• 幻視

地下へと続くもの

マスター:猫又ものと

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/07/04 15:00
完成日
2017/07/12 13:32

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 時は数ヶ月前に遡る。
 ――その山のように大きな茶色の物体は、己の根城で深いため息をついた。

 王冠に赤いマントを羽織ったクマのぬいぐるみは、こう見えて怠惰の眷属の頂点。七体の歪虚王の一角である。
 正式名称はビックマー・ザ・ヘカトンケイル。
 ふわふわな毛並みに黒い円らな瞳でとてもファンシーな見た目をしているが、その実体長が100m近い巨大サイズ。
 砦はおろか小さい山なら障害物にすらならないという凶悪なボディを持っていたりするのだが……まあ、そんな彼にも悩みはある。

 ――ここ最近、急激にハンター達が力をつけて来ている。
 そして更に、大精霊まで彼らに力を貸すような動きを見せ始めている。

 ハンター達だけならともかく、大精霊は不味い。
 自分の力を持ってしても相殺がいいところか――。

 ……否。そもそも、自分は最後の最後、どうにもならなくなった時に出るべきなのだ。
 アレクサンドル、コーリアス、青木……そしてこの目の前の1人と2匹。
 使える手駒は使わねば……。

 ビックマーは目の前でキラキラと瞳を輝かせているトーチカ・J・ラロッカと、その後方に控えるモグラ2匹に目線を落とす。
「ビックマー様、ラロッカが参りました。お目にかかれて光栄に存じます」
「ヒュー! 今日も全員揃って元気そうじゃねえか。まあ、堅苦しい挨拶は抜きにしようや」
「そうして貰えると助かるのねん。それでビックマー様、アタシ達に頼みたいことって何なのかしらん?」
「ワイはこの通り、力仕事しかできないでおますが……姐さんは強いでおます! きっとビックマー様の期待にお応えできるでおます!!」
 ノッポのモグラとデブのモグラに鷹揚に頷くビックマー。
 もふもふの丸い手で、トントン、と地面を示した。
「お前達ちょっと、地下遺跡まで行って来てくんねえか?」


「……本当にあいつに頼んで大丈夫なのか? あの女、良いのは身体だけだぞ」
「ヒュー! そう言うと思ったぜ。だからお前を呼んだんだろう、青木よ」
 ビックマーから地下遺跡捜索の依頼を受け、意気揚々と出かけていったラロッカ一味。
 影に潜むように立つ青木 燕太郎(kz0166)を見据えてビックマーが口の端を上げて笑う。
「まさか俺にモグラの真似事をしろって言うんじゃないだろうな」
「そのまさかだ。アイツらは従順だが、ちょっと頭が足りん。それはお前も知っているだろう」
「……わざわざ呼び戻されて来てみればノータリンの御守りか。勘弁願いたいな」
「別に断ってくれてもいいんだぜェ……?」
 黒い円らな瞳をキョロリと動かすビックマー。その目線を青木は正面から受け止める。
 ビックマーの目から感じる恐ろしい程の重圧。垣間見える歪虚王の片鱗。
 ――現状まともに戦って勝ち目はない、か……。
 瞬時に判断した青木。そこに聞こえた衣擦れの音。ビックマーの上で眠っていた少女が、目を擦りながら起き上がった。
「……ビックマー、青木とケンカしてるの……?」
「おお、オーロラ。起こしてしまったか。すまん」
「ん……。いいよ。でも、ケンカはダメよ……」
「そうかそうか。うん、喧嘩は良くないな。……青木よ、ここはオーロラの顔を立ててはくれねえか?」
「……仕方ないな。ただし、俺の好きなようにやらせて貰うぞ」
 ため息をついて踵を返す青木。コツコツと足音を立ててその場を立ち去る。


 ――何故にこうもあれが憎いのか。理由は思い出せない。
 青木自身が気が付いた時には既に、『ビックマーとオーロラ』という存在を憎んでいた。
 別に王位とか立場が欲しい訳ではない。
 ただただ、排除することを渇望する。
 歪虚としての本能が命じる。組織だったものは破壊されるべきだと。
 その為には――。
 ――地下遺跡。喪われた技術。大精霊の力、か……。
 黒い影はニヤリと嗤った。


●喪われたもの
 これは、テルル(kz0218)が自称幻獣王と共にリゼリオに出荷……いやいや。出発する少し前のこと。
 辺境部族を取りまとめている立場である者として、イクタサに挨拶がしたいと願い出たバタルトゥ・オイマト(kz0023)。
 彼から興味なさげに『来たいならどうぞ』という返答を貰い、ハンター達と共にイクタサの住まいであるシンタチャシに訪れていた。
「だから、俺っちのカマキリは地下の遺跡で拾ったんだよ」
「地下の遺跡……? そこにはこういうユニットが沢山あったりするのか?」
「ここまでの完全体はなかなか見つけられねえけど、パーツはゴロゴロ落ちてんぜ」
 ハンター達の問いにぴーちく応えるテルル。彼の自慢の機体を見つめて、イクタサが目を細める。
「わあ。ピリカじゃないか。久しぶりに見たなあ」
「イクタサ様、この機体を御存知なんですか?」
「うん。幻獣達が乗っていたからね」
「幻獣達が乗っていた? 他にもあるんですか?」
「うん。君達からしたら大分前になるのかな。白龍と人間が住んでいたチュプっていう神殿があったんだ。そこにピリカが沢山あったんだよ。もう地上には残っていないだろうと思っていたけど。そうか、地下に埋まっていたんだね」
 淡々と語るイクタサに、頷くハンター達。
 ――ちょっと待てよ? チュプにピリカ? どこかで聞いたような……。
「あっ! ハンターオフィスの神霊樹の記憶を遡った時に見たんだ!」
「ああ、あれはイクタサ様の神殿だったんですね……」
「そうだよ。……ああ、そうか。今はもう君達は知らない技術になってしまったのか」
 一人納得するイクタサに頭にハテナマークを出すハンター達。
 彼は穏やかに微笑むと、彼らに向き直る。
「……君達はボクの試練を突破して、ボクのウタリになった。だからボクは、君達に力を貸そう。地下にある……ボクの神殿に行ってみるといい。きっと役に立つものがあるはずだよ」
「役に立つものって一体……?」
「そうだね。色々、とだけ言っておこうかな。全部話してしまっては面白くないだろう?」
 悪戯っぽくくすくすと笑うイクタサ。
 バタルトゥとハンター達は顔を見合わせて――。


「地下の探索ですか? 別に構いませんよ。丁度、私からもお願いしようと思っていたところですし」
 遺跡調査の許可を貰いにヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)の元を訪れたハンター達。
 あっさりと許可が下りたことに目を丸くするハンター達に、1枚の紙を差し出す。
「……何だ? これ。地図?」
「先日、地下坑道でのトラブルを解決して貰った際、ハンター達が手に入れたものです。ドワーフ達に調べて貰ったところ、地下に遺跡らしき入口を発見しましてね」
「本当ですか……!?」
「ええ。歪虚達がここを目指していたという報告もあります。何があるのか見てきてください。分かったことは、全て私に報告を」
「了解」

 こうして、なし崩しに地下遺跡に向かうことになったハンター達。
 地図を片手に、遺跡があるヴェドルの地下を目指す――。

リプレイ本文

「遺跡探索ですか。浪漫ですねぇ」
「お宝探しみたいなのだ♪」
「まるで故郷で見た映画みたいです!」
 ハンターとしての血が騒ぐのか、うずうずしている様子の米本 剛(ka0320)の声に明るく応えるネフィリア・レインフォード(ka0444)。
 続いた花厳 刹那(ka3984)の声にバタルトゥ・オイマト(kz0023)が首を傾げる。
「エイガ……?」
「リアルブルーの映像作品の事ですよ。……という訳でこれを被ってくださいね」
 そう言いつつ、バタルトゥの頭に中折れ帽を被せる刹那。
 それを見たイスフェリア(ka2088)が目を丸くする。
「わ、バタルトゥさんそういう帽子も似合うんだね。でも、どうして帽子なの?」
「さっき言った映画のヒーローの装備品なんです。これがあれば困難も切り抜けられるはず!」
 刹那の解説に頷くバタルトゥ。その様子に、蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)がくつりと笑う。
「すっかり物見遊山じゃな。今回は仕方ないのやもしれぬが……」
「うむ。何ぞ面白い物が見つかるといいのぅ」
 頷くフラメディア・イリジア(ka2604)。
 何しろこれから行くのはイクタサの神殿。イクタサ本人も役に立つ物があると言っていた。
 メンカル(ka5338)はリューリ・ハルマ(ka0502)を見て思い出したように口を開く。 
「……リューリには弟が世話になっているようだな。迷惑をかけてないか?」
「ん? ううん。そんな事ないよ! お兄さんとご一緒するのは初めてだったよね! よろしくね!」
 この場にいない人の事を気にする彼を励ますように微笑むリューリ。
 そんな話をしながら進むと、遺跡の入口に到達した。


 蜜鈴とイスフェリアの目に映る仄かな灯りに浮かび上がる白い壁。
 それは大分薄汚れてしまっているけれど……確かに見覚えがある。
 ――間違いない。ここは、あの時の……。
 懐かしい姿を思い出す蜜鈴。先に進もうとするバタルトゥの前に立つ。
「……蜜鈴?」
「バタルトゥ……いや、オイマトの者よ。ここは始まりの地。オイマトがオイマトで在る為の一歩を踏み出す、最初の原点じゃ」
 ここはかつてかの者が暮らした地。ここもまた、オイマトの故郷――。
 そう続ける彼女に、戸惑う様子を見せるバタルトゥ。助け船を出すように、イスフェリアが口を開く。
「あのね。私達、ハンターオフィスで過去の記録を調べた時に、遠い昔の辺境を見たの」
 この神殿に、白龍と沢山の幻獣と人間達が寄り添うように暮らしていて……そこにオイマト、という人物がいた。
「その人、バタルトゥさんにそっくりだったんだよ」
「……そうか」
「うむ。ゆえに、妾からこの言葉を贈ろう。……オイマト。おかえりなさい」
 納得がいったのか、頷くバタルトゥに手を差し出す蜜鈴。彼の手を取って微笑む。
 きっと、此の地で生きた者は皆、こう言うであろう言葉。
 白龍と大幻獣の命を賭した祈り。あの男が繋いだ未来とこうして同じ場所に立てた事が、本当に嬉しい。
「……と。感傷に耽っておる場合ではなかったの。イスフェリアよ。神殿の構造は覚えておるかえ?」
「うーん……全部見た訳じゃないけど白龍がいた場所なら分かるかも」
「ではそこに向かうとしようかの」
 頷き合う3人。記憶を頼りに、奥へと進む。


「さて、手頃なサイズで有用な物から……と思ったが。米本殿、何ぞ見つかったかえ?」
「いいえ、例の赤いパーツを拾った以外はめぼしい物は何も……侵攻を防いだと言うのならば保管庫やら貯蔵庫があるかと思ったのですがね」
 赤い昆虫の足のようなパーツを担いで歩く剛。フラメディアが灯りを掲げて天井を仰ぐ。
 遺跡は白い石でできているのかと思っていたが……良く良く見ると石とは異なる素材のようにも見える。
 あちこちヒビが入ってはいるが、崩れているところは少ないようにも思う。
 居住区と思わしき場所を順番に巡っているが、どの部屋を覗いても、内部には塵や朽ちた木材が転がるばかり。
 まあ、物質というのは時間と共に劣化するものだ。
 この建物自体が、時間をかけて埋まったにせよ土や石、それらが含む水にも浸食される事なく今まで残っているという事自体脅威とも言えた。
「この建造物自体がロストテクノロジーの塊と言えるかもしれませんね」
「そうじゃな……。さりとて、遺跡ごと引っ張りあげる訳にはいかぬからのう」
「隠しドアなどがあれば……む?」
「どうしたのじゃ」
「フラメディアさん、これを……」
 とある一室の壁を指差す剛。フラメディアが目をこらすと、短く横に引かれた線が何本も残っており、横に文字のような物が残っていた。
「なんじゃこれは……?」
「分かりませんが……背比べの後のようにも見えますね」
「そう言われてみればそうじゃな。文字列は読めぬが、同じ物が何度も書かれておる」
「ここが居住区であったと考えると自然な推理ですが確証もありませんし……ひとまず場所を地図に記しておきましょうか」
「そうじゃな。再調査が必要になるやもしれぬ。この文字列も控えておきたいが……そういえばメンカルが魔導カメラを持っておったな」
「ああ、写真に収めるのが一番確実ですね。メンカルさんに連絡を取りましょう」
「うむ。頼む」
 魔導短伝話を操作する剛の横で、フラメディアが地図に追記していく。
 作った遺跡の地図も大分進んできている。
 これが何かの手がかりになる事を祈りつつ、2人は更に探索を続ける。


「……了解。後でそちらに向かう」
「メンカルさんどうしたの?」
「剛からだ。壁に見つけた文字を写真に収めて欲しいそうだ」
「そっかー。じゃあ私達も頑張らないとね!」
 元気に言うリューリに頷くメンカル。
 2人は入口付近に残り、調査を続けていた。
 壁の上部についている球体を写真に収めるメンカル。規則的に並んでいるそれを見て、リューリが首を傾げる。
「あの丸いの何かな……?」
「飾りかと思ったが……灯りかもしれないな。見る限り、随分近代的であるようにあるように見える。その位あっても不思議じゃない」
「あー! 確かにそうかもね!」
 頷くリューリ。メンカルは足元に目を落として……床に沢山の足跡が残っている事に気付く。
 人の足跡の他に……リーリーの物だろうか。それにしては随分大きい気がするが……。
「この足跡、やけに大きくないか?」
「昔のリーリーは4~5mくらいあったって蜜鈴さんが言ってた」
「なるほど。その巨体ならこの足跡も納得だな」
 足跡もカメラに収める彼。ふと、やけに新しい足跡がある事に気付く。
 ――大きさから言って男か。自分の足跡――いや、違う。剛のものとも違う。
 では、これは……。
 不意に動きを止めるリューリ。祖霊の力を借りて聴覚を高めていた彼女。壁を叩きながら、向こうに空洞がないか確かめていたのだが……違う音を拾った。
「メンカルさん。足音がする」
「何……? 俺達以外の……だよな」
「うん。皆の足音や声は別に聞こえる」
「どちらの方角か分かるか?」
「待って……。……あっ。こっちに向かってるかも」
「……っ! リューリ、物陰に隠れろ! 仲間達に警戒するよう連絡する」


 その頃。ネフィリアと刹那は遺跡の奥を目指して突き進んでいた。
 お宝は一番奥に安置されている!! と、意見の一致を見たのだ。
「こういう所って何か罠とかあるのがお約束だよねー?」
「昔は人が住んでいたという事だからそこまではないかと思ったけれど……防衛システムとか働いてるかも!」
「わーお! カッコイイのだー!」
「棒で床を突きながら進みましょう!」
「冒険のお約束ー!」
 ……何だか、お二人とても楽しそうですが。これでも一生懸命探索はしているのだ。
 残念ながら、今まで見つけられた物と言えば岩や土塊ばかりで床にも壁にも罠らしき物は見つけられてないけれども。
「宝箱とかないかなーっ」
「そこまで分かり易くお宝ありますかね。あったら楽しいですけど!」
 盛り上がる2人。
 祖霊の力で聴覚を大きく飛躍させているネフィリア。今のところ、おかしな音は拾っていない。
 刹那がランタンを掲げた先に……岩のような影が見えた。
「待つのだ。この先に何かあるみたいなのだ」
「生物ですか?」
「ううん。呼吸の音は聞こえないのだ」
 ネフィリアの声に目を細める刹那。感覚を研ぎ澄ませるが何も感じない。
「マテリアルの流れも感じないですね。歪虚でもないって事かしら」
「むむむ。お宝発見なのだ? 刹那隊員! 注意しながら進むのだ!」
「了解です。私は壁からいきます。ネフィリアさんはそのまま進んで下さい」
 マテリアルを体に巡らせて壁を歩く刹那。ネフィリアも足音をさせずにそーっと近づく。
 ランタンの光に照らされる岩。良く良く見ると岩ではない。
 手と足が生えていて……目線を上げると、そこには見覚えのある魔導アーマーの姿があった。
「あっ。これ……!」
「……テルルさんが乗っていたのと同じ物ですかね?」
 2人が機体を調べると、座席の部分とその下が空洞になっており、動力を供給する部分が見つからない。
 その為か、起動を試みても動かなかったが……手と足はきちんと揃っており、ほぼ完全体である。
 これが『ピリカ』と呼ばれる魔導アーマーなのであればまさにお宝。大きな発見である。
「すごいのだ! これ修理すれば使えるかもしれないのだ!! 持って帰るのだ……って重いいいいいいい!!」
「そりゃそうですよ!」
 魔導アーマーを運び出そうと押したり引いたりしているネフィリアにでっかい冷や汗を流す刹那。
 刹那の最もな言葉に、ネフィリアはしょんぼりしつつ頷く。
「むー。仕方ないのだ。とりあえずあった場所をメモしておくのだ」
「そうしましょう。後で改めて運び出す手配ができますし」
「あっ。誰かに持っていかれないように名前書いておくのだ!」
 ネフィリアは叫ぶと、刹那が止める間もなく魔導アーマーにでっかく『バタルトゥ探検隊』と書き記した。


「白龍がいたのはここじゃな」
「うん。間違いないと思う」
 大きな部屋に足を踏み入れた蜜鈴とイスフェリア。扉は木製だったのか、朽ちてなくなっていたけれど……確かに見覚えがある。
「白龍の遺体は残っておらなんだな……」
「……きっと、大地に還ったのだろう」
 バタルトゥの呟きに、頷く蜜鈴。
 龍は体内のマテリアルを大地に還すという。人間達の行く末を思っていたあの白龍なら、確かにそうするだろう。
 部屋をゆっくりと見て回っていたイスフェリア。奥に、もう1つ部屋があるのに気づいて覗き込む。
 そこには荘厳な作りのドーム状の部屋。その中央に台座のような物が安置されていた。
「何だろうこれ。祭壇……?」
「白龍がイクタサを祀る祭壇があると言っておったな」
 祭壇を覗き込むイスフェリアと蜜鈴。そこから微かにマテリアルの流れを感じる。そして、祭壇の周囲に陣のようなものが描かれているのを見つけた。
「……この陣は何であろうな。祭壇からマテリアルは感じるゆえ、何か出来そうな気はするのじゃが」
「幻獣が大きくなったのはこの神殿の機能の一部という話だったし、それに関係するものかな?」
「ふむ。何やら陣に文字が描かれておるが今の文字とも違うのう。……バタルトゥ、読めるかえ?」
「……オイマト族の文様に近いものもあるが、違うものも混在しているな……」
「太古の文字なのかな、これ……」
 考え込むイスフェリア。
 オイマトという青年のその後が気になって、何か記録が残っていないかと思ったのだけれど。
 これでは読めないかも……。
「ヴェルナーなら解読する術を知っているやもしれぬ。報告するとしようかの」
 蜜鈴の言葉に頷くイスフェリアとバタルトゥ。
 その時、彼女の持つ魔導短伝話から通知音が鳴り響いた。


 通信を切ったメンカルは背中に嫌な汗が流れるのを感じていた。
 已然何かの気配が接近してきている。
 刹那の班と蜜鈴の班は奥にいる為、恐らく間に合わない。
 駆け付けて来たのは剛とフラメディア。4人では心許ないが何とかするしかない。
 弟の頼みで来たのだが、ここで身体を張る羽目になるとは……。
 微かに痛む胃を押さえる彼。リューリの『来た!』という挨拶に頷くと、マテリアルにより自らの気配を消す。
 見えた姿は黒いコート。黒い影はその場で立ち止まり、背後から近づくメンカルを見据えた。
「そこにいるのは分かっている。出てきたらどうだ?」
「お前、ここで何をしている?」
「それはこちらの台詞だな」
「……誰かと思えば青木ではないか」
「フラメディアか。こんな所でお前に会うとはな」
「その言葉そっくり返すぞえ」
「お久しぶりですね。折角お会いした事ですし、鎬を削り合いたいところですが……」
「……米本までいるとは。お前達が揃っているならここで潰しておきたいが場所が悪いな」
 肩を竦める青木に、フラメディアが目を細める。
「場所が悪い、という事は……おぬし、ここが何だか分かっておるのか」
「さて、な。俺は御守りを頼まれただけだ」
「御守り、ですか。果たしてそれはどなたですかね?」
 睨み合う青木とフラメディア、剛。そこにメンカルが割って入る。
「用事が済んでいるのならさっさと退去願えないか。お前の目的は知らんが……ここで騒ぎを起こすのも得策じゃないだろう」
「……そう、だな。また日を改めるとしよう」
 あっさりと応じて身を翻す青木。それに違和感を感じたが、下手に問い詰めればここが戦場になる。
 唇を噛むフラメディア。そこにリューリが駆け寄る。
「待って、燕太郎さん!」
「お前は確か……リューリだったか?」
「そうだよ。やっと名前覚えてくれた! ねえ、セトさんって覚えてる?」
「……知らん」
 一瞬考えて吐き出すように言う青木。リューリは更に言い募る。
「ちょっぴりでも覚えてない?」
「お前は本当に喧しい女だな。……命を縮めるぞ?」
「おい、リューリ! 折角帰る気になってくれてるんだからお帰り戴いてくれ!」
「え。もうちょっとお話したかったんだけどな」
「ハァ!? 相手は歪虚だぞ!?」
 痛む胃を押さえながらツッコむメンカル。リューリはあはは……と笑いながら、青木を見る。
 ――やはり前の事を覚えていないのか。
 あんなに必死に守ろうとしていたのに。
 これでは、あの人からの伝言を伝えられないじゃない……。
「青木。今回は見逃してやろう。次はそうはいかんぞ」
 男の背に声をかけるフラメディア。それに目を見開くと、青木はくつりと笑って……そのまま闇に消えて行った。


 こうして、遺跡の調査は終了した。
 見つけたパーツや場所、魔導アーマーなどの情報は更なる追加調査の必要性を感じさせるには十分すぎるもので、ヴェルナーとバタルトゥを動かす切欠ともなり……。
 そして地下に現れた青木。彼が何も知らずに帰ったとも思えない。
 辺境の地下に眠る物を巡り、何かが動き出そうとしていた。

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MVP一覧

  • 爆炎を超えし者
    ネフィリア・レインフォードka0444
  • 導きの乙女
    イスフェリアka2088

重体一覧

参加者一覧

  • 王国騎士団“黒の騎士”
    米本 剛(ka0320
    人間(蒼)|30才|男性|聖導士
  • 爆炎を超えし者
    ネフィリア・レインフォード(ka0444
    エルフ|14才|女性|霊闘士
  • 元気な墓守猫
    リューリ・ハルマ(ka0502
    エルフ|20才|女性|霊闘士
  • 導きの乙女
    イスフェリア(ka2088
    人間(紅)|17才|女性|聖導士
  • 洞察せし燃える瞳
    フラメディア・イリジア(ka2604
    ドワーフ|14才|女性|闘狩人
  • 紅花瞬刃
    花厳 刹那(ka3984
    人間(蒼)|16才|女性|疾影士
  • ヒトとして生きるもの
    蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009
    エルフ|22才|女性|魔術師
  • 胃痛領主
    メンカル(ka5338
    人間(紅)|26才|男性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 【相談卓】地下遺跡探索隊
蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009
エルフ|22才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2017/07/04 02:26:55
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/06/29 12:08:45