ゲスト
(ka0000)
【陶曲】風雲!フマーレ城
マスター:深夜真世

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~50人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/07/21 22:00
- 完成日
- 2017/08/06 01:54
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
蒸気工業都市「フマーレ」には労働組合がある。
雇用側と労働者間で発生しうるトラブルを事前に回避するこの手法は、都市設立時点で雇用側が認め存在していた。低賃金での強制労働や賃金未払いなどの問題が発生してからではないのは、いかにも生産性とものづくりの原点を失わない、同都市の本懐を表すものといえよう。
逆に、労使間交渉などで激しく対立することはなかった。
そのためというわけでもないが、フマーレ労働組合の長は楽観が服を着たような人物、フランコ・カルヴィーニ(53、男性)が務めている。
「そいつはいけねぇ。すぐハンターさんに依頼しねぇと」
と稀に口にする言葉は、彼を如実に表していた。
餅は餅屋という基本を外すことはないともいえる。
だもので、フマーレ工場側代表サンドラ・ボナッタ(39、女性)と一緒に、フマーレ代表として自由都市評議会に参加はしているが、あまり口を挟まない。
ただし、評議会の権力争いが表面化する傾向がある昨今、忌憚のない意見をズバズバ言ったりもする。
「俺の代わりどころか、優秀なのはいくらでもいるし」
遠慮なく言って後は知らない、みたいなスタンスも取る。
というわけで、彼を知る者は驚いた。
「組合員、みんな集まれ! 集まらねぇと組合長やめるぞ!」
突然組合員の招集をかけてまくしたてているのだから。
「組合長、今日はどうしたんだ? なんか不味いワインでも飲んだか?」
「ああ、これまで煮え湯を飲んでたとも。今年は賃上げを強く要望するぞ!」
冗談にも乗ってこないフランコの様子に顔を見合わせる組合員の面々。
「本当にどうしちゃったんだ? まるで別人じゃないか」
「確かに。ただ怒鳴ってるだけじゃなくて殺気立ってるよな?」
異様な雰囲気にぼそぼそとつぶやき合う。
「景気はいいんだから賃上げ要求してもいいかもだがよ、一体どうやるよ?」
「んだんだ。俺っちらは交渉のプロじゃねぇぜ?」
現状に不満はないが、金がもらえるならそれに越したことはないとの見解を示す組合員もいたが、当然これまでもそれとなく要求して先延ばしされていた。各工場で福利厚生に回されるなどしているので納得している面もある。
ただ、組合長がそこまで言うなら、との思いもある。
あるがしかし、その方法が浮かばない。現にこれまで正攻法で先延ばしされているのだから。
「これだ。東方交流で手に入れた」
フランコ、手にしていた巻物を広げた。
「もうサンドラのお茶会なんぞには出んぞ! 男はやっぱり城じゃ! この東方の資料を基に天守閣を立てるのじゃ! そこに籠城して賃上げを今年こそ勝ち取るのじゃ~っ! 者ども、であえぇぇぇ~い!」
どうやら東方風の城の見取り図らしい。
「なんだよ、そのノリは。騒ぎたいのか?」
「おうよ! ジェオルジを見ろ。郷祭だ春郷祭だと大々的に騒いで儲けておるではないか。フマーレもやるぞ! 名付けて賃上げ祭りじゃ! 者ども、であえぇぇぇ~い!」
鬼気迫る顔で盛り上がるフランコに、はっとする組合員もいる。
「そ、それやー!」
「祭りじゃ祭りじゃ、賃上げ祭りじゃ~!」
祭りで騒ぐんなら乗る、という組合員もいる。
一方、職人の本性から真面目に見取り図に顔を突き合わせ顎に手を当てている者たちもいる。
「どれどれ、天守閣? ……ああ、既存の建物の上に豪華な櫓を上げりゃいいのか?」
「ちょうどフマーレの大火の時に建てた仮設の救護所とか撤去して資材を廃棄する前だろ? それを使えば簡単にできるぜ?」
「ほう……東方の城は高い城壁で守るんじゃなく、曲輪って区画を重ねてそこで迎撃する防衛戦略をとるのか……楽しそうだな」
「バリケードで封鎖して大通りや広場を曲輪に見立てりゃいいわけだな」
「祭りならけが人が出にくい方がいいだろ。ハリセンと盾で武装すりゃいいな」
「なら、うちはカーテンレールの端材を提供しよう。弓をセットしてカーテン駒にコルク栓を付けりゃ簡単にコルク弾ボウガンができる」
ものづくりを生業とする職人魂に火がついていた。
「なんか楽しくなってきた。騒いでうまくいきゃ賃上げってんなら頑張るぜ!」
大火があったり何かと気落ちする中、盛り上がりを欲していた組合員たちは悪い話ではないとこの話に乗った。
「人は一代、名は末代じゃ~っ!」
「祭りじゃ祭りじゃ、賃上げ祭りじゃ~っ!」
一人異様な形相で怪気炎を上げるフランコに、同調の拳を振り上げる。
ただし。
「……組合長は楽観的なところがある。マジでやって問題になったらヤバいぞ」
「この天守閣ってのはいいな。組合長をここに祭り上げ隔離して俺たちが祭りにすり替えよう」
「おそらくサンドラも軍に介入させないはずだ。やってくる自警団は適当に足止めして祭り風にごまかそう」
早速、良識派たちは組合長を梯子に登らせその梯子を外す作戦を画策していた。
一方、サンドラはいつものように女性客を招きお茶会をしていた。
「かしらかしら、ご存知かしら?」
「え? 男たちは無駄働きをした挙句に賃上げ交渉しているのですって? ……はぁ。ハンターに攻略してもらいなさい。くれぐれも、けが人を出さないように。ちょっと力の違いを見せればすぐに腰を抜かして戦意を失うでしょう。……これは内輪の揉め事。軍には一切手出しさせないように」
築城の報告を受け、深いため息をつくのだった。
事態を収拾してくれる人、求ム。
雇用側と労働者間で発生しうるトラブルを事前に回避するこの手法は、都市設立時点で雇用側が認め存在していた。低賃金での強制労働や賃金未払いなどの問題が発生してからではないのは、いかにも生産性とものづくりの原点を失わない、同都市の本懐を表すものといえよう。
逆に、労使間交渉などで激しく対立することはなかった。
そのためというわけでもないが、フマーレ労働組合の長は楽観が服を着たような人物、フランコ・カルヴィーニ(53、男性)が務めている。
「そいつはいけねぇ。すぐハンターさんに依頼しねぇと」
と稀に口にする言葉は、彼を如実に表していた。
餅は餅屋という基本を外すことはないともいえる。
だもので、フマーレ工場側代表サンドラ・ボナッタ(39、女性)と一緒に、フマーレ代表として自由都市評議会に参加はしているが、あまり口を挟まない。
ただし、評議会の権力争いが表面化する傾向がある昨今、忌憚のない意見をズバズバ言ったりもする。
「俺の代わりどころか、優秀なのはいくらでもいるし」
遠慮なく言って後は知らない、みたいなスタンスも取る。
というわけで、彼を知る者は驚いた。
「組合員、みんな集まれ! 集まらねぇと組合長やめるぞ!」
突然組合員の招集をかけてまくしたてているのだから。
「組合長、今日はどうしたんだ? なんか不味いワインでも飲んだか?」
「ああ、これまで煮え湯を飲んでたとも。今年は賃上げを強く要望するぞ!」
冗談にも乗ってこないフランコの様子に顔を見合わせる組合員の面々。
「本当にどうしちゃったんだ? まるで別人じゃないか」
「確かに。ただ怒鳴ってるだけじゃなくて殺気立ってるよな?」
異様な雰囲気にぼそぼそとつぶやき合う。
「景気はいいんだから賃上げ要求してもいいかもだがよ、一体どうやるよ?」
「んだんだ。俺っちらは交渉のプロじゃねぇぜ?」
現状に不満はないが、金がもらえるならそれに越したことはないとの見解を示す組合員もいたが、当然これまでもそれとなく要求して先延ばしされていた。各工場で福利厚生に回されるなどしているので納得している面もある。
ただ、組合長がそこまで言うなら、との思いもある。
あるがしかし、その方法が浮かばない。現にこれまで正攻法で先延ばしされているのだから。
「これだ。東方交流で手に入れた」
フランコ、手にしていた巻物を広げた。
「もうサンドラのお茶会なんぞには出んぞ! 男はやっぱり城じゃ! この東方の資料を基に天守閣を立てるのじゃ! そこに籠城して賃上げを今年こそ勝ち取るのじゃ~っ! 者ども、であえぇぇぇ~い!」
どうやら東方風の城の見取り図らしい。
「なんだよ、そのノリは。騒ぎたいのか?」
「おうよ! ジェオルジを見ろ。郷祭だ春郷祭だと大々的に騒いで儲けておるではないか。フマーレもやるぞ! 名付けて賃上げ祭りじゃ! 者ども、であえぇぇぇ~い!」
鬼気迫る顔で盛り上がるフランコに、はっとする組合員もいる。
「そ、それやー!」
「祭りじゃ祭りじゃ、賃上げ祭りじゃ~!」
祭りで騒ぐんなら乗る、という組合員もいる。
一方、職人の本性から真面目に見取り図に顔を突き合わせ顎に手を当てている者たちもいる。
「どれどれ、天守閣? ……ああ、既存の建物の上に豪華な櫓を上げりゃいいのか?」
「ちょうどフマーレの大火の時に建てた仮設の救護所とか撤去して資材を廃棄する前だろ? それを使えば簡単にできるぜ?」
「ほう……東方の城は高い城壁で守るんじゃなく、曲輪って区画を重ねてそこで迎撃する防衛戦略をとるのか……楽しそうだな」
「バリケードで封鎖して大通りや広場を曲輪に見立てりゃいいわけだな」
「祭りならけが人が出にくい方がいいだろ。ハリセンと盾で武装すりゃいいな」
「なら、うちはカーテンレールの端材を提供しよう。弓をセットしてカーテン駒にコルク栓を付けりゃ簡単にコルク弾ボウガンができる」
ものづくりを生業とする職人魂に火がついていた。
「なんか楽しくなってきた。騒いでうまくいきゃ賃上げってんなら頑張るぜ!」
大火があったり何かと気落ちする中、盛り上がりを欲していた組合員たちは悪い話ではないとこの話に乗った。
「人は一代、名は末代じゃ~っ!」
「祭りじゃ祭りじゃ、賃上げ祭りじゃ~っ!」
一人異様な形相で怪気炎を上げるフランコに、同調の拳を振り上げる。
ただし。
「……組合長は楽観的なところがある。マジでやって問題になったらヤバいぞ」
「この天守閣ってのはいいな。組合長をここに祭り上げ隔離して俺たちが祭りにすり替えよう」
「おそらくサンドラも軍に介入させないはずだ。やってくる自警団は適当に足止めして祭り風にごまかそう」
早速、良識派たちは組合長を梯子に登らせその梯子を外す作戦を画策していた。
一方、サンドラはいつものように女性客を招きお茶会をしていた。
「かしらかしら、ご存知かしら?」
「え? 男たちは無駄働きをした挙句に賃上げ交渉しているのですって? ……はぁ。ハンターに攻略してもらいなさい。くれぐれも、けが人を出さないように。ちょっと力の違いを見せればすぐに腰を抜かして戦意を失うでしょう。……これは内輪の揉め事。軍には一切手出しさせないように」
築城の報告を受け、深いため息をつくのだった。
事態を収拾してくれる人、求ム。
リプレイ本文
●開戦前
「祭りじゃ祭りじゃ、賃上げ祭りじゃ~!」
労働組合立て籠もり参加者は、築いたバリケード越しに最高潮の盛り上がりを見せていた。背後には、平屋工場屋上に突如として現れた天守閣。一夜城の安普請とはいえ、なかなかの威風を、というか異彩を放っている。
通り掛かる一般人はすでに立ち入り禁止。雇用側が鎮圧のために雇ったハンターがずらりと集合し正面バリケードとにらみ合いをしている。
そこへマルゲリータピザをぱくつきながら街を散策していた狐中・小鳥(ka5484)が通り掛かった。
「……え、何かやってるのかな、かな?」
「おう、小鳥。何やらストライキの立て籠もりらしいぜ?」
トリプルJ(ka6653)、聞き覚えのある声に振り向き手招きする。
「祭りのように見えるんだよ?」
「うん。賃上げ交渉……が何でこうなったんだ。よく分からん」
Jの横にいたグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)が腕組みしたまま遠い視線。思い返せば自身も「見聞広める旅行のはずがなんで異世界に」なよく分からん経緯だったなぁ、とかしみじみと。
「あ、きっとフマーレを盛り上げる為にわざと騒ぎを起こしているのだと思います」
代わりに大人びた少女、ユウ(ka6891)が説明。
「ただ、フランコのおっさんが暴走したみたいなんでしょ? 気になるところね」
「それじゃ。前に村長がおかしくなった村の話を聞いたが……」
だるそうに天守閣を見詰めているキーリ(ka4642)の声。ディヤー・A・バトロス(ka5743)はそれに頷いた。
「最近、同盟のアチコチでおかしなコトあるよネ。急に様子が変わった…ここも歪虚の仕業カナ…」
これにパトリシア=K=ポラリス(ka5996)が寄って来て不安そうにする。
「そうかもしれん。ワシの関わった依頼の時は玩具の鳥が関係しておったが……」
「うーん……気になります。魔法や呪いがかかっているとか?」
ディヤーの話にマーオ・ラルカイム(ka5475)が大人っぽくぼんやりと。
「つまり、何か異変のきっかけになるようなものがあれば押収。そうでなければマーオさんたち聖導士を待てばいいんだね?」
代わりに霧雨 悠月(ka4130)がしっかり頷く。
そんな後方でのやり取りはバリケードとにらみ合う最前線も興味があるようで。
「お、ピザ食ってるよ。うまそうだな」
道元 ガンジ(ka6005)が振り向き、ピザの買い食いしている小鳥をうらやましそうに見ている。
「きみ、これが戦なら食糧庫を真っ先に襲いそうだね?」
潜入経験豊富なフェイル・シャーデンフロイデ(ka4808)が勘所を披露しつつくすりと微笑したのが……まずかった!
「それだ!」
ガンジ、天啓を受けたがごとく気合をみなぎらせる。
「しかしこれ、祭りじゃなくてストライキなんだよな……? さすがに不味いだろ」
冷静に呟いたのは東條 奏多(ka6425)。街の一角をバリケードで囲んで立て籠もる区画を遠巻きにして自警団などが待機している様子に目を配る。
「とても大きなお祭りになったものね?」
隣でくすりとアリア・セリウス(ka6424)。もちろん、バリケード内では「祭りじゃ祭りじゃ~!」とお題目のように組合員が叫んでいる。
「……祭りにするしかないよな?」
なんだかんだでお人好しの奏多、問題化させないためにはそれしかないと頷く。
「祭…の内は良い、ですけれど…人が変わった様に、と言うのは気になりますね」
横からひょいと顔を出した天央 観智(ka0896)が呟く。羽織る白衣はくたびれているが、立つ姿はぴしっと折り目が付いている。
「組合長だろ? 熱気を冷まさないように……ちょいと顔貸してもらえばいいだろう」
新たに赤毛の男、ヴァイス(ka0364)が横に立ち天守閣物見に視線を定め言う。
「ストライキね…そんな時間がありましたら……」
雨月彩萌(ka3925)もここにいる。
が、しゃべったのは彼女ではない。彩萌の後ろに影のように存在していた雨月 藍弥(ka3926)である。
「いつの間に! 勝手について来て何を言ってるんです?」
振り向く彩萌は「この異常兄は」と毅然な態度。
「こっそりついて来ました」
「お帰り願います」
新たな揉め事のその横で。
「呵呵ッ! 祭りだ! 祭りだ!」
万歳丸(ka5665)がすでに一人盛り上がっている。
「オッケー、お祭りお祭りネ♪」
パティも背後からやって来て盛り上がり。
「やー、粋じゃねェか、クミアイチョー? とやらも!! いっちょ派手にキメてやろうじゃねェか!」
「異変のきっかけがあったら報告するネ。それじゃ実況、行ってくるヨ」
組合長に負けずに怪気炎を上げる万歳丸に方針を伝えたパティがすっと別の場所に。
「ン? パティはイカねェのか?」
「お祭りお祭り、ですね……あら、パティはリポーターさん? こっちもがんばってくるよーっ!」
万歳丸、そして一緒に穏やかに盛り上がっていた央崎 遥華(ka5644)がパティを見送った。
「ま、ここでだらだらにらみ合いしてても仕方ねえ。手早く片付けるか」
パティの動き出しを見てジャック・エルギン(ka1522)が仕方ねぇと前に出る。
その横に、携帯用高級羽ペンを持ち双眼鏡を提げたルスティロ・イストワール(ka0252)が控える。手にした紙にフマーレ城の総構が描かれている。
「軽く見回ったけど、人が多く詰めた場所が他に二か所あるよ!」
これを聞いたエルギン、改めて息を吸い込む。
「ようし、判断は皆に任せるぜ……そんじゃ、祭り開催だ!」
「おおっ!」
掲げた手が振り下ろされハンター部隊、突入。
「行くよイリエスカ!」
「ざくろと一緒だね!」
時音 ざくろ(ka1250)とイリエスカ(ka6885)が頷き合い正面のバリケードに走る!
「俺たちはこっちだ!」
「わ~、ないなに、お祭りお祭り? 楽しそう、私も参加する~!」
ジャックがルスティロの地図を見て右に一部隊を誘導する。たまたま通り掛かった夢路 まよい(ka1328)、特に予定もなくのんびり散歩していたが衝動的に野次馬参加する。
「では私はこちらを」
「私は私なりのやり方で攻略するとしましょうか」
エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)はジャックと反対の左に向かう。組合員たちが立てこもっている場所を見ながら一人佇んでいたエルバッハ・リオン(ka2434)もこちらに流れる!
どどど……と大きく動き出す部隊。何という迫力か。
「……きっと、わざと大きな音を立ててるんですね」
残されたユウがぽそり。
ありがたい、と静かに隠密突入に向かう。
「さぁ、始まった。次々挑んでいくは歴戦の戦士達! 果たして突破できるかな!?」
ルスティロは記録に専念する様子で、皆の後ろからついて行く。
フマーレ籠城戦の火ぶたが切って落とされた。
●丸太
正面のバリケードでは即座に小競り合いが始まった。
「祭りじゃ祭りじゃ!」
「ええ打ち込みじゃ。祭りはこうでなくてはのぅ」
組合防衛隊に突っ込んだカナタ・ハテナ(ka2130)がびらりと広げた鉄扇で各所から振り下ろされるハリセンを止める、止める!
「ほれ、こうしたらどうするのじゃ?」
止めるだけではない。すぐさま手加減チョップでハリセンを叩き落としていく。
この時、前線の視線が後方から切れた。
刹那――。
「それっ。ハリセンは厚紙だから水に弱いんじゃないかなー?」
無警戒の後方からイリエスカのウォーターガンが火を噴くもとい水をびゅーびゅー噴いている。
「おわっ。こりゃたまらん」
「ほらほら、もっと熱くならないと俺達は止められないぜ!」
ひるんだ隙に前線にいたヴァイスがとんでもない行動に出る!
「よっこらせ、っと」
長身と足の長さを生かし、何とバリケードを一瞬で踏み越えたではないか!
「ちょいと借りるぜ?」
「え? ……うわああああ」
でもって守備隊の武器を奪うとすぱんすぱんとハリセン乱舞! 右に左にと小気味良い打撃音が響き渡る。
「つまりなんだ、存分に輝いても良いのだろう?」
おおっと。グレンデル・フォトンヘッド(ka6894)も突っ込んで来た!
「私の輝き(私)を存分に受け取れ!」
騒ぎに文字通り頭を突っ込んで、法術盾とともにシャイン!
そしてそのまま大回転して周りのハリセンを吹っ飛ばす。
「よし、いまじゃ!」
カナタの号令。切り込み隊長、ヴァイスらの活躍で正面門虎口、一斉に崩れ後続のハンターたちがなだれ込んだ。
「正面門、陥落! 三の丸防衛線まで退却、そこで食い止めるぞ!」
「おおー」
「急げ急げ~」
突破したハンターと次の防衛ラインまで走る組合員とでマラソン大会スタート後もかくやの大混戦を見せる。
そして三の丸に突入したハンターたち。目の前には巨大なセットが待ち構えていた。
広場広くをステージで高くし谷間を作り、長い一本橋が渡されていたのだ。
「わはは。次の北の丸に行きたくばこの集中砲火一本橋を渡って見せるがよい!」
対岸にいる組合員たちがそう呼び掛けている。手には球技用のボール。これを投げつけ邪魔するつもりだ。
「あやや、何か凄く大掛かりな事になってるね。真面目なんだか遊びなんだか……」
小鳥、その労働力を生産性のあることに回せばいいんじゃないかなと汗たら~。
その肩を背後からぽむする人物が。
「あちらさん、分かっていないようですね?」
流れ者風剣術の名人的いで立ちのハンス・ラインフェルト(ka6750)である。のっそりと小鳥の前に出て続ける。
「これはハンターたちのいかに自分の職種が優れてるのかを競うお遊びなのですよ。…負けられるわけが、ないでしょう?」
というわけでトップバッター。
で、走った。
「あっ、来た!」
「こんなもの、ボールが当たる前に通り過ぎればいいのですよ」
速い!
敵、球が当たらないと慌てる。
「移動先は読めるんだ。手前を狙え!」
今度の一斉投擲は精度が高い!
「……ふん」
これに対しハンス、抜刀!
次元斬で範囲のボール全て叩き落とした。
「来ましたよ……さあ、渡るといいです」
ハン、。敵が唖然とした次の瞬間には対岸に到達。背中越しに後続を促した。
「こ、これは『風雲!フマーレ城』だねっ。殿を打ち取り100万円ゲットだ!」
「……それなに、ざくろ?」
リアルブルー出身のざくろ、故郷のテレビ番組的なものを連想した模様。もちろん連れのイリエスカには分からない。
分からないが!
「ボールなんて当たらなければどうということはないんだよ、行くぞざくろ!」
一気に走るイリエスカ。
が、一本橋は建て付けが悪い。ぐらぐらする。そこへボールがぶつかった。
「うわっ!」
「大丈夫、イリエスカ?」
ざくろが後方から追っていた。ジェットブーツで追い抜きつつ手を差し伸べて落下を防いだ。さらに攻性防御。対岸では投げた方が吹っ飛んでいる。
「行くよ、イリエスカ?」
「よし」
この隙に二人してゴール。
「こんなところでSAS●KEを楽しめるとはなぁ…ハンターの本気を魅せてやるぜ」
おっと。続いて挑戦するJは別の某番組を連想しているようで。
「どおりゃあ~~~!」
J、ブロウビートの雄叫び。即座に加速し一本橋を一気に渡る。敵はボールを投げる格好のままで投げる機会を失っていた。
「やっぱこういうのは筋肉と頭の使い所ってな…フン、ハーッ」
渡り切ったJ、マッスルトーチでナイスポーズ。
これを見た組合員の一部、ボールを捨てた。何かに火が付いたぞッ!
「職人魂なら負けん!」
ふんっ、と両肘を張って胸筋などに力を込めナイスポーズ。筋肉の付きなどはイマイチだが……。
「ほう?」
J、その心意気が気に入った。
しばらくポージング合戦の様相を呈する。
この間にも後続は次々渡っている。
「ん、何かもう、遊びみたいだね、これ。とりあえず頑張ってクリアしていこうかな?」
小鳥は鋭敏視覚と得意の円舞でひらひら避けながら対岸到達。なお、遊びに付き合うように相手の球を投げさせていたので、組合員側は勢いを取り戻していた。
「はっはっは…任せろ。我が覇道の魁の一興だ」
次にルベーノ・バルバライン(ka6752)がスタート地点に登場。
尊大な笑い声が響き、試作鉄甲「エチイベ」を装備した手をわきわき。
「ヤバそうな奴だ。絶対に通すな!」
このド派手な登場に敵は絶対阻止の構えでボールを一斉に投げた!
「遅い!」
何とルベーノ、一気に中間地点まで移動していた。敵が唖然とするのも無理はない。縮地瞬動だ。
「何の!」
「はっはっは、避けろよ、ボール担当の黒子達…青龍翔咬波っ」
スキル到達点で止まったルベーノに対し攻撃する者もいたが、そのボールをマテリアル砲で叩き落とす。
「ほら、そっちもだ……はっはっは!」
今度は反対側へもう一発。球を叩き落とすというより鬼のような反撃といっていい。
で、再度縮地瞬動で対岸到達。
「ところで、これをクリアーしたら金一封なり美女の口づけなりもないものか?」
ああん、と聞いてみたり。
最初に言ってた覇道、どこいった!
……真意をもうちょっと盛り上がる工夫をしろ、ということらしいが。
後続はまだいるぞ。
「なんだ、スキル使っていいのか?」
「ま、そうみたいだな。先行くぞ?」
ガンジが腹減ってイライラしている横からヴァイスが突っ込んだ。残されたガンジ、「そんじゃ『幸運』でも使ってみるかぁ」とか。
「仕方ない。手本を示すか」
ヴァイス、わざと急がずボールを集める。
「HAHAHAHA、そんな威力のボールじゃ俺は落とせないぜ!」
「これでも食らえっ!」
あえてボールに当たりながら涼しい顔で渡っていると、別の敵が大きなボールを投げつけてきた。
「軽い軽い」
衝撃波と暴風で次々いなす。
「これならどぉだぁっ!」
「ほう、なかなか」
今度は固くて重そうなボールである。
が、当たらない。
「それがハンターの理、ってな」
理で受け流して、対岸到達。
「ん?」
そのヴァイス、後続に気付いた。
「腹が減ってる俺を止められる奴はいない! ……ピザぁ!」
ガンジ、突入。先に小鳥がピザを食べていたのを見ているのが激しく影響しているようだ。
で、ボールが当たるも猛獣が牙を見せるような表情のまま一本橋を駆ける!
ものすごい気合だ。
何という迫力か!
で、見事渡り切る。
「俺って『幸運』~!」
「……いや、明らかに力技で渡ったろ」
歓喜の叫びをあげるガンジに冷静に突っ込むヴァイスだった。
「おい、あれは何だ?」
濃ゆいハンターたちがこぞってこちら岸へと肉薄するのはもう勘弁だよ、と精神的にお疲れ気味な組合員に止めを刺したのが、グレンデルである。
「ストライキ……世が世で暗くなるのなら、今こそ私の出番だな!」
びしっ、ときらめきのポーズを決めスタート地点に立つ。
そして丸太の一本橋にとうっ。そのまま走る。
「シャイン!」
「狙え……うわっ!」
盾の輝きで一気に突破。
「畜生、ここも撤収だ~っ!」
組合員らは三の丸も放棄。北の丸へと敗走。
「そうか、ついて来いというのじゃな」
カナタはこの時、虎猫ミーくんが一鳴きしたのに気付いた。尻尾を振り「手本を見せるから付いてこい」とばかりに丸太を渡る後を付いて行く。
申し訳程度の抵抗があるが、投げられたボールは猫波で迎撃。
「癒されるなぁ」
残った組合員らはこれを見て、ほっこりしたり。
●小部屋
時は遡り、正面部隊が突入したしばらく後。
右に回った部隊は北側バリケードに到達していた。
「それじゃ楽しくいってみようか!」
グリムバルド、突撃。
「祭りじゃ祭りじゃ~!」
「はいはい、祭り祭り」
敵からのハリセンをパリィグローブで受け自らの持つハリセンですぱーん!
「こういうのって、障害物競走とかであっても面白そうだよね。秋とか」
その隣では悠月が日本刀「白狼」を鞘ごと抜いて地面に突いた!
そして地面に建てた日本刀の柄の先に足を乗せた!
「よっ、と」
悠月、そこを足場に大ジャンプ。
伸身して一回ひねるとゆうゆうとバリケードを超越。刀の紐も引く。
――すたん。
着地と同時に足場にして後から引いた刀も手元に戻ってキャッチ。一瞬で背後を取られた組合員たちは振り返って唖然とする。
「僕にばかり注目してちゃダメだよ。じゃあ」
手を上げ悠月が先を急いだ瞬間だった!
後方から奏多、アリアが連れ立って突破。暴れていたグリムバルドも続いた。
それだけではない。
「エクステンドキャスト完了。果てなき夢路に迷え……ドリームメイズ!」
最後方でまよいがスタッフ「クレマーティオ」を掲げていた。
刹那、青白い雲状のガスが一瞬広がり……。
「な、なんだこの庭園は!」
「花びらが舞い、蝶が飛び、パルムが浮いてきゃっきゃうふふ……」
組合員たちは周りを見回しそこにないものを口にする。
そして、誰もが腰砕けとなり居眠りしてしまうのだった。
――だっ……。
「おっと、あんたが指揮してたな……ちょっとお寝んね前に顔借りるぜ?」
おや、ジャックが組合員の一人を叩き起こして連れ去ったぞ?
「な……なんだ?」
「アンタも暑い中ご苦労だな、差し入れだ。ところで……」
物陰に連れ込みさっと持参したブランデーを指揮官の懐に突っ込んだ。
「この先、罠なんかはねぇのか?」
「分かった、次の障害を教えよう。それより聞いてくれ」
指揮官、あっさり買収された。
「組合長がおかしいんだ。天守閣ってところに登らせ梯子を外して隔離してるが、アレを正気にさせねぇと本気で戦いを始めかねねぇぞ?」
今はまだストライキと言いつつも祭りを装って後から罪を着せられないようにしてるが、と訴える。ストライキが労使協定で認められているとはいえ、だからと言って勝手に公共スペースに立て籠もって戦闘していいというわけではない。
「分かったぜ」
「天守閣までは障害があるが、伝令用のルートを進むといい」
それだけ聞いたジャック、頷いて走る。
一方、突破したハンターたち。
「止まれ止まれ。先に行きたくば一人ずつこの小部屋に入り三回扉を選んで進むがいい」
掘っ立て小屋で道路を封鎖し、扉を開けていた。
アリア、奏多を制し聞く。
「行っていいの?」
「八分の三の確率で、三回目の扉を開いたところで落とし穴に落ちる。そうなると失格だ」
「アリア、いいか?」
奏多、アリアの耳元でごにょごにょ。
「俺が先に行く。落とし穴に落ちれば大声を上げる」
「じゃ、『左、右、左』をよろしくするわね」
アリアが踊るようにステップ。奏多、アリアらしいと微笑し頷く。
「話し合ってるみたいだから先に僕が行こう」
入り口では代わりに悠月がスタンバイ。
「じゃ、その次は俺だな」
グリムバルドもワクワクしている。
「もし落ちてもこれを使ってもいいんだけど……素直に落ちようかな?」
「俺も秘策ぐらいはすぐに出て来るが……」
日本刀を見せた悠月だったが、今回は使わないつもりだ。
「……向こうの風の音なんかに違いはないね」
部屋に入った悠月。右の扉、右の扉と進み、最後に左の扉に手を掛けた。
「いくよ……それっ」
わざと勢いよく出た。
が、何もなし。
成功だ。
「これはこれでちょっと残念だね」
仕方ないか、と肩をすくめる。
次のグリムバルドも、右、右と進んでいた。
「一直線も面白いかなって。……まあ、落ちそうになったらジェットブーツで戻ってくりゃいいぜ!」
最後の扉は悠月とは反対の、右を選択。オール右だ。
「どうだ!」
これまた勢いよく出た。こういうのはひねくれてるもんだろ、という自信もある。
果たして!
「……ま、こんなもんだ」
落とし穴は無し。
思った通りだ、と得意げである。
そして奏多。
「左…右……そして、左!」
最後の扉を開け踏み出した瞬間だった。
――ばさっ!
「おわっ!」
「かかった。埋めろー!」
落とし穴に落ちた。待機していた組合員が土をかけるべくわらわら寄って来る。
が、しかし!
落とし穴から何か武器が飛んで来た。開け放したままの扉に刺さるとマテルアルがゴムのように伸縮し……。
「はっ!」
奏多が大ジャンプ!
空中で身をひねると寄って来た組合員の背後に弧を描く。
「帰還、成功」
すたっ、と着地。
「……悪いことをしたわね」
アリアは奏多の悲鳴を聞きややまつ毛を震わせたが、意を決して部屋に突入。
「東の建物だもの。極東の島国出身に任せて、西方の音楽奏でるわ」
バイオリンで狂想曲を奏でつつ、左、右。
そして最後の選択。
「奏多は左で悲鳴。……もしも、次の人の時は穴が変わっていたとしたら」
一瞬不安になる。
が、そのための準備はしてきた。
「まよいさんには告げたわ。……この曲が途絶えたら、別の扉を選ぶようにと」
アリア、意を決して右を選択。
扉を開け、最後の楽章を奏でながら一歩を踏み出す。
――きゅ、きゅ、きゅん……。
最後まで、演奏した。
「おおー」
音楽を聴き入っていた組合員、スコップを横に拍手でアリアを迎えた。
そして奏多も。
「あら?」
「無抵抗に落ちるなんてこと、するわけないだろ?」
「素敵ね」
無事に二人で突破である。
最後のまよいも無事に突破。
「幸運の加護があったかな?」
「いや、読みの勝利じゃないか?」
待っていたグリムバルドが寄って来て、にやり。
まよい、実はグリムバルドと反対の「左、左、左」を選択していたのだったり。
「おおい、もうここは手の内分かったんだ。解散だ、かいさ~ん!」
そしてジャックが「左、右、左は落とし穴」と書いた張り紙を張りつつ大声を上げていた。
「くそう、ここは放棄だ~」
組合員、退却。
この時、正面門組もここに到着。
一気に駆け抜けるのだった。
●池
そしてやっぱり時は遡り、左に回った部隊。
こちらは西側バリケードを発見。すでに小競り合いに突入していた。
「祭りじゃ祭りじゃ~」
「強行突破します」
聡慧なレディことエラがパリィグローブで打撃を防ぎつつ前へ、前へ。四方八方から狙われるがムーバブルシールドで驚異的な防御を見せる。
「な、なんやこのネェちゃん! うわっ」
「轢き殺さないように注意……あっ!」
圧倒的な突破力を前に倒れる組合員続出。一応手加減しているエラだが、ここで悲劇が。
「うほっ。ネェちゃんええ乳しとるやんけ……ぐはっ!」
「誅殺! 誅殺!」
「極力…怪我人等が、出ないと良い…ですけれど」
すっかり止まってしまったエラに、後方から続いていた観智が心配そうに。
「あれは同情の余地あり、じゃないの?」
「それはそうですね」
背後からキーリに言われ、仕方ないと急ぐ観智。
「あっ……」
その横でフィロ(ka6966)の短い悲鳴。
乱戦に煽られドレス「ナイトスカイ」がひらっと膝上高く舞い上がっていた。短い悲鳴とともに両手で必死に押さえ込むフィロ。
「あっ、駄目です!」
さらに別の場所では遥華がグーパンチ。胸をガードしているところを見ると危機一髪だったようで。
「これ、死人が出るんじゃないの?」
「もう! 痛いやつで気絶するよりはいいですよね? …ね?」
呆れるキーリ。遥華は攻めてるつもりが攻められる状況に奥の手を!
「このどさくさです」
おっと。機をうかがっていたエルバッハも動いた。
――ぼふん、ぼふん!
スリープクラウドが複数炸裂した。
「……う」
一人の組合員が目を覚ますと、そこはどこかの日陰だった。
「お目覚めですか? コーヒー? 紅茶? ……それとも」
はっと気付くと、真横の至近距離にエルバッハの白い顔。いや、うごめくピンクの唇。
それがすっと上にずれ、ふくよかな胸がドアップに!
「わ・た・し?」
「う……」
むにっ、と胸を押し付けられた。
篭絡された瞬間である。
で。
「……伝令用の通路がある、ですか」
「ああ。あとは、何とか罪に問われねぇように幕引きしてぇ。そのためには組合長を捕えて正気にさせないと」
「分かりました」
エルバッハ、新たな使命を胸に走る。
この時、すでにほかの者はバリケードを突破していた。
「はーい! 現場のパティダヨっ♪ 西の障害を取材するネ。こちらはゲストの組合員さんダヨ」
パティの隣で、組合員が「どーも」。
「ここは池で通路を塞いでるネ。飛び石があるけど、これを足場にしてジャンプするノカ?」
「はい。内緒だけど、最後の石は右側に沈む仕掛けがしてあります」
「ふわわっ! もしもそこを踏んだら……」
おっと。
解説が盛り上がる間にトップバッターが行ったぞ?
「私が行ってきます」
フィロだ。暗い青色のドレスをひらめかせ、左・左と跳んで……。
「右……ひゃっ!」
どぼーん!
派手に水没。右足を高々と上げたため、スカートが派手に舞う。つややかな太腿にドールスキンスーツのクロッチ部分がちらりん☆。
「おおー。純白じゃ~!」
対岸の組合員たちはやんやの声。
「何ですって?」
これにエラや遥華などハンターたちが、がたっ。
池は見えないよう控室になっているテントにいたが、囃す声で何があったか大体分かる。それはイカンだろう、と多くが腰を上げた。
で、水に濡れようが池を渡り、先の攻防で奪っておいたハリセンでスケベどもをぺしぺし。
「おわあっ」
「……まったく」
一通り天誅を下すと、また池を渡ってスタート地点奥の控えテントに帰って行った。
「おぉ! なし崩し的に渡ったことにしませんネ」
「律儀なやっちゃな~」
パティとゲスト組合員、このスポーツマンシップに感動し「桜吹雪のどこぞの空へ~♪」と歌ってたり。
入れ替わりに藍弥と彩萌の雨月兄妹がスタートしている。
「ついてくるのは勝手ですが、その分仕事はしてもらいます。文字通り盾となってください」
彩萌の言葉通り、二人一緒にスタートさせてもらうことになった。
「私が落ちたら、私と逆の選択肢にしてください」
彩弥、妹の盾となることが義務…いや、生まれて来た使命でもあるからと胸に手を当てた。
「あ、それ駄目」
が、当然止められる。二人同時なら二人三脚らしい。
「ぜひ! これが愛する妹との……絆っ!」
「どさくさに紛れて何を言ってますの?」
ぎゅっ、と二人の足を結ぶ彩弥に、ため息彩萌。
とにかくスタート。
左、左と跳び……。
「右……うわっ!」
「ジェットブーツ!」
彩弥、どぼん。こんなことだと思ってましたと心の準備をしていた彩萌は一瞬身を屈め結び目をほどいて兄を足場に跳躍。対岸にすたっと着地するのだった。
この時には天誅組はスタート地点に戻っていた。
改めて一人ずつスタート。順番待ちにはディヤーが茶を立てている。
「でも……ウォーターウォークがあるしね。さっき濡れちゃったけど」
観智、最後右を踏んだけど涼やかにクリア。
「ダミーはただ浮いてるだけじゃないんですね……でしたら」
エラも最後に右を選択したが、最初からジェットブーツを連発してクリア。
「俺は手加減して明鏡止水!」
万歳丸、エラの動きを見て追撃スキルでついて行く。
が、同じく最後は右を選択し落ちそうになるが……。
「俺は落ちねェだろ! 『筋力でガッッッッと水面を蹴り飛ばしてつっ走~る!』」
万歳丸、明鏡止水の効果もありクリア。
「ガッッと何とか……も、ハンターさんの技?」
「そんなのないヨ」
実況席、呆れ気味。
それはそれとして、後続。
「突破できますように」
遥華、突入。が、すぐに止まる。
「あの岩は本物かな……」
膝を曲げてお尻を出してじーっと二番目の二つを見比べてたり。
「疑心暗鬼になって速度を落とすと落ちやすくなるんだけど」
「今後の展開に注目ネ」
渡った者たちも解説陣の言葉を聞いて遥華に注目する。
「これは幸運が味方してくれるかも♪」
安心した遥華、なんと最後は右を選択。
が、沈まない。
「かけててよかったウォーターウォーク♪」
無事に対岸へ。
この時、ディヤー。
「お疲れさんじゃ。茶銭代わりに聞きたいことがあるんじゃが、よいかの?」
組合員にも茶を振る舞っていた。
「おお、これはかたじけない。話せることならなんでも」
「組合長の様子がおかしくなったのは、何か玩具が関係しておらんか?」
ずばり、ほかの依頼で経験したことを聞いてみた。
「いや、ないが……そういう何かきっかけがあるんじゃないかってくらい突然だったな」
この返答に、にやりとして立つ。
「感謝じゃ。では行ってくる」
ディヤー、一定の手ごたえをつかんで満足。池は最後に右を選んだが……。
「ウォーターウォークがあるからの」
濡れずに強引にクリア。
「私も毎度のことながらウォーターウォークね~」
キーリがけだるそうに右、左。
「別にダミーに引っ掛かっても驚かないし、悔しくないし」
ぶつぶつ言いつつ選んだ運命の第三チョイスは……。
左。
「何よ。面白くもなんともない」
キーリ、無事クリア。
そこへパティが。
「すごいヨ。選択に正解したの一人だけダヨ!」
「え?」
「みんななぜか最後、右ばかりを選んだネ」
ここオンリーを選択した人では、実はその通り。
いや、最後の一人が残っていた。
「ほいほーい、フマーレでストライキなお祭りが開催されちゃってますよ~」
小宮・千秋(ka6272)である。蒼き衣を纏いていま、水の飛び石に降り立たん!
「ほいでは、私は岩々ぴょんぴょんに御参加しちゃいますよー」
挙手してぴょん、とスタート。
「ちょっと大丈夫なの?」
「茶を飲んでる時は泳げるからとか言ってたの」
不安そうに見守るキーリとディヤー。
で、右、左と跳んで……。
左。
「渡れましたー」
ぴた、と着地する千秋。
おおー、と二人目のまともなクリアに拍手が起こった。
●ピザ
西の丸が陥落したころ、隠密突入をしていた部隊が二の丸に到着していた。
「旅するハンターただいま参上!」
がさっ、と植え込みから姿を現したのは、仁川 リア(ka3483)。
「こんな面白そう、じゃなかった大変な騒ぎ放ってはおけないよね」
これまでも楽しそうなエリアは通って来た。
が、「一応お仕事だから……やらせて下さい、なんていえないよ」と我慢してきた。
その甲斐あって本丸までもう少し。
ところが。
「急げ。ここが最後の防衛ラインだ。とにかく食わせて足止めしろ!」
「激辛で前屈みになったところをハリセンで袋叩きだ」
組合員らがピザを焼いているではないか。
「……やらせて下さい」
組合員らの前にふらふら~っと現れてお願いするリアだったり。
「じゃ、じゃあ」
で、マルゲリータ、サラミ、ポテトの三種類のピザが目の前に。
リア、サラミに手を伸ばし……食った!
「ふぐっ……うん、うまい!」
「……なあ、サラミが激辛じゃなかったか?」
「そのはずなんだが……」
こそこそ言い合う組合員を尻目に間食するリア。別に激辛が好きというわけではないのだが……。
「ごちそうさまでしたー! あ、これも食べてかな。いいよね。いただきまーす!」
どうやら空腹のため激辛何それ状態にしてしまっていたようで。
「ここは?」
続いて、アーク・フォーサイス(ka6568)登場。
「兄ちゃん、食ってけ!」
「そうか?」
アーク、素直に席に着く。
で、選んだピザは……。
「マルゲリータを」
「どうだ、うまいか?」
聞かれて頷くアーク。そりゃそうだ。激辛ではない。
「時に兄ちゃんは、激辛とか得意か?」
「辛い物は…まあ、普通。得意と言うほどではないけど」
じゃあ、と行こうとしたところ会話を振られてそのまま答える。
「そうかー。もうちょっとここの障害は練った方がいいかなぁ? 兄ちゃん、どう思う?」
「どう思うと言われても……」
「そこを何とか。助けると思って!」
この言葉に、落ちた。
「そうだな」
アーク、真面目に頭をひねることになり、これ以上は進めなくなった。
(これも人を救うためになるのなら……修練にもなるだろう)
そう思っているようだが、修練になるか、コレ?
「ん?」
ここでもう一人、隠密組が足を止めた。
フェイルである。
「よう、腹ごしらえして行かねぇか?」
「……ピザか。マシュマロピザが食べたいんだが」
「マシュマロピザご所望だぜ?」
というわけで、特別にマシュマロを入れて三種類焼いてもらった。
「うまい」
マシュマロ入りマルゲリータを食べるフェイル。とてもご満悦だ。
この頃には各所の突撃隊も二の丸になだれ込んでいた。
「あああ、ピザァぁ!」
ガンジ、特攻!
サラミを選択。激辛だ。
「激辛とかどうでもいい、なんでも美味しくいただきますっ! 身体を動かしたあとだから、うまいっ!」
関係なしにガツガツ食らう。ガンジ無双、ここにあり!
それだけではないッ!
「一人一枚じゃないよね、おかわりあるよね?」
「負けるな、焼け焼け~い!」
なんか別の戦いの様相を呈してきた。
おっと、ディヤーもいるぞ。サラミをチョイスしている。
「残すと姉弟子がうるさいしのー」
持参したミネアの万能調味料を掛けて泣く泣く完食。
「赤いけど激辛じゃないね」
「ああ、うまいな」
まよいとグリムバルドはマルゲリータを美味しく。
「美味しいです」
「……調味料は分量正しく、だよ」
遥華は少数派のポテトピザを。小鳥はサラミでけふけふせき込み。
「ミーくんはそっちのピザが好きな様じゃな。一緒にそれを食べるかの」
カナタはやっぱり虎猫ミーくんと一緒。猫の嗅覚を信じマルゲリータを美味しくいただく。
「ざくろ、どうやらボクはここまでみたいだ……あとは任せたよ」
「イリエスカっ! きっと……きっと討ち取って来るよ!」
ざくろは涙の別れ。イエリスカの方はピザ全種類をもぐもぐやってるが。
●天守
そして天守閣最上階では。
「ええい。たれぞある! 梯子がなくては下に下りられぬではないか!」
普段と全く口調の違うフランコ・カルヴィーニ組合長がご立腹していた。
「たれぞある! 梯子をもてい!」
再度叫んだところで眺望台の方から人影。
「討ち取った!」
「わっぷ!」
ざくろがジェットブーツで跳躍し水鉄砲を撃ちつつ着地!
そして食らった組合長の背後では下から梯子が伸びて来た。
「殿、お覚悟っ!」
悠月が下から現れると鞘入りの刀を構える。
ざくろとの包囲が完成だ。
「待て。こうなった理由があるはずさ、一体どうした」
梯子から新たにフェイルが登場し止めた。マシュマロをもぐもぐしているが。
「ええい、たれぞある!」
「もう、味方はいないよ」
記録係のルスティロも上がって来て眺望台から下を見るように促す。
フランコ、覗いて目を見開いた。
「おお、組合長が見てるぜ!」
「フン、ハーッ!」
下の本丸広場ではJが筋肉繋がりで手懐けた組合員を三角瀬編成にまとめ、一斉にナイスポーズ。カンフー映画のようにマッスルポーズの型を一糸乱れぬ統率で見せつける。
「ここでも輝きは忘れないー!」
グレンデルが隊列の前に出て来てシャインぴかー、とか効果も入れたり。
二の丸では。
「なくなったの? 俺も一緒に作るね!」
食いつくすほどピザを食らっていたガンジがピザ焼きに協力している。
「……見て楽しみ小銭を賭けて楽しみ、祭りならそこまでせんでどうする!」
ルベーノはピザを食べながら組合員とお祭り談義。
「なんだかんだ楽しかったからな、大勢集めた方が楽しいだろ」
奏多もピザを食べながらゆったり。その後ろではアリアが緩やかに演奏し和やかな雰囲気を演出していた。
「ご覧の通り、ストライキは終了です」
「フマーレの大火があった後にストライキ起こしても無駄に決まってるじゃないの」
新たにエルバッハとキーリも上がって来た。
「くっ……」
うろたえる組合長の背後に、ユウが回り取り押さえる。いままでここに潜伏し、このタイミングを待っていた。
「大丈夫です、全て組合長さんの目論見通りに動いています。だから、安心して……」
ちら、と視線を上げるユウ。
「……駄目ですね、キュアでは」
上がって来ていたマーオがこの隙にスキルを試していたのだ。どうやら単純なバッドステータスではないようだ。
「いよう、どうだ?」
「突撃取材、来まシター」
「何かおかしなアイテムはないか探すのじゃ!」
ジャックが、パトリシアが、ディヤーが……とにかく次々上がって来る。
「ん?」
「あれれ、だよ?」
さらに上がって来たヴァイスと小鳥が鋭敏視覚で気付いた。
「おや、組合長の頭から糸が上に伸びてますね」
後続のハンスが顔だけ出し、やはり鋭敏視覚で異変を察知。
一瞬の光の加減で謎の糸が見えたのだ。
「あるって言われりゃ確かに見えるわね」
キーリやほかのハンターも視認できた。
「お覚悟!」
ハンス、手裏剣を投げ組合長の頭上の糸を切った。
その時だった。
――ぎしっ……ぐらぁ。
実はここ、「百人乗っても大丈夫!」な造りではないッ!
「わあっ!」
――がっしゃー。
フマーレ天守閣、倒壊。
「はっ。な、なにがあったんだ?」
「クミアイチョー、良い…祭りだったぜ…!」
瓦礫の中から頭を出した組合長。そこにゆらあ、と万歳丸。検討を称え、筋肉美を見せつけてから……。
「ピ ザ を 食 え!」
「おわっ。誰か、何があったか説明を!」
「組合長が元に戻ったぞ!」
「祭りじゃ祭りじゃー!」
とにかく、フマーレのストライキは大きなけが人もなく終結を見るのだった。
「祭りじゃ祭りじゃ、賃上げ祭りじゃ~!」
労働組合立て籠もり参加者は、築いたバリケード越しに最高潮の盛り上がりを見せていた。背後には、平屋工場屋上に突如として現れた天守閣。一夜城の安普請とはいえ、なかなかの威風を、というか異彩を放っている。
通り掛かる一般人はすでに立ち入り禁止。雇用側が鎮圧のために雇ったハンターがずらりと集合し正面バリケードとにらみ合いをしている。
そこへマルゲリータピザをぱくつきながら街を散策していた狐中・小鳥(ka5484)が通り掛かった。
「……え、何かやってるのかな、かな?」
「おう、小鳥。何やらストライキの立て籠もりらしいぜ?」
トリプルJ(ka6653)、聞き覚えのある声に振り向き手招きする。
「祭りのように見えるんだよ?」
「うん。賃上げ交渉……が何でこうなったんだ。よく分からん」
Jの横にいたグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)が腕組みしたまま遠い視線。思い返せば自身も「見聞広める旅行のはずがなんで異世界に」なよく分からん経緯だったなぁ、とかしみじみと。
「あ、きっとフマーレを盛り上げる為にわざと騒ぎを起こしているのだと思います」
代わりに大人びた少女、ユウ(ka6891)が説明。
「ただ、フランコのおっさんが暴走したみたいなんでしょ? 気になるところね」
「それじゃ。前に村長がおかしくなった村の話を聞いたが……」
だるそうに天守閣を見詰めているキーリ(ka4642)の声。ディヤー・A・バトロス(ka5743)はそれに頷いた。
「最近、同盟のアチコチでおかしなコトあるよネ。急に様子が変わった…ここも歪虚の仕業カナ…」
これにパトリシア=K=ポラリス(ka5996)が寄って来て不安そうにする。
「そうかもしれん。ワシの関わった依頼の時は玩具の鳥が関係しておったが……」
「うーん……気になります。魔法や呪いがかかっているとか?」
ディヤーの話にマーオ・ラルカイム(ka5475)が大人っぽくぼんやりと。
「つまり、何か異変のきっかけになるようなものがあれば押収。そうでなければマーオさんたち聖導士を待てばいいんだね?」
代わりに霧雨 悠月(ka4130)がしっかり頷く。
そんな後方でのやり取りはバリケードとにらみ合う最前線も興味があるようで。
「お、ピザ食ってるよ。うまそうだな」
道元 ガンジ(ka6005)が振り向き、ピザの買い食いしている小鳥をうらやましそうに見ている。
「きみ、これが戦なら食糧庫を真っ先に襲いそうだね?」
潜入経験豊富なフェイル・シャーデンフロイデ(ka4808)が勘所を披露しつつくすりと微笑したのが……まずかった!
「それだ!」
ガンジ、天啓を受けたがごとく気合をみなぎらせる。
「しかしこれ、祭りじゃなくてストライキなんだよな……? さすがに不味いだろ」
冷静に呟いたのは東條 奏多(ka6425)。街の一角をバリケードで囲んで立て籠もる区画を遠巻きにして自警団などが待機している様子に目を配る。
「とても大きなお祭りになったものね?」
隣でくすりとアリア・セリウス(ka6424)。もちろん、バリケード内では「祭りじゃ祭りじゃ~!」とお題目のように組合員が叫んでいる。
「……祭りにするしかないよな?」
なんだかんだでお人好しの奏多、問題化させないためにはそれしかないと頷く。
「祭…の内は良い、ですけれど…人が変わった様に、と言うのは気になりますね」
横からひょいと顔を出した天央 観智(ka0896)が呟く。羽織る白衣はくたびれているが、立つ姿はぴしっと折り目が付いている。
「組合長だろ? 熱気を冷まさないように……ちょいと顔貸してもらえばいいだろう」
新たに赤毛の男、ヴァイス(ka0364)が横に立ち天守閣物見に視線を定め言う。
「ストライキね…そんな時間がありましたら……」
雨月彩萌(ka3925)もここにいる。
が、しゃべったのは彼女ではない。彩萌の後ろに影のように存在していた雨月 藍弥(ka3926)である。
「いつの間に! 勝手について来て何を言ってるんです?」
振り向く彩萌は「この異常兄は」と毅然な態度。
「こっそりついて来ました」
「お帰り願います」
新たな揉め事のその横で。
「呵呵ッ! 祭りだ! 祭りだ!」
万歳丸(ka5665)がすでに一人盛り上がっている。
「オッケー、お祭りお祭りネ♪」
パティも背後からやって来て盛り上がり。
「やー、粋じゃねェか、クミアイチョー? とやらも!! いっちょ派手にキメてやろうじゃねェか!」
「異変のきっかけがあったら報告するネ。それじゃ実況、行ってくるヨ」
組合長に負けずに怪気炎を上げる万歳丸に方針を伝えたパティがすっと別の場所に。
「ン? パティはイカねェのか?」
「お祭りお祭り、ですね……あら、パティはリポーターさん? こっちもがんばってくるよーっ!」
万歳丸、そして一緒に穏やかに盛り上がっていた央崎 遥華(ka5644)がパティを見送った。
「ま、ここでだらだらにらみ合いしてても仕方ねえ。手早く片付けるか」
パティの動き出しを見てジャック・エルギン(ka1522)が仕方ねぇと前に出る。
その横に、携帯用高級羽ペンを持ち双眼鏡を提げたルスティロ・イストワール(ka0252)が控える。手にした紙にフマーレ城の総構が描かれている。
「軽く見回ったけど、人が多く詰めた場所が他に二か所あるよ!」
これを聞いたエルギン、改めて息を吸い込む。
「ようし、判断は皆に任せるぜ……そんじゃ、祭り開催だ!」
「おおっ!」
掲げた手が振り下ろされハンター部隊、突入。
「行くよイリエスカ!」
「ざくろと一緒だね!」
時音 ざくろ(ka1250)とイリエスカ(ka6885)が頷き合い正面のバリケードに走る!
「俺たちはこっちだ!」
「わ~、ないなに、お祭りお祭り? 楽しそう、私も参加する~!」
ジャックがルスティロの地図を見て右に一部隊を誘導する。たまたま通り掛かった夢路 まよい(ka1328)、特に予定もなくのんびり散歩していたが衝動的に野次馬参加する。
「では私はこちらを」
「私は私なりのやり方で攻略するとしましょうか」
エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)はジャックと反対の左に向かう。組合員たちが立てこもっている場所を見ながら一人佇んでいたエルバッハ・リオン(ka2434)もこちらに流れる!
どどど……と大きく動き出す部隊。何という迫力か。
「……きっと、わざと大きな音を立ててるんですね」
残されたユウがぽそり。
ありがたい、と静かに隠密突入に向かう。
「さぁ、始まった。次々挑んでいくは歴戦の戦士達! 果たして突破できるかな!?」
ルスティロは記録に専念する様子で、皆の後ろからついて行く。
フマーレ籠城戦の火ぶたが切って落とされた。
●丸太
正面のバリケードでは即座に小競り合いが始まった。
「祭りじゃ祭りじゃ!」
「ええ打ち込みじゃ。祭りはこうでなくてはのぅ」
組合防衛隊に突っ込んだカナタ・ハテナ(ka2130)がびらりと広げた鉄扇で各所から振り下ろされるハリセンを止める、止める!
「ほれ、こうしたらどうするのじゃ?」
止めるだけではない。すぐさま手加減チョップでハリセンを叩き落としていく。
この時、前線の視線が後方から切れた。
刹那――。
「それっ。ハリセンは厚紙だから水に弱いんじゃないかなー?」
無警戒の後方からイリエスカのウォーターガンが火を噴くもとい水をびゅーびゅー噴いている。
「おわっ。こりゃたまらん」
「ほらほら、もっと熱くならないと俺達は止められないぜ!」
ひるんだ隙に前線にいたヴァイスがとんでもない行動に出る!
「よっこらせ、っと」
長身と足の長さを生かし、何とバリケードを一瞬で踏み越えたではないか!
「ちょいと借りるぜ?」
「え? ……うわああああ」
でもって守備隊の武器を奪うとすぱんすぱんとハリセン乱舞! 右に左にと小気味良い打撃音が響き渡る。
「つまりなんだ、存分に輝いても良いのだろう?」
おおっと。グレンデル・フォトンヘッド(ka6894)も突っ込んで来た!
「私の輝き(私)を存分に受け取れ!」
騒ぎに文字通り頭を突っ込んで、法術盾とともにシャイン!
そしてそのまま大回転して周りのハリセンを吹っ飛ばす。
「よし、いまじゃ!」
カナタの号令。切り込み隊長、ヴァイスらの活躍で正面門虎口、一斉に崩れ後続のハンターたちがなだれ込んだ。
「正面門、陥落! 三の丸防衛線まで退却、そこで食い止めるぞ!」
「おおー」
「急げ急げ~」
突破したハンターと次の防衛ラインまで走る組合員とでマラソン大会スタート後もかくやの大混戦を見せる。
そして三の丸に突入したハンターたち。目の前には巨大なセットが待ち構えていた。
広場広くをステージで高くし谷間を作り、長い一本橋が渡されていたのだ。
「わはは。次の北の丸に行きたくばこの集中砲火一本橋を渡って見せるがよい!」
対岸にいる組合員たちがそう呼び掛けている。手には球技用のボール。これを投げつけ邪魔するつもりだ。
「あやや、何か凄く大掛かりな事になってるね。真面目なんだか遊びなんだか……」
小鳥、その労働力を生産性のあることに回せばいいんじゃないかなと汗たら~。
その肩を背後からぽむする人物が。
「あちらさん、分かっていないようですね?」
流れ者風剣術の名人的いで立ちのハンス・ラインフェルト(ka6750)である。のっそりと小鳥の前に出て続ける。
「これはハンターたちのいかに自分の職種が優れてるのかを競うお遊びなのですよ。…負けられるわけが、ないでしょう?」
というわけでトップバッター。
で、走った。
「あっ、来た!」
「こんなもの、ボールが当たる前に通り過ぎればいいのですよ」
速い!
敵、球が当たらないと慌てる。
「移動先は読めるんだ。手前を狙え!」
今度の一斉投擲は精度が高い!
「……ふん」
これに対しハンス、抜刀!
次元斬で範囲のボール全て叩き落とした。
「来ましたよ……さあ、渡るといいです」
ハン、。敵が唖然とした次の瞬間には対岸に到達。背中越しに後続を促した。
「こ、これは『風雲!フマーレ城』だねっ。殿を打ち取り100万円ゲットだ!」
「……それなに、ざくろ?」
リアルブルー出身のざくろ、故郷のテレビ番組的なものを連想した模様。もちろん連れのイリエスカには分からない。
分からないが!
「ボールなんて当たらなければどうということはないんだよ、行くぞざくろ!」
一気に走るイリエスカ。
が、一本橋は建て付けが悪い。ぐらぐらする。そこへボールがぶつかった。
「うわっ!」
「大丈夫、イリエスカ?」
ざくろが後方から追っていた。ジェットブーツで追い抜きつつ手を差し伸べて落下を防いだ。さらに攻性防御。対岸では投げた方が吹っ飛んでいる。
「行くよ、イリエスカ?」
「よし」
この隙に二人してゴール。
「こんなところでSAS●KEを楽しめるとはなぁ…ハンターの本気を魅せてやるぜ」
おっと。続いて挑戦するJは別の某番組を連想しているようで。
「どおりゃあ~~~!」
J、ブロウビートの雄叫び。即座に加速し一本橋を一気に渡る。敵はボールを投げる格好のままで投げる機会を失っていた。
「やっぱこういうのは筋肉と頭の使い所ってな…フン、ハーッ」
渡り切ったJ、マッスルトーチでナイスポーズ。
これを見た組合員の一部、ボールを捨てた。何かに火が付いたぞッ!
「職人魂なら負けん!」
ふんっ、と両肘を張って胸筋などに力を込めナイスポーズ。筋肉の付きなどはイマイチだが……。
「ほう?」
J、その心意気が気に入った。
しばらくポージング合戦の様相を呈する。
この間にも後続は次々渡っている。
「ん、何かもう、遊びみたいだね、これ。とりあえず頑張ってクリアしていこうかな?」
小鳥は鋭敏視覚と得意の円舞でひらひら避けながら対岸到達。なお、遊びに付き合うように相手の球を投げさせていたので、組合員側は勢いを取り戻していた。
「はっはっは…任せろ。我が覇道の魁の一興だ」
次にルベーノ・バルバライン(ka6752)がスタート地点に登場。
尊大な笑い声が響き、試作鉄甲「エチイベ」を装備した手をわきわき。
「ヤバそうな奴だ。絶対に通すな!」
このド派手な登場に敵は絶対阻止の構えでボールを一斉に投げた!
「遅い!」
何とルベーノ、一気に中間地点まで移動していた。敵が唖然とするのも無理はない。縮地瞬動だ。
「何の!」
「はっはっは、避けろよ、ボール担当の黒子達…青龍翔咬波っ」
スキル到達点で止まったルベーノに対し攻撃する者もいたが、そのボールをマテリアル砲で叩き落とす。
「ほら、そっちもだ……はっはっは!」
今度は反対側へもう一発。球を叩き落とすというより鬼のような反撃といっていい。
で、再度縮地瞬動で対岸到達。
「ところで、これをクリアーしたら金一封なり美女の口づけなりもないものか?」
ああん、と聞いてみたり。
最初に言ってた覇道、どこいった!
……真意をもうちょっと盛り上がる工夫をしろ、ということらしいが。
後続はまだいるぞ。
「なんだ、スキル使っていいのか?」
「ま、そうみたいだな。先行くぞ?」
ガンジが腹減ってイライラしている横からヴァイスが突っ込んだ。残されたガンジ、「そんじゃ『幸運』でも使ってみるかぁ」とか。
「仕方ない。手本を示すか」
ヴァイス、わざと急がずボールを集める。
「HAHAHAHA、そんな威力のボールじゃ俺は落とせないぜ!」
「これでも食らえっ!」
あえてボールに当たりながら涼しい顔で渡っていると、別の敵が大きなボールを投げつけてきた。
「軽い軽い」
衝撃波と暴風で次々いなす。
「これならどぉだぁっ!」
「ほう、なかなか」
今度は固くて重そうなボールである。
が、当たらない。
「それがハンターの理、ってな」
理で受け流して、対岸到達。
「ん?」
そのヴァイス、後続に気付いた。
「腹が減ってる俺を止められる奴はいない! ……ピザぁ!」
ガンジ、突入。先に小鳥がピザを食べていたのを見ているのが激しく影響しているようだ。
で、ボールが当たるも猛獣が牙を見せるような表情のまま一本橋を駆ける!
ものすごい気合だ。
何という迫力か!
で、見事渡り切る。
「俺って『幸運』~!」
「……いや、明らかに力技で渡ったろ」
歓喜の叫びをあげるガンジに冷静に突っ込むヴァイスだった。
「おい、あれは何だ?」
濃ゆいハンターたちがこぞってこちら岸へと肉薄するのはもう勘弁だよ、と精神的にお疲れ気味な組合員に止めを刺したのが、グレンデルである。
「ストライキ……世が世で暗くなるのなら、今こそ私の出番だな!」
びしっ、ときらめきのポーズを決めスタート地点に立つ。
そして丸太の一本橋にとうっ。そのまま走る。
「シャイン!」
「狙え……うわっ!」
盾の輝きで一気に突破。
「畜生、ここも撤収だ~っ!」
組合員らは三の丸も放棄。北の丸へと敗走。
「そうか、ついて来いというのじゃな」
カナタはこの時、虎猫ミーくんが一鳴きしたのに気付いた。尻尾を振り「手本を見せるから付いてこい」とばかりに丸太を渡る後を付いて行く。
申し訳程度の抵抗があるが、投げられたボールは猫波で迎撃。
「癒されるなぁ」
残った組合員らはこれを見て、ほっこりしたり。
●小部屋
時は遡り、正面部隊が突入したしばらく後。
右に回った部隊は北側バリケードに到達していた。
「それじゃ楽しくいってみようか!」
グリムバルド、突撃。
「祭りじゃ祭りじゃ~!」
「はいはい、祭り祭り」
敵からのハリセンをパリィグローブで受け自らの持つハリセンですぱーん!
「こういうのって、障害物競走とかであっても面白そうだよね。秋とか」
その隣では悠月が日本刀「白狼」を鞘ごと抜いて地面に突いた!
そして地面に建てた日本刀の柄の先に足を乗せた!
「よっ、と」
悠月、そこを足場に大ジャンプ。
伸身して一回ひねるとゆうゆうとバリケードを超越。刀の紐も引く。
――すたん。
着地と同時に足場にして後から引いた刀も手元に戻ってキャッチ。一瞬で背後を取られた組合員たちは振り返って唖然とする。
「僕にばかり注目してちゃダメだよ。じゃあ」
手を上げ悠月が先を急いだ瞬間だった!
後方から奏多、アリアが連れ立って突破。暴れていたグリムバルドも続いた。
それだけではない。
「エクステンドキャスト完了。果てなき夢路に迷え……ドリームメイズ!」
最後方でまよいがスタッフ「クレマーティオ」を掲げていた。
刹那、青白い雲状のガスが一瞬広がり……。
「な、なんだこの庭園は!」
「花びらが舞い、蝶が飛び、パルムが浮いてきゃっきゃうふふ……」
組合員たちは周りを見回しそこにないものを口にする。
そして、誰もが腰砕けとなり居眠りしてしまうのだった。
――だっ……。
「おっと、あんたが指揮してたな……ちょっとお寝んね前に顔借りるぜ?」
おや、ジャックが組合員の一人を叩き起こして連れ去ったぞ?
「な……なんだ?」
「アンタも暑い中ご苦労だな、差し入れだ。ところで……」
物陰に連れ込みさっと持参したブランデーを指揮官の懐に突っ込んだ。
「この先、罠なんかはねぇのか?」
「分かった、次の障害を教えよう。それより聞いてくれ」
指揮官、あっさり買収された。
「組合長がおかしいんだ。天守閣ってところに登らせ梯子を外して隔離してるが、アレを正気にさせねぇと本気で戦いを始めかねねぇぞ?」
今はまだストライキと言いつつも祭りを装って後から罪を着せられないようにしてるが、と訴える。ストライキが労使協定で認められているとはいえ、だからと言って勝手に公共スペースに立て籠もって戦闘していいというわけではない。
「分かったぜ」
「天守閣までは障害があるが、伝令用のルートを進むといい」
それだけ聞いたジャック、頷いて走る。
一方、突破したハンターたち。
「止まれ止まれ。先に行きたくば一人ずつこの小部屋に入り三回扉を選んで進むがいい」
掘っ立て小屋で道路を封鎖し、扉を開けていた。
アリア、奏多を制し聞く。
「行っていいの?」
「八分の三の確率で、三回目の扉を開いたところで落とし穴に落ちる。そうなると失格だ」
「アリア、いいか?」
奏多、アリアの耳元でごにょごにょ。
「俺が先に行く。落とし穴に落ちれば大声を上げる」
「じゃ、『左、右、左』をよろしくするわね」
アリアが踊るようにステップ。奏多、アリアらしいと微笑し頷く。
「話し合ってるみたいだから先に僕が行こう」
入り口では代わりに悠月がスタンバイ。
「じゃ、その次は俺だな」
グリムバルドもワクワクしている。
「もし落ちてもこれを使ってもいいんだけど……素直に落ちようかな?」
「俺も秘策ぐらいはすぐに出て来るが……」
日本刀を見せた悠月だったが、今回は使わないつもりだ。
「……向こうの風の音なんかに違いはないね」
部屋に入った悠月。右の扉、右の扉と進み、最後に左の扉に手を掛けた。
「いくよ……それっ」
わざと勢いよく出た。
が、何もなし。
成功だ。
「これはこれでちょっと残念だね」
仕方ないか、と肩をすくめる。
次のグリムバルドも、右、右と進んでいた。
「一直線も面白いかなって。……まあ、落ちそうになったらジェットブーツで戻ってくりゃいいぜ!」
最後の扉は悠月とは反対の、右を選択。オール右だ。
「どうだ!」
これまた勢いよく出た。こういうのはひねくれてるもんだろ、という自信もある。
果たして!
「……ま、こんなもんだ」
落とし穴は無し。
思った通りだ、と得意げである。
そして奏多。
「左…右……そして、左!」
最後の扉を開け踏み出した瞬間だった。
――ばさっ!
「おわっ!」
「かかった。埋めろー!」
落とし穴に落ちた。待機していた組合員が土をかけるべくわらわら寄って来る。
が、しかし!
落とし穴から何か武器が飛んで来た。開け放したままの扉に刺さるとマテルアルがゴムのように伸縮し……。
「はっ!」
奏多が大ジャンプ!
空中で身をひねると寄って来た組合員の背後に弧を描く。
「帰還、成功」
すたっ、と着地。
「……悪いことをしたわね」
アリアは奏多の悲鳴を聞きややまつ毛を震わせたが、意を決して部屋に突入。
「東の建物だもの。極東の島国出身に任せて、西方の音楽奏でるわ」
バイオリンで狂想曲を奏でつつ、左、右。
そして最後の選択。
「奏多は左で悲鳴。……もしも、次の人の時は穴が変わっていたとしたら」
一瞬不安になる。
が、そのための準備はしてきた。
「まよいさんには告げたわ。……この曲が途絶えたら、別の扉を選ぶようにと」
アリア、意を決して右を選択。
扉を開け、最後の楽章を奏でながら一歩を踏み出す。
――きゅ、きゅ、きゅん……。
最後まで、演奏した。
「おおー」
音楽を聴き入っていた組合員、スコップを横に拍手でアリアを迎えた。
そして奏多も。
「あら?」
「無抵抗に落ちるなんてこと、するわけないだろ?」
「素敵ね」
無事に二人で突破である。
最後のまよいも無事に突破。
「幸運の加護があったかな?」
「いや、読みの勝利じゃないか?」
待っていたグリムバルドが寄って来て、にやり。
まよい、実はグリムバルドと反対の「左、左、左」を選択していたのだったり。
「おおい、もうここは手の内分かったんだ。解散だ、かいさ~ん!」
そしてジャックが「左、右、左は落とし穴」と書いた張り紙を張りつつ大声を上げていた。
「くそう、ここは放棄だ~」
組合員、退却。
この時、正面門組もここに到着。
一気に駆け抜けるのだった。
●池
そしてやっぱり時は遡り、左に回った部隊。
こちらは西側バリケードを発見。すでに小競り合いに突入していた。
「祭りじゃ祭りじゃ~」
「強行突破します」
聡慧なレディことエラがパリィグローブで打撃を防ぎつつ前へ、前へ。四方八方から狙われるがムーバブルシールドで驚異的な防御を見せる。
「な、なんやこのネェちゃん! うわっ」
「轢き殺さないように注意……あっ!」
圧倒的な突破力を前に倒れる組合員続出。一応手加減しているエラだが、ここで悲劇が。
「うほっ。ネェちゃんええ乳しとるやんけ……ぐはっ!」
「誅殺! 誅殺!」
「極力…怪我人等が、出ないと良い…ですけれど」
すっかり止まってしまったエラに、後方から続いていた観智が心配そうに。
「あれは同情の余地あり、じゃないの?」
「それはそうですね」
背後からキーリに言われ、仕方ないと急ぐ観智。
「あっ……」
その横でフィロ(ka6966)の短い悲鳴。
乱戦に煽られドレス「ナイトスカイ」がひらっと膝上高く舞い上がっていた。短い悲鳴とともに両手で必死に押さえ込むフィロ。
「あっ、駄目です!」
さらに別の場所では遥華がグーパンチ。胸をガードしているところを見ると危機一髪だったようで。
「これ、死人が出るんじゃないの?」
「もう! 痛いやつで気絶するよりはいいですよね? …ね?」
呆れるキーリ。遥華は攻めてるつもりが攻められる状況に奥の手を!
「このどさくさです」
おっと。機をうかがっていたエルバッハも動いた。
――ぼふん、ぼふん!
スリープクラウドが複数炸裂した。
「……う」
一人の組合員が目を覚ますと、そこはどこかの日陰だった。
「お目覚めですか? コーヒー? 紅茶? ……それとも」
はっと気付くと、真横の至近距離にエルバッハの白い顔。いや、うごめくピンクの唇。
それがすっと上にずれ、ふくよかな胸がドアップに!
「わ・た・し?」
「う……」
むにっ、と胸を押し付けられた。
篭絡された瞬間である。
で。
「……伝令用の通路がある、ですか」
「ああ。あとは、何とか罪に問われねぇように幕引きしてぇ。そのためには組合長を捕えて正気にさせないと」
「分かりました」
エルバッハ、新たな使命を胸に走る。
この時、すでにほかの者はバリケードを突破していた。
「はーい! 現場のパティダヨっ♪ 西の障害を取材するネ。こちらはゲストの組合員さんダヨ」
パティの隣で、組合員が「どーも」。
「ここは池で通路を塞いでるネ。飛び石があるけど、これを足場にしてジャンプするノカ?」
「はい。内緒だけど、最後の石は右側に沈む仕掛けがしてあります」
「ふわわっ! もしもそこを踏んだら……」
おっと。
解説が盛り上がる間にトップバッターが行ったぞ?
「私が行ってきます」
フィロだ。暗い青色のドレスをひらめかせ、左・左と跳んで……。
「右……ひゃっ!」
どぼーん!
派手に水没。右足を高々と上げたため、スカートが派手に舞う。つややかな太腿にドールスキンスーツのクロッチ部分がちらりん☆。
「おおー。純白じゃ~!」
対岸の組合員たちはやんやの声。
「何ですって?」
これにエラや遥華などハンターたちが、がたっ。
池は見えないよう控室になっているテントにいたが、囃す声で何があったか大体分かる。それはイカンだろう、と多くが腰を上げた。
で、水に濡れようが池を渡り、先の攻防で奪っておいたハリセンでスケベどもをぺしぺし。
「おわあっ」
「……まったく」
一通り天誅を下すと、また池を渡ってスタート地点奥の控えテントに帰って行った。
「おぉ! なし崩し的に渡ったことにしませんネ」
「律儀なやっちゃな~」
パティとゲスト組合員、このスポーツマンシップに感動し「桜吹雪のどこぞの空へ~♪」と歌ってたり。
入れ替わりに藍弥と彩萌の雨月兄妹がスタートしている。
「ついてくるのは勝手ですが、その分仕事はしてもらいます。文字通り盾となってください」
彩萌の言葉通り、二人一緒にスタートさせてもらうことになった。
「私が落ちたら、私と逆の選択肢にしてください」
彩弥、妹の盾となることが義務…いや、生まれて来た使命でもあるからと胸に手を当てた。
「あ、それ駄目」
が、当然止められる。二人同時なら二人三脚らしい。
「ぜひ! これが愛する妹との……絆っ!」
「どさくさに紛れて何を言ってますの?」
ぎゅっ、と二人の足を結ぶ彩弥に、ため息彩萌。
とにかくスタート。
左、左と跳び……。
「右……うわっ!」
「ジェットブーツ!」
彩弥、どぼん。こんなことだと思ってましたと心の準備をしていた彩萌は一瞬身を屈め結び目をほどいて兄を足場に跳躍。対岸にすたっと着地するのだった。
この時には天誅組はスタート地点に戻っていた。
改めて一人ずつスタート。順番待ちにはディヤーが茶を立てている。
「でも……ウォーターウォークがあるしね。さっき濡れちゃったけど」
観智、最後右を踏んだけど涼やかにクリア。
「ダミーはただ浮いてるだけじゃないんですね……でしたら」
エラも最後に右を選択したが、最初からジェットブーツを連発してクリア。
「俺は手加減して明鏡止水!」
万歳丸、エラの動きを見て追撃スキルでついて行く。
が、同じく最後は右を選択し落ちそうになるが……。
「俺は落ちねェだろ! 『筋力でガッッッッと水面を蹴り飛ばしてつっ走~る!』」
万歳丸、明鏡止水の効果もありクリア。
「ガッッと何とか……も、ハンターさんの技?」
「そんなのないヨ」
実況席、呆れ気味。
それはそれとして、後続。
「突破できますように」
遥華、突入。が、すぐに止まる。
「あの岩は本物かな……」
膝を曲げてお尻を出してじーっと二番目の二つを見比べてたり。
「疑心暗鬼になって速度を落とすと落ちやすくなるんだけど」
「今後の展開に注目ネ」
渡った者たちも解説陣の言葉を聞いて遥華に注目する。
「これは幸運が味方してくれるかも♪」
安心した遥華、なんと最後は右を選択。
が、沈まない。
「かけててよかったウォーターウォーク♪」
無事に対岸へ。
この時、ディヤー。
「お疲れさんじゃ。茶銭代わりに聞きたいことがあるんじゃが、よいかの?」
組合員にも茶を振る舞っていた。
「おお、これはかたじけない。話せることならなんでも」
「組合長の様子がおかしくなったのは、何か玩具が関係しておらんか?」
ずばり、ほかの依頼で経験したことを聞いてみた。
「いや、ないが……そういう何かきっかけがあるんじゃないかってくらい突然だったな」
この返答に、にやりとして立つ。
「感謝じゃ。では行ってくる」
ディヤー、一定の手ごたえをつかんで満足。池は最後に右を選んだが……。
「ウォーターウォークがあるからの」
濡れずに強引にクリア。
「私も毎度のことながらウォーターウォークね~」
キーリがけだるそうに右、左。
「別にダミーに引っ掛かっても驚かないし、悔しくないし」
ぶつぶつ言いつつ選んだ運命の第三チョイスは……。
左。
「何よ。面白くもなんともない」
キーリ、無事クリア。
そこへパティが。
「すごいヨ。選択に正解したの一人だけダヨ!」
「え?」
「みんななぜか最後、右ばかりを選んだネ」
ここオンリーを選択した人では、実はその通り。
いや、最後の一人が残っていた。
「ほいほーい、フマーレでストライキなお祭りが開催されちゃってますよ~」
小宮・千秋(ka6272)である。蒼き衣を纏いていま、水の飛び石に降り立たん!
「ほいでは、私は岩々ぴょんぴょんに御参加しちゃいますよー」
挙手してぴょん、とスタート。
「ちょっと大丈夫なの?」
「茶を飲んでる時は泳げるからとか言ってたの」
不安そうに見守るキーリとディヤー。
で、右、左と跳んで……。
左。
「渡れましたー」
ぴた、と着地する千秋。
おおー、と二人目のまともなクリアに拍手が起こった。
●ピザ
西の丸が陥落したころ、隠密突入をしていた部隊が二の丸に到着していた。
「旅するハンターただいま参上!」
がさっ、と植え込みから姿を現したのは、仁川 リア(ka3483)。
「こんな面白そう、じゃなかった大変な騒ぎ放ってはおけないよね」
これまでも楽しそうなエリアは通って来た。
が、「一応お仕事だから……やらせて下さい、なんていえないよ」と我慢してきた。
その甲斐あって本丸までもう少し。
ところが。
「急げ。ここが最後の防衛ラインだ。とにかく食わせて足止めしろ!」
「激辛で前屈みになったところをハリセンで袋叩きだ」
組合員らがピザを焼いているではないか。
「……やらせて下さい」
組合員らの前にふらふら~っと現れてお願いするリアだったり。
「じゃ、じゃあ」
で、マルゲリータ、サラミ、ポテトの三種類のピザが目の前に。
リア、サラミに手を伸ばし……食った!
「ふぐっ……うん、うまい!」
「……なあ、サラミが激辛じゃなかったか?」
「そのはずなんだが……」
こそこそ言い合う組合員を尻目に間食するリア。別に激辛が好きというわけではないのだが……。
「ごちそうさまでしたー! あ、これも食べてかな。いいよね。いただきまーす!」
どうやら空腹のため激辛何それ状態にしてしまっていたようで。
「ここは?」
続いて、アーク・フォーサイス(ka6568)登場。
「兄ちゃん、食ってけ!」
「そうか?」
アーク、素直に席に着く。
で、選んだピザは……。
「マルゲリータを」
「どうだ、うまいか?」
聞かれて頷くアーク。そりゃそうだ。激辛ではない。
「時に兄ちゃんは、激辛とか得意か?」
「辛い物は…まあ、普通。得意と言うほどではないけど」
じゃあ、と行こうとしたところ会話を振られてそのまま答える。
「そうかー。もうちょっとここの障害は練った方がいいかなぁ? 兄ちゃん、どう思う?」
「どう思うと言われても……」
「そこを何とか。助けると思って!」
この言葉に、落ちた。
「そうだな」
アーク、真面目に頭をひねることになり、これ以上は進めなくなった。
(これも人を救うためになるのなら……修練にもなるだろう)
そう思っているようだが、修練になるか、コレ?
「ん?」
ここでもう一人、隠密組が足を止めた。
フェイルである。
「よう、腹ごしらえして行かねぇか?」
「……ピザか。マシュマロピザが食べたいんだが」
「マシュマロピザご所望だぜ?」
というわけで、特別にマシュマロを入れて三種類焼いてもらった。
「うまい」
マシュマロ入りマルゲリータを食べるフェイル。とてもご満悦だ。
この頃には各所の突撃隊も二の丸になだれ込んでいた。
「あああ、ピザァぁ!」
ガンジ、特攻!
サラミを選択。激辛だ。
「激辛とかどうでもいい、なんでも美味しくいただきますっ! 身体を動かしたあとだから、うまいっ!」
関係なしにガツガツ食らう。ガンジ無双、ここにあり!
それだけではないッ!
「一人一枚じゃないよね、おかわりあるよね?」
「負けるな、焼け焼け~い!」
なんか別の戦いの様相を呈してきた。
おっと、ディヤーもいるぞ。サラミをチョイスしている。
「残すと姉弟子がうるさいしのー」
持参したミネアの万能調味料を掛けて泣く泣く完食。
「赤いけど激辛じゃないね」
「ああ、うまいな」
まよいとグリムバルドはマルゲリータを美味しく。
「美味しいです」
「……調味料は分量正しく、だよ」
遥華は少数派のポテトピザを。小鳥はサラミでけふけふせき込み。
「ミーくんはそっちのピザが好きな様じゃな。一緒にそれを食べるかの」
カナタはやっぱり虎猫ミーくんと一緒。猫の嗅覚を信じマルゲリータを美味しくいただく。
「ざくろ、どうやらボクはここまでみたいだ……あとは任せたよ」
「イリエスカっ! きっと……きっと討ち取って来るよ!」
ざくろは涙の別れ。イエリスカの方はピザ全種類をもぐもぐやってるが。
●天守
そして天守閣最上階では。
「ええい。たれぞある! 梯子がなくては下に下りられぬではないか!」
普段と全く口調の違うフランコ・カルヴィーニ組合長がご立腹していた。
「たれぞある! 梯子をもてい!」
再度叫んだところで眺望台の方から人影。
「討ち取った!」
「わっぷ!」
ざくろがジェットブーツで跳躍し水鉄砲を撃ちつつ着地!
そして食らった組合長の背後では下から梯子が伸びて来た。
「殿、お覚悟っ!」
悠月が下から現れると鞘入りの刀を構える。
ざくろとの包囲が完成だ。
「待て。こうなった理由があるはずさ、一体どうした」
梯子から新たにフェイルが登場し止めた。マシュマロをもぐもぐしているが。
「ええい、たれぞある!」
「もう、味方はいないよ」
記録係のルスティロも上がって来て眺望台から下を見るように促す。
フランコ、覗いて目を見開いた。
「おお、組合長が見てるぜ!」
「フン、ハーッ!」
下の本丸広場ではJが筋肉繋がりで手懐けた組合員を三角瀬編成にまとめ、一斉にナイスポーズ。カンフー映画のようにマッスルポーズの型を一糸乱れぬ統率で見せつける。
「ここでも輝きは忘れないー!」
グレンデルが隊列の前に出て来てシャインぴかー、とか効果も入れたり。
二の丸では。
「なくなったの? 俺も一緒に作るね!」
食いつくすほどピザを食らっていたガンジがピザ焼きに協力している。
「……見て楽しみ小銭を賭けて楽しみ、祭りならそこまでせんでどうする!」
ルベーノはピザを食べながら組合員とお祭り談義。
「なんだかんだ楽しかったからな、大勢集めた方が楽しいだろ」
奏多もピザを食べながらゆったり。その後ろではアリアが緩やかに演奏し和やかな雰囲気を演出していた。
「ご覧の通り、ストライキは終了です」
「フマーレの大火があった後にストライキ起こしても無駄に決まってるじゃないの」
新たにエルバッハとキーリも上がって来た。
「くっ……」
うろたえる組合長の背後に、ユウが回り取り押さえる。いままでここに潜伏し、このタイミングを待っていた。
「大丈夫です、全て組合長さんの目論見通りに動いています。だから、安心して……」
ちら、と視線を上げるユウ。
「……駄目ですね、キュアでは」
上がって来ていたマーオがこの隙にスキルを試していたのだ。どうやら単純なバッドステータスではないようだ。
「いよう、どうだ?」
「突撃取材、来まシター」
「何かおかしなアイテムはないか探すのじゃ!」
ジャックが、パトリシアが、ディヤーが……とにかく次々上がって来る。
「ん?」
「あれれ、だよ?」
さらに上がって来たヴァイスと小鳥が鋭敏視覚で気付いた。
「おや、組合長の頭から糸が上に伸びてますね」
後続のハンスが顔だけ出し、やはり鋭敏視覚で異変を察知。
一瞬の光の加減で謎の糸が見えたのだ。
「あるって言われりゃ確かに見えるわね」
キーリやほかのハンターも視認できた。
「お覚悟!」
ハンス、手裏剣を投げ組合長の頭上の糸を切った。
その時だった。
――ぎしっ……ぐらぁ。
実はここ、「百人乗っても大丈夫!」な造りではないッ!
「わあっ!」
――がっしゃー。
フマーレ天守閣、倒壊。
「はっ。な、なにがあったんだ?」
「クミアイチョー、良い…祭りだったぜ…!」
瓦礫の中から頭を出した組合長。そこにゆらあ、と万歳丸。検討を称え、筋肉美を見せつけてから……。
「ピ ザ を 食 え!」
「おわっ。誰か、何があったか説明を!」
「組合長が元に戻ったぞ!」
「祭りじゃ祭りじゃー!」
とにかく、フマーレのストライキは大きなけが人もなく終結を見るのだった。
依頼結果
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ディヤー・A・バトロス(ka5743)
重体一覧
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依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/07/21 20:00:58 |
|
![]() |
痛快なりゆき相談卓 仁川 リア(ka3483) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2017/07/21 20:06:57 |