ゲスト
(ka0000)
【魔性】殺人鬼の夜
マスター:雪村彩人

- シナリオ形態
- シリーズ(続編)
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 8日
- 締切
- 2017/06/27 12:00
- 完成日
- 2017/07/11 22:22
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
ローラは拳銃の銃口をむけた。護身用にもってきたものである。その先には一人の男が立っていた。
薄く笑ったごつい体格の男。目には狂気の光がやどっている。殺人鬼だ。
湖畔。ローラと友人はキャンプをしていた。が、今生きているのはローラ一人。眼前の殺人鬼の手により次々と友人たちは殺されてしまったのであった。
殺人鬼の噂は、あった。が、役人に殺害されたとローラは聞いていた。殺人鬼の死体は見つからなかったそうであるが。
「死ね!」
ローラはトリガーをひいた。着弾の衝撃に男がよろめく。が、ローラの指はとまらなかった。次々と弾丸を男の身体に叩き込む。
やがて男が倒れた。それでもローラはトリガーを引き続けていた。彼女の指がとまったのは男が倒れてから五分も経った頃である。
荒い息を吐いてローラはその場に座り込んだ。尻餅をついたまま動けない。腰が抜けてしまったのだった。
刹那。
男が何事もなかったかのようにむくりと身を起こした。信じられないものを見るようにローラの目が大きく見開かれる。
「どう……して? 撃ったはず……なのに」
瞬間、男の手からナイフがとんだ。それには機関砲並みの威力が秘められている。ローラの頭蓋を爆砕した後、ナイフはなおも飛び、樹木の幹に突きたった。
●
「いいところでしょう?」
十七歳ほど。清楚な印象の少女が可愛らしく微笑った。
名前はアリシア。依頼人の娘である。
問われたのは数人の男女であった。ハンターである。依頼を果たしてくれた礼として別荘として利用しているコテージにアリシアが案内したのであった。
ハンターたちがうなずいた。そして澄んだ水をたたえる湖を眺めた。
「じゃあ楽しんでくださいね。良い肉と野菜、それからお酒も用意してありますから。明後日、迎えにきますね」
告げると、アリシアは背を返した。ハンターたちが苦笑しつつ見送る。
この時、ハンターたちは知らなかった。じっと彼らを見つめる目があったことを。そして、その目には真っ黒な殺意が渦巻いていることを。
殺人鬼の夜が降りるのはもうすぐであった。
ローラは拳銃の銃口をむけた。護身用にもってきたものである。その先には一人の男が立っていた。
薄く笑ったごつい体格の男。目には狂気の光がやどっている。殺人鬼だ。
湖畔。ローラと友人はキャンプをしていた。が、今生きているのはローラ一人。眼前の殺人鬼の手により次々と友人たちは殺されてしまったのであった。
殺人鬼の噂は、あった。が、役人に殺害されたとローラは聞いていた。殺人鬼の死体は見つからなかったそうであるが。
「死ね!」
ローラはトリガーをひいた。着弾の衝撃に男がよろめく。が、ローラの指はとまらなかった。次々と弾丸を男の身体に叩き込む。
やがて男が倒れた。それでもローラはトリガーを引き続けていた。彼女の指がとまったのは男が倒れてから五分も経った頃である。
荒い息を吐いてローラはその場に座り込んだ。尻餅をついたまま動けない。腰が抜けてしまったのだった。
刹那。
男が何事もなかったかのようにむくりと身を起こした。信じられないものを見るようにローラの目が大きく見開かれる。
「どう……して? 撃ったはず……なのに」
瞬間、男の手からナイフがとんだ。それには機関砲並みの威力が秘められている。ローラの頭蓋を爆砕した後、ナイフはなおも飛び、樹木の幹に突きたった。
●
「いいところでしょう?」
十七歳ほど。清楚な印象の少女が可愛らしく微笑った。
名前はアリシア。依頼人の娘である。
問われたのは数人の男女であった。ハンターである。依頼を果たしてくれた礼として別荘として利用しているコテージにアリシアが案内したのであった。
ハンターたちがうなずいた。そして澄んだ水をたたえる湖を眺めた。
「じゃあ楽しんでくださいね。良い肉と野菜、それからお酒も用意してありますから。明後日、迎えにきますね」
告げると、アリシアは背を返した。ハンターたちが苦笑しつつ見送る。
この時、ハンターたちは知らなかった。じっと彼らを見つめる目があったことを。そして、その目には真っ黒な殺意が渦巻いていることを。
殺人鬼の夜が降りるのはもうすぐであった。
リプレイ本文
●
「せっかくの依頼人からの申し出だ。少しのんびりさせて貰おう」
豪放無頼という言葉の似合う青年がいった。名を榊 兵庫(ka0010)という。
うなずいたのはロニ・カルディス(ka0551)という名の若者であった。落ち着いた物腰のドワーフである。
「ふぅ……このところ荒事続きだったから、偶には骨休めも良いだろう。さすがにここまで来て、何か起きることもあるまい」
「そうですよ」
アメリア・フォーサイス(ka4111)という名の娘が綺麗な青瞳を輝かせた。森中のコテージでのんびりできるのが嬉しくてたまらぬらしい。
「たまにはこういう休みも良いですよー。ハードな依頼ばっかりだったし、この辺りは自然豊かで空気も美味しいし、これで温泉でも湧いてたら最高なんですけどねー」
「そうは贅沢もいえませんよ」
艶やかな緑色の髪を肩のあたりで切りそろえた少女が苦笑した。美しい少女だ。それはエルフであるからかもしれない。
美少女――リン・フュラー(ka5869)はいった。
「せっかくのアリシアさんの厚意です。先に受けた依頼の疲れを次に残さないように、楽しませてもらいましょう」
「ところで」
女がコテージを見回した。二十歳ほどの娘。よほど鍛えているのか、引き締まった肉体の持ち主であった。名をボルディア・コンフラムス(ka0796)という。
「変わった計らいだが……ここってアリシアの持ち物なンかな?」
ボルディアは訝しげに眉をひそめた。が、それも一瞬。すぐに彼女は持ち前の放胆さを取り戻した。
「ま、なこたぁどうでもいい。ゆっくりさせて貰うとすっか!」
●
「ふー、食った食った~」
アリシアが用意した上等の肉や野菜を平らげ、その銀髪の少女は満足そうにソファに身を投げ出した。名を天竜寺 舞(ka0377)という。
そこはリビングであった。いるのは舞一人である。他の者はそれぞれの時間を過ごしているはずであった。
「腹ごなしも兼ねて、やるか」
扇子を手に、舞は立ち上がった。そして、ゆるりと舞い始めた。流麗な動きは美しいの一言だ。彼女が日課としている日舞であった。
同じ時、寝室からは鼻歌が流れ出ていた。
ベッドの上。パジャマ姿の白瓏たる美少女の姿があった。ディーナ・フェルミ(ka5843)という名の少女であるのだが、ひどく楽しそうだ。
「ふんふんふーん、寝る前のおやつは至福なのー、お猫さまが待ってるのー」
鼻歌を繰り返しつつ、ディーナは猫にブラッシングしていた。それがよほど心地よいのか、猫はじっと目を閉じている。
ディーナがふと手をとめた。そしてトレイにのせたサンドイッチをほ頬張った。
「なんて美味しいの」
それからディーナはホットミルクを口に含んだ。ほっと息をもらす。至福の時間であった。
シャワーカーテンに朧な人影が滲んでいる。ボルディアであった。
ほっと息をつくと、ボルディアは顔をあげた。水が彼女の顔をうち、その引き締まった裸体を身体の線に沿って流れ落ちていく。凄艶ともいうべき眺めであった。
「相変わらず真面目だね」
声がした。虫の声のみ響く静かな闇に。
コテージの外。窓からもれる明かりの光のみが唯一の光源だ。
武器の手入れを行っていた手をとめ。ロニは顔を上げた。コテージの入口を背に、一人の娘が立っている。額には角が一本生えていた。
骸香(ka6223)。鬼の娘であった。
「そうじゃない」
ロニは苦く笑った。
「これは習慣……いわば癖のようなものだ」
真面目、といわれるべき者はもう一人いた。リンだ。
リンは寝室にいた。食事を終えて語らった後、彼女は早々に寝室にむかったのである。
ベッドに腰掛けると、リンは抜刀した。
分厚い刀身を持つ大太刀。彼女の愛刀である土蜘蛛である。
「あなたにも無理をさせてきましたね」
慰撫するようにいうと、リンは土蜘蛛の手入れを始めた。
窓から吹き込む風は思いのほか涼しく、濃い碧の匂いを含んでいた。
その風に吹かれ、兵庫は一人、酒を口に運んでいる。ただ心を風に溶かして。彼の精神はどこまでも澄み渡っていた。
八人のハンター中、もっともこの状況を楽しんでいるのはアメリアであるかもしれない。
彼女の姿は屋根の上にあった。通常ならば難しい行為であるのだが、今のアメリアにとっては造作もないことであった。
アメリアの瞳は金色に輝いている。覚醒しているのであった。
「なんて素敵なのかしら」
ワイングラスを手に、ほっとアメリアはため息をこぼした。遠くに月光に煌く湖面が見えている。
その時、アメリアの脳裏を殺人鬼の噂がよぎった。が、すぐに彼女はその噂を忘れた。
「それがなんぼのもんじゃい」
●
音もなく浴室のドアが開いた。が、シャワーの音のためか、さしものボルディアが気づくにことはない。
浴室に滑り込んだ影はゆっくりとボルディアに接近していった。
「うん?」
気配を感じ、ボルディアは閉じていた目を開いた。
「誰かそこにいるのかよ。舞か?」
ボルディアが問うた。
刹那である。シャワーカーテンが引きちぎられた。驚いて目をむけたボルディアの視線の先、男の姿があった。
咄嗟にボルディアの脳裏に浮かんだのは痴漢という言葉である。が、こういう場合に女性がとる行動と彼女のそれは違った。反射的にボルディアは身構えた。
結果として、それがボルディアの命を救った。心臓めがけて突き出された男のナイフはかまえられた彼女の腕に遮られ、腹部へと疾った。
凄まじい撃痛にボルディアは息をつめた。それでも敵の腕をとったのはさすがである。
ボルディアは男の小指をひねった。が、男はかまわずナイフをこねくりまわした。
「ぐあっ」
たまらずボルディアは苦鳴をもらした。そして男に頭を打ち付けた。が、男は怯まない。むしろニヤリとした。
その時に至り、ようやくボルディアは敵の正体を悟った。化物である。血の坩堝のような真紅の瞳が彼女を凝視していた。
「まずいぜ。このままじゃあ……」
ボルディアの意識が遠のきはじめた。傷が深い。
その時、彼女の耳が変化した。犬の耳となる。さらに尻からは尻尾が生えた。覚醒したのだ。
次の瞬間、ボルディアはマテリアルを全身にめぐらせた。傷を一瞬で修復させる。
「俺の裸を見て、まさか生きて帰れると思っちゃねぇだろうなぁ、アァ!?」
ボルディアが叫んだ。すると男が背を返した。襲撃失敗を悟ったのである。
追おうとしてボルディアは足をとめた。裸で飛び出すことはさすがに躊躇われたのだ。
●
真っ先に異変を察知したのは舞であった。リビングから廊下に走り込む。すると浴室から飛び出す男の姿を見とめた。その手には血濡れたナイフが握られている。
「あんた……そういやこの辺りに殺人鬼がいるって噂を聞いたっけ」
一瞬で舞は事態を悟った。そして男を睨みつけた。
「一人でハンター達を襲うとはいい度胸だね!」
叫ぶ舞の姿が消失した。そうとしか見えぬ瞬速の機動力で接近、舞は男を襲った。一刹那の間に数度の斬撃を男の身に送り込む。通常の人間ならば、これだけで瀕死の状態になるだろう。
が、男は通常の人間ではなかった。溢れる鮮血が彼の傷を瞬時に塞いでしまったのだ。
愕然とする舞を男のナイフが薙いだ。はねられた彼女の首から鮮血がしぶく。
舞に見向きもすることなく、男は逃走に移った。裏口から外に飛び出す。が、男の足が突如とまった。その眼前にひらりと舞い降りてきた者があったからだ。
「変質者? 殺人鬼? そんなこと関係ありません!」
アメリアが叫んだ。怒っているのである。
「私の! 久しぶりの! ゆったりした! お休みを! 何台無しにしてくれてるんですか!?」
魔法のような手並みでアメリアの両手に拳銃が現れた。続いて発砲。
二つの銃弾が着弾した。
「ぬっ」
よろめいた男の目が愕然として見開かれた。撃たれた傷口が塞がらない。傷口が凍結してしまっていた。
男はナイフを投げた。それは機関砲並みの威力と速度をもっていた。が、アメリアは躱した。正確には致命の一点を避けた。それは超人的な彼女の動体視力と洞察力によるものである。
ナイフはアメリアを脇をえぐって飛んだ。それだけでアメリアの身が吹き飛んだ。衝撃によって。
倒れつつ、意識を失う前にアメリアは次弾を放った。一発が男の足を穿う。
男がじろりとアメリアを睨みつけた。その手には別のナイフが握られている。男はアメリアにむかってナイフを投擲した。
●
光が散った。そして、ナイフは地に落ちた。光の障壁が突如現れ、アメリアを守ったのである。
「お前は何者だ?」
ロニが問うた。今見たナイフの威力はただ事ではない。人間の力とは思えなかった。
こたえる代わりに男の手にまたもやナイフが現れた。ロニめがけて馳せる。
その時だ。ロニの全身が清らかな光に包まれた。その光にうたれた男が足をとめる。
「くっ」
男が呻いた。ロニの放った聖なる光が男の邪悪な細胞そのものを灼いているのである。彼の魔性の血をもってしてもそれは癒せない。
たまらず男は背を返した。その姿からは窺い知れないが、この時、枯れ木激しく後悔している。コテージを襲ったことを。
今回もいつもどおり楽しめるはずだった。彼が力をくれてからはいつもそうだ。銃とて恐くはなかった。
それなのにしくじった。まずはシャワー室の女を殺り、それから一人ずつ殺していくつもりだったのに。最初の女の強さはどうだ。れに今の男が放った光は。無敵の身体が治らない。
「くそっ」
ごちた男の目がかっと見開かれた。彼の眼前、一人の女が飛び込んで来たからだ。
女――骸香の両目が赤光を放った。その髪は禍々しい赤黒い色に変わっている。さらに右手の甲に凶、左手の甲には戯という文字が浮かび上がっていた。
声もなく骸香は男の腹に短刀の刃をぶち込んだ。その刃だが、ただの刃ではない。刃にはマテリアルを変質させた毒を纏わせてあった。
「ぐっ」
くぐもった声を男はもらした。苦しいはずだ。が、男の目は赤く光った。骸香の腕を掴む。
べきり。
男は無造作に骸香の腕をへし折った。枯れ木を居るに呆気なく。
「やってくれるね」
骸香の足がはねあがった。が、蹴りを放つことはなかった。男がナイフを骸香の胸に突き立てたからだ。
「あっ」
骸香の口から鮮血が溢れた。急速に彼女の意識が白濁する。とどめを刺すべく男はナイフで胸をえぐろうとし――。
「やめて!」
悲鳴に似た叫びが発せられた。ディーナのものだ。そして白光が男をうった。
「くくっ」
男が歯噛みした。そして振り返りざま、骸香をディーナに投げつけた。
「おっと」
走りきたった影が骸香の身体を抱きとめた。
「何だ、あいつは?」
影――兵庫が問うた。ディーナが首を横に振る。
「わかりません。騒ぎを聞きつけてやってきたら――」
ディーナが涙ぐんだ。ここに来るまでに血まみれの舞を治療した。アメリアの治療はまだだ。惨憺たる有様である。
「……前にもこんな事があったな。前回は老婆だったが、今回はごつい野郎か。こちらの命を狙ってきた以上、やることは一つだな」
兵庫は骸香の身体を地に横たえた。そしてディーナをちらりと見やると、
「治療を頼む」
兵庫は立ち上がった。男は逃走を試みたが足をとめたままだ。その足を光の杭が貫いていた。ロニだ。
その時、兵庫の傍らを走り抜けた者があった。リンだ。地を滑るように馳せ、一気に間合いを詰める。
男が振り向いた。ナイフを突き出す。が、リンはとまらなかった。あえて肉薄。
当然、男のナイフはリンの腹を貫いた。凄まじい衝撃にリンの身が震える。
が、その時、すでにリンは攻撃態勢に入っていた。瞳を赤く輝かせた彼女の放つ一撃は一切の防御を捨てた捨て身のもの。すべてを打ち砕く無双の一閃だ。
炎の尾をひいた剣光が下方から噴いた。空に舞ったのは切断された男の右腕だ。
その右腕をちらりと眺め、リンはこの場合、凱歌の笑みをうかべた。
「後はお願いします」
「任せろ」
倒れふしたリンの背後。うっそりと立つのは兵庫であった。その全身には血をにじませた傷跡が浮かび上がっている。
「俺に断てぬものはない」
あらゆる力を刃にやどし、兵庫は日本刀――白狼をたばしらせた。
ひゅうるるる。
狼の遠吠えのような刃音が響いた後、男の首は空に舞っていた。
「ちっ」
舌打ちの音がしたのは、男の首が地に落ちてすぐであった。魔斧モレクを手にしたボルディアである。
「服を着るのに手間取って良いところを逃してしまったかよ」
大げさにボルディアは嘆いてみせた。
●
その後、ハンターたちは付近を捜索した。そして数体の死体を発見した。
傷跡はいずれもナイフによるもの。男の仕業であろう。
「噂の殺人鬼だったんでしょうか」
死体を前に、ディーナが震える声で問うた。
「そうだろうな」
ロニがうなずいた。
「人間じゃないな」
舞が呟いた。その怪力といい、血で傷を塞ぐ能力といい、人間業とは思えなかった。
その時、舞の脳裏に過去に出会った者たちのことが浮かび上がった。
「まさか……こいつにもベルンシュタインが噛んでるんじゃあないだろうな」
「俺もそう見た」
兵庫がうなずいた。が、わからない。ベルンシュタインの意図が。ひのような殺人鬼に力を与えてなんの利益があるというのか。
「えかしいといえばアリシアもだぜ」
ボルディアがいった。
「考えてみりゃあ、酒や食事をわざわざ用意するなんざ、手間ぁかかりすぎだもんなぁ。……うん?」
ボルディアが辺りを見回した。七人しかいない。
「一人、忘れてやしないか?」
その一人はシャワーをあびた後、ベッドで寛いでいた。
「私は、休みたいんです、楽しみたいんです!」
アリシアはワインを喉に流し込んだ。
「せっかくの依頼人からの申し出だ。少しのんびりさせて貰おう」
豪放無頼という言葉の似合う青年がいった。名を榊 兵庫(ka0010)という。
うなずいたのはロニ・カルディス(ka0551)という名の若者であった。落ち着いた物腰のドワーフである。
「ふぅ……このところ荒事続きだったから、偶には骨休めも良いだろう。さすがにここまで来て、何か起きることもあるまい」
「そうですよ」
アメリア・フォーサイス(ka4111)という名の娘が綺麗な青瞳を輝かせた。森中のコテージでのんびりできるのが嬉しくてたまらぬらしい。
「たまにはこういう休みも良いですよー。ハードな依頼ばっかりだったし、この辺りは自然豊かで空気も美味しいし、これで温泉でも湧いてたら最高なんですけどねー」
「そうは贅沢もいえませんよ」
艶やかな緑色の髪を肩のあたりで切りそろえた少女が苦笑した。美しい少女だ。それはエルフであるからかもしれない。
美少女――リン・フュラー(ka5869)はいった。
「せっかくのアリシアさんの厚意です。先に受けた依頼の疲れを次に残さないように、楽しませてもらいましょう」
「ところで」
女がコテージを見回した。二十歳ほどの娘。よほど鍛えているのか、引き締まった肉体の持ち主であった。名をボルディア・コンフラムス(ka0796)という。
「変わった計らいだが……ここってアリシアの持ち物なンかな?」
ボルディアは訝しげに眉をひそめた。が、それも一瞬。すぐに彼女は持ち前の放胆さを取り戻した。
「ま、なこたぁどうでもいい。ゆっくりさせて貰うとすっか!」
●
「ふー、食った食った~」
アリシアが用意した上等の肉や野菜を平らげ、その銀髪の少女は満足そうにソファに身を投げ出した。名を天竜寺 舞(ka0377)という。
そこはリビングであった。いるのは舞一人である。他の者はそれぞれの時間を過ごしているはずであった。
「腹ごなしも兼ねて、やるか」
扇子を手に、舞は立ち上がった。そして、ゆるりと舞い始めた。流麗な動きは美しいの一言だ。彼女が日課としている日舞であった。
同じ時、寝室からは鼻歌が流れ出ていた。
ベッドの上。パジャマ姿の白瓏たる美少女の姿があった。ディーナ・フェルミ(ka5843)という名の少女であるのだが、ひどく楽しそうだ。
「ふんふんふーん、寝る前のおやつは至福なのー、お猫さまが待ってるのー」
鼻歌を繰り返しつつ、ディーナは猫にブラッシングしていた。それがよほど心地よいのか、猫はじっと目を閉じている。
ディーナがふと手をとめた。そしてトレイにのせたサンドイッチをほ頬張った。
「なんて美味しいの」
それからディーナはホットミルクを口に含んだ。ほっと息をもらす。至福の時間であった。
シャワーカーテンに朧な人影が滲んでいる。ボルディアであった。
ほっと息をつくと、ボルディアは顔をあげた。水が彼女の顔をうち、その引き締まった裸体を身体の線に沿って流れ落ちていく。凄艶ともいうべき眺めであった。
「相変わらず真面目だね」
声がした。虫の声のみ響く静かな闇に。
コテージの外。窓からもれる明かりの光のみが唯一の光源だ。
武器の手入れを行っていた手をとめ。ロニは顔を上げた。コテージの入口を背に、一人の娘が立っている。額には角が一本生えていた。
骸香(ka6223)。鬼の娘であった。
「そうじゃない」
ロニは苦く笑った。
「これは習慣……いわば癖のようなものだ」
真面目、といわれるべき者はもう一人いた。リンだ。
リンは寝室にいた。食事を終えて語らった後、彼女は早々に寝室にむかったのである。
ベッドに腰掛けると、リンは抜刀した。
分厚い刀身を持つ大太刀。彼女の愛刀である土蜘蛛である。
「あなたにも無理をさせてきましたね」
慰撫するようにいうと、リンは土蜘蛛の手入れを始めた。
窓から吹き込む風は思いのほか涼しく、濃い碧の匂いを含んでいた。
その風に吹かれ、兵庫は一人、酒を口に運んでいる。ただ心を風に溶かして。彼の精神はどこまでも澄み渡っていた。
八人のハンター中、もっともこの状況を楽しんでいるのはアメリアであるかもしれない。
彼女の姿は屋根の上にあった。通常ならば難しい行為であるのだが、今のアメリアにとっては造作もないことであった。
アメリアの瞳は金色に輝いている。覚醒しているのであった。
「なんて素敵なのかしら」
ワイングラスを手に、ほっとアメリアはため息をこぼした。遠くに月光に煌く湖面が見えている。
その時、アメリアの脳裏を殺人鬼の噂がよぎった。が、すぐに彼女はその噂を忘れた。
「それがなんぼのもんじゃい」
●
音もなく浴室のドアが開いた。が、シャワーの音のためか、さしものボルディアが気づくにことはない。
浴室に滑り込んだ影はゆっくりとボルディアに接近していった。
「うん?」
気配を感じ、ボルディアは閉じていた目を開いた。
「誰かそこにいるのかよ。舞か?」
ボルディアが問うた。
刹那である。シャワーカーテンが引きちぎられた。驚いて目をむけたボルディアの視線の先、男の姿があった。
咄嗟にボルディアの脳裏に浮かんだのは痴漢という言葉である。が、こういう場合に女性がとる行動と彼女のそれは違った。反射的にボルディアは身構えた。
結果として、それがボルディアの命を救った。心臓めがけて突き出された男のナイフはかまえられた彼女の腕に遮られ、腹部へと疾った。
凄まじい撃痛にボルディアは息をつめた。それでも敵の腕をとったのはさすがである。
ボルディアは男の小指をひねった。が、男はかまわずナイフをこねくりまわした。
「ぐあっ」
たまらずボルディアは苦鳴をもらした。そして男に頭を打ち付けた。が、男は怯まない。むしろニヤリとした。
その時に至り、ようやくボルディアは敵の正体を悟った。化物である。血の坩堝のような真紅の瞳が彼女を凝視していた。
「まずいぜ。このままじゃあ……」
ボルディアの意識が遠のきはじめた。傷が深い。
その時、彼女の耳が変化した。犬の耳となる。さらに尻からは尻尾が生えた。覚醒したのだ。
次の瞬間、ボルディアはマテリアルを全身にめぐらせた。傷を一瞬で修復させる。
「俺の裸を見て、まさか生きて帰れると思っちゃねぇだろうなぁ、アァ!?」
ボルディアが叫んだ。すると男が背を返した。襲撃失敗を悟ったのである。
追おうとしてボルディアは足をとめた。裸で飛び出すことはさすがに躊躇われたのだ。
●
真っ先に異変を察知したのは舞であった。リビングから廊下に走り込む。すると浴室から飛び出す男の姿を見とめた。その手には血濡れたナイフが握られている。
「あんた……そういやこの辺りに殺人鬼がいるって噂を聞いたっけ」
一瞬で舞は事態を悟った。そして男を睨みつけた。
「一人でハンター達を襲うとはいい度胸だね!」
叫ぶ舞の姿が消失した。そうとしか見えぬ瞬速の機動力で接近、舞は男を襲った。一刹那の間に数度の斬撃を男の身に送り込む。通常の人間ならば、これだけで瀕死の状態になるだろう。
が、男は通常の人間ではなかった。溢れる鮮血が彼の傷を瞬時に塞いでしまったのだ。
愕然とする舞を男のナイフが薙いだ。はねられた彼女の首から鮮血がしぶく。
舞に見向きもすることなく、男は逃走に移った。裏口から外に飛び出す。が、男の足が突如とまった。その眼前にひらりと舞い降りてきた者があったからだ。
「変質者? 殺人鬼? そんなこと関係ありません!」
アメリアが叫んだ。怒っているのである。
「私の! 久しぶりの! ゆったりした! お休みを! 何台無しにしてくれてるんですか!?」
魔法のような手並みでアメリアの両手に拳銃が現れた。続いて発砲。
二つの銃弾が着弾した。
「ぬっ」
よろめいた男の目が愕然として見開かれた。撃たれた傷口が塞がらない。傷口が凍結してしまっていた。
男はナイフを投げた。それは機関砲並みの威力と速度をもっていた。が、アメリアは躱した。正確には致命の一点を避けた。それは超人的な彼女の動体視力と洞察力によるものである。
ナイフはアメリアを脇をえぐって飛んだ。それだけでアメリアの身が吹き飛んだ。衝撃によって。
倒れつつ、意識を失う前にアメリアは次弾を放った。一発が男の足を穿う。
男がじろりとアメリアを睨みつけた。その手には別のナイフが握られている。男はアメリアにむかってナイフを投擲した。
●
光が散った。そして、ナイフは地に落ちた。光の障壁が突如現れ、アメリアを守ったのである。
「お前は何者だ?」
ロニが問うた。今見たナイフの威力はただ事ではない。人間の力とは思えなかった。
こたえる代わりに男の手にまたもやナイフが現れた。ロニめがけて馳せる。
その時だ。ロニの全身が清らかな光に包まれた。その光にうたれた男が足をとめる。
「くっ」
男が呻いた。ロニの放った聖なる光が男の邪悪な細胞そのものを灼いているのである。彼の魔性の血をもってしてもそれは癒せない。
たまらず男は背を返した。その姿からは窺い知れないが、この時、枯れ木激しく後悔している。コテージを襲ったことを。
今回もいつもどおり楽しめるはずだった。彼が力をくれてからはいつもそうだ。銃とて恐くはなかった。
それなのにしくじった。まずはシャワー室の女を殺り、それから一人ずつ殺していくつもりだったのに。最初の女の強さはどうだ。れに今の男が放った光は。無敵の身体が治らない。
「くそっ」
ごちた男の目がかっと見開かれた。彼の眼前、一人の女が飛び込んで来たからだ。
女――骸香の両目が赤光を放った。その髪は禍々しい赤黒い色に変わっている。さらに右手の甲に凶、左手の甲には戯という文字が浮かび上がっていた。
声もなく骸香は男の腹に短刀の刃をぶち込んだ。その刃だが、ただの刃ではない。刃にはマテリアルを変質させた毒を纏わせてあった。
「ぐっ」
くぐもった声を男はもらした。苦しいはずだ。が、男の目は赤く光った。骸香の腕を掴む。
べきり。
男は無造作に骸香の腕をへし折った。枯れ木を居るに呆気なく。
「やってくれるね」
骸香の足がはねあがった。が、蹴りを放つことはなかった。男がナイフを骸香の胸に突き立てたからだ。
「あっ」
骸香の口から鮮血が溢れた。急速に彼女の意識が白濁する。とどめを刺すべく男はナイフで胸をえぐろうとし――。
「やめて!」
悲鳴に似た叫びが発せられた。ディーナのものだ。そして白光が男をうった。
「くくっ」
男が歯噛みした。そして振り返りざま、骸香をディーナに投げつけた。
「おっと」
走りきたった影が骸香の身体を抱きとめた。
「何だ、あいつは?」
影――兵庫が問うた。ディーナが首を横に振る。
「わかりません。騒ぎを聞きつけてやってきたら――」
ディーナが涙ぐんだ。ここに来るまでに血まみれの舞を治療した。アメリアの治療はまだだ。惨憺たる有様である。
「……前にもこんな事があったな。前回は老婆だったが、今回はごつい野郎か。こちらの命を狙ってきた以上、やることは一つだな」
兵庫は骸香の身体を地に横たえた。そしてディーナをちらりと見やると、
「治療を頼む」
兵庫は立ち上がった。男は逃走を試みたが足をとめたままだ。その足を光の杭が貫いていた。ロニだ。
その時、兵庫の傍らを走り抜けた者があった。リンだ。地を滑るように馳せ、一気に間合いを詰める。
男が振り向いた。ナイフを突き出す。が、リンはとまらなかった。あえて肉薄。
当然、男のナイフはリンの腹を貫いた。凄まじい衝撃にリンの身が震える。
が、その時、すでにリンは攻撃態勢に入っていた。瞳を赤く輝かせた彼女の放つ一撃は一切の防御を捨てた捨て身のもの。すべてを打ち砕く無双の一閃だ。
炎の尾をひいた剣光が下方から噴いた。空に舞ったのは切断された男の右腕だ。
その右腕をちらりと眺め、リンはこの場合、凱歌の笑みをうかべた。
「後はお願いします」
「任せろ」
倒れふしたリンの背後。うっそりと立つのは兵庫であった。その全身には血をにじませた傷跡が浮かび上がっている。
「俺に断てぬものはない」
あらゆる力を刃にやどし、兵庫は日本刀――白狼をたばしらせた。
ひゅうるるる。
狼の遠吠えのような刃音が響いた後、男の首は空に舞っていた。
「ちっ」
舌打ちの音がしたのは、男の首が地に落ちてすぐであった。魔斧モレクを手にしたボルディアである。
「服を着るのに手間取って良いところを逃してしまったかよ」
大げさにボルディアは嘆いてみせた。
●
その後、ハンターたちは付近を捜索した。そして数体の死体を発見した。
傷跡はいずれもナイフによるもの。男の仕業であろう。
「噂の殺人鬼だったんでしょうか」
死体を前に、ディーナが震える声で問うた。
「そうだろうな」
ロニがうなずいた。
「人間じゃないな」
舞が呟いた。その怪力といい、血で傷を塞ぐ能力といい、人間業とは思えなかった。
その時、舞の脳裏に過去に出会った者たちのことが浮かび上がった。
「まさか……こいつにもベルンシュタインが噛んでるんじゃあないだろうな」
「俺もそう見た」
兵庫がうなずいた。が、わからない。ベルンシュタインの意図が。ひのような殺人鬼に力を与えてなんの利益があるというのか。
「えかしいといえばアリシアもだぜ」
ボルディアがいった。
「考えてみりゃあ、酒や食事をわざわざ用意するなんざ、手間ぁかかりすぎだもんなぁ。……うん?」
ボルディアが辺りを見回した。七人しかいない。
「一人、忘れてやしないか?」
その一人はシャワーをあびた後、ベッドで寛いでいた。
「私は、休みたいんです、楽しみたいんです!」
アリシアはワインを喉に流し込んだ。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/06/25 07:59:46 |
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相談卓だよ 天竜寺 舞(ka0377) 人間(リアルブルー)|18才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2017/06/26 22:58:07 |