させる機会を取られた記憶はないよ」
「それは、貴女が愚かな、だ~け☆」
 動けない牡丹の顔をクイッと上げるアリトゥス。
「偉大なる御方の傍に相応しい存在になる為に、私は究極の美を求めてるの~。だ・か・ら、貴女を頂くわ」
 直後、牡丹に襲いかかる負のマテリアルの圧力。
「ぐっ……」
「意外と耐えるわね。人間の癖に小生意気」
 牡丹の腹部の傷にガッと蹴りを入れる。
 悲鳴をあげてのたうち回る牡丹をニヤニヤとした表情で、アリトゥスは見つめる。
「折角、【強制】で契約させて堕落者にしてあげるのに~」
「それなら……死んだ方が……まし、だね」
「ふーん。どこまで、耐えられるかな~」
 アリトゥスが牡丹の身体を強烈な勢いで踏み締めた。

●偽善の剣
 レタニケの街から避難する者、数多く。
 領主が歪虚の力を借りているという噂話に、街中に雑魔が多数出現しているとなれば、それは、もう、一大事である。
「我ら、フレッサ騎士団が到着したからには安全です。我らの陣に避難を」
 隣接するフレッサ領の私兵集団が避難民らを受け入れていた。
 亜人討伐の手伝いを申し出ている最中だった事もあり、この一大事に一番早く行動を起こしたのだ。
「街中にも雑魔が」
「安心して下さい。必ずや、我らフレッサ騎士団が歪虚と化した王国の裏切り者である領主諸共、掃討します」
 避難民らの歓声を受ける私兵集団。
 この戦いで武勲を上げれば――フレッサ領主の多大な功績となるはずだ。私兵集団の隊長の頭には、そんな考えが過ぎっていたのだった。

リプレイ本文

●大通りにて
 レタニケ領の大通りを鳳城 錬介(ka6053)とアルマ・A・エインズワース(ka4901)の二人が進んでいた。
 時折、路地影から飛び出てくる雑魔はいるが、いずれも、錬介が盾となり、アルマのオーバーキル気味な機導術が速やかに排除していく。
 魔導拡声機を手に錬介は呼び掛けを行う。
「此方はハンターです。街に雑魔が発生し、現在、その駆除を行っております」
 言ってる傍から出てくるのは人……ではなく、軟体状の雑魔。
 ハンターを掴もうと触手のような手を伸ば――

 ジュ!

 アルマの機導術の光が雑魔貫くと、文字通り消し炭となる。相当な火力だ。
 錬介の呼掛けはなおも続く。
「ご不安もあるかと思いますがどうかもう暫くお待ちください」
 今度は通りに面している建物窓をぶち破って円形状の雑魔が飛び出てきた。
 空中で錐のように形を変えたそれは――

 バキュ!

 やはり、機導術を受けて四散した。
 現れては粉砕されていく雑魔。
「わふー。なんだか、たいへんです?」
 決して雑魔が弱い訳ではないのだが……。
 きっと、駆け出しのハンターであればいい勝負なのだろう。今回は、雑魔に運が無かったともいえる。
「此方は雑魔と交戦しながら進みますので大変危険です。どうか避難は、出来るだけ放送から離れる形でお願い致します」
 呼掛ける錬介の声を雑魔が理解している様子はない。
 ただ、音を撒き散らしながら通りを歩いている存在に襲いかかってくるようだ。
 路駐の馬車影から3体程の黒い塊がアルマ目掛けて飛んでくる。
「わんっ」
 
 ズシャ!

 若干、殺意の抜けきれていない気合の声と共に放たれた光線が雑魔を其々貫く。
 それだけで容易く蒸発してしまう雑魔。
 来た道を振り返ったアルマの視界の中に、恐ろしいものを見るような目つきで市民が顔を覗かせていた。
 市民を安全と思われる場所まで誘導し、再び大通りに戻る。二人は保護と雑魔討伐を繰り返すのだった。

●庭園にて
 豪快な爆発音が響く。
 戦闘によるものではなく、マテリアル花火だ。こうする事で、誘き出された雑魔が庭園のど真ん中に無防備に立つ檜ケ谷 樹(ka5040)を狙う。
 もちろん、それは囮だ。比較的近くで救助者を探していたアルラウネ(ka4841)が素早い身のこなしで大太刀を振るって雑魔を切り刻む。
 雑魔が彼女へと意識を変えた隙を狙って、樹の機導術が襲いかかる。
「この前の調査から、嫌な予感はしてたけど……こうも、展開が早いと……!」
 樹が眉をひそめる。
「何か……変、ね」
 残った雑魔を切り刻み、アルラウネが納刀しながら応える。
 以前、レタニケ領に絡む調査依頼を二人は受けていた。調査した場所は別々だったが、その時、レタニケの街がこのような事態になるとは微塵も感じなかった。
 何があったというのか。
「ただ、救助者にも愛する人が居る……そう考えると、絶対に守らなくちゃね」
「そうだね。今は兎に角、コイツラを抑えるしかないって事か」
 再び現れた雑魔の群れに対し、樹は拳銃を向けた。
 
 庭園には雑魔は多かったが、避難民はそれほど多く無さそうだったし、保護した人から、有力な情報は特に得られなかった。
 一段落もした時、アルラウネのモフロウが騒がしほど鳴きながら降り戻ってきた。
「何かしら……人影?」
「フレッサ領の私兵団も避難民保護に動いているっていうし、多分それかもね」
 樹の言葉にアルラウネは嫌そうな表情を浮かべた。
 生理的ではないだろうが、なんとなくフレッサ領の私兵には良い印象が無い――みたいだ。
「あれだね。アルラウネちゃんは保護を続けて」
「樹さんはどうするの?」
「僕は……ちょっと、“彼ら”に用事があるからさ。集合の連絡があったら、アルラウネちゃんは先に行ってて」
 営業スマイルを向けてきた樹の瞳はどことなく真剣だった。
 アルラウネは一抹の不安を感じたが、今は救助も大事な時だ。
「気をつけてね」
 そう告げると、庭園の奥へと進んでいった。

●住宅街にて
「さて、随分入り組んだ所だが……」
 オウカ・レンヴォルト(ka0301)が魔導バイクのエンジン音を響かせながら、住宅街を駆けていた。
 広範囲を走ってカバーする事で道を闊歩している雑魔と遭遇する機会が多い。
 相手が1体であれば苦戦はしないが、さすがに数が多い時は面倒になる。
「少々、非効率だが……致し方あるまい。殲滅だ」
 魔導バイクから降りるとアルケミストグローブを掲げながら、機導術を行使する。
 光り輝くマテリアルの三角形が作られると、各頂点から光の筋が雑魔へと向かって伸びた。
 直撃を受けながらも迫ってくる雑魔を迎撃する為、斬魔刀で振り払う。愛刀を包んでいた布が解ける。
「こいっ!」
 時として数で不利になる事もあった。彼とて無傷という訳にはいかない。
 それでも、オウカは確実に雑魔を葬っていった。

 住宅街は広い。
 領主が持つ屋敷もあれば、商人の邸宅もある。龍崎・カズマ(ka0178)は目星をつけた上で探索を行っていた。
 そして、それは正しかった。商品を守る為に残っていた商人や領主名義の建物へ避難していた市民を保護出来たからだ。
「……自然発生にしては、出現した範囲が広い?」
 街全体に散らばって、各々活動する仲間達からの連絡にカズマは疑問の声を発した。
 レタニケの街は衛兵や自警団が機能していない様子だった。もはや、統治が行われていたかすらも怪しい。
 それに、市民達の避難も早かった。
「陽動? いや、そんな事してメリットは……」
 何のために雑魔が出没しているのか、その意図を探ろうとしても、限られた情報では謎だけが残る。
 ある陰謀が――街を包んでいる。そんな気がした時だった。
 仲間からの新しい連絡が入ったのだ。嫌な予感を感じた彼が目的とする場所へ向けて走りだす。途中、オウカと偶然にも出会えたのは幸運だった。

●宿場にて
 バリケードを組み直し、バリトン(ka5112)が避難していた市民を安心すさせるように声を掛けていた。
「救助に来るからの。しっかりと隠れておれ」
 市民達は静かに頷くと建物の奥へと上がっていく。
 ハンターによって一帯の安全が確認出来たとはいえ、万が一を想定しておく事は悪い事ではない。
 バリトンは避難した市民を呼掛け、救助者を探し出し、必要であれば手当を行い、また、バリケートを作るように助言もした。
 脆そうな宿から頑丈な宿へと、市民を馬に乗せて運ぶ。その動きは、さすが、歴戦の傭兵というべきだろう。
「………牡丹が宿にいない」
 深刻そうな表情で二階から降りてきたのはラジェンドラ(ka6353)だった。
 知り合いのメイドが、この街と領主、そして、牡丹との関わりがあった。そこからの頼みで彼が鳴月 牡丹(kz0180)の安否を確認に来たのだ。
「この嬢ちゃんか」
 ポートレイトを掲げたバリトン。そういえば、孫娘とも縁がある東方の武将だったなとバリトンは心の中で思った。
 いくつかの宿を周り、牡丹の行方を探していた二人だが、ポートレートからの情報が有力で、今の宿へとたどり着いたのだ。
 牡丹がなかなか目立つ人物であったのが幸いした。気がついた市民が、凄く心配そうな表情を揃って浮かべていたのは、彼女の自業自得というものだろうが。
「荒らされた形跡は無い……自分から出たんだと思う」
「目的地の目星はつくか?」
 バリトンの質問にラジェンドラは僅かに考える。
 事前に貰っていた情報と牡丹の性格を考えれば――。
「……牡丹が向かう場所で、最悪なのは……ライルの屋敷だな」
「領主の屋敷か……急いだ方がいいじゃろう」
「確か、領主の場所は住宅街を抜けた先だ」
 全員で屋敷に向かった方がいいかもしれないが、一刻を争う可能性があるのであれば……近い人間から行ってもらうしかない。
 ラジェンドラは魔導短伝話のスイッチを入れた。

●アリトゥス
 偶然なのか、それとも、それは運命というべきものなのか。
 領主の屋敷に一番近い場所を探索していたカズマとオウカが屋敷に最初に到着した。
 外にまで響いた牡丹の悲痛の声に、二人は屋敷の中へ飛び込む。
「牡丹!」
「二人? ……いや、立っている方は、歪虚、か」
 廊下の隅で血を流して倒れている牡丹と、その牡丹を踏み下ろしている“牡丹”。
 パッと見、見分けは分かりにくいが、負のマテリアルは隠せていない。すぐに、偽物がどちらで、その存在が歪虚だと分かった。
「今、良い処だから、邪魔して欲しくないんだけど」
 その声は牡丹とは違って、高くて、女の子っぽい。
 向かってくるハンターが何かを投げた。
「!?」
 投げた先から男の声、一瞬、そちらに意識を向けた時だった。
 カズマがマテリアルを込めながら投げたカードが、マテリアルの道を紡ぎ、引っ張られるように立体感を失った影となった。
 まるで疾風のようにアリトゥスの真横に移動すると、素早く牡丹を抱えて、転がるように距離を取った。
「ダメ!」
 止めるように歪虚が負のマテリアルの矢を放つ。
 カズマは牡丹を身体を張って牡丹を庇う。その眼前に機導術による魔法の障壁が出現した。
「ん、敵意を見せるなら、殺さんと、な」
 咄嗟のフォローを入れたのはオウカだった。
 そのまま彼は歪虚へと向かっていく。
「この姿じゃ、気にならないようだね。なら、同じハンターならどうかな?」
 歪虚が黒く眩い光を放った瞬間、黒髪の男性へと姿を変えた。
「それが、どうした」
 意に介さないオウカの反応に、次々と容姿を変えるアリトゥス。
 オウカは知る由もないが、それらのハンターの姿は昨年末頃にレタニケ領北部での温泉依頼に参加したハンター達の姿だった。
 特定の条件があれば、姿を真似る事が出来る、アリトゥスの能力なのだろう。
 やがて、アリトゥスは銀髪の女性に似た姿となった。
「イ……お、ま、えはっ!」
「わぁ。なになに? すっごい怒ってるね」
 オウカが激怒するのも無理はない。彼にとって最愛の人の姿に歪虚が化ければ怒るのは当然の事。
 殺意が篭った斬魔刀を突き出す。
 だが、屋敷とはいえ、廊下の狭さと、これまで雑魔との戦いでダメージが蓄積されていたのが、オウカにとって不利となった。
「く……そ……」
 負のマテリアルの塊が直撃し、オウカは倒れる。
 それでも彼が稼いだ貴重な隙に、カズマは牡丹の容態を確かめていた。
「腹部の傷が……マズイな」
 回復薬の注射と飲み物を取り出す。
「カ……ハッ! グ……!」
 牡丹は意識が朦朧としているのか、ポーションを上手く飲み込めない。
 カズマは覚悟を決めて、ポーションを口に含み――牡丹の顔を自分に向けた。

「わぁお! 意外と大胆だね。私はそういうの好きだよ」
 歪虚が楽しそうな声を挙げる。
 再び姿を変え、グラデーションがかった髪を持つエルフの女性姿となっていた。
「カ、カズマ君……助か……った……よ」
「それは良かったな」
 再び唇が重なる程の近さで呟いた牡丹の言葉に、カズマはシレっと応える。
 彼はキッと振り返り、歪虚と対峙した。
「さぁ、どうするのかな、一人で?」
「……生憎、一人じゃなさそうだ」
 ちょうどそこへ仲間達が到着した。
「なんで、私の姿を!?」
 真っ先に驚きの声を挙げたのはアルラウネだった。
 ニヤリと笑った歪虚は仰々しく両手を広げる。
「私の名前は、アリトゥス。偉大なる傲慢――アイテルカイト――」
 直後、負のマテリアルが吹き荒れ、ハンターの姿になっていた歪虚は、桜型妖精「アリス」とよく似た容姿となった。
 これが、本来の姿……というのだろうか。
「オウカさんと牡丹さんに回復魔法を掛けますね」
「ふむ。わしはオウカを引っ張ってこようかのう」
 錬介とバリトンが仲間のフォローに入る。
 ズリズリとオウカを引きずってきたバリトン。
「すま……ない……」
「間一髪じゃったな」
 彼の傷は思ったより深くない。これなら、錬介の回復魔法を受ければ、重体にならずに済むだろう。
 だが、牡丹の方は、ひと目で重傷だと分かる。カズマが応急処置を行った為、一先ずは命の危険はないかもしれないが。
「そこをどいてください」
「これは、私のものよ」
 駆けつけようとした錬介の前に歪虚が立ち塞がる。
 その状態にアルマがマテリアルを集中させながら進み出た。
「わぅー? 僕、実は今ちょっと気が立ってるですから……歪虚のおねーさん、遊んでくださいですよー」
「そんな暇ないんだけど」
 面倒臭そうな表情を向けてきた歪虚が突如として宣言と共に負のマテリアルを放つ。
「美しき者が命じる。もっと、私に“愛”を見せて!」
 傲慢歪虚の固有能力【強制】だ。
 ハンター達は体内のマテリアルを高めて抵抗を試みるが……。
「わー! もふもふー!」
「わふー!?」
 今まさに強力無比な機導術を撃つ所だったアルマにアルラウネがしがみつく。
 彼女は【強制】に抵抗出来なかったのだ。もう、ぐりぐりとアルマの懐に潜り込んでもふもふして、機導術どころではない。
「ま、待て、牡丹……し……ぬ……」
「むぎゅー!」
 大怪我を負って意識を集中できなかった牡丹もまた、【強制】に掛かってしまったようだ。
 豊満なそれでカズマの頭を包み込んで離さない。
 この混沌とした状況に錬介とバリトンが頭を抱える。
「どうしましょうか? バリトンさん」
「……わしらでやるしかあるまい」
 其々が武器を構えた。【強制】は強力な能力だが、使い方で驚異度が違う。今は攻める時だ。
 二人のハンターが残っている事に、この状況を楽しんでいた歪虚も冷静に戻る。
 大きなため息と共に、ひらひらと舞いながら上昇していく。
「まぁ、楽しかったからいいか。それじゃ、またねー」
 傲慢の歪虚アリトゥスの姿は消え去ったのだった。


 ハンター達の活躍により、レタニケの街に出現した雑魔の討伐。そして、救助者の保護は、完全とはいえないものの十分に任務を果たした。
 また、行方不明になっていた牡丹を救助。同時に歪虚アリトゥスを撃退したのだった。


 おしまい


●陰謀
 ジャパニーズサラリーマン式仕事術による、素晴らしい営業テクニックでフレッサ領の私兵と仲良くなった樹が一人、街を歩いていた。
 既に時刻は夜明け前だ。私兵達と飲み明かし続けた結果の朝帰りだ。
「統治や運用……これには人の“色”が鮮明に出るはず。それも、早々変わったりしない……」
 聞き出していたのは主に、フレッサ領内の事だった。
 その統治は数年前とは見違えるように違うという。それも、悪い方向ではなく、良い方向に。
「変わったのなら……別の、強い“何か”の介入を意味するんじゃ……」
 フレッサ領と近隣の小貴族領での一連の事件。
 それらに共通している歪虚の姿がある事は過去依頼から辿り着ける。
「……もしかして、“何か”とは、それが……でも、何の為に……」
 思案に更ける樹は酔いからすっかりと覚めていた。

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 10
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • 虹の橋へ
    龍崎・カズマka0178
  • (強い)爺
    バリトンka5112
  • “我らに勝利を”
    ラジェンドラka6353

重体一覧

参加者一覧

  • 虹の橋へ
    龍崎・カズマ(ka0178
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • 和なる剣舞
    オウカ・レンヴォルト(ka0301
    人間(蒼)|26才|男性|機導師
  • 甘えん坊な奥さん
    アルラウネ(ka4841
    エルフ|24才|女性|舞刀士
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • 幸せを手にした男
    檜ケ谷 樹(ka5040
    人間(蒼)|25才|男性|機導師
  • (強い)爺
    バリトン(ka5112
    人間(紅)|81才|男性|舞刀士
  • 流浪の聖人
    鳳城 錬介(ka6053
    鬼|19才|男性|聖導士
  • “我らに勝利を”
    ラジェンドラ(ka6353
    人間(蒼)|26才|男性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/04/26 02:38:30
アイコン 【質問版】
龍崎・カズマ(ka0178
人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2017/04/26 22:50:39
アイコン 【救出作戦】【相談】
龍崎・カズマ(ka0178
人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2017/05/01 20:08:55