ゲスト
(ka0000)
【界冥】幸運はあなたと共に
マスター:紫月紫織

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/05/07 09:00
- 完成日
- 2017/05/14 22:23
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●眠り姫
彼女には幸運の精霊が憑いている。
そう形容されたこともあるぐらい、彼女――シルヴァ・ラヴァフェットは運が良かった。
「なにこれ? 眠ってる……ってわけじゃないのよね?」
ハンターオフィスの受付嬢でもあり旧友でもあるエリクシアに呼びつけられてやってきた部屋で、シルヴァはそれと顔を合わせた。
ふわふわの金髪に、やや幼いあどけない顔立ち。
見た目、十二~十三の年頃の少女に見えるそれは、見ればオートマトンであるとわかるだろう。
今は起動することもなく、静かにベッドの上に寝かされている。
時折、目覚めようとするのか指先やまぶたがかすかに動くのに気づいてそっと顔を近づけてみる。
しばらく様子を見たり、手を握ったりしてみるがこれと言った反応が返ってくるわけではない。
その様子を不思議に思いながらも、シルヴァはそっと手を離した。
周囲には様々な工具類が並べられており、開け放たれたパーツから内部が露出していた。
それらがどういった役割を担うものなのか、分野の違うシルヴァには見当もつかない。
唯一想像できることは一つだけ。
「修理中?」
「そういうこと。現在、エバーグリーンにあるサーバーを修理するための研究の一環として、回収されたオートマトンを調べつつ修復しているというわけよ。その子はうちの受け持ち」
「なるほどね――それでなんで私が呼ばれるのよ?」
はてな、と首を傾げるシルヴァであるが、内心嫌な予感がしていて逃げ出したかった。
こういう時、だいたいエリクシアの考える面倒事に白羽の矢を立てられるのは彼女なのである。
「修理に使うだろうパーツが足りなくてね」
「ごめんなさい、急用を思い出したわ」
「逃さないわよ」
がっしりと捕まえられる。
覚醒者の能力を使えばシルヴァが逃げることなど容易いのだが、結局いつもそこまでしないでエリクシアの思惑に乗るのが、二人のいつものやり取りだった。
「今回、新たにエバーグリーンにパーツ集めに出発してもらう、その一団に同行してもらいたいのよ。あなた運がいいから、何か適当に見つけてくるでしょどうせ」
「雑い」
エリクシアが言うには、修理のパーツが見つかるかどうかは運次第とのことだった。
その為、お守り代わりについていけ、ということらしい。
旧友からの頼みに、私は占い師なんだけどなぁ、といつものセリフをぼやいたあと、結局シルヴァはそれを受けるのだった。
●エバーグリーン探訪
乾いた風が髪を揺らす。
息をする度に乾いていく唇を濡らすため、水筒に口をつけた。
朽ちた文明の跡を覆い尽くすのは、この場所においては砂だったのだろう。
風化した建物が崩れ、砂となり積み重なる。
やがて風に弄ばれて、文明の残りを飲み込んでいくのだ。
「うーん、こりゃちょーっと厄介な依頼受けちゃったかなぁ?」
シルヴァが渡された地図を見ながら進路を示す、その先に見えたのは半分ほど土に生まれた地下施設への入り口だった。
未探索の地域であることから、期待値が高いとされて提案された場所である。
砂塵から逃れるようにそこへ踏み込んだハンターたちは、そこにオアシスを見た。
壁を這うように、蔦植物が繁茂している。
外の砂漠のような景色が嘘のように、その場の空気だけは潤いに満ちていた。
ほのかに正のマテリアルを感じるところ、この植物は覚醒者に近く、負のマテリアルに対して強い抵抗力を持つのかもしれない。
「これは……たしかに今までと違った成果が期待できそうだな」
「だね」
誰かがそんなことを話し合う。
「朽ちた遺跡、砂漠の中のオアシス! ううん、なんともロマンあふれる話だねぇ」
足を踏み入れながら誰かがそんなことを口にした。
奥に進む。
ざり、という砂を踏みしめる感触は、やがて硬質なものへと変わる。
しんとした静寂が包む世界にを、優しい緑が彩っていた。
手前にあるドアを開けようとするけれど、動力は死んでいるのかびくともしない。
ハンターの一人が自慢の怪力で無理やりこじ開ければ、その先はかすかにカビ臭い匂いが漂う一室である。
保存状態が良かったのだろう、風化しているものも少なくこれならばパーツ探しは思いの外捗るかもしれない。
傍らに、一体の人影が倒れていた。
人間かともおもったが、どうやらそれは朽ちたオートマトンらしい。
動く様子もなく、腕や腿のあたりに穴が空いて内部が露出していることからも、壊れていることは明白だ。
目を見開いたまま朽ちたそれの目を、シルヴァはそっと閉じさせて、おやすみ、とつぶやく。
道中、その行動を聞いたハンターに彼女は、人ではないかもしれないが、そうするべきだと思ったと返した。
更に奥へと進むと、機能を停止した"サーバー"も存在した。
それは蔦植物と苔植物に覆われていたが、そのおかげか風化の具合も何処か穏やかなように思える。
探せばそれらを管理する部屋だって見つけられるだろう。
オートマトンを製造していた部署もあるかもしれない。
幾つもの部屋がまだ残っている、探索する場所は尽きない。
「それで、シルヴァの姉ちゃんよ。探すのは"サーバー"のパーツと、"オートマトン"のパーツでいいんだな?」
「ええ、それが今回の依頼よ。修理のためのパーツ集め、まだ稼働しているオートマトンが襲ってくる可能性もゼロではないらしいから、一応みんな気をつけてね」
さて、異世界探訪と洒落込もうではないか。
彼女には幸運の精霊が憑いている。
そう形容されたこともあるぐらい、彼女――シルヴァ・ラヴァフェットは運が良かった。
「なにこれ? 眠ってる……ってわけじゃないのよね?」
ハンターオフィスの受付嬢でもあり旧友でもあるエリクシアに呼びつけられてやってきた部屋で、シルヴァはそれと顔を合わせた。
ふわふわの金髪に、やや幼いあどけない顔立ち。
見た目、十二~十三の年頃の少女に見えるそれは、見ればオートマトンであるとわかるだろう。
今は起動することもなく、静かにベッドの上に寝かされている。
時折、目覚めようとするのか指先やまぶたがかすかに動くのに気づいてそっと顔を近づけてみる。
しばらく様子を見たり、手を握ったりしてみるがこれと言った反応が返ってくるわけではない。
その様子を不思議に思いながらも、シルヴァはそっと手を離した。
周囲には様々な工具類が並べられており、開け放たれたパーツから内部が露出していた。
それらがどういった役割を担うものなのか、分野の違うシルヴァには見当もつかない。
唯一想像できることは一つだけ。
「修理中?」
「そういうこと。現在、エバーグリーンにあるサーバーを修理するための研究の一環として、回収されたオートマトンを調べつつ修復しているというわけよ。その子はうちの受け持ち」
「なるほどね――それでなんで私が呼ばれるのよ?」
はてな、と首を傾げるシルヴァであるが、内心嫌な予感がしていて逃げ出したかった。
こういう時、だいたいエリクシアの考える面倒事に白羽の矢を立てられるのは彼女なのである。
「修理に使うだろうパーツが足りなくてね」
「ごめんなさい、急用を思い出したわ」
「逃さないわよ」
がっしりと捕まえられる。
覚醒者の能力を使えばシルヴァが逃げることなど容易いのだが、結局いつもそこまでしないでエリクシアの思惑に乗るのが、二人のいつものやり取りだった。
「今回、新たにエバーグリーンにパーツ集めに出発してもらう、その一団に同行してもらいたいのよ。あなた運がいいから、何か適当に見つけてくるでしょどうせ」
「雑い」
エリクシアが言うには、修理のパーツが見つかるかどうかは運次第とのことだった。
その為、お守り代わりについていけ、ということらしい。
旧友からの頼みに、私は占い師なんだけどなぁ、といつものセリフをぼやいたあと、結局シルヴァはそれを受けるのだった。
●エバーグリーン探訪
乾いた風が髪を揺らす。
息をする度に乾いていく唇を濡らすため、水筒に口をつけた。
朽ちた文明の跡を覆い尽くすのは、この場所においては砂だったのだろう。
風化した建物が崩れ、砂となり積み重なる。
やがて風に弄ばれて、文明の残りを飲み込んでいくのだ。
「うーん、こりゃちょーっと厄介な依頼受けちゃったかなぁ?」
シルヴァが渡された地図を見ながら進路を示す、その先に見えたのは半分ほど土に生まれた地下施設への入り口だった。
未探索の地域であることから、期待値が高いとされて提案された場所である。
砂塵から逃れるようにそこへ踏み込んだハンターたちは、そこにオアシスを見た。
壁を這うように、蔦植物が繁茂している。
外の砂漠のような景色が嘘のように、その場の空気だけは潤いに満ちていた。
ほのかに正のマテリアルを感じるところ、この植物は覚醒者に近く、負のマテリアルに対して強い抵抗力を持つのかもしれない。
「これは……たしかに今までと違った成果が期待できそうだな」
「だね」
誰かがそんなことを話し合う。
「朽ちた遺跡、砂漠の中のオアシス! ううん、なんともロマンあふれる話だねぇ」
足を踏み入れながら誰かがそんなことを口にした。
奥に進む。
ざり、という砂を踏みしめる感触は、やがて硬質なものへと変わる。
しんとした静寂が包む世界にを、優しい緑が彩っていた。
手前にあるドアを開けようとするけれど、動力は死んでいるのかびくともしない。
ハンターの一人が自慢の怪力で無理やりこじ開ければ、その先はかすかにカビ臭い匂いが漂う一室である。
保存状態が良かったのだろう、風化しているものも少なくこれならばパーツ探しは思いの外捗るかもしれない。
傍らに、一体の人影が倒れていた。
人間かともおもったが、どうやらそれは朽ちたオートマトンらしい。
動く様子もなく、腕や腿のあたりに穴が空いて内部が露出していることからも、壊れていることは明白だ。
目を見開いたまま朽ちたそれの目を、シルヴァはそっと閉じさせて、おやすみ、とつぶやく。
道中、その行動を聞いたハンターに彼女は、人ではないかもしれないが、そうするべきだと思ったと返した。
更に奥へと進むと、機能を停止した"サーバー"も存在した。
それは蔦植物と苔植物に覆われていたが、そのおかげか風化の具合も何処か穏やかなように思える。
探せばそれらを管理する部屋だって見つけられるだろう。
オートマトンを製造していた部署もあるかもしれない。
幾つもの部屋がまだ残っている、探索する場所は尽きない。
「それで、シルヴァの姉ちゃんよ。探すのは"サーバー"のパーツと、"オートマトン"のパーツでいいんだな?」
「ええ、それが今回の依頼よ。修理のためのパーツ集め、まだ稼働しているオートマトンが襲ってくる可能性もゼロではないらしいから、一応みんな気をつけてね」
さて、異世界探訪と洒落込もうではないか。
リプレイ本文
●人去りし街
人の住まなくなった居住区はなんとも寂しく、郷愁を誘う。
意味を失った場所に、どれほどの意味があろうか?
足を進めれば時折床板が割れて乾いた音をたてる。
経年劣化が進んでいる証左であった。
「エバーグリーン……ここに来るのは蒼乱作戦以来か」
「未知の文明! 未知の生活! 素晴らしいね、わくわくする……!」
感慨深げにその文明の残渣を眺める久延毘 大二郎(ka1771)と裏腹に、ルスティロ・イストワール(ka0252)のテンションは高い。
御伽噺作家としての性分なのかもしれない。
創作に携わるものであれば、異世界、未知の文明、知らぬ生活に心躍らせるのも無理はないだろう。
「久延毘さんはエバーグリーン、来たことあるんですか?」
「以前にな。尤もあの時は怪我の所為で文字通り来た『だけ』だったが…その分も含めて、今回は働くとしよう」
風もないのに白衣をはためかせ、メガネをくいっと整える。
その隣で、ロス・バーミリオン(ka4718)(以下ロゼ)はこちらに来る前の事を思い出していた。
「あら、あの子とおんなじオートマトンちゃん? ……あの子は眠ってしまったけど、この子は目を覚ましてあげるのね。なんだか、不思議な感じ」
そう言って研究室で眠る少女の頭をそっと撫でる。
ふわふわの金髪に、閉ざされた瞳。
何色だろうか?
私は、この子のために何がしてあげられるだろう……。
目下できることをするべく、目の前に意識を戻す。
ところどころ点灯する明かりは、まだわずかに生きている動力によるものだろう。
進む道々で、荒れ果てた商品を並べる店の中へと踏み入った。
「うーん……これ、使えそうかい?」
店の中に転がる埃をかぶったパーツを発掘しては見比べ、首を振るロゼに、傾げる大二郎。
「ごめんなさいねぇ? 私、こういうのちょっと苦手なのよぉ……。下手に触って壊しちゃうより知ってる人が触った方がいいでしょ?」
機械に関しては門外漢の集まりである。
後で他の場所を探索している仲間に聞けばいいかと、ひとまずリュックに詰め込んだ。
立ち並ぶ住宅を、ドアが壊れて立ち入れるものを気ままに先導して回る大二郎。
オートマトンの存在を前提とした社会であれば、家庭にもそういう機材が存在するのではないか、との判断は的確だった。
いずれの住居にも用意されている簡易的な補修セットと思われるものを手に、更に探索をすすめる。
「……かつてはここにも、幸せな生活があったんだよね……」
生活の名残を見ながら、ルスティロがぽつりとつぶやく。
そこにどんな人々が暮らしていたのか……。
不意にロゼが彼の手を引き窓際へと進んだ。
彼女の意図にルスティロも気づいて、そっと魔導カメラを構える。
住居の窓から見える景色、荒れて、果てて、緑に埋もれてしまっても、そこは確かに、そこに住んでいた人々が眺めた景色の延長なのだ。
住居を出て、今度はロゼが先導する。
そんな道行きは一つの看板に躓いたところで止まった。
落ちた看板のそれは、医薬品と工具を思わせる。
医療施設かもしれないと踏み入ったそこで、何やら不思議な工具類と棚に修められた資料。
「ふむ、何やら色々書き込みがあるが……これはカルテか?」
似たものを思い浮かべ、参考になるかもしれんと持ち帰ることにする。
そんな探索行の途中、ルスティロは古びた本棚を見つけていた。
開けば、色あせた紙が彼を出迎える。
この世界のヒトは、どんな物語を楽しんだんだろう?
そんな問いへの答えが、そこに遺されていた。
静かな部屋に、紙を捲る音。
絵本と思われるそれを、そっとリュックに詰め込むのだった。
●朽ちてなお
見上げるほどの"サーバー"は、朽ちて多くの蔦に絡みつかれていた。
植物の合間から覗く機械の部分が、それが中核であることを示している。
「此処が……エバーグリーンですか? 噂には色々聞いていますし、見てみたい……とも思っていましたけれど、来るのは初めてなんですよね……成程、此処が」
「こんな所もあるんだな……いつか緑の世界も旅してみたいもんだ」
感慨深く頷く天央 観智(ka0896)の隣で、グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)が楽しそうに言葉を漏らす。
精霊が居なくなり荒廃した世界においてなお、緑を宿す場所もある。
それは彼の好奇心を刺激してやまないものだ。
「違う世界の技術かあ……爺ちゃん達も興味津々になるだろうな」
みっしりと這う蔦を引っ張りながら、その先にある基盤へとイェルバート(ka1772)は手を伸ばす。
参考に撮影してきたサンプルパーツの写真を見比べ、それらしきものを探す算段だ。
その隣で、サーバーを見上げながらメアリ・ロイド(ka6633)は紅の世界に残してきた少女に想いを馳せる――
「オートマトン……機械仕掛けの人型機械。興味が尽きません。貴女はどんな夢を見ているのですか」
蔦と葉の間から中身を晒すようなサーバーのその有様が、ソサエティの一室でメンテナンスされながら眠る少女を思い出させる。
彼女が目覚めたら、聞いてみたい。
そのためにも、良いパーツを持って帰らねば。
それぞれの想いを胸に秘めて、サーバーの回収が始まった。
カメラのフラッシュが幾度となく瞬き、その姿が断片ごとに納められていく。
「大きいままでは運び難いですけれど、下手にバラしてしまうと、復元出来なくなるかも知れませんしね、後で役立つでしょうから、こまめに写真は撮っておきましょうね」
「記録は残しとくに越したことないからな、よろしく頼むぜ」
カメラを構えた天央が撮影したはしから、グリムバルドがパーツとして分解していく。
その手際はさすが機導師と言わんばかりのものであるが、時折ためらったように手が迷う。
「どんなふうに動いてたんだろうなぁ……」
そんな思いがグリムバルドの口から漏れる。
少し悩んだ末にそっと力を加えると、かちりと小さな音をたててパーツが外れた。
今は活動を停止しているそれは、所々に発光性と思われるパーツや、駆動部らしきものが見て取れる。
「わからないんですか?」
埃にまみれたそれに息を吹きかけてはずせる部分を探しては外しながら、天央の言葉に少し困ったように返すのだ。
「何分、別の世界の機械だからな――想像はつくんだが、実際に動いてる所を見てみたいな、ってな」
がこ、っと音を立てて外れた部分をそっと下に下ろす。
蓋を開けてみると、中は比較的きれいな状態で保存されていた。
機械を通じて世界を観る。
天央が覗くカメラのファインダー越しとは違うレンズで、グリムバルドはそれを見つめているのだろう。
「あ、そこ。ちょっと待って下さい、もう少し角度を変えたほうが、わかりやすそうです」
角度を変えて二回、三回とシャッターを切る。
天央の的確な撮影は、それがあれば元通りに復元するに十分だろう。
「サーバーが復旧したら、きっと見れますよ」
そんな言葉に、そうだなとグリムバルドは笑って返した。
少し離れた場所の蔦を切り開き、おでこぺっかりんによって照らされた場所を、メアリとイェルバートはそれぞれの知識と経験から開口部を見つけ出し開いた所だった。
ぶわ、と埃が巻き上がり思わず咽る。
明けてすぐの場所は機械の内部まで入り込んだひげ根が絡みついており、そのままでは使えそうもないほどに劣化していた。
「もうちょっと奥だな」
「だね、手前は強引に引き剥がしちゃおう。あ、そうだメアリさん、これ」
「んぁ、なんだこれ?」
差し出された写真に目をむけると、そこには幾つかのパーツが写されている。
「そういうパーツがほしいんだって、参考になるかとおもって」
「おおー、わかりやすいなこれ。あ、これとかじゃね?」
「ああ、それっぽいね」
手前のパーツを引き剥がしたメアリが目ざとく目的のパーツに似たものを発見する。
すかさずイェルバートが魔導カメラを構えて状態を撮影していく。
このあたりの流れはノウハウを持つ機導師ならではだ。
おでこぺっかりんの光量は大したもので細かい作業にも支障はない。
たまにする話し声以外は、パーツを外す小さな音が響くばかりである。
中に一つ、水晶のようなパーツを見つけてメアリはそれを手に取る。
パキ、という小さな音とともにてのひらで崩れたそれを見て、どれだけの時間が流れたのかと考えずにはいられない。
ふと見上げれば暗い空、限りない静寂。
微かに感じた寒気に、作業へと戻った。
「機械分解楽しいなぁ……! 楽しすぎてずっと解体しててーけど、そーもいかねぇよな。いるのだけ集めてーっと」
「夢中になっちゃうよね、長時間居られないのが残念なぐらい」
「全くだよなー」
今、間違いなく私たちは死んだ世界で生きている。
それがほんの少し、寒かった。
●セントラル
「さて、このディストピアを紐解く鍵が併せて見つかれば良いのだが」
ルベーノ・バルバライン(ka6752)は不敵に笑いつつ管理区域へと足を運ぶ。
隣にはシルヴァの姿もあった。
飾り気のない通路が、ところどころひび割れて遺されて、時折崩れた壁面が砕けて散らばっている以外、目立つところはない。
やがてその中の一角に、扉が壊れ僅かに開いている場所を見つけて、そこをルベーノが力任せにこじ開けることで侵入した。
「どういうものを探す算段なのかしら?」
「状況により人形の一斉停止や再起動を都市全体で行わねばならなくなる可能性を、このディストピアが想定しなかったとは思えん。総括的なコマンドワードなりマニュアルなりはこの管理区域に保管されていたはずだ……残っていれば、だが」
「なるほど、冊子類とかね」
「あとは外部の記憶媒体などだな、データが残っているかもしれん」
ルベーノの言葉に頷いてシルヴァも部屋をあさり始める。
棚には何かしらの道具類なども並んでいる、そんな中を漁るルベーノの手が、とあるところで止まった。
カバーのかけられた本は何度も読み返されたのか、手垢と開かれたあとが残っている。
表紙に描かれたオートマトンの姿絵、そして中を見ると部位ごとの説明らしき記述。
「ふむ、どうやら早速一つ目つけたらしい。我の慧眼に狂いはなかったな」
ハッハッハ! と笑うルベーノにぱちぱちと拍手を送るシルヴァだった。
「覚えのある声が聞こえたと思ったら、ふたりともここにいたのか」
「良かった、合流できて。向こうの通路が崩落してて、パーツ倉庫らしきものが見当たらないんですよ」
グリムバルドとイェルバートの二人が現れ、一瞬警戒した雰囲気がすぐに弛緩する。
「崩落か……それは流石にな。壁が崩れていてばこじ開けに吝かではないが」
「それはそれでまた崩落しそうな気がするよね……」
「ふぅむ、参ったわねぇ」
癖でか、壁に寄りかかったシルヴァだったが、直後軋む音とともに壁の向こうへと倒れたのは幸運かはたまた不幸か。
崩れる壁はすぐに収まり巻き上がる埃の中に噎せ返る声だけが響く。
「……寄りかかっただけで壁を壊すとは、意外と重いのか?」
「げほっ……けほっ……ぶつわよ?」
涙目のシルヴァであるが、有様的にこれっぽっちも威圧感はない。
そんな中冷静にライトを向けるグリムバルドの目に、幾つもの棚が映る。
「別の部屋?」
「棚が並んでるみたいだけど、もしかして倉庫かな?」
「ふむ……」
シルヴァに手を差し伸べて引き起こしてから、恐れを知らず前を進むルベーノの目に、ずらりと立ち並ぶ棚と、そこに納められたオートマトンのパーツが映る。
「怪我の功名、というやつか? どうやら件のパーツ倉庫のようだぞ」
「まじで? 大当たりってやつだな」
「運がいいのか悪いのかよくわかりませんね……」
こうして、パーツ探しは続行されるのだった。
●世界の彩
持ち帰ってきたパーツを精査し、継ぎ接ぎし、ソサエティの研究者たちが修復をすすめる。
「頭部に視覚聴覚という集中的な情報取得端末や外部との意思疎通に必要な発声端末を備える以上、体積から考えて動力・メモリー共に胴体部分にある方が自然に思えるが」
持ち帰った頭部、胴部のパーツを優先的に技術者に渡しながら言うルベーノ。
さらにはイェルバートや天央らは手伝いに入りオートマトンの少女の修復を続けていた。
しばらくして、最後のパーツが交換され、そして開かれていた部分が閉じられる。
静かに眠るそのさまは、関節部と耳後ろといった僅かな機械的な部分を除けば人間と変わりない。
部屋にいる誰もが、静かにそれを見守る。
やがて、少女の目が薄っすらと開かれる。
綺麗な緑色の瞳が天井を、そしてゆっくりと視線を動かせて周囲を確認する。
きし、とかすかに軋む音。
少女が腕を動かし、ぎこちなくも体を起こそうとする。
そばにいるグリムバルドがそっと支えてやると、少女はその緑色の瞳を向けた。
「――……」
声をあげようとし、上手く出なかったためにか何度か発声するような真似をした少女は、程なくして産声を上げた。
「あな――たは?」
グリムバルドを、そして周りに立ち並ぶ人を見回し、そう問う。
「僕はルスティロ。御伽噺作家で…エルフ、という種族だよ」
「・・・おはようございます、私はメアリです」
(おいおいなんだよ、めっちゃかわいくね?)
「僕はイェルバート、人間です」
騒がしくない程度に、それぞれが自己紹介の言葉を紡ぐ。
「るす……てぃろ……めあり……いぇる……ばーど……じゃあ、わた……しは?」
とぎれとぎれに紡ぐ言葉に、新たな問い。
少女の名前は誰も知らない。
あるのかどうかも。
少なくとも、少女がかつて生きていた時代はとうに過ぎている、いうなれば再誕。
そのためには、必要なものがある。
「――ミモザ」
「みも……ざ?」
イェルバートの言葉に、ミモザと名付けられた少女が僅かに目を見開く。
「はい、君の名前は、ミモザです」
その言葉に周りの者達も、いいのではないかと頷いて肯定する。
直ぐ側で少女を見ていたグリムバルドの目に、まるでミモザの花が咲くように彼女に笑顔が咲く瞬間が映った。
オートマトンとは、こんなにも自然に、可憐に、花のように笑うのか。
「おはよう、ミモザちゃん♪ 私はロゼよ、よろしくね♪」
「ろ……ぜ……よろ、しく?」
それから先はちょっとしたお祭りだった。
丁寧に髪を梳かれて、オレンジのリボンで結われ簪を挿されたミモザは反応に戸惑いつつも、会話を繰り返す。
そんな会話の中で、少女が記憶喪失であるということを知るのはすぐ後のこと。
エバーグリーンのことがわからなかったのは少し残念だけれど、これから知っていけばいい。
皆そう思って思い思いに、小さなオートマトンの少女、ミモザの再誕を祝福するのだった。
――この世界に生まれ落ちた貴方に、どうか幸運と祝福がありますように。
人の住まなくなった居住区はなんとも寂しく、郷愁を誘う。
意味を失った場所に、どれほどの意味があろうか?
足を進めれば時折床板が割れて乾いた音をたてる。
経年劣化が進んでいる証左であった。
「エバーグリーン……ここに来るのは蒼乱作戦以来か」
「未知の文明! 未知の生活! 素晴らしいね、わくわくする……!」
感慨深げにその文明の残渣を眺める久延毘 大二郎(ka1771)と裏腹に、ルスティロ・イストワール(ka0252)のテンションは高い。
御伽噺作家としての性分なのかもしれない。
創作に携わるものであれば、異世界、未知の文明、知らぬ生活に心躍らせるのも無理はないだろう。
「久延毘さんはエバーグリーン、来たことあるんですか?」
「以前にな。尤もあの時は怪我の所為で文字通り来た『だけ』だったが…その分も含めて、今回は働くとしよう」
風もないのに白衣をはためかせ、メガネをくいっと整える。
その隣で、ロス・バーミリオン(ka4718)(以下ロゼ)はこちらに来る前の事を思い出していた。
「あら、あの子とおんなじオートマトンちゃん? ……あの子は眠ってしまったけど、この子は目を覚ましてあげるのね。なんだか、不思議な感じ」
そう言って研究室で眠る少女の頭をそっと撫でる。
ふわふわの金髪に、閉ざされた瞳。
何色だろうか?
私は、この子のために何がしてあげられるだろう……。
目下できることをするべく、目の前に意識を戻す。
ところどころ点灯する明かりは、まだわずかに生きている動力によるものだろう。
進む道々で、荒れ果てた商品を並べる店の中へと踏み入った。
「うーん……これ、使えそうかい?」
店の中に転がる埃をかぶったパーツを発掘しては見比べ、首を振るロゼに、傾げる大二郎。
「ごめんなさいねぇ? 私、こういうのちょっと苦手なのよぉ……。下手に触って壊しちゃうより知ってる人が触った方がいいでしょ?」
機械に関しては門外漢の集まりである。
後で他の場所を探索している仲間に聞けばいいかと、ひとまずリュックに詰め込んだ。
立ち並ぶ住宅を、ドアが壊れて立ち入れるものを気ままに先導して回る大二郎。
オートマトンの存在を前提とした社会であれば、家庭にもそういう機材が存在するのではないか、との判断は的確だった。
いずれの住居にも用意されている簡易的な補修セットと思われるものを手に、更に探索をすすめる。
「……かつてはここにも、幸せな生活があったんだよね……」
生活の名残を見ながら、ルスティロがぽつりとつぶやく。
そこにどんな人々が暮らしていたのか……。
不意にロゼが彼の手を引き窓際へと進んだ。
彼女の意図にルスティロも気づいて、そっと魔導カメラを構える。
住居の窓から見える景色、荒れて、果てて、緑に埋もれてしまっても、そこは確かに、そこに住んでいた人々が眺めた景色の延長なのだ。
住居を出て、今度はロゼが先導する。
そんな道行きは一つの看板に躓いたところで止まった。
落ちた看板のそれは、医薬品と工具を思わせる。
医療施設かもしれないと踏み入ったそこで、何やら不思議な工具類と棚に修められた資料。
「ふむ、何やら色々書き込みがあるが……これはカルテか?」
似たものを思い浮かべ、参考になるかもしれんと持ち帰ることにする。
そんな探索行の途中、ルスティロは古びた本棚を見つけていた。
開けば、色あせた紙が彼を出迎える。
この世界のヒトは、どんな物語を楽しんだんだろう?
そんな問いへの答えが、そこに遺されていた。
静かな部屋に、紙を捲る音。
絵本と思われるそれを、そっとリュックに詰め込むのだった。
●朽ちてなお
見上げるほどの"サーバー"は、朽ちて多くの蔦に絡みつかれていた。
植物の合間から覗く機械の部分が、それが中核であることを示している。
「此処が……エバーグリーンですか? 噂には色々聞いていますし、見てみたい……とも思っていましたけれど、来るのは初めてなんですよね……成程、此処が」
「こんな所もあるんだな……いつか緑の世界も旅してみたいもんだ」
感慨深く頷く天央 観智(ka0896)の隣で、グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)が楽しそうに言葉を漏らす。
精霊が居なくなり荒廃した世界においてなお、緑を宿す場所もある。
それは彼の好奇心を刺激してやまないものだ。
「違う世界の技術かあ……爺ちゃん達も興味津々になるだろうな」
みっしりと這う蔦を引っ張りながら、その先にある基盤へとイェルバート(ka1772)は手を伸ばす。
参考に撮影してきたサンプルパーツの写真を見比べ、それらしきものを探す算段だ。
その隣で、サーバーを見上げながらメアリ・ロイド(ka6633)は紅の世界に残してきた少女に想いを馳せる――
「オートマトン……機械仕掛けの人型機械。興味が尽きません。貴女はどんな夢を見ているのですか」
蔦と葉の間から中身を晒すようなサーバーのその有様が、ソサエティの一室でメンテナンスされながら眠る少女を思い出させる。
彼女が目覚めたら、聞いてみたい。
そのためにも、良いパーツを持って帰らねば。
それぞれの想いを胸に秘めて、サーバーの回収が始まった。
カメラのフラッシュが幾度となく瞬き、その姿が断片ごとに納められていく。
「大きいままでは運び難いですけれど、下手にバラしてしまうと、復元出来なくなるかも知れませんしね、後で役立つでしょうから、こまめに写真は撮っておきましょうね」
「記録は残しとくに越したことないからな、よろしく頼むぜ」
カメラを構えた天央が撮影したはしから、グリムバルドがパーツとして分解していく。
その手際はさすが機導師と言わんばかりのものであるが、時折ためらったように手が迷う。
「どんなふうに動いてたんだろうなぁ……」
そんな思いがグリムバルドの口から漏れる。
少し悩んだ末にそっと力を加えると、かちりと小さな音をたててパーツが外れた。
今は活動を停止しているそれは、所々に発光性と思われるパーツや、駆動部らしきものが見て取れる。
「わからないんですか?」
埃にまみれたそれに息を吹きかけてはずせる部分を探しては外しながら、天央の言葉に少し困ったように返すのだ。
「何分、別の世界の機械だからな――想像はつくんだが、実際に動いてる所を見てみたいな、ってな」
がこ、っと音を立てて外れた部分をそっと下に下ろす。
蓋を開けてみると、中は比較的きれいな状態で保存されていた。
機械を通じて世界を観る。
天央が覗くカメラのファインダー越しとは違うレンズで、グリムバルドはそれを見つめているのだろう。
「あ、そこ。ちょっと待って下さい、もう少し角度を変えたほうが、わかりやすそうです」
角度を変えて二回、三回とシャッターを切る。
天央の的確な撮影は、それがあれば元通りに復元するに十分だろう。
「サーバーが復旧したら、きっと見れますよ」
そんな言葉に、そうだなとグリムバルドは笑って返した。
少し離れた場所の蔦を切り開き、おでこぺっかりんによって照らされた場所を、メアリとイェルバートはそれぞれの知識と経験から開口部を見つけ出し開いた所だった。
ぶわ、と埃が巻き上がり思わず咽る。
明けてすぐの場所は機械の内部まで入り込んだひげ根が絡みついており、そのままでは使えそうもないほどに劣化していた。
「もうちょっと奥だな」
「だね、手前は強引に引き剥がしちゃおう。あ、そうだメアリさん、これ」
「んぁ、なんだこれ?」
差し出された写真に目をむけると、そこには幾つかのパーツが写されている。
「そういうパーツがほしいんだって、参考になるかとおもって」
「おおー、わかりやすいなこれ。あ、これとかじゃね?」
「ああ、それっぽいね」
手前のパーツを引き剥がしたメアリが目ざとく目的のパーツに似たものを発見する。
すかさずイェルバートが魔導カメラを構えて状態を撮影していく。
このあたりの流れはノウハウを持つ機導師ならではだ。
おでこぺっかりんの光量は大したもので細かい作業にも支障はない。
たまにする話し声以外は、パーツを外す小さな音が響くばかりである。
中に一つ、水晶のようなパーツを見つけてメアリはそれを手に取る。
パキ、という小さな音とともにてのひらで崩れたそれを見て、どれだけの時間が流れたのかと考えずにはいられない。
ふと見上げれば暗い空、限りない静寂。
微かに感じた寒気に、作業へと戻った。
「機械分解楽しいなぁ……! 楽しすぎてずっと解体しててーけど、そーもいかねぇよな。いるのだけ集めてーっと」
「夢中になっちゃうよね、長時間居られないのが残念なぐらい」
「全くだよなー」
今、間違いなく私たちは死んだ世界で生きている。
それがほんの少し、寒かった。
●セントラル
「さて、このディストピアを紐解く鍵が併せて見つかれば良いのだが」
ルベーノ・バルバライン(ka6752)は不敵に笑いつつ管理区域へと足を運ぶ。
隣にはシルヴァの姿もあった。
飾り気のない通路が、ところどころひび割れて遺されて、時折崩れた壁面が砕けて散らばっている以外、目立つところはない。
やがてその中の一角に、扉が壊れ僅かに開いている場所を見つけて、そこをルベーノが力任せにこじ開けることで侵入した。
「どういうものを探す算段なのかしら?」
「状況により人形の一斉停止や再起動を都市全体で行わねばならなくなる可能性を、このディストピアが想定しなかったとは思えん。総括的なコマンドワードなりマニュアルなりはこの管理区域に保管されていたはずだ……残っていれば、だが」
「なるほど、冊子類とかね」
「あとは外部の記憶媒体などだな、データが残っているかもしれん」
ルベーノの言葉に頷いてシルヴァも部屋をあさり始める。
棚には何かしらの道具類なども並んでいる、そんな中を漁るルベーノの手が、とあるところで止まった。
カバーのかけられた本は何度も読み返されたのか、手垢と開かれたあとが残っている。
表紙に描かれたオートマトンの姿絵、そして中を見ると部位ごとの説明らしき記述。
「ふむ、どうやら早速一つ目つけたらしい。我の慧眼に狂いはなかったな」
ハッハッハ! と笑うルベーノにぱちぱちと拍手を送るシルヴァだった。
「覚えのある声が聞こえたと思ったら、ふたりともここにいたのか」
「良かった、合流できて。向こうの通路が崩落してて、パーツ倉庫らしきものが見当たらないんですよ」
グリムバルドとイェルバートの二人が現れ、一瞬警戒した雰囲気がすぐに弛緩する。
「崩落か……それは流石にな。壁が崩れていてばこじ開けに吝かではないが」
「それはそれでまた崩落しそうな気がするよね……」
「ふぅむ、参ったわねぇ」
癖でか、壁に寄りかかったシルヴァだったが、直後軋む音とともに壁の向こうへと倒れたのは幸運かはたまた不幸か。
崩れる壁はすぐに収まり巻き上がる埃の中に噎せ返る声だけが響く。
「……寄りかかっただけで壁を壊すとは、意外と重いのか?」
「げほっ……けほっ……ぶつわよ?」
涙目のシルヴァであるが、有様的にこれっぽっちも威圧感はない。
そんな中冷静にライトを向けるグリムバルドの目に、幾つもの棚が映る。
「別の部屋?」
「棚が並んでるみたいだけど、もしかして倉庫かな?」
「ふむ……」
シルヴァに手を差し伸べて引き起こしてから、恐れを知らず前を進むルベーノの目に、ずらりと立ち並ぶ棚と、そこに納められたオートマトンのパーツが映る。
「怪我の功名、というやつか? どうやら件のパーツ倉庫のようだぞ」
「まじで? 大当たりってやつだな」
「運がいいのか悪いのかよくわかりませんね……」
こうして、パーツ探しは続行されるのだった。
●世界の彩
持ち帰ってきたパーツを精査し、継ぎ接ぎし、ソサエティの研究者たちが修復をすすめる。
「頭部に視覚聴覚という集中的な情報取得端末や外部との意思疎通に必要な発声端末を備える以上、体積から考えて動力・メモリー共に胴体部分にある方が自然に思えるが」
持ち帰った頭部、胴部のパーツを優先的に技術者に渡しながら言うルベーノ。
さらにはイェルバートや天央らは手伝いに入りオートマトンの少女の修復を続けていた。
しばらくして、最後のパーツが交換され、そして開かれていた部分が閉じられる。
静かに眠るそのさまは、関節部と耳後ろといった僅かな機械的な部分を除けば人間と変わりない。
部屋にいる誰もが、静かにそれを見守る。
やがて、少女の目が薄っすらと開かれる。
綺麗な緑色の瞳が天井を、そしてゆっくりと視線を動かせて周囲を確認する。
きし、とかすかに軋む音。
少女が腕を動かし、ぎこちなくも体を起こそうとする。
そばにいるグリムバルドがそっと支えてやると、少女はその緑色の瞳を向けた。
「――……」
声をあげようとし、上手く出なかったためにか何度か発声するような真似をした少女は、程なくして産声を上げた。
「あな――たは?」
グリムバルドを、そして周りに立ち並ぶ人を見回し、そう問う。
「僕はルスティロ。御伽噺作家で…エルフ、という種族だよ」
「・・・おはようございます、私はメアリです」
(おいおいなんだよ、めっちゃかわいくね?)
「僕はイェルバート、人間です」
騒がしくない程度に、それぞれが自己紹介の言葉を紡ぐ。
「るす……てぃろ……めあり……いぇる……ばーど……じゃあ、わた……しは?」
とぎれとぎれに紡ぐ言葉に、新たな問い。
少女の名前は誰も知らない。
あるのかどうかも。
少なくとも、少女がかつて生きていた時代はとうに過ぎている、いうなれば再誕。
そのためには、必要なものがある。
「――ミモザ」
「みも……ざ?」
イェルバートの言葉に、ミモザと名付けられた少女が僅かに目を見開く。
「はい、君の名前は、ミモザです」
その言葉に周りの者達も、いいのではないかと頷いて肯定する。
直ぐ側で少女を見ていたグリムバルドの目に、まるでミモザの花が咲くように彼女に笑顔が咲く瞬間が映った。
オートマトンとは、こんなにも自然に、可憐に、花のように笑うのか。
「おはよう、ミモザちゃん♪ 私はロゼよ、よろしくね♪」
「ろ……ぜ……よろ、しく?」
それから先はちょっとしたお祭りだった。
丁寧に髪を梳かれて、オレンジのリボンで結われ簪を挿されたミモザは反応に戸惑いつつも、会話を繰り返す。
そんな会話の中で、少女が記憶喪失であるということを知るのはすぐ後のこと。
エバーグリーンのことがわからなかったのは少し残念だけれど、これから知っていけばいい。
皆そう思って思い思いに、小さなオートマトンの少女、ミモザの再誕を祝福するのだった。
――この世界に生まれ落ちた貴方に、どうか幸運と祝福がありますように。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
---|
面白かった! | 6人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
眠り姫のために グリムバルド・グリーンウッド(ka4409) 人間(リアルブルー)|24才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2017/05/06 22:57:46 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/05/03 11:29:42 |