ゲスト
(ka0000)
クリスとマリー そうだ、キャンプをしよう
マスター:柏木雄馬

- シナリオ形態
- シリーズ(続編)
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/08/13 22:00
- 完成日
- 2017/08/20 16:42
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
王国貴族ベルムド・ダフィールド侯爵── 現王国北東部、旧アルマカヌス共和国時代より700年以上の歴史を持つダフィールド侯爵家今代の当主である。
貴族派の首魁の一人であり、その主張は常に『貴族たちが持つ既得権益の維持および拡張』──つまり『王家が何してもいいけどそのツケを俺らにおっかぶせんなや』という、いっそ清々しいまでの貴族第一主義。同じ貴族派でありながら王国の未来──勿論、貴族あっての王国である──を第一に考える政敵、マーロウ大公とは悪い意味で一線を画している。
とは言え、王女主導によるこれまでの国外派兵が国内の中小貴族に風桶的な負担を強いたのもまた事実であり、彼らの主張を代弁する侯爵が一概に悪であるとも政治的には言い切れず、それが彼に対する人物評を単純ならざるものにしている。
「まあ、ぶっちゃけ小人物であるとの評が大勢を占めていますがね。我が父ながら」
「わあっ!?」
いきなり背後に現れた気配にいきなり声を掛けられて、ルーサーの父親がどのような人物かマリーに説明していたクリスは心臓が飛び出さんばかりに驚いた。
「い、いきなり後ろから声を掛けないでください、シモン様!」
「シモンでいいですよ、クリス様。今の私は侯爵家次男でなく執事もどきに過ぎませんから」
その物言いに、侯爵家三男ソードがケッと忌々し気に舌を打ち。そんな2人を他所に、四男ルーサーは緊張した面持ちで椅子の上に鯱張る。
この日、クリスとマリーは、ルーサーと彼の二人の兄と共に館の応接室に通されていた。当主であるベルムドがようやく王都から帰還するとの連絡があったからだ。
ルーサーの緊張の原因は、久方ぶりに父親に会うことと……新領──旧スフィルト子爵領の治世について、初めて一人の人間として父に意見するつもりであるからだった。
玄関ホールの方から当主の到着を告げる従僕の声がして。応接室の面々が出迎える為に立ち上がる。
緊張し切るルーサーの背中を、マリーが励ます様にバン! と叩いた。少年が頑張ってきたことを彼女はずっと側で見て来た。大丈夫、きっと上手くいく……!
やがて応接室の扉が開き、館の使用人たちが立ち並ぶホールを抜けてベルムドと思しき男がやって来た。年の頃は四十五十。中肉中背、やたらと威張りくさって見える口髭だけが必要以上に目立っている。後ろに並んで歩いているのが父親について修業中という長男・カールだろうか。父親に似ず立派な体躯の持ち主で、父から受け取った外套や鞄などの旅装を歩きながら次々使用人に手渡し、ホールを渡り切る頃にはすっかり手ぶらになって応接室へと入って来た。
「お帰りなさいませ、父上。てっきり王都の舞踏会に出席なさってから帰られるものと……」
「あのような茶番に出てなどいられるか! 至急、あらゆる伝手を使って刻令術機器の買い付けに走れ。農具に工具……中でも掘削機を最優先だ。詳細はカールに聞け。急げ、他家に後れを取るな!」
矢継ぎ早に指示を飛ばす間も使用人たちの手によって室内着へと着替えさせられながら、ベルムド。シモンが深々と承知の礼をして、カールと共に外へと出ていく。
「お、お父……いえ、父上!」
「おおっ、ルーサーか! よくぞ無事に戻った!」
それまでずっと厳しい表情をしていたベルムドが、ルーサーに気付くなり破願し、両手を広げて息子を迎える。
「さあ、お前の冒険譚をこの父に聞かせておくれ」
「はい、是非に! ですが、父上。その前に私の恩人たちを紹介させてください」
はにかみながら父から離れ、『恩人』たちの元へ駆け戻るルーサー。応じてクリスらがベルムドに貴族の礼を取る。
「お初にお目に掛かります、ベルムド様。オードラン伯爵家が一女、クリスティーヌにございます」
「おお、オードラン卿の娘御か。ルーサーが世話になったようだな。礼を言うのはこちらの方だ」
クリスの挨拶にベルムドは鷹揚に応じた。そして、頭の上から爪先まで値踏みするかのように視線を這わせた。
「それにしてもお美しいお嬢さんだ。確か、御家には嫡男がいなかったはず…… オードラン家と言えば尚武の家系。これも何かの縁とうちのソードなどを貰ってくだされば、我が家としても誉であるのだが……」
「……父上!」
突如、会話に割り込むソード。マリーは顔を伏せたまま、そっとその表情を窺った。彼がクリスに気があることはその態度からバレバレだった。突如降って湧いた結婚話にさぞ喜んでいるかと思いきや……彼の表情は怒りと屈辱に真っ赤になっていた。
「仕事がありますので。失礼させていただきます」
そのまま一礼して退室していってしまう侯爵家三男。そして、出がけに弟に向かって父に聞こえぬように言う。──ルーサー。お前も侯爵家の家督を狙うのなら、何でもいい。何か実力と呼べるものを身に付けろ。そうでなければこの家では何も認められることはない……
「……ありがたいご申し出ではありますが、当家は既に親戚筋に当たるパラディール家より婿を迎えることが決まっておりますので……」
ソードの退室を確認し、場が落ち着いたところでクリスがそう目礼した。それを聞いたマリーが暗い表情でそっと俯いたことにはその場の誰も気づかない。
「ほう。それはいつ」
「この巡礼の旅が終わればすぐに……」
「そうか、それは残念だ…… いや、ここはおめでとうと言うべきであろうな。先程の件は戯言と笑っていただけるとありがたい」
……侯爵は冗談めかしてそうは言ったが、恐らく結婚話は本気であったろう。オードラン家は王家派の一角を占める武門の家だが、その領地は肥沃であり、更に港町ガンナ・エントラータと王都間の交易路上にあることで最近は商業も盛んである。大河ティベリスの北と南に位置する両家が誼を通じれば利も大きく、侯爵家としては是非にでも身内を送り込んでおきたい相手であるはずだ。
「……それより、父上。『新領』に関することなのですが……」
そんな空気を肌で感じて、ルーサーはクリスたちの為に、話の流れを切る様に本題に入った。
だが、少年が皆まで言う前に、侯爵は話を遮った。
「ルーサー。お前はまだ子供だ。そのようなこと、考えなくてもいい」
「……何よそれ」
侯爵の出て行った扉を見つめて。マリーがポツリと呟いた。
呆然と立ち尽くすルーサーの背を見やる。……あいつが今日この日の為にどれだけ勉強し、考え抜いたと思っているのか。それなのに子供だからと門前払いにするなんて。しかも、本人にはまるで悪気がないところが余計に性質が悪い!
「ルーサー」
少年に呼びかける。
「『キャンプ』をしましょう……ただし、皆には黙って」
こういう時、子供は抗議の為に家出をするものなんだから── ぷりぷりと怒りながら、そう言ってマリーはフンと胸を張った。
貴族派の首魁の一人であり、その主張は常に『貴族たちが持つ既得権益の維持および拡張』──つまり『王家が何してもいいけどそのツケを俺らにおっかぶせんなや』という、いっそ清々しいまでの貴族第一主義。同じ貴族派でありながら王国の未来──勿論、貴族あっての王国である──を第一に考える政敵、マーロウ大公とは悪い意味で一線を画している。
とは言え、王女主導によるこれまでの国外派兵が国内の中小貴族に風桶的な負担を強いたのもまた事実であり、彼らの主張を代弁する侯爵が一概に悪であるとも政治的には言い切れず、それが彼に対する人物評を単純ならざるものにしている。
「まあ、ぶっちゃけ小人物であるとの評が大勢を占めていますがね。我が父ながら」
「わあっ!?」
いきなり背後に現れた気配にいきなり声を掛けられて、ルーサーの父親がどのような人物かマリーに説明していたクリスは心臓が飛び出さんばかりに驚いた。
「い、いきなり後ろから声を掛けないでください、シモン様!」
「シモンでいいですよ、クリス様。今の私は侯爵家次男でなく執事もどきに過ぎませんから」
その物言いに、侯爵家三男ソードがケッと忌々し気に舌を打ち。そんな2人を他所に、四男ルーサーは緊張した面持ちで椅子の上に鯱張る。
この日、クリスとマリーは、ルーサーと彼の二人の兄と共に館の応接室に通されていた。当主であるベルムドがようやく王都から帰還するとの連絡があったからだ。
ルーサーの緊張の原因は、久方ぶりに父親に会うことと……新領──旧スフィルト子爵領の治世について、初めて一人の人間として父に意見するつもりであるからだった。
玄関ホールの方から当主の到着を告げる従僕の声がして。応接室の面々が出迎える為に立ち上がる。
緊張し切るルーサーの背中を、マリーが励ます様にバン! と叩いた。少年が頑張ってきたことを彼女はずっと側で見て来た。大丈夫、きっと上手くいく……!
やがて応接室の扉が開き、館の使用人たちが立ち並ぶホールを抜けてベルムドと思しき男がやって来た。年の頃は四十五十。中肉中背、やたらと威張りくさって見える口髭だけが必要以上に目立っている。後ろに並んで歩いているのが父親について修業中という長男・カールだろうか。父親に似ず立派な体躯の持ち主で、父から受け取った外套や鞄などの旅装を歩きながら次々使用人に手渡し、ホールを渡り切る頃にはすっかり手ぶらになって応接室へと入って来た。
「お帰りなさいませ、父上。てっきり王都の舞踏会に出席なさってから帰られるものと……」
「あのような茶番に出てなどいられるか! 至急、あらゆる伝手を使って刻令術機器の買い付けに走れ。農具に工具……中でも掘削機を最優先だ。詳細はカールに聞け。急げ、他家に後れを取るな!」
矢継ぎ早に指示を飛ばす間も使用人たちの手によって室内着へと着替えさせられながら、ベルムド。シモンが深々と承知の礼をして、カールと共に外へと出ていく。
「お、お父……いえ、父上!」
「おおっ、ルーサーか! よくぞ無事に戻った!」
それまでずっと厳しい表情をしていたベルムドが、ルーサーに気付くなり破願し、両手を広げて息子を迎える。
「さあ、お前の冒険譚をこの父に聞かせておくれ」
「はい、是非に! ですが、父上。その前に私の恩人たちを紹介させてください」
はにかみながら父から離れ、『恩人』たちの元へ駆け戻るルーサー。応じてクリスらがベルムドに貴族の礼を取る。
「お初にお目に掛かります、ベルムド様。オードラン伯爵家が一女、クリスティーヌにございます」
「おお、オードラン卿の娘御か。ルーサーが世話になったようだな。礼を言うのはこちらの方だ」
クリスの挨拶にベルムドは鷹揚に応じた。そして、頭の上から爪先まで値踏みするかのように視線を這わせた。
「それにしてもお美しいお嬢さんだ。確か、御家には嫡男がいなかったはず…… オードラン家と言えば尚武の家系。これも何かの縁とうちのソードなどを貰ってくだされば、我が家としても誉であるのだが……」
「……父上!」
突如、会話に割り込むソード。マリーは顔を伏せたまま、そっとその表情を窺った。彼がクリスに気があることはその態度からバレバレだった。突如降って湧いた結婚話にさぞ喜んでいるかと思いきや……彼の表情は怒りと屈辱に真っ赤になっていた。
「仕事がありますので。失礼させていただきます」
そのまま一礼して退室していってしまう侯爵家三男。そして、出がけに弟に向かって父に聞こえぬように言う。──ルーサー。お前も侯爵家の家督を狙うのなら、何でもいい。何か実力と呼べるものを身に付けろ。そうでなければこの家では何も認められることはない……
「……ありがたいご申し出ではありますが、当家は既に親戚筋に当たるパラディール家より婿を迎えることが決まっておりますので……」
ソードの退室を確認し、場が落ち着いたところでクリスがそう目礼した。それを聞いたマリーが暗い表情でそっと俯いたことにはその場の誰も気づかない。
「ほう。それはいつ」
「この巡礼の旅が終わればすぐに……」
「そうか、それは残念だ…… いや、ここはおめでとうと言うべきであろうな。先程の件は戯言と笑っていただけるとありがたい」
……侯爵は冗談めかしてそうは言ったが、恐らく結婚話は本気であったろう。オードラン家は王家派の一角を占める武門の家だが、その領地は肥沃であり、更に港町ガンナ・エントラータと王都間の交易路上にあることで最近は商業も盛んである。大河ティベリスの北と南に位置する両家が誼を通じれば利も大きく、侯爵家としては是非にでも身内を送り込んでおきたい相手であるはずだ。
「……それより、父上。『新領』に関することなのですが……」
そんな空気を肌で感じて、ルーサーはクリスたちの為に、話の流れを切る様に本題に入った。
だが、少年が皆まで言う前に、侯爵は話を遮った。
「ルーサー。お前はまだ子供だ。そのようなこと、考えなくてもいい」
「……何よそれ」
侯爵の出て行った扉を見つめて。マリーがポツリと呟いた。
呆然と立ち尽くすルーサーの背を見やる。……あいつが今日この日の為にどれだけ勉強し、考え抜いたと思っているのか。それなのに子供だからと門前払いにするなんて。しかも、本人にはまるで悪気がないところが余計に性質が悪い!
「ルーサー」
少年に呼びかける。
「『キャンプ』をしましょう……ただし、皆には黙って」
こういう時、子供は抗議の為に家出をするものなんだから── ぷりぷりと怒りながら、そう言ってマリーはフンと胸を張った。
リプレイ本文
ハンターたちが事の次第を知ったのは翌朝のこと。クリスが大慌てで食堂に飛び込んで来たことから始まった。
「なるほど家出。……誰がです?」
「マリーとルーサーが!」
「これはまた……唐突な話ですね」
「唐突じゃないです! 二人の気持ちは分かります!」
クリスの答えはまるで要領を得ず、ユナイテル・キングスコート(ka3458)とアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)が困ったように顔を見合わせる。
「とりあえず落ち着きやがるです」
混乱するクリスの頭に、シレークス(ka0752)がチョップを落として正気へ返した。落ち着きを取り戻したクリスが改めて事情を説明し、ハンターたちはその時初めて前日のルーサーとベルムドのやりとりを知った。
「……うーん、いきなりフルスロットル」
「なんか手段を何個かすっ飛ばしちゃってる気がするね! 私も親が嫌いで家出した経験あるから気持ちは分かるけどねー。というか私の場合、そのままハンターになっちゃったからアレだけど」
クリスから渡された手紙を確認して苦笑するルーエル・ゼクシディア(ka2473)に、背後から文面を覗き込みながらレイン・レーネリル(ka2887)が言う。
「あらあら、ルーサーさんも随分と行動的になりましたね。これもマリーさんの影響でしょうか」
「影響というか、完全にマリーの入れ知恵でしょうね。なるほど、なかなか大胆だ」
頬に手を当て微笑ましく表情を緩ませるヴァルナ=エリゴス(ka2651)の横で、感心したようにコクコク頷くユナイテル。
「また思い切ったことをしましたね。まさか二人でとは…… ハッ!?」
その横で、急に何かに閃いてしまったサクラ・エルフリード(ka2598)が「駆け落ち……?」とか呟いちゃって、再びクリスを動転させてたり。
「……事もあろうにその『二人で】というのが問題なのです。笑い事では済まなくなる可能性があります」
アデリシアが大きく溜息を吐き、シレークスが眉間を揉む。……まったく、マリーとルーサーにも困ったものだ。家出? 大いに結構! そういう大胆なことは嫌いじゃねーです。が、行動には結果が伴うもの──自身の行動がどんな悪影響を自身と周囲にもたらすのか……そこに考えが及んでいない辺り、2人ともまだまだ子供だ。
「そうですね。貴族の子が突然いなくなるというのは大事ですから…… 内々に済むよう話を通しておかなければいけませんね」
ナプキンをテーブルに置き、立ち上がって行動を開始するヴァルナら、ハンターたち。
子供たちの捜索に掛かろうとするサクラを、シレークスが呼び止めた。彼女は館に留まって関係者への根回しをするつもりであった。
「こっちはこっちで何とかしやがります。2人のこと、頼みやがりますよ。……それと、2人を見つけたら言伝を。帰ったらお仕置きフルコースでやがりますからね、と」
●
朝食を済ませ、仕事場のニューオーサンに戻ろうと玄関へ向かっていた侯爵家三男ソードは、廊下の先で待ち伏せるユナイテルとシレークスに気付いて「げっ」と呻き声を上げた。
「これはこれはソード殿! 奇遇ですね! ああ、そう嫌がらずとも!」
回れ右してその場を離れようとする彼に、童女の如き素直な笑顔(=うさんくさい)で手を振りながら早足で追いつくユナイテル。その後を楚々と追うシレークスの、だが、穏やかなのはその表面のみ。嫌いなソードに話を通さなければならないことにその内心では嵐が吹き荒れ、青筋眉寄せ下唇を剥いた表情で○指を立てて背景に炎を燃やしている。
「今日はソード殿に折り入ってお願いしたい事が」
「な、なんだ!? 俺はもうニューオーサンに帰るぞ! すぐに!」
逃げ出そうとするソードの肩を後ろからがっしと捉え、ユナイテルとシレークスが包み隠さず状況を説明する。
「家出って…… 何やってんだ、あいつは……」
呆れたように呟きながら、ソードは逞しく(?)なった弟にどこか嬉しそうに苦笑する。
「『家出』じゃねーです」
「は?」
「『これは『家出』ではなく、あくまでもただの『山籠もり』──ルーサー様の『武者修行』であるのです。『保護者』も同行するので、何も大騒ぎするようなことはないのです』」
……シレークスは笑顔である。笑顔であるのに、なんなのだ、このプレッシャーは……!
「そもそも家出などではなかった。あくまで散歩に出かけた弟をソード殿が迎えにいく──私たちとしてはこれで丸く収めたい。そういうことです。……クリス様も今回の事、大事にならぬか大変心配しておられます」
ユナイテルの最後の一言が決め手となった。ソードは彼女らに協力を約すと、その日の予定を全てキャンセルした。
同じ頃、サクラ、レイン、アデリシアの3人もマリーとルーサーの捜索を開始していた。
「流石に馬車も無しに街へは行っていないだろうと思います。姿を隠すなら山か村かと」
「ルーサーの名前を出すと面倒なことになりそうですし、マリーを探す風体で聞き込みをしましょう。まずは館の使用人辺りに聞いてみますか」
地図を見て顔を突き合わせながら方針を決めるサクラとアデリシア。
2人の目撃情報は考えていたよりもずっと早く……最初に聞き込みを掛けた庭師によってあっけなくもたらされた。
「ああ、ルーサー坊ちゃんとあの元気なお嬢ちゃんだべか! あの2人なら今朝早く、大荷物を抱えて山の方さ向かっただ。なんでも『きゃんぷ』をするだとか」
その後も村の行く先々で2人は目撃されていた(農家の朝は早い)。尋ねた者は皆、山に入っていく2人の様子を微笑ましく話してくれた。
「まったく、あの子たちは隠れる気があるのかないのか……」
アデリシアはこめかみに人差し指を当てて唸ると、馬に拍車を掛けて道沿いに山へと目指す。
「山の中なら、水辺があってキャンプが出来そうな場所に絞れると思うよ?」
レインの言う通り、マリーとルーサーのキャンプは簡単に見つかった。山の中腹に登って最初の水場に2人はキャンプを張っていた。
だが、そこは既にもぬけの殻だった。おそらく、山腹の高所からこちらに向かう彼女らを見つけて早々にこの場を撤収したのだろう。
「……足跡もちゃんと消していくとは周到な」
「私たちが教えたことをちゃんと実践してるんだね!」
3人はそれぞれの表情で顔を見合わせて……再び捜索を開始した。
翌日、朝──
協力を約したソードの伝手を頼り、ハンターたちはダフィールド侯爵家長兄カール、次兄シモンと朝食を共にする機会を得た。
『次期当主』たるカールが上座に座り。シモンの方はいつも通り『執事もどき』として食堂の壁際に控える。ハンター側の出席者はヴァルナとルーエル。共に騎士の家系に生まれ、正規の教育を受けた2人であるが、泰然として待つヴァルナに対してルーエルの方はどこかそわそわして落ち着かない。
(長兄のカールさんは初対面だけど……身体つきも立派で、いかにも質実剛健って感じだ。論理的な人なのかな……?)
さりげなく様子を伺うルーエル。だが、完璧に礼儀という名の仮面を被った長男の感情とか機嫌といった内面は窺えない。
「お待たせして申し訳ない。始めよう」
カールの合図でその場にいる全員に対して配膳を始めるシモン。この人は……正体を知ってからでも『様』付けで呼ぶべきか迷う人だ……(汗
食事中、会話は自然と共通の知人であるルーサーの話題となり、その流れから自然と今回の『キャンプ』の話へ持っていく。
「必ず連れ帰るとお約束します。……友達ですから」
「お二方にはそれとなくベルムド様にルーサーさんの気持ちを伝えていただけましたら……」
話を聞いたカールは「そうか」と告げると、歓待の仮面を外し、普段の事務的な表情に戻った。
「わかった。任せよと言うならお前たちに任せよう。我々も子供のやることに一々かかずらってはいられないのでな」
客人にはゆるりと食事を楽しんでいくよう告げて、自身は中座して退室しようとするカール。
「……待ってください!」
ルーエルは立ち上がり、思わず呼び止めていた。……無作法である。だが、長兄の態度に弟に対する冷淡さを感じてどうにも我慢が出来なかった。
「本当はルーサーは待っているんですよ!? 皆さんが、家族の誰かが来てくれることを……!」
「……折角、あのルーサーさんが自発的に行動を起こしたのです。どんな主張があるのか聞いてあげて欲しいと思うのですが……」
ヴァルナもまた、ルーエルをフォローするように努めて平静に声を上げる。
だが、カールは「そのような暇はないのだ」とだけ答えると、そのまま自分の仕事に戻ってしまった。
……その後は食事を続ける気にもなれず、呆然と座り込むルーエル。皿を片付けに来たシモンに、ヴァルナが尋ねた。
「……ベルムド様やカール様はルーサーさんのことをどのように考えておられるのでしょう? 仮にも貴族の子に『子供だから何も考えなくて良い』だなんて……」
「……あの愚かな父は僕たち兄弟に後継者争いをけしかけ、それが原因でルーサーの母を失ったと思っているのです」
仕事の手を止め、答えるシモン。その声と表情にいつもの艶はない。
「父は末っ子のルーサーを目に入れても痛くない程に可愛がっている。政治の話を避けるのは争いから遠ざける為…… 王立学校に入れるのも、将来は芸術家にでもなってほしいという親心なのでしょう……」
同刻。クリスの私室──
本を開いたまま頁も手繰らず、心ここにあらずといった風情のクリスに向かって、シレークスが大丈夫です、と励ましの言葉を掛ける。
「って言うか、クリス。1度マリーに本気で怒っても良いんですよ?」
クリスは曖昧な笑みを浮かべた。
「そうですね。確かにそれは私の役目…… でも、私にはあの子の気持ちも分かるんです」
●
夕刻。水場を虱潰しにした捜索班がマリーとルーサーを発見した。
「待ちなさい、マリー、ルーサー! 待たないと『ヴァルキリー・ジャベリン』ですよ!?」
子供たちの発見を無線機で報せるレインの横で光の槍を構えるアデリシア。やばっ、と慌てて逃げ出す二人の先に、捜索班に合流したユナイテルが騎乗にて回り込む。
「少し軽率でしたが、マリー。私は嫌いではありませんよ。今回のこういうやり方」
動きを止めたマリーに小声で呟き、ウィンクしてみせるユナイテル。そこに突っ込んで来たアデリシアが「確保~!」と2人を小脇に抱える……
「さて、マリーさん。ルーサーを連れ出したのは貴女ですね!」
最後のキャンプまで戻り。正座した2人を見下ろす様に、両拳を腰に当てたアデリシアが2人を叱る。
「貴女がやったことを領主に知られていたら大事になるのですよ? ……これを『誘拐』と見做されたら良くて追放、投獄や処刑されてもおかしくない」
「幾ら何でもそんな……」
「そうなればクリスさんもお咎めなしとはいかないでしょうね。……私が何を言いたいか、まだ分かりませんか?」
言葉を失うマリー。アデリシアはマリーの行動が『敢えて』政治問題化される可能性があると言っているのだ。そうなれば子供のした事と見逃してはもらえない。
「……ルーサーも。地位のある者は行動に責任が伴うのです。子ども扱いされたくないのであればその辺りにも気を配りなさい。……『男子三日会わざれば刮目して見よ』。悔しければ己を磨くことです。……分かりましたか?」
すっかりしょげ返って頷くルーサー。その反省した様子にアデリシアは頷いた。
「それでは、日が暮れる前に館に帰りましょうか」
「……帰らない」
答えたのはマリーだった。目を潤ませて立ち上がった彼女の脳裏に、世界なんて知らなきゃよかったと肩を落としたルーサーの姿が蘇る。
「このまま帰ったら何も変わらない! 何も変えられないままで、ルーサーを一人ぼっちで残しては行けない……!」
その必死の訴えに……サクラは「わかりました」と呆気なく受け入れた。
「へ?」
「ちょうどいい機会です。ルーサーの体力強化合宿をしていきましょう。ちょうど自分も錬筋術師のサブクラスを取ったところですし」
錬筋……ビキニアーマーが別の意味を持ってしまう! だがまあ、それはそれとして。レインもまたサクラの提案に賛同する。
「後2、3日なら皆許してくれるでしょ! 籠城となると食料は重要だし、折角だからついでにサバイバルかなんかやろうよ!」
「……いいの?」
「だって、これは『家出』ではなく『キャンプ』なのでしょう? ……ただし、帰ったらシレークスのお説教を覚悟しておいてくださいね。きっちりみっちりやるそうなので……」
キャンプは続く。
サクラの指導の下、2人は木の実や山菜の採集の他、罠や弓を使った小動物の捕まえ方を教わった。勿論、最初から上手くいくわけもなく、初日は釣った川魚を主菜に据える。
「食材さえあれば私料理できるよ! モチロン、教える事も出来るよ! Let's come on! ただし虫だけは勘弁な!」
「マリー、ルーサー。どうせなら自分で捌いてみませんか?」
2人は息を呑んだ。まだ生きている獲物に止めを刺し、腹を裂いてワタを抜く…… 技術の習得の為、命の尊さを感じてもらう為に敢えて2人にそうさせた。夕食前には保存食をたくさん持ってルーエルが合流したが、2人はまず、自分たちの為に失った命を噛み締めた。
「『初めてのことだから仕方ないよ。普通は周囲に認めてもらえるようになってから意見を交わすことができる。政策の場ってそういうものだからね』……なんてフォローしようとした途端に家出しちゃってるんだもんなぁ」
その日の夜。ルーサーと共に外で見張りと火の番を続けながら、ルーエルが友人にそう苦笑してみせる。
天幕の中でも、レインが同じ毛布に包まりながら、「もう頭は冷えたかい?」とマリーに話し掛けていた。
「家出しちゃう気持ちは分かるよ? でも、私たちの誰かに相談して欲しかったなぁ。相談したらしたで誰かが止めてただろうけど。あはは」
マリーは答えない。ただ素直に聞いている。
「でもね、アデリーさん(アデリシア?)も言ってたけど、今回のこれはきっと良い結果には転ばないと思う。どんなに時間が掛かろうと直接想いを伝え続けなきゃ。でなきゃ、いつまで経っても対等には見てもらえない。そして、それはルーサーくん自身にしかできない戦いなんだと思うよ」
その日の深夜。
マリーはルーサーを呼び出して明日には館に帰る旨を告げた。そして、自分たちがいなくなっても、ルーサーは戦い続けるように言った。
「それが、ルーサー。君の戦い。たとえ独りぼっちになっても、自分の気持ちを家族に訴え続けるの」
がさり、と傍らで草が鳴り。慌てて2人が振り返る。
闇の中から染み出す様に現れたその男は…… 2人に「助けて』と呟いた。
「なるほど家出。……誰がです?」
「マリーとルーサーが!」
「これはまた……唐突な話ですね」
「唐突じゃないです! 二人の気持ちは分かります!」
クリスの答えはまるで要領を得ず、ユナイテル・キングスコート(ka3458)とアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)が困ったように顔を見合わせる。
「とりあえず落ち着きやがるです」
混乱するクリスの頭に、シレークス(ka0752)がチョップを落として正気へ返した。落ち着きを取り戻したクリスが改めて事情を説明し、ハンターたちはその時初めて前日のルーサーとベルムドのやりとりを知った。
「……うーん、いきなりフルスロットル」
「なんか手段を何個かすっ飛ばしちゃってる気がするね! 私も親が嫌いで家出した経験あるから気持ちは分かるけどねー。というか私の場合、そのままハンターになっちゃったからアレだけど」
クリスから渡された手紙を確認して苦笑するルーエル・ゼクシディア(ka2473)に、背後から文面を覗き込みながらレイン・レーネリル(ka2887)が言う。
「あらあら、ルーサーさんも随分と行動的になりましたね。これもマリーさんの影響でしょうか」
「影響というか、完全にマリーの入れ知恵でしょうね。なるほど、なかなか大胆だ」
頬に手を当て微笑ましく表情を緩ませるヴァルナ=エリゴス(ka2651)の横で、感心したようにコクコク頷くユナイテル。
「また思い切ったことをしましたね。まさか二人でとは…… ハッ!?」
その横で、急に何かに閃いてしまったサクラ・エルフリード(ka2598)が「駆け落ち……?」とか呟いちゃって、再びクリスを動転させてたり。
「……事もあろうにその『二人で】というのが問題なのです。笑い事では済まなくなる可能性があります」
アデリシアが大きく溜息を吐き、シレークスが眉間を揉む。……まったく、マリーとルーサーにも困ったものだ。家出? 大いに結構! そういう大胆なことは嫌いじゃねーです。が、行動には結果が伴うもの──自身の行動がどんな悪影響を自身と周囲にもたらすのか……そこに考えが及んでいない辺り、2人ともまだまだ子供だ。
「そうですね。貴族の子が突然いなくなるというのは大事ですから…… 内々に済むよう話を通しておかなければいけませんね」
ナプキンをテーブルに置き、立ち上がって行動を開始するヴァルナら、ハンターたち。
子供たちの捜索に掛かろうとするサクラを、シレークスが呼び止めた。彼女は館に留まって関係者への根回しをするつもりであった。
「こっちはこっちで何とかしやがります。2人のこと、頼みやがりますよ。……それと、2人を見つけたら言伝を。帰ったらお仕置きフルコースでやがりますからね、と」
●
朝食を済ませ、仕事場のニューオーサンに戻ろうと玄関へ向かっていた侯爵家三男ソードは、廊下の先で待ち伏せるユナイテルとシレークスに気付いて「げっ」と呻き声を上げた。
「これはこれはソード殿! 奇遇ですね! ああ、そう嫌がらずとも!」
回れ右してその場を離れようとする彼に、童女の如き素直な笑顔(=うさんくさい)で手を振りながら早足で追いつくユナイテル。その後を楚々と追うシレークスの、だが、穏やかなのはその表面のみ。嫌いなソードに話を通さなければならないことにその内心では嵐が吹き荒れ、青筋眉寄せ下唇を剥いた表情で○指を立てて背景に炎を燃やしている。
「今日はソード殿に折り入ってお願いしたい事が」
「な、なんだ!? 俺はもうニューオーサンに帰るぞ! すぐに!」
逃げ出そうとするソードの肩を後ろからがっしと捉え、ユナイテルとシレークスが包み隠さず状況を説明する。
「家出って…… 何やってんだ、あいつは……」
呆れたように呟きながら、ソードは逞しく(?)なった弟にどこか嬉しそうに苦笑する。
「『家出』じゃねーです」
「は?」
「『これは『家出』ではなく、あくまでもただの『山籠もり』──ルーサー様の『武者修行』であるのです。『保護者』も同行するので、何も大騒ぎするようなことはないのです』」
……シレークスは笑顔である。笑顔であるのに、なんなのだ、このプレッシャーは……!
「そもそも家出などではなかった。あくまで散歩に出かけた弟をソード殿が迎えにいく──私たちとしてはこれで丸く収めたい。そういうことです。……クリス様も今回の事、大事にならぬか大変心配しておられます」
ユナイテルの最後の一言が決め手となった。ソードは彼女らに協力を約すと、その日の予定を全てキャンセルした。
同じ頃、サクラ、レイン、アデリシアの3人もマリーとルーサーの捜索を開始していた。
「流石に馬車も無しに街へは行っていないだろうと思います。姿を隠すなら山か村かと」
「ルーサーの名前を出すと面倒なことになりそうですし、マリーを探す風体で聞き込みをしましょう。まずは館の使用人辺りに聞いてみますか」
地図を見て顔を突き合わせながら方針を決めるサクラとアデリシア。
2人の目撃情報は考えていたよりもずっと早く……最初に聞き込みを掛けた庭師によってあっけなくもたらされた。
「ああ、ルーサー坊ちゃんとあの元気なお嬢ちゃんだべか! あの2人なら今朝早く、大荷物を抱えて山の方さ向かっただ。なんでも『きゃんぷ』をするだとか」
その後も村の行く先々で2人は目撃されていた(農家の朝は早い)。尋ねた者は皆、山に入っていく2人の様子を微笑ましく話してくれた。
「まったく、あの子たちは隠れる気があるのかないのか……」
アデリシアはこめかみに人差し指を当てて唸ると、馬に拍車を掛けて道沿いに山へと目指す。
「山の中なら、水辺があってキャンプが出来そうな場所に絞れると思うよ?」
レインの言う通り、マリーとルーサーのキャンプは簡単に見つかった。山の中腹に登って最初の水場に2人はキャンプを張っていた。
だが、そこは既にもぬけの殻だった。おそらく、山腹の高所からこちらに向かう彼女らを見つけて早々にこの場を撤収したのだろう。
「……足跡もちゃんと消していくとは周到な」
「私たちが教えたことをちゃんと実践してるんだね!」
3人はそれぞれの表情で顔を見合わせて……再び捜索を開始した。
翌日、朝──
協力を約したソードの伝手を頼り、ハンターたちはダフィールド侯爵家長兄カール、次兄シモンと朝食を共にする機会を得た。
『次期当主』たるカールが上座に座り。シモンの方はいつも通り『執事もどき』として食堂の壁際に控える。ハンター側の出席者はヴァルナとルーエル。共に騎士の家系に生まれ、正規の教育を受けた2人であるが、泰然として待つヴァルナに対してルーエルの方はどこかそわそわして落ち着かない。
(長兄のカールさんは初対面だけど……身体つきも立派で、いかにも質実剛健って感じだ。論理的な人なのかな……?)
さりげなく様子を伺うルーエル。だが、完璧に礼儀という名の仮面を被った長男の感情とか機嫌といった内面は窺えない。
「お待たせして申し訳ない。始めよう」
カールの合図でその場にいる全員に対して配膳を始めるシモン。この人は……正体を知ってからでも『様』付けで呼ぶべきか迷う人だ……(汗
食事中、会話は自然と共通の知人であるルーサーの話題となり、その流れから自然と今回の『キャンプ』の話へ持っていく。
「必ず連れ帰るとお約束します。……友達ですから」
「お二方にはそれとなくベルムド様にルーサーさんの気持ちを伝えていただけましたら……」
話を聞いたカールは「そうか」と告げると、歓待の仮面を外し、普段の事務的な表情に戻った。
「わかった。任せよと言うならお前たちに任せよう。我々も子供のやることに一々かかずらってはいられないのでな」
客人にはゆるりと食事を楽しんでいくよう告げて、自身は中座して退室しようとするカール。
「……待ってください!」
ルーエルは立ち上がり、思わず呼び止めていた。……無作法である。だが、長兄の態度に弟に対する冷淡さを感じてどうにも我慢が出来なかった。
「本当はルーサーは待っているんですよ!? 皆さんが、家族の誰かが来てくれることを……!」
「……折角、あのルーサーさんが自発的に行動を起こしたのです。どんな主張があるのか聞いてあげて欲しいと思うのですが……」
ヴァルナもまた、ルーエルをフォローするように努めて平静に声を上げる。
だが、カールは「そのような暇はないのだ」とだけ答えると、そのまま自分の仕事に戻ってしまった。
……その後は食事を続ける気にもなれず、呆然と座り込むルーエル。皿を片付けに来たシモンに、ヴァルナが尋ねた。
「……ベルムド様やカール様はルーサーさんのことをどのように考えておられるのでしょう? 仮にも貴族の子に『子供だから何も考えなくて良い』だなんて……」
「……あの愚かな父は僕たち兄弟に後継者争いをけしかけ、それが原因でルーサーの母を失ったと思っているのです」
仕事の手を止め、答えるシモン。その声と表情にいつもの艶はない。
「父は末っ子のルーサーを目に入れても痛くない程に可愛がっている。政治の話を避けるのは争いから遠ざける為…… 王立学校に入れるのも、将来は芸術家にでもなってほしいという親心なのでしょう……」
同刻。クリスの私室──
本を開いたまま頁も手繰らず、心ここにあらずといった風情のクリスに向かって、シレークスが大丈夫です、と励ましの言葉を掛ける。
「って言うか、クリス。1度マリーに本気で怒っても良いんですよ?」
クリスは曖昧な笑みを浮かべた。
「そうですね。確かにそれは私の役目…… でも、私にはあの子の気持ちも分かるんです」
●
夕刻。水場を虱潰しにした捜索班がマリーとルーサーを発見した。
「待ちなさい、マリー、ルーサー! 待たないと『ヴァルキリー・ジャベリン』ですよ!?」
子供たちの発見を無線機で報せるレインの横で光の槍を構えるアデリシア。やばっ、と慌てて逃げ出す二人の先に、捜索班に合流したユナイテルが騎乗にて回り込む。
「少し軽率でしたが、マリー。私は嫌いではありませんよ。今回のこういうやり方」
動きを止めたマリーに小声で呟き、ウィンクしてみせるユナイテル。そこに突っ込んで来たアデリシアが「確保~!」と2人を小脇に抱える……
「さて、マリーさん。ルーサーを連れ出したのは貴女ですね!」
最後のキャンプまで戻り。正座した2人を見下ろす様に、両拳を腰に当てたアデリシアが2人を叱る。
「貴女がやったことを領主に知られていたら大事になるのですよ? ……これを『誘拐』と見做されたら良くて追放、投獄や処刑されてもおかしくない」
「幾ら何でもそんな……」
「そうなればクリスさんもお咎めなしとはいかないでしょうね。……私が何を言いたいか、まだ分かりませんか?」
言葉を失うマリー。アデリシアはマリーの行動が『敢えて』政治問題化される可能性があると言っているのだ。そうなれば子供のした事と見逃してはもらえない。
「……ルーサーも。地位のある者は行動に責任が伴うのです。子ども扱いされたくないのであればその辺りにも気を配りなさい。……『男子三日会わざれば刮目して見よ』。悔しければ己を磨くことです。……分かりましたか?」
すっかりしょげ返って頷くルーサー。その反省した様子にアデリシアは頷いた。
「それでは、日が暮れる前に館に帰りましょうか」
「……帰らない」
答えたのはマリーだった。目を潤ませて立ち上がった彼女の脳裏に、世界なんて知らなきゃよかったと肩を落としたルーサーの姿が蘇る。
「このまま帰ったら何も変わらない! 何も変えられないままで、ルーサーを一人ぼっちで残しては行けない……!」
その必死の訴えに……サクラは「わかりました」と呆気なく受け入れた。
「へ?」
「ちょうどいい機会です。ルーサーの体力強化合宿をしていきましょう。ちょうど自分も錬筋術師のサブクラスを取ったところですし」
錬筋……ビキニアーマーが別の意味を持ってしまう! だがまあ、それはそれとして。レインもまたサクラの提案に賛同する。
「後2、3日なら皆許してくれるでしょ! 籠城となると食料は重要だし、折角だからついでにサバイバルかなんかやろうよ!」
「……いいの?」
「だって、これは『家出』ではなく『キャンプ』なのでしょう? ……ただし、帰ったらシレークスのお説教を覚悟しておいてくださいね。きっちりみっちりやるそうなので……」
キャンプは続く。
サクラの指導の下、2人は木の実や山菜の採集の他、罠や弓を使った小動物の捕まえ方を教わった。勿論、最初から上手くいくわけもなく、初日は釣った川魚を主菜に据える。
「食材さえあれば私料理できるよ! モチロン、教える事も出来るよ! Let's come on! ただし虫だけは勘弁な!」
「マリー、ルーサー。どうせなら自分で捌いてみませんか?」
2人は息を呑んだ。まだ生きている獲物に止めを刺し、腹を裂いてワタを抜く…… 技術の習得の為、命の尊さを感じてもらう為に敢えて2人にそうさせた。夕食前には保存食をたくさん持ってルーエルが合流したが、2人はまず、自分たちの為に失った命を噛み締めた。
「『初めてのことだから仕方ないよ。普通は周囲に認めてもらえるようになってから意見を交わすことができる。政策の場ってそういうものだからね』……なんてフォローしようとした途端に家出しちゃってるんだもんなぁ」
その日の夜。ルーサーと共に外で見張りと火の番を続けながら、ルーエルが友人にそう苦笑してみせる。
天幕の中でも、レインが同じ毛布に包まりながら、「もう頭は冷えたかい?」とマリーに話し掛けていた。
「家出しちゃう気持ちは分かるよ? でも、私たちの誰かに相談して欲しかったなぁ。相談したらしたで誰かが止めてただろうけど。あはは」
マリーは答えない。ただ素直に聞いている。
「でもね、アデリーさん(アデリシア?)も言ってたけど、今回のこれはきっと良い結果には転ばないと思う。どんなに時間が掛かろうと直接想いを伝え続けなきゃ。でなきゃ、いつまで経っても対等には見てもらえない。そして、それはルーサーくん自身にしかできない戦いなんだと思うよ」
その日の深夜。
マリーはルーサーを呼び出して明日には館に帰る旨を告げた。そして、自分たちがいなくなっても、ルーサーは戦い続けるように言った。
「それが、ルーサー。君の戦い。たとえ独りぼっちになっても、自分の気持ちを家族に訴え続けるの」
がさり、と傍らで草が鳴り。慌てて2人が振り返る。
闇の中から染み出す様に現れたその男は…… 2人に「助けて』と呟いた。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/08/11 02:26:33 |
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相談 サクラ・エルフリード(ka2598) 人間(クリムゾンウェスト)|15才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2017/08/13 00:00:02 |