ゲスト
(ka0000)
【界冥】できること・したいこと
マスター:紫月紫織

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/07/06 12:00
- 完成日
- 2017/07/17 20:16
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
◆漏れていた依頼
「困りましたねぇ……」
「どうしたのエリクシアおねえちゃん?」
「うん、ちょーっと……困ったことが起きてね?」
オフィスにてハンターとしての実習を終えて挨拶にやってきたミモザに気づかず漏らしたつぶやき、それを聞かれてしまいちょっとバツの悪い顔をするエリクシアであった。
エリクシアの心情曰く、オフィスの受付嬢は不安と悩みを見せてはいけない。
そう思っている彼女にとって、この出来事はちょっとした失態であった。
「実は漏れてた依頼があってね……エバーグリーンで行われる大きな作戦については知ってる?」
「うん」
「その依頼のドタバタに紛れて、一つ受け手の足りてない依頼――巡回任務があってね」
「じゅんかい?」
「うん。予め決められた場所に異変がないかを調べて戻ってくる、って依頼なのよ」
「それ、私が受けちゃダメ?」
「……へ?」
ミモザの思わぬ言葉に、一時思考のフリーズするエリクシアであった。
いや、ミモザも正式にハンター登録は終えており、あとは足りない技術や知識面を補って実践を経験するばかりではあるのだ。
漠然と、まだ早いだろうと思っていた。
だが、この年頃の子の成長というのは早いものだ、それにオートマトンにとっての普通というのが何かはわからないというのもある。
「う~ん……そう、ねぇ……」
ぐるぐると思考はめぐる。
確かにそう危険でもないし、危険があってもあくまで巡回という手前、かかわらずに撤退するという判断も取れる。
確かに、現場を経験するにあたってこれ以上都合の良い環境はない、か……。
「……ミモザちゃん、シルヴァを呼んできなさい」
「シルヴァおねえちゃんを? なんで?」
「貴方の保護者であると同時に、あれもハンターだからね、一応」
ひどい言われようである。
「意見を聞きたい」
そもそも仕事というのは一人でこなすものではない、仲間と一緒にこなすものだ。
そしてあわよくば同行させる形で依頼を押し付けたい。
本心を隠して、そっとエリクシアはミモザにシルヴァを呼びに行かせるのだった。
そして即日で依頼が張り出される運びとなった。
研修中のハンター、保護者同行の巡回任務。
同行者求む。
「困りましたねぇ……」
「どうしたのエリクシアおねえちゃん?」
「うん、ちょーっと……困ったことが起きてね?」
オフィスにてハンターとしての実習を終えて挨拶にやってきたミモザに気づかず漏らしたつぶやき、それを聞かれてしまいちょっとバツの悪い顔をするエリクシアであった。
エリクシアの心情曰く、オフィスの受付嬢は不安と悩みを見せてはいけない。
そう思っている彼女にとって、この出来事はちょっとした失態であった。
「実は漏れてた依頼があってね……エバーグリーンで行われる大きな作戦については知ってる?」
「うん」
「その依頼のドタバタに紛れて、一つ受け手の足りてない依頼――巡回任務があってね」
「じゅんかい?」
「うん。予め決められた場所に異変がないかを調べて戻ってくる、って依頼なのよ」
「それ、私が受けちゃダメ?」
「……へ?」
ミモザの思わぬ言葉に、一時思考のフリーズするエリクシアであった。
いや、ミモザも正式にハンター登録は終えており、あとは足りない技術や知識面を補って実践を経験するばかりではあるのだ。
漠然と、まだ早いだろうと思っていた。
だが、この年頃の子の成長というのは早いものだ、それにオートマトンにとっての普通というのが何かはわからないというのもある。
「う~ん……そう、ねぇ……」
ぐるぐると思考はめぐる。
確かにそう危険でもないし、危険があってもあくまで巡回という手前、かかわらずに撤退するという判断も取れる。
確かに、現場を経験するにあたってこれ以上都合の良い環境はない、か……。
「……ミモザちゃん、シルヴァを呼んできなさい」
「シルヴァおねえちゃんを? なんで?」
「貴方の保護者であると同時に、あれもハンターだからね、一応」
ひどい言われようである。
「意見を聞きたい」
そもそも仕事というのは一人でこなすものではない、仲間と一緒にこなすものだ。
そしてあわよくば同行させる形で依頼を押し付けたい。
本心を隠して、そっとエリクシアはミモザにシルヴァを呼びに行かせるのだった。
そして即日で依頼が張り出される運びとなった。
研修中のハンター、保護者同行の巡回任務。
同行者求む。
リプレイ本文
●出発前からがお仕事です
「きみがミモザちゃんだね。僕はヴィリー・シュトラウス(ka6706)、今日はよろしく」
そう言って差し出された手を、やや緊張した面持ちでとるミモザだった。
笑顔を向けるヴィリーに少しだけ緊張がほぐれたのか、こわばっていた手が柔らかくなる。
「ふふー、初めましてミモザさんアシェ-ル(ka2983)って言います、よろしくです」
「ヴィリーさんに、アシェールさん、ですね。今日はよろしくお願いします」
ぺこり、と頭を下げるミモザをじっと見るアシェール。
仕草も、肌の質感も、アシェールを写す緑色の瞳も――何も変わらないように見えて、思わず彼女の頬を触る。
柔らかい感触に、ほのかに感じる体温、そしてびくっとしたミモザの反応。
突然のことに驚いたのか、他で準備していたルスティロ・イストワール(ka0252)のほうへと駆けていくミモザを見送ることとなった。
「……オートマトンって、やっぱり、どう見ても、私達と変わらない気がするんですよね……」
「そうですね、僕もそう思います。普通の……どこにでもいる女の子みたいだ」
ててて、と小走りに駆けていくミモザの背中に、二人してそんな感想を抱くのだった。
「ミモザちゃん、初! ハンターのお仕事ねv」
「初めてのちゃんとしたお仕事だね。一緒に頑張ろう、ミモザさん!」
ロス・バーミリオン(ka4718)とルスティロに迎えられて、まだ経験の浅いミモザもなんとなく察する所があったのだろう。
この前のことはそっと口をつぐんだ。
触れないほうがいい事もある、それを学んだ瞬間だったかもしれない。
「うん! まだわからないことばっかりだけど……」
そう言ってはにかむように笑うミモザを、ロゼがぎゅーっと抱きしめたのは当然のことだったかもしれない。
「私に何でも聞いてね? ミモザちゃんのお願いならなんでも聞いてあげちゃうっ♪」
囲まれるミモザを見て、それが答えなのだと久延毘 大二郎(ka1771)は納得する。
「……そうか、それが君の選択なんだな、ミモザ君」
「うん。やれることからやるって、決めたの」
その答えは、大二郎にとって十分なものだった。
「二言は無い。私はその選択を後押しする為の助力は惜しまんよ。今日の依頼はその第一歩だ、大手を振って征くと良いさ」
大二郎の少々大仰な身振り手振りに合わせて反応を返すミモザを、少し離れたところからメアリ・ロイド(ka6633)が見つめていた。
その視線はどこか羨ましいものを見るもので、それをしばらくしてミモザもその視線に気づく。
「どうしたの、メアリおねーちゃん?」
「……いえ、なんでもありませんよ」
内心に秘めた気持ちを口には出さず、そっとミモザの頭を撫でることでごまかした。
「でも今回はちょうど良かった。ミモザの初仕事にはいい依頼だ」
グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)の言葉に、ルベーノ・バルバライン(ka6752)も同意するように頷いてみせる。
戦闘の危険も少なく、かつ野外での活動。
そして様々な事を知ることができるというのは、恵まれている事だろう。
「エバーグリーンでサーバーを支配していたカスケイドが滅び、お前の弟妹達が目覚め始めた。お前のようにハンターを志す者も増えてきた。追い抜かされないよう頑張らねばな」
頭を撫でながら言うルベーノに、元気に返事を返すミモザだった。
●流れ着く場所
暗渠の入り口にたどり着いてすぐに気づいたのはその異臭だった。
特に超嗅覚を利用したルスティロは匂いの元まではっきり感じ取っていた。
「暗渠の奥の方、20メートルぐらいかな」
「場所までわかるの?」
「僕たち霊闘士はね、こうやって感覚を研ぎ澄ませて色んな事を知れるんだ」
仲間に霊闘士がいるなら頼るのも手だよ、と続けるルスティロの言葉をメモに取る。
「何があるのか確認しておきたいが、これは明かりが要るな」
「お、んじゃあこれが役に立つな」
周囲の状況記録に暗渠の奥を覗き込み大二郎の言葉に、グリムバルドが荷物からおでこぺっかりん☆を取り出した。
魔導アーマーに装着することが想定されたライトは暗渠の中を照らすのに十分な光量があった、その隣でアシェールが魔導カメラのシャッターを連続して切る。
「アシェールさんは何をしているんですか?」
ミモザがアシェールの手元を覗き込めば撮影された景色が印刷されていた。
「記録を撮っているんです、こうしておけばあとからでも確認できますし、過去の記録とも比べやすいですからね」
「なるほどー!」
下準備や次の巡回の事も考える、それもまた大事なことだ。
キラキラと目を輝かせるミモザ、先輩としての威厳は保たれた。
暗渠の奥にあった腐臭の原因、それは踏み込んでみればすぐに発覚し、それに気づいたヴィリーがそっとミモザの視界を遮るように身を割り込ませた。
前に出たロゼがそれを確認し、そしてヴィリーと視線が交錯する。
互いに思うところがあるのだろう、ほんの少しの沈黙、先に口を開いたのはロゼのほうだった。
「ヴィリーちゃん、そこ……通してあげて?」
「ロゼさん……でも」
少し困ったような顔をするロゼ、彼の気持ちもなんとなくわかるからこそ、強く出るということもできない。
しかし今後に必要なことであると思うからこそ、譲る事もできない。
二人の緊張の糸を切ったのはミモザだった。
「ヴィリーおにいちゃん、大丈夫」
「……ミモザちゃん」
「何があるのかわかってるつもり、だから大丈夫だよ。……でも、ありがとう」
腰のあたりにギュッと抱きついて、微笑んで見せるミモザだった。
暗渠の奥に流れ着いていたのは何匹もの野犬の死骸だった。
それを前に、ロゼはそっと手を合わせる。
「ロゼおねーちゃん、なにしてるの?」
「ん、お祈り。負のマテリアルって結局のところ未練があったり、恨みがあったりしたら生まれるものだと私は思っているの」
だからせめて、祈るぐらいはね、と続けたロゼに習って、ミモザもそっと手を合わせる。
亡骸の検分をしながらロゼは知識に寄る判断の要点をミモザへと伝えていく。
毛皮の下の確認の仕方、傷口の状態による武器種の判断、硬直具合による死亡時間の判定など、すぐには身につかないようなものまで丁寧に。
隣で助手のような役割を務めるヴィリーが確認するように要点を捕捉していくやり取りは、ミモザにとって理解の一助になっていた。
そんな二人の手によって検分が進められる間、背後に居たメアリが機械指輪で周囲の環境をチェックしていた。
「汚染が発生するほどじゃないけど、負のマテリアルが溜まってるみてーだなぁ」
「やっぱりそうか、嫌な感じするもんな。じゃあそれについては俺が浄化しておこう」
「浄化?」
「ああ、比較的新しく作られた術なんだがな、負のマテリアルを綺麗にしてやるっていうかな……とりあえず見てればわかるさ。機導術だから、ミモザも訓練していけば使えるようになるさ」
次々に調査が進んでいくにつれて目まぐるしく変わる状況に、ミモザに疲れが見え始め休憩となった。
そんなミモザの隣に、メアリが腰を下ろす。
「大丈夫ですか?」
「うーん、ちょっとわからないことばっかりで混乱してるかもです」
少し落ち込んでいるようにも見えたその姿に、メアリは優しく声をかける。
「ミモザ、ゆっくりで大丈夫です。焦ることはないのですよ。場数を踏んでいけば自然と身につくことも多いのです」
「うん、いきなりくじけてられないもんね」
メアリの言葉に元気をもらったのか、自分を鼓舞するように言う、そんなミモザの目線は新たな標的を捕捉した。
「気になりますか?」
「みんな色々持ってきてるから」
「アナライズデバイスを使ってこの野犬の種類を調べているんですよ」
そう言って持ち込んだ道具を実際に使って見せる、こうした端末を初めてみたのか興味津々の様子だ。
「こうした道具を活用するのも有用です。場所によってはグリムバルドさんみたいにライトを持ってきたりもしますし、先程メアリさんが使っていた指輪なんかもそうですね」
ふんふん、と頷いてアシェールの説明を聞くミモザに、グリムバルドも寄ってくる。
「機導師はとにかく器用だからな。メアリさんがやってたけど、機械の扱いには特に秀でてる、スキルの媒体にもなるから用意しとくといいな。まあ、最後に頼れるのは自身の感覚ではあるけどな」
「野犬の亡骸は八つか、ここに棄てられたという可能性もあるだろうが、上流から流されてきたと考えるほうが妥当か……あるいはここまで追い込まれて殺されたか?」
周囲を調べながら可能性を羅列する大二郎に、流れ着いたものを集めつつ確認しているルベーノ、そんな二人のところへとミモザがやってきた。
「ちょうどよい、ミモザ君も一緒に考えてもらえるかな」
「うん、なに?」
「可能性の羅列と、視点の編纂だ思った通りに答えてくれれば良い」
死んでいた野犬はこれで全てか、生き残っていた個体がいたとすればどこへ行ったか、なぜここに遺されていたのか、事が起きたのはここか。
思いつく限りの可能性を羅列して、それを精査していく。
「そんなに色々考えないといけないんだ……」
「何かを調べる事において一番大切なのは、いつだってあらゆる物事や推察に関する可能性を捨てない事だ」
研究者らしい大二郎の言、それは様々な場面で応用の効く視点の持ち方だ。
「無論、高い低いの違いはある。だが何があろうとも、万物におけるあらゆる可能性はゼロになる事は無い」
その言葉をどのぐらいまで理解しているのかはわからないが、話が終わるまでの間ミモザは真剣に聞いていた。
「人徳、という奴なのだろうな」
大二郎の話が終わった所で、今までの一連の流れを見ていたルベーノが口に漏らす。
「ふえ?」
「素直である、というのは美点の1つだ。他者に交流してみたい、と思わせるからな。全てをこなせるものなど人にもオートマトンにも居ない。皆得手不得手があり、それを他者との付き合いで解消する。他者に付き合いたいと思わせるのは有為なことだ」
俺など殴るのが専門だしな、といって笑うルベーノだった。
「ええっと、いいこと……って意味だよね?」
「うむ、皆から好ましく思われている。それは紛れもないお前の力だ、大切にすることだ」
すっかり妹に接する兄のような様子であった。
●上流にて
「あの子たちは、縄張りを追い立てられたって言っていたんだ」
川の上流、森の入口の方へと向けて移動する道中、ルスティロは野犬の骸から聞いた声の内容をかいつまんで説明していた。
その記憶は住んでいた縄張りを自分たちよりも大型の野犬に追われ、川辺で狩られるまでの短いものだったが、比較的読み取りやすい、まだ記憶に新しいものだった。
「敵は集団で狩りをする野犬や狼、またはその歪虚かもしれぬ。気付いたら吠えて知らせよ」
連れてきた犬を撫でながらそうルベーノ。
わふっ、と元気な返事にうむ、と頷く。
「そろそろ予定の巡回地点だと思うけど、ルスティロさん、このあたり?」
「うん、見た景色だ。気をつけて」
地図を見ていたヴィリーの確認にルスティロの声が確信を持って返事が返された。
「こちらも負のマテリアルがやや濃くなっているようですね……」
「雑魔や歪虚がおる、という可能性も考慮せねばならんな」
メアリのチェックに思考を巡らせる大二郎、些細な出来事に思えるが、その大本に大きな災が無いとも限らない。
「……遠吠えが聞こえる、それに足音、近いよ!」
ルスティロの警告と、ルベーノの連れた犬の叫びが重なった。
森の影から矢のように飛び出してきた影が最も襲い易いとみた相手――ミモザへと迫る。
間に割って入ったのはヴィリーだった。
不意に経路を遮る盾に上に飛び上がった大型犬はそのまま上方から二人を襲おうと肉薄する。
だが、大型であれただの野犬ごときに遅れを取ることもない。
一閃された剣が毛皮を切り裂き、ギャヴ、という悲鳴とともに大型の野犬は森の影へと姿を消した。
後に残されたのは腰の剣に手をかけた状態で固まっているミモザと、緊張感を持って警戒を続けるハンター達。
「とっさのときにすぐに剣を抜けるよう、練習はしておいたほうがいいかもね」
剣を納めながら、ヴィリーがミモザに言う。
反応速度にもまた大きな違いがあった。
「……遠ざかっていくね、さっきのは斥候だったのかな。もう襲ってくる様子はなさそうだよ」
「ふむむ、普段は森の深いところに生息してる種みたいですね、こんなところにまで出てくるとは珍しいですね」
あの一瞬で分析をかけていたアシェールがデータを共有する、森の入り口の巡回任務もどうやらこれで終わりとなりそうだ。
陽はすでに傾き始め、空は朱に染まり始めている。
「ハンターとしての初依頼をすませた感想はどうだ、ミモザ? これからも続けられそうか?」
ルベーノの言葉に、ミモザは少し言葉を選ぶような仕草を見せる。
それを見守り返事を待つ間、皆の視線がミモザへと集まった。
「今の私の出来ることって、すごく少なくて……したいことは、もっとずっと先にあるって、今日はっきりわかったの」
出来る事と、したいと望む事、その乖離……距離を否応なく感じさせられたであろう少女は言う。
「でも……ううん、だから……止まってなんていられない!」
夕焼け空に掲げる少女の決意は、揺らぐことはなさそうだ。
「じゃあ、後は報告よね。調査は報告を終えるまでがお仕事よ、まとめ、よろしくね?」
そう言ってロゼがミモザをオフィスの前に出す。
これも経験、ということだ。
「はい。ではミモザさん、今回の調査に於ける一連の報告をお願いします」
いつもどおりの対応をするエリクシアに、若干驚き気味だ。
オフィスの職員としての彼女を見るのは初めてかもしれない。
「え、と。暗渠では野犬の死体が八つ流れ着いていました。汚染があったのでこれはグリムバルドお……さんが浄化で応急処置してあります。死体は埋葬済みです。森では、森の奥に住んでるはずの大型の野犬に襲われました。ヴィリーさんが軽く威嚇したことで一旦引っ込んだみたいです、けど……縄張りを追われて出てきた可能性があります」
順を追ってまとめながら話すミモザと、それをメモしながら聞くエリクシア、初々しい光景を見守りながらも時折視線を向けてくるエリクシアに、それぞれ頷いて返す。
特に大きな間違いもなく、伝えるべき情報はすべて伝えられた。
ミモザの報告が終わり、しばしの沈黙。
エリクシアがぱちんとクリップボードにペンを納めた。
「確認は以上ですね、報告完了とみなします。皆さん、お疲れ様でした」
「きみがミモザちゃんだね。僕はヴィリー・シュトラウス(ka6706)、今日はよろしく」
そう言って差し出された手を、やや緊張した面持ちでとるミモザだった。
笑顔を向けるヴィリーに少しだけ緊張がほぐれたのか、こわばっていた手が柔らかくなる。
「ふふー、初めましてミモザさんアシェ-ル(ka2983)って言います、よろしくです」
「ヴィリーさんに、アシェールさん、ですね。今日はよろしくお願いします」
ぺこり、と頭を下げるミモザをじっと見るアシェール。
仕草も、肌の質感も、アシェールを写す緑色の瞳も――何も変わらないように見えて、思わず彼女の頬を触る。
柔らかい感触に、ほのかに感じる体温、そしてびくっとしたミモザの反応。
突然のことに驚いたのか、他で準備していたルスティロ・イストワール(ka0252)のほうへと駆けていくミモザを見送ることとなった。
「……オートマトンって、やっぱり、どう見ても、私達と変わらない気がするんですよね……」
「そうですね、僕もそう思います。普通の……どこにでもいる女の子みたいだ」
ててて、と小走りに駆けていくミモザの背中に、二人してそんな感想を抱くのだった。
「ミモザちゃん、初! ハンターのお仕事ねv」
「初めてのちゃんとしたお仕事だね。一緒に頑張ろう、ミモザさん!」
ロス・バーミリオン(ka4718)とルスティロに迎えられて、まだ経験の浅いミモザもなんとなく察する所があったのだろう。
この前のことはそっと口をつぐんだ。
触れないほうがいい事もある、それを学んだ瞬間だったかもしれない。
「うん! まだわからないことばっかりだけど……」
そう言ってはにかむように笑うミモザを、ロゼがぎゅーっと抱きしめたのは当然のことだったかもしれない。
「私に何でも聞いてね? ミモザちゃんのお願いならなんでも聞いてあげちゃうっ♪」
囲まれるミモザを見て、それが答えなのだと久延毘 大二郎(ka1771)は納得する。
「……そうか、それが君の選択なんだな、ミモザ君」
「うん。やれることからやるって、決めたの」
その答えは、大二郎にとって十分なものだった。
「二言は無い。私はその選択を後押しする為の助力は惜しまんよ。今日の依頼はその第一歩だ、大手を振って征くと良いさ」
大二郎の少々大仰な身振り手振りに合わせて反応を返すミモザを、少し離れたところからメアリ・ロイド(ka6633)が見つめていた。
その視線はどこか羨ましいものを見るもので、それをしばらくしてミモザもその視線に気づく。
「どうしたの、メアリおねーちゃん?」
「……いえ、なんでもありませんよ」
内心に秘めた気持ちを口には出さず、そっとミモザの頭を撫でることでごまかした。
「でも今回はちょうど良かった。ミモザの初仕事にはいい依頼だ」
グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)の言葉に、ルベーノ・バルバライン(ka6752)も同意するように頷いてみせる。
戦闘の危険も少なく、かつ野外での活動。
そして様々な事を知ることができるというのは、恵まれている事だろう。
「エバーグリーンでサーバーを支配していたカスケイドが滅び、お前の弟妹達が目覚め始めた。お前のようにハンターを志す者も増えてきた。追い抜かされないよう頑張らねばな」
頭を撫でながら言うルベーノに、元気に返事を返すミモザだった。
●流れ着く場所
暗渠の入り口にたどり着いてすぐに気づいたのはその異臭だった。
特に超嗅覚を利用したルスティロは匂いの元まではっきり感じ取っていた。
「暗渠の奥の方、20メートルぐらいかな」
「場所までわかるの?」
「僕たち霊闘士はね、こうやって感覚を研ぎ澄ませて色んな事を知れるんだ」
仲間に霊闘士がいるなら頼るのも手だよ、と続けるルスティロの言葉をメモに取る。
「何があるのか確認しておきたいが、これは明かりが要るな」
「お、んじゃあこれが役に立つな」
周囲の状況記録に暗渠の奥を覗き込み大二郎の言葉に、グリムバルドが荷物からおでこぺっかりん☆を取り出した。
魔導アーマーに装着することが想定されたライトは暗渠の中を照らすのに十分な光量があった、その隣でアシェールが魔導カメラのシャッターを連続して切る。
「アシェールさんは何をしているんですか?」
ミモザがアシェールの手元を覗き込めば撮影された景色が印刷されていた。
「記録を撮っているんです、こうしておけばあとからでも確認できますし、過去の記録とも比べやすいですからね」
「なるほどー!」
下準備や次の巡回の事も考える、それもまた大事なことだ。
キラキラと目を輝かせるミモザ、先輩としての威厳は保たれた。
暗渠の奥にあった腐臭の原因、それは踏み込んでみればすぐに発覚し、それに気づいたヴィリーがそっとミモザの視界を遮るように身を割り込ませた。
前に出たロゼがそれを確認し、そしてヴィリーと視線が交錯する。
互いに思うところがあるのだろう、ほんの少しの沈黙、先に口を開いたのはロゼのほうだった。
「ヴィリーちゃん、そこ……通してあげて?」
「ロゼさん……でも」
少し困ったような顔をするロゼ、彼の気持ちもなんとなくわかるからこそ、強く出るということもできない。
しかし今後に必要なことであると思うからこそ、譲る事もできない。
二人の緊張の糸を切ったのはミモザだった。
「ヴィリーおにいちゃん、大丈夫」
「……ミモザちゃん」
「何があるのかわかってるつもり、だから大丈夫だよ。……でも、ありがとう」
腰のあたりにギュッと抱きついて、微笑んで見せるミモザだった。
暗渠の奥に流れ着いていたのは何匹もの野犬の死骸だった。
それを前に、ロゼはそっと手を合わせる。
「ロゼおねーちゃん、なにしてるの?」
「ん、お祈り。負のマテリアルって結局のところ未練があったり、恨みがあったりしたら生まれるものだと私は思っているの」
だからせめて、祈るぐらいはね、と続けたロゼに習って、ミモザもそっと手を合わせる。
亡骸の検分をしながらロゼは知識に寄る判断の要点をミモザへと伝えていく。
毛皮の下の確認の仕方、傷口の状態による武器種の判断、硬直具合による死亡時間の判定など、すぐには身につかないようなものまで丁寧に。
隣で助手のような役割を務めるヴィリーが確認するように要点を捕捉していくやり取りは、ミモザにとって理解の一助になっていた。
そんな二人の手によって検分が進められる間、背後に居たメアリが機械指輪で周囲の環境をチェックしていた。
「汚染が発生するほどじゃないけど、負のマテリアルが溜まってるみてーだなぁ」
「やっぱりそうか、嫌な感じするもんな。じゃあそれについては俺が浄化しておこう」
「浄化?」
「ああ、比較的新しく作られた術なんだがな、負のマテリアルを綺麗にしてやるっていうかな……とりあえず見てればわかるさ。機導術だから、ミモザも訓練していけば使えるようになるさ」
次々に調査が進んでいくにつれて目まぐるしく変わる状況に、ミモザに疲れが見え始め休憩となった。
そんなミモザの隣に、メアリが腰を下ろす。
「大丈夫ですか?」
「うーん、ちょっとわからないことばっかりで混乱してるかもです」
少し落ち込んでいるようにも見えたその姿に、メアリは優しく声をかける。
「ミモザ、ゆっくりで大丈夫です。焦ることはないのですよ。場数を踏んでいけば自然と身につくことも多いのです」
「うん、いきなりくじけてられないもんね」
メアリの言葉に元気をもらったのか、自分を鼓舞するように言う、そんなミモザの目線は新たな標的を捕捉した。
「気になりますか?」
「みんな色々持ってきてるから」
「アナライズデバイスを使ってこの野犬の種類を調べているんですよ」
そう言って持ち込んだ道具を実際に使って見せる、こうした端末を初めてみたのか興味津々の様子だ。
「こうした道具を活用するのも有用です。場所によってはグリムバルドさんみたいにライトを持ってきたりもしますし、先程メアリさんが使っていた指輪なんかもそうですね」
ふんふん、と頷いてアシェールの説明を聞くミモザに、グリムバルドも寄ってくる。
「機導師はとにかく器用だからな。メアリさんがやってたけど、機械の扱いには特に秀でてる、スキルの媒体にもなるから用意しとくといいな。まあ、最後に頼れるのは自身の感覚ではあるけどな」
「野犬の亡骸は八つか、ここに棄てられたという可能性もあるだろうが、上流から流されてきたと考えるほうが妥当か……あるいはここまで追い込まれて殺されたか?」
周囲を調べながら可能性を羅列する大二郎に、流れ着いたものを集めつつ確認しているルベーノ、そんな二人のところへとミモザがやってきた。
「ちょうどよい、ミモザ君も一緒に考えてもらえるかな」
「うん、なに?」
「可能性の羅列と、視点の編纂だ思った通りに答えてくれれば良い」
死んでいた野犬はこれで全てか、生き残っていた個体がいたとすればどこへ行ったか、なぜここに遺されていたのか、事が起きたのはここか。
思いつく限りの可能性を羅列して、それを精査していく。
「そんなに色々考えないといけないんだ……」
「何かを調べる事において一番大切なのは、いつだってあらゆる物事や推察に関する可能性を捨てない事だ」
研究者らしい大二郎の言、それは様々な場面で応用の効く視点の持ち方だ。
「無論、高い低いの違いはある。だが何があろうとも、万物におけるあらゆる可能性はゼロになる事は無い」
その言葉をどのぐらいまで理解しているのかはわからないが、話が終わるまでの間ミモザは真剣に聞いていた。
「人徳、という奴なのだろうな」
大二郎の話が終わった所で、今までの一連の流れを見ていたルベーノが口に漏らす。
「ふえ?」
「素直である、というのは美点の1つだ。他者に交流してみたい、と思わせるからな。全てをこなせるものなど人にもオートマトンにも居ない。皆得手不得手があり、それを他者との付き合いで解消する。他者に付き合いたいと思わせるのは有為なことだ」
俺など殴るのが専門だしな、といって笑うルベーノだった。
「ええっと、いいこと……って意味だよね?」
「うむ、皆から好ましく思われている。それは紛れもないお前の力だ、大切にすることだ」
すっかり妹に接する兄のような様子であった。
●上流にて
「あの子たちは、縄張りを追い立てられたって言っていたんだ」
川の上流、森の入口の方へと向けて移動する道中、ルスティロは野犬の骸から聞いた声の内容をかいつまんで説明していた。
その記憶は住んでいた縄張りを自分たちよりも大型の野犬に追われ、川辺で狩られるまでの短いものだったが、比較的読み取りやすい、まだ記憶に新しいものだった。
「敵は集団で狩りをする野犬や狼、またはその歪虚かもしれぬ。気付いたら吠えて知らせよ」
連れてきた犬を撫でながらそうルベーノ。
わふっ、と元気な返事にうむ、と頷く。
「そろそろ予定の巡回地点だと思うけど、ルスティロさん、このあたり?」
「うん、見た景色だ。気をつけて」
地図を見ていたヴィリーの確認にルスティロの声が確信を持って返事が返された。
「こちらも負のマテリアルがやや濃くなっているようですね……」
「雑魔や歪虚がおる、という可能性も考慮せねばならんな」
メアリのチェックに思考を巡らせる大二郎、些細な出来事に思えるが、その大本に大きな災が無いとも限らない。
「……遠吠えが聞こえる、それに足音、近いよ!」
ルスティロの警告と、ルベーノの連れた犬の叫びが重なった。
森の影から矢のように飛び出してきた影が最も襲い易いとみた相手――ミモザへと迫る。
間に割って入ったのはヴィリーだった。
不意に経路を遮る盾に上に飛び上がった大型犬はそのまま上方から二人を襲おうと肉薄する。
だが、大型であれただの野犬ごときに遅れを取ることもない。
一閃された剣が毛皮を切り裂き、ギャヴ、という悲鳴とともに大型の野犬は森の影へと姿を消した。
後に残されたのは腰の剣に手をかけた状態で固まっているミモザと、緊張感を持って警戒を続けるハンター達。
「とっさのときにすぐに剣を抜けるよう、練習はしておいたほうがいいかもね」
剣を納めながら、ヴィリーがミモザに言う。
反応速度にもまた大きな違いがあった。
「……遠ざかっていくね、さっきのは斥候だったのかな。もう襲ってくる様子はなさそうだよ」
「ふむむ、普段は森の深いところに生息してる種みたいですね、こんなところにまで出てくるとは珍しいですね」
あの一瞬で分析をかけていたアシェールがデータを共有する、森の入り口の巡回任務もどうやらこれで終わりとなりそうだ。
陽はすでに傾き始め、空は朱に染まり始めている。
「ハンターとしての初依頼をすませた感想はどうだ、ミモザ? これからも続けられそうか?」
ルベーノの言葉に、ミモザは少し言葉を選ぶような仕草を見せる。
それを見守り返事を待つ間、皆の視線がミモザへと集まった。
「今の私の出来ることって、すごく少なくて……したいことは、もっとずっと先にあるって、今日はっきりわかったの」
出来る事と、したいと望む事、その乖離……距離を否応なく感じさせられたであろう少女は言う。
「でも……ううん、だから……止まってなんていられない!」
夕焼け空に掲げる少女の決意は、揺らぐことはなさそうだ。
「じゃあ、後は報告よね。調査は報告を終えるまでがお仕事よ、まとめ、よろしくね?」
そう言ってロゼがミモザをオフィスの前に出す。
これも経験、ということだ。
「はい。ではミモザさん、今回の調査に於ける一連の報告をお願いします」
いつもどおりの対応をするエリクシアに、若干驚き気味だ。
オフィスの職員としての彼女を見るのは初めてかもしれない。
「え、と。暗渠では野犬の死体が八つ流れ着いていました。汚染があったのでこれはグリムバルドお……さんが浄化で応急処置してあります。死体は埋葬済みです。森では、森の奥に住んでるはずの大型の野犬に襲われました。ヴィリーさんが軽く威嚇したことで一旦引っ込んだみたいです、けど……縄張りを追われて出てきた可能性があります」
順を追ってまとめながら話すミモザと、それをメモしながら聞くエリクシア、初々しい光景を見守りながらも時折視線を向けてくるエリクシアに、それぞれ頷いて返す。
特に大きな間違いもなく、伝えるべき情報はすべて伝えられた。
ミモザの報告が終わり、しばしの沈黙。
エリクシアがぱちんとクリップボードにペンを納めた。
「確認は以上ですね、報告完了とみなします。皆さん、お疲れ様でした」
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/07/03 10:00:44 |
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見習いちゃんに愛の手を♪ ロス・バーミリオン(ka4718) 人間(リアルブルー)|32才|男性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2017/07/05 13:33:05 |