ゲスト
(ka0000)
【魔性】罪と罰
マスター:雪村彩人

- シナリオ形態
- シリーズ(続編)
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/05/23 07:30
- 完成日
- 2017/06/05 22:53
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
好きになった男が悪い人だった、ただそれだけのこと。甘い言葉に騙され続けた自分も悪いのだ。
けれど、悔しい。狂おしいほどに。
あの男は罪人なのだ。そう娘は思った。
人の心を玩んだ罪は、人の命を奪った罪と同等だ。だから罰しなければならない。
娘の魂が気味の悪い染みで滲み始めた時、その若者は現れた。そして娘の耳元で囁いたのだ。罰を与える力をやろう、と。
そして太陽が沈むころ、人ではなくなってしまった娘は、男を襲った。
●
「あの女はきっと来る」
ハンターソサエティを訪れた男女は訴えた。娘を弄んだ男の両親である。
ある夜、娘は男を襲った。が、富豪である男の両親が普段から使っている護衛者に阻まれた。無論、歪虚と同等の力をもつ娘に敵うはずもなかったが、逃走の時間稼ぎにはなったのである。
その後、男と両親は別荘に逃れた。が、娘が知るところとなるまでは時間の問題であった。
「役人には訴えた。が、ずっと警護するのは不可能だとぬかしおった」
男の父親は舌打ちした。そして、まあ、と続けた。
「あの女は化物だ。腕利きの護衛が皆殺しとなったからな。が、ハンターならあの女を始末できるだろう」
父親はニヤリとした。
好きになった男が悪い人だった、ただそれだけのこと。甘い言葉に騙され続けた自分も悪いのだ。
けれど、悔しい。狂おしいほどに。
あの男は罪人なのだ。そう娘は思った。
人の心を玩んだ罪は、人の命を奪った罪と同等だ。だから罰しなければならない。
娘の魂が気味の悪い染みで滲み始めた時、その若者は現れた。そして娘の耳元で囁いたのだ。罰を与える力をやろう、と。
そして太陽が沈むころ、人ではなくなってしまった娘は、男を襲った。
●
「あの女はきっと来る」
ハンターソサエティを訪れた男女は訴えた。娘を弄んだ男の両親である。
ある夜、娘は男を襲った。が、富豪である男の両親が普段から使っている護衛者に阻まれた。無論、歪虚と同等の力をもつ娘に敵うはずもなかったが、逃走の時間稼ぎにはなったのである。
その後、男と両親は別荘に逃れた。が、娘が知るところとなるまでは時間の問題であった。
「役人には訴えた。が、ずっと警護するのは不可能だとぬかしおった」
男の父親は舌打ちした。そして、まあ、と続けた。
「あの女は化物だ。腕利きの護衛が皆殺しとなったからな。が、ハンターならあの女を始末できるだろう」
父親はニヤリとした。
リプレイ本文
●
アメリア・フォーサイス(ka4111)は、普段のふわりとした穏やかな雰囲気をひそめさせ、その建物を見上げた。
瀟洒な建物。護衛対象者が隠れている別荘宅だ。
「随分と自分勝手な依頼主ですね。いけ好かない感じですけど、仕事は仕事です。私情は挟まない、私情は挟まない」
自身に言い聞かせるようにアメリアはつぶやいた。
「わかるぜ、その気持ち」
苦く笑ったのは、どこか不羈奔放たる雰囲気を漂わせた少年であった。名を柊 恭也(ka0711)という。
「正に絵に描いたようようなクズだな、今回の依頼人。が、アメリアのいうとおり依頼は依頼だ。仕事はしっかり行わないとな」
「俺も正直気にいうと喰わぬ。が」
豪放という言葉の似合う男が怪訝そうに眉をひそめた。榊 兵庫(ka0010)というのてあるが、彼にはもっと気になることがある。普通の娘がどのようにして化物じみた力を手に入れたかという一点だ。
「その女に人外の力を与えた者の存在が気になる」
「護衛対象がクソ野郎って事といい、エリオットの時を思い出すね」
天竜寺 舞(ka0377)という名の少女が吐き捨てるようにいった。銀髪青瞳の可愛らしい少女なのだが、口調はぶっきらぼうで乱暴であった。
「エリオット?」
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が問うた。冷然たる娘で、よく鍛えられた肉体の持ち主である。
「ああ」
艶やかな緑髪をゆらしてリン・フュラー(ka5869)という名の少女はうなずいた。アルトがエリオットの事件に関与していなかったことに気づいたのだ。
「それは」
リンが事件のあらましを説明した。
「なるほど。そのようなことがあったのか」
「ええ。恐らく、件の女性に力を与えたのは、ベルンシュタイン……ドロレスさんやロレインさん、エリオットさんらに力を与えたのと同じ存在」
「ベルンシュタインかどうかはわかりませんが。確かに何者かの関与があったと思います」
腰にまでとどく綺麗な銀髪をゆらし、気品に満ちた美しい娘が口を開いた。シルヴィア・オーウェン(ka6372)だ。
「憎悪だけで女性が歪虚の力を持つことはないでしょう。何者が関与したのか、きちんと聞き出す必要がありますね」
「それもそうだが」
アルトが眉根を寄せた。
「それよりも気になるのは、その娘が堕落者なのか契約者なのか、だな。契約者の段階なら、まだ救うことはできそうだが……聞いてる限りでは堕落者の公算のほうが高いか」
「ともかく対象の保護だ。その上で何からの手掛かりが掴めればいいのだが」
兵庫がドアに手をかけた。
同じ時、八人めのハンターは役人のもとにあった。
透き通るほど白い肌をもつ清純そうな少女。名をディーナ・フェルミ(ka5843)といった。
「リリアーヌ……」
ディーナはつぶやいた。件の娘の名だ。
「動機は怨恨でいいのでしょうか」
「ああ。弄ばれた恨みというところだろうな」
役人はうなずいた。
「が、恨まれても当然かもしれん。その男、随分女性たちにひどいことをしてきたらしい。全部親がもみ消したらしいがな」
「死亡者は……八人!」
さすがにディーナは驚いた。たった一人の娘に成しうることではない。やはり娘は歪虚の力をもっている。
「一人だけ、しばらく息のあった者がいてな。そいつが言い残した。女は化物だ。血を塗ったような紅い翼で俺たちを引き裂いた、と」
●
「まずは確認したいことがあります」
広いリビング。ソファにふんぞり返った依頼主の男を前に、アメリアは口を開いた。
「先日の襲撃のことです。どのように行われたのですか? 正面から堂々と来たのか、それとも裏口等からこっそり忍び込んで来たのか」
「表から堂々と来おった。あの化物め」
忌々しげに男は吐き捨てた。
「それでは、もうひとつ。使用人室もあるとの事ですが、件の一件から新たに使用人を雇い入れたりはしていないですよね?」
「ああ」
面倒くさげに男はこたえた。そしてアメリアを睨め上げると、
「使用人のことなどどうでもいい。それよりも大丈夫なんだろうな。わしが雇ったボディガードどもと同じ八人しかおらんが」
「心配はいらん」
苛立ちを押し隠し、恭也がこたえた。
「それよりも、あんたらにいっておきたいことがある。俺たちのいうとおりにしてもらうぞ」
「お前らの?」
「ああ。下手に動かれて死なれでもしたら、非常に面倒くさいからな」
「なっ」
男の満面が怒りにどす黒く染まった。
「文句は後だ」
男を制し、恭也は続けた。
「俺達がしっかりと敵を潰し、それを報告するまで二階の寝室に隠れていてもらう。何があっても絶対に外にはでるな」
「それから窓には近づかないように」
警告したのはリンだ。恭也はうなずくと、
「この二つは絶対に守って貰う。もし指示に従えないなら、何があっても知らんという事を認識して貰おう」
「駄々をこねるのは聞きません。先日自分達の護衛がどうなったのか思い出してください」
氷の声音でアメリアがいった。
「この若造どもが……」
睨みつけた男であるが、その時気づいた。恭也とアメリアの瞳にうかぶ刃のような鋭い光に。
只者ではない。そうと知った男は声を失った。
●
夜が来た。月光に染まる紅い夜が。
最初に異変に気づいたのはアルトであった。彼女のもつ軍用双眼鏡は歩み寄りつつある人影をとらえている。女だ。
「目標接近。裏だよ」
トランシーバーにむかってアルトは告げた。すると周辺を警戒していた舞とシルヴィアが足をとめた。柴犬のゴエモンが低く唸る。異様な気配を感知したのであった。
「……これが終わったらさ、一度食事でもどうかな」
男が微笑みかけた。警護対象の若者だ。アメリアの美貌に欲情したのであろう。
が、声をかけられたアメリアは知らぬ顔をした。このような馬鹿の相手をするのは真っ平であるからだ。
その時、トランシーバーが鳴った。
裏口に背をもたせかけていた兵庫は十字状の穂先を持つ槍――人間無骨を手にとった。
「来たかよ、復讐に狂った鬼が」
「彼の警護者?」
くつくつと女は笑った。
「リリアーヌよな?」
「そうよ。懲りないわね、彼も。八人も殺したのに」
ちらりとリリアーヌは兵庫を見た。真紅に光る目で。
「逃げるのなら見逃してあげるわ。でも、邪魔するなら殺す」
「ありがたい申し出たが、逃げるわけにはいかん。こう見えても俺はハンターだからな」
「ハンター!」
さすがにリリアーヌは表情を強ばらせた。只の警護者とハンターでは技量が違う。
が、すぐにリリアーヌは表情をゆるめた。己の力を思い出したのである。ハンターであれ何であれ、人間が太刀打ちできるはずがなかった。
刹那である。リリアーヌが翼を広げた。血を凝縮させたかのような真紅の翼を。
「うっ」
兵庫が息をつめた。身の毛もよだつ殺気が彼の面を灼いている。
「……!」
血の一雫にも似た羽のひとひらが放たれた。あと少しで人間無骨の穂先がリリアーヌを捉えることができる、その間際のことだった。
とっさに人間無骨をかかげて防ごうとするが間に合わず、兵庫の喉から肩にかけて、ばっくりと裂け目が生じる。膝をつきながらも彼は槍を突き出した。が、反撃の一手は惜しくもかわされてしまった。
「ぐふっ」
兵庫は激しくむせた。血を噴く。それでも兵庫は跳び退った。恐るべき精神力だ。
が、さすがにそれ以上は動けなかった。ゆったりとリリアーヌが歩み寄る。ニタリと気味悪く笑った。
「あいつの味方をしたわね。殺す」
リリアーヌは紅の翼を広げた。
刹那だ。光がリリアーヌの目を射た。魔導ライトの光が。そして空を裂いて銃弾が疾った。
喉の奥から唸り声を漏らし、肩を射抜かれたリリアーヌが、血走る目で屋根上をねめつけた。そこに立つ恭也を。その手には雷紅――雷紅が握られていた。
「やれやれ。つまらない男のことなんて忘れて次へ行けばよかったのにな」
アルトの身体を紅蓮のオーラが包み込んだ。次の瞬間、炎がはじけ、アルトの身が消失。次に現出したのはリリアーヌの後方の上空であった。
その手にはあるは、超重刀ラティスムス。常人はおろか手練のハンターですら扱う事が困難な業物だ。
「ぬうん」
アルトがラティスムスで薙ぎつけた。さすがにリリアーヌの反射神経も間に合わない。ざっくりと紅翼の根元が切られた。
「よくもっ」
リリアーヌの左翼が翻った。ものすごい衝撃にアルトが吹き飛ばされる。樹木に叩きつけられ、彼女は地に転がった。
「ぐはっ」
アルトの口から鮮血が溢れた。骨のみならず臓器まで損傷している。動けない。
「おい」
血を滴らせつつ、アルトが声をかけた。
「一体何をしたらそんなふうに翼を生やすことができるんだ?」
「そんなことを聞いてどうするつもり?」
「興味があるんだ。どのようにしてその力を得た?」
「彼のおかげよ」
「彼?」
別の声がした。シルヴィアのものだ。そばには舞の姿もあった。
「あんたをそんな姿にした彼とは誰だ。もしかするとベルンシュタインって奴か?」
舞がいうと、リリアーヌの顔色が変わった。
「彼を知っているの?」
「ああ。他人をけしかけて自分は高みの見物とか悪趣味でちんけな野郎だ」
「黙れ!」
リリアーヌの形相が変わった。悪鬼の形相に。
ごう、という風音を轟かせて、凶々しい紅刃が一面を舐め尽した。
咄嗟にシルヴィアと舞は建物の陰に身を隠した。建物の外壁がずたずたに切り裂かれる。
刹那、反対の建物の陰から飛び出した者がある。アメリアだ。その両手にはエア・スティーラー――風の精霊の加護を受けた魔導拳銃がある。
エア・スティーラーが火をふいた。気流をまとった弾丸が超高速で疾る。
しぶく真紅。それは鮮血であったか、それとも羽根であったか。リリアーヌの片翼が力なくだらりと垂れ下がった。
次の瞬間、二人が動いた。ディーナとシルヴィアだ。
ディーナは祈りを捧げた。その祈りの大いなる力の余波か、彼女の銀色の髪がなびく。煌く光に包まれた兵庫の痛々しい傷口が見る間に癒えていった。
その間、シルヴィアはリリアーヌに迫っていた。凄まじい速さだ。が、リリアーヌの反応の方が速い。彼女はすでに人間ではないのだ。
真紅の翼が翻った。紅い旋風がシルヴィアを切り刻む。リリアーヌが嗤った。
「無駄よ」
「無駄じゃない」
倒れ掛かるシルヴィアを躍り越え、舞が空に舞った。たばしる刃が空に光の亀裂を刻む。
鈍い音が響いた。舞の身に、ぱらぱらと赤い雨雫が降り注ぐ。
「おのれっ」
血をしぶかせつつ、リリアーヌは手をのばした。舞の首を掴む。
「くっ」
舞の顔が苦痛にゆがんだ。凄まじい力だ。人間のものではなかった。
刹那、闇を裂いて光が疾った。槍だ。雷閃を思わせる鋭い刺突だ。なんでリリアーヌに躱せようか。槍はリリアーヌの背を貫いた。
「女を後ろからやりたくはなかったが……許せ」
槍を引き抜きつつ、兵庫が跳び退った。ぎゃあ、と悲鳴をあげ、リリアーヌは手をゆるめた。舞がばたりと地に落ちる。
「くそっ。あいつだけでも殺してやる」
悪鬼の形相でリリアーヌは翼を翻らせた。刃風で辺りを薙ぎ払う。咄嗟にハンターたちは身を伏せた。
するとリリアーヌは地を蹴った。裏口に飛び込む。いや――。
上方から放たれた銃弾がリリアーヌの足を穿った。恭也だ。
「可愛そうだが、いかせるわけにはいかないんだ」
「よくもっ」
たまらずリリアーヌはたたらを踏んだ。その背に、するすると迫る者があった。リンだ。
「ふんっ」
リンが抜刀した。たばしる刃がリリアーヌの背を薙ぐ。
活人剣。対象に致命傷を負わせず行動不能に追い込む達人のみ成しうる技である。
が、リリアーヌは倒れなかった。活人剣は対人使用を前提とした技であるため、歪虚には通用しないのだ。
ならばとリンは鉈を思わせる分厚い刃を翻らせた。逆袈裟の一閃。今度こそ背を割られ、リリアーヌは倒れ伏した。
「ねえ」
ディーナが屈み込んだ。
「もし、あなたが憎む人の罪状を立証できる証拠があるのなら、渡してもらえませんか。そうすれば貴女の最初の目的は叶えてあげられるかもしれないから」
「ないわ」
哀しげにリリアーヌは首を横に振った。すると今度はリンが焦りの滲む声で尋ねた。
「ベルンシュタインの目的を知っていますか。彼は多くの人を貴方のと同じように変えてしまいました。何故、彼はそのような真似をするのですか?」
「……知らないわ」
リリアーヌは薄く笑った。
「それなら、他にベルンシュタインが接触した人について知りませんか?」
「知っているわ」
リリアーヌは小さくうなずいた。そして、こたえた。私の兄だ、と。
「あなたの……お兄さん? それは――」
さらに問おうとして、リンは声を途切れさせた。すでにリリアーヌに息はない。力なくリンは立ち上がった。
「……可哀想な人ではあります。生前弄ばれ、堕ちた後もベルンシュタインに弄ばれるなんて……」
「男なんて他にいくらでもいるのに……それだけ愛せるのも幸せなのかもしれませんけど……」
アメリアが肩を落とした。すると舞が舌打ちした。
「あたしのママはクソ親父の愛人だったんだ。ママは死ぬまであいつを愛してた。でももし唆されてたら彼女みたいになってたかもしれない」
舞は血の滲むほど唇を噛み締めた。その目はいまだ相見えたことのないベルンシュタインを睨みつけている。
その時だ。若者と両親が姿を見せた。三人の顔は気色に彩られている。嬉しそうに笑っていた。
「よくやった。よく化物を始末してくれた」
「これでやっと安心して暮らせるよ」
若者が大げさにため息をこぼした。
「安心して、か」
恭也が苦く笑った。
「確かに、これで依頼は終了、依頼人を襲う連中もいなくなった訳だ。今は、な」
「今……は、だと?」
「そうだ。聞けば、あんたは散々遊んでたらしいな? となれば、今回みたいな事がまた起きないとは限らない訳で。さて、次も生き残れる保証は何処にあるやら。ては、新たな襲撃者に怯える良き余生を」
「なっ」
父親と息子は怒りで満面をどす黒く染めた。その二人にむかってシルヴィアは忠告した。怒りの滲む声音で。
「……貴方が女性にひどいことをした結果今回のような事件に巻き込まれているとしたら、同じことは繰り返さないように今後女性には思いやりを持った対応をしてください。蒼の世界の言葉に因果応報というものがあるそうです。自分のした行いが自分に善かれ悪しかれ返ってくる、と。……私達が護衛できるうちに、改めてくださいね」
「そうだ」
兵庫はうなずいた。その目は憐れむようにリリアーヌの亡骸にむけられている。
「……女の情念というのは恐ろしいものだ。これに懲りたのならば、自重するが良い。次も我々が助けられるという保証などどこにもないのだからな」
兵庫の声は闇に溶けていった。
アメリア・フォーサイス(ka4111)は、普段のふわりとした穏やかな雰囲気をひそめさせ、その建物を見上げた。
瀟洒な建物。護衛対象者が隠れている別荘宅だ。
「随分と自分勝手な依頼主ですね。いけ好かない感じですけど、仕事は仕事です。私情は挟まない、私情は挟まない」
自身に言い聞かせるようにアメリアはつぶやいた。
「わかるぜ、その気持ち」
苦く笑ったのは、どこか不羈奔放たる雰囲気を漂わせた少年であった。名を柊 恭也(ka0711)という。
「正に絵に描いたようようなクズだな、今回の依頼人。が、アメリアのいうとおり依頼は依頼だ。仕事はしっかり行わないとな」
「俺も正直気にいうと喰わぬ。が」
豪放という言葉の似合う男が怪訝そうに眉をひそめた。榊 兵庫(ka0010)というのてあるが、彼にはもっと気になることがある。普通の娘がどのようにして化物じみた力を手に入れたかという一点だ。
「その女に人外の力を与えた者の存在が気になる」
「護衛対象がクソ野郎って事といい、エリオットの時を思い出すね」
天竜寺 舞(ka0377)という名の少女が吐き捨てるようにいった。銀髪青瞳の可愛らしい少女なのだが、口調はぶっきらぼうで乱暴であった。
「エリオット?」
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が問うた。冷然たる娘で、よく鍛えられた肉体の持ち主である。
「ああ」
艶やかな緑髪をゆらしてリン・フュラー(ka5869)という名の少女はうなずいた。アルトがエリオットの事件に関与していなかったことに気づいたのだ。
「それは」
リンが事件のあらましを説明した。
「なるほど。そのようなことがあったのか」
「ええ。恐らく、件の女性に力を与えたのは、ベルンシュタイン……ドロレスさんやロレインさん、エリオットさんらに力を与えたのと同じ存在」
「ベルンシュタインかどうかはわかりませんが。確かに何者かの関与があったと思います」
腰にまでとどく綺麗な銀髪をゆらし、気品に満ちた美しい娘が口を開いた。シルヴィア・オーウェン(ka6372)だ。
「憎悪だけで女性が歪虚の力を持つことはないでしょう。何者が関与したのか、きちんと聞き出す必要がありますね」
「それもそうだが」
アルトが眉根を寄せた。
「それよりも気になるのは、その娘が堕落者なのか契約者なのか、だな。契約者の段階なら、まだ救うことはできそうだが……聞いてる限りでは堕落者の公算のほうが高いか」
「ともかく対象の保護だ。その上で何からの手掛かりが掴めればいいのだが」
兵庫がドアに手をかけた。
同じ時、八人めのハンターは役人のもとにあった。
透き通るほど白い肌をもつ清純そうな少女。名をディーナ・フェルミ(ka5843)といった。
「リリアーヌ……」
ディーナはつぶやいた。件の娘の名だ。
「動機は怨恨でいいのでしょうか」
「ああ。弄ばれた恨みというところだろうな」
役人はうなずいた。
「が、恨まれても当然かもしれん。その男、随分女性たちにひどいことをしてきたらしい。全部親がもみ消したらしいがな」
「死亡者は……八人!」
さすがにディーナは驚いた。たった一人の娘に成しうることではない。やはり娘は歪虚の力をもっている。
「一人だけ、しばらく息のあった者がいてな。そいつが言い残した。女は化物だ。血を塗ったような紅い翼で俺たちを引き裂いた、と」
●
「まずは確認したいことがあります」
広いリビング。ソファにふんぞり返った依頼主の男を前に、アメリアは口を開いた。
「先日の襲撃のことです。どのように行われたのですか? 正面から堂々と来たのか、それとも裏口等からこっそり忍び込んで来たのか」
「表から堂々と来おった。あの化物め」
忌々しげに男は吐き捨てた。
「それでは、もうひとつ。使用人室もあるとの事ですが、件の一件から新たに使用人を雇い入れたりはしていないですよね?」
「ああ」
面倒くさげに男はこたえた。そしてアメリアを睨め上げると、
「使用人のことなどどうでもいい。それよりも大丈夫なんだろうな。わしが雇ったボディガードどもと同じ八人しかおらんが」
「心配はいらん」
苛立ちを押し隠し、恭也がこたえた。
「それよりも、あんたらにいっておきたいことがある。俺たちのいうとおりにしてもらうぞ」
「お前らの?」
「ああ。下手に動かれて死なれでもしたら、非常に面倒くさいからな」
「なっ」
男の満面が怒りにどす黒く染まった。
「文句は後だ」
男を制し、恭也は続けた。
「俺達がしっかりと敵を潰し、それを報告するまで二階の寝室に隠れていてもらう。何があっても絶対に外にはでるな」
「それから窓には近づかないように」
警告したのはリンだ。恭也はうなずくと、
「この二つは絶対に守って貰う。もし指示に従えないなら、何があっても知らんという事を認識して貰おう」
「駄々をこねるのは聞きません。先日自分達の護衛がどうなったのか思い出してください」
氷の声音でアメリアがいった。
「この若造どもが……」
睨みつけた男であるが、その時気づいた。恭也とアメリアの瞳にうかぶ刃のような鋭い光に。
只者ではない。そうと知った男は声を失った。
●
夜が来た。月光に染まる紅い夜が。
最初に異変に気づいたのはアルトであった。彼女のもつ軍用双眼鏡は歩み寄りつつある人影をとらえている。女だ。
「目標接近。裏だよ」
トランシーバーにむかってアルトは告げた。すると周辺を警戒していた舞とシルヴィアが足をとめた。柴犬のゴエモンが低く唸る。異様な気配を感知したのであった。
「……これが終わったらさ、一度食事でもどうかな」
男が微笑みかけた。警護対象の若者だ。アメリアの美貌に欲情したのであろう。
が、声をかけられたアメリアは知らぬ顔をした。このような馬鹿の相手をするのは真っ平であるからだ。
その時、トランシーバーが鳴った。
裏口に背をもたせかけていた兵庫は十字状の穂先を持つ槍――人間無骨を手にとった。
「来たかよ、復讐に狂った鬼が」
「彼の警護者?」
くつくつと女は笑った。
「リリアーヌよな?」
「そうよ。懲りないわね、彼も。八人も殺したのに」
ちらりとリリアーヌは兵庫を見た。真紅に光る目で。
「逃げるのなら見逃してあげるわ。でも、邪魔するなら殺す」
「ありがたい申し出たが、逃げるわけにはいかん。こう見えても俺はハンターだからな」
「ハンター!」
さすがにリリアーヌは表情を強ばらせた。只の警護者とハンターでは技量が違う。
が、すぐにリリアーヌは表情をゆるめた。己の力を思い出したのである。ハンターであれ何であれ、人間が太刀打ちできるはずがなかった。
刹那である。リリアーヌが翼を広げた。血を凝縮させたかのような真紅の翼を。
「うっ」
兵庫が息をつめた。身の毛もよだつ殺気が彼の面を灼いている。
「……!」
血の一雫にも似た羽のひとひらが放たれた。あと少しで人間無骨の穂先がリリアーヌを捉えることができる、その間際のことだった。
とっさに人間無骨をかかげて防ごうとするが間に合わず、兵庫の喉から肩にかけて、ばっくりと裂け目が生じる。膝をつきながらも彼は槍を突き出した。が、反撃の一手は惜しくもかわされてしまった。
「ぐふっ」
兵庫は激しくむせた。血を噴く。それでも兵庫は跳び退った。恐るべき精神力だ。
が、さすがにそれ以上は動けなかった。ゆったりとリリアーヌが歩み寄る。ニタリと気味悪く笑った。
「あいつの味方をしたわね。殺す」
リリアーヌは紅の翼を広げた。
刹那だ。光がリリアーヌの目を射た。魔導ライトの光が。そして空を裂いて銃弾が疾った。
喉の奥から唸り声を漏らし、肩を射抜かれたリリアーヌが、血走る目で屋根上をねめつけた。そこに立つ恭也を。その手には雷紅――雷紅が握られていた。
「やれやれ。つまらない男のことなんて忘れて次へ行けばよかったのにな」
アルトの身体を紅蓮のオーラが包み込んだ。次の瞬間、炎がはじけ、アルトの身が消失。次に現出したのはリリアーヌの後方の上空であった。
その手にはあるは、超重刀ラティスムス。常人はおろか手練のハンターですら扱う事が困難な業物だ。
「ぬうん」
アルトがラティスムスで薙ぎつけた。さすがにリリアーヌの反射神経も間に合わない。ざっくりと紅翼の根元が切られた。
「よくもっ」
リリアーヌの左翼が翻った。ものすごい衝撃にアルトが吹き飛ばされる。樹木に叩きつけられ、彼女は地に転がった。
「ぐはっ」
アルトの口から鮮血が溢れた。骨のみならず臓器まで損傷している。動けない。
「おい」
血を滴らせつつ、アルトが声をかけた。
「一体何をしたらそんなふうに翼を生やすことができるんだ?」
「そんなことを聞いてどうするつもり?」
「興味があるんだ。どのようにしてその力を得た?」
「彼のおかげよ」
「彼?」
別の声がした。シルヴィアのものだ。そばには舞の姿もあった。
「あんたをそんな姿にした彼とは誰だ。もしかするとベルンシュタインって奴か?」
舞がいうと、リリアーヌの顔色が変わった。
「彼を知っているの?」
「ああ。他人をけしかけて自分は高みの見物とか悪趣味でちんけな野郎だ」
「黙れ!」
リリアーヌの形相が変わった。悪鬼の形相に。
ごう、という風音を轟かせて、凶々しい紅刃が一面を舐め尽した。
咄嗟にシルヴィアと舞は建物の陰に身を隠した。建物の外壁がずたずたに切り裂かれる。
刹那、反対の建物の陰から飛び出した者がある。アメリアだ。その両手にはエア・スティーラー――風の精霊の加護を受けた魔導拳銃がある。
エア・スティーラーが火をふいた。気流をまとった弾丸が超高速で疾る。
しぶく真紅。それは鮮血であったか、それとも羽根であったか。リリアーヌの片翼が力なくだらりと垂れ下がった。
次の瞬間、二人が動いた。ディーナとシルヴィアだ。
ディーナは祈りを捧げた。その祈りの大いなる力の余波か、彼女の銀色の髪がなびく。煌く光に包まれた兵庫の痛々しい傷口が見る間に癒えていった。
その間、シルヴィアはリリアーヌに迫っていた。凄まじい速さだ。が、リリアーヌの反応の方が速い。彼女はすでに人間ではないのだ。
真紅の翼が翻った。紅い旋風がシルヴィアを切り刻む。リリアーヌが嗤った。
「無駄よ」
「無駄じゃない」
倒れ掛かるシルヴィアを躍り越え、舞が空に舞った。たばしる刃が空に光の亀裂を刻む。
鈍い音が響いた。舞の身に、ぱらぱらと赤い雨雫が降り注ぐ。
「おのれっ」
血をしぶかせつつ、リリアーヌは手をのばした。舞の首を掴む。
「くっ」
舞の顔が苦痛にゆがんだ。凄まじい力だ。人間のものではなかった。
刹那、闇を裂いて光が疾った。槍だ。雷閃を思わせる鋭い刺突だ。なんでリリアーヌに躱せようか。槍はリリアーヌの背を貫いた。
「女を後ろからやりたくはなかったが……許せ」
槍を引き抜きつつ、兵庫が跳び退った。ぎゃあ、と悲鳴をあげ、リリアーヌは手をゆるめた。舞がばたりと地に落ちる。
「くそっ。あいつだけでも殺してやる」
悪鬼の形相でリリアーヌは翼を翻らせた。刃風で辺りを薙ぎ払う。咄嗟にハンターたちは身を伏せた。
するとリリアーヌは地を蹴った。裏口に飛び込む。いや――。
上方から放たれた銃弾がリリアーヌの足を穿った。恭也だ。
「可愛そうだが、いかせるわけにはいかないんだ」
「よくもっ」
たまらずリリアーヌはたたらを踏んだ。その背に、するすると迫る者があった。リンだ。
「ふんっ」
リンが抜刀した。たばしる刃がリリアーヌの背を薙ぐ。
活人剣。対象に致命傷を負わせず行動不能に追い込む達人のみ成しうる技である。
が、リリアーヌは倒れなかった。活人剣は対人使用を前提とした技であるため、歪虚には通用しないのだ。
ならばとリンは鉈を思わせる分厚い刃を翻らせた。逆袈裟の一閃。今度こそ背を割られ、リリアーヌは倒れ伏した。
「ねえ」
ディーナが屈み込んだ。
「もし、あなたが憎む人の罪状を立証できる証拠があるのなら、渡してもらえませんか。そうすれば貴女の最初の目的は叶えてあげられるかもしれないから」
「ないわ」
哀しげにリリアーヌは首を横に振った。すると今度はリンが焦りの滲む声で尋ねた。
「ベルンシュタインの目的を知っていますか。彼は多くの人を貴方のと同じように変えてしまいました。何故、彼はそのような真似をするのですか?」
「……知らないわ」
リリアーヌは薄く笑った。
「それなら、他にベルンシュタインが接触した人について知りませんか?」
「知っているわ」
リリアーヌは小さくうなずいた。そして、こたえた。私の兄だ、と。
「あなたの……お兄さん? それは――」
さらに問おうとして、リンは声を途切れさせた。すでにリリアーヌに息はない。力なくリンは立ち上がった。
「……可哀想な人ではあります。生前弄ばれ、堕ちた後もベルンシュタインに弄ばれるなんて……」
「男なんて他にいくらでもいるのに……それだけ愛せるのも幸せなのかもしれませんけど……」
アメリアが肩を落とした。すると舞が舌打ちした。
「あたしのママはクソ親父の愛人だったんだ。ママは死ぬまであいつを愛してた。でももし唆されてたら彼女みたいになってたかもしれない」
舞は血の滲むほど唇を噛み締めた。その目はいまだ相見えたことのないベルンシュタインを睨みつけている。
その時だ。若者と両親が姿を見せた。三人の顔は気色に彩られている。嬉しそうに笑っていた。
「よくやった。よく化物を始末してくれた」
「これでやっと安心して暮らせるよ」
若者が大げさにため息をこぼした。
「安心して、か」
恭也が苦く笑った。
「確かに、これで依頼は終了、依頼人を襲う連中もいなくなった訳だ。今は、な」
「今……は、だと?」
「そうだ。聞けば、あんたは散々遊んでたらしいな? となれば、今回みたいな事がまた起きないとは限らない訳で。さて、次も生き残れる保証は何処にあるやら。ては、新たな襲撃者に怯える良き余生を」
「なっ」
父親と息子は怒りで満面をどす黒く染めた。その二人にむかってシルヴィアは忠告した。怒りの滲む声音で。
「……貴方が女性にひどいことをした結果今回のような事件に巻き込まれているとしたら、同じことは繰り返さないように今後女性には思いやりを持った対応をしてください。蒼の世界の言葉に因果応報というものがあるそうです。自分のした行いが自分に善かれ悪しかれ返ってくる、と。……私達が護衛できるうちに、改めてくださいね」
「そうだ」
兵庫はうなずいた。その目は憐れむようにリリアーヌの亡骸にむけられている。
「……女の情念というのは恐ろしいものだ。これに懲りたのならば、自重するが良い。次も我々が助けられるという保証などどこにもないのだからな」
兵庫の声は闇に溶けていった。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/05/19 19:03:51 |
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相談卓 リン・フュラー(ka5869) エルフ|14才|女性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2017/05/22 21:05:51 |