ゲスト
(ka0000)
ボラ族、迷子になる
マスター:DoLLer

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~12人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/11/01 09:00
- 完成日
- 2014/11/02 23:08
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
先月、無事に帝国にて山中とはいえ、住処を得ることができた辺境よりの移民ボラ族。彼らの面倒を見ることになった帝国政府地方内務課員メルことメルツェーデスはおかげで毎日山登りをすることになった。
「か弱い乙女に何させんだっつーの」
しかし、ボロボロになって、次の日から数日は筋肉痛にのたうちまわる日々は終わった。彼女は今、風を切っていた。帝国の機導技術が生んだ魔導車を業務上どうしても必要だと課長に食い下がって、使用許可を得たのだ。車は強烈な坂道をものともせず風を切りつつ登っていく。その疾走感に酔いしれながら……若干車酔いもしていた。舗装されてもないただの山道なのだから仕方ない。
「あー、しんど。ボラ族に道の舗装工事やってもらおうかしら……車がもっと楽に通れたら、ボラ族への届け物もきっと楽になるはずよね。うん、互いの為!!」
半分、公私混同ともとられかねないような思い付きに、何度もうなずきながら、メルはボラ族が居住している元炭焼き小屋の扉を開けた。
お願いするにはまず出だしが肝心。爽やかに! 笑顔で!! そして交渉!!!
「おっはよー♪ みんな、元気ぃ?」
メルの声が木霊した。
ボラ族が全員収容できるように拡張された炭焼き小屋は広々としていた。中にいるのが一人だけだから、特にそう感じる。
一人……一人!?
「あら、おはよう。メル。ご機嫌ね」
中にいたのはボラ族の女性であるレイアだった。かまどの前で乳飲み子を抱いてあやしながら、火の番をしているようであった。
いやいや、ボラ族は一応、一部族。30人弱はいるはずである。彼女一人っきりなど初めて見る光景だ。
「あのさ。他の人達は、どこ?」
「皆、首都に行ったわ。バルトアン……なんだっけ? 帝国はどんな生活をしているのか、みんな気になってる。だから、みんなで学びに出かけた。私はこの子がいるから、留守番ね」
のんびり赤子を揺らしてそう語るレイアのおっとりした口調に思わず「あ、そうなんだー」とメルも頷き。そして、いやいやいやと慌てて首を振った。
「ちょっと、それいつの話よ!? ってか、みんな首都なんて行ったことないじゃん! 街中は人の数すごいのよ。建物の数だってすごいし、それに立ち入り禁止区域だって……」
自分で言って、は、とメルはまるで予言者のように何かを予感した。ボラ族の連中が街中で無銭飲食をして捕まる。立ち入り禁止区域にどうどう立ち入ってお縄になる姿。そしてそして。帝国師団長とか皇帝に対してその人とは知らず、無礼千万な働きをしてなます切りにされる姿が!
「まずい……万が一にもそんな事になったらあたしもタダじゃすまないわ」
メルは血の気が引いて真っ青になっていた。
帝国貴族の子女はボンボンが多くて使えない。帝国政府は兵士の裏方で大した仕事してない。地方内務課は無能の集まりなどと陰口を叩かれているのだ。はっきり言ってここでそんな追い打ちをくらったら帝国に居場所がなくなってしまう。
メルは慌てて踵を返すと魔導車に飛びのった。
「あーいーつーらー……!!! 見つけたらタダじゃすまないんだから!!」
レイアはそんなメルを手を振って見送った。
「じゃない! あんたも来るのよ! どうなに見た目や動きが奇天烈ったって、一人であんなでかい街中探せるわけないでしょ!」
「あら、連れて行ってくれるの?」
「魔導車の力があれば子連れだってあっと言う間よ! しっかり掴まってなさーい。血が騒いできたぁぁ」
レイアを助手席にに乗せると、もはや文官というより、霊闘士か走り屋みたいなことをのたまいながらメルは駆けだした。
「いない……いないーーーー!」
帝都について日が沈むまでの間、メルは必死になってボラ族の足取りを追ったものの、その姿を捕らえられなかった。何といっても帝都バルトアンデルス。一人で全区域を回って少人数を見つけだすなど不可能に近い。
「仕方ないわね。物量作戦でいくか……」
メルはきらり、とハンターオフィスを見上げたのであった。
「か弱い乙女に何させんだっつーの」
しかし、ボロボロになって、次の日から数日は筋肉痛にのたうちまわる日々は終わった。彼女は今、風を切っていた。帝国の機導技術が生んだ魔導車を業務上どうしても必要だと課長に食い下がって、使用許可を得たのだ。車は強烈な坂道をものともせず風を切りつつ登っていく。その疾走感に酔いしれながら……若干車酔いもしていた。舗装されてもないただの山道なのだから仕方ない。
「あー、しんど。ボラ族に道の舗装工事やってもらおうかしら……車がもっと楽に通れたら、ボラ族への届け物もきっと楽になるはずよね。うん、互いの為!!」
半分、公私混同ともとられかねないような思い付きに、何度もうなずきながら、メルはボラ族が居住している元炭焼き小屋の扉を開けた。
お願いするにはまず出だしが肝心。爽やかに! 笑顔で!! そして交渉!!!
「おっはよー♪ みんな、元気ぃ?」
メルの声が木霊した。
ボラ族が全員収容できるように拡張された炭焼き小屋は広々としていた。中にいるのが一人だけだから、特にそう感じる。
一人……一人!?
「あら、おはよう。メル。ご機嫌ね」
中にいたのはボラ族の女性であるレイアだった。かまどの前で乳飲み子を抱いてあやしながら、火の番をしているようであった。
いやいや、ボラ族は一応、一部族。30人弱はいるはずである。彼女一人っきりなど初めて見る光景だ。
「あのさ。他の人達は、どこ?」
「皆、首都に行ったわ。バルトアン……なんだっけ? 帝国はどんな生活をしているのか、みんな気になってる。だから、みんなで学びに出かけた。私はこの子がいるから、留守番ね」
のんびり赤子を揺らしてそう語るレイアのおっとりした口調に思わず「あ、そうなんだー」とメルも頷き。そして、いやいやいやと慌てて首を振った。
「ちょっと、それいつの話よ!? ってか、みんな首都なんて行ったことないじゃん! 街中は人の数すごいのよ。建物の数だってすごいし、それに立ち入り禁止区域だって……」
自分で言って、は、とメルはまるで予言者のように何かを予感した。ボラ族の連中が街中で無銭飲食をして捕まる。立ち入り禁止区域にどうどう立ち入ってお縄になる姿。そしてそして。帝国師団長とか皇帝に対してその人とは知らず、無礼千万な働きをしてなます切りにされる姿が!
「まずい……万が一にもそんな事になったらあたしもタダじゃすまないわ」
メルは血の気が引いて真っ青になっていた。
帝国貴族の子女はボンボンが多くて使えない。帝国政府は兵士の裏方で大した仕事してない。地方内務課は無能の集まりなどと陰口を叩かれているのだ。はっきり言ってここでそんな追い打ちをくらったら帝国に居場所がなくなってしまう。
メルは慌てて踵を返すと魔導車に飛びのった。
「あーいーつーらー……!!! 見つけたらタダじゃすまないんだから!!」
レイアはそんなメルを手を振って見送った。
「じゃない! あんたも来るのよ! どうなに見た目や動きが奇天烈ったって、一人であんなでかい街中探せるわけないでしょ!」
「あら、連れて行ってくれるの?」
「魔導車の力があれば子連れだってあっと言う間よ! しっかり掴まってなさーい。血が騒いできたぁぁ」
レイアを助手席にに乗せると、もはや文官というより、霊闘士か走り屋みたいなことをのたまいながらメルは駆けだした。
「いない……いないーーーー!」
帝都について日が沈むまでの間、メルは必死になってボラ族の足取りを追ったものの、その姿を捕らえられなかった。何といっても帝都バルトアンデルス。一人で全区域を回って少人数を見つけだすなど不可能に近い。
「仕方ないわね。物量作戦でいくか……」
メルはきらり、とハンターオフィスを見上げたのであった。
リプレイ本文
「まず、注意するのは大人ではゾールね。大きいからすぐわかるわ。少年たちではロッカ。あの子悪戯好きだから。見た目はとても可愛い。あなたみたい」
「え、俺……? あ、あー。なんかわかった気がする。OK」
レイアが悪気ないフリにジュード・エアハート(ka0410)は豆鉄砲を食らったような顔をした後、そういえばスカートを穿いてきたことに気付いた。多分、女性と見紛う端正な顔立ち、と言いたいのだろうが。
「にしても、誰よ。帝都までの道教えたヤツ!」
レイアが部族の仲間達の特徴を伝える横でメルがこぼす愚痴に、思わずアーシュラ・クリオール(ka0226)は思わず目を泳がせた。それを見逃すメルではない。
「あーしゅらぁ。あんたかァ!」
「いや、ほら。……ははは、せがまれたら仕方ないじゃない?」
首根っこを掴まれ、がっくんがっくんと振られながらアーシュラは弁解した。彼女は前回の依頼でボラ族と面会した後、度々彼らの元に訪れては様々な話をしていたのだ。
「とにかく、マトモな常識もない奴らなんだろう? さっさと探すぞ。こんな所の何が面白いのかよくわからんのにな」
ウィンス・デイランダール(ka0039)は見慣れた窓の外の景色を眺めながらそう言った。帝国は機導がよく発展している代償か、空気が汚れている。雲一つない秋空もどこか霞んでみえる。どこもかも汚れた街だ。
「それじゃ、事前の打ち合わせ通り、班行動でいこうか。あ、メルさん。ボラ族のみんなってどこから入ったかわかるかい?」
ユリアン(ka1664)の問いかけにメルはアーシュラの襟首をぎゅうと締めた。
「真夜中に城門をよじ登った連中がいるんですって……! そーよねぇ。集落から歩いたら半日はかかるもんねぇ。真夜中になるわよねぇ」
「げ」
障害物無視かよ。ユリアンは真っ青になった。これはそうとうヤバイかもしれない。その横でボルディア・コンフラムス(ka0796)は大笑いしていた。
「ぶはははっ! 血の気有り余ってンじゃねえか。面倒な仕事だと思ってたけど、これは楽しくなりそうだぜっ」
「まさか忍者でござったとは……これはミィリアも真剣にやるでござるよっ! 侍vs忍者! 燃える展開っ」
ミィリア(ka2689)ががばりと立ち上がって、闘志を燃やし始める。それを合図に他のメンバーも次々と立ち上がり、それぞれの班として組み変わる。
「危険そうなところから攻めるとするかね。地図が必要なところだが……」
そう言って、エアルドフリス(ka1856)はアーシュラを締め上げていたメルの手にそっと手を重ねて地図の依頼をしようとした。
「はいっ、地図! 持ってるよ!」
後ろからジュードのやたらアピール満点の声。
「チョココは、地図なくても大丈夫なの~。さっ、さっ、行きましょうでーすの♪」
「あ、あっ、ちょっと待ってください。こ、これまだ使い方わかんなくて。ふぇぇ、説明書~」
チョココ(ka2449)の手を引かれたマリエル(ka0116)は買ったばかりの魔導伝話とさきほどからずっと格闘していた。もう半泣きになっている。
「マリエルさん、大丈夫。実戦で使えば、すぐ覚える」
イレーヌ(ka1372)にそう言われてマリエルは渋々と立ち上がった。
●
住民街。
「すごかった! 夜中に屋根を走っててさ。兵士が『神妙にいたせ』ってランタンもって走って来たんだ」
「もう本当にニンジャっぽい……」
ミィリアは唖然としながら、住宅街にいた子供の話を聞いていた。どうもボラ族は侵入後見つかったのを咎められようとして逃げたらしい。
「どっちに走って行ったか分かるかい?」
「向こうの方かな」
ユリアンは子供の指さす方向を見て、地図で確認した。多分、高級住宅街だ。あそこなら魔導車なども置いてあるだろうし、気になる人間もいるはずだ。
「ミィリア、走っていこう」
ユリアンは馬の首を巡らせて、高級住宅街に走って行った。
そしてしばし走ると、目の前の人だかりが目についた。
「お、俺の新車に悪戯されたんですよ! 部品めちゃくちゃにされてっ」
「こりゃひどいな……一から組み立てた方が早いかもしれん」
「ダレだぁぁぁぁ、こんなことした奴はっ! 俺の給料1年分が!!」
……尋ねたら、すっごい賠償額を請求されそうだ。
「聞き込みしないの? でござるか?」
「うん、したらマズい気がするんだ。とりあえず先に進もうか」
錬魔院。
「なんだ? やたら物々しいな……」
ウィンスは少しばかり眉をひそめて錬魔院を眺めていた。普段から訳の分からないことを散々にやらかしている場所なので、他の場所に比べても物々しい空気は漂っていたが、兵士や錬魔院の機導士が哨戒しているのは珍しい。
「とりあえずー、貼り紙しておけば誰か教えてくれるかも~。パルパル、お手伝いして~」
頭の上に乗せたパルムのパルパルと共に、人探しの貼り紙を張り付ける。一枚二枚……あれ、一枚すでに貼ってある。
「事態は相当危険なようだ」
貼り紙を覗き込んだエアルドフリスはパイプから煙をぷかり、と吐き出しながら、ぼそりと呟いた。先の張り紙には「辺境の衣装を身にまとった集団の情報求ム」と書かれていた。そして警戒色強めの錬魔院。エアルドフリスは何事か直感した。
「チョココ。その貼り紙はしない方が良い」
「侵入はどう見ても無理そうだが、試したようだな。無理に探すと痛くもないこちらの腹を探られる。さっさと移動しようぜ」
「えー、でも、せっかく頑張って作ったんだよー?」
パルパルと一緒に抗議するチョココ。にしても妖精がはばたくのは良く目立つ。警戒している兵士達の視線が集まっているような気がする。
「君たち、ちょっと」
「こっちも急いでいるんだ。悪いな……ハンターとやり合いたいってんなら話は別だが」
声をかけてきた兵士に一瞥をくれるとウィンスは二人に声をかけて早々と立ち去って行った。
繁華街。
「あー、さっきいたよ。お金ないのに、お菓子くれって。もーしつこくてさ。獣皮と交換、って言ってさ」
お菓子屋のおばちゃんは困ったように話していた横で話の聞き手になっていたジュードはイレーヌに服の裾をくい、と引っ張られた。
「もー、物々交換なんてやってないのにねぇ。困ったもんだよ……」
独り言のように話すおばちゃんの影でイレーヌはお菓子の瓶詰の一つを指さした。
「!」
飴やら砂糖菓子やらが種類別に並ぶ中、イレーヌの指した瓶だけなぜか別の物が詰め込まれていた。ぱっと見た目ではよくわからないし、おばちゃんの視界からは死角である。背の低いイレーヌだからこそ見つけられたものだ。獣皮の瓶詰。どうやらこっそり交換していったらしい。
「どうかしたの?」
「あ、いやっ、なんでも! それでその子達はどこにいったかな?」
「なんか下水道を指さして騒いでいたから、そっちじゃないかしら」
「そ、そっか。イレーヌさん。伝話で連絡しよう。あ、おばさん、瓶詰ごと買うとしたらいくら?」
どれだい? と覗き込もうとするおばちゃんを手で制し、ジュードは慌てて、十分すぎる代金をおばちゃんの手に握らせ、瓶をかっさらうと、イレーヌと共に走り出した。
「マリエルに伝話しよう」
走りながら、イレーヌは伝話を耳にあてた。そして若干の間の後。
『現在、魔導波の届かないところに……』
「電源入ってない……」
イレーヌは小さく悲鳴を上げると、一気にスピードを上げて走り始めた。
城。
「おー、やってるやってる」
ボルディアは嬉しそうに城内にある一般公開されている訓練場の景色を眺めた。そこではボラ族と思われる男達が兵士と渡り合っていた。
「誰かあのバカを止めろ!」
あれがゾールだろうか。禿げ上がった頭が見物人の間からも抜きん出て見える。近づいてみれば上半身は裸で、下も毛皮を簡単に身に着けているだけのいかにも蛮族の雰囲気だ。
「あちゃあ、もう始まってたか……マリエル。伝話でみんなを呼ぼう」
アーシュラの言葉に、マリエルは伝話を両手で持って真剣な顔をする。まだ使い方が全然わかっていない。が、確かまず魔導波を飛ばす電源を入れて……。突如鳴り響く大音量の着信音の嵐。
「ひゃあ!? 音ってどうやって止めるの~!?」
「アーシュラ!」
その音に気付いた辺境の男が一人、嬉しそうにやって来た。族長のイグだ。その親しげな様子に気付いて、兵士達もギロリとこちらを睨みつけた。
「貴様たちはハンターだな!?」
「あ、兵長さん。お世話になってます。お怪我大丈夫ですか!? すぐ治療しますっ」
選挙の時に出くわした兵長の顔を思い出して、マリエルは伝話を後ろに隠してぺこりとお辞儀した。ゾールの怪力にやられたのか顔に青あざができている。マリエルは慌ててヒールの詠唱に入る。
「あいつらは何なんだ!」
「帝国が歓迎した辺境の奴らだよ」
ボルディアはため息をつきつつ、マリエルの伝話をひったくって通話する。
「おーい、こっちは見つかったぜ。……え、下水道? わかった。さっさとケリつけてそっちに合流するぜ。子供たちは下水道にいるってさ」
そこでボルディアは伝話をマリエルに戻すと、拳を鳴らしながら大男ゾールの元に近づいた。その気迫に気付いたのか兵士と渡りあっていたゾールもボルディアに向かい合う。
「いい眼だ。いざっ」
「さっさと戻りやがれ!」
互いの咆哮が重なり合い、訓練場に鈍い音が響き渡った後、のけぞったのはゾールだった。
「帝国の戦いとは……こうも熱いのか!」
念のために言っておくがボルディアの出身はリゼリオ方面である。
ともあれ、決着がついたとアーシュラが割って入り、見物していたボラ族の戦士連中も回収していく。
「こらっ、そいつらは事情聴取だっ! 連れていくなっ」
「ま、また後でちゃんと連れてくるよっ」
アーシュラは愛想笑い一つ残して、そそくさと城から退場した。
下水道。
ようやくほとんどのメンバーが合流して下水道を歩いていた。
「そんなすぐに雑魔が湧くとは思いたくないが……子供たちだけだと心配だな」
イレーヌが周囲に気を配りながらチョココとミィリアのLEDランプを頼りに歩いていたその時。チョココがぴたり、と足を止めた。
「何か……聞こえますの」
水の流れる音。自分たちの衣ずれの音。息遣い。その他に……子供の甲高い声!
「あっちだな。行くぞ」
ウィンスは抜剣するとそのまま下水道を走り始めた。
「随分詳しいんだな。地図もなしに動くのは……」
エアルドフリスの言葉にウィンスはあえて答えなかった。
かすかにしか聞こえなかった子供の声は次第にはっきりし、角を曲がったところでその姿をしっかり捉えた。黒髪の少女を先頭に武器を構える子供たち、それに立ちふさがるのは。
「狼……!? そんなまさかっ」
イレーヌはその姿に見覚えがあった。ボラ族と共に倒した歪虚の狼だ。しかしその姿は朧げで時々透けて向こう側にいる子供たちが見える。
「違う、スライムが狼の姿をしているだけだ。……こんなことなら殲滅用も準備しておけば良かったな」
エアルドフリスも杖を引き抜いて戦闘態勢を取るが少しばかり忌々しそうな顔つきだった。それを庇うように立ったのは、ミィリアだった。
「いざ尋常に! 者ども出会えー、であえーっ!!!」
「後半の用法は違うぞ……」
ミィリアの踏み込みによる一撃の上からウィンスのレイピアが閃いた。その戦いは一瞬で決着がついたのであった。
「怖かった……ありがとう!」
戦闘に立っていた少女はそう言うと、おもむろにユリアンにぎゅっと抱き付くと、うるうるとした瞳で彼を見上げた。
こんな子ボラ族にいたっけ? と困惑したユリアンにジュードの呆れた声がかけられる。ジュードは唯一その少女の正体に気付いていたようだ。
「飴……盗られてるよ」
「え、あーーっ!」
「怖かったしぃ~、ねぇみんなっ、このお兄ちゃんがご褒美だって! ボクたちにくれるつもりで持ってきてくれたんだ! ありがとっ、ユリアンお兄ちゃん♪」
少女、だと思っていたその子供の悪戯な声に、ようやく初めに言っていたレイアの言葉を思い出した。悪戯好きのロッカだ。見事な変装にユリアンも気付かなかった。
「なんにしろ、これで全員発見……かな」
●
「ここがチョココおすすめのバルトアンデルスで料理店っ。有名人も来るんだよ~」
最終日、チョココが案内してきたのは城の大食堂であった。一般人はあまり入るケースは少ないが、今回はメルの手配により正式にゲストとして観光入城しているのだ。そこでチョココは用意したチーズやパン、ビールなどを広げてまずは出だしの乾杯の音頭をとった。
「有名人って……。確かにここで皇帝も飯を食ってるって聞くが」
チョココの自慢げな顔に、ウィンスはうんざりとした顔でそう言った。まあ一番の食堂、というのは間違いない。広さとか売上では。味は……期待するものではない。
「あそこは政府職員の庁舎。あたしの仕事場!」
マリエルが珍しそうに見回る横でにメルは自慢していた。大事になりかけていたが、なんとかハンター達が収集したおかげで彼女もさっぱりとした顔である。
「仕事場? メルの仕事場は山の中じゃないのか?」
イレーヌの言葉に、メルはすっごくしょげた顔をしていた。確かにこんな大都会から山の中にボラ族の面倒を見ることになった、というのは彼女には不幸なできごとのようだ。
「それは銃。中に、えーと矢尻みたいなものが入っていて、それを打ち出すんだよ」
「ふむ……飛び道具か。帝国は鉱物がすごい。山も掘れば何か出るか試したいな」
一方、イグは武器に興味津々といった感じで、アーシュラと話をしていた。ゾールは早速帝国の食べ物に興味津々のようであった。蒸かしイモに興味をもったゾールは早速注文方法を教えてもらい、厨房にオーダーをかける。
「そのイモくれ。……その鍋ごとだ! ボルディア、食べよう!」
「な、鍋ごとかよ!? すげーな。そういえばよ。武器に興味あるって言ってたよな。俺はその時に応じて適当に選んでるんだが……ゾールは何使ってるんだ?」
「棍槌だ。剣はすぐ折れる。こちらの武器は折れないのか?」
「棍槌(メイス)ってもしかして……」
そういえば先日は生傷だらけだったゾールの顔の傷が一つもない。ボルディアは少し唖然とした後、ぶはーっと噴き出した。
「ボクはお菓子がいいなー。あ、このリンゴ飴。ジュード姉ちゃん、どうかな?」
その横でロッカは興味深そうに食べ物を見て回り、リンゴ飴を手に取って、ジュードに見せた。本場のお菓子を堪能したい。と漏らしていたのを聞いていたのだろうか。
「でもこのリンゴ飴、どっかで見たような……」
しげしげと眺めるジュードの目の前で飴のコーティングの向こう側にあるリンゴに人相のようなものが浮かんだように見えた。……食べるの、よそうかな。
やっぱりやめとく、と断りを入れようと思った時、ロッカは既にそこにはいなかった。
しまった。謀られた。
「エアさん、大変だ、ロッカがまたどこかに逃げた!」
と振り向いた先にはエアルドフリスはちょうどレイアの抱きかかえるその赤ん坊を覗き込んでいる所だった。
「移住は大変だったろう」
「故郷は草ひとつ生えなくなったわ。虫の音すら聞こえない。それに比べればここは天国」
「何事も『均衡』だよ。この賑わいとてまた……」
ダメだ。話を割り込むのがどことなく憚られた。ジュードは周りを見て、甘薯をかじりながらビールを飲むイレーヌと目があった。
「イレーヌさん、ロッカがどこかに行っちゃって」
「ボラ族をしばる理屈が今のところ存在しないからな。よし、少し探してくる。身長は同じくらいだし、多分すぐ見つけられると思う」
イレーヌはビールを飲み干すと、人ごみの中に走って行った。その方向の先には、剣と盾のオブジェが作られている。人類の盾と称する帝国にはふさわしいオブジェが。そこでポーズを取る二人の子供。いや、子供一人とドワーフ一人。ミィリアだ。
と言っている間にオブジェに近づくグラマラスな女性。服も少し短めで……あれ、どこかで見たような。そんな彼女が二人をオブジェから引きはがし、抱きかかえてこちらに戻ってくる。
「おーい、イレーヌさん!」
ユリアンが手を振って、その女性に声をかけたことでその存在がイレーヌであることに気付いた。覚醒ってすごい。
「お待たせ。すぐに見つかって良かった」
「帝国のお城の中は色々面白いのでござる。次はグリフォンの厩舎を……」
「その前に、お土産みんなで渡さないと」
ユリアンの言葉に一同はああ、と思い出してメルの方へ向き直った。その変化にメルは何事かと狼狽していたが、イグは気にせず一歩前に進み出ると、メルに小箱を差し出した。
「此度は迷惑をかけた。心配してくれたこと感謝する。これは気持ちだ」
その突然のプレゼントにメルは、ぽかんとしていたが、すぐに顔を真っ赤にして照れた。
「そ、そんなの。ちょっと、恥ずかしいじゃない……あ、ありがとう。開けるわよ?」
そして震える手つきで開けた箱から覗いたのは、イモだった。甘薯の方。
「ここでメルの話聞いた。芋版づくりが趣味だと」
メル。顔が真っ赤だ。
今度はメルが泣いて失踪する番だった。
ともあれ、ボラ族は全員無事に保護し、有意義な帝都観光を過ごすことができたのであった。
「え、俺……? あ、あー。なんかわかった気がする。OK」
レイアが悪気ないフリにジュード・エアハート(ka0410)は豆鉄砲を食らったような顔をした後、そういえばスカートを穿いてきたことに気付いた。多分、女性と見紛う端正な顔立ち、と言いたいのだろうが。
「にしても、誰よ。帝都までの道教えたヤツ!」
レイアが部族の仲間達の特徴を伝える横でメルがこぼす愚痴に、思わずアーシュラ・クリオール(ka0226)は思わず目を泳がせた。それを見逃すメルではない。
「あーしゅらぁ。あんたかァ!」
「いや、ほら。……ははは、せがまれたら仕方ないじゃない?」
首根っこを掴まれ、がっくんがっくんと振られながらアーシュラは弁解した。彼女は前回の依頼でボラ族と面会した後、度々彼らの元に訪れては様々な話をしていたのだ。
「とにかく、マトモな常識もない奴らなんだろう? さっさと探すぞ。こんな所の何が面白いのかよくわからんのにな」
ウィンス・デイランダール(ka0039)は見慣れた窓の外の景色を眺めながらそう言った。帝国は機導がよく発展している代償か、空気が汚れている。雲一つない秋空もどこか霞んでみえる。どこもかも汚れた街だ。
「それじゃ、事前の打ち合わせ通り、班行動でいこうか。あ、メルさん。ボラ族のみんなってどこから入ったかわかるかい?」
ユリアン(ka1664)の問いかけにメルはアーシュラの襟首をぎゅうと締めた。
「真夜中に城門をよじ登った連中がいるんですって……! そーよねぇ。集落から歩いたら半日はかかるもんねぇ。真夜中になるわよねぇ」
「げ」
障害物無視かよ。ユリアンは真っ青になった。これはそうとうヤバイかもしれない。その横でボルディア・コンフラムス(ka0796)は大笑いしていた。
「ぶはははっ! 血の気有り余ってンじゃねえか。面倒な仕事だと思ってたけど、これは楽しくなりそうだぜっ」
「まさか忍者でござったとは……これはミィリアも真剣にやるでござるよっ! 侍vs忍者! 燃える展開っ」
ミィリア(ka2689)ががばりと立ち上がって、闘志を燃やし始める。それを合図に他のメンバーも次々と立ち上がり、それぞれの班として組み変わる。
「危険そうなところから攻めるとするかね。地図が必要なところだが……」
そう言って、エアルドフリス(ka1856)はアーシュラを締め上げていたメルの手にそっと手を重ねて地図の依頼をしようとした。
「はいっ、地図! 持ってるよ!」
後ろからジュードのやたらアピール満点の声。
「チョココは、地図なくても大丈夫なの~。さっ、さっ、行きましょうでーすの♪」
「あ、あっ、ちょっと待ってください。こ、これまだ使い方わかんなくて。ふぇぇ、説明書~」
チョココ(ka2449)の手を引かれたマリエル(ka0116)は買ったばかりの魔導伝話とさきほどからずっと格闘していた。もう半泣きになっている。
「マリエルさん、大丈夫。実戦で使えば、すぐ覚える」
イレーヌ(ka1372)にそう言われてマリエルは渋々と立ち上がった。
●
住民街。
「すごかった! 夜中に屋根を走っててさ。兵士が『神妙にいたせ』ってランタンもって走って来たんだ」
「もう本当にニンジャっぽい……」
ミィリアは唖然としながら、住宅街にいた子供の話を聞いていた。どうもボラ族は侵入後見つかったのを咎められようとして逃げたらしい。
「どっちに走って行ったか分かるかい?」
「向こうの方かな」
ユリアンは子供の指さす方向を見て、地図で確認した。多分、高級住宅街だ。あそこなら魔導車なども置いてあるだろうし、気になる人間もいるはずだ。
「ミィリア、走っていこう」
ユリアンは馬の首を巡らせて、高級住宅街に走って行った。
そしてしばし走ると、目の前の人だかりが目についた。
「お、俺の新車に悪戯されたんですよ! 部品めちゃくちゃにされてっ」
「こりゃひどいな……一から組み立てた方が早いかもしれん」
「ダレだぁぁぁぁ、こんなことした奴はっ! 俺の給料1年分が!!」
……尋ねたら、すっごい賠償額を請求されそうだ。
「聞き込みしないの? でござるか?」
「うん、したらマズい気がするんだ。とりあえず先に進もうか」
錬魔院。
「なんだ? やたら物々しいな……」
ウィンスは少しばかり眉をひそめて錬魔院を眺めていた。普段から訳の分からないことを散々にやらかしている場所なので、他の場所に比べても物々しい空気は漂っていたが、兵士や錬魔院の機導士が哨戒しているのは珍しい。
「とりあえずー、貼り紙しておけば誰か教えてくれるかも~。パルパル、お手伝いして~」
頭の上に乗せたパルムのパルパルと共に、人探しの貼り紙を張り付ける。一枚二枚……あれ、一枚すでに貼ってある。
「事態は相当危険なようだ」
貼り紙を覗き込んだエアルドフリスはパイプから煙をぷかり、と吐き出しながら、ぼそりと呟いた。先の張り紙には「辺境の衣装を身にまとった集団の情報求ム」と書かれていた。そして警戒色強めの錬魔院。エアルドフリスは何事か直感した。
「チョココ。その貼り紙はしない方が良い」
「侵入はどう見ても無理そうだが、試したようだな。無理に探すと痛くもないこちらの腹を探られる。さっさと移動しようぜ」
「えー、でも、せっかく頑張って作ったんだよー?」
パルパルと一緒に抗議するチョココ。にしても妖精がはばたくのは良く目立つ。警戒している兵士達の視線が集まっているような気がする。
「君たち、ちょっと」
「こっちも急いでいるんだ。悪いな……ハンターとやり合いたいってんなら話は別だが」
声をかけてきた兵士に一瞥をくれるとウィンスは二人に声をかけて早々と立ち去って行った。
繁華街。
「あー、さっきいたよ。お金ないのに、お菓子くれって。もーしつこくてさ。獣皮と交換、って言ってさ」
お菓子屋のおばちゃんは困ったように話していた横で話の聞き手になっていたジュードはイレーヌに服の裾をくい、と引っ張られた。
「もー、物々交換なんてやってないのにねぇ。困ったもんだよ……」
独り言のように話すおばちゃんの影でイレーヌはお菓子の瓶詰の一つを指さした。
「!」
飴やら砂糖菓子やらが種類別に並ぶ中、イレーヌの指した瓶だけなぜか別の物が詰め込まれていた。ぱっと見た目ではよくわからないし、おばちゃんの視界からは死角である。背の低いイレーヌだからこそ見つけられたものだ。獣皮の瓶詰。どうやらこっそり交換していったらしい。
「どうかしたの?」
「あ、いやっ、なんでも! それでその子達はどこにいったかな?」
「なんか下水道を指さして騒いでいたから、そっちじゃないかしら」
「そ、そっか。イレーヌさん。伝話で連絡しよう。あ、おばさん、瓶詰ごと買うとしたらいくら?」
どれだい? と覗き込もうとするおばちゃんを手で制し、ジュードは慌てて、十分すぎる代金をおばちゃんの手に握らせ、瓶をかっさらうと、イレーヌと共に走り出した。
「マリエルに伝話しよう」
走りながら、イレーヌは伝話を耳にあてた。そして若干の間の後。
『現在、魔導波の届かないところに……』
「電源入ってない……」
イレーヌは小さく悲鳴を上げると、一気にスピードを上げて走り始めた。
城。
「おー、やってるやってる」
ボルディアは嬉しそうに城内にある一般公開されている訓練場の景色を眺めた。そこではボラ族と思われる男達が兵士と渡り合っていた。
「誰かあのバカを止めろ!」
あれがゾールだろうか。禿げ上がった頭が見物人の間からも抜きん出て見える。近づいてみれば上半身は裸で、下も毛皮を簡単に身に着けているだけのいかにも蛮族の雰囲気だ。
「あちゃあ、もう始まってたか……マリエル。伝話でみんなを呼ぼう」
アーシュラの言葉に、マリエルは伝話を両手で持って真剣な顔をする。まだ使い方が全然わかっていない。が、確かまず魔導波を飛ばす電源を入れて……。突如鳴り響く大音量の着信音の嵐。
「ひゃあ!? 音ってどうやって止めるの~!?」
「アーシュラ!」
その音に気付いた辺境の男が一人、嬉しそうにやって来た。族長のイグだ。その親しげな様子に気付いて、兵士達もギロリとこちらを睨みつけた。
「貴様たちはハンターだな!?」
「あ、兵長さん。お世話になってます。お怪我大丈夫ですか!? すぐ治療しますっ」
選挙の時に出くわした兵長の顔を思い出して、マリエルは伝話を後ろに隠してぺこりとお辞儀した。ゾールの怪力にやられたのか顔に青あざができている。マリエルは慌ててヒールの詠唱に入る。
「あいつらは何なんだ!」
「帝国が歓迎した辺境の奴らだよ」
ボルディアはため息をつきつつ、マリエルの伝話をひったくって通話する。
「おーい、こっちは見つかったぜ。……え、下水道? わかった。さっさとケリつけてそっちに合流するぜ。子供たちは下水道にいるってさ」
そこでボルディアは伝話をマリエルに戻すと、拳を鳴らしながら大男ゾールの元に近づいた。その気迫に気付いたのか兵士と渡りあっていたゾールもボルディアに向かい合う。
「いい眼だ。いざっ」
「さっさと戻りやがれ!」
互いの咆哮が重なり合い、訓練場に鈍い音が響き渡った後、のけぞったのはゾールだった。
「帝国の戦いとは……こうも熱いのか!」
念のために言っておくがボルディアの出身はリゼリオ方面である。
ともあれ、決着がついたとアーシュラが割って入り、見物していたボラ族の戦士連中も回収していく。
「こらっ、そいつらは事情聴取だっ! 連れていくなっ」
「ま、また後でちゃんと連れてくるよっ」
アーシュラは愛想笑い一つ残して、そそくさと城から退場した。
下水道。
ようやくほとんどのメンバーが合流して下水道を歩いていた。
「そんなすぐに雑魔が湧くとは思いたくないが……子供たちだけだと心配だな」
イレーヌが周囲に気を配りながらチョココとミィリアのLEDランプを頼りに歩いていたその時。チョココがぴたり、と足を止めた。
「何か……聞こえますの」
水の流れる音。自分たちの衣ずれの音。息遣い。その他に……子供の甲高い声!
「あっちだな。行くぞ」
ウィンスは抜剣するとそのまま下水道を走り始めた。
「随分詳しいんだな。地図もなしに動くのは……」
エアルドフリスの言葉にウィンスはあえて答えなかった。
かすかにしか聞こえなかった子供の声は次第にはっきりし、角を曲がったところでその姿をしっかり捉えた。黒髪の少女を先頭に武器を構える子供たち、それに立ちふさがるのは。
「狼……!? そんなまさかっ」
イレーヌはその姿に見覚えがあった。ボラ族と共に倒した歪虚の狼だ。しかしその姿は朧げで時々透けて向こう側にいる子供たちが見える。
「違う、スライムが狼の姿をしているだけだ。……こんなことなら殲滅用も準備しておけば良かったな」
エアルドフリスも杖を引き抜いて戦闘態勢を取るが少しばかり忌々しそうな顔つきだった。それを庇うように立ったのは、ミィリアだった。
「いざ尋常に! 者ども出会えー、であえーっ!!!」
「後半の用法は違うぞ……」
ミィリアの踏み込みによる一撃の上からウィンスのレイピアが閃いた。その戦いは一瞬で決着がついたのであった。
「怖かった……ありがとう!」
戦闘に立っていた少女はそう言うと、おもむろにユリアンにぎゅっと抱き付くと、うるうるとした瞳で彼を見上げた。
こんな子ボラ族にいたっけ? と困惑したユリアンにジュードの呆れた声がかけられる。ジュードは唯一その少女の正体に気付いていたようだ。
「飴……盗られてるよ」
「え、あーーっ!」
「怖かったしぃ~、ねぇみんなっ、このお兄ちゃんがご褒美だって! ボクたちにくれるつもりで持ってきてくれたんだ! ありがとっ、ユリアンお兄ちゃん♪」
少女、だと思っていたその子供の悪戯な声に、ようやく初めに言っていたレイアの言葉を思い出した。悪戯好きのロッカだ。見事な変装にユリアンも気付かなかった。
「なんにしろ、これで全員発見……かな」
●
「ここがチョココおすすめのバルトアンデルスで料理店っ。有名人も来るんだよ~」
最終日、チョココが案内してきたのは城の大食堂であった。一般人はあまり入るケースは少ないが、今回はメルの手配により正式にゲストとして観光入城しているのだ。そこでチョココは用意したチーズやパン、ビールなどを広げてまずは出だしの乾杯の音頭をとった。
「有名人って……。確かにここで皇帝も飯を食ってるって聞くが」
チョココの自慢げな顔に、ウィンスはうんざりとした顔でそう言った。まあ一番の食堂、というのは間違いない。広さとか売上では。味は……期待するものではない。
「あそこは政府職員の庁舎。あたしの仕事場!」
マリエルが珍しそうに見回る横でにメルは自慢していた。大事になりかけていたが、なんとかハンター達が収集したおかげで彼女もさっぱりとした顔である。
「仕事場? メルの仕事場は山の中じゃないのか?」
イレーヌの言葉に、メルはすっごくしょげた顔をしていた。確かにこんな大都会から山の中にボラ族の面倒を見ることになった、というのは彼女には不幸なできごとのようだ。
「それは銃。中に、えーと矢尻みたいなものが入っていて、それを打ち出すんだよ」
「ふむ……飛び道具か。帝国は鉱物がすごい。山も掘れば何か出るか試したいな」
一方、イグは武器に興味津々といった感じで、アーシュラと話をしていた。ゾールは早速帝国の食べ物に興味津々のようであった。蒸かしイモに興味をもったゾールは早速注文方法を教えてもらい、厨房にオーダーをかける。
「そのイモくれ。……その鍋ごとだ! ボルディア、食べよう!」
「な、鍋ごとかよ!? すげーな。そういえばよ。武器に興味あるって言ってたよな。俺はその時に応じて適当に選んでるんだが……ゾールは何使ってるんだ?」
「棍槌だ。剣はすぐ折れる。こちらの武器は折れないのか?」
「棍槌(メイス)ってもしかして……」
そういえば先日は生傷だらけだったゾールの顔の傷が一つもない。ボルディアは少し唖然とした後、ぶはーっと噴き出した。
「ボクはお菓子がいいなー。あ、このリンゴ飴。ジュード姉ちゃん、どうかな?」
その横でロッカは興味深そうに食べ物を見て回り、リンゴ飴を手に取って、ジュードに見せた。本場のお菓子を堪能したい。と漏らしていたのを聞いていたのだろうか。
「でもこのリンゴ飴、どっかで見たような……」
しげしげと眺めるジュードの目の前で飴のコーティングの向こう側にあるリンゴに人相のようなものが浮かんだように見えた。……食べるの、よそうかな。
やっぱりやめとく、と断りを入れようと思った時、ロッカは既にそこにはいなかった。
しまった。謀られた。
「エアさん、大変だ、ロッカがまたどこかに逃げた!」
と振り向いた先にはエアルドフリスはちょうどレイアの抱きかかえるその赤ん坊を覗き込んでいる所だった。
「移住は大変だったろう」
「故郷は草ひとつ生えなくなったわ。虫の音すら聞こえない。それに比べればここは天国」
「何事も『均衡』だよ。この賑わいとてまた……」
ダメだ。話を割り込むのがどことなく憚られた。ジュードは周りを見て、甘薯をかじりながらビールを飲むイレーヌと目があった。
「イレーヌさん、ロッカがどこかに行っちゃって」
「ボラ族をしばる理屈が今のところ存在しないからな。よし、少し探してくる。身長は同じくらいだし、多分すぐ見つけられると思う」
イレーヌはビールを飲み干すと、人ごみの中に走って行った。その方向の先には、剣と盾のオブジェが作られている。人類の盾と称する帝国にはふさわしいオブジェが。そこでポーズを取る二人の子供。いや、子供一人とドワーフ一人。ミィリアだ。
と言っている間にオブジェに近づくグラマラスな女性。服も少し短めで……あれ、どこかで見たような。そんな彼女が二人をオブジェから引きはがし、抱きかかえてこちらに戻ってくる。
「おーい、イレーヌさん!」
ユリアンが手を振って、その女性に声をかけたことでその存在がイレーヌであることに気付いた。覚醒ってすごい。
「お待たせ。すぐに見つかって良かった」
「帝国のお城の中は色々面白いのでござる。次はグリフォンの厩舎を……」
「その前に、お土産みんなで渡さないと」
ユリアンの言葉に一同はああ、と思い出してメルの方へ向き直った。その変化にメルは何事かと狼狽していたが、イグは気にせず一歩前に進み出ると、メルに小箱を差し出した。
「此度は迷惑をかけた。心配してくれたこと感謝する。これは気持ちだ」
その突然のプレゼントにメルは、ぽかんとしていたが、すぐに顔を真っ赤にして照れた。
「そ、そんなの。ちょっと、恥ずかしいじゃない……あ、ありがとう。開けるわよ?」
そして震える手つきで開けた箱から覗いたのは、イモだった。甘薯の方。
「ここでメルの話聞いた。芋版づくりが趣味だと」
メル。顔が真っ赤だ。
今度はメルが泣いて失踪する番だった。
ともあれ、ボラ族は全員無事に保護し、有意義な帝都観光を過ごすことができたのであった。
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迷子を探せ アーシュラ・クリオール(ka0226) 人間(リアルブルー)|22才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2014/11/01 00:52:22 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/10/29 22:20:45 |