ゲスト
(ka0000)
【交酒】ターゲット・ハイド&シーク
マスター:紫月紫織

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/06/11 15:00
- 完成日
- 2017/06/19 22:05
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●愛しのマイスウィート
東西交流祭。
様々な思惑が巡る中に、リゼリオに暮らす人々もまた思惑を巡らせていた。
祭である、宴である、東方西方様々な料理が、酒が、菓子が集まるこの機会を逃す手はない。
普段、何かとお世話になっているハンターたちを労いたい、そういう思いを持つものがこの会場予定地に集っていたのである。
そんな中、舞台の仮組みをしながら青年は空腹に耐えていた。
今日のお昼は愛しのマイスウィートの手作り弁当なのである。
あと一つ、この屋台を組み終わったらお昼休みだ。
青年は今、幸せの絶頂──いや、もう少し登る予定──だった。
「うーっし、これで終わりだな。昼休みにしようぜ」
「はい、センパイ!」
お昼である、ご飯である、こころうきうきわくわくぅ~。
ああ、楽しみだ……。
結婚の約束をし、頑張って支度金を貯めるための仕事をあくせくとこなす、そんな自分のために愛しのマイスウィートが作ってくれたお手製のお弁当……これを愛妻弁当と呼ばずしてなんと呼ぶか(気が早い)。
「おまえ、今日の昼はなんか特別なんだろ?」
「え、なんで分かるんですかセンパイ、えへへへへへ~」
顔に書いてあるよ、とは言わずにおいた。
幸せそうにしているのはいいことだ、周りも幸せになる。
青年の先輩は、人の幸せを喜べる漢であった。
荷物をおいてある場所へと戻り、弁当の包みを持ち上げて青年が最初に思ったのは、やけに軽いだった。
何かあったのか!
まさか誰かに勝手に食べられたのでは!?
最悪の想像が頭をよぎる。
慌てて包みを開いた瞬間飛び出してきたのは──黒い影。
まごうことなき、イニシャル・Gであった。
見れば弁当箱の裏側に穴が開いている始末、ただのイニシャル・Gではないことは明白だ。
おそらく雑魔化しているのだろう。
だが、青年にとってそんなことはどうでも良かった。
突然のことに暗がりへ逃げていくイニシャル・Gをみやり、彼の口から出た言葉は──
「あいつら……駆除してやる! この街から……一匹残らず!」
無理だろう、と同僚が思ったかは知らない。
かくて舞台の幕は上がる。
演者は壇上に上り武器を構え、大いなる敵との戦いの火蓋が切られるのである。
●その受付、最恐
「ということがあったそうです」
仕事の説明ということで話を聞いていたらなんともやるせない、青年に同情したくなる話を聞かされたハンター達、その反応は様々だ。
手作り弁当を作ってくれる彼女が居るなんて羨ましい、と嫉妬する者──
そんな大事な弁当を雑魔にダメにされるなんてなんて苦しみだ、と同情して咽び泣く者──
イニシャル・Gと聞いて背筋を凍らせる者──
ちなみに、東西交流祭の最中とあって、東方西方各地から様々なルートで物品が運び込まれている、そんな荷物の中に紛れ込んだ雑魔だろうというのがエリクシアの見解であった。
一部のハンター達が「余計なもの運び込みやがって畜生め」と内心毒づいたかは定かではない。
ついでとばかりにエリクシアは、このまま増えるとハンター慰労の会も開催が危ういと告げる。
「とりあえず、叩けば潰せるので脅威ではないんですが、いかんせん問題なのが東西交流祭の前であることと、数が多いこと、そして事件は外で起きてるんじゃない! 街中で起きているんだ、ってことですかね」
どっかで聞いたセリフだな、とリアルブルー出身のハンターが思ったとか思わなかったとか。
さらにとばかりに続けるエリクシア。
被害は青年の弁当だけにとどまらず、ハンター慰労の会で用意された食品などにも及んでいたらしく、開催が延期となったそうである。
「というわけで、聖剣をお渡ししますので退治してきてください」
ざわ……ざわ……。
聖剣という言葉にハンターたちからどよめきが上がる。
ソサエティが管理している聖剣、ということになればそれは相当の業物なのではないか? なにせトップはあのナディア・ドラゴネッティだ、などと波紋が広がる中、エリクシアは箱をどしんと机の上に載せる。
そこに詰まっているのは聖剣などではなく、先月のソサエティ情報誌のようだった。
配りきれなかった紙ゴミである、もったいない。
ちなみに目についた表紙には、いまおすすめのハンタークラスなどと書かれており求人誌かと突っ込みたくなる部分がある。
首を傾げるハンターたちの目の前で、エリクシアはソサエティ誌をくるくると丸め、持ち手をテープで止めはじめた。
どういうことか理解したハンターたちが一気に落胆して肩を落とした。
そう、今回の雑魔は叩けば倒せる、雑魚である。
無論、一般人であれば何らかの危険があるかもしれない。
だがハンターならばその程度の武装で事足りるのだ。
そしてその戦いの舞台となるのは街中である。
つまり、普段の武器なんか振り回したらダメなのである、是非もないネ。
「さぁ、あなた方にこの聖剣ソゥサエッティーシ・マァルメッターノゥを差し上げます」
何言ってんだこいつは、と思うような流暢な巻き舌であった。
何を言っているのかは分からないが何と言ったのかはわかる(意味がわからない)
つまるところただの【ソサエティ誌丸めたの】である。
僕にその手を汚せというのか……そんな空気になった所を、一匹のイニシャル・Gが飛び込んできた。
パァン!
爆ぜた。
その瞬間、受付嬢とは思えない汚物を見るような鋭い目つきをしたエリクシア、振り抜かれた聖剣ソゥサエッティーシ・マァルメッターノゥには曇り一つ無い……ことはなく、雑魔の破片がひっついている。
おえ。
「この雑魔には二種類居ます。叩かれると消えてしまう雑魔になってから長いものと、弾けて肉片を飛び散らせる新参の雑魔です。良い雑魔は死んだ雑魔だけです」
雑魔に良いも悪いもあるんだろうか……。
あるのかもしれないが、今この場で話す問題ではないだろう。
「というわけでこの依頼、蹴るも受けるも皆様次第です」
そんな風に笑いながらエリクシアは、「あ、でもあんまり増えすぎると東西交流祭に支障が出るかもしれませんからがんばってください。あと、終わった後にはハンター慰労の会がもうけられるそうなのでぜひ参加していってくださいね」と付け足した。
はじけ飛んだ雑魔の欠片がついていなければ、素敵な笑みだったのにね。
東西交流祭。
様々な思惑が巡る中に、リゼリオに暮らす人々もまた思惑を巡らせていた。
祭である、宴である、東方西方様々な料理が、酒が、菓子が集まるこの機会を逃す手はない。
普段、何かとお世話になっているハンターたちを労いたい、そういう思いを持つものがこの会場予定地に集っていたのである。
そんな中、舞台の仮組みをしながら青年は空腹に耐えていた。
今日のお昼は愛しのマイスウィートの手作り弁当なのである。
あと一つ、この屋台を組み終わったらお昼休みだ。
青年は今、幸せの絶頂──いや、もう少し登る予定──だった。
「うーっし、これで終わりだな。昼休みにしようぜ」
「はい、センパイ!」
お昼である、ご飯である、こころうきうきわくわくぅ~。
ああ、楽しみだ……。
結婚の約束をし、頑張って支度金を貯めるための仕事をあくせくとこなす、そんな自分のために愛しのマイスウィートが作ってくれたお手製のお弁当……これを愛妻弁当と呼ばずしてなんと呼ぶか(気が早い)。
「おまえ、今日の昼はなんか特別なんだろ?」
「え、なんで分かるんですかセンパイ、えへへへへへ~」
顔に書いてあるよ、とは言わずにおいた。
幸せそうにしているのはいいことだ、周りも幸せになる。
青年の先輩は、人の幸せを喜べる漢であった。
荷物をおいてある場所へと戻り、弁当の包みを持ち上げて青年が最初に思ったのは、やけに軽いだった。
何かあったのか!
まさか誰かに勝手に食べられたのでは!?
最悪の想像が頭をよぎる。
慌てて包みを開いた瞬間飛び出してきたのは──黒い影。
まごうことなき、イニシャル・Gであった。
見れば弁当箱の裏側に穴が開いている始末、ただのイニシャル・Gではないことは明白だ。
おそらく雑魔化しているのだろう。
だが、青年にとってそんなことはどうでも良かった。
突然のことに暗がりへ逃げていくイニシャル・Gをみやり、彼の口から出た言葉は──
「あいつら……駆除してやる! この街から……一匹残らず!」
無理だろう、と同僚が思ったかは知らない。
かくて舞台の幕は上がる。
演者は壇上に上り武器を構え、大いなる敵との戦いの火蓋が切られるのである。
●その受付、最恐
「ということがあったそうです」
仕事の説明ということで話を聞いていたらなんともやるせない、青年に同情したくなる話を聞かされたハンター達、その反応は様々だ。
手作り弁当を作ってくれる彼女が居るなんて羨ましい、と嫉妬する者──
そんな大事な弁当を雑魔にダメにされるなんてなんて苦しみだ、と同情して咽び泣く者──
イニシャル・Gと聞いて背筋を凍らせる者──
ちなみに、東西交流祭の最中とあって、東方西方各地から様々なルートで物品が運び込まれている、そんな荷物の中に紛れ込んだ雑魔だろうというのがエリクシアの見解であった。
一部のハンター達が「余計なもの運び込みやがって畜生め」と内心毒づいたかは定かではない。
ついでとばかりにエリクシアは、このまま増えるとハンター慰労の会も開催が危ういと告げる。
「とりあえず、叩けば潰せるので脅威ではないんですが、いかんせん問題なのが東西交流祭の前であることと、数が多いこと、そして事件は外で起きてるんじゃない! 街中で起きているんだ、ってことですかね」
どっかで聞いたセリフだな、とリアルブルー出身のハンターが思ったとか思わなかったとか。
さらにとばかりに続けるエリクシア。
被害は青年の弁当だけにとどまらず、ハンター慰労の会で用意された食品などにも及んでいたらしく、開催が延期となったそうである。
「というわけで、聖剣をお渡ししますので退治してきてください」
ざわ……ざわ……。
聖剣という言葉にハンターたちからどよめきが上がる。
ソサエティが管理している聖剣、ということになればそれは相当の業物なのではないか? なにせトップはあのナディア・ドラゴネッティだ、などと波紋が広がる中、エリクシアは箱をどしんと机の上に載せる。
そこに詰まっているのは聖剣などではなく、先月のソサエティ情報誌のようだった。
配りきれなかった紙ゴミである、もったいない。
ちなみに目についた表紙には、いまおすすめのハンタークラスなどと書かれており求人誌かと突っ込みたくなる部分がある。
首を傾げるハンターたちの目の前で、エリクシアはソサエティ誌をくるくると丸め、持ち手をテープで止めはじめた。
どういうことか理解したハンターたちが一気に落胆して肩を落とした。
そう、今回の雑魔は叩けば倒せる、雑魚である。
無論、一般人であれば何らかの危険があるかもしれない。
だがハンターならばその程度の武装で事足りるのだ。
そしてその戦いの舞台となるのは街中である。
つまり、普段の武器なんか振り回したらダメなのである、是非もないネ。
「さぁ、あなた方にこの聖剣ソゥサエッティーシ・マァルメッターノゥを差し上げます」
何言ってんだこいつは、と思うような流暢な巻き舌であった。
何を言っているのかは分からないが何と言ったのかはわかる(意味がわからない)
つまるところただの【ソサエティ誌丸めたの】である。
僕にその手を汚せというのか……そんな空気になった所を、一匹のイニシャル・Gが飛び込んできた。
パァン!
爆ぜた。
その瞬間、受付嬢とは思えない汚物を見るような鋭い目つきをしたエリクシア、振り抜かれた聖剣ソゥサエッティーシ・マァルメッターノゥには曇り一つ無い……ことはなく、雑魔の破片がひっついている。
おえ。
「この雑魔には二種類居ます。叩かれると消えてしまう雑魔になってから長いものと、弾けて肉片を飛び散らせる新参の雑魔です。良い雑魔は死んだ雑魔だけです」
雑魔に良いも悪いもあるんだろうか……。
あるのかもしれないが、今この場で話す問題ではないだろう。
「というわけでこの依頼、蹴るも受けるも皆様次第です」
そんな風に笑いながらエリクシアは、「あ、でもあんまり増えすぎると東西交流祭に支障が出るかもしれませんからがんばってください。あと、終わった後にはハンター慰労の会がもうけられるそうなのでぜひ参加していってくださいね」と付け足した。
はじけ飛んだ雑魔の欠片がついていなければ、素敵な笑みだったのにね。
リプレイ本文
●忍び寄る黒い影
「ま、まだでしょうか?」
ロス・バーミリオン(ka4718)に髪を結われながら、シルヴァが少し恥ずかしそうに後ろを伺う。
「まだ動いちゃダメよぉ、あとちょっとだから♪」
そう言いながら、手は巧みに髪を編み込んでいく。
仕上げに添えられたのはミモザの髪と同じ、きはだ色のリボンだった。
それを見上げてミモザが目を輝かせている。
少女の髪に飾られたリボンと簪、片方はロゼからの贈り物であり、今日シルヴァに贈られたものとおそろいだ。
「えへへへへ♪」
ミモザがとてもうれしそうにするものだから、ロゼとしても気合が入ると言うものだ。
そんな光景に、少し遅れてやってきたグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)が驚いたような納得したようなものになる。
「へぇ、似合ってるじゃないかシルヴァ。お、ミモザちゃん、簪使ってくれてるんだ、嬉しいねぇ」
「バルドのお兄ちゃんだー」
「茶化さないでくださいよグリムバルドさん……髪をリボンで結わえるなんて久しぶりすぎて」
少々照れているらしいシルヴァの隣をミモザがすり抜けていく。
ハンターになると言い出してからだいぶ外向的になった、少女の変化は早いものだなぁとグリムバルドと話すミモザを見て二人して苦笑する。
「こっちで準備中だったのか。やあ、久しぶりだね」
入ってきたのは揃って見覚えのある青年、イェルバート(ka1772)だった。
片手にはエリクシア手製の聖剣(誤解を招きそう)を持っている。
「ばあちゃんほどの腕じゃないけど、同行させてもらおうとおもって」
「わーい! 一緒だー!」
「うん、雑魔退治がんばろうね!」
兄弟にも見える二人であった。
と、そこへ新たにやってきたのはルスティロ・イストワール(ka0252)だった。
「やぁ、皆奇遇だね!」
「久しぶりだね。見知った顔がいると心強いよ」
「僕もさ……と、言いたいところだけど。僕は今日は個人で動いてみようとおもってるんだ」
イェルバートに返すルスティロ、そしてその目はミモザへと移る。
「ミモザさん。……一応、これも雑魔退治だから……ハンターの仕事の練習になる……筈さ!」
若干つまりつつも言い切ったルスティロに、無邪気な笑みを向けるミモザ。
嘘は言っていない。
ハンターには色んな仕事があるのだから……。
頑張ってね、と声をかけて部屋から出ていく。
どうやら二人と同行する面々は揃ったらしく、外へ出てみるとそちらで準備をしていたのであろう他の面々と目が合った。
そんな二人に気づいてソファから飛び上がるように穂積 智里(ka6819)が近づいてきたのである。
「初めまして、シルヴァさんとミモザさんですよね? 私はハンターになったのが遅かったので、この世界のオートマトンさんに会い損ねてしまったんです! だからエバーグリーンのオートマトンのミモザさんにはとってもお会いしたかったです!」
まくし立てるような言葉にミモザが驚いている間に手を取りぶんぶんと振る。
若干、振り回し気味でミモザが戸惑っていた。
「ハンターなら、今までの調査記録はいくらでも見られると思います……あ゛」
周りから落ち着くように促されて一息。
「でも今日は楽しいお話ばかりじゃなかったのです、この断罪の場へようこそ……次亜塩素酸ナトリウム希釈液はどこですかー」
しおしおとうなだれる智里、人それを消毒といふ。
そんなやり取りの向こう側で、弁当箱を開ける人間が居た。
西空 晴香(ka4087)である。
「なら食われる前に食っちまえば良いか」
開けられた弁当箱は……中身を食い漁る黒い複数のGと、食い荒らされた弁当箱、そして無残な中身がこぼれ落ちた。
中身は、チーズである。
一瞬の沈黙、その場に居た全員が聖剣ソゥサエッティーシ・マァルメッターノゥ(以下字数のため聖剣ソ)を構えたかとおもったら、Gたちは飛び去って外へと逃げていった。
残されたのはもう食べようのない弁当(チーズ)と……ぎしぎしと不信な軋む音を上げる晴香だった。
「ユルサナイ」
地獄の底から響くような声が彼女の口から溢れたものであったと気づいて、その場に居た全員が硬直する。
晴香は激怒した。
必ず、かの邪智暴虐のGを除かねばならぬ。
逃げていくG目掛けて、バグった物理演算の如き有様で晴香が激突した。
だが――止まらない。
がつんがつんとドアにぶつかりながらもそれをこじ開けて、ついには追って出ていった。
そのバグの如き光景を見ていた誰もが思った。
ここは3Dゲームの世界じゃねぇんだぞ、と。
「人間て……あんな動きもできたんだね」
一つの可能性を感じたのか、氷雨 柊羽(ka6767)がぽつりとつぶやく、それを周りに居た全員が無言で首を振って否定した。
あれは、バグだ。
現実に降り立ったバグなのだ。
「ふ、ふふふ」
沈黙の中に不敵な声、何奴とばかりに全員が振り返ると……そこに居たのはうさぎでした。
なんだうさぎか、二本足で起立し手に聖剣ソ(略)を握っているだけのうさぎか。
うさぎではない、ミィナ・アレグトーリア(ka0317)だ。
「まるごとうささんなら汚れちゃっても中のお洋服はセーフなのん!」
その一言に、電撃走る!
「なるほど、その手があったか」
しばし劇画調で感心する氷雨であったが、直後に響いた鈍い音に表情が固まる。
着替え終わって出てきたミィナが柱にぶつかり、ソサエティの出口で足を滑らせて転び、向かいの建物へと激突した。
首があらぬ方向に曲がっており、子供が見たら泣くだろう。
果たして……あれをG駆除のためとは言え街に放っていいのか?
考えている間にミィナは街の雑踏へと消えていった。
「あー……じゃあ、僕も単独で動かせてもらうよ、さっさと終わらせるに限るしね」
かくして勇者達は街へと発ったのである。
●壁内遠征
ミィナは街をふらふらとさまよっていた。
まるごとうさぎ、視界悪し。
時折子供に絡まれつつ(首があらぬ方向に曲がっているため大体ひどい目にあっていたが)飲食店のある区域の裏路地を目指す。
温床としてはおそらく最適解だろう、となれば目的地としても適切だ。
そんな路地裏を覗いたミィナの目に映ったのは遊ぶ子どもたちであった。
「むむ、きみたちー」
子供はわりかし恐ろしい。Gだって容易におもちゃにする、残酷性も申し分ない。
手を出しては大変と声をかけたミィナであるが……。
「何だこのうさぎー」
「首折れてんぞー」
あっさり餌食となった。
「ふぇえ?! 痛いから全力で殴っちゃダメなのーん!」
ぼふぼふと殴り続けられるミィナであるがしばらくして悪ガキ共は何を思いついたのかミィナを捕獲した。
「さん、にー、いちー!」
全力で、路地裏を転がされ始めるミィナ、軽快に生ゴミやそこに混ざる消えることのないGすら巻き込み轢き潰し、恐ろしい有様となって転がってゆく……絶叫ものである。
時刻は少し遡る。
かっぽかっぽと馬を駆り征くルスティロ、頼みの綱のカーバンクルも野生を開放したのか、今のところ順調な討伐実績であった。
壁面で、路地裏で、下水で、ありとあらゆるところで行われる討伐が大好きだ。
風格はすでに歴戦の猛者であった。
「このあたりも居そうだね」
そう思って路地へと入る、薄暗くジメジメとして、腐臭が漂う、たしかにここならば、そう思った矢先、物陰からさっと動く黒い影。
一閃される聖剣ソ(略)、弾けるG、いいぞ、とてもイイ。
これはたまらんと飛んで逃げ始めるGを追い馬を駆る。
空中でパンパンとGを撃ち落とす速度はカーバンクルのテンションに合わせてより速くより正確になっていく、そして……。
曲がり角からふらりと現れた巨大なうさぎ――ミィナと衝突した。
気をつけろ、馬もうさぎも、とまれない。
Gの破片まみれのミィナともつれながら、放物線を描いて二人は落下していった。
悲しい事件だった。
そう思っていた矢先、晴香の弁当が被害にあった。
これ以上悲しみを増やしてはいけない。
必死に自分を鼓舞しつつ、グリムバルドは聖剣ソ(略)を振りかざす。
すでに結構いろんなものがひっついているのだが見ない、効かない、感じない。
正気に戻らないほうが、幸せなこともあるのである。
「キャー!」
突如上がる悲鳴に振り返ればGが天下の往来を集団で飛行横断していた。
激流に身を任せて何も考えない。この身は一振りの刃。G死すべし慈悲は無い。
振り上げた聖剣ソ(略)が幾重にもひらめきGを撃ち落とす……だが、Gの集団飛行はグリムバルドのそれを上回った。
いや、普段の武器であれば対応しきれたかもしれない。
だが今の得物は勝手が違う。
すり抜けた一匹が、グリムバルドの顔に着地した。
「……」
すさっ、とその様に周りに居た見物人が距離を取る。
嗚呼、人とはかくも非情なものか。
更に数匹が各所に着地してカササササッと音をたてる、チキン肌を通り越してトラウマものである。
そんな止まった時の中――
「ユルサナイユルサナイユルサナイ」
遠くから聞こえるドップラー効果、次第にそれが近づいてきている。
何を隠そう、G殺戮の徒となった晴香である。
そのさまは後に見たリアルブルー出身の人物が「高速移動するゲッダン」とか「縦横無尽テケテケ」と称するようなものだった。壁も天井も地面もなく駆け抜ける晴香はめちゃくちゃに聖剣ソを振り回しながらも爆進、進路上に存在するGを尽く……轢き潰していく。
その魔の手は……Gに這い回られているグリムバルドにも及んだ。
全身滅多打ちにされた挙句、爆進する晴香に吹き飛ばされて果てた。
「うわぁ……」
空の星となったグリムバルドを目の当たりにして、氷雨はそんな言葉しかでなかった。
街の人達が悲鳴を上げるような事態にならないように素早くそつなく処理をこなしていた手も今は止まっている。
あんなものを見たあとでは、気にするだけ無駄かもしらん。
そう思った矢先のこと、足元の影に気づいて足を止めた。
こんな影、さっきまであっただろうか?
少し考えた末に何かに気づき振り向いた瞬間、鈍い音が響いた。
晴香の暴走により壁に立てかけられていた木材が倒れ込んできていたのである、氷雨目掛けて……。
「なんでそんなところに……角材が……」
ガクッ。
屋台組用の角材の一部が赤く染まった。
とある食料品店の地下倉庫。
酒場の裏で退治していた所、G雑魔が現れたという知らせをもらいやってきたハンター一行、奥の食料に群がる物を見つけ戦慄している所であった。
「あああああ、見るだけで寒気がするわ……」
「……心頭滅却すれば何とかなるって爺ちゃんが言ってた! 僕もそう思う!」
そんな二人の隣で智里がミモザに倫理観について色々と語っていた。
Gは攻撃されれば逃げるものだ。
だが、今回ばかりはその常識は通用しないのかも知れない……射程に踏み込んだ瞬間、食事をしていたGたちが一斉に動きを止めて触覚を向ける。
全員の足が止まった。
ぶわ、と一斉に広がる羽、見事な連携行動であった。
戦慄する四人をよそに、ミモザだけは面白いものを見る目をしている。
知らないって……恐ろしい。
そう、この状況下において恐れないミモザは一歩踏み込み、そして飛翔したGを打ち払ったのである。
「あ……たおしたー!」
自慢げに聖剣ソを見せるミモザ、そこには……臓物がこびりついていた。
それがスイッチであった。
「おい、……あのクソ虫共とっととぶっ潰すぞ」
「あ、はい……ロゼさん、地声でてます」
シルヴァがどっちに怯えているのかわからない声で答えるのだった。
縦横無尽に振り回されるロゼの聖剣ソが、時折智里やイェルバートのについたものまでひっぱたく、もはや完全なる暴走であった。
心頭滅却すれば、そう思っていた時期が私にもありました。
自己暗示なんてとうの昔に消え去って、あとはただ暴れるのみである。
後の掃除が必要な沙汰になったことは、言うまでもない。
●これが飲まずにいられるか!
エリクシアが手を回していたのだろう、お風呂まで用意されており、全員綺麗になってからの慰労の会となった。
食中毒とか、怖いしね。
だが、それで精神的ダメージが回復出来るかと言えばそうでもないらしく、ミィナは会場の端で死んでいた。
手には「クリーニング票」が握られている。
下取りは拒否された、是非もない。
「Gが……Gが顔目がけて……」
その隣では智里が同じように転がっている。
しっかりとトラウマになったのは語るまでも無いだろう。
そんな二人の様子を眺めながら少し離れた場所に背を預けて頭を擦る氷雨である。
頭には大福サイズのコブにバッテンの絆創膏が貼られていた、まだ痛い。
死んだ二人から視線をそらし、仕事で助けた酒場から寄贈された地酒をちびちびとやりつつ、賑やかそうなグループを眺めて体を癒やすのであった。
「皆、大丈夫ぅ? 私は怖くってチワワのようにぷるぷるしちゃったわよぉ」
居たのは狂犬だと思うな、という言葉を飲み込むシルヴァの後ろに隠れるように、ブチ切れたロゼを見たミモザが様子を伺っていた。
触らぬロゼに祟りなし。
「どうだった、ミモザさん」
「えと、楽しかった……です」
ルスティロの質問に笑いながら返す。
彼女にとって今日の一日はおそらく特別な意味を持つだろう。
「ハンターになりたいって聞いたんだけど……理由、訊いてもいいかな」
イェルバートの問いに、少しだけ視線を泳がせて言葉を探す。
「私……自分のこと、何も知らないから」
だから、知りたいと。
そう答えた少女に、そっと頷いて返す。
「なるほどな。確かにそれならハンターはうってつけだ」
それに元気そうでよかった、と続けたグリムバルドに嬉しそうな笑みを返す。
ミモザを中心に今までのことや、これからのことを話す。
途中、ミモザがミィナと智里にご飯を持っていったことで二人も復活して話に加わる。
「美味しい~、このレシピ教えてもらえるのん?」
「あ、いいね。僕も知りたい」
「私もお料理したい!」
なんとも平和な一時が過ぎてゆく。
宴もたけなわとなった頃合いになって、酒気の一切しない晴香が突然グリムバルドを捕獲するまでは、比較的穏やかだった。
酒をつまみにチーズを、いや……量的に逆である。
チーズをごくんと飲みながらつまみに酒をやっているのである。
「試しに飲んでみようぜ、な?」
とんだ絡まれ方もあったものである、あまりのことと晴香の小脇に確保され、その大きさに焦るグリムバルド。
飲むのか……チーズを。
ごくんと試しにやってみた。
チーズは、飲み物でした! なんてことはなく、喉につまらせたグリムバルドの背中をミモザが大慌てで叩くことになった。
宴は夜まで続いた、骨休めに、なっただろうか?
「ま、まだでしょうか?」
ロス・バーミリオン(ka4718)に髪を結われながら、シルヴァが少し恥ずかしそうに後ろを伺う。
「まだ動いちゃダメよぉ、あとちょっとだから♪」
そう言いながら、手は巧みに髪を編み込んでいく。
仕上げに添えられたのはミモザの髪と同じ、きはだ色のリボンだった。
それを見上げてミモザが目を輝かせている。
少女の髪に飾られたリボンと簪、片方はロゼからの贈り物であり、今日シルヴァに贈られたものとおそろいだ。
「えへへへへ♪」
ミモザがとてもうれしそうにするものだから、ロゼとしても気合が入ると言うものだ。
そんな光景に、少し遅れてやってきたグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)が驚いたような納得したようなものになる。
「へぇ、似合ってるじゃないかシルヴァ。お、ミモザちゃん、簪使ってくれてるんだ、嬉しいねぇ」
「バルドのお兄ちゃんだー」
「茶化さないでくださいよグリムバルドさん……髪をリボンで結わえるなんて久しぶりすぎて」
少々照れているらしいシルヴァの隣をミモザがすり抜けていく。
ハンターになると言い出してからだいぶ外向的になった、少女の変化は早いものだなぁとグリムバルドと話すミモザを見て二人して苦笑する。
「こっちで準備中だったのか。やあ、久しぶりだね」
入ってきたのは揃って見覚えのある青年、イェルバート(ka1772)だった。
片手にはエリクシア手製の聖剣(誤解を招きそう)を持っている。
「ばあちゃんほどの腕じゃないけど、同行させてもらおうとおもって」
「わーい! 一緒だー!」
「うん、雑魔退治がんばろうね!」
兄弟にも見える二人であった。
と、そこへ新たにやってきたのはルスティロ・イストワール(ka0252)だった。
「やぁ、皆奇遇だね!」
「久しぶりだね。見知った顔がいると心強いよ」
「僕もさ……と、言いたいところだけど。僕は今日は個人で動いてみようとおもってるんだ」
イェルバートに返すルスティロ、そしてその目はミモザへと移る。
「ミモザさん。……一応、これも雑魔退治だから……ハンターの仕事の練習になる……筈さ!」
若干つまりつつも言い切ったルスティロに、無邪気な笑みを向けるミモザ。
嘘は言っていない。
ハンターには色んな仕事があるのだから……。
頑張ってね、と声をかけて部屋から出ていく。
どうやら二人と同行する面々は揃ったらしく、外へ出てみるとそちらで準備をしていたのであろう他の面々と目が合った。
そんな二人に気づいてソファから飛び上がるように穂積 智里(ka6819)が近づいてきたのである。
「初めまして、シルヴァさんとミモザさんですよね? 私はハンターになったのが遅かったので、この世界のオートマトンさんに会い損ねてしまったんです! だからエバーグリーンのオートマトンのミモザさんにはとってもお会いしたかったです!」
まくし立てるような言葉にミモザが驚いている間に手を取りぶんぶんと振る。
若干、振り回し気味でミモザが戸惑っていた。
「ハンターなら、今までの調査記録はいくらでも見られると思います……あ゛」
周りから落ち着くように促されて一息。
「でも今日は楽しいお話ばかりじゃなかったのです、この断罪の場へようこそ……次亜塩素酸ナトリウム希釈液はどこですかー」
しおしおとうなだれる智里、人それを消毒といふ。
そんなやり取りの向こう側で、弁当箱を開ける人間が居た。
西空 晴香(ka4087)である。
「なら食われる前に食っちまえば良いか」
開けられた弁当箱は……中身を食い漁る黒い複数のGと、食い荒らされた弁当箱、そして無残な中身がこぼれ落ちた。
中身は、チーズである。
一瞬の沈黙、その場に居た全員が聖剣ソゥサエッティーシ・マァルメッターノゥ(以下字数のため聖剣ソ)を構えたかとおもったら、Gたちは飛び去って外へと逃げていった。
残されたのはもう食べようのない弁当(チーズ)と……ぎしぎしと不信な軋む音を上げる晴香だった。
「ユルサナイ」
地獄の底から響くような声が彼女の口から溢れたものであったと気づいて、その場に居た全員が硬直する。
晴香は激怒した。
必ず、かの邪智暴虐のGを除かねばならぬ。
逃げていくG目掛けて、バグった物理演算の如き有様で晴香が激突した。
だが――止まらない。
がつんがつんとドアにぶつかりながらもそれをこじ開けて、ついには追って出ていった。
そのバグの如き光景を見ていた誰もが思った。
ここは3Dゲームの世界じゃねぇんだぞ、と。
「人間て……あんな動きもできたんだね」
一つの可能性を感じたのか、氷雨 柊羽(ka6767)がぽつりとつぶやく、それを周りに居た全員が無言で首を振って否定した。
あれは、バグだ。
現実に降り立ったバグなのだ。
「ふ、ふふふ」
沈黙の中に不敵な声、何奴とばかりに全員が振り返ると……そこに居たのはうさぎでした。
なんだうさぎか、二本足で起立し手に聖剣ソ(略)を握っているだけのうさぎか。
うさぎではない、ミィナ・アレグトーリア(ka0317)だ。
「まるごとうささんなら汚れちゃっても中のお洋服はセーフなのん!」
その一言に、電撃走る!
「なるほど、その手があったか」
しばし劇画調で感心する氷雨であったが、直後に響いた鈍い音に表情が固まる。
着替え終わって出てきたミィナが柱にぶつかり、ソサエティの出口で足を滑らせて転び、向かいの建物へと激突した。
首があらぬ方向に曲がっており、子供が見たら泣くだろう。
果たして……あれをG駆除のためとは言え街に放っていいのか?
考えている間にミィナは街の雑踏へと消えていった。
「あー……じゃあ、僕も単独で動かせてもらうよ、さっさと終わらせるに限るしね」
かくして勇者達は街へと発ったのである。
●壁内遠征
ミィナは街をふらふらとさまよっていた。
まるごとうさぎ、視界悪し。
時折子供に絡まれつつ(首があらぬ方向に曲がっているため大体ひどい目にあっていたが)飲食店のある区域の裏路地を目指す。
温床としてはおそらく最適解だろう、となれば目的地としても適切だ。
そんな路地裏を覗いたミィナの目に映ったのは遊ぶ子どもたちであった。
「むむ、きみたちー」
子供はわりかし恐ろしい。Gだって容易におもちゃにする、残酷性も申し分ない。
手を出しては大変と声をかけたミィナであるが……。
「何だこのうさぎー」
「首折れてんぞー」
あっさり餌食となった。
「ふぇえ?! 痛いから全力で殴っちゃダメなのーん!」
ぼふぼふと殴り続けられるミィナであるがしばらくして悪ガキ共は何を思いついたのかミィナを捕獲した。
「さん、にー、いちー!」
全力で、路地裏を転がされ始めるミィナ、軽快に生ゴミやそこに混ざる消えることのないGすら巻き込み轢き潰し、恐ろしい有様となって転がってゆく……絶叫ものである。
時刻は少し遡る。
かっぽかっぽと馬を駆り征くルスティロ、頼みの綱のカーバンクルも野生を開放したのか、今のところ順調な討伐実績であった。
壁面で、路地裏で、下水で、ありとあらゆるところで行われる討伐が大好きだ。
風格はすでに歴戦の猛者であった。
「このあたりも居そうだね」
そう思って路地へと入る、薄暗くジメジメとして、腐臭が漂う、たしかにここならば、そう思った矢先、物陰からさっと動く黒い影。
一閃される聖剣ソ(略)、弾けるG、いいぞ、とてもイイ。
これはたまらんと飛んで逃げ始めるGを追い馬を駆る。
空中でパンパンとGを撃ち落とす速度はカーバンクルのテンションに合わせてより速くより正確になっていく、そして……。
曲がり角からふらりと現れた巨大なうさぎ――ミィナと衝突した。
気をつけろ、馬もうさぎも、とまれない。
Gの破片まみれのミィナともつれながら、放物線を描いて二人は落下していった。
悲しい事件だった。
そう思っていた矢先、晴香の弁当が被害にあった。
これ以上悲しみを増やしてはいけない。
必死に自分を鼓舞しつつ、グリムバルドは聖剣ソ(略)を振りかざす。
すでに結構いろんなものがひっついているのだが見ない、効かない、感じない。
正気に戻らないほうが、幸せなこともあるのである。
「キャー!」
突如上がる悲鳴に振り返ればGが天下の往来を集団で飛行横断していた。
激流に身を任せて何も考えない。この身は一振りの刃。G死すべし慈悲は無い。
振り上げた聖剣ソ(略)が幾重にもひらめきGを撃ち落とす……だが、Gの集団飛行はグリムバルドのそれを上回った。
いや、普段の武器であれば対応しきれたかもしれない。
だが今の得物は勝手が違う。
すり抜けた一匹が、グリムバルドの顔に着地した。
「……」
すさっ、とその様に周りに居た見物人が距離を取る。
嗚呼、人とはかくも非情なものか。
更に数匹が各所に着地してカササササッと音をたてる、チキン肌を通り越してトラウマものである。
そんな止まった時の中――
「ユルサナイユルサナイユルサナイ」
遠くから聞こえるドップラー効果、次第にそれが近づいてきている。
何を隠そう、G殺戮の徒となった晴香である。
そのさまは後に見たリアルブルー出身の人物が「高速移動するゲッダン」とか「縦横無尽テケテケ」と称するようなものだった。壁も天井も地面もなく駆け抜ける晴香はめちゃくちゃに聖剣ソを振り回しながらも爆進、進路上に存在するGを尽く……轢き潰していく。
その魔の手は……Gに這い回られているグリムバルドにも及んだ。
全身滅多打ちにされた挙句、爆進する晴香に吹き飛ばされて果てた。
「うわぁ……」
空の星となったグリムバルドを目の当たりにして、氷雨はそんな言葉しかでなかった。
街の人達が悲鳴を上げるような事態にならないように素早くそつなく処理をこなしていた手も今は止まっている。
あんなものを見たあとでは、気にするだけ無駄かもしらん。
そう思った矢先のこと、足元の影に気づいて足を止めた。
こんな影、さっきまであっただろうか?
少し考えた末に何かに気づき振り向いた瞬間、鈍い音が響いた。
晴香の暴走により壁に立てかけられていた木材が倒れ込んできていたのである、氷雨目掛けて……。
「なんでそんなところに……角材が……」
ガクッ。
屋台組用の角材の一部が赤く染まった。
とある食料品店の地下倉庫。
酒場の裏で退治していた所、G雑魔が現れたという知らせをもらいやってきたハンター一行、奥の食料に群がる物を見つけ戦慄している所であった。
「あああああ、見るだけで寒気がするわ……」
「……心頭滅却すれば何とかなるって爺ちゃんが言ってた! 僕もそう思う!」
そんな二人の隣で智里がミモザに倫理観について色々と語っていた。
Gは攻撃されれば逃げるものだ。
だが、今回ばかりはその常識は通用しないのかも知れない……射程に踏み込んだ瞬間、食事をしていたGたちが一斉に動きを止めて触覚を向ける。
全員の足が止まった。
ぶわ、と一斉に広がる羽、見事な連携行動であった。
戦慄する四人をよそに、ミモザだけは面白いものを見る目をしている。
知らないって……恐ろしい。
そう、この状況下において恐れないミモザは一歩踏み込み、そして飛翔したGを打ち払ったのである。
「あ……たおしたー!」
自慢げに聖剣ソを見せるミモザ、そこには……臓物がこびりついていた。
それがスイッチであった。
「おい、……あのクソ虫共とっととぶっ潰すぞ」
「あ、はい……ロゼさん、地声でてます」
シルヴァがどっちに怯えているのかわからない声で答えるのだった。
縦横無尽に振り回されるロゼの聖剣ソが、時折智里やイェルバートのについたものまでひっぱたく、もはや完全なる暴走であった。
心頭滅却すれば、そう思っていた時期が私にもありました。
自己暗示なんてとうの昔に消え去って、あとはただ暴れるのみである。
後の掃除が必要な沙汰になったことは、言うまでもない。
●これが飲まずにいられるか!
エリクシアが手を回していたのだろう、お風呂まで用意されており、全員綺麗になってからの慰労の会となった。
食中毒とか、怖いしね。
だが、それで精神的ダメージが回復出来るかと言えばそうでもないらしく、ミィナは会場の端で死んでいた。
手には「クリーニング票」が握られている。
下取りは拒否された、是非もない。
「Gが……Gが顔目がけて……」
その隣では智里が同じように転がっている。
しっかりとトラウマになったのは語るまでも無いだろう。
そんな二人の様子を眺めながら少し離れた場所に背を預けて頭を擦る氷雨である。
頭には大福サイズのコブにバッテンの絆創膏が貼られていた、まだ痛い。
死んだ二人から視線をそらし、仕事で助けた酒場から寄贈された地酒をちびちびとやりつつ、賑やかそうなグループを眺めて体を癒やすのであった。
「皆、大丈夫ぅ? 私は怖くってチワワのようにぷるぷるしちゃったわよぉ」
居たのは狂犬だと思うな、という言葉を飲み込むシルヴァの後ろに隠れるように、ブチ切れたロゼを見たミモザが様子を伺っていた。
触らぬロゼに祟りなし。
「どうだった、ミモザさん」
「えと、楽しかった……です」
ルスティロの質問に笑いながら返す。
彼女にとって今日の一日はおそらく特別な意味を持つだろう。
「ハンターになりたいって聞いたんだけど……理由、訊いてもいいかな」
イェルバートの問いに、少しだけ視線を泳がせて言葉を探す。
「私……自分のこと、何も知らないから」
だから、知りたいと。
そう答えた少女に、そっと頷いて返す。
「なるほどな。確かにそれならハンターはうってつけだ」
それに元気そうでよかった、と続けたグリムバルドに嬉しそうな笑みを返す。
ミモザを中心に今までのことや、これからのことを話す。
途中、ミモザがミィナと智里にご飯を持っていったことで二人も復活して話に加わる。
「美味しい~、このレシピ教えてもらえるのん?」
「あ、いいね。僕も知りたい」
「私もお料理したい!」
なんとも平和な一時が過ぎてゆく。
宴もたけなわとなった頃合いになって、酒気の一切しない晴香が突然グリムバルドを捕獲するまでは、比較的穏やかだった。
酒をつまみにチーズを、いや……量的に逆である。
チーズをごくんと飲みながらつまみに酒をやっているのである。
「試しに飲んでみようぜ、な?」
とんだ絡まれ方もあったものである、あまりのことと晴香の小脇に確保され、その大きさに焦るグリムバルド。
飲むのか……チーズを。
ごくんと試しにやってみた。
チーズは、飲み物でした! なんてことはなく、喉につまらせたグリムバルドの背中をミモザが大慌てで叩くことになった。
宴は夜まで続いた、骨休めに、なっただろうか?
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
---|
面白かった! | 6人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/06/07 21:30:03 |
|
![]() |
口にしてはいけない名前のアイツ ロス・バーミリオン(ka4718) 人間(リアルブルー)|32才|男性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2017/06/07 23:27:05 |